(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-07
(45)【発行日】2024-11-15
(54)【発明の名称】D級電力変換器
(51)【国際特許分類】
H02M 1/08 20060101AFI20241108BHJP
H02M 7/48 20070101ALI20241108BHJP
【FI】
H02M1/08 C
H02M1/08 A
H02M7/48 E
(21)【出願番号】P 2021574525
(86)(22)【出願日】2020-12-17
(86)【国際出願番号】 JP2020047191
(87)【国際公開番号】W WO2021153072
(87)【国際公開日】2021-08-05
【審査請求日】2023-05-26
(31)【優先権主張番号】P 2020014717
(32)【優先日】2020-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【氏名又は名称】新居 広守
(74)【代理人】
【識別番号】100137235
【氏名又は名称】寺谷 英作
(74)【代理人】
【識別番号】100131417
【氏名又は名称】道坂 伸一
(72)【発明者】
【氏名】明石 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】石井 卓也
(72)【発明者】
【氏名】川上 佳人
(72)【発明者】
【氏名】八幡 和宏
(72)【発明者】
【氏名】東 武志
(72)【発明者】
【氏名】南 善久
【審査官】今井 貞雄
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/196136(WO,A1)
【文献】特表2018-521626(JP,A)
【文献】特表2017-536078(JP,A)
【文献】国際公開第2019/059292(WO,A1)
【文献】特開2005-304218(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 1/08
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに直列接続された第1の半導体素子及び第2の半導体素子より構成された、100V以上の直流電圧を印加されるスイッチ回路と、
前記第1の半導体素子又は前記第2の半導体素子をスイッチング動作させる駆動回路と、
所定の電源電圧を入力され、前記所定の電源電圧を前記所定の電源電圧とは絶縁された第1の電源電圧に変換して前記駆動回路へ出力する絶縁型電源回路と、
6MHz以上の第1の信号を入力され、前記第1の信号を前記第1の信号とは絶縁された第1の駆動信号に変換して前記駆動回路へ出力する絶縁信号変換器と、
前記絶縁型電源回路と前記絶縁信号変換器とが搭載された単一基板と、を備え、
前記第1の半導体素子及び前記第2の半導体素子は、ワイドバンドギャップ半導体素子であり、
前記第1の半導体素子及び前記第2の半導体素子の接続点の電位を、最高速度50V/ns以上で変化させ、
前記接続点から1kW以上の交流電圧を出力
し、
前記絶縁型電源回路と前記絶縁信号変換器とは、前記第1の駆動信号を伝達する配線に対して前記絶縁型電源回路の電源ラインがシールド効果を奏するように互いに近接配置されて、前記単一基板に搭載される、
D級電力変換器。
【請求項2】
前記単一基板に、更に前記駆動回路が搭載された、
請求項1に記載のD級電力変換器。
【請求項3】
前記駆動回路は、
前記第1の半導体素子をスイッチング動作させる第1の駆動回路と、
前記第2の半導体素子をスイッチング動作させる第2の駆動回路と、を有し、
前記絶縁型電源回路は、
前記所定の電源電圧を入力され、前記所定の電源電圧を前記第1の電源電圧に変換して前記第1の駆動回路へ出力する第1の絶縁型電源回路と、
前記所定の電源電圧を入力され、前記所定の電源電圧を前記所定の電源電圧とは絶縁された第2の電源電圧に変換して前記第2の駆動回路へ出力する第2の絶縁型電源回路と、を有し、
前記絶縁信号変換器は、
前記第1の信号を入力され、前記第1の信号を前記第1の駆動信号に変換して前記第1の駆動回路に出力する第1の絶縁信号変換器と、
6MHz以上の第2の信号を入力され、前記第2の信号を前記第2の信号とは絶縁された第2の駆動信号に変換して前記第2の駆動回路に出力する第2の絶縁信号変換器と、を有し、
前記第1の絶縁型電源回路から前記第1の駆動回路へ前記第1の電源電圧を伝達する配線経路は5cm以下である、
請求項1又は請求項2に記載のD級電力変換器。
【請求項4】
互いに直列接続された第1の半導体素子及び第2の半導体素子より構成された、100V以上の直流電圧を印加されるスイッチ回路と、
前記第1の半導体素子又は前記第2の半導体素子をスイッチング動作させる駆動回路と、
所定の電源電圧を入力され、前記所定の電源電圧を前記所定の電源電圧とは絶縁された第1の電源電圧に変換して前記駆動回路へ出力する絶縁型電源回路と、
6MHz以上の第1の信号を入力され、前記第1の信号を前記第1の信号とは絶縁された第1の駆動信号に変換して前記駆動回路へ出力する絶縁信号変換器と、
前記絶縁型電源回路と前記絶縁信号変換器とが搭載された単一基板と、を備え、
前記駆動回路は、
前記第1の半導体素子をスイッチング動作させる第1の駆動回路と、
前記第2の半導体素子をスイッチング動作させる第2の駆動回路と、を有し、
前記絶縁型電源回路は、
前記所定の電源電圧を入力され、前記所定の電源電圧を前記第1の電源電圧に変換して前記第1の駆動回路へ出力する第1の絶縁型電源回路と、
前記所定の電源電圧を入力され、前記所定の電源電圧を前記所定の電源電圧とは絶縁された第2の電源電圧に変換して前記第2の駆動回路へ出力する第2の絶縁型電源回路と、を有し、
前記絶縁信号変換器は、
前記第1の信号を入力され、前記第1の信号を前記第1の駆動信号に変換して前記第1の駆動回路に出力する第1の絶縁信号変換器と、
6MHz以上の第2の信号を入力され、前記第2の信号を前記第2の信号とは絶縁された第2の駆動信号に変換して前記第2の駆動回路に出力する第2の絶縁信号変換器と、を有し、
前記第1の絶縁型電源回路から前記第1の駆動回路へ前記第1の電源電圧を伝達する配線経路は5cm以下であり、
前記第1の半導体素子及び前記第2の半導体素子は、ワイドバンドギャップ半導体素子であり、
前記第1の半導体素子及び前記第2の半導体素子の接続点の電位を、最高速度50V/ns以上で変化させ、
前記接続点から1kW以上の交流電圧を出力
し、
前記絶縁型電源回路と前記絶縁信号変換器とは、前記第1の駆動信号を伝達する配線に対して前記絶縁型電源回路の電源ラインがシールド効果を奏するように互いに近接配置されて、前記単一基板に搭載される、
D級電力変換器。
【請求項5】
前記第1の絶縁型電源回路と、前記第2の絶縁型電源回路と、前記第1の絶縁信号変換器と、前記第2の絶縁信号変換器とが、直線状に配置された、
請求項3又は請求項4に記載のD級電力変換器。
【請求項6】
前記絶縁型電源回路は、出力側からのフィードバック信号が入力されない、
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のD級電力変換器。
【請求項7】
前記絶縁型電源回路は、前記第1の電源電圧の電位を設定する出力電圧可変回路を有する、
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のD級電力変換器。
【請求項8】
更に、前記絶縁型電源回路と前記駆動回路との間の、前記第1の電源電圧を伝達する経路に、雑音除去回路を備える、
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載のD級電力変換器。
【請求項9】
前記雑音除去回路は、前記経路に、互いに直列接続された整流素子及び抵抗性素子を有する、
請求項8に記載のD級電力変換器。
【請求項10】
前記雑音除去回路は、前記経路に、バイパスコンデンサを有する、
請求項8又は請求項9に記載のD級電力変換器。
【請求項11】
更に、前記絶縁型電源回路と前記駆動回路との間の、前記第1の電源電圧を伝達する配線の少なくとも一部をシールドするシールド構造体を備える、
請求項1から請求項10のいずれか1項に記載のD級電力変換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、入力された直流電圧をスイッチングして出力するD級電力変換器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シリコン半導体素子をスイッチング素子とするD級電力変換器が知られている(例えば、特許文献1参照)。また、GaNトランジスタを用いたスイッチング素子は、特許文献2に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-205746号公報
【文献】国際公開第2017/081856号
【発明の概要】
【0004】
小型ながら安定した高周波スイッチング動作をすることができるD級電力変換器が求められている。
【0005】
本開示の一態様に係るD級電力変換器は、スイッチ回路と、駆動回路と、絶縁型電源回路と、絶縁信号変換器と、単一基板と、を備える。スイッチ回路は、第1の半導体素子及び第2の半導体素子より構成される。また、スイッチ回路は、100V以上の直流電圧を印加される。第1の半導体素子及び第2の半導体素子は、互いに直列接続されている。駆動回路は、第1の半導体素子又は第2の半導体素子をスイッチング動作させる。絶縁型電源回路は、所定の電源電圧を入力される。絶縁型電源回路は、所定の電源電圧を、所定の電源電圧とは絶縁された第1の電源電圧に変換する。また、絶縁型電源回路は、第1の電源電圧を駆動回路へ出力する。絶縁信号変換器は、6MHz以上の第1の信号を入力される。絶縁信号変換器は、第1の信号を、第1の信号とは絶縁された第1の駆動信号に変換する。また、絶縁信号変換器は、第1の駆動信号を駆動回路へ出力する。単一基板は、絶縁型電源回路と絶縁信号変換器とを搭載する。第1の半導体素子及び第2の半導体素子は、ともにワイドバンドギャップ半導体素子である。当該D級電力変換器は、第1の半導体素子及び第2の半導体素子の接続点の電位を最高速度50V/ns以上で変化させるとともに、接続点から1kW以上の交流電圧を出力する。
【0006】
本開示の別の一態様に係るD級電力変換器は、スイッチ回路と、駆動回路と、絶縁型電源回路と、絶縁信号変換器と、を備える。スイッチ回路は、互いに直列接続された第1の半導体素子及び第2の半導体素子より構成される。また、スイッチ回路は、100V以上の直流電圧を印加される。駆動回路は、第1の半導体素子又は第2の半導体素子をスイッチング動作させる。絶縁型電源回路は、所定の電源電圧を入力される。絶縁型電源回路は、所定の電源電圧を、所定の電源電圧とは絶縁された第1の電源電圧に変換する。また、絶縁型電源回路は、第1の電源電圧を駆動回路へ出力する。絶縁信号変換器は、6MHz以上の第1の信号を入力される。絶縁信号変換器は、第1の信号を、第1の信号とは絶縁された第1の駆動信号に変換する。また、絶縁信号変換器は、第1の駆動信号を駆動回路へ出力する。駆動回路は、第1の駆動回路と、第2の駆動回路とを有する。第1の駆動回路は、第1の半導体素子をスイッチング動作させる。第2の駆動回路は、第2の半導体素子をスイッチング動作させる。絶縁型電源回路は、第1の絶縁型電源回路と、第2の絶縁型電源回路とを有する。第1の絶縁型電源回路は、所定の電源電圧を入力される。第1の絶縁型電源回路は、所定の電源電圧を、所定の電源電圧と絶縁された第1の電源電圧に変換する。また、第1の絶縁型電源回路は、第1の電源電圧を第1の駆動回路へ出力する。第2の絶縁型電源回路は、所定の電源電圧を入力される。第2の絶縁型電源回路は、所定の電源電圧を、所定の電源電圧と絶縁された第2の電源電圧に変換する。また、第2の絶縁型電源回路は、第2の電源電圧を第2の駆動回路へ出力する。絶縁信号変換器は、第1の絶縁信号変換器と、第2の絶縁信号変換器とを有する。第1の絶縁信号変換器は、第1の信号を入力される。第1の絶縁信号変換器は、第1の信号を、第1の信号とは絶縁された第1の駆動信号に変換する。また、第1の絶縁信号変換器は、第1の駆動信号を第1の駆動回路に出力する。第2の絶縁信号変換器は、6MHz以上の第2の信号を入力される。第2の絶縁信号変換器は、第2の信号を、第2の信号とは絶縁された第2の駆動信号に変換する。また、第2の絶縁信号変換器は、第2の駆動信号を第2の駆動回路に出力する。第1の絶縁型電源回路から第1の駆動回路へ第1の電源電圧を伝達する配線経路は5cm以下である。第1の半導体素子及び第2の半導体素子は、ワイドバンドギャップ半導体素子である。当該D級電力変換器は、第1の半導体素子及び第2の半導体素子の接続点の電位を最高速度50V/ns以上で変化させるとともに、接続点から1kW以上の交流電圧を出力する。
【0007】
本開示のD級電力変換器によれば、小型ながら安定した高周波スイッチング動作をすることができるD級電力変換器が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、第一の実施形態に係るD級電力変換器の回路構成例を示すブロック図である。
【
図2A】
図2Aは、第一の実施形態に係る第1の絶縁型電源回路の回路構成例を示すブロック図である。
【
図2B】
図2Bは、一体化されて構成される、第一の実施形態に係る第1の絶縁型電源回路と第2の絶縁型電源回路との回路構成例を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、第二の実施形態に係るD級電力変換器の回路構成例を示すブロック図である。
【
図4】
図4は、第二の実施形態に係る第1の雑音除去回路の回路構成例を示すブロック図である。
【
図5】
図5は、第三の実施形態に係るD級電力変換器の回路構成例を示すブロック図である。
【
図6】
図6は、第四の実施形態に係るD級電力変換の物理的構造例を示す模式図である。
【
図7】
図7は、半導体素子を高速スイッチングさせた際の波形のフーリエ解析結果を示す図である。
【
図8】
図8は、第五の実施形態に係る制御基板の物理的構成例を示す模式図である。
【
図9】
図9は、第五の実施形態に係る制御基板の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(本開示の一態様を得るに至った経緯)
例えば特許文献1に開示された従来のD級電力変換器では、スイッチング素子にはIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)やMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)のようなシリコン半導体素子が用いられている。
【0010】
D級電力変換器を利用するスイッチング電源やインバータは、そのスイッチング周波数が高いほど小型化が可能である。しかし、スイッチング周波数を高めるにあたり、障害となるものの一つがスイッチング素子の出力容量Cossと称される寄生容量である。出力容量Cossの充放電に要する時間がスイッチング時間に相当する。D級電力変換器の電力が大きいほど出力容量Cossの大きいスイッチング素子が使われるためスイッチング時間は長くなる。
【0011】
発明者らの調査では、D級増幅器やワイヤレス給電で比較的よく要求される、直流入力電圧が100V以上、出力電力1kW以上といった電力変換の場合、シリコン半導体素子の出力容量は230pFが最小値であり、スイッチング速度は30V/nsが限界であった。さらに発明者らの検討によると、最高速度30V/nsのスイッチングで実用に耐え得るスイッチング周波数は4MHzが限界であった。ここで、出力容量には電圧依存性があるため、スイッチング速度はスイッチング期間を通して常に一定というわけではなく、最高速度という表現にした。また、以後の具体的な数値は、上記同様に発明者らの検討による。
【0012】
一方、スイッチング素子にGaN(窒化ガリウム)のような寄生容量の小さいワイドバンドギャップ半導体素子を用いることにより、さらなる高周波スイッチングが可能であることが知られている。ワイドバンドギャップ半導体は、GaN半導体の他にも、例えば、シリコンカーバイド半導体、ダイヤモンド半導体、ガリウムオキサイド半導体等を含む。
【0013】
ワイドバンドギャップ半導体素子の出力容量は70pFにまで低減されており、50V/ns以上、例えば、95V/nsに至るスイッチング速度が可能である。しかしながら、最高速度50V/ns以上のスイッチング速度で6MHz以上のスイッチング周波数になると、高調波雑音(以後、高周波スイッチング雑音と称する。)によってスイッチング動作が不安定になるという問題が発生する。ここで、6MHzは発明者らのスイッチング周波数の目標であり、さらには、ワイヤレス給電にも使用される13.56MHzもスイッチング周波数の目標である。
【0014】
そこで、発明者らは、100V以上の入力電圧で1kW以上の出力電力であって、最高速度50V/ns以上のスイッチング速度かつ6MHz以上のスイッチング周波数における高周波スイッチング雑音の影響を低減し、小型ながら安定した高周波スイッチング動作をすることができるD級電力変換器を実現すべく鋭意検討、実験を行った。その結果、発明者らは、本開示の一態様に係るD級電力変換器に想到した。
【0015】
本開示の一態様に係るD級電力変換器は、スイッチ回路と、駆動回路と、絶縁型電源回路と、絶縁信号変換器と、単一基板と、を備える。スイッチ回路は、第1の半導体素子及び第2の半導体素子より構成される。また、スイッチ回路は、100V以上の直流電圧を印加される。第1の半導体素子及び第2の半導体素子は、互いに直列接続されている。駆動回路は、第1の半導体素子又は第2の半導体素子をスイッチング動作させる。絶縁型電源回路は、所定の電源電圧を入力される。絶縁型電源回路は、所定の電源電圧を、所定の電源電圧とは絶縁された第1の電源電圧に変換する。また、絶縁型電源回路は、第1の電源電圧を駆動回路へ出力する。絶縁信号変換器は、6MHz以上の第1の信号を入力される。絶縁信号変換器は、第1の信号を、第1の信号とは絶縁された第1の駆動信号に変換する。また、絶縁信号変換器は、第1の駆動信号を駆動回路へ出力する。単一基板は、絶縁型電源回路と絶縁信号変換器とを搭載する。第1の半導体素子及び第2の半導体素子は、ともにワイドバンドギャップ半導体素子である。当該D級電力変換器は、第1の半導体素子及び第2の半導体素子の接続点の電位を最高速度50V/ns以上で変化させるとともに、接続点から1kW以上の交流電圧を出力する。
【0016】
上記構成のD級電力変換器によると、絶縁型電源回路と絶縁信号変換器とが近接配置されるために、小型化に加え、小信号である駆動信号に対して絶縁型電源回路の電源ラインがシールド効果を奏する。これらのことにより、スイッチ回路の高周波スイッチング動作に伴って発生する高調波スイッチング雑音を受信し難くなる。従って、上記構成のD級電力変換器によると、スイッチング素子への駆動信号に重畳される雑音を低減し、小型化に寄与すると同時に誤作動の無い安定な動作が可能となる。
【0017】
また、単一基板に、更に駆動回路が搭載されると好ましい。
【0018】
これにより、駆動回路も含む駆動系の基板上占有面積や体積を低減できるとともに、特に高周波スイッチング雑音の送信部となるハイサイド駆動系の体積低減によって雑音抑制が可能となり、D級電力変換器において誤作動の無い安定な動作が可能となる。
【0019】
また、駆動回路は、さらに、第1の駆動回路と、第2の駆動回路とを有する。第1の駆動回路は、第1の半導体素子をスイッチング動作させる。第2の駆動回路は、第2の半導体素子をスイッチング動作させる。絶縁型電源回路は、第1の絶縁型電源回路と、第2の絶縁型電源回路とを有する。第1の絶縁型電源回路は、所定の電源電圧を入力される。第1の絶縁型電源回路は、所定の電源電圧を第1の電源電圧に変換する。また、第1の絶縁型電源回路は、第1の電源電圧を第1の駆動回路へ出力する。第2の絶縁型電源回路は、所定の電源電圧を入力される。第2の絶縁型電源回路は、所定の電源電圧を第2の電源電圧に変換する。また、第2の絶縁型電源回路は、第2の電源電圧を第2の駆動回路へ出力する。絶縁信号変換器は、第1の絶縁信号変換器と、第2の絶縁信号変換器とを有する。第1の絶縁信号変換器は、第1の信号を入力される。第1の絶縁信号変換器は、第1の信号を第1の駆動信号に変換する。また、第1の絶縁信号変換器は、第1の駆動信号を第1の駆動回路に出力する。第2の絶縁信号変換器は、6MHz以上の第2の信号を入力される。第2の絶縁信号変換器は、第2の信号を、第2の信号とは絶縁された第2の駆動信号に変換する。また、第2の絶縁信号変換器は、第2の駆動信号を第2の駆動回路に出力する。第1の絶縁型電源回路から第1の駆動回路へ第1の電源電圧を伝達する配線経路は5cm以下であると好ましい。
【0020】
これにより、絶縁型電源回路から駆動回路への電力供給路の配線が、高周波スイッチング雑音を受信し難くなる。従って、スイッチング素子への駆動信号に重畳される雑音を低減し、D級電力変換器の小型化に寄与すると同時にD級電力変換器において誤作動の無い安定な動作が可能となる。
【0021】
本開示の別の一態様に係るD級電力変換器は、スイッチ回路と、駆動回路と、絶縁型電源回路と、絶縁信号変換器と、を備える。スイッチ回路は、互いに直列接続された第1の半導体素子及び第2の半導体素子より構成される。また、スイッチ回路は、100V以上の直流電圧を印加される。駆動回路は、第1の半導体素子又は前記第2の半導体素子をスイッチング動作させる。絶縁型電源回路は、所定の電源電圧を入力される。絶縁型電源回路は、所定の電源電圧を、所定の電源電圧とは絶縁された第1の電源電圧に変換する。また、絶縁型電源回路は、第1の電源電圧を駆動回路へ出力する。絶縁信号変換器は、6MHz以上の第1の信号を入力される。絶縁信号変換器は、第1の信号を、第1の信号とは絶縁された第1の駆動信号に変換する。また、絶縁信号変換器は、第1の駆動信号を駆動回路へ出力する。駆動回路は、第1の駆動回路と、第2の駆動回路とを有する。第1の駆動回路は、第1の半導体素子をスイッチング動作させる。第2の駆動回路は、第2の半導体素子をスイッチング動作させる。絶縁型電源回路は、第1の絶縁型電源回路と、第2の絶縁型電源回路とを有する。第1の絶縁型電源回路は、所定の電源電圧を入力される。第1の絶縁型電源回路は、所定の電源電圧を第1の電源電圧に変換する。また、第1の絶縁型電源回路は、第1の電源電圧を第1の駆動回路へ出力する。第2の絶縁型電源回路は、所定の電源電圧を入力される。第2の絶縁型電源回路は、所定の電源電圧を第2の電源電圧に変換する。また、第2の絶縁型電源回路は、第2の電源電圧を第2の駆動回路へ出力する。絶縁信号変換器は、第1の絶縁信号変換器と、第2の絶縁信号変換器とを有する。第1の絶縁信号変換器は、第1の信号を入力される。第1の絶縁信号変換器は、第1の信号を第1の駆動信号に変換する。また、第1の絶縁信号変換器は、第1の駆動信号を第1の駆動回路に出力する。第2の絶縁信号変換器は、6MHz以上の第2の信号を入力される。第2の絶縁信号変換器は、第2の信号を、第2の信号とは絶縁された第2の駆動信号に変換する。また、第2の絶縁信号変換器は、第2の駆動信号を第2の駆動回路に出力する。第1の絶縁型電源回路から第1の駆動回路へ第1の電源電圧を伝達する配線経路は5cm以下である。第1の半導体素子及び第2の半導体素子は、ワイドバンドギャップ半導体素子である。当該D級電力変換器は、第1の半導体素子及び第2の半導体素子の接続点の電位を最高速度50V/ns以上で変化させるとともに、接続点から1kW以上の交流電圧を出力する。
【0022】
上記構成のD級電力変換器によると、絶縁型電源回路から駆動回路への電力供給路の配線が、高周波スイッチング雑音を受信し難くなる。従って、上記構成のD級電力変換器によると、スイッチング素子への駆動信号に重畳される雑音を低減し、小型化に寄与すると同時に誤作動の無い安定な動作が可能となる。
【0023】
また、第1の絶縁型電源回路と、第2の絶縁型電源回路と、第1の絶縁信号変換器と、第2の絶縁信号変換器とが、直線状に配置されると好ましい。
【0024】
これにより、各々の回路の絶縁距離を確保しながら絶縁型電源回路や絶縁信号変換器の基板上占有面積を低減でき、D級電力変換器を小型化することができる。
【0025】
また、絶縁型電源回路は、出力側からのフィードバック信号が入力されないようにすると好ましい。
【0026】
これにより、フィードバック信号に重畳される高周波スイッチング雑音を抑制し、D級電力変換器において誤動作のない安定な動作が可能となる。
【0027】
また、絶縁型電源回路は、第1の電源電圧の電位を設定する出力電圧可変回路を有してもよい。
【0028】
これにより、絶縁型電源回路に入力される電源電圧が所望値でない場合や諸条件によって変動する場合、あるいは、スイッチ回路の駆動条件が変更された場合などに、D級電力変換器において駆動電圧を調整して最適駆動条件となるように対応することができる。
【0029】
また、更に、絶縁型電源回路と駆動回路との間の、第1の電源電圧を伝達する経路に、雑音除去回路を備えるとしてもよい。ここで、雑音除去回路は、経路に、互いに直列接続された整流素子及び抵抗性素子を有してもよいし、雑音除去回路は、経路に、バイパスコンデンサを有してもよい。
【0030】
これにより、高周波スイッチング雑音の影響を除去でき、D級電力変換器において誤作動の無い安定な動作が可能となる。
【0031】
また、更に、絶縁型電源回路と駆動回路との間の、第1の電源電圧を伝達する配線の少なくとも一部をシールドするシールド構造体を備えてもよい。
【0032】
これにより、高周波スイッチング雑音の影響を除去でき、D級電力変換器において誤作動の無い安定な動作が可能となる。
【0033】
以下、本開示の一態様に係るD級電力変換器の具体例について、図面を参照しながら説明する。なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも包括的または具体的な例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態、などは、一例であり、本開示を限定する主旨ではない。なお、各図は模式図であり、必ずしも厳密に図示されたものではない。
【0034】
(第一の実施形態)
図1は、第一の実施形態に係るD級電力変換器10の回路構成例を示すブロック図である。
【0035】
図1に示すように、D級電力変換器10は、スイッチ回路1と、放熱基板2と、制御基板3と、第1の駆動回路31と、第2の駆動回路32と、第1の絶縁型電源回路41と、第2の絶縁型電源回路42と、第1の信号発生器51と、第2の信号発生器52と、第1の絶縁信号変換器61と、第2の絶縁信号変換器62とを備える。
【0036】
スイッチ回路1は、互いに直列接続された第1の半導体素子21及び第2の半導体素子22により構成され、100V以上の直流電圧(ここでは直流電圧Ei)が印加される。
【0037】
第1の半導体素子21及び第2の半導体素子22は、いずれもスイッチング動作を行うことができるワイドバンドギャップ半導体素子である。ここでは、一例として、第1の半導体素子21及び第2の半導体素子22は、いずれもGaN-FET(Field Effect Transistor)であるとして説明するが、スイッチング動作することができるワイドバンドギャップ半導体素子であれば、必ずしも、GaN-FETに限定される必要はない。
【0038】
スイッチ回路1において、第1の半導体素子21はハイサイド側に配置され、第2の半導体素子22はローサイド側に配置される。
【0039】
第1の絶縁型電源回路41は、所定の電源電圧(ここでは、直流入力電圧Vcc)を入力される。第1の絶縁型電源回路41は、入力された電源電圧を、その電源電圧とは絶縁された第1の電源電圧VD1に変換する。そして第1の絶縁型電源回路41は、第1の電源電圧VD1を第1の駆動回路31に出力する。
【0040】
第2の絶縁型電源回路42は、所定の電源電圧(ここでは、直流入力電圧Vcc)を入力される。第2の絶縁型電源回路42は、入力された電源電圧を、その電源電圧とは絶縁された第2の電源電圧VD2に変換する。そして第2の絶縁型電源回路42は、第2の電源電圧VD2を第2の駆動回路32に出力する。
【0041】
第1の信号発生器51は、第1の入力信号S1を入力される。そして第1の信号発生器51は、第1の半導体素子21のオン状態とオフ状態とを決定する6MHz以上の第1の駆動信号DR11を、第1の絶縁信号変換器61に出力する。第1の駆動信号DR11のことを、以後、第1の信号DR11とも称する。
【0042】
第2の信号発生器52は、第2の入力信号S2を入力される。そして第2の信号発生器52は、第2の半導体素子22のオン状態とオフ状態とを決定する6MHz以上の第2の駆動信号DR21を、第2の絶縁信号変換器62に出力する。第2の駆動信号DR21のことを、以後、第2の信号DR21とも称する。
【0043】
第1の絶縁信号変換器61は、第1の信号発生器51から出力された6MHz以上の第1の駆動信号DR11を入力される。第1の絶縁信号変換器61は、入力された第1の駆動信号DR11を、その第1の駆動信号DR11とは絶縁された6MHz以上の第1の駆動信号DR12に変換する。そして第1の絶縁信号変換器61は、第1の駆動信号DR12を第1の駆動回路31へ出力する。第1の絶縁信号変換器61は、例えば、フォトカプラ又はトランスによって実現されてよい。
【0044】
第2の絶縁信号変換器62は、第2の信号発生器52から出力された6MHz以上の第2の駆動信号DR21を入力される。第2の絶縁信号変換器62は、入力された第2の駆動信号DR21を、その第2の駆動信号DR21とは絶縁された6MHz以上の第2の駆動信号DR22に変換する。そして第2の絶縁信号変換器62は、第2の駆動信号DR22を第2の駆動回路32へ出力する。第2の絶縁信号変換器62は、例えば、フォトカプラ又はトランスによって実現されてよい。
【0045】
第1の駆動回路31は、第1の半導体素子21をスイッチング動作させる。より具体的には、第1の駆動回路31は、第1の絶縁型電源回路41から出力された第1の電源電圧VD1を電力源として動作する。そして、第1の駆動回路31は、第1の絶縁信号変換器61から出力された第1の駆動信号DR12に応じて第1の半導体素子21のゲートを駆動する。そのようにすることで、第1の駆動回路31は、ハイサイド側の第1の半導体素子21をスイッチング動作させる。
【0046】
第2の駆動回路32は、第2の半導体素子22をスイッチング動作させる。より具体的には、第2の駆動回路32は、第2の絶縁型電源回路42から出力された第2の電源電圧VD2を電力源として動作する。そして第2の駆動回路32は、第2の絶縁信号変換器62から出力された第2の駆動信号DR22に応じて第2の半導体素子22のゲートを駆動する。そのようにすることで、第2の駆動回路32は、第2の半導体素子22をスイッチング動作させる。
【0047】
放熱基板2は、スイッチ回路1と、第1の駆動回路31と、第2の駆動回路32とを搭載する放熱性に優れた回路基板である。
【0048】
制御基板3は、第1の絶縁型電源回路41と、第2の絶縁型電源回路42と、第1の信号発生器51と、第2の信号発生器52と、第1の絶縁信号変換器61と、第2の絶縁信号変換器62とを搭載する単一の回路基板である。制御基板3は、単一の回路基板であることから、以後、制御基板3のことを単一基板3とも称する。
【0049】
上記構成のD級電力変換器10は、スイッチ回路1に直流電圧Eiが印加され、互いに直列接続された第1の半導体素子21及び第2の半導体素子22が相補的にスイッチング動作する。このスイッチング動作によって、第1の半導体素子21及び第2の半導体素子22の接続点から、交流電圧であるパルス電圧Voを出力する。この交流電圧の電力は1kW以上であり、スイッチング周波数は6MHz以上である。上記相補的なスイッチング動作には、第1の半導体素子21及び第2の半導体素子22が同時にオン状態とならないように、第1の半導体素子21及び第2の半導体素子22が同時にオフ状態となる、デッドタイムと呼ばれる微小時間が設けられている。D級電力変換器10は、上記相補的なスイッチング動作により、第1の半導体素子21及び第2の半導体素子22の接続点の電位を、最高速度50V/ns以上で変化させる。
【0050】
ハイサイド側の第1の半導体素子21の、スイッチング周期に占めるオン状態となる時間の割合を時比率δとすると、D級電力変換器10から出力されるパルス電圧の平均値Voは、Vo=δ×Eiとなる。例えば、この出力パルス電圧を、LCフィルタを介して直流平均化して出力するとともに、時比率δを制御して直流出力電圧を安定化することで、D級電力変換器10を、降圧型のスイッチング電源に利用することができる。また、音声信号のような交流成分で時比率δを変調すれば、D級電力変換器10を、音声信号を増幅して出力するD級増幅器に利用することができる。さらに、複数のD級電力変換器10の出力の電圧差を用いるなどして直流分を除去した交流出力とすれば、D級電力変換器10をインバータに利用することができる。以上のようにスイッチング動作における時比率δを制御することをPWM(Pulse Width Modulation:パルス幅変調)制御と呼ぶ。
【0051】
第1の信号発生器51が出力する第1の駆動信号DR11は時比率δでPWM制御され、第2の信号発生器52が出力する第2の駆動信号DR21は時比率(1-δ)でPWM制御される。ここで、第1の駆動信号DR11と第2の駆動信号DR21とは、デッドタイムを有して相補的に“H”と“L”を繰り返すパルス信号である。ここでは、第1の駆動信号DR11及び第2の駆動信号DR21は、
図1に図示するように、正負に変位する2本の信号線により伝達される。
【0052】
発明者らの検討によると、スイッチング素子として、IGBTに比べて高速動作可能なMOSFETを用いたとしても、従来のシリコン半導体素子では、スイッチング速度は40V/nsが限界であり、より高周波化の目標達成のためにはGaNのようなワイドバンドギャップ半導体素子が必要であった。ところが、ワイドバンドギャップ半導体素子を用いることで最高速度50V/ns以上の高速スイッチングを実現できたものの、高周波スイッチング雑音の影響で、駆動信号のパルス幅が異常変動する誤作動が発生し易くなった。
【0053】
発明者らは、更なる検討を重ね、高周波スイッチング雑音の影響を低減する雑音対策や誤動作防止策には、少なくともハイサイド側の駆動系である第1の絶縁型電源回路41と第1の絶縁信号変換器61とを、同一の基板上に近接配置することが有効であるという知見に想到した。これにより、高密度実装によるD級電力変換器10の小型化を実現すると共に、小信号である第1の駆動信号DR12を伝達する配線に対して第1の絶縁型電源回路41の電源ラインがシールド効果を奏することとなり、第1の駆動信号DR12を伝達する配線がスイッチ回路1の高周波スイッチング雑音を受信し難くなる。このため、スイッチング動作する第1の半導体素子21への駆動信号に重畳される雑音が低減され、D級電力変換器10は、誤作動の無い安定なスイッチング動作が可能となる。
【0054】
以下、第1の絶縁型電源回路41と、第2の絶縁型電源回路42とについて、図面を参照しながら説明する。
【0055】
図2Aは、第1の絶縁型電源回路41の回路構成例を示すブロック図である。
【0056】
第1の絶縁型電源回路41と第2の絶縁型電源回路42とは互いに同様の回路である。このため、ここでは、第1の絶縁型電源回路41を説明することで、第1の絶縁型電源回路41と第2の絶縁型電源回路42との双方を説明することとする。
【0057】
第1の絶縁型電源回路41は、フライバックコンバータである。
図2Aに示すように、第1の絶縁型電源回路41は、トランス100の1次巻線101及び2次巻線102と、スイッチング素子110と、ダイオード120と、コンデンサ121と、制御駆動回路130とを備える。
【0058】
1次巻線101には、直流入力電圧Vccが印加される。
【0059】
スイッチング素子110は、1次巻線101と直列接続されたMOSFETである。スイッチング素子110は、ゲート端子に、制御駆動回路130から出力される駆動パルスVG(後述)が印加され、駆動パルスVGに応じて、オン状態とオフ状態とを切り替える。
【0060】
スイッチング素子110がオフ状態からオン状態へと変化する場合に、1次巻線101→スイッチング素子110と電流が流れて、トランス100に磁気エネルギーが蓄えられる。
【0061】
スイッチング素子110がオン状態からオフ状態へと変化する場合に、トランス100に蓄えられた磁気エネルギーが解放され、2次巻線102にフライバック電圧が発生する。2次巻線102に発生したフライバック電圧は、ダイオード120とコンデンサ121とによって整流平滑され、第1の駆動回路31の第1の電源電圧VD1として(第2の絶縁型電源回路42においては、第2の駆動回路32の第2の電源電圧VD2として)出力される。すなわち、この整流平滑時に、2次巻線102→ダイオード120→コンデンサ121へと電流が流れて、トランス100に蓄えられた磁気エネルギーが解放される。定常動作時には、トランス100の磁気エネルギーの蓄積と放出とは均衡する。このとき、1次巻線101の巻き数N1と2次巻線102の巻き数N2との比をn(n=N2/N1)とする。また、スイッチング素子110のスイッチング周期に占めるオン状態となる時間の割合を時比率δ1とする。すると、第1の絶縁型電源回路41から出力される第1の電源電圧VD1は、おおよそ、
VD1=n×Vcc×δ1/(1-δ1)
となる。この式からわかるように、第1の電源電圧VD1は、スイッチング素子110の時比率δ1によって調整することができる。
【0062】
なお、
図2Aにおいて、第1の駆動回路31への入力信号は、第1の絶縁信号変換器61の出力信号である第1の駆動信号DR12である。
【0063】
図2Aに示すように、制御駆動回路130は、トランス100のバイアス巻線103と、起動抵抗131と、コンデンサ132と、ダイオード133と、鋸歯状回路134と、PWM比較器135と、増幅器136とを備える。また、制御駆動回路130には、制御電圧CTRLと、第1の駆動信号DR11とが入力される。
【0064】
コンデンサ132は、第1の絶縁型電源回路41の起動時には、起動抵抗131を介して充電される。第1の絶縁型電源回路41の起動後において、スイッチング素子110が、オン状態とオフ状態とを切り替える動作を開始する。そのとき、バイアス巻線103に発生するフライバック電圧は、ダイオード133により整流されてコンデンサ132に充電される。充電されたコンデンサ132の電圧は、制御駆動回路130の内部回路のバイアス電圧として使用される。
【0065】
鋸歯状回路134は、第1の駆動信号DR11が入力され、第1の駆動信号DR11の周期に同期して増減する鋸歯状電圧Vsを出力する。
【0066】
PWM比較器135は、制御電圧CTRLと鋸歯状電圧Vsとを比較し、制御電圧CTRL>鋸歯状電圧Vsの期間にハイレベルとなる比較結果信号を出力する。
【0067】
増幅器136は、比較結果信号を増幅して駆動パルスVGを生成し、生成した駆動パルスVGをスイッチング素子110のゲートに出力する。
【0068】
上記構成の制御駆動回路130において、制御電圧CTRLが高くなる程、駆動パルスVGのハイレベルの期間が長くなる。このため、スイッチング素子110の時比率δ1が大きくなる。このように、第1の絶縁型電源回路41によると、制御電圧CTRLにより、出力する第1の電源電圧VD1を調整して所望値に設定することができる。すなわち、第1の絶縁型電源回路41は、第1の電源電圧VD1の電位を設定する出力電圧可変手段を有する。
【0069】
なお、第1の絶縁型電源回路41のスイッチング周波数を第1の入力信号S1に同期させたのは、干渉による誤動作防止のためである。干渉による誤動作のための他の方法としては、第1の入力信号S1を分周するなどして、第1の絶縁型電源回路41のスイッチング周期を、D級電力変換器10のスイッチング周期の整数倍にする方法等が考えられる。
【0070】
上述したように、第1の絶縁型電源回路41は、入力される直流入力電圧を高周波スイッチングにより交流変換し、交流変換された交流電圧をトランスによって絶縁して2次側に伝達し、トランスの2次側に発生する交流電圧を整流平滑して出力する。第1の絶縁型電源回路41には、出力側からのフィードバック信号が入力されない。このため、第1の絶縁型電源回路41には、フィードバック信号に重畳される高周波スイッチング雑音が入力されない。これにより、D級電力変換器10は、誤動作のない安定な動作が可能となる。第1の絶縁型電源回路41に、出力側からのフィードバック信号が入力されなくても、第1の絶縁型電源回路41の負荷変動がほとんどないため問題は生じない。
【0071】
上述したように、第1の絶縁型電源回路41は、第1の電源電圧VD1の電位を設定する出力電圧変換回路を有する。これにより、D級電力変換器10は、第1の絶縁型電源回路41に入力される直流入力電圧Vccに所望値が得られない場合、あるいはスイッチ回路1の駆動条件が変更される場合等に、第1の電源電圧VD1を調整して、第1の電源電圧VD1がスイッチ回路1の最適駆動条件となるように対応することができる。
【0072】
なお、D級電力変換器10において、第1の絶縁型電源回路41と第2の絶縁型電源回路42とは、一体化されて構成されてもよい。
【0073】
図2Bは、第1の絶縁型電源回路41と第2の絶縁型電源回路42とが一体化されて構成される場合における、第1の絶縁型電源回路41と第2の絶縁型電源回路42との回路構成例を示すブロック図である。以下の説明において、一体化されて構成される、第1の絶縁型電源回路41と第2の絶縁型電源回路42とからなる回路のことを、便宜上「一体型絶縁型電源回路」とも称する。
【0074】
一体型絶縁型電源回路は、
図2Aに図示される第1の絶縁型電源回路41に対して、2次巻線102と同じ巻き数の2次巻線104と、ダイオード140と、コンデンサ141とが追加されて構成される。すなわち、一体型絶縁型電源回路は、
図2Aに図示される第1の絶縁型電源回路41と第2の絶縁型電源回路42とにおける、1次巻線101と、スイッチング素子110と、制御駆動回路130とが共有されて構成される。
【0075】
一体型絶縁型電源回路は、上記構成により、2次巻線102に発生したフライバック電圧は、ダイオード120とコンデンサ121とによって整流平滑され、第1の駆動回路31の第1の電源電圧VD1として出力されると共に、2次巻線104に発生したフライバック電圧は、ダイオード140とコンデンサ141とによって整流平滑され、第2の駆動回路32の第2の電源電圧VD2として出力される。
【0076】
以上説明したように、第一の実施形態に係るD級電力変換器10によれば、少なくともハイサイド側の駆動系である第1の絶縁型電源回路41と第1の絶縁信号変換器61とを、同一の基板上に近接配置することができる。このため、高密度実装によるD級電力変換器10の小型化を実現すると共に、小信号である第1の駆動信号DR12を伝達する配線に対して第1の絶縁型電源回路41の電源ラインがシールド効果を奏する。これらのことにより、第1の駆動信号DR12を伝達する配線がスイッチ回路1の高周波スイッチング雑音を受信し難くなる。これにより、スイッチング動作する第1の半導体素子21への駆動信号に重畳される雑音が低減される。その結果、D級電力変換器10は、誤作動の無い安定なスイッチング動作が可能となる。
【0077】
また、第一の実施形態に係るD級電力変換器10によれば、第1の絶縁型電源回路41には、出力側からのフィードバック信号が入力されない。このため、フィードバック信号に重畳される高周波スイッチング雑音が入力されない。これにより、D級電力変換器10は、誤動作のない安定な動作が可能となる。
【0078】
また、第一の実施形態に係るD級電力変換器10によれば、第1の絶縁型電源回路41は、第1の電源電圧VD1の電位を設定する出力電圧可変回路を有する。これにより、D級電力変換器10は、第1の電源電圧VD1を調整して、第1の電源電圧VD1がスイッチ回路1の最適駆動条件となるように対応することができる。
【0079】
(第二の実施形態)
以下、第二の実施形態に係るD級電力変換器について説明する。ここでは、第二の実施形態に係るD級電力変換器について、第一の実施形態に係るD級電力変換器10の構成要素と同様の構成要素については、既に説明済みであるとして同じ符号を振ってその詳細な説明を省略する。
【0080】
図3は、第二の実施形態に係るD級電力変換器10Aの回路構成例を示すブロック図である。
【0081】
図3に示すように、第二の実施形態に係るD級電力変換器10Aは、第一の実施形態に係るD級電力変換器10に対して、第1の絶縁型電源回路41と第1の駆動回路31との間の第1の電源電圧VD1を伝達する経路に第1の雑音除去回路71が追加され、第2の絶縁型電源回路42と第2の駆動回路32との間の第2の電源電圧VD2を伝達する経路に第2の雑音除去回路72が追加され、制御基板3が制御基板3aに変更されて構成される。
【0082】
制御基板3aは、第1の絶縁型電源回路41と、第2の絶縁型電源回路42と、第1の信号発生器51と、第2の信号発生器52と、第1の絶縁信号変換器61と、第2の絶縁信号変換器62とに加えて、第1の雑音除去回路71と、第2の雑音除去回路72とを搭載する単一の回路基板である。
【0083】
発明者らの検討によると、D級電力変換器10Aにおいて、第1の絶縁型電源回路41から第2の絶縁型電源回路42から第1の駆動回路31又は第2の駆動回路32への電源供給経路に重畳される高周波スイッチング雑音の低減、特に、第1の絶縁型電源回路41から第1の駆動回路31への電源供給経路に重畳される高周波スイッチング雑音の低減が、D級電力変換器10Aにおける安定なスイッチング動作に有効であった。
【0084】
以下、第1の雑音除去回路71と第2の雑音除去回路72とについて、図面を参照しながら説明する。
【0085】
図4は、第1の雑音除去回路71の回路構成例を示すブロック図である。
【0086】
第1の雑音除去回路71と第2の雑音除去回路72とは互いに同様の回路である。このため、ここでは、第1の雑音除去回路71を説明することで、第1の雑音除去回路71と第2の雑音除去回路72との双方を説明することとする。
【0087】
図4に示すように、第1の雑音除去回路71は、ダイオード700と、抵抗701と、バイパスコンデンサ702と、バイパスコンデンサ703とを有する。
【0088】
図4に示すように、第1の雑音除去回路71において、整流素子であるダイオード700と、抵抗性素子である抵抗701とが、第1の電源電圧VD1を伝達する経路において直列接続されている。このため、ダイオード700により、第1の電源電圧VD1を伝達する経路に重畳される高周波スイッチング雑音の逆流成分が遮断されると共に、抵抗701により、その振幅が抑制される。
【0089】
図4に示すように、第1の雑音除去回路71において、第1の電源電圧VD1を伝達する経路における第1の絶縁型電源回路41の出力端側にバイパスコンデンサ702が配置され、第1の電源電圧VD1を伝達する経路における第1の駆動回路31の入力端側に、バイパスコンデンサ703が配置されている。このため、バイパスコンデンサ702及びバイパスコンデンサ703により、第1の電源電圧VD1を伝達する経路に重畳される高周波スイッチング雑音が吸収される。
【0090】
上記の、ダイオード700と抵抗701との直列接続、バイパスコンデンサ702及びバイパスコンデンサ703の配置は、第1の電源電圧VD1を伝達する経路に重畳されるノーマルモードの高周波スイッチング雑音の対策である。
【0091】
以上説明したように、第二の実施形態に係るD級電力変換器10Aによれば、第1の雑音除去回路71により、第1の電源電圧VD1を伝達する経路に重畳されるノーマルモードの高周波スイッチング雑音が抑制される。また、第2の雑音除去回路72により、第2の電源電圧VD2を伝達する経路に重畳されるノーマルモードの高周波スイッチング雑音が抑制される。これにより、D級電力変換器10Aは、誤作動の無い安定なスイッチング動作が可能となる。
【0092】
(第三の実施形態)
以下、第三の実施形態に係るD級電力変換器について説明する。ここでは、第三の実施形態に係るD級電力変換器について、第二の実施形態に係るD級電力変換器10Aの構成要素と同様の構成要素については、既に説明済みであるとして同じ符号を振ってその詳細な説明を省略する。
【0093】
図5は、第三の実施形態に係るD級電力変換器10Bの回路構成例を示すブロック図である。
【0094】
図5に示すように、第三の実施形態に係るD級電力変換器10Bは、第二の実施形態に係るD級電力変換器10Aに対して、第1の絶縁型電源回路41の入力側にコモンモードチョーク81が追加され、第2の絶縁型電源回路42の入力側にコモンモードチョーク82が追加され、制御基板3aが制御基板3bに変更され、放熱基板2が放熱基板2bに変更されて構成される。
【0095】
制御基板3bは、第1の絶縁型電源回路41と、第2の絶縁型電源回路42と、第1の信号発生器51と、第2の信号発生器52と、第1の絶縁信号変換器61と、第2の絶縁信号変換器62と、第1の雑音除去回路71と、第2の雑音除去回路72とに加えて、コモンモードチョーク81と、コモンモードチョーク82と、第1の駆動回路31と、第2の駆動回路32とを搭載する単一の回路基板である。
【0096】
放熱基板2bは、スイッチ回路1を搭載する放熱性に優れた回路基板である。
【0097】
発明者らの検討によると、以下の(a)及び(b)により、D級電力変換器10Bから放射される、高周波スイッチングによる放射雑音を低減できることがわかった。
(a)第1の駆動回路31と、第1の雑音除去回路71と、第1の絶縁型電源回路41と、第1の絶縁信号変換器61とからなる構成要素群(以下、「第1の構成要素群」とも称する。)の体積及び回路基板上の占有面積を小さくすること。
(b)第2の駆動回路32と、第2の雑音除去回路72と、第2の絶縁型電源回路42と、第2の絶縁信号変換器62とからなる構成要素群(以下、「第2の構成要素群」とも称する。)の体積及び回路基板上の占有面積を小さくすること。
【0098】
図5に示すように、D級電力変換器10Bでは、第1の構成要素群及び第2の構成要素群は、同一の回路基板である制御基板3bに搭載される。このため、D級電力変換器10Bにおいて、第1の構成要素群の体積及び回路基板上の占有面積を小さくすること、及び、第2の構成要素群の体積及び回路基板上の占有面積を小さくすることができる。これにより、D級電力変換器10Bから放射される、高周波スイッチングによる放射雑音が低減される。第1の半導体素子21は、D級電力変換器10Bのグラウンド電位に対して高周波大振幅で電位変動する。また、ハイサイド側の駆動系は、第1の半導体素子21を駆動する。それゆえ、ハイサイド側の駆動系を構成する第1の構成要素群の体積及び回路基板上の占有面積を小さくすることが、D級電力変換器10Bから放射される、高周波スイッチングによる放射雑音の低減に特に有効である。
【0099】
図5に示すように、D級電力変換器10Bにおいて、第1の絶縁型電源回路41に直流入力電圧Vccを伝達する経路に、コモンモードチョーク81が配置されている。また、第2の絶縁型電源回路42に直流入力電圧Vccを伝達する経路に、コモンモードチョーク82が配置されている。このため、コモンモードチョーク81及びコモンモードチョーク82により、直流入力電圧Vccを伝達する経路に重畳されるコモンモードの高周波スイッチング雑音が抑制される。
【0100】
以上説明したように、第三の実施形態に係るD級電力変換器10Bによれば、D級電力変換器10Bから放射される、高周波スイッチングによる放射雑音が低減される。これにより、D級電力変換器10Bから放射される、高周波スイッチングによる放射雑音による、D級電力変換器10B自身及び外部の周辺回路への悪影響が低減される。
【0101】
また、第三の実施形態に係るD級電力変換器10Bによれば、コモンモードチョーク81及びコモンモードチョーク82により、直流入力電圧Vccを伝達する経路に重畳されるコモンモードの高周波スイッチング雑音が抑制される。これにより、D級電力変換器10Bは、誤作動の無い安定なスイッチング動作が可能となる。
【0102】
(第四の実施形態)
以下、第四の実施形態に係るD級電力変換器について説明する。
【0103】
第四の実施形態に係るD級電力変換器の回路構成は、第一の実施形態に係るD級電力変換器10と同様である。一方で、第四の実施形態に係るD級電力変換器は、その物理的構造に特徴がある。このため、ここでは、第四の実施形態に係るD級電力変換について、その物理的構造を中心に説明する。また、ここでは、第四の実施形態に係るD級電力変換の構成要素について、第一の実施形態において説明した内容に追加する形で説明する。
【0104】
図6は、第四の実施形態に係るD級電力変換器10Cの物理的構造例を示す模式図である。以下の説明において、左右という表現は、
図6を平面視した場合における左右を意味する。
【0105】
図6に示すように、放熱基板2の表面に、第1の半導体素子21と、第2の半導体素子22と、第1の駆動回路31と、第2の駆動回路32とが配置される。
【0106】
放熱基板2の表面右側に、入力端子2001と、出力端子2002と、GND端子2003とが配置される。入力端子2001は、第1の半導体素子21のドレインに接続される。出力端子2002は、第1の半導体素子21のソースと第2の半導体素子22のドレインとの接続点に接続される。GND端子2003は、第2の半導体素子22のソースに接続される。放熱基板2の表面左側に、第1の電源端子2004と、第1のコモン端子2005と、第1の駆動信号端子2006と、第1の駆動信号端子2007と、第2の駆動信号端子2008と、第2の駆動信号端子2009と、第2の電源端子2010と、第2のコモン端子2011とが配置される。第1の電源端子2004は、第1の駆動回路31に第1の電源電圧VD1を供給するための端子である。第1のコモン端子2005は、第1の駆動回路31にコモン電圧を供給するための端子である。第1の駆動信号端子2006及び第1の駆動信号端子2007は、第1の駆動回路31に第1の駆動信号DR12を供給するための端子である。第2の電源端子2010は、第2の駆動回路32に第2の電源電圧VD2を供給するための端子である。第2のコモン端子2011は、第2の駆動回路32にコモン電圧を供給するための端子である。第2の駆動信号端子2008及び第2の駆動信号端子2009は、第2の駆動回路32に第2の駆動信号DR22を供給するための端子である。
【0107】
また、放熱基板2の表面に、配線パターン2101と、配線パターン2102と、配線パターン2107と、配線パターン2108とが配置される。配線パターン2101は、第1の電源端子2004と第1の駆動回路31とを接続する。配線パターン2102は、第1のコモン端子2005と第1の駆動回路31とを接続する。配線パターン2107は、第2の電源端子2010と第2の駆動回路32とを接続する。配線パターン2108は、第2のコモン端子2011と第2の駆動回路32とを接続する。放熱基板2の裏面に、配線パターン2103と、配線パターン2104と、配線パターン2105と、配線パターン2106とが配置される。配線パターン2103は、第1の駆動信号端子2006と第1の駆動回路31とを接続する。配線パターン2104は、第1の駆動信号端子2007と第1の駆動回路31とを接続する。配線パターン2105は、第2の駆動信号端子2008と第2の駆動回路32とを接続する。配線パターン2106は、第2の駆動信号端子2009と第2の駆動回路32とを接続する。
図6に示すように、制御基板3の表面に、第1の信号発生器51と、第2の信号発生器52と、第1の絶縁型電源回路41と、第1の絶縁信号変換器61と、第2の絶縁信号変換器62と、第2の絶縁型電源回路42とが配置される。
【0108】
ここで、第1の絶縁型電源回路41と、第1の絶縁信号変換器61と、第2の絶縁信号変換器62と、第2の絶縁型電源回路42とは、
図6に示すように、直線状に配置される。第1の絶縁型電源回路41と、第1の絶縁信号変換器61と、第2の絶縁信号変換器62と、第2の絶縁型電源回路42とが直線状に配置されることにより、各回路間の絶縁距離を確保することができる。それとともに、第1の絶縁型電源回路41と、第1の絶縁信号変換器61と、第2の絶縁信号変換器62と、第2の絶縁型電源回路42とによる制御基板3上の占有面積を低減することができる。すなわち、制御基板3の面積を低減することができる。
【0109】
制御基板3の表面右側に、第1の電源端子3004と、第1のコモン端子3005と、第1の駆動信号端子3006と、第1の駆動信号端子3007と、第2の駆動信号端子3008と、第2の駆動信号端子3009と、第2の電源端子3010と、第2のコモン端子3011とが配置される。第1の電源端子3004は、第1の駆動回路31に第1の電源電圧VD1を供給するための端子である。第1のコモン端子3005は、第1の駆動回路31にコモン電圧を供給するための端子である。第1の駆動信号端子3006及び第1の駆動信号端子3007は、第1の駆動回路31に第1の駆動信号DR12を供給するための端子である。第2の電源端子3010は、第2の駆動回路32に第2の電源電圧VD2を供給するための端子である。第2のコモン端子3011は、第2の駆動回路32にコモン電圧を供給するための端子である。第2の駆動信号端子3008及び第2の駆動信号端子3009は、第2の駆動回路32に第2の駆動信号DR22を供給するための端子である。ここで、第1の電源端子3004と、第1のコモン端子3005と、第1の駆動信号端子3006と、第1の駆動信号端子3007と、第2の電源端子3010と、第2のコモン端子3011と、第2の駆動信号端子3008と、第2の駆動信号端子2009とは、それぞれ、第1の電源端子2004と、第1のコモン端子2005と、第1の駆動信号端子2006と、第1の駆動信号端子2007と、第2の電源端子2010と、第2のコモン端子2011と、第2の駆動信号端子2008と、第2の駆動信号端子2009とに対峙する位置に配置される。そして、第1の電源端子3004と第1の電源端子2004とがはんだにより接合される。第1のコモン端子3005と第1のコモン端子2005とがはんだにより接合される。第1の駆動信号端子3006と第1の駆動信号端子2006とがはんだにより接合される。第1の駆動信号端子3007と第1の駆動信号端子2007とがはんだにより接合される。第2の電源端子3010と第2の電源端子2010とがはんだにより接合される。第2のコモン端子3011と第2のコモン端子2011とがはんだにより接合される。第2の駆動信号端子3008と第2の駆動信号端子2008とがはんだにより接合される。第2の駆動信号端子3009と第2の駆動信号端子2009とがはんだにより接合される。
【0110】
また、制御基板3の表面に、配線パターン3101と、配線パターン3102と、配線パターン3103と、配線パターン3104と、配線パターン3105と、配線パターン3106と、配線パターン3107と、配線パターン3108とが配置される。配線パターン3101は、第1の絶縁型電源回路41と第1の電源端子3004とを接続する。配線パターン3102は、第1の絶縁型電源回路41と第1のコモン端子3005とを接続する。配線パターン3103は、第1の絶縁信号変換器61と第1の駆動信号端子3006とを接続する。配線パターン3104は、第1の絶縁信号変換器61と第1の駆動信号端子3007とを接続する。配線パターン3107は、第2の絶縁型電源回路42と第2の電源端子3010とを接続する。配線パターン3108は、第2の絶縁型電源回路42と第2のコモン端子3011とを接続する。配線パターン3105は、第2の絶縁信号変換器62と第2の駆動信号端子3008とを接続する。配線パターン3106は、第2の絶縁信号変換器62と第2の駆動信号端子3009とを接続する。
【0111】
D級電力変換器10Cは、第1の絶縁型電源回路41から第1の駆動回路31へ第1の電源電圧VD1を伝達する配線経路(以下、「第1の配線経路」とも称する。)が5cm以下である。第1の絶縁型電源回路41から第1の駆動回路31へコモン電圧を伝達する配線経路(以下、「第2の配線経路」とも称する。)が5cm以下である。第2の絶縁型電源回路42から第2の駆動回路32へ第2の電源電圧VD2を伝達する配線経路(以下、「第3の配線経路」とも称する。)が5cm以下である。第2の絶縁型電源回路42から第2の駆動回路32へコモン電圧を伝達する配線経路(以下、「第4の配線経路」とも称する。)が5cm以下である。
【0112】
具体的には、第1の配線経路は、配線パターン3101と、第1の電源端子3004と、第1の電源端子2004と、配線パターン2101とからなる配線経路である。第2の配線経路は、配線パターン3102と、第1のコモン端子3005と、第1のコモン端子2005と、配線パターン2102とからなる配線経路である。第3の配線経路は、配線パターン3107と、第2の電源端子3010と、第2の電源端子2010と、配線パターン2107とからなる配線経路である。第4の配線経路は、配線パターン3108と、第2のコモン端子3011と、第2のコモン端子2011と、配線パターン2108とからなる配線経路である。
【0113】
上記構成のD級電力変換器10Cは、第一の実施形態に係るD級電力変換器10と同様に、100V以上の直流電圧Eiが印加され、1kW以上の交流電圧であるパルス電圧Voを出力し、スイッチング周波数は6MHz以上である。
【0114】
以下、D級電力変換器10Cにおいて、第1の配線経路、第2の配線経路、第3の配線経路、及び、第4の配線経路を5cm以下としている理由について説明する。
【0115】
図7は、波高値が100V、時比率が0.25となるパルスを出力させるように、半導体素子を高速スイッチングさせた際のスイッチング波形のフーリエ解析結果を示す図である。
【0116】
図7に示すように、横軸は周波数で、縦軸はパワースペクトルとなっている。ここで、パワースペクトルが0dBVである状態は、振幅が1Vである状態、すなわち、波高値の1/100のレベルに相当する。
【0117】
図7において、折れ線(a)は、スイッチング周波数が4MHzであり、最高スイッチング速度が30V/nsである場合における、周波数とパワースペクトルとの関係を示す折れ線である。
【0118】
折れ線(b)は、スイッチング周波数が6MHzであり、最高スイッチング速度が30V/nsである場合における、周波数とパワースペクトルとの関係を示す折れ線である。
【0119】
折れ線(c)は、スイッチング周波数が4MHzであり、最高スイッチング速度が90V/nsである場合における、周波数とパワースペクトルとの関係を示す折れ線である。
【0120】
折れ線(d)は、スイッチング周波数が6MHzであり、最高スイッチング速度が90V/nsである場合における、周波数とパワースペクトルとの関係を示す折れ線である。
【0121】
発明者らの検討によると、第1の配線経路、第2の配線経路、第3の配線経路、及び、第4の配線経路を任意の長さとする場合において、波高値が100V、時比率が0.25となるパルスを出力させるように第1の半導体素子21及び第2の半導体素子22を高速スイッチングさせるときには、最高スイッチング速度が50V/ns以下(例えば、30V/ns)であるか、スイッチング周波数が4MHzであれば、高周波スイッチング雑音の影響によるD級電力変換器10Cの誤動作が発生しないことがわかった。
【0122】
一方で、第1の配線経路、第2の配線経路、第3の配線経路、及び、第4の配線経路を任意の長さとする場合において、波高値が100V、時比率が0.25となるパルスを出力させるように第1の半導体素子21及び第2の半導体素子22を高速スイッチングさせるときには、最高スイッチング速度が50V/ns以上(例えば、90V/ns)であり、かつ、スイッチング周波数が6MHz以上であれば、高周波スイッチング雑音の影響によるD級電力変換器10Cの誤動作が発生することがわかった。
【0123】
図7から、折れ線(a)、折れ線(b)、折れ線(c)は、130MHz~175MHzの周波数領域において、パワースペクトルが、波高値の1/100以下のレベルであることが読み取れる。また、折れ線(d)は、130MHz~175MHzの周波数領域において、パワースペクトルが、波高値の1/100以上のレベルであることが読み取れる。これらことから、発明者らは、最高スイッチング速度が50V/ns以上であり、かつ、スイッチング周波数が6MHz以上である場合に発生する、高周波スイッチング雑音の影響によるD級電力変換器10Cの誤動作の原因が、D級電力変換器10Cから輻射される、130MHz~175MHzの周波数領域の雑音であると考えた。そして、発明者らは、この考えに基づいてさらに検討を重ねることで、第1の配線経路、第2の配線経路、第3の配線経路、及び、第4の配線経路の長さが、175MHz以下の周波数帯の電磁波に対する受信アンテナとならない長さにすることで、最高スイッチング速度が50V/ns以上であり、かつ、スイッチング周波数が6MHz以上である場合に発生する高周波スイッチング雑音の影響によるD級電力変換器10Cの誤動作を抑制できるという知見に想到した。
【0124】
制御基板3上での175MHzの電磁波の波長λ1は、光速を3×108m/s、基板の比誘電率を4.6とすると、
【0125】
【0126】
となる。
【0127】
この波長λ1を受信するアンテナ長は、λ1/4=20cmとなる。そして、この波長λ1を受信するアンテナとならない長さは、アンテナ長の1/4以下、すなわち、20cm/4=5cmである。
【0128】
これらのことから、発明者らは、D級電力変換器10Cにおいて、第1の配線経路、第2の配線経路、第3の配線経路、及び、第4の配線経路の長さを5cm以下に設定した。これにより、D級電力変換器10Cは、最高スイッチング速度が50V/ns以上であり、かつ、スイッチング周波数が6MHz以上である場合においても、誤作動の無い安定なスイッチング動作が可能となる。
【0129】
以上説明したように、第四の実施形態に係るD級電力変換器10Cによれば、第1の絶縁型電源回路41と、第1の絶縁信号変換器61と、第2の絶縁信号変換器62と、第2の絶縁型電源回路42とが直線状に配置される。これにより、D級電力変換器10Cは、絶縁距離を確保しながら、第1の絶縁型電源回路41と、第1の絶縁信号変換器61と、第2の絶縁信号変換器62と、第2の絶縁型電源回路42との制御基板3上の占有面積を低減することができる。すなわち、制御基板3の面積を低減することができる。
【0130】
また、第四の実施形態に係るD級電力変換器10Cによれば、第1の配線経路、第2の配線経路、第3の配線経路、及び、第4の配線経路の長さが5cm以下である。このため、第1の配線経路、第2の配線経路、第3の配線経路、及び、第4の配線経路は、175MHz以下の周波数帯の電磁波に対する受信アンテナとならない。これにより、最高スイッチング速度が50V/ns以上であり、かつ、スイッチング周波数が6MHz以上である場合に発生する高周波スイッチング雑音の影響によるD級電力変換器10Cの誤動作が抑制されるため、D級電力変換器10Cは、誤作動の無い安定なスイッチング動作が可能となる。
【0131】
(第五の実施形態)
以下、第五の実施形態に係るD級電力変換器について説明する。
【0132】
第五の実施形態に係るD級電力変換器の回路構成は、第一の実施形態に係るD級電力変換器10、及び、第四の実施形態に係るD級電力変換器10Cと同様である。一方で、第五の実施形態に係るD級電力変換器は、第四の実施形態に係るD級電力変換器10Cから、制御基板3が、第五の実施形態に係る制御基板3dに変更され、制御基板3における配線パターンの一部の物理的構造が変更されて構成される。このため、ここでは、第五の実施形態に係るD級電力変換器について、第五の実施形態に係る制御基板3d、及び、第五の実施形態に係る制御基板における配線パターンの、上記一部の物理的構造を中心に説明する。
【0133】
図8は、第五の実施形態に係る制御基板3dの物理的構成例を示す模式図である。
図9は、制御基板3dを
図8のIX-IX線において切断した場合の、制御基板3dの拡大断面図である。
【0134】
図9に示すように、制御基板3dは、表面と、内層と、裏面とに配線パターンを形成することができる多層(ここでは3層)回路基板である。
【0135】
図8及び
図9に示すように、制御基板3dの内層に、配線パターン3201と、配線パターン3203と、配線パターン3204と、配線パターン3205と、配線パターン3206と、配線パターン3207とが配置される。配線パターン3201は、第1の絶縁型電源回路41と第1の電源端子3004とを接続する。配線パターン3203は、第1の絶縁信号変換器61と第1の駆動信号端子3006とを接続する。配線パターン3204は、第1の絶縁信号変換器61と第1の駆動信号端子3007とを接続する。配線パターン3207は、第2の絶縁型電源回路42と第2の電源端子3010とを接続する。配線パターン3205は、第2の絶縁信号変換器62と第2の駆動信号端子3008とを接続する。配線パターン3206は、第2の絶縁信号変換器62と第2の駆動信号端子3009とを接続する。
【0136】
また、制御基板3dの表面及び裏面に、配線パターン3202a、配線パターン3202b、配線パターン3208a及び配線パターン3208bが形成される。配線パターン3202a及び配線パターン3202bは、第1の絶縁型電源回路41と第1のコモン端子3005とを接続する配線パターンである。また、配線パターン3202a及び配線パターン3202bは、配線パターン3201と配線パターン3203と配線パターン3204とを表面側及び裏面側から挟むように形成されている。配線パターン3208a及び配線パターン3208bは、第2の絶縁型電源回路42と第2のコモン端子3011とを接続する配線パターンである。配線パターン3208a及び配線パターン3208bは、配線パターン3205と配線パターン3206と配線パターン3207とを表面側及び裏面側から挟むように形成されている。
【0137】
上記制御基板3dの構成により、配線パターン3202a及び配線パターン3202bは、配線パターン3201と配線パターン3203と配線パターン3204との少なくとも一部をシールドするシールド構造体として機能する。これにより、配線パターン3201と配線パターン3203と配線パターン3204とへの外来雑音(例えば、高周波スイッチング雑音)による影響が低減される。また、配線パターン3208a及び配線パターン3208bは、配線パターン3205と配線パターン3206と配線パターン3207との少なくとも一部をシールドするシールド構造体として機能する。これにより、配線パターン3205と配線パターン3206と配線パターン3207とへの外来雑音(例えば、高周波スイッチング雑音)による影響が低減される。
【0138】
従って、第五の実施形態に係るD級電力変換器によれば、外来雑音による誤動作が抑制され、誤動作のない安定なスイッチング動作が可能となる。
【0139】
(補足)
以上のように、本出願において開示する技術の例示として、第一の実施形態から第五の実施形態について説明した。しかしながら、本開示による技術は、これらに限定されず、本開示の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更、置き換え、付加、省略等を行った実施の形態にも適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0140】
本開示は、D級電力変換器に広く利用可能である。
【符号の説明】
【0141】
1 スイッチ回路
2、2b 放熱基板
3、3a、3b、3d 制御基板(単一基板)
10、10A、10B、10C D級電力変換器
21 第1の半導体素子
22 第2の半導体素子
31 第1の駆動回路
32 第2の駆動回路
41 第1の絶縁型電源回路
42 第2の絶縁型電源回路
51 第1の信号発生器
52 第2の信号発生器
61 第1の絶縁信号変換器
62 第2の絶縁信号変換器
71 第1の雑音除去回路
72 第2の雑音除去回路
81、82 コモンモードチョーク
100 トランス
101 1次巻線
102、104 2次巻線
103 バイアス巻線
110 スイッチング素子
120、133、140、700 ダイオード
121、132、141 コンデンサ
130 制御駆動回路
131 起動抵抗
134 鋸歯状回路
135 PWM比較器
136 増幅器
701 抵抗
702、703 バイパスコンデンサ
2001 入力端子
2002 出力端子
2003 GND端子
2004、3004 第1の電源端子
2005、3005 第1のコモン端子
2006、2007、3006、3007 第1の駆動信号端子
2008、2009、3008、3009 第2の駆動信号端子
2010、3010 第2の電源端子
2011、3011 第2のコモン端子
2101、2102、2103、2104、2105、2106、2107、2108、3101、3102、3103、3104、3105、3106、3107、3108、3201、3202a、3202b、3203、3204、3205、3206、3207、3208a、3208b 配線パターン