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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-06
(45)【発行日】2024-11-14
(54)【発明の名称】巻線装置及び巻線方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 41/06 20160101AFI20241107BHJP
   H01F 41/082 20160101ALI20241107BHJP
【FI】
H01F41/06
H01F41/082
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2024506522
(86)(22)【出願日】2023-06-27
(86)【国際出願番号】 JP2023023771
【審査請求日】2024-03-08
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000227537
【氏名又は名称】NITTOKU株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松田 司
(72)【発明者】
【氏名】加藤 悠太
【審査官】井上 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-107714(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2023-0009575(KR,A)
【文献】特開2002-043157(JP,A)
【文献】特開平08-124777(JP,A)
【文献】特開平06-181139(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 41/06
H01F 41/082
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズルから繰り出される線材を巻芯に巻線する巻線装置であって、
先端部から前記線材を繰り出す前記ノズルと、
前記ノズルから繰り出された前記線材が巻き付けられる巻胴部と、前記巻胴部の一端側に設けられる鍔部と、を有する前記巻芯と、
前記線材が前記鍔部に向かって前記巻胴部に巻き付けられる途中において前記鍔部及び前記線材の画像を撮像可能な撮像装置と、
被回転部材となる前記ノズル及び前記巻芯の何れか一方の回転を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記線材が前記鍔部に向かって前記巻胴部に巻き付けられる途中において、前記画像から前記線材の前記鍔部側の端線と前記鍔部の端面とを抽出し、これらの間の距離を前記線材と前記鍔部との間の間隙長さとして算出し、前記間隙長さに基づいて、前記被回転部材の必要回転角度を演算し、前記被回転部材を前記必要回転角度だけ回転させる、
巻線装置。
【請求項2】
請求項1に記載の巻線装置であって、
前記必要回転角度は、前記間隙長さが計測された時点からの前記被回転部材の回転角度であって、前記巻胴部に巻き付けられる前記線材が前記鍔部に接するまでに必要とされる前記被回転部材の回転角度に設定される、
巻線装置。
【請求項3】
請求項1に記載の巻線装置であって、
前記巻胴部及び前記鍔部の少なくとも一方は樹脂製である、
巻線装置。
【請求項4】
請求項1から3の何れかに記載の巻線装置であって、
前記制御部は、前記線材が前記鍔部に向かって前記巻胴部に巻き付けられる途中において、前記画像から前記鍔部の端面に沿う第1線分、前記巻胴部の上端に沿う第2線分、及び、前記線材の前記鍔部側に沿う第3線分を認識した後、予め設定された指定距離だけ前記第2線分から平行に離れた箇所における前記第1線分と前記第3線分との間の距離を前記間隙長さとして算出する、
巻線装置。
【請求項5】
被回転部材となるノズル及び巻芯の何れか一方を回転させることによって、前記ノズルから繰り出される線材を前記巻芯に巻線する巻線方法であって、
前記線材が前記巻芯の鍔部に向かって前記巻芯の巻胴部に巻き付けられる途中において、前記鍔部及び前記線材の画像を撮像可能な撮像装置によって撮像された前記画像から、前記線材の前記鍔部側の端線と前記鍔部の端面とを抽出し、これらの間の距離を前記線材と前記鍔部との間の間隙長さとして計測し、
前記間隙長さに基づいて前記被回転部材の必要回転角度を演算し、
前記被回転部材を前記必要回転角度だけ回転させる、
巻線方法。
【請求項6】
請求項5に記載の巻線方法であって、
前記必要回転角度は、前記間隙長さが計測された時点からの前記被回転部材の回転角度であり、
前記必要回転角度を、前記巻胴部に巻き付けられる前記線材が前記鍔部に接するまでに必要とされる前記被回転部材の回転角度に設定する、
巻線方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、巻線装置及び巻線方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
JP2010-183041Aには、ノズルから繰り出された線材を巻芯に巻線する巻線装置が開示されている。
【発明の概要】
【0003】
JP2010-183041Aに記載される巻線装置では、線材の形状誤差がコイルの全長に及ぼす影響を低減することによって、コイルの全長が一定の長さとなるように巻線を行っている。しかしながら、線材が巻線される巻芯の製造誤差が大きく、鍔部間の距離にばらつきがあるような場合には、コイルの全長が目標長さとなるように巻線を行うと、鍔部間の距離が目標長さよりも短い巻芯に対して巻線したときには鍔部付近において既に巻かれた線材に新たな線材が乗り上げることとなり、鍔部間の距離が目標長さよりも長い巻芯に対して巻線したときには鍔部付近において隙間が生じることになり、結果として、巻芯に対する巻線精度が低下してしまうおそれがある。
【0004】
本発明は、巻芯に対する巻線精度を向上させることを目的とする。
【0005】
本発明のある態様によれば、ノズルから繰り出される線材を巻芯に巻線する巻線装置は、先端部から線材を繰り出すノズルと、ノズルから繰り出された線材が巻き付けられる巻胴部と、巻胴部の一端側に設けられる鍔部と、を有する巻芯と、線材が鍔部に向かって巻胴部に巻き付けられる途中において鍔部及び線材の画像を撮像可能な撮像装置と、被回転部材となるノズル及び巻芯の何れか一方の回転を制御する制御部と、を備え、制御部は、線材が鍔部に向かって巻胴部に巻き付けられる途中において、画像から線材の鍔部側の端線と鍔部の端面とを抽出し、これらの間の距離を線材と鍔部との間の間隙長さとして算出し、間隙長さに基づいて、被回転部材の必要回転角度を演算し、被回転部材を必要回転角度だけ回転させる。
【0006】
本発明の別のある態様によれば、被回転部材となるノズル及び巻芯の何れか一方を回転させることによって、ノズルから繰り出される線材を巻芯に巻線する巻線方法は、線材が巻芯の鍔部に向かって巻芯の巻胴部に巻き付けられる途中において、鍔部及び線材の画像を撮像可能な撮像装置によって撮像された画像から、線材の鍔部側の端線と、鍔部の端面と、を抽出し、これらの間の距離を線材と鍔部との間の間隙長さとして計測し、間隙長さに基づいて被回転部材の必要回転角度を演算し、被回転部材を必要回転角度だけ回転させる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、本発明の実施形態に係る巻線装置の構成を示す側面図である。
図2図2は、図1のA-A線に沿う断面を示した断面図である。
図3図3は、撮像装置により撮像された画像の一例を示した図である。
図4図4は、本発明の実施形態に係る巻線方法によって行われる巻線の手順を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る巻線装置及び巻線方法について説明する。
【0009】
巻線装置100は、ノズル24から繰り出される線材1を巻芯30に整列巻きすることによって、整列巻きコイルを製造する装置であり、図1に示されるように、先端部24aから線材1を繰り出すノズル24と、ノズル24から繰り出された線材1が巻き付けられる巻胴部31を有する巻芯30と、ノズル24を所定のピッチ速度で移動させるノズル移動装置20と、回転軸C1を中心に被回転部材としての巻芯30を回転させる回転装置15と、ノズル移動装置20及び回転装置15を制御する制御部50と、を備える。なお、図1は、巻線装置100の側面図であるが、後述の撮像装置40については、その図示を省略している。
【0010】
ノズル24は、筒状に形成された部材であり、軸方向に貫通する図示しない貫通孔を有する。ノズル24は、貫通孔の一端が開口する先端部24aが巻芯30側を向くようにノズル移動装置20に取り付けられ、図示しない線材供給源から供給された線材1を先端部24aから繰り出して巻芯30へと案内する。
【0011】
巻芯30は、樹脂によって形成された、いわゆるボビンであり、線材1が巻き付けられる円筒状の巻胴部31と、巻胴部31の一端側に設けられる鍔部としての第1鍔部32と、巻胴部31の他端側に設けられる第2鍔部33と、を有する。
【0012】
ノズル移動装置20は、巻芯30の回転軸C1方向に沿って可動片22を往復移動させることが可能な電動スライダ21であり、可動片22には、上述のノズル24が取り付けられる。
【0013】
回転装置15は、電動モータ16と、電動モータ16の回転軸に取り付けられたスピンドル17と、から構成され、スピンドル17の先端部は、上記構成の巻芯30を保持可能な形状となっている。
【0014】
電動モータ16には、図示しないロータリエンコーダが設けられており、電動モータ16の回転軸の瞬間的な回転角度を検出することが可能である。また、スピンドル17を介して電動モータ16により回転される巻芯30の瞬間的な回転角度についてもロータリエンコーダの検出値から求めることが可能である。
【0015】
ノズル移動装置20と回転装置15とは、図1に示されるように、基台10に立設する支柱12によって支持される。なお、ノズル移動装置20を支持する支柱と、回転装置15を支持する支柱とは、異なる支柱であってもよい。
【0016】
制御部50は、図示しない入力装置を介してオペレータにより入力された内容に従い、ノズル移動装置20及び回転装置15の作動を制御する。なお、制御部50が行う具体的な制御については、後述の巻線方法の説明において詳述する。
【0017】
制御部50は、具体的には、CPU(中央演算処理装置)、ROM(リードオンリメモリ)、RAM(ランダムアクセスメモリ)、及びI/Oインターフェース(入出力インターフェース)を備えたマイクロコンピュータで構成される。RAMはCPUの処理におけるデータを記憶し、ROMはCPUの制御プログラム等を予め記憶し、I/Oインターフェースは制御部50に接続されたノズル移動装置20や回転装置15、後述の撮像装置40、図示しない入力装置、図示しない表示装置との情報の入出力に使用される。
【0018】
ここで、上述のように巻芯30が特に樹脂によって形成されている場合、製造誤差により巻胴部31に対して各鍔部32,33が設けられる位置が僅かにずれることで、巻胴部31の長さ、すなわち、第1鍔部32と第2鍔部33との間隔の大きさに個体差が生じるおそれがある。
【0019】
このため、例えば、巻線装置100により製造されるコイルの全長が予め設定された目標長さとなるように、第2鍔部33側から第1鍔部32に向かって一層目の巻線を行った場合、巻胴部31の長さが目標長さよりも短い巻芯30に対して巻線したときには第1鍔部32付近において既に巻かれた線材1に新たな線材1が乗り上げることとなり、巻胴部31の長さが目標長さよりも長い巻芯30に対して巻線したときには第1鍔部32付近において隙間が生じることになり、結果として、巻芯30に対する巻線精度が低下してしまう。
【0020】
そこで本実施形態の巻線装置100は、巻芯30の製造誤差が比較的大きい場合であっても、巻芯30に対する巻線精度を向上させるために、距離計測装置として撮像装置40をさらに備えている。
【0021】
撮像装置40は、例えば、線材1が第2鍔部33側から第1鍔部32に向かって巻胴部31に巻き付けられる途中において第1鍔部32及び線材1の画像を撮像するために基台10上に設けられた装置であり、図2に示されるように、カメラ41と、カメラ41の撮像方向に設置されるミラー43と、を主に備える。なお、撮像装置40は、これらに加えて、照明装置や背景スクリーンとなる白色または金属光沢の部材を備えていてもよい。
【0022】
カメラ41は、撮像された画像データから第1鍔部32や巻胴部31、線材1の形状が十分に識別できる程度の画素数及び視野サイズを有するデジタルカメラであり、基台10に立設する支柱13によって、撮像中心C2の高さが巻芯30の巻胴部31の上端付近の高さと同程度となるように支持されている。換言すると、カメラ41は、少なくともノズル24から巻胴部31へと延びる線材1と巻芯30の第1鍔部32とが撮影視野内に入るように、撮像中心C2の高さが設定される。
【0023】
また、カメラ41は、制御部50に接続されており、撮像タイミングは、制御部50によって制御され、撮像された画像データは、制御部50へと送信される。
【0024】
ミラー43は、カメラ41の撮像面41aが向く方向(撮像中心C2方向)を巻芯30側へと転換させる反射面を有する直角プリズムミラーであり、基台10に立設する支柱14によって、その中心位置の高さが撮像中心C2の高さと同程度となるよう支持されている。
【0025】
具体的には、カメラ41の撮像面41aが向く方向(撮像中心C2方向)やミラー43の角度や位置は、カメラ41によって撮像される後述の解析用画像P内に、ノズル24から繰り出される線材1が巻胴部31に巻き付く直前の部分、すなわち、巻胴部31から径方向外側へと延びているかのように見える線材1と、巻芯30の巻胴部31及び第1鍔部32と、が含まれるように設定される。
【0026】
なお、カメラ41は、ミラー43を介することなく、撮像面41aが巻芯30の巻胴部31の上端付近に直接的に対向するように配置されてもよい。この場合、ミラー43は不要となるが、レンズを含むカメラ41本体は回転軸C1に対して直交する方向に沿って配置されることになることから、巻線装置100全体が大型化するおそれがある。したがって、巻線装置100全体をコンパクト化するためには、ミラー43を適宜用いることが好ましい。
【0027】
このような構成の撮像装置40によって撮像される解析用画像Pについて、図3を参照して説明する。図3には、撮像装置40によって撮像された解析用画像Pの一例が示されている。
【0028】
後述のように、カメラ41は、線材1が第2鍔部33側から第1鍔部32に向かって巻胴部31に巻き付けられる途中における第1鍔部32及び線材1が解析用画像P中に含まれるように、制御部50から指示されたタイミングで撮像を行う。
【0029】
制御部50は、解析用画像Pのデジタルデータを画像処理することによって、線材1の第1鍔部32側の端線と、第1鍔部32の端面32aと、を抽出し、これらの間の間隙長さL1を演算する。
【0030】
具体的には、図3に示されるように、第1鍔部32の端面32aに沿う第1線分R1、巻胴部31の上端に沿う第2線分R2、及び、線材1の第1鍔部32側の沿う第3線分R3が認識された後、予め設定された指定距離D1だけ第2線分R2から平行に離れた箇所における第1線分R1と第3線分R3との間の距離が間隙長さL1として演算される。
【0031】
なお、間隙長さL1の演算方法は、これに限定されず、第1鍔部32の端面32aに沿う第1線分R1と線材1の第1鍔部32側の沿う第3線分R3との2つの線分から間隙長さL1を演算するようにしてもよい。また、巻胴部31が写っている範囲内において間隙長さL1を演算するようにしてもよい。但し、巻胴部31とその周囲の部分との間では色彩や光沢が似てしまうことによって、例えば、第1鍔部32の端面32aや線材1の第1鍔部32側の端線を精度良く認識することが難しくなるおそれがある。このため、背景を白色等にすることによって認識することが比較的容易となる上述の各線分R1,R2,R3に基づいて間隙長さL1を演算することが好ましい。
【0032】
間隙長さL1の演算は、制御部50に代えて、撮像装置40内に設けられた演算部で行われてもよく、この場合、制御部50には、撮像装置40から間隙長さL1の大きさが送信される。
【0033】
続いて、上記構成の巻線装置100により行われる巻線方法について、図4のフローチャートを参照して説明する。
【0034】
オペレータによってコイルの製造開始ボタン等が操作されると、制御部50は、ステップS11において、巻芯30への線材1の巻線を開始する。なお、以下では、線材1の先端部が第2鍔部33側において保持され、線材1が第2鍔部33側から第1鍔部32に向かって巻胴部31に巻き付けられる場合について説明する。
【0035】
具体的には、制御部50は、電動スライダ21により可動片22を予め入力されたピッチ速度で移動させることによって、ノズル24を第1鍔部32に向けて移動させるとともに、電動モータ16を回転駆動させることによって、巻芯30を回転させる。これにより線材1は、第1鍔部32に向かって巻胴部31に徐々に巻き付けられていく。
【0036】
電動モータ16及び電動スライダ21の駆動が制御部50により制御され、巻線が開始されると、続くステップS12において、制御部50は、巻芯30に形成されたコイルの長さが間隙長さL1を計測すべき所定の長さに到達したか否かを判定する。
【0037】
具体的には、巻線が開始されてからノズル24が回転軸C1方向に沿って移動した距離が、予定されるコイルの全長の3分の2以上、好ましくは、4分の3以上となったとき、制御部50は、間隙長さL1を計測すべき状態に至ったと判定してステップS13に進む。一方、間隙長さL1を計測すべき状態にまだ至っていないと判定された場合には、巻線を継続する。なお、間隙長さL1を計測すべき状態に至ったか否かは、巻線が開始されてからの巻芯30の総回転数または電動モータ16の総回転数が所定の回転数に至ったか否かにより判定されてもよい。
【0038】
続くステップS13において、制御部50は、撮像装置40に対して、解析用画像Pの撮像を指示する。
【0039】
撮像を指示された撮像装置40は、線材1が第1鍔部32に向かって巻胴部31に巻き付けられる途中における第1鍔部32及び線材1が1つの画像内に含まれた解析用画像Pを撮像し、制御部50へと送信する。
【0040】
また、ステップS13において、制御部50は、解析用画像Pが撮像された時点における巻芯30の回転角度をロータリエンコーダの検出値から求め、求められた回転角度を後述の必要回転角度RAのカウントを開始する開始位置として記憶する。
【0041】
なお、巻芯30の回転速度が速いと解析用画像Pがぼやけてしまい、線材1の第1鍔部32側の端線や第1鍔部32の端面32aを抽出することが困難になる場合がある。このため、ステップS13において解析用画像Pを撮像する際には、巻芯30の回転速度を低下ないし巻芯30の回転を一時的に停止するようにしてもよい。
【0042】
解析用画像Pを受信した制御部50は、上述のように、画像処理によって間隙長さL1を演算する(図3参照)。
【0043】
続くステップS14において、制御部50は、演算された間隙長さL1に基づいて、巻胴部31に巻き付けられる線材1が第1鍔部32の端面32aに接するまでに必要とされる巻芯30(被回転部材)の回転角度である必要回転角度RAを演算する。
【0044】
必要回転角度RAとは、間隙長さL1が計測された時点、すなわち、解析用画像Pが撮像された時点における巻芯30の回転角度から、巻芯30をあとどの程度回転させると、ノズル24から繰り出される線材1が第1鍔部32の端面32aに接した状態となるかを示す回転角度であり、計測された間隙長さLに対して過不足なく線材1を巻き付けるために必要とされる巻芯30の回転角度である。
【0045】
具体的には、必要回転角度RAは、巻芯30が1回転する間にノズル24が回転軸C1方向に沿って移動する移動距離X1(ピッチ速度)と、間隙長さL1と、から下記式(1)により求められる。
【0046】
RA=(L1/X1)・360 ・・・(1)
【0047】
なお、間隙長さL1を移動距離X1で除した値の整数部分を必要回転数RA1とし、少数部分に360を乗じたものを必要角度RA2とし、巻芯30(被回転部材)を回転させる回数と角度とに分けて算出してもよく、この場合、必要回転数RA1と必要角度RA2とを足し合わせたものが上述の必要回転角度RAに実質的に相当する。
【0048】
例えば、移動距離X1が0.2mm、間隙長さL1が0.75mmの場合、必要回転角度RAは、1350°となる。また、この場合、必要回転数RA1は、3回転となり、必要角度RA2は、270°となる。
【0049】
また、制御部50は、解析用画像Pが撮像された時点における巻芯30の回転角度から必要回転角度RAだけ巻芯30を回転させて1層目を巻線した場合の巻数と、予め計画されていた1層目の巻数とを比較し、その差分を過不足巻数として記憶する。なお、巻数を線材1の巻線長さに換算し、過不足巻数を過不足線材長さとして記憶してもよい。
【0050】
ステップS14において、必要回転角度RAが算出されると、制御部50は、続くステップS15において、必要回転角度RAだけ巻芯30をさらに回転させる。
【0051】
具体的には、電動モータ16を回転駆動させることによって、解析用画像Pが撮像された時点における巻芯30の回転角度からカウントが開始された巻芯30の回転角度が、必要回転角度RAとなるまで巻芯30を回転させるとともに、電動スライダ21により可動片22を予め入力されたピッチ速度で移動させる。
【0052】
これにより、ノズル24から繰り出された線材1は、第1鍔部32付近において既に巻かれた線材1に乗り上げてしまうことなく、第1鍔部32の端面32aにほぼ接した状態となるまで巻胴部31に過不足なく巻き付けられることになる。
【0053】
なお、解析用画像Pが撮像された時点における巻芯30の回転角度からカウントが開始された巻芯30の回転角度が、最終的に必要回転角度RAとなるまで巻線が行われれば、ステップS13において解析用画像Pが撮像された後の巻線は、間隙長さLの計測や必要回転角度RAの演算の完了を待つことなく再開されてもよいし、これらの演算等が完了してから再開されてもよい。
【0054】
このように第1鍔部32の端面32aとの間にほぼ隙間なく線材1が巻き付けられることによって、1層目の巻線が完了すると、ステップS16に進み、2層目以降の巻線が開始される。
【0055】
2層目以降の巻線は、必要回転角度RAを演算することなく、1層目の巻線と同じ巻数だけ1層目と同じように巻線される。なお、最外層の巻線は、予め計画されていた巻数に対してステップS14で記憶された過不足巻数分だけ増減させた巻数に設定される。
【0056】
ここで、2層目以降の巻線を行う際、線材1の線径の誤差や線材1の形状、ノズル24の送り速度の精度によっては、巻線中に線材1間の隙間の大きさが僅かに拡がったり縮まったりすることによって、巻幅が1層目の巻幅とは異なる大きさになる場合がある。このような場合には、1層目の巻線と同じ巻数だけ巻線しても、鍔部32,33付近において既に巻かれた線材1に新たな線材1が乗り上げてしまったり、鍔部32,33付近において隙間が生じてしまったりするおそれがある。
【0057】
このため、間隙長さLの計測及び必要回転角度RAの演算は、1層目の巻線だけではなく、2層目以降の巻線において行われてもよく、例えば、3層目や7層目といった所定の順番における層の巻線を行う際に実行されてもよいし、すべての層の巻線を行う際に実行されてもよい。
【0058】
なお、ノズル24から繰り出される線材1が第1鍔部32ではなく第2鍔部33に向かって巻胴部31に巻き付けられる2層目や4層目の巻線において間隙長さLの計測及び必要回転角度RAの演算が行われる場合、撮像装置40は、線材1が第2鍔部33に向かって巻胴部31に巻き付けられる途中における第2鍔部33及び線材1が1つの画像内に含まれた解析用画像Pを撮像する。この場合、第2鍔部33が鍔部に相当し、間隙長さL1は、線材1の第2鍔部33側の端線と、第2鍔部33の端面と、の間の距離となる。また、第2鍔部33近傍を撮像する撮像装置40は、例えば、ミラー43の位置を切り替えることによって第1鍔部32近傍と第2鍔部33近傍との両方を撮像可能な撮像装置であってもよいし、第1鍔部32近傍を撮像する撮像装置40とは別に設けられた撮像装置であってもよい。
【0059】
このように、2層目以降の巻線を行う際にも間隙長さLの計測及び必要回転角度RAの演算を実行することによって、各層の巻線を行う際も巻芯30に対して過不足なく線材1を巻き付けることが可能となる。
【0060】
コイルの性能は、一般的に、巻数や巻線の長さによって変わることから、2層目以降の巻線が開始されると、ステップS17において、制御部50は、要求された性能を発揮させるために、コイルの巻数が予め設定された設計上の巻数に到達したか否か、または、コイルの巻線に用いられた線材1の長さが予め設定された設計上の長さに到達したか否かを判定する。
【0061】
コイルの巻数が予め設定された設計上の巻数に到達したと判定されるか、コイルの巻線に用いられた線材1の長さが予め設定された設計上の長さに到達したと判定されると、制御部50は、電動モータ16及び電動スライダ21を停止し、巻線を終了する。
【0062】
以上のような工程により、巻芯30への線材1の巻線が完了し、巻芯30には所定の諸元の整列巻きコイルが形成される。
【0063】
以上の実施形態によれば以下の効果を奏する。
【0064】
上記構成の巻線装置100において、制御部50は、ノズル24から繰り出される線材1が鍔部としての第1鍔部32に向かって巻胴部31に巻き付けられる途中において計測された線材1と第1鍔部32との間の間隙長さLに基づいて、被回転部材としての巻芯30の必要回転角度RAを演算し、巻芯30を必要回転角度RAだけ回転させている。
【0065】
このように、線材1が第1鍔部32に向かって巻胴部31に巻き付けられる途中において計測された線材1と第1鍔部32との間の間隙長さLに対して過不足なく線材1を巻き付けるために必要となる巻芯30の必要回転角度RAを求め、この必要回転角度RAだけ巻芯30を回転させることによって、巻芯30の製造誤差等により巻胴部31の長さに個体差がある場合であっても、第1鍔部32付近において既に巻かれた線材1に新たな線材1が乗り上げてしまうことや第1鍔部32付近において隙間が生じてしまうことを防止することが可能である。この結果、巻芯30に対する巻線精度を向上させることができる。
【0066】
また、上記構成の巻線装置100によれば、巻芯30の製造誤差が比較的大きい場合や巻胴部31に1層目の線材1の位置を規定する案内溝等が形成されていない場合であっても、巻芯30に対して過不足なく線材1を巻き付けることが可能である。したがって、巻芯30の製造コストを低減させることができるとともに、巻芯30に形成されるコイルの製造コストを低減させることができる。
【0067】
なお、次のような変形例も本発明の範囲内であり、変形例に示す構成と上述の実施形態で説明した構成を組み合わせたり、以下の異なる変形例で説明する構成同士を組み合わせたりすることも可能である。
【0068】
上記実施形態では、巻線装置100が、巻芯30を被回転部材とする整列巻線機である場合について説明した。これに代えて、巻線装置は、ノズル24を被回転部材とするフライヤ方式の整列巻線機であってもよく、この場合、制御部50は、線材1を繰り出しながら巻芯30の周りを回転するノズル24の回転を制御する。
【0069】
また、上記実施形態では、間隙長さLの計測及び必要回転角度RAの演算は、巻芯30に1層目の巻線が行われる際に実行されている。これに加えて、間隙長さLの計測及び必要回転角度RAの演算は、巻芯30に1層目の巻線が行われる際だけではなく、2層目以降の巻線が行われる際に実行されてもよい。あるいは、巻胴部31に1層目の線材1の位置を規定する案内溝が形成されている場合には、巻芯30に1層目の巻線を行う際には実行せず、2層目以降の巻線が行われる際に実行するようにしてもよい。
【0070】
また、上記実施形態では、線材1の断面形状は円状である。これに代えて、線材1の断面形状は、矩形状や多角形状であってもよい。また、上記実施形態では、線材1が巻き付けられる巻胴部31の外周面の断面形状は円形である。これに代えて、巻胴部31の断面形状は、矩形状や多角形状であってもよい。
【0071】
また、上記実施形態では、巻芯30は、樹脂製である。これに代えて巻芯30は、金属製のボビンであってもよい。
【0072】
また、上記実施形態では、巻芯30は、巻胴部31と両鍔部32,33とが一体的に形成されている。これに代えて、巻芯30は、巻胴部31と両鍔部32,33とが別部材で形成されていてもよい。また、巻芯30は、巻胴部31と何れか一方の鍔部32,33で構成されたものであってもよいし、スピンドル17の一部分が巻芯30の巻胴部31として利用されてもよい。
【0073】
また、上記実施形態では、必要回転角度RAを算出する際に用いられる移動距離X1は、予め設定された値である。これに代えて、移動距離X1は、間隙長さL1と同様に、解析用画像Pから求められてもよい。具体的には、解析用画像Pから、線材1が巻胴部31に巻き付けられる際の回転軸C1方向に沿う方向における線材1の幅を計測し、計測された幅を、巻芯30が1回転する間にノズル24が回転軸C1方向に沿って移動する移動距離X1とみなして必要回転角度RAを算出してもよい。
【0074】
また、上記実施形態では、間隙長さL1の計測は、カメラ41に撮像された解析用画像Pを用いて行われている。これに代えて、間隙長さL1の計測は、2D-LiDAR(Light Detection and Ranging)センサ等のレーザー距離計測機を用いて行われてもよく、例えば、ノズル24から繰り出される線材1が巻胴部31に巻き付く直前の部分及び第1鍔部32に対してレーザーを照射したり、第1鍔部32から第2鍔部33に向かって回転軸C1上に沿ってレーザーを照射したりすることによって求められた線材1を含む巻芯30の形状から間隙長さL1を計測するようにしてもよい。
【0075】
以下、本発明の実施形態の構成、作用、及び効果をまとめて説明する。
【0076】
巻線装置100は、先端部24aから線材1を繰り出すノズル24と、ノズル24から繰り出された線材1が巻き付けられる巻胴部31と、巻胴部31の一端側に設けられる第1鍔部32と、を有する巻芯30と、被回転部材となるノズル24及び巻芯30の何れか一方の回転を制御する制御部50と、を備え、制御部50は、線材1が第1鍔部32に向かって巻胴部31に巻き付けられる途中において計測された線材1と第1鍔部32との間の間隙長さL1に基づいて、被回転部材の必要回転角度RAを演算し、被回転部材を必要回転角度RAだけ回転させる。
【0077】
この構成では、線材1が第1鍔部32に向かって巻胴部31に巻き付けられる途中において計測された線材1と第1鍔部32との間の間隙長さLに対して過不足なく線材1を巻き付けるために必要となる被回転部材の必要回転角度RAを求め、この必要回転角度RAだけ被回転部材を回転させることによって、巻芯30の製造誤差等により巻胴部31の長さに個体差がある場合であっても、第1鍔部32付近において既に巻かれた線材1に新たな線材1が乗り上げてしまうことや第1鍔部32付近において隙間が生じてしまうことを防止することが可能である。この結果、巻芯30に対する巻線精度を向上させることができる。
【0078】
また、必要回転角度RAは、間隙長さL1が計測された時点からの被回転部材の回転角度であって、巻胴部31に巻き付けられる線材1が第1鍔部32に接するまでに必要とされる被回転部材の回転角度に設定される。
【0079】
この構成では、必要回転角度RAが、巻胴部31に巻き付けられる線材1が第1鍔部32に接するまでに必要とされる被回転部材の回転角度に設定される。このように設定された必要回転角度RAだけ被回転部材を回転させることによって、間隙長さLに対して過不足なく線材1を巻き付けることが可能となり、結果として、巻芯30の製造誤差等により巻胴部31の長さに個体差がある場合であっても、第1鍔部32付近において既に巻かれた線材1に新たな線材1が乗り上げてしまうことや第1鍔部32付近において隙間が生じてしまうことを防止することができる。
【0080】
また、巻胴部31及び第1鍔部32の少なくとも一方は樹脂製である。
【0081】
この構成では、巻胴部31及び第1鍔部32の少なくとも一方が樹脂製であることから、製造誤差等により、巻胴部31の長さや第1鍔部32と第2鍔部33との間隔の大きさに個体差が生じるおそれがあるが、巻芯30毎に計測された間隙長さL1に対して過不足なく線材1が巻き付けられることから、製造誤差に関わらず、巻芯30に対する巻線精度を向上させることができる。
【0082】
また、巻線装置100は、線材1が第1鍔部32に向かって巻胴部31に巻き付けられる途中において第1鍔部32及び線材1の画像を撮像可能な撮像装置40を備え、制御部50は、撮像装置40により撮像された画像から間隙長さL1を演算する。
【0083】
この構成では、撮像装置40により撮像された画像から間隙長さL1が演算される。このように、間隙長さL1を比較的簡素なシステムにより計測するようにしたことによって、巻線装置100の製造コストの上昇を抑制することができる。
【0084】
また、被回転部材となるノズル24及び巻芯30の何れか一方を回転させることによって、ノズル24から繰り出される線材1を巻芯30に巻線する巻線方法は、線材1が巻芯30の第1鍔部32に向かって巻芯30の巻胴部31に巻き付けられる途中において線材1と第1鍔部32との間の間隙長さL1を計測し、間隙長さL1に基づいて被回転部材の必要回転角度RAを演算し、被回転部材を必要回転角度RAだけ回転させる。
【0085】
この構成では、線材1が第1鍔部32に向かって巻胴部31に巻き付けられる途中において計測された線材1と第1鍔部32との間の間隙長さLに対して過不足なく線材1を巻き付けるために必要となる被回転部材の必要回転角度RAを求め、この必要回転角度RAだけ被回転部材を回転させることによって、巻芯30の製造誤差等により巻胴部31の長さに個体差がある場合であっても、第1鍔部32付近において既に巻かれた線材1に新たな線材1が乗り上げてしまうことや第1鍔部32付近において隙間が生じてしまうことを防止することが可能である。この結果、巻芯30に対する巻線精度を向上させることができる。
【0086】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【要約】
ノズル(24)から繰り出される線材(1)を巻芯(30)に巻線する巻線装置(100)は、先端部(24a)から線材(1)を繰り出すノズル(24)と、ノズル(24)から繰り出された線材(1)が巻き付けられる巻胴部(31)と、巻胴部(31)の一端側に設けられる第1鍔部(32)と、を有する巻芯(30)と、被回転部材となるノズル(24)及び巻芯(30)の何れか一方の回転を制御する制御部(50)と、を備え、制御部(50)は、線材(1)が第1鍔部(32)に向かって巻胴部(31)に巻き付けられる途中において計測された線材(1)と第1鍔部(32)との間の間隙長さ(L1)に基づいて、被回転部材の必要回転角度を演算し、被回転部材を必要回転角度だけ回転させる。
図1
図2
図3
図4