IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

<>
  • -自動ブレーキ装置 図1
  • -自動ブレーキ装置 図2
  • -自動ブレーキ装置 図3
  • -自動ブレーキ装置 図4
  • -自動ブレーキ装置 図5
  • -自動ブレーキ装置 図6
  • -自動ブレーキ装置 図7
  • -自動ブレーキ装置 図8
  • -自動ブレーキ装置 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-07
(45)【発行日】2024-11-15
(54)【発明の名称】自動ブレーキ装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 7/12 20060101AFI20241108BHJP
   B60T 8/1755 20060101ALI20241108BHJP
【FI】
B60T7/12 C
B60T8/1755 C
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2023195787
(22)【出願日】2023-11-17
(62)【分割の表示】P 2019153936の分割
【原出願日】2019-08-26
(65)【公開番号】P2024003248
(43)【公開日】2024-01-11
【審査請求日】2023-11-17
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100217076
【弁理士】
【氏名又は名称】宅間 邦俊
(74)【代理人】
【識別番号】100169018
【弁理士】
【氏名又は名称】網屋 美湖
(72)【発明者】
【氏名】西澤 浩光
【審査官】久米 伸一
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-354124(JP,A)
【文献】特開2016-101893(JP,A)
【文献】特開平11-348747(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0310480(US,A1)
【文献】国際公開第2020/255748(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 7/12
B60T 8/1755
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
進行方向前方の障害物を検知する手段と、
前記障害物との衝突が予測される場合にブレーキ要求を出す自動ブレーキ制御部と、
前記ブレーキ要求に従い自動ブレーキを作動させるブレーキアクチュエータと、
を備えた車両の自動ブレーキ装置において、
前記車両のヨーレートを検知するヨーレート検知部と、
前記車両の横傾斜を検知する傾き検知部をさらに備え、
前記ブレーキ要求による自動ブレーキの作動中に、前記ヨーレート検知部により車両の偏向が閾値以上となったことを検知した時に、前記ブレーキ要求の値が、前記偏向が前記閾値未満である場合よりも小さい値に制限され、かつ、前記障害物までの距離に応じた制限とされるように構成されており、
前記横傾斜が所定値以上である場合に、前記閾値が小さい値に変更されるように構成されていることを特徴とする自動ブレーキ装置。
【請求項2】
前記障害物までの距離が第1の所定の距離以内のときに前記制限された前記ブレーキ要求の値が増大することを特徴とする請求項1に記載の自動ブレーキ装置。
【請求項3】
前記制限された前記ブレーキ要求の値が、前記障害物までの距離の減少に応じて増大することを特徴とする請求項に記載の自動ブレーキ装置。
【請求項4】
前記障害物までの距離が前記所定の距離より小さい第2の所定の距離になったときに前記ブレーキ要求の値が最大減速度まで増大することを特徴とする請求項に記載の自動ブレーキ装置。
【請求項5】
前記所定の距離は、前記ヨーレート検知部により車両の偏向が閾値以上となったことを検知した時の車速域に応じて、低速域と比較して高速域で大きく設定されていることを特徴とする請求項またはに記載の自動ブレーキ装置。
【請求項6】
進行方向前方の障害物を検知する手段と、
前記障害物との衝突が予測される場合にブレーキ要求を出す自動ブレーキ制御部と、
前記ブレーキ要求に従い自動ブレーキを作動させるブレーキアクチュエータと、
を備えた車両の自動ブレーキ装置において、
前記車両のヨーレートを検知するヨーレート検知部をさらに備え、
前記ブレーキ要求による自動ブレーキの作動中に、前記ヨーレート検知部により車両の偏向が閾値以上となったことを検知した時に、前記ブレーキ要求の値が、前記偏向が前記閾値未満である場合よりも小さい値に制限されるように構成され、かつ、
前記ヨーレート検知部に検知されるヨーレートまたはその変化速度が大きいときは小さいときと比較して前記閾値が小さくなるように構成されていることを特徴とする自動ブレーキ装置。
【請求項7】
前記ブレーキ要求の値は前記障害物との距離に応じた制限とされるように構成されていることを特徴とする請求項6に記載の自動ブレーキ装置
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動ブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両前方の障害物や先行車との衝突が予測される場合にその被害を軽減させる自動ブレーキ(AEB、自動緊急ブレーキ)が実用化されている。特許文献1には、自動ブレーキの作動時に前輪側と後輪側の制動力配分を変更することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-62273号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、このような自動ブレーキは、昇圧ブレーキによって強い制動がかかるので、例えば、軽トラックなど車体重量の小さい車両で左右の偏荷重傾向があれば、通常走行に支障が無い軽微な偏荷重傾向であっても、自動ブレーキ作動時に偏向を生じ、車両の挙動が不安定になり、所望の制動効果が得られない虞がある。
【0005】
本発明は、上記のような実状に鑑みてなされたものであり、その目的は、左右の偏荷重傾向がある場合における車両の偏向を抑制し、制動効果を確保するうえで有利な自動ブレーキ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は、
進行方向前方の障害物を検知する手段と、
前記障害物との衝突が予測される場合にブレーキ要求を出す自動ブレーキ制御部と、
前記ブレーキ要求に従い自動ブレーキを作動させるブレーキアクチュエータと、
を備えた車両の自動ブレーキ装置において、
前記車両のヨーレートを検知するヨーレート検知部をさらに備え、
前記ブレーキ要求による自動ブレーキの作動中に、前記ヨーレート検知部により車両の偏向が閾値以上となったことを検知した時に、前記ブレーキ要求の値が、前記偏向が前記閾値未満である場合よりも小さい値に制限され、かつ、前記障害物までの距離に応じた制限とされるように構成されていることを特徴とする自動ブレーキ装置にある。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、自動ブレーキの作動中に車両の偏向が閾値以上となった場合に、ブレーキ要求の値が小さい値に制限され、かつ、前記障害物までの距離に応じて制動力が制限されることで、車両の偏向(回転モーメント)が抑制されるので、車両姿勢が維持されることによる制動効果によって、総合的な緊急ブレーキ性能を確保するうえで有利である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明実施形態に係るシステムを備えた車両を示すブロック図である。
図2】本発明実施形態に係るブレーキ要求値の制御マップである。
図3】本発明実施形態の制御適用前後のブレーキ要求値の制御マップである。
図4】ヨーレート変化速度に基づくヨーレート閾値の制御マップである。
図5】進路偏向量に基づくヨーレート閾値の制御マップである。
図6】本発明第1実施形態に係る制御を示すフローチャートである。
図7】本発明第2実施形態に係る制御を示すフローチャートである。
図8】本発明第3実施形態に係る制御を示すフローチャートである。
図9】本発明第4実施形態に係る制御を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1において、車両1は、左右前車輪3のブレーキ33および左右後車輪4のブレーキ44の制動力を個別に制御可能なブレーキ制御部20(ブレーキコントローラ(ECU)およびブレーキアクチュエータ(油圧アクチュエータ))、操舵角センサ21、ヨーレート検知部22、左右前車輪3の車輪速センサ23、および、左右後車輪4の車輪速センサ24を含んでABS/車両挙動安定化装置を構成するブレーキシステムを備えている。
【0010】
自動ブレーキ装置は、上記のようなブレーキシステムをベースに、AEB制御部10(AEBコントローラ)と、前方カメラ11または不図示のミリ波レーダからなる前方検知手段(AEBセンサ)を追加することにより構成される。
【0011】
前方カメラ11として、自車前方の先行車との車間距離を測定する機能を有するステレオカメラを用いる場合はミリ波レーダを省略することもできる。また、先行車および障害物の検知を行う単眼カメラと、車間距離の測定を行うミリ波レーダとで前方検知手段(AEBセンサ)を構成することもできる。
【0012】
すなわち、前方カメラ11(ステレオカメラ)またはミリ波レーダの何れかまたは両方によって、自車前方の先行車との車間距離を測定する測距手段が構成される。測距手段による車間距離の測定は所定のタイムレートで動的に実行され、単位時間当たりの車間距離変化として、自車に対する先行車の相対速度が求められる。この相対速度と車間距離から、車間距離を相対速度で除した値として衝突予測時間(TTC)が求められる。
【0013】
AEB制御部10(AEBコントローラ)は、前方検知手段(AEBセンサ)、ブレーキ制御部20(ブレーキアクチュエータ)とともに自動ブレーキシステム(AEBS)を構成する制御装置(ECU)であり、制御プログラムや設定データなどを格納するROM、制御プログラムや設定データを読出し、動的データや演算処理結果を記憶するRAM、演算処理を行うCPU、および、通信I/Fなどを備えたマイコン(MCU)と入出力回路などで構成されており、AEBセンサの検知情報に基づいてブレーキアクチュエータを制御する。
【0014】
具体的に、AEB制御部10は、AEBセンサ(前方カメラ11、ミリ波レーダ)に検知される先行車(または障害物)の情報(車間距離、相対速度)と、自車の車両情報(車速)に基づいて衝突予測時間(TTC)を算出し、衝突予測時間が所定値以下の場合など、衝突可能性が高いと判定される場合に、ブレーキ制御部20(ブレーキアクチュエータ、油圧アクチュエータ)にブレーキ要求を出し、各車輪のブレーキ装置を作動させて自動ブレーキ(自動緊急ブレーキ)を実行する。なお、AEB制御部10は、別体のコントローラではなく、AEBセンサ(前方カメラ11)に実装されても良い。
【0015】
ところで、冒頭部分で言及したように、軽トラックなど車体重量の小さい車両では、大型の貨物車両に比べて荷物の重量が相対的に大きくなり、荷物自体の重量不均衡や、荷台への荷物の積載位置により左右の重量不均衡(偏荷重傾向)があると、通常走行に支障が無い軽微な偏荷重傾向であっても、自動ブレーキ作動時に、昇圧ブレーキによって強い制動が作用すると、偏荷重傾向に起因して上下軸(ヨー軸)周りの偏向を生じ、車両の挙動が不安定になり、所望の制動効果が得られない虞がある。
【0016】
そこで、本発明に係る自動ブレーキ装置では、ヨーレート検知部22(および操舵センサ21)の検出情報をAEB制御部10に取得し、車両の偏向量(偏向速さ)が設定閾値以上となったことを検知した場合に、AEB制御部10からブレーキ制御部20に出されるブレーキ要求値(制御マップ)が、偏向抑制に有利な値に変更されるように構成されている。
【0017】
ブレーキ要求値の制御マップ変更としては、(i)特性が異なる制御マップが設定される形態、(ii)最大要求減速度が制限される形態、および、それらの複合的な形態がある。さらに、車両の偏向検知に進路検知部12および傾き検知部13での画像処理を併用する形態(第3実施形態)があるが、これらについては後述する。
【0018】
(第1実施形態)
図2は、自動ブレーキ作動中に偏向が検出された場合に設定されるブレーキ要求値(減速度)の制御マップを示している。この例では、最大減速度Gxが、偏向検出前の最大減速度(図3に示すGx′、例えば1G)の60~70%に制限されるとともに、障害物までの距離Xと車速Vに応じてブレーキ要求値(減速度)が、偏向検出前の最大減速度の30%付近までさらに制限された偏向検出後の制御開始減速度Gnから最大減速度Gxまでの範囲(Gx′の30~70%の範囲)で動的に設定される。
【0019】
さらに、図2において、V1は低速走行時、V2は相対的に中速走行時、V3は相対的に高速走行時におけるブレーキ要求値(減速度)を示しており、例えば、V1=30km/h、V2=40km/h、V3=50km/h、障害物までの距離Xは、例えば、X1=5m、X2=7m、X3=10m、X4=15mであり、横軸は線形目盛ではなく対数目盛になっている。
【0020】
図2の制御マップによれば、例えば、図中実線で示される低速V1(30km/h)の場合、障害物までの距離X=X2(7m)までは減速度Gnに制限されるが、X2~X1(5m)では、障害物までの距離が接近するに従って減速度が増大し、障害物までの距離X=X1(5m)以内で、偏向検出後の最大減速度Gxに設定される。
【0021】
また、図中実線および破線で示される中速V2(40km/h)の場合、障害物までの距離X=X3(10m)までは減速度Gnに制限されるが、X3~X2(7m)では、障害物までの距離が接近するに従って減速度が増大し、距離X=X2(7m)以内では、偏向検出後の最大減速度Gxに設定される。
【0022】
一方、図中一点鎖線で示される相対的に高速V3(50km/h)の場合には、障害物までの距離X=X4(15m)~X3(10m)で、障害物までの距離が接近するに従って減速度が増大し、距離X=X3(10m)以内では、偏向検出後の最大減速度Gxに設定される。
【0023】
すなわち、相対的に短い制動距離となる低速V1側では、近距離X2まで比較的小さい減速度Gnに制限され、最接近側で最大減速度Gxとなるのに対し、相対的に大きな制動距離を必要とする高速V3側では、遠距離となるX4~X3において距離に応じた減速度Gn~Gxの制限が行われるものの、それ以内では最大減速度Gxに設定される。
【0024】
このような障害物までの距離Xと車速Vに応じたブレーキ要求値の制御マップが設定されることで、自動ブレーキ作動時の制動力は制限されるが、その分、車両の偏向(回転モーメント)が抑制され、車両姿勢が維持されることによる制動効果によって、総合的な緊急ブレーキ性能を確保でき、かつ、自動ブレーキ作動時の偏向が増大することによる車線逸脱などを回避するうえでも有利である。
【0025】
次に、図3は、自動ブレーキ作動時における偏向検知前および偏向検知後のブレーキ要求値の経時的設定を示している。この例では、偏向検知前には、図中破線で示されるように、自動ブレーキに係るブレーキ要求値が、自動ブレーキ開始ta直後に減速度Gxで一旦保持された後、時刻tbにおいて最大減速度Gx′まで上昇される。
【0026】
これに対して、偏向検知後には、図中実線で示されるように、自動ブレーキ開始ta直後に最大減速度Gxより低い値で一旦保持された後、時刻tbにおいて最大減速度Gxまで上昇される。この例では、ブレーキ要求値が、偏向検知前の最大減速度Gx′の60~70%の最大減速度Gxに制限される場合を示している。
【0027】
以上、自動ブレーキ作動中に車両の偏向が検出された場合におけるブレーキ要求値の変更について述べたが、車両の偏向を判断する閾値を、偏向速度(ヨーレート、ヨー軸周りの角速度)や偏向加速度(ヨーレート変化速度、ヨー軸周りの角加速度)に基づいて動的に設定することもできる。車両の偏向量は、ヨーレート検知部22においてヨーレートとして検出され、その積分値が偏向量(ヨー角)となり、ヨーレートの微分値がヨーレート変化速度となる。
【0028】
そこで、図4に示す例では、ヨーレート変化速度が小さい領域では、自動ブレーキの制動力が最大限に確保されるように、相対的に大きな閾値(γa)とする一方、ヨーレート変化速度が(γ′a)以上の領域では、ヨーレート変化速度が大きくなるに従って閾値が小さくなるようにし、さらに、ヨーレート変化速度が(γ′b)以上の領域では、閾値が最小値(γb)に設定されることで、検出時点以後に増大する偏向が見込まれる場合は、可及的早期にブレーキ要求値(制御マップ)を変更し、確実な偏向抑制が行えるようにしている。
【0029】
図6は、上記第1実施形態に係る偏向抑制制御を示すフローチャートである。図において、AEB制御部10および前方カメラ11(AEBセンサ)の作動状態で(ステップ100)、前方カメラ11(AEBセンサ)に障害物が検知され、自動ブレーキが作動すると(ステップ110)、先ず、ヨーレート検知部22の検出情報に基づき車両の偏向量が計測される(ステップ120)。
【0030】
次いで、AEB制御部10において、偏向量が閾値以上であるか否かが判断され(ステップ130)、偏向量が閾値以上の場合は、ブレーキ要求値が車両偏向時の制御マップに変更される(ステップ140)。偏向量が閾値未満の場合は、ブレーキ要求値は変更されず、通常のブレーキ要求値が維持される。
【0031】
(第2実施形態)
上記実施形態ではヨーレートの変化速度に基づいて偏向量の閾値が動的に設定される場合(図4)を示したが、車両の偏向に影響を与える要因として、操舵角センサ21に検知される操舵量に基づいて偏向量の閾値が動的に設定されるようにすることもできる。
【0032】
例えば、図7のフローチャートに示すように、システムの作動状態で(ステップ200)、前方カメラ11(AEBセンサ)に障害物が検知され、自動ブレーキが作動すると(ステップ210)、先ず、操舵角センサ21に検知される操舵量がAEB制御部10に取得され(ステップ211)、操舵量が閾値以上であるか否かが判断され(ステップ212)、操舵量が閾値未満の場合は、可及的に大きい自動ブレーキの制動力が確保されるように、相対的に大きな偏向量閾値(γa)が維持されるが(ステップ213)、操舵量が閾値以上の場合は、相対的に小さな偏向量閾値(γb)に変更される(214)。
【0033】
次いで、ヨーレート検知部22の検出情報に基づき車両の偏向量が計測され(ステップ220、221)、偏向量がそれぞれの閾値(γa、γb)と比較され、閾値以上であるか否かが判断される(ステップ230,231)。
【0034】
何れかにおいて偏向量が閾値以上の場合は、ブレーキ要求値が車両偏向時の制御マップに変更される(ステップ240)。偏向量が閾値未満の場合は、ブレーキ要求値は変更されず、通常のブレーキ要求値が維持される。
【0035】
なお、上記第2実施形態では、操舵角センサ21に検知される操舵量に基づいて偏向量閾値を切替える場合について述べたが、車両の偏向に影響を与える要因として、不図示の横Gセンサに検知される横Gを操舵量と併用して、または操舵量に代えて、偏向量閾値の切替えに利用することもできる。
【0036】
(第3実施形態)
以上述べた各実施形態は、何れも自動ブレーキ作動中の偏向速度や操舵量、横Gなどを検知し、それに基づいてブレーキ要求値(制御マップ)の変更を判断するための偏向量閾値を動的に設定する場合を示したが、前方カメラ11の画像に基づいて車両の進路偏向や横傾斜から車両の偏荷重傾向を検出することで、自動ブレーキの作動前にブレーキ要求値(制御マップ)の切替えを実施することもできる。
【0037】
図1に示すように、本実施形態の自動ブレーキ装置では、進路検知部12および傾き検知部13がAEB制御部10に並設されている。これらは、AEB制御部10(ECU)にて画像処理を行うプログラムモジュールとして格納されている。
【0038】
進路検知部12は、前方カメラ11の画像から、エッジ抽出やオプティカルフロー抽出などの画像処理を実施して、道路上の区分線(白線など)を認識し、車両の進路を検知するとともに、進路方向に対する車両の偏向量(進路偏向量ψ)を推定する。傾き検知部13は、車両に固定されている前方カメラ11の画角と道路面との関係から、車両の横傾斜を推定する。
【0039】
図5は、進路検知部12で推定された進路偏向量(ψ)に基づく偏向量閾値(ヨーレート)の設定を示しており、進路偏向量ψが閾値(ψc)未満の場合には、偏向量閾値に相対的に大きい閾値(γa:初期値)を維持し、進路偏向量(ψ)が閾値(ψc)以上の場合には、偏向量閾値を相対的に小さな閾値(γc)に変更することで、自動ブレーキ作動以前に車両の偏荷重傾向を把握し、偏向抑制制御に利用できる。
【0040】
図8は、第3実施形態に係る偏向抑制制御を示すフローチャートであり、システムの作動状態で(ステップ300)、傾き検知部13は、前方カメラ11の画像に基づいて車両の横傾斜を推定し、所定の閾値との比較を行っており(ステップ301)、所定の閾値未満の場合は、相対的に大きい閾値(γa:初期値)が維持される。
【0041】
一方、横傾斜の推定値が所定の閾値より大きいと判断される場合は、偏向量閾値が相対的に小さな閾値(γc)に変更される(ステップ303)。
【0042】
このような状態で、前方カメラ11(AEBセンサ)に障害物が検知され、自動ブレーキが作動すると(ステップ310,311)、車両の横傾斜が検出されていない場合は、ヨーレート検知部22の検出情報に基づき車両の偏向量が計測され(ステップ320)、偏向量が閾値(γa)以上の場合は(ステップ330)、車両偏向時のブレーキ要求値(制御マップ)に変更され(ステップ340)、偏向量が閾値(γa)未満の場合は、通常のブレーキ要求値が維持される。
【0043】
一方、車両の横傾斜が検出されている場合は、ヨーレート検知部22の検出情報に基づき車両の偏向量が計測され(ステップ321)、偏向量が相対的に小さい閾値(γc)以上の場合に(ステップ331)、車両偏向時のブレーキ要求値(制御マップ)に変更され(ステップ340)、偏向量が閾値(γc)未満の場合は、通常のブレーキ要求値が維持される。
【0044】
なお、上記実施形態では、ステップ303で偏向量閾値が相対的に小さな閾値(γc)に変更される場合を示したが、この時点で、自動ブレーキ作動時のブレーキ要求値を車両偏向時のブレーキ要求値(制御マップ)に変更しても良い。
【0045】
また、ステップ301の横傾斜の判定を、自動ブレーキ作動中のステップ330,331において、偏向量がそれぞれの閾値未満だった場合に実施し、横傾斜が検出された場合は、それぞれステップ340,341に戻して車両偏向時のブレーキ要求値(制御マップ)に変更するように構成することもできる。
【0046】
(第4実施形態)
上記実施形態では、進路検知部12や傾き検知部13にて画像処理から推定される進路偏向や横傾斜を自動ブレーキ作動前の偏向量閾値変更に利用する場合について述べたが、自動ブレーキ作動中における偏向量閾値変更やブレーキ要求値(制御マップ)変更に利用することもできる。
【0047】
例えば、図9のフローチャートに示すように、システムの作動状態で(ステップ400)、前方カメラ11(AEBセンサ)に障害物が検知され、自動ブレーキが作動すると(ステップ410)、前方カメラ11の画像に基づいてオプティカルフロー抽出などの画像処理により進路検知部12に進路偏向量(ψ)が検知され(ステップ411)、進路偏向量が閾値(ψc)以上であるか否かが判断される(ステップ412)。
【0048】
進路検知部12に検知される進路偏向量が閾値(ψc)未満の場合は、自動ブレーキの制動力が最大限に確保されるように、相対的に大きな偏向量閾値(γa)が維持されるが(ステップ413)、進路偏向量が閾値(ψc)以上の場合は、相対的に小さな偏向量閾値(γb)に変更される(414)。
【0049】
次いで、ヨーレート検知部22の検出情報に基づき車両の偏向量が計測され(ステップ420、421)、偏向量がそれぞれの閾値(γa、γb)と比較され、閾値以上であるか否かが判断される(ステップ430,431)。
【0050】
何れかにおいて偏向量が閾値以上の場合は、ブレーキ要求値が車両偏向時の制御マップに変更される(ステップ440)。偏向量が閾値未満の場合は、ブレーキ要求値は変更されず、通常のブレーキ要求値が維持される(ステップ450)。
【0051】
なお、上記第2実施形態では、進路検知部12に検知される進路偏向量に基づいて偏向量閾値を切替える場合について述べたが、自動ブレーキ作動中に傾き検知部13に検知される横傾斜を進路偏向量と併用して、または進路偏向量に代えて、偏向量閾値の切替えに利用することもできる。
【0052】
以上、本発明のいくつかの実施形態について述べたが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいてさらに各種の変形および変更が可能であることを付言する。
【符号の説明】
【0053】
1 車両
3 前車輪
4 後車輪
10 AEB制御部(自動ブレーキ制御部)
11 前方カメラ
12 進路検知部
13 傾き検知部
20 ブレーキ制御部
21 操舵角センサ
22 ヨーレート検知部
23,24 車輪速センサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9