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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-07
(45)【発行日】2024-11-15
(54)【発明の名称】ボールねじ
(51)【国際特許分類】
   F16H 25/22 20060101AFI20241108BHJP
   F16H 25/24 20060101ALI20241108BHJP
【FI】
F16H25/22 G
F16H25/24 B
F16H25/24 H
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021027344
(22)【出願日】2021-02-24
(65)【公開番号】P2022128886
(43)【公開日】2022-09-05
【審査請求日】2023-12-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】100114959
【弁理士】
【氏名又は名称】山▲崎▼ 徹也
(72)【発明者】
【氏名】加藤 健
【審査官】畔津 圭介
(56)【参考文献】
【文献】実開昭62-194967(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 25/22
F16H 25/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の壁部を有し、前記壁部を貫通する複数の孔部が、前記壁部の軸心に対する周方向に沿って配置されたボールホルダと、
前記壁部に外挿されて前記ボールホルダと相対回転可能であり、前記ボールホルダに対向する筒状内面のうち前記孔部に対向する位置に前記軸心の周方向に沿う一つの環状溝が形成されたアウタレースと、
前記ボールホルダに内挿されて外面に少なくとも一条のスクリュ溝を有し、前記ボールホルダと相対回転するスクリュと、
前記ボールホルダの前記壁部の外面および内面から突出する状態で前記孔部に包持され、前記アウタレースの前記環状溝および前記スクリュ溝に嵌合するボールと、を備え、
前記ボールが、前記軸心の周方向に沿って少なくとも一つ配置された第1段目を構成するボールと、前記第1段目のボールとは前記軸心の方向に沿った異なる位置において第2段目を構成するよう前記軸心の周方向に沿って少なくとも一つ配置されたボールと、を備え
前記環状溝を形成する内面のうち、前記軸心に沿った一端側の内面には前記第1段目のボールのみが当接可能であり、前記軸心に沿った他端側の内面には前記第2段目のボールのみが当接可能であって、
前記孔部が、前記第1段目を構成するボール、および、前記第2段目を構成するボールの何れも保持できるよう、
前記軸心の周方向に沿う幅が前記ボールの直径と略等しく設定され、
前記軸心の延出方向に沿う長さが、前記軸心の周りの前記第1段目のボールの回転軌跡および前記第2段目のボールの回転軌跡を合体させた軌跡について前記軸心に沿う長さに設定されているボールねじ。
【請求項2】
前記環状溝の内面のうち、前記第1段目のボールが転動する領域と、前記第2段目のボールが転動する領域との間に、前記周方向に沿って連続し、前記第1段目のボールおよび前記第2段目のボールの少なくとも何れか一方に当接してボールの転動を案内する長尺状の突起が形成されている請求項1に記載のボールねじ。
【請求項3】
前記アウタレースの内面と前記ボールホルダの外面との間に設けられ、前記アウタレースおよび前記ボールホルダと少なくとも何れか一方と低摩擦係数を伴って摺動する軸受を備えている請求項1または2に記載のボールねじ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転支持されるスクリュと、スクリュに嵌合するボールと、ボールを保持すべくスクリュに外挿されるボールホルダと、さらにボールホルダに外挿されるアウタレースとを備えた非循環型のボールねじに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、このようなボールねじとしては、例えば特許文献1に示すものがある(〔0005〕~〔0007〕段落、〔0034〕~〔0038〕段落および図1参照)。
【0003】
この技術は非循環式のボールねじに関するものであり、リードスクリュの螺旋状のリード溝に嵌合するボールと、ボールを転動可能に保持する保持孔を備えた筒状の保持体と、軸心方向に位置が拘束されない態様で保持体の外周面に装着され、ボールが嵌合する単一の保持溝を有するスリーブと、を備えている。
【0004】
このうちの保持体に、軸心方向の互いに異なる位置に第1の保持孔と第2の保持孔が形成されている。また、スリーブとしては、第1の保持孔に保持されたボールに嵌合する保持溝を備えた第1のスリーブと、第2の保持孔に保持されたボールに嵌合する保持溝を備えた第2のスリーブとを備えている。これら第1のスリーブおよび第2のスリーブは軸心方向に沿って互いの位置が拘束されない状態に設けられている。
【0005】
本構成では、第1のスリーブおよび第2のスリーブは、保持溝とこれに対応するボールとの嵌合作用のみで軸心方向及び半径方向に位置決めされる。つまり、保持溝とボールとの嵌合作用によって第1のスリーブおよび第2のスリーブの夫々は保持体に対して自動的に位置決めされる。
【0006】
この構成により、当該ボールねじでは、スリーブが保持体に固定される際に、スリーブの保持溝の位置と、保持体の保持孔との位置が軸心方向にズレることがなく、ボールが上手く転がらずに保持溝や保持孔と摺動接触することが防止される。その結果、ボールねじの耐久性や動作精度が向上するというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2016-211606号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上記従来のボールねじでは、二つのスリーブどうしが軸心方向に沿って独立に移動可能である。よって、ボールねじ機構として、スリーブを固定しつつ保持体を駆動しスクリュを往復移動させるなどの構成が採り難い。敢えてスリーブを固定する場合には、一方のスリーブのみを固定せざるを得ずスクリュの姿勢安定性が得られない。
【0009】
また、スリーブが分割されている結果、スクリュに対して軸心と直角方向からの外力が作用した場合に、双方のスリーブの支持機能に差が生じる恐れがある。場合によっては、片側のスリーブしか軸支機能を発揮することができず、やはりスクリュの姿勢安定性が損なわれる。
【0010】
さらに、スリーブが軸心方向に沿って少なくとも二つ設けられるから、軸心方向の製品寸法が大きくなり搭載性が損なわれる。部品点数が増えることで、製造に際しての部品管理や製造手間が増え、製造コストも増大する。
【0011】
このような実情に鑑み、従来から、スクリュの回転・支持機能に優れ、部品点数が少なくコンパクトで安価なボールねじが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(特徴構成)
本発明に係るボールねじの特徴構成は、
筒状の壁部を有し、前記壁部を貫通する複数の孔部が、前記壁部の軸心に対する周方向に沿って配置されたボールホルダと、
前記壁部に外挿されて前記ボールホルダと相対回転可能であり、前記ボールホルダに対向する筒状内面のうち前記孔部に対向する位置に前記軸心の周方向に沿う一つの環状溝が形成されたアウタレースと、
前記ボールホルダに内挿されて外面に少なくとも一条のスクリュ溝を有し、前記ボールホルダと相対回転するスクリュと、
前記ボールホルダの前記壁部の外面および内面から突出する状態で前記孔部に包持され、前記アウタレースの前記環状溝および前記スクリュ溝に嵌合するボールと、を備え、
前記ボールが、前記軸心の周方向に沿って少なくとも一つ配置された第1段目を構成するボールと、前記第1段目のボールとは前記軸心の方向に沿った異なる位置において第2段目を構成するよう前記軸心の周方向に沿って少なくとも一つ配置されたボールと、を備え
前記環状溝を形成する内面のうち、前記軸心に沿った一端側の内面には前記第1段目のボールのみが当接可能であり、前記軸心に沿った他端側の内面には前記第2段目のボールのみが当接可能であって、
前記孔部が、前記第1段目を構成するボール、および、前記第2段目を構成するボールの何れも保持できるよう、
前記軸心の周方向に沿う幅が前記ボールの直径と略等しく設定され、
前記軸心の延出方向に沿う長さが、前記軸心の周りの前記第1段目のボールの回転軌跡および前記第2段目のボールの回転軌跡を合体させた軌跡について前記軸心に沿う長さに設定されている点にある。
【0013】
(作用)
本構成のボールねじでは、スクリュとボールホルダが相対回転するよう、ボールがボールホルダに包持されつつスクリュのスクリュ溝に嵌合する。同時にこのボールは、ボールホルダの外側に配置されたアウタレースの環状溝にも嵌合する。これにより、スクリュとボールホルダおよびスクリュとアウタレースが相対回転可能になるほか、ボールホルダとアウタレースも相対回転可能となる。
【0014】
本構成のボールは、軸心の方向に沿って異なる位置に配置された第1段目のボールと第2段目のボールを備えており、スクリュの周囲にできるだけ多くのボールを配置してスクリュの確実な保持および円滑な回転動作を得るようにしてある。
【0015】
本構成のボールはスクリュ溝と孔部と環状溝とで位置規制されるが、このうちアウタレースは、主にボールが径外方向に移動することを規制するものである。つまり、ボールが、孔部によって周方向の位置が規制され、スクリュ溝に対して確実に嵌合することでボールねじの機能が担保される。それを効率的に実現するために、本構成では複数段に形成されたボールを一つの環状溝で保持できるようアウタレースを構成している。
【0016】
このようにボールに複数の機能を持たせると共に、アウタレースの構成を簡略化することで、全体の部品点数を削減しつつアウタレースを小径化でき、コンパクトで安価なボールねじを得ることができる。
【0017】
【0018】
(作用)
本構成では、ボールが第1段目および第2段目に配置され、より多くのボールがスクリュとアウタレースの間に設けられる。これにより、スクリュがアウタレースの多点で支持され、双方における応力集中の発生が緩和されてスクリュの回転が円滑化される。
【0019】
本構成のボールホルダは、これら配置位置の異なるボールを保持できるよう、孔部の形状を周方向に沿った寸法と軸心に沿った寸法とを異なるものとし、この孔を周方向に沿って配置してある。本構成では、例えば第1段目のボールは軸心の延出方向に沿って孔部の一方側に保持され、第2段目のボールは他方側に保持される。このように、ボールを保持してもスクリュ溝および環状溝によってボールの位置が規制されるため、ボールが孔部の内部で軸心に沿って移動することはない。
【0020】
このように、本構成のボールねじは孔部の形状を全て同じ長孔状としながら複数段のボールを位置保持することができ、さらに、ボールホルダの構造が簡略化され、製造コストや部品管理コストが削減される。
【0021】
本発明に係るボールねじにあっては、前記環状溝の内面のうち、前記第1段目のボールが転動する領域と、前記第2段目のボールが転動する領域との間に、前記周方向に沿って連続し、前記第1段目のボールおよび前記第2段目のボールの少なくとも何れか一方に当接してボールの転動を案内する長尺状の突起を設けることができる。
【0022】
(作用)
第1段目のボールおよび第2段目のボールは、スクリュ溝とボールホルダの孔部に対して同時に嵌合しているから軸心に沿ったガタつきは少ない。
【0023】
ただし、スクリュ溝とボールとの間や孔部とボールとの間には若干の隙間が存在するため、ボールの一定量の変位は避けられない。また、アウタレースの環状溝としては、軸心の方向に沿って第1段目のボールの一方の側面と第2段目のボールの他方の側面に当接するよう構成されているものの、夫々のボールは当接箇所と反対方向に移動する可能性がある。
【0024】
そこで、本構成のように、環状溝の内面に長尺状の突起を設けることで、ボールが軸心方向に沿って移動する量を低減することができる。これにより、ガタつきが少なく動作が円滑なボールねじを得ることができる。
【0025】
尚、本構成の場合、ボールが、第1段目のボールと第2段目のボールに加え、軸心に沿った第1段目に係る位置と第2段目に係る位置との間の位置に少なくとも一つの別段のボールを配置する構成であってもよい。
【0026】
例えば、スクリュの直径が大きく、多くの条数のスクリュ溝を持つ場合には、ボールの直径に応じてスクリュの周りに配置するボールの数を増やすことができる。その場合に、周方向に隣接するボールどうしの干渉を避けるためにはボールの配置態様を3段以上の複数段にすることもできる。ただし、第1段目と第2段目の間に位置する他段のボールは、孔部の軸心方向における両端部の内面に当接することはなく、当該方向での位置保持機能が希薄となり易い。特にこのような場合に、環状溝に段数分の突起を設けることで、ボールの位置規制効果を高めることができる。
【0027】
本発明に係るボールねじにおいては、前記アウタレースの内面と前記ボールホルダの外面との間に設けられ、前記アウタレースおよび前記ボールホルダと少なくとも何れか一方と低摩擦係数を伴って摺動する軸受を備えていると好都合である。
【0028】
(作用)
このような軸受を設けることで、例えばアウタレースを固定しボールホルダを駆動回転させる際に両者間の回転抵抗およびガタつきが低減され、高品質なボールねじを得ることができる。
【0029】
尚、軸受けを設けることは、アウタレースを他物に固定しない状態でボールホルダを回転駆動しスクリュをスラスト移動させる場合にも有効である。この場合、ボールホルダを回転駆動すると、ボールがスクリュ溝との当接によって転動する。このボールの転動により、ボールはアウタレースの環状溝に対しても相対回転する。ボールがスクリュ溝の螺旋方向に沿って転がるとき、アウタレースの環状溝は軸心に対して周方向に延出しているため、ボールと環状溝との間には必ず滑りが生じる。ボールねじの回転動作を円滑化するにはこのような滑りを最小限にとどめるのが望ましい。
【0030】
そのためにアウタレースとボールホルダとの間に軸受を設け、ボールホルダとアウタレースとの間に生じる摩擦力を低減させることが有効となる。本構成であれば、転動するボールと接触するアウタレースが周方向に沿って回転し易くなり、ボールとの滑り量が最小限に抑えられる。その結果、ボールの転動が非常に軽いものとなり、回転性能に優れたボールねじを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】第1実施形態に係るボールねじの外観を示す斜視図
図2】第1実施形態に係るボールねじの構成を示す分解斜視図
図3】第1実施形態に係るボールねじの構造を示す断面図
図4】第2実施形態に係るボールホルダの構造を示す断面図
図5】第3実施形態に係るアウタレースの構造を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0032】
(概要)
本発明に係るボールねじは、スクリュとアウタレースとの間に装填されるボールの保持構造を工夫することで、非循環型のボールねじを合理的に構成するものである。以下、各図を参照しつつ本発明のボールねじについての各実施形態を説明する。
【0033】
〔第1の実施形態〕
(全体構成)
本発明の第1実施形態に係るボールねじSの例を図1乃至図3に示す。これらの図に示すように、当該ボールねじSは、回転支持されるスクリュ1と、当該スクリュ1に外挿されるボールホルダ2、さらに、当該ボールホルダ2に外挿されるアウタレース3と、これら三者に保持される複数のボールBを備えている。
【0034】
スクリュ1は、少なくとも一条のスクリュ溝11を有する。本実施形態では、四条のスクリュ溝11を備えた例を示している。
【0035】
ボールホルダ2は、軸心Xの周りに形成された筒状の壁部21を有し、スクリュ1に対して相対回転可能な状態で外挿される。壁部21には、壁部21を貫通する複数の孔部22が軸心Xに対する周方向に沿って配置されている。この孔部22の夫々にはボールBが一個配置される。壁部21の厚みはボールBの直径よりも小さく、ボールBは、その一部が壁部21の内面および外面から突出する状態に保持される。
【0036】
ボールホルダ2の外側には筒状のアウタレース3が外挿される。アウタレース3とボールホルダ2も相対回転可能である。よって、スクリュ1とアウタレース3も相対回転可能となる。アウタレース3の筒状内面のうち孔部22に対向する位置には、軸心Xの周方向に沿う一つの環状溝31が形成してある。
【0037】
以上の構成により、ボールホルダ2の孔部22に保持されたボールBが、その内側にあるスクリュ1のスクリュ溝11に嵌合すると共に、外側にあるアウタレース3の環状溝31に嵌合して位置保持される。これにより、例えばアウタレース3を各種装置の一部に固定し、ボールホルダ2を回転させることで当該装置に対してスクリュ1を直線運動させることができる。
【0038】
(ボールの配置)
図2および図3に示すように、ボールBは軸心Xの周方向に沿って複数配置される。ここでは、周方向に配置されるボールBが一段分のボール群を構成するものとし、軸心Xに沿う方向の異なる位置にボールBを二段に配置してある。本実施形態では、図中左側のものを第1段目のボールB1とし、右側のものを第2段目のボールB2とする。このように多段構成とすることで、スクリュ1とアウタレース3の間により多くのボールBを配置することができる。よって、スクリュ1がアウタレース3の多点で支持され、双方における応力集中の発生を緩和してスクリュ1の回転が円滑化される。
【0039】
図3(a)(b)に示すように、本実施形態では第1段目のボールB1および第2段目のボールB2が夫々四つで構成される。各段のボールB1、B2は、四条のスクリュ溝11の夫々に嵌合している。ボールBの配置位置は、スクリュ1の形状とボールBの設置段数によって決定される。具体的には、第1段目のボール位置と第2段目のボール位置との距離Dは以下の式で決定される。
D=L/(N×M)
ここで、L:スクリュリード、 N:スクリュの条数、 M:段数 である。
【0040】
尚、各段においては、ボールBを少なくとも一つ配置すればよい。スクリュ溝11が一条の場合には、各段に配置できるボールBは必然的に一つとなる。ただしその場合には、軸心Xに沿って多段にボールBを配置し、しかも、各段に配置するボールBを周方向に適度に分散させることでスクリュ1の保持が安定する。しかしながら、本実施形態のように、スクリュ1に複数条のスクリュ溝11を構成しておき、一段に含まれる複数のボールBが完全に周方向に配置されるものであればスクリュ1の保持安定がより向上する。
【0041】
本実施形態のボールねじSでは、これら複数段のボールBを効率的に保持するため、ボールホルダ2の孔部22の形状と、アウタレース3の環状溝31の形状に工夫がある。
【0042】
(孔部の形状)
図2および図3に示すように、本構成のボールホルダ2には、軸心Xに沿ったトラック形状を有する孔部22が周方向に分散配置されている。この孔部22につき、軸心Xの周方向に沿う幅はボールBの直径と略等しい。一方、軸心Xの延出方向に沿う長さは、軸心Xの周りの第1段目のボールB1の回転軌跡および第2段目のボールB2の回転軌跡を合体させた軌跡について軸心Xに沿う長さと同じに設定されている。
【0043】
この孔部22において、第1段目のボールB1は、孔部22の一方側の端部に略当接する状態で保持される。一方、第2段目に含まれるボールBは、孔部22の他方側の端部に略当接する状態で保持される。各ボールBはスクリュ溝11に嵌合しているから、孔部22における一方の端部に常に位置規制される。
【0044】
周方向に沿って同じ形状の孔部22を設けるためには、図3(b)に示すように、各孔部22が周方向に沿って互いに分離するようにボールBの直径やスクリュ1のサイズを適宜設定する。
【0045】
このように、本構成のボールねじSは、孔部22の形状を全て長孔状の同じものにしながら、複数段のボールBを位置保持することができる。また、ボールホルダ2の構造が簡略化され、製造コストや部品管理コストが削減される。
【0046】
(環状溝の形状)
図2および図3に示すように、アウタレース3の内面には、第1段目のボールB1および第2段目のボールB2を保持可能な環状溝31が形成してある。具体的には、軸心Xを含む平面によるアウタレース3の断面を見た場合に、第1段目のボールB1と第2段目のボールB2を軸心Xの周りに回転させた場合に得られる回転軌跡に対応する形状としている。図3に示すように、環状溝31のうち左半分に円弧状に形成された第1曲面31aには第1段目のボールB1のみが当接し、右半分に円弧状に形成された第2曲面31bには第2段目のボールB2のみが当接する。
【0047】
ボールBの位置規制については、先ずボールBがスクリュ1のスクリュ溝11に嵌合されることで、ボールBの移動方向はスクリュ溝11に沿った方向に規制される。さらに、ボールBはボールホルダ2の孔部22に挿入されているため、ここでボールホルダ2の周方向に沿った位置規制が行われる。これらにより、ボールBは、軸心Xに沿う方向の移動と周方向に沿う方向の移動とが略規制される。このためアウタレース3は、原則としてボールBが軸心Xに対して径方向外側に移動するのを規制するだけで良い。
【0048】
ただし、本構成のように、環状溝31によって、径方向外側への移動規制に加え、軸心Xに沿う方向の一方側だけでも規制することでボールBの位置が更に安定化する。これにより、複数段に形成されたボールBを一つの環状溝31で保持する簡便な構造としながら、ガタつきなく円滑駆動が可能なボールねじSを得ることができる。
【0049】
尚、環状溝31のうち軸心Xの方向に沿った端部の断面形状は、円弧状面の他に、例えば台形とするものでもよい。この場合、環状溝31の両端部は円錐面となる。
【0050】
(軸受)
図2および図3に示すように、アウタレース3の内面とボールホルダ2の外面との間には軸受4を設けることもできる。軸受4は例えば低摩擦係数を備える材料を用いて筒状に形成し、アウタレース3およびボールホルダ2の少なくとも何れか一方と摺動する状態に配置する。
【0051】
このような軸受4を設けることで、アウタレース3を固定しボールホルダ2を駆動回転させる際に両者間の回転抵抗およびガタつきが低減され、高品質なボールねじSを得ることができる。
【0052】
軸受4の素材としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)やポリアセタール(POM)、ポリアミド(PA)、ポリオレフィン系の樹脂材料等を用いることができる。また、各種の金属材料の表面に二硫化モリブデンやPTFEのコーティングを施したものを用いることもできる。
【0053】
尚、軸受4を設けることは、アウタレース3を他物に固定しない状態で、ボールホルダ2を回転駆動しスクリュ1をスラスト移動させる場合にも有効である。例えば、ボールホルダ2を回転駆動すると、ボールBがスクリュ溝11との当接によって転動する。このとき、ボールBはアウタレース3の環状溝31に対しても相対回転する。ただし、ボールBがスクリュ溝11の螺旋方向に沿って転がる方向と、アウタレース3の回転方向とが異なるため、ボールBと環状溝31との間には必ず滑りが生じる。そこで本構成のごとく軸受4を設けてアウタレース3の回転を円滑化することでボールBの転動に際してアウタレース3が適宜回転し、ボールBとアウタレース3の滑りを最小限にとどめることができる。これにより、ボールBの回転抵抗がより低減し、ボールねじSの回転動作をさらに円滑化することができる。
【0054】
以上のとおり、本第1実施形態のボールねじSは、ボールホルダ2やアウタレース3の形状を工夫してボールBに複数の機能を持たせるものであり、その結果、全体の部品点数を削減し、コンパクトで安価なボールねじSを得ることができる。
【0055】
〔第2の実施形態〕
図4に示すように、環状溝31の内面のうち、第1段目のボールB1が転動する領域と、第2段目のボールB2が転動する領域との間に、周方向に沿って連続する長尺状の突起32を設けておいても良い。この突起32は、第1段目のボールB1および第2段目のボールB2の少なくとも何れか一方に当接してボールBの転動を案内することができる。
【0056】
第1段目のボールB1および第2段目のボールB2は、スクリュ1のスクリュ溝11とボールホルダ2の孔部22に対して同時に嵌合しているから、原則として軸心Xに沿ったガタつきは少ない。ただし、スクリュ溝11とボールBの間や孔部22とボールBの間には若干の隙間が存在するためボールBの一定量の変位は避けられない。しかも、アウタレース3の環状溝31は、第1段目のボールB1および第2段目のボールB2の何れに対しても、軸心Xの方向に沿った一方側からのみ当接するよう構成されているから、夫々のボールBが当接箇所と反対方向に移動する可能性がある。
【0057】
そこで、本構成のように環状溝31の内面に長尺状の突起32を設けることで、ボールBが軸心X方向に沿って移動するのをより低減することができる。これにより、ガタつきが少なく動作が円滑なボールねじSを得ることができる。
【0058】
尚、ボールBの設置段数が三段以上であるときは、第1段目のボールB1と第2段目のボールB2との間に他段分のボールBを配置すると良い。
【0059】
例えば、スクリュ1の直径が大きく多条数のスクリュ溝11を持つ場合には、ボールBの直径に応じてスクリュ1の周りに配置するボールBの数を増やすことができる。その場合に、周方向に隣接するボールBどうしの干渉を避けるためにはボールBの配置態様を3段以上にすることもできる。
【0060】
ただし、第1段目と第2段目の間に位置する他段のボールBは、トラック状の孔部22の内部において軸心Xの方向に沿った両端部の内面に当接することはなく、当該方向での位置保持機能が希薄となり易い。特にこのような場合に、環状溝31に段数分の突起32を設けることで、ボールBの位置規制効果を高めることができる。
【0061】
〔第3の実施形態〕
図5に示すように、ボールホルダ2の孔部22は、第1段目を構成するボールB1および第2段目を構成するボールB2の夫々に対応した円形に形成することもできる。
【0062】
この場合、第1段目のボールB1を保持する円形の孔部221と、第2段目のボールB2を保持する円形の孔部222とを、軸心Xに沿う方向において夫々異なる位置に形成する必要がある。このため、ボールホルダ2に対する孔開け加工がやや煩雑となる。ただし、夫々のボールBは、孔部22に嵌合された状態で軸心Xに沿う方向への遊びが少なくなる。よって、ボールBがより確実に保持されることとなり、ガタつきの少ないボールねじSを得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明のボールねじは、非循環型のボールねじとして広く用いることができる。
【符号の説明】
【0064】
1 スクリュ
11 スクリュ溝
2 ボールホルダ
21 壁部
22 孔部
3 アウタレース
31 環状溝
32 突起
4 軸受
B ボール
B1 1段目のボール
B2 2段目のボール
S ボールねじ
X 軸心
図1
図2
図3
図4
図5