(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-06
(45)【発行日】2024-11-14
(54)【発明の名称】ペリクルの製造に用いられるためのSiメンブレン構造体、及びペリクルの製造方法
(51)【国際特許分類】
G03F 1/62 20120101AFI20241107BHJP
G03F 1/80 20120101ALI20241107BHJP
【FI】
G03F1/62
G03F1/80
(21)【出願番号】P 2023567498
(86)(22)【出願日】2021-12-17
(86)【国際出願番号】 JP2021046825
(87)【国際公開番号】W WO2023112330
(87)【国際公開日】2023-06-22
【審査請求日】2024-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113365
【氏名又は名称】高村 雅晴
(74)【代理人】
【識別番号】100209336
【氏名又は名称】長谷川 悠
(74)【代理人】
【識別番号】100218800
【氏名又は名称】河内 亮
(72)【発明者】
【氏名】近藤 厚男
(72)【発明者】
【氏名】柏屋 俊克
(72)【発明者】
【氏名】強力 尚紀
【審査官】佐藤 海
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-150064(JP,A)
【文献】特開2019-091001(JP,A)
【文献】特開2005-043895(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 1/62
G03F 1/80
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペリクルの製造に用いられるためのSiメンブレン構造体であって、
Siメンブレンと、
前記Siメンブレンの一方の面の外周に沿って設けられるSiフレームと、
を備え、前記Siメンブレンの前記Siフレーム側の面に、互いに個別化された複数のセグメントを画定するように凹凸パターン及び/又は欠陥パターンが施されている、Siメンブレン構造体。
【請求項2】
前記凹凸パターンは、前記セグメントの各々の内部に凸部が位置し、かつ、前記セグメントの各々の外周部に凹部が位置するパターンである、請求項1に記載のSiメンブレン構造体。
【請求項3】
前記欠陥パターンは、溝、切り込み、及びクラックからなる群から選択される少なくとも1種の欠陥で構成される、請求項1又は2に記載のSiメンブレン構造体。
【請求項4】
前記Siフレームの前記Siメンブレンと反対側の面がSiO
2膜で被覆されている、請求項1~3のいずれか一項に記載のSiメンブレン構造体。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載のSiメンブレン構造体の前記Siフレームと反対側の面にペリクル膜を形成し、その後、
前記SiメンブレンをXeF
2ガスでエッチングして除去し、それにより前記ペリクル膜をその外縁が前記Siフレームで支持された自立膜とすること
を含む、ペリクルの製造方法。
【請求項6】
Siメンブレンと、前記Siメンブレンの一方の面の外周縁に沿って設けられるSiフレームとを備えた、Siメンブレン構造体の、前記Siフレームと反対側の面にペリクル膜を形成し、
前記Siメンブレンの前記Siフレーム側の面に、互いに個別化された複数のセグメントを画定するように凹凸パターン及び/又は欠陥パターンを形成し、その後、
前記SiメンブレンをXeF
2ガスでエッチングして除去し、それにより前記ペリクル膜をその外縁が前記Siフレームで支持された自立膜とすること
を含む、ペリクルの製造方法。
【請求項7】
前記欠陥パターンの形成が、レーザー照射により行われる、請求項6に記載のペリクルの製造方法。
【請求項8】
前記ペリクル膜が、Ni、Al、Be、Cr及びGaからなる群から選択される少なくとも1種の金属で構成される主層を有する、請求項5~7のいずれか一項に記載のペリクルの製造方法。
【請求項9】
前記ペリクル膜は、
主層と、前記主層の少なくとも片面を覆う保護層
とを備える、請求項5~
7のいずれか一項に記載のペリクルの製造方法。
【請求項10】
前記主層が、Ni、Al、Be、Cr及びGaからなる群から選択される少なくとも1種の金属で構成される、請求項9に記載のペリクルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペリクルの製造に用いられるためのSiメンブレン構造体、及びペリクルの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体製造プロセスにおける微細化が年々進行しており、各工程で様々な改良がなされている。特に、フォトリソグラフィ工程においては、従来のArF露光の波長193nmに代えて、波長13.5nmのEUV(極端紫外線)光が使用され始めた。その結果、波長が一気に1/10以下になり、その光学的特性は全く異なるものとなった。しかし、EUV光に対して高透過率を有する物質が無いため、例えばフォトマスク(レチクル(reticle))のパーティクル付着防止膜であるペリクル(pellicle)膜が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1(特許第6858817号公報)には、EUV放射に実質的に透明な材料を含むコア層と、IR放射を吸収する材料を含むキャップ層とを備えたペリクル膜が開示されている。例えば、この文献には、B又はBeコア層を有し、Ru又はMoキャップ層を被せたペリクルが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【0005】
特許文献1に開示されるような層構成のペリクル膜を作製しようと試みる場合、Si基板上にペリクル膜を形成した後、Si基板の不要部分をエッチングで除去して自立膜化することが考えられる。
図7A及び7Bにそのような従来の製造プロセスの一例が示される。この従来プロセスにおいては、まず、Siウェハ120を用意する(
図7A(a))。このSiウェハ120の両面に化学気相成長(CVD)又は熱酸化によりSiO
2膜122を100~1000nmの厚さに形成する(
図7A(b))。Siウェハ120の片面又は両面にレジストを塗布し、片面に所定サイズのレジストの穴ができるように、露光及び現像を行いSiO
2エッチング用のレジストマスク124を形成する(
図7A(c))。この基板の一方の面をフッ酸でウェットエッチングすることにより、SiO
2膜122の露出部分をエッチング除去してSiO
2マスク122aを作製する(
図7A(d))。レジストマスク124を除去した後、TMAH(水酸化テトラメチルアンモニウム)液によりSiをエッチングしてSiウェハ120を厚さ10~50μmになるように薄くする(
図7A(e))。Siエッチングしていない面に形成してあるSiO
2膜122をフッ酸により除去及び洗浄して、レーザーLで所定のサイズにダイシングする(
図7A(f))。こうして、Siウェハ120の中央にキャビティ126を備えた構造体、すなわちSiメンブレン112とその外周に沿って設けられるSiフレーム114とを有するSiメンブレン構造体110を得る(
図7B(g))。スパッタリングにより、Siメンブレン構造体110に、保護層134(例えば厚さ2nmのRu層)を成膜し(
図7B(h))、その上に主層132(例えば厚さ30~50nmのBe層)を成膜し(
図7B(i))、その上に保護層134(例えば厚さ2nmのRu層)を更に成膜して(
図7B(j))、ペリクル膜130とする。最後に、自立膜化させる部分に対応する領域のSiメンブレン112をXeF
2ガスによるソフトエッチングで除去して、ペリクル膜130を自立膜化させる。こうして、Siフレーム114及びペリクル膜130を有するペリクル128を得る(
図7B(k))。
【0006】
しかしながら、この従来プロセスでは、XeF
2ガスによるエッチング(
図7B(k))の際に、エッチング装置の構造や仕様に起因して、自立膜化させる部分(以下、窓部という)に対応するSiメンブレン112が均一にエッチングされないという問題がある。例えば、
図8A及び8Bに示されるように、窓部の中央部分にSiメンブレン112のエッチング速度の遅い部分が発生する結果、ペリクル膜130が自立膜化した部分と、Siメンブレン112が残留する部分とが一時的に併存しうる。その際、残留Siに起因してペリクル膜130に不均一に応力がかかり、ペリクル膜130が破損しうる。
【0007】
本発明者らは、今般、Siメンブレンに互いに個別化された複数のセグメントを画定するように凹凸パターン及び/又は欠陥パターンが施したSiメンブレン構造体をペリクル膜の形成に用いることで、Siメンブレン上のペリクル膜を自立膜化するエッチングの際に、残留Siに起因するペリクル膜にかかる応力を分散して、ペリクル膜の破損リスクを低減できるとの知見を得た。
【0008】
したがって、本発明の目的は、Siメンブレン上のペリクル膜を自立膜化するエッチングの際に、残留Siに起因するペリクル膜にかかる応力を分散して、ペリクル膜の破損リスクを低減することが可能な、Siメンブレン構造体を提供することにある。また、本発明のもう一つの目的は、Siメンブレン上のペリクル膜を自立膜化するエッチングの際に、残留Siに起因するペリクル膜にかかる応力を分散して、ペリクル膜の破損リスクを低減することが可能な、ペリクルの製造方法を提供することにある。
【0009】
本発明の一態様によれば、ペリクルの製造に用いられるためのSiメンブレン構造体であって、
Siメンブレンと、
前記Siメンブレンの一方の面の外周に沿って設けられるSiフレームと、
を備え、前記Siメンブレンの前記Siフレーム側の面に、互いに個別化された複数のセグメントを画定するように凹凸パターン及び/又は欠陥パターンが施されている、Siメンブレン構造体が提供される。
【0010】
本発明の他の一態様によれば、
前記Siメンブレン構造体の前記Siフレームと反対側の面にペリクル膜を形成し、その後、
前記SiメンブレンをXeF2ガスでエッチングして除去し、それにより前記ペリクル膜をその外縁が前記Siフレームで支持された自立膜とすること
を含む、ペリクルの製造方法が提供される。
【0011】
本発明の他の一態様によれば、
Siメンブレンと、前記Siメンブレンの一方の面の外周縁に沿って設けられるSiフレームとを備えた、Siメンブレン構造体の、前記Siフレームと反対側の面にペリクル膜を形成し、
前記Siメンブレンの前記Siフレーム側の面に、互いに個別化された複数のセグメントを画定するように凹凸パターン及び/又は欠陥パターンを形成し、その後、
前記SiメンブレンをXeF2ガスでエッチングして除去し、それにより前記ペリクル膜をその外縁が前記Siフレームで支持された自立膜とすること
を含む、ペリクルの製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1A】本発明によるSiメンブレン構造体の一形態を模式的に示す底面図である。
【
図1B】
図1Aに示されるSiメンブレン構造体の1B-1B線断面図である。
【
図1C】
図1Bにおける丸で囲まれた部分を拡大した断面図である。
【
図2A】
図1A~1Cに示されるSiメンブレン構造体を用いてペリクルを製造するプロセスを説明する底面図である。
【
図2B】
図2Aに示される製造工程の2B-2B線断面図である。
【
図2C】
図2Bにおける丸で囲まれた部分(ペリクル膜)を拡大した断面図の一例である。
【
図3】
図1A~1Cに示されるSiメンブレン構造体の変形例を示す底面図である。
【
図4A】本発明によるSiメンブレン構造体の別の一形態を模式的に示す底面図である。
【
図4B】
図4Aに示されるSiメンブレン構造体の4B-4B線断面図である。
【
図4C】
図4Bにおける丸で囲まれた部分(Siメンブレン)を拡大した断面図である。
【
図5A】
図4A~4Cに示されるSiメンブレン構造体を用いてペリクルを製造する工程を説明する底面図である。
【
図5B】
図5Aに示される製造工程の5B-5B線断面図である。
【
図6A】本発明によるSiメンブレン構造体の製造プロセスの前半部分を示す工程流れ図である。
【
図6B】本発明によるSiメンブレン構造体の製造プロセスの後半部分を示す工程流れ図である。
【
図7A】従来技術によるペリクル膜の製造プロセスの前半部分を示す工程流れ図である。
【
図7B】従来技術によるペリクル膜の製造プロセスの後半部分を示す工程流れ図である。
【
図8A】
図7Bに示されるSiメンブレン構造体を用いてペリクルを製造するプロセスを説明する底面図である。
【
図8B】
図8Aに示される製造プロセスの8B-8B線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
Siメンブレン構造体
図1A~1Cに、ペリクルの製造に用いられるためのSiメンブレン構造体10の一例を示す。
図1に示されるSiメンブレン構造体10は、Siメンブレン12と、Siフレーム14とを備える。Siフレーム14は、Siメンブレン12の一方の面の外周に沿って設けられる。Siメンブレン12のSiフレーム14側の面に、互いに個別化された複数のセグメントSを画定するように凹凸パターン及び/又は欠陥パターンが施されている。このように、Siメンブレン12に互いに個別化された複数のセグメントSを画定するように凹凸パターン及び/又は欠陥パターンが施したSiメンブレン構造体10をペリクル膜の形成に用いることで、Siメンブレン上のペリクル膜を自立膜化するエッチングの際に、残留Siに起因するペリクル膜にかかる応力を分散して、ペリクル膜の破損リスクを低減することができる。
【0014】
すなわち、前述したとおり、従来プロセスでは、XeF
2ガスによるエッチング(
図7B(k))の際に、エッチング装置の構造や仕様に起因して、自立膜化させる部分(以下、窓部という)に対応するSiメンブレン112が均一にエッチングされないという問題がある。例えば、
図8A及び8Bに示されるように、窓部の中央部分にSiメンブレン112のエッチング速度の遅い部分が発生する結果、ペリクル膜130が自立膜化した部分と、Siメンブレン112が残留する部分とが一時的に併存しうる。その際、残留Siに起因してペリクル膜130に不均一に応力がかかり、ペリクル膜130が破損しうる。この問題が、本発明によるSiメンブレン構造体10によれば首尾よく解消される。このことは以下のようなメカニズムによるものと考えられる。
図2A及び2Bに、本発明のSiメンブレン構造体10を用いてペリクル28を製造する工程が示される。
図2AはSiメンブレン構造体10及びペリクル膜30を下から(すなわちSiフレーム14が延出する側から)見た底面図を示す一方、
図2Bは
図2Aに示される構造物の2B-2B線断面を示す。これらの図から分かるように、Siメンブレン12に互いに個別化された複数のセグメントSが存在することで、Siメンブレン12のXeF
2ガスによるエッチングの際に、セグメント状にSiメンブレン12がエッチングされる。例えば、Siメンブレン12における凹部ないし欠陥部におけるエッチングが先行して、その部分のSiメンブレン12が先に消失する。そのため、エッチング後半におけるペリクル膜30が自立膜化する直前の段階で残留するSiメンブレン12(すなわち残留Si)に起因する応力が分散される。これは
図8A及び8Bに示される従来プロセスとの対比から明らかなように、ペリクル膜30が自立膜化した部分と、Siメンブレン12が残留する部分とで応力が異なるところ、残留Siがセグメント状に分散することで、応力もそれに応じて分散するからである。
【0015】
Siメンブレン12は、ペリクル膜30を自立膜化させるための領域における一時的な支持層として機能する膜状の部分である。したがって、Siメンブレン12は、ペリクル膜30を自立膜化させる際にエッチングにより除去されるべき部分である。かかる観点から、Siメンブレン12の厚さは、好ましくは5~100μm、より好ましくは5~50μm、さらに好ましくは10~25μmである。
【0016】
Siフレーム14は、Siメンブレンの一方の面の外周に沿って設けられ、ペリクル膜30を自立膜化された場合に、ペリクル膜30を外周において支持する機能を担う枠状の部である。したがって、Siフレーム14は、ペリクル膜30を自立膜化させる際にボーダー(border)として残すべき部分である。かかる観点から、Siフレーム14の高さは、好ましくは100~2000μm、より好ましくは200~800μm、さらに好ましくは400~750μmである。また、Siフレーム14の幅は、好ましくは500~40000μm、より好ましくは1000~20000μm、さらに好ましくは2000~10000μmである。
【0017】
Siメンブレン12及びSiフレーム14は、Si単結晶で構成されるのが好ましい。また、Siメンブレン12及びSiフレーム14は、一体物としてSiメンブレン構造体10を構成しているのが好ましい。
【0018】
Siメンブレン12のSiフレーム14側の面に、互いに個別化された複数のセグメントSを画定するように凹凸パターン及び/又は欠陥パターンが施されている。凹凸パターン及び/又は欠陥パターンは、規則的なパターンであってもよいし、不規則パターンであってもよい。例えば、Siメンブレン12におけるエッチングされやすい領域とそうでない領域とで異なるパターンを採用してもよい。
【0019】
本発明の好ましい態様によれば、
図1A~1Cに示されるように、凹凸パターンは、セグメントSの各々の内部に凸部(又は凹部)が位置し、かつ、セグメントSの各々の外周部に凹部(又は凸部)が位置するパターンでありうる。こうすることで、
図2A及び2Bに示されるように、Siメンブレン12における凹部におけるエッチングが先行して、凹部に対応するSiメンブレン12を先に消失させることができ、それによりペリクル膜30が自立膜化する直前の段階で残留するSiメンブレン12(すなわち残留Si)に起因する応力を分散させることができる。かかる観点から、Siメンブレン12の凸部の厚さは、好ましくは5~100μm、より好ましくは5~50μm、さらに好ましくは10~25μmである。一方、Siメンブレン12の凹部の厚さは、好ましくは5~100μm、より好ましくは5~50μm、さらに好ましくは10~25μmである。
図1Cに示されるように、Siメンブレン12の凹部の厚さをX、Siメンブレン12の凸部の厚さをYとした場合、X/Yの比は、好ましくは0.10~0.95、より好ましくは0.20~0.90、さらに好ましくは0.50~0.85である。セグメントSの形状は、
図1A~1Cに示されるような正方形等の矩形に限定されず、
図3に示されるような丸形、楕円形、菱形等、様々な形状でありうる。凹凸パターンの形成手法は特に限定されないが、Siメンブレン12に対応する部分に厚さの異なる微小な凹凸をセグメント状にもたらすようにリソグラフィー及び異方性ウェットエッチングを行えばよい。
【0020】
本発明の別の好ましい態様によれば、欠陥パターンは、溝、切り込み、及びクラックからなる群から選択される少なくとも1種の欠陥で構成されていてもよい。この態様によるSiメンブレン構造体10’が
図4A~4Cに示される。これらの図に示されるSiメンブレン構造体10’は、溝、切り込み、及びクラック等の欠陥によって、互いに個別化された複数のセグメントSが画定されている。この場合においても、
図5A及び5Bに示されるように、Siメンブレン12における欠陥部Dにおけるエッチングが先行して、欠陥部Dに対応するSiメンブレン12を先に消失させることができ、それによりペリクル膜30が自立膜化する直前の段階で残留するSiメンブレン12(すなわち残留Si)に起因する応力を分散させることができる。欠陥パターンの形成手法は特に限定されないが、レーザー照射により行われるのが好ましい。例えば、Siメンブレン12にレーザーで微小欠陥を誘起することで、XeF
2で優先的にエッチングされるようにすることができる。欠陥部Dの深さは特に限定されないが、
図4Cに示されるように、Siメンブレン12の厚さをX、欠陥部の深さをYとした場合、Y/Xの比は、好ましくは0.10~0.95、より好ましくは0.20~0.90、さらに好ましくは0.50~0.85である。
【0021】
後述する
図6(k)に示されるように、Siフレーム14のSiメンブレン12と反対側の面がSiO
2膜22で被覆されていてもよい。この場合、Siフレーム14がSiO
2膜22のマスキングされていることになるため、XeF
2ガスによるエッチングに付された場合であっても、Siフレーム14がエッチングにより消失するのを避けることができ、Siフレーム14をペリクル28におけるボーダーとして活用することができる。
【0022】
Siメンブレン構造体の製造方法
図6A及び6Bに、凹凸パターンを有するSiメンブレン構造体10の製造プロセスの一例を示す。このプロセスにおいては、まず、その上にペリクル膜を形成するためのSiウェハ20を用意する(
図6A(a))。このSiウェハ20の両面に化学気相成長(CVD)又は熱酸化によりSiO
2膜22を100~1000nmの厚さに形成する(
図6A(b))。Siウェハ20の片面又は両面にレジストを塗布し、片面に所定サイズのレジストの穴ができるように、露光及び現像を行いSiO
2エッチング用のレジストマスク24を形成する(
図6A(c))。この基板の一方の面をフッ酸でウェットエッチングすることにより、SiO
2膜22の露出部分をエッチング除去してSiO
2マスク22aを作製する(
図6A(d))。レジストマスク24を除去した後、TMAH(水酸化テトラメチルアンモニウム)液によりSiをエッチングしてSiウェハ20をSiメンブレン12に適した所定の厚さになるように薄くする(
図6A(e))。こうして、Siウェハ20の中央にキャビティ26を備えた構造体が得られる。この構造体のキャビティ26側の面にレジスト25aを塗布する(
図6A(f))。レジスト25aが塗布された面に複数のセグメントSを画定するパターンをもたらすように露光及び現像を行い、SiO
2エッチング用のレジストマスク25を所定のパターンで得る(
図6B(g))。レジストマスク25で所定のパターンでマスキングされたSiウェハ20のキャビティ26側の面にTMAH液でエッチングを施して、露出部分のSiウェハ20を更に薄くして凹部をパターン形成する(
図6B(h))。レジストマスク25を除去した後(
図6B(i))、Siエッチングしていない面に形成してあるSiO
2膜22をフッ酸でエッチングして除去する(
図6B(j))。こうして、キャビティ26側の面に互いに個別化された複数のセグメントSを画定するように凹凸パターンが施された、Siメンブレン構造体10を得る(
図6B(k)。
【0023】
補足すると、後述するように、Siメンブレン構造体10は、その上にペリクル膜30を形成した後に、その外縁部以外の主要領域(すなわち自立膜とすべき領域)がエッチングにより除去されることになる。したがって、エッチングを効率良く短時間で行うため、予め自立膜とすべき領域のSiメンブレン12の厚さを薄くしておくことが望ましい。そのため、通常の半導体プロセスを用いて、Siウェハ20に所定形状のマスクを形成し、ウェットエッチングによりSiウェハ20をエッチングして、Siウェハ20(特にSiメンブレン)の主要領域の厚さを所定厚さまで薄くすることが望まれる。ウェットエッチングを経たSiウェハ20を洗浄及び乾燥することで、ウェットエッチングにより形成したキャビティ26を有するSiメンブレン構造体10を準備する。なお、ウェットエッチングマスクとしては、Siのウェットエッチング液に対して耐食性を有する材質であればよく、例えばSiO2が好適に使用される。また、ウェットエッチング液としては、Siをエッチング可能なものであれば特に限定されない。例えば、TMAH(水酸化テトラメチルアンモニウム)を適切な条件で使用すれば、Siに対する異方性エッチングで非常に良好なエッチングができるため好ましい。
【0024】
ペリクルの製造方法
図2A、2B、5A及び5Bに示されるように、本発明のSiメンブレン構造体10を用いて、破損リスクを低減しながらペリクル28を好ましく製造することができる。具体的には、Siメンブレン構造体10のSiメンブレン12上にペリクル膜30を形成した後、Siメンブレン12の不要部分をエッチングで除去してペリクル膜30を自立膜化することにより、ペリクル28を作製することができる。したがって、前述のとおり、ペリクル膜30の主要部分はSiメンブレン12が残存していない自立膜の形態となっている。
【0025】
(1)ペリクル膜30の形成
Siメンブレン構造体10のSiフレーム14と反対側の面にペリクル膜30を形成する。
図2Cにペリクル膜30の一例を示す。ペリクル膜30は、Ni、Al、Be、Cr及びGaからなる群から選択される少なくとも1種の金属で構成される主層32を有する好ましい。これらの金属は、Siメンブレン12をXeF
2ガスでエッチング除去してペリクル膜30を自立膜化する際に、XeF
2ガスによって浸食されにくいという利点がある。これは、XeF
2の沸点である114℃と比較して、Ni、Al、Be、Cr及びGaの各々のフッ化物の沸点が、1750℃(NiF
2)、1260℃(AlF
3)、1169℃(BeF
2)、1100℃(CrF
2)、950℃(GaF
3)と極めて高いという事実によって裏付けられるものである。沸点が高いということは蒸気圧が低く、それだけXeF
2ガスでエッチングされにくいといえるためである。EUV透過膜としての観点から、特に好ましくはBeである。BeはSiやCよりも高いEUV透過率を有しているため、実用レベルの高いEUV透過率(例えば93%以上)を呈する。また、ペリクル膜30は、主層32の少なくとも片面(好ましくは両面)を覆う保護層34をさらに備えるのが主層32を保護する観点から好ましい。主層32がBeで構成される場合、保護層34を構成する材料の好ましい例としては、窒化ベリリウム、酸化ベリリウム、及びフッ化ベリリウムが挙げられる。
【0026】
ペリクル膜30の形成は、いかなる成膜手法により行われてもよい。好ましい成膜手法の一例としては、スパッタリング法が挙げられる。例えば、窒化ベリリウム/ベリリウム/窒化ベリリウムの3層構造を作製する場合、主層32としてのベリリウム膜は、純Beターゲットを用いたスパッタリングにより作製し、保護層34としての窒化ベリリウム膜は、反応性スパッタリングにより行うのが好ましい。この反応性スパッタリングは、例えば、純Beターゲットを用いたスパッタリング中に、チャンバー内に窒素ガスを入れることで、ベリリウムと窒素が反応して窒化ベリリウムを生成することにより行うことができる。また、別の手法として、窒化ベリリウムの作製は、ベリリウム膜を形成した後、窒素プラズマを照射することでベリリウムを窒化反応させて窒化ベリリウムを生成させることにより行うこともできる。いずれにしても、窒化ベリリウムの合成手法はこれらに限定されるものではない。なお、窒化ベリリウム膜形成用のベリリウムターゲットと、ベリリウム膜形成用のベリリウムターゲットは、別々のものを用いるのが好ましいが、窒化ベリリウム膜形成とベリリウム膜形成で同一のターゲットを用いることも可能である。なお、窒化ベリリウム膜とベリリウム膜は後述する実施例のように1つのチャンバーのスパッタリング装置で形成してもよいし、2チャンバーのスパッタリング装置を用いて窒化ベリリウム膜とベリリウム膜を別々のチャンバー内で形成してもよい。
【0027】
(2)自立膜化
Siメンブレン12をXeF2ガスでエッチングして除去し、それによりペリクル膜30をその外縁がSiフレーム14で支持された自立膜とする。ペリクル28を形成したSiメンブレン構造体10の、ボーダー(border)として残す外縁部以外のSiメンブレン12の不要部分をエッチングで除去して、ペリクル膜30の自立膜化を行う。Siのエッチングは、いかなる手法により行われてもよいが、XeF2を用いたエッチングにより好ましく行うことができる。こうして、Siフレーム14及びペリクル膜30を有するペリクル28を得る。
【0028】
(3)変形態様
本発明の別の態様によれば、上述したような凹凸パターン及び/又は欠陥パターンが施されていない従来タイプのSiメンブレン構造体を用い、ペリクル膜の形成後で且つSiメンブレンのエッチング前に凹凸パターン及び/又は欠陥パターンを形成してもよい。この態様においては、まず、
図7Bに示されるように、凹凸パターン及び/又は欠陥パターンを有しないこと以外は上述したのと同じ構成のSiメンブレン構造体110を用意し、そのSiフレーム114と反対側の面にペリクル膜130を形成する。次いで、Siメンブレン112のSiフレーム114側の面に、前述したとおり互いに個別化された複数のセグメントを画定するように凹凸パターン及び/又は欠陥パターン(図示せず)を形成する。その後、Siメンブレン112をXeF
2ガスでエッチングして除去し、それによりペリクル膜130をその外縁がSiフレーム114で支持された自立膜とする。この態様は、欠陥パターンの形成がレーザー照射により行われるのが好ましい。レーザー照射であれば、ペリクル膜130が既に形成されたSiメンブレン112に対しても、ペリクル膜130に損傷を与えることなく、欠陥パターンを効率的に形成することができる。本態様においても、Siメンブレン112に互いに個別化された複数のセグメントSが形成されることから、前述した態様と同様に、ペリクル膜130を自立膜化するエッチングの際に、残留Siに起因するペリクル膜130にかかる応力を分散して、ペリクル膜130の破損リスクを低減することができる。
【0029】
EUV透過膜
本発明の好ましい態様において、ペリクル膜30はEUV(極端紫外線)透過膜である。本態様によるペリクル膜30は、
図2Cに示されるように、主層32と、主層32の少なくとも片面(好ましくは両面)を覆う保護層34とを備えるのが好ましい。本態様において、主層32は好ましくは金属ベリリウムで構成される一方、保護層34は好ましくは窒化ベリリウムで構成される。このように、金属ベリリウムで構成される主層32と、窒化ベリリウムで構成される保護層34とを組み合わせることで、実用レベルの高いEUV透過率(例えば93%以上)と、低圧水素雰囲気環境における耐久性とを兼ね備えた、EUV透過膜を提供することができる。
【0030】
本態様による主層32は、金属ベリリウムで構成されるのが好ましい。もっとも、主層32が完全に金属ベリリウムで構成される必要はなく、主層32の好ましくは99重量%以上、より好ましくは99.5重量%以上、さらに好ましくは99.8重量%以上が金属ベリリウムで構成されていればよい。ペリクル膜としての基本的機能(パーティクル付着防止機能等)を確保しながら、実用レベルの高いEUV透過率の実現に寄与する。かかる観点から、主層32の厚さは、10~70nmであるのが好ましく、より好ましくは15~50nm、さらに好ましくは20~35nmである。
【0031】
本態様による保護層34は、金属ベリリウム層である主層32を保護するための層である。したがって、保護層34は、主層32の少なくとも片面を覆っていればよいが、主層32の両面を保護層で覆うのが好ましい。保護層34は、窒化ベリリウムで構成されるのが好ましい。もっとも、主層32が完全に窒化ベリリウムで構成される必要はなく、主層32の99重量%以上、好ましくは99.5重量%以上、さらに好ましくは99.8重量%以上が窒化ベリリウムで構成されていればよい。窒化ベリリウムはEUV透過率が高いため、同じ厚さで比較するとRu層を形成したベリリウム膜よりもEUV透過率は高くなる。理論計算によると、厚さ30nmのベリリウム膜の両面に、厚さ3nmのRu膜を形成した場合の透過率は85.8%であるが、厚さ30nmのベリリウム膜の両面に、厚さ3nmの窒化ベリリウムを形成した場合の透過率は91.1%となる。厚さ30nmのベリリウム膜の両面に、厚さ2nmの窒化ベリリウムと厚さ1nmの傾斜組成層(後述する窒素濃度傾斜領域で構成される層)を形成した場合の透過率は91.1%を越える。ベリリウム層の両面に緻密な窒化ベリリウム層を形成することにより、後述するSi基板のエッチングに用いられるXeF2ガスとの反応を抑制できる。また、ベリリウムは非常に反応性の高い材料のため、容易に酸化して酸化ベリリウムを形成するが、窒化ベリリウムの形成で酸化を抑制可能である。上記のとおり窒化ベリリウム層を保護層34として用いることのメリットは、EUV透過率の増大、エッチングプロセスにおけるベリリウム膜(主層32)の保護、及び酸化防止である。
【0032】
本態様による保護層34の厚さは5nm以下であるのが好ましく、より好ましくは3nm以下である。主層32の両面に厚さ3nmの保護層を成膜することを考えると、厚さ3nmの窒化ベリリウム膜ではEUV透過率が95%と、Ru膜の90%よりも格段に高い。保護層34の厚さの下限値は特に限定されないが、典型的には1nm以上である。なお、本明細書において「窒化ベリリウム」なる用語は、Be3N2のような化学量論組成のみならず、Be3N2-x(式中0<x<2である)のような非化学量論組成も許容する包括的な組成を意味するものとする。
【0033】
本態様によるペリクル膜30は、EUVを透過するための主要領域が自立膜の形態であるのが好ましい。すなわち、ペリクル膜30の外縁部にのみ、成膜時に用いた基板(例えばSi基板)がボーダー(border)として残存しているのが好ましい、つまり、外縁部以外の主要領域には基板(例えばSi基板)が残存していない、すなわち主要領域は主層32及び保護層34のみで構成されるのが好ましい。
【0034】
本態様によるペリクル膜30は、実用レベルの高いEUV透過率を有することができ、好ましくは91%以上、より好ましくは92%以上、さらに好ましくは93%以上のEUV透過率を有する。EUV透過率は高ければ高いほど望ましいため、上限値は特に限定されないが、ペリクル膜30のEUV透過率は、典型的には99%以下、より典型的には98%以下、さらに典型的には95%以下でありうる。
【実施例】
【0035】
本発明を以下の例によって補足説明する。なお、以下の例は、Siメンブレン構造体に凹凸パターン及び/又は欠陥パターンを施すものではないが、それ以外は本発明と共通する内容を有するため、本発明の理解を補助するための参考例と位置付けられるものである。
【0036】
例1(参考)
図2A及び2Bに示される手順に従い、窒化ベリリウム/ベリリウム/窒化ベリリウムの3層構造の複合自立膜(EUV透過膜)を以下のようにして作製した。
【0037】
(1)Siメンブレン構造体の準備
直径8インチ(20.32cm)のSiウェハ120を用意した(
図7A(a))。このSiウェハ120の両面に、熱酸化によりSiO
2膜122を50nm厚さで形成した(
図7A(b))。Siウェハ120の両面にレジストを塗布し、片面に110mm×145mmのレジストの穴ができるように、露光及び現像を行いSiO
2エッチング用のレジストマスク124を形成した(
図7A(c))。この基板の一方の面をフッ酸でウェットエッチングすることにより、SiO
2膜122の露出部分をエッチング除去してSiO
2マスク122aを作製した(
図7A(d))。SiO
2エッチングのためのレジストマスク124をアッシング装置で除去した(
図7A(e))。その後、TMAH液によりSiをエッチングした。このエッチングは、事前にエッチングレートを測定しておき、狙いとするSiメンブレン厚50μmとするためのエッチング時間だけ実施した(
図7A(e))。最後にSiエッチングしていない面に形成してあるSiO
2膜122をフッ酸により除去及び洗浄した(
図7B(f))。こうして得られた構造体の外形は必要に応じてレーザーLでダイシングして、所望の形状としてもよい(
図7A(f))。こうして、8インチ(20.32cm)Siウェハ120の中央に110mm×145mmのキャビティ126を設け、キャビティ26部分のSiメンブレン112の厚さが50μmであるSiメンブレン構造体110を準備した(
図7B(g))。
【0038】
(2)ペリクル膜の形成
上記(1)で得られたSiメンブレン構造体110に、窒化ベリリウム/ベリリウム/窒化ベリリウムの3層構造の複合膜を以下のようにして形成した(
図7B(h)~(j))。まず、スパッタリング装置にSiメンブレン構造体110をセットし、純Beターゲットを取り付けた。チャンバー内を真空引きし、内圧0.5Paで、アルゴンガスと窒素ガス流量比が1:1となるよう調整し反応性スパッタリングを行い、窒化ベリリウムが2nm積層する時間を見計らって反応性スパッタリングを終了した。次いで、窒素ガスを導入しないで、アルゴンガスのみでスパッタリングを行い、ベリリウムが25nm積層する時間を見計らってスパッタリングを終了した。その後、最初と同様に再度窒素ガスを導入しつつ、反応性スパッタリングを行い、窒化ベリリウムが2nm積層する時間を見計らって反応性スパッタリングを終了した。このようにして、窒化ベリリウム2nm/ベリリウム25nm/窒化ベリリウム2nmのペリクル膜130をEUV透過膜として形成した。
【0039】
(3)自立膜化
8インチ(20.32cm)基板を処理可能なXeF
2エッチャーのチャンバー内に、上記(2)で準備したペリクル膜130付きのSiメンブレン構造体110をセットした。チャンバー内を十分真空引きした。このとき、チャンバー内に水分が残留していると、XeF
2ガスと反応してフッ酸を生じ、エッチャーの腐食や想定外のエッチングが起きてしまうため、十分な真空引きを行った。必要に応じて、チャンバー内を、真空引きと窒素ガス導入を繰り返し、残留水分を減らした。十分に真空引きが出来たところで、XeF
2原料ボンベと予備室の間のバルブを開いた。その結果、XeF
2が昇華して予備室内にもXeF
2ガスが蓄積された。十分に予備室内にXeF
2ガスが蓄積されたところで、予備室とチャンバーの間のバルブを開き、XeF
2ガスをチャンバー内に導入した。XeF
2ガスはXeとFに分解し、FはSiと反応してSiF
4を生成した。SiF
4の沸点は-95℃であるため、生成したSiF
4は速やかに蒸発し、新たに露出したSiメンブレン112とFの反応が引き起こされた。Siエッチングが進行し、チャンバー内のFが減少したところで、チャンバー内を真空引きし、再度XeF
2ガスをチャンバー内に導入しエッチングを行った。このようにして、真空引き、XeF
2ガス導入、及びエッチングを繰り返して、自立膜化させる部分に対応するSiメンブレン112が消失するまでエッチングを続けた。不要部分のSiメンブレンが無くなったところでエッチングを終了した。こうして、Si製ボーダー(border)を有する複合自立膜をペリクル膜130(EUV透過膜)として得た(
図7B(k))。
【0040】
例2(参考)
複合膜の形成を以下のとおり行ったこと以外は、例1と同様にして複合自立膜を作製した。
【0041】
(複合膜の形成)
例1の(1)で得られたキャビティを形成したSiメンブレン構造体を、スパッタリング装置内に入れ、ベリリウムを1nmの厚さに成膜した。そして、チャンバー内に窒素ガスを導入しつつプラズマを発生させることで、発生した窒素プラズマを成膜したベリリウムと反応させて窒化ベリリウムを形成させた。次いで、形成した窒化ベリリウム膜上にベリリウムを26nmの厚さに成膜し、成膜後に再度チャンバー内に窒素ガスを導入しつつプラズマを発生させ、表面を窒化ベリリウムにした。こうして、両側に厚さ1.5nmの窒化ベリリウム膜を有する厚さ25nmのベリリウム膜(窒化ベリリウム1.5nm/ベリリウム25nm/窒化ベリリウム1.5nmの複合膜)を形成した。
【0042】
EUV透過率
例1及び2で作製したペリクル膜にEUV光を照射して、透過したEUV光量をセンサーで測定した。得られた測定値と、EUV透過膜無しで直接のEUV光量をセンサーで測定した値との比較から、EUV透過率を求めた。その結果、例1で作製したペリクル膜のEUV透過率は93.0%であり、理論計算値の93.3%とほぼ同等の結果であった。また、例2で作製したペリクル膜のEUV透過率は93.5%であり、理論計算値の94.1%に近い値が得られた。これらの実測値と理論値の差は、膜厚の誤差によるものと推測される。