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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-07
(45)【発行日】2024-11-15
(54)【発明の名称】光触媒およびその製法
(51)【国際特許分類】
   B01J 35/39 20240101AFI20241108BHJP
   B01J 23/652 20060101ALI20241108BHJP
   B01J 23/89 20060101ALI20241108BHJP
   C01B 3/04 20060101ALI20241108BHJP
【FI】
B01J35/39
B01J23/652 M
B01J23/89 M
C01B3/04 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019129660
(22)【出願日】2019-07-11
(65)【公開番号】P2021013890
(43)【公開日】2021-02-12
【審査請求日】2022-05-10
【審判番号】
【審判請求日】2023-09-12
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「二酸化炭素原料化基幹化学品製造プロセス技術開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】513056835
【氏名又は名称】人工光合成化学プロセス技術研究組合
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】堂免 一成
(72)【発明者】
【氏名】工藤 昭彦
(72)【発明者】
【氏名】林 利生
【合議体】
【審判長】宮澤 尚之
【審判官】河本 充雄
【審判官】後藤 政博
(56)【参考文献】
【文献】SAITO, K. et al.,Inorganic Chemistry,2013年04月30日,Vol.52,pp.5621-5623,<DOI:10.1021/ic4002175>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J21/00-38/74
C01B 3/04
C01B13/02
C25B 1/55
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2価の錫(Sn2+)を含有する錫含有複合酸化物と、周期表の第6族~第11族の元素から選択される少なくとも一種の金属を含有する助触媒とを含む光触媒部位と、
周期表の第4族~第6族の元素から選択される少なくとも一種の金属の酸化物あるいは水酸化物を含む酸化物・水酸化物部位とを含み、
前記助触媒が、酸素生成助触媒及び水素生成助触媒を含み、
前記酸化物・水酸化物部位は、前記助触媒とは異なる酸化物あるいは水酸化物の部位であり、
前記錫含有複合酸化物の前記助触媒及び前記酸化物・水酸化物部位担持物であることを特徴とする光触媒。
【請求項2】
前記錫含有複合酸化物が、SnNbを含むことを特徴とする請求項1に記載の光触媒。
【請求項3】
前記酸素生成助触媒が、IrおよびCoの少なくとも一方を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の光触媒。
【請求項4】
前記水素生成助触媒が、Pt、Rh、Ru、IrおよびNiから選択される少なくとも一種以上を含むことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の光触媒。
【請求項5】
前記酸化物・水酸化物部位が、Ti、V、Cr、Zr、Nb、TaおよびWから選択される少なくとも1種以上の金属の酸化物からなる酸化物部位であることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の光触媒。
【請求項6】
前記酸化物・水酸化物部位が、CrおよびTiの少なくとも一方の酸化物からなる酸化物部位であることを特徴とする請求項5に記載の光触媒。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の光触媒の製造方法であって、
金属酸のアルカリ金属塩とハロゲン化錫との反応を行った後、さらに800℃以上の温度で焼成することにより前記錫含有複合酸化物を調製する錫含有複合酸化物調製工程と、
前記錫含有複合酸化物の存在下で前記助触媒を形成する助触媒形成工程と、
前記助触媒形成工程後に、前記酸化物・水酸化物部位を形成する酸化物・水酸化物部位形成工程と、を備えることを特徴とする光触媒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
光により水を水素と酸素に分解出来る、所謂単一型光触媒および光触媒の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽光と安価な光触媒を用いて水を分解して水素を製造するシステムは、再生エネルギー技術の一つとしてその実用化が期待されている。この太陽光を用いて水を分解して水素を製造するシステムは大きく2つの態様に分類される。それは、1種類の光触媒を用いて水を分解する方法と2種類の光触媒を組み合わせて水を分解する方法の2つの態様である。前者の方が簡便かつ低コストが期待できるためより好ましいが、後述するように前者は選択できる光触媒が限られているために、光触媒の選択肢の広い後者の方がより活発に開発が進められている。この光触媒について、本明細書では、前者の1種類の光触媒を用いる態様を単一型光触媒と呼ぶことにする。
【0003】
単一型光触媒には、以下のような制約があるとされている。
光触媒による水分解反応は、光触媒となる半導体がバンドギャップ以上のエネルギーを持った光を吸収し、励起電子を伝導帯に、正孔を価電子帯に生成することから始まる。そして、励起電子と正孔によって水を還元および酸化し、水素と酸素を生成することで光触媒反応が進行する。このことから、光触媒のバンド構造において、伝導帯の下端の位置が水の還元電位(0V vs. NHE)より負側であり、価電子帯の上端の位置が水の酸化電位(1.23V vs. NHE)よりも正側であることが水分解用光触媒として駆動できる必要条件である。
【0004】
すなわち、単一型光触媒に求められるこの伝導帯および価電子帯の電位から、そのバンドギャップは、少なくとも1.23eV以上が必要であり、実際に駆動に必要な過電圧を考慮するとおおよそ1.6eV以上が必要となる。これを光の波長で示すと約780nmより短い波長に相当する。太陽光は380nmから800nmの波長領域、所謂可視光領域の光を多く含む特徴を持つ。
ちなみに、単一型でなく2種類の光触媒を用いる場合は、水素発生用と酸素発生用の2種の光触媒に分担されるために求められる制約は緩和される。また、自然界の植物による光合成では、クロロフィルという色素が、680nmと700nmの2種の吸収極大を有することが知られている。
【0005】
太陽光を用いて水分解を行えることが再生エネルギーや環境関連の工業技術としては必須の要素となってくる。前記した通り、地表に届く太陽光スペクトルのおよそ半分は可視光であり、紫外光はわずか数%である。この太陽光スペクトルを用い、仮に水の光分解反応が量子効率100%で進行した場合の、太陽エネルギー変換効率の最大値は、仮に400nmまでの紫外光をすべて使い切れたとしても2%程度にとどまり、植物の光合成のエネルギー変換効率(1~2%)を大きく上回ることはない。これに対して可視光領域の光を利用できるようになると、例えば600nmまで利用出来た場合の最大エネルギー変換効率は15%であり、800nmまで利用出来た場合には33%と最大エネルギー変換効率が飛躍的に向上することが知られている。
【0006】
太陽光照射下に単一型光触媒を用いて水を水素と酸素に分解(全分解)する方法は、用いる光触媒となる光半導体のバンド構造に上記のような制約がある上に、たとえバンド構造を満たしていても水分解機能を発現すること自体が容易でない。そのため、これまでに報告されている光触媒の例は非常に少ない。
【0007】
前記した通り、半導体はバンドギャップ(伝導帯下端と価電子帯上端の電位差)以上のエネルギーを有する光を吸収することにより、価電子帯に存在する電子は励起されて伝導帯に遷移する。光触媒機能は、この光励起された電子が水を還元して水素生成を可能にし、同時に光生成した正孔が水を酸化して酸素生成を可能にするものである。
従って、光触媒のバンド構造、すなわち伝導帯下端位置と価電子帯上端位置が重要な要素となる。伝導帯下端(光励起された電子が位置する最も正側の電位)が水を還元できる電位にあり、かつ、価電子帯上端(光生成した正孔が位置する最も負側の電位)が水を酸化できる電位にあるという熱力学的な必要条件を満たしていることが必須となる。この条件をクリアできる光触媒は非常に限られている上に、たとえこのバンド構造を満たしていても水分解機能を発現すること自体がその物質の属性に由来するために容易でない。そのため、これまで提案されている例は非常に少ない。
【0008】
光半導体となり得る通常の金属酸化物の多くは価電子帯が酸素2p軌道により構成されるため価電子帯上端の電位は+3V vs. NHE付近となり、これは水を酸化できる電位1.23V vs. NHEに比べてかなり正側に位置するので、水を酸化する条件を満たすが、バンドギャップが大きい材料になってしまう。すなわち、伝導帯下端の電位が水を還元できる電位0.0V vs. NHEよりも負側になる必要があり、価電子帯下端の位置が+3.0V vs. NHE以上であれば、そのバンドギャップ(伝導帯下端と価電子帯上端の電位差)は3.0eV以上になってしまうため、吸収端は410nm以下(吸収端nm=1240/バンドギャップeV)となり可視光をわずかしか吸収できない材料ということになる。
【0009】
このように、通常の光半導体となる金属酸化物では可視光応答できる材料が非常に少ないという問題があり、その対策がこの太陽光を用いる全分解型の単一型光触媒の開発の流れとなってきた。
【0010】
こうした制約を回避するために、これまで主に価電子帯上端の電位を負側にすることでバンドギャップを狭窄化し可視光応答化する工夫がなされてきた。通常の金属酸化物では、上記のごとく価電子帯上端が+3V vs. NHE付近に位置するが、水を酸化するには過電圧を含めて1.5~1.6V vs. NHEくらいの位置に価電子帯上端を負側にすることが有力な対策となる。
そのために大きく3つアプローチに分類することができる。
一つ目のアプローチは、窒素や硫黄といった元素を用いて金属窒化物や金属(酸)硫化物を用いることである。こうした金属窒化物や金属(酸)硫化物では、窒素2p軌道や硫黄3p軌道が酸素2pより負側に位置するため、その価電子帯上端は負側となり、バンドギャップの狭窄化が起こる。
二つ目のアプローチはドーピングである。広いバンドギャップを持つ活性な光触媒の禁制帯に新しい準位を形成しうる異種元素をドーピングする方法が検討されている。
三つ目のアプローチは、酸素2p軌道より卑側に位置するp軌道やd軌道を有するSn、Pb、Bi、Agなどの金属を金属酸化物の要素として導入する方法である。
一つ目のアプローチである金属窒化物や金属(酸)硫化物を用いた先行技術としては、GaNとZnOからなる固溶体(吸収端460nm)を用いた可視光全分解の報告(非特許文献1、特許文献1)、GeNとZnOの固溶体(吸収端470nm)を用いる報告(非特許文献2、特許文献2)、La、Mg、Taからなる酸窒化物(吸収端600nm、非特許文献4)、CaTaON(吸収端510nm、非特許文献5)、Ta(600nm、非特許文献6)がある。また、酸硫化物では、YTi(650nm、非特許文献7)が報告されている。
二つ目のアプローチであるドーピングの先行技術としては、SrTiOにRhとSbをドープした報告(500nm)がある(非特許文献5、特許文献3)。三つ目の先行技術はいまのところない。
【0011】
また、助触媒や表面修飾も上記光触媒と同様に重要な要素である。水を還元して水素とする際は、通常、Pt、Rh、Ir、Ru、Ni、Au等の金属微粒子が水素発生用助触媒として機能することが知られている(例えば特許文献5~6)。また、水を酸化して酸素を生成する際は、大きな過電圧が取れる場合は助触媒なしでよいが、大きな過電圧が取れない光触媒では、酸素発生用助触媒としてCo、Ir、Ru、Fe、Mnなどを含む酸化物や水酸化物が必要となる。
さらに、表面修飾として、Cr、Ti、Nb、Ta、W、V、Zrなどの酸化物を修飾剤として、これらをシェルにし、水素発生用助触媒をコアとするコアシェル構造を形成することが全分解に有効であることが知られている(非特許文献8、特許文献4)。これは、コアシェル構造を形成すると生成した酸素分子が水素発生用助触媒に直接接触できないために含反応となる酸素分子の還元が抑制されるからと考えられており、特に、金属酸窒化物や金属窒化物により可視光を用いた水の全分解反応の例が報告されている。また、金属酸化物とペルオキソ錯体とを組み合わせ、UV光を用いた水の全分解反応の例も報告されている。一方、金属酸窒化物や金属窒化物は一般的に金属酸化物に比して不安定な傾向があると言われている。
なお、本発明において有効な光触媒であるニオブ酸スズ(SnNb)は、可視光照射下に犠牲剤を用いた水素生成、および、可視光照射下に犠牲剤を用いた酸素生成を各々起こすことが知られている(例えば特許文献5、非特許文献9および10)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開2005-144210号公報
【文献】特開2005-131531号公報
【文献】特開2012-55843号公報
【文献】特開2015-71128号公報
【文献】特開2006-88019号公報
【文献】特開2013-530834号公報
【非特許文献】
【0013】
【文献】J. Amer. Chem. Soc, 2005, 127, 8286-8287
【文献】Chem. Mater. 2007, 19, 2120-2127
【文献】Chem.Commun. 2014, 50, 2543-2546
【文献】Angew. Chem. Int. Ed. 2015, 54, 2955-2959
【文献】Chem.Commun. 2015, 51, 7191-7194
【文献】Nature Catal. 2018, 1, 756-763
【文献】Nature Mater. https://doi.org/10.1038/s41563-019-0399-z
【文献】J. Catal. 2006, 243, 303-308
【文献】Chem.Lett. 2004, 33, 28-29
【文献】Chem.Mater. 2008, 20, 1299-1307
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上記のように、太陽光と光触媒により水を水素と酸素とに分解する技術が報告されているが、特に太陽光と単一型光触媒により水を効率的、且つ、安定して水素と酸素とに、所謂全分解するには、多くの問題があると言え、新たな技術が望まれている。特に、事業化を目指す場合、光触媒は、安定であることや、合成が容易であることも望まれている。
かかる状況に鑑み、本発明は、可視光を用いて水を水素と酸素に、所謂全分解ができ、安定かつ合成が容易な単一型の光触媒、および、光触媒の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の課題を解決するために、本発明者らが検討した結果、特定の金属酸化物主体の単一型の光触媒、具体的には、2価の錫を含有する錫含有複合酸化物と、周期律表の第6族~第11族の元素から選択される少なくとも一種の金属を含有する助触媒と、周期律表の第4族~第6族の元素から選択される少なくとも一種の金属の酸化物あるいは水酸化物とを含む光触媒とすることにより、可視光による光の全分解が可能な単一型の光触媒となることが見い出された。また、この光触媒は合成が容易であり、金属酸化物であるので、安定であることも期待できる。具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0016】
[1]2価の錫(Sn2+)を含有する錫含有複合酸化物と、周期律表の第6族~第11族の元素から選択される少なくとも一種の金属を含有する助触媒とを含む光触媒部位と、
周期律表の第4族~第6族の元素から選択される少なくとも一種の金属の酸化物あるいは水酸化物を含む酸化物・水酸化物部位とを含むことを特徴とする光触媒。
【0017】
[2]前記錫含有複合酸化物が、SnNbを含むことを特徴とする上記[1]に記載の光触媒。
【0018】
[3]前記助触媒が、酸素生成助触媒を含むことを特徴とする上記[1]または[2]に記載の光触媒。
【0019】
[4]前記酸素生成助触媒が、IrおよびCoの少なくとも一方を含むことを特徴とする上記[3]に記載の光触媒。
【0020】
[5]前記助触媒が、水素生成助触媒を含むことを特徴とする上記[1]~[4]のいずれか1つに記載の光触媒。
【0021】
[6]前記水素生成助触媒が、Pt、Rh、Ru、IrおよびNiから選択される少なくとも一種以上を含むことを特徴とする上記[5]に記載の光触媒。
【0022】
[7]前記酸化物・水酸化物部位が、Ti、V、Cr、Zr、Nb、TaおよびWから選択される少なくとも1種以上の金属の酸化物からなる酸化物部位であることを特徴とする上記[1]~[6]のいずれか1つに記載の光触媒。
【0023】
[8]上記[1]~[7]のいずれか1つに記載の光触媒の製造方法であって、
金属酸のアルカリ金属塩とハロゲン化錫との反応を行った後、さらに800℃以上の温度で焼成することにより前記錫含有複合酸化物を調製する錫含有複合酸化物調製工程と、
前記錫含有複合酸化物の存在下で前記助触媒を形成する助触媒形成工程と、
前記助触媒形成工程後に、前記酸化物・水酸化物部位を形成する酸化物・水酸化物部位形成工程と、を備えることを特徴とする光触媒の製造方法。
【発明の効果】
【0024】
本発明の光触媒は、可視光を用いて水を水素と酸素に全分解でき、また、安定かつ合成が容易である。したがって、本発明の光触媒を用いることにより、太陽光を利用する、簡便かつ低コストの水素製造システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の光触媒における酸化物・水酸化物部位の効果を説明するための模式図。
図2】実施例1の水分解反応の結果を示すグラフ。
図3】実施例および比較例の水分解反応の結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の光触媒は、2価の錫(Sn2+)を含有する錫含有複合酸化物と、周期律表の第6族~第11族の元素から選択される少なくとも一種の金属を含有する助触媒とを含む光触媒部位と、周期律表の第4族~第6族の元素から選択される少なくとも一種の金属の酸化物あるいは水酸化物を含む酸化物・水酸化物部位とを含む。このような本発明の光触媒は、可視光照射下に、水を水素と酸素に全分解できる単一型の光触媒である。なお、本明細書において、可視光とは、380nm~800nmの波長の光である。本発明の光触媒は、前述の三つ目のアプローチの考えに基づいたものに該当し、錫を含む金属酸化物を構成要素に用いる方法である。以下、本発明の光触媒を構成する各成分について記載する。
【0027】
(1)2価の錫(Sn2+)を含有する錫含有複合酸化物
本発明の光触媒は、2価の錫を含有する錫含有複合酸化物を1成分として含む。前記の錫含有複合酸化物は、ドーピング成分や窒素および硫黄等の周期律表の15族や、酸素を除く16族元素を含まないことが好ましいが、本発明の目的に反しない範囲で含んでいてもよい。錫含有複合酸化物は、例えば、公知のドーピングに用いられる金属元素や、前記の第二のアプローチで用いられる前記の窒素や硫黄などを好ましくは5重量%以下、より好ましくは3重量%以下、さらに好ましくは1重量%以下、特に好ましくは0.3重量%以下含んでいてもよい。勿論、ドーピング用元素と、前記の窒素や硫黄の含有率の好適範囲は異なる場合がある。
【0028】
前記の錫含有複合酸化物は、錫以外の金属元素を含む。前記の錫以外の金属元素は、公知の錫含有複合酸化物に用いられる元素であれば特に制限は無いが、周期律表の第4族~第6族の元素が好ましく用いられる。好ましくは、ニオブ(Nb)、チタン(Ti)、タンタル(Ta)、タングステン(W)などを挙げることが出来る。これらの中ではニオブが好ましい。即ち、錫含有複合酸化物としてはニオブ酸錫が好ましい。
また前記の錫含有複合酸化物の具体的な化学式としては、例えば、SnNb、SnNb、SnTiO、SnTa、SnTa、SnWO、SnSbなどが挙げられ、SnNb、SnNb、SnTiOが好ましく、SnNbとSnTiOがより好ましく、SnNbが最も好ましい。
勿論、本発明の目的に反しない範囲であれば、本発明を構成する金属以外の金属やその誘導体(酸化物等)が含まれていても構わない。このような成分の含有率は、5重量%以下、より好ましくは3重量%以下、さらに好ましくは1重量%以下、特に好ましくは0.3重量%以下である。
【0029】
前記のSnNbはn型半導体でありNbの八面体相層とSn層の2層からなる層状のフォーダイト(Foordite)構造を有し、バンドギャップは2.3eV、吸収端は540nmである。
前述の通り、SnNbは可視光照射下に犠牲剤としてメタノールを用いた場合に水素を生成し、また同じく可視光照射下に犠牲剤として硝酸銀を用いた場合に酸素を生成することが知られている。これは、SnNbが、バンド構造として可視光全分解を起こす能力を潜在的に有していることを示唆するものと考えられるが、これまで犠牲剤を使用せずに可視光で水を完全分解(overall water splitting:本願では「全分解」と言うことがある。)した報告例は無い。これに対し、本発明の光触媒は、後述する実施例に示すように、犠牲剤を使用せずに可視光で水を完全分解することができる。
【0030】
前記の錫含有複合酸化物は、通常粉末状であり、活性や扱いやすさの点から、その大きさは、100nm~5μm程度であることが好ましく、100nm~1μm程度であることがより好ましい。
【0031】
前記の錫含有複合酸化物に含まれる2価の錫の存在はXPS分析で特定することが出来る。また、本発明の複合酸化物は、2価以外の錫が含まれていてもよい。2価以外の錫としては、例えば、4価の錫(Sn4+)が挙げられる。前記の錫含有複合酸化物における4価の錫の存在割合は、メスバウアー分光分析やXPS分析によって見積もることができる。XPS分析においては、錫の3d軌道由来のピークから見積ることが出来る。前記の錫含有複合酸化物における4価の錫(Sn4+)の存在割合は、前記の錫含有複合酸化物における2価の錫(Sn2+)の存在割合に対して、20%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましく、5モル%以下であることがさらに好ましい。
上記のXPS分析は、例えば以下の条件で特定出来る。
・装置:AXIS-NOVA(Kratos社製)
・X線源:単色化 AI Ka (1486.6ev)
・分析領域:700μmX300μm(最表面の分析)
・A”イオンエッチングレート:Raster 15mm角 0.48 A sec(sio.換算)
またこの方法を用いれば、他の金族元素、例えば後述する(2)の助触媒や、(3)の金属酸化物、金属水酸化物の金属の価数も決定することが出来る。
【0032】
(2)助触媒
本発明においては、(1)錫含有複合酸化物を可視光照射下に水を水素と酸素に分解して水から水素と酸素を生成させるために、周期律表の第6族~第11族の元素から選択される少なくとも一種の金属を含有する助触媒を用いる。助触媒は、例えば、錫含有複合酸化物に担持されていることが好ましい。例えば、SnNbは、可視光照射下に水から水素と酸素を生成させるためには、助触媒を担持することが好ましく、例えば、特許文献6に白金などが水素生成助触媒となる態様が開示されている。
【0033】
助触媒は、水素生成用助触媒および酸素生成助触媒のいずれでもよく、また、水素生成用助触媒および酸素生成助触媒の両方を用いてもよい。
【0034】
水素生成用助触媒としては、周期律表の第6族~第11族の元素から選択される少なくとも一種の金属を含有する公知の水素生成助触媒を用いることが出来る。水素生成用助触媒としては、Pt、Rh、Ir、Ru、Ni、Au等が好ましく、Pt、Rh、Ir、Ru、Niがより好ましく、Pt、Rh、Ruがさらに好ましく、Rhが特に好ましい。水素生成助触媒は、基本的に金属として本発明の光触媒に含まれることが好ましく、金属の微粒子であることが好ましい。金属の酸化物や水酸化物の場合は、酸素生成助触媒として機能する場合がある。
【0035】
酸素生成用助触媒としては、周期律表の第6族~第11族の元素から選択される少なくとも一種の金属を含有する公知の酸素生成助触媒を制限なく用いることが出来る。例えば、特許文献5には、SnNbの様な複合金属酸化物にイリジウムを導入し、犠牲剤の存在下に可視光で酸素が発生することが報告されている。酸素生成助触媒としては、Co、Ir、Ru、Fe、Mn等を含む酸化物あるいは水酸化物が好ましく、IrやCoを含む酸化物あるいは水酸化物がより好ましい。
【0036】
(3)酸化物・水酸化物部位
本発明の光触媒は、周期律表の第4族~第6族の元素から選択される少なくとも一種の金属の酸化物あるいは水酸化物を含む酸化物・水酸化物部位を含む。この酸化物・水酸化物部位は、(1)錫含有複合酸化物および(2)助触媒を含む光触媒部位(特には(2)助触媒)の表面を覆うように存在する、所謂、コア・シェル型構造のシェル部を形成する態様であることが好ましいと考えられる。特許文献4では、このシェル部が酸素のコア部への透過を阻止することで、正孔や水素イオン発生反応の逆反応を抑制するモデルが提案されている。
【0037】
酸化物・水酸化物部位としては、Cr、Ti、Nb、Ta、W、V、Zr等を含む酸化物あるいは水酸化物が好ましく、CrあるいはTiを含む酸化物や水酸化物がより好ましい。また、酸化物・水酸化物部位は、(2)助触媒を構成する金属の酸化物や水酸化物と同じであっても構わないが、異なることが好ましい。
【0038】
図1を用いて酸化物・水酸化物部位の機能を、Crを例に更に説明する。図1は、本発明の光触媒における酸化物・水酸化物部位の効果を説明するための模式図である。図1中、左端に示す半導体粒子((1)2価の錫(Sn2+)を含有する錫含有複合酸化物)表面に、主としてRh等の水素生成助触媒((2)助触媒)を含むコア部が形成され、その上に例えば、Crの様なシェルが形成されている様子を示す。ここで、Cr自体は触媒活性がなく、コアの金属部分((2)助触媒)が触媒活性を有すると考えられる。使用状態では図1に示す系全体が水中に浸漬されるので、Crは水和して水酸化物状態になり、これにより、反応サイトであるコアに水分子が供給される。半導体粒子側から供給される電子(e-)によりコア表面で生成した水素分子はCrシェルを透過して外部に放出される。一方、酸素分子に対してCrシェルはその内部への侵入を阻止する。Crシェルのこの選択的透過膜としての機能により、コア表面において正反応だけが進行するという反応選択性が実現される。以上の作用により、水分解が効率的に進行する。なお、特許文献4には金属窒化物や金属酸窒化物とこのシェル層の組み合わせにより可視光での水の完全分解の例が開示されているが、金属酸化物での可視光の利用は難しいことが開示されている。また、特許文献4には、金属酸化物と、金属酸化物のペルオキソ錯体溶液とを併用してUV光による水の完全分解の例が報告されているが、特許文献4の実施例に開示されている金属酸化物(SrTiO3:Sc)は、可視光における水の分解能を持たない化合物(吸収波長域の上限が約370nmの紫外領域)であることが知られている。また、前記のペルオキソ錯体は、前記のシェル層形成の原料とされている。
【0039】
本発明においては、この酸化物・水酸化物部位が、上記の選択的透過性だけでなく、(1)錫含有複合酸化物の酸化による性能劣化を抑制することが期待できる。より詳しくは、Sn2+はSn4+に酸化されることで光触媒の性能劣化の要因となる場合が考えられるが、この酸化物・水酸化物部位が光触媒を覆うことで、酸素との接触を低減して酸化による変質を抑制し、光触媒性能のポテンシャルを安定的に発現させているのではないかと考えられる。また、この酸化物・水酸化物部位は、前記の(1)錫含有複合酸化物、あるいは、(1)錫含有複合酸化物と(2)助触媒との複合体や積層体を活性化し、水素や酸素発生の機能を推進する効果を有している可能性が有るとも考えられる。
【0040】
本発明の光触媒は、前記のとおり(1)錫含有複合酸化物、(2)助触媒、および、(3)酸化物・水酸化物部位を有している。これらの成分の割合は特に制限されるものではないが、好ましくは、光触媒100重量部に対して(2)助触媒は0.01~20重量部、より好ましくは0.1~10重量部である。また、好ましくは、光触媒100重量部に対して(3)酸化物・水酸化物部位は0.01~20重量部、より好ましくは0.1~10重量部である。
(1)錫含有複合酸化物、(2)助触媒、(3)酸化物・水酸化物部位の割合は、例えば、極めて定量性の良い分析方法であるICP発光分光分析法(高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法、ICP-OES/ICP-AES)を用いて各金属の定量を行うことで決定することが出来る。勿論、光触媒合成時の各原料成分の仕込み比から特定することも出来る。本発明においては、前記のICP分析は、島津製作所製ICP発光分析装置ICPS-8100型装置を用い、常法によって測定した値が用いられる。
【0041】
(水の完全分解方法)
このような本発明の光触媒を用いれば、後述する実施例に示すように、可視光下の条件でも水を完全分解することが出来る。その反応条件は特に制限は無く、公知の反応条件で行うことが出来る。例えば、光触媒を水中に投入し、可視光を照射することにより、水を水素と酸素に分解することができる。照射する可視光の光源としては、太陽のほか、キセノンランプ、メタルハライドランプ等の太陽光近似光ないし疑似太陽光を照射可能なランプ、水銀ランプ、LED等が挙げられる。
【0042】
本発明の光触媒は、錫を含む複合金属酸化物を含む態様である。本発明の光触媒は、金属酸化物であるにも拘わらず、上記の水素生成助触媒および/または酸素生成助触媒、上記の金属酸化物あるいは水酸化物部位と組み合わせた構成を有しているので、可視光での水の完全分解が可能となった。また、本発明の光触媒は、メタノールや硝酸銀等等の犠牲剤無しで、可視光での水の完全分解を行うこともできる。
水の完全分解により、量論的には水素2モルに対して酸素1モルが得られるが、種々のエネルギーロスや副反応により、上記の比率にならない場合もある。本発明の光触媒を用いた場合、酸素1モルに対して、例えば、水素が1.5モル~3.5モル、好ましくは水素が1.5モル~3.0モル、より好ましくは、1.8モル~2.7モル、特に好ましくは、1.8モル~2.5モルの範囲で得られる。
【0043】
本発明の光触媒は、金属の複合酸化物である(1)錫含有複合酸化物を主たる構成成分としているので、安定で、製造し易い傾向がある。一方で、特殊な構成を有しているので、可視光下でも水の完全分解が可能となる。このような光触媒は、化石燃料の枯渇への対応や、近い将来に予想される水素社会の根幹となる可能性が有る技術と考えられる。よって、本発明は、産業へ大きく貢献する技術である。
【0044】
(光触媒の製造方法)
上記本発明の光触媒の製造方法は、特に制限されない。
本発明における(1)錫含有複合金属酸化物の製造方法としては、金属酸のアルカリ金属塩とハロゲン化錫との反応を行った後、さらに800℃以上の温度で焼成することにより(1)錫含有複合酸化物を調製する方法を挙げることが出来る。前記の焼成温度の上限に特に制限は無いが、反応装置の材質などを鑑みると、好ましくは1500℃、より好ましくは1200℃である。
より具体的で好ましい方法を以下に記載する。
【0045】
(1)2価の錫(Sn2+)を含有する錫含有複合酸化物は、通常、粉末として得られるが、粉末を構成する各粒子は単結晶あるいは結晶が集まった集合体として製造されることが好ましく、しかも、不純物や欠陥および粒界の少ない高品位な結晶あるいはその集まりであることがより好ましい。また、各粒子の大きさは、既述のごとく、活性や扱いやすさの点から、100nm~5μm程度であることが望ましく、100nm~1μm程度であることがより好ましい。これら高品位かつ特定の大きさを有する粉末を製造するためには、従来の固相法なども適用できるが、例えば、SnNbの場合では、ニオブ酸アルカリ塩(例えば、NaNbOやNaNbなど)を一旦製造し、さらにこれに塩化錫(SnCl)を反応させて製造する方法がより好ましい。塩化錫をニオブ酸アルカリ塩に対して、Sn/Nb原子比として、1~10倍、好ましくは1.5~5倍の過剰量を用いて、300~900℃、好ましくは400~700℃の温度条件下に、窒素気流下または真空封管内で反応させることが好ましい。
【0046】
反応後、塩酸水溶液、アルコール、水などを用いて過剰の塩化錫および副生する塩化アルカリ塩を除去洗浄しさらに乾燥することでSnNb粉末が得られる。塩化錫(SnCl)は融点が246℃と低いので、このような条件下では、溶融した塩化錫の存在下に反応と結晶成長が都合よく起こると考えられる。また、ニオブ酸アルカリ塩は通常の方法で製造することが可能で、例えば、ニオブ酸とアルカリ水酸化物の水溶液を耐圧反応器中で反応させる、いわゆる水熱合成法や、アルカリ炭酸塩とニオブ酸を反応させる方法などが挙げられる。
【0047】
さらに、こうして得られた錫含有複合酸化物を焼成(アニール)等の処理を行うことが望ましい。より具体的には、例えば、SnNbの場合では、上記のニオブ酸アルカリと塩化スズの反応によりニオブ酸スズを得たのち、800℃以上の温度で焼成(アニール)することで好ましいSnNb粉末が得られる。焼成(アニール)温度は、既述のごとく、上限に特に制限は無いが、好ましくは1500℃、より好ましく1200℃である。また、この焼成(アニール)処理は、窒素やアルゴン等の不活性ガス雰囲気下あるいは真空の封管内で行うことが望ましい。これは、2価の錫が4価に酸化されることを防ぐためである。この焼成(アニール)処理によって、欠陥や粒界の少ない高品位な結晶あるいは結晶の集合体からなるSnNb粉末を得ることができる。
勿論、高品位な結晶を得られる他の製造方法、例えば、各種の薄膜の製造方法など用いることも出来る。また、前記の方法と組み合わせて用いることも出来る。
【0048】
また、(2)助触媒は、いわゆる担持と呼ばれる処方を用いて複合酸化物の表面上に接合される形で形成することができる。この担持方法は特に限定されず、通常の担持方法が適用可能である。好ましい担持方法としては、含浸法、共沈法、CVD(chemical vapor deposition)法、ポアフィリング法、光電着法などが挙げられる。含浸法や光電着法が好ましく、例えば、含浸法では、周期律表の第6族~第11族の金属の塩や金属の錯体を水や有機溶媒に均一に溶解して含浸液を調製し、次に錫含有複合酸化物粉末を加えて加熱攪拌下に水あるいは有機溶媒を留去し、さらに水素あるいは水素含有ガス雰囲気下(窒素やアルゴンを併用することも出来る)や、空気または酸素含有ガス雰囲気下で熱処理(焼成)することによって担持することができる。前記の熱処理(焼成)温度は、好ましくは100~500℃、より好ましくは150~400℃の範囲である。好ましい焼成時間は、1分~50時間、より好ましくは1~10時間である。やはりここでも、2価の錫は酸化されやすいので、空気または酸素雰囲気下で熱処理する場合は、100~300℃の範囲が好ましく、100~250℃の範囲がより好ましい。
【0049】
また、例えば、光電着法では、周期律表の第6族~第11族の金属の塩を水に溶解して、犠牲剤の存在下に光照射することによって担持することができる。水素発生助触媒の場合は、Rh、Ru、Pt、Ir、Ni、Auなどの金属を0価のメタル状の金属として担持することが好ましいので、これら対応する0価より大きい原子価の金属塩を用いて、還元的にメタル状の金属として担持させる。通常は、メタノールや硫化物など正孔を消費する犠牲剤の存在下に光照射することによって、水溶液中の金属は還元されて錫含有複合酸化物の表面上に担持される。また、酸素発生助触媒の場合は、IrやCoなどの金属を0価のメタル状として、あるいは、0価より大きい原子価の金属酸化物や水酸化物として担持することができるので、同様に還元的あるいは酸化的に光電着によって担持することが可能である。酸化的に行う場合は、励起電子を消費する犠牲剤の存在下に光照射することによって、水溶液中の低原子価の金属イオンを高原子価の金属酸化物あるいは水酸化物として錫含有複合酸化物の表面上に担持させる。
【0050】
また、(3)酸化物・水酸化物部位も同様に、いわゆる担持と呼ばれる処方を用いて複合酸化物の表面上に接合される形で形成することができる。この担持方法は特に限定されず、通常の担持方法が適用可能である。好ましい担持方法としては、含浸法、共沈法、CVD(chemical vapor deposition)法、ポアフィリング法、光電着法などが挙げられる。含浸法や光電着法が好ましい。この含浸法や光電着法によって、酸化物・水酸化物を担持する際は、上記の助触媒を同時に担持することも、また、助触媒の担持と連続的・逐次的な操作で担持することも、いずれも可能である。
【0051】
以下、酸化物・水酸化物部位がCrの酸化物(Cr)である場合について詳述する。含浸法では、まず、硝酸クロム等の3価のCr化合物を水あるいは有機溶媒に溶解させた均一溶液を作製し、上記の助触媒が担持された錫含有複合酸化物粉末の存在下に、前記の水あるいは有機溶媒を留去し、その後、熱処理(焼成)を行うことによって錫含有複合酸化物粉末にCrを担持する。この熱処理の温度は、好ましくは100~500℃、より好ましくは150~400℃の範囲である。好ましい焼成時間は、1分~50時間、より好ましくは1~10時間である。やはりここでも、2価の錫は酸化されやすいので、空気または酸素雰囲気下で熱処理する場合は、100~300℃の範囲が好ましく、100~250℃の範囲がより好ましい。
【0052】
また、光電着法では、3価より大きな原子価を有するCr化合物と、上記の助触媒が担持された錫含有複合酸化物粉末とを含む水溶液に、通常、メタノールや硫化物など正孔を消費する犠牲剤の存在下に、光照射を行うことによって、水溶液中のCr化合物は還元されて助触媒が担持された錫含有複合酸化物の主として表面上に担持される。その後、ろ過して水による洗浄を行って乾燥することによって、(1)錫含有複合酸化物に(2)助触媒と(3)酸化物・水酸化物としてCrが担持された光触媒が得られる。この光触媒は、そのまま水の全分解反応に供することができる。
【0053】
上記本発明の光触媒の製造方法は、好ましくは、各成分の構成や機能を考慮すると、(1)錫含有複合酸化物に、(2)助触媒を導入した後に、(3)酸化物・水酸化物部位を形成する。具体的には、本発明の光触媒は、例えば、金属酸のアルカリ金属塩とハロゲン化錫との反応を行った後、さらに800℃以上の温度で焼成することにより(1)錫含有複合酸化物を調製する錫含有複合酸化物調製工程と、(1)錫含有複合酸化物の存在下で(2)助触媒を形成する助触媒形成工程と、助触媒形成工程後に、(3)酸化物・水酸化物部位を形成する酸化物・水酸化物部位形成工程と、を備える光触媒の製造方法により製造することが好ましい。
【0054】
(2)助触媒が、水素生成助触媒と酸素生成助触媒の両方を含む場合、酸素生成助触媒を導入した後に水素生成助触媒を導入する方法を用いることが好ましい。この様な順で製造することで、各成分の性能を効率的に発現させる光触媒を得ることが出来る。
【実施例
【0055】
以下、実施例に基づいて本発明の光触媒について具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
<光触媒の合成>SnNb粉末の合成
ニオブ酸Nb(Sigma-Aldrich製)9.30gと1N NaOH水溶液100mLをテフロン(登録商標)容器に入れて、SUS製のオートクレーブにそのテフロン(登録商標)容器を入れて密封し、160℃で20時間回転させながら水熱反応を行った。冷却後内容物を取り出して水洗液が中性になるまで水洗を繰り返した。その後、40℃の真空乾燥器で一晩乾燥させた。XRD、DRS、SEM分析等を行い、NaNb・HOが得られていることを確認した。次に、こうして得られたNaNb・HO 2.07gと塩化スズ(富士フイルム和光純薬(株)製)3.41gを混合して環状炉にて窒素気流下に500℃5時間反応を行った。生成した固体を3N HCl水溶液を用いて洗浄し、さらに洗浄系が中性になるまで水洗を繰り返した。その後、40℃の真空乾燥器で一晩乾燥させた。さらに、こうして得られた固体を石英製のガラス管に真空封管して900℃10時間アニール処理を行った。冷却後内容物である粉末を取り出して、XRD、DRS、SEM分析等を行い、SnNbが得られていることを確認した。
【0056】
<酸素発生用助触媒の担持>SnNbへのIr含浸担持
上記の操作で得られたSnNb粉末0.3gにIr担持量が5wt%となるようにイリジウムアセチルアセトナート(富士フイルム和光純薬(株)製)0.076gのメタノール溶液を用いて含浸法によりIrを担持した後、窒素/水素=96/4(体積比)気流下に350℃2時間熱処理を行って、SnNb粉末にIrを担持させた。
【0057】
<水素発生用助触媒の担持>Ir/SnNb(Ir担持SnNb)へのRh光電着
次に、Rhを以下のように閉鎖循環型反応装置を用いた光電着法によって担持した。すなわち、Rh担持量が1wt%になるように、ヘキサクロロロジウム酸ナトリウムNaRhCl n水和物(三津和化学(株)製)0.0196gをメタノール10%水溶液150mLに溶解し、上記で得られたIr担持SnNb粉末0.3gを加えた。フラスコ内をアルゴン置換後、内圧46mmHgにおいて、スターラーバーによる攪拌下に300Wキセノンランプにより光照射を4時間行ってIr/SnNbへRhを光電着させた。
【0058】
<周期律表4~6族金属の酸化物の形成>Rh/Ir/SnNb(Rh担持Ir/SnNb)へのCr光電着
その後、引き続き、閉鎖循環型反応装置を用いてCrの光電着法により担持した。すなわち、上記のRh光電着後にフラスコの上蓋を開いて、Cr担持量1wt%になるように、クロム酸カリウム(KCrO:関東化学(株)製)0.012gを上記のメタノール水溶液に追加した後、上記水素発生用助触媒の担持方法と同様にして、フラスコ内部をアルゴン置換して減圧下に、同じく攪拌下に300Wキセノンランプを用いて光照射を15時間行った。その後、内容物を取り出して、ろ過と水洗を行った後、真空乾燥器で40℃一晩乾燥させた。尚、得られたCr/Rh/Ir/SnNb(Cr担持Rh/Ir/SnNb)粉末中のIr、Rh、Cr量をICP分析により測定したところ、Ir量は1.0wt%、Rh量は1.0wt%、Cr量は0.5wt%であった。
【0059】
<可視光全分解反応>
上記の処方にて得られた光触媒(Cr/Rh/Ir/SnNb)粉末を用いて閉鎖循環型反応装置にて、可視光照射下、水の可視光分解反応を試みた。具体的には、フラスコに水150mLとCr/Rh/Ir/SnNb粉末0.2gを採取し、420nm以下の波長の光をカットするフィルターを付けた300Wキセノンランプで、攪拌下に16時間光照射を行い、生成するガスを反応スタート後1時間毎に自動サンプラーを備えたガスクロマトグラフィーにより分析した。結果を図2図3および表1に示す。水の可視光全分解反応が起こっていることが分かる。
【0060】
[実施例2~4]
実施例1において、Ir担持量を1wt%(実施例2)、3wt%(実施例3)、10wt%(実施例4)とした以外は同様の操作により、Cr/Rh/Ir/SnNb粉末を得た。得られたCr/Rh/Ir/SnNb粉末を用いて実施例1と同様の操作により可視光分解反応を試みた。その結果を図3および表1に示す。各粉末のIr、Rh、Cr量をICP分析により測定したところ、IrとRhはすべて1.0wt%、Crは、実施例2では1.0wt%、実施例3では0.8wt%、実施例4では0.4wt%であった。反応結果から、水の可視光全分解反応が起こっていることが分かる。
【0061】
[実施例5]
実施例1において、Irを担持するためにイリジウムアセチルアセトナートを用いる代わりに1wt%のCoが担持されるようにコバルト(II)アセチルアセトナート二水和物(東京化成工業(株)製)0.013gを用いた以外は同様の操作によりCrO/Rh/Co/SnNb粉末を得た。得られたCr/Rh/Co/SnNb粉末を用いて、実施例1と同様の操作により可視光分解反応を試みた。その結果を図3および表1に示す。水の可視光全分解反応が起こっていることが分かる。
【0062】
[実施例6]
実施例1において、Rhを担持しない以外は同様の操作によりCr/Ir/SnNb粉末を得た。得られたCr/Ir/SnNb粉末用いて、実施例1と同様の操作により可視光全分解反応を行った。その結果を図3および表1に示す。水の可視光全分解反応が起こっていることが分かる。この場合、Irは酸素発生助触媒だけでなく水素発生助触媒としても機能していることが示唆される。
【0063】
[比較例1]
実施例1において、RhおよびCrを担持しない以外は同様の操作によりIr/SnNb粉末を得た。得られたIr/SnNb粉末を用いて、実施例1と同様の操作を行った。その結果を図3および表1に示す。
【0064】
[比較例2]
実施例1において、Crを担持しない以外は同様の操作によりRh/Ir/SnNb粉末を得た。得られたRh/Ir/SnNb粉末を用いて、実施例1と同様の操作を行った。その結果を図3および表1に示す。
【0065】
表1および図2~3に示すように、(1)2価の錫(Sn2+)を含有する錫含有複合酸化物と、(2)助触媒と、(3)酸化物・水酸化物部位とを含む実施例1~6の光触媒は、可視光を用いて水を水素と酸素に全分解できることが確認された。一方、(1)2価の錫(Sn2+)を含有する錫含有複合酸化物、(2)助触媒および(3)酸化物・水酸化物部位のいずれかを有さない比較例1~2の光触媒は、可視光を用いて水を水素と酸素に分解できなかった。
【0066】
【表1】

図1
図2
図3