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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-07
(45)【発行日】2024-11-15
(54)【発明の名称】ボールねじ
(51)【国際特許分類】
   F16H 25/22 20060101AFI20241108BHJP
   F16H 25/24 20060101ALI20241108BHJP
【FI】
F16H25/22 G
F16H25/24 B
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021027345
(22)【出願日】2021-02-24
(65)【公開番号】P2022128887
(43)【公開日】2022-09-05
【審査請求日】2023-12-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】100114959
【弁理士】
【氏名又は名称】山▲崎▼ 徹也
(72)【発明者】
【氏名】加藤 健
【審査官】畔津 圭介
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-315584(JP,A)
【文献】特開昭58-109757(JP,A)
【文献】特開2010-121663(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 25/22
F16H 25/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の壁部を有し、前記壁部を貫通する複数の孔部が、前記壁部の軸心に対する周方向に沿って配置されたボールホルダと、
前記壁部に外挿固定されて前記ボールホルダと一体回転可能であり、前記ボールホルダの前記孔部に対向する筒状内面を有するスリーブと、
前記ボールホルダに内挿されて外面に少なくとも一条のスクリュ溝を有し、前記ボールホルダと相対回転するスクリュと、
前記ボールホルダの前記壁部の外面および内面から突出する状態で前記孔部に包持され、前記筒状内面および前記スクリュ溝に嵌合するボールと、
前記スリーブの外面に軸受部を介して前記スリーブと相対回転可能に取り付けられたアウタレースと、を備え、
前記ボールが、前記軸心の周方向に沿って少なくとも一つ配置された第1段目を構成するボールと、前記第1段目のボールとは前記軸心の方向に沿った異なる位置において第2段目を構成するよう前記軸心の周方向に沿って少なくとも一つ配置されたボールと、を備え、
前記スリーブの前記筒状内面のうち前記孔部に対向する部位に、前記軸心に沿う方向に延出する直線溝が形成してあり、
前記孔部が、前記第1段目を構成するボール、および、前記第2段目を構成するボールの何れも保持できるよう、前記軸心の周方向に沿う幅が前記ボールの直径と略等しく設定され、前記軸心の延出方向に沿う長さが、前記軸心を中心とした前記第1段目のボールの回転軌跡および前記第2段目のボールの回転軌跡を合体させた軌跡について前記軸心に沿う長さに設定されているボールねじ。
【請求項2】
前記直線溝の前記軸心に垂直な断面形状が、前記ボールの輪郭とほぼ等しい円弧状である請求項1に記載のボールねじ。
【請求項3】
前記直線溝が、前記軸心に沿う方向に沿って前記スリーブの全長に亘って形成してある請求項1または2に記載のボールねじ。
【請求項4】
前記ボールホルダの外周面のうち前記孔部が環状に形成配置された領域の全てを前記スリーブの前記筒状内面に対して非接触な状態としつつ、前記ボールホルダと前記スリーブとが互いに嵌合するよう、前記スリーブの前記筒状内面および前記ボールホルダの外面のうち少なくとも何れか一方に凸部が設けられている請求項1から3の何れか一項に記載のボールねじ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転支持されるスクリュと、スクリュに嵌合するボールと、ボールを保持すべくスクリュに外挿されるボールホルダと、さらにボールホルダに外挿されるスリーブとを備えた非循環型のボールねじに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、このようなボールねじとしては、例えば特許文献1に示すものがある(〔0005〕~〔0007〕段落、〔0034〕~〔0038〕段落および図1参照)。
【0003】
この技術は非循環式のボールねじに関するものであり、リードスクリュの螺旋状のリード溝に嵌合するボールと、ボールを転動可能に保持する保持孔を備えた筒状の保持体と、軸心方向に位置が拘束されない態様で保持体の外周面に装着され、ボールが嵌合する単一の保持溝を有するスリーブと、を備えている。
【0004】
このうちの保持体に、軸心方向の互いに異なる位置に第1の保持孔と第2の保持孔が形成されている。また、スリーブとしては、第1の保持孔に保持されたボールに嵌合する保持溝を備えた第1のスリーブと、第2の保持孔に保持されたボールに嵌合する保持溝を備えた第2のスリーブとを備えている。これら第1のスリーブおよび第2のスリーブは軸心方向に沿って互いの位置が拘束されない状態に設けられている。
【0005】
本構成では、第1のスリーブおよび第2のスリーブは、保持溝とこれに対応するボールとの嵌合作用のみで軸心方向及び半径方向に位置決めされる。つまり、保持溝とボールとの嵌合作用によって第1のスリーブおよび第2のスリーブの夫々は保持体に対して自動的に位置決めされる。
【0006】
この構成により、当該ボールねじでは、スリーブが保持体に固定される際に、スリーブの保持溝の位置と、保持体の保持孔との位置が軸方向にズレることがなく、ボールが上手く転がらずに保持溝や保持孔と摺動接触することが防止される。その結果、ボールねじの耐久性や動作精度が向上するというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2016-211606号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上記従来のボールねじでは、二つのスリーブどうしが軸心方向に沿って独立に移動可能である。ただし、本構成を採用する結果、二つのスリーブどうしは軸心に対する直交方向においても互いに独立した移動が可能となる。
【0009】
このため、スクリュに対して軸心と直角方向からの外力が作用した場合に、双方のスリーブの支持機能に差が生じる恐れがある。場合によっては、片側のスリーブしか軸支機能を発揮することができずスクリュの姿勢安定性が損なわれる。
【0010】
また、スリーブが軸心方向に沿って少なくとも二つ設けられることで、軸心方向の製品寸法が大きくなり搭載性が損なわれる。部品点数も増えるため製造に際しての部品管理や製造手間が増え、製造コストも増大する。
【0011】
このような実情に鑑み、従来から、スクリュの回転・支持機能に優れ、部品点数が少なくコンパクトで安価なボールねじが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(特徴構成)
本発明に係るボールねじの特徴構成は、
筒状の壁部を有し、前記壁部を貫通する複数の孔部が、前記壁部の軸心に対する周方向に沿って配置されたボールホルダと、
前記壁部に外挿固定されて前記ボールホルダと一体回転可能であり、前記ボールホルダの前記孔部に対向する筒状内面を有するスリーブと、
前記ボールホルダに内挿されて外面に少なくとも一条のスクリュ溝を有し、前記ボールホルダと相対回転するスクリュと、
前記ボールホルダの前記壁部の外面および内面から突出する状態で前記孔部に包持され、前記筒状内面および前記スクリュ溝に嵌合するボールと、
前記スリーブの外面に軸受部を介して前記スリーブと相対回転可能に取り付けられたアウタレースと、を備え、
前記ボールが、前記軸心の周方向に沿って少なくとも一つ配置された第1段目を構成するボールと、前記第1段目のボールとは前記軸心の方向に沿った異なる位置において第2段目を構成するよう前記軸心の周方向に沿って少なくとも一つ配置されたボールと、を備え、
前記スリーブの前記筒状内面のうち前記孔部に対向する部位に、前記軸心に沿う方向に延出する直線溝が形成してあり、
前記孔部が、前記第1段目を構成するボール、および、前記第2段目を構成するボールの何れも保持できるよう、前記軸心の周方向に沿う幅が前記ボールの直径と略等しく設定され、前記軸心の延出方向に沿う長さが、前記軸心を中心とした前記第1段目のボールの回転軌跡および前記第2段目のボールの回転軌跡を合体させた軌跡について前記軸心に沿う長さに設定されている点にある。
【0013】
(作用)
本構成のボールねじでは、スクリュとボールホルダが相対回転するようボールがボールホルダの孔部に包持されつつスクリュのスクリュ溝に嵌合し、このボールがボールホルダの外側に配置されたスリーブによって位置規制される。これにより、ボールが嵌合したボールホルダおよびスリーブが一体回転する状態となりスクリュが回転可能に保持される。
【0014】
本構成のボールは、軸心の方向に沿って異なる位置に配置された第1段目のボールと第2段目のボールを備えており、スクリュの周囲にできるだけ多くのボールを配置してスクリュの確実な保持および円滑な回転動作を得るようにしてある。
【0015】
本構成のボールはスクリュ溝と孔部とスリーブとで位置規制されるが、このうちスリーブは主にボールが径外方向に移動することを規制するものである。つまり、孔部によってボールの周方向の位置が規制され、ボールがスクリュ溝に対して確実に嵌合する状態となれば、ボールねじの機能が担保される。そのため、本構成では複数段に形成されたボールを軸心方向に沿う一つの直線溝で保持できるようスリーブを構成している。
【0016】
当該直線溝は、孔部に包持された第1段目のボールおよび第2段目のボールの何れとも嵌合することができ、夫々の直線溝の形状は同じもので良い。よって、スリーブの構成を簡略化することができ、安価なボールねじを得ることができる。
本構成では、ボールが第1段目および第2段目に配置され、より多くのボールをスリーブとスクリュとの間に設けている。これによりスクリュがスリーブの多点で支持され、双方における応力集中の発生を緩和してスクリュの回転を円滑化することができる。
本構成のボールホルダは、これら配置位置の異なるボールを保持できるよう孔部の形状を周方向に沿った寸法と軸心に沿った寸法とを異なるものとし、この孔を周方向に沿って配置してある。本構成では、例えば第1段目のボールは軸心の延出方向に沿って孔部の一方側に保持され、第2段目のボールは他方側に保持される。ボールを保持してもスクリュ溝および直線溝によってボールの位置が規制されるため、ボールが孔部の内部で軸心に沿って移動することは少ない。
このように、本構成のボールねじは孔部の形状を全て長孔状の同じものにしながら、複数段のボールを位置保持することができる。さらに、ボールホルダの構造が簡略化され製造コストや部品管理コストが削減される。
【0017】
(特徴構成)
本発明に係るボールねじは、前記直線溝の前記軸心に垂直な断面形状を前記ボールの輪郭とほぼ等しい円弧状に構成することができる。
【0018】
(作用)
本構成であれば、ボールと直線溝とが略線接触する。つまり、スクリュからの外力を受けたボールが直線溝に押し付けられるときにボールとスリーブとが点接触ではなく線接触するから、両者の局部における応力集中の発生が阻止できる。その結果、ボールの回転が円滑となるうえ、特にスリーブを薄い肉厚の筒状部材で構成した場合でもスリーブの変形が軽減される。よって、スリーブおよびボールねじの全体をコンパクトに構成することができる。
【0019】
(特徴構成)
本発明に係るボールねじは、前記直線溝が前記軸心に沿う状態で前記スリーブの全長に亘って形成されていると好都合である。
【0020】
(作用)
本構成であれば、第1段目および第2段目のボールに対して、軸心に沿った方向におけるスリーブの位置決めの自由度が高まる。よって、種々の設置個所に対応したボールねじの設計が容易となる。
【0021】
また、例えば直線溝をスリーブに加工する際の加工始点あるいは加工終点を決定する必要がなくスリーブの製造自体が極めて容易となり、ボールねじのコスト削減に寄与することができる。
【0022】
【0023】
【0024】
【0025】
【0026】
(特徴構成)
本発明に係るボールねじは、前記ボールホルダの外周面のうち前記孔部が環状に形成配置された領域の全てを前記スリーブの前記筒状内面に対して非接触な状態としつつ、前記ボールホルダと前記スリーブとが互いに嵌合するよう、前記スリーブの前記筒状内面および前記ボールホルダの外面のうち少なくとも何れか一方に凸部を設けておくことができる。
【0027】
(作用)
本構成の凸部を設けることで、ボールホルダとスリーブとの圧入位置が規定される一方、両者の非接触な領域が特定される。これにより、スリーブのうち、ボールホルダの孔部が対向する部位では圧入の影響を受けることがなく、スリーブの直線溝の変形が阻止される。よって、ボールとスリーブとの略線接触状態が確実に担保され、スクリュの円滑な回転動作が維持されることとなる。
【0028】
一方、ボールホルダとスリーブは、凸部によって圧接されて略一体となる。よって、ボールホルダおよびスリーブが回転する際に特に両者が回転方向に沿って相対回転することが防止され、直線溝と孔部とによるボールへのせん断力の作用が阻止される。この結果、ボールの回転が円滑に維持されるボールねじを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】第1実施形態に係るボールねじの外観を示す斜視図
図2】第1実施形態に係るボールねじの構成を示す分解斜視図
図3】第1実施形態に係るボールねじの構造を示す断面図
図4】第2実施形態に係るスリーブの固定態様を示す斜視図
図5】第2実施形態に係るスリーブの固定方法を示す断面図
図6】スリーブの固定態様を示す断面図
図7】第3実施形態に係るボールホルダの構造を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0030】
(概要)
本発明に係るボールねじSは、スクリュ1とスリーブ3との間に装填されるボールBの保持構造を工夫することで、非循環型のボールねじSを合理的に構成するものである。以下、各図を参照しつつ本発明のボールねじSについての各実施形態を説明する。
【0031】
〔第1の実施形態〕
本発明の第1実施形態に係るボールねじSの例を図1乃至図3に示す。これらの図に示すように、当該ボールねじSは、回転支持されるスクリュ1と、当該スクリュ1に外挿されるボールホルダ2、さらに、当該ボールホルダ2に外挿されるスリーブ3と、これら三者に保持される複数のボールB(ボールB1,ボールB2)を備えている。スリーブ3の外側には、スリーブ3と相対回転可能なアウタレース4が複数の第3ボールB3を介して設けられている。
【0032】
スクリュ1は、少なくとも一条のスクリュ溝11を有する。本実施形態では、四条のスクリュ溝11を備えた例を示している。
【0033】
ボールホルダ2は、軸心Xの周りに形成された筒状の壁部21を有し、スクリュ1に対して相対回転可能な状態で外挿される。壁部21には、壁部21を貫通する複数の孔部22が軸心Xに対する周方向に沿って配置されている。この孔部22の夫々にはボールBが一個配置される。壁部21の厚みはボールBの直径よりも小さく、ボールBはその一部が壁部21の内面および外面から突出する状態に保持される。
【0034】
ボールホルダ2の外側には筒状のスリーブ3が外挿される。スリーブ3とボールホルダ2とは相対回転不能である。よって、スクリュ1に対してはスリーブ3とボールホルダ2は一体的に相対回転する。スリーブ3の筒状内面のうち孔部22に対向する位置には軸心Xの方向に沿う直線溝31が形成してある。
【0035】
スリーブ3の外周面には環状溝32が設けられ、複数の第3ボールB3を周方向に沿って配置してある。これにより軸受部Kが構成され、アウタレース4がスリーブ3に回転自在に保持される。アウタレース4の外周面は、例えば車両の各種部位に固定可能である。尚、軸受部Kの構成としては単なる筒状のカラー部材を用いるものなど任意の構成を採り得る。
【0036】
以上の構成により、ボールホルダ2の孔部22に保持されたボールBがその内側にあるスクリュ1のスクリュ溝11に嵌合されると共に、外側にあるスリーブ3の直線溝31に嵌合して位置保持される。これにより、アウタレース4を各種装置の一部に固定し、ボールホルダ2を回転させることで当該装置に対してスクリュ1を直線運動させることができる。
【0037】
(ボールの配置)
図2および図3に示すように、ボールBは軸心Xの周方向に沿って複数配置される。ここでは、周方向に配置されるボールBが一段分のボール群を構成するものとし、軸心Xに沿う方向の異なる位置にボールBを二段に配置してある。本実施形態では、図中左側のものを第1段目のボールB1とし、右側のものを第2段目のボールB2とする。このように多段構成とすることでスクリュ1とスリーブ3の間により多くのボールBを配置することができる。よって、スクリュ1がスリーブ3の多点で支持され、双方における応力集中の発生を緩和してスクリュ1の回転が円滑化される。
【0038】
図3(a)(b)に示すように、本実施形態では第1段目のボールB1および第2段目のボールB2が夫々四つで構成される。各段のボールB1,B2は、四条のスクリュ溝11の夫々に嵌合している。ボールBの配置位置はスクリュ1の形状とボールBの設置段数によって決定される。具体的には、第1段目のボール位置と第2段目のボール位置との距離Dは以下の式で決定される。
D=L/(N×M)
ここで、L:スクリュリード、 N:スクリュの条数、 M:段数 である。
【0039】
尚、各段においてはボールBを少なくとも一つ配置すればよい。スクリュ溝11が一条の場合には、各段に配置できるボールBは必然的に一つとなる。ただしその場合には、軸心Xに沿って多段にボールBを配置し、しかも、各段に配置するボールBを周方向に適度に分散させることでスクリュ1の保持が安定する。しかしながら、本実施形態のように、スクリュ1に複数条のスクリュ溝11を構成しておき、一段に含まれる複数のボールBが完全に周方向に配置されるものであればスクリュ1の保持安定がより向上する。
【0040】
本実施形態のボールねじSでは、これら複数段のボールBを効率的に保持するため、ボールホルダ2の孔部22の形状と、スリーブ3の直線溝31の形状に工夫がある。
【0041】
(孔部の形状)
図2および図3に示すように、本構成のボールホルダ2には、軸心Xに沿ったトラック形状を有する孔部22が周方向に分散配置されている。この孔部22につき、軸心Xの周方向に沿う幅はボールBの直径と略等しい。一方、軸心Xの延出方向に沿う長さは、軸心Xの周りの第1段目のボールB1の回転軌跡および第2段目のボールB2の回転軌跡を合体させた軌跡について軸心Xに沿う長さと同じに設定されている。
【0042】
この孔部22において、第1段目のボールB1は、孔部22の一方側の端部に略当接する状態で保持される。一方、第2段目に含まれるボールB2は、孔部22の他方側の端部に略当接する状態で保持される。各ボールBはスクリュ溝11に嵌合しているから、孔部22における一方の端部に常に位置規制される。
【0043】
周方向に沿って同じ形状の孔部22を設けるためには、図2に示すように、各孔部22が周方向に沿って互いに分離するようにボールBの直径やスクリュ1のサイズを適宜設定する。
【0044】
このように、本構成のボールねじSは、孔部22の形状を全て長孔状の同じものにしながら、複数段のボールBを位置保持することができる。また、ボールホルダ2の構造が簡略化され、製造コストや部品管理コストが削減される。
【0045】
(直線溝の形状)
ボールBの具体的な位置規制については、先ずボールBがスクリュ1のスクリュ溝11に嵌合されることで、ボールBの移動方向はスクリュ溝11に沿った方向に規制される。また、ボールBはボールホルダ2の孔部22に挿入されているため、ここでボールホルダ2の周方向に沿った位置規制が行われる。これらにより、ボールBは、軸心Xに沿う方向の移動と周方向に沿う方向の移動とが略規制される。さらに、ボールホルダ2の外側に配置したスリーブ3によって、ボールBが軸心Xに対して径方向外側に移動するのが規制される。これらにより、ボールねじSにおけるボールBの位置が決定される。
【0046】
図2および図3に示すように、本構成では、この径外方向外側へのボールBの移動を阻止すべく、軸心Xの方向に沿った形状の直線溝31をスリーブ3の筒状内面に形成してある。この直線溝31は、ボールホルダ2の夫々の孔部22に対向するように同じ形状のものが周方向に沿って形成されている。本実施形態では八つである。つまり、第1段目のボールB1および第2段目のボールB2の何れもが直線溝31に対して相対回転可能に嵌合する。
【0047】
このように夫々の直線溝31の形状を単一形状とすることで、スリーブ3の構造が簡略され、製造工数も効率化することができる。また、組付けに際してもボールホルダ2に対するスリーブ3の回転位相の決定が簡単なものとなり、ボールねじSを合理的に構成することができる。
【0048】
図2および図3(b)には、直線溝31の面形状を示す。本実施形態では、軸心に垂直な断面形状をボールBの輪郭とほぼ等しい円弧状にしてある。
【0049】
円弧状であれば、ボールBと直線溝31とが略線接触する。つまり、スクリュ1からの外力を受けたボールBが直線溝31に押し付けられるときに、ボールBと直線溝31とが点接触ではなく線接触することで、両者の局部における応力集中の発生が阻止できる。その結果、ボールBの回転が円滑となる。特に、スリーブ3を薄い肉厚の筒状部材で構成した場合でもスリーブ3の変形が軽減される。よって、スリーブ3およびボールねじSの全体をコンパクトに構成することができる。
【0050】
また図2に示すように、直線溝31は軸心に沿う状態でスリーブ3の全長に亘って形成しておくと良い。
【0051】
本構成であれば、第1段目のボールB1および第2段目のボールB2に対して、軸心Xに沿った方向におけるスリーブ3の位置決めの自由度が高まる。よって、種々の設置個所に対応したボールねじSの設計が容易となる。
【0052】
また、例えば直線溝31をスリーブ3に加工する際の加工始点あるいは加工終点を決定する必要がなく、スリーブ3の製造自体が極めて容易となり、ボールねじSのコスト削減に寄与することができる。
【0053】
(スリーブの固定構造)
図2および図3に示すように、スリーブ3はボールホルダ2の外面に固定される。本実施形態では、両者は互いに挿入されるだけであり、ボールBによる位置規制を考えない場合には軸心Xに対する周方向に沿って相対回転するものであっても良い。スリーブ3とボールホルダ2が相対回転可能であっても、ボールBを保持しつつ装着された状態ではスリーブ3の相対回転角度は僅かとなる。
【0054】
また、これとは別に、スリーブ3とボールホルダ2が互いに嵌合されていても良い。その場合には、例えばスリーブ3の筒状内面のうち直線溝31の領域を除いた領域が軸心Xに沿った長尺状の嵌合面33となる。スリーブ3の圧入に際しては、当該嵌合面33とボールホルダ2の孔部22との相対位置に注意する。
【0055】
尚、ボールホルダ2の内部にスクリュ1を挿通し、夫々の孔部22にボールBを配置しておけば、スリーブ3の直線溝31によって両者の相対回転位相の決定が容易となり、スリーブ3の軸心合わせも容易となる。このときグリス等をボールBに塗布しておけば、孔部22に対するボールBの仮止めが容易となる。また、スリーブ3の端部あるいはボールホルダ2の端部に傾斜面Fを設けておくと両者の圧入開始作業が容易となる。
【0056】
嵌合構造であれば、スリーブ3をボールホルダ2に圧入したのち、スリーブ3を周方向に沿った何れかの方向に相対回転させることで、ボールBを孔部22の一方の壁に押し付けることができる。これにより、仮に孔部22とボールBの間に隙間が存在する場合でも、ボールBの遊びが解消され、ガタつきの少ないボールねじSを得ることができる。
【0057】
ボールホルダ2およびスリーブ3の素材としては、例えば、各種の金属を用いることができる。また、ボールBとの接触に際して所定の強度を有する各種樹脂材料を用いることもできる。金属を用いる場合には、表面の硬度や滑り性を改善するために、二硫化モリブデンやPTFEのコーティングを施すことができる。また、樹脂材料を用いる場合には、強度や滑り性を考慮してポリテトラフルオロエチレン(PTFE)やポリアセタール(POM)、ポリアミド(PA)、ポリオレフィン系の樹脂材料等を用いることができる。
【0058】
以上のとおり、本第1実施形態のボールねじSは、ボールホルダ2やスリーブ3の形状を工夫してボールBの保持構造を簡略化するものである。しかしながら、当該ボールねじSは全体の部品点数を削減しながらも円滑な回転が可能であり、軸心Xに交差する方向からの外力に対して十分な強度を備え、コンパクトで安価なボールねじSを得ることができる。
【0059】
〔第2の実施形態〕
【0060】
図4乃至図6には、スリーブ3をボールホルダ2に嵌合固定する別の実施形態を示す。これらは、スリーブ3の筒状内面のうちの一部がボールホルダ2の外面と嵌合する例である。
【0061】
具体的には、当該嵌合に供する位置は、ボールホルダ2の外周面のうち孔部22が周方向に沿って環状に形成配置された領域とは異なる位置に設定する。図4に網掛け領域で示すように、両者の嵌合位置は孔部22の形成領域よりも軸心Xに沿った中央側に設けてある。
【0062】
一方のスリーブ3の内面には、軸心Xに沿う中央部に凸部34を設けておく。本実施形態では、この凸部34は周方向に沿って八つ設けられる。
【0063】
このような凸部34を設けることで、ボールホルダ2とスリーブ3とが嵌合して両者が確実に位置固定される。一方、ボールホルダ2の孔部22の周辺領域はスリーブ3と当接しない。よって、スリーブ3の直線溝31がボールホルダ2からの外力の影響で変形することがなく、ボールBとスリーブ3との略線接触状態が確実に担保される。この結果、スクリュ1の円滑な回転動作が維持される。
【0064】
また、ボールホルダ2とスリーブ3とが略一体となることで、ボールホルダ2およびスリーブ3が回転する際に、両者が回転方向に沿って相対回転することが防止される。そのため、直線溝31と孔部22とによるボールBへのせん断力の作用が阻止され、これによってもボールBの回転が円滑に維持される。
【0065】
図5に示すように、嵌合に際しては、ボールホルダ2の内部に治具5を挿入しておいても良い。スリーブ3は、治具5と反対側から圧入する。その際に、スリーブ3の凸部34が、ボールホルダ2の孔部22どうしの間に位置するようにスリーブ3の回転位相を合せておく。このとき、孔部22にボールBを配置しておけば、上記の如くスリーブ3の圧入が容易となる。また、凸部34の端部およびボールホルダ2の端部のうち少なくとも何れか一方に傾斜面Fを構成しておくとスリーブ3の圧入が容易となる。
【0066】
図6には、スリーブ3の二種類の嵌合態様を示している。図6(a)は、図4および図5に係るスリーブ3の圧入が完了した状態を示す。
【0067】
また、図6(b)は、ボールホルダ2の外面のうち孔部22の周辺の肉厚を薄くした段部23を設けた例である。このような段部23であれば、ボールホルダ2の端部を円筒状に研削加工すれば良く極めて容易に得ることができる。
【0068】
〔第3の実施形態〕
図7には、ボールホルダ2の別実施形態を示す。ここでは、ボールホルダ2の孔部22を、第1段目を構成するボールB1および第2段目を構成するボールB2の夫々に対応した円形に形成してある。
【0069】
この場合、第1段目のボールB1を保持する円形の孔部221と、第2段目のボールB2を保持する円形の孔部222とを、軸心Xに沿う方向において夫々異なる位置に形成する必要がある。このため、ボールホルダ2に対する孔開け加工がやや煩雑となる。ただし、夫々のボールBは、孔部22に嵌合された状態で軸心Xに沿う方向への遊びが少なくなる。よって、ボールBがより確実に保持されることとなり、ガタつきの少ないボールねじSを得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明のボールねじは、非循環型のボールねじとして広く用いることができる。
【符号の説明】
【0071】
1 スクリュ
11 スクリュ溝
2 ボールホルダ
21 壁部
22 孔部
3 スリーブ
31 直線溝
34 凸部
4 アウタレース
B ボール
B1 第1段目のボール
B2 第2段目のボール
K 軸受部
S ボールねじ
X 軸心
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7