(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-06
(45)【発行日】2024-11-14
(54)【発明の名称】溶融Al-Zn系めっき鋼板、その製造方法、表面処理鋼板及び塗装鋼板
(51)【国際特許分類】
C23C 2/12 20060101AFI20241107BHJP
C23C 2/06 20060101ALI20241107BHJP
C23C 2/26 20060101ALI20241107BHJP
C23C 28/00 20060101ALI20241107BHJP
【FI】
C23C2/12
C23C2/06
C23C2/26
C23C28/00 A
(21)【出願番号】P 2023528545
(86)(22)【出願日】2023-01-11
(86)【国際出願番号】 JP2023000497
(87)【国際公開番号】W WO2023166858
(87)【国際公開日】2023-09-07
【審査請求日】2023-05-12
(31)【優先権主張番号】P 2022033960
(32)【優先日】2022-03-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000200323
【氏名又は名称】JFE鋼板株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【氏名又は名称】川原 敬祐
(74)【代理人】
【識別番号】100165951
【氏名又は名称】吉田 憲悟
(72)【発明者】
【氏名】吉田 昌浩
(72)【発明者】
【氏名】平 章一郎
(72)【発明者】
【氏名】岩野 純久
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 洋平
(72)【発明者】
【氏名】菅野 史嵩
【審査官】黒木 花菜子
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-139048(JP,A)
【文献】特表2016-540885(JP,A)
【文献】特公昭60-055591(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 2/12
C23C 2/06
C23C 2/26
C23C 28/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
めっき皮膜を備える溶融Al-Zn系めっき鋼板であって、
前記めっき皮膜は、Al:45~65質量%及びSi:1.0~4.0質量%を含有し、残部がZn及び不可避的不純物からなる組成を有し、
前記不可避的不純物中のNi含有量が、前記めっき皮膜の総質量に対して0.010質量%以下であ
り、
前記めっき皮膜は、前記不可避的不純物中のNiに起因したNi系化合物を含み、前記Ni系化合物の長径が4.0μm以下であり、且つ、下地鋼板の表面と平行な方向に存在する前記Ni系化合物の数が5個/mm以下であることを特徴とする、溶融Al-Zn系めっき鋼板。
【請求項2】
前記めっき皮膜中のAlの含有量が、50~60質量%であることを特徴とする、請求項
1に記載の溶融Al-Zn系めっき鋼板。
【請求項3】
前記めっき皮膜に含まれる不可避的不純物中のCo含有量が、前記めっき皮膜の総質量に対して0.080質量%以下であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の溶融Al-Zn系めっき鋼板。
【請求項4】
めっき皮膜を備える溶融Al-Zn系めっき鋼板の製造方法であって、
前記めっき皮膜の形成は、Al:45~65質量%及びSi:1.0~4.0質量%を含有し、残部がZn及び不可避的不純物からなる組成を有するめっき浴中に、下地鋼板を浸漬させる溶融めっき処理工程を具え、
前記めっき浴の不可避的不純物中のNi含有量を、前記めっき浴の総質量に対して0.010質量%以下に制御
し、
前記めっき皮膜は、前記不可避的不純物中のNiに起因したNi系化合物を含み、前記Ni系化合物の長径が4.0μm以下であり、且つ、下地鋼板の表面と平行な方向に存在する前記Ni系化合物の数が5個/mm以下であるすることを特徴とする、溶融Al-Zn系めっき鋼板の製造方法。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のめっき皮膜と、該めっき皮膜上に形成された化成皮膜と、を備える表面処理鋼板であって、
前記化成皮膜は、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、アクリルシリコン樹脂、アルキド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアルキレン樹脂、アミノ樹脂及びフッ素樹脂から選択される少なくとも一種の樹脂と、P化合物、Si化合物、Co化合物、Ni化合物、Zn化合物、Al化合物、Mg化合物、V化合物、Mo化合物、Zr化合物、Ti化合物及びCa化合物から選択される少なくとも一種の金属化合物と、を含有することを特徴とする、表面処理鋼板。
【請求項6】
請求項1又は2に記載のめっき皮膜上に、直接又は化成皮膜を介して、塗膜が形成された塗装鋼板であって、
前記化成皮膜は、(a):エステル結合を有するアニオン性ポリウレタン樹脂及び(b):ビスフェノール骨格を有するエポキシ樹脂を合計で
、前記化成皮膜100質量%に対して30~50質量%含有し、該(a)と該(b)の含有比率((a):(b))が、質量比で3:97 ~60:40の範囲である樹脂成分と、2~10質量%のバナジウム化合物、40~60質量%のジルコニウム化合物及び0.5~5質量%のフッ素化合物を含む無機化合物と、を含有し、
前記塗膜は、プライマー塗膜を少なくとも有し、該プライマー塗膜が、ウレタン結合を有するポリエステル樹脂と、バナジウム化合物、リン酸化合物及び酸化マグネシウムを含む無機化合物と、を含有することを特徴とする、塗装鋼板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融Al-Zn系めっき鋼板、その製造方法、表面処理鋼板及び塗装鋼板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
55%Al-Zn系に代表される溶融Al-Zn系めっき鋼板は、Znの犠牲防食性とAlの高い耐食性とが両立できているため、溶融亜鉛めっき鋼板の中でも高い耐食性を示すことが知られている。そのため、溶融Al-Znめっき鋼板は、その優れた耐食性から、長期間屋外に曝される屋根や壁等の建材分野、ガードレール、配線配管、防音壁等の土木建築分野を中心に使用されている。特に、大気汚染による酸性雨や、積雪地帯での道路凍結防止用融雪剤の散布、海岸地域開発等の、より厳しい使用環境下での、耐食性に優れる材料や、メンテナンスフリー材料への要求が高まっていることから、近年、溶融Al-Zn系めっき鋼板の需要は増加している。
【0003】
溶融Al-Zn系めっき鋼板のめっき皮膜は、Znを過飽和に含有したAlがデンドライト状に凝固した部分(α-Al相)と、デンドライト間隙(インターデンドライト)に存在するZn-Al共晶組織から構成され、α-Al相がめっき皮膜の膜厚方向に複数積層した構造を有することが特徴である。このような特徴的な皮膜構造により、表面からの腐食進行経路が複雑になるため、腐食が容易に進行しにくくなり、溶融Al-Zn系めっき鋼板はめっき皮膜厚が同一の溶融亜鉛めっき鋼板に比べ優れた耐食性を実現できることも知られている。
【0004】
一般的に、溶融Al-Zn系めっき鋼板は、スラブを熱間圧延若しくは冷間圧延した薄鋼板を下地鋼板として用い、該下地鋼板を連続式溶融めっき設備の焼鈍炉にて再結晶焼鈍及び溶融めっき処理を行うことによって製造される。
ここで、溶融Al-Zn系めっき鋼板の製造に用いるめっき浴には、所定濃度のAl及びZnに加え、地鉄とめっきとの界面に形成される界面合金層の過度な成長を抑制するため、さらにSiを添加することが通常である。このSiの働きにより、溶融Al-Zn系めっき鋼板の界面合金層の厚さを約1~5μm程度に制御することができる。そして、めっき皮膜厚が同一ならば、界面合金層が薄いほど高耐食を発現する上層が厚くなるため、界面合金層の成長を抑制することが耐食性の向上に繋がると考えられている。
【0005】
また、溶融めっき鋼板の製造に用いるめっき浴については、めっき原料中に含む不純物や下地鋼板や浴中機器からの溶出等に起因して、浴中へ不可避的に不純物が混入することが知られている。そして、浴中への不可避的不純物の混入は、溶融Al-Zn系めっき鋼板の製造に用いるめっき浴についても例外ではなく、Fe、Cr、Ni、Cu、Co、W等の成分が、めっき皮膜中に不可避的に含まれることになる。
【0006】
このようなめっき浴中に含まれる不純物は、溶融めっき鋼板の外観、耐食性、加工性等の特性の劣化を引き起こすことがあり、不純物の影響の有無は、めっき皮膜の組成と不純物濃度によって決まる。つまり、同じ成分の不純物であっても、めっき鋼板の特性に対して有害となる場合と無害となる場合がある。そのため、種々の溶融めっき鋼板において、特性に及ぼす不純物の影響が調査され、安定的に必要特性を得るために不純物濃度を制御する技術が開発されている。
例えば、特許文献2には、質量%で、Al:0.10~0.6%、Bi:0.03~0.3%、残部がZn及び不可避的不純物からなり、前記不可避的不純物としてのPb、Sn、及びCdの各含有量を0.002%に制御しためっき皮膜を有する溶融Al-Zn系めっき鋼板が開示されている。
また、特許文献3には、質量%で、Al:4.4~5.6%、Mg:0.3~0.56%、残部がZn及び不可避的不純物からなり、前記不可避的不純物中にNiが含まれないように制御しためっき皮膜を有する溶融Zn-Al-Mg系めっき鋼板が開示されている。
【0007】
一方、上述のような溶融Al-Zn系めっき鋼板については、厳しい腐食環境で使用された場合、めっき皮膜の腐食に伴う白錆が発生するという問題があった。この白錆は、鋼板の外観性低下を招くため、耐白錆性の改善を図った種々の技術が開発されている。
例えば、特許文献4には、溶融Al-Zn系めっき鋼板の上にカルボキシル基及び酸アミド結合を有する水溶性ウレタン樹脂と、N-メチルピロリドンと、ジルコニウム金属化合物と、シランカップリング剤とを含有する化成皮膜を設けることで、耐白錆性の改善を図った表面処理鋼板が開示されている。
また、例えば特許文献5には、溶融Al-Zn系めっき鋼板の上に、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂及びウレタン樹脂から選んだガラス転移温度が-10℃以上の樹脂と、Si化合物、Zr化合物及びトリアゾール類及びテトラゾール類から選んだ化合物と、を含有する化成皮膜を設けることで、耐白錆性の改善を図った表面処理鋼板が開示されている。
【0008】
さらに、上述のような溶融Al-Zn系めっき鋼板については、表面に、化成皮膜、プライマー塗膜、上塗塗膜等を形成した塗装鋼板は、プレス成形、ロール成形若しくはエンボス成形によって、90度曲げや180度曲げのような様々な加工が施されており、長期の塗膜耐久性能も要求されている。これらの要求に応えるため、溶融Al-Zn系めっき鋼板は、クロメートを含有する化成皮膜を形成し、プライマー塗膜にもクロメート系防錆顔料を含有させ、その上に、熱硬化型のポリエステル系樹脂塗膜やフッ素系樹脂塗膜等の耐候性に優れた上塗り塗膜を形成した塗装鋼板が知られている。
【0009】
しかし、昨今では、環境負荷物質であるクロメートを使用することが問題視されており、クロメートフリーであっても耐食性を改善できる塗装鋼板の開発が強く望まれている。
これらの要求に対応した技術として、例えば特許文献6には、溶融Al-Zn系めっき鋼板の表面に、Mgを含む防錆顔料を有する下塗り塗膜、さらにその上に、水に対する接触角が80度以上13度未満である上塗り塗膜を形成させた、切断端面における耐食性の改善を図った塗装鋼板が開示されている。
また、特許文献7には、溶融Al-Zn系めっき鋼板の表面に、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、バナジウム化合物、ジルコニウム化合物及びフッ素化合物を含有したとクロメートフリー化成皮膜を形成させ、その上にエステル樹脂を主成分とし、バナジウム化合物、リン酸化合物及び酸化マグネシウムを含有するプライマー塗膜を形成させ、さらにその上に、メラミン硬化ポリエステル系の上塗り塗膜を形成させた、加工部や切断端面における耐食性の改善を図った塗装鋼板が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特公昭46-7161号公報
【文献】特開2004-285387号公報
【文献】特表2016-540885号公報
【文献】特開2003-201578号公報
【文献】特開2013-237874号公報
【文献】特開2009-172553号公報
【文献】特開2016-176118号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献2及び3に開示されたような溶融Zn-Al系めっき鋼板では、耐食性に及ぼす不可避的不純物の影響が十分に明らかにされておらず、より確実に優れた耐食性を実現できる技術の開発が望まれていた。
加えて、溶融Al-Zn系めっき鋼板に限らず、溶融めっき鋼板の製造における不純物の制御は、多くが濃度制御のみに留まり、サイズや分布状態などの形態制御する技術は確立されておらず、より安定的に優れた耐食性を実現できる技術の開発が望まれていた。
【0012】
なお、上述した不可避的不純物の影響を考慮した上で耐食性の向上を図る技術については、めっき鋼板だけでなく、めっき皮膜上に形成された化成皮膜をさらに備える表面処理鋼板、並びに、めっき皮膜上に直接又は化成皮膜を介して形成された塗膜をさらに備える塗装鋼板においても、同様に改善が望まれている。
【0013】
また、特許文献4及び特許文献5の表面処理鋼板を用いることで、一定の耐食性及び耐白錆性が得られるものの、効果が十分でない場合もあり、より高いレベルでの耐食性及び耐白錆性が要求されていた。
さらに、特許文献6及び特許文献7の塗装鋼板を用いることで、一定の加工部や切断端面における耐食性が得られるものの、効果が十分でない場合もあり、より高いレベルでの耐食性及び加工部耐食性が要求されていた。
【0014】
本発明は、かかる事情に鑑み、確実且つ安定的に優れた耐食性を有する溶融Al-Zn系めっき鋼板及びその製造方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、確実且つ安定的に優れた耐食性及び耐白錆性を有する表面処理鋼板、並びに、確実且つ安定的に優れた耐食性及び加工部耐食性を有する塗装鋼板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく検討を行った結果、溶融Al-Zn系めっき鋼板のめっき皮膜の組成は、Al、Zn及びSiの濃度を制御するだけでなく、不純物として含まれる元素の濃度も制御することが重要であることに着目し、その中でもNiの含有量について適正な制御を行うことで耐食性の劣化を効果的に抑制できること、さらに、前記めっき皮膜中に不純物として存在するNi系化合物のサイズや、分布状態について適切な制御を行うことで耐食性の劣化をより安定的に抑制できること、を見出した。
【0016】
本発明は、以上の知見に基づきなされたものであり、その要旨は以下の通りである。
1.めっき皮膜を備える溶融Al-Zn系めっき鋼板であって、
前記めっき皮膜は、Al:45~65質量%及びSi:1.0~4.0質量%を含有し、残部がZn及び不可避的不純物からなる組成を有し、
前記不可避的不純物中のNi含有量が、前記めっき皮膜の総質量に対して0.010質量%以下であることを特徴とする、溶融Al-Zn系めっき鋼板。
【0017】
2.前記めっき皮膜中にNi系化合物を含み、該Ni系化合物の長径が4.0μm以下であることを特徴とする、前記1に記載の溶融Al-Zn系めっき鋼板。
3.前記めっき皮膜中にNi系化合物を含み、下地鋼板の表面と平行な方向に存在する前記Ni系化合物の数が、5個/mm以下であることを特徴とする、前記1又は2に記載の溶融Al-Zn系めっき鋼板。
4.前記めっき皮膜中にNi系化合物を含まないことを特徴とする、前記1に記載の溶融Al-Zn系めっき鋼板。
【0018】
5.前記めっき皮膜中のAlの含有量が、50~60質量%であることを特徴とする、前記1~4のいずれかに記載の溶融Al-Zn系めっき鋼板。
【0019】
6.前記めっき皮膜に含まれる不可避的不純物中のCo含有量が、前記めっき皮膜の総質量に対して0.080質量%以下であることを特徴とする、前記1~5のいずれかに記載の溶融Al-Zn系めっき鋼板。
【0020】
7.めっき皮膜を備える溶融Al-Zn系めっき鋼板の製造方法であって、
前記めっき皮膜の形成は、Al:45~65質量%及びSi:1.0~4.0質量%を含有し、残部がZn及び不可避的不純物からなる組成を有するめっき浴中に、下地鋼板を浸漬させる溶融めっき処理工程を具え、
前記めっき浴の不可避的不純物中のNi含有量を、前記めっき浴の総質量に対して0.010質量%以下に制御することを特徴とする、溶融Al-Zn系めっき鋼板の製造方法。
【0021】
8.前記1~6のいずれか1項に記載のめっき皮膜と、該めっき皮膜上に形成された化成皮膜と、を備える表面処理鋼板であって、
前記化成皮膜は、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、アクリルシリコン樹脂、アルキド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアルキレン樹脂、アミノ樹脂及びフッ素樹脂から選択される少なくとも一種の樹脂と、P化合物、Si化合物、Co化合物、Ni化合物、Zn化合物、Al化合物、Mg化合物、V化合物、Mo化合物、Zr化合物、Ti化合物及びCa化合物から選択される少なくとも一種の金属化合物と、を含有することを特徴とする、表面処理鋼板。
【0022】
9.前記1~6のいずれか1項に記載のめっき皮膜上に、直接又は化成皮膜を介して、塗膜が形成された塗装鋼板であって、
前記化成皮膜は、(a):エステル結合を有するアニオン性ポリウレタン樹脂及び(b):ビスフェノール骨格を有するエポキシ樹脂を合計で30~50質量%含有し、該(a)と該(b)の含有比率((a):(b))が、質量比で3:97 ~60:40の範囲である樹脂成分と、2~10質量%のバナジウム化合物、40~60質量%のジルコニウム化合物及び0.5~5質量%のフッ素化合物を含む無機化合物と、を含有し、
前記塗膜は、プライマー塗膜を少なくとも有し、該プライマー塗膜が、ウレタン結合を有するポリエステル樹脂と、バナジウム化合物、リン酸化合物及び酸化マグネシウムを含む無機化合物と、を含有することを特徴とする、塗装鋼板。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、確実且つ安定的に優れた耐食性を有する溶融Al-Zn系めっき鋼板を提供できる。
また、本発明によれば、確実且つ安定的に優れた耐食性及び耐白錆性を有する表面処理鋼板、並びに、確実且つ安定的に優れた耐食性及び加工部耐食性を有する塗装鋼板を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】日本自動車規格の複合サイクル試験(JASO-CCT)の流れを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(溶融Al-Zn系めっき鋼板)
本発明の溶融Al-Zn系めっき鋼板は、鋼板表面にめっき皮膜を備える。
そして、該めっき皮膜は、Al:45~65質量%及びSi:1.0~4.0質量%を含有し、残部がZn及び不可避的不純物からなる組成を有する。
【0026】
前記めっき皮膜中のAl含有量は、耐食性と操業面のバランスから、45~65質量%であり、好ましくは50~60質量%である。これは、前記めっき皮膜中のAl含有量が少なくとも45質量%あれば、Alのデンドライト凝固が生じ、α-Al相のデンドライト凝固組織を主体にするめっき皮膜構造を得ることができるためである。該デンドライト凝固組織がめっき皮膜の膜厚方向に積層する構造を取ることで、腐食進行経路が複雑になり、めっき皮膜自体の耐食性が向上する。またこのα-Al相のデンドライト部分が、多く積層するほど、腐食進行経路が複雑になり、腐食が容易に下地鋼板に到達しにくくなるので、耐食性が向上するため、Alの含有量を50質量%以上とすることが好ましい。一方、前記めっき皮膜中のAl含有量が65質量%を超えると、Znの殆どがα-Al中に固溶した組織に変化し、α-Al相の溶解反応が抑制できず、Al-Zn-Si-Mg系めっきの耐食性が劣化する。このため、前記めっき皮膜中のAl含有量は65質量%以下であることを要し、好ましくは60質量%以下である。
【0027】
前記めっき皮膜中のSiは主に下地鋼板との界面に生成するFe-Al系及び/又はFe-Al-Si系の界面合金層の成長を抑制し、めっき皮膜と鋼板の密着性を劣化させない目的で添加される。実際に、Siを含有したAl-Zn系めっき浴に鋼板を浸漬させると、鋼板表面のFeと浴中のAlやSiが合金化反応し、Fe-Al系及び/又はFe-Al-Si系の金属間化合物層が下地鋼板/めっき皮膜界面に生成するが、このときFe-Al-Si系合金はFe-Al系合金よりも成長速度が遅いので、Fe-Al-Si系合金の比率が高いほど、界面合金層全体の成長が抑制される。そのため、前記めっき皮膜中のSi含有量は1.0質量%以上とすることを要する。一方、前記めっき皮膜中のSi含有量が4.0質量%を超えると、前述した界面合金層の成長抑制効果が飽和するだけでなく、めっき皮膜中に過剰なSi相が存在することで腐食が促進されるため、Si含有量は4.0質量%以下とする。さらに、前記めっき皮膜中のSiの含有量は、過剰なSi相の存在抑制の観点から、好ましくは3.0質量%以下とする。
【0028】
また、前記めっき皮膜は、Zn及び不可避不純物を含有する。このうち、前記不可避的不純物はFeを含有する。このFeは、鋼板や浴中機器がめっき浴中に溶出することで不可避的に含まれるものと界面合金層の形成時に下地鋼板からの拡散によって供給される結果、前記めっき皮膜中に不可避的に含まれることとなる。前記めっき皮膜中のFe含有量は、通常0.3~2.0質量%程度である。
その他の不可避的不純物としては、Cr、Ni、Cu、Co、W等が挙げられる。これらの成分は、下地鋼板やステンレス製の浴中機器や浴中機器に施したW-C系やCo-Cr-W系の溶射皮膜がめっき浴中に溶出すること、めっき浴の原料となる金属塊中に不純物として含まれていること、さらに、これらの成分を意図的に添加しためっき鋼板の製造で使用したポットや浴中機器を用いて製造することで、前記めっき皮膜中に不可避的に含まれることとなる。
【0029】
そして、本発明の溶融Al-Zn系めっき鋼板は、前記不可避的不純物中のNi含有量が、前記めっき皮膜の総質量に対して0.010質量%以下であることを特徴とする。前記めっき皮膜中に含有されたNiは、溶融Al-Zn系めっき鋼板の耐食性を劣化させる場合があることから、上述しためっき皮膜中のAl、Zn及びSiの含有量を適切に制御した上で、さらに不可避的不純物としてのNi含有量を抑えることで、耐食性の劣化を抑えることができる。同様の観点から、前記不可避的不純物中のNi含有量は、前記めっき皮膜の総質量に対して0.005質量%以下とすることが好ましい。
【0030】
なお、前記不可避的不純物中にNiを含有する場合、溶融Al-Zn系めっき鋼板のめっき皮膜中に不純物としてのNi系化合物が含まれることがある。ここで、前記Ni系化合物とは、主にNi-Al化合物のような二元系の金属間化合物や、Ni-Al-Fe化合物のような三元系の金属間化合物などのNi系化合物のことである。Ni-Al化合物としては、NiAl3等の金属間化合物を例示でき、Ni-Al-Fe化合物としては、NiAl3のNiの一部がFeに置換した(Ni,Fe)Al3等の金属間化合物を例示できるが、これらの化合物に限定されるものではない。
【0031】
ここで、前記めっき皮膜中のNi系化合物の存在は、例えば、走査型電子顕微鏡を活用し、めっき皮膜を表面又は断面から二次電子像または反射電子像で観察し、エネルギー分散型X線分光法(EDS)で分析することで確認することができる。例えば、任意で100μmのめっき断面を5~10ヶ所程度選択し、それぞれ5kV以下の加速電圧で観察と元素マッピング分析を行い、Niを検出した部分に対し更に点分析を行うことで、Ni系含有物の組成を確認することができる。この方法は、あくまでも一例であり、Ni系化合物の存在が確認できる方法であればどのような方法でも構わず、特に限定されるものではない。
【0032】
また、前記めっき皮膜中にNi系化合物を含む場合、該Ni系化合物の長径が4.0μm以下であることが好ましい。
前記めっき皮膜中に存在するNi系化合物は、腐食環境下でカソードとして機能し、周囲に存在する凝固組織と局部電池を形成するため耐食性の劣化を引き起こすことがある。特に、前記めっき皮膜中に粗大なNi系化合物が存在する場合には、溶融Al-Zn系めっき鋼板の耐食性は著しく低下するおそれがある。そのため、より優れた耐食性を有する溶融Al-Zn系めっき鋼板を得るためには、めっき皮膜中に不純物として含まれNi系化合物のサイズを小さく制御することが有効であり、具体的には、Ni系化合物の長径を4.0μm以下とすることが好ましく、3.0μm以下とすることがより好ましく、2.0μm以下とすることがさらに好ましい。
なお、前記Ni系化合物の長径は、例えば、走査型電子顕微鏡を活用し、めっき皮膜を断面から反射電子像で観察し、EDSでNi系化合物であることを確認した後、Ni系化合物を含む観察視野を拡大した反射電子像を観察することで測定することができる。前記Ni系化合物の長径とは、前記めっき皮膜の観察視野中に確認されるNi系化合物の最大長径とする。
【0033】
さらに、前記めっき皮膜中にNi系化合物を含む場合、より安定的に高耐食を得る観点から、腐食の起点となる前記のNi系化合物の存在量を減らすことも有効である。具体的には、前記めっき皮膜中のNi系化合物の粒子数を、下地鋼板の表面と平行な方向に5個/mm以下とすることが好ましく、2個/mm以下とするがより好ましく、0個/mm(存在しない)ことが最も好ましい。
そのため、前記めっき皮膜中にNiを含有する化合物の存在量を抑えることで、溶融Al-Zn系めっき鋼板の耐食性の劣化をより確実に抑制できる。このような皮膜構造(Ni系化合物を含まない皮膜構造)を得るためには、前記不可避的不純物中のNi含有量を低減すること、具体的には、Ni含有量を前記めっき皮膜の総質量に対して0.005質量%以下とすることが重要である。
なお、前記Ni系化合物の粒子数については、例えば、走査型電子顕微鏡を活用し、めっき皮膜の下地鋼板表面に平行な断面を反射電子像で連続的に1mm以上の長さで観察し、EDSで確認したNi系化合物の個数を測定長さ(mm)で除することで、1mmの長さ範囲内に存在するNi系化合物の個数を算出することができる。
【0034】
また、本発明の溶融Al-Zn系めっき鋼板は、前記不可避的不純物中のCo含有量が、前記めっき皮膜の総質量に対して0.080質量%以下であることが好ましい。前記めっき皮膜中に含有されたCoは、上述したNiと同様に溶融Al-Zn系めっき鋼板の耐食性を劣化させる場合があることから、上述しためっき皮膜中のAl、Zn、Si、及び不可避的不純物中のNi含有量を適切に制御した上で、さらに不可避的不純物としてのCo含有量を抑えることが、耐食性の劣化を抑えることに有効である。
同様の観点から、前記不可避的不純物中のCo含有量は、前記めっき皮膜の総質量に対して0.020質量%以下とすることが好ましく、0.010質量%以下とすることがより好ましい。
【0035】
さらに、前記めっき皮膜中の不可避的不純物の総含有量については、特に限定はされないが、過剰に含有した場合、めっき鋼板の各種特性に影響を及ぼす可能性があるため、合計で5.0質量%以下とすることが好ましい。
【0036】
また、前記めっき皮膜は、V、Cr、Mn、Mg、Ca及びSrのうちから選択される一種又は二種以上を合計で0.01~10質量%、さらに含有することが好ましい。これらの元素はめっき皮膜が腐食する際に腐食生成物の安定性を向上させ、腐食の進行を遅延させる効果を奏することができる。
上述した成分の合計含有量を0.01~10質量%としたのは、十分な腐食遅延効果を得ることができるとともに、効果が飽和することもないためである。
【0037】
また、本発明の溶融Al-Zn系めっき鋼板では、上述したAl、Zn、Si、及び不可避的不純物としてのNiやCoの濃度を制御した上で、より安定的に耐食性を向上させることができる点から、前記めっき皮膜中のSiのX線回折法による回折強度が、以下の関係(1)を満たすことが好ましい。
Si (111)=0 ・・・(1)
Si (111):Siの(111)面(面間隔d=0.3135nm)の回折強度
一般的に、Al合金の水溶液中への溶解反応においては、Si相がカソードサイトとして存在することで周辺のα-Al相の溶解を促進することが知られていることから、Si相を少なくすることはα-Al相の溶解を抑制する観点でも有効であり、その中でも関係(1)のようにSi相が存在しない皮膜とすること(前記Si(111)の回折ピーク強度をゼロとすること)が耐食性の安定化のために最も優れている。
前記X線回折によりSi (111)を測定する方法としては、前記めっき皮膜の一部を機械的に削り出し、粉末にした状態でX線回折を行うこと(粉末X線回折測定法)で算出することができる。回折強度の測定については、面間隔d=0.3135nmに相当するSiの回折ピーク強度を測定すればよい。
なお、粉末X線回折測定を実施する際に必要なめっき皮膜の量(めっき皮膜を削り出す量)は、精度良くSi (111)を測定する観点から、0.1g以上あればよく、0.3g以上あることが好ましい。また、前記めっき皮膜を削り出す際に、めっき皮膜以外の鋼板成分が粉末に含まれる場合もあるが、これらの金属間化合物相はめっき皮膜のみに含まれるものであり、また前述したピーク強度に影響することはない。さらに、前記めっき皮膜を粉末にしてX線回折を行うのは、めっき鋼板に形成されためっき皮膜に対してX線回折を行うと、めっき皮膜凝固組織の面方位の影響を受け正しい相比率の計算を行うことが困難なためである。
【0038】
ここで、上述した関係(1)を満たすための方法については、特に限定はされない。例えば、前記めっき皮膜中のSiの含有量及びAlの含有量のバランスを調整することによって、Siの存在比率(Si (111)の回折強度)を制御できる。前記めっき皮膜中のSiの含有量、Mgの含有量、Caの含有量、Srの含有量及びAlの含有量のバランスは、必ずしも一定の含有割合に設定すれば関係(1)を満たせる訳ではなく、例えばSiの含有量(質量%)によってAlの含有比率を変える必要がある。また、前記めっき皮膜中のSiの含有量及びAlの含有量のバランスを調整する他にも、めっき皮膜形成時の条件(例えば、めっき後の冷却条件)を調整することによって、関係(1)を満たすようにSi (111)の回折強度を制御できる。
【0039】
なお、前記めっき皮膜の付着量は、各種特性を満足する観点から、片面あたり45~120 g/m2であることが好ましい。前記めっき皮膜の付着量が45g/m2以上の場合には、建材などの長期間耐食性が必要となる用途に対しても十分な耐食性が得られ、また、前記めっき皮膜の付着量が120g/m2以下の場合には、加工時のめっき割れ等の発生を抑えつつ、優れた耐食性を実現できるためである。同様の観点から、前記めっき皮膜の付着量は、45~100g/m2であることがより好ましい。
【0040】
前記めっき皮膜の付着量については、例えば、JIS H 0401:2013年に示されるように、塩酸とヘキサメチレンテトラミンの混合液で特定面積のめっき皮膜を溶解剥離し、剥離前後の鋼板重量差から算出する方法で導出することができる。この方法で片面あたりのめっき付着量を求めるには、非対象面のめっき表面が露出しないようにテープでシーリングしてから前述した溶解を実施することで求めることができる。
【0041】
また、前記めっき皮膜の成分組成は、上述したNiの含有量と同じく、めっき皮膜を塩酸等に浸漬して溶解させ、その溶液をICP発光分光分析や原子吸光分析等で確認することができる。この方法はあくまでも一例であり、めっき皮膜の成分組成を正確に定量できる方法であればどのような方法でも良く、特に限定するものではない。
【0042】
なお、本発明により得られた溶融Al-Zn系めっき鋼板のめっき皮膜は、全体としてはめっき浴の組成とほぼ同等となる。そのため、前記めっき皮膜の組成の制御は、めっき浴組成を制御することにより精度良く行うことができる。
【0043】
また、本発明の溶融Al-Zn系めっき鋼板を構成する下地鋼板については、特に限定はされず、要求される性能や規格に応じて、冷延鋼板や熱延鋼板等を適宜使用することができる。
さらに、前記下地鋼板を得る方法についても、特に限定はされない。例えば、前記熱延鋼板の場合、熱間圧延工程、酸洗工程を経たものを使用することができ、前記冷延鋼板の場合には、さらに冷間圧延工程を加えて製造できる。さらに、鋼板の特性を得るために溶融めっき工程の前に、再結晶焼鈍工程等を経ることも可能である。
【0044】
(溶融Al-Zn系めっき鋼板の製造方法)
本発明の溶融Al-Zn系めっき鋼板の製造方法は、めっき皮膜を備える溶融Al-Zn系めっき鋼板の製造方法であって、前記めっき皮膜の形成は、Al:45~65質量%及びSi:1.0~4.0質量%を含有し、残部がZn及び不可避的不純物からなる組成を有するめっき浴中に、下地鋼板を浸漬させる溶融めっき処理工程を具える。
なお、前記溶融めっき処理工程については、後述するめっき浴の条件以外、特に限定はされない。例えば、連続式溶融めっき設備で、前記下地鋼板を、洗浄、加熱、めっき浴浸漬することによって製造できる。鋼板の加熱工程においては、前記下地鋼板自身の組織制御のために再結晶焼鈍などを施すとともに、鋼板の酸化を防止し且つ表面に存在する微量な酸化膜を還元するため、窒素-水素雰囲気等の還元雰囲気での加熱が有効である。
【0045】
また、前記溶融めっき処理工程に用いるめっき浴については、上述したように、前記めっき皮膜の組成が全体としてはめっき浴の組成とほぼ同等となることから、Al:45~65質量%及びSi:1.0~4.0質量%を含有し、残部がZn及び不可避的不純物からなる組成を有するものを用いることができる。
【0046】
そして、本発明の溶融Al-Zn系めっき鋼板の製造方法では、前記めっき浴の不可避的不純物中のNi含有量を、前記めっき浴の総質量に対して0.010質量%以下に制御することを特徴とする。前記めっき皮膜中に含有されるNiは、上述したように、溶融Al-Zn系めっき鋼板の耐食性を劣化させる場合があることから、めっき浴中のAl、Zn及びSiの含有量を適切に制御した上で、さらに不可避的不純物としてのNi含有量を抑えることで、耐食性の劣化を抑えることができる。
また、前記めっき浴中の不可避的不純物としてのNiの含有量は、前記めっき浴の総質量に対して0.010質量%以下に制御することを要し、0.005質量%以下にすることが好ましい。前記めっき浴中のNi含有量が0.005質量%を超えると、製造した溶融Al-Zn系めっき鋼板の耐食性が劣化するおそれがあり、0.010%を超えた場合では、著しい耐食性の劣化が起こる可能性があるためである。なお、耐食性に悪影響を及ぼすNiの含有量について、下限値の限定はない。
【0047】
ここで、前記めっき浴中のNiの含有量を低減させる手段は、特に限定はされない。
例えば、ステンレス製の浴中機器の前記めっき浴中への溶出を抑制することが有効であることから、前記浴中機器の表面を溶射皮膜等で処理することが好ましい。前記溶射皮膜等の形成により、浴中機器にめっき浴に対する耐食性を付与することができ、前記浴中機器のめっき浴中への溶出抑制が可能となるためである。前記溶射皮膜の種類は、特に限定はされないが、WC系やMoB系等の耐熱性と耐食性を有する皮膜を選択することができる。また、Niを含まない耐熱材料で造られた浴中機器を用いることがより効果的である。この場合、浴中機器が溶出した場合においても、Ni含有量の増加を阻止できる。
【0048】
また、前記めっき浴中のNiの含有量を低減させる他の手段としては、不純物中のNiの含有量が少ない金属塊をめっき浴の原料として用いることが好ましい。
さらに、Niを意図的に添加するめっき鋼板の製造に使用したポットや浴中機器を溶融Al-Zn系めっき鋼板の製造に用いないことも有効である。前記ポットや前記浴中機器に付着したNiを含有した金属塊が溶解し、めっき浴中へ混入することを抑制できるためである。
【0049】
加えて、前記めっき浴中の不可避的不純物としてのCoの含有量は、前記めっき浴の総質量に対して0.080質量%以下に制御することが好ましく、0.020質量%以下にすることがより好ましく、0.001質量%以下とすることがさらに好ましい。前記めっき浴中のCo含有量が0.080質量%以下であれば、製造した溶融Al-Zn系めっき鋼板は十分に優れた耐食性を有することができ、0.020質量%以下であれば、より優れた耐食性を有することができ、0.010質量%以下であれば、特に優れた耐食性を有することができる。このように、めっき浴中のCo含有量が少ないほど溶融Al-Zn系めっき鋼板の耐食性が優れるため、Coの含有量について、特に下限値の限定はない。
【0050】
ここで、前記めっき浴中のCoの含有量を低減させる手段は、特に限定はされない。
例えば浴中機器に施したCo-Cr-W系の溶射皮膜の前記めっき浴中への溶出を抑制することが有効であることから、Coを含まない溶射皮膜を適用することが好ましい。
【0051】
また、前記めっき浴中のCoの含有量を低減させる他の手段としては、不純物中のCoの含有量が少ない金属塊をめっき浴の原料として用いることが好ましい。
さらに、Coを意図的に添加するめっき鋼板の製造に使用したポットや浴中機器を溶融Al-Zn系めっき鋼板の製造に用いないことも有効である。前記ポットや前記浴中機器に付着したCoを含有した金属塊が溶解し、めっき浴中へ混入することを抑制できるためである。
【0052】
また、前記めっき浴の浴温は、特に限定はされないが、(融点+20℃)~650℃の温度範囲とすることが好ましい。
前記浴温の下限を、融点+20℃としたのは、溶融めっき処理を行うためには、前記浴温を凝固点以上にすることが必要であり、融点+20℃とすることで、前記めっき浴の局所的な浴温低下による凝固を防止するためである。一方、前記浴温の上限を650℃としたのは、650℃を超えると、前記めっき皮膜の急速冷却が難しくなり,めっき皮膜と鋼板との間に形成する界面合金層が厚くなるおそれがあるためである。
【0053】
さらに、めっき浴に浸入する下地鋼板の温度(浸入板温)についても、特に限定はされないが、連前記続式溶融めっき操業におけるめっき特性の確保や浴温度の変化を防ぐ観点から、前記めっき浴の温度に対して±20℃以内に制御することが好ましい。
【0054】
さらにまた、前記下地鋼板の前記めっき浴中の浸漬時間については、0.5秒以上であることが好ましい。これは0.5秒未満の場合、前記下地鋼板の表面に十分なめっき皮膜を形成できないおそれがあるためである。浸漬時間の上限については特に限定はされないが、浸漬時間を長くするとめっき皮膜と鋼板との間に形成する界面合金層が厚くなるおそれもあることから、8秒以内とすることがより好ましい。
【0055】
なお、溶融Al-Zn系めっき鋼板は、要求される性能に応じて、前記めっき皮膜の上に、直接又は中間層を介して、塗膜を形成することもできる。
【0056】
前記塗膜を形成する方法については、特に限定はされず、要求される性能に応じて適宜選択することができる。例えば、ロールコーター塗装、カーテンフロー塗装、スプレー塗装等の形成方法が挙げられる。有機樹脂を含有する塗料を塗装した後、熱風乾燥、赤外線加熱、誘導加熱等の手段により加熱乾燥して塗膜を形成することが可能である。
【0057】
また、前記中間層についても、溶融めっき鋼板のめっき皮膜と前記塗膜との間に形成される層であれば特に限定はされない。
【0058】
(表面処理鋼板)
本発明の表面処理鋼板は、鋼板表面にめっき皮膜と、該めっき皮膜上に形成された化成皮膜と、を備える。
このうち、前記めっき皮膜の構成は、上述した本発明の溶融Al-Zn系めっき鋼板のめっき皮膜と同様である。
【0059】
本発明の表面処理鋼板は、上述しためっき皮膜上に化成皮膜が形成されている。
なお、前記化成皮膜は、表面処理鋼板の少なくとも片面に形成されればよく、用途や要求される性能に応じて、表面処理鋼板の両面に形成することもできる。
【0060】
そして、本発明の表面処理鋼板では、前記化成皮膜は、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、アクリルシリコン樹脂、アルキド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアルキレン樹脂、アミノ樹脂及びフッ素樹脂のうちから選択される少なくとも一種の樹脂と、P化合物、Si化合物、Co化合物、Ni化合物、Zn化合物、Al化合物、Mg化合物、V化合物、Mo化合物、Zr化合物、Ti化合物及びCa化合物のうちから選択される少なくとも一種の金属化合物と、を含有することを特徴とする。
上述した化成皮膜をめっき皮膜上に形成することよって、めっき皮膜との親和性を高め、前記めっき皮膜上に化成皮膜を均一に形成することが可能になることに加え、化成皮膜の防錆効果やバリア効果を高めることができる。その結果、本発明の表面処理鋼板の安定的な耐食性及び耐白錆性の実現が可能となる。
【0061】
ここで、前記化成皮膜を構成する樹脂については、耐食性向上の観点から、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、アクリルシリコン樹脂、アルキド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアルキレン樹脂、アミノ樹脂及びフッ素樹脂のうちから選択される少なくとも一種が用いられる。同様の観点から、前記樹脂は、ウレタン樹脂及びアクリル樹脂のうちの少なくとも一種を含有することが好ましい。なお、前記化成皮膜を構成する樹脂については、上述した樹脂の付加重合物も含まれる。
【0062】
前記エポキシ樹脂については、例えば、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ノボラック型等のエポキシ樹脂をグリシジルエーテル化したもの、ビスフェノールA型のエポキシ樹脂に、プロピレンオキサイド、エチレンオキサイド若しくはポリアルキレングリコールを付加し、グリシジルエーテル化したもの、脂肪族エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、ポリエーテル系エポキシ樹脂等を用いることができる。
【0063】
前記ウレタン樹脂については、例えば、油変性ポリウレタン樹脂、アルキド系ポリウレタン樹脂、ポリエステル系ポリウレタン樹脂、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂等を用いることができる。
【0064】
前記アクリル樹脂については、例えば、ポリアクリル酸及びその共重合体、ポリアクリル酸エステル及びその共重合体、ポリメタクリル酸及びその共重合体、ポリメタクリル酸エステル及びその共重合体、ウレタン-アクリル酸共重合体(またはウレタン変性アクリル樹脂)、スチレン-アクリル酸共重合体等が挙げられ、さらにこれらの樹脂を他のアルキド樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等によって変性させたものを用いることができる。
【0065】
前記アクリルシリコン樹脂としては、例えば、主剤としてのアクリル系共重合体の側鎖又は末端に加水分解性アルコキシシリル基を有する樹脂に、硬化剤を添加したもの等が挙げられる。また、アクリルシリコン樹脂を用いた場合には、耐食性に加えて、優れた耐候性が期待できる。
【0066】
前記アルキド樹脂については、例えば、油変性アルキド樹脂、ロジン変性アルキド樹脂、フェノール変性アルキド樹脂、スチレン化アルキド樹脂、シリコン変性アルキド樹脂、アクリル変性アルキド樹脂、オイルフリーアルキド樹脂、高分子量オイルフリーアルキド樹脂等を挙げることができる。
【0067】
前記ポリエステル樹脂については、多価カルボン酸とポリアルコールとを、脱水縮合してエステル結合を形成させることによって合成された重縮合体であり、多価カルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸等が用いられ、ポリアルコールとしては、例えば、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。具体的には、前記ポリエステルは、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート等が挙げられる。また、これらのポリエステル樹脂をアクリル変性したものを用いることもできる。
【0068】
前記ポリアルキレン樹脂については、例えば、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体、カルボキシル変性ポリオレフィン樹脂などのエチレン系共重合体、エチレン-不飽和カルボン酸共重合体、エチレン系アイオノマー等が挙げられ、さらに、これらの樹脂を他のアルキド樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等によって変性させたものを用いることができる。
【0069】
前記アミノ樹脂については、アミンあるいはアミド化合物とアルデヒドの反応によって生成する熱硬化性樹脂であり、メラミン樹脂、グアナミン樹脂、チオ尿素樹脂等が挙げられるが、耐食性や耐侯性、密着性等の観点から、メラミン樹脂を用いることが好ましい。メラミン樹脂としては、特に限定はされないが、例えば、ブチル化メラミン樹脂、メチル化メラミン樹脂、水性メラミン樹脂等が挙げられる。
【0070】
前記フッ素樹脂については、フルオロオレフィン系重合体や、フルオロオレフィンと、アルキルビニルエーテル、シンクロアルキルビニルエーテル、カルボン酸変性ビニルエステル、ヒドロキシアルキルアリルエーテル、テトラフルオロプロピルビニルエーテル等との共重合体が挙げられる。これらのフッ素樹脂を用いた場合には、耐食性だけでなく、優れた耐候性と優れた疎水性も期待できる。
【0071】
さらに、耐食性や加工性の向上を狙いとして、特に硬化剤を用いることが好ましい。硬化剤としては、尿素樹脂(ブチル化尿素樹脂等)、メラミン樹脂(ブチル化メラミン樹脂、ブチルエーテル化メラミン樹脂等)、ブチル化尿素・メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂等のアミノ樹脂、ブロックイソシアネート、オキサゾリン化合物、フェノール樹脂等を適宜用いることができる。
【0072】
また、前記化成皮膜を構成する金属化合物については、P化合物、Si化合物、Co化合物、Ni化合物、Zn化合物、Al化合物、Mg化合物、V化合物、Mo化合物、Zr化合物、Ti化合物及びCa化合物のうちから選択される少なくとも一種が用いられる。同様の観点から、前記金属化合物は、P化合物、Si化合物及びV化合物のうちの少なくとも一種を含有することが好ましい。
【0073】
ここで、前記P化合物は、前記化成皮膜中に含まれることで、耐食性や、耐汗性を向上させることができる。前記P化合物とは、Pを含有する化合物であり、例えば、無機リン酸、有機リン酸及びこれらの塩、のうちから選択される1又は2以上を含有することができる。
【0074】
前記無機リン酸、有機リン酸及びこれらの塩としては、特に限定されることなく任意の化合物を用いることができる。例えば、前記無機リン酸としては、リン酸、第一リン酸塩、第二リン酸塩、第三リン酸塩、ピロリン酸、ピロリン酸塩、トリポリリン酸、トリポリリン酸塩、亜リン酸、亜リン酸塩、次亜リン酸、次亜リン酸塩のうちから選択される1つ以上を用いることが好ましい。また、前記有機リン酸としては、ホスホン酸(ホスホン酸化合物)を用いることが好ましい。さらに、前記ホスホン酸としては、ニトリロトリスメチレンホスホン酸、ホスフォノブタントリカルボン酸、メチルジホスホン酸、メチレンホスホン酸、およびエチリデンジホスホン酸のうちから選択される1つ以上を用いることが好ましい。
なお、前記P化合物が塩である場合、当該塩は、周期表における第1族~第13族元素の塩であることが好ましく、金属塩であることがより好ましく、アルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩のうちから選択される1つ以上であることが好ましい。
【0075】
上記P化合物を含む化成処理液を、溶融Al-Zn系めっき鋼板に塗付すると、該P化合物の作用によりめっき皮膜表面がエッチングされ、めっき皮膜の構成元素であるAl、Zn、Si及びMgが取り込まれた濃化層が化成皮膜の前記めっき皮膜側に形成される。前記濃化層が形成されることにより、化成皮膜とめっき皮膜表面との結合が強固となり、化成皮膜の密着性が向上する。
前記化成処理液中のP化合物の濃度は、特に限定はされないが、0.25~5質量%とすることができる。前記P化合物の濃度が0.25質量%未満では、エッチング効果が不足してめっき界面との密着力が低下し、平面部耐食性が低下するだけでなく、欠陥部、切断端面部、加工などで生じるめっきや皮膜の損傷部の耐食性、耐汗性も低下するおそれがある。同様の観点から、P化合物の濃度は、好ましくは0.35質量%以上、より好ましくは0.50質量%以上である。一方、前記P化合物の濃度が5質量%を超えると化成処理液の寿命が短くなるだけでなく、皮膜を形成した際の外観が不均一になりやすく、また、化成皮膜からのPの溶出量が多くなり、耐黒変性が低下するおそれもある。同様の観点から、P化合物の濃度は、好ましくは3.5質量%以下、より好ましくは2.5質量%以下である。前記化成皮膜中のP化合物の含有量については、例えば、P化合物の濃度を0.25~5質量%とした化成処理液を、塗布、乾燥することにより、乾燥後の化成皮膜におけるPの付着量を5~100mg/m2とすることができる。
【0076】
前記Si化合物は、前記樹脂とともに化成皮膜を形成する骨格となる成分であり、前記めっき皮膜との親和性を高め、化成皮膜を均一に形成することができる。前記Si化合物は、Siを含有する化合物であり、例えば、シリカ、トリアルコキシシラン、テトラアルコキシシラン、及びシランカップリング剤のうちから選択される1つ以上を含有することが好ましい。
【0077】
前記シリカとしては、とくに限定されず任意のものを用いることができる。前記シリカとしては、例えば、湿式シリカ及び乾式シリカのうちの少なくとも1つを用いることができる。前記湿式シリカの一種であるコロイダルシリカとしては、例えば、日産化学(株)製のスノーテックスO、C、N、S、20、OS、OXS、NS等を好適に用いることができる。また、前記乾式シリカとしては、例えば、日本アエロジル(株)製のAEROSIL50、130、200、300、380等を好適に用いることができる。
【0078】
前記トリアルコキシシランとしては、とくに限定されることなく任意のものを用いることができる。例えば、一般式:R1Si(OR2)3(式中、R1は水素又は炭素数1~5のアルキル基であり、R2は同一のまたは異なる炭素数1~5のアルキル基である)で表されるトリアルコキシシランを用いることが好ましい。このようなトリアルコキシシランとしては、例えば、トリメトキシシラン、トリエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0079】
前記テトラアルコキシシランとしては、とくに限定されることなく任意のものを用いることができる。例えば、一般式:Si(OR)4(式中、Rは同一のまたは異なる炭素数1~5のアルキル基である)で表されるテトラアルコキシシランを用いることが好ましい。このようなテトラアルコキシシランとしては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン等が挙げられる。
【0080】
前記シランカップリング剤としては、とくに限定されることなく任意のものを用いることができる。例えば、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、およびγ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0081】
なお、前記Si化合物を化成皮膜に含有させることにより、該Si化合物が脱水縮合して、腐食因子を遮蔽するバリア効果の高いシロキサン結合を有する非晶質の化成皮膜が形成される。また、上述した樹脂と結合することで、より高いバリア性を有する化成皮膜が形成される。さらに、腐食環境下において、欠陥部や加工などで生じるめっき皮膜の損傷部には緻密で安定な腐食生成物が形成され、前記めっき皮膜との複合効果によって下地鋼板の腐食を抑制する効果もある。安定な腐食生成物を形成する効果が高いという観点からは、前記Si化合物として、コロイダルシリカ及び乾式シリカのうちの少なくとも1つを用いることが好ましい。
【0082】
前記化成皮膜を形成するための化成処理液における前記Si化合物の濃度は、0.2~9.5質量%とする。前記化成処理液におけるSi化合物の濃度が0.2質量%以上であれば、シロキサン結合によるバリア効果を得ることができ、その結果、平面部耐食性に加え、欠陥部、切断部及び加工等に起因した損傷部における耐食性、並びに、耐汗性が向上する。また、前記Si化合物の濃度が9.5質量%以下であれば、化成処理液の寿命を長くすることができる。Si化合物の濃度を0.2~9.5質量%とした化成処理液を、塗布、乾燥することにより、乾燥後の化成皮膜におけるSi付着量を2~95mg/m2とすることができる。
【0083】
前記Co化合物及び前記Ni化合物は、前記化成皮膜中に含まれることで、耐黒変性を向上させることができる。これは、CoやNiが、腐食環境下における水溶性成分の皮膜からの溶出を遅らせる効果を有するためであると考えられる。また、前記Co及び前記Niは、Al、Zn、Si及びMg等に比べて酸化されにくい元素である。そのため、前記Co化合物及び前記Ni化合物のうちの少なくとも一方を、前記化成皮膜と前記めっき皮膜との界面に濃化させる(濃化層を形成する)ことにより、濃化層が腐食に対するバリアとなる結果、耐黒変性を改善することができる。
【0084】
前記Co化合物を含んだ化成処理液を用いることにより、Coを、前記化成皮膜中に含有させ、前記濃化層中に取り込ませることができる。前記Co化合物としては、コバルト塩を用いることが好ましい。前記コバルト塩としては、硫酸コバルト、炭酸コバルト及び塩化コバルトのうちから選択される1又は2以上を用いることがより好ましい。
また、前記Ni化合物を含む化成処理液を用いることにより、Niを、前記化成皮膜中に含有させ、前記濃化層中に取り込ませることができる。前記Ni化合物としては、ニッケル塩を用いることが好ましい。前記ニッケル塩としては、硫酸ニッケル、炭酸ニッケル及び塩化ニッケルのうちから選択される1又は2以上を用いることがより好ましい。
【0085】
前記化成処理液中のCo化合物及び/又はNi化合物の濃度は、特に限定はされないが、合計で0.25~5質量%とすることができる。前記Co化合物及び/又はNi化合物の濃度が0.25質量%未満では界面濃化層が不均一になり、平面部の耐食性が低下するだけでなく、欠陥部、切断端面部、加工等に起因しためっき皮膜損傷部の耐食性も低下するおそれがある。同様の観点から、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは0.75質量%以上である。一方、前記Co化合物及び/又はNi化合物の濃度が5質量%を超えると皮膜を形成した際の外観が不均一になりやすく、耐食性が低下するおそれがある。同様の観点から、好ましくは4.0質量%以下、より好ましくは3.0質量%以下である。前記Co化合物及び/又はNi化合物の濃度の合計が0.25~5質量%である化成処理液を塗布、乾燥することにより、乾燥後の化成皮膜におけるCo及びNiの合計付着量を5~100mg/m2とすることができる。
【0086】
前記Al化合物、前記Zn化合物及び前記Mg化合物については、化成処理液に含有させることで、前記化成皮膜のめっき皮膜側に、Al、Zn及びMgのうちの少なくとも一種を含む濃化層を形成できる。形成された濃化層は、耐食性を向上させることができる。
なお、前記Al化合物、前記Zn化合物及び前記Mg化合物は、それぞれ、Al、Zn及びMgを含有する化合物のことであれば、特に限定されないが、無機化合物であることが好ましく、塩、塩化物、酸化物又は水酸化物であることが好ましい。
【0087】
前記Al化合物としては、例えば、硫酸アルミニウム、炭酸アルミニウム、塩化アルミニウム、酸化アルミニウム及び水酸化アルミニウムのうちから選択される1つ以上が挙げられる。
前記Zn化合物としては、例えば、硫酸亜鉛、炭酸亜鉛、塩化亜鉛、酸化亜鉛及び水酸化亜鉛のうちから選択される1つ以上が挙げられる。
前記Mg化合物としては、例えば、硫酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、塩化マグネシウム、酸化マグネシウム及び水酸化マグネシウムのうちから選択される1つ以上が挙げられる。
【0088】
前記化成皮膜を形成するための化成処理液中のAl化合物、Zn化合物及び/又はMg化合物の濃度は、合計で0.25~5質量%であることが好ましい。前記合計濃度が0.25質量%以上であれば、前記濃化層をより効果的に形成することができ、その結果、耐食性をさらに向上させることができる。一方、前記合計濃度が5質量%以下であれば、化成皮膜の外観がより均一となり、平面部や欠陥部、加工などで生じるめっき皮膜の損傷部の耐食性がさらに向上する。
【0089】
前記V化合物は、前記化成皮膜中に含まれることで、腐食環境下においてVが適度に溶出し、同じく腐食環境下で溶出するめっき成分の亜鉛イオン等と結合し、緻密な保護皮膜を形成する。形成された保護皮膜によって、鋼板の平面部だけでなく、欠陥部、加工に起因して生じるめっき皮膜の損傷部、切断端面から平面部に進行する腐食、等に対する耐食性をさらに高めることができる。
【0090】
前記V化合物については、Vを含有する化合物であり、例えば、メタバナジン酸ナトリウム、硫酸バナジル及びバナジウムアセチルアセトネートのうちから選択される1つ以上が挙げられる。
【0091】
前記化成皮膜を形成するための化成処理液中のV化合物は、0.05~4質量%であることが好ましい。前記V化合物の濃度が0.05質量%以上であれば、腐食環境下で溶出して保護皮膜を形成しやすくなり、欠陥部、切断端面部、加工に起因して生じるめっき皮膜の損傷部の耐食性が向上する。一方、前記V化合物の濃度が4質量%を超えると化成皮膜を形成した際の外観が不均一になりやすく、耐黒変性も低下する。
【0092】
前記Mo化合物は、前記化成皮膜中に含まれることで、表面処理鋼板の耐黒変性を高めることができる。前記Mo化合物は、Moを含有する化合物であり、化成処理液にモリブデン酸及びモリブデン酸塩の一方または両方を添加することにより得ることができる。
なお、前記モリブデン酸塩としては、例えば、モリブテン酸ナトリウム、モリブテン酸カリウム、モリブテン酸マグネシウム及びモリブテン酸亜鉛のうちから選択される1つ以上が挙げられる。
【0093】
前記化成皮膜を形成するための化成処理液中のMo化合物の濃度は、0.01~3質量%であることが好ましい。前記Mo化合物の濃度が0.01質量%以上であれば、酸素欠乏型酸化亜鉛の生成がさらに抑制され、耐黒変性を一層向上できる。一方、前記Mo化合物の濃度が3質量%以下であれば、化成処理液の寿命がさらに長くなることに加え、耐食性を一層向上できる。
【0094】
前記Zr化合物及び前記Ti化合物は、前記化成皮膜中に含まれることで、化成皮膜がポーラスになるのを防ぎ、皮膜を緻密化させることができる。その結果、腐食因子が前記化成皮膜を透過しにくくなり、耐食性を高めることができる。
【0095】
前記Zr化合物については、Zrを含有する化合物であり、例えば、酢酸ジルコニル、硫酸ジルコニル、炭酸ジルコニルカリウム、炭酸ジルコニルナトリウム及び炭酸ジルコニルアンモニウムのうちから選択される1つ以上を用いることができる。これらの中でも、有機チタンキレート化合物は、化成処理液を乾燥して皮膜を形成する際、皮膜を緻密化し、より優れた耐食性が得られるため、好適である。
【0096】
前記Ti化合物については、Tiを含有する化合物であり、例えば、硫酸チタン、塩化チタン、水酸化チタン、チタンアセチルアセトナート、チタンオクチレングリコレート及びチタンエチルアセトアセテートのうちから選択される1つ以上を用いることができる。
【0097】
前記化成皮膜を形成するための化成処理液中のZr化合物及び/又はTi化合物の濃度は、合計で0.2~20質量%であることが好ましい。前記Zr化合物及び/又はTi化合物の合計濃度が0.2質量%以上であれば、腐食因子の透過抑制効果が高まり、平面部耐食性だけでなく、欠陥部、切断端面部、加工に起因しためっき皮膜損傷部の耐食性をより向上させることができる。一方、前記Zr化合物及び/又はTi化合物の合計濃度が20質量%以下であれば、前記化成処理液寿命をさらに延ばすことができる。
【0098】
前記Ca化合物は、前記化成皮膜中に含まれることで、腐食速度を低下させる効果を発現させることができる。
【0099】
前記Ca化合物については、Caを含有する化合物であり、例えば、Caの酸化物、Caの硝酸塩、Caの硫酸塩、Caを含有する金属間化合物等が挙げられる。より具体的には、前記Ca化合物として、CaO、CaCO3、Ca(OH)2、Ca(NO3)2・4H2O、CaSO4・2H2O等が挙げられる。前記化成皮膜中の前記Ca化合物の含有量は、特に限定はされない。
【0100】
なお、前記化成皮膜は、必要に応じて、塗料分野で通常使用されている公知の各種成分を含有することができる。例えば、レベリング剤、消泡剤等の各種表面調整剤、分散剤、沈降防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤等の各種添加剤、着色顔料、体質顔料、光輝材等の各種顔料、硬化触媒、有機溶剤、潤滑剤などが挙げられる。
【0101】
なお、本発明の表面処理鋼板では、前記化成皮膜が6価クロム、3価クロム、フッ素等の有害な成分を含有しないことが好ましい。前記化成皮膜を形成するための化成処理液中に、これらの有害成分が含有しないため、安全性が高くや環境への小さくなるためである。
【0102】
また、前記化成皮膜の付着量は、特に限定はされない。例えば、より確実に耐食性を確保しつつ、化成皮膜の剥離等を防ぐ観点からは、前記化成皮膜の付着量を0.1~3.0g/m2とすることが好ましく、0.5~2.5g/m2とすることがより好ましい。前記化成皮膜の付着量を0.1 g/m2以上とすることで、より確実に耐食性を確保でき、前記化成皮膜の付着量を3.0g/m2以下とすることで、化成皮膜の割れや剥離を防ぐことができる。
前記化成皮膜付着量は、皮膜を蛍光X 線分析して予め皮膜中の含有量が分かっている元素の存在量を測定する方法のような、既存の手法から適切に選択した方法で求めればよい。
【0103】
なお、前記化成皮膜を形成するための方法は、特に限定はされず、要求される性能や、製造設備等に応じて適宜選択することができる。例えば、前記めっき皮膜上に、化成処理液をロールコーター等により連続的に塗布し、その後、熱風や誘導加熱等を用いて、60~200℃程度の到達板温(Peak Metal Temperature:PMT)で乾燥させることで形成することができる。前記化成処理液の塗布には、ロールコーター以外にも、エアレススプレー、静電スプレー、カーテンフローコーター等の公知の手法を適宜採用することができる。さらに、前記化成皮膜は、前記樹脂及び前記金属化合物を含むものであれば、単層膜又は複層膜のいずれであってもよく、特に限定されるものではない。
【0104】
また、本発明の表面処理鋼板は、必要に応じて、前記化成皮膜上に塗膜を形成することもできる。
【0105】
(塗装鋼板)
本発明の塗装鋼板は、めっき皮膜上に、直接又は化成皮膜を介して、塗膜が形成された塗装鋼板である。
このうち、前記めっき皮膜の構成は、上述した本発明の溶融Al-Zn系めっき鋼板のめっき皮膜と同様である。
【0106】
本発明の塗装鋼板は、前記めっき皮膜上に、化成皮膜を形成することができる。
なお、前記化成皮膜は、塗装鋼板の少なくとも片面に形成されればよく、用途や要求される性能に応じて、塗装鋼板の両面に形成することもできる。
【0107】
そして、本発明の塗装鋼板では、前記化成皮膜が、(a):エステル結合を有するアニオン性ポリウレタン樹脂及び(b):ビスフェノール骨格を有するエポキシ樹脂を合計で30~50質量%含有し、該(a)と該(b)の含有比率((a):(b))が、質量比で3:97 ~60:40の範囲である樹脂成分と、2~10質量%のバナジウム化合物、40~60質量%のジルコニウム化合物及び0.5~5質量%のフッ素化合物を含む無機化合物と、を含有することを特徴とする。
上述した化成皮膜をめっき皮膜上に形成することよって、化成皮膜の強度及び密着性を高めつつ、耐食性も向上させることができる。
【0108】
ここで、前記化成皮膜を構成する樹脂成分については、(a):エステル結合を有するアニオン性ポリウレタン樹脂及び(b):ビスフェノール骨格を有するエポキシ樹脂を含有する。
【0109】
前記(a)エステル結合を有するアニオン性ポリウレタン樹脂については、ポリエステルポリオールと、イソシアネート基を2個以上もつ、ジイソシアネート又はポリイソシアネートとの反応物に、ジメチロールアルキル酸を共重合して得られる樹脂が挙げられる。また、公知の方法により水等の液中に分散させることにより、化成処理液を得ることができる。
【0110】
前記ポリエステルポリオールとしては、グリコール成分と、ヒドロキシルカルボン酸のエステル形成誘導体などの酸成分とから脱水縮合反応によって得られるポリエステル、ε-カプロラクトン等の環状エステル化合物の開環重合反応によって得られるポリエステル及びこれらの共重合ポリエステルが挙げられる。
前記ポリイソシアネートとしては、芳香族ポリイソシアネート、脂肪族ポリイソシアネート、脂環式ポリイソシアネート等が挙げられる。前記芳香族ポリイソシアネートとしては、例えば、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、m-キシレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,2-ジフェニルメタンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、およびこれらの誘導体(例えばポリオール類との反応により得られたプレポリマー類、ジフェニルメタンジイソシアネートのカルボジイミド化合物等の変性ポリイソシアネート類等)等が挙げられる。
【0111】
なお、前記ポリエステルポリオールと、前記ジイソシアネート又はポリイソシアネートとを反応させてウレタンを合成する際、例えば、ジメチロールアルキル酸を共重合し、自己乳化させて水溶化(水分散)させることで、前記(a)エステル結合を有するアニオン性ポリウレタン樹脂を得ることができる。この場合、ジメチロールアルキル酸としては、例えば、炭素数2~6のジメチロールアルキル酸が挙げられ、より具体的には、ジメチロールエタン酸、ジメチロールプロパン酸、ジメチロールブタン酸、ジメチロールヘプタン酸およびジメチロールヘキサン酸等が挙げられる。
【0112】
また、前記(b)ビスフェノール骨格を有するエポキシ樹脂については、公知のエポキシ樹脂を用いることができる。例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂等が挙げられる。これらのエポキシ樹脂は、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールAD、ビスフェノールS等のビスフェノール化合物と、エピクロルヒドリンとをアルカリ触媒の存在下で反応して得ることができる。中でも、成分〔A〕は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂又はビスフェノールF型エポキシ樹脂を含むことが好ましく、ビスフェノールA型エポキシ樹脂を含むことがより好ましい。該(b)ビスフェノール骨格を有するエポキシ樹脂は、公知の方法で水等の液に分散させることにより化成処理液を得ることができる。
【0113】
前記樹脂成分は、前記化成皮膜のバインダーとして作用するが、バインダーを構成する前記(a)エステル結合を有するアニオン性ポリウレタン樹脂は、可撓性があるので加工を受けた際に化成皮膜が破壊(剥離)しにくくなる効果を奏することができ、前記(b)ビスフェノール骨格を有するエポキシ樹脂は、下地のAl-Zn系めっき鋼板及び上層のプライマー塗膜との密着性を向上する効果を奏することができる。
前記樹脂成分は、前記化成皮膜中に合計で30~50質量%含まれる。前記樹脂成分の含有量が30質量%未満では化成皮膜のバインダー効果が低下し、50質量%を超えると、下記に示す無機成分による機能、例えばインヒビター作用が低下する。同様の観点から、前記化成皮膜における前記樹脂成分の含有量は、35~45質量%であることが好ましい。
【0114】
さらに、前記樹脂成分は、前記(a)エステル結合を有するアニオン性ポリウレタン樹脂と前記(b)ビスフェノール骨格を有するエポキシ樹脂の含有比率((a):(b))が、質量比で3:97 ~60:40の範囲であることを要する。前記(a):(b)が、上記範囲外の場合、化成処理皮膜としての可撓性の低下や密着性が低下に伴い、十分な耐食性が得られないためである。同様の観点から、前記(a):(b)は、10:90~55:45であることが好ましい。
【0115】
なお、前記樹脂成分については、要求される性能に応じて、上述した(a)エステル結合を有するアニオン性ポリウレタン樹脂及び(b)ビスフェノール骨格を有するエポキシ樹脂以外の樹脂(その他の樹脂成分)を含むことができる。前記その他の樹脂成分については、特に限定はされず、例えば、アクリル樹脂、アクリルシリコン樹脂、アルキド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアルキレン樹脂、アミノ樹脂及びフッ素樹脂のうちから選択される少なくとも一種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
前記樹脂成分がその他の樹脂を含む場合、前記(a)エステル結合を有するアニオン性ポリウレタン樹脂及び前記(b)ビスフェノール骨格を有するエポキシ樹脂の合計含有量が、50質量%以上であることが好ましく、75質量%以上であることがより好ましい。成処理皮膜としての可撓性の低下や密着性をより確実に得るためである。
【0116】
また、前記化成皮膜は、無機化合物として、2~10質量%のバナジウム化合物、40~60質量%のジルコニウム化合物及び0.5~5質量%のフッ素化合物を含む。
これらの化合物を含むことによって、化成皮膜の耐食性を高めることができる。
【0117】
前記バナジウム化合物は、化成処理液中に添加して防錆剤(インヒビター)として作用する。前記バナジウム化合物が前記化成皮膜中に含まれることで、腐食環境下においてバナジウム化合物が適度に溶出し、同じく腐食環境下で溶出するめっき成分の亜鉛イオン等と結合し、緻密な保護皮膜を形成する。形成された保護皮膜によって、鋼板の平面部だけでなく、欠陥部、加工に起因して生じるめっき皮膜の損傷部、切断端面から平面部に進行する腐食、等に対する耐食性をさらに高めることができる。
前記バナジウム化合物については、例えば、五酸化バナジウム、メタバナジン酸、メタバナジン酸アンモニウム、オキシ三塩化バナジウム、三酸化バナジウム、二酸化バナジウム、バナジン酸マグネシウム、バナジルアセチルアセトネート、バナジウムアセチルアセトネート等が挙げられる。特に、これらの中でも、4価のバナジウム化合物又は還元若しくは酸化することによって得られる4価のバナジウム化合物を用いることが望ましい。
【0118】
また、前記化成処理皮膜中のバナジウム化合物の含有量は、2~10質量%である。前記化成処理皮膜中のバナジウム化合物の含有量が2質量%未満ではインヒビター効果が十分でないため耐食性の低下を招き、一方、前記バナジウム化合物の含有量が10質量%を超えると化成処理皮膜の耐湿性の低下を招くためである。
【0119】
ジルコニウム化合物は、前記化成皮膜中に含有され、めっき金属との反応や樹脂成分との共存により、化成処理皮膜としての強度向上及び耐食性向上が期待でき、さらにはジルコニウム化合物自体が緻密な化成処理皮膜の形成に寄与し、被覆性に富むことからバリア効果を期待できる。
前記ジルコニウム化合物としては、硫酸ジルコニウム、炭酸ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、乳酸ジルコニウム、酢酸ジルコニウム、塩化ジルコニウムなどの中和塩等が挙げられる。
【0120】
また、前記化成処理皮膜中のジルコニウム化合物の含有量は、40~60質量%である。前記化成処理皮膜中のジルコニウム化合物の含有量が40質量%未満では、化成処理皮膜としての強度や耐食性の低下を招き、前記ジルコニウム化合物の含有量が60質量%を超えると、化成処理皮膜が脆化して、厳しい加工を受けた場合に化成処理皮膜の破壊や剥離が生じるためである。
【0121】
前記フッ素化合物は、前記化成皮膜中に含有され、めっき皮膜との密着性付与剤として作用する。その結果、前記化成皮膜の耐食性を高めることが可能となる。
前記フッ素化合物としては、例えば、アンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩などのフッ化物塩、又は、フッ化第一鉄、フッ化第二鉄等のフッ素化合物を用いることができる。これらの中でも、フッ化アンモニウムや、フッ化ナトリウム及びフッ化カリウム等のフッ化物塩を用いることが好ましい。
【0122】
また、前記化成処理皮膜中のフッ素化合物の含有量は、0.5~5質量%である。前記化成処理皮膜中のフッ素化合物の含有量が0.5質量%未満では加工部での密着性が充分に得られず、前記フッ素化合物の含有量が5質量%を超えると化成処理皮膜の耐湿性が低下するからである。
【0123】
また、前記化成皮膜の付着量は、特に限定はされない。例えば、より確実に耐食性を確保しつつ、化成皮膜の密着性等を向上させる観点から、前記化成皮膜の付着量を0.025~0.5g/m2とすることが好ましい。前記化成皮膜の付着量を0.025g/m2以上とすることで、より確実に耐食性を確保でき、前記化成皮膜の付着量を0.5g/m2以下とすることで、化成皮膜の剥離を抑えることができる。
前記化成皮膜付着量は、皮膜を蛍光X 線分析して予め皮膜中の含有量が分かっている元素の存在量を測定する方法のような、既存の手法から適切に選択した方法で求めればよい。
【0124】
なお、前記化成皮膜を形成するための方法は、特に限定はされず、要求される性能や、製造設備等に応じて適宜選択することができる。例えば、前記めっき皮膜上に、化成処理液をロールコーター等により連続的に塗布し、その後、熱風や誘導加熱等を用いて、60~200℃程度の到達板温(Peak Metal Temperature:PMT)で乾燥させることで形成することができる。前記化成処理液の塗布には、ロールコーター以外にも、エアレススプレー、静電スプレー、カーテンフローコーター等の公知の手法を適宜採用することができる。さらに、前記化成皮膜は、前記樹脂及び前記金属化合物を含むものであれば、単層膜又は複層膜のいずれであってもよく、特に限定されるものではない。
【0125】
本発明の塗装鋼板は、上述したように、めっき皮膜上に、直接又は化成皮膜を介して、塗膜が形成されており、該塗膜は、プライマー塗膜を少なくとも有する。
【0126】
そして、本発明は、前記プライマー塗膜が、ウレタン結合を有するポリエステル樹脂と、バナジウム化合物、リン酸化合物及び酸化マグネシウムを含む無機化合物と、を含有する。
前記プライマー塗膜が、前記ウレタン結合を有するポリエステル樹脂と前記無機化合物を含有することによって、塗膜の密着性を高めつつ、耐食性を向上させることができる。
【0127】
前記プライマー塗膜は、主成分として、ウレタン結合を有するポリエステル樹脂を含有する。前記ウレタン結合を有するポリエステル樹脂は、可撓性と強度を兼ね備えているため、加工を受けた際にプライマー塗膜にクラックが発生しにくい等の効果が得られ、ウレタン樹脂を含有する化成処理皮膜との親和性が高いことから、特に加工部の耐食性向上に寄与することができる。
なお、ここでいう「主成分」とは、プライマー塗膜中の各成分中最も含有量が多い成分であることを意味する。
【0128】
前記ウレタン結合を有するポリエステル樹脂としては、ポリエステルポリオールと、イソシアネート基を2個以上もつ、ジイソシアネート又はポリイソシアネートとの反応によって得られる樹脂等、公知の樹脂を使用できる。また、前記ポリエステルポリオールと、前記ジイソシアネート又は前記ポリイソシアネートとを水酸基過剰な状態で反応させた樹脂(ウレタン変性ポリエステル樹脂)を、ブロック化ポリイソシアネートで硬化させた樹脂も使用できる。
【0129】
なお、前記ポリエステルポリオールは、多価アルコール成分と多塩基酸成分との脱水縮合反応を利用した、公知の方法により得ることができる。
前記多価アルコールとしては、グリコール及び3価以上の多価アルコールが挙げられる。前記グリコールは、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、ヘキシレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、メチルプロパンジオール、シクロヘキサンジメタノール、3,3-ジエチル-1,5-ペンタンジオール等が挙げられる。また、前記3価以上の多価アルコールは、例えば、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール等が挙げられる。これらの多価アルコールは、単独で使用することもでき、2種以上組み合わせて使用することもできる。
前記多塩基酸は、通常は多価カルボン酸が使用されるが、必要に応じて1価の脂肪酸などを併用することができる。前記多価カルボン酸として、例えば、フタル酸、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、4-メチルヘキサヒドロフタル酸、ビシクロ[2,2,1]ヘプタン-2,3-ジカルボン酸、トリメリット酸、アジピン酸、セバシン酸、コハク酸、アゼライン酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、ピロメリット酸、ダイマー酸など、及びこれらの酸無水物、並びに1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、イソフタル酸、テトラヒドロイソフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸等が挙げられる。これらの多塩基酸は、単独で使用することもでき、2種以上組み合わせて使用することもできる。
【0130】
前記ポリイソシアネートについては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネートなどの脂肪族ジイソシアネート、そして、キシリレンジイソシアネート(XDI)、メタキシリレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート(TDI)、4,4-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)などの芳香族ジイソシアネート、さらに、イソホロンジイソシアネート、水素化XDI、水素化TDI、水素化MDIなどの環状脂肪族ジイソシアネート、及びこれらのアダクト体、ビウレット体、イソシアヌレート体等が挙げられる。これらのポリイソシアネートは、単独で使用することもでき、2種以上組み合わせて使用することもできる。
【0131】
また、前記ウレタン結合を有するポリエステル樹脂の水酸基価は、特に限定はされないが、耐溶剤性、加工性等の観点から、好ましくは5~120mgKOH/gであり、より好ましくは、7~100 mgKOH/gであり、さらに好ましくは10~80 mgKOH/gである。
さらに、前記ウレタン結合を有するポリエステル樹脂の数平均分子量は、耐溶剤性、加工性などの点から、好ましくは500~15,000であり、より好ましくは、700~12,000であり、さらに好ましくは800~10,000である。
【0132】
前記プライマー塗膜における、前記ウレタン結合を有するポリエステル樹脂の含有量は40~88質量%であることが好ましい。前記ウレタン結合を有するポリエステル樹脂の含有量が40質量%未満では、プライマー塗膜としてのバインダー機能が低下するおそれがあり、一方、前記ウレタン結合を有するポリエステル樹脂の含有量が88質量%を超えると、下記に示す無機物による機能、例えばインヒビター作用が低下するおそれがある。
【0133】
前記無機化合物の1つであるバナジウム化合物は、インヒビターとして作用する。前記バナジウム化合物としては、例えば、五酸化バナジウム、メタバナジン酸、メタバナジン酸アンモニウム、オキシ三塩化バナジウム、三酸化バナジウム、二酸化バナジウム、バナジン酸マグネシウム、バナジルアセチルアセトネート、バナジウムアセチルアセトネート等が挙げられる。特に、これらの中でも、4価のバナジウム化合物又は還元若しくは酸化することによって得られる4価のバナジウム化合物を用いることが望ましい。
前記プライマー塗膜中に添加するバナジウム化合物は、前記化成処理皮膜に添加するバナジウム化合物と同種であっても異種であってもよい。バナジン酸化合物は、外部から侵入してくる水分に徐々に溶出するバナジン酸イオンと亜鉛系めっき鋼板表面のイオンが反応し、密着性の良い不働態皮膜を形成し、金属露出部を保護し防錆作用が現れると考えられている。
【0134】
前記プライマー塗膜中の前記バナジウム化合物の含有量は、特に限定はされないが、耐食性と耐湿性との両立の観点から、4~20質量%であることが好ましい。前記バナジウム化合物の含有量が4質量%未満ではインヒビター効果が低下して耐食性の低下を招くおそれがあり、前記バナジウム化合物の含有量が20質量%を超えるとプライマー塗膜の耐湿性の低下を招くおそれがある。
【0135】
前記無機化合物の1つであるリン酸化合物についても、インヒビターとして作用する。前記リン酸化合物としては、例えばリン酸、リン酸のアンモニウム塩、リン酸のアルカリ金属塩、リン酸のアルカリ土類金属塩などが使用できる。特に、リン酸カルシウムなど、リン酸のアルカリ金属塩を好適に使用できる。
【0136】
前記プライマー塗膜中の前記リン酸化合物の含有量は、特に限定はされないが、耐食性と耐湿性との両立の観点から、4~20質量%であることが好ましい。前記リン酸化合物の含有量が4質量%未満ではインヒビター効果が低下して耐食性の低下を招くおそれがあり、前記リン酸化合物の含有量が20質量%を超えるとプライマー塗膜の耐湿性の低下を招くおそれがある。
【0137】
前記無機化合物の1つである酸化マグネシウムは、初期の腐食によってMgを含有する生成物を生成し、難溶性のマグネシウム塩として、安定化を図り、耐食性を向上させる効果がある。
【0138】
前記プライマー塗膜中の前記酸化マグネシウムの含有量は、特に限定はされないが、耐食性と加工部耐食性との両立の観点から、4~20質量%であることが好ましい。前記酸化マグネシウムの含有量が4質量%未満では、上記効果が低下して耐食性の低下を招くおそれがあり、前記酸化マグネシウムの含有量が20質量%を超えると、前記プライマー塗膜の可撓性が低下することにより加工部の耐食性が低下することがある。
【0139】
また、前記プライマー塗膜は、上述したウレタン結合を有するポリエステル樹脂及び無機化合物以外の成分を含有することもできる。
例えば、プライマー塗膜を形成する際に用いられる架橋剤が挙げられる。前記架橋剤は、前記ウレタン結合を有するポリエステル樹脂と反応して架橋塗膜を形成するものであり、例えば、オキサゾリン化合物、エポキシ化合物、メラミン化合物、イソシアネート系化合物、カルボジイミド系化合物、シランカップリング化合物等が挙げられ、2種類以上の架橋剤を併用することも可能である。なかでも得られる塗装鋼板の加工部耐食性の観点から、好ましくはブロック化ポリイソシアネート化合物等を用いることができる。該ブロック化ポリイソシアネートとしては、例えば、ポリイソシアネート化合物のイソシアネート基を、例えば、ブタノールなどのアルコール類、メチルエチルケトオキシムなどのオキシム類、ε-カプロラクタム類などのラクタム類、アセト酢酸ジエステルなどのジケトン類、イミダゾール、2-エチルイミダゾールなどのイミダゾール類、又は、m-クレゾールなどのフェノール類などによりブロックしたものが挙げられる。
【0140】
さらに、前記プライマー塗膜は、必要に応じて、塗料分野で通常使用されている公知の各種成分を含有させることもできる。具体的には、例えば、レベリング剤、消泡剤などの各種表面調整剤、分散剤、沈降防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤などの各種添加剤、着色顔料、体質顔料などの各種顔料、光輝材、硬化触媒、有機溶剤などが挙げられる。
【0141】
前記プライマー塗膜の厚さは、1.5μm以上であることが好ましい。前記プライマー塗膜の厚さを1.5μm以上とすることで、耐食性の向上効果や、化成処理皮膜やプライマー塗膜の上に形成される上塗塗膜との密着性向上効果をより確実に得ることができるからである。
【0142】
前記プライマー塗膜を形成するための方法については、特に限定はされない。また、前記プライマー塗膜を構成する塗料組成物の塗装方法については、好ましくは塗料組成物をロールコーター塗装、カーテンフロー塗装等の方法で塗布することができる。前記塗料組成物を塗装後、熱風加熱、赤外線加熱、誘導加熱などの加熱手段により焼き付け、プライマー塗膜を得ることができる。前記焼付処理は、通常、最高到達板温を180~270℃程度とし、この温度範囲で約30秒~3分行うことができる。
【0143】
また、本発明の塗装鋼板を構成する塗膜については、前記プライマー塗膜上に、さらに上塗塗膜が形成されていることが好ましい。
前記上塗塗膜は、塗装鋼板に色彩や光沢、表面状態等の美観を付与することができることに加え、加工性、耐候性、耐薬品性、耐汚染性、耐水性、耐食性等の各種性能を高めることができる。
【0144】
前記上塗塗膜の構成については、特に限定はされず、要求される性能に応じて材料や厚さ等を適宜選択することができる。
例えば、前記上塗塗膜を、ポリエステル樹脂系塗料、シリコンポリエステル樹脂系塗料、ポリウレタン樹脂系塗料、アクリル樹脂系塗料、フッ素樹脂系塗料等を用いて形成することができる。
さらに、前記上塗塗膜は、酸化チタン、弁柄、マイカ、カーボンブラック又はその他の各種着色顔料;アルミニウム粉やマイカなどのメタリック顔料;炭酸塩や硫酸塩等からなる体質顔料;シリカ微粒子、ナイロン樹脂ビーズ、アクリル樹脂ビーズ等の各種微粒子;p-トルエンスルホン酸、ジブチル錫ジラウレート等の硬化触媒;ワックス;その他の添加剤を適量含有することができる。
【0145】
また、前記上塗塗膜の厚さは、外観性及び加工性の両立の観点からは、5~30μmであることが好ましい。前記上塗塗膜の厚さが5μm以上の場合には、色調外観をより確実に安定させることが可能となり、前記上塗塗膜の厚さが30μm以下の場合には、加工性の低下(上塗塗膜のクラック発生)をより確実に抑制できる。
【0146】
前記上塗塗膜を形成するための塗料組成物の塗装方法は特に限定はされない。例えば、前記塗料組成物を、ロールコーター塗装、カーテンフロー塗装などの方法で塗布することができる。前記塗料組成物を塗装後、熱風加熱、赤外線加熱、誘導加熱などの加熱手段により焼き付け、上塗塗膜を形成できる。前記焼付処理は、通常、最高到達板温を180~270℃程度とし、この温度範囲で約30秒~3分行うことができる。
【実施例】
【0147】
<実施例1:サンプル1~47>
常法で製造した板厚0.8mmの冷延鋼板を下地鋼板として用い、(株)レスカ製の溶融めっきシミュレーターで、焼鈍処理、めっき処理を行うことで、表1に示す条件の溶融めっき鋼板のサンプル1~47を作製した。
なお、溶融めっき鋼板製造に用いためっき浴の組成については、表1に示す各サンプルのめっき皮膜の組成となるように、めっき浴の組成をAl:5~70質量%、Si:0.0~4.4質量%、Ni:0.000~0.025質量%、Co:0.001~0.092質量%、V:0.0~0.1質量%、Cr:0.0~0.2質量%、Mn:0.0~0.1質量%、Mg:0.0~4.0質量%、Ca:0.0~1.0質量%、Sr:0.0~1.0質量%の範囲で種々変化させた。また、用いためっき浴の浴温は、Al:5質量%の場合は450℃、Al:18質量%の場合は480℃、Al:36~55質量%の場合は600℃、Al:60質量%超の場合は660℃とし、下地鋼板のめっき浸入板温がめっき浴温と同温度となるように制御した。さらに、Al:30~60質量%の場合は、板温が520~500℃の温度域に3秒で冷却する条件でめっき処理を実施した。
また、めっき皮膜の付着量は、サンプル1~44では片面あたり85±5g/m2、サンプル45では片面あたり50±5g/m2、サンプル46では片面あたり100±5g/m2、サンプル47では片面あたり125±5g/m2となるように制御した。
【0148】
(評価)
上記のように得られた溶融めっき鋼板の各サンプルについて、以下の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0149】
(1)めっき皮膜(組成、付着量、Ni系化合物)
めっき後の各サンプルについて、100mmφを打ち抜き、非測定面をテープでシーリングした後、JIS H 0401:2013に示される塩酸とヘキサメチレンテトラミンの混合液でめっきを溶解剥離し、剥離前後のサンプルの質量差から、めっき皮膜の付着量を算出した。算出の結果、得られためっき皮膜の付着量を表1に示す。
その後、剥離液をろ過し、ろ液と固形分をそれぞれ分析した。具体的に、ろ液をICP発光分光分析することで、不溶Si以外の成分を定量化した。
また、固形分は650℃の加熱炉内で乾燥・灰化した後、炭酸ナトリウムと四ホウ酸ナトリウムを添加することで融解させた。さらに、塩酸で融解物を溶解し、溶解液をICP発光分光分析することで、不溶Siを定量化した。めっき皮膜中のSi濃度は、ろ液分析によって得た可溶Si濃度に、固形分分析によって得た不溶Si濃度を加算したものである。算出の結果、得られためっき皮膜の組成を表1に示す。
さらに、各サンプルについて、15mm×15mmのサイズに剪断後、鋼板の断面が観察できるように導電性樹脂に埋め込んだ状態で、機械研磨を行った後、走査型電子顕微鏡(Carl Zeiss社製ULTRA55)を用いて、下地鋼板の表面と平行な方向に2mm以上の長さを有する任意で選んだめっき皮膜の連続断面について、加速電圧3kVの条件で幅100μmで反射電子像を連続して撮影した。さらに、同装置内において、エネルギー分散型X線分光器(Oxford Instruments社製Ultim Extreme)を用いて、加速電圧3kVの条件で各断面の元素マッピング解析(Al、Zn、Si、Fe及びNi)を行った。この解析でNi強度を高く検出した部分について、同分光器を用いて加速電圧3kVの条件で点分析を行い、得られた成分の半定量値から物質を同定した。観察視野中に確認された全てのNi系化合物について長径を測定し、最大の長径を求めた。また、観察した連続断面中に存在する全てのNi系化合物粒子の個数を数え、観察した断面長さ(mm)で除することで、下地鋼板表面に平行方向にある1mmあたりのNi系化合物の粒子数(個/mm)を算出した。この解析でNi強度を高く検出した部分について、同分光器を用いて加速電圧3kVの条件で点分析を行い、得られた成分の半定量値から物質を同定した。解析結果を表1に示す。
【0150】
(2)耐食性評価
得られた溶融めっき鋼板の各サンプルについて、120mm×120mmのサイズに剪断後、評価対象面の各エッジから10mmの範囲、及び、サンプルの端面と評価非対象面をテープでシーリングし、評価対象面を100mm×100mmのサイズで露出させた状態のものを、評価用サンプルとして用いた。なお、該評価用サンプルは同じものを3つ作製した。
上記のように作製した3つの評価用サンプルに対して、いずれも
図1に示すサイクルで腐食促進試験を実施した。腐食促進試験を湿潤からスタートし、150サイクル後まで行った後、各サンプルの腐食減量をJIS Z 2383及びISO8407に記載の方法で測定し、下記の基準で評価した。評価結果を表1に示す。
◎:サンプル3個の腐食減量が全て60g/m
2以下
○:サンプル3個の腐食減量が全て75g/m
2以下
×:サンプル1個以上の腐食減量が75g/m
2越え
【0151】
(3)表面外観性
得られた溶融めっき鋼板の各サンプルについて、70mm×150mmのサイズに剪断後、同板厚の板を内側に8枚挟んで180°曲げの加工(8T曲げ)を施した。折り曲げ後の曲げ部外面にセロテープ(登録商標)を強く貼りつけた後、引き剥がした。曲げ部外面のめっき皮膜の表面状態、及び、使用したテープの表面におけるめっき皮膜の付着(剥離)の有無を目視で観察し、下記の基準で加工性を評価した。評価結果を表1に示す。
〇:めっき皮膜にクラックと剥離が共に認められない
△:めっき皮膜にクラックがあるが、剥離が認められない
×:めっき皮膜にクラックと剥離が共に認められる
【0152】
【0153】
表1の結果から、本発明例の各サンプルは、比較例の各サンプルに比べて、耐食性及び加工性がバランスよく優れていることがわかる。
【0154】
<実施例2:サンプル1~118>
(1)常法で製造した板厚0.8mmの冷延鋼板を下地鋼板として用い、(株)レスカ製の溶融めっきシミュレーターで、焼鈍処理、めっき処理を行うことで、表3~5に示すめっき皮膜条件の溶融めっき鋼板のサンプルを作製した。
なお、溶融めっき鋼板製造に用いためっき浴の組成については、表1に示す各サンプルのめっき皮膜の組成となるように、めっき浴の組成をAl:5~70質量%、Si:0.0~4.4質量%、Ni:0.000~0.025質量%、V:0.0~0.1質量%、Cr:0.0~0.2質量%、Mn:0.0~0.1質量%、Mg:0.0~4.0質量%、Ca:0.0~1.0質量%、Sr:0.0~1.0質量%の範囲で種々変化させた。また、めっき浴の浴温は、Al:5質量%の場合は450℃、Al:18質量%の場合は480℃、Al:36~55質量%の場合は600℃、Al:60質量%超の場合は660℃とし、下地鋼板のめっき浸入板温がめっき浴温と同温度となるように制御した。さらに、Al:30~60質量%の場合は、板温が520~500℃の温度域に3秒で冷却する条件でめっき処理を実施した。
また、めっき皮膜の付着量は、サンプル1~88、95~118では片面85±5g/m2、サンプル89~90では片面あたり50±5g/m2、サンプル91~92では片面あたり100±5g/m2、サンプル93~94では片面あたり125g/m2±5g/m2となるように制御した。
【0155】
(2)その後、作製した溶融めっき鋼板の各サンプルのめっき皮膜上に、バーコーターで化成処理液を塗布し、熱風炉で乾燥(昇温速度:60℃/s、PMT:120℃)させることで化成皮膜を形成し、表3~5に示す表面処理鋼板の各サンプルを作製した。
なお、化成処理液は、各成分を溶媒としての水に溶解させた表面処理液A~Fを調製した。表面処理液に含有する各成分(樹脂、金属化合物)の種類については、以下のとおりである。
(樹脂)
ウレタン樹脂:スーパーフレックス130、スーパーフレックス126(第一工業製薬株式会社)
アクリル樹脂:ボンコートEC-740EF(DIC株式会社)
(金属化合物)
P化合物:トリポリリン酸二水素アルミニウム
Si化合物:シリカ
V化合物:メタバナジン酸ナトリウム
Mo化合物:モリブデン酸
Zr化合物:炭酸ジルコニルカリウム
調製した化成処理液A~Fの組成及び形成された化成皮膜の付着量を表2に示す。なお、本明細書の表2における各成分の濃度は、固形分の濃度(質量%)である。
【0156】
【0157】
(評価)
上記のように得られた溶融めっき鋼板及び表面処理鋼板の各サンプルについて、以下の評価を行った。評価結果を表3~5に示す。
(1)めっき皮膜(組成、付着量、Ni系化合物)
溶融めっき鋼板の各サンプルについて、100mmφを打ち抜き、非測定面をテープでシーリングした後、JIS H 0401:2013に示される塩酸とヘキサメチレンテトラミンの混合液でめっきを溶解剥離し、剥離前後のサンプルの質量差から、めっき皮膜の付着量を算出した。算出の結果、得られためっき皮膜の付着量を表3~5に示す。
その後、剥離液をろ過し、ろ液と固形分をそれぞれ分析した。具体的に、ろ液をICP発光分光分析することで、不溶Si以外の成分を定量化した。
また、固形分は650℃の加熱炉内で乾燥・灰化した後、炭酸ナトリウムと四ホウ酸ナトリウムを添加することで融解させた。さらに、塩酸で融解物を溶解し、溶解液をICP発光分光分析することで、不溶Siを定量化した。めっき皮膜中のSi濃度は、ろ液分析によって得た可溶Si濃度に、固形分分析によって得た不溶Si濃度を加算したものである。算出の結果、得られためっき皮膜の組成を表3~5に示す。
さらに、各サンプルについて、15mm×15mmのサイズに剪断後、鋼板の断面が観察できるように導電性樹脂に埋め込んだ状態で、機械研磨を行った後、走査型電子顕微鏡(Carl Zeiss社製ULTRA55)を用いて、下地鋼板の表面と平行な方向に2mm以上の長さを有する任意で選んだめっき皮膜の連続断面について、加速電圧3kVの条件で幅100μmで反射電子像を連続して撮影した。さらに、同装置内において、エネルギー分散型X線分光器(Oxford Instruments社製Ultim Extreme)を用いて、加速電圧3kVの条件で各断面の元素マッピング解析(Al、Zn、Si、Fe及びNi)を行った。この解析でNi強度を高く検出した部分について、同分光器を用いて加速電圧3kVの条件で点分析を行い、得られた成分の半定量値から物質を同定した。観察視野中に確認された全てのNi系化合物について長径を測定し、最大の長径を求めた。また、観察した連続断面中に存在する全てのNi系化合物粒子の個数を数え、観察した断面長さ(mm)で除することで、下地鋼板表面に平行方向にある1mmあたりのNi系化合物の粒子数(個/mm)を算出した。この解析でNi強度を高く検出した部分について、同分光器を用いて加速電圧3kVの条件で点分析を行い、得られた成分の半定量値から物質を同定した。解析結果を表3~5に示す。
【0158】
(2)耐食性評価
溶融めっき鋼板及び表面処理鋼板の各サンプルについて、120mm×120mmのサイズに剪断後、評価対象面の各エッジから10mmの範囲、及び、サンプルの端面と評価非対象面をテープでシーリングし、評価対象面を100mm×100mmのサイズで露出させた状態のものを、評価用サンプルとして用いた。なお、該評価用サンプルは同じものを3つ作製した。
上記のように作製した3つの評価用サンプルに対して、いずれも
図1に示すサイクルで腐食促進試験を実施した。腐食促進試験を湿潤からスタートし、150サイクル後まで行った後、各サンプルの腐食減量をJIS Z 2383及びISO8407に記載の方法で測定し、下記の基準で評価した。評価結果を表3~5に示す。
◎:サンプル3個の腐食減量が全て40g/m
2以下
○:サンプル3個の腐食減量が全て60g/m
2以下
×:サンプル1個以上の腐食減量が60g/m
2越え
【0159】
(3)耐白錆性
溶融めっき鋼板及び表面処理鋼板の各サンプルについて、120mm×120mmのサイズに剪断後、評価対象面の各エッジから10mmの範囲、及び、サンプルの端面と評価非対象面をテープでシーリングし、評価対象面を100mm×100mmのサイズで露出させた状態のものを、評価用サンプルとして用いた。
上記評価用サンプルを用いて、JIS Z 2371に記載の塩水噴霧試験を90時間実施し、下記の基準で評価した。評価結果を表3~5に示す。
◎:平板部に白錆なし
○:平板部の白錆発生面積10%未満
×:平板部の白錆発生面積10%以上
【0160】
(4)加工性
溶融めっき鋼板の各サンプルについて、70mm×150mmのサイズに剪断後、同板厚の板を内側に8枚挟んで180°曲げの加工(8T曲げ)を施した。折り曲げ後の曲げ部外面にセロテープ(登録商標)を強く貼りつけた後、引き剥がした。曲げ部外面のめっき皮膜の表面状態、及び、使用したテープの表面におけるめっき皮膜の付着(剥離)の有無を目視で観察し、下記の基準で加工性を評価した。評価結果を表3~5に示す。
〇:めっき皮膜にクラックと剥離が共に認められない
△:めっき皮膜にクラックがあるが、剥離が認められない
×:めっき皮膜にクラックと剥離が共に認められる
【0161】
【0162】
【0163】
【0164】
表3~5の結果から、本発明例の各サンプルは、比較例の各サンプルに比べて、耐食性、耐白錆性及び加工性のいずれについてもバランスよく優れていることがわかる。
また、表5の結果から、化成処理A~Dを実施した各サンプルの耐白錆性が特に優れた結果を示すことがわかる。
【0165】
<実施例3:サンプル1~47>
(1)常法で製造した板厚0.8mmの冷延鋼板を下地鋼板として用い、(株)レスカ製の溶融めっきシミュレーターで、焼鈍処理、めっき処理を行うことで、表7に示す条件の溶融めっき鋼板のサンプル1~47を作製した。
めっき浴の組成をAl:5~70質量%、Si:0.0~4.4質量%、Ni:0.000~0.025質量%、Co:0.001~0.092質量%、V:0.0~0.1質量%、Cr:0.0~0.2質量%、Mn:0.0~0.1質量%、Mg:0.0~4.0質量%、Ca:0.0~1.0質量%、Sr:0.0~1.0質量%の範囲で種々変化させた。また、めっき浴の浴温は、Al:5質量%の場合は450℃、Al:18質量%の場合は480℃、Al:36~55質量%の場合は600℃、Al:60質量%超の場合は660℃とし、下地鋼板のめっき浸入板温がめっき浴温と同温度となるように制御した。さらに、Al:30~60質量%の場合は、板温が520~500℃の温度域に3秒で冷却する条件でめっき処理を実施した。
また、めっき皮膜の付着量は、サンプル1~44では片面あたり85±5g/m2、サンプル45では片面あたり50±5g/m2、サンプル46では片面あたり100±5g/m2、サンプル47では片面あたり125±5g/m2となるように制御した。
【0166】
(2)その後、作製した溶融めっき鋼板の各サンプルのめっき皮膜上に、バーコーターで表6に示す化成処理液を塗布し、熱風乾燥炉で乾燥(到達板温:90℃)させることで、付着量が0.1g/m2の化成処理皮膜を形成した。
なお、用いた化成処理液は、各成分を溶媒としての水に溶解させて調製したpHが8~10の化成処理液を用いた。化成処理液に含有する各成分(樹脂成分、無機化合物)の種類については、以下のとおりである。
(樹脂成分)
樹脂A:(a)エステル結合を有するアニオン性ポリウレタン樹脂(第一工業製薬(株)製「スーパーフレックス210」と、(b)ビスフェノール骨格を有するエポキシ樹脂(吉村油化学(株)製「ユカレジンRE-1050」)とを、含有質量比(a):(b)=50:50で混合したもの
樹脂B:アクリル樹脂(DIC(株)製「ボンコートEC-740EF」)
(無機化合物)
バナジウム化合物:アセチルアセトンでキレート化した有機バナジウム化合物
ジルコニウム化合物:炭酸ジルコニウムアンモニウム
フッ素化合物:フッ化アンモニウム
【0167】
(3)そして、上記の通り形成した化成皮膜上に、プライマー塗料をバーコーターで塗布し、鋼板の到達温度230℃ 、焼き付け時間35秒の条件で焼き付けを行うことで、表6に示す成分組成を有するプライマー塗膜を形成した。その後、上記の通り形成したプライマー塗膜上に、上塗り塗料組成物をバーコーターで塗布し、鋼板の到達温度230℃~260℃、焼き付け時間40秒の条件で焼き付けを行うことで、表6に示す樹脂条件及び膜厚を有する上塗り塗膜を形成し、各サンプルの塗装鋼板を作製した。
なお、プライマー塗料については、各成分を混合した後、ボールミルで約1時間攪拌することにより得た。プライマー塗膜を構成する樹脂成分及び無機化合物は、以下のものを用いた。
(樹脂成分)
樹脂α:ウレタン変性ポリエステル樹脂(ポリエステル樹脂455質量部、イソホロンジイソシアネート45質量部を反応させて得たものであり、樹脂酸価は3、数平均分子量は5,600、水酸基価は36である。)を、ブロック化イソシアネートで硬化させたものを用いた。
なお、ウレタン変性させるポリエステル樹脂については、次の条件で作製した。攪拌機、精留塔、水分離器、冷却管及び温度計を備えたフラスコに、イソフタル酸320質量部、アジピン酸200量部、トリメチロールプロパン60質量部、シクロヘキサンジメタンノール420質量部を仕込み、加熱、攪拌し、生成する縮合水を系外へ留去させながら、160℃ から230℃ まで一定速度で4時間かけて昇温させ、温度230℃ に到達した後、キシレン20質量部を徐々に添加し、温度を230℃ に維持した状態で縮合反応を続け、酸価が5以下になった時に反応を終了させ、100℃まで冷却した後、ソルベッソ100(エクソンモービル社製、商品名、高沸点芳香族炭化水素系溶剤) 120質量部、ブチルセロソルブ100質量部を加えることで、ポリエステル樹脂溶液を得た。
樹脂β:ウレタン硬化ポリエステル樹脂(関西ペイント(株)製「エバクラッド4900」)
(無機化合物)
バナジウム化合物:バナジン酸マグネシウム
リン酸化合物:リン酸カルシウム
酸化マグネシウム化合物:酸化マグネシウム
また、表6に示す上塗塗膜に用いた樹脂については、以下の塗料を用いた。
樹脂I: メラミン硬化ポリエステル塗料(BASFジャパン(株)製「プレカラーHD0030HR」)
樹脂II: ポリフッ化ビニリデンとアクリル樹脂が質量比で80:20であるオルガノゾル系焼付型フッ素樹脂系塗料(BASFジャパン(株)製「プレカラーNo.8800HR」)
【0168】
【0169】
(評価)
上記のように得られた塗装鋼板の各サンプルについて、以下の評価を行った。評価結果を表7に示す。
【0170】
(1)めっき皮膜(組成、付着量、Ni系化合物)
溶融めっき鋼板の各サンプルについて、100mmφを打ち抜き、非測定面をテープでシーリングした後、JIS H 0401:2013に示される塩酸とヘキサメチレンテトラミンの混合液でめっきを溶解剥離し、剥離前後のサンプルの質量差から、めっき皮膜の付着量を算出した。算出の結果、得られためっき皮膜の付着量を表7に示す。
その後、剥離液をろ過し、ろ液と固形分をそれぞれ分析した。具体的に、ろ液をICP発光分光分析することで、不溶Si以外の成分を定量化した。
また、固形分は650℃の加熱炉内で乾燥・灰化した後、炭酸ナトリウムと四ホウ酸ナトリウムを添加することで融解させた。さらに、塩酸で融解物を溶解し、溶解液をICP発光分光分析することで、不溶Siを定量化した。めっき皮膜中のSi濃度は、ろ液分析によって得た可溶Si濃度に、固形分分析によって得た不溶Si濃度を加算したものである。算出の結果、得られためっき皮膜の組成を表7に示す。
さらに、各サンプルについて、15mm×15mmのサイズに剪断後、鋼板の断面が観察できるように導電性樹脂に埋め込んだ状態で、機械研磨を行った後、走査型電子顕微鏡(Carl Zeiss社製ULTRA55)を用いて、下地鋼板の表面と平行な方向に2mm以上の長さを有する任意で選んだめっき皮膜の連続断面について、加速電圧3kVの条件で幅100μmで反射電子像を連続して撮影した。さらに、同装置内において、エネルギー分散型X線分光器(Oxford Instruments社製Ultim Extreme)を用いて、加速電圧3kVの条件で各断面の元素マッピング解析(Al、Zn、Si、Mg、Fe、Sr、及びNi)を行った。この解析でNi強度を高く検出した部分について、同分光器を用いて加速電圧3kVの条件で点分析を行い、得られた成分の半定量値から物質を同定した。観察視野中に確認された全てのNi系化合物について長径を測定し、最大の長径を求めた。また、観察した連続断面中に存在する全てのNi系化合物粒子の個数を数え、観察した断面長さ(mm)で除することで、下地鋼板表面に平行方向にある1mmあたりのNi系化合物の粒子数(個/mm)を算出した。この解析でNi強度を高く検出した部分について、同分光器を用いて加速電圧3kVの条件で点分析を行い、得られた成分の半定量値から物質を同定した。解析結果を表7に示す。
【0171】
(2)耐食性評価
塗装鋼板の各サンプルについて、120mm×120mmのサイズに剪断後、評価対象面の各エッジから10mmの範囲、及び、サンプルの端面と評価非対象面をテープでシーリングし、評価対象面を100mm×100mmのサイズで露出させた状態のものを、評価用サンプルとして用いた。なお、該評価用サンプルは同じものを3つ作製した。
上記のように作製した3つの評価用サンプルに対して、いずれも
図1に示すサイクルで腐食促進試験を実施した。腐食促進試験を湿潤からスタートし、20サイクル毎にサンプルを取出し、水洗及び乾燥させた後に目視により観察し、テープシールしていない1辺の剪断端面に赤錆の発生について確認を行った。
そして、赤錆が確認されたときのサイクル数を、下記の基準に従って評価した。評価結果を表7に示す。
◎:サンプル3個の赤錆発生サイクル数≧300サイクル
○:200サイクル>サンプル3個の赤錆発生サイクル数≧200サイクル
×:少なくとも1個のサンプルの赤錆発生サイクル数<200サイクル
【0172】
(3)塗装後の加工性
塗装鋼板の各サンプルについて、70mm×150mmのサイズに剪断後、同板厚の板を内側に8枚挟んで180°曲げの加工(8T曲げ)を施した。折り曲げ後の曲げ部外面にセロテープ(登録商標)を強く貼りつけた後、引き剥がした。曲げ部外面の塗膜の表面状態、及び、使用したテープの表面における塗膜の付着(剥離)の有無を目視で観察し、下記の基準で加工性を評価した。評価結果を表7に示す。
〇:塗膜にクラックと剥離が共に認められない
△:塗膜にクラックがあるが、剥離が認められない
×:塗膜にクラックと剥離が共に認められる
【0173】
【0174】
表7の結果から、本発明例の各サンプルは、比較例の各サンプルに比べて、耐食性及び塗装後の加工性がバランスよく優れていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0175】
本発明によれば、確実且つ安定的に優れた耐食性を有する溶融Al-Zn系めっき鋼板を提供できる。
また、本発明によれば、確実且つ安定的に優れた耐食性及び耐白錆性を有する表面処理鋼板、並びに、確実且つ安定的に優れた耐食性及び加工部耐食性を有する塗装鋼板を提供できる。