(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-07
(45)【発行日】2024-11-15
(54)【発明の名称】塗工液、多孔質フィルム、およびリチウムイオン電池
(51)【国際特許分類】
H01M 50/446 20210101AFI20241108BHJP
C08J 9/40 20060101ALI20241108BHJP
H01M 50/417 20210101ALI20241108BHJP
H01M 50/429 20210101ALI20241108BHJP
H01M 50/434 20210101ALI20241108BHJP
H01M 50/437 20210101ALI20241108BHJP
H01M 50/443 20210101ALI20241108BHJP
H01M 50/457 20210101ALI20241108BHJP
【FI】
H01M50/446
C08J9/40
H01M50/417
H01M50/429
H01M50/434
H01M50/437
H01M50/443 C
H01M50/443 M
H01M50/457
(21)【出願番号】P 2022556421
(86)(22)【出願日】2021-08-04
(86)【国際出願番号】 JP2021029033
(87)【国際公開番号】W WO2022079985
(87)【国際公開日】2022-04-21
【審査請求日】2023-04-18
(31)【優先権主張番号】P 2020172946
(32)【優先日】2020-10-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004215
【氏名又は名称】株式会社日本製鋼所
(73)【特許権者】
【識別番号】516309866
【氏名又は名称】ATTACCATO合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石黒 亮
(72)【発明者】
【氏名】中村 諭
(72)【発明者】
【氏名】九軒 右典
(72)【発明者】
【氏名】向井 孝志
(72)【発明者】
【氏名】池内 勇太
(72)【発明者】
【氏名】坂本 太地
(72)【発明者】
【氏名】鳥巣 慶太
(72)【発明者】
【氏名】山下 直人
【審査官】神田 和輝
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/101474(WO,A1)
【文献】特開2020-070323(JP,A)
【文献】特開2016-207272(JP,A)
【文献】国際公開第2014/136813(WO,A1)
【文献】特表2015-502627(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/446
H01M 50/443
H01M 50/434
H01M 50/437
H01M 50/429
H01M 50/417
C08J 9/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ珪酸塩と第1フィラーとを有する
リチウムイオン電池のセパレータの多孔質フィルム用の塗工液であって、
前記第1フィラーは、無機粒子よりなり、
前記アルカリ珪酸塩を前記無機粒子に対して0.05重量%以上含有
し、
前記無機粒子に対して0.05重量%以上の第2フィラーを有し、
前記第2フィラーは、セルロースのOH基が、COOH基に置換されたものである、多孔質フィルム用の塗工液。
【請求項2】
請求項1記載の塗工液において、
前記無機粒子は、ナノシリカ、マイクロシリカ、カーボンナノチューブ、タルク、アルミナ、ベーマイト、水酸化アルミニウムおよびガラス繊維から選択される材料である、多孔質フィルム用の塗工液。
【請求項3】
請求項2記載の塗工液において
、
前記第2フィラーは、以下に示すTEMPO酸化セルロースである、多孔質フィルム用の塗工液。
【化6】
【請求項4】
請求項1記載の塗工液において、
前記第2フィラーは、前記無機粒子に対して12.4重量%以下である、多孔質フィルム用の塗工液。
【請求項5】
多孔質基材と前記多孔質基材の表面に設けられた塗工膜とを有する
リチウムイオン電池のセパレータの多孔質フィルムであって、
前記塗工膜は、アルカリ珪酸塩と第1フィラーとを有し、
前記第1フィラーは、無機粒子よりなり、
前記アルカリ珪酸塩を前記無機粒子に対して0.05重量%以上含有
し、
前記塗工膜は、前記無機粒子に対して0.05重量%以上の第2フィラーを有し、
前記第2フィラーは、セルロースのOH基が、COOH基に置換されたものである、多孔質フィルム。
【請求項6】
請求項5記載の多孔質フィルムにおいて、
前記無機粒子は、ナノシリカ、カーボンナノチューブ、タルク、アルミナおよびガラス繊維から選択される材料である、多孔質フィルム。
【請求項7】
請求項6記載の多孔質フィルムにおいて
、
前記第2フィラーは、以下に示すTEMPO酸化セルロースである、多孔質フィルム。
【化7】
【請求項8】
請求項6記載の多孔質フィルムにおいて、
前記塗工膜は、A
2CO
3またはAHCO
3(A=Li,Na,K,Rb)を含む、多孔質フィルム。
【請求項9】
請求項8記載の多孔質フィルムにおいて、
前記A
2CO
3または前記AHCO
3は、
前記塗工膜に対して1重量%以上、50重量%以下である、多孔質フィルム。
【請求項10】
請求項5記載の多孔質フィルムにおいて、
前記第2フィラーは、前記無機粒子に対して12.4重量%以下である、多孔質フィルム。
【請求項11】
正極と、負極と、セパレータと、電解液とを備える、リチウムイオン電池であって、
請求項5~10のいずれか一項に記載の多孔質フィルムを前記セパレータとして有する、リチウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池のセパレータなどに用いられる多孔質フィルム用の塗工液に関し、塗工液、多孔質フィルム、およびリチウムイオン電池に利用できるものである。
【背景技術】
【0002】
二次電池の利用分野は、電子機器から自動車、大型蓄電システムなどへと展開しており、中でも、小型、軽量化が可能で、高エネルギー密度を有するリチウムイオン電池(二次電池)が注目されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、セルロースナノファイバーと熱可塑性フッ素系樹脂とを複合化したリチウムイオン電池用の電極における非水系のバインダであって、セルロースナノファイバーが、繊維径(直径)が0.002μm以上1μm以下、繊維の長さが0.5μm以上10mm以下、アスペクト比(セルロースナノファイバーの繊維長/セルロースナノファイバーの繊維径)が、2以上100000以下のセルロースであるバインダが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
リチウムイオン電池の高容量化・高出力化に伴い、より一層の安全性の向上が求められている。本発明者は、電池のセパレータなどに用いられる多孔質フィルムについての研究開発に従事しており、特性の良好な多孔質フィルムについて鋭意検討している。
【0006】
追って詳細に説明するように、電池の正極と負極との間に設けられるセパレータは、リチウムイオンが通る程度の微細孔を複数有し、この孔を通ってリチウムイオンが正極と負極の間を移動することで、充電と放電を繰り返すことができる。このセパレータは、正極と負極を分離させて、短絡を防ぐ役割を有する。また、電池の内部が何らかの原因で高温となった場合には、セパレータの微細孔が閉じることで、リチウムイオンの移動を停止し、電池機能を停止させる(シャットダウン機能)。
【0007】
このようにセパレータは、電池の安全装置の役割を担っており、安全性を向上するためには、セパレータの機械的強度や耐熱性を向上することが不可欠である。
【0008】
よって、電池特性を維持しつつ、セパレータの機械的強度や耐熱性を向上させる技術の検討が望まれる。
【0009】
その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願の一実施の形態において開示される多孔質フィルム用の塗工液は、無機粒子と、前記無機粒子に対して0.05重量%以上のアルカリ珪酸塩を含有する。
【0011】
本願の一実施の形態において開示される多孔質フィルムは、多孔質基材と前記多孔質基材の表面に設けられた塗工膜とを有し、前記塗工膜は、無機粒子と、前記無機粒子に対して0.05重量%以上のアルカリ珪酸塩を含有する。
【0012】
本願の一実施の形態において開示されるリチウムイオン電池は、正極と、負極と、セパレータと、電解液とを備える、リチウムイオン電池であって、上記多孔質フィルムを前記セパレータとして有する。
【発明の効果】
【0013】
本願の一実施の形態において開示される多孔質フィルム用の塗工液によれば、多孔質フィルムの特性を向上させることができる。
【0014】
本願の一実施の形態において開示される多孔質フィルムによれば、多孔質フィルムの特性を向上させることができる。
【0015】
本願の一実施の形態において開示されるリチウムイオン電池によれば、リチウムイオン電池の特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施の形態1の多孔質フィルムの構成を示す断面図である。
【
図2】実施の形態1の多孔質フィルムを用いたリチウムイオン電池の内部構成を模式的に示す図である。
【
図3】実施の形態1のリチウムイオン電池の構成例を模式的に示す図である。
【
図4】疎水化セルロースナノファイバー(CeNF)の分散液の調整工程を示す図である。
【
図6】バーコーターを用いた塗工液の塗布工程を示す斜視図である。
【
図18】多孔質フィルム(セパレータ)1、2、Aの突刺試験結果を示すグラフである。
【
図19】多孔質フィルム(セパレータ)1、2、Aのガーレ値を示すグラフである。
【
図22】電池1、2、A、Bの電池抵抗を示す図(グラフ)である。
【
図26】電池3、Bの電池抵抗を示す図(グラフ)である。
【
図27】実施の形態3の製造装置の構成を示す模式図である。
【
図28】グラビア塗工装置の構成を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、実施の形態を実施例や図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0018】
(実施の形態1)
以下に、本実施の形態の多孔質フィルムおよびその製造方法について説明する。本実施の形態の多孔質フィルムは、いわゆる電池のセパレータとして用いることができる。
【0019】
[構造説明]
図1は、本実施の形態の多孔質フィルムの構成を示す断面図である。
図1に示すように、本実施の形態の多孔質フィルムは、電池のセパレータSPとして用いられ、基材(多孔質基材)Sと基材Sの表面に形成された塗工膜(被覆膜)CFとを有する。塗工膜CFは、後述するように、第1フィラーとして無機粒子と、第2フィラーとしてSA化処理されたセルロース(SA化Ce、SACeと示す場合がある)と、アルカリ珪酸塩とを有する。
【0020】
図2は、本実施の形態の多孔質フィルムを用いたリチウムイオン電池の内部構成を模式的に示す図であり、
図3は、本実施の形態のリチウムイオン電池の構成例を模式的に示す図である。
図2(A)は、正極の構成を示し、
図2(B)は、負極の構成を示し、
図2(C)は、電極群の構成を示す。
図3の電池は、コイン型電池と呼ばれる。
【0021】
図2(A)に示すように、正極1は、集電体1Sおよびその上部に設けられた正極合剤層1Mよりなり、
図2(B)に示すように、負極2は、集電体2Sおよびその上部に設けられた負極合剤層2Mよりなる。そして、
図2(C)に示すように、リチウムイオン電池は、正極1と、負極2と、これらの間に配置されたセパレータSPとを有し、正極1と負極2は、それぞれ正極合剤層1Mと負極合剤層2MとがセパレータSPと接するように対向配置されている。上記正極1、負極2およびセパレータSPの積層体(電極群ともいう)は、電解液とともに電池容器(ラミネートフィルムよりなる袋、電池缶など)に収容され、正極端子(例えば、集電体1Sの一部または集電体1Sと電気的に接続された導電部)および負極端子(例えば、集電体2Sの一部または集電体2Sと電気的に接続された導電部)が露出した状態で封止される。
【0022】
図3に示す電池(コイン型電池)は、缶6を有しており、この缶6には、前述した正極1および負極2がセパレータSPを介して積層された電極群が収容されている。電極群の下端面の正極1の集電体1Sは、缶(電池缶)6上に搭載されている。電極群の上端面の負極2の集電体2Sは、蓋(電池キャップ)7の裏面側に配置されている。なお、ここでは、蓋(電池キャップ)7と負極2の集電体2Sとの間にワッシャー8が設けられ、これらは電気的に接続されている。また、缶6と蓋7との重なり部には耐熱性のガスケット(固定用シール材)が設けられ、缶6の内部に注入されている電解液(図示せず)等が封止されている。なお、ここでは、コイン型の電池を説明したが、電池の構成に制限はなく、例えば、円筒型の電池やラミネート型の電池とすることができる。
【0023】
このように、リチウムイオン電池は、正極1、負極2、セパレータSPおよび電解液を有しており、正極1と負極2との間にセパレータSPが配置されている。セパレータSPは、微細孔を多数有する。例えば、充電時、即ち、正極(缶6の底部)と負極(蓋7の上部)との間に充電器を接続すると、正極活物質内に挿入されているリチウムイオンが脱離し、電解液中に放出される。電解液中に放出されたリチウムイオンは、電解液中を移動し、セパレータの微細孔を通過して、負極に到達する。この負極に到達したリチウムイオンは、負極を構成する負極活物質内に挿入される。
【0024】
このように、
図1に示す基材Sに設けられた微細孔(図示せず)を介してリチウムイオンが正極と負極の間を行き来することで、充電と放電を繰り返すことができる。
【0025】
ここで、本実施の形態の多孔質フィルムは、
図1に示すように、微細孔が多数設けられた基材Sの表面に塗工膜CFが設けられている。この塗工膜CFは、第1フィラーとして無機粒子と、第2フィラーとしてSA化処理されたセルロース(SA化Ceと示す場合がある)と、アルカリ珪酸塩とを有する。SA化処理とは、セルロースの親水基の一部を、疎水化する処理である。
【0026】
このように、本実施の形態においては、基材Sの表面に上記塗工膜を設けることで、多孔質フィルム(セパレータ)の機械的強度や耐熱性を向上させることができる。塗工膜CFは、基材Sの微細孔をすべて覆うようには形成されておらず、塗工膜CFが形成された基材S(多孔質フィルム、セパレータ)のガーレ値(透気度、[sec/100cc])は、200以上、3000以下であり、通気性は確保されている。
【0027】
特に、塗工液に、アルカリ珪酸塩を添加することで、電池の電気特性(出力特性、サイクル特性(寿命))を向上させつつ、多孔質フィルム(セパレータ)の機械的強度や耐熱性を向上させることができる。
【0028】
[製法説明]
以下に本実施の形態の多孔質フィルムの製造工程を説明するとともに、多孔質フィルムや塗工膜の構成をより明確にする。
【0029】
本実施の形態の多孔質フィルムの製造工程は、以下の工程を有する。
【0030】
<<1:基材(塗工前の多孔質フィルム)の準備工程>>
基材Sとしては、特に限定されずに使用でき、特に、通常、リチウムイオン電池用の多孔質フィルムに用いられる基材が好ましく、微多孔質膜を用いることができる。例えば、市販のポリエチレン製微多孔質膜を用いることができる。
【0031】
<<2:塗工液の調製工程>>
2-1)第1フィラーの準備
本実施の形態においては、第1フィラーとして、無機粒子(無機フィラー)を用いる。
【0032】
無機粒子としては、特に限定されるものではない。たとえば、アルミナ、ベーマイト、水酸化アルミニウム、ナノシリカ、マイクロシリカ、カーボンナノチューブ、タルク、ガラス繊維などを用いることができる。特に、電解液との化学反応が生じにくく、物性面や製造技術が安定しているという観点からアルミナを用いることが好ましい。アルミナの粒子形状に制限はなく、例えば、球体や扁平形状のものを用いることができる。アルミナの平均粒径(直径)としては、500nm以上1000nm以下のものを用いることが好ましい。平均粒径は、レーザ回折散乱法により求めることができる。また、アルミナ粒子としては、異なる平均粒径のアルミナを混合して用いてもよい。また、アルミナとしては、高純度のものを用い、不純物元素(例えば、Si、Fe、Na、Mg、Cu)が含まれる場合であっても、Siは400ppm以下、Feは300ppm以下、Naは200ppm以下、Mgは100ppm以下、Cuは100ppm以下とすることが好ましい。
【0033】
2-2)第2フィラーの準備
本実施の形態においては、第2フィラーとして、疎水化(SA化)されたセルロース(SA化Ceと示す場合がある)を用いる。
【0034】
(疎水化)
セルロース(Cellulose、Cell-OH、Ce)は、(C12H20O10)nで表される炭水化物である。例えば、以下の化学構造式(化1)で示される。この化学構造式中、平均繰返し数を示すnは1以上の数であり、好ましくは10~10000、より好ましくは50~2000である。
【0035】
【化1】
なお、以下の化学構造式(化2)に示すように、(C
12H
20O
10)
nで表される炭水化物の複数の水酸基の一部が水酸基を有する基(例えば、-CH
2OHのような-R-OH(Rは2価の炭化水素基を表す))と置換されたセルロースを用いてもよい。
【0036】
【化2】
前述の化学構造式(化1、化2)から分かるように、セルロースは、水酸基(親水基)を有する。これを疎水化剤(例えば、カルボン酸系化合物)を用いて疎水性処理(親油性処理)する。即ち、セルロースの水酸基(-OH)の部分を、疎水基に置換する。具体的には、セルロースの水酸基の一部をカルボン酸系化合物(R-CO-OH)によりエステル化する。別の言い方をすれば、セルロースの水酸基(-OH)の部分を、エステル結合(-O-CO-R、カルボキシル基)とする。なお、セルロースの水酸基のすべてが疎水基に置換されている必要はなく、その一部が置換されていればよい。セルロースのエステル化(疎水化)反応の一例を以下の反応式で示す。疎水化されたセルロースをSA化Ceと示す場合がある。
【0037】
【化3】
疎水化剤としては、セルロースの親水基に対して、疎水基を付与することができる組成であれば特に制限されるものではないが、例えば、カルボン酸系化合物を用いることができる。中でも、2つ以上のカルボキシル基を有する化合物、2つ以上のカルボキシル基を有する化合物の酸無水物などを使用することが好ましい。2つ以上のカルボキシル基を有する化合物の中では、2つのカルボキシル基を有する化合物(ジカルボン酸化合物)を用いることが好ましい。
【0038】
2つのカルボキシ基を有する化合物としては、プロパン二酸(マロン酸)、ブタン二酸(コハク酸)、ペンタン二酸(グルタル酸)、ヘキサン二酸(アジピン酸)、2-メチルプロパン二酸、2-メチルブタン二酸、2-メチルペンタン二酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、2-ブテン二酸(マレイン酸、フマル酸)、2-ペンテン二酸、2,4-ヘキサジエン二酸、2-メチル-2-ブテン二酸、2-メチル-2ペンテン二酸、2-メチリデンブタン二酸(イタコン酸)、ベンゼン-1,2-ジカルボン酸(フタル酸)、ベンゼン-1,3-ジカルボン酸(イソフタル酸)、ベンゼン-1,4-ジカルボン酸(テレフタル酸)、エタン二酸(シュウ酸)等のジカルボン酸化合物が挙げられる。2つのカルボキシ基を有する化合物の酸無水物としては、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水フタル酸、無水グルタル酸、無水アジピン酸、無水イタコン酸、無水ピロメリット酸、無水1,2-シクロヘキサンジカルボン酸等のジカルボン酸化合物や複数のカルボキシ基を含む化合物の酸無水物が挙げられる。2つのカルボキシ基を有する化合物の酸無水物の誘導体としては、ジメチルマレイン酸無水物、ジエチルマレイン酸無水物、ジフェニルマレイン酸無水物等の、カルボキシ基を有する化合物の酸無水物の少なくとも一部の水素原子が置換基(例えば、アルキル基、フェニル基等)で置換されたものが挙げられる。これらのうち、工業的に適用しやすく、また、ガス化しやすいことから、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水フタル酸が好ましい。
【0039】
(解繊処理)
また、解繊処理を行い、セルロースを微細化(ナノ化)してもよい。解繊処理(微細化処理)には、化学処理法や機械処理法などがある。これらを組み合わせた方法を用いてもよい。このような解繊処理(微細化処理)により、繊維長さ(L)が3nm以上、10μm以下、アスペクト比(長さL/直径D)が0.01以上、5000以下のセルロースを得ることができる。このようにセルロース繊維をナノメートルサイズまで微細化したものをセルロースナノファイバー(CeNF)という。
【0040】
上記のようなセルロースの微細化(ナノ化)は、疎水化処理の前に行ってもよく、また、疎水化処理の後に行ってもよい。
【0041】
(溶媒に分散させた疎水化CeNFの調整方法)
疎水化CeNFは、凝集を防止し、塗工液中への分散性を高めるため、溶媒に分散させた状態で用いることが好ましい。
【0042】
図4は、疎水化CeNFの分散液の調整工程を示す図である。例えば、
図4に示すようにセルロース(固体、例えば、粉状)と無水コハク酸(固体、例えば、タブレット状)を、100℃以上で混合する。例えば、加圧ニーダを用いて125℃で20分、混合する。セルロースと無水コハク酸の重量は例えば90wt%(重量%、質量%)、10wt%である。
【0043】
上記のような加熱状態での攪拌により、エステル反応が生じ、疎水化セルロースが生成する。この後、未反応の無水コハク酸を除去するため、アセトンなどで洗浄を行う。
【0044】
次いで、生成した疎水化セルロースを水系溶媒(水及び/又はアルコール類等、ここでは、水(H2O))に分散させる。
【0045】
図5は、セルロースの疎水化(疎水化Ce)を示す図である。
図5に示すように疎水化によりセルロースの水酸基(-OH)が疎水基(-COOH)に置換される。
【0046】
図5では、セルロースの水酸基(-OH)10個のうち、8個が疎水基(-COOH)に置換させた様子が示されている。
【0047】
ここで、SA化Ce中の疎水基(-COOH)の量は酸価により算出することができる。酸価とは、試料1g中に含まれる酸性成分を中和するのに要する水酸化カリウムのミリグラム数を言い、その測定は、「JIS-K0070 化学製品の酸価、けん化価、エステル価、よう素価、水酸基価及び不けん化物の試験方法」に基づいて行うことができる。例えば、酸価76.5mg/g(KOH、式量56.11)のSA化Ceには、1.36×10-3molの疎水基(-COOH)が含まれている。
【0048】
次いで、微細化処理(解繊処理、ナノ化)を行う。例えば、微細化装置(マスコロイダー、ビーズミル)を用いた処理を行い、SA化Ceの分散液中のセルロースをナノ化する。これにより、SA化CeNFの分散液を得ることができる。
【0049】
なお、前述したように、疎水化処理したセルロースを、解繊処理(微細化処理)してもよく、セルロースを解繊処理(微細化処理)した後に疎水化処理を施してもよい。
【0050】
2-3)アルカリ珪酸塩の準備
アルカリ珪酸塩としては、水ガラスを用いることが好ましい。水ガラスとは、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の珪酸塩水溶液である。例えば、ナトリウム珪酸塩(珪酸ナトリウム、Na2O・nSiO2(n=2~4))の他、Naに変えて、Li、K、Rb、Ba、Ca、Mg、Srなどを含む珪酸塩などを用いることができ、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用して用いてもよい。
【0051】
ナトリウム珪酸塩(珪酸ナトリウム、Na2O・nSiO2(n=1~5))は、珪藻土と苛性ソーダとの加熱反応や、珪砂とソーダ灰の加熱溶融物を水に溶解することにより形成することができ、安価な市販品が多く存在する。このような水ガラスを添加することで、アルミナの添加量を少なくする、例えば、塗工液の固形成分総量に対して、90wt%以下とすることができ、コストの削減を図ることができる。
【0052】
SiO2の数を意味するnは、1未満あるいは、5を超える場合では結着性に劣ることから、1以上、5以下であることが好ましい。特に結着性が高いという観点から、2以上、4以下が好ましい。結着性が十分でないと、充放電時における電極の体積変化や、釘刺し試験などの外的要因で、剥離と亀裂が著しく発生しやすい。
【0053】
上記のアルカリ珪酸塩のうち、ナトリウム珪酸塩とカリウム珪酸塩は、特に結着性に優れるため、塗工液の固形成分総量に対して、80wt%以下とすることができる。一方、リチウム珪酸塩は、結着性においてはナトリウム珪酸塩とカリウム珪酸塩と比べて十分でないが、抵抗の小さい電池を得ることができる。結着性に優れ、且つ抵抗の小さくすることができる観点からは、ナトリウム珪酸塩またはカリウム珪酸塩、およびリチウム珪酸塩を混合して用いることが好ましい。結着性を重視するならば、ナトリウム珪酸塩またはカリウム珪酸塩の量を多めに、抵抗を小さくすることを重視するならば、リチウム珪酸塩の量を多めに配合するとよい。
【0054】
2-4)その他の添加剤の準備
その他の添加物として、増粘剤(例えば、カルボキシメチルセルロース、キサンタンガム、グァーガム、アルギン酸)、結着剤(例えば、アクリル樹脂、アクリル系バインダ、フッ素樹脂)、分散剤(例えば、界面活性剤、アルコール類)などを添加してもよい。
【0055】
カルボキシメチルセルロースは、水溶性セルロース塩であり、塗工液に添加することで、粘性が高まり、塗工性が良くなる。また、アクリル樹脂を添加することで、塗工液中の材料の接着性が良くなる。具体的な水溶性セルロース塩として、カルボキシメチルセルロース-リチウム、カルボキシメチルセルロース-ナトリウム、カルボキシメチルセルロース-カリウム、カルボキシメチルセルロース-アンモニウムなどが挙げられる。なお、本願において単にカルボキシメチルセルロース(CMC)との記載がある場合は、カルボキシメチルセルロース-ナトリウムを意味する。
【0056】
分散材(界面活性剤、アルコール類)を添加することで、基材Sに対する濡れ性が良くなる。特に、ポリエチレンやポリプロピレン製の基材を用いる場合には、自由エネルギーが大きく、界面活性剤を添加することが好ましい。界面活性剤の添加量は、塗工液の固形成分のうちの0.001wt%以上5wt%以下とすることが好ましい。界面活性剤は、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤などの種類があり、いずれも使用可能ではあるが、泡立ちが少ないことから、ノニオン性界面活性剤が好ましい。
【0057】
ここで、前述した塗工液の固形成分とは、塗工液中に含まれる、上記SA化CeNF(第2フィラー)、無機粒子(第1フィラー)、増粘剤、結着剤、分散剤の合計量である。
【0058】
B)混合工程(攪拌処理工程)
前述したSA化CeNF(第2フィラー)の分散液に、無機粒子(第1フィラー)やその他の添加剤を添加し、さらにアルカリ珪酸塩を加え、攪拌することにより、塗工液を調製する。
【0059】
SA化CeNF(第2フィラー)の添加量は特に制限されるものではないが、塗工性、コスト、電池性能の観点から、無機粒子(第1フィラー)に対して0.05wt%以上添加することが好ましい。また、SA化CeNFは、塗工液の固形成分総量に対して、0.2wt%以上、10wt%以下とすることが好ましく、0.5wt%以上、5wt%以下とすることがより好ましい。
【0060】
アルカリ珪酸塩の添加量は特に制限されるものではないが、塗工性、コスト、電池性能の観点から、無機粒子(第1フィラー)に対して0.05wt%以上添加することが好ましい。また、アルカリ珪酸塩は、塗工液の固形成分総量に対して、0.3wt%以上、20wt%以下とすることが好ましく、塗工性、コスト、電池性能の観点から、0.5wt%以上、15wt%以下とすることがより好ましい。
【0061】
撹拌方式としては、例えば、モーターなどで軸に取り付けた羽を回転する方式、超音波などを用いた振動方式などを用いることができる。なお、塗工液中への気泡の巻き込みを低減するため、塗工液の調製(混合、攪拌)を減圧下で行ってもよい。
【0062】
また、塗工液には消泡剤を添加してもよい。消泡剤を添加する場合は、塗工液の固形成分総量に対して、0.001wt%以上1wt%以下であることが好ましい。消泡剤を添加することで、気泡を好ましく抑制でき、脱泡工程の簡易化または脱泡工程が不要となる。
消泡剤としては、シリコーン系消泡剤(例えば、ポリジメチルシロキサン)、界面活性剤系消泡剤(例えば、ポリエチレングリコール脂肪酸)、アルコール類(例えば、アセチレンジオール)などの公知のものが適用可能であるが、このうち、電池に悪影響を与えにくいという観点からシリコーン系消泡剤であることが好ましい。また、消泡剤の形状は特に限定されず、オイル型、コンパウンド型、エマルジョン型、粉末型など任意のものが使用可能である。
【0063】
<<3:基材への塗工工程>>
<<1:基材(塗工前の多孔質フィルム)の準備工程>>で説明した基材Sの表面に、上記塗工液を塗工する。塗工方法に制限はないが、例えば、バーコーター、リップコーター、グラビアコーター、ダイコーター、スプレーコーター、スクリーンコーターなどを用いることができる。塗工後、塗工液を乾燥させることにより、基材Sの表面に塗工膜を形成することができる。
【0064】
塗工液の乾燥は、塗工液に含まれる溶媒または分散媒が除去できる方法であれば特に限定されないが、例えば、50℃以上、250℃以下の温度で熱処理を行う方法を挙げることができる。上記の熱処理の時間は、0.1~50時間保持することによって行うことができる。乾燥時の環境は、大気雰囲気、真空雰囲気、希ガス雰囲気、窒素雰囲気、二酸化炭素雰囲気および水素雰囲気などが例示できるが、環境が二酸化炭素を含む場合では、アルカリ珪酸塩と二酸化炭素が反応して炭酸化合物(A2CO3)または炭酸水素化合物(AHCO3)(A=Li、K、Rb、Ba、Ca、Mg、Srから選択される少なくとも1種の元素)を生成する。したがって、環境が二酸化炭素を含む場合では、塗工膜に含まれるアルカリ珪酸塩に、炭酸化合物(A2CO3)または炭酸水素化合物(AHCO3)(A=Li、K、Rb、Ba、Ca、Mg、Srから選択される少なくとも1種の元素)を含有させることができる。
【0065】
これらのA2CO3またはAHCO3は、水に対しての溶解性が低く、また4.6Vを超える電圧では分解して二酸化炭素を放出するという特徴がある。すなわち、塗工膜がこれらのA2CO3またはAHCO3を含むことで、塗工膜が吸湿しにくくなり、また過充電で二酸化炭素を放出させる機能を付与させることができる。
【0066】
これらのA2CO3またはAHCO3は、塗工膜に対して1wt%以上、50wt%以下で含有されていることが好ましい。この範囲内の含有量に調整するためには、熱処理温度と熱処理時間にもよるが、環境圧力が絶対圧0.001~100MPa、二酸化炭素の濃度が400ppm以上であるとよい。より好ましくは、環境圧力が0.01~50MPa、二酸化炭素の濃度が1000ppm以上、さらに好ましくは、環境圧力が0.1~10MPa、二酸化炭素の濃度が2000ppm以上である。
【0067】
また、塗工液に予め、A2CO3またはAHCO3の粉末を混合したアルカリ珪酸塩を用いることで、二酸化炭素を含む環境で熱処理する工程を不要とできるが、塗工膜の吸湿性を大きく低下させることができるという理由から、アルカリ珪酸塩に二酸化炭素を吸収させ、A2CO3またはAHCO3を生成することが好ましい。塗工膜の吸湿性が高いと、大気中の水分を吸湿して電池特性を低下させることがある。
【0068】
塗工液に第2フィラーとして、セルロースを含む場合、均一にA2CO3またはAHCO3を生成することができる。特に、親水基が、疎水基に置換されたセルロース、あるいは第1級水酸基がカルボキシル基に酸化された構造を有する酸化セルロースでは、より均一性が向上する。塗工膜中にA2CO3またはAHCO3を均一に存在させることで、吸湿性を向上し、過充電で二酸化炭素を放出させる機能をむらなく付与させることが可能になる。
【0069】
以上のように、本実施の形態によれば、塗工液に、フィラーおよびアルカリ珪酸塩を添加することで、電池の電気特性(出力特性、サイクル特性(寿命))を向上させつつ、多孔質フィルム(セパレータ)の機械的強度や耐熱性を向上させることができる。
【0070】
以下に、本実施の形態の塗工液、多孔質フィルム(セパレータ)およびこれを用いた電池の実施例について説明する。
【0071】
[実施例A]
1:基材(塗工前の多孔質フィルム)の準備工程
基材Sとしては、例えば、市販のポリエチレン製微多孔質膜(CS TECH社製、平均細孔径0.06、厚さ16μm)を用いた。
【0072】
2:塗工液の調製工程
A)水ガラスの調整
水ガラスとは、前述したようにアルカリ珪酸塩の水溶液であり、本実施例においては、ナトリウム珪酸塩(Na2O・3SiO2(ADEKA製、ESX-2))を用いた。
【0073】
B)SA化CeNFの調整
図4の工程に準じ、無水コハク酸によりセルロースを疎水化した(-OHの一部を-COOHとした)。次いで、分散液中の疎水化セルロースの解繊処理を行い、セルロースをナノ化した。
【0074】
C)攪拌処理
SA化CeNFの分散液に、カルボキシメチルセルロース(CMC)、アクリル樹脂(バインダ)、界面活性剤としてオクチルフェノールエトキシレート(トリトンX)を添加した後、さらに高純度アルミナ(住友化学社製、平均粒径700nm)を投入した。なお、溶媒として、さらに水系溶媒を添加し、混合液を調整した。この混合液を自転公転式攪拌機(シンキー社製、ARE310)で、2000rpmで、30min攪拌した後、最後に、水ガラス(珪酸ナトリウム)を添加し、薄膜旋回攪拌機(プライミクス社製、FILMIX)で、25m/sで、1min攪拌して、塗工液を得た。塗工液においては、固形成分(セルロース、CMC、バインダ、界面活性剤、アルミナ、水ガラス(珪酸ナトリウム))の割合を100wt%として、表1に、各塗工液の固形成分比率を示す。なお、界面活性剤は、固形分が10wt%の溶液を上記比率となるように添加した。また、比較例Aとして水ガラス(珪酸ナトリウム)およびSA化CeNFの分散液を未添加の塗工液(市販品模擬)も形成した。
【0075】
【表1】
なお、本実施例においては、固形成分(セルロース、CMC、バインダ、界面活性剤、アルミナ、水ガラス)の溶媒に対する割合(濃度)は、40wt%であり、この割合(濃度)は、25wt%~50wt%程度で調整することが可能である。
【0076】
3:基材への塗工工程(セパレータの作製工程)
「1.基材(塗工前の多孔質フィルム)の準備工程」で説明した基材(PE製多孔質フィルム)を50mm角に切り出し、基材(試験片)Sとした。この基材Sの表面に、上記塗工液(塗工液1、2、Aのいずれか)をバーコーターBCで両面に塗工し、塗工したフィルムは、ドライヤーの冷風で5分程度乾燥させた(
図6)。
図6は、バーコーターを用いた塗工液の塗布工程を示す斜視図である。裏面についても同様に塗工液を塗布した。Dは、バーコーターBCの溝深さであり、塗布方向は、MD方向である。
【0077】
このようにして、塗工層が形成された多孔質フィルム(セパレータ)1、2、Aを形成した(表1参照)。なお、比較例Bとして、塗工層を形成していない基材のみである多孔質フィルム(セパレータ)を用い後述の電池Bを作製した。
【0078】
上記塗工液1、2、Aおよび多孔質フィルム(セパレータ)1、2、Aについて、以下の評価を行った。
【0079】
4:塗工液およびセパレータの評価
(塗布性)
塗工液1、2において、ダマや基材のはじき等の不具合はなく、塗布性は良好であった。
【0080】
(ガーレ値)
上記多孔質フィルム(セパレータ)1、2、Aについて、100mlの空気が通過するまでの時間を測定し、これをガーレ値とした。ガーレ値については、N数(試験片数)を5とし、その値の平均値を求めた。
【0081】
(熱収縮試験1)
上記多孔質フィルム(セパレータ)1、Aを、180~220℃の真空乾燥機内に1~72時間放置した。熱負荷を加える前および後のフィルムの状態を観察した。また、熱負荷を加える前および後のフィルムの寸法変化より、熱収縮率を算出した。なお、塗工に使用した基材(PE製多孔質フィルム)は、一軸延伸により製造した乾式セパレータであるため、熱収縮率においては、機械方向(MD方向)の寸法変化に基づき熱収縮率を算出した。また、フィルムが溶融して寸法を測定できなかった場合の熱収縮率は100%とした。
【0082】
(熱収縮試験2)
上記多孔質フィルム(セパレータ)2、Aを、300℃の真空乾燥機内に1時間放置した。熱負荷を加える前および後のフィルムの状態を観察した。また、熱負荷を加える前および後のフィルムの寸法変化より、熱収縮率を算出した。なお、塗工に使用した基材(PE製多孔質フィルム)は、一軸延伸により製造した乾式セパレータであるため、熱収縮率においては、機械方向(MD方向)の寸法変化に基づき熱収縮率を算出した。また、フィルムが溶融して寸法を測定できなかった場合の熱収縮率は100%とした。
【0083】
(SEM観察)
上記多孔質フィルム(セパレータ)1、2、Aの表面をSEM(走査型電子顕微鏡)により観察した。
【0084】
(突刺試験)
上記多孔質フィルム(セパレータ)1、2、Aについて、ジグで固定し、直径1mmの針を試験速度10mm/minで突き刺し、針が貫通するまでの最大力(N)を測定した。
【0085】
5:電池の作製
正極用のスラリーとして、正極活物質(NCM(リチウムニッケルコバルトマンガン系酸化物、ニッケル-コバルト-マンガン酸リチウム(Li(Ni0.6Co0.2Mn0.2)O2))、導電剤(アセチレンブラック)、バインダ(ポリフッ化ビニリデン(PVdF))を固形比率で94:3:3wt%となるよう配合し、自公転式ミキサー(シンキー製、あわとり練太郎、2000rpm、15分間)を用いて混練しスラリー化した。このスラリーを集電体(厚み15μmのアルミニウム箔)上にアプリケーターを用いて塗工し、80℃で仮乾燥した後、ロールプレスにより圧延し、減圧乾燥(160℃、10時間)することで正極(正極合剤層)を形成した。なお、容量密度は、3.10mAh/cm2とした。
【0086】
負極用のスラリーとして、負極活物質(人造黒鉛(グラファイト))、導電剤(アセチレンブラック)、増粘剤(カルボキシメチルセルロース(CMC))、バインダ(SBR(スチレンブタジエンゴム))を固形比率で96:1:1:2wt%となるよう配合し、自公転式ミキサー(シンキー製、あわとり練太郎、2000rpm、15分間)を用いて混練しスラリー化した。このスラリーを集電体(厚み10μmの銅箔)上にアプリケーターを用いて塗工し、80℃で仮乾燥した後、ロールプレスにより圧延し、減圧乾燥(140℃、10時間)することで負極(負極合剤層)を形成した。なお、容量密度は、3.36mAh/cm2とした。
【0087】
上記多孔質フィルム(セパレータ)1、2、A、正極、負極を用いて、R2032コイン型電池(電池1、2、A)を作製した(
図3参照)。なお、電解液として1mol/L LiPF
6(EC:DEC=50:50vol%,+VC1wt%)を用いた。
【0088】
上記電池1、2、A、Bについて、以下の評価を行った。
【0089】
6:電池の評価
(サイクル特性)
30℃、カットオフ電圧4.2~2.5Vの条件下において、0.1Cの電流で10サイクル充電した後、0.5Cの充放電を繰り返すことにより、コイン型電池(電池1、2、A)のサイクル特性を調べた。また、60℃の条件下においても同様にサイクル特性を調べた。
【0090】
(電池抵抗)
30℃、カットオフ電圧4.2~2.5Vの条件下において、0.1Cの電流で10サイクル充電した後、所定レートで放電(高率充放電試験)した後、所定電流値で10秒間放電し、10秒後の電池電圧と電流値の関係から、電池抵抗を算出した。
【0091】
7:結果
図7~
図10は、熱収縮試験1の結果を示す図である。各図において、上部は、セパレータAおよびセパレータ1の様子を示す写真であり、下部は、セパレータAおよびセパレータ1の外形を模写した図である。
図7は常温で1時間の変化を示し、
図8は180℃で1時間の変化を示し、
図9は200℃で3時間の変化を示し、
図10は220℃で72時間の変化を示す。
【0092】
図11は、熱収縮試験2の結果を示す図である。ここでは、セパレータAおよびセパレータ2の様子を示す。
【0093】
図7~
図10に示すように、市販品を模擬した塗工液Aを用いたセパレータAについては、180℃で1時間の熱負荷を加えただけでフィルムが完全に溶融したため、耐熱性が低いことが判明した(
図8)。これに対し、水ガラスおよびセルロースを添加した塗工液1を用いたセパレータ1については、220℃で72時間の熱負荷を加えた後の熱収縮率は0.5%であり、耐熱性が高いことが判明した(
図10)。
【0094】
また、
図11に示すように、水ガラスを添加し、セルロース未添加の塗工液2を用いたセパレータ2については、300℃で1時間の熱負荷を加えた後の熱収縮率は0.5%であり、耐熱性が高いことが判明した。なお、セパレータAについては180℃において完全に溶融しており、測定することができなかった。
【0095】
【0096】
図12~
図17、特に、
図13、
図15、
図17の比較から、市販品を模擬した塗工液Aを用いたセパレータA(
図13)については、その表面の全体に比較的均一にアルミナ粒子が確認されるのに対し、水ガラスを添加した塗工液1、2を用いたセパレータ1、2(
図15、
図17)については、アルミナ粒子の凝集が確認される。凝集粒の粒径は、1~5μm程度である。なお、塗工液1を用いたセパレータ1について、SEM観察においてはセルロースの状態は確認できなかった。
【0097】
図18は、上記多孔質フィルム(セパレータ)1、2、Aの突刺試験結果を示すグラフであり、
図19は、上記多孔質フィルム(セパレータ)1、2、Aのガーレ値を示すグラフである。
【0098】
図18に示すように、上記多孔質フィルム(セパレータ)1、2の強度は、市販品を模擬した塗工液Aを用いたセパレータAと比較して高く、問題がないことが判明した。即ち、塗工液に水ガラス等を添加しても強度に問題がないことが判明した。また、
図19に示すように、ガーレ値について、市販品を模擬した塗工液Aを用いたセパレータAと比較し、その上昇も2%未満であり、問題がないことが判明した。即ち、塗工液に水ガラス等を添加しても、基材やアルミナ粒子間の隙間(微細孔)が閉塞することなく、通気性が保たれていることが判明した。また、SA化CeNFの添加によりガーレ値が向上することが判明した。
【0099】
図20は、30℃でのサイクル特性を示す図であり、
図21は、60℃でのサイクル特性を示す図である。
図20、
図21において、横軸は、サイクル数(回)であり、縦軸は、電池容量維持率(%)である。
【0100】
図20、
図21に示すように、電池1においては、電池A(比較例A、市販の塗工液模擬)より良好な電池容量維持率を示した。また、電池2においても、60℃でのサイクル特性において、電池A(比較例A、市販の塗工液模擬)より良好な電池容量維持率を示した。
【0101】
ここで、電池1と、電池2の比較においては、電池1の方がより電池容量維持率が良好であることが判明した。
【0102】
図22は、電池1、2、A、Bの電池抵抗を示す図(グラフ)である。
図22において、縦軸は、電池の直流抵抗(Ω)である。
図22に示すように、電池1、2の電池抵抗は、塗工層を形成していない基材のみである多孔質フィルム(セパレータ)を用いた電池Bの電池抵抗より大きいものの、その上昇率は、10%以内であり、塗工液に水ガラス等を添加しても電池抵抗は許容の範囲内であることが判明した。
【0103】
このような電池抵抗の上昇の要因としては、要因1)水ガラス等の添加によりセパレータの微細孔が閉塞し、Liイオンの移動が阻害される、要因2)塗工液中の成分が電解液中に溶出し、電極と電解液の接触を妨げることにより実効的な電極面積が減少する、といったことが挙げられる。しかしながら、電池1、2について、電池抵抗の上昇は僅かであり、上記要因1)、2)のような問題は生じていないと考えられる。
【0104】
このようにセパレータ用の塗工液として、上記塗工液1、2を用いることで、耐熱性、サイクル特性などの電池特性を向上させることができる。
【0105】
(実施の形態2)
実施の形態1においては、塗工液の第2フィラーとして、SA化Ceを用いたが、TEMPO酸化セルロースなどの第1級水酸基がカルボキシル基に酸化された構造を有する酸化セルロースを用いてもよい。以下、TEMPO酸化セルロースを例に説明する。
【0106】
以下に、本実施の形態の多孔質フィルムおよびその製造方法について説明する。本実施の形態の多孔質フィルムは、いわゆる電池のセパレータとして用いることができる。
【0107】
[構造説明]
本実施の形態の多孔質フィルムは、基材(多孔質基材)Sと基材Sの表面に形成された塗工膜(被覆膜)CFとを有する。ここで、本実施の形態の多孔質フィルムの構成(
図1)や、この多孔質フィルムを用いたリチウムイオン電池の構成(
図2、
図3)は、実施の形態1の場合のSA化Ceが、TEMPO酸化セルロースとなる以外は、実施の形態1と同様であるため、その詳細な説明を省略する。
【0108】
[製法説明]
以下に本実施の形態の多孔質フィルムの製造工程を説明するとともに、多孔質フィルムや塗工膜の構成をより明確にする。
【0109】
本実施の形態の多孔質フィルムの製造工程は、以下の工程を有する。
【0110】
<<1:基材(塗工前の多孔質フィルム)の準備工程>>
基材Sとしては、特に限定されずに使用でき、特に、通常、リチウムイオン電池用の多孔質フィルムに用いられる基材が好ましく、微多孔質膜を用いることができる。例えば、市販のポリエチレン製微多孔質膜を用いることができる。
【0111】
<<2:塗工液の調製工程>>
2-1)第1フィラーの準備
本実施の形態においては、第1フィラーとして、無機粒子(無機フィラー)を用いる。
【0112】
無機粒子としては、特に限定されるものではない。たとえば、アルミナ、ベーマイト、水酸化アルミニウム、ナノシリカ、マイクロシリカ、カーボンナノチューブ、タルク、ガラス繊維など、実施の形態1で説明したものと同様のものを用いることができる。
【0113】
2-2)第2フィラーの準備
本実施の形態においては、第2フィラーとして、TEMPO処理されたセルロースを用いる。TEMPO処理(TEMPO酸化処理)とは、TEMPO(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル(2,2,6,6-tetramethylpiperidine1-oxyl))を触媒として用いた酸化反応による処理である。このため、TEMPO処理されたセルロースを“TEMPO酸化セルロース”という場合がある。
【0114】
セルロース(Cellulose、Cell-OH)は、(C12H20O10)nで表される炭水化物であり、例えば、前述の化学構造式(化1)で示される。
【0115】
セルロースにTEMPO処理を施した場合、セルロースの第1級水酸基である-OHが位置選択的に酸化されてC6-アルデヒド基を経て、C6-カルボキシル基まで酸化され、さらに、アルカリ処理されることでC6-カルボキシル基の塩(カルボン酸塩)、例えば、水酸化ナトリウム溶液でアルカリ処理をした場合、以下のようにC6-カルボキシル基のNa塩に変換される。
【0116】
【化4】
セルロースの水酸基にカルボキシル基を導入する工程(酸化工程)では、例えば触媒としてTEMPOや臭化ナトリウム、酸化剤として次亜塩素酸を使用して、水中で反応させる。反応中は、任意のpHを維持することが可能な量の塩基性溶液、例えば水酸化ナトリウムを添加して、反応させることで、TEMPO酸化処理を施したセルロース(上記(化5))を得ることができる。
【0117】
このようにTEMPO処理されたセルロース(TEMPO酸化セルロース、TCe)は、C6-カルボキシル基のNa塩が、水中において電離するため、斥力(静電的な斥力、浸透圧)が働く。そのため、Na塩が高密度で配置されていると、微細な状態で分散させることができる。なお、上記化学構造式では、C6位の炭素原子の置換基について、2つのグルコース残基のうち左側のみをCOONa基として示している。これは、一部がカルボキシル基に酸化された構造を有していることを表す一例であり、この構造単位のみからなることを意味しているわけではない。すなわち、上記化学構造式において、両方のグルコース残基が、第1級水酸基がカルボキシル基に酸化された構造を有している場合や、両方のグルコース残基が、第1級水酸基がカルボキシル基に酸化された構造を有していない場合、も含まれる。酸化セルロース全体として、第1級水酸基の一部が、カルボキシル基に酸化された構造を有していればよい。さらに、カルボキシル基においても、全てがNa塩となっている必要はなく、その一部がNa塩となる場合も含まれる。
【0118】
(解繊処理)
また、上記TEMPO酸化セルロースに対し、解繊処理を行い、セルロースを微細化(ナノ化)してもよい。解繊処理(微細化処理)には、化学処理法や機械処理法などがある。これらを組み合わせた方法を用いてもよい。このような解繊処理(微細化処理)により、液体中において、例えば、幅(短径、短い方の長さ)Wが、1000nm以下、長さLが、500μm以下、より好ましくは、幅Wが、500nm以下、長さLが、3μm以下の微細なセルロースとなる。なお、幅Wが、4nm程度、長さLが、2μm程度のものも確認されている。
【0119】
上記のようなセルロースの微細化(ナノ化)は、TEMPO酸化処理の前に行ってもよく、また、TEMPO酸化処理の後に行ってもよい。
【0120】
2-3)アルカリ珪酸塩の準備
アルカリ珪酸塩としては、実施の形態1の場合と同様に、水ガラスを用いることが好ましい。
【0121】
2-4)その他の添加剤の準備
その他の添加物として、実施の形態1の場合と同様に、増粘剤(例えば、カルボキシメチルセルロース、キサンタンガム、グァーガム、アルギン酸)、結着剤(例えば、アクリル樹脂、アクリル系バインダ、フッ素樹脂)、分散剤(例えば、界面活性剤、アルコール類)などを用いることができる。
【0122】
B)混合工程(攪拌処理工程)
前述したTEMPO酸化セルロース(第2フィラー)の分散液に、無機粒子(第1フィラー)やその他の添加剤を添加し、さらにアルカリ珪酸塩を加え、攪拌することにより、塗工液を調製する。
【0123】
TEMPO酸化セルロース(第2フィラー)は、無機粒子(第1フィラー)に対して0.05wt%以上添加することが好ましい。また、TEMPO酸化セルロースは、塗工液の固形成分総量に対して、0.3wt%以上、8wt%以下とすることが好ましく、0.5wt%以上、5wt%以下とすることがより好ましい。
【0124】
アルカリ珪酸塩は、無機粒子(第1フィラー)に対して0.05wt%以上添加することが好ましい。また、アルカリ珪酸塩は、塗工液の固形成分総量に対して、0.3wt%以上、12.5wt%以下とすることが好ましく、0.5wt%以上、10wt%以下とすることがより好ましい。
【0125】
撹拌方式としては、例えば、モーターなどで軸に取り付けた羽を回転する方式、超音波などを用いた振動方式などを用いることができる。なお、塗工液中への気泡の巻き込みを低減するため、塗工液の調製(混合、攪拌)を減圧下で行ってもよい。
【0126】
<<3:基材への塗工工程>>
<<1:基材(塗工前の多孔質フィルム)の準備工程>>で説明した基材Sの表面に、上記塗工液を塗工する。塗工方法に制限はないが、例えば、バーコーター、リップコーター、グラビアコーター、ダイコーター、スプレーコーター、スクリーンコーターなどを用いることができる。塗工後、塗工液を乾燥させることにより、基材Sの表面に塗工膜を形成することができる。
【0127】
塗工液の乾燥は、塗工液に含まれる溶媒または分散媒が除去できる方法であれば特に限定されないが、例えば、50℃以上、250℃以下の温度で熱処理を行う方法を挙げることができる。上記の熱処理の時間は、0.1~50時間保持することによって行うことができる。乾燥時の環境は、大気雰囲気、真空雰囲気、希ガス雰囲気、窒素雰囲気、二酸化炭素雰囲気および水素雰囲気などが例示できるが、環境が二酸化炭素を含む場合では、アルカリ珪酸塩と二酸化炭素が反応して炭酸化合物(A2CO3)または炭酸水素化合物(AHCO3)(A=Li、K、Rb、Ba、Ca、Mg、Srから選択される少なくとも1種の元素)を生成する。したがって、環境が二酸化炭素を含む場合では、塗工膜に含まれるアルカリ珪酸塩に、炭酸化合物(A2CO3)または炭酸水素化合物(AHCO3)(A=Li、K、Rb、Ba、Ca、Mg、Srから選択される少なくとも1種の元素)を含有させることができる。
【0128】
これらのA2CO3またはAHCO3は、水に対しての溶解性が低く、また4.6Vを超える電圧では分解して二酸化炭素を放出するという特徴がある。すなわち、塗工膜がこれらのA2CO3またはAHCO3を含むことで、塗工膜が吸湿しにくくなり、また過充電で二酸化炭素を放出させる機能を付与させることができる。
【0129】
これらのA2CO3またはAHCO3は、塗工膜に対して1wt%以上、50wt%以下で含有されていることが好ましい。この範囲内の含有量に調整するためには、熱処理温度と熱処理時間にもよるが、環境圧力が絶対圧0.001~100MPa、二酸化炭素の濃度が400ppm以上であるとよい。より好ましくは、環境圧力が0.01~50MPa、二酸化炭素の濃度が1000ppm以上、さらに好ましくは、環境圧力が0.1~10MPa、二酸化炭素の濃度が2000ppm以上である。
【0130】
また、塗工液に予め、A2CO3またはAHCO3の粉末を混合したアルカリ珪酸塩を用いることで、二酸化炭素を含む環境で熱処理する工程を不要とできるが、塗工膜の吸湿性を大きく低下させることができるという理由から、アルカリ珪酸塩に二酸化炭素を吸収させ、A2CO3またはAHCO3を生成することが好ましい。塗工膜の吸湿性が高いと、大気中の水分を吸湿して電池特性を低下させることがある。
【0131】
塗工液に第2フィラーとして、セルロースを含む場合、均一にA2CO3またはAHCO3を生成することができる。特に、親水基が、疎水基に置換されたもの、あるいはTEMPO処理されたものでは、より均一性が向上する。塗工膜中にA2CO3またはAHCO3を均一に存在させることで、吸湿性を向上し、過充電で二酸化炭素を放出させる機能をむらなく付与させることが可能になる。
【0132】
以上のように、本実施の形態によれば、塗工液に、フィラーおよびアルカリ珪酸塩を添加することで、電池の電気特性(出力特性、サイクル特性(寿命))を向上させつつ、多孔質フィルム(セパレータ)の機械的強度や耐熱性を向上させることができる。
【0133】
以下に、本実施の形態の塗工液、多孔質フィルム(セパレータ)およびこれを用いた電池の実施例について説明する。
【0134】
[実施例B]
1:基材(塗工前の多孔質フィルム)の準備工程
基材Sとしては、例えば、市販のポリエチレン製微多孔質膜(CS TECH社製、平均細孔径0.06μm、厚さ16μm)を用いた。
【0135】
2:塗工液の調製工程
A)水ガラスの調整
水ガラスとは、前述したようにアルカリ珪酸塩の水溶液あり、本実施例においては、Na2O・3SiO2(ADEKA製、ESX-2)を用いた。
【0136】
B)TEMPO酸化セルロースの調整
TEMPO酸化セルロース(Na塩)を準備した。このTEMPO酸化セルロースは、平均粒径10μm程度の粉状であり、原材料として広葉樹由来のパルプを用いて製造されたものを用いた。
【0137】
C)攪拌処理
TEMPO酸化セルロースの分散液に、カルボキシメチルセルロース(CMC)、アクリル樹脂(バインダ)、界面活性剤としてオクチルフェノールエトキシレート(トリトンX)を添加した後、さらに高純度アルミナ(住友化学社製、平均粒径670nm)を投入した。なお、溶媒として、さらに水系溶媒を添加し、混合液を調整した。この混合液を自転公転式攪拌機(シンキー社製、ARE310)で、2000rpmで、30min攪拌した後、最後に、水ガラス(珪酸ナトリウム)を添加し、薄膜旋回攪拌機(プライミクス社製、FILMIX)で、25m/sで、1min攪拌して、塗工液を得た。塗工液においては、固形成分(セルロース、CMC、バインダ、界面活性剤、アルミナ、水ガラス(珪酸ナトリウム))の割合を100wt%として、表2に、各塗工液の固形成分比率を示す。なお、界面活性剤は、固形分が10wt%の溶液を上記比率となるように添加した。また、比較例Aとして水ガラス(珪酸ナトリウム)およびTEMPO酸化セルロースの分散液を未添加の塗工液(市販品模擬)も形成した。
【0138】
【表2】
なお、本実施例においては、固形成分(セルロース、CMC、バインダ、界面活性剤、アルミナ、水ガラス)の溶媒に対する割合(濃度)は、45wt%であり、この割合(濃度)は、20wt%~60wt%程度で調整することが可能である。
【0139】
3:基材への塗工工程(セパレータの作製工程)
「1.基材(塗工前の多孔質フィルム)の準備工程」で説明した基材(PE製多孔質フィルム)の表面に、上記塗工液(塗工液3、4、5、6、7、8のいずれか)をバーコーターで両面に塗工し、80℃で1時間乾燥した。なお、塗工厚みは片面4μm(両面で8μm)とした。このようにして、塗工層が形成された多孔質フィルム(セパレータ)3、4、5、6、7、8を形成した(表2参照)。
【0140】
4:塗工液およびセパレータの評価
(塗布性)
塗工液4においては、塗工液が固化しバーコーターが動かなくなったため、多孔質フィルム(セパレータ)および電池の作製を断念した。また、塗工液7、8においては、塗工液が基材の表面に濡れ広がらなかったため(ハジキが生じたため)、多孔質フィルム(セパレータ)および電池の作製を断念した。他の塗工液は、塗工液の固化や基材のハジキ等の不具合はなく、塗布性は良好であった。なお、比較例A、Bは、実施の形態1(実施例A)で説明したものと同じである。
【0141】
(熱収縮試験2)
上記多孔質フィルム(セパレータ)3を、300℃の真空乾燥機内に1時間放置した。熱負荷を加える前および後のフィルムの状態を観察した。なお、塗工に使用した基材(PE製多孔質フィルム)は、一軸延伸により製造した乾式セパレータであるため、熱収縮率においては、機械方向(MD方向)の寸法変化に基づき熱収縮率を算出した。また、フィルムが溶融して寸法を測定できなかった場合の熱収縮率は100%とした。
【0142】
5:電池の作製および評価
実施の形態1の実施例Aの場合と同様に、電池(電池3、5、6)を作製し、サイクル特性および電池抵抗を評価した。
【0143】
6:結果
図23は、熱収縮試験2の結果を示す図である。
図23に示すように、水ガラスおよびTEMPO酸化セルロースを添加した塗工液3を用いたセパレータ3については、熱収縮率が0.5%となり、耐熱性が高いことが判明した。また、このセパレータ3は、前述のセパレータ1の熱収縮試験2と比較しても遜色のない耐熱性を有することが判明した。
【0144】
図24は、30℃でのサイクル特性を示す図であり、
図25は、60℃でのサイクル特性を示す図である。
図24、
図25において、横軸は、サイクル数(回)であり、縦軸は、電池容量維持率(%)である。
【0145】
図24、
図25に示すように、電池3においては、電池A(比較例A、市販の塗工液模擬)より良好な電池容量維持率を示した。また、電池3においては、水ガラス未添加の電池6より良好な電池容量維持率を示した(
図25)。
【0146】
図26は、電池3、Bの電池抵抗を示す図(グラフ)である。
図26において、縦軸は、電池の直流抵抗(Ω)である。
図26に示すように、電池3の電池抵抗は、塗工層を形成していない基材のみである多孔質フィルム(セパレータ)を用いた電池Bの電池抵抗より大きいものの、その上昇率は、10%以内であり、塗工液に水ガラス等を添加しても電池抵抗は許容の範囲内であることが判明した。
【0147】
このような電池抵抗の上昇の要因としては、前述したように、要因1)水ガラス等の添加によりセパレータの微細孔が閉塞し、Liイオンの移動が阻害される、要因2)塗工液中の成分が電解液中に溶出し、電極と電解液の接触を妨げることにより実効的な電極面積が減少する、といったことが挙げられる。しかしながら、電池1、2について、電池抵抗の上昇は僅かであり、上記要因1)、2)のような問題は生じていないと考えられる。
【0148】
このようにセパレータ用の塗工液として、上記塗工液3を用いることで、耐熱性、サイクル特性などの電池特性を向上させることができる。
【0149】
(まとめ)
上記実施例の結果から、水ガラスの添加量としては、塗布性の観点から、塗工液や塗工膜の固形成分総量に対して、15.5wt%未満とする必要があり、10.5wt%以下とすることがより好ましい。また、水ガラスの添加量としては、塗布性およびコストの観点から、塗工液や塗工膜中の無機粒子量に対して、19.4wt%未満とする必要があり、12.4wt%以下とすることがより好ましい。この水ガラスの添加量は、セルロースの添加の有無や、添加するセルロースの種類によってほとんど変化しないものと考えられる。
【0150】
また、上記実施例および他の実験結果から、セルロースの添加量としては、塗工液や塗工膜の固形成分総量に対して、0.1wt%~5wt%とすることがより好ましい。
【0151】
また、上記実施例A、Bから、上記塗工液を用いることで熱収縮率を5%以下、より好ましくは3%以下に抑えることができる。
【0152】
また、水ガラスの添加により塗工液の粘度が向上し、増粘剤としての役割を果たすCMCの添加量を低減することができ、例えば、塗工液や塗工膜の固形成分総量に対して、3wt%以下とすることができる。特に、CMCは水溶性でありNaイオンを含むためCMCの添加量を低減することが電池性能の低下を抑制する観点で好ましい。
【0153】
(実施の形態3)
実施の形態1、2の実施例においては、基材Sとして、市販のポリエチレン製微多孔質膜を用いたが、以下のようにしてポリエチレン製微多孔質膜を形成することができる。
【0154】
図27は、本実施の形態の製造装置の構成を示す模式図である。本実施の形態においては、上記製造装置を用いたセパレータの製造工程について説明する。
【0155】
例えば、
図27の二軸混練押出機(S1)の原料供給部に可塑剤(流動パラフィン)とポリオレフィン(例えば、ポリエチレン)を投入し、混練部において上記可塑剤とポリオレフィンとを混練する。混練条件は、例えば、180℃、12分間であり、軸の回転数は100rpmである。
【0156】
混練物(溶融樹脂)を、吐出部からTダイS2へ搬送し、溶融樹脂をTダイS2のスリットから押し出しつつ、原反冷却装置S3において冷却することで、薄膜状の樹脂成型体を形成する。
【0157】
次いで、上記薄膜状の樹脂成型体を第1縦延伸装置S4により縦方向に引き延ばし、さらに、第1横延伸装置S5により横方向に引き延ばす。
【0158】
次いで、引き延ばされた薄膜を抽出槽S6において有機溶剤(例えば、塩化メチレン)に浸漬する。引き延ばされた薄膜においては、ポリオレフィン(例えば、ポリエチレン)と可塑剤(パラフィン)が相分離した状態となる。具体的には、可塑剤(パラフィン)がナノサイズの島状となる。このナノサイズの可塑剤(パラフィン)を抽出槽S6の有機溶剤(例えば、塩化メチレン)により除去する(脱脂する)。これにより、多孔質の薄膜を形成することができる。
【0159】
この後、さらに、第2横延伸装置S7で、横方向に引き延ばしつつ、薄膜を乾燥させ、熱固定を行い、延伸時の内部応力を緩和する。次いで、巻取り装置S8により、第2横延伸装置S7から搬送された薄膜を巻き取る。
【0160】
このようにして、多孔質の薄膜(実施の形態1の基材)を製造することができる。ここで、例えば、第2横延伸装置S7および巻取り装置S8の間に、
図28に示すグラビア塗工装置(S7’)を組み込む。
図28は、グラビア塗工装置の構成を模式的に示す断面図である。このグラビア塗工装置は、2つのグラビアロールRを有する。このグラビアロールRは、例えば、複数の斜線状凹部を有しており、その一部が塗工液CLに浸漬するように配置され、回転させることにより、斜線状凹部に塗工液を保持した状態で、基材Sに塗工液CLを塗工する。
【0161】
この塗工液CLとして実施の形態1において説明した塗工液CLを用いることで、基材の両面に塗工膜を形成することができる。なお、必要に応じて塗工液の乾燥装置などを適宜組み込むことができる。
【0162】
このように、
図27、
図28に示す装置を用いて高性能のセパレータを効率良く製造することができる。
【0163】
前述したように、ポリオレフィン(樹脂)と可塑剤とを混練機を用いて溶融混練し、押出機を用いてシート状に押出した後、混練物をプレス機や延伸機を用いて延伸することにより膜(薄膜)を形成する。
【0164】
ポリオレフィンとしては、通常の押出、射出、インフレーション、及びブロー成形等により加工可能なものを用いる。例えば、ポリオレフィンとして、エチレン、プロピレン、1-ブテン、4-メチル―1-ペンテン、1-ヘキセン、及び1-オクテン等のホモ重合体及び共重合体、多段重合体等を使用することができる。また、これらのホモ重合体及び共重合体、多段重合体の群から選んだポリオレフィンを単独、もしくは混合して使用することもできる。前記重合体の代表例としては、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン、アイソタクティックポリプロピレン、アタクティックポリプロピレン、エチレン-プロピレンランダム共重合体、ポリブテン、エチレンプロピレンラバー等が挙げられる。
【0165】
なお、基材Sとしては、高融点であり、かつ高強度の要求性能から、特に、ポリエチレンを主成分とする樹脂を使用することが好ましい。また、シャットダウン性等の点から、樹脂成分の50wt%以上をポリエチレンが占めることが好ましい。また、分子量が100万以上の超高分子量ポリオレフィンを用いる場合、混練物(樹脂および分散液)100質量部に対し、超高分子量ポリオレフィンが50質量部を超すと均一に混練することが困難となることから50質量部以下であることが好ましい。
【0166】
可塑剤は、熱可塑性樹脂に加えて柔軟性や耐候性を改良するものである。さらに、本実施の形態においては、後述する脱脂工程により、可塑剤を除去することにより、樹脂成形体(膜)に孔を設けることができる。
【0167】
可塑剤としては、分子量100~1500、沸点が50℃から300℃の有機溶剤を用いることができる。具体的には、流動パラフィン、ノナン、デカン、デカリン、パラキシレン、ウンデカン、ドデカンの鎖状又は環式の脂肪族炭化水素、及び沸点がこれらに対応する鉱油留分、並びにジブチルフタレート、ジオクチルフタレートの室温では液状のフタル酸エステルうち一種類又は数種類の混合物を用いることができる。また、エタノールやメタノールなどのアルコール類、NMP(N-メチル-2-ピロリドン)やジメチルアセトアミドなどの窒素系有機溶剤、アセトンやメチルエチルケトンなどのケトン類、酢酸エチルや酢酸ブチルなどのエステル類のうち、一種類又は数種類の混合物を用いることができる。
【0168】
前述したシート状の混練物を延伸した膜(薄膜)においては、ポリオレフィンと可塑剤が相分離した状態となる。具体的には、可塑剤がナノサイズの島状となる。このナノサイズの可塑剤を後述する有機溶剤処理工程において除去することにより、島状の可塑剤部が孔となり、多孔質の薄膜が形成される。可塑剤の除去工程により樹脂成形体に微細な孔を多数形成するセパレータの形成工程は、“湿式法”と呼ばれる。
【0169】
例えば、上記延伸工程で形成された膜(薄膜)を有機溶剤に浸漬することにより、膜中の可塑剤を有機溶剤中に抽出し、膜(薄膜)中から除去する。
【0170】
有機溶剤としては、塩化メチレン、ヘキサン、オクタン、シクロヘキサンなどを用いることができる。中でも、生産性の観点から、塩化メチレンを用いることが好ましい。
【0171】
この後、膜(薄膜)表面の有機溶剤を揮発させ、必要に応じて熱処理(熱固定)することにより、基材(微多孔質膜)Sを得ることができる。
【0172】
(応用例)
なお、上記においては、(化4)に示すC6-カルボキシル基のNa塩を例示したが、以下のような他の対イオン(X+)を有する化合物をセルロースとして用いてもよい。この対イオンとしては、アルカリ金属イオンが好ましく、例えば、K+等が挙げられる。
【0173】
【化5】
また、セルロースの原料としては、パルプのような植物繊維由来のものや、ホヤなどの動物繊維由来のものを用いてもよい。
【0174】
(実施の形態4)
実施の形態1、2においては、第2フィラーを用いていたが、乾燥工程が二酸化炭素を含む環境であれば、必ずしも第2フィラーを必要としない。
【0175】
以下に、本実施の形態の多孔質フィルムおよびその製造方法について説明する。本実施の形態の多孔質フィルムは、いわゆる電池のセパレータとして用いることができる。
【0176】
[構造説明]
本実施の形態の多孔質フィルムは、基材(多孔質基材)Sと基材Sの表面に形成された塗工膜(被覆膜)CFとを有する。ここで、本実施の形態の多孔質フィルムの構成(
図1)や、この多孔質フィルムを用いたリチウムイオン電池の構成(
図2、
図3)は、実施の形態1の場合のSA化Ceが含まれず、代わりにA
2CO
3またはAHCO
3(A=Li,Na,K,Rb)を含むこと以外は、実施の形態1と同様であるため、その詳細な説明を省略する。
【0177】
[製法説明]
以下に本実施の形態の多孔質フィルムの製造工程を説明するとともに、多孔質フィルムや塗工膜の構成をより明確にする。
【0178】
本実施の形態の多孔質フィルムの製造工程は、以下の工程を有する。
【0179】
<<1:基材(塗工前の多孔質フィルム)の準備工程>>
基材Sとしては、特に限定されずに使用でき、特に、通常、リチウムイオン電池用の多孔質フィルムに用いられる基材が好ましく、微多孔質膜を用いることができる。例えば、市販のポリエチレン製微多孔質膜やポリプロピレン製微多孔膜を用いることができる。
【0180】
<<2:塗工液の調製工程>>
2-1)第1フィラーの準備
本実施の形態においては、第1フィラーとして、無機粒子(無機フィラー)を用いる。
【0181】
無機粒子としては、特に限定されるものではない。たとえば、アルミナ、ベーマイト、水酸化アルミニウム、ナノシリカ、マイクロシリカ、カーボンナノチューブ、タルク、ガラス繊維など、実施の形態1で説明したものと同様のものを用いることができる。
【0182】
2-2)第2フィラーの準備
本実施の形態においては、第2フィラーは使用しない。
【0183】
2-3)アルカリ珪酸塩の準備
アルカリ珪酸塩としては、実施の形態1の場合と同様に、水ガラスを用いることが好ましい。
【0184】
2-4)その他の添加剤の準備
その他の添加物として、実施の形態1の場合と同様に、増粘剤(例えば、カルボキシメチルセルロース、キサンタンガム、グァーガム、アルギン酸)、結着剤(例えば、アクリル樹脂、アクリル系バインダ、フッ素樹脂)、分散剤(例えば、界面活性剤、アルコール類)などを用いることができる。
【0185】
B)混合工程(攪拌処理工程)
前述した無機粒子(第1フィラー)と、必要に応じて界面活性剤とアクリル系バインダなどの添加剤を添加し、さらにアルカリ珪酸塩を加え、攪拌することにより、塗工液を調製する。
【0186】
アルカリ珪酸塩は、無機粒子(第1フィラー)に対して0.05wt%以上添加することが好ましい。また、アルカリ珪酸塩は、塗工液の固形成分総量に対して、0.3wt%以上、5wt%以下とすることが好ましく、0.5wt%以上、1.5wt%以下とすることがより好ましい。
【0187】
撹拌方式としては、例えば、モーターなどで軸に取り付けた羽を回転する方式、超音波などを用いた振動方式などを用いることができる。なお、塗工液中への気泡の巻き込みを低減するため、塗工液の調製(混合、攪拌)を減圧下で行ってもよい。
【0188】
<<3:基材への塗工工程>>
<<1:基材(塗工前の多孔質フィルム)の準備工程>>で説明した基材Sの表面に、上記塗工液を塗工する。塗工方法に制限はないが、例えば、バーコーター、リップコーター、グラビアコーター、ダイコーター、スプレーコーター、スクリーンコーターなどを用いることができる。塗工後、塗工液を二酸化炭素を含む環境で乾燥させることにより、基材Sの表面に塗工膜を形成することができる。
【0189】
本実施の形態においては、形態1、2のような第2フィラーが含まれないため、二酸化炭素を含まない環境で乾燥させた場合、塗工膜CFは、基材Sの微細孔を塞ぎ、塗工膜CFが形成された基材S(多孔質フィルム、セパレータ)のガーレ値(透気度、[sec/100cc])は、3500以上になりやすく、通気性が悪い(例えば、アルゴン環境で乾燥させた場合では、ガーレ値が3504sec/100ccとなった)。そのため、乾燥環境を二酸化炭素を含む環境にする必要がある。二酸化炭素を含む環境で乾燥することで、アルカリ珪酸塩と二酸化炭素が反応して、炭酸化合物(A2CO3)または炭酸水素化合物(AHCO3)(A=Li、K、Rb、Ba、Ca、Mg、Srから選択される少なくとも1種の元素)と、シリカ(SiO2)を生成する。この生成したA2CO3またはAHCO3、およびSiO2によって、塗工膜CFは、基材Sの微細孔をすべて覆うようには形成されておらず、塗工膜CFが形成された基材S(多孔質フィルム、セパレータ)のガーレ値(透気度、[sec/100cc])は、200以上、3000以下であり、通気性は確保することができる。
【0190】
以上のように、本実施の形態によれば、二酸化炭素を含む環境で乾燥することで、塗工液に、第2フィラーを用いずに、第1フィラーおよびアルカリ珪酸塩を添加することで、電池の電気特性(出力特性、サイクル特性(寿命))を向上させつつ、多孔質フィルム(セパレータ)の機械的強度や耐熱性を向上させることができる。
【0191】
以下に、本実施の形態の塗工液、多孔質フィルム(セパレータ)およびこれを用いた電池の実施例について説明する。
【0192】
[実施例C]
1:基材(塗工前の多孔質フィルム)の準備工程
基材Sとしては、例えば、市販のポリエチレン製微多孔質膜(CS TECH社製、平均細孔径0.06μm、厚さ16μm)を用いた。
【0193】
2:塗工液の調製工程
A)水ガラスの調整
水ガラスとは、前述したようにアルカリ珪酸塩の水溶液あり、本実施例においては、Li2O・3.5SiO2(日本化学工業製、珪酸リチウム35)とNa2O・3SiO2(ADEKA製、ESX-2)を固形の質量比で1:1となるように混合されたものを用いた。
【0194】
B)攪拌処理
カルボキシメチルセルロース(CMC)が溶解した水に、アクリル樹脂(バインダ)、界面活性剤としてオクチルフェノールエトキシレート(トリトンX)を添加した後、さらに高純度アルミナ(住友化学社製、平均粒径700nm)を投入した。なお、溶媒として、さらに水系溶媒を添加し、混合液を調整した。この混合液を自転公転式攪拌機(シンキー社製、ARE310)で、2000rpmで、30min攪拌した後、最後に、水ガラス(珪酸リチウムと珪酸ナトリウムの混合液)を添加し、薄膜旋回攪拌機(プライミクス社製、FILMIX)で、25m/sで、1min攪拌して、塗工液を得た。塗工液においては、固形成分(CMC、バインダ、界面活性剤、アルミナ、水ガラス(珪酸リチウム+珪酸ナトリウム))の割合を100wt%として、CMCが0.9wt%、バインダが3wt%、界面活性剤が0.1wt%、アルミナが85wt%、水ガラス(珪酸リチウム+珪酸ナトリウム)が11wt%とした。なお、界面活性剤は、固形分が10wt%の溶液を上記比率となるように添加した。
【0195】
なお、本実施例においては、固形成分(CMC、バインダ、界面活性剤、アルミナ、水ガラス)の溶媒に対する割合(濃度)は、45wt%であり、この割合(濃度)は、15~65wt%程度で調整することが可能である。
【0196】
3:基材への塗工工程(セパレータの作製工程)
「1.基材(塗工前の多孔質フィルム)の準備工程」で説明した基材(PE製多孔質フィルム)の表面に、上記塗工液をグラビアロールで両面に塗工し、0.1MPaの二酸化炭素雰囲気にて、80℃で1時間乾燥した。なお、塗工厚みは片面4μm(両面で8μm)とした。このようにして、塗工層が形成された多孔質フィルム(セパレータ)を形成した。
【0197】
4:塗工液およびセパレータの評価
(塗布性)
本塗工液は、塗工液の固化や基材のハジキ等の不具合はなく、塗布性は良好であった。
【0198】
5:セパレータのガーレ値
上記多孔質フィルム(セパレータ)について、100mlの空気が通過するまでの時間を測定し、これをガーレ値とした。ガーレ値については、N数(試験片数)を5とし、その値の平均値を求めた。
【0199】
6:結果
ガーレ値は、289sec/100ccで、通気性は確保されていることが示された。
【0200】
(まとめ)
上記実施例の結果から、第2フィラーを用いない場合は、二酸化炭素を含む環境でセパレータを乾燥(熱処理)することで、ガーレ値を200以上、3000以下にすることができる。これは、二酸化炭素を含む環境で乾燥することで、アルカリ珪酸塩と二酸化炭素が反応して、A2CO3またはAHCO3と、SiO2を生成したものだと考えられる。この生成したA2CO3またはAHCO3、およびSiO2によって、塗工膜CFは、基材Sの微細孔をすべて覆うようには形成されていないものだと思われる
また、上記においては、リチウムイオン電池を例示したが、金属リチウム電池、リチウムポリマー電池、空気リチウムイオン電池などであってもかまわない。また、ナトリウムイオン電池、カリウムイオン電池、カルシウムイオン電池、マグネシウムイオン電池、アルミニウムイオン電池などの非水電解質二次電池のセパレータとして用いてもよい。これらの電池は、電気伝導を担うイオン(キャリア)を、リチウムから、ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、アルミニウムなどのカチオンに置き換えた電池系を意味する。
【0201】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態および実施例に基づき具体的に説明したが、本発明は上記実施の形態または実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0202】
1 正極
1M 正極合剤層
1S 集電体
2 負極
2M 負極合剤層
2S 集電体
6 缶(電池缶)
7 蓋(電池キャップ)
8 ワッシャー
CF 塗工膜
CL 塗工液
R グラビアロール
S 基材
S1 二軸混練押出機
S2 ダイ
S3 原反冷却装置
S4 第1縦延伸装置
S5 第1横延伸装置
S6 抽出槽
S7 第2横延伸装置
S7’ グラビア塗工装置
S8 巻取り装置
SP セパレータ