(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-06
(45)【発行日】2024-11-14
(54)【発明の名称】発光素子、及び表示装置
(51)【国際特許分類】
H10K 50/115 20230101AFI20241107BHJP
H05B 33/14 20060101ALI20241107BHJP
H05B 33/12 20060101ALI20241107BHJP
H05B 33/22 20060101ALI20241107BHJP
G02B 5/20 20060101ALI20241107BHJP
H10K 50/16 20230101ALI20241107BHJP
H10K 101/40 20230101ALN20241107BHJP
【FI】
H10K50/115
H05B33/14 Z
H05B33/12 B
H05B33/22 Z
H05B33/12 E
G02B5/20 101
H05B33/22 A
H10K50/16
H10K101:40
(21)【出願番号】P 2023548041
(86)(22)【出願日】2021-09-16
(86)【国際出願番号】 JP2021034172
(87)【国際公開番号】W WO2023042352
(87)【国際公開日】2023-03-23
【審査請求日】2023-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000005049
【氏名又は名称】シャープ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147304
【氏名又は名称】井上 知哉
(74)【代理人】
【識別番号】100148493
【氏名又は名称】加藤 浩二
(72)【発明者】
【氏名】吐田 真一
(72)【発明者】
【氏名】榊原 裕介
【審査官】渡邊 吉喜
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/180877(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第105244451(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10K 50/00-99/00
G02B 5/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1波長の光を発光する第1発光材料と、前記第1波長と異なる第2波長の光を発光する第2発光材料とが混合されている混合物を含む発光層と、
電子輸送層と、
を有し、
前記電子輸送層が、第1粒径分布を有する第1材料、及び、前記第1粒径分布と異なる第2粒径分布を有する第2材料を含むか、又は、A
1-xB
xC(0≦x<1、A、B、及びCは互いに異なる第1元素、第2元素、及び第3元素)により構成され、組成(x)が互いに異なる第1材料及び第2材料を含むか、又は、構成元素が互いに異なる第1材料及び第2材料を含み、
前記第1発光材料の電子親和力が、前記第1材料の電子親和力以下であり、
前記第2材料の電子親和力が、前記第1材料の電子親和力よりも小さく、
前記第2発光材料の電子親和力が、前記第2材料の電子親和力以下である発光素子。
【請求項2】
前記電子輸送層に含まれる前記第1材料の電子親和力及び前記第2材料の電子親和力が、互いに0.1eV以上異なる請求項1に記載の発光素子。
【請求項3】
前記電子輸送層の第1材料及び第2材料は、それぞれ無機化合物からなる請求項1又は2に記載の発光素子。
【請求項4】
前記第1材料及び前記第2材料が、Zn
1-xMg
xO(0≦x<1)により構成され、組成(x)が互いに異なる材料である請求項1から3の何れか一項に記載の発光素子。
【請求項5】
前記構成元素が互いに異なる第1材料及び第2材料の組合せが、
(1)TiO
2、及びSnO
2から選択された少なくとも1つ、
(2)GaP、AlSb、及びZrO
2から選択された少なくとも1つ、
(3)GaN、ZnS、ZnTe、Ca
2SnO
4、及びCaSnO
3から選択された少なくとも1つ、
から選択される異なる2つの組合せを含む請求項1から3の何れか一項に記載の発光素子。
【請求項6】
前記発光層の混合物に前記第1波長、および前記第2波長と異なる第3波長の光を発光する第3発光材料がさらに混合されており、
前記電子輸送層に、前記第1粒径分布及び前記第2粒径分布と異なる第3粒径分布を有する第3材料か、又は、前記A
1-xB
xC(0≦x<1)により構成され、組成(x)が前記第1材料及び前記第2材料と異なる第3材料か、又は、構成元素が前記第1材料及び前記第2材料と異なる第3材料がさらに混合されており、
前記第3材料の電子親和力が、前記第2材料の電子親和力よりも小さく、前記第3発光材料の電子親和力が、前記第3材料の電子親和力以下である請求項1から5の何れか一項に記載の発光素子。
【請求項7】
前記A
1-xB
xC(0≦x<1)の前記第1材料、前記第2材料、及び前記第3材料が、Zn
1-xMg
xO(0≦x<1)により構成され、組成(x)が互いに異なる材料である請求項6に記載の発光素子。
【請求項8】
前記構成元素が互いに異なる第1材料、第2材料、及び第3材料のうち、
前記第1材料が、TiO
2、及びSnO
2から選択された少なくとも1つを含み、
前記第2材料が、GaP、AlSb、及びZrO
2から選択された少なくとも1つを含み、
前記第3材料が、GaN、ZnS、ZnTe、Ca
2SnO
4、及びCaSnO
3から選択された少なくとも1つを含む請求項6に記載の発光素子。
【請求項9】
前記第1発光材料の電子親和力と前記第2発光材料の電子親和力とが互いに異なる請求項1から8の何れか一項に記載の発光素子。
【請求項10】
前記第1発光材料の電子親和力が前記第2発光材料の電子親和力以上である場合、
前記第1材料の電子親和力が前記第1発光材料の電子親和力以上であり、
前記第1発光材料の電子親和力が前記第2材料の電子親和力以上であり、
前記第2材料の電子親和力が前記第2発光材料の電子親和力以上である請求項1から9の何れか一項に記載の発光素子。
【請求項11】
前記第1材料及び前記第2材料は、ナノ粒子を含む請求項1から10の何れか一項に記載の発光素子。
【請求項12】
前記第1材料、前記第2材料、及び前記第3材料は、ナノ粒子を含み、
その電子親和力が小さい順に前記電子輸送層に含まれる体積比率が大きい請求項6に記載の発光素子。
【請求項13】
前記第1材料、前記第2材料、及び前記第3材料は、ナノ粒子を含み、
陰極との間の界面近傍において、その電子親和力の大きい順に、前記電子輸送層に含まれる体積比率が大きい請求項6に記載の発光素子。
【請求項14】
前記第1材料、前記第2材料、及び前記第3材料は、ナノ粒子を含み、
前記発光層との間の界面近傍において、その電子親和力が小さい順に、前記電子輸送層に含まれる体積比率が大きい請求項6に記載の発光素子。
【請求項15】
前記第1材料、前記第2材料、及び前記第3材料は、ナノ粒子を含み、
前記第1材料、前記第2材料、及び前記第3材料のうちの電子親和力の最も大きいナノ粒子は
、陰極側から前記発光層側に向かって減少する請求項6に記載の発光素子。
【請求項16】
前記電子親和力の最も大きいナノ粒子以外のナノ粒子は、前記陰極側から前記発光層側に向かって増加する請求項15に記載の発光素子。
【請求項17】
前記第1材料、前記第2材料、及び前記第3材料は、ナノ粒子を含み、ZnOからなり、
前記第1材料のナノ粒子の平均粒径が、4.5nm以上であり、
前記第2材料のナノ粒子の平均粒径が、3.5nm以上4.5nm未満であり、
前記第3材料のナノ粒子の平均粒径が、2.8nm以上3.5nm未満である請求項6に記載の発光素子。
【請求項18】
前記第1材料、前記第2材料、及び前記第3材料は、それぞれZn
1-xMg
xOからなるナノ粒子を含み、
前記第1材料のナノ粒子が、0≦x≦0.15であり、
前記第2材料のナノ粒子が、0.15<x≦0.3であり、
前記第3材料のナノ粒子が、0.3<x≦0.5である請求項6に記載の発光素子。
【請求項19】
前記第1材料が、TiO
2、SnO
2、及びZn
1-xMg
xO(0≦x≦0.15)から選択された少なくとも1つを含み、
前記第2材料が、GaP、AlSb、ZrO
2、及びZn
1-xMg
xO(0.15<x≦0.3)から選択された少なくとも1つを含み、
前記第3材料が、GaN、ZnS、ZnTe、Ca
2SnO
4、CaSnO
3、及びZn
1-xMg
xO(0.3<x≦0.5)から選択された少なくとも1つを含む請求項6に記載の発光素子。
【請求項20】
第1波長の光を発光する第1発光材料と、前記第1波長と異なる第2波長の光を発光する第2発光材料とが混合されている混合物を含む発光層と、
電子輸送層と、
を有し、
前記電子輸送層が、第1粒径分布を有する第1材料、及び、前記第1粒径分布と異なる第2粒径分布を有する第2材料を含むか、又は、Zn
1-xMg
xO(0≦x<1)により構成され、組成(x)が互いに異なる第1材料及び第2材料を含むか、又は、構成元素が互いに異なる第1材料及び第2材料の組合せを含み、
前記構成元素が互いに異なる第1材料及び第2材料の組合せが、
(1)TiO
2、及びSnO
2から選択された少なくとも1つ、
(2)GaP、AlSb、及びZrO
2から選択された少なくとも1つ、
(3)GaN、ZnS、ZnTe、Ca
2SnO
4、及びCaSnO
3から選択された少なくとも1つ、
から選択される異なる2つの組合せを含む発光素子。
【請求項21】
第1波長の光を発光する第1発光材料と、前記第1波長と異なる第2波長の光を発光する第2発光材料とが混合されている混合物を含む発光層と、
正孔輸送層と、
を有し、
前記正孔輸送層が、第1材料及び第2材料を含み、
前記第1発光材料のイオン化ポテンシャルが、前記第1材料のイオン化ポテンシャル以上であり、
前記第2材料のイオン化ポテンシャルが、前記第1材料のイオン化ポテンシャルよりも大きく、
前記第2発光材料のイオン化ポテンシャルが、前記第2材料のイオン化ポテンシャル以上である発光素子。
【請求項22】
前記発光層の混合物に前記第1波長、および前記第2波長と異なる第3波長の光を発光する第3発光材料がさらに混合されており、
前記正孔輸送層が、第3材料をさらに含み、
前記第3材料のイオン化ポテンシャルが、前記第2材料のイオン化ポテンシャルよりも大きく、
前記第3発光材料のイオン化ポテンシャルが、前記第3材料のイオン化ポテンシャル以上である請求項21に記載の発光素子。
【請求項23】
前記第1発光材料のイオン化ポテンシャルと前記第2発光材料のイオン化ポテンシャルとが互いに異なる請求項21又は22に記載の発光素子。
【請求項24】
前記第1発光材料の材料と前記第2発光材料の材料とが互いに異なる請求項21から23の何れか一項に記載の発光素子。
【請求項25】
前記第1発光材料のイオン化ポテンシャルが前記第2発光材料のイオン化ポテンシャルよりも小さい場合、
前記第1材料のイオン化ポテンシャルが前記第1発光材料のイオン化ポテンシャル以下であり、
前記第1発光材料のイオン化ポテンシャルが前記第2材料のイオン化ポテンシャルよりも小さく、
前記第2材料のイオン化ポテンシャルが前記第2発光材料のイオン化ポテンシャル以下である請求項21から24の何れか一項に記載の発光素子。
【請求項26】
前記第1材料及び前記第2材料は、ナノ粒子を含む請求項21から24の何れか一項に記載の発光素子。
【請求項27】
前記第1材料及び前記第2材料は、それぞれNi
1-xMg
xO(0≦x<1)からなるナノ粒子を含み、
組成(x)が互いに異なる請求項21から24の何れか一項に記載の発光素子。
【請求項28】
前記第1材料、前記第2材料、及び前記第3材料は、ナノ粒子を含み、
そのイオン化ポテンシャルが大きい順に前記正孔輸送層に含まれる体積比率が大きい請求項22に記載の発光素子。
【請求項29】
前記第1材料、前記第2材料、及び前記第3材料は、ナノ粒子を含み、
陽極との間の界面近傍において、そのイオン化ポテンシャルの小さい順に、前記正孔輸送層に含まれる体積比率が大きい請求項22に記載の発光素子。
【請求項30】
前記第1材料、前記第2材料、及び前記第3材料は、ナノ粒子を含み、
前記発光層との間の界面近傍において、そのイオン化ポテンシャルが大きい順に、前記正孔輸送層に含まれる体積比率が大きい請求項22に記載の発光素子。
【請求項31】
前記第1材料、前記第2材料、及び前記第3材料は、ナノ粒子を含み、
前記第1材料、前記第2材料、及び前記第3材料のうちのイオン化ポテンシャルの最も小さいナノ粒子は
、陽極側から前記発光層側に向かって減少する請求項22に記載の発光素子。
【請求項32】
前記イオン化ポテンシャルの最も小さいナノ粒子以外のナノ粒子は、前記陽極側から前記発光層側に向かって増加する請求項31に記載の発光素子。
【請求項33】
前記第1発光材料が第1量子ドットであり、
前記第2発光材料が第2量子ドットである請求項1から32の何れか一項に記載の発光素子。
【請求項34】
請求項1から33の何れか一項に記載の発光素子を複数備え、
前記複数の発光素子が、陽極と、
陰極と、
前記複数の発光素子の隣接する陰極の間に配置されて前記隣接する陰極を分離可能であるか、又は、前記複数の発光素子の隣接する陽極の間に配置されて前記隣接する陽極を分離可能である側壁とをさらに有する表示装置。
【請求項35】
請求項1から33の何れか一項に記載の発光素子を複数備え、
前記複数の発光素子が、陽極と、
陰極と、
隣接する前記発光素子の間に配置されて前記隣接する発光素子を分離可能である側壁とをさらに有する表示装置。
【請求項36】
前記発光素子に異なる波長の光を透過させる複数のカラーフィルタを備えた請求項
34又は35に記載の表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1波長の光を発光する第1発光材料と、第1波長と異なる第2波長の光を発光する第2発光材料とが混合されている混合物を含む発光層を備えた発光素子、及び表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、赤色光を発光する第1量子ドットと、緑色光を発光する第2量子ドットと、青色光を発光する第3量子ドットとが混合されている混合物を含む発光層を備えた発光素子が知られている(特許文献1)。この発光素子は、発光層の上側に形成されたカラーフィルタによって、赤色光、緑色光、及び青色光の何れかを透過させて発光する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開公報第2019/180877号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の発光素子では、発光色が異なると各量子ドットの電子親和力がそれぞれ異なるため、各量子ドットに対して効率よく電子を注入できる電子輸送層の電子親和力も異なる。従って、単一の電子親和力を有する材料により電子輸送層を構成すると、赤色光、緑色光、及び青色光の全体の発光効率を高くすることができないという課題が存在する。
【0005】
本発明の一態様は、第1波長の光と、第1波長と異なる第2波長の光との全体の発光効率を高めることができる発光素子、及び表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために本発明の一態様に係る発光素子は、第1波長の光を発光する第1発光材料と、前記第1波長と異なる第2波長の光を発光する第2発光材料とが混合されている混合物を含む発光層と、電子輸送層と、を有し、前記電子輸送層が、第1粒径分布を有する第1材料、及び、前記第1粒径分布と異なる第2粒径分布を有する第2材料を含むか、又は、A1-xBxC(0≦x<1、A、B、及びCは互いに異なる第1元素、第2元素、及び第3元素)により構成され、組成(x)が互いに異なる第1材料及び第2材料を含むか、又は、構成元素が互いに異なる第1材料及び第2材料を含み、前記第1発光材料の電子親和力が、前記第1材料の電子親和力以下であり、前記第2材料の電子親和力が、前記第1材料の電子親和力よりも小さく、前記第2発光材料の電子親和力が、前記第2材料の電子親和力以下である。
【0007】
上記課題を解決するために本発明の一態様に係る他の発光素子は、第1波長の光を発光する第1発光材料と、前記第1波長と異なる第2波長の光を発光する第2発光材料とが混合されている混合物を含む発光層と、電子輸送層と、を有し、前記電子輸送層が、第1粒径分布を有する第1材料、及び、前記第1粒径分布と異なる第2粒径分布を有する第2材料を含むか、又は、Zn1-xMgxO(0≦x<1)により構成され、組成(x)が互いに異なる第1材料及び第2材料を含むか、又は、構成元素が互いに異なる第1材料及び第2材料の組合せを含み、前記構成元素が互いに異なる第1材料及び第2材料の組合せが、
(1)TiO2、及びSnO2から選択された少なくとも1つ、(2)GaP、AlSb、及びZrO2から選択された少なくとも1つ、(3)GaN、ZnS、ZnTe、Ca2SnO4、及びCaSnO3から選択された少なくとも1つ、から選択される異なる2つの組合せを含む。
【0008】
上記課題を解決するために本発明の一態様に係るさらに他の発光素子は、第1波長の光を発光する第1発光材料と、前記第1波長と異なる第2波長の光を発光する第2発光材料とが混合されている混合物を含む発光層と、正孔輸送層と、を有し、前記正孔輸送層が、第1材料及び第2材料を含み、前記第1発光材料のイオン化ポテンシャルが、前記第1材料のイオン化ポテンシャル以上であり、前記第2材料のイオン化ポテンシャルが、前記第1材料のイオン化ポテンシャルよりも大きく、前記第2発光材料のイオン化ポテンシャルが、前記第2材料のイオン化ポテンシャル以上である。
【0009】
上記課題を解決するために本発明の一態様に係る他の表示装置は、本発明の一態様に係る発光素子を複数備え、前記複数の発光素子が、陽極と、陰極と、前記複数の発光素子の隣接する陰極の間に配置されて前記隣接する陰極を分離可能であるか、又は、前記複数の発光素子の隣接する陽極の間に配置されて前記隣接する陽極を分離可能である側壁とをさらに有する。
【0010】
上記課題を解決するために本発明の一態様に係るさらに他の表示装置は、本発明の一態様に係る発光素子を複数備え、前記複数の発光素子が、陽極と、陰極と、隣接する前記発光素子の間に配置されて前記隣接する発光素子を分離可能である側壁とをさらに有する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様によれば、第1波長の光と、第1波長と異なる第2波長の光との全体の発光効率を高めることができる発光素子、及び表示装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】上記発光素子に設けられた発光層に電子が注入される流れを示す図である。
【
図3】上記発光素子に設けられた電子輸送層から発光層への電子の注入を説明するための図である。
【
図4】上記電子輸送層から発光層への電子の注入に関する等価回路の回路図である。
【
図5】上記電子輸送層から発光層への電子の注入障壁を説明するための図である。
【
図6】上記電子輸送層から発光層へ電子を注入するイメージを説明するための図である。
【
図7】上記電子輸送層の材料の粒子半径とバンドギャップ及び電子親和力との間の関係を示すグラフである。
【
図8】上記電子輸送層の材料の組成と電子親和力との間の関係を示すグラフである。
【
図9】実施形態1の変形例に係る表示装置の断面図である。
【
図10】実施形態2に係る発光素子の断面図である。
【
図11】実施形態1に係る発光素子に設けられた発光層の電子準位を説明するための図である。
【
図12】実施形態2に係る発光素子に設けられた発光層の電子準位を説明するための図である。
【
図13】上記発光素子に設けられた正孔輸送層から発光層への正孔の注入障壁を説明するための図である。
【
図14】実施形態2の変形例に係る表示装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(実施形態1)
図1は実施形態1に係る発光素子1の断面図である。基板9上に陽極8、正孔輸送層6、発光層10、電子輸送層5、及び陰極7を順に備えている。発光層10は、赤色光(第1波長の光)を発する第1量子ドット2(第1発光材料)と、緑色光(第2波長の光)を発する第2量子ドット3(第2発光材料)と、青色光を発光する第3量子ドット4(第3発光材料)とを混合した混合物を含む。発光層10は赤緑青の3つの波長を持った白色光を発光することができる。ここでは発光層10は3種類の量子ドットの混合物を示しているが2種類の量子ドットの混合物でも構わない。
【0014】
ここで、量子ドットとは、最大幅が100nm以下のドットを意味する。量子ドットの形状は、上記最大幅を満たす範囲であればよく、特に制約されず、球状の立体形状(円状の断面形状)に限定されるものではない。例えば、多角形状の断面形状、棒状の立体形状、枝状の立体形状、表面に凹凸を有す立体形状でもよく、または、それらの組合せでもよい。
【0015】
このように、発光層10は、第1波長の光を発光する第1量子ドット2と、第1波長と異なる第2波長の光を発光する第2量子ドット3とが混合されている混合物を含む。ここで、波長が異なるとは、2つの波長範囲が完全に分離される必要はなく、重複する波長範囲があってもよく、第1及び第2量子ドット2・3を含む発光層10からの発光波長を測定した結果、少なくとも2つの発光ピークが確認できれば、その発光層10は2つの異なる波長の光を発光しているものとする。
【0016】
陽極8は、導電性材料からなり、正孔輸送層6と電気的に接続される。陰極7は、導電性材料からなり、電子輸送層5と電気的に接続される。
【0017】
陽極8と陰極7との少なくとも一方は透明導電膜からなる。透明導電膜としては、例えばITO、IZO、ZnO、AZO、BZO等や薄層化、ナノ粒子化、ナノワイヤ化したAg、Al、Cu、Au等が用いられる。透明導電膜はスパッタ法や蒸着、塗布等で製膜することができる。
【0018】
陽極8と陰極7とのいずれか一方は金属で形成しても良い。この金属は可視光の反射率の高いAl、Cu、Au、Agが好ましい。
【0019】
正孔輸送層6は、p型酸化物半導体(例えばNiO、MgNiO、Cu2O)やPEDOT:PSS/PVK等の有機材料から形成される。正孔輸送層6は、塗布やスパッタ法、蒸着等によって形成できる。
【0020】
第1量子ドット2、第2量子ドット3、及び第3量子ドット4は、例えば、CdSe/CdS、CdSe/ZnS、InP/ZnS、ZnSe/ZnS、CIGS/ZnS等のコア/シェル構造を用いることができる。各量子ドット2・3・4の粒径は典型的には3nm~10nm程度である。それぞれの量子ドット2・3・4を混合しヘキサン等の溶媒に分散した混合液を、スピンコート法、インクジェット法などを用いて発光層10が成膜される。無機物質からなるナノ粒子は有機材料よりも発光層の信頼性を高くすることができる。
【0021】
第1量子ドット2、第2量子ドット3、及び第3量子ドット4は量子ドットのコアの粒径や材料により発光する波長を変えることができる。材料が同じ場合にはコアの粒径が小さいほど発する光の波長が短くなる。
【0022】
発光層10において第1量子ドット2、第2量子ドット3、及び第3量子ドット4はどのような分布や配置であっても構わない。しかし、第1量子ドット2、第2量子ドット3、及び第3量子ドット4がそれぞれランダムに分布している方が好ましい。色ムラが発生せず均一な発光素子1を得ることができる。また発光波長の短い量子ドットほど分布割合が多くなっていることが好ましい。発光波長の短い量子ドットほど発光効率が低く、分布割合を多くすることにより白色を発光しやすくすることができる。
【0023】
電子輸送層5は、異なる2つ以上の電子親和力を持つナノ粒子の混合物である。発光層10に含まれる量子ドットが3種類の場合は、電子親和力が3つになって、電子輸送層5は3つの電子親和力を持つ3種類のナノ粒子の混合物であることが好ましい。これにより、電子輸送層5は、3種類の第1量子ドット2、第2量子ドット3、及び第3量子ドット4のそれぞれに電子を効率よく注入することができるので、全体の発光効率を高くすることができる。電子輸送層5のナノ粒子は、無機化合物からなることで信頼性を高くすることができる。
【0024】
電子輸送層5は、第1粒径分布を有する第1材料、及び、第1粒径分布と異なる第2粒径分布を有する第2材料を含む。例えば、粒径12nmを中心に約±15%以内の粒径分布を有する第1材料と、粒径4nmを中心に約±15%以内の粒径分布を有する第2材料とを電子輸送層5は含む。
【0025】
ここで、「粒径」とは、粒子を含む層の断面観察において確認される粒子の面積に相当する面積の円の直径のこととする。「粒径分布が異なる」とは、2つの粒径分布が完全に分離される必要はなく、重複する粒径範囲があってもよく、第1材料及び第2材料を含む電子輸送層5の断面観察をした結果、少なくとも2つの粒径ピークが確認できれば、その電子輸送層5は2つの異なる粒径分布の粒子を含んでいるものとする。
【0026】
電子輸送層5は、Zn1-xMgxO(0≦x<1)により構成され、組成(x)が互いに異なる第1材料及び第2材料を含んでもよい。電子輸送層5は、TiO2、及びSnO2から選択された少なくとも1つ、又は、GaP、AlSb、及びZrO2から選択された少なくとも1つ、又は、GaN、ZnS、ZnTe、Ca2SnO4、及びCaSnO3から選択された少なくとも1つのうちのいずれかを含む第1材料及び第2材料を含んでもよい。
【0027】
電子輸送層5は、第1粒径分布及び第2粒径分布と異なる第3粒径分布を有する第3材料をさらに含む。例えば、粒径12nmを中心に約±15%以内の粒径分布を有する第1材料と、粒径4nmを中心に約±15%以内の粒径分布を有する第2材料と、粒径3nmを中心に約±15%以内の粒径分布を有する第3材料とを電子輸送層5は含む。
【0028】
電子輸送層5は、Zn1-xMgxO(0≦x<1)、により構成され、組成(x)が第1材料及び第2材料と異なる第3材料か、又は、TiO2、及びSnO2から選択された少なくとも1つを含む第1材料、及び、GaP、AlSb、及びZrO2から選択された少なくとも1つを含む第2材料、及び、GaN、ZnS、ZnTe、Ca2SnO4、及びCaSnO3から選択された少なくとも1つを含む第3材料を含んでもよい。
【0029】
電子輸送層5は、例えば、平均粒径が12nm、4nm、3nmの3種類のZnOのナノ粒子の混合物となっていることが好ましい。これにより、電子輸送層5が、3種類の第1量子ドット2、第2量子ドット3、及び第3量子ドット4のそれぞれの発光効率を高くする電子親和力を持つことができる。一般にナノ粒子は粒径を小さくすると量子効果によりバンドギャップが広がり、電子親和力が小さくなる。平均粒径が12nm、4nm、3nmのZnOナノ粒子は電子親和力がそれぞれ3.9eV、3.5eV、3.1eVとなり、これらを混合して3つの電子親和力を持つ電子輸送層5を実現している。
【0030】
ここで平均粒径12nmのナノ粒子とは12nmを中心に約±15%以内のばらつきを含んだナノ粒子のことであり、粒径のばらつき内の粒子をもって異なる電子親和力を持つとは言わない。
【0031】
この電子輸送層5の3種類のナノ粒子は、同一材料であるのでナノ粒子の合成時間を調整すれば容易に作製可能であり、結晶構造も同じであり、電気伝導性等は大きくは変化しない。
【0032】
異なる電子親和力を持たせるために、例えば、Zn1-xMgxO(0≦x<1)でx=0、0.2、0.4のように組成を変化させて電子輸送層5の3種類のナノ粒子を実現することもできるし、TiO2など異なる材料を用いて3種類のナノ粒子を実現してもよい。また粒径と組成とを同時に変化させて3種類のナノ粒子を実現することもできる。
【0033】
それぞれのナノ粒子を公知技術により作製し、エタノール等の有機溶媒に混合した混合液をスピンコート法やインクジェット法などを用いて電子輸送層5を形成する。
【0034】
本実施形態では、発光層10はRGB3色の第1量子ドット2、第2量子ドット3、及び第3量子ドット4の混合物を含み、それぞれの量子ドットの電子親和力は、QD1=3.6eV、QD2=3.3eV、QD3=2.9eVであった。また、電子輸送層5は、平均粒径が12nm、4nm、3nmのZnOナノ粒子の混合物として、電子親和力が大きい順に3.9eV(ETL1)、3.5eV(ETL2)、3.1eV(ETL3)にした。
【0035】
図2は発光素子1の第1量子ドット2、第2量子ドット3、及び第3量子ドット4それぞれに電子が注入される流れを示す図である。
【0036】
図2には、実施形態1に係る第1量子ドット2、第2量子ドット3、及び第3量子ドット4と、陰極7との間のバンド図と、陰極7から第1量子ドット2、第2量子ドット3、及び第3量子ドット4への電子の注入の流れを表す矢印とが示されている。電子は電圧印加に伴い、電子親和力の大きい方から小さい方へ順に注入されていく。
【0037】
電子輸送層5は3つの電子親和力ETL1・ETL2・ETL3を持っており、電圧が陽極8と陰極7との間で印加されるに伴い、まず最も大きい電子親和力ETL1の電子輸送層5の箇所に陰極7から電子が注入される。そして、次に大きい電子親和力ETL2の電子輸送層5の箇所に電子親和力ETL1の箇所から電子が注入される。次に、一番小さい電子親和力ETL3の電子輸送層5の箇所に電子親和力ETL2の箇所から電子が注入されていく。
【0038】
電子親和力QD1を有する第1量子ドット2については、電子はまず陰極7から電子親和力ETL1の箇所に注入される。そして、電子親和力ETL2の箇所に注入されるよりも前に、電子親和力ETL1の箇所から電子親和力QD1の第1量子ドット2に電子を注入することができる。
【0039】
電子親和力QD2を有する第2量子ドット3については、電子はまず陰極7から電子親和力ETL1の箇所に注入される。そして、電子親和力ETL1の箇所から電子親和力ETL2の箇所に電子は注入される。次に、電子親和力ETL3の箇所に注入されるよりも前に、電子親和力ETL2の箇所から電子親和力QD2の第2量子ドット3に電子を注入することができる。
【0040】
電子親和力QD3を有する第3量子ドット4については、電子はまず陰極7から電子親和力ETL1の箇所に注入される。そして、電子親和力ETL1の箇所から電子親和力ETL2の箇所に注入される。次に、電子親和力ETL2の箇所から電子親和力ETL3の箇所に注入された後、電子親和力QD3の第3量子ドット4に電子を注入することができる。
【0041】
このように、第1量子ドット2、第2量子ドット3、及び第3量子ドット4の各量子ドットに対し、発光効率が高い適切な電子親和力ETL1・ETL2・ETL3の箇所から電子が注入される。他のETLの箇所からはほとんど電子が注入されない。これについて
図4の回路図で説明する。
【0042】
図3は発光素子1に設けられた電子輸送層5から第2量子ドット3への電子の注入を説明するための図である。
図4は電子輸送層5から発光層(第1量子ドット2、または第2量子ドット3、または第3量子ドット4)への電子の注入に関する等価回路の回路図である。
図5は電子輸送層5から第1量子ドット2、第2量子ドット3、及び第3量子ドット4への電子の注入障壁を説明するための図である。
【0043】
電子輸送層5から発光層10への電子の注入について回路図で示すと、電子輸送層5は、
図4に示すように、ダイオードと抵抗との直列回路が3つ並列に配置されているように示すことができる。
【0044】
ダイオードの電流は、
I=I0[exp{q(V-φ)/nkT}-1]、
で表すことができる。
【0045】
ここで、φはダイオードの注入障壁高さに相当するが、その大きさは電子輸送層5から第1量子ドット2、第2量子ドット3、又は第3量子ドット4への注入障壁と相関する。ダイオードの電流Iは電圧に対して指数関数的に増加し、注入障壁高さφにより大きく電流Iが変化し、注入障壁高さφが小さいダイオードに殆どの電流が流れる。
【0046】
例えば、
図3に示すように、緑色光を発する第2量子ドット3に電子輸送層5から電子が注入されるときに、第2量子ドット3の電子親和力QD2まで電子が注入されている場合を考える。電子輸送層5の電子親和力ETL1・ETL2・ETL3からの注入障壁は、電子親和力ETL1(3.9eV)から電子親和力QD2(3.3eV)への注入で0.6eVであり、電子親和力ETL2(3.5eV)から電子親和力QD2(3.3eV)への注入で0.2eVである。電子親和力ETL3の場合は、電子親和力ETL2(3.5eV)から電子親和力ETL3(3.1eV)を電子が通過するので注入障壁は0.4eVとなる。このように電子親和力ETL2からの注入障壁が最も小さいので、第2量子ドット3にはほぼ電子親和力ETL2から電子が注入されることになる。
【0047】
他の第1量子ドット2及び第3量子ドット4の場合も上記と同様になり、注入障壁高さφの大小関係は
図5に示すようになる。
【0048】
電子輸送層5が複数の電子親和力ETL1・ETL2・ETL3を有していると、電子輸送層5に単一の電子親和力を用いる場合に比べて、RGBの第1量子ドット2、第2量子ドット3、及び第3量子ドット4のそれぞれに適した低電圧で電子輸送層5から電子を注入することができる。
【0049】
従って、それぞれ異なる発光波長の光を発する第1量子ドット2、第2量子ドット3、及び第3量子ドット4のそれぞれに対して注入効率の高くなる電子親和力をもつナノ粒子を、第1材料、第2材料、及び第3材料として適宜選択して混合した混合物を電子輸送層5に含めることにより、第1量子ドット2、第2量子ドット3、及び第3量子ドット4は発光層10内でそれぞれ効率よく発光することができる。
【0050】
そのため、電子輸送層5は発光層10内に含まれる量子ドットが発光する色の数と同じ数だけ異なる電子親和力をもつことが好ましく、3色の場合、第1量子ドット2、第2量子ドット3、及び第3量子ドット4の電子親和力を、大きい順に電子親和力QD1、電子親和力QD2、電子親和力QD3とし、電子輸送層5の電子親和力を、大きい順に電子親和力ETL1、電子親和力ETL2、電子親和力ETL3としたときには、
QD3≦ETL3<QD2≦ETL2<QD1≦ETL1、
であることが好ましい。各発光色の量子ドットに適した電子親和力からの電子注入が可能となり、各発光色の量子ドットとも発光効率を高くすることができ、全体としての発光効率が高くなる。
【0051】
また、電子親和力の差が0.1eV異なるごとに約50倍電流の注入されやすさが異なるので、上記第1材料、第2材料、及び第3材料のお互いのナノ粒子の電子親和力の差は0.1eV以上あることが好ましい。第1量子ドット2、第2量子ドット3、及び第3量子ドット4のうちの適した量子ドットに優先的に電流を流すことができる。さらにRGBの第1量子ドット2、第2量子ドット3、及び第3量子ドット4の電子親和力の差が0.3eV以上異なるので、ナノ粒子の電子親和力の差が0.3eV以上あれば各色の第1量子ドット2、第2量子ドット3、及び第3量子ドット4に対して注入効率が高くなるナノ粒子を電子輸送層5に備えることができる。
【0052】
また、Zn1-xMgxOは、xが大きくなる程、一般には電子親和力が小さくなる程、電子濃度が低下して抵抗率が高くなる。また、一般にRGBの順(電子親和力が小さくなる順)に量子ドットの発光効率が低くなる。このため、電子親和力の小さいナノ粒子ほど体積比率を多くすることで、電子親和力の小さいナノ粒子へ電子を注入しやすくして、発光効率の低くなる色ほど、発光効率を向上できる。従って、発光素子1の全体の発光効率をバランス良く高くすることができる。また陰極7からは電子親和力が大きいナノ粒子に電子が注入されやすいので、陰極7の界面近傍において、電子親和力の大きいナノ粒子が最も体積比率が大きい方が好ましい。これにより、陰極7から電子輸送層5に電子が注入されやすくなる。陰極7の界面で電子親和力の大きいナノ粒子の体積比率が100%であってもよい。
【0053】
本明細書において、界面近傍とは、界面から30nm以内の部分を指すものとする。
【0054】
電子輸送層5の電子親和力ETL1を有する材料、電子親和力ETL2を有する材料、及び電子親和力ETL3を有する材料は、互いに異なる材料を用いることができる。例えば、電子親和力ETL1を有する材料として、TiO2(電子親和力4.2eV)、SnO2(電子親和力4.2eV)を用いることができる。電子親和力ETL2を有する材料として、GaP(電子親和力3.5eV)、AlSb(電子親和力3.4eV)、ZrO2(電子親和力3.4eV)を用いることができる。電子親和力ETL3を有する材料として、GaN(電子親和力3.2eV)、ZnS(電子親和力3.2eV)、ZnTe(電子親和力3.2eV)、Ca2SnO4(電子親和力3.0eV)、CaSnO3(電子親和力3.2eV)などを用いることができる。
【0055】
ここで各材料の電子親和力とイオン化ポテンシャルは以下の(表1)に記載された数字として扱う。
【0056】
【表1】
図6は電子輸送層5から発光層10へ電子を注入するイメージを説明するための図である。
【0057】
左から順に陰極7と陽極8との間に印加する電圧を高くした状態を
図6は示している。
【0058】
まず、陰極7と陽極8との間に電圧V1が印加された場合は陰極7から電子輸送層5には電子が注入されていない。次に、電圧V1が電圧V2に増加した場合には、陰極7から電子親和力ETL1を有する電子輸送層5の第1材料に電子が注入される。次に、電圧V2から電圧V3に増加したときにおいて、電子親和力ETL1を有する電子輸送層5の第1材料から第1量子ドット2に電子が注入されて、第1量子ドット2が赤色光を発する。
【0059】
次に、電圧V3から電圧V4に増加したときにおいて、電子親和力ETL1を有する電子輸送層5の第1材料から電子親和力ETL2を有する電子輸送層5の第2材料に電子が注入される。そして、電圧V4から電圧V5に増加したときにおいて、電子親和力ETL2を有する電子輸送層5の第2材料から第2量子ドット3に電子が注入されて、第2量子ドット3が緑色光を発する。
【0060】
次に、電圧V5から電圧V6に増加したときにおいて、電子親和力ETL2を有する電子輸送層5の第2材料から電子親和力ETL3を有する電子輸送層5の第3材料に電子が注入される。次に、電圧V6から電圧V7に増加したときにおいて、電子親和力ETL3を有する電子輸送層5の第3材料から第3量子ドット4に電子が注入されて、第3量子ドット4が青色光を発する。ここで発光層10から赤色光、緑色光、青色光が同時に発せられて白色を発する。
【0061】
陰極7と電子輸送層5との間の界面近傍では、電子親和力ETL1を有する電子輸送層5の第1材料は、電子親和力ETL2を有する電子輸送層5の第2材料よりも体積比率が大きいことが好ましく、電子親和力ETL2を有する電子輸送層5の第2材料は、電子親和力ETL3を有する電子輸送層5の第3材料よりも体積比率が大きいことが好ましい。電子親和力ETL1を有する電子輸送層5の第1材料は、体積比率が100%であることがより好ましい。電子親和力ETL1を有する第1材料は電子親和力ETL2を有する第2材料よりも陰極7から電子が注入されやすいからである。
【0062】
電子輸送層5と発光層10との間の界面近傍では、電子親和力ETL3を有する電子輸送層5の第3材料は、電子親和力ETL2を有する電子輸送層5の第2材料よりも体積比率が大きいことが好ましく、電子親和力ETL2を有する電子輸送層5の第2材料は、電子親和力ETL1を有する電子輸送層5の第1材料よりも体積比率が大きいことが好ましい。
【0063】
量子ドットの発光効率の低い青色光の第3量子ドット4、緑色光の第2量子ドット3、及び赤色光の第1量子ドット2の順番に、電子輸送層5の対応する第3材料、第2材料、及び第1材料の体積比率が多い方が、発光素子1の発光効率のバランスを向上させることができるからである。
【0064】
陰極7から発光層10に向かっては、電子親和力ETL3を有する電子輸送層5の第3材料と電子親和力ETL2を有する電子輸送層5の第2材料との体積比率が徐々に増加し、電子親和力ETL1を有する電子輸送層5の第1材料の体積比率が減少することが好ましい。
【0065】
電子親和力ETL1を有する第1材料から電子親和力ETL2を有する第2材料へ、そして、電子親和力ETL2を有する第2材料から電子親和力ETL3を有する第3材料へと、陰極7から発光層10に向かう電子の流れる方向通りに電子が注入されていくことに対して障害とならず、電子輸送層5内の電圧を最も低くできるからである。
【0066】
電子親和力ETL1を有する第1材料と電子親和力ETL2を有する第2材料と電子親和力ETL3を有する第3材料とが混合されている混合物を含む電子輸送層5は、例えば、第2材料と第3材料とのナノ粒子混合溶液(体積比率は第2材料<第3材料)をスピン塗布し、乾燥させる前に第1材料のナノ粒子溶液をスピン塗布して形成することができる。
【0067】
また、第1材料、第2材料、及び第3材料のナノ粒子混合溶液の濃度(第1材料、第2材料、及び第3材料の割合)を変えた溶液を複数用意し、上記複数の溶液を複数回塗布して積層することによって層厚方向に濃度分布を持つようにして上記混合物を含む電子輸送層5を形成することもできる。
【0068】
このように、第1量子ドット2、第2量子ドット3、及び第3量子ドット4は、それぞれ注入効率の高い第1材料、第2材料、及び第3材料から電子が注入されるので発光効率を高くすることができる。
【0069】
図7はZnOのナノ粒子半径とバンドギャップ及び電子親和力との間の関係を示すグラフである。
【0070】
電子輸送層5に含まれる混合物の第1材料、第2材料、及び第3材料は、ナノ粒子を含み、ZnOからなることが好ましい。ZnOのナノ粒子は粒径を小さくすると量子効果によりバンドギャップが広がり、電子親和力が小さくなるので、第1材料、第2材料、及び第3材料の粒径を変えることにより、3種類の電子親和力を持つ電子輸送層5を実現することができる。
【0071】
この第1材料のナノ粒子の平均粒径は、4.5nm以上であることが好ましい。この場合、第1材料のナノ粒子の半径は2.25nm以上となり、
図7に示すように、第1材料の電子親和力が、第1量子ドット2の電子親和力に相当する電子親和力3.6eV以上となるからである。
【0072】
第2材料のナノ粒子の平均粒径は、3.5nm以上4.5nm未満であることが好ましい。この場合、第2材料のナノ粒子の半径は1.75nm以上2.25nm以下となり、
図7に示すように、第2材料の電子親和力が、第2発光層3の電子親和力に相当する電子親和力3.3eV以上、第1量子ドット2の電子親和力に相当する電子親和力3.6eV未満相当となるからである。
【0073】
第3材料のナノ粒子の平均粒径は、2.8nm以上3.5nm未満であることが好ましい。この場合、第3材料のナノ粒子の半径は1.4nm以上1.75nm以下となり、
図7に示すように、第3材料の電子親和力が、第3発光層4の電子親和力に相当する電子親和力2.9eV以上、第2量子ドット3の電子親和力に相当する電子親和力3.3eV未満相当となるからである。
【0074】
図8は平均粒径12nmのZn
1-xMg
xOの組成xと電子親和力との間の関係を示すグラフである。
【0075】
電子輸送層5に含まれる混合物の第1材料、第2材料、及び第3材料は、平均粒径12nmのナノ粒子を含み、Zn1-xMgxOからなることが好ましい。Zn1-xMgxOは組成xが変わると電子親和力が変化する。このため、第1材料、第2材料、及び第3材料で組成xを異ならせることにより、3種類の電子親和力を持つ電子輸送層5を実現することができる。
【0076】
第1材料は、上記xが、0以上0.15以下であることが好ましい。この場合、
図8に示すように、第1材料の電子親和力ETL1が第1量子ドット2の電子親和力QD1の3.6eVよりも大きくなるからである。
【0077】
第2材料は、上記xが、0.15よりも大きく0.3以下であることが好ましい。この場合、
図8に示すように、第2材料の電子親和力ETL2が第2量子ドット3の電子親和力QD2の3.3eVよりも大きく、第1量子ドット2の電子親和力QD3の3.6eV以下となるからである。
【0078】
第3材料は、上記xが、0.3よりも大きく0.5以下であることが好ましい。この場合、
図8に示すように、第3材料の電子親和力ETL3が第3量子ドット4の電子親和力QD3の2.9eVよりも大きく、第2量子ドット3の電子親和力QD2の3.3eV以下となるからである。
【0079】
このように、発光素子1は、第1波長の赤色光を発光する第1量子ドット2と第1波長と異なる第2波長の緑色光を発光する第2量子ドット3とを混合した混合物を含む発光層10と、第1量子ドット2及び第2量子ドット3に電子を供給する電子輸送層5と、を有する。
【0080】
電子輸送層5は、第1材料及び第2材料が混合されている混合物を含む。第1量子ドット2の電子親和力は、第1材料の電子親和力以下である。第2材料の電子親和力は、第1材料の電子親和力よりも小さい。第2量子ドット3の電子親和力は、第2材料の電子親和力以下である。
【0081】
電子輸送層5に含まれる第1材料の電子親和力及び第2材料の電子親和力は、互いに0.1eV以上異なることが好ましい。電子親和力の差が0.1eV異なるごとに約50倍電流の注入されやすさが異なるので、適した電子親和力の材料に優先的に電流を流すことができる。
【0082】
電子輸送層5の第1材料及び第2材料は、それぞれ無機化合物からなることが好ましい。無機化合物からなることで信頼性を高くすることができる。
【0083】
量子ドットは、有機発光材料よりも信頼性が高く、塗布法やインクジェット法を用いて容易に形成することができる。
【0084】
発光層10は、第1波長および第2波長と異なる第3波長の青色光を発光する第3量子ドット4をさらに備えることが好ましい。
【0085】
電子輸送層5の混合物に、第3材料がさらに混合されている。第3材料の電子親和力は、第2材料の電子親和力よりも小さい。第3量子ドット4の電子親和力は、第3材料の電子親和力以下である。
【0086】
第1量子ドット2の電子親和力と第2量子ドット3の電子親和力とは互いに異なることが好ましい。これにより、電子親和力が互いに異なる第1量子ドット2と第2量子ドット3との発光効率を電子輸送層5により高くすることができる。
【0087】
第1量子ドット2の電子親和力が第2量子ドット3の電子親和力以上である場合、第1材料の電子親和力が第1量子ドット2の電子親和力以上であり、第1量子ドット2の電子親和力が第2材料の電子親和力以上であり、第2材料の電子親和力が第2量子ドット3の電子親和力以上であることが好ましい。これにより、電子親和力が互いに異なる第1量子ドット2と第2量子ドット3との発光効率を、第1材料と第2材料との混合物を含む電子輸送層5により、高くすることができる。
【0088】
第1材料及び第2材料は、ナノ粒子を含むことが好ましい。ナノ粒子は粒径を小さくすると量子効果によりバンドギャップが広がり、電子親和力が小さくなる。このため、第1材料及び第2材料の粒径を変えることにより、複数種類の電子親和力を持つ電子輸送層5を実現することができる。
【0089】
第1材料及び第2材料は、Zn1-xMgxO(0≦x<1)、により構成され、組成(x)または粒径が互いに異なることが好ましい。Zn1-xMgxO(0≦x<1)のナノ粒子は粒径を小さくすると量子効果によりバンドギャップが広がり、電子親和力が小さくなるので、第1材料及び第2材料の粒径を変えることにより、複数種類の電子親和力を持つ電子輸送層5を実現することができる。
【0090】
第1材料、第2材料、及び第3材料は、ナノ粒子を含み、その電子親和力が小さい順に電子輸送層5に含まれる体積比率が大きいことが好ましい。これにより、電子親和力の小さいナノ粒子へ電子を注入しやすくして、発光効率の低くなる色ほど、発光効率を向上させることができる。
【0091】
第1材料、第2材料、及び第3材料は、ナノ粒子を含み、陰極7との間の界面近傍において、その電子親和力の大きい順に、電子輸送層5に含まれる体積比率が大きいことが好ましい。これにより、陰極7から電子輸送層5に電子が注入されやすくなる。
【0092】
第1材料、第2材料、及び第3材料は、ナノ粒子を含み、発光層10との間の界面近傍において、その電子親和力が小さい順に、電子輸送層5に含まれる体積比率が大きいことが好ましい。これにより、量子ドットの発光効率の低い発光色の順番に発光色に対応する電子輸送層5の材料が多い方が、発光効率のバランスを向上させることができる。
【0093】
第1材料、第2材料、及び第3材料は、ナノ粒子を含み、第1材料、第2材料、及び第3材料のうちの電子親和力の最も大きいナノ粒子は、陰極7側から発光層10側に向かって減少することが好ましい。これにより、電子の流れる向き通りに第1材料、第2材料、第3材料の順番に電子が注入されていくための障害にならず、電子輸送層5内の電圧を最も低くすることができる。
【0094】
電子親和力の最も大きいナノ粒子以外のナノ粒子は、陰極7側から発光層10側に向かって増加することが好ましい。これにより、電子の流れる向き通りに第1材料、第2材料、第3材料の順番に電子が注入されていくための障害にならず、電子輸送層5内の電圧を最も低くすることができる。
【0095】
第1材料、第2材料、及び第3材料は、TiO2、及びSnO2から選択された少なくとも1つと、GaP、AlSb、及びZrO2から選択された少なくとも1つと、GaN、ZnS、ZnTe、Ca2SnO4、及びCaSnO3から選択された少なくとも1つとを含むことが好ましい。これにより、第1材料、第2材料、及び第3材料に異なる材料を用いるので、3種類の電子親和力を持つ電子輸送層5を実現することができる。
【0096】
図9は発光素子1を用いた表示装置11を示す断面図である。前述した構成要素と同様の構成要素には同様の参照符号を付し、その詳細な説明は繰り返さない。
図9に示すように、表示装置11は複数の発光素子1R、1G、及び1Bを備え、発光素子1R、1G、及び1Bの発光方向にそれぞれカラーフィルタ12R、12G、12Bを備えている。カラーフィルタ12R、12G、12Bは発光素子1R、1G、1Bから発した光のうち特定の色の波長のみを透過させるフィルタである。より詳細には、カラーフィルタ12Rは赤色光、カラーフィルタ12Gは緑色光、カラーフィルタ12Bは青色光のみを透過させるフィルタである。また、発光素子1R、1G、1Bは
図9に示すように素子毎に側壁13で分離されていてもよいし、分離されていなくても構わない。
【0097】
側壁13は、陽極8から陰極7まで貫通して、隣接する発光素子1R・1G又は1G・1Bを分離可能である例を示しているが、本発明はこれに限定されず、隣接する陽極8を分離可能に形成されていればよい。また、
図9に示す例とは逆に、基板9上に、陰極7、電子輸送層5、発光層10、正孔輸送層6、陽極8の順番に積層されている場合は、側壁13は隣接する陰極7を分離可能に形成されていればよい。
【0098】
なお、本実施形態では、RGB3色の第1量子ドット2、第2量子ドット3、及び第3量子ドット4の電子親和力が、QD1=3.6eV、QD2=3.3eV、QD3=2.9eVであり、発光波長の短い方の量子ドットの電子親和力が小さい場合の例を示したが、本発明はこれに限定されない。発光波長の短い方の量子ドットの電子親和力が大きい場合にも本発明を適用することができる。例えば、赤色光を発する第1量子ドット2がCdTeを含み、緑色光を発する第2量子ドット3がCdSeを含み、青色光を発する第3量子ドット4がZnSeを含み、各量子ドットの電子親和力が、QD1=3.2eV、QD2=3.3eV、QD3=3.1eVとなり、各量子ドットのイオン化ポテンシャルが、5.2eV、5.6eV、5.8eVとなる場合は、発光波長の短い方の第2量子ドット3の電子親和力QD2=3.3eVが、発光波長の長い方の第1量子ドット2の電子親和力QD1=3.2eVよりも大きくなる。
【0099】
(実施形態2)
図10は実施形態2に係る発光素子1Aの断面図である。前述した構成要素と同様の構成要素には同様の参照符号を付し、その詳細な説明は繰り返さない。
【0100】
基板9上に陰極7、電子輸送層5B、発光層10、正孔輸送層6B、陽極8を順に備える。発光層10は、異なるイオン化ポテンシャルをもつ第1量子ドット2、第2量子ドット3、及び第3量子ドット4とを含んでいる。
【0101】
陰極7は、導電性材料からなり、電子輸送層5Bと電気的に接続される。
【0102】
陽極8は、導電性材料からなり、正孔輸送層6Bと電気的に接続される。
【0103】
陰極7と陽極8との少なくとも一方は透明導電膜からなる。透明導電膜としては、例えばITO、IZO、ZnO、AZO、BZO等や薄層化、ナノ粒子化、ナノワイヤ化したAg、Al、Cu、Au等が用いられる。透明導電膜はスパッタ法や蒸着、塗布等で製膜される。
【0104】
陰極7と陽極8とのいずれか一方は金属で形成しても良い。この金属は、可視光の反射率の高いAl、Cu、Au、Agが好ましい。
【0105】
電子輸送層5Bは、n型酸化物半導体(例えばZnO、Zn1-xMgxO(0≦x<1)、TiO2、SnO2)から形成される。電子輸送層5Bは、ナノ粒子であっても、連続膜であってもよい。塗布やスパッタ法、蒸着等によって電子輸送層5Bは形成できる。
【0106】
正孔輸送層6Bは、異なる2つ以上のイオン化ポテンシャルを持つナノ粒子の混合物であり、無機化合物からなることで発光素子1Aの信頼性を高くすることができる。
【0107】
正孔輸送層6Bは、例えば、Ni1-xMgxO(0≦x<1)でx=0、0.25、0.5で平均粒径12nmのナノ粒子を混合した混合物となっている。イオン化ポテンシャルはそれぞれ5.4eV、5.6eV、5.8eVである。
【0108】
異なるイオン化ポテンシャルを正孔輸送層6Bに持たせるために、Cu2O、NiO、NiO1-x(LaNiO3)xなど異なる材料を正孔輸送層6Bに用いてもよい。それぞれの材料のナノ粒子を公知技術により作製し、エタノール等の有機溶媒に混合した混合液によりスピンコート法やインクジェット法などを用いて正孔輸送層6Bを形成する。
【0109】
本実施形態では、発光層10はコア材料がInPからなる赤色光の第1量子ドット2(イオン化ポテンシャル5.4eV)、CdSeからなる緑色光の第2量子ドット3(イオン化ポテンシャル5.6eV)、ZnSeからなる青色光の第3量子ドット4(イオン化ポテンシャル5.8eV)とした。
【0110】
図11は実施形態1に係る発光素子1に設けられた発光層の電子準位を説明するための図である。
図12は実施形態2に係る発光素子1Aに設けられた発光層の電子準位を説明するための図である。
【0111】
実施形態1では、互いに異なる色で発光する量子ドットは電子親和力が異なるため、電子輸送層5に異なる電子親和力をもつナノ粒子を含む。量子ドットのコア部の材料が同じであればイオン化ポテンシャルはほぼ同じである。これに対して実施形態2では、イオン化ポテンシャルが異なる量子ドットに対して、正孔輸送層6Bに異なるイオン化ポテンシャルをもつナノ粒子を含む。量子ドットのイオン化ポテンシャルは主にコア材料よって変わる。
図12に示すように、例えばコア材料がCdSeであれば約5.6eV、InPであれば約5.4eV、ZnSeであれば約5.8eV、他にInNであれば約6.5eVである。
【0112】
図13は正孔輸送層6Bから第1量子ドット2、第2量子ドット3、及び第3量子ドット4への正孔の注入障壁を説明するための図である。各量子ドットへのホール注入については、電子輸送層5の電子注入と同じ説明ができる。注入障壁高さの大小関係は
図13に示すようになる。
【0113】
単一のイオン化ポテンシャルをもつ正孔輸送層6を用いる場合に比べ、異なるイオン化ポテンシャルをもつナノ粒子を含む正孔輸送層6Bは、第1量子ドット2、第2量子ドット3、及び第3量子ドット4のそれぞれに適した低電圧で正孔を注入することができる。従って、第1量子ドット2、第2量子ドット3、及び第3量子ドット4のそれぞれに対して注入効率の高くなるイオン化ポテンシャルをもつナノ粒子を適宜選択し混合することにより、発光効率の高い発光素子1Aを得ることができる。
【0114】
そのため、正孔輸送層6Bは、量子ドットのコア材料と同じ種類だけ異なるイオン化ポテンシャルをもつことが好ましく、量子ドットのイオン化ポテンシャルが小さい順に、第1量子ドット2のイオン化ポテンシャルをQD1とし、第2量子ドット3のイオン化ポテンシャルをQD2とし、第3量子ドット4のイオン化ポテンシャルをQD3とし、正孔輸送層6Bの第1材料のイオン化ポテンシャルをHTL1とし、正孔輸送層6Bの第2材料のイオン化ポテンシャルをHTL2とし、正孔輸送層6Bの第3材料のイオン化ポテンシャルをHTL3としたときには、HTL1≦QD1<HTL2≦QD2<HTL3≦QD3であることが好ましい。各量子ドットに適した正孔輸送層6Bからのホール注入が可能となり、発光素子1Aの発光効率を高くすることができる。
【0115】
また、イオン化ポテンシャルの差が0.1eV異なるごとに約50倍電流の注入されやすさが異なるので、上記第1材料、第2材料、及び第3材料のお互いのナノ粒子のイオン化ポテンシャルの差は0.1eV以上あることが好ましい。第1量子ドット2、第2量子ドット3、及び第3量子ドット4のうちの適した量子ドットに優先的に電流を流すことができる。
【0116】
また、Ni1-xMgxOは、組成xが大きくなる程、一般にはイオン化ポテンシャルが大きくなる程、キャリア濃度が低下し抵抗率が高くなる。イオン化ポテンシャルの大きいナノ粒子ほど体積比率を多くすることで、イオン化ポテンシャルの大きいナノ粒子の導電率を向上させ、発光効率の低くなる色ほど、発光効率を向上できるので、全体の発光効率をバランス良く高くすることができる。また、陽極8からはイオン化ポテンシャルが小さいナノ粒子に正孔が注入されやすいので、陽極8と正孔輸送層6Bとの間の界面近傍において、イオン化ポテンシャルが小さいナノ粒子が最も体積比率が多い方が好ましい。これにより、陽極8から正孔輸送層6Bに正孔が注入されやすくなる。
【0117】
上記界面近傍で、イオン化ポテンシャルが小さいナノ粒子の体積比率は100%でもよい。
【0118】
このように、発光素子1Aは、第1波長の赤色光を発する第1量子ドット2と、第1波長と異なる第2波長の緑色光を発光する第2量子ドット3とを含む発光層10と、第1量子ドット2及び第2量子ドット3に正孔を供給する正孔輸送層6Bと、を有する。
【0119】
正孔輸送層6Bは、第1材料及び第2材料が混合されている混合物を含む。第1量子ドット2のイオン化ポテンシャルは、第1材料のイオン化ポテンシャル以上である。第2材料のイオン化ポテンシャルは、第1材料のイオン化ポテンシャルよりも大きい。第2量子ドット3のイオン化ポテンシャルは、第2材料のイオン化ポテンシャル以上である。
【0120】
発光素子1Aは、第1波長および第2波長と異なる第3波長の青色光を発光する第3量子ドット4をさらに備えることが好ましい。
【0121】
正孔輸送層6Bの混合物に、第3材料がさらに混合されていることが好ましい。これにより、3種類のイオン化ポテンシャルを持つ正孔輸送層6Bを実現することができる。
【0122】
第3材料のイオン化ポテンシャルが、第2材料のイオン化ポテンシャルよりも大きく、第3量子ドット4のイオン化ポテンシャルが、第3材料のイオン化ポテンシャル以上であることが好ましい。これにより、各量子ドットに適したイオン化ポテンシャルを有する正孔輸送層6Bの材料からのホール注入が可能となり、発光効率を高くすることができる。
【0123】
第1量子ドット2のイオン化ポテンシャルと第2量子ドット3のイオン化ポテンシャルとは互いに異なることが好ましい。これにより、正孔輸送層6Bで発光効率を高くすることができる。
【0124】
第1量子ドット2の材料と第2量子ドット3の材料とは互いに異なることが好ましい。これにより、第1量子ドット2のイオン化ポテンシャルと第2量子ドット3のイオン化ポテンシャルとを互いに異ならせることができる。
【0125】
第1量子ドット2のイオン化ポテンシャルが第2量子ドット3のイオン化ポテンシャルよりも小さい場合、第1材料のイオン化ポテンシャルが第1発光層2のイオン化ポテンシャル以下であり、第1量子ドット2のイオン化ポテンシャルが第2材料のイオン化ポテンシャルよりも小さく、第2材料のイオン化ポテンシャルが第2量子ドット3のイオン化ポテンシャル以下であることが好ましい。これにより、イオン化ポテンシャルが互いに異なる第1量子ドット2と第2量子ドット3との発光効率を、第1材料と第2材料との混合物を含む正孔輸送層6Bにより、高くすることができる。
【0126】
第1材料及び第2材料は、ナノ粒子を含むことが好ましい。これにより、ナノ粒子の組成、材料を異ならせて、複数種類のイオン化ポテンシャルを持つ正孔輸送層6Bを実現することができる。
【0127】
第1材料及び第2材料は、ナノ粒子を含み、Ni1-xMgxO(0≦x<1)、により構成され、組成(x)が互いに異なることが好ましい。これにより、Ni1-xMgxO(0≦x<1)の組成(x)を第1材料及び第2材料で異ならせて、複数種類のイオン化ポテンシャルを持つ正孔輸送層6Bを実現することができる。
【0128】
第1材料、第2材料、及び第3材料は、ナノ粒子を含み、そのイオン化ポテンシャルが大きい順に正孔輸送層6Bに含まれる体積比率が大きいことが好ましい。これにより、イオン化ポテンシャルが大きいナノ粒子へ正孔を注入しやすくして、発光効率の低くなる色ほど、発光効率を向上できる。
【0129】
第1材料、第2材料、及び第3材料は、ナノ粒子を含み、陽極8との間の界面近傍において、そのイオン化ポテンシャルの小さい順に、正孔輸送層6Bに含まれる体積比率が大きいことが好ましい。これにより、陽極8から正孔輸送層6Bに正孔が注入されやすくなる。
【0130】
第1材料、第2材料、及び第3材料は、ナノ粒子を含み、発光層10との間の界面近傍において、そのイオン化ポテンシャルが大きい順に、正孔輸送層6Bに含まれる体積比率が大きいことが好ましい。これにより、イオン化ポテンシャルの大きいナノ粒子へ正孔を注入しやすくして、発光効率の低くなる色ほど、発光効率を向上できる。
【0131】
第1材料、第2材料、及び第3材料は、ナノ粒子を含み、第1材料、第2材料、及び第3材料のうちのイオン化ポテンシャルの最も小さいナノ粒子は、陽極8側から発光層10側に向かって減少することが好ましい。これにより、正孔の流れる向き通りに第1材料、第2材料、第3材料の順番に正孔が注入されていくための障害にならず、正孔輸送層6B内の電圧を最も低くすることができる。
【0132】
イオン化ポテンシャルの最も小さいナノ粒子以外のナノ粒子は、発光層10側に向かって増加することが好ましい。これにより、正孔の流れる向き通りに第1材料、第2材料、第3材料の順番に正孔が注入されていくための障害にならず、正孔輸送層6B内の電圧を最も低くすることができる。
【0133】
図14は実施形態2の発光素子1Aを用いた表示装置11Bの断面図である。前述した構成要素と同様の構成要素には同様の参照符号を付し、その詳細な説明は繰り返さない。
【0134】
図14に示すように、表示装置11Bは複数の発光素子1AR、1AG、及び1ABを備え、発光素子1AR、1AG、及び1ABの発光方向にそれぞれカラーフィルタ12R、12G、12Bを備えている。カラーフィルタ12R、12G、12Bは発光素子1AR、1AG、1ABから発した光のうち特定の色の波長のみを透過させるフィルタである。より詳細には、カラーフィルタ12Rは赤色光、カラーフィルタ12Gは緑色光、カラーフィルタ12Bは青色光のみを透過させるフィルタである。また、発光素子1AR、1AG、1ABは
図14に示すように素子毎に側壁13で分離されていてもよいし、分離されていなくても構わない。
【0135】
側壁13は、陽極8から陰極7まで貫通して、隣接する発光素子1AR・1AG又は1AG・1ABを分離可能である例を示しているが、本発明はこれに限定されず、隣接する陰極7を分離可能に形成されていればよい。
【0136】
発光層10が第1量子ドット2、第2量子ドット3、第3量子ドット4を含む例を挙げたが、本発明はこれに限定されない。例えば本発明はOLED(有機発光ダイオード、Organic Light Emitting Diode)に対しても適用することができる。
【0137】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。さらに、各実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を組み合わせることにより、新しい技術的特徴を形成することができる。
【符号の説明】
【0138】
1 発光素子
2 第1量子ドット(第1発光材料)
3 第2量子ドット(第2発光材料)
4 第3量子ドット(第3発光材料)
5 電子輸送層
6 正孔輸送層
7 陰極
8 陽極
9 基板
10 発光層
11 表示装置
12 カラーフィルタ
13 側壁