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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-07
(45)【発行日】2024-11-15
(54)【発明の名称】電源装置、照明装置及び照明器具
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/12 20060101AFI20241108BHJP
   H05B 45/00 20220101ALI20241108BHJP
【FI】
H02M7/12 Z
H05B45/00
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020009462
(22)【出願日】2020-01-23
(65)【公開番号】P2021118587
(43)【公開日】2021-08-10
【審査請求日】2022-10-17
【審判番号】
【審判請求日】2023-10-25
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】弁理士法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】楠田 駿
(72)【発明者】
【氏名】竹口 直輝
(72)【発明者】
【氏名】鶴岡 隼典
(72)【発明者】
【氏名】高村 裕輔
(72)【発明者】
【氏名】城戸 大志
(72)【発明者】
【氏名】関 圭介
【合議体】
【審判長】吉田 美彦
【審判官】須田 勝巳
【審判官】山崎 慎一
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-210597(JP,A)
【文献】特開2006-148519(JP,A)
【文献】特開2011-019004(JP,A)
【文献】実開昭59-099523(JP,U)
【文献】特開平8-182196(JP,A)
【文献】特開2014-187811(JP,A)
【文献】特開2018-129156(JP,A)
【文献】特開2008-004906(JP,A)
【文献】特開平8-130121(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/00-7/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の電源端子と、
前記一対の電源端子から入力する交流電圧を直流電圧に変換する変換回路と、
前記一対の電源端子と前記変換回路の間に設けられたフィルタ回路と、
前記フィルタ回路が実装されるプリント配線板と、
を備え、
前記フィルタ回路は、それぞれのインダクタンスが等しい2個のチョークコイルを有し、
前記2個のチョークコイルはそれぞれ、ノンシールドタイプ(開磁路型)で、ラジアルリードタイプのドラム形インダクタであり、かつ、前記一対の電源端子から前記変換回路に流れる電流の経路に挿入され、
前記2個のチョークコイルは、前記電流が流れるときに生じる磁束が互いに逆向きになるように構成されており、
前記プリント配線板の部品面において、前記2個のチョークコイルは、前記チョークコイルの外径よりも短い距離だけ近付けて実装されている、
電源装置。
【請求項2】
前記2個のチョークコイルは、前記一対の電源端子のうちの一方の電源端子から前記変換回路に流れる電流の経路に挿入されている、
請求項1記載の電源装置。
【請求項3】
前記一対の電源端子は、第1の電源端子と第2の電源端子からなり、
前記2個のチョークコイルは、
前記第1の電源端子から前記変換回路に流れる電流の経路に挿入される第1のチョークコイルと、
前記変換回路から前記第2の電源端子に流れる電流の経路に挿入される第2のチョークコイルとを有する、
請求項1記載の電源装置。
【請求項4】
前記2個のチョークコイルは、互いに電気的に直列接続されている、
請求項2記載の電源装置。
【請求項5】
前記2個のチョークコイルは、互いに電気的に並列接続されている、
請求項2記載の電源装置。
【請求項6】
前記一対の電源端子から入力する交流電圧を整流する整流回路を備え、
前記2個のチョークコイルはそれぞれ、前記整流回路から前記変換回路に流れる電流の経路に挿入されている、
請求項1-5のいずれか1項に記載の電源装置。
【請求項7】
前記変換回路を制御する制御回路を備え、
前記制御回路は、前記一対の電源端子に入力される位相制御された前記交流電圧の導通角を計測し、前記導通角に応じて前記変換回路の出力を調整する、
請求項1-6のいずれか1項に記載の電源装置。
【請求項8】
前記プリント配線板を収容する筐体を備え、
前記筐体は、強磁性体の金属で形成されている、
請求項7記載の電源装置。
【請求項9】
請求項1-8のいずれかの電源装置と、
前記電源装置から供給される直流電力によって点灯する光源と、
を有する、
照明装置。
【請求項10】
前記変換回路は、スイッチングコンバータ回路を有する、
請求項9記載の照明装置。
【請求項11】
請求項9又は10の照明装置と、
少なくとも前記光源を支持する器具本体と、
を有する、
照明器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電源装置、照明装置及び照明器具に関する。より詳細には、本開示は、フィルタ回路を有する電源装置、当該電源装置と負荷である光源を有する照明装置及び当該照明装置を有する照明器具に関する。
【背景技術】
【0002】
電源装置の従来例として、特許文献1記載のハロゲン灯点灯装置を例示する。特許文献1記載のハロゲン灯点灯装置は、ノイズ除去装置と、整流回路と、インバータ回路とを有する。ノイズ除去装置は、アクロスコンデンサと、ノーマルモードチョークと、コモンモードチョークとを有する。アクロスコンデンサは、一対の電圧入力端子を接続する。ノーマルモードチョークは、一方の電圧入力端子に一端を接続する。コモンモードチョークは、互いに磁気結合した第一のインダクタと第二のインダクタとを有する。第一のインダクタは、ノーマルモードチョークの他端と電圧出力端子を接続する。第二のインダクタは、一対の電圧入力端子を接続する。
【0003】
ノイズ除去装置は、商用電源からの電源ラインを通して高周波ノイズがハロゲン灯点灯装置の内部に入るのを防ぐとともに、ハロゲン灯点灯装置が発生した高周波ノイズが電源ラインを通して外部に出るのを防いでいる。
【0004】
なお、特許文献1記載のハロゲン灯点灯装置では、位相制御調光装置によって位相制御された交流電圧が入力されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2008-210597号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、位相制御された交流電圧がハロゲン灯点灯装置(電源装置)に入力される場合、ノイズ除去装置のノーマルモードチョークコイルに急しゅんな電流が流れることになる。その結果、ノーマルモードチョークコイルが振動して異音(騒音)が発生することがある。
【0007】
本開示の目的は、チョークコイルの振動に起因した騒音の抑制を図ることができる電源装置、照明装置及び照明器具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一態様に係る電源装置は、一対の電源端子と、前記一対の電源端子から入力する交流電圧を直流電圧に変換する変換回路と、前記一対の電源端子と前記変換回路の間に設けられたフィルタ回路と、前記フィルタ回路が実装されるプリント配線板とを備えている。前記フィルタ回路は、それぞれのインダクタンスが等しい2個のチョークコイルを有している。前記2個のチョークコイルはそれぞれ、ノンシールドタイプ(開磁路型)で、ラジアルリードタイプのドラム形インダクタであり、かつ、前記一対の電源端子から前記変換回路に流れる電流の経路に挿入されている。前記2個のチョークコイルは、前記電流が流れるときに生じる磁束が互いに逆向きになるように構成されている。前記プリント配線板の部品面において、前記2個のチョークコイルは、前記チョークコイルの外径よりも短い距離だけ近付けて実装されている。
【0009】
本開示の一態様に係る照明装置は、前記電源装置と、前記電源装置から供給される直流電力によって点灯する光源とを有する。
【0010】
本開示の一態様に係る照明器具は、前記照明装置と、少なくとも前記光源を支持する器具本体とを有する。
【発明の効果】
【0011】
本開示の電源装置、照明装置及び照明器具は、チョークコイルの振動に起因した騒音の抑制を図ることができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本開示の実施形態に係る電源装置及び照明装置の回路構成図である。
図2図2は、同上における電源装置のプリント配線板の一部省略した正面図である。
図3図3は、本開示の実施形態に係る照明器具の斜視図である。
図4図4Aは、同上の電源装置の比較例における騒音の測定結果を示すグラフである。図4Bは、同上の電源装置における騒音の測定結果を示すグラフである。
図5図5は、同上の電源装置の変形例1を示す一部省略した回路構成図である。
図6図6は、同上の電源装置の変形例2を示す一部省略した回路構成図である。
図7図7は、同上の電源装置の変形例3を示す一部省略した回路構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本開示の実施形態に係る電源装置、照明装置及び照明器具について図面を参照して詳細に説明する。ただし、下記の実施形態において説明する各図は模式的な図であり、各構成要素の大きさ及び厚さのそれぞれの比が必ずしも実際の寸法比を反映しているとは限らない。なお、以下の実施形態で説明する構成は本開示の一例にすぎない。本開示は、以下の実施形態に限定されず、本開示の効果を奏することができれば、設計等に応じて種々の変更が可能である。
【0014】
(1.実施形態に係る照明装置の構成)
実施形態に係る照明装置3(以下、照明装置3と略す。)は、図1に示すように、光源であるLED(Light Emitting Diode)2と、直流電力を供給してLED2を点灯させる電源装置1(実施形態に係る電源装置1)とを備えている。
【0015】
LED2は、例えば、チップオンボード型の照明用白色LEDである。ただし、LED2は、パッケージ型の照明用白色LEDであっても構わない。また、照明装置3は、複数個のLED2を備えてもよい。複数個のLED2は、電気的に直列接続されるか、あるいは電気的に直並列接続されることが好ましい。なお、光源は、LED2以外の固体光源、例えば、有機エレクトロルミネッセンス素子などであってもよい。
【0016】
(2.実施形態に係る電源装置の構成)
実施形態に係る電源装置1(以下、電源装置1と略す。)は、図1に示すように、一対の電源端子10と、変換回路11と、フィルタ回路12と、整流回路13と、制御回路15と、一対の出力端子とを備えている。
【0017】
一対の電源端子10は、第1の電源端子10Aと第2の電源端子10Bからなる。第1の電源端子10Aは、調光器9を介して交流電源8の正極と電気的に接続されている。第2の電源端子10Bは、交流電源8の負極と電気的に接続されている。
【0018】
調光器9は、例えば、双方向三端子サイリスタ(トライアックとも呼ばれる。)を用いて交流電源8から電源装置1に供給される交流電圧を位相制御する。調光器9は、例えば、回転式の操作ハンドルを有し、操作ハンドルの基準位置からの回転角に応じた位相角で交流電圧を位相制御する。あるいは、調光器9は、スライド式の操作ハンドルを有し、操作ハンドルの基準位置からの移動距離に応じた位相角で交流電圧を位相制御してもよい。操作ハンドルの回転角(例えば、0°から300°までの任意の角度)又は移動距離と、LED2の調光レベルとが一対一に対応付けられている。なお、調光レベルは、LED2に定格電流を流したときの光量を100%としたときの、LED2に流す電流の比率を表している。
【0019】
一対の出力端子は、第1の出力端子14Aと第2の出力端子14Bからなる。第1の出力端子14Aは、LED2のアノードと電気的に接続されている。第2の出力端子14Bは、LED2のカソードと電気的に接続されている。
【0020】
フィルタ回路12は、一つのコンデンサC1と二つのチョークコイル(第1のチョークコイルL1と第2のチョークコイルL2)を有している。コンデンサC1は、Xコンデンサとも呼ばれる。コンデンサC1は、第1の電源端子10Aと第2の電源端子10Bをバイパスすることでノーマルモード(ディファレンシャルモード)のノイズを抑制することができる。第1のチョークコイルL1の第1端(巻き始め)が第1の電源端子10Aと電気的に接続され、第1のチョークコイルL1の第2端(巻き終わり)と第2のチョークコイルL2の第2端(巻き終わり)が電気的に接続されている。つまり、第1のチョークコイルL1と第2のチョークコイルL2は、第1の電源端子10Aに対して電気的に直列接続されている。これら二つのチョークコイルは、ノーマルモードのノイズを抑制することができる。
【0021】
整流回路13は、ダイオードブリッジからなる。整流回路13の正極の交流入力端子は、第2のチョークコイルL2の第1端(巻き始め)と電気的に接続されている。整流回路13の負極の交流入力端子は、第2の電源端子10Bと電気的に接続されている。整流回路13の一対の脈流出力端子は、コンデンサC2と電気的に並列接続されている。
【0022】
変換回路11は、フライバックコンバータ回路などのスイッチングコンバータ回路を有している。変換回路11は、整流回路13の一対の脈流出力端子に対して、コンデンサC2と電気的に並列接続されており、整流回路13で全波整流された脈流電圧を直流電圧に変換する。変換回路11は、第1の出力端子14A及び第2の出力端子14Bを介してLED2に直流電圧を印加し、かつ、LED2に電流(順方向電流)を流してLED2を点灯させる。ただし、変換回路11は、フライバックコンバータ回路以外のスイッチングコンバータ回路であっても構わない。
【0023】
制御回路15は、変換回路11(スイッチングコンバータ回路)が備えている半導体スイッチング素子をスイッチングする。なお、制御回路15は、半導体スイッチング素子をPWM(Pulse Width Modulation)制御することによって、変換回路11の出力電流(LED2に流れる順方向電流)を目標値に一致させる。さらに、制御回路15は、調光器9よって位相制御された交流電圧の導通角を計測し、計測した導通角に応じて出力電流の目標値を変更することにより、LED2を調光する。
【0024】
ところで、電源装置1は、電源端子10、変換回路11、フィルタ回路12、整流回路13、一対の出力端子及び制御回路15が実装されるプリント配線板16を備えている(図2参照)。
【0025】
プリント配線板16は、長方形の平板状に形成されている。プリント配線板16の表面(部品面160)に、第1のチョークコイルL1及び第2のチョークコイルL2を含む挿入部品が実装されている。一方、プリント配線板16の裏面(はんだ面)にプリント配線が形成されている。なお、プリント配線板16のはんだ面には、制御回路15、半導体スイッチング素子などの表面実装部品が実装される。
【0026】
プリント配線板16の部品面160において、プリント配線板16の長手方向の端部に、電源端子10、第1のチョークコイルL1及び第2のチョークコイルL2が実装されている(図2参照)。なお、電源端子10は、速結式の端子台からなる。
【0027】
第1のチョークコイルL1及び第2のチョークコイルL2はそれぞれ、いわゆるラジアルリードタイプのドラム形インダクタである。ラジアルリードタイプのドラム形インダクタは、ドラム形磁心に巻線が巻き回され、かつ、円柱形状のカバーで覆われており、円柱の底面に相当する部分から2本のリードが突出している。また、第1のチョークコイルL1及び第2のチョークコイルL2はそれぞれ、ノンシールドタイプ(開磁路型)であるため、漏れ磁束を生じる。なお、第1のチョークコイルL1と第2のチョークコイルL2は、それぞれ同一メーカーの同一品番及び同一特性のインダクタであって、それぞれのインダクタンス値、外径、高さが等しいことが好ましい。
【0028】
第1のチョークコイルL1及び第2のチョークコイルL2はそれぞれ、ドラム形磁心の軸方向をプリント配線板16の部品面160の法線方向(図2における紙面と垂直な方向)に略一致させるように部品面160に実装されている。ただし、第1のチョークコイルL1と第2のチョークコイルL2は、それぞれの外径よりも短い距離だけ近付けて、プリント配線板16の部品面160に実装されている(図2参照)。
【0029】
電源装置1は、プリント配線板16を収容する筐体17を備えている(図3参照)。筐体17は、強磁性体の金属(例えば、ステンレス鋼及び亜鉛鋼など)の板材によって直方体状に形成されている。そして、筐体17の内部にプリント配線板16が収容される。筐体17の長手方向の一端の側面から電気ケーブル18が引き出されている。なお、電気ケーブル18を構成する2本の電線は、電源装置1の第1の出力端子14A及び第2の出力端子14Bと1本ずつ電気的に接続されている。
【0030】
(3.実施形態に係る照明器具の構成)
実施形態に係る照明器具4(以下、照明器具4と略す。)は、図3に示すように、器具本体40、電源装置1、透光カバー41、枠42及び一対の取付ばね43を備えている。
【0031】
器具本体40は、円筒形の本体部400と、円すい台形状の反射板401とを有している。本体部400内にLED2が収容されている。LED2から放射される光は、開放された本体部400の下面から本体部400の外に出射する。ただし、本体部400の下面は透光カバー41で覆われている。透光カバー41は、アクリル樹脂などの透光性を有する材料で円筒形状に形成されている。なお、透光カバー41は光拡散性を有することが好ましい。しかして、LED2から放射される光は、透光カバー41で拡散されて照明空間に照射される。
【0032】
枠42は、亜鉛鋼板などの金属材料で円環状に形成されている。枠42は、反射板401の先端(下端)に一体に取り付けられる。
【0033】
一対の取付ばね43はそれぞれ、例えば、ステンレス鋼板によって湾曲した帯状に形成されている。各取付ばね43の長手方向の一端が器具本体40の側面に固定されている。
【0034】
照明器具4は、屋内の天井に埋め込むように設置される。すなわち、天井に設けられた円形の埋込穴に器具本体40及び一対の取付ばね43が挿入され、一対の取付ばね43と枠42によって天井(天井材)を挟むことで器具本体40が天井に取り付けられる。なお、電源装置1は、埋込穴を通して天井裏に配置される。
【0035】
(4.電源装置の特徴)
ところで、従来技術で説明したチョークコイル(インダクタ)の音鳴き(騒音)は、チョークコイルに、人間の可聴周波数範囲(約20Hzから20kHzの範囲)の振動が生じることによって発生すると考えられる。そして、開磁路型のチョークコイルが振動する要因として、磁心の磁歪(磁気歪み)作用及び漏れ磁束による巻線の振動がある。また、チョークコイルの振動による音響ノイズが増幅される要因として、他の部品との接触及び漏れ磁束による周辺の磁性体への作用などがある。例えば、チョークコイルを実装したプリント配線板がチョークコイルの振動に起因して振動したり、プリント配線板を収容する金属製の筐体に漏れ磁束が作用して筐体が振動することによって音響ノイズが増幅される可能性がある。
【0036】
また、電源装置1(及び照明装置3)では、交流電源8から供給される交流電圧が調光器9よって位相制御された場合、交流電圧の周波数(50Hz又は60Hz)の2倍の周波数で急激な電圧変化が生じる。そのため、フィルタ回路12を構成するチョークコイルが100Hz又は120Hzの周波数及びそれらの高調波で振動して音響ノイズを発する可能性が高くなる。
【0037】
しかして、チョークコイルの音鳴きに起因した電源装置1の音響ノイズを抑制するためには、チョークコイル自体の振動を抑制することが効果的である。そのため、実施形態に係る電源装置1は、フィルタ回路12を構成するチョークコイルを複数個(第1のチョークコイルL1と第2のチョークコイルL2)とし、これら複数個のチョークコイルに生じる磁束を互いに弱め合うように構成している。
【0038】
すなわち、電源装置1では、第1のチョークコイルL1と第2のチョークコイルL2が、逆極性となるように電気的に直列接続されている。そのため、第1のチョークコイルL1と第2のチョークコイルL2の間では、互いの磁束が互いに逆向きになる。その結果、電源装置1は、フィルタ回路が一つのチョークコイルしか有していない場合に比べて、複数個のチョークコイル(第1のチョークコイルL1及び第2のチョークコイルL2)の振動を抑制し、音響ノイズ(騒音)の抑制を図ることができる。さらに、電源装置1では、第1のチョークコイルL1と第2のチョークコイルL2の間で互いの磁束を弱め合っているので、プリント配線板16を収容した筐体17を通過する漏れ磁束を低減することができる。その結果、電源装置1は、筐体17の振動による騒音を抑制することができる。
【0039】
ここで、プリント配線板16の部品面160において、第1のチョークコイルL1及び第2のチョークコイルL2は、各チョークコイルの外径よりも短い距離だけ近付けて実装されている(図2参照)。つまり、第1のチョークコイルL1と第2のチョークコイルL2の距離を近付けるほど、それぞれの磁心及び巻線を通過する磁束が減少して第1のチョークコイルL1と第2のチョークコイルL2の振動を抑制することができる。ただし、第1のチョークコイルL1と第2のチョークコイルL2を接触させてしまうと互いの振動が増幅されてしまうおそれがあるので、第1のチョークコイルL1と第2のチョークコイルL2を接触させることは避けなければならない。
【0040】
(5.実施形態の試験結果)
次に、実施形態に係る電源装置1(照明装置3)と比較例の電源装置のそれぞれの騒音を計測した試験の試験結果について説明する。比較例の電源装置は、フィルタ回路を一つのコンデンサC1と一つのチョークコイルで構成している点が実施形態に係る電源装置1と相違する。ちなみに、実施形態に係る電源装置1において、第1のチョークコイルL1及び第2のチョークコイルL2は、直径が8mm、インダクタンス値が1.0mHのインダクタで構成されている。一方、比較例の電源装置において、チョークコイルは、直径が10mm、インダクタンス値が3.3mHのインダクタで構成されている。
【0041】
実施形態に係る電源装置1及び比較例の電源装置について、位相制御における双方向三端子サイリスタの点弧角(位相角ともいう。)をπ/2(交流電圧がピーク値となる位相)に制御した交流電圧を入力したときの騒音の音圧スペクトルレベル(単位は[dB])を計測する試験を行った。また、実施形態に係る電源装置1及び比較例の電源装置を停止した状態の騒音(暗騒音)の音圧スペクトルレベルも計測した。
【0042】
図4Aにおける折れ線α2は、比較例の電源装置の計測結果(音圧スペクトルレベル)を示し、図4Bにおける折れ線α1は、実施形態に係る電源装置1の計測結果(音圧スペクトルレベル)を示している。図4A及び図4Bにおける折れ線β1は、暗騒音の計測結果(音圧スペクトルレベル)を示している。また、図4Aにおける符号AV2は、比較例の電源装置のA特性音圧レベルを示し、図4Bにおける符号AV1は、実施形態に係る電源装置1のA特性音圧レベルを示している。なお、「A特性音圧レベル」は、各周波数の音圧スペクトルレベルをA特性で補正した後の総和(単位は[dB(A)])である。
【0043】
図4A及び図4Bに示す測定結果から明らかなように、実施形態に係る電源装置1の騒音(音響ノイズ)は、比較例の電源装置の騒音(音響ノイズ)に比べて、7~8dB(A)程度減少している(AV1=11.8dB(A)、AV2=19.3dB(A))。
【0044】
(6.電源装置の変形例)
次に、実施形態に係る電源装置1の幾つかの変形例について、図面を参照して簡単に説明する。なお、以下に説明する各変形例の電源装置1は、フィルタ回路12の構成に特徴があり、フィルタ回路12以外の構成については実施形態に係る電源装置1と共通である。したがって、実施形態に係る電源装置1と共通の構成については、適宜図示及び説明を省略する。
【0045】
(6-1.変形例1の電源装置の構成)
変形例1の電源装置1におけるフィルタ回路12は、図5に示すように、第2のチョークコイルL2の接続位置が異なる。すなわち、第2のチョークコイルL2の第1端(巻き始め)が第2の電源端子10Bと電気的に接続され、第2のチョークコイルL2の第2端(巻き終わり)が整流回路13の負極の交流入力端子と電気的に接続されている。また、第1のチョークコイルL1の第2端(巻き終わり)が整流回路13の正極の交流入力端子と電気的に接続されている。つまり、第1のチョークコイルL1は、第1の電源端子10Aから変換回路11に流れる電流の経路に挿入され、第2のチョークコイルL2は、変換回路11から第2の電源端子10Bに流れる電流の経路に挿入されている。
【0046】
変形例1の電源装置1においても、第1のチョークコイルL1と第2のチョークコイルL2が、逆極性となるように電気的に直列接続されている。そのため、変形例1の電源装置1も実施形態に係る電源装置1と同様に、第1のチョークコイルL1と第2のチョークコイルL2の間で互いの磁束を弱め合い、音響ノイズ(騒音)の抑制を図ることができる。また、フィルタ回路12は、第1のチョークコイルL1と第2のチョークコイルL2を往きと戻りの電源ラインに1つずつ挿入することにより、ノーマルモードノイズだけでなく、コモンモードノイズに対してもフィルタ効果を生じるという利点がある。
【0047】
(6-2.変形例2の電源装置の構成)
変形例2の電源装置1におけるフィルタ回路12は、図6に示すように、第2のチョークコイルL2の接続位置が異なる。すなわち、第2のチョークコイルL2の第1端(巻き始め)が第1のチョークコイルL1の第2端(巻き終わり)と電気的に接続され、第2のチョークコイルL2の第2端(巻き終わり)が第1のチョークコイルL1の第1端(巻き始め)と電気的に接続されている。つまり、第1のチョークコイルL1と第2のチョークコイルL2が電気的に並列接続されている。
【0048】
変形例2の電源装置1においても、第1のチョークコイルL1と第2のチョークコイルL2が、逆極性となるように電気的に接続されている。そのため、変形例2の電源装置1も実施形態に係る電源装置1と同様に、第1のチョークコイルL1と第2のチョークコイルL2の間で互いの磁束を弱め合い、音響ノイズ(騒音)の抑制を図ることができる。また、変形例2の電源装置1では、実施形態及び変形例1の電源装置1と比較して、第1のチョークコイルL1及び第2のチョークコイルL2に流れる電流が半分に減る。そのため、変形例2の電源装置1は、実施形態及び変形例1の電源装置1に比べて大きな電流を流すことが必要な用途に適している。
【0049】
(6-3.変形例3の電源装置の構成)
変形例3の電源装置1におけるフィルタ回路12は、図7に示すように、第1のチョークコイルL1及び第2のチョークコイルL2の接続位置が異なる。すなわち、第1のチョークコイルL1の第1端(巻き始め)が整流回路13の正極の脈流出力端子と電気的に接続され、第1のチョークコイルL1の第2端(巻き終わり)が第2のチョークコイルL2の第2端(巻き終わり)と電気的に接続されている。第2のチョークコイルL2の第1端(巻き始め)がコンデンサC2の高電位側の一端と電気的に接続されている。つまり、第1のチョークコイルL1と第2のチョークコイルL2は、整流回路13から変換回路11に流れる電流の経路に挿入されている。
【0050】
変形例3の電源装置1においても、第1のチョークコイルL1と第2のチョークコイルL2が、逆極性となるように電気的に直列接続されている。そのため、変形例3の電源装置1も実施形態に係る電源装置1と同様に、第1のチョークコイルL1と第2のチョークコイルL2の間で互いの磁束を弱め合い、音響ノイズ(騒音)の抑制を図ることができる。また、第1のチョークコイルL1及び第2のチョークコイルL2に流れる電流は、整流回路13で整流されているため、整流前の電流に比べて、ピークツーピーク(Peak to Peak)値がおよそ半分になる。そのため、変形例3の電源装置1は、音響ノイズの更なる低減を図ることができる。さらに、変形例3の電源装置1は、第1のチョークコイルL1及び第2のチョークコイルL2の磁心(ドラム形磁心)におけるヒステリシス損失の低減を図ることもできる。
【0051】
なお、実施形態に係る電源装置1及び変形例1-3の電源装置1は、光源(LED2)を負荷としているが、光源以外の負荷に電力を供給しても構わない。また、フィルタ回路12を構成するチョークコイルの個数は2個に限定されない。すなわち、フィルタ回路12は、3個以上のチョークコイルを有していても構わない。
【0052】
(7.まとめ)
本開示の第1の態様に係る電源装置(1)は、一対の電源端子(10)と、一対の電源端子(10)から入力する交流電圧を直流電圧に変換する変換回路(11)とを備えている。第1の態様に係る電源装置(1)は、一対の電源端子(10)と変換回路(11)の間に設けられたフィルタ回路(12)を備えている。フィルタ回路(12)は、複数個のチョークコイル(第1のチョークコイルL1、第2のチョークコイルL2)を有している。複数個のチョークコイルはそれぞれ、一対の電源端子(10)から変換回路(11)に流れる電流の経路に挿入されている。複数個のチョークコイルは、電流が流れるときに生じる磁束が互いに逆向きになるように構成されている。
【0053】
第1の態様に係る電源装置(1)は、フィルタ回路(12)が一つのチョークコイルしか有していない場合に比べて、複数個のチョークコイルの振動を抑制し、チョークコイルの振動に起因した騒音の抑制を図ることができる。
【0054】
本開示の第2の態様に係る電源装置(1)は、第1の態様との組合せにより実現され得る。第2の態様に係る電源装置(1)において、複数個のチョークコイルは、一対の電源端子(10)のうちの一方の電源端子(第1の電源端子10A)から変換回路(11)に流れる電流の経路に挿入されていることが好ましい。
【0055】
第2の態様に係る電源装置(1)は、複数個のチョークコイルをプリント配線板に実装する場合に、複数個のチョークコイル同士の距離を狭めやすい。その結果、第2の態様に係る電源装置(1)は、チョークコイルの振動に起因した騒音の更なる抑制を図ることができる。
【0056】
本開示の第3の態様に係る電源装置(1)は、第1の態様との組合せにより実現され得る。第3の態様に係る電源装置(1)において、一対の電源端子(10)は、第1の電源端子(10A)と第2の電源端子(10B)からなることが好ましい。複数個のチョークコイルは、第1のチョークコイル(L1)と第2のチョークコイル(L2)を有することが好ましい。第1のチョークコイル(L1)は、第1の電源端子(10A)から変換回路(11)に流れる電流の経路に挿入されることが好ましい。第2のチョークコイル(L2)は、変換回路(11)から第2の電源端子(10B)に流れる電流の経路に挿入されることが好ましい。
【0057】
第3の態様に係る電源装置(1)は、第1のチョークコイル(L1)と第2のチョークコイル(L2)を異なる経路に挿入することにより、ノーマルモードノイズの低減を図ることができる。
【0058】
本開示の第4の態様に係る電源装置(1)は、第2の態様との組合せにより実現され得る。第4の態様に係る電源装置(1)において、複数個のチョークコイルは、互いに電気的に直列接続されていることが好ましい。
【0059】
第4の態様に係る電源装置(1)は、複数個のチョークコイルをプリント配線板に実装する場合に、複数個のチョークコイル同士の距離を更に狭めやすい。
【0060】
本開示の第5の態様に係る電源装置(1)は、第2の態様との組合せにより実現され得る。第5の態様に係る電源装置(1)において、複数個のチョークコイルは、互いに電気的に並列接続されていることが好ましい。
【0061】
第5の態様に係る電源装置(1)は、複数個のチョークコイルのそれぞれに流れる電流が減少するため、複数個のチョークコイルの振動を更に抑制することができる。
【0062】
本開示の第6の態様に係る電源装置(1)は、第1-第5の態様のいずれかとの組合せにより実現され得る。第6の態様に係る電源装置(1)は、一対の電源端子(10)から入力する交流電圧を整流する整流回路(13)を備えることが好ましい。複数個のチョークコイルはそれぞれ、整流回路(13)から変換回路(11)に流れる電流の経路に挿入されていることが好ましい。
【0063】
第6の態様に係る電源装置(1)は、複数個のチョークコイルの振動を抑制し、チョークコイルの振動に起因した騒音の抑制を図ることができる。
【0064】
本開示の第7の態様に係る電源装置(1)は、第1-第6の態様のいずれかとの組合せにより実現され得る。第7の態様に係る電源装置(1)において、フィルタ回路(12)は、それぞれのインダクタンスが等しい2個のチョークコイル(第1のチョークコイルL1、第2のチョークコイルL2)を有することが好ましい。
【0065】
第7の態様に係る電源装置(1)は、2個のチョークコイルのインダクタンスが等しいので、これら2個のチョークコイルの振動を抑制させやすい。
【0066】
本開示の第8の態様に係る電源装置(1)は、第7の態様との組合せにより実現され得る。第8の態様に係る電源装置(1)は、フィルタ回路(12)が実装されるプリント配線板(16)を備えることが好ましい。プリント配線板(16)の部品面(160)において、2個のチョークコイルは、チョークコイルの外径よりも短い距離だけ近付けて実装されていることが好ましい。
【0067】
第8の態様に係る電源装置(1)は、2個のチョークコイルの距離を近付けることでチョークコイルの振動を更に抑制することができる。
【0068】
本開示の第9の態様に係る電源装置得(1)は、第1-第8の態様のいずれかとの組合せにより実現され得る。第9の態様に係る電源装置(1)は、変換回路(11)を制御する制御回路(15)を備えることが好ましい。制御回路(15)は、一対の電源端子(10)に入力される位相制御された交流電圧の導通角を計測し、導通角に応じて変換回路(11)の出力を調整することが好ましい。
【0069】
第9の態様に係る電源装置(1)は、位相制御された交流電圧が入力される場合において、チョークコイルの振動に起因した騒音の更なる抑制を図ることができる。
【0070】
本開示の第10の態様に係る電源装置(1)は、第9の態様との組合せにより実現され得る。第10の態様に係る電源装置(1)は、プリント配線板(16)を収容する筐体(17)を備えることが好ましい。筐体(17)は、強磁性体の金属で形成されていることが好ましい。
【0071】
第10の態様に係る電源装置(1)は、筐体(17)の製造コストの削減を図りつつ、チョークコイルの振動に起因した騒音の抑制を図ることができる。
【0072】
本開示の第11の態様に係る照明装置(3)は、第1-第10の態様のいずれかの電源装置(1)と、電源装置(1)から供給される直流電力によって点灯する光源(LED2)とを有する。
【0073】
第11の態様に係る照明装置(3)は、複数個のチョークコイルの振動を抑制し、チョークコイルの振動に起因した騒音の抑制を図ることができる。
【0074】
本開示の第12の態様に係る照明装置(3)は、第11の態様との組合せにより実現され得る。第11の態様に係る照明装置(3)において、変換回路(11)は、スイッチングコンバータ回路を有することが好ましい。
【0075】
第12の態様に係る照明装置(3)は、変換回路(11)で発生するノイズをフィルタ回路(12)で低減させることができる。
【0076】
本開示の第13の態様に係る照明器具(4)は、第11又は第12の態様の照明装置(3)と、少なくとも光源を支持する器具本体(40)とを有する。
【0077】
第13の態様に係る照明器具(4)は、複数個のチョークコイルの振動を抑制し、チョークコイルの振動に起因した騒音の抑制を図ることができる。
【符号の説明】
【0078】
1 電源装置
2 LED(光源)
3 照明装置
4 照明器具
10 電源端子
10A 第1の電源端子
10B 第2の電源端子
11 変換回路
12 フィルタ回路
13 整流回路
16 プリント配線板
17 筐体
40 器具本体
L1 第1のチョークコイル(チョークコイル)
L2 第2のチョークコイル(チョークコイル)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7