(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-07
(45)【発行日】2024-11-15
(54)【発明の名称】自動車天井内装用の編物、および、自動車天井内装用の編物の製造方法
(51)【国際特許分類】
B60R 13/02 20060101AFI20241108BHJP
D04B 1/16 20060101ALI20241108BHJP
D04B 21/16 20060101ALI20241108BHJP
D02G 3/04 20060101ALI20241108BHJP
D01D 4/08 20060101ALI20241108BHJP
【FI】
B60R13/02 A
D04B1/16
D04B21/16
D02G3/04
D01D4/08
(21)【出願番号】P 2023173669
(22)【出願日】2023-10-05
【審査請求日】2023-10-17
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】510206039
【氏名又は名称】スミノエ テイジン テクノ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】593069897
【氏名又は名称】モリリン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】錦戸 宏
(72)【発明者】
【氏名】老田 晴輝
(72)【発明者】
【氏名】石原 英一郎
【審査官】久保田 信也
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-115029(JP,A)
【文献】特開2014-156066(JP,A)
【文献】特開2000-220025(JP,A)
【文献】特開平07-034341(JP,A)
【文献】特開2006-307375(JP,A)
【文献】特開2013-079011(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 13/02
D04B 1/16
D04B 21/16
D02G 3/04
D01D 4/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の色の第一フィラメントを吐出する第一吐出孔と、第二の色の第二フィラメントを吐出する第二吐出孔と、を含む複数の吐出孔からなる吐出孔群を備え、
前記吐出孔群の外側に位置する前記第一吐出孔の数が、前記吐出孔群の外側に位置する前記第二吐出孔の数より多
く、
複数の前記吐出孔のうち吐出面の中心からの距離が遠い順に上位50%以内に属する吐出孔の群である外周吐出孔群が以下の(1)または(2)の条件を満たす紡糸口金、から吐出されたものである複数色混繊の原着糸を編糸に含む自動車天井内装用の編物。
(1)前記外周吐出孔群に属する前記第一吐出孔の数と前記第二吐出孔の数との合計が12以上50以下であって、前記外周吐出孔群において隣接して設けられている少なくとも二つの前記第一吐出孔からなる第一吐出孔領域の数と、前記外周吐出孔群において隣接して設けられている少なくとも二つの前記第二吐出孔からなる第二吐出孔領域の数と、の合計が2以上13以下である。
(2)前記外周吐出孔群に属する前記第一吐出孔の数と前記第二吐出孔の数との合計が51以上300以下であって、前記外周吐出孔群において隣接して設けられている少なくとも三つの前記第一吐出孔からなる第一吐出孔領域の数と、前記外周吐出孔群において隣接して設けられている少なくとも三つの前記第二吐出孔からなる第二吐出孔領域の数と、の合計が2以上50以下である。
【請求項2】
前記編糸の全てが前記原着糸である請求項1に記載の自動車天井内装用の編物。
【請求項3】
前記原着糸と、その他の糸と、を前記編糸に含む請求項1に記載の自動車天井内装用の編物。
【請求項4】
前記原着糸の単糸の繊度が30デシテックス以上180デシテックス以下である請求項1に記載の自動車天井内装用の編物。
【請求項5】
前記原着糸の単糸を構成するフィラメントの数が12以上300以下である請求項1に記載の自動車天井内装用の編物。
【請求項6】
前記原着糸の外側において、前記第一フィラメントの数が前記第二フィラメントの数より多い請求項
5に記載の自動車天井内装用の編物。
【請求項7】
前記第一フィラメントが占める割合が50%より大きく85%以下である請求項
5に記載の自動車天井内装用の編物。
【請求項8】
前記原着糸が、前記第一吐出孔の数が前記第二吐出孔の数より多い前記紡糸口金、から吐出されたものである請求項1に記載の自動車天井内装用の編物。
【請求項9】
第一の色の第一フィラメントを吐出する第一吐出孔と、第二の色の第二フィラメントを吐出する第二吐出孔と、を含む複数の吐出孔からなる吐出孔群を備え、
前記吐出孔群の外側に位置する前記第一吐出孔の数が、前記吐出孔群の外側に位置する前記第二吐出孔の数より多
く、
複数の前記吐出孔のうち吐出面の中心からの距離が遠い順に上位50%以内に属する吐出孔の群である外周吐出孔群が以下の(1)または(2)の条件を満たす紡糸口金、を用いて複数色混繊の原着糸を製造する工程、および、
編糸の少なくとも一部に前記原着糸を用いて編物を製造する工程、を含む自動車天井内装用の編物の製造方法。
(1)前記外周吐出孔群に属する前記第一吐出孔の数と前記第二吐出孔の数との合計が12以上50以下であって、前記外周吐出孔群において隣接して設けられている少なくとも二つの前記第一吐出孔からなる第一吐出孔領域の数と、前記外周吐出孔群において隣接して設けられている少なくとも二つの前記第二吐出孔からなる第二吐出孔領域の数と、の合計が2以上13以下である。
(2)前記外周吐出孔群に属する前記第一吐出孔の数と前記第二吐出孔の数との合計が51以上300以下であって、前記外周吐出孔群において隣接して設けられている少なくとも三つの前記第一吐出孔からなる第一吐出孔領域の数と、前記外周吐出孔群において隣接して設けられている少なくとも三つの前記第二吐出孔からなる第二吐出孔領域の数と、の合計が2以上50以下である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車天井内装用の編物、複数色混繊の原着糸、および、複数色混繊の原着糸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の天井の内装材として、繊維材料が従来使用されている。たとえば、編物の例として特開2006-291416号公報(特許文献1)があり、織物(布帛)の例として特開2010-59595号公報(特許文献2)がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-291416号公報
【文献】特開2010-59595号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
自動車の天井は、車内に占める面積が大きいことから車内の雰囲気に与える影響が大きい。そのため天井材は品位に対する要求水準が高い傾向がある。特に、天井全体に均一な一枚布を施工することが求められ傷や色むらなどが許容されにくい点が、天井材の歩留まりの向上を妨げている。特許文献1および特許文献2の発明では、傷や色むらなどが目立ちやすい場合があり、品位の向上が求められていた。
【0005】
そこで、傷や色むらなどが目立ちにくい自動車天井内装用の編物およびその製造方法、の実現が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る自動車天井内装用の編物は、第一の色の第一フィラメントを吐出する第一吐出孔と、第二の色の第二フィラメントを吐出する第二吐出孔と、を含む複数の吐出孔からなる吐出孔群を備え、前記吐出孔群の外側に位置する前記第一吐出孔の数が、前記吐出孔群の外側に位置する前記第二吐出孔の数より多く、複数の前記吐出孔のうち吐出面の中心からの距離が遠い順に上位50%以内に属する吐出孔の群である外周吐出孔群が以下の(1)または(2)の条件を満たす紡糸口金、から吐出されたものである複数色混繊の原着糸を編糸に含むことを特徴とする。
(1)前記外周吐出孔群に属する前記第一吐出孔の数と前記第二吐出孔の数との合計が12以上50以下であって、前記外周吐出孔群において隣接して設けられている少なくとも二つの前記第一吐出孔からなる第一吐出孔領域の数と、前記外周吐出孔群において隣接して設けられている少なくとも二つの前記第二吐出孔からなる第二吐出孔領域の数と、の合計が2以上13以下である。
(2)前記外周吐出孔群に属する前記第一吐出孔の数と前記第二吐出孔の数との合計が51以上300以下であって、前記外周吐出孔群において隣接して設けられている少なくとも三つの前記第一吐出孔からなる第一吐出孔領域の数と、前記外周吐出孔群において隣接して設けられている少なくとも三つの前記第二吐出孔からなる第二吐出孔領域の数と、の合計が2以上50以下である。
【0007】
この構成に係る編物は、自動車の天井に施工された場合に、傷や色むらなどが目立ちにくい。
【0008】
本発明に係る自動車天井内装用の編物の製造方法は、第一の色の第一フィラメントを吐出する第一吐出孔と、第二の色の第二フィラメントを吐出する第二吐出孔と、を含む複数の吐出孔からなる吐出孔群を備え、前記吐出孔群の外側に位置する前記第一吐出孔の数が、前記吐出孔群の外側に位置する前記第二吐出孔の数より多く、複数の前記吐出孔のうち吐出面の中心からの距離が遠い順に上位50%以内に属する吐出孔の群である外周吐出孔群が以下の(1)または(2)の条件を満たす紡糸口金、を用いて複数色混繊の原着糸を製造する工程、および、編糸の少なくとも一部に前記原着糸を用いて編物を製造する工程、を含むことを特徴とする。
(1)前記外周吐出孔群に属する前記第一吐出孔の数と前記第二吐出孔の数との合計が12以上50以下であって、前記外周吐出孔群において隣接して設けられている少なくとも二つの前記第一吐出孔からなる第一吐出孔領域の数と、前記外周吐出孔群において隣接して設けられている少なくとも二つの前記第二吐出孔からなる第二吐出孔領域の数と、の合計が2以上13以下である。
(2)前記外周吐出孔群に属する前記第一吐出孔の数と前記第二吐出孔の数との合計が51以上300以下であって、前記外周吐出孔群において隣接して設けられている少なくとも三つの前記第一吐出孔からなる第一吐出孔領域の数と、前記外周吐出孔群において隣接して設けられている少なくとも三つの前記第二吐出孔からなる第二吐出孔領域の数と、の合計が2以上50以下である。
【0009】
この構成によれば、傷や色むらなどが目立ちにくい自動車天井内装用の編物を提供できる。
【0010】
以下、本発明の好適な態様について説明する。ただし、以下に記載する好適な態様例によって、本発明の範囲が限定されるわけではない。
【0011】
本発明に係る自動車天井内装用の編物は、一態様として、前記編糸の全てが前記原着糸であることが好ましい。
【0012】
この構成によれば、傷や色むらなどが特に目立ちにくい。
【0013】
本発明に係る自動車天井内装用の編物は、一態様として、前記原着糸と、その他の糸と、を前記編糸に含むことが好ましい。
【0014】
この構成によれば、従来の自動車天井内装用の編物と異なる独特の色合いを実現しうる。
【0015】
本発明に係る自動車天井内装用の編物は、一態様として、前記原着糸の単糸の繊度が30デシテックス以上180デシテックス以下であることが好ましい。
【0016】
この構成によれば、従来広く使用されている自動車天井内装用の編物と同等の目付の編物を提供しやすい。
【0017】
本発明に係る自動車天井内装用の編物は、一態様として、前記原着糸の単糸を構成するフィラメントの数が12以上300以下であることが好ましい。
【0018】
この構成によれば、傷や色むらなどが特に目立ちにくい。
【0021】
本発明に係る自動車天井内装用の編物は、一態様として、前記原着糸の外側において、前記第一フィラメントの数が前記第二フィラメントの数より多いことが好ましい。
【0022】
この構成によれば、編物の色合いに二種類のフィラメントの色が混ざった印象を与えやすい。このとき、傷や色むらなどが特に目立ちにくい。
【0023】
本発明に係る自動車天井内装用の編物は、一態様として、前記第一フィラメントが占める割合が50%より大きく85%以下であることが好ましい。
【0024】
この構成によれば、編物の色合いに二種類のフィラメントの色が混ざった印象を与えやすい。このとき、傷や色むらなどが特に目立ちにくい。
【0025】
本発明に係る自動車天井内装用の編物は、一態様として、前記原着糸が、前記第一吐出孔の数が前記第二吐出孔の数より多い前記紡糸口金、から吐出されたものであることが好ましい。
【0026】
この構成によれば、編物の色合いに二種類のフィラメントの色が混ざった印象を与えやすい。このとき、傷や色むらなどが特に目立ちにくい。
【0029】
本発明のさらなる特徴と利点は、図面を参照して記述する以下の例示的かつ非限定的な実施形態の説明によってより明確になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図4】第一の変形例に係る紡糸口金の平面図である。
【
図5】第二の変形例に係る紡糸口金の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明に係る自動車天井内装用の編物および複数色混繊の原着糸の実施形態について、図面を参照して説明する。以下では、複数色混繊の原着糸1、および、原着糸1を編糸に含む自動車天井内装用の編物2、を例として説明する。ここで原着糸1は本発明に係る複数色混繊の原着糸の一実施形態であり、編物2は本発明に係る自動車天井内装用の編物の一例である。
【0032】
〔原着糸の構成〕
本実施形態に係る原着糸1は、二色混繊の原着糸であり、第一の色の第一フィラメント11と、第二の色の第二フィラメント12と、を含む(
図1)。なお、本発明において原着糸が三色以上の混繊であることは妨げられないが、ここでは簡単のため二色混繊の場合を例として説明する。また、原着糸は、紡糸された糸そのものであってもよいし、紡糸された糸が複数本束ねられたものであってもよい。本願の明細書および特許請求の範囲では、両者を区別するため、紡糸された糸そのものである原着糸、すなわち紡糸されたあと束ねられることなく編糸として使用される原着糸を、原着糸の単糸という。
【0033】
二種類のフィラメントを区別する「第一」および「第二」は、原着糸1に含まれる数が多い順に第一、第二、と付している。すなわち第一フィラメント11の数は、第二フィラメント12の数と同じであるか、または第二フィラメント12の数より多い。
【0034】
第一フィラメント11の色(第一の色)と第二フィラメント12の色(第二の色)との組合せは、互いに異なる色である限りにおいて限定されないが、第一の色と第二の色との色相差が、CIE(国際照明委員会)L*a*b*表色系におけるD65光源を用いた視野角10度の条件での測色結果から算出された△E*が30以上であると、原着糸1の色合いを意図的に不均一にする上で有利である。たとえば、濃色の原着糸1を得る場合は、原着糸1に含まれる数が多い第一フィラメント11の色である第一の色を濃色とすればよく、第二の色によって原着糸1の色合いを調整できる。特に、第二の色が淡色であると、複数の色が混ざりあった色合いの原着糸1を実現しやすく、これを編物2に用いると傷や色むらが目立ちにくい。同様に、淡色の原着糸1を得る場合は、第一の色を淡色とし、第二の色を原着糸1の所望の色合いに応じて選択すればよい。この場合は、第二の色が濃色であることが好ましい。また、中間色の原着糸1を得る場合は、たとえば第一の色および第二の色の一方を濃色とし他方を淡色とすればよく、第一フィラメント11の数と第二フィラメント12の数とが同じであることがより好ましい。このように、第一の色と第二の色との組合せ次第で、原着糸1の色合いを自由に調整できる。ただし、原着糸1の色は、各フィラメントの色のみではなく、原着糸1の全体における各フィラメントの割合、および、原着糸1の外側13における各フィラメントの割合、にも影響されうる。これらの要素を適宜選択することで、所望の色合いの原着糸1を得ることができる。
【0035】
原着糸1の単糸の繊度は、30デシテックス以上180デシテックス以下であることが好ましい。原着糸1の単糸の繊度が30デシテックス以上あると、第一の色と第二の色との色差を表現しやすい。原着糸1の単糸の繊度が180デシテックス以下であると、天井用の編物として使用する太さとして適しており、単糸で用いることも複数本合わせて用いることも可能である。
【0036】
原着糸1の単糸を構成するフィラメントの数は、12以上300以下であることが好ましい。原着糸1を構成するフィラメントの数が、12以上であると、第一フィラメントの色と第二フィラメントの色の色差を表現しやすい。原着糸1を構成するフィラメントの数が300以下であると、天井用の編物としての使用に好適である。
【0037】
図1では、原着糸1を構成するフィラメントの数が36であり、第一フィラメント11の数が21であり、第二フィラメント12の数が15である場合を例示している。この例では、原着糸1において第一フィラメント11が占める割合は58%である。
図1の例のように、原着糸1において第一フィラメント11が占める割合が50%より大きいことが好ましい。第一フィラメント11が占める割合が50%より大きいと、原着糸1の色合いを意図的に不均一にする上で有利である。原着糸1において第一フィラメント11が占める割合の上限は特に限定されないが、85%以下が好ましく、67%以下がより好ましい。
【0038】
図1では、原着糸1の外側13において、第一フィラメント11の数が12であり、第二フィラメント12の数が4である。ここで原着糸1の外側13とは、原着糸1を構成するフィラメントのうち最も外側にある部分をいう。
図1の例のように、原着糸1の外側13において、第一フィラメント11の数が第二フィラメント12の数より多いことが好ましい。この構成は、原着糸1の色合いを意図的に不均一にする上で有利である。なお、原着糸1の外側13において第一フィラメント11が占める割合が50%より大きいことがより好ましい。原着糸1の外側13において第一フィラメント11が占める割合の上限は特に限定されないが、たとえば85%以下でありうる。
【0039】
原着糸1の外側13と内側14とを比較すると、原着糸1の外観に与える影響は外側13の方が大きい。そのため、原着糸1の色合いは、原着糸1の全体において第一フィラメント11が占める割合よりも、外側13において第一フィラメント11が占める割合により強い影響を受ける。そのため、外側13における二種類のフィラメントの割合は原着糸1の色合いを所望のものとするために必要な割合とすることが望まれるが、内側14における二種類のフィラメントの割合は、色合い以外の要求に基づいて決定されてもよい。たとえば、外側13における所望の割合を実現することと、溶融紡糸法による原着糸1の製造において二種類のフィラメントの吐出圧のバランスを取ることと、を両立できるように、内側14における二種類のフィラメントの割合が決定されうる。
【0040】
〔原着糸の製造方法〕
本実施形態に係る原着糸1の製造方法は、紡糸口金3を用いる溶融紡糸法による。紡糸口金3は、第一フィラメント11を吐出する第一吐出孔31と、第二フィラメント12を吐出する第二吐出孔32と、を含む吐出孔群33を備える。
【0041】
図2の例では、第一吐出孔31が21個、第二吐出孔32が15個設けられており、36個の吐出孔が吐出孔群33を構成する例を示している。吐出孔群33を構成する吐出孔の数は原着糸1のフィラメントの数と一致し、第一吐出孔31の数は第一フィラメント11の数と一致し、第二吐出孔32の数は第二フィラメント12の数と一致する。なお、原着糸1のフィラメントの数が36に限定されないことと同様に、紡糸口金3における吐出口の数も36に限定されない。
【0042】
図2の例のように、第一吐出孔31の数が第二吐出孔32の数より多いことが好ましい。
図2の例では、第一吐出孔31の占有率は58%である。この例のように、第一吐出孔31の占有率が50%より大きいことが好ましい。第一吐出孔31の占有率が50%より大きいと、原着糸1の色合いを意図的に不均一にする上で有利である。紡糸口金3において第一吐出孔31の占有率の上限は特に限定されないが、第一吐出孔31の占有率が85%以下であると、原着糸1の色合いを意図的に不均一にする上で有利である。また、第一吐出孔31の占有率が67%以下であると、原着糸1の生産安定性の面が向上するため、より好適である。
【0043】
図2の例では、吐出孔群33の外側に位置する第一吐出孔31が12個であり、吐出孔群33の外側に位置する第二吐出孔32が4個である。これらの数はそれぞれ、原着糸1の外側13における第一フィラメント11の数および第二フィラメント12の数とそれぞれ一致する。なお、外側に位置する吐出孔とは、紡糸口金3の吐出面の中心Oから延び特定の吐出孔と接する二本の半直線に挟まれる領域に、当該特定の吐出孔よりも中心Oから遠い位置に他の吐出孔が存在しない場合の、当該特定の吐出孔をいう。たとえば
図2の例では、第一吐出孔31aは上記の条件を満たし、第一吐出孔31bおよび第一吐出孔31cは上記の条件を満たさない。
【0044】
また、紡糸口金3において、吐出孔群33を構成する複数の吐出孔(本実施形態では36個)のうち紡糸口金3の吐出面の中心からの距離が遠い順に上位50%以内(本実施形態では18個以内)に属する吐出孔の群である外周吐出孔群が、以下に述べる第一の条件または第二の条件を満たすことが好ましい。
【0045】
第一の条件は、外周吐出孔群に属する第一吐出孔31の数と第二吐出孔32の数との合計が12以上50以下であって、外周吐出孔群において隣接して設けられている少なくとも二つの第一吐出孔31からなる第一吐出孔領域34の数と、外周吐出孔群において隣接して設けられている少なくとも二つの第二吐出孔32からなる第二吐出孔領域35の数と、の合計が2以上13以下であることにある。
図2は第一の条件を満たす例である。
図2の紡糸口金3は、13個の第一吐出孔31からなる第一吐出孔領域34を一つ有し、5個の第二吐出孔32からなる第二吐出孔領域35を一つ有する。すなわち第一吐出孔領域34の数と第二吐出孔領域35の数との合計は2である。
【0046】
第二の条件は、外周吐出孔群に属する第一吐出孔31の数と第二吐出孔32の数との合計が51以上300以下であって、外周吐出孔群において隣接して設けられている少なくとも三つの第一吐出孔31からなる第一吐出孔領域34の数と、外周吐出孔群において隣接して設けられている少なくとも三つの第二吐出孔32からなる第二吐出孔領域35の数と、の合計が2以上50以下であることにある。第二の条件は、第一の条件が適用される場合に比べて吐出孔の数が多い紡糸口金3が使用される場合に適用される条件である。そのため、第一吐出孔31および第二吐出孔32がまとまりをもって配置されているとみなす下限の数を第一の条件より大きい数に設定している。
【0047】
上記のいずれの場合も、第一吐出孔領域34の数と第二吐出孔領域35の数との合計が所定の範囲にあると、原着糸1の色合いを意図的に不均一にする上で有利である。すなわち、互いに異なる色のフィラメントを吐出する第一吐出孔31と第二吐出孔32を、吐出孔群33の外側においてそれぞれ均一に分散させるのではなく、ある程度の数ずつまとめて配置すると、得られる原着糸1において色合いが不均一な印象を実現しやすい。
【0048】
〔編物の構成〕
本実施形態に係る編物2は、原着糸1を編糸に含む編物である(
図3)。編物の種類は特に限定されず、経編(トリコット、ダブルラッセルなど)であってもよいし、緯編(ジャージなど)であってもよい。
【0049】
編物2を構成する編糸は、少なくとも一部に原着糸1を含む限りで限定されない。すなわち編物2は、一種類の原着糸1によって編まれてもよいし、複数種類の原着糸1によって編まれてもよいし、一種類または複数種類の原着糸1および一種類または複数種類の他の糸によって編まれてもよい。ここで他の糸は特に限定されず、たとえば単色の原着糸、先染め糸、白生地糸などでありうる。
【0050】
上記の実施形態に係る原着糸1は、意図的に不均一な色合いを持たせたものである。編物2を構成する編糸の少なくとも一部を原着糸1とすることによって、編物2の傷や色むらなどが目立ちにくい。この効果は、編物2を構成する編糸の全てが原着糸1である場合に特に好適に発現する。編物2を自動車の天井の内装に用いることで、品位の高い内装を実現できる。
【0051】
また、編物2を構成する編糸の一部を原着糸1とし、残りをその他の糸としてもよい。この場合、たとえばその他の糸を原着糸1と異なる系統の色の単色原着糸とすると、編物2において、原着糸1の色の中に単色原着糸の色が混在する独特の色合いを表現することができる。従来の自動車天井内装用の編物は一般的に反染めの手法で製造されるため、複数の色が混在する色合いの表現は難しかった。すなわち本実施形態によれば、従来の自動車天井内装用の編物では実現できない独特の色合いを実現できる。
【0052】
編物2を構成する編糸の一部を原着糸1とする場合は、編物2を構成している組織構成面のうちの24%以上を占める部分を原着糸1とすることが好ましい。
【0053】
〔変形例〕
第一の変形例に係る紡糸口金3Aを
図4に示す。紡糸口金3Aでは、第一吐出孔31および第二吐出孔が18個ずつ設けられている。紡糸口金3Aにおいて、吐出孔群33の外側に位置する第一吐出孔31は11個であり、吐出孔群33の外側に位置する第二吐出孔32は5個である。紡糸口金3Aを用いて製造される原着糸(不図示)は、第一フィラメントおよび第二フィラメントを18本ずつ含む。当該原着糸の外側において、第一フィラメントの数は11であり、第二フィラメントの数は5である。
【0054】
第二の変形例に係る紡糸口金3Bを
図5に示す。紡糸口金3Bは、第一吐出孔31および第二吐出孔が18個ずつ設けられている点では第一の変形例と同様であるが、第一吐出孔31および第二吐出孔32の配置が異なる。紡糸口金3Bでは、吐出孔群33の外側に位置する第一吐出孔31および第二吐出孔32がいずれも8個で同数である。紡糸口金3Bを用いて製造される原着糸(不図示)は、第一フィラメントおよび第二フィラメントを18本ずつ含む。当該原着糸の外側において、第一フィラメントの数は8であり、第二フィラメントの数も8である。
【0055】
これらの変形例に係る紡糸口金から吐出された原着糸も、複数色(二色)混繊の原着糸であり、本発明に係る自動車天井内装用の編物の編糸として使用できる。
【0056】
〔その他の実施形態〕
上記の実施形態では、二色混繊の原着糸1を例として説明した。しかし、本発明において原着糸が三色以上の混繊であることは妨げられない。たとえば、原着糸が、第一の色の第一フィラメントと、第二の色の第二フィラメントと、第三の色の第三フィラメントと、を含む場合において、第一の色と第二の色とが同系色(主色と称する。)の濃色と淡色との組合せであり、第三の色が第一の色および第二の色と異なる系統の色(異色と称する。)であると、自動車天井内装用の編物において、主色にわずかな異色が混在する独特の色合いを表現することができる。この独特の色合いの実現が従来の自動車天井内装用の編物において難しいことは上述の通りである。すなわち当変形例によれば、従来の自動車天井内装用の編物では実現できない独特の色合いを実現できる。
【0057】
本発明に係る自動車天井内装用の編物は、複数の吐出孔を有し、前記複数の吐出孔のうち外側に位置する吐出孔である外周吐出孔が、第一の色の第一フィラメントを吐出する第一外周吐出孔と、第二の色の第二フィラメントを吐出する第二外周吐出孔と、を含み、前記第一外周吐出孔の数が、前記第二外周吐出孔の数より多い紡糸口金、から吐出された複数色混繊の原着糸を編糸に含む編物でありうる。
【0058】
本発明に係る複数色混繊の原着糸は、第一の色の第一フィラメントを吐出する第一吐出孔と、第二の色の第二フィラメントを吐出する第二吐出孔と、を含む複数の吐出孔からなる吐出孔群を備え、前記吐出孔群の外側に位置する前記第一吐出孔の数が、前記吐出孔群の外側に位置する前記第二吐出孔の数より多い紡糸口金、から吐出された複数色混繊の原着糸でありうる。この構成によれば、傷や色むらなどが目立ちにくい自動車天井内装用の編物に特に好適な原着糸を提供できる。
【0059】
本発明に係る複数色混繊の原着糸の製造方法は、複数の吐出孔を有し、前記複数の吐出孔のうち外側に位置する吐出孔である外周吐出孔が、第一の色の第一フィラメントを吐出する第一外周吐出孔と、第二の色の第二フィラメントを吐出する第二外周吐出孔と、を含み、前記第一外周吐出孔の数が、前記第二外周吐出孔の数より多い紡糸口金、を用いる製造方法でありうる。この構成によれば、傷や色むらなどが目立ちにくい自動車天井内装用の編物に特に好適な原着糸を提供できる。
【0060】
その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で例示であって、本発明の範囲はそれらによって限定されることはないと理解されるべきである。当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜改変が可能であることを容易に理解できるであろう。したがって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で改変された別の実施形態も、当然、本発明の範囲に含まれる。
【実施例】
【0061】
以下では実施例を示して本発明をさらに説明する。ただし以下の実施例は本発明を限定しない。
【0062】
〔試料の作成〕
実施例1~9の各例において、紡糸口金3(
図2)、紡糸口金3A(
図4)、および紡糸口金3B(
図5)のいずれかを用いて原着糸を紡糸した。それぞれの実施例において用いた紡糸口金、ならびに、第一フィラメントおよび第二フィラメントの測色結果および色相差を、後掲の表1に示している。得られた原着糸を単糸で用いて編物を作成した。作成した編物から10cm×10cmの試料を切り出して混色感評価に供した。なお、比較例として全てのフィラメントを同じ色のものにした試料を作成し、同様に評価を行った。
【0063】
〔混色感評価〕
15人の試験官による官能評価による混色感評価を行った。試料を平らな台の上に置き、それぞれの試験官が試料を、試料の上方斜め45度、離間距離30cmの位置から目視で観察した。試験官が試料に二色の色を視認できた場合は混色感ありと判定し、視認できなかった場合は混色感なしと判定した。15人の試験官のうち混色感ありと判定した人数に応じて、以下の三水準で試料を評価した。
A:混色感ありと判定した試験官が12人以上
B:混色感ありと判定した試験官が9人以上11人以下
C:混色感ありと判定した試験官が4人以上8人以下
D:混色感ありと判定した試験官が3人以下
【0064】
〔結果〕
実施例および比較例の各例の製造条件および評価結果を表1に示す。表1に示すように、実施例1~9のいずれにおいても混色感が認められる編物が得られた。このうち、紡糸口金3(
図2)を用いた実施例1~3において特に混色感が認められやすかった。
【0065】
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、たとえば自動車の天井の内装に利用できる。
【符号の説明】
【0067】
1 :原着糸
11 :第一フィラメント
12 :第二フィラメント
13 :外側
14 :内側
2 :編物
3 :紡糸口金
21 :第二フィラメント
31 :第一吐出孔
32 :第二吐出孔
33 :吐出孔群
34 :第一吐出孔領域
35 :第二吐出孔領域
3A :紡糸口金(変形例)
【要約】
【課題】自動車天井内装用の編物において、傷や色むらなどを目立ちにくくする。また、当該編物に特に好適な原着糸およびその製造方法を実現する。
【解決手段】本発明に係る自動車天井内装用の編物は、複数色混繊の原着糸1を編糸に含むことを特徴とする。
【選択図】
図1