(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-06
(45)【発行日】2024-11-14
(54)【発明の名称】熱可塑性ポリウレタン弾性繊維及びその巻糸体、該熱可塑性ポリウレタン弾性繊維を含むギャザー及び衛生材料、並びに該ポリウレタン弾性繊維の製造方法
(51)【国際特許分類】
D01F 6/94 20060101AFI20241107BHJP
C08G 18/48 20060101ALI20241107BHJP
C08K 5/20 20060101ALI20241107BHJP
C08K 5/3415 20060101ALI20241107BHJP
C08K 5/41 20060101ALI20241107BHJP
C08L 75/08 20060101ALI20241107BHJP
D01F 6/70 20060101ALI20241107BHJP
【FI】
D01F6/94 A
C08G18/48
C08K5/20
C08K5/3415
C08K5/41
C08L75/08
D01F6/70 A
(21)【出願番号】P 2023535252
(86)(22)【出願日】2022-07-04
(86)【国際出願番号】 JP2022026616
(87)【国際公開番号】W WO2023286651
(87)【国際公開日】2023-01-19
【審査請求日】2023-08-25
(31)【優先権主張番号】P 2021115909
(32)【優先日】2021-07-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【氏名又は名称】三間 俊介
(72)【発明者】
【氏名】後藤 英之
【審査官】川口 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2006/043568(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/103013(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/250994(WO,A1)
【文献】特開2015-224399(JP,A)
【文献】国際公開第2022/034868(WO,A1)
【文献】国際公開第2022/054811(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 6/94
C08G 18/48
C08K 5/20
C08K 5/3415
C08K 5/41
C08L 75/08
D01F 6/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、及びN-メチルピロリドン(NMP)からなる群から選択される少なくとも1つを0.05ppm以上100ppm以下で含有することを特徴とする、熱可塑性ポリウレタン弾性繊維。
【請求項2】
ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、及びN-メチルピロリドン(NMP)からなる群から選択される少なくとも1つを0.05ppm以上10ppm以下で含有する、請求項1に記載の熱可塑性ポリウレタン弾性繊維。
【請求項3】
ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、及びN-メチルピロリドン(NMP)からなる群から選択される少なくとも1つを0.05ppm以上5ppm以下で含有する、請求項2に記載の熱可塑性ポリウレタン弾性繊維。
【請求項4】
ポリマーポリオール、ジイソシアネート、及び低分子量ジオールからなる熱可塑性ポリウレタンを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の熱可塑性ポリウレタン弾性繊維。
【請求項5】
前記低分子量ジオールの分子量が60以上120以下である、請求項4に記載の熱可塑性ポリウレタン弾性繊維。
【請求項6】
前記熱可塑性ポリウレタン弾性繊維は、マルチフィラメント糸であり、構成する単糸の径の最大値と最小値の比が、1.1以上2.0以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の熱可塑性ポリウレタン弾性繊維。
【請求項7】
単糸繊度が5dtex以上40dtex以下である、請求項6に記載の熱可塑性ポリウレタン弾性繊維。
【請求項8】
前記熱可塑性ポリウレタン弾性繊維のフローテスターによる流出開始温度が、150℃以上220℃以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の熱可塑性ポリウレタン弾性繊維。
【請求項9】
前記熱可塑性ポリウレタン弾性繊維は、80℃における100%伸長応力に対する、20℃における100%伸長応力の比が1.30以上3.00以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の熱可塑性ポリウレタン弾性繊維。
【請求項10】
アロファネート結合を含む架橋を実質的に有しない、請求項1~3のいずれか1項に記載の熱可塑性ポリウレタン弾性繊維。
【請求項11】
衛生材料用である、請求項1~3のいずれか1項に記載の熱可塑性ポリウレタン弾性繊維。
【請求項12】
請求項1~3のいずれか1項に記載の熱可塑性ポリウレタン弾性繊維の巻糸体。
【請求項13】
請求項1~3のいずれか1項に記載の熱可塑性ポリウレタン弾性繊維を含む、ギャザー。
【請求項14】
請求項1~3のいずれか1項に記載の熱可塑性ポリウレタン弾性繊維を含む、衛生材料。
【請求項15】
請求項1~3のいずれか1項に記載の熱可塑性ポリウレタン弾性繊維の製造方法であって、該方法が、ポリウレタン樹脂を溶融紡糸する工程を含む、熱可塑性ポリウレタン弾性繊維の製造方法。
【請求項16】
前記ポリウレタン樹脂が、ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、及びN-メチルピロリドン(NMP)からなる群から選択される少なくとも1つを含有する、請求項15に記載の熱可塑性ポリウレタン弾性繊維の製造方法。
【請求項17】
前記ポリウレタン樹脂が、ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、及びN-メチルピロリドン(NMP)からなる群から選択される少なくとも1つを0.05ppm以上100ppm以下で含有する、請求項16に記載の熱可塑性ポリウレタン弾性繊維の製造方法。
【請求項18】
請求項11に記載の熱可塑性ポリウレタン弾性繊維の製造方法であって、該方法が、ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、及びN-メチルピロリドン(NMP)からなる群から選択される少なくとも1つを0.05ppm以上100ppm以下で含有するポリウレタン樹脂を溶融紡糸する工程を含む、熱可塑性ポリウレタン弾性繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性ポリウレタン弾性繊維及びその巻糸体、該熱可塑性ポリウレタン弾性繊維を含むギャザー及び衛生材料、並びに該ポリウレタン弾性繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリウレタン弾性繊維は、インナー、ストッキング、コンプレッションウェア、おむつなどに用いられている。前記用途においては、ポリウレタン弾性繊維は、伸長させた際の回復性が求められ、また、前記用途を製造する際の加工工程で糸切れしないように、巻糸体からの解舒性が良好であることが求められる。
以下の特許文献1では、平滑剤とゲルベアルコールを含有するポリウレタン弾性繊維が、該ポリウレタン弾性繊維の乾式紡糸法による製造において使用されるDMAcの該ポリウレタン弾性繊維中からの放出を促進し、DMAcの残存量を300~900ppm程度にすることによって、解舒性が向上することが開示されている。
また、以下の特許文献2では、アミノ変性ポリオルガノシロキサンレジンを含有する油剤が、弾性繊維を製造(特に溶融紡糸法で製造)する場合に、チーズの内層-外層での解舒バランスを良好にすることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-186704号公報
【文献】特開2003-49368号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、溶融紡糸による、回復性と解舒性が良好な熱可塑性ポリウレタン弾性繊維は未だ開示されていない。
前記した従来技術の問題点に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、回復性と解舒性を兼ね備えた、熱可塑性ポリウレタン弾性繊維及びそれを含む巻糸体、該熱可塑性ポリウレタン弾性繊維を含むギャザー、及び衛生材料、並びに該ポリウレタン弾性繊維の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願発明者は、前記課題を解決すべく、鋭意検討し実験を重ねた結果、熱可塑性ポリウレタン弾性繊維にジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、及びN-メチルピロリドン(NMP)からなる群から選択される少なくとも1つを特定量含有させることで前記課題を解決できることを予想外に発見し、本発明を完成するに至ったものである。
【0006】
すなわち、本発明は以下の通りのものである。
[1]ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、及びN-メチルピロリドン(NMP)からなる群から選択される少なくとも1つを0.05ppm以上100ppm以下で含有することを特徴とする、熱可塑性ポリウレタン弾性繊維。
[2]ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、及びN-メチルピロリドン(NMP)からなる群から選択される少なくとも1つを0.05ppm以上10ppm以下で含有する、前記[1]に記載の熱可塑性ポリウレタン弾性繊維。
[3]ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、及びN-メチルピロリドン(NMP)からなる群から選択される少なくとも1つを0.05ppm以上5ppm以下で含有する、前記[2]に記載の熱可塑性ポリウレタン弾性繊維。
[4]ポリマーポリオール、ジイソシアネート、及び低分子量ジオールからなる熱可塑性ポリウレタンを含む、前記[1]~[3]のいずれかに記載の熱可塑性ポリウレタン弾性繊維。
[5]前記低分子量ジオールの分子量が60以上120以下である、前記[4]に記載の熱可塑性ポリウレタン弾性繊維。
[6]前記熱可塑性ポリウレタン弾性繊維は、マルチフィラメント糸であり、構成する単糸の径の最大値と最小値の比が、1.1以上2.0以下である、前記[1]~[5]のいずれかに記載の熱可塑性ポリウレタン弾性繊維。
[7]単糸繊度が5dtex以上40dtex以下である、前記[6]に記載の熱可塑性ポリウレタン弾性繊維。
[8]前記熱可塑性ポリウレタン弾性繊維のフローテスターによる流出開始温度が、150℃以上220℃以下である、前記[1]~[7]のいずれかに記載の熱可塑性ポリウレタン弾性繊維。
[9]前記熱可塑性ポリウレタン弾性繊維は、80℃における100%伸長応力に対する、20℃における100%伸長応力の比が1.30以上3.00以下である、前記[1]~[8]のいずれかに記載の熱可塑性ポリウレタン弾性繊維。
[10]アロファネート結合を含む架橋を実質的に有しない、前記[1]~[9]のいずれかに記載の熱可塑性ポリウレタン弾性繊維。
[11]衛生材料用である、前記[1]~[10]のいずれかに記載の熱可塑性ポリウレタン弾性繊維。
[12]前記[1]~[11]のいずれかに記載の熱可塑性ポリウレタン弾性繊維の巻糸体。
[13]前記[1]~[11]のいずれかに記載の熱可塑性ポリウレタン弾性繊維を含む、ギャザー。
[14]前記[1]~[11]のいずれかに記載の熱可塑性ポリウレタン弾性繊維を含む、衛生材料。
[15]前記[1]~[11]に記載の熱可塑性ポリウレタン弾性繊維の製造方法であって、該方法が、ポリウレタン樹脂を溶融紡糸する工程を含む、熱可塑性ポリウレタン弾性繊維の製造方法。
[16]前記ポリウレタン樹脂が、ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、及びN-メチルピロリドン(NMP)からなる群から選択される少なくとも1つを含有する、前記[15]に記載の熱可塑性ポリウレタン弾性繊維の製造方法。
[17]前記ポリウレタン樹脂が、ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、及びN-メチルピロリドン(NMP)からなる群から選択される少なくとも1つを0.05ppm以上100ppm以下で含有する、前記[16]に記載の熱可塑性ポリウレタン弾性繊維の製造方法。
[18]前記[11]に記載の熱可塑性ポリウレタン弾性繊維の製造方法であって、該方法が、ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、及びN-メチルピロリドン(NMP)からなる群から選択される少なくとも1つを0.05ppm以上100ppm以下で含有するポリウレタン樹脂を溶融紡糸する工程を含む、熱可塑性ポリウレタン弾性繊維の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様である熱可塑性ポリウレタン弾性繊維及びその巻糸体は、上記構成を有することによって、回復性と解舒性を兼ね備えた、ギャザーに適した熱可塑性ポリウレタン弾性繊維及びその巻糸体である。また、本発明の別の態様であるギャザー及びそれを含む衛生材料は、回復性が高いため、着脱しやすく、フィット感が良好でずれ落ち難い。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という)について、詳細に説明する。本発明は以下の本実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施できる。
【0010】
[熱可塑性ポリウレタン弾性繊維]
本実施形態の熱可塑性ポリウレタン弾性繊維は、DMAc、DMF、DMSO、及びNMPからなる群から選択される少なくとも1つ(以下、「特定化合物」ともいう。)を0.05ppm以上100ppm以下で含有することを特徴とする。本実施形態の熱可塑性ポリウレタン弾性繊維は、前記特定化合物を0.05ppm以上100ppm以下で含有することで、回復性及び解舒性が優れたものとなり、また、おむつ製造工程で不織布や吸収剤から発生する微粉が熱可塑性ポリウレタン弾性繊維に付着することによるノズル詰まりを抑制できる。
【0011】
本実施形態の熱可塑性ポリウレタン弾性繊維において、前記特定化合物を0.05ppm以上100ppm以下で含有させることによって、回復性を向上できる理由については未だ明らかではないが、発明者は以下のように推定している。熱可塑性ポリウレタン弾性繊維に前記特定化合物を0.05ppm以上100ppm以下で含有させることによって、これらの化合物が熱可塑性ポリウレタンのハードドメインとソフトドメインの相溶化剤として作用して、ハードドメインが糸中に小さく微分散することで高い回復性が発揮される。また、解舒性を向上できる理由については未だ明らかではないが、発明者は以下のように推定している。熱可塑性ポリウレタン弾性繊維に前記特定化合物を0.05ppm以上100ppm以下で含有させることによって、これらの化合物が熱可塑性ポリウレタンのハードドメインとソフトドメインの相溶化剤として作用してソフトドメインが糸中に小さく微分散して、解舒性悪化の一因である糸間のソフトドメイン同士が接触する面積を小さくすることで、高い解舒性が発揮される。また、ノズル詰りを抑制できる理由についても未だ明らかではないが、発明者は以下のように推定している。熱可塑性ポリウレタン弾性繊維に前記特定化合物を0.05ppm以上100ppm以下で含有させることによって、これらの化合物が熱可塑性ポリウレタンのハードドメインとソフトドメインの相溶化剤として作用して極性の高いハードドメインが糸中に小さく微分散して、熱可塑性ポリウレタン弾性繊維に蓄積された電荷を逃しやすい。そのため、おむつ製造工程で不織布や吸収剤から発生する微粉が熱可塑性ポリウレタン弾性繊維に付着することによるノズル詰まりを抑制できる。
【0012】
本実施形態の熱可塑性ポリウレタン弾性繊維において、前記特定化合物の含有量は、好ましくは0.05ppm以上10ppm以下であり、より好ましくは0.05ppm以上5ppm以下である。
【0013】
本実施形態の熱可塑性ポリウレタン弾性繊維において、ハードドメインとソフトドメインを相溶化させて解舒性と回復性を向上させる効果を高める観点から、熱可塑性ポリウレタン弾性繊維が含有する前記特定化合物は、好ましくはDMAc又はDMFであり、より好ましくはDMAcである。
【0014】
本実施形態の熱可塑性ポリウレタン弾性繊維は、熱可塑性ポリウレタンを含む。熱可塑性ポリウレタンとしては、熱可塑性を有していればよく、例えば、ジイソシアネート、ポリマーポリオール、低分子量ジオール、及び低分子量ジアミン等から重合される構造を有するものであれば、特に限定されるものではない。また、その重合方法も特に限定されるものではない。熱可塑性ポリウレタンとしては、例えば、ジイソシアネート、ポリマーポリオール、及び活性水素化合物からなる鎖延長剤としての低分子量ジアミン等から重合されるポリウレタン(以下、「ポリウレタンウレア」ともいう。)であってもよく、また、ジイソシアネート、ポリマーポリオール、及び活性水素化合物からなる鎖延長剤としての低分子量ジオール等から重合されるポリウレタン(以下、「ポリウレタンウレタン」ともいう。)であってもよい。本発明の所望の効果を妨げない範囲で3官能性以上のグリコールやイソシアネートを用いてもよい。尚、本明細書中、「熱可塑性」とは、分解温度以下で加熱することにより溶融することができ、溶融状態にある間に塑性流動を示し、冷却により固化するという可逆的性質を有することを意味する。一般にポリウレタン樹脂は、230℃以上では分解が始まる。
【0015】
ポリマーポリオールとしては、以下に限定されないが、ポリエーテル系ジオール、ポリエステル系ジオール、ポリカーボネートジオール等のポリマージオールが挙げられる。耐加水分解性の観点から、ポリマーポリオールとしては、ポリエーテル系ポリオールであることが好ましく、ポリエーテル系ジオールであることが更に好ましい。
【0016】
ポリエーテル系ポリオールとしては、例えば、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコール誘導体、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、テトラヒドロフラン(THF)とネオペンチルグリコールからなる共重合ジオール、THFと3-メチルテトラヒドロフランからなる共重合体ジオールが挙げられる。これらのポリエーテル系ポリオールは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、ポリマージオールの数平均分子量は1000以上8000以下のものが好ましい。この範囲のポリマージオールを使用することにより、伸度、伸縮回復性、耐熱性に優れた弾性繊維を容易に得ることができる。光脆化性の観点から、ポリエーテル系ポリオールとしては、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、テトラヒドロフラン(THF)とネオペンチルグリコールの共重合体である共重合ジオール、及びこれらをブレンドしたポリオールであることが好ましい。
【0017】
ジイソシアネートとしては、例えば、芳香族ジイソシアネート、脂環族ジイソシアネート、及び脂肪族ジイソシアネート等が挙げられる。芳香族ジイソシアネートとしては、以下に限定されないが、例えば、ジフェニルメタンジイソシアネート(以下、「MDI」ともいう。)、トリレンジイソシアネート、1,4-ジイソシアネートベンゼン、キシリレンジイソシアネート、2,6-ナフタレンジイソシアネート等が挙げられる。脂環族ジイソシアネート、及び脂肪族ジイソシアネートとしては、例えば、メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)(以下、「H12MDI」ともいう。)、イソホロンジイソシアネート、メチルシクロヘキサン2,4-ジイソシアネート、メチルシクロヘキサン2,6-ジイソシアネート、シクロヘキサン1,4-ジイソシアネート、ヘキサヒドロキシリレンジイソシアネート、ヘキサヒドロトリレンジイソシアネート、オクタヒドロ1,5-ナフタレンジイソシアネート等が挙げられる。これらのジイソシアネートは単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。特に、弾性繊維の伸縮回復性の観点から、ジイソシアネートは、芳香族ジイソシアネートであることが好ましく、MDIであることがさらに好ましい。
【0018】
活性水素化合物からなる鎖延長剤としては、低分子量ジアミン、及び低分子量ジオールからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。尚、鎖伸長剤としては、エタノールアミンのように、水酸基とアミノ基の両方を分子中に有するものであってもよい。溶融紡糸に適した熱可塑性ポリウレタンを得る観点から、活性水素化合物としては、低分子量ジオールであることが好ましい。
【0019】
活性水素化合物からなる鎖伸長剤としての低分子量ジアミンとしては、以下に限定されないが、例えば、ヒドラジン、エチレンジアミン、1,2-プロパンジアミン、1,3-プロパンジアミン、2-メチル-1,5-ペンタンジアミン、1,2-ジアミノブタン、1,3-ジアミノブタン、1-アミノ-3,3,5-トリメチル-5-アミノメチルシクロヘキサン、2,2-ジメチル-1,3-ジアミノプロパン、1,3-ジアミノ-2,2-ジメチルブタン、2,4-ジアミノ-1-メチルシクロヘキサン、1,3-ペンタンジアミン、1,3-シクロヘキサンジアミン、ビス(4-アミノフェニル)ホスフィンオキシド、ヘキサメチレンジアミン、1,3-シクロヘキシルジアミン、ヘキサヒドロメタフェニレンジアミン、2-メチルペンタメチレンジアミン、ビス(4-アミノフェニル)ホスフィンオキシド等が挙げられる。
【0020】
活性水素化合物からなる鎖延長剤としての低分子量ジオールとしては、以下に限定されないが、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、ビスヒドロキシエトキシベンゼン、ビスヒドロキシエチレンテレフタレート、1-メチル-1,2-エタンジオール、1,6-ヘキサンジオール等が挙げられる。これら低分子量ジオールは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。弾性繊維の解舒性、回復性を向上させ、おむつ製造工程におけるノズル詰りを抑制する観点から、低分子量ジオールとしては、分子量が60以上120以下のジオールであることが好ましく、1,4-ブタンジオールであることがより好ましい。本実施形態の熱可塑性ポリウレタン弾性繊維において、分子量が60以上120以下のジオールを鎖延長剤とすることによって、ハードセグメントの水素結合が強固となり、解舒性と回復性を向上できる。
【0021】
熱可塑性ポリウレタンは、公知のポリウレタン化反応の技術を用いることができ、ワンショット法、プレポリマー法どちらのプロセスで製造されてもよい。プレポリマー法の場合、窒素パージ下、温水ジャケット、及び攪拌機を有する反応タンクにポリマーポリオールとジイソシアネートを、モル比で好ましくは1.0:1.8~3.0、より好ましくは、1.0:2.0~2.5で添加し、プレポリマー反応を好ましくは40℃以上100℃以下、より好ましくは、50℃以上80℃以下で行い、両末端イソシアネート基プレポリマーを得る。次いで、この両末端イソシアネート基プレポリマーに対し、活性水素化合物をイソシアネート末端基の官能基数に凡そ等しい当量で添加し、鎖延長反応を行う。当量比としては、イソシアネート末端基に対し、0.95以上1.1以下が好ましく、より好ましくは0.99以上1.05以下である。その後、固相重合を行い、所定分子量の熱可塑性ポリウレタンを得ることができる。鎖延長反応と固相重合の方法としては、プレポリマーの入ったバッチ反応容器に活性水素化合物を好ましくは40℃以上100℃以下で、そのまま添加した後、払い出して固相重合を好ましくは60℃以上200℃以下で、より好ましくは70℃以上150℃以下で行い、ペレタイズしチップ状のポリマーを得てもよい。プレポリマーと活性水素化合物とを均一に混合した後、円筒状パイプ形態や二軸押出機を用いて重合ゾーンのシリンダー温度を好ましくは160℃以上240℃以下とし、連続又は半連続的にポリマーを得た後、固相重合を好ましくは60℃以上220℃以下、より好ましくは70℃以上150℃以下で行ってもよい。
【0022】
本実施形態の熱可塑性ポリウレタン弾性繊維の重量平均分子量(Mw)は、GPCによって、ポリスチレン標準にして測定されるとき、好ましくは8万以上80万以下であり、より好ましくは8万以上50万以下であり、更に好ましくは10万以上30万以下である。
【0023】
本実施形態の熱可塑性ポリウレタン弾性繊維の数平均分子量(Mn)は、GPCによって、ポリスチレン標準にして測定されるとき、好ましくは4万以上40万以下あり、より好ましく4万以上25万以下であり、更に好ましくは5万以上15万以下である。
【0024】
本実施形態の熱可塑性ポリウレタン弾性繊維の多分散度(Mw/Mn)が、GPCによって、ポリスチレン標準にして測定されるとき、好ましくは1.8以上3.5以下であり、より好ましくは1.8以上3以下であり、更に好ましくは1.8万以上2.5以下である。
【0025】
本実施形態の熱可塑性ポリウレタン弾性繊維において、マルチフィラメントを構成する単糸径の最大値と最小値の比が1.1以上2.0以下であれば、回復性と解舒性の向上の効果が一層高くなるため好ましい。単糸径の最大値と最小値の比を1.1以上にすることによって、解舒性を向上でき、この効果は単糸径の最大値と最小値の比を1.2以上にすることによって、より効果的になる。このように単糸径の比を1.1以上にすることによって、単糸径を適度にばらつかせることで糸同士の接触面積が小さくなり、解舒性を向上できると考えられる。単糸径の最大値と最小値の比を2.0以下とすることによって、回復性と解舒性を向上でき、この効果は、単糸径の最大値と最小値の比を1.8以下にすることによって、より効果的になる。このように単糸径の比を2.0以下にすることによって、単糸間の物性ばらつきが小さくなるため、回復性と解舒性を向上できる。単糸径の最大値と最小値の比を制御する方法は特に限定されないが、ホール数が異なる2つの紡口から吐出された糸条を引きそろえて熱可塑性ポリウレタン弾性繊維を製造する方法が好適に用いられる。具体的には、押出機内で溶融させた熱可塑性ポリウレタン樹脂を、ホール数が異なる2つの紡口から、それぞれ同一重量となるよう吐出させ、同一繊度でフィラメント数の異なる2本の糸条を形成した後、仮撚り工程で引きそろえて、1本の熱可塑性ポリウレタン弾性繊維を製造する方法がある。より具体的には、例えば、それぞれ310dtexの糸条となる重量で、ホール数が40と20の紡口から熱可塑性ポリウレタン樹脂を吐出して2本の糸条を形成して、仮撚り工程で引きそろえた場合、熱可塑性ポリウレタン弾性繊維は全体として620dtexでフィラメント数が60となるが、ホール数が20個の紡口由来の単糸はホール数40由来の単糸より、単糸径が約1.5倍となるため、単糸径の最大値と最小値の比を約1.5とすることができる。また、単糸径の最大値と最小値の比を制御する別の方法として、ダイの温度、冷風チャンバーの冷風長、冷風風速、冷風温度を調整して、紡糸の際に糸を適度に揺らす方法や、集束位置、紡糸速度を調整して、紡糸の際の繊維の温度プロファイルを緻密にコントロールする方法、巻取り時のゴデローラーの速度を調整して紡糸筒内における弾性繊維の張力を制御する方法も好適に用いられる。
【0026】
本実施形態の熱可塑性ポリウレタン弾性繊維において、回復性と解舒性を向上させる観点から、単糸繊度が5dtex以上40dtex以下であることが好ましく、より好ましくは5dtex以上20dtex以下であり、更に好ましくは8dtex以上20dtex以下である。単糸繊度を5dtex以上40dtex以下にすることによって、紡糸の際に単糸に均一に張力がかけやすくなるため、単糸間の物性ばらつきが小さくなり、回復性と解舒性を向上できる。この効果は単糸繊度を8dtex以上20dtex以下にすることによって、より効果的になる。
【0027】
本実施形態の熱可塑性ポリウレタン弾性繊維の繊度とフィラメント数は、ギャザーや衛生材料に適した物性の熱可塑性ポリウレタン弾性繊維が得られる限り特に制限はない。繊度は100dtex以上2000dtex以下であることが好ましく、より好ましくは300dtex以上1500dtex以下である。また、フィラメント数は10以上120以下であることが好ましい。
【0028】
本実施形態において、熱可塑性ポリウレタン弾性繊維のフローテスターによる流出開始温度が150℃以上、又は180℃以上であることが好ましく、また、220℃以下、200℃以下、又は180℃以下であることが好ましい。流出開始温度を150℃以上とすることによって、熱可塑性ポリウレタン弾性繊維の粘着性を抑制でき、加工時に糸切れが発生しない十分な解舒性が得られる。流出開始温度を220℃以下とすることによって、回復性と解舒性を向上することができる。この理由については未だ明らかではないが、発明者は以下のように推定している。熱可塑性ポリウレタン弾性繊維の流出開始温度を220℃以下とすることによって、ハードセグメントとソフトセグメントの運動性が上がり、ハードドメインとソフトドメインが相溶しやすくなることで、ハードドメインとソフトドメインが糸中に小さく微分散して、高い回復性と解舒性が発揮される。流出開示温度を150℃以上220℃以上にする熱可塑性ポリウレタン弾性繊維の製造方法は特に限定されないが、例えば、ポリウレタンポリマーの重量平均分子量を一定範囲にする方法、ポリマー中のハードセグメント含率を調整する方法などがある。ポリウレタンポリマーの数平均分子量を一定範囲にする方法は、例えば、プレポリマー法において、両末端イソシアネート基プレポリマーのイソシアネート末端基の官能基数に対して、活性水素化合物を添加する当量比を調整することで制御できる。一般的には、イソシアネート末端基に対し、当量比を1に近づけると数平均分子量を大きくできる。
【0029】
本実施形態の熱可塑性ポリウレタン弾性繊維において、回復性と解舒性を向上させ、ノズル詰りを抑制する観点から、80℃における100%伸長応力に対する、20℃における100%伸長応力の比(以下、「伸長応力の比」ともいう。)が1.30以上3.00以下であることが好ましく、より好ましくは1.30以上2.70以下であり、最も好ましくは1.50以上2.50以下である。伸長応力の比を1.30以上3.00以下にすることによって、解舒性と解舒性が向上し、ノズル詰りが抑制できる理由については未だ明らかではないが、発明者は以下のように推定している。伸長応力の比を1.30以上にすることによって、糸が解除される室温状態における物性が低くなりすぎないため、適度な張力で糸が解舒されて解舒性を向上できる。また、伸長応力の比を1.30以上にすることによって、ホットメルト接着剤を塗布される高温状態での物性を低下させることができ、ノズルと糸の摩擦抵抗が小さくなり、糸の帯電量が減るため、ノズル詰りの原因となる紙粉が糸に付着しにくくなる。また、伸長応力の比を3.00以下にすることで、伸長過程における糸の化学構造の変化を小さくすることができ、回復性を向上できる。特に、伸長応力の比が1.50以上かつ前記特定化合物の含有量が0.05ppm以上5ppm以下の時に、ノズル詰まりが著しく抑制される。伸長応力の比が1.30以上3.00以下である熱可塑性ポリウレタン弾性繊維の製造方法は特に限定されないが、溶融紡糸の工程における冷却と加熱のプロファイルを制御することによって、熱可塑性ポリウレタン弾性繊維のハードドメインの結晶構造を制御する手法が挙げられる。例えば、紡口直下に設置された冷却チャンバーによって冷風をあてて口金から吐出された糸条を冷却した後、加熱筒を用いて糸条を再度温め、ゴデットロールを経由して巻き取る方法が挙げられる。
【0030】
本実施形態の熱可塑性ポリウレタン弾性繊維において、解舒性と回復性を向上させる観点から、イソシアネート基が反応してウレタン結合が架橋されたアロファネート結合を実質的に有しないことが好ましい。ここで「アロファネート結合を実質的に有しないこと」とは、後述の「アロファネート結合を含む架橋の有無の判定方法」によって、「アロファネート結合を含む架橋を実質的に有しない」と判定されることをいう。アロファネート結合を含む架橋を実質的に有しないことで、熱安定性が低いアロファネート結合が分解して生成したイソシアネート基により単糸間のウレタン基が架橋して解舒性が悪化することを防ぐ効果がある。また、アロファネート結合を含む架橋を実質的に有しないことで熱安定性が低いアロファネート結合が分解することを防止でき、回復性が悪化することを防ぐ効果があり。尚、イソシアネート基が反応して形成される架橋として、アロファネート結合の他に、イソシアネート基がウレア結合と反応して形成されるビュレット結合も例示されるが、本実施形態のポリウレタン弾性繊維はウレア結合の量が少ないため、形成可能なビュレット結合の量も極めて少なく、ビュレット結合による影響は無視してもよい。アロファネート結合を含む架橋を実質的に有しない熱可塑性ポリウレタン弾性繊維の製造方法は特に限定されないが、例えば、ポリマーポリオールと活性水素化合物からなる鎖延長剤の合計モル数が、イソシアネートのモル数以上となるように制御して重合した熱可塑性ポリウレタンから熱可塑性ポリウレタン弾性繊維を製造する方法が好適に用いられる。
【0031】
本実施形態の熱可塑性ポリウレタン弾性繊維は、本発明の所望の効果を失わない程度であれば、熱可塑性ポリウレタン以外のポリマーや、添加剤、例えば、酸化防止剤、耐光剤、紫外線吸収剤、ガス変色防止剤、染料、活性剤、艶消剤、滑剤等を含有するものであってもよい。
【0032】
本実施形態において、解舒性、工程性等の観点から、熱可塑性ポリウレタン弾性繊維に油剤等の処理剤を塗布してもよい。処理剤としては、以下に限定されないが、例えば、ジメチルシリコーンなどのシリコーン系オイル、鉱物油系オイル、及びこれらの組み合わせが挙げられる。処理剤の塗布方法は、特に限定されず、例えば、オイリングローラー等により塗布する方法が挙げられる。
【0033】
[熱可塑性ポリウレタン弾性繊維の製造方法]
紡糸の方式については、所望の物性が得られる限り、特に制限されるものではないが、溶融紡糸によって製造されることが好ましい。溶融紡糸の具体的な方法としては、例えば、熱可塑性ポリウレタン樹脂のチップを押出機に投入し、加熱され、溶融紡糸する方法の他に、熱可塑性ポリウレタン樹脂のチップを溶融した後、ポリイソシアネート化合物を混合して紡糸する方法、両末端イソシアネート基プレポリマーに対し、両末端イソシアネート基プレポリマーと活性水素化合物との反応物を添加し、チップ化を経由せず連続的に紡糸する方法が挙げられる。
【0034】
押出機に投入された熱可塑性ポリウレタンは、計量ポンプによって、計量され、紡糸ヘッドに導入される。必要に応じて、紡糸ヘッド内で金網やガラスビーズ等を用いたろ過により、異物を除去した後、口金から、吐出され、冷風チャンバーで空冷され、処理剤が付与された後、ゴデットロールを経由して巻き取られる。
【0035】
紡糸工程では、ダイの温度、冷風風速、冷風温度、加熱筒温度、集束位置、紡糸速度を調整しており、繊維の温度プロファイルと紡糸張力を緻密にコントロールしている。ダイの温度は180℃~220℃が好ましく、より好ましくは200℃~210℃である。冷風は紡口直下から糸の走行方向に対して垂直にあてる方法などの一般的な溶融紡糸の冷却方法を用い、冷風風速は0.2m/s~2.0m/sが好ましく、より好ましくは0.5m/s~1.2m/s、冷風温度は5℃~20℃が好ましく、より好ましくは7℃~15℃である。マルチフィラメントを集束させる方法としては、口金からゴデットロールの間に仮撚り機を設置し、撚りの強弱により下部から撚りを伝播させ、フィラメント相互を集束させ、その集束点の高さをコントロールする手法が挙げられる。仮撚りの方法は一般的な方法を選択でき、エアノズルによる空気仮撚りや、回転するリングに接触させるリング仮撚り機などを用いることができる。
【0036】
本実施形態の熱可塑性ポリウレタン弾性繊維の製造方法において、前記特定化合物を0.05ppm以上100ppm以下で含有させる方法は、特に限定されないが、例えば、予め所定量の前記特定化合物を含有した熱可塑性ポリウレタン樹脂を溶融紡糸する方法や、押出機の中に所定量の前記特定化合物を添加する方法、巻き取りの際に前記特定化合物を含んだ処理剤を糸条に付与する方法などが挙げられる。前記特定化合物の含有量の制御のしやすさの観点からは、前記特定化合物を含有した熱可塑性ポリウレタン樹脂を溶融紡糸する方法が好ましく、この場合、前記特定化合物を0.05ppm以上100ppm以下で含有した熱可塑性ポリウレタン弾性樹脂を用いることが特に好ましい。
【0037】
[ギャザー、衛生材料]
本実施形態の熱可塑性ポリウレタン弾性繊維を含むギャザー、及び衛生材料も、本発明の一態様である。衛生材料の具体例としては、使い捨て紙おむつや生理用品に代表される吸収性物品や、マスク、包帯等が挙げられる。紙おむつにおいては、ウエスト部や脚回り部に、不織布にホットメルトを介して弾性繊維が接着したギャザーが用いられるが、本実施形態のギャザーは、こうした部位に好適に用いられる。本実施形態の熱可塑性ポリウレタン弾性繊維は、解舒性が良好であるため、加工工程において高い収率でギャザー及び衛生材料を製造することができる。また、本実施形態の熱可塑性ポリウレタン弾性繊維は、回復性が高いため、着脱しやすく、フィット感が良好でずれ落ち難いギャザー及び衛生材料を製造することができる。
【実施例】
【0038】
以下の実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明の技術的範囲は、以下実施例に限定されるものではない。実施例及び比較例で使用した評価方法は以下の通りのものであった。
【0039】
(1)GC測定(糸中の特定化合物の含有量の測定)
熱可塑性ポリウレタン弾性繊維を0.2g精秤し、10gのアセトンに浸漬し、5時間かけて抽出して分析する。特定化合物の濃度は、GCを用いて別途作製した該特定化合物の検量線の面積と比較することによって重量%を算出できる。
GC装置:Agilent Technologies 7890A
注入口温度:320℃
カラム:DB-1MS(30m×0.25mmφ)、液相厚0.25μm
カラム温度:40℃(保持時間5分)、20℃/分昇温、320℃(11分保持)
MS装置:Agilent Technologies 5975C MSD
イオン源温度:230℃
イオン化方法:電子イオン化法
尚、採取可能な熱可塑性ポリウレタン弾性繊維の量が0.2gに満たない場合は、熱可塑性ポリウレタン弾性繊維の濃度が上記試験と同じになるようにアセトンの量を調整してもよい。
【0040】
(2)NMR測定(低分子量ジオールの定性)
-0.1MPaの真空下で80℃5時間乾燥した熱可塑性ポリウレタン弾性繊維を所定量測り取って下記条件でNMRを測定し低分子量ジオールを定性(種類と分子量を特定)した。
[NMR測定条件]
測定装置:ブルカージャパン社製 AVANCE NEO600
測定核:1H
共鳴周波数:600MHz
積算回数:256回
測定温度:室温
溶媒:重水素化ジメチルホルムアミド
測定濃度:0.5重量%
化学シフト基準:ジメチルホルムアミド(8.0233ppm)
【0041】
(3)単糸径の最大値と最小値の比の測定
熱可塑性ポリウレタン弾性繊維を1mサンプリングし、任意に選択された5箇所の断面において全ての単糸の径を測定し、その最大値と最小値の比を単糸径の最大値と最小値の比とした。各単糸の径は日本電子株式会社製電子顕微鏡JSM-6510を使用して熱可塑性ポリウレタン弾性繊維の断面を観察して測定した。尚、単糸の断面形状が円形でなく、楕円形や亜鈴形などの異形断面である場合、断面を完全に含む最小径の円(以下、「最小包含円」ともいう。)を描き、最小包含円の径を単糸径とした。
【0042】
(4)単糸繊度の測定
熱可塑性ポリウレタン弾性繊維の単糸繊度は、以下の手順で測定及び計算した。熱可塑性ポリウレタン弾性繊維巻糸体から熱可塑性ポリウレタン弾性繊維を弛緩状態の長さ(以下、「リラックス長」ともいう)で0.5m解舒してサンプルとし、そのサンプル重量(g)を測定した。以下の計算式から、熱可塑性ポリウレタン弾性繊維の弛緩状態における繊度(リラックス繊度A(dtex))を計算した。測定は4回行い、その平均値をとった。尚、「弛緩状態」とは、糸をチーズから解舒した後、無荷重で2時間以上放置した状態のことをいう。
リラックス繊度A(dtex)=サンプル重量(g)×10000/リラックス長(m)
単糸の数Bを、日本電子株式会社製電子顕微鏡JSM-6510を使用して熱可塑性ポリウレタン弾性繊維の断面を観察して測定した。
・以下の計算式:
単糸繊度(dtex)=A/B
から、熱可塑性ポリウレタン弾性繊維の単糸繊度(dtex)を計算した。
【0043】
(5)熱可塑性ポリウレタン弾性繊維の流出開始温度測定
熱可塑性ポリウレタン弾性繊維の流出開始温度は、フローテスターCFT-500D型((株)島津製作所製)を使用して測定する。熱可塑性ポリウレタン弾性繊維は、油剤などの処理剤を除去する等の事前処理を行わず、一回の測定に1.5gサンプリングして、流出開始温度を測定する。ダイ(ノズル)は直径0.5mm、厚み1.0mmのものを使用し、49Nの押出荷重を加え、初期設定温度120℃で予熱時間240秒後、3℃/分の速度で250℃まで等速昇温した時のストローク長(mm)と温度の曲線を求める。温度上昇に伴い、トナー内のポリマーが加熱され、ダイからポリマーが流出し始める。この時の温度を流出開始温度とする。
【0044】
(6)熱可塑性ポリウレタン弾性繊維の回復性の測定
引張試験機(島津製作所製EZ-SX AUTOGRAPH)により20℃、65%RH雰囲気化で、熱可塑性ポリウレタン弾性繊維を初期長5cmで引張試験機にセットし、1000%/分の速度で伸度200%までの伸長・回復を3回繰り返した時の、3回目の伸長時の伸度90%における応力R(cN)と、3回目の回復時の伸度90%における応力R’(cN)を測定する。
・以下の計算式:
回復性(%)=(R’/R)×100
から、熱可塑性ポリウレタン弾性繊維の回復性(%)を計算した。
【0045】
(7)アロファネート結合を含む架橋の有無の判定方法
下記DMAc溶解試験で溶解し、かつ、下記NMR測定でアロファネート結合が確認できないポリウレタン弾性繊維を、本明細書中の用語「アロファネート結合を含む架橋を実質的に有しない」ものと判定した。下記DMAc溶解試験で溶解しない、又は、下記DMAc溶解試験で溶解するが下記NMR測定でアロファネート結合が確認できた、ポリウレタン弾性繊維を、「アロファネート結合を含む架橋を有するもの」と判定した。
<DMAc溶解試験>
ポリウレタン弾性繊維を0.2g精秤し、10gのDMAcに浸漬し、20℃で48時間攪拌をする。攪拌後、径1mm以上の塊状ポリマーが目視で確認できない場合、DMAcに溶解したと判定した。
<NMR測定(アロファネート結合の定性)>
-0.1MPaの真空下で80℃5時間乾燥したポリウレタン弾性繊維と内部標準のジメチルスルホキシドを所定量測り取って下記条件でNMRを測定した。この測定によって、ウレタン結合に対するアロファネート結合の比率を確認した。前記ウレタン結合に対するアロファネート結合の比率は、それぞれの水素の積分値を比較して算出でき、この比率が0.05%未満である場合に、アロファネート基が含まれていないと定義する。一般的に、アロファネート結合の水素シグナルは10.5~11.0ppmに観測されることが多いが、この限りではない。
[NMR測定条件]
測定装置:JEOL社製 ECS400
測定核:1H
共鳴周波数:400MHz
積算回数:256回
測定温度:室温
溶媒:重水素化ジメチルホルムアミド
測定濃度:1.5重量%
化学シフト基準:ジメチルホルムアミド(8.0233ppm)
【0046】
(8)伸長応力の比の測定方法
引張試験機(オリエンテック(株)製RTG-1210型テンシロン)により、恒温恒湿試験装置を用いて、それぞれ20℃65%RH雰囲気下および80℃雰囲気下で、弾性繊維をたわみがなく初期長5cm、初期荷重0cNとなるように引張試験機にセットし、500%/分の伸長速度で伸度200%まで伸長させ、伸度100%の応力(cN)を測定する。ここで、20℃雰囲気下の伸度100%の応力をR、80℃雰囲気下の伸度100%の応力をR’とし、以下の計算式:
伸長応力の比=R’/R
から、弾性繊維の伸長応力の比を計算した。尚、20℃及び80℃の引張試験は、それぞれ別のサンプルを用いて行う。
【0047】
(9)ギャザーの製造例
熱可塑性ポリウレタン弾性繊維を7mmの間隔で平行に4本並べ、元の長さに対して2.5倍になるように伸長し、伸長させた熱可塑性ポリウレタン弾性繊維に、伸長された1本の熱可塑性ポリウレタン弾性繊維あたり0.04g/mの付着量となるよう、150℃で溶融させたホットメルト接着剤(ヘンケルジャパン株式会社製765E)をVスリットにて連続的に塗工しながら、該ホットメルト接着剤が塗工された熱可塑性ポリウレタン弾性繊維を幅30cm、目付17g/m2の不織布(旭化成株式会社製エルタスガード)2枚で連続的に挟み込み、その上から外径16cm幅40cmの1組のローラーにて、一方のローラーを0.5MPaのエア圧を供給したエアシリンダー(SMC株式会社製CQ2WB100-50DZ)にて押し込みながら連続的に圧着し、ギャザーを作製した。
【0048】
(10)ギャザーの着用感
(9)で作製したギャザーを無伸長状態で1日放置し、弾性繊維の応力を充分緩和させた。その後、緩和させた状態のギャザーから長さ42cmの輪を作製した。この輪をウエスト長75cm~80cmの被験者10人がウエスト部位に着用し、締め付けが程度と判断した人数を点数とした。
【0049】
(11)熱可塑性ポリウレタン弾性繊維の解舒性の評価方法
紙管からの巻厚が1cmになるまで剥ぎ取り、弾性繊維の巻糸体を、
図1に示す装置にかけ、弾性繊維送り出しロール2を、速度50m/分、弾性繊維を3回巻きつけたプレドラフトロール3を、速度80m/分、巻き取りロール4を、速度85m/分の条件で走行させた。観察部位5での、弾性繊維の挙動を3分間目視観察し、以下の評価基準で、糸揺れを評価した。本評価において、糸揺れ幅が小さいほど、糸の使用時の摩擦抵抗が小さく糸切れ等が起こりにくい。
(評価基準)
10:糸揺れ幅が0mm以上1mm未満である。
9:糸揺れ幅が1mm以上2mm未満である。
8:糸揺れ幅が2mm以上3mm未満である。
7:糸揺れ幅が3mm以上4mm未満である。
6:糸揺れ幅が4mm以上5mm未満である。
5:糸揺れ幅が5mm以上6mm未満である。
4:糸揺れ幅が6mm以上7mm未満である。
3:糸揺れ幅が7mm以上8mm未満である。
2:糸揺れ幅が8mm以上9mm未満である。
1:糸切れ幅が9mm以上であるか又は糸切れがある。
尚、3分間の目視観察において、糸揺れ幅が上記評価基準の2基準の間を行き来する場合は、例えば「3~4」のように幅のある評価結果とした。
【0050】
(12)ノズルの詰りにくさの評価方法
10本のポリウレタン弾性繊維を7mmの間隔をあけて平行に並べ、元の長さの3倍の長さになるように伸長したこと以外は、(9)と同様の方法でギャザーを10時間製造し、表面に汚れが付着していなかったノズルの本数を点数とした。
【0051】
[実施例1]
数平均分子量1800のポリテトラメチレンエーテルジオール2400gと、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート750.75gとを、乾燥窒素雰囲気下、60℃で3時間、攪拌下で反応させて、末端イソシアネートでキャップされたポリウレタンプレポリマーを得た。このポリウレタンプレポリマーに、1,4-ブタンジオール150.95gを添加して、15分撹拌し、粘度2000ポイズ(30℃)のポリウレタンを得た。
その後、テフロン(登録商標)トレイに払い出し、このポリウレタンをトレイに入れたまま、110℃の熱風オーブン中で19時間アニーリングして熱可塑性ポリウレタン樹脂を得た。
【0052】
こうして得られた熱可塑性ポリウレタン樹脂を、ホーライ社製粉砕機UG-280型にて、3mm程度の粉末に粉砕した。粉砕したチップを除湿乾燥機で110℃の温度条件下で水分率100ppmまで乾燥した後、熱可塑性ポリウレタン弾性繊維のDMAcの含有量が1ppmとなるように、ホッパーに熱可塑性ポリウレタン樹脂粉末とDMAcを投入し、押出機内で溶融させた。ヘッドに設置したギアポンプにより計量、加圧し、フィルターでろ過後、ダイの温度210℃で、径0.23mm、60ホールのノズルから620dtexとなる吐出量で、吐出させた。その後、単糸径の最大値と最小値の比を調整するために、適宜、冷風長と冷風風速を調節した冷風チャンバーから冷風を吹き出し、繊維に垂直にあてることで、糸を適度に揺らして溶融紡糸した。その後、冷却チャンバ―の直下に設置した、同心円で長さ50cm、同心円の中心温度が130℃である加熱筒を通過させ、リング式仮撚り機を用いて、マルチフィラメントに撚りを伝播させて、ポリジメチルシロキサンと鉱物油を主成分とする処理剤を付与しながら、紙製の紙管に巻き取り、620dtex/60フィラメントの熱可塑性ポリウレタン弾性繊維の巻糸体を得た。この熱可塑性ポリウレタン弾性繊維のDMAcの含有量は1ppm、単糸径の最大値と最小値の比は1.5、流出開始温度は160℃であった。
【0053】
[実施例2~6]
ホッパーに投入するDMAc量を増減させた以外は、実施例1と同様の方法で620dtex/60フィラメントの熱可塑性ポリウレタン弾性繊維を得た。この熱可塑性ポリウレタン弾性繊維のDMAcの含有量は0.05ppmから100ppm、単糸径の最大値と最小値の比は1.5、流出開始温度は159~161℃であった。
【0054】
[実施例7~11]
熱可塑性ポリウレタン樹脂を重合するために使用した低分子量ジオールを、1,4-ブタンジオールから、等モル量の、エチレングリコール(実施例7)、1,3-プロパンジオール(実施例8)、1,3-ブタンジオール(実施例9)、1,6-ヘキサンジオール(実施例10)、1,8-オクタンジオール(実施例11)に変えて重合した熱可塑性ポリウレタン樹脂を使用した以外は、実施例1と同様の方法で620dtex/60フィラメントの熱可塑性ポリウレタン弾性繊維を得た。
【0055】
[実施例12~16]
冷風チャンバーからの冷風長と冷風風速を増減させて冷風を吹き出した以外は、実施例1と同様の方法で620dtex/60フィラメントの熱可塑性ポリウレタン弾性繊維を得た。
【0056】
[実施例17~24]
ノズルのホール数と吐出量を増減させて溶融紡糸をした以外は、実施例1と同様の方法で310~930dtex、14~120フィラメントの熱可塑性ポリウレタン弾性繊維を得た。
【0057】
[実施例25~29]
熱可塑性ポリウレタン樹脂を重合するために使用した1,4-ブタンジオールの使用量を増減させて重合した熱可塑性ポリウレタン樹脂を使用した以外は、実施例1と同様の方法で620dtex/60フィラメントの熱可塑性ポリウレタン弾性繊維を得た。
【0058】
[実施例30~32]
ホッパーに投入する化合物を、DMAcから、DMF(実施例30)、DMSO(実施例31)、NMP(実施例32)に変更した以外は、実施例1と同様の方法で620dtex/60フィラメントの熱可塑性ポリウレタン弾性繊維を得た。
【0059】
[実施例33~38]
加熱筒の同心円の中心温度を変更した以外は、実施例1と同様の方法で620dtex/60フィラメントの熱可塑性ポリウレタン弾性繊維を得た。
【0060】
[実施例39]
熱可塑性ポリウレタン樹脂を重合するために使用した4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートを増量して重合した熱可塑性ポリウレタン樹脂を使用した以外は、実施例1と同様の方法で620dtex/60フィラメントの熱可塑性ポリウレタン弾性繊維を得た。この熱可塑性ポリウレタン弾性繊維はNMR測定でアロファネート結合が確認できた。
【0061】
[比較例1]
ホッパーにDMAcを投入しなかった以外は、実施例1と同様の方法で620dtex/60フィラメントの熱可塑性ポリウレタン弾性繊維を得た。
【0062】
[比較例2]
熱可塑性ポリウレタン弾性繊維のDMAcの含有量が200ppmとなるように、ホッパーに投入するDMAc量を調節した以外は、実施例1と同様の方法で620dtex/60フィラメントの熱可塑性ポリウレタン弾性繊維を得た。
以上の各実施例及び比較例における、製造条件、得られた熱可塑性ポリウレタン弾性繊維およびギャザーの各特性の測定結果等を、以下の表1~3に示す。
【0063】
【0064】
【0065】
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明に係る熱可塑性ポリウレタン弾性繊維は、インナー、ストッキング、コンプレッションウェア、及びおむつなどの製造に好適に利用可能であり、特に、ギャザーの製造工程において、解舒性が良く、糸切れの発生を低減することができ、フィット性が高いギャザーを製造することができる。
【符号の説明】
【0067】
1 弾性繊維の巻糸体
2 送り出しロール
3 プレドラフトロール
4 巻き取りロール
5 観察部位
6 セラミックフックガイド
7 ベアリングフリーローラー