(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-06
(45)【発行日】2024-11-14
(54)【発明の名称】ステアリング装置
(51)【国際特許分類】
B62D 6/00 20060101AFI20241107BHJP
B62D 5/065 20060101ALI20241107BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20241107BHJP
B62D 119/00 20060101ALN20241107BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D5/065 B
B62D5/04
B62D119:00
(21)【出願番号】P 2023539686
(86)(22)【出願日】2022-06-16
(86)【国際出願番号】 JP2022024113
(87)【国際公開番号】W WO2023013258
(87)【国際公開日】2023-02-09
【審査請求日】2023-11-07
(31)【優先権主張番号】P 2021128260
(32)【優先日】2021-08-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】596148478
【氏名又は名称】クノールブレムゼ商用車システムジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100205682
【氏名又は名称】高嶋 一彰
(72)【発明者】
【氏名】吉武 敦
(72)【発明者】
【氏名】望月 大樹
【審査官】飯島 尚郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-209739(JP,A)
【文献】特開2018-158623(JP,A)
【文献】国際公開第2020/170579(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/122783(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00
B62D 5/065
B62D 5/04
B62D 101/00-137/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングホイールからの回転が入力される操舵軸と、
前記操舵軸の回転を転舵輪に伝達する伝達機構と、
前記伝達機構に設けられたピストンおよび該ピストンによって画定された一対の液室を有し、前記転舵輪を操舵させる液圧アシストトルクを付与するパワーシリンダと、
前記操舵軸の回転に応じて作動液を前記一対の液室に選択的に供給するロータリバルブと、
前記操舵軸にモータアシストトルクを付与する電動モータと、
前記操舵軸の回転に応じた操舵トルクを検出するトルクセンサと、
前記操舵トルクと前記モータアシストトルクとを合計したトルクが所定の閾トルクよりも大きいときに前記液室の液圧異常を判断する液圧異常判断部を有し、前記液圧異常判断部が前記液圧異常を判断したときに前記電動モータの前記モータアシストトルクを増加させる制御装置と、
を備え
、
前記制御装置は、前記合計したトルクの絶対値が5Nm以下のときに前記電動モータの前記モータアシストトルクを増加させない、
ステアリング装置。
【請求項2】
ステアリングホイールからの回転が入力される操舵軸と、
前記操舵軸の回転を転舵輪に伝達する伝達機構と、
前記伝達機構に設けられたピストンおよび該ピストンによって画定された一対の液室を有し、前記転舵輪を操舵させる液圧アシストトルクを付与するパワーシリンダと、
前記操舵軸の回転に応じて作動液を前記一対の液室に選択的に供給するロータリバルブと、
前記操舵軸にモータアシストトルクを付与する電動モータと、
前記操舵軸の回転に応じた操舵トルクを検出するトルクセンサと、
前記操舵トルクと前記モータアシストトルクとを合計したトルクが所定の閾トルクよりも大きいときに前記液室の液圧異常を判断する液圧異常判断部を有し、前記液圧異常判断部が前記液圧異常を判断したときに前記電動モータの前記モータアシストトルクを増加させる制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、前記液圧異常判断部が前記液圧異常を判断した後に、エンジン回転数が400rpmよりも大きく、かつ、車速が20km/hよりも大きく、かつ操舵角の絶対値が30度よりも大きく、かつ前記操舵トルクの絶対値が5Nmよりも小さく、かつ前記操舵トルクの符合と前記操舵角の符合とが一致したときに、前記液圧異常の判断を解除する、
ステアリング装置。
【請求項3】
前記所定の閾トルクは8Nmであり、前記液圧異常判断部は、前記合計したトルクが8Nmよりも大きく、かつ前記操舵軸の操舵速度の絶対値が90度/秒よりも小さいときに前記液圧異常を判断する、請求項1
または2に記載のステアリング装置。
【請求項4】
前記液圧異常判断部は、自動運転中に前記液圧異常を判断する、請求項1または2に記載のステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ステアリング装置として、例えば以下の特許文献1に記載されたステアリング装置が知られている。
【0003】
特許文献1に記載のステアリング装置は、ピストンおよび該ピストンによって画定された一対の液室を有し、転舵輪を操舵させる液圧アシストトルクを付与するパワーシリンダと、操舵軸の回転に応じて作動液を一対の液室に選択的に供給するロータリバルブと、操舵軸にモータアシストトルクを付与する電動モータと、を備えている。また、上記ステアリング装置は、電動モータを制御する制御装置を有しており、該制御装置は、操舵トルクに基づいて液室の液圧異常を判断する異常判断部を備えている。
【0004】
特許文献1に記載のステアリング装置では、操舵トルクに基づいて液室の液圧異常を判断するため、操舵トルクがゼロとなる自動運転時には液室の液圧異常を判断することができない虞があった。
【0005】
本発明は、従来の実情に鑑みて案出されたもので、手動運転時および自動運転時の双方において液室の液圧異常の有無を判断することが可能なステアリング装置を提供することを目的としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【0007】
本発明では、制御装置が、操舵トルクとモータアシストトルクとを合計したトルクが所定の閾トルクよりも大きいときに液室の液圧異常を判断する液圧異常判断部を有し、液圧異常判断部が液圧異常を判断したときに電動モータのモータアシストトルクを増加させる。
【0008】
本発明によれば、手動運転時および自動運転時の双方において液室の液圧異常を判断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1の実施形態のステアリング装置の縦断面図である。
【
図2】
図1のステアリング装置の部分的な拡大断面図である。
【
図4】手動運転用付加トルク演算部およびADAS制御用付加トルク演算部に用いられるマップである。
【
図5】液圧異常判断部における液圧異常モードの開始手順を示すフローチャートである。
【
図6】液圧異常判断部における液圧異常モードの解除手順を示すフローチャートである。
【
図7】第5の実施形態のステアリング装置の斜視図である。
【
図8】第5の実施形態のステアリング装置の部分的な縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に適用されるステアリング装置の実施形態を図面に基づき説明する。
【0011】
[第1の実施形態]
(ステアリング装置の構成)
図1は、第1の実施形態のステアリング装置の縦断面図、
図2は、
図1のステアリング装置の電動モータ2を含む部分の部分的な拡大断面図である。
図1では、説明の便宜上、操舵軸7の回転軸Z方向のうち図示せぬステアリングホイールに連係する側(図中の上側)を「一端」とし、ピストン15に連係する側(図中の下側)を「他端」として説明する。
【0012】
ステアリング装置は、大型車両等に用いられるインテグラル型のステアリング装置であり、ステアリング装置本体1、電動モータ2およびEPSコントローラ(ECU)3から主に構成されている。
【0013】
ステアリング装置本体1は、操舵機構4と、セクタシャフト5と、パワーシリンダ6と、を備えている。
【0014】
操舵機構4は、図示せぬステアリングホイールからの回転力の入力に供するものであり、操舵軸7を有している。操舵軸7は、一部がハウジング8内に収容されており、入力軸9、中間軸10および出力軸11を備えている。入力軸9は、一端側がステアリングホイールに連係されており、運転者の操舵トルクの入力に供する。入力軸9は、他端部が中間軸10の一端側に形成された開口凹部10a内に挿入されている。中間軸10は、一端側が第1トーションバー12を介して入力軸9と相対回転可能に連結されるとともに、外周に連結される電動モータ2のモータアシストトルクの入力に供する。中間軸10は、出力軸11の一端側拡径部に形成された開口凹部11a内に挿入されている。出力軸11は、一端側が第2トーションバー13を介して中間軸10と相対回転可能に連結され、この中間軸10により入力される操舵トルクを、変換機構であるボールねじ機構14を介してピストン15に出力する。
【0015】
ボールねじ機構14は、他端側の外周部に螺旋溝であるボール溝14aが形成されたねじ軸としての上記出力軸11と、該出力軸11の外周側に設けられて内周部にボール溝14aに対応する螺旋溝であるボール溝14bが形成されたナットとしての上記ピストン15と、ピストン15と出力軸11との間に設けられた複数のボール14cと、から構成されている。
【0016】
中間軸10と出力軸11と間には、コントロールバルブとしての周知のロータリバルブ16が構成されている。ロータリバルブ16は、中間軸10および出力軸11の相対回転角により導き出される第2トーションバー13の捩れ量および捩れの方向に応じて車両に搭載されたポンプ装置17により供給される作動液を後述する第1、第2液室(圧力室)P1,P2へと選択的に供給する。
【0017】
セクタシャフト5は、セクタギヤ5aを有し、セクタギヤ5aが操舵軸7の他端側外周に設けられたピストン15のラック歯15aと噛み合うことにより、ピストン15の軸方向移動に伴って回動する。セクタシャフト5は、図示せぬピットマンアームを介して転舵輪に連係され、転舵に供する。
【0018】
このように、上記ボールねじ機構14、セクタシャフト5およびピットマンアームは、操舵軸7に入力された回転力(操舵力)を転舵輪の転舵力へと変換させる伝達機構を構成する。なお、ボールねじ機構14等を用いずにステアリング装置が構成される場合には、上記伝達機構として、例えばラック&ピニオン機構を構成するラックバー、ピニオン軸等を用いることができる。
【0019】
パワーシリンダ6は、ハウジング8内において摺動可能に収容された筒状のピストン15が一対の液室である第1、第2液室P1,P2を画定することによって構成されており、操舵トルクを補助する液圧アシストトルクを生成する油圧アクチュエータである。
【0020】
電動モータ(中空モータ)2は、入力軸9に回転トルクを付与する3相交流式のブラシレスモータとして構成されている。電動モータ2は、モータロータ18aおよびモータステータ18bから構成されるモータ要素18と、該モータ要素18を収容するモータハウジング19と、を備えている。
【0021】
モータロータ18aは、入力軸9の外周部に筒状の結合部材20を介して一体回転可能に取り付けられている。モータステータ18bは、モータロータ18aの外周側に所定の隙間を介して配置されており、かつハウジング8の外部に設けられたEPSコントローラ3に電気的に接続されている。
【0022】
結合部材20は、該結合部材20の内周面に形成された溝部20aに、中間軸10の外周部に突出形成されたキー21を嵌め込んでなる周知のキー接続を介して中間軸10に固定されている。上記キー接続により、結合部材20は、中間軸10と一体に回転し、第1軸受B1と第2軸受B2とによって支持されている。
【0023】
モータハウジング19は、金属材料、例えばアルミニウム合金から形成されている。モータハウジング19は、モータ要素18や後述する第1、第2レゾルバ22,23を収容する有底筒状のハウジング本体部24と、電動モータ2側からハウジング本体部24の開口部を閉塞する第1閉塞部25と、電動モータ2と反対側から拡張部24aの開口部を閉塞する第2閉塞部26と、を備えている。
【0024】
ハウジング本体部24は、入力軸9や結合部材20を挿入可能に形成された概ね円盤状の底部24bと、該底部24bの外周縁部から操舵軸7の他端側に立ち上がる円筒状の筒部24cと、底部24bの外周縁部から操舵軸7の一端側に立ち上がる円筒状の拡張部24aと、を有している。
【0025】
筒部24cの開口部は、入力軸9や結合部材20を挿入可能に形成された概ね円盤状の第1閉塞部25によって閉塞されている。第1閉塞部25は、固定部材、例えばボルト27を介して、筒部24cの開口端面24dに取付固定されている。第1閉塞部25、底部24b、筒部24cおよび結合部材20によって囲まれた空間は、モータ要素18を収容するモータ収容部28となっている。また、第1閉塞部25は、固定部材、例えばボルト29によってアダプタ部材30に取付固定されている。すなわち、このアダプタ部材30を介して、第1閉塞部25は、ハウジング8に固定されている。
【0026】
さらに、拡張部24aの開口部は、入力軸9や結合部材20を挿入可能に形成された概ね円盤状の第2閉塞部26によって閉塞されている。第2閉塞部26は、固定部材、例えばボルト31を介して、拡張部24aの開口端面24eに取付固定されている。第2閉塞部26、底部24b、拡張部24aおよび入力軸9によって囲まれた空間は、第1トーションバー12に生じた操舵トルクの演算に供するトルクセンサ32を収容するトルクセンサ収容部33となっている。第2閉塞部26と入力軸9との間は、環状のシール部材34によって気密にシールされている。
【0027】
トルクセンサ32は、トルクセンサ収容部33内において結合部材20の外周側に設けられた第1レゾルバ22と、トルクセンサ収容部33内において入力軸9の外周側に設けられた第2レゾルバ23と、によって構成されている。
【0028】
第1レゾルバ22は、結合部材20の一端側の外周に固定された第1レゾルバロータ22aと、該第1レゾルバロータ22aの外周側に設けられ、固定部材、例えばねじ部材35によって底部24bに取付固定された第1レゾルバステータ22bと、を備えている。第1レゾルバステータ22bは、操舵軸7の回転軸Z方向においてセクタシャフト5とオーバーラップする底部24bの厚肉部24fの内周面24gに突き当てられた状態で、ねじ部材35によって底部24bに取付固定されている。第1レゾルバステータ22bは、図示せぬ出力配線を介してEPSコントローラ3に電気的に接続されている。EPSコントローラ3には、第1レゾルバ22によって検出される中間軸10の後述する中間軸回転角θaが入力される。
【0029】
第2レゾルバ23は、第1レゾルバステータ22bよりも一端側の位置で入力軸9の外周に固定された第2レゾルバロータ23aと、該第2レゾルバロータ23aの外周側に設けられ、固定部材、例えばねじ部材36によってスペーサ37を介して厚肉部24fに取付固定された第2レゾルバステータ23bと、を備えている。第2レゾルバステータ23bは、第1レゾルバステータ22bと同様に、図示せぬ出力配線を介してEPSコントローラ3に電気的に接続されている。EPSコントローラ3には、第2レゾルバ23によって検出される入力軸9の後述する入力軸回転角θhが入力される。
【0030】
第1、第2レゾルバ22,23によって構成されるトルクセンサ32は、第2レゾルバ23によって検出される入力軸9の入力軸回転角θhと、第1レゾルバ22によって検出される中間軸10の中間軸回転角θaとの差分に、第1トーションバー12の捩りバネ定数g1を乗ずることにより、操舵トルクを演算する。
【0031】
なお、第1、第2レゾルバ22,23においては、第1、第2レゾルバステータ22b,23bが「第1レゾルバロータ22aの1回転あたりの振幅数Ax<360°/(所定角θx×2)」を満足する正弦波信号および余弦波信号を出力し、各出力信号に基づいてEPSコントローラ3において入力軸9および電動モータ2等の回転角を演算する。
【0032】
第1軸受B1は、底部24bの内周縁部付近から操舵軸7の他端側に突出形成された環状の第1軸受保持部24hの内周面に設けられており、結合部材20の一端側を回転可能に支持している。
【0033】
同様に、第2軸受B2は、第1閉塞部25の内周縁部付近から第1軸受保持部24hと対向するように突出形成された環状の第2軸受保持部24iの内周面に設けられており、結合部材20の他端側を回転可能に支持している。
【0034】
EPSコントローラ3は、図示せぬマイクロコンピュータ等の電子部品を備えて構成された制御装置である。EPSコントローラ3には、トルクセンサ32によって検出された操舵トルクTrと、図示せぬ車速センサによって検出された車速Vと、図示せぬ操舵角センサによって検出された操舵角θrと、エンジン回転数Nと、が入力される。また、EPSコントローラ3は、運転者が自動運転用スイッチをオンにしたときに駐車やレーンキープ等の車両の自動運転(自動操舵)の制御に供するADASコントローラ38に電気的に接続されている。
【0035】
ADASコントローラ38は、図外のレーダー(例えばミリ波や赤外線レーザ)からの検出信号や図外のカメラからの映像等に基づいて車両の周囲状況を把握するとともに、GPS等からの自車位置情報に基づいて自車位置を把握する。そして、ADASコントローラ38は、自動操舵時に、例えば車両のレーンキープを行う際に、上記周囲状況および自車位置に基づいて、所定のレーン内に車両を維持するための目標の操舵角となる操舵角指令であるADAS指令Cを演算する。また、ADASコントローラ38は、運転者が自動運転用スイッチをオンにしたときに自動運転要求信号Xを生成し、CAN通信によりEPSコントローラ3へ送信するようになっている。さらに、ADASコントローラ38は、付加的な情報、例えば、ADASのオン・オフに供するADASスイッチ信号、CAN通信の正確さを判断するメッセージカウンタからの値等を生成し、CAN通信によりEPSコントローラ3へ送信するようになっている。
【0036】
ハウジング8は、一端側が開口し他端側が閉塞されてなる筒状を呈し、第1、第2液室P1,P2を画定する第1ハウジング39と、該第1ハウジング39の一端開口部を閉塞するように設けられ、内部にロータリバルブ16を収容する第2ハウジング40と、から構成されている。第1、第2ハウジング39,40同士は、これらの外周部に適宜設けられる図示せぬ複数の固定手段、例えばボルトによって締結されている。
【0037】
第1ハウジング39の内部には、操舵軸7の回転軸Z方向に沿って形成されたパワーシリンダ本体部39aと、該パワーシリンダ本体部39aと直交するように、かつ、一部がパワーシリンダ本体部39aへと臨むように形成されたシャフト収容部39bと、が設けられている。パワーシリンダ本体部39a内には、出力軸11に連係するピストン15が収容されることで、ピストン15をもって一端側の第1液室P1と他端側の第2液室P2とが画定されている。また、シャフト収容部39b内には、軸方向一端側がピストン15に連係すると共に他端側が図示せぬピットマンアームを介して転舵輪に連係されるセクタシャフト5が収容されている。
【0038】
ピストン15およびセクタシャフト5の各外周部には、相互に噛み合い可能なラック歯15aおよびセクタギヤ5aが設けられている。ラック歯15aおよびセクタギヤ5aが噛み合うことによりピストン15の軸方向移動に伴ってセクタシャフト5が回動し、これにより、ピットマンアームが車体幅方向に引っ張られることで、転舵輪の向きが変更される。なお、この際、シャフト収容部39bには、第1液室P1内の作動液が導かれ、これにより、ラック歯15aとセクタギヤ5aとの間の潤滑が行われる。
【0039】
第2ハウジング40の内周側には、互いに重なり合う中間軸10および出力軸11が挿入される軸挿入孔40aが、一端側から他端側へと回転軸Z方向に沿って段差縮径状に貫通している。そして、一端側の大径部には出力軸11を回転可能に支持する軸受Bnが設けられている。一方、他端側の小径部には、ポンプ装置17と連通する導入ポート41と、導入ポート41により導入された液圧を各液室P1,P2に給排する給排ポート42と、該給排ポート42を介して各液室P1,P2から排出された作動液をリザーバタンク43へ排出する排出ポート44と、が設けられている。なお、給排ポート42は、出力軸11の一端側拡径部に設けられた第1給排通路L1を介して第1液室P1と連通するとともに、第1ハウジング39内部に設けられた第2給排通路L2等を介して第2液室P2と連通している。
【0040】
かかる構成から、ステアリング装置では、運転者がステアリングホイールを操舵すると、ポンプ装置17により圧送された作動液がロータリバルブ16を介して操舵方向に応じた一方側の液室P1,P2に供給されるとともに、他方側の液室P1,P2から供給量に対応する作動液(余剰分)がリザーバタンク43へと排出される。そして、当該液圧によりピストン15が駆動される結果、ピストン15に作用する液圧に基づいた液圧アシストトルクがセクタシャフト5へと付与される。
【0041】
図3は、第1の実施形態の制御ブロック図である。
図4は、手動運転用付加トルク演算部51およびADAS制御用付加トルク演算部53に用いられるマップである。
【0042】
図3の制御ブロック図は、例えばパワーシリンダ6、ロータリバルブ16やポンプ装置17等の故障等に起因する液室P1,P2の液圧異常時に、電動モータ2によりモータアシストトルク指令値(以下、「モータアシストトルクTm」と呼ぶ)を増加するブロック図として構成されている。また、
図3では、例えば、後述の第2加算器49Bの付近に手動運転モードと自動運転モードとを切り換え可能な図示せぬスイッチを介在させることにより、手動運転モードと自動運転モードとの間でモータアシストトルクTmの演算を切り換えるようになっている。
【0043】
EPSコントローラ3は、基本アシストトルク演算部45と、付加的制御演算部46と、総アシストトルク演算部47と、アシストトルクリミット演算部48と、第1加算器49Aと、第2加算器49Bと、液圧異常判断部50と、液圧異常時手動運転用付加トルク演算部(以下、「手動運転用付加トルク演算部」と呼ぶ)51と、ADAS制御トルク演算部52と、液圧異常時ADAS制御用付加トルク演算部(以下、「ADAS制御用付加トルク演算部」と呼ぶ)53と、フェイルセーフトルクリミット演算部54と、を備えている。
【0044】
基本アシストトルク演算部45は、手動運転モードで用いられ、操舵トルクTrおよび車速Vに基づいて、操舵トルクTrおよび車速Vに対する基本アシストトルクTaを示す所定のマップを作成する。基本アシストトルクTaは、例えば0Nm~1Nmであり、総アシストトルク演算部47へ出力される。
【0045】
付加的制御演算部46は、例えば、操舵トルクTrに基づく補償値Mを算出する位相補償用演算部である。この補償値Mは、総アシストトルク演算部47へ出力され、基本アシストトルクTaに加算されることで、操舵トルクTrのトルク変化に対するモータアシスト力の応答性を向上させる。なお、付加的制御演算部46は位相補償用演算部に限定されるものではなく、所定の戻し角制御に供する戻し角制御用演算部等の他の演算部とすることもできる。
【0046】
総アシストトルク演算部47は、基本アシストトルクTaに補償値Mを加算することで加算後モータアシストトルクTbを生成する。加算後モータアシストトルクTbは、アシストトルクリミット演算部48へ出力される。
【0047】
アシストトルクリミット演算部48は、基本アシストトルクTaおよび車速Vに基づいて、±1Nmの範囲で加算後モータアシストトルクTbをリミット処理し、リミット処理後モータアシストトルクTcを生成する。リミット処理後モータアシストトルクTcは、第1加算器49Aを介して第2加算器49Bへ出力される。
【0048】
液圧異常判断部50は、ステアリング装置の通常制御中に、以下の第1の異常判断条件または第2の異常判断条件を満足したときに、液室P1,P2の液圧異常を判断する。ここで、「通常制御中」は、EPSコントローラ3に搭載された周知のステイトマシンによって通常制御が示されている状態を意味している。液圧異常判断部50により液室P1,P2の液圧異常が有ると判断された場合には、液圧異常モードへ移行し、手動運転時には手動運転用付加トルク演算部51において付加トルクTxを演算し、一方、自動運転時にはADAS制御用付加トルク演算部53において付加トルクTxを演算する。
【0049】
第1の異常判断条件は、操舵トルクTrとモータアシストトルクTmの合計トルクTr+Tm(油圧ギアに実際に印加されるトルク)の絶対値|Tr+Tm|が所定の閾トルク、本実施形態では8Nmよりも大きく、かつ操舵速度Vrの絶対値|Vr|が所定の閾操舵速度、本実施形態では90度/秒(deg/s)よりも小さいことである。この閾操舵速度は、液室P1,P2の液圧異常が無い場合に操舵軸7が8Nmで操舵されたときに生じ得る操舵速度、例えば800deg/sよりも非常に小さく設定されている。閾操舵速度は、液圧が不足していることの参考にはなるが、液圧異常の判断に及ぼす影響は非常に小さい。従って、液圧異常の判断は、閾トルクに大いに依存しており、閾操舵速度は、必須の条件ではなく、液圧異常の判断を僅かに補助する程度である。
【0050】
第2の異常判断条件は、エンジン回転数Nが100rpmよりも小さいことである。これは、ポンプ装置17がエンジン回転数Nの増加に応じてポンプ出力を増大させるので、エンジン回転数Nが100rpmよりも小さい状況では、ポンプ出力が、液圧アシストトルクを付与するのに十分なほど増大していないものとして、液室P1,P2の液圧異常が有ると判断したものである。
【0051】
手動運転用付加トルク演算部51は、手動運転モードで用いられ、液圧異常判断部50により液圧異常が有ると判断されたときに、
図4に示す合計トルクTr+Tmの絶対値|Tr+Tm|に対する付加トルクTxのマップに基づいて第2加算器49Bへ付加トルクTxを出力する。付加トルクTxは、液圧異常時の液圧アシストトルクの不足分を補償するのに十分な値に設定されている。
【0052】
図4のマップに示すように、合計トルクTr+Tmの絶対値|Tr+Tm|が0Nから5Nm以下であるときには、付加トルクTxが0Nmであり、絶対値|Tr+Tm|が5Nmよりも大きく、かつ10Nm以下のときには、付加トルクTxは0Nmから2Nmまで直線的に増加し、さらに、絶対値|Tr+Tm|が10Nmよりも大きいときには、付加トルクTxは2Nmのまま横ばいとなっている。
【0053】
手動運転用付加トルク演算部51により取得された付加トルクTxは、第2加算器49Bにおいてリミット処理後モータアシストトルクTcに加算され、これにより、第1付加後モータアシストトルクTdが生成される。
【0054】
ADAS制御トルク演算部52は、自動運転モードで用いられ、ADAS指令Cと、付加的な情報、例えば上述のADASスイッチ信号やメッセージカウンタからの値等とに基づいて、ADAS制御トルクTeを演算する。ADAS制御トルクTeは、第1加算器49AおよびADAS制御用付加トルク演算部53へ出力される。なお、自動運転時には、運転者による操舵が無く、操舵トルクTrがゼロであるため、付加的制御演算部46とアシストトルクリミット演算部48との間では演算は行われておらず、第1加算器49Aには、ADAS制御トルクTeのみが出力されている。第1加算器49AのADAS制御トルクTeは、第2加算器49Bへ出力される。
【0055】
ADAS制御用付加トルク演算部53は、自動運転モードで用いられ、液圧異常判断部50により液室P1,P2の液圧異常が有ると判断されたときに、
図4に示す合計トルクTr+Tmの絶対値|Tr+Tm|に対する付加トルクTxのマップに基づいて付加トルクTxを生成する。この付加トルクTxは、第2加算器49Bへ出力され、第2加算器49BにおいてADAS制御トルクTeに加算され、これにより、第2付加後モータアシストトルクTfが生成される。
【0056】
フェイルセーフトルクリミット演算部54は、所定のリミット処理条件に基づいて、±4.2Nmの範囲で、付加トルクTxが加算された後の付加後モータアシストトルクTd,Tfをリミット処理し、モータアシストトルクTmを生成する。所定のリミット処理条件としては、例えばEPSコントローラ3の温度が過度に高くなる等のEPSコントローラ3のハードウェアの異常があることであり、このような場合には、リミットが絞られるようにリミット処理が実行される。モータアシストトルクTmは、電動モータ2(
図1および
図2参照)へ出力されるとともに、液圧異常判断部50へフィードバックされる。
【0057】
また、液圧異常モードにおいて手動運転用付加トルク演算部51やADAS制御用付加トルク演算部53により付加トルク制御を実行しているときに、以下の第1の解除条件または第2の解除条件が800ms以上継続した場合には、液圧異常モードを解除する。
【0058】
第1の解除条件は、AHPS(電動パワーステアリング)内部故障が検知されていることである。つまり、第1の解除条件は、例えば図示せぬ電流計や電圧計により電流や電圧の状態を監視することで、電動パワーステアリングの電動モータ2に電気系統等の故障が有る状態が検知されていることである。このように第1の解除条件が設定されるのは、電動モータ2が故障している場合には、そもそも電動モータ2のモータアシストトルクTmを増加させることができないからである。
【0059】
第2の解除条件は、エンジン回転数Nが400rpmよりも大きく、かつ、車速Vが20km/hよりも大きく、かつ操舵角θrの絶対値|θr|が30度(deg)よりも大きく、かつ操舵トルクTrの絶対値|Tr|が5Nmよりも小さく、かつ操舵トルクTrの符合と操舵角θrの符合とが一致することである。このように第2の解除条件が設定されるのは、上記条件を満たすときには、エンジン回転数Nが高く、ポンプ装置17が、液圧アシストトルクを付与するのに十分に作動しているので、付加トルク制御を実行しなくてもステアリング装置を稼動することができるからである。
【0060】
図5は、液圧異常判断部50における液圧異常モードの開始手順を示すフローチャートである。
【0061】
まず、ステップS1において、液圧異常モード中であるか否かを判断する。液圧異常モード中である場合には、ステップS7へ移行して継続時間をクリアし、フローを終了する。また、液圧異常モード中でない場合には、ステップS2へ移行する。
【0062】
ステップS2では、周知のステイトマシンによって通常制御中であるか否かを判断する。通常制御中でない場合には、ステップS7へ移行して継続時間をクリアし、フローを終了する。また、通常制御中である場合には、ステップS3へ移行する。
【0063】
ステップS3では、液圧異常判断部50により、第1の異常判断条件または第2の異常判断条件が成立するか否かを判断する。即ち、合計トルクTr+Tmの絶対値|Tr+Tm|が8Nmよりも大きく、かつ操舵速度Vrの絶対値|Vr|が90deg/sよりも小さいことか、またはエンジン回転数Nが100rpmよりも小さいことが成立するか否かを判断する。成立しない場合には、ステップS7へ移行して継続時間をクリアし、フローを終了する。また、成立する場合には、ステップS4へ移行する。
【0064】
ステップS4では、上記成立が継続している継続時間のカウントアップを開始し、ステップS5において、継続時間が100msよりも小さい場合には、ステップS7へ移行して継続時間をクリアし、フローを終了する。また、継続時間が100ms以上である場合には、ステップS6へ移行する。
【0065】
ステップS6では、液圧異常が有るものとして液圧異常モードをオンにし、手動運転用付加トルク演算部51またはADAS制御用付加トルク演算部53において、
図4のマップを用いて付加トルクTxを演算する。
【0066】
図6は、液圧異常判断部50における液圧異常モードの解除手順を示すフローチャートである。
【0067】
まず、ステップS11において、液圧異常モード中であるか否かを判断する。液圧異常モード中でない場合には、ステップS16へ移行して継続時間をクリアし、フローを終了する。また、液圧異常モード中である場合には、ステップS12へ移行する。
【0068】
ステップS12では、液圧異常モードの第1の解除条件または第2の解除条件が成立するか否かを判断する。つまり、AHPS内部故障が検知されているか、またはエンジン回転数Nが400rpmよりも大きく、かつ、車速Vが20km/hよりも大きく、かつ操舵角θrの絶対値|θr|が30度よりも大きく、かつ操舵トルクTrの絶対値|Tr|が5Nmよりも小さく、かつ操舵トルクTrの符合と操舵角θrの符合とが一致するかを判断する。成立しない場合には、ステップS16へ移行して継続時間をクリアし、フローを終了する。また、成立する場合には、ステップS13へ移行する。
【0069】
ステップS13では、上記成立が継続している継続時間のカウントアップを開始し、ステップS14において、継続時間が800msよりも小さい場合には、ステップS16へ移行して継続時間をクリアし、フローを終了する。また、継続時間が800ms以上である場合には、ステップS15へ移行する。
【0070】
ステップS15では、液圧異常が無いものとして液圧異常モードをオフにする。つまり、
図4のマップを用いた付加トルクTxの演算を中止する。
【0071】
[第1の実施形態の効果]
第1の実施形態では、合計トルクTr+Tmの絶対値|Tr+Tm|が8Nmよりも大きいときに液室P1,P2の液圧異常を判断することが可能な液圧異常判断部50を有し、液圧異常判断部50が液圧異常を判断したときに、付加トルクTxを取得して電動モータ2のモータアシストトルクTmが増加される。このため、手動運転時には、付加トルクTxが合計トルクTr+Tmの絶対値|Tr+Tm|に基づいて取得され、一方、自動運転時には、操舵トルクTrがゼロとなり、合計トルクTr+Tmの絶対値|Tr+Tm|がモータアシストトルクTmの値のみとなり、このモータアシストトルクTmに基づいて、付加トルクTxが取得される。従って、手動運転時および自動運転時の双方において、付加トルクTxによってモータアシストトルクTmを増加させ、液圧異常時に運転者による操舵を安定化させることができる。
【0072】
また、本実施形態では、合計トルクTr+Tmの絶対値|Tr+Tm|が8Nmよりも大きく、かつ操舵速度Vrの絶対値|Vr|が90deg/sよりも小さいときに、液圧異常判断部50により液圧異常を判断している。このように絶対値|Tr+Tm|に加えて、操舵速度Vrの絶対値|Vr|の条件を加えることで、液圧異常の判断を効率的に行うことができる。
【0073】
さらに、本実施形態では、EPSコントローラ3は、合計トルクTr+Tmの絶対値|Tr+Tm|が0Nmから5Nm以下のときには、付加トルクTxを生じさせず、電動モータ2のモータアシストトルクTmを増加させない。
【0074】
ここで、手動運転モードにおいて、合計トルクTr+Tmの絶対値|Tr+Tm|が0Nmから5Nm以下であるときに付加トルクTxを生じさせないようにしている理由は、人為的操舵の範囲が一般に0Nmから5Nm以下であり、この範囲で付加トルクTxをあえて生じさせる必要がないからである。また、仮に合計トルクTr+Tmの絶対値|Tr+Tm|が0Nから5Nm以下であるときに液圧が十分にあるのに液圧異常が有ると誤って判断してしまったとしても、付加トルクTxを生じさせないことで、液圧および電動モータ2による過度のアシストトルクにより運転者に操舵の違和感を与えることを抑制することができる。
【0075】
また、自動運転モードにおいて、合計トルクTr+Tmの絶対値|Tr+Tm|が0Nmから5Nm以下、つまりADAS制御トルクTeが0Nmから5Nm以下(ADAS制御中は操舵トルクTrがゼロ)で付加トルクTxがゼロであるのは、そもそもADAS制御中にはこのような範囲では制御を行わないからである。
【0076】
[第2の実施形態]
第2の実施形態では、第1の実施形態とは異なり、液圧異常判断部50は、操舵軸7の操舵速度Vrの絶対値|Vr|が90~360deg/sの間の任意の操舵速度よりも小さいときに液室P1,P2の液圧異常を判断する。
【0077】
一般に、液圧の正常時に運転者に必要とされる操舵トルクTrは5Nm以下であるが、正常時であっても、高速操舵(例えば約500deg/s以上)ではポンプ装置17によって供給される作動液の量が不足し、操舵トルクTrが5Nmを超過する状況(キャッチアップ)が存在する。仮に操舵トルクTrが8Nmよりも高い場合には、液圧異常が有ると判断されているのか、または高速操舵により作動液の量が不足しているのかの見極めが困難となる。従って、本実施形態では、高速操舵による作動液の不足が想定される約500deg/sよりも小さい360deg/sを上限として設け、高速操舵による作動液の不足に伴う誤検知を排除してある。
【0078】
なお、高速操舵時以外の場合には、液圧異常の判断の精度は、閾操舵トルクに依存するところが大きく、操舵速度Vrの絶対値|Vr|にはほとんど依存していない。
【0079】
[第2の実施形態の効果]
第2の実施形態では、操舵軸7の操舵速度Vrの絶対値|Vr|が90~360deg/sの間の任意の操舵速度よりも小さいときに液室P1,P2の液圧異常を判断する。このため、高速操舵による作動液の不足に伴う誤検知を排除して液室P1,P2の液圧異常の判断のみを行えるので、液圧異常の判断の精度を向上させることができる。
【0080】
[第3の実施形態]
第3の実施形態では、第1の実施形態と異なり、液圧異常判断部50は、合計トルクTr+Tmの絶対値|Tr+Tm|が7Nm~12Nmの間の任意のトルクよりも大きいときに液室P1,P2の液圧異常を判断する。これは、種々のステアリング装置において異常判断の基準が異なるため、各ステアリング装置の判断基準に柔軟に対応できるように閾トルクに幅を持たせているからである。
【0081】
[第3の実施形態の効果]
第3の実施形態の液圧異常判断部50によっても、手動運転時および自動運転時の双方において、付加トルクTxによってモータアシストトルクTmを増加させ、液圧異常時に運転者による操舵を安定化させることができる。
【0082】
[第4の実施形態]
第4の実施形態では、第1の実施形態とは異なり、EPSコントローラ3は、合計トルクTr+Tmの絶対値|Tr+Tm|が4Nm~8Nmの間の任意のトルク以下のときには、付加トルクTxを生成せず、電動モータ2のモータアシストトルクTmを増加させない。これは、種々のステアリング装置において付加トルクTxの発生を無効化するための基準が異なるため、各ステアリング装置の無効化基準に柔軟に対応できるように無効化基準に幅を持たせているからである。
【0083】
[第4の実施形態の効果]
第4の実施形態のEPSコントローラ3においても、液圧が十分にあるのに液圧異常が有ると誤って判断してしまったとしても、付加トルクTxを生じさせないことで、液圧および電動モータ2による過度のアシストトルクにより運転者に操舵の違和感を与えることを抑制することができる。
【0084】
[第5の実施形態]
図7は、第5の実施形態のステアリング装置の斜視図である。
図8は、第5の実施形態のステアリング装置の部分的な縦断面図である。
【0085】
第2の実施形態では、電動モータ2が、中空モータではなく、ウォームシャフト59とウォームホイール60とを噛み合わせてなるウォームギヤからなる減速機55を介して、入力軸9の周囲に設けられた接続軸56に接続されている。
【0086】
電動モータ2は、EPSコントローラ3と一体に構成されており、入力軸9等を収容する入力側ハウジング57と一体に形成されたモータ用ハウジング58内に収容されている。電動モータ2は、図示せぬモータシャフトを有しており、このモータシャフトの軸方向一端部が、ウォームシャフト59に接続されている。ウォームシャフト59の外周には、ウォーム59aが一体に形成されており、該ウォーム59aは、ウォームホイール60の斜歯部60aと噛み合っている。ウォームホイール60は、図示せぬキーを介した周知のキー接続によって接続軸56の外周部に接続されている。接続軸56は、軸方向一端面に凹部56aを有しており、該凹部56a内には、入力軸9の軸方向他端側の一部の領域が嵌め込まれている。また、接続軸56の軸方向他端部が、雄ねじ部56bを有しており、該雄ねじ部56bは、中間軸10の軸方向一端面に設けられた開口凹部10aの雌ねじ部10bにねじ込まれている。接続軸56は、軸方向一端側の外周面に設けられた第3軸受B3と、軸方向他端側の外周面に設けられた第4軸受B4とによって回転可能に支持されている。
【0087】
トルクセンサ32Aは、第1トーションバー12が環状のトルクセンサ32Aの内部を貫通した状態で、入力軸9の外周面に固定された接続軸56の周囲に設けられている。トルクセンサ32Aは、永久磁石62と、一対の第1、第2ヨーク63,64と、一対の第1、第2集磁リング65,66と、磁気センサ67と、から主に構成されている。永久磁石62、ヨーク63,64および集磁リング65,66は、いずれも操舵軸7の回転軸Zとほぼ同心円上となるように配置されている。
【0088】
永久磁石62は、磁性材料によりほぼ円筒状に形成され、接続軸56の一端部外周に取付固定された磁性部材である。永久磁石62は、該永久磁石62の周方向に沿ってN極とS極が交互に配置(着磁)されることで構成されている。
【0089】
一対のヨーク63,64は、いずれも軟磁性体によりほぼ円筒状に形成されている。このヨーク63,64は、それぞれ中間軸10側となる一端側が周方向に沿って一列に整列し、永久磁石62と径方向で対向するように設けられている。一方、他端側は、第1ヨーク63が内周側に配置され、第2ヨーク64が外周側に配置されることで、径方向に対向している。
【0090】
一対の集磁リング65,66は、両ヨーク63,64の他端側へと漏洩した永久磁石62による磁束を所定の範囲に集約するほぼ円環状のリングであり、ヨーク63,64の他端側の径方向間に配置される。集磁リング65は外周側に配置され、集磁リング66は内周側に配置されており、両者は径方向に対向している。集磁リング65,66の径方向間には、ホール素子68が配置されている。集磁リング65の周方向の所定位置には、径方向内側へ押圧されてなる集磁部65aが設けられており、一方、集磁リング66の周方向における集磁部65aと対向する位置には、径方向外部へ突出させてなる集磁部66aが設けられている。
【0091】
磁気センサ67は、集磁部65aと集磁部66aとの間の径方向隙間に収容配置されたホール素子68と、このホール素子68をトルクセンサ32Aの上方に配置された制御基板69に接続するための接続端子70と、から構成されている。磁気センサ67は、ホール素子68によるホール効果を利用することでホール素子68により集磁部65a,66aの間を通過する磁束を検出し、この磁束に応じた信号を制御基板69に出力する。これにより、制御基板69における入力軸9と中間軸10との間の相対回転角の演算や、該相対回転角に基づく操舵トルクの演算が行われる。
【0092】
[第5の実施形態の効果]
第5の実施形態では、電動モータ2が、中空モータではなく、減速機および接続軸56を介して入力軸9に接続されている。
【0093】
このような電動モータ2を有したステアリング装置においても、手動運転時および自動運転時の双方において、付加トルクTxによってモータアシストトルクTmを増加させ、液圧異常時に運転者による操舵を安定化させることができる。