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特許7583999気道上皮の異常及び気道がんのリスクを予測するための気道上皮細胞における多重シグナル伝達経路活性スコアの評価
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-07
(45)【発行日】2024-11-15
(54)【発明の名称】気道上皮の異常及び気道がんのリスクを予測するための気道上皮細胞における多重シグナル伝達経路活性スコアの評価
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6809 20180101AFI20241108BHJP
   C12Q 1/6886 20180101ALI20241108BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20241108BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20241108BHJP
【FI】
C12Q1/6809 Z
C12Q1/6886 Z
C12M1/00 A
C12M1/34 A
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021567791
(86)(22)【出願日】2020-05-08
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-14
(86)【国際出願番号】 EP2020062925
(87)【国際公開番号】W WO2020229361
(87)【国際公開日】2020-11-19
【審査請求日】2023-05-02
(31)【優先権主張番号】19174032.3
(32)【優先日】2019-05-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】590000248
【氏名又は名称】コーニンクレッカ フィリップス エヌ ヴェ
【氏名又は名称原語表記】Koninklijke Philips N.V.
【住所又は居所原語表記】High Tech Campus 52, 5656 AG Eindhoven,Netherlands
(74)【代理人】
【識別番号】100122769
【弁理士】
【氏名又は名称】笛田 秀仙
(74)【代理人】
【識別番号】100163809
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 貴裕
(74)【代理人】
【識別番号】100145654
【弁理士】
【氏名又は名称】矢ヶ部 喜行
(72)【発明者】
【氏名】ファン デ ストルプ アニア
(72)【発明者】
【氏名】ヤコブス イゴル
(72)【発明者】
【氏名】カイパース スティーヴン パウルス ランベルトゥス
【審査官】鈴木 崇之
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-503354(JP,A)
【文献】特表2016-536976(JP,A)
【文献】国際公開第2019/068585(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/068623(WO,A1)
【文献】Cancers,2019年03月01日,11(3):293,pp. 1-10
【文献】Am J Respir Crit Care Med.,2009年,Vol. 179,pp 457-466
【文献】Int J Mol Sci.,2019年,19, 2460,pp. 1-18
【文献】Int J Biol Sci.,2017年,Vol. 13, No. 7,pp. 815-827
【文献】Journal of Hematology & Oncology,2014年,Vol. 7, No. 87,pp. 1-10
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00-3/00
C12M 1/00-3/10
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象が異常な気道上皮を有しているか否かを決定するステップがデジタルプロセッシングデバイスによって実施されるコンピュータ実行方法であって、前記決定するステップが、
前記対象の気道由来の上皮細胞試料における細胞シグナル伝達経路の活性の組合せに基づいて前記対象が異常な気道上皮を有しているか否かを示す気道異常性スコアを決定するステップを含み、
前記細胞シグナル伝達経路がTGF-β経路、PI3K-FOXO経路、及びNotch経路からなる群から選択される2つ以上の細胞シグナル伝達経路を含み、
前記気道異常性スコアを決定するステップがさらに前記2つ以上の細胞シグナル伝達経路のそれぞれの細胞シグナル伝達経路の参照活性に基づき、
前記参照活性健康な対象の気道上皮で見出されるそれぞれの細胞シグナル伝達経路の活性を反映し、
前記気道異常性スコアを決定するステップが、
上気道又は下気道から得られた前記上皮細胞試料における細胞シグナル伝達経路の活性の定量的測定値を、前記それぞれの細胞シグナル伝達経路に伴う転写因子の3つ以上の確認された直接標的遺伝子のmRNAレベルの測定から推定し、
推定された前記定量的測定値に基づいて前記2つ以上の細胞シグナル伝達経路のそれぞれについての細胞シグナル伝達経路異常性スコアを決定し、前記決定された細胞シグナル伝達経路異常性スコアを組合せることにより前記気道異常性スコア計算る、コンピュータ実行方法。
【請求項2】
異常な気道上皮を有する対象が気道がんを発症するリスクを示すリスクスコアを決定するステップがデジタルプロセッシングデバイスによって実施されるコンピュータ実行方法であって、前記決定するステップが、
前記対象の気道由来の上皮細胞試料における細胞シグナル伝達経路の活性の組合せに基づいて前記リスクスコアを決定するステップを含み、
前記細胞シグナル伝達経路がTGF-β経路、PI3K-FOXO経路、及びNotch経路からなる群から選択される2つ以上の細胞シグナル伝達経路を含み、
前記リスクスコアを決定するステップがさらに前記細胞シグナル伝達経路の参照活性の組合せに基づき、
前記リスクスコアは、当該リスクスコアにより示されるリスクが前記細胞シグナル伝達経路の前記参照活性に対するTGF-β経路の活性の低下並びにPI3K経路の活性の増大及び/又はNotch経路の活性の低下とともに増大するように定義され、
前記リスクスコアを決定するステップが、
前記上皮細胞試料における前記細胞シグナル伝達経路の活性の組合せに基づいて気道異常性スコアを決定し、前記気道異常性スコアを前記リスクスコアに変換するステップを含み、
前記気道異常性スコアを決定するステップが、
上気道又は下気道から得られた前記上皮細胞試料における細胞シグナル伝達経路の活性の定量的測定値を、前記それぞれの細胞シグナル伝達経路に伴う転写因子の3つ以上の確認された直接標的遺伝子のmRNAレベルの測定から推定し、
推定された前記定量的測定値に基づいて前記2つ以上の細胞シグナル伝達経路のそれぞれについての細胞シグナル伝達経路異常性スコアを決定し、前記決定された細胞シグナル伝達経路異常性スコアを組合せることにより前記気道異常性スコア計算る、コンピュータ実行方法。
【請求項3】
前記気道異常性スコア及びリスクスコアがそれぞれ、前記上皮細胞試料における前記細胞シグナル伝達経路の活性をそれぞれ前記気道異常性スコア及び前記リスクスコアと関連付けるように較正された数学的経路モデルの評価に基づいて決定される、請求項1又は2に記載のコンピュータ実行方法。
【請求項4】
前記数学的経路モデルは、前記細胞シグナル伝達経路に伴う転写因子(TF)エレメントの活性レベル及び前記3つ以上の標的遺伝子の発現レベルに関連する条件付き確率に基づくベイジアンネットワークモデルであるか、又は前記3つ以上の標的遺伝子の発現レベルの1つ又は複数の線形結合に基づく、請求項3に記載のコンピュータ実行方法。
【請求項5】
前記上皮細胞試料における前記細胞シグナル伝達経路の活性が、
前記それぞれの細胞シグナル伝達経路の標的遺伝子の発現レベルを受信するステップ、
記標的遺伝子の転写を制御する細胞シグナル伝達経路に伴うTFエレメントの活性レベルを決定するステップであって、前記標的遺伝子の発現レベルを前記それぞれの細胞シグナル伝達経路の活性レベルに関連付けるように較正された数学的経路モデルの評価に基づくステップ、並びに
前記細胞シグナル伝達経路に伴うTFエレメントの前記決定された活性レベルに基づいて前記それぞれの細胞シグナル伝達経路の活性を推測するステップ
を含む方法によって推測され、又は推測可能である、請求項1から4のいずれか一項に記載のコンピュータ実行方法。
【請求項6】
前記細胞シグナル伝達経路が、TGF-β経路と、PI3K-FOXO経路及びNotch経路の一方又は両方とを含む、請求項1から5のいずれか一項に記載のコンピュータ実行方法。
【請求項7】
前記3つ以上のTGF-β標的遺伝子が、ANGPTL4、CDC42EP3、CDKN1A、CTGF、GADD45A、GADD45B、HMGA2、ID1、IL11、JUNB、PDGFB、PTHLH、SERPINE1、SGK1、SKIL、SMAD4、SMAD5、SMAD6、SMAD7、SNAI2、VEGFAからなる群から選択され、又は前記3つ以上のTGF-β標的遺伝子がCDC42EP3、GADD45B、HMGA2、ID1、JUNB、OVAL1、VEGFA、SGK1からなる群から選択され、及び/又は
前記3つ以上のPI3K-FOXO標的遺伝子が、AGRP、BCL2L11、BCL6、BNIP3、BTG1、CAT、CAV1、CCND1、CCND2、CCNG2、CDKN1A、CDKN1B、ESR1、FASLG、FBXO32、GADD45A、INSR、MXI1、NOS3、PCK1、POMC、PPARGC1A、PRDX3、RBL2、SOD2、TNFSF10からなる群から選択され、及び/又は
前記3つ以上のNotch標的遺伝子が、CD28、CD44、DLGAP5、DTX1、EPHB3、FABP7、GFAP、GIMAP5、HES1、HES4、HES5、HES7、HEY1、HEY2、HEYL、KLF5、MYC、NFKB2、NOX1、NRARP、PBX1、PIN1、PLXND1、PTCRA、SOX9、及びTNCからなる群から選択され、1つ又は複数のNotch標的遺伝子が、CD28、CD44、DLGAP5、EPHB3、FABP7、GFAP、GIMAP5、HES7、HEY1、HEYL、KLF5、NFKB2、NOX1、PBX1、PIN1、PLXND1、SOX9、及びTNCからなる群から選択される、
請求項1から6のいずれか一項に記載のコンピュータ実行方法。
【請求項8】
決定された前記気道異常性スコアに基づいて、前記デジタルプロセッシングデバイスが、
診断できない結節が悪性又は良性であるさらなる証拠を提供するステップ、並びに/又は
気道上皮が前悪性であるか否かの予測、並びに/又は
人が気道がんの発症の高いリスクを有するか否かの予測、並びに/又は
人が肺がんの発症の高いリスクを有するか否かの予測、並びに/又は
人が扁平上皮肺がんの発症の高いリスクを有するか否かの予測、並びに/又は
人が肺腺癌の発症の高いリスクを有するか否かの予測、並びに/又は
人ががんの発症を防止する局所治療から恩恵を受けられるか否かの予測、並びに/又は
患者が肺がんを有するか否かの予測、並びに/又
学療法及び/若しくはホルモン治療の薬物有効性の予測、並びに/又は
薬物有効性のモニタリング、並びに/又は
モニタリングの頻度若しくはより詳細には治療応答性のモニタリングの頻度について判断するステップ、並びに/又は
薬物の開発、並びに/又は
アッセイの開発、並びに/又は
人が侵襲性気道がんの発症のリスクにあるか否かの予測、並びに/又は
人が疾患の進行のリスクにあるか否かの予測、並びに/又は
人が処置の後で低減したリスクを有するか否かの予測若しくは診断、並びに/又は
メージング及び/又は他の病理学的及び/若しくは遺伝的な検査から得られる診断情報を補完するステップ、並びに/又は
がんのステージ分類
実行する、請求項1に記載のコンピュータ実行方法。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載のコンピュータ実行方法を実施するように構成されたデジタルプロセッサを含む、対象が異常な気道上皮を有するか又は異常な気道上皮を有する対象が気道がんを発症するリスクを示すリスクスコアを有するかを示す気道異常性スコアを決定するための装置。
【請求項10】
請求項1から8のいずれか一項に記載のコンピュータ実行方法を実施するデジタルプロセッシングデバイスによって実行可能な命令を格納した、対象が異常な気道上皮を有するか又は異常な気道上皮を有する対象が気道がんを発症するリスクを示すリスクスコアを有するかを示す気道異常性スコアを決定するための非一時的格納媒体。
【請求項11】
コンピュータプログラムがデジタルプロセッシングデバイス上で実行された場合に請求項1から8のいずれか一項に記載のコンピュータ実行方法を前記デジタルプロセッシングデバイスに実施させるプログラムコード手段を含む、対象が異常な気道上皮を有するか又は異常な気道上皮を有する対象が気道がんを発症するリスクを示すリスクスコアを有するかを示す気道異常性スコアを決定するためのコンピュータプログラム。
【請求項12】
対象が異常な気道上皮を有するか又は異常な気道上皮を有する対象が気道がんを発症するリスクを示すリスクスコアを有するかを示す気道異常性スコアを決定するためのキットであって、
TGF-β細胞シグナル伝達経路の少なくとも3つの標的遺伝子、PI3K-FOXO細胞シグナル伝達経路の少なくとも3つの標的遺伝子、Notch細胞シグナル伝達経路の少なくとも3つの標的遺伝子の発現レベルを決定するための部品、及び
請求項9に記載の装置、請求項10に記載の非一時的格納媒体、又は請求項11に記載のコンピュータプログラムを含む、キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に記載する主題は、主として生物情報学、ゲノム処理技術、プロテオーム処理技術、及び関連する技術に関する。より詳細には、本発明は対象が異常な気道上皮を有しているかを判定するためのコンピュータ実行方法、及び異常な気道上皮を有する対象が気道がんを発症するリスクを示すリスクスコアを決定するためのコンピュータ実行方法に関する。本発明はさらに、対象が異常な気道上皮を有しているか又は異常な気道上皮を有する対象が気道がんを発症するリスクを示すリスクスコアを有しているかを示す気道異常因子を決定するための装置、非一時的格納媒体、及びコンピュータプログラムに関する。本発明はさらに、対象が異常な気道上皮を有しているか否かを示す気道異常性因子を決定するため又は異常な気道上皮を有する対象が気道がんを発症するリスクを示すリスクスコアを決定するためのキット、並びに対応する診断又は予知の方法における使用のためのキットに関する。気道異常性因子及びリスクスコアは、シグナル伝達経路活性の組合せに基づいて決定される。
【背景技術】
【0002】
肺がんは予後不良な致死性疾患であり、世界的にがんによる死亡の主な原因である。多くの患者は進行したステージで診断され、5年生存率はわずかに18.6%である。したがって、早期の検知及びタイムリーな診断、ステージ分類、及び処置が、肺がんの治療において重要である。スクリーニングプログラムは、時には高リスク群における肺がんの早期検知を指向しており、早期のステージで治療を施すことによって臨床転帰を改善することを目的としている。高リスク集団の低線量CT(LDCT)スクリーニングが実行されており、ここではスクリーニングへの適性は一義的には喫煙履歴に基づいている。しかし、LDCTスクリーニングの欠点の1つは、比較的高い偽陽性率(NLST Research Team.N Engl J Med;368:1980~1991頁(2013))、並びにスクリーニング手技が繰り返された場合の蓄積放射線量への曝露である。陽性のCT知見は病理学的な確認を得るための不必要かも知れない生検手技を用いるさらなるフォローアップを必要とし、目前の患者の健康上のリスクが伴う。腫瘍の位置によっては、診断/サブタイプ分類のための腫瘍試料の取得が困難なことがある。したがって、感度/特異性が高く、放射線曝露がない肺がんの早期検知のための検査へのニーズがある。不必要なCTスキャンの回数及びそれによる偽陽性を低減するために、引き続く次のステップである画像解析のための高リスク集団を識別する最小侵襲検査も必要である。また、例えばCTスキャンで結節が発見された場合には、病理診断を可能にするために生検を行なう必要があるか否かについて判断する必要がある。これは侵襲的で危険な手技である。したがって、識別された結節の可能な原因、即ち良性か悪性かに関する補完的な証拠を提供することによって、この判断をすることを助ける方法へのニーズがある。
【0003】
肺がんの最も一般的な型は非小細胞肺癌(NSCLC)であり、その中で最も一般的なサブタイプは腺癌(40%)及び扁平上皮細胞癌(30%)である。喫煙は全肺がんの約85%を占める。大まかに喫煙者の5~15%が肺がんを発症する。(多量の)喫煙に伴うCOPDの患者は、肺がんを発症するリスクが増大している(Oncotarget.2017 Sep 29;8(44):78044~78056頁、Lung Cancer.2015 Nov;90(2):121~127頁、Respiration.2011;81(4):265~84頁)。
【0004】
タバコへの曝露は、前悪性変化の誘起において重要な因子である。肺がんの大多数は喫煙に伴っているが、15%は全く喫煙をしていない人に起こる。特に多量の喫煙は肺がん、具体的には扁平上皮細胞及び小細胞型の肺がん、また他の組織病理学的ながんの型のリスクの増大を伴う。
【0005】
全く喫煙をしていない人においては腺癌が優勢なサブタイプであり、全く喫煙をしていない人における扁平上皮細胞癌は稀である。腺癌は末梢又は気管支内の起源を有することが多く、一方扁平上皮細胞癌は通常、気管又は近位の気道において起こる。
【0006】
タバコへの曝露は、気道の上皮細胞にストレスを誘起し、上皮の再生及び修復を必要とする喫煙によって誘起された傷害を惹起することがある。喫煙はこれらのプロセスに関与するシグナル伝達経路に干渉し、これが腫瘍原性を促進することがある。
【0007】
一般的な、例えば結腸腺癌における、また気道上皮における前悪性病変は、PI3K経路等のある種のシグナル変換経路の異常な活性に反映される増殖の増大によって特徴付けられる(Clin Cancer Res.2018 Jul 1;24(13):2984~2992頁、Sci Transl Med.2010 Apr 7;2(26):26ra25頁)。異常な増殖は、例えば正常細胞におけるTGF-β若しくはNotch経路のような細胞増殖を抑制/制御する経路活性の喪失に伴うPI3K経路又はMAPK-AP1若しくはJAK-STAT経路のような1つ又は複数の増殖因子経路の活性によって可能になり得る。がんへの進展の間に、ゲノム変異及び/又は染色体異常の数の増加によって、他の腫瘍原性シグナル変換経路が動員され、又はより制御的な経路が失われる。即ち、前悪性病変はいくつかの経路活性特性を共有し得るが、最終的ながんと必ずしも全てを共有しない。おそらくこの理由により、(肺)がんの発症におけるシグナル変換経路の役割及び経路活性に対する喫煙の干渉についてはほとんど分かっていない。
【0008】
分析のために大気道又は小気道から上皮細胞試料を得ること:気道の上皮ライニングからの試料の分析によって前悪性変化に関する情報が提供され、又は例えばCTスキャンで疑いのある結節が見られた場合のさらなる診断情報が提供される。
【0009】
肺がんは大気道(気管から分岐する気管支)又は小気道の上皮で発症する。気道擦過又は気管支肺胞洗浄のような手法を用いて、比較的非侵襲的な方式で上気道及び下気道から分子解析のために上皮細胞を得ることができる。これにより、気道上皮における早期の増殖性変化の指標となる気道上皮における異常な腫瘍原性シグナル伝達経路活性を有し、及び肺がんが進行するリスクが増大している個体、即ち喫煙者を識別する潜在的な手段が提供される。COPD患者は一般に慢性的な多量喫煙者であり、肺がんの発症の高リスク群を構成する。
【0010】
異常なシグナル変換経路活性は、識別された場合には、原理的には特定のシグナル伝達経路を標的とする標的薬物によって規制され、例えばPI3K経路阻害剤によってブロックされる(W Verhaeghら,Cancer research,2014;74(11):2936~45頁、A van de Stolpeら,Scientific Reports,2019,9(1603頁)、van Ooijen,Am J Pathol,2018,188(9):1956~1972頁)。これにより、前悪性気道上皮病変は臨床的に処置可能であり、異常性は気道上皮の局所的処置によって逆転又は排除できるという選択肢が開かれる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、異常な上皮の指標となる気道上皮における早期の変化を検知し、異常なシグナル伝達経路活性に関する異常性を特徴付ける方法への高いニーズがある。本方法は、肺がんの高いリスクにある個体の識別のために用いられ、識別された肺の結節の悪性及び良性の性質に対するさらなる証拠を提供し、識別された病変又は随伴する肺がんを処置するためにどの療法が有用かを指示することが期待される。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1の態様によれば、上記の課題は、対象が異常な気道上皮を有しているか否かを決定するためのデジタルプロセッシングデバイスによって実施されるコンピュータ実行方法によって解決され、決定するステップは対象の気道由来の上皮細胞試料における細胞シグナル伝達経路の活性の組合せに基づいて対象が異常な気道上皮を有しているか否かを示す気道異常性因子を決定するステップを含み、細胞シグナル伝達経路はTGF-β経路、PI3K-FOXO経路、及びNotch経路からなる群から選択される2つ以上の細胞シグナル伝達経路を含み、シグナル伝達経路異常性因子を決定するステップはさらにそれぞれの細胞シグナル伝達経路の参照活性に基づき、参照活性は健康な対象の気道上皮で見出されるそれぞれの細胞シグナル伝達経路の活性を反映する。さらなる細胞シグナル伝達経路は任意選択で本発明の方法に含まれ得る。一実施形態では、本方法は、本明細書で開示した種々の用途のいずれか1つ、例えば異常な気道上皮を有する対象が気道がんを発症するリスクを示すリスクスコアを決定すること、その後で本方法を繰り返す間隔を定義すること、実施すべき補助的な診断を勧告すること、処置その他を勧告することを目的とする気道異常性因子を提供するステップをさらに含む。
【0013】
本発明の第2の態様によれば、本課題は、異常な気道上皮を有する対象が気道がんを発症するリスクを示すリスクスコアを決定するためのデジタルプロセッシングデバイスによって実施されるコンピュータ実行方法によって解決され、決定するステップは対象の気道由来の上皮細胞試料における細胞シグナル伝達経路の活性の組合せに基づいてリスクスコアを決定するステップを含み、細胞シグナル伝達経路の解析はTGF-β経路、PI3K-FOXO経路、及びNotch経路からなる群から選択される2つ以上の細胞シグナル伝達経路を含み、リスクスコアを決定するステップはさらに細胞シグナル伝達経路の参照活性の組合せに基づき、リスクスコアは、指示されたリスクが細胞シグナル伝達経路の参照活性に対するTGF-β経路の活性の低下並びにPI3K経路の活性の増大及び/又はNotch経路の活性の低下の1つ又は複数とともに増大するように定義される。一実施形態では、本方法は、本明細書で開示した種々の用途、例えばその後で本方法を繰り返すべき間隔を定義すること、実施すべき補助的な診断方法を勧告すること、処置その他を勧告することのいずれか1つを目的としてリスクスコアを提供するステップをさらに含む。
【0014】
本発明は、シグナル変換経路活性の解析を用いて、悪性気道がんへの進行において役割を果たす気道上皮の前悪性の危険性さえも特徴付けることができるという本発明者らの革新に基づいている。本発明者らは、ある種のシグナル伝達経路の活性を測定することによって悪性及び前悪性の危険性の存在又は非存在が評価できることを見出し、測定した活性を組み合わせて評価した。本発明者らは、気道上皮が異常か否か、及び/又は異常な気道上皮が気道がんを発症するリスクにある対象を特徴付けるか否かの判定において、関連する経路活性がどのように相互に関連するかの洞察を初めて提供する。
【0015】
本発明は、健康な非喫煙者、少量喫煙者、及び多量喫煙者を含む様々な群に属する対象の気道上皮細胞におけるシグナル伝達経路(特にTGF-β、PI3K-FOXO、Notch経路)の活性を集中的に研究することによって達成された。続いて、シグナル伝達経路異常性因子によって示すことができる正常な経路活性からの異常な逸脱を決定し、気道上皮の未知の特徴を有する対象の気道異常性因子及び/又はリスクスコアを提供するため、測定した経路活性の解釈のためのコンピュータモデルを開発した。このモデルにおいて、対象が異常な気道上皮を有し、及び/又は気道がんを発症するリスクにある可能性を特徴付けるインジケーター(バイオマーカー)として、シグナル伝達経路の組み合わされた活性が用いられる。
【0016】
利点として、本発明は、疾患の早期ステージにおいてがんを発症するリスクにある対象の識別を容易にし、したがって存在する方法より良い治療の選択肢を可能にする。本方法の使用により、不必要なCTスキャンの回数が低減され、それにより不必要な診断手技及び有害な放射線への曝露の回数が低減されることが期待される。肺がんの発症は多段階のプロセスであり、そこでは正常な肺上皮細胞が遺伝子異常を集積して悪性な表現型に変換される。本発明の方法は最終的には後のステージで悪性になる危険性がある早期の(前悪性の)変化の検知を補助する大きな可能性を有しており、このコンテキストにおいて種々の臨床シナリオに適用することができる。気道がんが検知可能になる前に、本発明の方法を、リスク評価及びスクリーニング若しくは一次的な化学的予防、又は進行をブロックし若しくは病変を正常に逆進させる局所的治療によって恩恵を受ける集団の識別のために用いることができる。さらに本発明の方法は、述べたように侵襲的な肺がんに進行する前に前悪性又は早期のステージで肺がんを検知するために用いることができる。本発明の方法は、緊密なCTモニタリング及び二次的な化学的予防のための個体の選択の補助となり得る。さらに、本発明の方法は、CT画像で見出された良性及び悪性の結節を鑑別し、予知するという価値がある。最後に、いくつかの生検手技は感度が限られており、したがって必ずしも常に診断の確立をもたらさない。例えば、気管支鏡検査はしばしば診断にならず、さらなる侵襲的検査を必要とすることがある。そのような既知の診断検査を本発明の方法と組み合わせることにより、それらの診断性能が顕著に改善されることが期待される。例えばCTスキャンにおいて診断できない結節が発見された場合には、本方法は結節を悪性又は良性と分類するための補助となる。
【0017】
用語「対象」は、本明細書で用いる場合、任意の生命体を意味する。いくつかの実施形態では、対象は動物、好ましくは哺乳動物である。ある特定の実施形態では、対象はヒト、例えば医療の対象である。本発明の方法の適用性は特定の対象の群に限定されないが、喫煙者又はCOPDのような高リスク群に属する対象が本発明の恩恵を最も受けることは明らかであろう。したがって、診断すべき対象は、喫煙者、特にタバコ喫煙者、又は日常的に煙に曝露している若しくは曝露していた対象、例えば喫煙者と同じ家庭に住む対象であることが好ましい。好ましくは診断すべき対象を定義するその他の危険因子には、ラドン、アスベスト、ヒ素、ディーゼル排ガス、シリカ、及びクロムへの曝露が含まれる。本発明の方法は、有利には特に気道上皮の前悪性変化ができるだけ早期に検知できるように規則的な間隔で、繰り返し適用される。
【0018】
本発明に従って用いるべき上皮細胞試料は抽出した試料、即ち対象から抽出した試料であってよい。試料の例には、これだけに限らないが、上皮細胞、組織、及び/又は対象の気道由来の上皮細胞を含む体液が含まれる。上皮細胞試料は、上皮細胞の前駆細胞及び/又は幹細胞、例えば損傷を受けた上皮細胞の再生に必要な幹/前駆細胞を構成する基底細胞(BC)を含む試料であってもよい。それぞれの試料は、例えば気管支肺胞洗浄、擦過、生検等によって対象の上気道又は下気道から得ることができる。用語「試料」は、本明細書で用いる場合、例えば細胞、組織、及び/又は体液が対象から取り出され、例えば顕微鏡のスライド若しくは固定台に載せられ、特許請求する方法を実施するために、例えばレーザーキャプチャーマイクロディセクション(LCM)、又はパンチング、又はスライドからの着目した細胞の剥離、又は蛍光活性化細胞ソーティング手法によって、この試料の一部が抽出される事例をも包含する。さらに、用語「試料」は、本明細書で用いる場合、例えば細胞、組織、及び/又は体液が対象から取り出され、例えば顕微鏡のスライドに載せられ、特許請求する方法がスライド上で実施される事例をも包含する。
【0019】
用語「上気道」は、本明細書で用いる場合、鼻腔、咽頭(鼻咽頭、中咽頭、及び咽喉頭を含む)、及び喉頭を含む。用語「下気道」は、本明細書で用いる場合、気管及び肺(一次気管支及び細気管支を含む)を含む。
【0020】
用語「経路」、「シグナル変換経路」、「シグナル伝達経路」、及び「細胞シグナル伝達経路」は、本明細書で相互交換可能に用いられる。
【0021】
「シグナル伝達経路の活性」は、標的遺伝子の発現への推進において標的遺伝子の転写を制御する試料中のシグナル伝達経路に伴う転写因子(TF)エレメントの活性、即ち例えば高活性(即ち速い速度)若しくは低活性(即ち遅い速度)、又はそのような活性(例えば速度)に関連するレベル、値等のその他のディメンジョンの観点における、それによって標的遺伝子が転写される速度を意味する。したがって、本発明の目的のため、用語「活性」は、本明細書で用いる場合、本明細書に記載した「経路解析」の間の中間的な結果として得られる活性レベルをも意味することを意図している。
【0022】
用語「転写因子エレメント」(TFエレメント)は、本明細書で用いる場合、好ましくは活性転写因子の中間体若しくは前駆体のタンパク質又はタンパク質複合体、或いは特定した標的遺伝子の発現を制御する活性転写因子タンパク質又はタンパク質複合体を意味する。例えば、タンパク質複合体は、それぞれのシグナル伝達経路タンパク質の1つの少なくとも細胞内ドメイン及び1つ又は複数の共因子を含み、それにより標的遺伝子の転写を制御する。好ましくは、この用語は、細胞内ドメインをもたらすそれぞれのシグナル伝達経路タンパク質の1つの切断によって誘発されるタンパク質又はタンパク質複合体転写因子を意味する。
【0023】
用語「標的遺伝子」は、本明細書で用いる場合、その転写がそれぞれの転写因子エレメントによって直接又は間接に制御される遺伝子を意味する。「標的遺伝子」は、(本明細書に記載したように)「直接標的遺伝子」及び/又は「間接標的遺伝子」である。
【0024】
用語「異常な」及び「異常性」は、本明細書で用いる場合、稀な、機能不全の、機能不良の、又は悪性とみなされる対象、細胞、又は細胞試料に帰せられる特徴を意味し、特に対象、細胞、又は細胞試料における「前悪性」変化を特徴付ける。異常な(前悪性)特徴の診断は、対象が悪性の気道がんに向かっているリスクにあることを示す。本発明の目的のため、対象、細胞、又は細胞試料は特に、本明細書で開示したそれぞれの経路活性に基づいてそれぞれの参照経路活性から逸脱していると判定されれば、異常であると考えられる。参照経路活性は特に、健康な(即ち正常な)対象、健康な対象由来の細胞、又は健康な対象由来の細胞を含む試料において見出される経路活性である。既に知られていなければ、参照経路活性は、1又は複数の健康な対象の上皮細胞試料を用いて、本明細書で開示した経路解析によって実験的に決定することができる。好ましくは、複数の健康な対象からの試料が、自然の経路活性の変動を考慮して評価される。
【0025】
これに従えば、気道の異常性因子及び/又はリスクスコアの決定がさらにシグナル伝達経路の参照活性のそれぞれの組合せに基づいていることは、本発明の実施形態である。同様に、シグナル伝達経路異常性因子の決定はさらに、それぞれのシグナル伝達経路の参照活性に基づく。参照活性は、健康な対象の気道上皮において見出されるそれぞれのシグナル伝達経路の活性を反映する。
【0026】
参照経路活性のそれぞれを診断すべき対象におけるそれぞれの経路活性のそれぞれと比較することによって、それぞれの経路のそれぞれにおけるシグナル伝達経路異常性因子を決定することができる。シグナル伝達経路異常性因子は、それぞれの経路の活性がそれぞれの経路の参照活性から(異常に)逸脱しているか否かを示す。シグナル伝達経路異常性因子は次に気道異常性因子に変換される。気道異常性因子は、経路活性の組合せから直接計算することもできる。気道異常性因子は多重経路スコア、即ちMPSと考えることもでき、対象が異常な気道上皮を有している可能性を示す。したがって、「気道異常性因子」は、本明細書では「気道経路異常性スコア」(APAS)又は具体的に「小気道経路異常性スコア」(SAPAS)、又は「大気道経路異常性スコア」(LAPAS)とも称され、経路活性の組合せを対象が異常な(例えば小又は大)気道上皮を有している可能性に関連付けるディメンジョン、例えばレベル又は値を意味する。
【0027】
用語「気道がん」は、本明細書で用いる場合、気道の悪性腫瘍を意味し、このコンテキストにおいて特に、喫煙した場合にリスクが増大するがんの型を意味する。本方法は、特にこれらのがんが上皮細胞に由来する場合に、これらのがんの型に広く適用することができる。本発明は、気道の上皮細胞に由来するがんに焦点を当てている。そのようながんの非限定的な例には、気管がん、気管支がん、上気道(鼻、口、喉頭等を含む)のがん、肺がん、非小細胞肺癌(NSCLC)及び小細胞肺癌(SCLC)を含む肺がんのサブタイプ、扁平上皮肺がん、腺扁平上皮癌、大細胞癌、肉腫様癌、及び肺腺癌等の組織学的サブタイプが含まれる。リスクスコアは、参照経路活性のそれぞれを、診断すべき対象の上皮細胞試料におけるそれぞれの経路活性のそれぞれと比較することによって決定することができる。リスクスコアは多重経路スコア、即ちMPSと考えることもでき、対象が気道がんを発症する可能性を示す。したがって、「リスクスコア」は、経路活性の組合せを対象が気道がんを発症する可能性に関連付けるディメンジョン、例えばレベル又は値を意味する。
【0028】
気道異常性因子及び/又は危険因子は、「細胞シグナル伝達経路の活性の組合せ」に基づいている。これは、気道異常性因子及び/又は危険因子が2つ以上の細胞シグナル伝達経路の活性に影響されることを意味している。2つ以上の細胞シグナル伝達経路の活性は、本明細書に記載した数学モデルによって推測され及び/又は組み合わされ得る。好ましい実施形態では、気道異常性因子及び/又は危険因子は、3つ以上の細胞シグナル伝達経路の活性を含むシグナル伝達経路活性の組合せに基づいている。そのようなシグナル伝達経路活性の組合せは、3つ若しくは4つ、又は5つ以上、例えば5、6、7、8、又はそれ以上の異なるシグナル伝達経路の活性を含む。
【0029】
一般に、対象における2つ以上の細胞シグナル伝達経路の活性の組合せに基づく気道異常性因子及び/又はリスクスコアを決定するために、多くの異なる式を考案することができる。即ち、
MPS=F(Pi)+X、ここでi=1...N、
ここでMPSは気道異常性因子及び/又はリスクスコア表わし(用語「MPS」は、リスクスコアが2つ以上の細胞シグナル伝達経路の活性によって影響されるということを表わすために「多重経路スコア」の略語として本明細書で用いられる)、Piは細胞シグナル伝達経路の活性を表わし、Nは気道異常性因子及び/又はリスクスコアを計算するために用いる細胞シグナル伝達経路の全数を表わし、Xは式の中に入り得る可能なさらなる因子及び/又はパラメーターのための代替項である。そのような式は、より具体的には所与の変数又は変数の線形結合におけるある次数の多項式であり得る。そのような多項式における重みづけ係数及び乗数は熟練者の知識に基づいて設定できるが、典型的には上記の式の重みづけ係数及び乗数を推定するために、既知の根拠、例えば生存データを含む訓練データセットが用いられる。上記の式を用いて活性を組み合わせることができ、引き続いてMPSが生成される。次に、高いMPSが、患者が異常な気道上皮を有し、及び/又は気道がんを発症する高い確率と相関するように、或いはその逆になるように、スコアリング関数の重みづけ係数及び乗数が最適化される。スコアリング関数の既知のデータとの相関の最適化は、数多くの解析手法、例えばCox比例ハザード検定(本明細書で好ましく用いる)、ログ-ランク検定、勾配降下法又は手動適合化等の標準的最適化手法と併用したKaplan-Meier推定量、その他を用いて行なうことができる。
【0030】
本発明の好ましい実施形態によれば、気道異常性因子及びリスクスコアはそれぞれ、上皮細胞試料におけるシグナル伝達経路の活性をそれぞれ気道異常性因子及びリスクスコアと関連付ける較正された数学モデルの評価に基づいて決定される。このモデルは、経路活性の組合せを解釈して診断すべき対象の気道異常性因子及び/又はリスクスコアを決定するようにプログラムされる。特に、気道異常性因子及び/又はリスクスコアの決定は、(i)診断すべき対象の上皮細胞試料におけるそれぞれのシグナル伝達経路の活性を受容するステップ、(ii)前記対象の気道異常性因子及び/又はリスクスコアを決定するステップを含み、決定するステップはそれぞれのシグナル伝達経路の活性を気道異常性因子及び/又はリスクスコアと関連付ける較正された数学モデルの評価に基づいている。
【0031】
較正された数学的経路モデルは、好ましくはセントロイドモデル若しくは線形モデル、又は条件付き確率に基づくベイジアンネットワークモデルである。例えば、較正された数学的経路モデルは確率的モデル、好ましくは気道異常性因子及び/又はリスクスコアとシグナル伝達経路の活性を関連付ける条件付き確率に基づくベイジアンネットワークモデルであってよく、又は較正された数学的経路モデルは、シグナル伝達経路の活性の1つ又は複数の線形結合に基づいてもよい。
【0032】
数学モデルに従えば、シグナル伝達経路の活性は気道異常性因子を提供するように解釈されてこれがさらにリスクスコアに変換されるか、又は直接リスクスコアを提供するように解釈される。気道異常性因子及びリスクスコアは、対象が異常な気道上皮を有し、及び/又は対象が気道がんを発症するリスクにある可能性を予測又は提供する。
【0033】
したがって、リスクスコアの決定は、上皮細胞試料における細胞シグナル伝達経路の活性の組合せに基づいて気道異常性因子を決定するステップ、及び気道異常性因子をリスクスコアに変換するステップを含む。気道異常性因子の決定は、上皮細胞試料におけるそれぞれの細胞シグナル伝達経路の活性に基づいてそれぞれの細胞シグナル伝達経路のそれぞれについてシグナル伝達経路異常性因子を決定するステップ、及び決定されたシグナル伝達経路異常性因子の組合せに基づいて気道異常性因子を決定するステップを含む。
【0034】
本発明の好ましい実施形態によれば、それぞれのシグナル経路の活性は、本明細書に記載した経路解析によって決定され又は決定可能である。
【0035】
経路解析によって、それぞれのシグナル伝達経路に伴う転写因子のよく確認された直接標的遺伝子のmRNAレベルの測定からのシグナル変換経路の活性の推測に基づく上皮細胞におけるシグナル変換経路活性の定量的測定が可能になる(例えばW Verhaeghら2014の上掲の文献、W Verhaegh,A van de Stolpe,Oncotarget,2014,5(14):5196頁を参照)。
【0036】
好ましくは、シグナル伝達経路の活性の決定、多重経路活性の組合せ、及びそれらの応用は、例えばそれぞれがそれぞれのシグナル伝達経路の活性を決定する目的のために全体として本明細書に組み込まれる以下の文書、即ち国際特許出願公開WO2013011479(発明の名称「ASSESSMENT OF CELLULAR SIGNALING PATHWAY ACTIVITY USING PROBABILISTIC MODELING OF TARGET GENE EXPRESSION」)、WO2014102668(発明の名称「ASSESSMENT OF CELLULAR SIGNALING PATHWAY ACTIVITY USING LINEAR COMBINATION(S) OF TARGET GENE EXPRESSIONS」)、WO2015101635(発明の名称「ASSESSMENT OF THE PI3K CELLULAR SIGNALING PATHWAY ACTIVITY USING MATHEMATICAL MODELLING OF TARGET GENE EXPRESSION」)、WO2016062891(発明の名称「ASSESSMENT OF TGF-β CELLULAR SIGNALING PATHWAY ACTIVITY USING MATHEMATICAL MODELLING OF TARGET GENE EXPRESSION」)、WO2017029215(発明の名称「ASSESSMENT OF NFKB CELLULAR SIGNALING PATHWAY ACTIVITY USING MATHEMATICAL MODELLING OF TARGET GENE EXPRESSION」)、WO2014174003(発明の名称「MEDICAL PROGNOSIS AND PREDICTION OF TREATMENT RESPONSE USING MULTIPLE CELLULAR SIGNALLING PATHWAY ACTIVITIES」)、WO2016062892(発明の名称「MEDICAL PROGNOSIS AND PREDICTION OF TREATMENT RESPONSE USING MULTIPLE CELLULAR SIGNALING PATHWAY ACTIVITIES」)、WO2016062893(発明の名称「MEDICAL PROGNOSIS AND PREDICTION OF TREATMENT RESPONSE USING MULTIPLE CELLULAR SIGNALING PATHWAY ACTIVITIES」)、WO2018096076(発明の名称「Method to distinguish tumor suppressive FOXO activity from oxidative stress」)、及び特許出願EP16200697.7(2016年11月25日出願、発明の名称「Method to distinguish tumor suppressive FOXO activity from oxidative stress」)、EP17194288.1(2017年10月2日出願、発明の名称「Assessment of Notch cellular signaling pathway activity using mathematical modelling of target gene expression」)、EP17194291.5(2017年10月2日出願、発明の名称「Assessment of JAK-STAT1/2 cellular signaling pathway activity using mathematical modelling of target gene expression」)、EP17194293.1(2017年10月2日出願、発明の名称「Assessment of JAK-STAT3 cellular signaling pathway activity using mathematical modelling of target gene expression」)、及びEP17209053.2(2017年12月20日出願、発明の名称「Assessment of MAPK-AP1 cellular signaling pathway activity using mathematical modelling of target gene expression」)、PCT/EP2018/076232(2018年9月27日出願、発明の名称「Assessment of JAK-STAT3 cellular signaling pathway activity using mathematical modelling of target gene expression」)、PCT/EP2018/076334(2018年9月27日出願、発明の名称「Assessment of JAK-STAT1/2 cellular signaling pathway activity using mathematical modelling of target gene expression」)、PCT/EP2018/076488(2018年9月28日出願、発明の名称「Assessment of Notch cellular signaling pathway activity using mathematical modelling of target gene expression」)、PCT/EP2018/076513(2018年9月28日出願、発明の名称「Assessment of MAPK-AP-1 cellular signaling pathway activity using mathematical modelling of target gene expression」)、及びPCT/EP2018/076614(2018年10月1日出願、発明の名称「Determining functional status of immune cells types and immune response」)に記載されているようにして実施される。
【0037】
モデルは、いくつかの細胞型におけるER、AR、PI3K-FOXO、HH、Notch、TGF-β、Wnt、NFkB、JAK-STAT1/2、JAK-STAT3、及びMAPK-AP1経路について生物学的に確認した。まだ公開されていない特許出願で採用された数学モデル、並びにこれらの出願におけるこれらのモデルの較正及び使用は一般に、既に公開された特許出願で開示されたモデル、較正、及び使用に対応していることが注目される。
【0038】
その発現レベルが好ましくは解析される細胞シグナル伝達経路標的遺伝子の特有のセットを特定した。数学モデルにおける使用のために、それぞれの評価された細胞シグナル伝達経路からの3つ以上の、例えば3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、又はそれ以上の標的遺伝子を解析して、経路活性を決定することができる。
【0039】
本明細書で開示した様々なシグナル伝達経路の活性を決定するための経路解析方法に共通なものは、本明細書の目的のため好ましく本明細書に適用される概念であり、試料中に存在する上皮細胞等の細胞におけるシグナル伝達経路の活性は、シグナル伝達経路の1つ若しくは複数、好ましくは3つ以上の標的遺伝子の発現レベルを受容するステップ、3つ以上の標的遺伝子の転写を制御する試料中のシグナル伝達経路に伴う転写因子(TF)エレメントの活性レベルを決定するステップであって、1つ若しくは複数、好ましくは3つ以上の標的遺伝子の発現レベルをシグナル伝達経路の活性レベルに関連付ける較正された数学的経路モデルの評価に基づくステップ、並びに任意選択でシグナル伝達経路に伴うTFエレメントの決定された活性レベルに基づいて上皮細胞におけるシグナル伝達経路の活性を推測するステップによって決定することができる。本明細書に記載したように、活性レベルは気道異常性因子及び/又はリスクスコアを決定するための入力として直接用いることができ、これも本発明によって意図されている。
【0040】
TFエレメントの用語「活性レベル」は、本明細書で用いる場合、その標的遺伝子の転写に関するTFエレメントの活性のレベルを表わす。
【0041】
較正された数学的経路モデルは確率モデル、好ましくはシグナル伝達経路に伴うTFエレメントの活性レベル及び3つ以上の標的遺伝子の発現レベルに関連する条件付き確率に基づくベイジアンネットワークモデルであるか、又は較正された数学的経路モデルは3つ以上の標的遺伝子の発現レベルの1つ又は複数の線形結合に基づく。本発明の目的のため、較正された数学的経路モデルは、好ましくはセントロイドモデル若しくは線形モデル、又は条件付き確率に基づくベイジアンネットワークモデルである。
【0042】
特に、対象における発現レベルの決定及び任意選択でシグナル伝達経路の活性の推測は、例えばとりわけ(i)対象の試料で測定された細胞シグナル伝達経路の3つ以上の標的遺伝子の発現レベルを含む入力のセットについて細胞シグナル伝達経路を表わす較正された確率的経路モデルの一部、好ましくはベイジアンネットワークを評価するステップ、(ii)細胞シグナル伝達経路の3つ以上の標的遺伝子の転写を制御するシグナル伝達経路に伴う転写因子(TF)エレメントの対象における活性レベルを推定するステップであって、シグナル伝達経路に伴うTFエレメントの活性レベル及び対象の試料で測定された細胞シグナル伝達経路の3つ以上の標的遺伝子の発現レベルに関連する条件付き確率に基づくステップ、並びに任意選択で(iii)対象の試料におけるシグナル伝達経路に伴うTFエレメントの推定された活性レベルに基づいて細胞シグナル伝達経路の活性を推測するステップによって実施される。これは公開された国際特許出願公開WO2013/011479A2(「Assessment of cellular signaling pathway activity using probabilistic modeling of target gene expression」)に詳細に記載されており、その内容は全体として本明細書に組み込まれる。
【0043】
例示的な選択肢では、対象における発現レベルの決定及び任意選択で細胞シグナル伝達経路の活性の推測は、とりわけ(i)細胞シグナル伝達経路の3つ以上の標的遺伝子の転写を制御する対象の試料におけるシグナル伝達経路に伴う転写因子(TF)エレメントの活性レベルを決定するステップであって、決定するステップが細胞シグナル伝達経路の3つ以上の標的遺伝子の発現レベルをシグナル伝達経路に伴うTFエレメントの活性レベルに関連付ける較正された数学的経路モデルの評価に基づき、数学的経路モデルが3つ以上の標的遺伝子の発現レベルの1つ若しくは複数の線形結合に基づく、ステップ、並びに任意選択で(ii)対象の試料におけるシグナル伝達経路に伴うTFエレメントの決定された活性レベルに基づいて対象における細胞シグナル伝達経路の活性を推測するステップによって実施される。これは公開された国際特許出願公開WO2014/102668A2(「Assessment of cellular signaling pathway activity using linear combination(s) of target gene expressions」)に詳細に記載されている。
【0044】
標的遺伝子発現の数学モデル作成を用いる細胞シグナル伝達経路活性の推測に関するさらなる詳細は、上掲のW Verhaeghら,2014で見出すことができる。
【0045】
一実施形態では、シグナル伝達経路の測定は、qPCR、多重qPCR、マルチプレックスqPCR、ddPCR、RNAseq、RNA発現アレイ、又はマススペクトルを用いて実施される。例えば遺伝子発現マイクロアレイデータ、例えばAffymetrixマイクロアレイ、又はIlluminaシーケンサー等のRNAシーケンシング法を用いることができる。
【0046】
本発明はTGF-β経路、PI3K-FOXO経路、Notch経路、及び/又はHH経路に重点を置いている。本発明の好ましい実施形態によれば、シグナル伝達経路はTGF-β経路及びPI3K-FOXO経路とNotch経路の1つ又は複数、好ましくはTGF-β経路及び少なくともPI3K-FOXO経路を含む。
【0047】
本発明の好ましい実施形態によれば、リスクスコアは、指示されたリスクがTGF-β経路の活性の低下並びにPI3K経路の活性の増大、Notch経路の活性の低下の1つ又は複数とともに増大するように定義される。同様に、気道異常性因子は、好ましくは指示された因子がTGF-β経路の活性の低下及びPI3K経路の活性の増大及び/又はNotch経路の活性の低下の1つ又は複数を伴う正常からの逸脱の増大を反映するように定義される。増大及び/又は低下は、好ましくは単調増大及び/又は単調低下である。TGF-β経路の活性の低下及びPI3K経路の活性の増大、Notch経路の活性の低下の1つ又は複数は、好ましくは参照細胞シグナル伝達経路活性に関する。
【0048】
本発明の好ましい実施形態及びその種々の実施形態によれば、3つ以上のTGF-β標的遺伝子は、ANGPTL4、CDC42EP3、CDKN1A、CTGF、GADD45A、GADD45B、HMGA2、ID1、IL11、JUNB、PDGFB、PTHLH、SERPINE1、SGK1、SKIL、SMAD4、SMAD5、SMAD6、SMAD7、SNAI2、VEGFAからなる群から、より好ましくはANGPTL4、CDC42EP3、CDKN1A、CTGF、GADD45B、ID1、IL11、JUNB、SERPINE1、PDGFB、SKIL、SMAD7、SNAI2、及びVEGFAからなる群から、最も好ましくはANGPTL4、CDC42EP3、ID1、IL11、JUNB、SERPINE1、SKIL、及びSMAD7からなる群から選択される。
【0049】
本発明の好ましい実施形態及びその種々の実施形態によれば、3つ以上のPI3K-FOXO標的遺伝子は、AGRP、BCL2L11、BCL6、BNIP3、BTG1、CAT、CAV1、CCND1、CCND2、CCNG2、CDKN1A、CDKN1B、ESR1、FASLG、FBXO32、GADD45A、INSR、MXI1、NOS3、PCK1、POMC、PPARGC1A、PRDX3、RBL2、SOD2、TNFSF10からなる群から、好ましくはFBXO32、BCL2L11、SOD2、TNFSF10、BCL6、BTG1、CCNG2、CDKN1B、BNIP3、GADD45A、INSR、及びMXI1からなる群から選択される。
【0050】
本発明の好ましい実施形態及びその種々の実施形態によれば、3つ以上のNotch標的遺伝子は、CD28、CD44、DLGAP5、DTX1、EPHB3、FABP7、GFAP、GIMAP5、HES1、HES4、HES5、HES7、HEY1、HEY2、HEYL、KLF5、MYC、NFKB2、NOX1、NRARP、PBX1、PIN1、PLXND1、PTCRA、SOX9、及びTNCからなる群から選択され、好ましくは2つ以上のNotch標的遺伝子は、DTX1、HES1、HES4、HES5、HEY2、MYC、NRARP、及びPTCRAからなる群から選択され、1つ又は複数のNotch標的遺伝子はCD28、CD44、DLGAP5、EPHB3、FABP7、GFAP、GIMAP5、HES7、HEY1、HEYL、KLF5、NFKB2、NOX1、PBX1、PIN1、PLXND1、SOX9、及びTNCからなる群から選択される。
【0051】
これに関して、上記の参照を提供する標的遺伝子の配列リストを特に以下のように参照する。
TGF-β:ANGPTL4、CDC42EP3、CDKNIA、CDKN2B、CTGF、GADD45A、GADD45B、HMGA2、ID1、IL11、SERPINE1、INPP5D、JUNB、MMP2、MMP9、NKX2-5、OVOL1、PDGFB、PTHLH、SGK1、SKIL、SMAD4、SMAD5、SMAD6、SMAD7、SNAI1、SNAI2、TIMP1、及びVEGFA(WO2016/062891、WO2016/062893);
PI3K-FOXO:AGRP、BCL2L11、BCL6、BNIP3、BTG1、CAT、CAV1、CCND1、CCND2、CCNG2、CDK1A、CDK1B、ESRl、FASLG、FBX032、GADD45A、INSR、MXIl、NOS3、PCKl、POMC、PPARGCIA、PRDX3、RBL2、SOD2、及びTNFSF10(WO2015/101635);ATP8A1、BCL2L11、BNIP3、BTGl、ClOorflO、CAT、CBLB、CCNDl、CCND2、CDKNIB、DDB1、DYRK2、ERBB3、EREG、ESRl、EXT1、FASLG、FGFR2、GADD45A、IGF1R、IGFBP1、IGFBP3、INSR、LGMN、MXI1、PPM1D、SEMA3C、SEPP1、SESN1、SLC5A3、SMAD4、SOD2、TLE4、及びTNFSF10(WO2016/062892、WO2016/062893);SOD2、BNIP3、MXI1、PCK1、PPARGC1A、及びCAT(EP16200697.7、上掲);
Notch:CD28、CD44、DLGAP5、DTX1、EPHB3、FABP7、GFAP、GIMAP5、HES1、HES4、HES5、HES7、HEY1、HEY2、HEYL、KLF5、MYC、NFKB2、NOX1、NRARP、PBX1、PIN1、PLXND1、PTCRA、SOX9、及びTNC(EP17194288.1、上掲)
【0052】
例えばベイジアンモデル又は(疑似)線形モデルを用いるマイクロアレイ/RNAシーケンシングに基づく検討に基づいてそれぞれの細胞シグナル伝達経路の活性を最も良く示すことが見出された標的遺伝子のセットを、例えば対象の試料について実施される多重定量PCRアッセイ又は専用のマイクロアレイバイオチップに変換することができる。本明細書に記載した遺伝子配列を選択して、例えばマイクロアレイの開発のためのRT-PCR用のプライマー-プローブのセット又はオリゴヌクレオチドを選択することができる。経路活性及びリスクスコアの決定のためのそのようなFDA承認検査を開発するために、標準化された検査キットの開発が必要であり、これは規制承認を得るために臨床試験で臨床的に確認する必要がある。
【0053】
第3の態様によれば、本発明は、対象が異常な気道上皮を有するか又は異常な気道上皮を有する対象が気道がんを発症するリスクを示すリスクスコアを有するかを示す気道異常性因子を決定するための、本発明の第1及び/又は第2の態様並びにその種々の実施形態の方法を実施するように構成されたデジタルプロセッサを含む装置に関する。したがって、本発明は、本発明の第1及び/又は第2の態様並びにその種々の実施形態の方法を実施するように構成されたデジタルプロセッサを含む装置に関する。
【0054】
第4の態様によれば、本発明は、対象が異常な気道上皮を有するか又は異常な気道上皮を有する対象が気道がんを発症するリスクを示すリスクスコアを有するかを示す気道異常性因子を決定するための、本発明の第1及び/又は第2の態様並びにその種々の実施形態の方法を実施するデジタルプロセッシングデバイスによって実行可能な命令を格納した非一時的格納媒体に関する。非一時的格納媒体は、コンピュータで読取り可能な格納媒体、例えばハードドライブ若しくはその他の磁気格納媒体、光学ディスク若しくはその他の光学格納媒体、ランダムアクセスメモリ(RAM)、リードオンリーメモリ(ROM)、フラッシュメモリ、又はその他の電子的格納媒体、ネットワークサーバ、その他である。デジタルプロセッシングデバイスは、ハンドヘルドデバイス(例えばパーソナルデータアシスタント又はスマートフォン)、ノートブックコンピュータ、デスクトップコンピュータ、タブレットコンピュータ又はデバイス、リモートネットワークサーバ、その他である。したがって本発明は、本発明の第1及び/又は第2の態様並びにその種々の実施形態の方法を実施するデジタルプロセッシングデバイスによって実行可能な命令を格納した非一時的格納媒体に関する。
【0055】
第5の態様によれば、本発明は、コンピュータプログラムがデジタルプロセッシングデバイス上で実行された場合に本発明の第1及び/又は第2の態様並びにその種々の実施形態による方法をデジタルプロセッシングデバイスに実施させるプログラムコード手段を含む、対象が異常な気道上皮を有するか又は異常な気道上皮を有する対象が気道がんを発症するリスクを示すリスクスコアを有するかを示す気道異常性因子を決定するためのコンピュータプログラムに関する。コンピュータプログラムは好適な媒体、例えば他のハードウェアとともに又はその部品として供給される光学格納媒体又は固相媒体の上に格納/配布されるが、その他の形態、例えばインターネット又はその他の有線若しくは無線の遠隔通信システムを介しても配布される。したがって、本発明は、コンピュータプログラムがデジタルプロセッシングデバイス上で実行された場合に本発明の第1及び/又は第2の態様並びにその種々の実施形態による方法をデジタルプロセッシングデバイスに実施させるプログラムコード手段を含むコンピュータプログラムに関する。
【0056】
第6の態様によれば、本発明は、対象が異常な気道上皮を有するか又は異常な気道上皮を有する対象が気道がんを発症するリスクを示すリスクスコアを有するかを示す気道異常性因子を決定するためのキットに関し、該キットは、TGF-β細胞シグナル伝達経路の少なくとも3つの標的遺伝子、PI3K-FOXO細胞シグナル伝達経路の少なくとも3つの標的遺伝子、Notch細胞シグナル伝達経路の少なくとも3つの標的遺伝子、及び/又はHH細胞シグナル伝達経路の少なくとも3つの標的遺伝子の発現レベルを決定するための部品を含む。好ましくは、キットは、TGF-β細胞シグナル伝達経路の少なくとも3つの標的遺伝子、PI3K-FOXO細胞シグナル伝達経路の少なくとも3つの標的遺伝子、及び/又はNotch細胞シグナル伝達経路の少なくとも3つの標的遺伝子の発現レベルを決定するための部品を含む。本発明によるキットの好ましい実施形態では、3つ以上のTGF-β標的遺伝子は、ANGPTL4、CDC42EP3、CDKN1A、CTGF、GADD45A、GADD45B、HMGA2、ID1、IL11、JUNB、PDGFB、PTHLH、SERPINE1、SGK1、SKIL、SMAD4、SMAD5、SMAD6、SMAD7、SNAI2、VEGFAからなる群から、より好ましくはANGPTL4、CDC42EP3、CDKN1A、CTGF、GADD45B、ID1、IL11、JUNB、SERPINE1、PDGFB、SKIL、SMAD7、SNAI2、及びVEGFAからなる群から、最も好ましくはANGPTL4、CDC42EP3、ID1、IL11、JUNB、SERPINE1、SKIL、及びSMAD7からなる群から選択され、又は3つ以上のTGF-β標的遺伝子は、CDC42EP3、GADD45B、HMGA2、ID1、JUNB、OVAL1、VEGFA、SGK1からなる群から選択され、
3つ以上のPI3K-FOXO標的遺伝子は、AGRP、BCL2L11、BCL6、BNIP3、BTG1、CAT、CAV1、CCND1、CCND2、CCNG2、CDKN1A、CDKN1B、ESR1、FASLG、FBXO32、GADD45A、INSR、MXI1、NOS3、PCK1、POMC、PPARGC1A、PRDX3、RBL2、SOD2、TNFSF10からなる群から、好ましくはFBXO32、BCL2L11、SOD2、TNFSF10、BCL6、BTG1、CCNG2、CDKN1B、BNIP3、GADD45A、INSR、及びMXI1からなる群から選択され、
3つ以上のNotch標的遺伝子はCD28、CD44、DLGAP5、DTX1、EPHB3、FABP7、GFAP、GIMAP5、HES1、HES4、HES5、HES7、HEY1、HEY2、HEYL、KLF5、MYC、NFKB2、NOX1、NRARP、PBX1、PIN1、PLXND1、PTCRA、SOX9、及びTNCからなる群から選択され、好ましくは2つ以上のNotch標的遺伝子は、DTX1、HES1、HES4、HES5、HEY2、MYC、NRARP、及びPTCRAからなる群から選択され、1つ若しくは複数のNotch標的遺伝子は、CD28、CD44、DLGAP5、EPHB3、FABP7、GFAP、GIMAP5、HES7、HEY1、HEYL、KLF5、NFKB2、NOX1、PBX1、PIN1、PLXND1、SOX9、及びTNからなる群から選択される。
【0057】
本発明の別の態様は、対象が異常な気道上皮を有するか又は異常な気道上皮を有する対象が気道がんを発症するリスクを示すリスクスコアを有するかを示す気道異常性因子を決定するためのキットの製造のための、TGF-β細胞シグナル伝達経路の少なくとも3つの標的遺伝子、PI3K-FOXO細胞シグナル伝達経路の少なくとも3つの標的遺伝子、Notch細胞シグナル伝達経路の少なくとも3つの標的遺伝子、及び/又はHH細胞シグナル伝達経路の少なくとも3つの標的遺伝子の発現レベルを決定するための部品の使用に関する。
【0058】
キットは特に定量キットであり、即ち発現レベルの定量を可能にする。
【0059】
キットは、DNAアレイチップ、オリゴヌクレオチドアレイチップ、タンパク質アレイチップ、抗体、複数のプローブ、例えば標識されたプローブ、RNA逆転写酵素シーケンシング成分のセット、及び/又はRNA若しくはcDNAを含むDNA、増幅プライマーからなる群から選択される標的遺伝子の発現レベルを測定(特に定量)するための1つ又は複数の部品又は手段を含む。好ましい実施形態では、キットは、qPCR、多重qPCR、マルチプレックスqPCR、ddPCR、RNAseq、RNA発現アレイ、及びマススペクトルからなる群から選択される。一実施形態では、キットは、本明細書に記載した標的遺伝子のmRNA又はcDNAの配列の一部を指向する標識されたプローブのセットを含む。一実施形態では、キットは、標的遺伝子のmRNA又はcDNAの配列の一部を指向するプライマー及びプローブのセットを含む。一実施形態では、標識されたプローブは、標準化された96ウェルのプレートに含まれる。一実施形態では、キットは、参照遺伝子のセットを指向するプライマー又はプローブをさらに含む。そのような参照遺伝子は、例えば本明細書に記載した標的遺伝子発現レベルの発現レベルの正規化又は標準化において有用な構成的に発現された遺伝子であってよい。
【0060】
したがって、一実施形態では、本発明はキットに関し、該キットは、
TGF-β細胞シグナル伝達経路の少なくとも3つの標的遺伝子、PI3K-FOXO細胞シグナル伝達経路の少なくとも3つの標的遺伝子、及び/又はNotch細胞シグナル伝達経路の少なくとも3つの標的遺伝子の発現レベルを決定するための部品を含み、
3つ以上のTGF-β標的遺伝子、例えば3、4、5、6、7、8、9、10、11、12個、又はそれ以上の遺伝子は、ANGPTL4、CDC42EP3、CDKN1A、CTGF、GADD45A、GADD45B、HMGA2、ID1、IL11、JUNB、PDGFB、PTHLH、SERPINE1、SGK1、SKIL、SMAD4、SMAD5、SMAD6、SMAD7、SNAI2、VEGFAからなる群から選択され、より好ましくは、3つ以上のTGF-β標的遺伝子、例えば3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、又は14個の遺伝子は、ANGPTL4、CDC42EP3、CDKN1A、CTGF、GADD45B、ID1、IL11、JUNB、SERPINE1、PDGFB、SKIL、SMAD7、SNAI2、及びVEGFAからなる群から選択され、最も好ましくは、3つ以上のTGF-β標的遺伝子、例えば3、4、5、6、7、又は8個の遺伝子はANGPTL4、CDC42EP3、ID1、IL11、JUNB、SERPINE1、SKIL、及びSMAD7からなる群から選択され、或いは、3つ以上のTGF-β標的遺伝子、例えば3、4、5、6、7、又は8個の遺伝子はCDC42EP3、GADD45B、HMGA2、ID1、JUNB、OVAL1、VEGFA、SGK1からなる群から選択され、
及び/又は
3つ以上のPI3K-FOXO標的遺伝子、例えば3、4、5、6、7、8、9、10、11、12個、又はそれ以上の遺伝子はAGRP、BCL2L11、BCL6、BNIP3、BTG1、CAT、CAV1、CCND1、CCND2、CCNG2、CDKN1A、CDKN1B、ESR1、FASLG、FBXO32、GADD45A、INSR、MXI1、NOS3、PCK1、POMC、PPARGC1A、PRDX3、RBL2、SOD2、TNFSF10からなる群から選択され、好ましくは、3つ以上のPI3K-FOXO遺伝子、例えば3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、又は13個の遺伝子はFBXO32、BCL2L11、SOD2、TNFSF10、BCL6、BTG1、CCNG2、CDKN1B、BNIP3、GADD45A、INSR、及びMXI1からなる群から選択され、
及び/又は
3つ以上のNotch標的遺伝子、例えば3、4、5、6、7、8、9、10、11、12個、又はそれ以上の遺伝子はCD28、CD44、DLGAP5、DTX1、EPHB3、FABP7、GFAP、GIMAP5、HES1、HES4、HES5、HES7、HEY1、HEY2、HEYL、KLF5、MYC、NFKB2、NOX1、NRARP、PBX1、PIN1、PLXND1、PTCRA、SOX9、及びTNCからなる群から選択され、好ましくは、2つ以上のNotch標的遺伝子、例えば2、3、4、5、6、7、又は8個の遺伝子はDTX1、HES1、HES4、HES5、HEY2、MYC、NRARP、及びPTCRAからなる群から選択され、1つ又は複数のNotch標的遺伝子、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12個、又はそれ以上の遺伝子はCD28、CD44、DLGAP5、EPHB3、FABP7、GFAP、GIMAP5、HES7、HEY1、HEYL、KLF5、NFKB2、NOX1、PBX1、PIN1、PLXND1、SOX9、及びTNCからなる群から選択される。好ましくは、キットは、対象が異常な気道上皮を有するか又は異常な気道上皮を有する対象が気道がんを発症するリスクを示すリスクスコアを有するかを示す気道異常性因子を決定するためであるか、又はそれに適している。
【0061】
いくつかの実施形態では、キットは、数千個の標的遺伝子の発現レベルを決定するためのマイクロアレイではない。例えば、本発明のキットは、本明細書で開示した特定の標的遺伝子に必要な成分に加えて、1000個を超えない標的遺伝子、700個を超えない標的遺伝子、500個を超えない標的遺伝子、200個を超えない標的遺伝子、100個を超えない標的遺伝子の発現レベルを決定するための部品を含む。
【0062】
キットは、第3の態様の装置、第4の態様の非一時的格納媒体、又は第5の態様のコンピュータプログラムをさらに含む。
【0063】
第7の態様によれば、本発明は、対象が異常な気道上皮を有するか又は異常な気道上皮を有する対象が気道がんを発症するかを診断し又は予知する方法における使用のためのキットに関し、該キットは、TGF-β細胞シグナル伝達経路の少なくとも3つの標的遺伝子、PI3K-FOXO細胞シグナル伝達経路の少なくとも3つの標的遺伝子、Notch細胞シグナル伝達経路の少なくとも3つの標的遺伝子、及び/又はHH細胞シグナル伝達経路の少なくとも3つの標的遺伝子の発現レベルを決定するための部品を含む。好ましい実施形態によれば、診断又は予知する方法は、対象の気道から上皮細胞試料を抽出するステップ、及び抽出された上皮細胞試料を本発明の第1及び/又は第2の態様による方法に供するステップを含む。
【0064】
本発明の別の態様は、対象が異常な気道上皮を有するか又は異常な気道上皮を有する対象が気道がんを発症するかを診断し又は予知する方法であり、本方法は、対象の気道の上皮細胞試料を準備するステップ又は対象の気道から上皮細胞試料を抽出するステップ、及び準備され又は抽出された上皮細胞試料を本発明の第1及び/又は第2の態様による方法に供するステップを含む。
【0065】
したがって、本発明はさらに、対象が異常な気道上皮を有するか又は異常な気道上皮を有する対象が気道がんを発症するかを、キットを用いてin vivo又はex vitroで診断し又は予知する方法に関し、該キットは、TGF-β細胞シグナル伝達経路の少なくとも3つの標的遺伝子、PI3K-FOXO細胞シグナル伝達経路の少なくとも3つの標的遺伝子、Notch細胞シグナル伝達経路の少なくとも3つの標的遺伝子の発現レベルを決定するための部品を含む。好ましくは、in vivo又はex vitroにおける診断又は予知のための前記方法において、対象の気道の上皮細胞試料が準備され、又は対象の気道からの抽出された上皮細胞試料が準備されて、準備され又は抽出された上皮細胞試料が本発明の第1及び/又は第2の態様による方法に供される。好ましくは、前記方法は、対象の気道の上皮細胞試料を準備するステップ、又は対象の気道から上皮細胞試料を抽出するステップをさらに含む。
【0066】
好ましくは、in vivo又はex vitroにおける診断又は予知のための前記方法において、TGF-β細胞シグナル伝達経路の少なくとも3つの標的遺伝子、PI3K-FOXO細胞シグナル伝達経路の少なくとも3つの標的遺伝子、Notch細胞シグナル伝達経路の少なくとも3つの標的遺伝子の発現レベルを決定するための前記部品は、3つ以上のTGF-β標的遺伝子を含み、例えば3、4、5、6、7、8、9、10、11、12個、又はそれ以上の遺伝子は、ANGPTL4、CDC42EP3、CDKN1A、CTGF、GADD45A、GADD45B、HMGA2、ID1、IL11、JUNB、PDGFB、PTHLH、SERPINE1、SGK1、SKIL、SMAD4、SMAD5、SMAD6、SMAD7、SNAI2、VEGFAからなる群から選択され、より好ましくは、3つ以上のTGF-β標的遺伝子、例えば3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、又は14個の遺伝子は、ANGPTL4、CDC42EP3、CDKN1A、CTGF、GADD45B、ID1、IL11、JUNB、SERPINE1、PDGFB、SKIL、SMAD7、SNAI2、及びVEGFAからなる群から選択され、最も好ましくは、3つ以上のTGF-β標的遺伝子、例えば3、4、5、6、7、又は8個の遺伝子はANGPTL4、CDC42EP3、ID1、IL11、JUNB、SERPINE1、SKIL、及びSMAD7からなる群から選択され、或いは、3つ以上のTGF-β標的遺伝子、例えば3、4、5、6、7、又は8個の遺伝子はCDC42EP3、GADD45B、HMGA2、ID1、JUNB、OVAL1、VEGFA、SGK1からなる群から選択され、3つ以上のPI3K-FOXO標的遺伝子、例えば3、4、5、6、7、8、9、10、11、12個、又はそれ以上の遺伝子はAGRP、BCL2L11、BCL6、BNIP3、BTG1、CAT、CAV1、CCND1、CCND2、CCNG2、CDKN1A、CDKN1B、ESR1、FASLG、FBXO32、GADD45A、INSR、MXI1、NOS3、PCK1、POMC、PPARGC1A、PRDX3、RBL2、SOD2、TNFSF10からなる群から選択され、好ましくは、3つ以上のPI3K-FOXO遺伝子、例えば3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、又は13個の遺伝子はFBXO32、BCL2L11、SOD2、TNFSF10、BCL6、BTG1、CCNG2、CDKN1B、BNIP3、GADD45A、INSR、及びMXI1からなる群から選択され、3つ以上のNotch標的遺伝子、例えば3、4、5、6、7、8、9、10、11、12個、又はそれ以上の遺伝子はCD28、CD44、DLGAP5、DTX1、EPHB3、FABP7、GFAP、GIMAP5、HES1、HES4、HES5、HES7、HEY1、HEY2、HEYL、KLF5、MYC、NFKB2、NOX1、NRARP、PBX1、PIN1、PLXND1、PTCRA、SOX9、及びTNCからなる群から選択され、好ましくは、2つ以上のNotch標的遺伝子、例えば2、3、4、5、6、7、又は8個の遺伝子はDTX1、HES1、HES4、HES5、HEY2、MYC、NRARP、及びPTCRAからなる群から選択され、1つ又は複数のNotch標的遺伝子、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12個、又はそれ以上の遺伝子はCD28、CD44、DLGAP5、EPHB3、FABP7、GFAP、GIMAP5、HES7、HEY1、HEYL、KLF5、NFKB2、NOX1、PBX1、PIN1、PLXND1、SOX9、及びTNCからなる群から選択される。好ましくは、前記キットは、本発明の第6の態様によるキットに記載したキットである。
【0067】
さらなる実施形態では、対象が異常な気道上皮を有するか又は異常な気道上皮を有する対象が気道がんを発症するかをin vivo又はex vitroで本発明によって診断し又は予知する方法は、対象の気道由来の上皮細胞試料における細胞シグナル伝達経路の活性の組合せに基づいて対象が異常な気道上皮を有しているかを示す気道異常性因子を決定するステップをさらに含み、細胞シグナル伝達経路はTGF-β経路、PI3K-FOXO経路、及びNotch経路からなる群から選択される2つ以上の細胞シグナル伝達経路を含み、シグナル伝達経路異常性因子を決定するステップはさらにそれぞれの細胞シグナル伝達経路の参照活性に基づき、参照活性は健康な対象の気道上皮において見出されるそれぞれの細胞シグナル伝達経路の活性を反映する。
【0068】
第8の態様によれば、本発明は、TGF-β細胞シグナル伝達経路の少なくとも3つの標的遺伝子、PI3K-FOXO細胞シグナル伝達経路の少なくとも3つの標的遺伝子、Notch細胞シグナル伝達経路の少なくとも3つの標的遺伝子の発現レベルを決定するための部品を含むキットに関する。好ましくは、キットは、対象が異常な気道上皮を有するか又は異常な気道上皮を有する対象が気道がんを発症するかを示すリスクスコアを決定するためであるか、又はそれに適している。
【0069】
さらに好ましい実施形態では、本発明は、対象が異常な気道上皮を有すること若しくは異常な気道上皮を有する対象が気道がんを発症するか否かを示す気道異常性スコアの決定における又はリスクスコアの決定のための、本発明の第6又は第8の態様によるキットの使用に関する。
【0070】
本発明の1つの利点は、例えば経路活性の組合せに基づいて決定される気道異常性因子及び/又はリスクスコアによって示される本明細書に記載した経路活性の組合せに基づいて対象のための処置を判断することによって臨床的勧告を提供するように適合された臨床判断補助(CDS)システムに存する。
【0071】
別の利点は、本明細書に記載した2つ以上の細胞シグナル伝達経路の活性の組合せに基づいて決定される気道異常性因子及び/又はリスクスコアによって示される対象が気道がんを発症する様々なリスクを伴う複数のリスクグループのうち少なくとも1つに対象を割り当てるように適合されたCDSシステムに存する。
【0072】
別の利点は、対象が気道がんを発症するリスクを示し、本明細書に記載した2つ以上の細胞シグナル伝達経路の活性の組合せに基づいて決定されるリスクスコアを、1つ又は複数のさらなる予知検査から得られる1つ又は複数のさらなるリスクスコアと組み合わせるステップに存する。
【0073】
本明細書に記載した本発明は、例えば
気道上皮が前悪性であるか否かの予測、及び/又は
人が(本明細書で定義した)気道がんの発症の高いリスクを有するか否かの予測、及び/又は
人が肺がんの発症の高いリスクを有するか否かの予測、及び/又は
人が扁平上皮肺がんの発症の高いリスクを有するか否かの予測、及び/又は
人が肺腺癌の発症の高いリスクを有するか否かの予測、及び/又は
人ががんの発症を防止する局所治療から恩恵を受けられるか否かの予測、及び/又は
患者が肺がんを有するか、及び/又は
2つ以上の細胞シグナル伝達経路の活性の組合せに基づく予知及び/又は予測、及び/又は
2つ以上の細胞シグナル伝達経路の活性の組合せに基づく、例えば化学療法及び/又はホルモン治療の薬物有効性の予測、及び/又は2つ以上の細胞シグナル伝達経路の活性の組合せに基づく薬物有効性のモニタリング、及び/又は
2つ以上の細胞シグナル伝達経路の活性の組合せに基づくモニタリングの頻度又はより詳細には治療応答性のモニタリングの頻度の判断、及び/又は
2つ以上の細胞シグナル伝達経路の活性の組合せに基づく薬物の開発、及び/又は
2つ以上の細胞シグナル伝達経路の活性の組合せに基づくアッセイの開発、及び/又は
人が侵襲性気道がんの発症のリスクにあるか否かの予測、及び/又は
人が疾患の進行のリスクにあるか否かの予測、及び/又は人が処置(例えば化学的予防)の後で低減したリスクを有するか否かの予測又は診断、及び/又は
CTスキャン等の造影手段によって検知された結節又は異常が悪性若しくは良性である可能性が大きいか否かの予測、及び/又は
2つ以上の細胞シグナル伝達経路の活性の組合せに基づくがんのステージ分類
と関連して有利に用いることができ、それぞれの場合において細胞シグナル伝達経路はTGF-β経路、PI3K-FOXO経路、及び/又はNotch経路を含む。
【0074】
さらなる利点は、添付した図面、以下の説明を読み理解することによって、また特に本明細書で以下に提供する詳細な実施例を読むことによって、当業者には明白になる。
【0075】
本出願は、いくつかの好ましい実施形態を記載している。上記の詳細な説明を読み理解することによって、他への改変及び変更が生じる。本出願は、そのような全ての改変及び変更が添付した特許請求の範囲又はそれらの等価物の範囲内に含まれる限り、そのような全ての改変及び変更を含むと解釈されることを意図している。
【0076】
開示した実施形態のその他の変形は、図面、開示、及び添付した特許請求の範囲の研究から、特許請求する発明の実施において、当業者によって理解され、達成され得る。
【0077】
第1及び第2の態様の方法、第3の方法の装置、第4の方法の非一時的格納媒体、第5の態様のコンピュータプログラム、第6、第7、及び第8の態様のキットは、特に従属請求項に定義したものと同様の及び/又は同一の好ましい実施形態を有することを理解されたい。
【0078】
特許請求の範囲において、単語「含む」は他の要素又はステップを除外せず、不定冠詞「a」又は「an」は複数を除外しない。
【0079】
単一の単位又はデバイスは、特許請求の範囲で引用したいくつかの項目の機能を満たす。相互に異なる従属請求項においてある尺度が引用されているという事実だけでは、これらの尺度の組合せが有利に使用できないことは意味しない。
【0080】
1つ又はいくつかの単位又はデバイスによって実施されるリスクスコアの決定のような計算は、任意の他の数の単位又はデバイスによって実施することができる。
【0081】
本発明の好ましい実施形態は、従属請求項又は上記の実施形態とそれぞれの独立請求項との任意の組合せであってもよいことを理解されたい。
【0082】
本発明のこれらの及びその他の態様は、これ以降記載する実施形態から明白になり、またそれらを参照して説明される。
【図面の簡単な説明】
【0083】
図1】非喫煙者(n=13)(左のボックス、「NS」とラベル)から擦過によって得られた正常な小気道上皮細胞及び多量喫煙者(n=18)(右のボックス、「S」とラベル)から得られた正常な小気道上皮細胞で測定したシグナル伝達経路活性の決定の例示的な結果を示す図である(図1A:TGF-β、図1B:Notch、図1C:PI3K-FOXO)。Log2オッズ経路スコアを示す。
図2】データセットGSE10006を用いるTGF-β経路活性を用いる気道上皮細胞における異常な経路活性の閾値の例示的な計算を示す図である。ここでは「非喫煙者」と「喫煙者」について個別に、データセット中のそれぞれの試料についての経路活性スコアを示している。両方の群について、経路活性スコアの平均、並びに標準偏差(SD)を計算する(小さな長方形として図2に示す)。異常な低TGF-β活性の閾値は、健康な非喫煙者の正常な小気道のTGF-β経路スコアの平均経路活性スコアマイナス1SD、或いは平均マイナス2SDとして設定し、それぞれ「1SD」及び「2SD」とラベルした水平点線として図2に示している。閾値として1SDを採用すれば、このレベル未満のTGF-β経路スコアは健康な非喫煙者の15.8%のみで起こり、2SDを低い閾値とすれば、その集団の2.2%のみで起こる。この閾値より低い値は(1SD又は2SDの閾値に応じて)異常な気道上皮に由来するリスクの増大を伴っていると考えられる。ここで記載したセントロイドコンピュータ法の開発のため、定義した2SD閾値未満の試料経路解析結果は、異常と考えられる。この場合には、異常な経路活性は、腫瘍抑制性TGF-β活性の喪失によって特徴付けられる。このデータセットの喫煙者群では、喫煙者の全てではないがサブグループのみが異常な気道上皮を有することが予想される。このサブグループは、正常な上皮のTGF-β経路活性の閾値をこの群に適用することによって、識別することができる。まさに、比較的多数の試料がそれぞれ1SD及び2SDの閾値未満のTGF-β経路活性を有していた(図2B)。セントロイドコンピュータモデルを引き続いて較正するため、正常の2SD未満のTGF-β経路スコアを有する試料は、異常な試料のための較正セットと考えられる。一方、2SD閾値より高いTGF-β経路スコアを有する非喫煙者試料は、正常試料のための較正セットを構成する。線形モデルのため、例としてそれ未満では経路活性スコアが異常に低いと考えられる閾値として1SD閾値が採用される。他のシグナル伝達経路についても、対応する様式でこれを行なうことができる。図2Bは、較正データを四角形でさらに示す。左の四角形は正常試料「NS」のための較正セットを示す。右の四角形は異常試料「AS」のための較正セットを示す。
図3】本明細書で開示したように、対象が気道がんを発症するリスクを示すリスクスコアを決定するように構成された臨床判断補助(CDS)システムを図式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0084】
以下の実施形態は、特に好ましい方法及びこれに関連して選択された態様を単に示すのみである。ここに提供した教示は、いくつかの検査及び/又はキットを構築するために用いられる。以下の実施例は本発明の範囲を限定するものと解釈すべきでない。
【0085】
本発明は、気道上皮における異常な/前悪性の変化を有する、及び/又は肺がんを発症するリスクが増大した個体、特に喫煙者を識別することができる方法に関する。シグナル変換経路活性の測定によって、異常な気道上皮及び前悪性変化の可能性の増大の指標となる異常なシグナル変換経路活性を識別することができる。本発明によれば、肺がんを発症するリスクが潜在的に増大した異常な気道上皮を有する個体を識別する以下の(小/大)気道経路異常性スコアとも表わされる(S/L)APASにおいて2つ以上の経路の活性が決定され、気道異常性因子に変換される。
【0086】
本発明は、PI3K-FOXO経路、Notch、HH、及び/又はTGF-β経路の組み合わされた活性に基づく気道由来の上皮細胞における前悪性変化の存在の指標となるリスクスコア及び/又は気道上皮異常性因子/スコア、並びにリスクスコア及び/又は気道上皮異常性因子を提供するコンピュータモデルを用いる経路結果の解釈を提供する。大気道又は小気道由来の上皮細胞の解析を用いて、肺がんを発症する高いリスクを示す異常を早期に検知することができる。リスクスコア及び/又は気道上皮異常性因子を用いて、これらの経路をその非病理的な状態に戻して前悪性変化を逆行させることを指向する治療の選択において、緊密なモニタリング又は補助のために患者を階層化することもできる。
【0087】
肺がんは大気道(気管から離れた気管支分枝)又は小気道の上皮で発症する。気道擦過、鼻細胞の採取(鼻綿棒)、又は気管支肺胞洗浄等の手法を用いて、比較的非侵襲的な様式で上気道及び下気道から上皮細胞を分子解析用に得ることができる。これにより、その気道上皮におけるこれらの早期の増殖性変化を有し、肺がんを発症するリスクが増大した個体、特に喫煙者を識別する可能な手段が提供される。
【0088】
シグナル変換経路解析によって、例えば気管支肺胞洗浄、擦過、又は生検によって上気道又は下気道から得られた上皮細胞におけるシグナル変換経路活性の定量的測定が可能になり、これはそれぞれのシグナル伝達経路に伴う転写因子の確認された直接の標的遺伝子のmRNAレベルの測定からのシグナル変換経路の活性を推測することに基づいている(例えば上掲のW Verhaeghら,2014、上掲のW Verhaegh,A van de Stolpe,2014を参照)。1つ又は複数の経路の活性、多重経路活性の組合せ、及びそれらの応用を決定するステップは、上述のようにして実施される。モデルは、上皮細胞を含むいくつかの細胞型におけるER、AR、PI3K-FOXO、HH、Notch、TGF-β、Wnt、NFkB、並びにSTAT1/2及びSTAT3経路について生物学的に確認されている。
【0089】
本発明はTGF-β経路、PI3K-FOXO経路、Notch経路、及び/又はHH経路に重点を置いている。
【0090】
TGF-βは、細胞増殖、分化、免疫細胞活性、細胞微小環境、及びその他の細胞プロセスに関与している。正常細胞及び前悪性細胞では、TGF-βは腫瘍抑制機能を発揮する。しかし、がん細胞への進行においては、受容体不活性化変異又は経路の抑制アームの選択的喪失によって、腫瘍抑制効果が失われることがある(Massagueら,Cell,2008,134(2):215~230頁)。タバコへの曝露は、TGF-β媒介増殖阻害及びアポトーシスを低減することがあり、これは喫煙が腫瘍原性を促進することを示している(Samantaら,Cancer Prev Res,2012,5(3):453~63頁)。
【0091】
PI3K-FOXO経路は種々の型のがんにおいて一般に超活性化される。腫瘍はPI3K-FOXO経路阻害剤におそらく感受性であるが、機能的PI3K-FOXO活性を評価する信頼できる診断検査はない。PI3K-FOXO経路は腫瘍抑制性FOXO転写因子を負に制御するので、FOXO標的遺伝子の発現は(酸化ストレスがないという前提で)PI3K活性と逆相関する(van Ooijen,2018、上掲)。FOXO3の欠如は喫煙による炎症の罹患性の増大、空隙の増大、及びCOPDをもたらすことが示されている(Hwangら,J Immunol,2011,187(2):987~998頁)。FOXO3のレベルは、喫煙者及び慢性閉塞性肺疾患(COPD)の患者の肺において顕著に低下している。
【0092】
Notchシグナル伝達は、細胞増殖、分化、及びアポトーシスの制御に関与している。Notchの様々なアイソフォームの腫瘍抑制機能と腫瘍促進機能は、細胞及び環境の状況に依存している。例えばある腫瘍では、Notch1は腫瘍の開始の促進において腫瘍原性の役割を有し、Notch2は腫瘍抑制の役割を有していることが記載されている(Zouら,Oncology Letters,2018,15:3415~3421頁)。しかし、これは異なる腫瘍型で異なることがあり、例えば膀胱がんではNOTCH1とNOTCH2の両方が腫瘍抑制性である(Cancer Discov,2014,4(11):1252頁)。異なるアイソフォームの発現レベルは肺がんの種々の組織学的サブタイプの間で異なっている(Chenら,Journal of Cancer,2017,8(7):1292~1300頁)。肺がんの1つの型であるSCLCでは、Notch経路の腫瘍抑制機能は失われており、これは治療標的さえも提供し、SCLCの患者においてNotch経路活性を増加させる薬物が開発されている(Nat Rev Clin Oncol,2017,14(9):549~561頁)。Notch経路は健康な喫煙者及び慢性閉塞性肺疾患を有する喫煙者の気道上皮で下方制御されており、この経路が喫煙によって誘起された傷害の修復に重要であることを暗示している(Tilleyら,Am J Respir Crit Care Med,2009,179(6):457~66頁)。
【0093】
喫煙者及び非喫煙者のデータによるAffymetrix U133 Plus2.0発現マイクロアレイデータセット(GEO、公共データセット)のシグナル伝達経路解析
GEOデータセットデータベース(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/gds/)において、非喫煙者、並びに少量及び多量のタバコ喫煙者の上皮気道細胞からのAffymetrixデータを含むAffymetrix Plus2.0の公共利用可能な臨床研究を特定した。
【0094】
データセットGSE10006。検討した群は、喫煙者の大気道(n=9)、非喫煙者の大気道(n=20)、喫煙者の小気道(n=13)、非喫煙者の小気道(n=18)、及びバリデーション目的のための独立のデータセットとしてのCOPD患者データ。TGFベータ、NOTCH経路及びFOXO転写因子活性の解析の結果を、非喫煙者及び喫煙者の正常な小気道上皮について図1A図1Cに示す。本明細書で開示した標的遺伝子の発現レベルを、TGF-β、PI3K-FOXO、及びNotch経路のそれぞれについてデータセットから収集した。続いて、シグナル伝達経路活性を本明細書に記載したように決定し、非喫煙者と喫煙者との間で比較した。経路活性はlog2オッズスケールで表示し、有意差(Rank Wilcoxon検定)を表示する。
【0095】
このアプローチを用いて、TGF-β及びNotch経路は多量喫煙者のサブ集団において失われる(図1A及び図1B参照)一方、FOXO転写因子の活性はPI3K増殖因子経路が活性化された喫煙者のサブグループで失われる(図1C参照)ことが見出された。これは、多量喫煙者のサブグループの気道上皮細胞において、非喫煙者と比較して特徴的な経路活性プロファイルが存在することを意味する。TGF-β経路及びNotch経路の活性の腫瘍抑制効果の喪失は、増殖性PI3K経路の活性の増大を伴っている。これは、多量喫煙集団のサブグループにおける異常な増殖並びにNotch及びTGF-β経路の腫瘍抑制活性の喪失を示す。このサブグループの対象はおそらく、ある形態の肺がんの発症の高いリスクがある。これらの異常が上気道由来の細胞で見られた場合には、それらはおそらく典型的にはここで起こる扁平上皮肺がんのようながんを発症する高いリスクにあり、下気道上皮細胞に存在する場合には、対象はおそらく典型的には下気道で起こる腺癌を発症する高いリスクにある。
【0096】
気管(上気道)由来の上皮細胞は下気道上皮細胞で見出されるのと同様の経路活性異常性を示し、したがって上皮異常性スコア及びがんリスクスコアを提供する代理の試料として用いられる可能性があることも確かめられた(データは示していない)。気管由来の上皮細胞は容易に得られ、サンプリングは侵襲性が低い。
【0097】
データセットGSE19722を用いて、本発明は上皮細胞の幹/前駆細胞にも適用可能であることがさらに見出された(Dataset GSE19722.REF:Shaykhiev R,Wang R,Zwick RK,Hackett NRら Airway basal cells of healthy smokers express an embryonic stem cell signature relevant to lung cancer.Stem Cells 2013 Sep;31(9):1992~2002頁)。したがって特に、損傷を受けた上皮の再生に必要な幹/前駆細胞を構成する培養された基底細胞(BC)は、一次の非培養上皮細胞試料の代理試料として用いることができる。喫煙者由来の基底細胞における非喫煙者と比較して低下したFOXO転写因子活性は、PI3K経路活性の増大の指標である(表1参照)。
【0098】
表1.データセットGSE19722を用いる上皮細胞の幹/前駆細胞の解析。可撓性気管支鏡を用いて小気道上皮細胞を採取し、培養した。1週後にAffymetrix Microarray解析のためにRNAを抽出した。FOXO活性についてのLog2オッズ値を示す。
【0099】
【表1】
【0100】
喫煙に伴う気道上皮の最も早い損傷は、本明細書に記載したPhilips経路解析によって識別されるように、PI3K経路の活性の増大によって惹起されるBCの過形成に反映される。この場合には、BCは非喫煙者及び喫煙者の気管支鏡検査によって得られ、解析の前にコラーゲンの上で1週間培養した。これらの条件下で、PI3K-FOXO活性は喫煙者の培養BCにおいて増大し(有意ではない)、PI3K-FOXO経路活性の増大を示した(FOXO活性は低下)(表1参照)。この細胞型における異常なPI3K経路活性は、上皮細胞型における異常な経路活性と相関し、上皮細胞で見られたPI3K経路活性が基底細胞に起源していることを示唆している。この実験は、BC由来の試料が原理的に上皮細胞の異常性を測定するためにも用い得ることを示している。
【0101】
正常経路活性の定義
健康な非喫煙対象(GSE10006)における経路活性に基づいて、正常な小気道上皮について参照経路活性を定義した。測定した経路活性が、Notch、TGF-β経路、及びFOXO転写因子活性についての正常な経路活性の平均よりも1標準偏差を超えて(>1SD)、或いは2標準偏差を超えて(>2SD)低かった場合には、患者試料において測定した経路活性は異常とみなした。それぞれの経路についての決定した平均及び標準偏差を表2に示す。
【0102】
表2.TGF-β、NOTCH経路、及びFOXO転写因子の活性の平均値及び標準偏差
【0103】
【表2】
【0104】
これらの値に基づいて、下閾値未満では経路活性は気道上皮細胞において異常とみなす経路活性の下閾値を計算した。
TGF-β活性の下閾値:-15.17(1SD)及び-17.12(2SD)、
NOTCH活性の下閾値:8.79(1SD)及び6.57(2SD)、
PI3K-FOXO活性の下閾値:-0.14(1SD)及び-2.40(2SD)
このようにして計算したTGF-β経路活性の下閾値を、図2A及び図2Bに水平点線として示す。
【0105】
コンピュータモデルの開発及び較正
個別の経路活性は患者試料の間で変動性を示すという事実から、多重経路活性を解釈し、分析した上皮細胞試料が正常でない確率を提供するコンピュータモデルを有利に採用した。これは、前悪性状態の指標を提示すると考えられる。モデルの較正のため、データセットGSE10006からの健康な喫煙者及び非喫煙者の小気道上皮のAffymetrix U133Plus2.0データを用いた。同じデータセットからのバリデーションの目的のため、COPDを有する喫煙者の試料からの独立のデータを用いた。
【0106】
モデルは、本明細書に記載したように線形、セントロイド、ベイジアンモデル、又は別のモデルであってよい。モデルは下気道及び上気道の上皮細胞について別々に開発してよく、これらは様々な肺がんの型の発症におけるリスクを表示する異常性スコアを提供し得る。
【0107】
本実施例では、セントロイドモデル及び線形モデルを用いた。しかし、当業者には理解されるように、ベイジアンモデルその他も同様に用いることができる。
【0108】
セントロイドモデル
セントロイドモデル(小/大)気道経路異常性スコアを計算するための入力として擦過を用いて下(小)気道から得られた上皮細胞において測定したPI3K、TGF-β、及びNotchの経路活性を用いる例示的なコンピュータモデルを開発した。
【0109】
セントロイドコンピュータモデルを較正するための試料の選択は下記の通りであった(図2B参照)。
【0110】
非喫煙者データの2×SD閾値を超える健康/正常小気道(非喫煙者)に基づく「正常試料」の選択。
【0111】
「異常試料」の選択は、非喫煙者データの2×SD閾値未満の健康/正常小気道(喫煙者)に基づく。
【0112】
モデルは、TGF-βとFOXO活性の組合せ(表3参照)、又はTGF-βとFOXOとNotch活性の組合せ(表4参照)を用いて較正した。マイクロアレイデータを用いる前に、別の箇所に記載したように、それぞれの個別の試料からのAffymetrixデータについて、広範な品質管理(QC)を実施した(A van de Stolpeら,2019、上掲)。QCに合格した試料だけをさらなる解析に用いた。
【0113】
表3.GSE10006データセットを用いるTGF-β、NOTCH、及びFOXO活性の組合せに基づくモデルの較正データ。それぞれの行は個別の試料を表わす。試料「NS」は非喫煙者由来の試料を表わす(較正正常試料)。試料「AS」は喫煙者の試料を表わす(較正異常試料)。全ての試料は品質管理に合格した。
【0114】
【表3】
【0115】
表4.GSE10006データセットを用いるTGF-β及びFOXO活性の組合せに基づくモデルの較正データ。それぞれの行は個別の試料を表わす。試料「NS」は非喫煙者由来の試料を表わす(較正正常試料)。試料「AS」は喫煙者の試料を表わす(較正異常試料)。全ての試料は品質管理に合格した。
【0116】
【表4】
【0117】
モデルを確認するために同じデータセットからのCOPDを有する喫煙者を用いた。結果を以下の表5~表7にさらに示す。
【0118】
線形モデル
線形(小/大)気道経路異常性スコアを提供する別のコンピュータモデルを開発した。本実施例では、それぞれの異常経路活性に1ポイントのスコアを割り当てた。測定したTGF-β若しくはNotch経路又はFOXO活性が正常な非喫煙者の平均-1SD又は-2SD未満であれば、経路活性は異常とみなした(これらの閾値の計算については、上の表2及び図2Aを参照)。そうでなければ、それぞれの経路にスコア「0」を割り当てた。点数を集計して、気道上皮が異常であり患者がおそらく肺がんを発症する高いリスクにある可能性を示した。スコアが高ければ、上皮が異常であり肺がんの発症のリスクにある可能性が高い。スコアはAPASスコア(気道経路活性スコア)と呼ばれる。スコア0は正常(低リスク)であり、スコア3は最大で異常な上皮を示し、肺がんが発症する最大のリスクを付与することが推測される。
【0119】
コンピュータモデルのバリデーション
続いてバリデーションの目的のため、早期の慢性閉塞性肺疾患(COPD)又は長期のCOPDを有する喫煙者のGSE10006データセットからの小気道上皮の独立のデータを用いて、喫煙者における異常な上皮の状態をスコア付けした。
【0120】
線形コンピュータモデルを用いる気道上皮経路異常性スコア(APAS)の計算
本実験では、健康な非喫煙者の小気道の上皮細胞(「正常な」気道上皮)において測定したそれぞれの経路活性の平均及び分散に基づいて閾値を計算した。より具体的には、正常な上皮細胞におけるTGF-β、Notch、及びFOXOの活性の平均及び標準偏差を、本明細書に記載した経路解析によって決定した。この値を得られた1SD及び2SDの閾値とともに表2及びこの表に続く節にまとめ、図2Aに示す。
【0121】
データセットGSE10006を用いてTGF-β経路について例示的に示すように(図2A及び図2Bを参照)、閾値を平均経路活性マイナス2SDと定義した。閾値は正常から異常な低TGF-β活性への遷移を示す。2SD閾値を小気道上皮について示す。経路活性が定義した閾値/水平線未満であると判定されれば、試料は異常な経路活性を有するとみなした。喫煙者のサブグループが、特に小気道において異常なTGF-β経路活性を有していることが見られる(図2B参照)。この場合には、異常な経路活性は腫瘍抑制性TGF-β経路活性の喪失によって特徴付けられる。この群の対象は、気道がんを発症する増大したリスクにあると推察される。
【0122】
線形モデルについて、これらの閾値に基づいて、評価した経路活性のそれぞれについて経路異常性因子を割り当てた。経路活性が異常であると判定した場合には因子「1」を割り当て、そうでない場合には「0」を割り当てた。例えば、TGF-β経路の活性がこの閾値未満であると判定された場合には、それぞれの経路に1ポイントのスコアを割り当てた。FOXO活性に関しても対応する見解が適用される。次いで経路異常性因子を合計してAPASスコアを得た。
【0123】
線形モデルを用いるバリデーションの目的のため、小気道上皮における正常な経路活性からの偏差を評価し、TGF-β経路活性とFOXO転写因子活性との組合せに基づいてAPASスコアを決定した。APASスコア「0」は正常な気道上皮を表わす(低リスク)。スコアが高ければ、気道上皮が異常である確率が高い。バリデーションのために用いた全ての試料は、本明細書に記載したQCに合格した。バリデーションの結果を、較正データとともに表5に示す。
【0124】
表5.TGF-βとFOXOの活性の組合せに基づく線形モデルの較正及びバリデーションの結果。較正結果は表4に示した結果に対応する。バリデーションは、GSE10006データセットからの早期(試料「eCOPD」)及び確定したCOPD(試料「COPD」)を有する喫煙者からの試料を用いて実施した。全ての試料は本明細書に記載したQCに合格した。
【0125】
【表5】
【0126】
線形モデルを用いると、異常な気道上皮を有する個体の発生率は確定したCOPDを有する喫煙者群で最大であり、早期COPDを有する群では少なかった。これは、COPD患者における肺がんの予想された全リスクと一致する。したがって、モデルは予想した通りに機能した。
【0127】
セントロイドモデルのバリデーション
同じデータセット(GSE10006)からの早期の及び確定したCOPDを有する喫煙者を用いて、このモデルを確認した。このモデルでは、試料で見出された経路活性の、正常/健康な経路活性のクラスター及び異常な上皮経路活性との距離スコアを計算する。このモデルの較正に基づいて、このスコアは、分析した試料が正常な小気道上皮とみなされるか異常とみなされるかを定義する。このモデルは、TGF-βとFOXOの活性の組合せ(表6参照)又はTGF-β、FOXO、及びNotch活性の組合せ(表7参照)とともに用いることができる。
【0128】
表6.GSE10006データセットからの早期の及び確定したCOPDを有する喫煙者からの試料を用いたFOXOとTGF-βの活性の組合せに基づくセントロイドモデルのバリデーションデータ。全ての試料は本明細書に記載したQCに合格した。
【0129】
【表6】
【0130】
表7.GSE10006データセットからの早期の及び確定したCOPDを有する喫煙者からの試料を用いたTGF-β、NOTCH、及びFOXOの活性の組合せに基づくセントロイドモデルのバリデーションデータ。全ての試料は本明細書に記載したQCに合格した。
【0131】
【表7】
【0132】
モデルは、いくつかの早期COPD試料を正常とスコア付けするが、確定した/長期のCOPD試料については常に異常とスコア付けすることが見られ、これはこれら2つの群における肺がんの予想されたリスクと一致する。
【0133】
本方法の臨床使用
明らかに全ての(多量)喫煙者が肺がんを発症するわけではなく、これが気道異常性因子及び/又はリスクスコアが喫煙者のサブグループのみで検知される理由である。喫煙者の間でのこの変動も、異常な気道上皮を有する対象、特に喫煙者の識別を可能にする本発明の手段及び方法に対するニーズを示している。
【0134】
本発明は、多量喫煙者における不必要な侵襲的診断手技を低減することが期待され、高リスク患者の早期の最小侵襲性処置を可能にする。
【0135】
さらに、気道上皮細胞における経路解析は肺がんのさらなる診断検査になり、全身的(標的)療法の選択を可能にする。
1.記載した方法を用い、スクリーニングのためのCTスキャンのような画像技術に伴う放射線への繰り返し曝露を避けて、肺がんの発症の高いリスクを有する前悪性変化について喫煙者をスクリーニングすることができる。上皮細胞は気道上皮から得ることができ、TGF-β/Notch/PI3K-FOXO経路活性の組合せ又はこれらの経路活性のうち少なくとも1つ、好ましくはNotch及びTGF-βの決定を実施することができる。スクリーニングモデルにおいて結果を解釈して前悪性変化が存在するリスクを予測し、喫煙に伴う肺がんの発症の高いリスクを示すことができる。
2.喫煙者が病状(例えば咳又は息切れ)又は異常な画像知見を呈すれば、例えばBALを用いて気道上皮から上皮細胞を得ることができ、TGF-β/Notch/PI3K-FOXO経路活性の組合せの決定を実施して、スクリーニングモデルにおいて結果を解釈して前悪性変化が存在するリスクを予測し、喫煙に伴う肺がんの発症の高いリスクを示すことができる。
3.胸部X線又はCTのような画像で肺に病変が検知され、これが悪性病変か否かが不明であれば、BAL細胞について経路解析を実施することによって、特に喫煙者にとっての悪性の可能性に関する病変の性質についての補完的な情報が提供される。
4.診断手技、例えば気管支鏡の読み出しにおける経路活性に基づく分類を集約して、肺がんの確率を評価する手法の感度/特異性を改善することができる。
5.上記シナリオのいずれにおいても、計算したリスクスコアを用いて、緊密なモニタリング及び/又は化学的予防のために患者を階層化することができる。
6.記載した方法を用い、スクリーニングのためのCTスキャンのような画像技術に伴う放射線への繰り返し曝露を避けて、肺がんの発症の高いリスクを有する前悪性変化について喫煙者をスクリーニングすることができる。BAL又は他の手段を用いて上皮細胞を気道上皮から得ることができ、TGF-β/PI3K-FOXO経路活性の組合せを実施することができ、コンピュータモデルにおいて結果を解釈して気道上皮異常性スコアを提供し、(扁平上皮)肺がんの発症のリスクを示す前悪性変化が存在する確率を示すことができる。
7.喫煙者が長引く咳のような病状を呈すれば、BAL又は気管擦過手法を用いて気道上皮から上皮細胞を得ることができ、この細胞試料から単離されたRNAについてTGF-β/HH/PI3K-FOXO経路活性の組合せの決定を実施して、コンピュータモデルにおいて結果を解釈して気道上皮異常性スコアを提供し、(扁平上皮)肺がんの発症のリスクを示す前悪性変化が存在する確率を示すことができる。
8.胸部X線又はCTのような画像で肺に病変が検知され、これが悪性病変か否かが不明であれば、BAL/擦過によって得られた気道上皮細胞について記載した検査を実施することによって、特に喫煙者についても、悪性の可能性に関する病変の性質についての補完的な情報が提供される。
【0136】
CDSの適用
(本明細書で開示したように、対象が気道がんを発症するリスクを示すリスクスコアを決定するように構成された臨床判断補助(CDS)システムを図式的に示す)図3を参照して、臨床判断補助(CDS)システム10は、好適に構成されたコンピュータ12として実行される。コンピュータ12は、ハードドライブ若しくはその他の磁気格納媒体、光学ディスク若しくは別の光学格納媒体、ランダムアクセスメモリ(RAM)、リードオンリーメモリ(ROM)、フラッシュメモリ、若しくは別の電子格納媒体、ネットワークサーバ、その他の非一時的格納媒体(示していない)に格納された好適なソフトウェア、ファームウェア、又はその他の命令を実行することによってCDSシステム10として作動するように構成される。実例的なCDSシステム10は実例的なコンピュータ12によって具現化されているが、より一般的には、CDSシステムは、本明細書で説明した臨床判断補助方法を実施するように構成されたデジタルプロセッサを含むデジタルプロセッシングデバイス又は装置によって具現化される。例えば、デジタルプロセッシングデバイスは、ハンドヘルドデバイス(例えばパーソナルデータアシスタント又はCDSアプリケーションを操作するスマートフォン)、ノートブックコンピュータ、デスクトップコンピュータ、タブレットコンピュータ若しくはデバイス、リモートネットワークサーバ、その他である。コンピュータ12又はその他のデジタルプロセッシングデバイスは、典型的にはそれを介して臨床判断補助勧告を含む情報が医療従事者に表示されるディスプレイデバイス14を含むか、それと操作可能に連結されている。コンピュータ12又はその他のデジタルプロセッシングデバイスは、典型的にはまた、それを介して医療従事者がCDSシステム10を制御するための操作コマンド、CDSシステム10によって使用されるデータ、その他の情報を入力できる実例的なキーボード16、若しくはマウス、トラックボール、トラックパッド、接触感受性スクリーン(場合によりディスプレイデバイス14と一体化されている)、又は別のポインター系ユーザ入力デバイス等の1つ又は複数のユーザ入力デバイスを含むか、これらと操作可能に連結されている。
【0137】
CDSシステム10は、対象(例えば病院の患者、又は腫瘍専門医、臨床医、若しくはその他の医療従事者によって処置されている外来患者、又はがんのスクリーニング若しくはその他のある医学診断を受けていて、ある種の気道がん若しくは気道がんを発症する素因を有していることが知られているか若しくはその疑いがある人)に関する入力情報を受容する。CDSシステム10は、ディスプレイデバイス14を介して(又は音声合成器若しくは人が知覚できる出力を提供するその他のデバイスを介して)医療従事者に提示される臨床判断補助勧告を生成するために、種々のデータ解析アルゴリズムをこの入力情報に適用する。いくつかの実施形態では、これらのアルゴリズムは、臨床ガイドラインを患者に適用するステップを含む。臨床ガイドラインは、臨床ガイドラインによる方向付けを容易にするための臨床的「フローチャート」の形態の、典型的には医療専門家のパネルの勧告に基づいて構築され、任意選択でフォーマット化された標準的な又は「カノニカルな」処置勧告の格納されたセットである。種々の実施形態では、CDS10のデータプロセッシングアルゴリズムはさらに又はその代わりに、本明細書で開示したマシンラーニング法のような臨床判断の勧告を抽出するために入力情報について実施される種々の診断的又は臨床的な検査アルゴリズムを含む。
【0138】
本明細書で開示した実例的なCDSシステム(例えばCDSシステム10)において、CDSデータ解析アルゴリズムは、1つ又は複数の医学実験室18によって取得されたゲノム及び/又はプロテオームの入力情報について実施される1つ又は複数の診断的又は臨床的な検査アルゴリズムを含む。これらの実験室は「オンサイト」、即ち対象が医学検査及び/又は処置を受けている病院又はその他の場所に様々に位置していてもよく、又は「オフサイト」で、例えば対象から抽出された対象の試料を(郵便又は別の送達サービスを介して)受け入れる特化された又は集中された実験室であってもよい。
【0139】
試料は実験室によってゲノム又はプロテオームの情報を生成するように処理される。例えば、試料は、(当技術において遺伝子チップ、DNAチップ、バイオチップ等と様々に称される)マイクロアレイを用いて、又は着目した遺伝子の発現レベル等の証拠となるゲノム又はプロテオームの情報を測定する定量的ポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)プロセッシングによって、例えば遺伝子から転写されるメッセンジャーリボ核酸(mRNA)のレベル又は遺伝子から転写されるmRNAから翻訳されるタンパク質のレベルの形態で処理される。別の例として、試料は遺伝子シーケンシング実験室によって、デオキシリボ核酸(DNA)の配列を生成するように、又はRNA配列、コピー数の変動、メチル化、その他を生成するように処理される。その他の意図される測定アプローチには、病理学スライドの上で実施される免疫組織化学(IHC)、細胞学、蛍光インサイチュハイブリダイゼーション(FISH)、近接ライゲーションアッセイ、その他が含まれる。マイクロアレイプロセッシング、マススペクトル、遺伝子シーケンシング、又はその他の実験室手法によって生成され得るその他の情報には、メチル化情報が含まれる。そのようなゲノム及び/又はプロテオームの測定の様々な組合せも実施される。
【0140】
いくつかの実施形態では、医学実験室18は対象の試料についていくつかの標準化されたデータ取得を実施し、それにより大量のゲノム及び/又はプロテオームのデータを生成する。例えば、標準化されたデータ取得手法によって、1つ又は複数の染色体若しくは染色体の部分について、又はゲノム全体について(任意選択で整列された)DNA配列が生成される。標準マイクロアレイを応用することによって、多数の遺伝子の発現レベル、種々のメチル化データ等の数千又は数万のデータアイテムを生成することができる。同様に、PCR系測定を用いて、選択された遺伝子の発現レベルを測定することができる。この大量のゲノム及び/又はプロテオームのデータ又はそれらの選択された部分は、処理すべきCDSシステム10の入力であり、それにより臨床判断補助勧告を立案するための臨床的に有用な情報が開発される。
【0141】
開示したCDSシステム及び関連する方法は、種々の細胞シグナル伝達経路の活性を評価し、対象が気道がんを発症するリスクを示すリスクスコアを決定するためのゲノム及び/又はプロテオームのデータを処理するステップに関する。しかし、開示したCDSシステム(例えばCDSシステム10)は、バイタルサインのモニタリングデータ、患者の病歴データ、患者の人口学的データ(例えば性別、年齢、その他)、患者の医学画像データ、その他の種々の患者データに基づく格納された臨床ガイドラインに従って臨床判断補助勧告を生成するステップ等の、多様な追加的能力を任意選択でさらに含むことを理解されたい。或いは、いくつかの実施形態では、CDSシステム10の能力は、本明細書で開示したように、細胞シグナル伝達経路の活性を評価し、対象が異常な気道上皮を有し、及び/又は気道がんを発症するリスクにあるか否かを示すリスクスコアを決定するためのゲノム及び/又はプロテオームのデータ解析を実施するステップのみに限られてもよい。
【0142】
例示的な図3を引き続いて参照して、CDSシステム10は、対象の試料において測定された細胞シグナル伝達経路の1つ又は複数の標的遺伝子の発現レベル20に基づくが、それには制限されない、対象におけるTGF-β経路、PI3K-FOXO経路、及びNotch経路(P、P、P)からなる群から選択される2つ以上の細胞シグナル伝達経路の活性22を推測する。
【0143】
細胞シグナル伝達経路を形成するタンパク質カスケードの一部である中間タンパク質のような細胞シグナル伝達経路の制御タンパク質をコードする遺伝子のmRNA発現レベルの測定は制御タンパク質の発現レベルの間接的な尺度であり、実際の制御タンパク質の発現レベルと強く相関することも相関しないこともある(細胞シグナル伝達経路の全体の活性とはあまり相関しない)。細胞シグナル伝達経路は標的遺伝子の転写を直接制御し、したがって標的遺伝子から転写されたmRNAの発現レベルはこの制御活性の直接の結果である。したがって、CDSシステム10は、細胞シグナル伝達経路の1つ又は複数の標的遺伝子の発現レベル(代理の測定としてのmRNA又はタンパク質のレベル)に基づいて2つ以上の細胞シグナル伝達経路の活性を推測する。これにより、CDSシステム10が標的遺伝子の測定された発現レベルによって提供される直接の情報に基づいて経路の活性を推測することが保証される。
【0144】
推測された活性は次に、本明細書に詳細に記載したように、対象が気道がんを発症するリスクを示すリスクスコアを決定するステップ24のために用いられる。リスクスコアは、推測された活性の組合せに基づく。例えば、リスクスコアは、本明細書及びそのそれぞれがそれぞれリスクスコア、多重経路スコア(MPS)を計算する目的のために参照により全体として本明細書に組み込まれるWO2014174003、WO2016062892、及びWO2016062893に詳細に記載したように計算される「多経路スコア」(MPS)である。
【0145】
決定されたMPSに基づいて、CDSシステム10は、本実施例では、対象が気道がんを発症する指示された様々なリスクを伴う複数のリスクグループのうち少なくとも1つに対象を割り当て(26)、及び/又は指示されたリスクに基づいて対象に勧告する処置を決定(28)する。
【0146】
CDSシステム10がリスクスコアを1つ又は複数のさらなる予知検査から得られた1つ又は複数のさらなるリスクスコアと組み合わせてリスクスコアの組合せを得るように構成され、リスクスコアの組合せが、対象が気道がんを発症するリスクを示すこともさらに可能である。
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図3