(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-07
(45)【発行日】2024-11-15
(54)【発明の名称】膜電極接合体、固体酸化物形燃料電池、および電気化学デバイス
(51)【国際特許分類】
H01M 8/1213 20160101AFI20241108BHJP
H01M 4/90 20060101ALI20241108BHJP
H01M 8/12 20160101ALI20241108BHJP
H01M 8/1246 20160101ALI20241108BHJP
H01M 8/1253 20160101ALI20241108BHJP
【FI】
H01M8/1213
H01M4/90 X
H01M8/12 101
H01M8/12 102A
H01M8/1246
H01M8/1253
(21)【出願番号】P 2021515860
(86)(22)【出願日】2020-03-09
(86)【国際出願番号】 JP2020010048
(87)【国際公開番号】W WO2020217743
(87)【国際公開日】2020-10-29
【審査請求日】2022-12-23
(31)【優先権主張番号】P 2019086176
(32)【優先日】2019-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019155385
(32)【優先日】2019-08-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】見神 祐一
(72)【発明者】
【氏名】後藤 丈人
(72)【発明者】
【氏名】尾沼 重徳
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 英昭
(72)【発明者】
【氏名】黒羽 智宏
【審査官】高木 康晴
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-100137(JP,A)
【文献】特開2019-185884(JP,A)
【文献】特開2019-175733(JP,A)
【文献】国際公開第2018/230247(WO,A1)
【文献】特開2015-149245(JP,A)
【文献】特開2009-035447(JP,A)
【文献】特開昭64-014872(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/12
H01M 4/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロトン伝導性を有する酸化物を含む電解質膜と、
前記電解質膜上に設けられ、ランタンストロンチウムコバルト鉄複合酸化物を含む電極と、を備え、
前記ランタンストロンチウムコバルト鉄複合酸化物は、以下の組成式で示される、膜電極接合体。
La
1-m
Sr
m
Co
n
Fe
1-n
O
3-
δ(0.35≦n≦0.6、0≦m≦0.5、0≦δ≦0.5)
【請求項2】
前記電解質膜と前記電極とは、接して配置されている、
請求項1に記載の膜電極接合体。
【請求項3】
前記電解質膜は、BaZr
1-x1M1
x1O
3-γ、BaCe
1-x2M2
x2O
3-γ、およびBaZr
1-x3-y3Ce
x3M3
y3O
3-γからなる群より選ばれる少なくとも1つの化合物を含み、
M1、M2、およびM3は、それぞれ独立して、La、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Y、Sc、Mn、Fe、Co、Ni、Al、Ga、In、およびLuからなる群より選ばれる少なくとも1つの元素であり、
x1が0<x1<1を満たし、
x2が0<x2<1を満たし、
x3が0<x3<1を満たし、
y3が0<y3<1を満たし、かつ
γが0<γ≦0.5を満たす
請求項1または2に記載の膜電極接合体。
【請求項4】
前記電解質膜は、BaZr
1-x1Yb
x1O
3-γで表される化合物である、請求項3に記載の膜電極接合体。
【請求項5】
前記電極は、空気極である、
請求項1から4のいずれか1項に記載の膜電極接合体。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の膜電極接合体を有する、
固体酸化物形燃料電池。
【請求項7】
請求項1から5のいずれか1項に記載の膜電極接合体を有する、
電気化学デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、膜電極接合体、固体酸化物形燃料電池、および電気化学デバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
固体酸化物からなる固体電解質を用いた電解質膜と、電極とを含む膜電極接合体を備える電気化学デバイスとして、例えば、固体酸化物形燃料電池、水電解セル、および水蒸気電解セルが知られている。電気化学デバイスの固体電解質には、安定化ジルコニアに代表される酸化物イオン(O2-)伝導体が広く用いられている。酸化物イオン伝導体は、低温ほどイオン導電率が低下する。このため、例えば、安定化ジルコニアを固体電解質に用いた固体酸化物形燃料電池の動作温度は、700℃以上が望ましい。動作温度は、特に700℃以上1000℃以下の範囲の温度となることが望ましい。
【0003】
ところで、安定化ジルコニアを固体電解質に用いた固体酸化物形燃料電池において、最も一般的な空気極材料としてランタンストロンチウムコバルト鉄複合酸化物が用いられる。これはLa1-mSrmConFe1-nO3-δの組成式で表され(0<m<1、0<n<1、δは酸素欠損量を表し、0≦δ≦0.5)、m=0.4、n=0.2のLa0.6Sr0.4Co0.2Fe0.8O3-δが好適とされる。これは、700℃以上で動作する際に、空気極における電極反応(O2+4e-→2O2-)の反応抵抗が小さく、発電効率が高められること、高温でも材料が比較的安定であること、固体電解質との熱膨張係数差が小さく起動停止の昇降温時における電極の剥離を抑制できることなど、が理由である。
【0004】
しかし、電気化学デバイスの動作温度が700℃以上と高温となる場合、製造コストが上昇する課題がある。つまり、動作温度が700℃以上と高温となる場合、大きな厚みを有する高性能な断熱材で電気化学デバイスの外周を覆う必要がある。その結果、製造コストが高くなる。さらに、この電気化学デバイスを含むシステムの構成部材に高価な特殊耐熱金属が必要となるため、システム全体でも製造コストが上昇する。
【0005】
また、システムの起動および停止の際、構成部材の熱膨張の違いによってクラックが生じ易くなり、システムの信頼性が低下するという課題がある。そのほか、起動時間が長くなったり起動時に必要となるエネルギーが増大したりする課題もある。
【0006】
そのため、固体酸化物からなる固体電解質を用いた固体酸化物形燃料電池などの電気化学デバイスの動作温度の低温化は、その実用化において大きな目標の一つとなっている。そこで、動作温度を600℃以下、特に350℃以上600℃以下とすることができる、プロトン伝導体を固体電解質に用いた固体酸化物形燃料電池が注目されている。
【0007】
ところで、プロトン伝導体を固体電解質に用いた固体酸化物形燃料電池では、発電時に空気極で生じる反応(O2+4H++4e-→2H2O)により水蒸気が生成される。このため、空気極における水蒸気の影響を考慮する必要がある。
【0008】
例えば、非特許文献1では、空気極材料として用いられるランタンストロンチウムコバルト鉄複合酸化物またはランタンストロンチウムコバルト複合酸化物に関して、空気中の水蒸気に対する安定性について触れられている。つまり、空気中の水蒸気の存在によって、ランタンストロンチウムコバルト鉄複合酸化物およびランタンストロンチウムコバルト酸化物の分解が生じることが示されている。特に、Coを多く含むランタンストロンチウムコバルト酸化物の場合に、耐水蒸気安定性の低下が顕著である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【文献】I.Kivi et. al., “Influence of humidified synthetic air feeding conditions on the stoichiometry of (La1-xSrx)yCoO3-δ and La0.6Sr0.4Co0.2Fe0.8O3-δ cathodes under applied potential measured by electrochemical in situ high-temperature XRD method” J Solid State Electrochem, 2017, 21, 361-369
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、従来では、プロトン伝導性を有する固体電解質を用いた電解質膜と、電極とを含む膜電極接合体において、600℃以下となる動作温度での反応効率および耐水蒸気安定性について十分な検討がなされていなかった。
【0011】
そこで、本開示では、600℃以下となる動作温度において、高い反応効率と耐水蒸気安定性とを有する膜電極接合体、固体酸化物形燃料電池、および電気化学デバイスを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本開示の膜電極接合体の一態様は、プロトン伝導性を有する酸化物を含む電解質膜と、前記電解質膜上に設けられ、ランタンストロンチウムコバルト鉄複合酸化物を含む電極と、を備え、前記電極における、コバルトのモル数と鉄のモル数との和に対する、該コバルトのモル数の比が、0.35以上0.6以下の範囲の値となる。
【0013】
本開示の固体酸化物形燃料電池の一態様は、プロトン伝導性を有する酸化物を含む電解質膜と、前記電解質膜上に設けられ、ランタンストロンチウムコバルト鉄複合酸化物を含む電極と、を備え、前記電極における、コバルトのモル数と鉄のモル数との和に対する、該コバルトのモル数の比が、0.35以上0.6以下の範囲の値となる膜電極接合体を有する。
【0014】
本開示の電気化学デバイスの一態様は、プロトン伝導性を有する酸化物を含む電解質膜と、前記電解質膜上に設けられ、ランタンストロンチウムコバルト鉄複合酸化物を含む電極と、を備え、前記電極における、コバルトのモル数と鉄のモル数との和に対する、該コバルトのモル数の比が、0.35以上0.6以下の範囲の値となる膜電極接合体を有する。
【発明の効果】
【0015】
本開示は以上に説明したように構成され、600℃以下となる動作温度において、高い反応効率と耐水蒸気安定性とを有するという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本開示の第1実施形態に係る電気化学デバイスが備える膜電極接合体の構成を模式的に示す断面図である。
【
図2】
図2は、本開示の第2実施形態に係る電気化学デバイスが備える膜電極接合体の構成を模式的に示す断面図である。
【
図3】
図3は、本開示の実施例2および3に係るLSCF、ならびに比較例1~4に係るLSCFに関するX線回折法による測定結果を示すグラフである。
【
図4】
図4は、本開示の実施例における交流インピーダンス測定結果の一例をコールコールプロットによって示す図である。
【
図5】
図5は、本開示の実施例1~3および比較例1~4に係る空気極のCoとFeとのモル数の和に対するCoのモル比と、反応抵抗との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(本開示の一形態を得るに至った経緯)
安定化ジルコニアを電解質膜として用いた膜電極接合体を、その動作温度を600℃で用いた場合、電解質膜のオーミック抵抗が大きくなる。このため、例えば、この膜電極接合体を有した固体酸化物形燃料電池では、発電効率が低下する。これは、安定化ジルコニア中における酸化物イオン伝導の活性化エネルギーが大きく、600℃以下の温度帯では酸化物イオン伝導性が著しく低下するからである。
【0018】
また、安定化ジルコニアを電解質膜として用いた膜電極接合体を有した固体酸化物形燃料電池において、従来から用いられている一般的な空気極であるLa0.6Sr0.4Co0.2Fe0.8O3-δ(δは酸素欠損量。0≦δ≦0.5)は、600℃で動作する場合、700℃で動作する場合と比べて反応抵抗が大きくなるため発電効率の低下に繋がる。
【0019】
なお、良好な発電効率を得るためには、空気極で生じる反応抵抗は、例えば固体酸化物形燃料電池で電流を印加しない開回路状態での電圧が1.0V.電流密度0.2A/cm2以上であり、動作時において実際に得られる電圧を0.7V以上、電解質のオーミック抵抗を0.1Ωcm2としたとき、1.4Ωcm2より小さくなる必要がある。
【0020】
そこで、600℃以下の動作温度でオーミック抵抗を低減できる電解質膜の材料として、プロトン伝導体を用いることが提案されている。このプロトン伝導体の中でも、バリウムジルコネート系酸化物、バリウムセレート系酸化物、バリウムジルコネートセレート系酸化物は高いプロトン伝導性を示すことで知られている。例えば、BaZr0.8Y0.2O3またはBaZr0.8Yb0.2O3は、600℃で1.0×10-2S/cm以上の高いプロトン伝導性を有する。
【0021】
ところでプロトン伝導体を電解質膜に用いた膜電極接合体では、電極の耐水蒸気安定性が重要となる。例えばプロトン伝導体を電解質膜に用いた膜電極接合体で固体酸化物形燃料電池を構成した場合、発電時において空気極で(O2+4H++4e-→2H2O)の反応により水蒸気が生成される。例えば、固体酸化物形燃料電池の発電時において空気利用率を30%とした場合、固体酸化物形燃料電池の出口空気の水蒸気濃度はおよそ12%となる。また、電極反応の局所では更に高い水蒸気濃度になる可能性もある。例えば、空気中の酸素(体積分率21%)がO2+4H+4e-→2H2Oの反応で全て水蒸気になった場合には出口空気における水蒸気の体積分率は約35%になる可能性がある。このように、プロトン伝導体を電解質膜に用いた膜電極接合体において、電極は高い水蒸気濃度の空気に晒される。したがって、耐水蒸気安定性の低い電極材料の場合、電極の分解が懸念される。
【0022】
ここで非特許文献1では、(La0.6Sr0.4)xCoO3-δ(0.99≦x≦1.01、0≦δ≦0.5)と、La0.6Sr0.4Co0.2Fe0.8O3-δ(0≦δ≦0.5)といった空気極材料に用いられる組成物の加湿空気に対する影響について開示されている。つまり、非特許文献1では通常の空気中における水蒸気濃度を想定して空気極材料に対する水蒸気の影響について報告されている。しかしながら、非特許文献1では、プロトン伝導体を電解質膜に用いた膜電極接合体の運転条件下(例えば600℃でかつ高水蒸気濃度(例えば、空気中における水蒸気の体積分率が35%))における電極材料に対する影響についての示唆はなされていない。
【0023】
そこで、本発明者らは、600℃以下の動作温度において、高い反応効率と耐水蒸気安定性とが両立できる膜電極接合体について鋭意検討を行った。なお、耐水蒸気安定性とは、高加湿な条件下においても組成が変わらない性質を意味するものとする。すなわち、600℃以下で高加湿な条件下では、電極(以下、「空気極」と記載することがある。)において、電極に含まれる物質と水との反応により、分解生成物が生じうる。そして、電極の組成が変化する場合がある。
【0024】
具体的には、プロトン伝導体を用いた電解質膜と、高い水蒸気安定性を維持しつつ反応抵抗を低減できる電極とを備えた膜電極接合体について検討した。そして、600℃以下の動作温度において、高い水蒸気安定性を維持しつつ反応抵抗を低減する電極を構成することが可能なランタンストロンチウムコバルト鉄複合酸化物におけるコバルト(Co)のモル数と鉄(Fe)のモル数の和に対するコバルト(Co)のモル比率を明らかにした。
【0025】
上記本発明者らの知見は、これまで明らかにされていなかったものであり、新規な構成の膜電極接合体、固体酸化物形燃料電池、および電気化学デバイスを示すものである。本開示では、具体的には以下に示す態様を提供する。
【0026】
本開示の第1の態様に係る膜電極接合体は、プロトン伝導性を有する酸化物を含む電解質膜と、前記電解質膜上に設けられ、ランタンストロンチウムコバルト鉄複合酸化物を含む電極と、を備え、前記電極における、コバルトのモル数と鉄のモル数との和に対する、該コバルトのモル数の比が、0.35以上0.6以下の範囲の値となる。
【0027】
上記構成によると、電極における、コバルトのモル数と鉄のモル数との和に対する、該コバルトのモル数の比が、0.35以上0.6以下の範囲の値となるため、例えば600℃以下となる、プロトン伝導体を固体電解質に用いた固体電解質形燃料電池の動作温度において、反応抵抗の低減による反応効率(すなわち、発電効率)の向上と、高い耐水蒸気安定性とを有することができる。
【0028】
本開示の第2の態様に係る膜電極接合体は、上記した第1の態様において、前記電解質膜と前記電極とは、接して配置されていてもよい。
【0029】
上記構成によると、電解質膜と電極とが接して配置された構成となっており反応抵抗を低減させることができるため反応効率を向上させることができる。
【0030】
本開示の第3の態様に係る膜電極接合体は、上記した第1または第2の態様において、前記電解質膜は、BaZr1-x1M1x1O3-γ、BaCe1-x2M2x2O3-γ、およびBaZr1-x3-y3Cex3M3y3O3-γからなる群より選ばれる少なくとも1つの化合物を含み、M1、M2、およびM3は、それぞれ独立して、La、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Y、Sc、Mn、Fe、Co、Ni、Al、Ga、In、およびLuからなる群より選ばれる少なくとも1つの元素であり、x1が0<x1<1を満たし、x2が0<x2<1を満たし、x3が0<x3<1を満たし、y3が0<y3<1を満たすように構成されていてもよい。また、γは酸素欠損量で、0<γ≦0.5である。
【0031】
上記構成によると、電解質膜が高いプロトン導電性を示すため、動作温度が600℃以下となる温度帯であっても膜電極接合体のオーミック抵抗を低減させることできる。このため、膜電極接合体を固体酸化物形燃料電池として利用する場合、動作温度が600℃以下となる温度帯であっても発電効率を向上させることができる。
【0032】
本開示の第4の態様に係る膜電極接合体は、上記した第3の態様において、前記電解質膜は、BaZr1-x1Ybx1O3-γで表される化合物であってもよい。
【0033】
上記構成によると、電解質膜は高いプロトン導電性を有し、かつ炭酸ガスへの高い耐久性を有することができる。このため、膜電極接合体を固体酸化物形燃料電池として利用する場合、動作温度が600℃以下となる温度帯であっても発電効率を向上させるとともに、炭酸ガスへの安定性を向上させることができる。
【0034】
本開示の第5の態様に係る膜電極接合体は、上記した第1から第4の態様のいずれか1つの態様において、前記電極は、空気極であってもよい。
【0035】
上記構成によると、膜電極接合体における空気極として電極反応が進行する際に、反応抵抗を低減させることができ、同時に電極反応時に空気極が高い水蒸気濃度に曝されても高い耐水蒸気安定性を有することができる。すなわち、600℃以下となる動作温度において、高い反応効率と耐水蒸気安定性とを有することができる。
【0036】
本開示の第6の態様に係る固体酸化物形燃料電池は、プロトン伝導性を有する酸化物を含む電解質膜と、前記電解質膜上に設けられ、ランタンストロンチウムコバルト鉄複合酸化物を含む電極と、を備え、前記電極における、コバルトのモル数と鉄のモル数との和に対する、該コバルトのモル数の比が、0.35以上0.6以下の範囲の値となる膜電極接合体を有する。
【0037】
上記構成によると、固体酸化物形燃料電池は、600℃以下となる動作温度において、高い発電効率と耐水蒸気安定性とを有することができる。
【0038】
本開示の第7の態様に係る電気化学デバイスは、プロトン伝導性を有する酸化物を含む電解質膜と、前記電解質膜上に設けられ、ランタンストロンチウムコバルト鉄複合酸化物を含む電極と、を備え、前記電極における、コバルトのモル数と鉄のモル数との和に対する、該コバルトのモル数の比が、0.35以上0.6以下の範囲の値となる膜電極接合体を有する。
【0039】
上記構成によると、電気化学デバイスは、600℃以下となる動作温度において、高い反応効率と耐水蒸気安定性とを有することができる。
【0040】
以下、本開示の実施の形態が、図面を参照しながら説明される。
【0041】
なお、以下で説明される実施の形態は、いずれも包括的または具体的な例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置および接続形態などは、一例であり、本開示を限定する主旨ではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
【0042】
また、各図は、模式図であり、必ずしも厳密に図示されたものではない。したがって、例えば、各図において縮尺などは必ずしも一致しない。また、各図において、実質的に同一の構成については同一の符号を付しており、重複する説明は省略または簡略化する。
【0043】
また、本明細書において、平行などの要素間の関係性を示す用語、および、矩形などの要素の形状を示す用語、並びに、数値範囲は、厳格な意味のみを表す表現ではなく、実質的に同等な範囲、例えば数%程度の差異をも含むことを意味する表現である。なお、本明細書における「厚み方向」とは、電極および電解質膜が積層される方向である。
【0044】
(第1実施形態)
[膜電極接合体の構成]
図1は、本開示の第1実施形態に係る電気化学デバイスが備える膜電極接合体10の構成を模式的に示す断面図である。
図1には、膜状の膜電極接合体10は、その厚み方向に切断した場合の断面が示されている。
図1に示すように、膜電極接合体10は、プロトン伝導性を有する酸化物である固体電解質を含む電解質膜11と、電解質膜11上に設けられた空気極12とを備える。つまり、膜電極接合体10は、電解質膜11と空気極12とが接して配置された積層構造を有する。
【0045】
膜電極接合体10を備える電気化学デバイスとしては、例えば、固体酸化物形燃料電池、水電解セル、および水蒸気電解セル、電気化学リアクター等が挙げられる。
【0046】
[電解質膜]
電解質膜11は、上記したように、プロトン伝導性を有する固体電解質を含む。固体電解質は、以下の組成式(1)から(3)のいずれかで表すことができる。
BaZr1-x1M1x1O3-γ ・・・(1)
BaCe1-x2M2x2O3-γ ・・・(2)
BaZr1-x3-y3Cex3M3y3O3-γ ・・・(3)
ここで、M1,M2,およびM3は、それぞれ独立して、La,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Y,Sc,Mn,Fe,Co,Ni,Al,Ga,In,およびLuからなる群より選ばれる少なくとも1つの元素である。これらM1,M2,M3をドーパントと称する場合がある。また、x1,x2,x3,およびy3はそれぞれ以下(a)~(d)の条件を満たす。
【0047】
0<x1<1 ・・・(a)
0<x2<1 ・・・(b)
0<x3<1 ・・・(c)
0<y3<1 ・・・(d)
0<γ≦0.5 ・・・(e)
上記した固体電解質のうち特に、Ceを含まないBaZr1-x1M1x1O3-γで表される組成式(1)の化合物(以下、「BZM」と記載することがある。)は、高い炭酸ガスへの安定性を有する。
【0048】
なお、組成式(1)~(3)において、γは組成物中の酸素欠損量にあたる値であり、ドーパントの酸化数および混合比x1,x2,x3,y3によって変化する。酸素欠損箇所において酸素欠損量γに対応したH2OのOが入ることができ、最小でγ=0となり得る。γの取り得る値の範囲は、0<γ≦0.5となる。
【0049】
組成式(1)~(3)において、x1,x2,x3,y3の値が大きくなると固体電解質の性能、すなわちプロトン導電率が向上しやすい。また、x1,x2,x3,y3の値が小さくなると固体電解質の結晶構造が安定しやすい。
【0050】
例えば、組成式(3)において、x3の値が大きいほど、性能は向上するが炭酸ガスへの安定性は低下する。
【0051】
また、組成式(1)、(2)については、x1とx2とが同じ値をとる場合、一般的には組成式(2)の方が性能は向上する。しかしながら、炭酸ガスへの安定性は低下する。
【0052】
固体電解質の性能向上(プロトン導電率の向上)および構造の安定性向上を両立する観点から、組成式(1)~(3)では、0.05<x1<0.3、0.05<x2<0.3、0.05<x3<0.3それぞれを満たすとよく、好ましくは、0.1≦x1≦0.2、0.1≦x2≦0.2、0.1≦x3≦0.2それぞれを満たすとよい。更に好ましくは、x1=0.2、x2=0.2、x3=0.2それぞれを満たすとよい。組成式(1)において、M1は、プロトン導電率の観点から、Y、Tm、Yb、およびLuからなる群より選択される少なくとも1種の元素であってもよい。プロトン導電率、および、Niを含む化合物と混合焼成した場合に不純物が生成しにくい観点から、組成式(1)において、M1は、LuおよびYbのうちの少なくとも1種の元素であってもよい。つまり、組成式(1)で表される固体電解質は、例えば、M1がYbであり、x=0.2であるBaZr0.8Yb0.2O3-γであってもよい。固体電解質をBaZr0.8Yb0.2O3-γとした場合、発電効率および耐久性が向上した膜電極接合体10を得ることができる。また、組成式(1)のBZMは、例えば、元素MがYbであり、ZrとYbとのモル数の比が8:2の場合、600℃でおよそ0.011S/cmのプロトン導電率を有する。
【0053】
なお、電解質膜11は、当該電解質膜11のオーミック抵抗(すなわち、IR抵抗)の低減を図るために、できるだけ薄膜化してもよい。
【0054】
[空気極]
空気極12は、酸化物イオン・電子混合伝導体材料から構成される。酸化物イオン・電子混合伝導体材料は、ランタンストロンチウムコバルト鉄複合酸化物(以下、「LSCF」と記載することがある。)であり、Coのモル数とFeのモル数との和に対する、Coのモル数の比が、0.4以上0.6以下の範囲の値となる。空気極12は、LSCFのみで構成されてもよく、LSCFと他の酸化物イオン・電子混合伝導体材料とを組み合わせた構成であってもよい。さらには、例えば、空気極12は、例えば、BZMなど電解質膜11の固体電解質を構成する材料(以下、電解質材料)を含んでいてもよい。
【0055】
空気極12は、例えば、固体酸化物形燃料電池の空気極として用いられる場合、気相中の酸素を電気化学的に還元する反応が生じる。このため、空気極12は、酸素の拡散経路を確保し、反応を促進するために、多孔体であってもよい。例えば、アルキメデス法や水銀圧入法によって測定される空隙率が20~50体積%の多孔体であってもよい。
【0056】
LSCFは、以下の組成式(4)により表すことができる。
La1-mSrmConFe1-nO3-δ ・・・(4)
組成式(4)において、nは0.4≦n≦0.6の範囲の値となる。このため、例えば、プロトン伝導性を有する固体酸化物形燃料電池の動作温度帯(すなわち、600℃以下の温度帯)でかつ、空気中における水蒸気の体積分率が35%程度の高加湿な条件下において、水との反応により空気極12で分解生成物(例えば、Coの酸化物)が生じることを防ぐことができる。また、空気極12における電極反応の反応抵抗を小さくすることができ、発電効率を高めることができる。
【0057】
組成式(4)において、mは0≦m≦0.5の範囲の値となることが好ましく、特にmは0.4が好ましい。組成式(4)においてδは酸素欠損量を表す。δは、Srのモル比(すなわち、mの値)、Coのモル比(すなわち、nの値)、ならびにCoおよびFeの酸化数によって0以上0.5以下の範囲で変動する可能性がある。
【0058】
上記した電解質膜11および空気極12を備える第1実施形態に係る膜電極接合体10は、
図1に示すように、空気極12を、電解質膜11の一方側の主面に配置し、積層させた構成となっている。
【0059】
このため、膜電極接合体10は、反応抵抗を低減させて、電気化学デバイスの反応効率の向上を図ることができる。特に、空気極12が高い耐水蒸気安定性と、低い反応抵抗とを示すため、膜電極接合体10は高い反応効率と耐水蒸気安定性とを両立できる。
【0060】
(第2実施形態)
以下では、本開示の第2実施形態に係る電気化学デバイスが備える膜電極接合体100について、
図2を参照しながら説明する。なお、第2実施形態の説明において、第1実施形態との相違点を中心に説明し、全ての図を通じて同一または対応する構成部材には同一の参照符号を付して、その説明については省略する場合がある。
【0061】
図2は、本開示の第2実施形態に係る電気化学デバイスが備える膜電極接合体100の構成を模式的に示す断面図である。
図2には、膜電極接合体100の厚み方向に切断した場合の断面が示されている。
図2に示すように第2実施形態に係る膜電極接合体100は、第1実施形態に係る膜電極接合体10の構成においてさらに、燃料極13を備えた構成となっている。つまり、膜電極接合体10は、電解質膜11の一方の主面側に空気極12が配置され、他方の主面側に燃料極13が配置されている。言い換えると、電気化学デバイスにおいて、、空気極12、電解質膜11、および燃料極13はこの順に積層されている。
【0062】
第2実施形態に係る膜電極接合体100は、燃料極13をさらに備える点を除いて第1実施形態に係る膜電極接合体10と同様の構成となる。このため、膜電極接合体10と同様な部材には同じ符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0063】
なお、
図2では、膜電極接合体100は、燃料極13上に電解質膜11が積層され、電解質膜11上に空気極12が積層された構造であるがこれに限定されない。例えば、燃料極13と電解質膜11との間に、電解質膜11とは異なるイオン伝導性材料で形成された別の層が形成されていてもよい。
【0064】
[燃料極]
燃料極13は、電気化学的に酸化が起こる電極である。例えば、Niと、電解質材料とのサーメットから構成される電極である。
【0065】
燃料極13が、例えば、固体酸化物形燃料電池の燃料極として用いられる場合、燃料極13では、気相中の水素をプロトンに酸化する反応が生じる。このため、燃料極13は、水素からプロトンへの酸化反応を促進するために、電子伝導性および水素の酸化活性を有するNiと、プロトン伝導性を有する電解質材料との接合体として形成されてもよい。また、気体(例えば、水素)の拡散経路を確保するため、燃料極13は多孔体であってもよい。例えば、燃料極13は、アルキメデス法や水銀圧入法によって測定される空隙率が20から50体積%の多孔体であってもよい。
【0066】
また、膜電極接合体100を備える電気化学デバイスが固体酸化物形燃料電池である場合、電解質膜11の、空気極12が設けられている側に空気を、燃料極13が設けられている側に水素を含むガス(すなわち、燃料)をそれぞれ供給して発電する。そのため、膜電極接合体100を備える電気化学デバイスが固体酸化物形燃料電池の場合、電解質膜11は、ガスタイトである必要がある。
【0067】
以上のように、第2実施形態に係る膜電極接合体100は、空気極12、電解質膜11、および燃料極13を、この順番で積層させた構成を有する。このため、第1実施形態に係る膜電極接合体10と同様に、第2実施形態に係る膜電極接合体100は、反応抵抗を低減させて、電気化学デバイスの反応効率の向上を図ることができる。特に、空気極12が高い耐水蒸気安定性と、低い反応抵抗とを示すため、膜電極接合体10は高い反応効率と耐水蒸気安定性とを両立できる。
【0068】
したがって、膜電極接合体100を備える電気化学デバイスが固体酸化物形燃料電池である場合、固体酸化物形燃料電池は、反応抵抗を低減させて発電効率の向上を図るとともに高い耐水蒸気安定性を実現することができる。
【0069】
膜電極接合体100を備える電気化学デバイスが水蒸気電解セルである場合、水蒸気電解セルは、反応抵抗を低減させて電解効率の向上を図るとともに高い耐水蒸気安定性を実現することができる。
【0070】
なお、第2実施形態に係る膜電極接合体100を固体酸化物形燃料電池に用いる場合、例えば、次のような燃料電池システムとして構成することができる。すなわち、燃料電池システムは、原料を供給するための原料供給路(不図示)、原料供給路を流通する原料を改質して水素含有ガスを生成する改質器(不図示)、および空気(すなわち、酸化剤ガス)を供給するための空気供給路(不図示)を備える。
【0071】
燃料電池システムでは、原料供給経路を通じて外部から炭化水素ガスなどの原料が改質器に供給される。改質器は、供給された原料を改質し、水素含有ガスを生成する。改質器で生成された水素含有ガスは、膜電極接合体100を含む固体酸化物形燃料電池の燃料極13に供給される。あるいは、改質器を備えず、原料供給経路を通じて外部から直接、水素含有ガスが燃料極13に供給される構成であってもよい。
【0072】
一方、空気供給路を通じて外部から酸化剤ガスが固体酸化物形燃料電池(膜電極接合体100)の空気極12に供給される。そして、固体酸化物形燃料電池(膜電極接合体100)は、このように供給された水素含有ガス中の水素と酸化剤ガス中の酸素との電気化学反応により発電する。
【0073】
(実施例)
以下において、本開示の実施例(実施例1、2)について説明する。なお、本開示の実施例1、2は、本開示の第1実施形態に係る膜電極接合体10および第2実施形態に係る膜電極接合体100の一例であって、本開示の第1実施形態に係る膜電極接合体10および第2実施形態に係る膜電極接合体100の構成をこれらの実施例の構成に限定するものではない。
【0074】
まず、組成式(5)で表される実施例1に係る空気極、組成式(6)で表される実施例2に係る空気極、組成式(7)で表される実施例3に係る空気極をそれぞれ準備した。
【0075】
実施例1、2、3に係る空気極それぞれは、Coのモル数とFeのモル数との和に対する、Coのモル数の比が、0.35以上0.6以下の範囲の値となっている。
La0.6Sr0.4Co0.35Fe0.65O3-δ ・・・(5)
La0.6Sr0.4Co0.4Fe0.6O3-δ ・・・(6)
La0.6Sr0.4Co0.6Fe0.4O3-δ ・・・(7)
さらに、以下の組成式(8)で表される比較例1に係る空気極、組成式(9)で表される比較例2に係る空気極、組成式(10)で表される比較例3に係る空気極、組成式(11)で表される比較例4に係る空気極をそれぞれ準備した。
La0.6Sr0.4Co0.2Fe0.8O3-δ ・・・(8)
La0.6Sr0.4Co0.3Fe0.7O3-δ ・・・(9)
La0.6Sr0.4Co0.8Fe0.2O3-δ ・・・(10)
La0.6Sr0.4CoO3-δ ・・・(11)
比較例1~比較例4に係る空気極それぞれは、Coのモル数とFeのモル数との和に対する、Coのモル数の比が、0.35より小さいか、あるいは0.6よりも大きい範囲の値となっている。なお、上述される組成式のδは酸素欠損量を表す。δの値は、0≦δ≦0.5を満たす。
【0076】
(空気極材料の製造方法)
次に、実施例1~3および比較例1~4における空気極材料となるLSCF(比較例4はLSC)の製造方法について説明する。
【0077】
[実施例1の空気極材料の製造方法]
実施例1に係る空気極材料(LSCF)は、La(NO3)3・6H2O,Sr(NO3)2,Co(NO3)2・6H2O,およびFe(NO3)3・9H2O(それぞれ関東化学製)を出発原料として、クエン酸錯体法により作製した。
【0078】
具体的には、La(NO3)3・6H2Oの粉末23.27g、Sr(NO3)2の粉末7.58g、Co(NO3)2・6H2Oの粉末9.12g、およびFe(NO3)3・9H2Oの粉末23.52gとなるように秤量した。そして、秤量した各粉末を蒸留水に溶解させ、クエン酸一水和物(関東化学製)34.42g、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)(関東化学製)26.17gをそれぞれ加えた。その後、アンモニア水(28wt%)(関東化学製)を用いてpHを7に調整した。pH調整後、ホットスターラー上で、90℃で溶媒を除去した。その後、約300℃まで加熱し、最後に1200℃で大気雰囲気のもと本焼成を行い、LSCFの粉末を得た。
【0079】
[実施例2の空気極材料の製造方法]
実施例2に係る空気極材料(LSCF)は、出発原料となる粉末それぞれの量と、粉末を溶解させた蒸留水に加えるクエン酸一水和物およびエチレンジアミン四酢酸(EDTA)の量とが異なる点を除けば、実施例1に係る空気極材料と同様の方法により作製した。
【0080】
なお、実施例2に係る空気極材料では、出発原料となる粉末それぞれの量は、La(NO3)3・6H2Oの粉末23.25g、Sr(NO3)2の粉末7.58g、Co(NO3)2・6H2Oの粉末10.42g、およびFe(NO3)3・9H2Oの粉末21.69g(それぞれ関東化学製)とした。また、クエン酸一水和物(関東化学製)34.39gとし、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)(関東化学製)26.16gとした。
【0081】
[実施例3の空気極材料の製造方法]
実施例3に係る空気極材料(LSCF)は、出発原料となる粉末それぞれの量と、粉末を溶解させた蒸留水に加えるクエン酸一水和物およびエチレンジアミン四酢酸(EDTA)の量とが異なる点を除けば、実施例1に係る空気極材料と同様の方法により作製した。
【0082】
なお、実施例3に係る空気極材料では、出発原料となる粉末それぞれの量は、La(NO3)3・6H2Oの粉末23.19g、Sr(NO3)2の粉末7.55g、Co(NO3)2・6H2Oの粉末15.58g、およびFe(NO3)3・9H2Oの粉末14.42g(それぞれ関東化学製)とした。また、クエン酸一水和物(関東化学製)34.30gとし、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)(関東化学製)26.08gとした。
【0083】
[比較例1の空気極材料の製造方法]
比較例1に係る空気極材料(LSCF)は、出発原料となる粉末それぞれの量と、粉末を溶解させた蒸留水に加えるクエン酸一水和物およびエチレンジアミン四酢酸(EDTA)の量とが異なる点を除けば、実施例1に係る空気極材料と同様の方法により作製した。
【0084】
なお、比較例1に係る空気極材料では、出発原料となる粉末それぞれの量は、La(NO3)3・6H2Oの粉末23.32g、Sr(NO3)2の粉末7.60g、Co(NO3)2・6H2Oの粉末5.22g、およびFe(NO3)3・9H2Oの粉末29.00g(それぞれ関東化学製)とした。また、クエン酸一水和物(関東化学製)34.49gとし、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)(関東化学製)26.19gとした。
【0085】
[比較例2の空気極材料の製造方法]
比較例2に係る空気極材料(LSCF)は、出発原料となる粉末それぞれの量と、粉末を溶解させた蒸留水に加えるクエン酸一水和物およびエチレンジアミン四酢酸(EDTA)の量とが異なる点を除けば、実施例1に係る空気極材料と同様の方法により作製した。
【0086】
なお、比較例2に係る空気極材料では、出発原料となる粉末それぞれの量は、La(NO3)3・6H2Oの粉末23.28g、Sr(NO3)2の粉末7.59g、Co(NO3)2・6H2Oの粉末7.82g、およびFe(NO3)3・9H2Oの粉末25.34g(それぞれ関東化学製)とした。また、クエン酸一水和物(関東化学製)34.44gとし、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)(関東化学製)26.19gとした。
【0087】
[比較例3の空気極材料の製造方法]
比較例3に係る空気極材料(LSCF)は、出発原料となる粉末それぞれの量と、粉末を溶解させた蒸留水に加えるクエン酸一水和物およびエチレンジアミン四酢酸(EDTA)の量とが異なる点を除けば、実施例1に係る空気極材料と同様の方法により作製した。
【0088】
なお、比較例3に係る空気極材料では、出発原料となる粉末それぞれの量は、La(NO3)3・6H2Oの粉末23.12g、Sr(NO3)2の粉末7.53g、Co(NO3)2・6H2Oの粉末20.72g、およびFe(NO3)3・9H2Oの粉末7.19g(それぞれ関東化学製)とした。また、クエン酸一水和物(関東化学製)34.20gとし、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)(関東化学製)26.01gとした。
【0089】
[比較例4の空気極材料の製造方法]
比較例4に係る空気極材料(LSC)は、出発原料となる粉末それぞれの量と、粉末を溶解させた蒸留水に加えるクエン酸一水和物およびエチレンジアミン四酢酸(EDTA)の量とが異なる点を除けば、実施例1に係る空気極材料と同様の方法により作製した。
【0090】
なお、比較例4に係る空気極材料では、出発原料となる粉末それぞれの量は、La(NO3)3・6H2Oの粉末23.06g、Sr(NO3)2の粉末7.51g、Co(NO3)2・6H2Oの粉末25.83g(それぞれ関東化学製)とした。また、クエン酸一水和物(関東化学製)34.11gとし、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)(関東化学製)25.94gとした。
【0091】
[空気極の耐水蒸気試験]
上記した製造方法により得られた実施例1~3に係るLSCF、および比較例1~4に係るLSCFについて耐水蒸気試験を以下のように行った。
【0092】
まず、上記した「空気極材料の製造方法」で得られた実施例1~3に係るLSCF、および比較例1~4に係るLSCFの粉末を石英皿の窪み(1mmの厚み、1cmの直径)に充填した。そして、ガラススキージを用いてLSCFの粉末の表面を平滑化した。その後、室温でX線回折法による測定結果を用いて分析を行い、試験前(すなわち、耐水蒸気試験前)の基準とした。X線回折法による測定を行うため、リガク製のスマートラボが使用された。また、試料に照射するX線は、CuKα特性X線(波長1.5418Å)であった。
【0093】
次に、実施例1~3に係るLSCF、および比較例1~4に係るLSCFの粉末を管状炉内に設置したガス流通経路を有した石英管の管内に静置した。そして、LSCFの粉末近傍の温度が600℃となるように管状炉を加熱した。その後、合成空気をバブリングして水蒸気を体積分率40%とした加湿ガスを、160cc/minでガス流通経路内を流通させた。なお、水蒸気の体積分率に関しては、空気中の酸素(体積分率21%)がO2+4H++4e-→2H2Oの反応で全て水蒸気になった場合の水蒸気分率(約35%)をやや上回る比率とした。
【0094】
1000hr経過後、LSCFの粉末を室温でX線回折法によって測定した。このようにして、耐水蒸試験後の測定結果(すなわち、試験後の測定結果)が得られた。試験前の基準と得られた試験後の測定結果とを比較した。この比較においてLSCFに帰属されないピークが検出された場合、LSCFの分解生成物が生成されたと判断した。実施例1~3に係るLSCF、および比較例1~4に係るLSCFについて、1000hr後の分解生成物の有無を以下の表1および
図3に示す。
図3は、本開示の実施例2および3に係るLSCF、ならびに比較例1~4に係るLSCFに関するX線回折法による測定結果を示すグラフである。
【0095】
【表1】
コバルト(Co)のモル数と鉄(Fe)のモル数との和に対するコバルト(Co)のモル数の比が、0.2,0.3,0.4,0.6のものについては、LSCF以外の分解生成物を示すピークは検出されなかった。一方で、コバルト(Co)のモル数と鉄(Fe)のモル数との和に対するコバルト(Co)のモル数の比が0.8、1.0のものについては、酸化コバルト(Co
3O
4)のピークが検出された(
図3の矢印を参照)。
【0096】
この結果から、CoとFeとの和に対するCoの比が0.6以下のものは600℃において水蒸気に対する高い安定性を有することが明らかとなった。一方、CoとFeとの和に対するCoの比が0.8,1.0のものについては、600℃において水蒸気に対して不安定であることが分かった。
【0097】
(膜電極接合体の製造方法)
実施例1~3および比較例1~4に係るLSCFを用いた膜電極接合体を、以下の製造方法によりそれぞれ製造した。なお、ここで用いる膜電極接合体の構成は、電解質膜の一方の主面側に空気極が配置され、他方の主面側に燃料極が配置された構成とする。また、実施例1~3および比較例1~4に係るLSCFを用いた膜電極接合体それぞれが有する電解質膜はすべて同じ電解質材料から構成されるものとし、電解質材料の代表的な組成を、BaZr0.8Yb0.2O2.9(以下、BZYb)とした。また、実施例1~3および比較例1~4に係るLSCFを用いた膜電極接合体それぞれが有する燃料極もすべて同じものとし、BZYbとNiOを用いた化合物とした。
【0098】
[電解質材料の製造方法]
まず、電解質膜を構成する電解質材料であるBZYbグリーンシート材の製造方法について説明する。
【0099】
BZYbは、Ba(NO3)2(関東化学製)およびZrO(NO3)2・2H2O(関東化学製)の粉末、ならびにYb(NO3)3・xH2O(高純度化学製)の粉末を出発原料として、クエン酸錯体法により作製した。
【0100】
(電解質粉末の作製)
はじめに電解質粉末の説明を具体的には、まず、BZYbは、Ba(NO3)2の粉末42.43gおよびZrO(NO3)2・2H2Oの粉末34.71gを蒸留水に溶解した。また、Yb(NO3)3・xH2Oの粉末180gを蒸留水300mLに溶解させて得たYb3+イオン濃度0.87mоl/Lの水溶液を187mL加え、得られた水溶液を攪拌した。なお、Yb3+イオン濃度は誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-AES)の分析結果から算出した。分析装置として、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製のiCAP7400 Duoが用いられた。
【0101】
次に水溶液に含まれる金属カチオンに対し1.5等量のクエン酸一水和物(関東化学製)および1.5等量のエチレンジアミン四酢酸(EDTA)(関東化学製)を水溶液に加えた。その後、水溶液を90℃で攪拌した。
【0102】
続いて、アンモニア水(28%(重量比率))(関東化学製)を用いて、水溶液をpH7に調整した。pH調整後、ホットスターラーを用いて、95℃~240℃に加熱して溶媒を除去し、固形物を得た。
【0103】
得られた固形物を乳鉢粉砕した後、約400℃で脱脂した。脱脂後、得られた粉末を円柱状にプレス成型して900℃で10時間、大気雰囲気下のもと、仮焼した。仮焼後、粗粉砕した粉末を、プラスチック容器にジルコニア製ボールとともに入れ、さらにエタノールを加えて4日間以上ボールミルにより粉砕した。ボールミルによる粉砕後、ランプ乾燥によって溶媒を除去した。これにより、電解質材料の粉末を得た。
【0104】
(グリーンシート用の電解質粉末の調整およびグリーンシートの作製)
上述される「(電解質粉末の作製)」の作業を複数回、繰り返した。このようにして、グリーンシート用の電解質粉末を約200g得た。得られた電解質材料の粉末を用いてグリーンシートを作製した。具体的には、この電解質材料の粉末と、樹脂としてポリビニルブチラールと、可塑剤としてブチルベンジルフタレートと、溶剤として酢酸ブチルおよび1-ブタノールとを混錬した。このようにして、混錬物を得た。得られた混錬物をテープキャスト法によって処理した。このようにして、電解質のグリーンシートを得た。
【0105】
[燃料極材料の製造方法]
次に、BZYbおよびNiOを用いた燃料極材料の製造方法について説明する。
【0106】
上記した「電解質材料の製造方法」で得られた電解質材料の粉末とNiOの粉末(住友金属鉱山製)とを、重量比で、NiO:BZYb=80:20(つまり、NiとBZYbの体積比率が69:31)となるように秤量した。そして、秤量した電解質材料の粉末とNiOの粉末とを用いてグリーンシートを作製した。具体的には、電解質材料の粉末と、NiOの粉末と、樹脂としてポリビニルブチラールと、可塑剤としてブチルベンジルフタレートと、溶剤として酢酸ブチルおよび1-ブタノールとを混錬した。このようにして、混錬物を得た。得られた混錬物をテープキャスト法によって処理した。このようにして、燃料極のグリーンシートを得た。
【0107】
[積層体の製造方法]
まず、燃料極と電解質膜との積層体の製造方法について説明する。上記した「燃料極材料の製造方法」で得られた燃料極のグリーンシートを、線収縮率を22%と想定して、焼成後に20mm×20mmの正方形(四隅を3mmで面取り)となるよう所定寸法にカットし、複数枚積層した。そして、所定寸法にカットされ積層された燃料極のグリーンシートを、「電解質材料の製造方法」で得られた電解質のグリーンシートに重ねて積層し、ホットプレスにより50MPaの圧力を加え、積層体を得た。
【0108】
得られたこの積層体を1475℃で2時間焼成して、燃料極と電解質膜との積層体から20mm×20mmの正方形(四隅を3mmで面取り)サイズのハーフセルを作製した。なお、電解質膜を構成するBZYbは、X線回折法により単一相であることを確認した。測定には、リガク製のスマートラボが使用された。また、試料に照射するX線は、CuKα特性X線(波長1.5418Å)とした。
【0109】
次に、空気極を電解質膜上に形成するための方法について説明する。上記した「空気極材料の製造方法」で得られた、実施例1~3および比較例1~4に係る空気極材料それぞれの粉末を、アルコールとエーテルとを混合したビヒクルと所定重量比で混合し、自転・公転ミキサーで混錬して、空気極材料のペーストをそれぞれ作製した。なお、実施例1~3および比較例1~4に係る空気極材料それぞれの粉末とビヒクルとは、3:2(重量比)となるように混合された。
【0110】
実施例1~3および比較例1~4に係る空気極材料のペーストそれぞれを、ハーフセルの電解質膜の上からスクリーン印刷して、10mmの直径を有する空気極として塗布した。そして、950℃で2時間、大気雰囲気下のもと、焼成して、実施例1~3および比較例1~4に係る膜電極接合体を得た。なお、得られた実施例1~3および比較例1~4に係る膜電極接合体の電解質膜、空気極、および燃料極の厚みは、それぞれ、13μm、10μmおよび0.6mmであった。
【0111】
(膜電極接合体の反応抵抗の測定)
続いて、実施例1~3および比較例1~4に係る膜電極接合体の反応抵抗の測定を行った。測定は4端子法での交流インピーダンス測定により以下のようにして実施した。
【0112】
実施例1~3および比較例1~4に係る膜電極接合体それぞれの燃料極と空気極との表面に、集電をとるためのAgのメッシュを、Agペーストを用いて接着した。またAgメッシュには、4端子法測定のための外部取出し端子としてPt線を燃料極側および空気極側それぞれ2本ずつ接合した。
【0113】
まず、膜電極接合体を700℃まで昇温し、空気極側に水蒸気を3%含む加湿空気を、燃料極側に水蒸気を3%含む加湿水素をそれぞれ供給し、4時間以上保持することにより、燃料極のNiOとをBZYbとの混合物中のNiOをNiに還元した。
【0114】
抵抗測定は、膜電極接合体の還元操作の後、600℃で、空気極側に水蒸気を3%(体積比率)含む加湿空気を、燃料極側に水蒸気を3%含む加湿水素をそれぞれ供給した条件で行った。交流インピーダンス測定にはソーラートロン社製MоduLab XMを用い、外部電流0Aにおける端子間電圧に対し、10mVの振幅で、周波数を100kHzから0.01Hzまで変えて交流を印加して測定した。
【0115】
図4は、本開示の実施例における交流インピーダンス測定結果の一例をコールコールプロットによって示す図である。
図4では、交流インピーダンス測定による抵抗成分の内訳を模式的に示している。
図4に示されるように、インピーダンスZ(=Z´+jZ´´)の実数成分Z´を横軸にとり、虚数成分Z´´を縦軸にとって示したコールコールプロットによって、交流インピーダンス測定の結果を図示することができる。コールコールプロットにおいて、周波数がおよそ10kHzから0.01Hzとなる範囲で描かれる円弧について、円弧と実数軸(Z´)との成す弦の長さ、つまり円弧が実数軸を切る2つの交点の長さが反応抵抗となる。測定により得られた反応抵抗の結果を、上記した表1内に示す。
【0116】
また、CoとFeとのモル数の和に対するCoのモル比と、反応抵抗の関係を
図5に示す。
図5は、本開示の実施例1~3および比較例1~4に係る空気極のCoとFeとのモル数の和に対するCoのモル比と、反応抵抗との関係を示すグラフである。
図5では、縦軸を反応抵抗(単位:Ωcm
2)とし、横軸を空気極のCoとFeとのモル数の和に対するCoの割合を示している。
【0117】
表1および
図5に示すように、空気極材料(LSCF)におけるCoとFeとのモル数の和に対するCoのモル比が0.35以上のもの(実施例1、2に係る空気極および比較例3に係る空気極)については、反応抵抗が1.4Ωcm
2以下となった。このため、膜電極接合体を固体酸化物形燃料電池に用いる場合、固体酸化物形燃料電池の動作時において実際に得られる電圧の最低電圧として設定されている0.7Vを下回ることがない。
【0118】
一方で空気極材料(LSCF)におけるCoとFeとのモル数の和に対するCoのモル比が0.2、0.3のもの(比較例1、2に係る空気極)については、反応抵抗がそれぞれ2.1cm2、1.8cm2とそれぞれ、実施例1、2に係る空気極と比較して顕著に大きくなる傾向を示し、反応抵抗が1.4Ωcm2を超える値となった。
【0119】
以上の結果より、空気極材料(LSCF)におけるCoとFeとのモル数の和に対するCoのモル比が0.35以上となる場合は、膜電極接合体の反応抵抗を低減できる。それゆえ、空気極材料(LSCF)におけるCoとFeとのモル数の和に対するCoのモル比が0.35以上となる膜電極接合体を固体酸化物形燃料電池に用いた場合、高い発電効率が実現できることが明らかとなった。
【0120】
また、上記した耐水蒸気安定性については、表1に示すように、空気極材料(LSCF)におけるCoとFeとのモル数の和に対するCoのモル比が0.6以下となる膜電極接合体において、高い耐水蒸気安定性を有することが確認された。
【0121】
以上のことから、空気極材料(LSCF)において、CoとFeのモル数の和に対するCoのモル比が0.35以上かつ0.6以下となる膜電極接合体については、高い反応効率と高い耐水蒸気安定性を両立することが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0122】
本開示に係る膜電極接合体は、固体酸化物形燃料電池、水電解セル、および水蒸気電解セルなどの電気化学デバイスに用いることができる。
【符号の説明】
【0123】
10 膜電極接合体
11 電解質膜
12 空気極
13 燃料極
100 膜電極接合体