(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-07
(45)【発行日】2024-11-15
(54)【発明の名称】電力デバイス
(51)【国際特許分類】
H01L 31/053 20140101AFI20241108BHJP
H01L 31/076 20120101ALI20241108BHJP
H10K 30/40 20230101ALI20241108BHJP
H10K 30/57 20230101ALI20241108BHJP
H10K 39/15 20230101ALI20241108BHJP
【FI】
H01L31/04 610
H01L31/06 510
H10K30/40
H10K30/57
H10K39/15
(21)【出願番号】P 2023187623
(22)【出願日】2023-11-01
【審査請求日】2024-03-25
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】523111201
【氏名又は名称】株式会社PXP
(73)【特許権者】
【識別番号】322009206
【氏名又は名称】株式会社SOLABLE
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】杉本 広紀
【審査官】佐竹 政彦
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-283173(JP,A)
【文献】特開2014-082340(JP,A)
【文献】特開昭61-147476(JP,A)
【文献】特表2017-504188(JP,A)
【文献】特開2011-129827(JP,A)
【文献】特開2000-023390(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106990139(CN,A)
【文献】特開2005-116324(JP,A)
【文献】特開2011-155232(JP,A)
【文献】特開2011-182623(JP,A)
【文献】特開平10-012908(JP,A)
【文献】特開2008-066042(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/04-31/078
H02S 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペロブスカイト太陽電池とカルコパイライト太陽電池とを備える太陽電池層と、前記太陽電池層の受光面と反対側の面に設けられ、少なくとも1つの、
全固体マグネシウムイオン電池又は全固体ナトリウムイオン電池を備える蓄電池層とを備える電力デバイスであって、
前記太陽電池層と前記蓄電池層との間に、当該太陽電池層と当該蓄電池層との共通正極電極となり、前記太陽電池層が積層され、前記太陽電池層の積層方向と反対の方向に前記蓄電池層が積層される金属基体を備え、
前記太陽電池層の開放電圧に対する前記蓄電池層の公称電圧の比である電圧比が0.74~0.82である、電力デバイス。
【請求項2】
請求項1に記載の電力デバイスであって、
前記太陽電池層は、直列接続された前記
ペロブスカイト太陽電池と前記カルコパイライト太陽電池とを備え、
前記太陽電池層の開放電圧は、前記
ペロブスカイト太陽電池と前記カルコパイライト太陽電池のそれぞれの開放電圧の合計値である、電力デバイス。
【請求項3】
請求項1に記載の電力デバイスであって、
前記蓄電池層は、直列接続された複数の前記
全固体マグネシウムイオン電池又は前記全固体ナトリウムイオン電池を有し、
前記蓄電池層の公称電圧は、前記複数の前記
全固体マグネシウムイオン電池又は前記全固体ナトリウムイオン電池のそれぞれの公称電圧の合計値である、電力デバイス。
【請求項4】
請求項1に記載の電力デバイスであって、
前記蓄電池層は、並列接続された複数の前記
全固体マグネシウムイオン電池又は前記全固体ナトリウムイオン電池を有し、
前記蓄電池層の公称電圧は、前記複数の前記
全固体マグネシウムイオン電池又は前記全固体ナトリウムイオン電池のそれぞれの公称電圧の平均値である、電力デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池は、天候不順や影により発電しにくいこと、あるいは夜間帯には発電しにくいこと等の理由により、安定した電力源とする場合には、蓄電システムと連携して使用される。特許文献1から特許文献3には、太陽電池と蓄電池とをモジュールとして一体化する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】米国特許第8704078号明細書
【文献】米国特許第4481265号明細書
【文献】米国特許第4740431号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の技術では、太陽電池と蓄電池とを接続する際に配線が複雑となることや、部品点数が多くなってしまい、コストがかかる。また、特許文献2には、太陽電池と同一基板上に蓄電池を積層する技術が記載されているが、配線のための貫通穴や電力を制御するための回路を基板上に設ける必要があり、依然として構造は複雑なままであった。特許文献3には、太陽電池と蓄電池とが導電性基板を共通電極とする構造が記載されている。しかし、特許文献3に記載のデバイスにおいても、太陽電池と蓄電池を単に一体化しただけの構造であるため、別途外部に電力を制御するための回路を設ける必要があり、デバイスのサイズは大きくなってしまう。
【0005】
そこで、本発明は、電力を制御するための制御回路を必要とせず、エネルギー利用効率が高い電力デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係る電力デバイスは、少なくとも1つの太陽電池を含む太陽電池層と、太陽電池層の受光面と反対側の面に設けられ、少なくとも1つの蓄電池を含む蓄電池層とを備える電力デバイスであって、太陽電池層と蓄電池層との間に、当該太陽電池層と当該蓄電池層との共通電極となる導電性基体を備え、太陽電池層の開放電圧に対する蓄電池層の公称電圧の比である電圧比が0.58~0.84である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、電力を制御するための制御回路を必要とせず、エネルギー利用効率が高い電力デバイスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本実施形態に係る電力デバイスの断面図である。
【
図2】本実施形態に係る他の電力デバイスの断面図である。
【
図3】本実施形態に係る他の電力デバイスの断面図である。
【
図4】本実施形態に係る他の電力デバイスの断面図である。
【
図5】太陽電池の標準試験条件における蓄電池の充電状態及び電圧カップリング比に応じた電力カップリング効率を示す図である。
【
図6A】実環境データに基づく蓄電池の充電状態及び電圧カップリング比に応じた電力カップリング効率を示す図である。
【
図6B】実環境データに基づく蓄電池の充電状態及び電圧カップリング比に応じた電力カップリング効率を示す図である。
【
図6C】実環境データに基づく蓄電池の充電状態及び電圧カップリング比に応じた電力カップリング効率を示す図である。
【
図6D】実環境データに基づく蓄電池の充電状態及び電圧カップリング比に応じた電力カップリング効率を示す図である。
【
図7】太陽電池の標準試験条件における負荷の抵抗値及び電圧カップリング比に応じた電力カップリング効率を示す図である。
【
図8A】実環境データに基づく負荷の抵抗値及び電圧カップリング比に応じた電力カップリング効率を示す図である。
【
図8B】実環境データに基づく負荷の抵抗値及び電圧カップリング比に応じた電力カップリング効率を示す図である。
【
図8C】実環境データに基づく負荷の抵抗値及び電圧カップリング比に応じた電力カップリング効率を示す図である。
【
図8D】実環境データに基づく負荷の抵抗値及び電圧カップリング比に応じた電力カップリング効率を示す図である。
【
図9】太陽放射照度を除く太陽電池の標準試験条件における太陽放射照度比及び電圧カップリング比に応じた蓄電池の平均充電電流密度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。なお、各図において、同一の符号を付したものは、同一又は同様の構成を有する。
【0010】
図1には、本実施形態に係る電力デバイス100の断面図が示される。電力デバイス100は、太陽電池層PV、導電性基体201、及び蓄電池層BTを有する。太陽電池層PVは、太陽電池101及び太陽電池102を有する。蓄電池層BTは蓄電池301を有し、蓄電池301は太陽電池層の受光面と反対側の面に設けられる。
【0011】
電力デバイス100では、太陽電池101,102が、電極103側からの光を受光して発電する。蓄電池301は発電された電力によって充電される。電力デバイス100は、例えば天候不順や影、夜間帯において、太陽電池101,102による発電がされない場合、蓄電池301から電力を外部の負荷に供給する。
【0012】
太陽電池101は、透明導電膜1011、電子輸送層1012、ペロブスカイト光吸収層1013、及びホール輸送層1014を有するペロブスカイト太陽電池である。電子輸送層1012はn型半導体によって形成される層である。ペロブスカイト光吸収層1013は、ペロブスカイト構造を有する半導体によって形成される光吸収層であり、材料としては例えば(Cs,FA)PbI3等のペロブスカイト構造を有する材料をはじめとする種々の材料を用いることができる。ホール輸送層1014はp型半導体によって形成される層である。本実施形態では、太陽電池101のバンドギャップは約1.55eVである。
【0013】
太陽電池102は、透明導電膜1021、電子輸送層1022、カルコパイライト光吸収層1023、及びホール輸送層1024を有するカルコパイライト太陽電池である。電子輸送層1022はn型半導体によって形成される層であり、カルコパイライト光吸収層1023は、カルコパイライト構造を有する光吸収層であり、材料としては例えばCu(In,Ga)(Se,S)2等のカルコパイライト構造を有する材料をはじめとする種々の材料を用いることができる。ホール輸送層1024はp型半導体によって形成される層である。本実施形態では、太陽電池102のバンドギャップは約1.01eVである。
【0014】
太陽電池101と太陽電池102とは、発電に用いる光の波長が異なるため、太陽電池101と太陽電池102とを直列接続することで、より効率的な発電が可能となる。
【0015】
電極103は、例えば、太陽電池101上に配置され、太陽電池101から電気を取り出すために設けられる電極である。電極103は負極電極である。電極103は導電材料であり、例えば、金属材料、合金材料、又は透明導電材等を用いることができる。なお、太陽電池101と太陽電池102は透明導電膜1021を介して直列に接続されており、太陽電池102で発生した電気は、太陽電池101を介して電極103から取り出される。
【0016】
導電性基体201は、太陽電池102と蓄電池301との間に設けられ、太陽電池102と、蓄電池301との共通の電極として機能する部材である。導電性基体201は正極電極である。導電性基体201は、例えば、金属箔である。あるいは、導電性基体201は、基板に金属材料が成膜されて形成された部材であってもよい。また、導電性基体201は複数の導電性基板(あるいは金属箔等)が張り合わされて形成された部材であってもよい。また、太陽電池層PV及び蓄電池層BTは導電性基体201の一部を共通の電極として用いてもよく、太陽電池層PV及び蓄電池層BTのそれぞれの面積は異なっても良い。なお、太陽電池102と太陽電池101は透明導電膜1021を介して直列に接続されており、太陽電池101で発生した電気は、太陽電池102を介して導電性基体201から取り出される。
【0017】
蓄電池301は、太陽電池101,102の受光面と反対側の面に設けられる。蓄電池301は、導電性基体201に接続される正極層(正極合材層)3011、電解質層3012、負極層(負極合材層)3013、及び電極302を有する。蓄電池301は、例えば、全固体マグネシウムイオン電池又は全固体ナトリウムイオン電池である。電極302は負極電極である。蓄電池301は正極を太陽電池101,102と共有し、電極302を通じて電極103に接続される。電力デバイス100では蓄電池層BTに1つの蓄電池301を用いているが、蓄電池層BTは複数の蓄電池によって構成されてもよい。
【0018】
電力デバイス100では、太陽電池層PVは、シリコン太陽電池、カルコパイライト太陽電池、ケステライト太陽電池、カドミウムテルル太陽電池、若しくはペロブスカイト太陽電池又はこれらの電池を組み合わせた電池を含んでもよい。
【0019】
また、太陽電池層PVでは、複数の太陽電池は直列接続されてもよい。複数の太陽電池が直列接続された場合の電力デバイス100Aが
図2に示される。電力デバイス100Aでは、太陽電池層PVは、太陽電池101,101A,101Bを有する。太陽電池101A,101Bは、それぞれ、透明導電膜1011A,1011B、電子輸送層1012A,1012B、ペロブスカイト光吸収層1013A,1013B、及びホール輸送層1014A,1014Bを有するペロブスカイト太陽電池である。また、太陽電池101A,101Bには、電極103A,103B及び導電性基体201A,201Bがそれぞれ設けられる。太陽電池101Aは、電極103及び導電性基体201Aを通じて太陽電池101と直列接続される。太陽電池101Bは、電極103A及び導電性基体201Bを通じて太陽電池101及び太陽電池101Aと直列接続される。なお、導電性基体201と導電性基体201A,201Bは絶縁体401によって絶縁されている。また、太陽電池層PVは
図1のように、太陽電池101,102が積層された構造を1セットとし、複数のセットを直列接続した構造としてもよい。
【0020】
電力デバイス100及び電力デバイス100Aにおいて、太陽電池層PVの開放電圧は複数の太陽電池のそれぞれの開放電圧の合計値である。ここで、開放電圧とは、太陽電池の標準試験条件における太陽電池の正極と負極とを開放した時の両端間の電圧である。
【0021】
電力デバイス100及び電力デバイス100Aでは、蓄電池層BTは、全固体電池若しくは半固体電池、又はこれらを組み合わせた蓄電池を含んでもよい。全固体電池又は半固体電池は、プロトン電池、リチウムイオン電池、ナトリウムイオン電池、カリウムイオン電池、マグネシウムイオン電池、銅イオン電池、若しくは銀イオン電池、又はこれらの組み合わせを含んでもよい。
【0022】
蓄電池層BTでは、
図3に示す電力デバイス100Bのように、複数の蓄電池が直列接続されてもよい。電力デバイス100Bでは、蓄電池層BTは、蓄電池301及び蓄電池303を有する。蓄電池303は、電極302に接続される正極層(正極合材層)3031、電解質層3032、負極層(負極合材層)3033、及び電極304を有する。電極304は負極電極である。このとき、蓄電池層BTの公称電圧は複数の蓄電池のそれぞれの公称電圧の合計値である。ここで、公称電圧とは、一般的な条件下において放電した場合の平均作動電圧であり、一般的な条件下とは25℃にて、放電レート1Cで、満充電状態から放電終止状態まで放電する条件を示す。
【0023】
また、蓄電池層BTでは、
図4に示す電力デバイス100Cのように、複数の蓄電池は並列接続されてもよい。電力デバイス100Cでは、蓄電池層BTは、蓄電池301及び蓄電池303を有する。蓄電池303は、電極302に接続される負極層(負極合材層)3033、電解質層3032、正極層(正極合材層)3031、及び電極304を有する。電極304は正極電極である。このとき、蓄電池層BTの公称電圧は複数の蓄電池のそれぞれの公称電圧の平均値である。
【0024】
電力デバイス100では、太陽電池層PVに用いる太陽電池の種類及び接続を変更して、太陽電池層PVの開放電圧を設定することができる。また、電力デバイス100では、蓄電池層BTに用いる蓄電池の種類及び接続を変更して、蓄電池層BTの公称電圧を設定することができる。より具体的には、太陽電池の光吸収層材料をバンドギャップの広い材料に変えることで、開放電圧を高くすることができる。例えばペロブスカイト太陽電池ではヨウ素を臭素に一部置換した材料を用いること、カルコパイライト太陽電池では、インジウムをガリウムに一部置換した材料、及びセレンをイオウに一部置換した材料を用いることで、バンドギャップを広くすることができる。さらに、太陽電池の直列数を増やして、開放電圧を高くすることができる。また、蓄電池の種類を、ナトリウムイオン電池やマグネシウムイオン電池から、プロトン電池や銅イオン電池、銀イオン電池に変更することで、公称電圧を低く、リチウムイオン電池やカリウムイオン電池に変更することで、公称電圧を高くすることができる。さらに、それぞれの蓄電池において、正極材料を酸化物材料とすることで公称電圧を高く、硫化物材料とすることで公称電圧を低くすることができる。また、負極材料を金属単体やカーボンとすることで公称電圧を高く、酸化物材料や硫化物材料とすることで公称電圧を低くすることができる。また、蓄電池の直列数を増やして、公称電圧を高くすることができる。
【0025】
太陽電池101,102によって構成される太陽電池層PVの開放電圧と、蓄電池層BTの公称電圧の関係について説明する。電力デバイス100では、太陽電池層PVの開放電圧と蓄電池層(蓄電池301)の公称電圧の比である電圧比(電圧カップリング比)は、0.58~0.84の間とされる。
【0026】
電力デバイス100における、太陽電池101,102によって構成される太陽電池層PVの開放電圧は約1.81Vである。また、蓄電池301が全固体マグネシウムイオン電池の場合、蓄電池層BTの公称電圧は約1.15Vである。この場合、電圧カップリング比は、0.64となる。蓄電池301が全固体ナトリウムイオン電池の場合、蓄電池層BTの公称電圧は約1.48Vである。この場合、電圧カップリング比は0.82となる。このように、電力デバイス100では、太陽電池層PVの開放電圧及び蓄電池層BTの公称電圧を設定することで、電力デバイス100における電圧カップリング比を設定することができる。
【0027】
太陽電池層PV及び蓄電池層BTに用いる太陽電池及び蓄電池は、
図1で示した例とは異なる組み合わせも可能である。例えば、比較的に公称電圧が高い、リチウムイオン電池やカリウムイオン電池を蓄電池層BTに用いる場合、太陽電池101,102がタンデム接続された太陽電池を3組直列接続して太陽電池層PVを構成し、蓄電池層BTを1セルのリチウムイオン電池やカリウムイオン電池によって構成して電圧カップリング比を適切に調整することができる。また、比較的に公称電圧が低いプロトン電池や銅イオン電池、又は銀イオン電池を蓄電池層に用いる場合、太陽電池101,102がタンデム接続された太陽電池を1つ設けることで太陽電池層PVを構成し、蓄電池層BTを2セル又は3セルの蓄電池を直列接続して構成して電圧カップリング比を適切に調整することができる。
【0028】
<実施例1>
図5、
図6A、
図6B、
図6C、
図6Dを参照して実施例1について説明する。
図5には、太陽電池の標準試験条件(Standard Test Condition:STC)における、電力デバイス100の電圧カップリング比及び蓄電池層BTの充電状態に対する電力カップリング効率の数値シミュレーション結果が示される。標準試験条件は、エアマス(Air Mass:AM)が1.5、温度が25℃、太陽光の日射強度が1kW/m
2である状態である。また、電力カップリング効率とは、太陽電池の最適動作点における発電電力に対する、蓄電池及び外部負荷へ供給する電力の割合として定義される。
【0029】
図5に示される結果は、太陽電池の標準試験条件において、電力デバイス100に外部負荷が接続されず、太陽電池層PVが発電した電力がすべて蓄電池層BTに供給された場合の結果である。
【0030】
図5に示されるように、電圧カップリング比が0.58~0.84の間にある場合、種々の充電状態において、電力カップリング効率が概ね80%以上となっている。なお、電力カップリング効率が概ね80%以上となる電圧カップリング比は、
図6に示される電圧カップリング比の平均をとることにより、電圧カップリング比が0.58~0.82の間にあるとしてもよい。
【0031】
また、電圧カップリング比が0.63~0.79である場合、電力カップリング効率が概ね90%以上となっている。例えば、電圧カップリング比が0.63である場合の各充電状態における電力カップリング効率の平均値は90%であり、電圧カップリング比が0.79である場合の各充電状態における電力カップリング効率の平均値は91%である。
【0032】
さらに、電圧カップリング比が0.68~0.74である場合、電力カップリング効率が概ね95%以上となっている。例えば、電圧カップリング比が0.68である場合の各充電状態における電力カップリング効率の平均値は95%であり、電圧カップリング比が0.74である場合の各充電状態における電力カップリング効率の平均値は97%である。
【0033】
図6Aから
図6Dには、東京で地面に水平設置したモジュールを用い、年間の各時期(春季、夏季、秋季、冬季)のそれぞれにおける、AM、温度、日射強度の実測値を用いた場合の、電力デバイス100の電圧カップリング比及び蓄電池層BTの充電状態に対する電力カップリング効率の数値シミュレーション結果がそれぞれ示される。
図6Aから
図6Dでは、日の出から日没までの積算値を用いて電力カップリング効率が算出されている。年間を通した傾向として、太陽高度の低下及び気温の低下がある秋季及び冬季にかけて、電力カップリング効率が高くなる電圧カップリング比は、春季及び夏季より大きな値にシフトする傾向がある。
図6Aから
図6Dの各図においても、電圧カップリング比が0.58~0.84の間にある場合、種々の充電状態において、電力カップリング効率が概ね80%以上となっている。また、電圧カップリング比が0.68~0.79である場合、電力カップリング効率が概ね90%以上となっている。さらに、電圧カップリング比が0.74前後である場合、電力カップリング効率が概ね95%以上となっている。
【0034】
電力カップリング効率が高いことは、太陽電池層PVが発電した電力が蓄電池層BTにより多く供給されることを意味する。このように、電圧カップリング比を適切に調整することで、制御回路を別途設けることなく、効率的に蓄電池層BTの蓄電池を充電することが可能となる。
【0035】
<実施例2>
図7、
図8A、
図8B、
図8C、
図8Dを参照して実施例2について説明する。
図7には、太陽電池の標準試験条件における、電力デバイス100の電圧カップリング比及び電力デバイス100に接続される負荷の抵抗値に対する電力カップリング効率の数値シミュレーション結果が示される。
図7及び以降の
図8A、
図8B、
図8C、
図8Dでは、電力カップリング効率は、充電状態を5~95%まで変化させた場合の平均値として算出されている。
図7において負荷がない場合に対応する数値は、
図6の最下行に示される平均値に対応する。
【0036】
図7に示されるように、電圧カップリング比が0.63~0.89の間にある場合、種々の充電状態において、電力カップリング効率が概ね80%以上となっている。なお、電力カップリング効率が概ね80%以上となる電圧カップリング比は、
図7に示される電圧カップリング比の平均をとることにより、電圧カップリング比が0.60~0.87の間にあるとしてもよい。
【0037】
また、電圧カップリング比が0.74~0.84である場合、電力カップリング効率が概ね90%以上となっている。例えば、電圧カップリング比が0.74である場合の電力カップリング効率の平均値は92%であり、電圧カップリング比が0.84である場合の電力カップリング効率の平均値は91%である。
【0038】
さらに、電圧カップリング比が0.79前後である場合、電力カップリング効率が95%以上となっている。電圧カップリング比が0.79である場合の電力カップリング効率の平均値は95%である。
【0039】
図8Aから
図8Dには、東京で地面に水平設置したモジュールを用い、年間の各時期(春季、夏季、秋季、冬季)のそれぞれにおける、AM、温度、日射強度の実測値を用いた場合の、電力デバイス100の電圧カップリング比及び電力デバイス100に接続される負荷の抵抗値に対する電力カップリング効率の数値シミュレーション結果がそれぞれ示される。
図8Aから
図8Dでは、日の出から日没までの積算値を用いて電力カップリング効率が算出されている。年間を通した傾向としては
図6Aから
図6Dで示した例と同様に、太陽高度の低下及び気温の低下がある秋季及び冬季にかけて、電力カップリング効率が高くなる電圧カップリング比は、春季及び夏季より大きな値にシフトする傾向がある。
【0040】
図8Aから
図8Cの各図においては、電圧カップリング比が0.60~0.87の間にある場合、電力カップリング効率が概ね80%以上となっている。また、電圧カップリング比が0.72~0.82である場合、電力カップリング効率が概ね90%以上となっている。さらに、電圧カップリング比が0.79前後である場合、電力カップリング効率が概ね95%以上となっている。
【0041】
図8Dに示される冬季の状態を考慮する場合、電圧カップリング比が0.63~0.89の間にある場合、電力カップリング効率が概ね80%以上となっている。また、電圧カップリング比が0.79~0.84である場合、電力カップリング効率が概ね90%以上となっている。さらに、電圧カップリング比が0.84前後である場合、電力カップリング効率が概ね95%以上となっている。また
図7、
図8A、
図8B、
図8C、
図8Dでは、負荷の抵抗値が高い場合は、電力カップリング効率が高くなることが示される。
【0042】
このように、負荷を接続した場合であっても、電圧カップリング比を適切に調整することで、制御回路を別途設けることなく、効率的に蓄電池層BTの蓄電池を充電することが可能となる。
【0043】
<実施例3>
図9を参照して実施例3について説明する。
図9には、太陽放射照度を除く太陽電池の標準試験条件における、電力デバイス100の電圧カップリング比及び太陽放射照度比に対する太陽電池層PVから蓄電池層BTに流れる電流の平均電流密度のシミュレーション結果が示される。太陽放射照度比とは、標準試験条件における太陽放射照度に対する、実際の太陽放射照度の比である。
【0044】
電力デバイス100では、太陽電池層PVが十分な量の光を受けて発電を行っている場合は、太陽電池層PVから蓄電池層BTに電流が流れ蓄電池層BTの蓄電池が充電される。
図9に示されるように、太陽放射照度比が1.000から0.010に変化すると、一部の平均電流密度の値は負の値となる。これは、蓄電池層BTから太陽電池層PVに電流が流れるつまり逆電流が発生することを示している。太陽放射照度が小さくなった場合に逆電流が生じることは、昼間に蓄電池層BTの蓄電池に充電された電力が、夜間に自然消費される事を意味する。
【0045】
図9に示されるように、電圧カップリング比が0.58~0.84の間にある場合、逆電流は発電時の電流の数%に抑えることができる。より具体的には、電圧カップリング比を0.58~0.82の間とすることで、逆電流は発電時の約1%程度に抑えられる。よって、夜間に逆電流が生じた場合であっても、蓄電池は十分充電された状態とすることができ、電力を保つことができる。逆電流の防止には、逆流防止ダイオードを設けることが考えられるが、電力デバイス100では、電圧カップリング比を0.58~0.84とすることで、逆流防止ダイオードを設ける必要がなくなる。これにより、構造がシンプルでありかつ低コストで電力デバイス100を製造することが可能となる。
【0046】
<まとめ>
実施例1,2,3で示した各種結果に基づくと、太陽電池層PVと蓄電池層BTとの電圧カップリング比を0.60~0.82の間とすることで、電力デバイス100は、外部に設けられ得る充放電のための制御回路又は逆流防止ダイオードを用いる必要がなくなる。よって構造がシンプルでありかつ低コストで電力デバイス100を製造することが可能となり、さらに、高い電力カップリング効率を実現することが可能となる。電力デバイス100は、太陽電池層PVが発電できない場合には、自動的に蓄電池層BTから電力を供給することができる。よって、特に、影等による影響を受けやすい、建築物、車両等の移動体、又は飛行体のルーフ、窓、壁面等に電力デバイス100を設置することで、シンプルな構造をとりつつ太陽エネルギーの利用が可能となる。あるいは、電力デバイス100は街灯やディスプレイ装置の独立した電源デバイスとしても使用し得る。また、電力デバイス100はモバイル機器の電源デバイスや、宇宙または成層圏にあるデバイスの電源デバイスとしても使用し得る。
【0047】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。実施形態が備える各要素並びにその配置、材料、条件、形状及びサイズ等は、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。また、異なる実施形態で示した構成同士を部分的に置換し又は組み合わせることが可能である。
【符号の説明】
【0048】
100,100A,100B,100C…電力デバイス、101,102…太陽電池、103…電極、201…導電性基体、301…蓄電池、PV…太陽電池層、BT…蓄電池層
【要約】
【課題】電力を制御するための制御回路を必要とせず、エネルギー利用効率が高い電力デバイスを提供すること。
【解決手段】少なくとも1つの太陽電池を含む太陽電池層PVと、太陽電池層の受光面と反対側の面に設けられ、少なくとも1つの蓄電池を含む蓄電池層BTとを備える電力デバイスであって、太陽電池層PVと蓄電池層BTとの間に、当該太陽電池層PVと当該蓄電池層BTとの共通電極となる導電性基体201を備え、太陽電池層PVの開放電圧に対する蓄電池層BTの公称電圧の比である電圧比が0.58~0.84である電力デバイス100。
【選択図】
図1