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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-06
(45)【発行日】2024-11-14
(54)【発明の名称】車両
(51)【国際特許分類】
   B60W 20/00 20160101AFI20241107BHJP
   B60W 10/02 20060101ALI20241107BHJP
   B60K 6/48 20071001ALI20241107BHJP
   B60W 10/06 20060101ALI20241107BHJP
   B60W 10/08 20060101ALI20241107BHJP
   B60K 6/543 20071001ALI20241107BHJP
   B60L 50/16 20190101ALI20241107BHJP
   B60L 15/20 20060101ALI20241107BHJP
   F16D 48/02 20060101ALI20241107BHJP
   F16D 25/0635 20060101ALI20241107BHJP
【FI】
B60W20/00 900
B60W10/02 900
B60K6/48 ZHV
B60W10/06 900
B60W10/08 900
B60K6/543
B60L50/16
B60L15/20 J
F16D48/02 640Z
F16D25/0635
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2024518963
(86)(22)【出願日】2023-01-20
(86)【国際出願番号】 JP2023001770
【審査請求日】2024-03-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】弁理士法人青海国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】垣生 淳二
(72)【発明者】
【氏名】柏舘 那知
(72)【発明者】
【氏名】松崎 哲
(72)【発明者】
【氏名】石田 拓夢
【審査官】三宅 龍平
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-196363(JP,A)
【文献】特開2016-027965(JP,A)
【文献】特開2010-235089(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 6/20 - 6/547
B60W 10/00 - 20/50
B60L 50/16
B60L 15/20
F16D 48/02
F16D 25/0635
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、
前記エンジンを始動する始動用モータと、
前記エンジンに接続されたクランクシャフトのトルクを増幅してタービンシャフトに伝達するトルクコンバータと、
前記クランクシャフトと前記タービンシャフトとを係合してロックアップを実行するロックアップクラッチと、
走行用モータと、
制御部と、
を備え、
前記制御部は、
1つまたは複数のプロセッサと、
前記プロセッサに接続される1つまたは複数のメモリと、
を有し、
前記プロセッサは、
前記エンジンで走行するエンジン走行モードと、前記走行用モータで走行するモータ走行モードとを切り換えることと、
前記モータ走行モードから前記エンジン走行モードへの切換要求があった場合に、前記エンジンの回転数が、自立復帰下限回転数未満であり、かつ、始動用モータ駆動上限回転数より大きいと、前記ロックアップを禁止することと、
を含む処理を実行する、車両。
【請求項2】
前記制御部は、
前記モータ走行モードから前記エンジン走行モードへの切換要求があった場合に、前記エンジンの回転数が、自立復帰下限回転数未満であり、始動用モータ駆動上限回転数より大きく、かつ、前記エンジンが停止していると、前記ロックアップを禁止する処理を実行する、請求項1に記載の車両。
【請求項3】
前記制御部は、
前記ロックアップを禁止した後に前記始動用モータの駆動指令があると、前記ロックアップの禁止を解除する処理を実行する、請求項1に記載の車両。
【請求項4】
前記制御部は、
前記ロックアップを禁止した後に前記始動用モータの駆動指令があり、かつ、前記エンジンが始動すると、前記ロックアップの禁止を解除する処理を実行する、請求項3に記載の車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1のハイブリッド車両は、モータ走行モードからエンジン走行モードへの切換要求があった場合に、エンジンの回転数が所定回転数以上であれば、燃料の噴射と点火のタイミングによりエンジンを自立的に始動させる。一方、エンジンの回転数が所定回転数未満であれば、ハイブリッド車両は、エンジンの回転数が十分低下するのを待って始動用モータでエンジンを始動する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-113912号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ドライバの快適な運転を支援するため、クランクシャフトとタービンシャフトとをロックアップクラッチで係合する、所謂、ロックアップが実行される場合がある。しかし、モータ走行モードからエンジン走行モードへの切換要求があったタイミングで、エンジンの回転数が、自立復帰下限回転数未満、かつ、始動用モータ駆動上限回転数より大きいときにロックアップが実行されると、エンジンの回転数が低下せず、エンジンを始動できない場合が生じ得る。
【0005】
本発明は、エンジンを適切に始動させることが可能な車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の車両は、
エンジンと、
前記エンジンを始動する始動用モータと、
前記エンジンに接続されたクランクシャフトのトルクを増幅してタービンシャフトに伝達するトルクコンバータと、
前記クランクシャフトと前記タービンシャフトとを係合してロックアップを実行するロックアップクラッチと、
走行用モータと、
制御部と、
を備え、
前記制御部は、
1つまたは複数のプロセッサと、
前記プロセッサに接続される1つまたは複数のメモリと、
を有し、
前記プロセッサは、
前記エンジンで走行するエンジン走行モードと、前記走行用モータで走行するモータ走行モードとを切り換えることと、
前記モータ走行モードから前記エンジン走行モードへの切換要求があった場合に、前記エンジンの回転数が、自立復帰下限回転数未満であり、かつ、始動用モータ駆動上限回転数より大きいと、前記ロックアップを禁止することと、
を含む処理を実行する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、エンジンを適切に始動させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、車両の概略構成を示す図である。
図2図2は、制御部の構成を説明する図である。
図3図3は、ロックアップ制御部の処理の流れを示したフローチャートである。
図4図4は、車両の状態変化を例示したタイミングチャートである。
図5図5は、車両の状態変化を例示したタイミングチャートである。
図6図6は、車両の状態変化を例示したタイミングチャートである。
図7図7は、車両の状態変化を例示したタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易にするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0010】
図1は、車両1の概略構成を示す図である。車両1は、HEV(Hybrid Electric Vehicle)等のハイブリッド車両であり、エンジン10および走行用モータ11を備える。車両1は、本実施形態に示す構成要素のみならず、様々な構成要素をさらに備えてもよい。
【0011】
エンジン10は、内部を貫通するようにクランクシャフト10aが配置され、燃焼室における爆発圧力でピストンを往復動させてクランクシャフト10aを回転させる。クランクシャフト10aには、クランク角センサS1が設けられる。クランク角センサS1は、クランクシャフト10aの回転数、すなわちエンジン10の回転数を測定する。クランクシャフト10aの一端側には、ギヤ10bおよびプーリ10cが固定される。
【0012】
走行用モータ11は、例えば、同期型回転電機である。走行用モータ11は、動力源として機能する場合、高電圧バッテリ12から供給される電力によってシャフト11aを回転させる。また、走行用モータ11は、発電機として機能する場合、発電することにより得られた電力を高電圧バッテリ12に供給することで、高電圧バッテリ12を充電する。
【0013】
エンジン10の近傍には、スタータ13およびISG(Integrated Starter Generator)15が設けられる。スタータ13はエンジン始動に用いられる。ただし、スタータ13は、運転サイクルの最初の始動時のみ利用される。スタータ13の内部から突設されたシャフト13aにはギヤ13bが固定される。ギヤ13bが後述するトルクコンバータ16の外周に設けられたギヤ10bと噛み合わされていることにより、シャフト13aとクランクシャフト10aとの間で動力が伝達される。
【0014】
ISG15は、エンジン10の駆動力をアシストする。また、ISG15は、アイドルストップ等のエンジン10の停止時において、エンジン10の始動用モータとして機能する。ISG15は、始動用モータとして機能する場合、補機バッテリ14から供給される電力により回転駆動する。シャフト15aに設けられたプーリ15bからプーリ10cにベルト15cが張架されていることで、ISG15の駆動力が、シャフト15a、プーリ15b、プーリ10cを介してクランクシャフト10aに伝達されてエンジン10が始動される。また、ISG15は、オルタネータとして機能する。ISG15は、オルタネータとして機能する場合、エンジン10の駆動力をクランクシャフト10a、プーリ10c、ベルト15cおよびプーリ15bを介してシャフト15aに伝達して発電する。ISG15は、発電することにより得られた電力で補機バッテリ14を充電する。
【0015】
また、クランクシャフト10aの他端側には、トルクコンバータ16、入力クラッチ17を介して変速機18が接続される。
【0016】
トルクコンバータ16は、クランクシャフト10aに接続されたフロントカバー16aと、フロントカバー16aに固定されたポンプインペラ16bとを含む。また、フロントカバー16a内においては、タービンランナ16cがポンプインペラ16bに対向配置されている。タービンランナ16cには、タービンシャフト16dが接続される。ポンプインペラ16bおよびタービンランナ16cの間の内周側にはステータ16eが配置され、内部に作動流体が封入されている。
【0017】
トルクコンバータ16は、ポンプインペラ16bが回転することで作動流体が外周側に送出され、作動流体をタービンランナ16cに送ることでタービンランナ16cを回転させる。これにより、クランクシャフト10aからタービンランナ16cに動力が伝達される。
【0018】
ステータ16eは、タービンランナ16cから送り出された作動流体の流動方向を変化させてポンプインペラ16bに還流させ、ポンプインペラ16bの回転を促進させる。そのため、トルクコンバータ16はタービンシャフト16dへの伝達トルクを増幅することができる。
【0019】
また、トルクコンバータ16では、タービンシャフト16dに固定されたロックアップクラッチ16fがフロントカバー16aの内面に対向配置されている。ロックアップクラッチ16fは、クランクシャフト10aをタービンシャフト16dに直接的に係合させることができる。ロックアップクラッチ16fがクランクシャフト10aに係合しない場合、クランクシャフト10aのトルクは、増幅されてタービンシャフト16dに伝えられる。ロックアップクラッチ16fがクランクシャフト10aに係合する場合、クランクシャフト10aのトルクは、直接的にタービンシャフト16dに伝えられる。
【0020】
このように、トルクコンバータ16は、クランクシャフト10aのトルクを増幅してタービンシャフト16dに伝達する。これと引き換えに、タービンシャフト16dの回転数は、クランクシャフト10aの回転数より低下する。そうすると、ドライバは、スロットルペダルを操作してエンジン10の回転数を上げても、車両1が直ぐには加速しないといった滑り感を覚えることとなる。
【0021】
ここでは、ロックアップクラッチ16fにより、クランクシャフト10aをタービンシャフト16dに直接的に係合させることで、トルクコンバータ16の機能をキャンセルできる。したがって、クランクシャフト10aからタービンシャフト16dへのトルクの増幅がなくなるものの、エンジン10の回転数がタービンシャフト16dに直接伝わることとなる。こうして、ドライバは、滑り感のない走行を楽しむことができる。以下、このようなロックアップクラッチ16fにより、クランクシャフト10aをタービンシャフト16dに直接的に係合させることをロックアップという。
【0022】
入力クラッチ17では、タービンシャフト16dに固定された固定ケース17aと、シャフト11aに固定された移動部材17bとが対向配置されている。移動部材17bは、不図示の油圧ポンプから供給される作動油の油圧により、固定ケース17aに向けて移動する。
【0023】
入力クラッチ17は、固定ケース17aと移動部材17bとが離間した開放状態において、タービンシャフト16dとシャフト11aとの間の動力の伝達を遮断する。また、入力クラッチ17は、油圧により固定ケース17aに移動部材17bが押し付けられた連結状態において、タービンシャフト16dとシャフト11aとの間で動力を伝達する。
【0024】
変速機18は、プライマリプーリ19、セカンダリプーリ20およびベルト21を含む。プライマリプーリ19は、シャフト11aに設けられる。セカンダリプーリ20は、シャフト11aに対して平行に配置されたシャフト22に設けられる。ベルト21は、例えばリンクプレートをピンで連結したチェーンベルトで構成され、一対のプライマリプーリ19とセカンダリプーリ20との間に掛け渡される。ベルト21は、プライマリプーリ19とセカンダリプーリ20との間で動力を伝達する。
【0025】
プライマリプーリ19は、固定シーブ19aおよび可動シーブ19bを含む。固定シーブ19aおよび可動シーブ19bは、互いにシャフト11aの軸方向に対向して設けられる。また、固定シーブ19aおよび可動シーブ19b双方の対向面が、略円錐形状のコーン面となっており、このコーン面によってベルト21が掛け渡される溝が形成される。
【0026】
同様に、セカンダリプーリ20は、固定シーブ20aおよび可動シーブ20bを含む。固定シーブ20aおよび可動シーブ20bは、互いにシャフト22の軸方向に対向して設けられる。また、固定シーブ20aおよび可動シーブ20b双方の対向面が、略円錐形状のコーン面となっており、このコーン面によってベルト21が掛け渡される溝が形成される。
【0027】
プライマリプーリ19の可動シーブ19bは、不図示の油圧ポンプから油圧制御弁を介し供給されるオイルの油圧により、シャフト11aの軸方向の位置が可変に構成されている。また、セカンダリプーリ20の可動シーブ20bは、油圧ポンプから供給されるオイルの油圧により、シャフト22の軸方向の位置が可変に構成されている。
【0028】
このように、プライマリプーリ19は、固定シーブ19aおよび可動シーブ19bの対向間隔が可変であり、セカンダリプーリ20は、固定シーブ20aおよび可動シーブ20bの対向間隔が可変である。そして、ベルト21が掛け渡される溝は、固定シーブ19aおよび可動シーブ19b、固定シーブ20aおよび可動シーブ20bの径方向内方が狭く、径方向外方が広くなっている。そのため、コーン面の対向間隔が変わり、ベルト21が掛け渡される溝幅が変更されると、ベルト21の掛け渡される位置が変わる。
【0029】
変速機18は、ベルト21の掛け渡される位置が変わることで、ベルト21の巻き掛け径が可変となる。こうして、変速機18は、シャフト11aとシャフト22との間の伝達トルクを無段変速する。
【0030】
シャフト22は、ギヤ機構23を介して出力軸24に接続される。出力軸24は、第1出力軸24aと第2出力軸24bとを備えている。ギヤ機構23は、シャフト22と第1出力軸24aとを連結し、両者を一体回転させる。第1出力軸24aと第2出力軸24bとは、出力クラッチ25を介して接続されている。出力クラッチ25は、第2出力軸24bに固定された固定ケース25aと、第1出力軸24aに設けられた移動部材25bとを備えている。固定ケース25aと移動部材25bとは対向配置される。移動部材25bは、不図示の油圧ポンプから供給される作動油の油圧により、固定ケース25aに向けて移動する。
【0031】
出力クラッチ25は、固定ケース25aと移動部材25bとが離間した開放状態において、第1出力軸24aと第2出力軸24bとの間の動力の伝達を遮断する。また、出力クラッチ25は、油圧により固定ケース25aに移動部材25bが押し付けられた連結状態において、第1出力軸24aと第2出力軸24bの間で動力を伝達し、その動力が第2出力軸24bに接続された駆動輪26に出力される。なお、出力クラッチ25は、作動油の油圧に応じて第1出力軸24aと第2出力軸24bとの間で伝達されるトルク容量が調整可能である。
【0032】
出力クラッチ25は、変速機18のトルク容量よりも小さいトルク容量に設定されており、変速機18からのトルクを駆動輪26に伝達する。一方で、出力クラッチ25は、自己のトルク容量より大きなトルク(外乱)が駆動輪26から入力された場合には、固定ケース25aに対して移動部材25bが滑るので、トルクの伝達がトルク容量以下に制限される。このため、出力クラッチ25は、変速機18のトルク容量よりも大きなトルクを変速機18に伝達することがない。すなわち、出力クラッチ25は、トルクヒューズとして機能する。
【0033】
制御部30は、エンジン10および走行用モータ11を含む上記の各構成要素に接続され、車両1全体を制御する。
【0034】
図2は、制御部30の構成を説明する図である。制御部30は、プロセッサ30a、プログラム等が格納されたROM30b、ワークエリアとしてのRAM30cを含む半導体集積回路で構成される。制御部30は、プロセッサ30aが、ROM30bに含まれるプログラムと協働し、モード切換部50、ロックアップ制御部52といった機能モジュールとして機能する。なお、車両1には、ECU(Electronic Control Unit)が設けられており、ECUは、当該制御部30としても機能する。
【0035】
モード切換部50は、車両1の走行モードを切り換える。車両1の走行モードは、例えば、EV走行モード、エンジン走行モード、パラレルHEV走行モードを含む。EV走行モードは、走行用モータ11のみの駆動力によって走行するモードであり、モータ走行モードともいう。エンジン走行モードは、エンジン10のみの駆動力によって走行するモードである。パラレルHEV走行モードは、エンジン10の駆動力と走行用モータ11の駆動力によって走行するモードである。
【0036】
例えば、EV走行モードにおいては、エンジン10は停止され、エンジン10の回転数は低下または停止している。ここで、ドライバが、チェンジマインドにより、不図示のスロットルペダルを操作すると、モード切換部50は、車両1に対する要求トルクが上昇したと判断し、エンジン10の始動を試みる。
【0037】
モード切換部50は、クランク角センサS1を通じてエンジン10の回転数を取得する。エンジン10の回転数が、エンジン10を自立復帰可能な回転数の下限値である自立復帰下限回転数、例えば、850rpm以上であれば、モード切換部50は、燃料の噴射と点火のタイミングによりエンジン10を再始動させることができる。
【0038】
一方、エンジン10の回転数が自立復帰下限回転数未満であれば、モード切換部50は、エンジン10の回転数がISG15によって駆動可能な回転数の上限値であるISG駆動上限回転数、例えば、400rpmまで低下するのを待ち、ISG15を用いてエンジンクランキングを行い、エンジン10を始動する。なお、ISG15は始動用モータとして機能するので、ISG駆動上限回転数を始動用モータ駆動上限回転数に置き換えることができる。そして、ISG15によってエンジン10が始動し、所定の回転数に達すると、モード切換部50は、走行モードを、EV走行モードからエンジン走行モードに切り換え、走行用モータ11を停止する。
【0039】
しかし、エンジン10の回転数が、自立復帰下限回転数未満、かつ、ISG駆動上限回転数より大きいときに、ロックアップクラッチ16fによるロックアップが実行されると、エンジン10の回転数が低下しにくい状態となる。これは、ロックアップクラッチ16fによって、クランクシャフト10aがタービンシャフト16dに直接的に係合されることで、タービンシャフト16dの回転数がクランクシャフト10aに直接伝達されるからである。そうすると、エンジン10の回転数がISG駆動上限回転数まで低下するのに時間を要し、モード切換部50は、エンジン10を迅速に始動できなくなる。そこで、本実施形態では、エンジン10の回転数を早期に低下させたい状況においてロックアップを禁止する。
【0040】
ロックアップ制御部52は、エンジン10の回転数を早期に低下させたい状況において、モータ走行モードからエンジン走行モードへの切換要求があると、すなわち、以下に示す第1条件を満たすと、ロックアップを禁止する。ロックアップの禁止は、係合しているロックアップクラッチ16fを開放すること、または、ロックアップクラッチ16fの開放状態を維持することを示す。ロックアップを禁止すると、クランクシャフト10aとタービンシャフト16dとの係合を回避できるので、タービンシャフト16dの回転数がクランクシャフト10aに直接伝達されることはなくなる。したがって、エンジン10の回転数を早期に低下させ、ISG15によるエンジン10の始動が可能となる。
【0041】
図3は、ロックアップ制御部52の処理の流れを示したフローチャートである。かかるフローチャートは、割込み処理として所定時間間隔、例えば、8msec間隔で繰り返し実行される。
【0042】
ロックアップ制御部52は、第2条件、第3条件、第4条件のいずれかを満たすか否か判定する(S100)。その結果、第2条件、第3条件、第4条件のいずれかを満たす場合(S100におけるYES)、ロックアップ制御部52はステップS106に移行し、第2条件、第3条件、第4条件のいずれも満たさない場合(S100におけるNO)、ロックアップ制御部52はステップS102に移行する。第2条件、第3条件、第4条件は、ロックアップ禁止要求の解除条件であり、その内容については後程詳述する。
【0043】
第2条件、第3条件、第4条件のいずれも満たさないと判定すると、ロックアップ制御部52は、第1条件を満たすか否か判定する(S102)。第1条件は、以下の(条件1-1)~(条件1-5)の全てを満たすことである。
【0044】
(条件1-1)
モード切換部50は、アイドルストップ等によりエンジン10が停止している状態で、例えば、ドライバによるスロットルペダルの操作を検出すると、要求トルクが高まったとしてエンジン10の始動要求を行う。条件1-1は、モード切換部50において、モータ走行モードからエンジン走行モードへの切換要求、すなわち、エンジン10の始動要求があることである。なお、エンジン10の始動要求の代わりに、モード切換部50においてアイドルストップ要求が解除されたことを条件1-1としてもよい。
【0045】
(条件1-2)
モード切換部50は、エンジン10が停止している間、エンジン10の燃料カット要求を行っている。条件1-2は、モード切換部50においてエンジン10の燃料カット要求があることである。
【0046】
(条件1-3)
エンジン10の回転数が自立復帰下限回転数以上であれば、モード切換部50は、燃料の噴射と点火のタイミングによりエンジン10を再始動させることができる。換言すれば、ロックアップ制御部52は、エンジン10の回転数が自立復帰下限回転数未満であれば、エンジン10の回転数を早期に低下させ、ISG15によるエンジン10の始動を試みる。したがって、条件1-3は、エンジン10の回転数が自立復帰下限回転数未満であることである。
【0047】
(条件1-4)
エンジン10の回転数がISG駆動上限回転数以下であれば、モード切換部50は、ISG15を用いてエンジンクランキングを行い、エンジン10を始動することができる。換言すれば、ロックアップ制御部52は、エンジン10の回転数がISG駆動上限回転数より大きければ、エンジン10の回転数を早期に低下させ、ISG15によるエンジン10の始動を試みる。したがって、条件1-4は、エンジン10の回転数がISG駆動上限回転数より大きいことである。
【0048】
(条件1-5)
モード切換部50は、アイドルストップ要求中等のエンジン10が停止している状態で、例えば、ドライバによるスロットルペダルの操作を検出すると、エンジン10の回転数がISG駆動上限回転数以下となった後、ISG15の駆動指令を行う。条件1-5は、モード切換部50においてISG駆動指令があることである。なお、ISG15の駆動指令は、エンジン10の回転数がISG駆動上限回転数以下とならないと行われない点で、条件1-4と重複している。これは、より確実かつ安全に、第1条件を判断するためである。
【0049】
ロックアップ制御部52は、第1条件を満たすと判定すると(S102におけるYES)、ステップS104に移行し、第1条件を満たさないと判定すると(S102におけるNO)、ステップS108に移行する。
【0050】
第1条件を満たすと判定すると、ロックアップ制御部52は、ロックアップ禁止要求を行い、ロックアップを禁止する(S104)。
【0051】
このようにロックアップが禁止された後は、ロックアップ禁止要求の解除条件である第2条件、第3条件、第4条件のいずれかを満たすことで(S100におけるYES)、ロックアップが許可される。第2条件は、以下の(条件2-1)、(条件2-2)のいずれも満たすことを示す。また、第3条件、第4条件は、以下のことを示す。
【0052】
(条件2-1)
走行モードが、エンジン10が動作しているエンジン走行モードであれば、ロックアップを禁止する必要がない。したがって、条件2-1は、現在の走行モードがエンジン走行モードであることである。
【0053】
(条件2-2)
本実施形態では、第1条件が満たされた後、ISG駆動指令を取得するまでロックアップの禁止を維持する。したがって、ここでは、第1条件が満たされた後、ISG駆動指令を取得するまでの状態を、ISG駆動指令フラグを用いて管理する。ISG駆動指令フラグは、ISG駆動指令を待つ待機状態であるか、第1条件が満たされた後、ISG駆動指令があった完了状態であるかを示す。第1条件が満たされた後、ISG駆動指令があった後の完了状態であれば、エンジン10は始動しているのでロックアップを禁止する必要はない。また、エンジン10が動作しており、モード切換部50がエンジン10の燃料カット要求を行っていなければ、ロックアップを禁止する必要はない。条件2-2は、ISG駆動指令フラグが完了状態であるか、または、モード切換部50からエンジン10の燃料カット要求がない状態であることである。
【0054】
(第3条件)
エンジンストールしている場合、エンジン10は回転していないので、ISG15により始動可能である。第3条件は、エンジンストール中であることである。
【0055】
(第4条件)
本実施形態では、第1条件を満たすと、ロックアップを禁止している。しかし、ドライバの意思や、走行状況によっては、ロックアップの禁止を行わない方がよい状況があり得る。この場合、ドライバは、所定のインターフェースを通じてロックアップ禁止要求を強制的に禁止することができる。第4条件は、ロックアップ禁止要求が禁止されていることである。
【0056】
第2条件、第3条件、第4条件のいずれかを満たすと判定すると(S100におけるYES)、ロックアップ制御部52は、ロックアップ禁止要求がある状態であれば、ロックアップ禁止要求を解除し、ロックアップ禁止要求がなければ、その状態を維持する(S106)。
【0057】
続いて、ロックアップ制御部52は、第5条件を満たすか否か判定する(S108)。その結果、第5条件を満たす場合(S108におけるYES)、ロックアップ制御部52はステップS114に移行し、第5条件を満たさない場合(S108におけるNO)、ロックアップ制御部52はステップS110に移行する。第5条件は、待機状態の解除条件であり、その内容については後程詳述する。
【0058】
第5条件を満たさないと判定すると、ロックアップ制御部52は、上述した第1条件を満たすか否か判定する(S110)。その結果、第1条件を満たすと判定すると(S110におけるYES)、ロックアップ制御部52はステップS112に移行し、第1条件を満たさないと判定すると(S110におけるNO)、ロックアップ制御部52は当該ロックアップに関する処理を終了する。
【0059】
第1条件を満たすと判定すると、ロックアップ制御部52は、ロックアップを禁止可能な状態を管理するため、ISG駆動指令フラグを待機状態とする(S112)。ここでは、ISG駆動指令が行われたのを判断するため、一旦、ISG駆動指令フラグの完了状態をリセットしている。
【0060】
このようにISG駆動指令フラグの待機状態となった後は、待機状態の解除条件である第5条件を満たすことで(S108におけるYES)、ロックアップの禁止が解除される。
【0061】
(第5条件)
上述したように、第1条件が満たされた後、ISG駆動指令を取得すると、ロックアップを禁止する必要がなくなる。第5条件は、ISG駆動指令がないことである。
【0062】
第5条件を満たすと判定すると、ロックアップ制御部52は、第1条件が満たされた後、ISG駆動指令を取得したとして、ISG駆動指令フラグを完了状態とする(S114)。
【0063】
かかる構成により、エンジン10の回転数が、自立復帰下限回転数未満、かつ、ISG駆動上限回転数より大きい場合に、ロックアップを禁止することが可能となる。したがって、エンジン10の始動要求に対し、クランクシャフト10aとタービンシャフト16dとの係合を回避できるので、エンジン10の回転数を早期に低下させ、ISG15によるエンジン10の始動が可能となる。
【0064】
また、ここでは、エンジン10の回転数がISG駆動上限回転数以下となっても直ぐにロックアップの禁止を解除せず、ISG駆動指令があった後にロックアップの禁止を解除しているので、エンジン10を確実に始動することができる。
【0065】
図4~7は、車両1の状態変化を例示したタイミングチャートである。図4は、エンジン10の回転数が自立復帰下限回転数以上の状態でチェンジマインドが生じた実施例1を示す。図5は、エンジン10の回転数が自立復帰下限回転数未満、かつ、ISG駆動上限回転数より大きい状態でチェンジマインドが生じた実施例2を示す。図6は、エンジン10の回転数がISG駆動上限回転数以下の状態でチェンジマインドが生じた実施例3を示す。図7は、エンジンストールが生じた状態でエンジン10を始動する実施例4を示す。
【0066】
(実施例1)
図4のように、モード切換部50が、車両1に対する要求トルクに応じて、走行モードをエンジン走行モードからEV走行モードに切り換えたとする。そうするとエンジン10の回転数は漸減する。
【0067】
ここで、ドライバのチェンジマインドにより車両1に対する要求トルクが上昇すると、モード切換部50はエンジン走行モードへの切り換えを試みる。ここでは、エンジン10の回転数が自立復帰下限回転数以上なので、モード切換部50は、燃料の噴射と点火のタイミングによりエンジン10を再始動させる。なお、エンジン10の回転数が自立復帰下限回転数以上なので条件1-3を満たさず、ひいては第1条件を満たさない。したがって、ロックアップが禁止されることはない。こうして、モード切換部50はEV走行モードをエンジン走行モードへスムーズに切り換えることができる。
【0068】
(実施例2)
図5のように、モード切換部50が、車両1に対する要求トルクに応じて、走行モードをエンジン走行モードからEV走行モードに切り換えたとする。そうするとエンジン10の回転数は漸減する。
【0069】
ここで、ドライバのチェンジマインドにより車両1に対する要求トルクが上昇すると、モード切換部50はエンジン走行モードへの切り換えを試みる。ここでは、エンジン10の回転数が自立復帰下限回転数未満、かつ、ISG駆動上限回転数より大きい状態でチェンジマインドが生じているので、エンジン10を直ぐに始動することができない。
【0070】
このとき、走行モードはエンジン走行モードではないので条件2-1を満たさず、ひいては第2条件を満たさない。また、エンジンストールしていないので第3条件も満たしていない。また、ロックアップ禁止要求が禁止されていないとすると、第4条件も満たしていない。すなわち、第2条件、第3条件、第4条件のいずれも満たしていない。
【0071】
一方、エンジン10の始動要求があるので条件1-1を満たす。また、エンジンの燃料カット要求があるので条件1-2を満たす。また、エンジン10の回転数が自立復帰下限回転数未満なので条件1-3を満たす。また、エンジン10の回転数がISG駆動上限回転数より大きいので条件1-4を満たす。この時点では、ISG駆動指令が無いので条件1-5を満たす。すなわち、第1条件を満たしている。
【0072】
したがって、ロックアップ制御部52は、チェンジマインドのタイミングで、ロックアップ禁止要求を行い、ロックアップを禁止する。
【0073】
また、このとき、まだISG駆動指令がないので第5条件を満たしていない。一方、上記のように第1条件を満たしいている。したがって、ロックアップ制御部52は、ISG駆動指令フラグを待機状態とする。
【0074】
図5では、ロックアップが禁止されているので、エンジン10の回転数は早期に低下し、ISG駆動上限回転数以下となる。モード切換部50は、エンジン10の回転数がISG駆動上限回転数以下となると、燃料カットを非要求とし、ISG駆動指令を行う。これによりエンジン10が始動し、エンジン10の回転数が漸増する。
【0075】
また、ISG駆動指令があったことにより、第5条件を満たすこととなるので、ロックアップ制御部52は、ISG駆動指令フラグを完了状態とする。
【0076】
そして、エンジン10の回転数が上昇し、回転数が安定していると判断できる安定回転数に達すると、モード切換部50は、走行モードをEV走行モードからエンジン走行モードに切り換える。走行モードがエンジン走行モードとなると第2条件を満たすこととなる。したがって、ロックアップ制御部52は、ロックアップ禁止の要求を解除する。
【0077】
図5の例では、エンジン10の回転数が、自立復帰下限回転数未満、かつ、ISG駆動上限回転数より大きい場合に、ロックアップを禁止することができる。したがって、クランクシャフト10aとタービンシャフト16dとの係合を回避できるので、エンジン10の回転数を早期に低下させ、ISG15によるエンジン10の始動が可能となる。
(実施例3)
図6のように、モード切換部50が、車両1に対する要求トルクに応じて、走行モードをエンジン走行モードからEV走行モードに切り換えたとする。そうするとエンジン10の回転数は漸減する。
【0078】
ここで、ドライバのチェンジマインドにより車両1に対する要求トルクが上昇すると、モード切換部50はエンジン走行モードへの切り換えを試みる。ここでは、エンジン10の回転数がISG駆動上限回転数以下なので、モード切換部50は、ISG駆動指令を行い、エンジン10を始動させる。なお、エンジン10の回転数がISG駆動上限回転数以下なので条件1-4を満たさず、ひいては第1条件を満たさない。したがって、ロックアップが禁止されることはない。
【0079】
そして、エンジン10の回転数が上昇し、回転数が安定していると判断できる安定回転数に達すると、モード切換部50は、走行モードをEV走行モードからエンジン走行モードに切り換える。
【0080】
(実施例4)
図7のように、モード切換部50が、車両1に対する要求トルクに応じて、走行モードをエンジン走行モードからEV走行モードに切り換えたとする。そうするとエンジン10の回転数は漸減する。その結果、エンジン10がストールしたとする。
【0081】
ここで、エンジン10の始動要求があると、モード切換部50はエンジン走行モードへの切り換えを試みる。モード切換部50は、ISG駆動指令を行ってエンジン10を始動させるとともに、走行モードをエンジン走行モードに切り換える。ここでは、エンジン10の回転数が安定回転数に達していなくとも、走行モードは、ISG15の始動時からエンジン走行モードに移行されている。なお、エンジンストールが生じているので、第3条件を満たし、ロックアップが禁止されることはない。
【0082】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0083】
なお、上述した本実施形態に係る各装置(例えば、車両1、制御部30)による一連の処理は、ソフトウェア、ハードウェア、または、ソフトウェアとハードウェアとの組合せのうちいずれを用いて実現されてもよい。ソフトウェアを構成するプログラムは、例えば、各装置の内部または外部に設けられる非一時的な記憶媒体(non-transitory media)に予め格納される。そして、プログラムは、例えば、非一時的な記憶媒体(例えば、ROM)から一時的な記憶媒体(例えば、RAM)に読み出され、CPUなどのプロセッサにより実行される。
【0084】
上記各装置の各機能を実現するためのプログラムを作成し、上記各装置のコンピュータにインストールすることが可能である。プロセッサが、メモリに記憶されているプログラムを実行することにより、上記各機能の処理が実行される。このとき、複数のプロセッサによりプログラムを分担して実行してもよいし、1つのプロセッサでプログラムを実行してもよい。また、通信ネットワークにより相互に接続された複数のコンピュータを用いるクラウドコンピューティングにより、上記各装置の各機能を実現してもよい。なお、プログラムは、外部装置から通信ネットワークを通じた配信により、各装置のコンピュータに提供されて、インストールされてもよい。
【符号の説明】
【0085】
1 車両
10 エンジン
10a クランクシャフト
11 走行用モータ
15 ISG(始動用モータ)
16 トルクコンバータ
16d タービンシャフト
16f ロックアップクラッチ
30 制御部
50 モード切換部
52 ロックアップ制御部
【要約】
車両1は、エンジン10と、始動用モータと、トルクコンバータ16と、ロックアップを実行するロックアップクラッチ16fと、走行用モータ11と、制御部30と、を備え、制御部は、エンジンで走行するエンジン走行モードと、走行用モータで走行するモータ走行モードとを切り換えることと、モータ走行モードからエンジン走行モードへの切換要求があった場合に、エンジンの回転数が、自立復帰下限回転数未満であり、かつ、始動用モータ駆動上限回転数より大きいと、ロックアップを禁止することと、を含む処理を実行する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7