(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-07
(45)【発行日】2024-11-15
(54)【発明の名称】金型構造、プレス加工装置、およびプレス加工方法
(51)【国際特許分類】
B30B 15/02 20060101AFI20241108BHJP
B21D 37/12 20060101ALI20241108BHJP
【FI】
B30B15/02 E
B21D37/12
(21)【出願番号】P 2022541720
(86)(22)【出願日】2021-08-05
(86)【国際出願番号】 JP2021029067
(87)【国際公開番号】W WO2022030571
(87)【国際公開日】2022-02-10
【審査請求日】2024-07-31
(31)【優先権主張番号】P 2020134239
(32)【優先日】2020-08-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】520297687
【氏名又は名称】株式会社一志精工電機
(73)【特許権者】
【識別番号】304026696
【氏名又は名称】国立大学法人三重大学
(74)【代理人】
【識別番号】100174090
【氏名又は名称】和気 光
(74)【代理人】
【識別番号】100205383
【氏名又は名称】寺本 諭史
(74)【代理人】
【識別番号】100100251
【氏名又は名称】和気 操
(72)【発明者】
【氏名】北角 真一
(72)【発明者】
【氏名】池浦 良淳
【審査官】飯田 義久
(56)【参考文献】
【文献】特開平8-90081(JP,A)
【文献】特開平10-243614(JP,A)
【文献】特開2005-329468(JP,A)
【文献】特開2018-153826(JP,A)
【文献】特開2002-192244(JP,A)
【文献】特開2016-000431(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B30B 15/02
B21D 37/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレス機本体の可動台と固定台の間に配置されて被加工材をプレス加工するための金型構造であって、
前記金型構造は、前記固定台に固定される下型と、前記下型の上方に設けられた上型と、前記上型と前記下型との間に設けられた第一弾性体およびストッパーと、前記上型の前記可動台側に連結された圧力調整装置とを備えてなり、
前記圧力調整装置は、前記可動台に当接されるプレッシャープレートと、前記プレッシャープレートと前記上型の間に設けられた第二弾性体とを有し、
前記プレス加工の非加圧時において、前記第一弾性体が前記上型と前記下型とを離間させ、加圧時において、前記ストッパーが前記上型の下死点位置を規定しつつ、前記圧力調整装置の前記プレッシャープレートから前記上型に前記第二弾性体を介して前記可動台からの圧力が負荷されて前記被加工材を前記上型と前記下型との間で挟み込むことを特徴とする金型構造。
【請求項2】
前記第二弾性体の上端の端面が、前記プレッシャープレートの下面に非固定で当接していることを特徴とする請求項1記載の金型構造。
【請求項3】
前記第二弾性体は、流体ばねであることを特徴とする請求項1記載の金型構造。
【請求項4】
前記流体ばねは、筐体と、前記筐体の内部に封入された流体と、前記筐体の軸方向に伸縮可能なピストンロッドとを有し、
前記ピストンロッドの上端の端面が前記プレッシャープレートの下面に非固定で当接し、前記プレッシャープレートから前記ピストンロッドに対して前記筐体の軸方向に圧力が負荷されることを特徴とする請求項3記載の金型構造。
【請求項5】
前記金型構造は、前記上型の速度および加速度の変化を抑制する手段を有することを特徴とする請求項1記載の金型構造。
【請求項6】
請求項1記載の金型構造と、前記金型構造の前記下型が固定された固定台と、前記金型構造の前記プレッシャープレートが当接された可動台とを備えてなることを特徴とするプレス加工装置。
【請求項7】
請求項1記載の金型構造を用いて、前記被加工材をプレス加工するプレス加工方法であって、
前記被加工材を前記下型に配置した後、前記第一弾性体により前記下型と離間させた状態の前記上型が、前記可動台の圧力を前記圧力調整装置を介して受けて下降して前記ストッパーにより目標下死点位置に位置決めされ、
前記上型が位置決めされた状態で、前記可動台が前記圧力調整装置の前記第二弾性体を押し縮めながら該可動台の下死点位置まで下降し、
前記可動台が上昇行程に変化して、前記第二弾性体の圧縮が開放されるまでの間、前記上型が前記目標下死点位置に留まることで、
前記被加工材を前記上型と前記下型との間で所定時間挟み込んでプレス加工することを特徴とするプレス加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレス加工用の金型構造と、この金型構造を用いたプレス加工装置とプレス加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
種々の電子機器、家電、産業機械、自動車、通信周辺機器などにおいては、複数の回路や部品を電気的に接続するために、金属製のコネクタ端子や導体棒(以下、総称して「コネクタ端子」という)が用いられている。
【0003】
例えば、近年生産の増加が著しいハイブリッド自動車や電気自動車において、コネクタ端子は、リレー、抵抗、フューズ、電源センサなどの役割を担っており、高電圧電源の供給、遮断、分配などを行う重要な部品である。今後、更なる高電圧化への対応や、安全性、利便性の向上のため、電源ボックス内に搭載される電子部品の増加が見込まれている。それに伴い、コネクタ端子も高密度化への対応が必要であり、より微細な加工が施されたコネクタ端子が求められている。
【0004】
コネクタ端子の製造は、一般的に、薄板の金属材料のプレス加工により行われる。プレス加工の方法としては種々の方法が知られており、単発加工や、順送プレス加工などがある。最も単純なプレス加工の方法である単発加工の場合、せん断加工、曲げ加工、絞り加工など、各工程に必要な金型をそれぞれ別個に準備する。単発加工は、各工程毎に被加工材の出し入れが必要なため、工程が多い製品ほど製造に多くの時間を要し、生産効率が低くなりやすい。一方、順送プレス加工は、1つの金型内に複数の加工工程が設けられており、プレス加工毎に、次の工程へ自動で被加工材を順送りしながら次々とプレス加工するため、被加工材の金型への出し入れは不要である。そのため、順送プレス加工は、様々なプレス加工方法の中で、最も加工速度が速く、生産効率に優れた加工方法であり、大量生産に適する。
【0005】
微細な加工が施されたコネクタ端子を量産するには、高精度な加工が安定的に行われる必要がある。ここで「高精度な加工」とは、被加工材への微細な加工を、目標の誤差範囲内に収まるように行うこと、および、製品の生産後の経時での寸法変化が所定の範囲内に収まるように行うことを意味する。加工の精度には、金型自体が設計通りである精度と、金型を構成する上型と下型の位置決め精度の両方が影響する。そして、コネクタの微細加工に対する要求水準が高まってきた結果、上型と下型の位置決め精度が及ぼす影響が相対的に大きくなり、その向上が重要な課題となっている。上型と下型の位置決め精度に影響する因子としては、プレス機本体の摩耗や、摺動部のガタ、温度変化による筐体の伸縮などが挙げられる。それにより可動台の下死点位置が安定せず、被加工材に対する圧力(以下、「加工力」ともいう)が不安定となることがある。ここで、下死点とは、上型と下型が最も近づく時点を意味し、下死点位置とは、上型と下型が最も近づく時点での位置を意味する。また、プレス機本体とは、プレス加工を行うプレス加工装置のうち、金型などを除いた部分、例えば可動台や、固定台、筐体などの機械部分の総称として用いる。
【0006】
また、プレス加工装置による曲げ加工においては、被加工材を曲げた後に加圧直後の所望の角度よりも大きい角度となるスプリングバックと呼ばれる現象が存在する。スプリングバックへの対策としては、高度な制御機能を有するプレス加工装置(以下、「サーボプレス」という)の導入が挙げられる。
【0007】
上述した上型と下型の位置決め精度に影響する因子を計算で予測することは容易ではないため、生産現場では熟練技術者の経験と勘によるプレス加工装置のダイハイト調整や、金型の修正などが行われている。ここで、ダイハイトとは、プレス加工装置の可動台の下死点位置と固定台との上下方向の距離を意味する。
【0008】
上型と下型の位置決め精度を向上させる方法として、種々の方法が提案されている。例えば、位置決め精度の向上および最適位置探査時間を短縮化するプレス機として、プレス機の上下金型間に設けられた緩衝油圧シリンダによって、プレス機が素材打ち抜き加工時に生じるブレークスルーを緩衝するプレス機が知られている(特許文献1参照)。
【0009】
また、熱的影響や起動時および停止時の慣性力により、駆動手段によって作動する移動台やカムなどのストロークが変化しても、付勢手段によりストロークの変化量を吸収でき、加圧力を所定圧力に保持することができ、加工精度を高めたプレス装置として、パンチを取り付けたパンチプレートを駆動手段により昇降作動するロッドあるいはカムなどの変位作動部材と直接に連結せず、付勢手段を介して支持したフリークランプ方式としているプレス装置が知られている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開平10-58200号公報
【文献】特許第5038172号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1に記載のプレス機においては、上型と可動台が固定されているため、例えば、温度変化による筐体の伸縮などにより可動台から被加工材へ過大な圧力が負荷された場合には、緩衝油圧シリンダによる緩衝の効果は限定的であると考えられる。
【0012】
特許文献2に記載のプレス装置では、上部フレームには、第1付勢手段を備えた移動台が固定されている。また、下部フレームには、パンチプレートや、第2コイルスプリングを備えたベース台が固定されている。このプレス装置の製造の際には、上部フレームの下降時に移動台側のロッドがベース台側のパンチプレートに垂直に加圧されるように、移動台とベース台の間の平行を精密に調整する必要がある。また、金型構造の取り外しの際には、上部フレームと下部フレームの両方の取り外しが必要となり、金型構造の取り換えが容易ではない。
【0013】
また、スプリングバック対策に効果的であるサーボプレスは、加工速度が上げられない、もしくは必要な加工力が得られないなどの制約がある。そのため、サーボプレスは適用用途が限られ、通常のプレス加工装置と比べた場合、生産性が低下するおそれがある。
【0014】
さらに、人材の確保が難しくなりつつある現在では、ダイハイト調整や、金型の修正などの技術を持った技術者が不足している。また、技術の継承も困難となりつつあるため、技術者の技能に依存した従来の加工方法を、技術者の技能に依存しない加工方法へと変更することは、プレス業界における大きな課題である。
【0015】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、高精度な加工を行う場面において、プレス機本体に起因する不安定な位置決め精度の影響を低減でき、熟練技術者によるプレス加工装置の調整が不要であり、生産性に優れるとともに、プレス機本体への取り付けと取り外しが容易である金型構造を提供することを目的とする。また、この金型構造を用いたプレス加工装置およびプレス加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の金型構造は、プレス機本体の可動台と固定台の間に配置されて被加工材をプレス加工するための金型構造であって、上記金型構造は、上記固定台に固定される下型と、上記下型の上方に設けられた上型と、上記上型と上記下型との間に設けられた第一弾性体およびストッパーと、上記上型の上記可動台側に連結された圧力調整装置とを備えてなり、上記圧力調整装置は、上記可動台に当接されるプレッシャープレートと、上記プレッシャープレートと上記上型の間に設けられた第二弾性体とを有し、上記プレス加工の非加圧時において、上記第一弾性体が上記上型と上記下型とを離間させ、加圧時において、上記ストッパーが上記上型の下死点位置を規定しつつ、上記圧力調整装置の上記プレッシャープレートから上記上型に上記第二弾性体を介して上記可動台からの圧力が負荷されて上記被加工材を上記上型と上記下型との間で挟み込むことを特徴とする。
【0017】
上記第二弾性体の上端の端面が、上記プレッシャープレートの下面に非固定で当接していることを特徴とする。
【0018】
上記第二弾性体は、流体ばねであることを特徴とする。また、上記流体ばねは、筐体と、上記筐体の内部に封入された流体と、上記筐体の軸方向に伸縮可能なピストンロッドとを有し、上記ピストンロッドの上端の端面が上記プレッシャープレートの下面に非固定で当接し、上記プレッシャープレートから上記ピストンロッドに対して上記筐体の軸方向に圧力が負荷されることを特徴とする。
【0019】
上記金型構造は、上記上型の速度および加速度の変化を抑制する手段を有することを特徴とする。
【0020】
本発明のプレス加工装置は、上記の本発明の金型構造と、該金型構造の上記下型が固定された固定台と、上記金型構造の上記プレッシャープレートが当接された可動台とを備えてなることを特徴とする。
【0021】
本発明のプレス加工方法は、上記の本発明の金型構造を用いて、上記被加工材をプレス加工するプレス加工方法であって、上記被加工材を上記下型に配置した後、上記第一弾性体により上記下型と離間させた状態の上記上型が、上記可動台の圧力を上記圧力調整装置を介して受けて下降して上記ストッパーにより目標下死点位置に位置決めされ、上記上型が位置決めされた状態で、上記可動台が上記圧力調整装置の上記第二弾性体を押し縮めながら該可動台の下死点位置まで下降し、上記可動台が上昇行程に変化して、上記第二弾性体の圧縮が開放されるまでの間、上記上型が上記目標下死点位置に留まることで、上記被加工材を上記上型と上記下型との間で所定時間挟み込んでプレス加工することを特徴とする。
ここで、上型の目標下死点位置は、被加工材に最適な加工力を負荷できる上型の下死点位置を意味する。
【発明の効果】
【0022】
本発明の金型構造は、プレス機本体の可動台と固定台の間に配置されて被加工材をプレス加工するための金型構造であり、固定台に固定される下型と、下型の上方に設けられた上型と、上型と下型との間に設けられた第一弾性体およびストッパーと、上型の可動台側に連結された圧力調整装置とを備え、圧力調整装置が、可動台に当接されるプレッシャープレートと、プレッシャープレートと上型の間に設けられた第二弾性体とを有し、プレス加工の非加圧時において、第一弾性体が上型と下型とを離間させ、加圧時において、ストッパーが上型の下死点位置を規定しつつ、圧力調整装置のプレッシャープレートから上型に第二弾性体を介して可動台からの圧力が負荷されて被加工材を上型と下型との間で挟み込むので、上型の下死点位置をストッパーで高精度に位置決めしながら、可動台の下死点位置のずれなどを圧力調整装置により吸収できる。このため、プレス機本体に起因する不安定な位置決め精度の影響を低減でき、高精度な加工を行うことができる。また、圧力調整装置が金型構造内に内包されているので、プレス機本体への取り付けと取り外しが容易である。これらにより、従来のプレス加工装置の場合に必要とされる、熟練技術者によるプレス加工装置の調整が不要となる。さらに、従来のプレス加工装置に比較して、可動台が一回上下運動する時間が短い場合でも、上型の下死点位置に滞在する時間(以下、「下死点時間」という)をより長く保つことができるので、サーボプレスのように加工速度や加工力を落とすことなく、スプリングバックを大幅に低減することが可能となり、生産性に優れる。加えて、材料の板厚方向に対する潰しの安定性が向上する。
【0023】
第二弾性体の上端の端面が、プレッシャープレートの下面に非固定で当接しているので、プレッシャープレートの僅かなずれなどが生じた際にも第二弾性体にはスラスト方向の力が伝達されにくく、第二弾性体の歪みなどを防止できる。
【0024】
第二弾性体が、流体ばねであるので、プレス機本体に起因する振動を減衰する特性により優れ、プレス機本体に起因する不安定な位置決め精度の影響をさらに低減できる。
【0025】
また、流体ばねが、筐体と、筐体の内部に封入された流体と、筐体の軸方向に伸縮可能なピストンロッドとを有し、ピストンロッドの上端の端面がプレッシャープレートの下面に非固定で当接し、プレッシャープレートからピストンロッドに対して筐体の軸方向(上下垂直方向)に圧力が負荷されるので、プレッシャープレートの僅かなずれなどが生じた際にもピストンロッドにはスラスト方向の力が伝達されにくく、ピストンロッドの傾きなどに起因する流体ばねの内部流体の外部への漏出などを防止できる。この結果、圧力調整装置の性能低下を防止できる。
【0026】
金型構造が、上型の速度および加速度の変化を抑制する手段を有するので、抜き加工時の被加工材からの反発力の急激な減少を減衰させ、上型の高加速度な動きを抑え、ストッパーの高加速度での突き当たりを抑制できる。これにより、プレス加工時の騒音を緩和できる。
【0027】
本発明のプレス加工装置は、上記した本発明の金型構造と、該金型構造の下型が固定された固定台と、該金型構造のプレッシャープレートが当接された可動台とを備えてなるので、従来のプレス加工装置に比べ、熟練技術者によるダイハイトなどのプレス加工装置の調整が不要であり、技術者の技能にかかわらず、高精度な加工を行うことができる。
【0028】
本発明のプレス加工方法は、上記した本発明の金型構造を用いて被加工材をプレス加工するプレス加工方法であり、被加工材を下型に配置した後、第一弾性体により下型と離間させた状態の上型が、可動台の圧力を圧力調整装置を介して受けて下降してストッパーにより目標下死点位置に位置決めされ、上型が位置決めされた状態で、可動台が圧力調整装置の第二弾性体を押し縮めながら該可動台の下死点位置まで下降し、可動台が上昇行程に変化して、第二弾性体の圧縮が開放されるまでの間、上型が目標下死点位置に留まることで、被加工材を上型と下型との間で所定時間挟み込んでプレス加工するので、上型の下死点時間をより長くでき、スプリングバックを大幅に低減できる。加えて、材料の板厚方向に対する潰しの安定性が向上する。また、可動台の位置がずれた場合でも圧力調整装置がそのずれを吸収できるため、不安定な位置決め精度の影響を低減でき、高精度な加工を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明の金型構造(非加圧時)の側面図である。
【
図2】本発明の金型構造(加圧時)の側面図である。
【
図3】圧力調整装置を上方から見た場合の平面図である。
【
図4】第二弾性体の一例である流体ばねの断面図である。
【
図5】プレス加工されたコネクタ端子の斜視図である。
【
図7】従来のプレス加工装置の軌道を表わす図である。
【
図8】従来のプレス加工装置の加工力を表わす図である。
【
図9】本発明のプレス加工装置の軌道を表わす図である。
【
図10】本発明のプレス加工装置の加工力を表わす図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の金型構造の一例について
図1および
図2に基づいて説明する。
図1および
図2は、本発明の金型構造を被加工材の進行方向に直交して側面から見た場合の側面図であり、
図1は非加圧時の状態を、
図2は加圧時の状態をそれぞれ示す。
図1および
図2に示すように、金型構造1は、固定台2に固定される下型3と、下型3の上方に設けられた上型4と、上型4と下型3との間に設けられた第一弾性体11およびストッパー10と、上型4の可動台5側に連結された圧力調整装置6とを備えている。ここで、固定台2および可動台5は、本発明の金型構造の構成には含まれず、金型構造1が取り付けられるプレス加工装置の一部である。
【0031】
図1に示すプレス加工の非加圧時において、第一弾性体11が上型4と下型3とを離間させ、
図2に示すプレス加工の加圧時において、ストッパー10が上型4の下死点位置を規定しつつ、圧力調整装置6のプレッシャープレート7から上型4に第二弾性体8を介して可動台5からの圧力が負荷されて被加工材30を上型4と下型3との間で挟み込んで加圧する。
【0032】
下型3は、被加工材30を支持する金属プレート3aと、固定台2に固定される金属プレート3bとを備える。金属プレート3aはダイプレートであり、金属プレート3bはバッキングプレートである。また、上型4は、圧力調整装置6の直下に配置される金属プレート4aと、金属プレート4aの下部に配置される金属プレート4bを備える。金属プレート4aは、バッキングプレートである。金属プレート4bは、パンチプレート、およびその下方に配置されるストリッパプレートを包含する(図示省略)。金属プレート4bの下面には、被加工材30を上方から加圧するパンチ14が突設されている。パンチ14は、ストリッパプレートのパンチ孔を通って被加工材30を加圧する。金属プレート3aの上面には、パンチ14と上下方向に対向して配置された凹部15が設けられている。パンチ14は、凹部15との間に被加工材30を挟み込んで加圧することで、被加工材30を所定の形状とする。
【0033】
圧力調整装置6は、可動台5に当接されるプレッシャープレート7と、第二弾性体8と、規制部材13とを備えている。第二弾性体8は、プレッシャープレート7と上型4の間に配置される。プレッシャープレート7と可動台5は当接されているのみで固定されていない。本発明では上型4の上部に圧力調整装置6を設ける構成とするため、可動台5に上型4を固定する場合、圧力調整装置6のプレッシャープレート7を可動台5に固定する必要がある。その構造上、固定は容易でない。金型構造1は、上型4(プレッシャープレート7)と可動台5を固定しない構造であっても、下型3を固定台2に固定しつつ、プレッシャープレート7の上面全体で可動台5の下面と密着して垂直に圧力を受けるため、金型構造1の位置ずれなどは起こらない。
【0034】
圧力調整装置6と上型との関係について
図3に基づいて説明する。
図3は、圧力調整装置をプレッシャープレートの上面から見た平面図である。
図3に示すように、プレッシャープレート7の側面には、プレッシャープレート7の下方に配置される上型の金属プレート4aの側面と摺動自在に当接する規制部材13が設けられている。規制部材13は、上方から見て四角形を構成するプレッシャープレート7の有する4つの側面のすべてに設けられている。プレッシャープレート7と金属プレート4aは、上方から見ると同じ形状をしている。4つの規制部材13は、それぞれが上型4の有する4つの側面と隙間なく当接することで、圧力調整装置6と上型4の水平方向の位置関係のずれを防止できる。それにより、プレッシャープレート7の下面と、金属プレート4aの上面は、上下方向のみに近接、離間を繰り返すので、プレッシャープレート7からの圧力は、第二弾性体8を介して、金属プレート4aの上面に対して垂直に掛かる。なお、上記規制部材の他、他のガイドなどの方法により、圧力調整装置と上型の水平方向の位置関係が一定を保つように規制することができれば、規制部材は必ずしも設けなくてもよい。
【0035】
図3において、可動台から受ける圧力を上型の上面全体に均等に負荷するため、11個の第二弾性体8(点線表示)が、所定の間隔で設けられている。ここで、上型の上面は、
図2における金属プレート4aの上面を意味する。
図3において、プレッシャープレート7と上型の上面は、上述のように、水平方向の動きが規制されている。一方、プレッシャープレート7と上型は、上下方向については、第二弾性体によっては固定されていない。このため、プレッシャープレート7は、上型に対して上下方向に可動しつつも、外れることのないように、複数の抜け防止部16により連結されている。抜け防止部16は、プレッシャープレート7の下面と、上型の上面の上下方向の距離が所定の範囲内に維持されるように設けられている。それにより、プレッシャープレート7の下面と、上型の上面は、平行なまま近接、離間できる。また、挿通部材12cは、プレッシャープレート7を上下方向に貫通して、所定の間隔で4か所に設けられており、案内棒によって金型構造の水平方向の動きが規制されている。
【0036】
第二弾性体として用いる流体ばねの構造について
図4に基づいて説明する。
図4は、第二弾性体の一例である流体ばねの断面図である。
図4に示すように、第二弾性体8’は、筐体18と、筐体18の内部に封入された流体19と、筐体18の軸方向(XY方向)に伸縮可能なピストンロッド17を有し、流体19の弾性を利用するばねである。流体ばねを第二弾性体に用いることで、プレス機本体に起因する振動を減衰できるため、プレス機本体に起因する不安定な位置決め精度の影響を低減できる。
【0037】
なお、第二弾性体としては、流体ばねに限られず、金属ばねや、ゴムばねなどの種々の弾性体から選択できる。部材コスト、要求特性などに応じて最適なばねを選択でき、流体ばねは、上述の減衰特性に優れるため、第二弾性体として用いることが好ましい。流体ばねの流体としては、例えば、オイルや、空気、窒素などから選択できる。また、本発明では第二弾性体として高いばね定数の弾性体を使用する必要があるため、流体として高圧の窒素ガスなどが封入されたものを選択することが好ましい。また、第二弾性体の個数や配置箇所は、適宜設定でき、
図1などの構成には限定されない。
【0038】
図1を用いて第二弾性体の設置の態様について説明を行う。第二弾性体8の上端の端面は、プレッシャープレート7の下面に当接している。特に、第二弾性体8の上端の端面と、プレッシャープレート7の下面とを、ボルトなどで固定せずに非固定とすることが好ましい。
図4のような流体ばねである場合、ピストンロッドの上端の端面がプレッシャープレート7の下面に非固定で当接し、プレッシャープレート7からピストンロッドに対して筐体の軸方向に圧力が負荷される構成とできる。上型4の上面には凹部が設けられており、第二弾性体8の下端をこの凹部に嵌合することで、上型4と第二弾性体8とは位置決めされる。ここで、第二弾性体の下端は強固に固定しても、緩い嵌合のみであってもよい。なお、位置決めのために、プレッシャープレートの下面にも凹部を設けて、第二弾性体の上端をこの凹部に隙間を開けて嵌合させてもよい。
【0039】
圧力調整装置の有するプレッシャープレートと上型の水平方向の位置関係は、一定を保つように規制部材などにより規制されているが、僅かなずれは生じうる。そのため、上記構成(非固定)とすることで、第二弾性体のピストンロッドなどにはスラスト方向の力が伝達されにくく、プレッシャープレートから第二弾性体に負荷される圧力が第二弾性体の長軸に沿って垂直方向(上下方向)のみに掛かる。それにより、第二弾性体の歪みなどを防止できる。特に、第二弾性体が流体ばねである場合、ピストンロッドの傾きなどに起因する流体ばねの内部流体の外部への漏出などを防止できる。この結果、圧力調整装置の性能が維持されやすくなり、プレス機本体に起因する不安定な位置決め精度の影響を長期にわたり低減できる。また、第二弾性体をプレッシャープレートおよび上型に固定しないことで、第二弾性体の交換が容易であるため、設計変更時の時間と手間を削減できる。
【0040】
上型4と下型3の間には、第一弾性体11およびストッパー10が設けられている。ストッパー10は、加圧時の上型4の下死点位置を規定する。ストッパー10は、上部ストッパー10aと、これに突き当たる位置に設けられた下部ストッパー10bを備える。上部ストッパー10aは、上型4の金属プレート4aの下面に設けられ、下部ストッパー10bは、下型3の金属プレート3bの上面に設けられている。ストッパー(上部と下部の一対)の個数や配置箇所は、適宜設定でき、
図1の構成には限定されない。
【0041】
第一弾性体11は、非加圧時に上型4と下型3とを離間させるために設けられており、金属製のコイルばねが用いられている。第一弾性体11は、金型構造を上方から見た場合に、金型構造の外周部に沿って所定の間隔で設けられ、合計8個設けられている(図示省略)。第二弾性体8のばね定数は、第一弾性体11のばね定数よりも大きい。第一弾性体11は、被加工材30への加圧後、可動台5が下死点から上昇する際に、上型4および圧力調整装置6の両方を持ち上げる。また、その際に、プレッシャープレート7の上面と可動台5の下面は離間しない。
【0042】
なお、第一弾性体は、弾性体であれば、金属ばね、流体ばね、およびゴムばねなどから選択できる。第一弾性体には、コスト面で優れるとともに、大きな変形量を確保できる金属製のコイルばねを用いることが好ましい。また、第一弾性体11の個数や配置箇所は、適宜設定でき、
図1の構成には限定されない。
【0043】
図1および
図2に示すように、本発明の金型構造1を備えたプレス加工装置において、可動台5の下降によってプレッシャープレート7を介して上型4にも圧力がかかり、上型4は下降する。その際の第一弾性体11の変形量は、第二弾性体8の変形量よりも大きい。上型4が下降して下型3に近付くと、上部ストッパー10aと下部ストッパー10bが突き当たり、上型4は、予め長さを調整されたストッパーにより目標下死点位置に到達する。可動台5はさらに下降する一方で、上型4はその目標下死点位置に留まる。可動台5は、第二弾性体8のみを変形させ、圧力調整装置6を下方へ変位させながら可動台5の下死点位置まで下降する。
【0044】
可動台5の下降中、上型4はプレッシャープレート7を介して可動台5からの圧力を受け続ける。上型4がストッパー10からの反発力により、その目標下死点位置に留まっている間、第二弾性体8が、可動台5から受ける圧力を吸収して変形することで、可動台5からストッパー10に負荷される圧力を軽減できる。その後、可動台5が上昇に転じ、第二弾性体8の圧縮が開放されて、上部ストッパー10aと下部ストッパー10bが離間すると同時に、上型4も目標下死点位置から上昇する。このように動作することで、ストッパー10は、可動台5から所定の圧力以上の力を受けず、繰り返しプレス加工を行っても破損や変形しにくい。その結果、より長期間にわたって上型4の下死点位置を目標位置に規定できるため、製品の品質が目標の誤差範囲内に収まりやすくなる。
【0045】
圧力調整装置6、上型4、下型3は、ガイド12により接続されている。ガイド12は、案内棒12a、挿通部材12b、および挿通部材12cから構成されている。案内棒12aは、プレッシャープレート7、金属プレート4a、および金属プレート3bの3つの部材を貫通して設けられている。プレッシャープレート7には、案内棒12aが挿通する挿通孔を有する挿通部材12cが設けられている。また、金属プレート4aには、案内棒12aが挿通する挿通孔を有する挿通部材12bが設けられている。ここで、各挿通部材の内面と、案内棒12aの外面は摺動自在に当接している。それにより、圧力調整装置6は、案内棒12aに沿って摺動自在に上下方向に変位できる。同様に、上型4も、案内棒12aに沿って摺動自在に上下方向に変位できる。
【0046】
金型構造には、さらに、上型の速度および加速度の変化を抑制する手段が設けられていてもよい。なお、上型の速度および加速度の変化を抑制する手段を、抑制手段という。抑制手段が設けられた金型構造の一例として、
図6に抑制手段を備えた圧力調整装置を有する金型構造を示す。
図6に示すように、金型構造1’において、圧力調整装置6’は、プレッシャープレート7と、第二弾性体8と、抑制手段9と、規制部材13とを備えている。抑制手段9は、プレッシャープレート7と上型4の間に所定の間隔で複数個配置されている。抑制手段9には、オイルダンパが用いられている。
【0047】
抑制手段としてオイルダンパを用いた場合、その固定方法は、上述の第二弾性体8と同様とできる。第二弾性体と同様に、抑制手段9の端面とプレッシャープレート7とを非固定にすることで、抑制手段にスラスト荷重が掛からないため、抑制手段内部での抑制手段構成部材同士の偏摩耗が抑制される。偏摩耗の抑制は、抑制手段からのオイル漏れの低減や圧力調整装置の性能維持に繋がる。
【0048】
圧力調整装置の第二弾性体には、第一弾性体よりも大きなばね定数の弾性体が用いられている。金型構造に、抑制手段が設けられていない場合、抜き加工時には、被加工材からの反発力が急激に減少することで、圧力調整装置から下方への圧力が上型に大きな加速度を発生させ、上部ストッパーと下部ストッパーが突き当たる。ここで発生する突き当りの力は、騒音や、製品精度、メンテナンス寿命などにも影響するおそれがある。そのため、抑制手段を用いることは、抜き加工時の上型の速度および加速度の変化を抑制し、ストッパーの高加速度での突き当たりを抑制するため好ましい。
【0049】
上型の速度および加速度の変化を抑制する性能である抑制性能は、その性能が高いほど上型の急な速度および加速度の変化を抑制できるが、高すぎると過大な圧力を発生してしまう。従って、上型の速度および加速度の変化を抑制しつつ、かつ、過大な圧力を発生しないよう、第二弾性体のばね定数、第二弾性体の数、抑制手段の種類と数、およびそれらの位置関係などを総合的に考慮する必要がある。なお、抑制手段を用いず、第二弾性体の種類や、異種の弾性体を用いることなどにより上記問題の解消を図ってもよい。
【0050】
抑制手段の種類は、オイルダンパに限らず、金属ダンパや、ゴムダンパなども含め、自由に選択できる。また、抑制手段を設ける場所は、プレッシャープレートと上型の間に限らず、上型自体や、上型と下型の間に設けてもよく、自由に選択できる。抑制手段を上型と下型の間に設ける場合は、例えば、第一弾性体と同様に、上型と下型の間に第一弾性体と並列するように抑制手段を設けてもよいし、第一弾性体と抑制手段が、上型と下型の間に上下方向に直列して結合するように設けてもよい。抑制手段を上型と下型の間に設けた場合、上型の下方への運動に抵抗するため、上型の速度および加速度を直接的に抑制することができる。
【0051】
抑制手段として、上型に錘用の金属プレートを設け、上型の質量を増大させてもよい。錘用の金属プレートは、質量増大のために専用で設けてもよいし、バッキングプレートや、パンチプレートなどの質量を増大させて、錘用の金属プレートの機能を兼ねさせてもよい。慣性力は質量に比例するため、上型の質量を増大させることは、上型の速度および加速度の変化を抑制する効果がある。錘用の金属プレートの金属の種類としては、例えば、鉛や、真鍮、タングステン、鉄、ステンレスなどから自由に選択できる。タングステン製の金属プレートは、タングステンの高い比重により、抑制性能の向上と、金型構造の小型化を両立できるため好ましい。一方、鉛製の金属プレートは、比較的高い比重を有し、安価な原料価格であることから、抑制性能と価格のバランスに優れるため好ましい。このように、錘用の金属プレートを設けることで、簡易に、上型の速度および加速度の変化を抑制でき、騒音や、製品精度、メンテナンス寿命を向上できる。
【0052】
本発明の金型構造のプレス機への取り付け方法について、以下に説明する。金型構造をプレス機に取り付ける際は、金型構造の下型のみをプレス機の固定台の上に載置し、下型の下面が、固定台上面と平行になるようボルトなどにより固定する。その際、圧力調整装置は、可動台に固定せず、可動台との間が離間していてもよい。次に、プレッシャープレートの上面と、可動台の下面が、可動台の上死点位置において当接するように、可動台の高さ調整を行う。ここで、上死点とは、可動台と固定台の距離が上下運動の中で最も離れる時点を意味し、上死点位置とは、上死点での位置を意味する。可動台の高さ調整は、プレス機に設けられた可動台高さ調整部を調節して行う。
【0053】
プレッシャープレートの上面と、可動台の下面を、可動台の上死点位置において当接させることで、可動台が上下運動をする間、プレッシャープレートの上面と、可動台の下面との当接状態が維持される。それにより、可動台下降時に、可動台とプレッシャープレートとの衝突が起こらず、振動や、騒音の発生、エネルギーロスなどの問題を防ぐことができる。また、可動台の上死点においてプレッシャープレートの上面と、可動台の下面とを当接させるための調整は、それぞれの面を当接させるためだけの調整である。上型と下型の位置決めのためのダイハイト調整ではないため、金型構造の取り換えが熟練技術者でなくても容易にできる。
【0054】
本発明の金型構造における上型と下型の位置決めの方法について、以下に説明する。上型と下型の位置決め、すなわち上型の目標下死点位置の規定は、ストッパーの長さの調整により行う。具体的には、プレス機の可動台が下降した際に、上型が目標下死点位置で止まるよう、上部ストッパーと下部ストッパーが突き当たった状態でのストッパーの長さを調整する。ストッパーの長さの調整は、接触式の長さ測定器や、非接触式の光学形状測定器などを用いて、通常の技術者ならば容易に行うことができる。熟練技術者によるダイハイト調整を行わなくとも、簡易に位置決めができることは、技術者確保や、技術伝承の問題解決に繋がり得る。
【0055】
本発明の金型構造においては、下型と上型の間に第一弾性体とストッパーを設けるとともに、上型の上方に圧力調整装置を設ける。また、本発明の金型構造を備えたプレス加工装置は、金型構造、金型構造を固定する固定台、固定台に対して上下方向に可動する可動台を備えたプレス加工装置である。このような構成とすることによる効果を、従来のプレス加工装置と対比して、
図7~
図10を参照しつつ以下に説明する。
【0056】
図7には、従来のプレス加工装置の可動台の軌道と、上型の軌道のそれぞれを示す。可動台の軌道は、被加工材をプレスするために下降して上昇する一回の上下運動における可動台の位置の時間に対する変化を意味する。また、上型の軌道も同様に、上型の位置の時間に対する変化を意味する。ここで、実線は、目標下死点位置を経由する目標の軌道である目標軌道を表し、点線は、実際の下死点位置が、目標下死点位置よりも下方に変化した軌道である変化軌道を表す。
【0057】
従来のプレス加工装置は、上型を可動台に、下型を固定台に固定し、可動台が下降することで、上型と下型が、それらの間に配置される被加工材を加圧し、金型形状を被加工材に転写することにより加工を行う。被加工材が受ける圧力、すなわち加工力は、プレス装置の力の強さだけでなく、上型と、下型と、被加工材との位置関係によって定まる。そのため、従来のプレス加工装置では、上型の位置は固定されている可動台の位置の影響を受ける。曲げ加工の場合、被加工材は、上型が被加工材を変形させ始める時点から加工力を受け始め、可動台が下死点に至るまで、すなわち上型が下死点に至るまで加工力が増大し続ける。下死点では被加工材に対し、最大の加工力が負荷される。
【0058】
従来のプレス加工装置は、上型が可動台に固定されている構造上、可動台の軌道が変化すると、それに伴い上型の軌道も目標軌道からずれた変化軌道を変位する。可動台の軌道の変化は、可動台を駆動する機構における摩耗や摺動部のガタ、環境温度、およびプレス機自体が発生する温度変化による筐体の伸縮などにより生ずる。例えば、温度上昇により筐体がわずかに膨張すると、可動台の軌道が目標の軌道よりも下方にずれる。その場合、可動台に固定される上型の軌道も目標軌道から下方にずれ、上型の下死点が目標下死点位置よりも下方の位置へと変化する(
図7参照)。
【0059】
図8には、従来のプレス加工装置の可動台が、下降して被加工材をプレスした後に上昇するまでの、被加工材が受ける加工力の時間に対する変化を示す。ここで、実線は、可動台が目標軌道を動いた場合の加工力の時間に対する変化を表し、点線は可動台が下方にずれた変化軌道を動いた場合の加工力の時間に対する変化を表す。
【0060】
上型の下死点位置が目標下死点位置からずれた場合、種々の問題が発生する。例えば、上型の下死点位置が目標下死点位置よりも上方に変化した場合、被加工材に負荷される力が小さく、加工が不十分となるおそれがある。一方、上型の下死点位置が目標下死点位置よりも下方に変化した場合、目標加工力に比べて過大な加工力が被加工材や、金型に加わるため、被加工材の加工精度の低下や、材料破断のほか、金型の損傷にも繋がるおそれがある(
図8参照)。よって、安定して高精度なプレス加工を行うには、可動台の軌道が何らかの原因で変化した場合でも、上型の下死点位置が、目標下死点位置から殆ど変化せず、許容範囲内に制御されることが望ましい。
【0061】
また、安定して高精度なプレス加工を行うためには、目標加工力を所定の時間、被加工材に対して負荷することも重要である。被加工材に対して目標加工力を負荷する時間である目標加工力負荷時間が変化すると、製品品質のバラツキの原因となる。そのため、上型の下死点位置だけでなく、目標加工力負荷時間も一定に保たれ、変化しないようにする必要がある。さらに、スプリングバックなどの低減には、一般的に、目標加工力負荷時間を長くすることが好ましい。
【0062】
上記理由から、従来のプレス加工装置では、上型の下死点位置を制御し、加工に最適な加工力を発生させるために、熟練技術者がダイハイト調整を行うことで下死点の位置決めがされる。具体的には、プレス機に金型を取り付けたうえで、可動台を下死点位置まで下降させた際の上型と下型の間隔が所定の間隔となるよう、ダイハイト調整がされる。また、従来のプレス加工装置では、下死点で上型と下型が接触すると、金型の破損などの問題が起きるため、金型保護などの目的からストッパーが設けられる。実際には、ダイハイト調整により上型と下型は接触しない条件でプレス加工されるため、ストッパーが上型と下型の接触を防止する機能を発揮するのは、予定外に下死点位置がずれた場合などに限られる。
【0063】
図9には、本発明の金型構造を備えたプレス加工装置の可動台の軌道と、上型の軌道のそれぞれを示す。可動台の軌道、上型の軌道、目標軌道、変化軌道の意味については、
図7と同様である。
【0064】
図10には、本発明の金型構造を備えたプレス加工装置の可動台が、下降して被加工材をプレスした後に上昇するまでの、被加工材が受ける加工力の時間に対する変化を示す。
図8と同様に、実線は、可動台が目標軌道を動いた場合の加工力の時間に対する変化を表し、点線は可動台が変化軌道を動いた場合の加工力の時間に対する変化を表す。
【0065】
本発明の金型構造では、ストッパーは、金型の保護ではなく、上型の下死点の位置決めを目的として設けられる。非加圧時、上型は、下型との間に設置した第一弾性体により持ち上げられている(
図1参照)。可動台が下降するにつれて、可動台は圧力調整装置および上型を押し下げる。押し下げられた上型は、上部ストッパーの下端と、下部ストッパーの上端が突き当たった時点で、目標下死点位置に位置決めされる(
図2および
図9参照)。
【0066】
可動台は、上部ストッパーと下部ストッパーが突き当たった後も、圧力調整装置の第二弾性体を押し縮めながら可動台の下死点位置まで下降する。可動台は、その後上昇行程へと変化する。上型は、可動台が上昇行程に変化し、上部ストッパーと下部ストッパーが離間するまで、上型の目標下死点位置に留まる。これにより、上型の下死点位置はストッパーにより目標下死点位置に規定されるため、可動台の下死点位置が下方にずれるなど変化したとしても、圧力調整装置がその変化を吸収し、ストッパーには過大な圧力が掛からない(
図10参照)。
【0067】
従来のプレス加工装置では、上型の下死点位置は、可動台のダイハイト調整により行われるのに対し、本発明の金型構造では、上部ストッパーと下部ストッパーが突き当たり、上型の下死点位置を規定するため、ダイハイト調整が不要である。これにより、熟練技術者の確保や、技術伝承の問題解決に寄与する。本発明の金型構造を用いることで、ダイハイト調整を行わなくても、上型の目標下死点位置とのずれを数10μm以内に制御することができる。
【0068】
また、従来のプレス加工装置は、可動台が下死点位置に到達した瞬間のみ、目標加工力を負荷する(
図8参照)。それに対し、本発明の金型構造を備えたプレス加工装置は、可動台が下死点位置に到達する前後の一定時間の間、すなわち上型の目標下死点位置への滞在の間、上型は、被加工材に対して目標加工力を負荷し続ける(
図10参照)。本発明の金型構造を備えたプレス加工装置は、上型の下死点時間をより長く保つことができるので、目標加工力負荷時間をより長くすることができる。それにより、サーボプレスのように加工速度を低下することなく、スプリングバックを大幅に低減することが可能となり、生産性に優れる。なお、従来のプレス加工装置の場合、上型の下死点時間は、数ミリ秒~数十ミリ秒程度である。それに対し、本発明の金型構造を用いた場合には、上型の下死点時間を長くすることができる。
【0069】
順送プレス加工の場合、金属製の各部材が高速で摺動、衝突を繰り返すため、単発プレスに比べ、プレス機の振動や、発熱した筐体の膨張により、可動台の下死点位置のずれが起こりやすい。そのため、プレス機本体に起因する不安定な位置決め精度の影響を低減できる本発明の金型構造は、順送プレス加工の用途に、特に好適に用いることができる。
【0070】
本発明のプレス加工装置により被加工材をプレス加工して作成した加工品の一例を
図5に基づいて説明する。
図5は、被加工材としての銅板にせん断加工や曲げ加工などを連続的に施して作製したコネクタ端子の斜視図である。
図5に示すように、コネクタ端子40は、複数の屈曲部と打抜部を有している。コネクタ端子40の長辺の長さは30mm、金属プレートの厚みは0.5mmであり、端子先端の幅は2.3mmである。
【0071】
本発明のプレス加工方法やプレス加工装置では、上述のとおり、被加工材に対する目標加工力負荷時間をより長くでき、スプリングバックを大幅に低減することができるため、このような加工品も高精度で高い生産性で加工できる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明の金型構造は、プレス機本体に起因する不安定な位置決め精度の影響を低減でき、熟練技術者によるプレス加工装置の調整が不要であり、生産性に優れるとともに、プレス機本体への取り付けと取り外しが容易であるので、電子機器や自動車などに用いられる種々の金属部品の加工に利用できる。
【符号の説明】
【0073】
1、1’ 金型構造
2 固定台
3 下型
3a、3b 金属プレート
4 上型
4a、4b 金属プレート
5 可動台
6、6’ 圧力調整装置
7 プレッシャープレート
8、8’ 第二弾性体
9 抑制手段
10 ストッパー
10a 上部ストッパー
10b 下部ストッパー
11 第一弾性体
12 ガイド
12a 案内棒
12b、12c 挿通部材
13 規制部材
14 パンチ
15 凹部
16 抜け防止部
17 ピストンロッド
18 筐体
19 流体
30 被加工材
40 コネクタ端子