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特許7584002アレルギー性喘息患者の症状の目立たない監視
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-07
(45)【発行日】2024-11-15
(54)【発明の名称】アレルギー性喘息患者の症状の目立たない監視
(51)【国際特許分類】
   A61B 10/00 20060101AFI20241108BHJP
   A61B 5/02 20060101ALI20241108BHJP
   A61B 5/0245 20060101ALI20241108BHJP
   A61B 5/08 20060101ALI20241108BHJP
   A61B 5/022 20060101ALI20241108BHJP
【FI】
A61B10/00 L
A61B5/02 310F
A61B5/0245 100B
A61B5/08
A61B5/022 400L
A61B5/02 E
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022532703
(86)(22)【出願日】2020-12-22
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-28
(86)【国際出願番号】 EP2020087589
(87)【国際公開番号】W WO2021130206
(87)【国際公開日】2021-07-01
【審査請求日】2023-10-23
(31)【優先権主張番号】20152921.1
(32)【優先日】2020-01-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】PCT/CN2019/128293
(32)【優先日】2019-12-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】590000248
【氏名又は名称】コーニンクレッカ フィリップス エヌ ヴェ
【氏名又は名称原語表記】Koninklijke Philips N.V.
【住所又は居所原語表記】High Tech Campus 52, 5656 AG Eindhoven,Netherlands
(74)【代理人】
【識別番号】100122769
【弁理士】
【氏名又は名称】笛田 秀仙
(74)【代理人】
【識別番号】100163809
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】ウェッフェルス アルブ ミレラ アリナ
(72)【発明者】
【氏名】プリオリ リタ
(72)【発明者】
【氏名】ケリー デクラン パトリック
(72)【発明者】
【氏名】ウェイ フイビン
【審査官】鳥井 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2019/0167176(US,A1)
【文献】特表2010-522621(JP,A)
【文献】特表2018-531055(JP,A)
【文献】特表2017-537365(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00- 5/398
A61B 9/00-10/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の呼吸器疾患の増悪リスクのスコアを提供するためのシステムにおいて、前記システムは、
患者の心臓信号及び/又は血液循環信号を測定し、対応する測定データを提供するように構成される測定ユニット、
前記測定データを受信し、前記測定データにおいて前記患者の咳事象及び/又はくしゃみ事象を検出するように構成される検出ユニットであり、前記検出ユニットは、
前記心臓信号の拍動間隔を分析することにより、前記咳事象を検出するように構成される、及び/又は
前記心臓信号の心拍数及び前記血液循環信号の血圧を分析することにより、前記くしゃみ事象を検出するように構成される
前記検出ユニット、
前記検出される咳事象及び/又は前記検出されるくしゃみ事象に基づいて、前記患者の呼吸器疾患の増悪リスクのスコアを計算するように構成される計算ユニット、並びに
前記増悪リスクのスコアを前記患者及び/又は医師に提供するように構成されるインターフェースユニット
を有する、システム。
【請求項2】
前記測定ユニットは、前記心臓信号及び/又は前記血液循環信号を測定するための第1のセンサを有するブレスレット形式のウェアラブル装置である、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記第1のセンサは、光電脈波センサである、請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
前記呼吸器疾患は、喘息又は慢性閉塞性肺疾患である、請求項1乃至3の何れか一項に記載のシステム。
【請求項5】
前記検出ユニットは、複数の心拍にわたる前記拍動間隔の長さの変動によって、前記咳事象を検出するように構成される、請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
前記検出ユニットは、増大する血圧と時間的に相関する減少する心拍数によって、前記くしゃみ事象を検出するように構成される、請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
前記システムは、前記患者の増悪リスクのスコア値の記録を記憶し、前記記録を前記患者及び/又は前記医師に提供するように構成される、請求項1乃至6の何れか一項に記載のシステム。
【請求項8】
前記システムは、皮膚との接触、温度及び/又は加速度を検出するように構成される第2のセンサを有する、請求項1乃至7の何れか一項に記載のシステム。
【請求項9】
前記計算ユニットは、前記増悪リスクのスコアを予測するために、複数の患者からのデータを用いて訓練されるように構成される人工知能モジュールを有する、請求項1乃至8の何れか一項に記載のシステム。
【請求項10】
患者の呼吸器疾患の増悪リスクのスコアを提供するためのコンピュータ実装方法であって、前記コンピュータ実装方法は、
患者の心臓信号及び/又は血液循環信号を測定し、対応する測定データを提供するステップ、
前記測定データに基づいて、前記患者の咳事象及び/又はくしゃみ事象を検出するステップであり、前記咳事象は、前記心臓信号の拍動間隔を分析することにより検出され、及び/又は前記くしゃみ事象は、前記心臓信号の心拍数及び前記血液循環信号の血圧を分析することにより検出される、ステップ、
前記検出される咳事象及び/又は前記検出されるくしゃみ事象に基づいて、前記患者の呼吸器疾患の増悪リスクのスコアを計算するステップ、並びに
前記増悪リスクのスコアを前記患者及び/又は医師に提供するステップ
を有する、コンピュータ実装方法。
【請求項11】
処理ユニット上で実行されるとき、請求項1に記載のシステムに、患者の呼吸器疾患の増悪リスクのスコアを提供するための方法を行わせるように前記処理ユニットに指示するコンピュータプログラム要素において、前記方法は、
患者の心臓信号及び/又は血液循環信号を測定し、対応する測定データを提供するステップ、
前記測定データに基づいて、前記患者の咳事象及び/又はくしゃみ事象を検出するステップであり、前記咳事象は、前記心臓信号の拍動間隔を分析することにより検出される、及び/又は前記くしゃみ事象は、前記心臓信号の心拍数及び前記血液循環信号の血圧を分析することにより検出される、ステップ、
前記検出される咳事象及び/又は前記検出されるくしゃみ事象に基づいて、前記患者の呼吸器疾患の増悪リスクスコアを計算するステップ、並びに
前記増悪リスクのスコアを前記患者及び/又は医師に提供するステップ
を有する、コンピュータプログラム要素。
【請求項12】
請求項11に記載のコンピュータプログラム要素を実行するように構成される処理ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者の呼吸器疾患の増悪リスクのスコアを提供するためのシステム、及び患者の呼吸器疾患の増悪リスクのスコアを提供するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
喘息のような呼吸器疾患を持つ患者の状態は、アレルギー反応により促進されるときだけでなく、感冒又はインフルエンザを患っている場合、急速に悪化する可能性がある。
【0003】
喘息の増悪は、死に至る可能性があり、しばしば感染症により引き起こされる増悪が最も深刻である。伝染病又はアレルギーの発症に伴う症状を初期段階で見つけ出すことは、これらと闘うのに重要であり、それにより、上述した要因により引き起こされる呼吸器疾患の増悪が原因による患者の呼吸機能の悪化を防ぐ。アレルギー反応及び感冒又はインフルエンザの症状の早期の検出が、ユーザに警告し、ユーザが行動すること、特に、自分の常用薬を服用することを可能にする。殆どの患者は、薬を四六時中服用するわけではなく、患者が必要性を感じたときにのみ服用する。早期の警告は、患者が喘息症状に気づく前に、前記必要性を示すことができ、患者がそれら警告と共に、発作治療薬(reliever medication)を確実に服用することに寄与することができる。子供にとって、親へのこの警告は、親が自分の子供の喘息を効果的に管理するのを助ける。一般に、患者の日常生活において、喘息の増悪を確実に予測する最新式の利用可能な方法がない。例えば、呼気又は最大呼気流量を監視するような解決策は、患者に感じられる負担を理由に、実際には使用されない。
【0004】
米国特許公開第2019/0167176A1号は、信号入力部、信号処理ユニット及び呼吸促迫分析装置を含む、患者における呼吸促迫を監視及び治療するためのシステムを開示している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これらを理由に、上述した欠点に苦しまない患者の呼吸器疾患の増悪リスクのスコアを提供するためのシステム及び方法を持つことが有利である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の目的は、患者の呼吸器疾患の増悪リスクのスコアを提供するためのシステム及び方法を提供することであり、これは、感冒又はインフルエンザのようなアレルギー反応又は伝染病の症状を目立たずに監視する。
【0007】
本発明の目的は、独立請求項の主題により解決され、さらなる実施形態は、従属請求項に組み込まれる。
【0008】
記載される実施形態は、同様に、患者の呼吸器疾患の増悪リスクのスコアを提供するためのシステム及び方法に関する。そのことを詳細に説明していないが、これらの実施形態の異なる組み合わせから相乗効果が生じることがある。
【0009】
さらに、方法に関する本発明の全ての実施形態が、記載されるようなステップの順序で実行されてもよいが、これは、この方法のステップの唯一であり必須の順序である必要はないことに注意されたい。本明細書に示される方法は、以下に特段の記載がない限り、夫々の方法の実施形態から逸脱することなく、開示されるステップの別の順序で実行されることができる。
【0010】
本発明の第1の態様によれば、患者の呼吸器疾患の増悪リスクのスコアを提供するためのシステムが提供される。このシステムは、患者の心臓信号及び/又は血液循環信号を測定するように構成され、対応する測定データを提供するように構成される測定ユニットを有する。前記システムは、前記測定データを受信し、この測定データにおいて患者の咳事象及び/又はくしゃみ事象を検出するように構成される検出ユニットを有する。前記システムは、前記検出された咳事象及び/又は前記検出されたくしゃみ事象に基づいて、患者の呼吸器疾患の増悪リスクのスコアを計算するように構成される計算ユニット、並びに前記増悪リスクのスコアを患者及び/又は医師に提供するように構成されるインターフェースユニットを有する。
【0011】
前記システムは、例えば、伝染病及び/又はアレルギーの発症を知らせる咳及びくしゃみのような症状を監視することにより、患者の呼吸器疾患の増悪リスクを決定する。咳及びくしゃみのような症状は、心臓信号及び/又は血液循環信号の測定値から導出される。これら症状は、患者の身体に取り付けられる測定ユニットを用いて目立たずに測定されることができる。咳事象及び/又はくしゃみ事象は、今後起こる感染症又はアレルギーの指標となり得る。検出ユニットは、前記測定ユニットから前記心臓信号及び/又は血液循環信号に対応する測定データを受信し、この測定データにおいて咳事象及び/又はくしゃみ事象を検出するように構成される。計算ユニットは、検出される咳及び/又はくしゃみ事象に基づいて、患者の呼吸器疾患の増悪のリスクを示す増悪リスクのスコアを計算する。この増悪リスクのスコアは、以前の測定で取得された増悪リスクのスコアの既存の値を更新するために使用することができる。インターフェースユニットは、前記増悪リスクスコアを患者に提供するように構成される。その代わりに又はそれに加えて、増悪リスクスコアは、患者が子供である場合、医師又は両親である患者の介護者に提供されることができる。
【0012】
本発明の一実施形態において、前記血液循環信号は、血圧、血液量及び血流の少なくとも1つを有する。
【0013】
前記血液循環信号は、血圧、血液量又は血流を有する。さらに、これらの組み合わせも可能である。前記心臓信号は、心臓信号は、心拍の頻度又は振幅に対応することができる。
【0014】
本発明の一実施形態において、前記測定ユニットは、前記心臓信号及び/又は前記血液循環信号を測定するための第1のセンサを有するウェアラブルユニット、例えばブレスレットである。
【0015】
前記測定ユニットは、センサを有するブレスレット又はリストバンドのようなウェアラブル装置とすることができる。ウェアラブル装置は、患者の手首に巻かれる、又はウェアラブル装置は、患者の身体の別の部分に取り付けられる。患者のバイタルサインを測定するリストバンドは、患者にとって受け入れ可能であり、日中及び夜間の両方において、患者の心臓信号及び血液循環信号を測定するための目立たない方法を提供する。
【0016】
本発明の一実施形態において、前記第1のセンサは、光電脈波センサである。
【0017】
前記測定ユニットのセンサは、光電脈波センサとすることができる。このセンサは、患者の身体の一部、好ましくは皮膚に光を当てるための光源、及び皮膚から反射される光を測定する光検出器を有することができる。この反射される光は、皮膚を循環する血液の量に影響される。皮膚内の血液量の変化は、例えば、心拍又は血圧の変化に起因する。
【0018】
本発明の一実施形態において、前記呼吸器疾患は、喘息又は慢性閉塞性肺疾患である。
【0019】
患者の呼吸器疾患は、喘息又は慢性閉塞性肺疾患である。さらに、例えば、アレルギー反応又はインフルエンザ又は感冒のような伝染病を患っている場合に悪化し得る、他の任意の疾患の増悪リスクスコアを提供することができる。
【0020】
本発明の一実施形態において、前記検出ユニットは、心臓信号の拍動間隔(IBI)を分析することによって、咳事象を検出するように構成される。
【0021】
前記検出ユニットは、咳事象を検出するために、心臓信号の拍動間隔の変化に依存することができる。前記拍動間隔は、心臓信号の2つの後続する収縮期の間に経過する時間、すなわち、2つの心拍の間の時間として定義することができる。
【0022】
本発明の一実施形態において、前記検出ユニットは、複数の心拍にわたる拍動間隔の長さの変動によって、咳事象を検出するように構成される。
【0023】
前記検出ユニットの咳検出アルゴリズムは、咳事象中に光電脈波センサを用いて測定される心臓信号の心臓曲線が大きく乱れるという観察に依存することができる。従って、拍動間隔も同様に大きく変動し、これが咳事象を決定するために使用することができる。
【0024】
さらに、咳検出アルゴリズムは、検出される心臓曲線の変化は咳事象によるものであり、他のアーチファクト、例えば、皮膚に対する、光検出器又はセンサの光発生源の相対的な移動によるものではないことを保証することができる。この咳検出アルゴリズムは、患者の安静時に検出ユニットにより学習される患者特有の基準の拍動間隔を利用することができる。この基準の拍動間隔は、システムの初期設定時に検出ユニットにより、又は実行時に、基準の拍動間隔を測定しながら、患者の安静状態を識別するために、システムに加速度計を追加することにより学習されることができる。さらに、検出ユニットは、センサの皮膚への良好な接触が保証されることを監視することができる。皮膚とセンサとの接触が維持され、品質インジケータにより品質のチェックが行われ、このチェックが追跡されることができる。
【0025】
本発明の一実施形態において、前記検出ユニットは、心臓信号の心拍数及び血液循環信号の血圧を分析することにより、くしゃみ事象を検出するように構成される。
【0026】
この検出ユニットは、くしゃみ事象を検出するために、心臓信号の心拍数の変化及び血液循環信号の血圧の変化に依存することができる。心拍数は、単位時間当たりの心臓の鼓動数として定義されることができる。血圧も、患者の皮膚内を流れる血液量又は血流から導出されることができる。
【0027】
本発明の一実施形態において、前記検出ユニットは、増大する血圧と時間的に相関する減少する心拍数によって、くしゃみ事象を検出するように構成される。
【0028】
くしゃみ検出のアルゴリズムは、患者がくしゃみをするとき、身体の胸腔内圧が瞬間的に上昇するという患者の身体の生理的反応に依存することができる。このことが、心臓に戻る血流を減少させることができる。心臓は、規則的な心拍を瞬間的に変化させ、調節することによって、これを補償する。くしゃみ事象の検出は、心拍数の急激な減少と血圧の上昇とを相関させることにより行われる。
【0029】
本発明の一実施形態において、前記システムは、患者の増悪リスクのスコア値の記録を記憶し、その記録を患者及び/又は医師に提供するように構成される。
【0030】
増悪リスクのスコアの記録が記憶され、このリスクのスコアの傾向を提供することができる。さらに、前記システムは、増悪リスクのスコアが更新される場合、特に、この増悪リスクのスコアが、増悪リスクのスコアの以前の測定値に対して増大する場合、患者に信号を提供することができる。
【0031】
本発明の一実施形態において、前記システムは、皮膚との接触、温度及び/又は加速度を検出するように構成される第2のセンサを有する。
【0032】
この第2のセンサは、検出される心臓及び血液回路から検出される信号の検証に使用することができる。皮膚接触センサは、第1のセンサが皮膚と良好に接触しているかどうかを検出することができ、それにより、この第1のセンサが皮膚と良好に接触し、信頼できる測定データを提供するとき、測定データのみが咳及びくしゃみの検出に使用されることを保証する。温度センサは、皮膚の温度を測定するために使用することができ、従って、第1及び第2のセンサの皮膚との接触を監視することができる。加速度センサは、咳及びくしゃみ事象が身体の動きに影響を及ぼすので、検出される咳事象及びくしゃみ事象を検証するために使用することができる。咳事象又はくしゃみ事象により引き起こされる身体の不随意の動作に加えて又はその代わりに、患者は、手を使用して、口を覆うことができ、これは、加速度センサの特徴的な加速度信号をもたらし、これが咳又はくしゃみ事象の発生を検証するために使用されることができる。
【0033】
本発明の一実施形態において、計算ユニットは、増悪リスクのスコアを予測するために、複数の患者からのデータを用いて訓練されるように構成される人工知能モジュールを有する。
【0034】
この増悪リスクのスコアは、検出される咳及びくしゃみ事象の頻度に基づいて計算される。このスコア値の増減は、母集団データの学習に基づいて行われる。上述したように集められた患者の咳及びくしゃみ事象の発生に関するデータは、呼吸器疾患の増悪及び重症化する可能性を示す他のデータと組み合わせることができる。例えば、関連したリリーバー吸入器(reliever inhaler)を持つ患者は、増悪の場合、リリーバー吸入器を1回以上吸引し、繰り返す回数及び対応する頻度は、増悪の重症度の指標である。救急外来受診又は入院、及び関連する医師の評価は、この増悪の重症度を示すことができる。増悪に関する追加のデータがある母集団のサブセットからデータを取ることは、本発明によるシステムが、機械学習方法を使用し、前記検出される咳及びくしゃみ事象に基づいて、増悪のリスクを予測するモデルを訓練することを可能にする。この機械学習訓練は、近々起こる増悪を示すパターンが、孤立した咳/くしゃみから分離されることを確実にすることができる。咳又はくしゃみ事象の発生に関する追加のデータ及び対応する増悪リスクのスコアを持つ母集団のサブセットに機械学習を用いた後、増悪リスクのスコアの計算は、完全な母集団の全ての患者に適用されることができる。増悪リスクのスコアは、患者の個別の状況に基づいて個別化することもできる。例えば、ある人が、ある種の花粉に対してアレルギーがあることが分かっている場合、花粉により引き起こされる呼吸器疾患の増悪の可能性はより高くなるので、対応する季節の間、同じ頻度の咳/くしゃみは、他の季節の間よりも高い増悪リスクのスコアとして評価される。別のシナリオは、空気の質が悪い日、すなわち、敏感な患者の集団にとって体に悪い空気の質である日において、頻繁な咳/くしゃみ事象の検出は、良い空気の質である日よりも高いスコアを評価することにより、増悪のリスクへのより多くの注意を生じさせることである。
【0035】
本発明の別の態様によれば、患者の呼吸器疾患の増悪リスクのスコアを提供する方法が提供される。この方法は、患者の心臓信号及び/又は血液循環信号を測定するステップ、及び対応する測定データを提供するステップを有する。この方法は、前記測定データに基づいて、患者の咳事象及び/又はくしゃみ事象を検出するステップ、並びに検出される咳事象及び検出されるくしゃみ事象に基づいて、患者の呼吸器疾患の増悪リスクのスコアを計算するステップをさらに有する。この方法は、前記増悪リスクのスコアを患者及び/又は医師に提供するステップをさらに有する。
【0036】
本発明による方法は、患者の呼吸器疾患の増悪リスクのスコアを提供する。第1のステップにおいて、患者の心臓信号及び/又は血液循環信号が測定され、対応する測定データが提供される。第2のステップにおいて、前記測定データに基づいて、患者の咳事象及び/又はくしゃみ事象が検出される。第3ステップにおいて、前記検出される咳事象及び/又は前記検出されるくしゃみ事象に基づいて、患者の呼吸器疾患の増悪リスクのスコアが計算される。第4のステップにおいて、増悪リスクのスコアが患者及び/又は医師に提供される。
【0037】
本発明の別の態様によれば、処理ユニット上で実行されるとき、本発明の上述した態様による方法を行うよう、前記処理ユニットに指示するコンピュータプログラム要素が提供される。
【0038】
前記コンピュータプログラム要素は、1つ以上の処理ユニット上で行われ、これら処理ユニットは、このコンピュータプログラム要素が実行されるとき、患者の呼吸器疾患の増悪リスクのスコアを提供するため前記方法を行うように指示される。
【0039】
本発明の別の態様によれば、本発明の上述した態様によるコンピュータプログラム要素を実行するように構成される処理ユニットが提供される。
【0040】
前記処理ユニットは、例えば、電話、スマートフォン、タブレット、スマートウォッチ、ブレスレット又はスマートグラスのような通信装置のプロセッサである。前記処理ユニットは、前記コンピュータプログラム要素の一部が前記通信装置上で実行され、別の部分が例えばサーバ上で実行されるように、1つ以上の異なる装置にわたり分散されることもできる。ブレスレットは、前記通信装置に通信可能で接続されることができ、この通信装置にインストールされたアプリケーションが、本発明による方法の前記ステップを行うように構成されることができる。
【0041】
従って、上記態様の何れかによって提供される利点は、他の態様全てに等しく適用され、その逆も同様である。
【0042】
要旨は、本発明は、患者の呼吸器疾患の増悪リスクのスコアを提供するためのシステム及び方法に関する。前記システムは、患者の心臓信号及び/又は血液循環信号を測定し、この測定データにおいて咳事象及びくしゃみ事象を検出する。咳事象及びくしゃみ事象は、患者の呼吸器疾患を急速に悪化させる可能性がある伝染病及び/又はアレルギーの発症を示す。従って、前記システムは、増悪リスクのスコアを目立たずに患者及び/又は医師に提供するように構成される。
【0043】
上記態様及び実施形態は、以下に記載される例示的な実施形態から明らかとなり、これら例示的な実施形態を参照して説明される。本発明の例示的な実施形態は、以下の図面を参照して以下に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1図1は、本発明の第1の実施形態による、患者の呼吸器疾患の増悪リスクのスコアを提供するためのシステムの概略的な構成を示す。
図2図2は、本発明の第2の実施形態による、患者の呼吸器疾患の増悪リスクのスコアを提供するためのシステムの概略的な構成を示す。
図3図3は、本発明の第3の実施形態による、患者の呼吸器疾患の増悪リスクのスコアを提供するためのシステムの概略的な構成を示す。
図4図4は、患者の咳事象中に測定ユニットにより測定される患者の心臓信号を示す。
図5図5は、本発明の一実施形態による、患者の呼吸器疾患の増悪リスクのスコアを提供するための方法のブロック図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0045】
図1は、本発明の第1の実施形態による、患者150の呼吸器疾患の増悪リスクのスコア170を提供するためのシステム100の概略的な構成を示す。測定ユニット110は、患者150の心臓信号及び/又は血液循環信号を測定する。心臓信号及び/又は血液循環信号に対応する測定データ160が提供され、検出ユニット120により受信される。検出ユニット120は、測定データ160において患者150の咳事象及び/又はくしゃみ事象165を検出するように構成される。計算ユニット130は、患者の呼吸器疾患の増悪リスクのスコア170を計算するように構成される。この増悪リスクのスコア170は、インターフェースユニット140によって患者150及び/又は医師に提供される。
【0046】
図2は、本発明の第2の実施形態による、患者150の呼吸器疾患の増悪リスクのスコア170を提供するためのシステム100の概略的な構成を示す。本発明のこの実施形態において、測定ユニット110は、第1のセンサ181及び第2のセンサ182を有するウェアラブル装置180である。第1のセンサ181は、患者150の心臓信号及び/又は血液循環信号を測定するように構成される。第2のセンサ182は、皮膚との接触を測定するように構成され、従って、第1のセンサ181により測定されるデータの信頼性に関するデータを提供する。測定データ160は、スマートフォン、タブレット、スマートウォッチ、スマートグラス等のような通信装置300に送信される。しかしながら、ウェアラブル装置180は、例えば、スマートウォッチとすることができる、すなわちウェアラブル装置180は、検出ユニット120、計算ユニット130及びインターフェースユニット140を有することができる。前記通信装置は、本発明のこの実施形態において、測定データ160を受信し、咳事象及び/又はくしゃみ事象165を検出するための検出ユニット120を有する。これらは、計算ユニット130に提供され、計算ユニット130は、増悪リスクのスコア170を提供するために訓練された人工知能モジュール190を有する。増悪リスクのスコア170は、インターフェースユニット140によって、患者150及び/又は医師に提供される。処理ユニット200は、検出ユニット120、計算ユニット130及びインターフェースユニット140と通信可能で接続されることができ、検出ユニット120、計算ユニット130及びインターフェースユニット140を制御し、本発明による前記方法のステップを実行するように構成される。
【0047】
図3は、本発明の第3の実施形態による、患者150の呼吸器疾患の増悪リスクのスコア170を提供するためのシステム100の概略的な構成を示す。ウェアラブル装置180は、患者150の手首に取り付けられる。このウェアラブル装置180は、例えば、WLAN又はBluetoothのような無線接続によって、通信装置300と通信可能で接続されることができる。
【0048】
図4は、患者150の咳事象165中に測定ユニット110により測定される患者150の心臓信号を示す。測定ユニット110により測定される信号の振幅Aは、咳事象及び/又はくしゃみ事象がない場合は、時間tにわたり測定される規則的な曲線のような波形を通常は示す。tで始まりtで終わる時間間隔において、大きく変動する拍動間隔を持つ前記規則的な波形の乱れを理由に咳事象165が検出される。
【0049】
図5は、本発明の一実施形態による、患者150の呼吸器疾患の増悪リスクのスコア170を提供するための方法のブロック図を示す。この方法は、患者の心臓信号及び/又は血液循環信号を測定し、対応する測定データを提供する第1のステップ160を有する。このステップの後に、前記測定データ160に基づいて、患者150の咳事象及び/又はくしゃみ事象165を検出する第2のステップが続く。第3のステップは、検出される咳事象及び/又は検出されるくしゃみ事象165に基づいて、患者150の呼吸器疾患の増悪リスクのスコア170を計算するステップを有する。第4のステップにおいて、増悪リスクのスコア170が患者150及び/又は医師に提供される。
【0050】
本発明は、図面及び上記説明において詳細に例示及び説明されてきたが、そのような例示及び説明は、例示的又は説明的であり、限定的ではないと考えられるべきである。本発明は、開示される実施形態に限定されない。開示される実施形態に対する変形例は、図面、本開示及び添付の請求項を検討することにより、請求される発明を実施する際に当業者によって理解及び実施されることができる。
【0051】
請求項において、"有する"という言葉は、他の要素又はステップを排除するものではなく、複数あることを述べなくとも、それが複数あることを排除しない。特定の手段が相互に異なる従属請求項に記載されているという単なる事実は、これらの手段の組み合わせが有利に使用されることができないことを示すものではない。請求項における如何なる参照符号も、その範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
図1
図2
図3
図4
図5