(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-07
(45)【発行日】2024-11-15
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池用正極活物質、非水電解質二次電池、及び非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20241108BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20241108BHJP
C01G 53/00 20060101ALI20241108BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
C01G53/00 A
(21)【出願番号】P 2021528250
(86)(22)【出願日】2020-06-16
(86)【国際出願番号】 JP2020023540
(87)【国際公開番号】W WO2020262100
(87)【国際公開日】2020-12-30
【審査請求日】2023-03-02
(31)【優先権主張番号】P 2019121844
(32)【優先日】2019-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金井 敏信
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 毅
(72)【発明者】
【氏名】門畑 哲郎
【審査官】片山 真紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-122298(JP,A)
【文献】特開2011-187435(JP,A)
【文献】特開2009-140787(JP,A)
【文献】国際公開第2019/087558(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/525
H01M 4/505
C01G 53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Liを除く金属元素の総モル数に対して、80モル%以上94モル%以下の割合でNiを含有し、
Liを除く金属元素の総モル数に対して、10モル%以下の割合でCoを含有し、Liを除く金属元素の総モル数に対して、0.1モル%以上0.6モル%以下の割合でNbを含有する、リチウム遷移金属化合物を含み、
前記リチウム遷移金属化合物0.2gを純水5mL/35%塩酸5mLの塩酸水溶液中に添加した第1の試料溶液を突沸下で120分溶解後、前記第1の試料溶液を濾過し採取した第1の濾液において、誘導結合プラズマ発光分光分析により定量されるNb量n1と、前記第1の試料溶液の濾過に使用したフィルターを46%フッ化水素酸5mL/63%硝酸5mLフッ硝酸中に浸漬した第2の試料溶液を突沸下で180分溶解後、前記第2の試料溶液を濾過し採取した第2の濾液において、誘導結合プラズマ発光分光分析により定量されるNb量n2とが、モル量換算で、50%≦n1/(n1+n2)<75%の条件を満たす、非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項2】
前記リチウム遷移金属化合物は、一般式Li
aNi
xCo
yM
zNb
αO
2(0.95≦a≦1.10、0.80≦x≦0.94、0≦y≦0.02、0.04≦z≦0.20、0.001≦α≦0.006、x+y+z+α=1、MはAl、W、Mg、Ti、Mn及びMoから選ばれる少なくとも1種以上の元素を含む)で表される、請求項1に記載の非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の非水電解質二次電池用正極活物質を含む正極と、負極と、非水電解質とを備える、非水電解質二次電池。
【請求項4】
Liを除く金属元素の総モル数に対して、80モル%以上の割合でNiを含有し、Liを除く金属元素の総モル数に対して、10モル%以下の割合でCoを含有し、Liを除く金属元素の総モル数に対して、0.1モル%以上0.6モル%以下の割合でNbを含有するリチウム遷移金属化合物を含む、非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法であって、
少なくともNiを含有する複合酸化物と、Li化合物と、Nb化合物とを混合して混合物を得る混合ステップと、
前記混合物を酸素雰囲気下で、450℃以上680℃以下での昇温速度が3.5℃/分超5.5℃/分以下の範囲で、且つ、到達最高温度が700℃以上780℃以下の範囲で焼成炉を昇温して焼成する焼成ステップを含み、
前記到達最高温度の保持時間は1時間以上10時間以下である、非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項5】
前記焼成ステップにおいて、前記焼成炉内に加わる最大の圧力が、前記焼成炉外の圧力に加え0.55kPa超1.0kPa以下の範囲である、請求項4に記載の非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、非水電解質二次電池用正極活物質、非水電解質二次電池、及び非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高出力、高エネルギー密度の二次電池として、正極、負極、及び非水電解質を備え、正極と負極との間でリチウムイオン等を移動させて充放電を行う非水電解質二次電池が広く利用されている。電池の低抵抗化、高容量化、高信頼性等の観点から、電池の正極に含まれる正極活物質の特性向上が求められている。
【0003】
例えば、特許文献1には、Nbを2モル%~8モル%含有するリチウムニッケルマンガン複合酸化物であって、一次粒子表面にリチウムニオブ化合物を有し、且つ、一次粒子にNbの一部が固溶することで、高容量で、サイクル特性及び熱安定性を改善した非水電解質二次電池用正極活物質が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【0005】
ところで、正極活物質に含まれるリチウム遷移金属化合物において、高い電池容量を得るためにNiの含有率を多くしつつ、製造コストを低減するためにCoの含有率を少なくするという設計が考えられる。しかし、Liを除く金属元素の総モル数に対してNiの割合が80モル%以上で且つCoの割合が10モル%以下のリチウム遷移金属化合物においては、電池の反応抵抗が大きくなってしまうことがある。特許文献1の技術は、電池の反応抵抗については考慮しておらず、未だ改善の余地がある。
【0006】
そこで、本開示の目的は、Liを除く金属元素の総モル数に対してNiの割合が80モル%以上で且つCoの割合が10モル%以下であって、電池の反応抵抗を低減したリチウム遷移金属化合物を含む正極活物質を提供することである。
【0007】
本開示の一態様である非水電解質二次電池用正極活物質は、Liを除く金属元素の総モル数に対して、80モル%以上94モル%以下の割合でNiを含有し、Liを除く金属元素の総モル数に対して、0.1モル%以上0.6モル%以下の割合でNbを含有する、リチウム遷移金属化合物を含み、リチウム遷移金属化合物0.2gを純水5mL/35%塩酸5mLの塩酸水溶液中に添加した第1の試料溶液を突沸下で120分溶解後、第1の試料溶液を濾過し採取した第1の濾液において、誘導結合プラズマ発光分光分析により定量されるNb量n1と、第1の試料溶液の濾過に使用したフィルターを46%フッ化水素酸5mL/63%硝酸5mLフッ硝酸中に浸漬した第2の試料溶液を突沸下で180分溶解後、第2の試料溶液を濾過し採取した第2の濾液において、誘導結合プラズマ発光分光分析により定量されるNb量n2とが、モル量換算で、50%≦n1/(n1+n2)<75%の条件を満たすことを特徴とする。
【0008】
本開示の一態様である非水電解質二次電池は、上記正極活物質を含む正極と、負極と、非水電解質とを備えることを特徴とする。
【0009】
本開示の一態様である非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法は、少なくともNiを含有する複合酸化物と、Li化合物と、Nb化合物とを混合して混合物を得る混合ステップと、混合物を酸素雰囲気下で、450℃以上680℃以下での昇温速度が3.5℃/分超5.5℃/分以下の範囲で、且つ、到達最高温度が700℃以上780℃以下の範囲で焼成炉を昇温して焼成する焼成ステップと、を含み、到達最高温度の保持時間は1時間以上10時間以下であることを特徴とする。
【0010】
本開示の一態様である非水電解質二次電池用正極活物質によれば、反応抵抗が低い非水電解質二次電池を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態の一例である非水電解質二次電池の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
リチウム遷移金属化合物の層状構造は、Ni等の遷移金属層、Li層、酸素層が存在し、Li層に存在するLiイオンが可逆的に出入りすることで、電池の充放電反応が進行する。正極活物質に含まれるリチウム遷移金属化合物において、Liを除く金属元素の総モル数に対してNiの割合が80モル%以上で且つCoの割合が10モル%以下の場合には、リチウム遷移金属化合物の一次粒子及び二次粒子表面にNiO層の形成や電解液の分解が促進され、電池の反応抵抗が高くなることがある。
【0013】
発明者らは、鋭意検討した結果、Nbの含有率を0.6モル%以下に抑え、且つ、Nbの分布状態を調整することで、電池の反応抵抗を低減できることを見出した。Nb化合物を所定量、リチウムイオン遷移金属化合物の一次粒子及び二次粒子表面に存在させることで界面抵抗を下げ、電池の反応抵抗を低減できると推察される。
【0014】
以下、本開示に係る非水電解質二次電池の実施形態の一例について詳細に説明する。以下では、巻回型の電極体が円筒形の電池ケースに収容された円筒形電池を例示するが、電極体は、巻回型に限定されず、複数の正極と複数の負極がセパレータを介して交互に1枚ずつ積層されてなる積層型であってもよい。また、電池ケースは円筒形に限定されず、例えば角形、コイン形等であってもよく、金属層及び樹脂層を含むラミネートシートで構成された電池ケースであってもよい。
【0015】
図1は、実施形態の一例である非水電解質二次電池10の断面図である。
図1に例示するように、非水電解質二次電池10は、電極体14と、非水電解質(図示せず)と、電極体14及び非水電解質を収容する電池ケース15とを備える。電極体14は、正極11と負極12とがセパレータ13を介して巻回された巻回構造を有する。電池ケース15は、有底円筒形状の外装缶16と、外装缶16の開口部を塞ぐ封口体17とで構成されている。
【0016】
電極体14は、長尺状の正極11と、長尺状の負極12と、長尺状の2枚のセパレータ13と、正極11に接合された正極タブ20と、負極12に接合された負極タブ21とで構成される。負極12は、リチウムの析出を防止するために、正極11よりも一回り大きな寸法で形成される。即ち、負極12は、正極11より長手方向及び幅方向(短手方向)に長く形成される。2枚のセパレータ13は、少なくとも正極11よりも一回り大きな寸法で形成され、例えば正極11を挟むように配置される。
【0017】
非水電解質二次電池10は、電極体14の上下にそれぞれ配置された絶縁板18,19を備える。
図1に示す例では、正極11に取り付けられた正極タブ20が絶縁板18の貫通孔を通って封口体17側に延び、負極12に取り付けられた負極タブ21が絶縁板19の外側を通って外装缶16の底部側に延びている。正極タブ20は封口体17の底板23の下面に溶接等で接続され、底板23と電気的に接続された封口体17のキャップ27が正極端子となる。負極タブ21は外装缶16の底部内面に溶接等で接続され、外装缶16が負極端子となる。
【0018】
外装缶16は、例えば有底円筒形状の金属製容器である。外装缶16と封口体17との間にはガスケット28が設けられ、電池ケース15の内部空間が密閉される。外装缶16は、例えば側面部を外部からプレスして形成された、封口体17を支持する溝入部22を有する。溝入部22は、外装缶16の周方向に沿って環状に形成されることが好ましく、その上面で封口体17を支持する。
【0019】
封口体17は、電極体14側から順に、底板23、下弁体24、絶縁部材25、上弁体26、及びキャップ27が積層された構造を有する。封口体17を構成する各部材は、例えば円板形状又はリング形状を有し、絶縁部材25を除く各部材は互いに電気的に接続されている。下弁体24と上弁体26は各々の中央部で互いに接続され、各々の周縁部の間には絶縁部材25が介在している。異常発熱で電池の内圧が上昇すると、下弁体24が上弁体26をキャップ27側に押し上げるように変形して破断し、下弁体24と上弁体26の間の電流経路が遮断される。さらに内圧が上昇すると、上弁体26が破断し、キャップ27の開口部からガスが排出される。
【0020】
以下、非水電解質二次電池10を構成する正極11、負極12、セパレータ13及び非水電解質について、特に正極11を構成する正極活物質層31に含まれる正極活物質について詳説する。
【0021】
[正極]
正極11は、正極集電体30と、正極集電体30の両面に形成された正極活物質層31とを有する。正極集電体30には、アルミニウム、アルミニウム合金など、正極11の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。正極活物質層31は、正極活物質、導電材、及び結着材を含む。正極活物質層31の厚みは、例えば正極集電体30の片側で10μm以上150μm以下である。正極11は、正極集電体30の表面に正極活物質、導電材、及び結着材等を含む正極スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧縮して正極活物質層31を正極集電体30の両面に形成することにより作製できる。
【0022】
正極活物質層31に含まれる導電材としては、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛等の炭素材料が例示できる。正極活物質層31に含まれる結着材としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等のフッ素樹脂、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリイミド、アクリル樹脂、ポリオレフィンなどが例示できる。これらの樹脂と、カルボキシメチルセルロース(CMC)又はその塩、ポリエチレンオキシド(PEO)などが併用されてもよい。
【0023】
正極活物質は、Liを除く金属元素の総モル数に対して、80モル%以上94モル%以下のNiと、Liを除く金属元素の総モル数に対して、0.1モル%以上0.6モル%以下のNbとを含有するリチウム遷移金属化合物を含む。リチウム遷移金属化合物は層状構造を有し、当該層状構造は、Ni等の遷移金属層、Li層、酸素層を含む。リチウム遷移金属化合物の層状構造は、例えば、空間群R-3mに属する層状構造、空間群C2/mに属する層状構造等が挙げられる。これらの中では、高容量化、結晶構造の安定性等の点で、空間群R-3mに属する層状構造であることが好ましい。
【0024】
リチウム遷移金属化合物は、一般式LiaNixCoyMzNbαO2(0.95≦a≦1.10、0.80≦x≦0.94、0≦y≦0.02、0.04≦z≦0.20、0.001≦α≦0.006、x+y+z+α=1、MはAl、W、Mg、Ti、Mn及びMoから選ばれる少なくとも1種以上の元素を含む)で表されてもよい。
【0025】
リチウム遷移金属化合物中のLiを除く金属元素の総モル数に対するLiの割合を示すaは、0.95≦a≦1.10を満たし、0.95≦a≦1.05を満たすことがより好ましく、0.97≦a≦1.03を満たすことが特に好ましい。aが0.95未満の場合、aが上記範囲を満たす場合と比較して、電池容量が低下する場合がある。aが1.10以上の場合、aが上記範囲を満たす場合と比較して、Li化合物をより多く添加することになるため、製造コストの観点から経済的ではない場合がある。
【0026】
リチウム遷移金属化合物中のLi及びNbを除く金属元素の総モル数に対するNiの割合を示すxは、電池の高容量化を図り、且つ他の金属元素を添加するために、0.80≦x≦0.94を満たす。
【0027】
リチウム遷移金属化合物中のLiを除く金属元素の総モル数に対するCoの割合を示すyは、0≦y≦0.02を満たす。Coは任意成分である。また、Coは高価なので、製造コスト低減の観点から、y≦0.02を満たす。
【0028】
リチウム遷移金属化合物中のLiを除く金属元素の総モル数に対するM(MはAl、Mn、Ti、Mo、W、及びMgから選ばれる少なくとも1種以上の元素を含む)の割合を示すzは、0.04≦z≦0.20を満たす。Mは、Al及びMnとすることができる。
【0029】
リチウム遷移金属化合物中のLiを除く金属元素の総モル数に対するNbの割合を示すαは、0.001≦α≦0.006を満たし、0.001≦α≦0.003を満たすことがより好ましい。Nbは必須成分である。α<0.001の場合には、電池の反応抵抗を低減する効果が得られにくい。一方、Nb>0.006の場合には、初期の電池の容量が低くなる。
【0030】
また、リチウム遷移金属化合物に含有されるNbの分布状態によって、電池の反応抵抗を低減できる。具体的には、以下のように算出される指数n1/(n1+n2)が50%≦n1/(n1+n2)<75%の条件を満たすように、Nb化合物がリチウム遷移金属化合物の一次粒子表面及び二次粒子表面に存在することで、電池の反応抵抗を低減できる。
(1)リチウム遷移金属化合物0.2gを純水5mL/35%塩酸5mLの塩酸水溶液中に添加した第1の試料溶液を突沸下で120分溶解後、第1の試料溶液を濾過する。
(2)第1の試料溶液を濾過し採取した第1の濾液におけるNb量n1を、誘導結合プラズマ発光分光分析により定量する。
(3)第1の試料溶液の濾過に使用したフィルターを46%フッ化水素酸5mL/63%硝酸5mLフッ硝酸中に浸漬した第2の試料溶液を突沸下で180分溶解後、第2の試料溶液を濾過する。
(4)第2の試料溶液を濾過し採取した第2の濾液におけるNb量n2を、誘導結合プラズマ発光分光分析により定量する。
(5)上記で定量したn1及びn2から、モル量換算で、n1/(n1+n2)を算出する。
【0031】
n1はリチウム遷移金属化合物の結晶格子中の特にLi層に含まれるNbの量を表していると考えられる。また、n2はリチウム遷移金属化合物の一次粒子表面及び二次粒子表面に存在するNbの量を表していると考えられる。よって、n1/(n1+n2)は、リチウム遷移金属化合物の結晶格子中に含まれるNbの凡その割合を表す指数である。50%≦n1/(n1+n2)<75%の条件を満たす程度のNb化合物がリチウム遷移金属化合物の一次粒子表面及び二次粒子表面に存在することで、電池の反応抵抗が高くなるのを抑制できると推察される。
【0032】
リチウム遷移金属化合物を構成する元素の含有率は、誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP-AES)や電子線マイクロアナライザー(EPMA)、エネルギー分散型X線分析装置(EDX)等により測定できる。例えば、Nbの含有率については、リチウム遷移金属化合物0.2gを46%フッ化水素酸5mL/63%硝酸5mLのフッ硝酸中に添加した試料溶液を突沸下で180分溶解後、当該試料溶液を濾過し採取した濾液を誘導結合プラズマ発光分光分析することで定量できる。
【0033】
正極活物質におけるリチウム遷移金属化合物の含有率は、例えば、電池の容量を向上させることや充放電サイクル特性の低下を効果的に抑制すること等の点で、正極活物質の総質量に対して90質量%以上であることが好ましく、99質量%以上であることがさらに好ましい。
【0034】
また、本実施形態の正極活物質は、本実施形態のリチウム遷移金属化合物以外に、その他のリチウム遷移金属化合物を含んでいても良い。その他のリチウム遷移金属化合物としては、例えば、Niの含有率が0モル%以上80モル%未満のリチウム遷移金属化合物が挙げられる。
【0035】
次に、リチウム遷移金属化合物の製造方法の一例について説明する。
【0036】
リチウム遷移金属化合物の製造方法は、少なくともNiを含有する複合酸化物と、Li化合物と、Nb化合物とを混合して混合物を得る混合ステップと、混合物を酸素雰囲気下で、450℃以上680℃以下での昇温速度が3.5℃/分超5.5℃/分以下の範囲で、且つ、到達最高温度が700℃以上780℃以下の範囲で焼成炉を昇温して焼成する焼成ステップと、を含み、到達最高温度の保持時間は1時間以上10時間以下である。
【0037】
少なくともNiを含有する複合酸化物は、複合酸化物中のNiの割合が80モル%以上94モル%以下である複合酸化物であればよいが、一般式NixCoyMzO2(0.80≦x≦0.94、0≦y≦0.02、0.04≦z≦0.20、x+y+z=1、MはAl、W、Mg、Ti、Mn及びMoから選ばれる少なくとも1種以上の元素を含む)で表される複合酸化物を用いることが好ましい。複合酸化物の製造方法は特に限定されないが、例えば、Ni及び他の金属元素(Co、Al、Mn等)を含む金属塩の溶液を撹拌しながら、水酸化ナトリウム等のアルカリ溶液を滴下し、pHをアルカリ側(例えば8.5~12.5)に調整することにより、Ni及び他の金属元素を含む複合水酸化物を析出(共沈)させ、当該複合水酸化物を焼成することにより、Ni及び他の金属元素を含む複合酸化物を得ることができる。焼成温度は、特に制限されるものではないが、例えば、500℃~600℃の範囲である。
【0038】
混合ステップにおける、上記の複合酸化物と、Li化合物と、Nb化合物との混合割合は、最終的に得られるLi遷移金属酸化物における各元素が所望の割合となるように適宜決定されればよい。Li及びNbを除く金属元素に対するLiのモル比は、0.95モル%以上1.10モル%以下であり、より好ましくは0.95モル%以上1.05モル%以下であり、特に好ましくは0.97以上1.03以下である。また、Li及びNbを除く金属元素に対するNbのモル比は、0.001モル%以上0.006モル%以下であり、より好ましくは0.0025モル%以上0.005モル%以下である。Li化合物としては、例えば、Li2CO3、LiOH、Li2O3、Li2O、LiNO3、LiNO2、Li2SO4、LiOH・H2O、LiH、LiF等が挙げられる。また、Nb化合物としては、Nb2O5、Nb2O5・nH2O、LiNbO3、NbCl5等が挙げられるが、特にNb2O5が好ましい。混合ステップでは、複合酸化物、Li化合物、及びNb化合物を混合する際、必要に応じて他の金属原料を添加してもよい。他の金属原料は、複合酸化物を構成する金属元素及びLi、Nb以外の金属元素を含む酸化物等である。
【0039】
焼成ステップにおいては、混合ステップで得られた混合物を酸素雰囲気下で焼成し、本実施形態に係るリチウム遷移金属化合物を得る。焼成ステップにおいては、450℃以上680℃以下での昇温速度が3.5℃/分超5.5℃/分以下の範囲であり、且つ、到達最高温度が700℃以上780℃以下の範囲である。680℃超から到達最高温度までの昇温速度は、例えば、0.5~2℃/分である。また、到達最高温度の保持時間は1時間以上10時間以下である。焼成ステップは、例えば焼成炉内で行われ、焼成時における焼成炉内に加わる最大の圧力は、焼成炉外圧力に加え0.55kPa超1.0kPa以下の範囲が好ましい。また、焼成ステップは、Nbの分布状態を調整することを容易とする点で、例えば、2段階焼成が好ましい。1段階目の焼成温度は、例えば450℃以上680℃以下の範囲であることが好ましい。また、2段階目の焼成温度は、例えば、700℃以上780℃以下の範囲であることが好ましい。最終的に得られるリチウム遷移金属化合物のNbの分布状態は、焼成ステップにおける昇温速度、到達最高温度、焼成炉内の最大圧力、等を制御することにより調整される。
【0040】
[負極]
負極12は、負極集電体40と、負極集電体40の両面に形成された負極活物質層41とを有する。負極集電体40には、銅、銅合金等の負極12の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルムなどを用いることができる。負極活物質層41は、負極活物質、及び結着材を含む。負極活物質層41の厚みは、例えば負極集電体40の片側で10μm以上150μm以下である。負極12は、負極集電体40の表面に負極活物質、結着材等を含む負極スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧延して負極活物質層41を負極集電体40の両面に形成することにより作製できる。
【0041】
負極活物質層41に含まれる負極活物質としては、リチウムイオンを可逆的に吸蔵、放出できるものであれば特に限定されず、一般的には黒鉛等の炭素材料が用いられる。黒鉛は、鱗片状黒鉛、塊状黒鉛、土状黒鉛等の天然黒鉛、塊状人造黒鉛、黒鉛化メソフェーズカーボンマイクロビーズ等の人造黒鉛のいずれであってもよい。また、負極活物質として、Si、Sn等のLiと合金化する金属、Si、Sn等を含む金属化合物、リチウムチタン複合酸化物などを用いてもよい。また、これらに炭素被膜を設けたものを用いてもよい。例えば、SiOx(0.5≦x≦1.6)で表されるSi含有化合物、又はLi2ySiO(2+y)(0<y<2)で表されるリチウムシリケート相中にSiの微粒子が分散したSi含有化合物などが、黒鉛と併用されてもよい。
【0042】
負極活物質層41に含まれる結着材には、正極11の場合と同様に、PTFE、PVdF等の含フッ素樹脂、PAN、ポリイミド、アクリル樹脂、ポリオレフィンなどを用いてもよいが、好ましくはスチレン-ブタジエンゴム(SBR)が用いられる。また、負極活物質層41には、CMC又はその塩、ポリアクリル酸(PAA)又はその塩、ポリビニルアルコール(PVA)などが含まれていてもよい。
【0043】
[セパレータ]
セパレータ13には、例えば、イオン透過性及び絶縁性を有する多孔性シートが用いられる。多孔性シートの具体例としては、微多孔薄膜、織布、不織布等が挙げられる。セパレータの材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、セルロースなどが好適である。セパレータ13は、単層構造であってもよく、積層構造を有していてもよい。また、セパレータ13の表面には、アラミド樹脂等の耐熱性の高い樹脂層、無機化合物のフィラーを含むフィラー層が設けられていてもよい。
【0044】
[非水電解質]
非水電解質は、例えば、非水溶媒と、非水溶媒に溶解した電解質塩とを含む。非水溶媒には、例えばエステル類、エーテル類、アセトニトリル等のニトリル類、ジメチルホルムアミド等のアミド類、及びこれらの2種以上の混合溶媒等を用いることができる。非水溶媒は、これら溶媒の水素の少なくとも一部をフッ素等のハロゲン原子で置換したハロゲン置換体を含有していてもよい。ハロゲン置換体としては、フルオロエチレンカーボネート(FEC)等のフッ素化環状炭酸エステル、フッ素化鎖状炭酸エステル、フルオロプロピオン酸メチル(FMP)等のフッ素化鎖状カルボン酸エステルなどが挙げられる。
【0045】
上記エステル類の例としては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート等の環状炭酸エステル、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、メチルプロピルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、メチルイソプロピルカーボネート等の鎖状炭酸エステル、γ-ブチロラクトン(GBL)、γ-バレロラクトン(GVL)等の環状カルボン酸エステル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル(MP)、プロピオン酸エチル(EP)等の鎖状カルボン酸エステルなどが挙げられる。
【0046】
上記エーテル類の例としては、1,3-ジオキソラン、4-メチル-1,3-ジオキソラン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、プロピレンオキシド、1,2-ブチレンオキシド、1,3-ジオキサン、1,4-ジオキサン、1,3,5-トリオキサン、フラン、2-メチルフラン、1,8-シネオール、クラウンエーテル等の環状エーテル、1,2-ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジヘキシルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、メチルフェニルエーテル、エチルフェニルエーテル、ブチルフェニルエーテル、ペンチルフェニルエーテル、メトキシトルエン、ベンジルエチルエーテル、ジフェニルエーテル、ジベンジルエーテル、o-ジメトキシベンゼン、1,2-ジエトキシエタン、1,2-ジブトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、1,1-ジメトキシメタン、1,1-ジエトキシエタン、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル等の鎖状エーテルなどが挙げられる。
【0047】
電解質塩は、リチウム塩であることが好ましい。リチウム塩の例としては、LiBF4、LiClO4、LiPF6、LiAsF6、LiSbF6、LiAlCl4、LiSCN、LiCF3SO3、LiCF3CO2、Li(P(C2O4)F4)、LiPF6-x(CnF2n+1)x(1<x<6,nは1又は2)、LiB10Cl10、LiCl、LiBr、LiI、クロロボランリチウム、低級脂肪族カルボン酸リチウム、Li2B4O7、Li(B(C2O4)F2)等のホウ酸塩類、LiN(SO2CF3)2、LiN(C1F2l+1SO2)(CmF2m+1SO2){l,mは0以上の整数}等のイミド塩類などが挙げられる。リチウム塩は、これらを1種単独で用いてもよいし、複数種を混合して用いてもよい。これらのうち、イオン伝導性、電気化学的安定性等の観点から、LiPF6を用いることが好ましい。リチウム塩の濃度は、例えば非水溶媒1L当り0.8モル~1.8モルである。また、さらにビニレンカーボネートやプロパンスルトン系添加剤を添加してもよい。
【実施例】
【0048】
以下、実施例及び比較例により本開示をさらに説明するが、本開示は以下の実施例に限定されるものではない。
【0049】
[正極活物質の作製]
<実施例1-1>
共沈法により得られた[Ni0.90Co0.01Al0.05Mn0.04](OH)2で表される複合水酸化物を500℃で2時間焼成し、複合酸化物(Ni0.90Co0.01Al0.05Mn0.04O2)を得た。LiOHと上記複合酸化物とNb2O5とを、Liと、Ni、Co、Al、Mn及びNbの総量とのモル比が1.01:1になるように混合して混合物を得た。Liを除く金属の総モルに対するNbのモル比は、0.0025とした。当該混合物を、酸素気流中にて、450℃以上680℃以下の温度域において3.8℃/分の昇温速度で680℃まで昇温した後、昇温速度1℃/分として、最高温度720℃で5時間焼成した後に水洗により不純物を除去し、リチウム遷移金属化合物を得た。誘導結合プラズマ発光分光分析装置(セイコーインスツルメンツ社製、商品名「SPS3100」)を用いて、上記得られたリチウム遷移金属化合物の組成を測定した結果、組成はLiNi0.90Co0.01Al0.05Mn0.04Nb0.0025O2であった。これを実施例1-1の正極活物質とした。
【0050】
<実施例1-2>
450℃以上680℃以下の温度域における昇温速度を5.5℃/分に変更したこと以外は実施例1-1と同様にしてリチウム遷移金属化合物を得た。これを実施例1-2の正極活物質とした。
【0051】
<実施例1-3>
Nbのモル比がLiを除く金属の総モル比に対して、0.00125になるようにNb2O5を混合して混合物を得たこと以外は実施例1-1と同様にしてリチウム遷移金属化合物を得た。得られたリチウム遷移金属化合物の組成はLiNi0.90Co0.01Al0.05Mn0.04Nb0.00125O2であった。これを実施例1-3の正極活物質とした。
【0052】
<比較例1-1>
450℃以上680℃以下の温度域における昇温速度を3.2℃/分に変更したこと以外は実施例1-1と同様にしてリチウム遷移金属化合物を得た。得られたリチウム遷移金属化合物の組成はLiNi0.90Co0.01Al0.05Mn0.04Nb0.0025O2であった。これを比較例1-1の正極活物質とした。
【0053】
<比較例1-2>
450℃以上680℃以下の温度域における昇温速度を1.2℃/分に変更したこと以外は実施例1-1と同様にしてリチウム遷移金属化合物を得た。これを比較例1-2の正極活物質とした。
【0054】
<比較例1-3>
Nbのモル比がLiを除く金属の総モル比に対して、0.00125になるようにNb2O5を混合して混合物を得たことと、450℃以上680℃以下の温度域における昇温速度を1.2℃/分に変更したこと以外は実施例1-1と同様にしてリチウム遷移金属化合物を得た。得られたリチウム遷移金属化合物の組成はLiNi0.90Co0.01Al0.05Mn0.04Nb0.00125O2であった。これを比較例1-3の正極活物質とした。
【0055】
<比較例1-4>
Nb2O5を混合せずに混合物を得たこと以外は実施例1-1と同様にしてリチウム遷移金属化合物を得た。得られたリチウム遷移金属化合物の組成はLiNi0.90Co0.01Al0.05Mn0.04O2であった。これを比較例1-4の正極活物質とした。
【0056】
<比較例1-5>
Nbのモル比がLiを除く金属の総モル比に対して、0.00025になるようにNb2O5を混合して混合物を得たこと以外は実施例実施例1-1と同様にしてリチウム遷移金属化合物を得た。得られたリチウム遷移金属化合物の組成はLiNi0.90Co0.01Al0.05Mn0.04Nb0.00025O2であった。これを比較例1-5の正極活物質とした。
【0057】
<比較例1-6>
Nbのモル比がLiを除く金属の総モル比に対して、0.0100になるようにNb2O5を混合して混合物を得たこと以外は実施例実施例1-1と同様にしてリチウム遷移金属化合物を得た。得られたリチウム遷移金属化合物の組成はLiNi0.90Co0.01Al0.05Mn0.04Nb0.0098O2であった。これを比較例1-6の正極活物質とした。
【0058】
<比較例1-7>
450℃以上680℃以下の温度域における昇温速度を6.0℃/分に変更したこと以外は実施例1と同様にしてリチウム遷移金属化合物を得た。これを比較例7の正極活物質とした。
【0059】
<実施例2>
共沈法により得られた[Ni0.85Al0.05Mn0.10](OH)2で表される複合水酸化物を500℃で2時間焼成し、複合酸化物(Ni0.85Al0.05Mn0.10O2)を得た。LiOHと上記複合酸化物とNb2O5とを、Liと、Ni、Al、Mn及びNbのモル比が1.01:1になるように混合して混合物を得た。Liを除く金属の総モルに対するNbのモル比は、0.0025とした。当該混合物を、酸素気流中にて、450℃以上680℃以下の温度域において3.8℃/分の昇温速度で680℃まで昇温した後、昇温速度1℃/分として、最高温度750℃で5時間焼成した後に水洗により不純物を除去し、リチウム遷移金属化合物を得た。誘導結合プラズマ発光分光分析装置(セイコーインスツルメンツ社製、商品名「SPS3100」)を用いて、上記得られたリチウム遷移金属化合物の組成を測定した結果、組成はLiNi0.85Al0.05Mn0.10Nb0.0025O2であった。これを実施例2の正極活物質とした。
【0060】
<比較例2>
450℃以上680℃以下の温度域における昇温速度を1.2℃/分に変更したこと以外は実施例2と同様にしてリチウム遷移金属化合物を得た。得られたリチウム遷移金属化合物の組成はLiNi0.85Al0.05Mn0.10Nb0.0025O2であった。これを比較例2の正極活物質とした。
【0061】
<実施例3>
共沈法により得られた[Ni0.93Al0.04Mn0.03](OH)2で表される複合水酸化物を500℃で2時間焼成し、複合酸化物(Ni0.93Al0.04Mn0.03O2)を得た。LiOHと上記複合酸化物とNb2O5とを、Liと、Ni、Al、Mn及びNbの総量とのモル比が1.01:1になるように混合して混合物を得た。Liを除く金属の総モルに対するNbのモル比は、0.0025とした。当該混合物を、酸素気流中にて、450℃以上680℃以下の温度域において3.8℃/分の昇温速度で680℃まで昇温した後、昇温速度1℃/分として、最高温度710℃で5時間焼成した後に水洗により不純物を除去し、リチウム遷移金属化合物を得た。誘導結合プラズマ発光分光分析装置(セイコーインスツルメンツ社製、商品名「SPS3100」)を用いて、上記得られたリチウム遷移金属化合物の組成を測定した結果、組成はLiNi0.93Al0.04Mn0.03Nb0.0025O2であった。これを実施例3の正極活物質とした。
【0062】
<比較例3>
450℃以上680℃以下の温度域における昇温速度を1.2℃/分に変更したこと以外は実施例3と同様にしてリチウム遷移金属化合物を得た。得られたリチウム遷移金属化合物の組成はLiNi0.93Al0.04Mn0.03Nb0.0025O2であった。これを比較例3の正極活物質とした。
【0063】
実施例及び比較例のリチウム遷移金属化合物(正極活物質)に対して、既述の条件でNbの分布状態を示す指数n1/(n1+n2)の値を算出した。表1にn1、n2、及びn1/(n1+n2)×100(%)の値を示す。
【0064】
【0065】
実施例及び比較例のリチウム遷移金属化合物(正極活物質)を用いて、以下のように試験セルを作製した。
【0066】
[正極の作製]
実施例1の正極活物質を91質量部、導電材としてアセチレンブラックを7質量部、結着剤としてポリフッ化ビニリデンを2質量部の割合で混合し、これをN-メチル-2-ピロリドン(NMP)と混合して正極スラリーを調製した。次いで、当該スラリーを厚み15μmのアルミニウム箔からなる正極集電体の両面に塗布し、塗膜を乾燥した後、圧延ローラにより、塗膜を圧延して、正極集電体の両面に正極活物質層が形成された正極を作製した。正極活物質層の充填密度は、3.55g/cm3であった。その他の実施例及び比較例も同様にして正極を作製した。
【0067】
[負極の作製]
負極活物質として、96質量部の黒鉛と、及び炭素被膜を有する4質量部のSiOx(x=0.94)とを用いた。当該負極活物質を100質量部、SBRのディスパージョンを1質量部、CMCのナトリウム塩を1質量部の割合で混合し、これを水と混合して負極スラリーを調製した。次いで、当該スラリーを銅箔からなる負極集電体の両面に塗布し、塗膜を乾燥した後、圧延ローラにより塗膜を圧延して、負極集電体の両面に負極活物質層が形成された負極を作製した。
【0068】
[非水電解質の調製]
エチレンカーボネート(EC)と、メチルエチルカーボネート(MEC)と、ジメチルカーボネート(DMC)とを、3:3:4の体積比で混合した。当該混合溶媒に対して、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を1.2モル/リットルの濃度となるように溶解させて、非水電解質を調製した。
【0069】
[試験セルの作製]
実施例1の正極と、負極とを、セパレータを介して互いに対向するように積層し、これを巻回して、電極体を作製した。次いで、電極体及び上記非水電解質をアルミニウム製の外装体に挿入し、試験セルを作製した。その他の実施例及び比較例も同様にして試験セルを作製した。
【0070】
[初期の電池容量の測定]
上記試験セルについて、25℃の温度条件下で、セル電圧が4.2Vになるまで120mAで定電流充電を行い、その後、電流値が8mAになるまで4.2Vで定電圧充電を行った。この時の、充電容量を電池容量とした。
【0071】
[反応抵抗の測定]
上記の電池容量の測定後に、上記試験セルについて、再び25℃の温度条件下で、セル電圧が4.2Vになるまで120mAで定電流充電を行い、その後、電流値が8mAになるまで4.2Vで定電圧充電を行った。次いで、試験セルについて、交流インピーダンス測定器を用いて20kHz~0.01Hzの交流インピーダンスを測定し、測定データからコールコールプロットを描画し、10Hz~0.1Hzの間の円弧の大きさから、反応抵抗を求めた。
【0072】
実施例及び比較例の電池容量及び反応抵抗を表2~4に分けて示す。表2には、実施例1-1~1-3及び比較例1-1~1-7の試験セルの電池容量及び反応抵抗の実測値を表す。
【0073】
表3には、実施例2及び比較例2の試験セルの電池容量の実測値を表す。また、実施例2の試験セルの反応抵抗は、比較例2の試験セルの反応抵抗を100として、相対的に表したものである。
【0074】
表4には、実施例3及び比較例3の試験セルの電池容量の実測値を表す。また、実施例3の試験セルの反応抵抗は、比較例3の試験セルの反応抵抗を100として、相対的に表したものである。
【0075】
【0076】
【0077】
【0078】
表2において、50%≦n1/(n1+n2)<75%の条件を満たす実施例1-1~1-3及は、比較例1-1~1-6のいずれよりも反応抵抗が低かった。また、比較例1-6はNbの含有率が高すぎて、比較例1-7は昇温速度が速すぎて、電池容量が低くなったと推察される。
【0079】
表3、表4においても、Niの含有率によらず、50%≦n1/(n1+n2)<75%の条件を満たす実施例2、3は、それぞれ比較例2、3よりも反応抵抗が低かった。
【符号の説明】
【0080】
10 非水電解質二次電池
11 正極
12 負極
13 セパレータ
14 電極体
15 電池ケース
16 外装缶
17 封口体
18,19 絶縁板
20 正極タブ
21 負極タブ
22 溝入部
23 底板
24 下弁体
25 絶縁部材
26 上弁体
27 キャップ
28 ガスケット
30 正極集電体
31 正極活物質層
40 負極集電体
41 負極活物質層