(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-06
(45)【発行日】2024-11-14
(54)【発明の名称】気密端子
(51)【国際特許分類】
H01R 9/16 20060101AFI20241107BHJP
【FI】
H01R9/16 101
(21)【出願番号】P 2023551627
(86)(22)【出願日】2022-09-28
(86)【国際出願番号】 JP2022036263
(87)【国際公開番号】W WO2023054512
(87)【国際公開日】2023-04-06
【審査請求日】2024-03-28
(31)【優先権主張番号】P 2021159883
(32)【優先日】2021-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003029
【氏名又は名称】弁理士法人ブナ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大村 遥
【審査官】濱田 莉菜子
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-110265(JP,A)
【文献】特開2019-149304(JP,A)
【文献】特開平11-016620(JP,A)
【文献】実開昭53-053580(JP,U)
【文献】実公昭41-022350(JP,Y1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R43/20
H01R9/00
H01R9/15-9/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の金属スリーブと、
該金属スリーブの内周面に固定され、前記金属スリーブの軸方向に沿って第1貫通孔を有するセラミック基板と、
前記第1貫通孔と同軸上に位置する第2貫通孔を有する環状部材と、
前記第1貫通孔および前記第2貫通孔に挿入され、前記セラミック基板および前記環状部材にろう付けされた柱状の導通部材と、
を含み、
前記環状部材の前記導通部材に対向する内周面が、前記導通部材から離れる方向に向かって湾曲する第1領域を有する、
気密端子。
【請求項2】
前記
環状部材の前記導通部材に対向する内周面は、前記第1領域を複数有する、請求項1に記載の気密端子。
【請求項3】
前記第1領域の曲率は、0.6(1/mm)以上である、請求項1に記載の気密端子。
【請求項4】
前記
環状部材の前記導通部材に対向する内周面と前記導通部材の外周面との間に位置しているろう付け部の空隙率は、前記導通部材の軸を含む断面視で1%以下である、請求項1に記載の気密端子。
【請求項5】
前記環状部材の外周面は、前記
環状部材の前記導通部材に対向する内周面方向に向かって湾曲する第2領域を有する、請求項1に記載の気密端子。
【請求項6】
前記環状部材の外周面は、前記第2領域を複数有する、請求項5に記載の気密端子。
【請求項7】
前記第2領域の曲率は、0.6(1/mm)以上である、請求項5に記載の気密端子。
【請求項8】
前記第1貫通孔は、前記環状部材が設置された側において、逆錐台状に開く第1開口部を有する、請求項1に記載の気密端子。
【請求項9】
前記第1貫通孔は、前記環状部材が設置された側と反対側において、逆錐台状に開く第2開口部を有する、請求項1に記載の気密端子。
【請求項10】
前記第1貫通孔は、前記環状部材が設置された側と反対側において、逆錐台状に開く第2開口部を有する、請求項8に記載の気密端子。
【請求項11】
前記第1開口部および前記第2開口部は、前記第1貫通孔の軸方向に垂直でセラミック基板の厚みの中心を通る仮想面に対して対称である、請求項10に記載の気密端子。
【請求項12】
前記環状部材の上面の上方から前記環状部材の外周面よりも外側に向かって、ろう材がフィレットを備えている、請求項1に記載の気密端子。
【請求項13】
前記第1開口部の内部に、前記環状部材の一部が位置している、請求項8に記載の気密端子。
【請求項14】
前記フィレットは、凸面を備え、該凸面の平均曲率半径は60μm以上190μm以下である、請求項12に記載の気密端子。
【請求項15】
前記セラミック基板の表面に、前記導通部材を囲むように、メタライズ層と、該メタライズ層を被覆するメッキ層とを備えてなり、該メッキ層の表面の粗さ曲線における25%の負荷長さ率の切断レベルと、前記粗さ曲線における75%の負荷長さ率での切断レベルとの差を表す切断レベル差Rδc1の平均値は、前記セラミック基板の表面の露出している部分の粗さ曲線における25%の負荷長さ率での切断レベルと、前記粗さ曲線における75%の負荷長さ率での切断レベルとの差を表す切断レベル差Rδc2の平均値よりも大きい、請求項1に記載の気密端子。
【請求項16】
請求項1~15のいずれかに記載の気密端子を備える、真空ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、気密端子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ターボ分子ポンプなどの真空ポンプでは、真空ポンプの外部から真空空間である内部に電気信号を供給するため、気密端子が使用されている。このような気密端子は、一般的に、筒状の金属スリーブと、金属スリーブの内周面にろう付けされた軸方向に貫通孔を有する円板状の絶縁基体と、貫通孔に固定されたワッシャー(環状部材)を有するリードピン(導通部材)とを含む。
【0003】
このような気密端子として、例えば特許文献1には、絶縁基体の貫通孔周縁部および貫通孔の開口部から200μm~5mmの深さまで貫通孔の内周面に金属層(メタライズ層)が形成された気密端子が記載されている。この金属層に、ワッシャーおよびリードピンがろう付けによって固定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示に係る気密端子は、筒状の金属スリーブと、金属スリーブの内周面に固定され、金属スリーブの軸方向に沿って第1貫通孔を有するセラミック基板と、第1貫通孔と同軸上に位置する第2貫通孔を有する環状部材と、第1貫通孔および第2貫通孔に挿入され、セラミック基板および環状部材にろう付けされた柱状の導通部材とを含む。環状部材の導通部材に対向する内周面が、導通部材から離れる方向に向かって湾曲する第1領域を有する。本開示に係る真空ポンプは、この気密端子を備える。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】本開示の一実施形態に係る気密端子を示す平面図である。
【
図2】
図1に示すX-X線で切断した際の断面を説明するための説明図である。
【
図3】
図2に示す領域Yを説明するための拡大説明図である。
【
図4】
図2に示す領域Yの他の実施形態を説明するための拡大説明図である。
【
図5】
図2に示す領域Yの他の実施形態を説明するための拡大説明図である。
【
図6】
図2に示す領域Yの他の実施形態を説明するための拡大説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
上記のように、金属層に、ワッシャーおよびリードピンをろう付けによって固定する際、ワッシャーの内周面の真直度が小さく、ワッシャーの内周面とリードピンの外周面との間隔が広い場合、リードピンが絶縁基体に対して傾いて固定されることがある。このような場合、リードピンの先端部に接続する配線作業が困難になることがある。一方、ワッシャーの内周面とリードピンの外周面との間隔が狭い場合、ワッシャーの内周面とリードピンの外周面との間に、十分なろう材を流すことができない。その結果、ワッシャーの内周面とリードピンの外周面との間に多くの空隙が残存し、接合強度および気密性が乏しくなる場合がある。
【0008】
本開示の課題は、リードピンの先端部に接続する配線作業が容易であり、かつ内周面と外周面との間に生じるおそれのある空隙が抑制される気密端子を提供することである。
【0009】
上記のように、本開示に係る気密端子において、環状部材の導通部材に対向する内周面が、外周面方向に向かって湾曲する第1領域を有する。このような構造を有することによって、環状部材の内周面に対するろう材の接触面積を増やすことができる。したがって、本開示に係る気密端子によれば、リードピンの先端部に接続する配線作業が容易であり、かつ内周面と外周面との間に生じるおそれのある空隙が抑制される。
【0010】
本開示の一実施形態に係る気密端子を、
図1~3に基づいて説明する。
図1に示す一実施形態に係る気密端子1は、金属スリーブ2、セラミック基板3および導通部材4を含む。
図1は、一実施形態に係る気密端子1を示す平面図である。
【0011】
金属スリーブ2は筒状を有しており、筒状であれば、円筒状、角筒状(例えば、三角筒状、四角筒状、五角筒状、六角筒状など)など形状は限定されない。金属スリーブ2の大きさは、気密端子1を備える装置などに応じて適宜設定すればよい。金属スリーブ2の長さは、例えば、15mm以上30mm以下であり、最外周の外径は20mm以上30mm以下である。角筒状の場合の外径は、最も長い外縁の長さを意味する。金属スリーブ2は、例えば、炭素鋼、低合金鋼、工具鋼、ステンレス鋼、鉄、銅、銅合金、チタン、チタン合金、モリブデン、モリブデン合金、Fe-Ni合金、Fe-Ni-Cr-Ti-Al合金、Fe-Cr-Al合金、Fe-Co-Cr合金Fe-Co系合金、Fe-Co-C系合金、Fe-Ni系合金またはFe-Ni-Co系合金などの金属で形成されている。
【0012】
炭素鋼とは、Feと0.02~2.14質量%のCとの合金であり、C以外にSi、Mn、PおよびSが含まれる。このような炭素鋼としては、例えば、JIS G 4051:2016で規定されるS10C、S12C、S15C、S17C、S20C、S22C、S25C、S28C、S30C、S33C、S35C、S38C、S40C、S43C、S45C、S48C、S50C、S53C、S55C、S58C、S60C、S65C、S70C、S75Cなどが挙げられる。
【0013】
低合金鋼とは、Al、B、Co、Cr、Cu、La、Mo、Nb、Ni、Pb、Se、Te、Ti、V、WおよびZrの少なくともいずれかを含み、これらの元素の含有量の合計が5質量%以下の炭素鋼をいう。
【0014】
工具鋼は、JIS G 4401:2009で規定される炭素工具鋼材およびJIS G 4404:2006で規定される合金工具鋼材をいう。
【0015】
ステンレス鋼とは、Feと10.5質量%以上のCrとの合金であり、Cの含有量が1.2%以下のものをいい、これ以外の成分は、例えば、ISO 15510:2014で規定される。ステンレス鋼は、例えば、SUS304、SUS304L、SUS304ULC、SUS310ULC、SUSXM15J1などが挙げられる。
【0016】
セラミック基板3は、金属スリーブ2内で、後述する導通部材4を固定するための部材である。セラミック基板3は、
図1および2に示すように、セラミック基板3の外周面と金属スリーブ2の内壁面とで固定されている。すなわち、セラミック基板3は、金属スリーブ2の内径に応じて形成される。セラミック基板3の厚みは、導通部材4を固定し得る厚みであればよく、例えば、4mm以上10mm以下である。
図2は、
図1に示すX-X線で切断した際の断面を説明するための説明図である。
【0017】
セラミック基板3は、セラミックスで形成されていれば、限定されない。このようなセラミックスとしては、例えば、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、炭化珪素または窒化珪素を主成分とするセラミックスなどが挙げられる。
【0018】
本明細書において「主成分」とは、セラミックスを構成する成分の合計100質量%における80質量%以上を占める成分をいう。セラミックスに含まれる各成分の同定は、CuKα線を用いたX線回折装置で行い、各成分の含有量は、例えばICP(InductivelyCoupled Plasma)発光分光分析装置または蛍光X線分析装置により求めればよい。
【0019】
セラミック基板3は、金属スリーブ2の軸方向に沿って第1貫通孔3aを有する。第1貫通孔3aは、導通部材4を挿入するための貫通孔であり、導通部材4の外径に応じて、第1貫通孔3aの径は適宜設定される。第1貫通孔3aは、セラミック基板3に少なくとも1つ形成されていればよく、挿入される導通部材4の数に応じて、適宜設定される。
【0020】
図2に示すように、セラミック基板3の表面に環状部材5が位置している。環状部材5は、ワッシャーに相当し、例えば、炭素鋼、低合金鋼、工具鋼、ステンレス鋼、鉄、銅、銅合金、チタン、チタン合金、モリブデン、モリブデン合金、Fe-Ni合金、Fe-Ni-Cr-Ti-Al合金、Fe-Cr-Al合金、Fe-Co-Cr合金Fe-Co系合金、Fe-Co-C系合金、Fe-Ni系合金またはFe-Ni-Co系合金などの金属で形成されている。炭素鋼、低合金鋼、工具鋼およびステンレス鋼の定義は、上述した通りである。
【0021】
環状部材5は、セラミック基板3の幅および厚みよりも小さく、導通部材4を挿入し得る大きさであれば限定されない。環状部材5の大きさは、例えば、環状部材5の外径は、導通部材4の外径の1.2倍以上2倍以下程度であり、特に、1.4倍以上1.8倍以下であるとよい。環状部材5の厚みは、0.1mm以上0.5mm以下程度である。
【0022】
環状部材5は、セラミック基板3に形成された第1貫通孔3aと同軸上に位置する第2貫通孔5aを有する。第2貫通孔5aは、導通部材4を挿入するための貫通孔であり、導通部材4の外径に応じて、第2貫通孔5aの径は適宜設定される。
【0023】
導通部材4はリードピンに相当し、円柱状、角柱状(例えば、三角柱状、四角柱状、五角柱状、六角柱状など)など柱状を有していれば、形状は限定されない。導通部材4の長さおよび外径は、例えば、金属スリーブ2の大きさに応じて適宜設定される。導通部材4は、例えば、銅、無酸素銅(例えば、JIS H 3100:2012に定める合金番号がC1020あるいはJIS H 3510:2012に定める合金番号がC1011など)などの金属で形成されている。導通部材4は、少なくとも1つ含まれていればよく、気密端子1の用途などに応じて、適宜設定すればよい。
【0024】
導通部材4は、セラミック基板3に形成された第1貫通孔3aおよび環状部材5に形成された第2貫通孔5aに挿入され、セラミック基板3に固定されている。具体的には、セラミック基板3の表面において、環状部材5を被覆するように、ろう材6を用いてろう付けされている。ろう材6としては、例えば、Ag-Cu-Tiろう、BAg-8、BAg-8A、BAg-8B、BAg-9などが挙げられる。Ag-Cu-Tiろうは、例えば、Ag、CuおよびTiの合計100質量%のうち、例えば、Cuが35~50質量%、Tiが1~8質量%、残部が銀(Ag)である。
【0025】
気密端子1において環状部材5は、
図3に示すように、導通部材4に対向する内周面が、外周面方向に向かって湾曲する第1領域51を有する。
図3は、
図2に示す領域Yを説明するための拡大説明図である。環状部材5が、このような第1領域51を有することによって、環状部材5の内周面に対するろう材6の接触面積を広げることができる。その結果、気密性および導通部材4に対する環状部材5の接合強度を向上させることができる。
【0026】
環状部材5の内周面において、第1領域51は1か所のみであってもよく、複数存在していてもよい。環状部材5の内周面が、複数の第1領域51を有することによって、環状部材5の内周面に対するろう材6の接触面積をより広げることができる。その結果、気密性および導通部材4に対する環状部材5の接合強度をより向上させることができる。
【0027】
第1領域51の曲率は限定されず、例えば0.6(1/mm)以上であるのがよい。第1領域51が複数存在している場合、それぞれの第1領域51において、曲率が0.6(1/mm)以上であるのがよい。第1領域51の曲率が0.6(1/mm)以上であると、環状部材5の内周面に対するろう材6の接触面積をより広げることができる。その結果、気密性および導通部材4に対する環状部材5の接合強度をより向上させることができる。第1領域51の曲率の上限は、例えば1.2(1/mm)であってもよい。
【0028】
第1領域51の曲率を求めるには、まず、走査型電子顕微鏡を用いて、導通部材4の軸を含む断面を対象にして環状部材5全体を撮影する。撮影された画像に表示された環状部材5の内周面をトレースすることによって第1領域51の曲率を求めればよい。画像の倍率は、例えば、35倍であるが、環状部材5全体が撮影されるように適宜倍率を調整すればよい。
【0029】
環状部材5を長期間にわたって固定するために、環状部材5の内周面と導通部材4の外周面との間に挟設されるろう付け部において、空隙は少ない方がよい。具体的には、環状部材5の内周面と導通部材4の外周面との間に挟設されるろう付け部の空隙率は、導通部材4の軸を含む断面視で1%以下であるのがよい。ここで、ろう付け部の面積とは、上記画像を対象とし、環状部材5の内周面と導通部材4の外周面との間に挟設された部分のみ(すなわち、環状部材5の上面より上側に位置するろう材6および環状部材5の下面より下側に位置するろう材6を含まない)の面積である。空隙率とは、ろう付け部の面積100%とした場合、このろう付け部に内在する空隙の百分率である。
【0030】
図3に示すように、環状部材5の外周面には、内周面方向に向かって湾曲する第2領域52が、さらに形成されていてもよい。環状部材5が、このような第2領域52を有することによって、環状部材5の外周面に対するろう材6の接触面積を広げることができる。その結果、外周側から衝撃が加えられても、環状部材5を長期間にわたって固定することができる。
【0031】
環状部材5の外周面において、第2領域52は1か所のみであってもよく、複数存在していてもよい。環状部材5の外周面が、複数の第2領域52を有することによって、環状部材5の外周面に対するろう材6の接触面積をより広げることができる。その結果、外周側から衝撃が加えられても、環状部材5をより長期間にわたって固定することができる。
【0032】
第2領域52の曲率は限定されず、例えば0.6(1/mm)以上であるのがよい。第2領域52が複数存在している場合、それぞれの第2領域52において、曲率が0.6(1/mm)以上であるのがよい。第2領域52の曲率が0.6(1/mm)以上であると、環状部材5の外周面に対するろう材6の接触面積をより広げることができる。その結果、外周側から衝撃が加えられても、環状部材5をより長期間にわたって固定することができる。第2領域52の曲率の上限は、例えば1.2(1/mm)であってもよい。第2領域52の曲率は、第1領域51の曲率を求めた方法と同じ方法によって求めることができる。
【0033】
図3に示すように、セラミック基板3に形成された第1貫通孔3aは、環状部材5が設置された側において、逆錐台状に開く第1開口部3a’を有していてもよい。第1開口部3a’が逆錐台状に開く形状を有していると、逆錐台状以外の形状を有する場合よりも、第1開口部3a’付近におけるセラミック基板3の応力が分散される。その結果、加熱および冷却が繰り返されても、セラミック基板3にクラックなどが発生しにくくなり、長期間にわたって使用することができる。逆錐台状は、導通部材4の形状(第1貫通孔3aの形状)に応じて、逆円錐台状、逆角錐台状などであり得る。
図1に示すように、導通部材4が円柱状の場合、逆錐台状は逆円錐台状となる。
【0034】
図示していないが、セラミック基板3に形成された第1貫通孔3aは、環状部材5が設置された側と反対側において、逆錐台状に開く第2開口部を有していてもよい。第2開口部が逆錐台状に開く形状を有していると、逆錐台状以外の形状を有する場合よりも、第2開口部付近におけるセラミック基板3の応力が分散される。その結果、加熱および冷却が繰り返されても、セラミック基板3にクラックなどが発生しにくくなり、長期間にわたって使用することができる。逆錐台状は、導通部材4の形状(第1貫通孔3aの形状)に応じて、逆円錐台状、逆角錐台状などであり得る。
図1に示すように、導通部材4が円柱状の場合、逆錐台状は逆円錐台状となる。
【0035】
セラミック基板3に形成された第1貫通孔3aにおいて、第1開口部3a’と第2開口部とは、第1貫通孔3aの軸方向に垂直でセラミック基板3の厚みの中心を通る仮想面に対して対称であるのがよい。このような構成によって、セラミック基板3の厚み方向(軸方向)における応力の偏在が抑制される。その結果、セラミック基板3にクラックなどが発生しにくくなり、長期間にわたって使用することができる。
【0036】
図3に示すように、環状部材5の上面の上方から環状部材5の外周面よりも外側に向かって、ろう材6がフィレットを形成していてもよい。ろう材6がフィレットを形成していることによって、セラミック基板3、導通部材4および環状部材5に対するろう材6の接触面積を広げることができる。セラミック基板3の表面に、メタライズ層(図示しない)と、メタライズ層を被覆するメッキ層(図示しない)とを備えている場合には、セラミック基板3に代え、メッキ層に対するろう材6の接触面積を広げることができる。その結果、外側に向かって引っ張る力が加わっても剥離しにくくなり、長期間にわたって使用することができる。
【0037】
セラミック基板3の表面に、導通部材4を囲むように、メタライズ層と、メタライズ層を被覆するメッキ層とを備えている場合には、メッキ層の表面の粗さ曲線における25%の負荷長さ率の切断レベルと、粗さ曲線における75%の負荷長さ率での切断レベルとの差を表す切断レベル差Rδc1の平均値は、セラミック基板3の表面の露出している部分の粗さ曲線における25%の負荷長さ率での切断レベルと、粗さ曲線における75%の負荷長さ率での切断レベルとの差を表す切断レベル差Rδc2の平均値よりも大きくてもよい。
【0038】
切断レベル差Rδc1の平均値が切断レベル差Rδc2の平均値よりも大きい場合、ろう付け部のアンカー効果が高くなるため、メッキ層に対するろう付け部の接合強度を高くすることができる。この場合、切断レベル差Rδc2の平均値は切断レベル差Rδc1の平均値よりも小さくなる。そのため、セラミック基板3の表面とメタライズ層との間に空隙が生じにくい状態になり、セラミック基板3に対するメタライズ層の密着性が向上する。さらに、メタライズ層の厚みのばらつきも抑制される。
【0039】
切断レベル差Rδc1およびRδc2は、形状解析レーザ顕微鏡((株)キーエンス製、超深度カラー3D形状測定顕微鏡(VK-X1100またはその後継機種))を用いて測定することができる。測定条件としては、照明方式を同軸照明、倍率を60倍、カットオフ値λsを無し、カットオフ値λcを0.8mm、カットオフ値λfを無し、終端効果の補正を有りとする。測定は、導通部材4の周囲のメッキ層の表面およびセラミック基板3の表面の露出している部分を対象とし、例えば、1か所当たりの測定範囲を5657μm×4232mとする。切断レベル差Rδc1を求める場合、メッキ層の表面に、導通部材4の軸心を中心とする測定対象となる円周C1を描く。円周1本当たりの長さは、例えば、6.2mm以上6.6mm以下である。切断レベル差Rδc2を求める場合、セラミック基板3の表面の露出している部分に、円周C1と同軸上に円周C2を描く。円周1本当たりの長さは、例えば、7.8mm以上8.3mm以下である。切断レベル差Rδc1およびRδc2のそれぞれの測定値は、導通部材4の本数と同数になるように求め、それぞれの平均値を算出すればよい。導通部材4が1本の場合は、切断レベル差Rδc1の測定値と、切断レベル差Rδc2の測定値とを比べればよい。
【0040】
例えば、切断レベル差Rδc1の平均値は、4μm以上7μm以下であり、切断レベル差Rδc2の平均値は、1μm以上2μm以下である。特に、切断レベル差Rδc1の平均値と、切断レベル差Rδc2の平均値との差は、2μm以上5μm以下であるとよい。
【0041】
メタライズ層は、例えば、モリブデンを主成分とし、マンガンを含んでいる。この場合、メタライズ層を構成する成分100質量%のうち、例えば、マンガンの含有量が10質量%以上30質量%以下であって、残部がモリブデンである。メタライズ層の厚みは、例えば、数10μmである。メッキ層は、例えば、ニッケルを主成分とし、リンやホウ素を含んでいてもよい。メッキ層の厚みは、例えば、数μmである。
【0042】
図2に示す領域Yの他の実施形態を
図4に基づいて説明する。
図4は、図2に示す領域Yの他の実施形態を説明するための拡大説明図である。
図4に示すように、ろう材6の断面の輪郭は、凹面7a、7bを有してもよい。凹面7a、7bを有しているので、凹面7a、7bが無い場合に比べて、ろう材6の体積を減少させることができる。このため、セラミック基板3にかかる応力が減少し、セラミック基板3のクラックの発生を特に抑制することができる。特に、凹面7aを有しているので、セラミック基板3にかかる応力が小さくなる。
【0043】
凹面7aと7bとの境界には、凸面8が形成される。凸面8の頂部は、環状部材5の上面と外周面との交線に近接していてもよい。凸面8の頂部が環状部材5の上面と外周面との交線に近接していると、凸面8に近い箇所は、ろう材の厚みが薄くなる。このため、セラミック基板3にかかる応力が減少し、セラミック基板3のクラックの発生を特に抑制することができる。
【0044】
凸面8の平均曲率半径は60μm以上190μm以下であってもよい。凸面8の平均曲率半径が60μm以上190μm以下であると、セラミック基板3に対する導通部材4の接合強度が向上する。さらに、導通部材4が金属スリーブ2の軸方向に沿って複数配置されている場合に、隣り合う導通部材4同士がろう材6によって短絡することを抑制することができる。ここで、導通部材4が円柱状であれば、凸面8は、導通部材4を囲む環状となる。
【0045】
凸面8の平均曲率半径は、形状解析レーザ顕微鏡((株)キーエンス製、超深度カラー3D形状測定顕微鏡(VK-X1100またはその後継機種))を用いて測定することができる。測定条件としては、照明方式を同軸照明、倍率を120倍、凸面8を含む測定範囲を、例えば、1か所当たり、2792μm×2093μmに設定して、プロファイル計測を行えばよい。具体的には、まず、1つの測定範囲において、導通部材4側からセラミック基板3側に向かって凸面8を含むように測定対象とする線を4本引く。
【0046】
この線1本当たりの長さは、例えば、200μm以上300μm以下である。測定範囲は、少なくとも3か所設定し、測定対象とする線は少なくとも12本とする。測定対象とした12本の線から得られた測定値の平均値を凸面8の平均曲率半径とする。
【0047】
図2に示す領域Yのさらに他の実施形態を
図5に基づいて説明する。
図5は、図2に示す領域Yの他の実施形態を説明するための拡大説明図である。
図5に示すように、セラミック基板3の第1開口部3a’の内部に環状部材5の一部が位置してもよい。つまり、環状部材5の下面は、セラミック基板3の表面から第1開口部3a’側に第1貫通孔3aの軸方向に距離Dの位置に位置してもよい。
図5のような構造を有していると、貫通孔3a内のろう材6の体積が、環状部材5によって低減する。このため、貫通孔3aに近接するセラミック基板3にかかる応力が低減し、セラミック基板3のクラックの発生を特に抑制することができる。
【0048】
図2に示す領域Yのさらに他の実施形態を
図6に基づいて説明する。
図6は、図2に示す領域Yの他の実施形態を説明するための拡大説明図である。
図6に示すように、導通部材4の外周面と環状部材5の内周面との距離が、均一でなくてもよい。
図6では、導通部材4の外周面と環状部材5の内周面との距離が紙面の左側ではW1であり、紙面の右側ではW2であり、W1>W2である。このような構造を有していることが好ましい。その理由は次のように推定される。W1がW2よりも大きいと、紙面の左側の領域では、第1領域51と導通部材4との間にあるろう材6の体積が増加する。W1がW2よりも大きいと、紙面の左側の領域では、環状部材5の上面と外周面との交線と凸面8との距離を小さくすることができる。
【0049】
一方、紙面の右側の領域では、第1領域51と導通部材4との間にあるろう材6の体積が増加する。紙面の右側の領域では、第1領域51と導通部材4との間にあるろう材6の体積が減少する。これらのように、ろう材6を不均一に分布させることによって、セラミック基板3の第1開口部3a’の一部分に局部的な応力が集中することが抑制される。その結果、セラミック基板3のクラックの発生を特に抑制することができる。
【0050】
一実施形態に係る気密端子1は、例えば、次の手順で製造される。まず、金属スリーブ2を準備する。次いで、この金属スリーブ2の内周面にセラミック基板3を固定する。セラミック基板3に形成された第1貫通孔3aと、環状部材5に形成された第2貫通孔5aとが重なるように、セラミック基板3に環状部材5を載置する。次いで、第1貫通孔3aおよび第2貫通孔5aに導通部材4を挿入し、環状部材5を被覆するように、ろう材6でセラミック基板3と、導通部材4および環状部材5とを固定する。ろう材6の質量やろう付けの温度を調整することにより、環状部材5の内周面と導通部材4の外周面との間に挟設されるろう付け部の空隙率、フィレットの形成形状を制御することができる。
【0051】
セラミック基板3の表面に、導通部材4を囲むように、メタライズ層と、メタライズ層を被覆するメッキ層とを備えている場合には、メッキ層の表面の粗さ曲線における25%の負荷長さ率の切断レベルと、粗さ曲線における75%の負荷長さ率での切断レベルとの差を表す切断レベル差Rδc1の平均値を、セラミック基板3の表面の露出している部分の粗さ曲線における25%の負荷長さ率での切断レベルと、粗さ曲線における75%の負荷長さ率での切断レベルとの差を表す切断レベル差Rδc2の平均値よりも大きくするには、セラミック基板3の表面に、予め、研削あるいは研磨を施しておけばよい。このようにして、一実施形態に係る気密端子1が得られる。
【0052】
次に、
図4に示す凹部7a、7bおよび凸部8を有する他の実施形態に係る気密端
子を製造するには、例えば、次の手順で製造される。まず、金属スリーブ2を準備する。次いで、この金属スリーブ2の内周面にセラミック基板3を固定する。別途、環状部材5には、予めろう材6を被覆しておく。ろう材6が被覆された環状部材5は、例えば、ろう材6の微粉末と有機溶剤等からなるペーストを、環状部材5の周囲全体すなわち上面、下面、内周面および外周面に塗布し、加熱冷却することによって作製することができる。
【0053】
セラミック基板3に形成された第1貫通孔3aと、環状部材5に形成された第2貫通孔5a(予めろう材6が被覆されている。)とが重なるように、セラミック基板3に環状部材5を載置する。次いで、第1貫通孔3aおよび第2貫通孔5aに導通部材4を挿入し、環状部材5を被覆するように、ろう材6でセラミック基板3と、導通部材4および環状部材5とを固定する。このようにして、他の実施形態に係る気密端子が得られる。
【0054】
図5に示すセラミック基板3の第1開口部3a’の内部に環状部材5の一部が位置している
さらに他の実施形態に係る気密端
子を製造するには、例えば、次の手順で製造される。まず、金属スリーブ2を準備する。次いで、この金属スリーブ2の内周面にセラミック基板3を固定する。セラミック基板3に形成された第1貫通孔3aと、環状部材5に形成された第2貫通孔5aとが重なるように、セラミック基板3に環状部材5を載置する。環状部材5を載置するときに、環状部材5の下面を、第1貫通孔3aの第1開口部3a’の内側に位置させてから、環状部材5を固定する。次いで、第1貫通孔3aおよび第2貫通孔5aに導通部材4を挿入し、環状部材5を被覆するように、ろう材6でセラミック基板3と、導通部材4および環状部材5とを固定する。このようにして、
さらに他の実施形態に係る気密端
子が得られる。
【0055】
図6に示す距離W1とW2が異なる気密端
子を製造するには、例えば、次の手順で製造される。第1の製造方法として、まず、金属スリーブ2を準備する。次いで、この金属スリーブ2の内周面にセラミック基板3を固定する。セラミック基板3に形成された第1貫通孔3aと、環状部材5に形成された第2貫通孔5aとが重なるように、セラミック基板3に環状部材5を載置する。次いで、第1貫通孔3aおよび第2貫通孔5aに、導通部材4と環状部材5の間の間隔が不均一となるように導通部材4を挿入する。その後、環状部材4と導通部材5をろう材6で固定する。
【0056】
第2の製造方法として、まず、金属スリーブ2を準備する。次いで、この金属スリーブ2の内周面にセラミック基板3を固定する。セラミック基板3に形成された第1貫通孔3aと、環状部材5に形成された第2貫通孔5aとが重なるように、セラミック基板3に環状部材5を載置する。次いで、第1貫通孔3aおよび第2貫通孔5aに導通部材4を挿入する。ろう材6で固定する前に、環状部材5の軸方向が鉛直方向に対して10~30°傾斜するようにセラミック基板3を傾斜させる。その後、環状部材5およびセラミック基板3の傾斜した状態を保持しながら、ろう材6を加熱、冷却し、導通部材4および環状部材5とを固定する。このようにして、距離W1とW2が異なる気密端子が得られる。
【0057】
あるいは、セラミック基板3に、導通部材4および環状部材5を予めろう材6で固定した後に、金属スリーブ2の内周面にセラミック基板3を固定してもよい。導通部材4に対向する内周面が、導通部材4から離れる方向に向かって湾曲する第1領域51を有する環状部材5は、予め、金属の板状体を準備し、順次、レジスト塗布、マスク露光、現像、エッチング、レジスト剥離を行って得ることができる。
【0058】
一実施形態に係る気密端子1は、種々の装置において使用される。このような装置としては、例えば、真空ポンプや、プラズマ成膜装置、プラズマエッチング装置、プラズマアッシング装置等のプラズマ処理装置などが挙げられる。
【符号の説明】
【0059】
1 気密端子
2 金属スリーブ
3 セラミック基板
3a 第1貫通孔
3a’ 第1開口部
4 導通部材
5 環状部材
5a 第2貫通孔
51 第1領域
52 第2領域
6 ろう材
7a、7b 凹面
8 凸面