(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-07
(45)【発行日】2024-11-15
(54)【発明の名称】トンネルの打設コンクリートの養生方法及びそれに用いる養生システム
(51)【国際特許分類】
E21D 11/10 20060101AFI20241108BHJP
E04G 21/02 20060101ALI20241108BHJP
【FI】
E21D11/10 Z
E04G21/02 104
(21)【出願番号】P 2024139492
(22)【出願日】2024-08-21
【審査請求日】2024-08-21
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390036515
【氏名又は名称】株式会社鴻池組
(73)【特許権者】
【識別番号】596007979
【氏名又は名称】大栄工機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141586
【氏名又は名称】沖中 仁
(74)【代理人】
【識別番号】100102211
【氏名又は名称】森 治
(72)【発明者】
【氏名】為石 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】金澤 優樹
(72)【発明者】
【氏名】若林 宏彰
(72)【発明者】
【氏名】北野 敬太
(72)【発明者】
【氏名】小松原 大
(72)【発明者】
【氏名】桂 康介
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 猛彦
(72)【発明者】
【氏名】坂田 晴紀
(72)【発明者】
【氏名】江崎 孝二
(72)【発明者】
【氏名】田中 俊治
【審査官】湯本 照基
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-102774(JP,A)
【文献】特開平10-102773(JP,A)
【文献】特開2012-062667(JP,A)
【文献】特開2017-014734(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 11/10
E04G 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネルの打設コンクリートの表面に当接される保水養生シートに沿って有孔導管を敷設するとともに、該保水養生シートの背面側に内部に気体を充填することで保水養生シートの表面を打設コンクリートの表面に当接させる押圧手段を配設するようにするトンネルの打設コンクリートの養生方法において、前記有孔導管から水を供給することで、保水養生シートを水を含んだ湿潤状態にした後、押圧手段の内部に気体を充填することで保水養生シートの表面を打設コンクリートの表面に当接させるようにすることを特徴とするトンネルの打設コンクリートの養生方法。
【請求項2】
前記有孔導管からケイ酸塩を含有する水を供給することで、保水養生シートをケイ酸塩を含有する水を含んだ湿潤状態にすることを特徴とする請求項1に記載のトンネルの打設コンクリートの養生方法。
【請求項3】
前記有孔導管から水又はケイ酸塩を含有する水を供給する前に、トンネルの側方側の押圧手段の内部に気体を充填することで保水養生シートの表面をトンネルの側方側の打設コンクリートの表面に当接させるようにし、その後、有孔導管から水を供給することで、保水養生シートを水を含んだ湿潤状態にした後、トンネルの側方より上方側の押圧手段の内部に気体を充填することで保水養生シートの表面を打設コンクリートの表面に当接させるようにすることを特徴とする請求項1又は2に記載のトンネルの打設コンクリートの養生方法。
【請求項4】
トンネルの打設コンクリートの表面に当接される保水養生シートに沿って有孔導管を敷設するとともに、該保水養生シートの背面側に内部に気体を充填することで保水養生シートの表面を打設コンクリートの表面に当接させる押圧手段を配設するようにするトンネルの打設コンクリートの養生システムにおいて、前記有孔導管を、トンネルの長手方向になるように、かつ、保水養生シートの表面側に敷設するようにすることを特徴とするトンネルの打設コンクリートの養生システム。
【請求項5】
前記有孔導管を、液体噴出孔が、打設コンクリートの表面に向くように敷設するようにすることを特徴とする請求項4に記載のトンネルの打設コンクリートの養生システム。
【請求項6】
前記有孔導管から水を供給することで、保水養生シートを水を含んだ湿潤状態にすることを特徴とする請求項4又は5に記載のトンネルの打設コンクリートの養生システム。
【請求項7】
前記有孔導管からケイ酸塩を含有する水を供給することで、保水養生シートをケイ酸塩を含有する水を含んだ湿潤状態にすることを特徴とする請求項6に記載のトンネルの打設コンクリートの養生システム。
【請求項8】
前記有孔導管からコンクリート表面養生剤、コンクリート収縮低減剤及びコンクリート表面含浸剤の少なくとも一種を含有する液体を供給することで、保水養生シートを当該液体を含んだ湿潤状態にすることを特徴とする請求項4又は5に記載のトンネルの打設コンクリートの養生システム。
【請求項9】
前記保水養生シート、有孔導管及び押圧手段を配設した養生台車を複数台連ねて配置し、移動方向前方の養生台車の有孔導管から水又はケイ酸塩を含有する水を供給することで、保水養生シートを水又はケイ酸塩を含有する水を含んだ湿潤状態にするとともに、移動方向後方の養生台車の有孔導管からコンクリート表面養生剤、コンクリート収縮低減剤及びコンクリート表面含浸剤の少なくとも一種を含有する液体を供給することで、保水養生シートを当該液体を含んだ湿潤状態にすることを特徴とする請求項4又は5に記載のトン
ネルの打設コンクリートの養生システム。
【請求項10】
前記保水養生シートにケイ酸塩を含有させたシート材を用いることで、保水養生シートをケイ酸塩を含有する水を含んだ湿潤状態にすることを特徴とする請求項4又は5に記載のトンネルの打設コンクリートの養生システム。
【請求項11】
前記保水養生シートが、帯状のシート材を縫製方向がトンネルの長手方向になるように縫製したものからなることを特徴とする請求項4又は5に記載のトンネルの打設コンクリートの養生システム。
【請求項12】
前記保水養生シートが、表面側から、少なくとも、シーチング、不織布及び防水層を備えることを特徴とする請求項4又は5に記載のトンネルの打設コンクリートの養生システム。
【請求項13】
前記有孔導管を、保水養生シートのシーチングの表面に沿って敷設するようにすることを特徴とする請求項12に記載のトンネルの打設コンクリートの養生システム。
【請求項14】
前記有孔導管を、保水養生シートのシーチングと不織布の間に敷設するようにすることを特徴とする請求項12に記載のトンネルの打設コンクリートの養生システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネルの打設コンクリートの養生方法及びそれに用いる養生システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、コンクリートを打設してトンネル(覆工コンクリート)を構築する場合、養生中のコンクリートの表面から水分が蒸発し、本来の水和反応に必要な水分が失われて、養生後のコンクリートの圧縮強度が低下したり、ひび割れが生じたりするという問題があった。
【0003】
これを防止するために、養生中のコンクリートの表面に、不織布や合成樹脂製の保水養生シートを敷設し、養生中のコンクリートの表面から蒸発する水分の量を低減させること(例えば、特許文献1~3参照。)や、トンネルの打設コンクリートの表面に当接される保水養生シートに沿って有孔導管を敷設するとともに、該保水養生シートの背面側に内部に気体を充填することで保水養生シートの表面を打設コンクリートの表面に当接させる押圧手段を配設するようにすること(例えば、特許文献4参照。)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平10-61184号公報
【文献】特開2013-245526号公報
【文献】特開2017-14734号公報
【文献】特開平10-102773号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献4で提案された技術は、保水養生装置を用いて、養生中のコンクリートの表面に保水養生シートを敷設、当接するとともに、有孔導管から保水養生シートに水を供給することで、保水養生シートを湿潤状態にし、散水を頻繁に行わなくてもコンクリート面の湿潤状態を維持することができるものであった。
【0006】
本発明は、上記従来のトンネルの打設コンクリートの養生に用いられる保水養生シートや保水養生装置の利点を享有しながら、確実にコンクリート面の湿潤状態を維持することを可能にすることで、養生後のコンクリートの圧縮強度が低下したり、ひび割れが生じたりするという問題を解消できるようにしたトンネルの打設コンクリートの養生方法及びそれに用いる養生システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明のトンネルの打設コンクリートの養生方法は、トンネルの打設コンクリートの表面に当接される保水養生シートに沿って有孔導管を敷設するとともに、該保水養生シートの背面側に内部に気体を充填することで保水養生シートの表面を打設コンクリートの表面に当接させる押圧手段を配設するようにするトンネルの打設コンクリートの養生方法において、前記有孔導管から水又はケイ酸塩を含有する水を供給することで、保水養生シートを水又はケイ酸塩を含有する水を含んだ湿潤状態にした後、押圧手段の内部に気体を充填することで保水養生シートの表面を打設コンクリートの表面に当接させるようにすることを特徴とする。
【0008】
この場合において、前記有孔導管から水又はケイ酸塩を含有する水を供給する前に、トンネルの側方側の押圧手段の内部に気体を充填することで保水養生シートの表面をトンネルの側方側の打設コンクリートの表面に当接させるようにし、その後、有孔導管から水を供給することで、保水養生シートを水を含んだ湿潤状態にした後、トンネルの側方より上方側の押圧手段の内部に気体を充填することで保水養生シートの表面を打設コンクリートの表面に当接させるようにすることができる。
【0009】
また、上記目的を達成するため、本発明のトンネルの打設コンクリートの養生方法に用いる養生システムは、トンネルの打設コンクリートの表面に当接される保水養生シートに沿って有孔導管を敷設するとともに、該保水養生シートの背面側に内部に気体を充填することで保水養生シートの表面を打設コンクリートの表面に当接させる押圧手段を配設するようにするトンネルの打設コンクリートの養生システムにおいて、前記有孔導管を、トンネルの長手方向になるように、かつ、保水養生シートの表面側に敷設するようにすることを特徴とする。
【0010】
この場合において、前記有孔導管を、液体噴出孔が、打設コンクリートの表面に向くように敷設するようにすることができる。
【0011】
また、前記有孔導管から水又はケイ酸塩を含有する水を供給することで、保水養生シートを水又はケイ酸塩を含有する水を含んだ湿潤状態にすることができる。
【0012】
また、前記有孔導管からコンクリート表面養生剤、コンクリート収縮低減剤及びコンクリート表面含浸剤の少なくとも一種を含有する液体を供給することで、保水養生シートを当該液体を含んだ湿潤状態にすることができる。
【0013】
また、前記保水養生シート、有孔導管及び押圧手段を配設した養生台車を複数台連ねて配置し、移動方向前方の養生台車の有孔導管から水又はケイ酸塩を含有する水を供給することで、保水養生シートを水又はケイ酸塩を含有する水を含んだ湿潤状態にするとともに、移動方向後方の養生台車の有孔導管からコンクリート表面養生剤、コンクリート収縮低減剤及びコンクリート表面含浸剤の少なくとも一種を含有する液体を供給することで、保水養生シートを当該液体を含んだ湿潤状態にすることができる。
【0014】
また、前記保水養生シートにケイ酸塩を含有させたシート材を用いることで、保水養生シートをケイ酸塩を含有する水を含んだ湿潤状態にすることができる。
【0015】
また、前記保水養生シートが、帯状のシート材を縫製方向がトンネルの長手方向になるように縫製したものからなるようにすることができる。
【0016】
また、前記保水養生シートが、表面側から、少なくともシーチング、不織布及び防水層を備えたものからなるようにすることができる。
【0017】
前記有孔導管を、保水養生シートのシーチングの表面に沿って又はシーチングと不織布の間に敷設するようにすることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明のトンネルの打設コンクリートの養生方法及びそれに用いる養生システムによれば、確実にコンクリート面の湿潤状態を維持することを可能にすることで、養生後のコンクリートの圧縮強度が低下したり、ひび割れが生じたりするという問題を解消することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明のトンネルの打設コンクリートの養生システムを、セントル(アーチ部覆工型枠)を用いて構築されるトンネルの打設コンクリート(覆工コンクリート)の養生に適用した一実施例を示す説明図である。
【
図2】同トンネルの打設コンクリートの養生システムに用いる養生台車を示す断面図である。
【
図4】同トンネルの打設コンクリートの養生システムに用いる養生台車を示す側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明のトンネルの打設コンクリートの養生方法及びそれに用いる養生システムの実施の形態を、セントル(アーチ部覆工型枠)を用いて構築されるトンネルの打設コンクリート(覆工コンクリート)を養生する場合を例にして説明する。
【0021】
図1~
図4に示すように、本発明のトンネルの打設コンクリートの養生システムは、セントル1を用いて構築したトンネルの打設コンクリート2の表面に当接される保水養生シート3に沿って有孔導管4を敷設するとともに、保水養生シート3の背面側に内部に気体を充填することで保水養生シート3の表面を打設コンクリート2の表面に当接させる押圧手段5を養生台車6に配設するようにしている。
【0022】
養生台車6は、トンネルの長手方向の長さがセントル1の長さL1(本実施例においては、10.5m。)とそれぞれが同じ単位長さL6(本実施例においては、10.5m。)に独立して形成された支持構造体を備えてなり、この養生台車6を複数台(本実施例においては、3台。)連ねて配置して、セントル1と共に、レール7上を移動できるようにしている。
これにより、セントル1を用いて構築し、脱型された打設コンクリート2を、複数台の養生台車6で、順次養生するようにしている。
【0023】
養生台車6には、支持構造体に設けた支持フレーム61、62を介して、押圧手段5としての空気チューブ(バルーン)を略馬蹄形になるように湾曲形成して複数並設するようにし、その外側に保水養生シート3を配置して、保水養生シート3が背面側を押圧手段5によって支持されるようにしている。
【0024】
有孔導管4は、トンネルの長手方向になるように、かつ、保水養生シート3の表面側に、そして、有孔導管4の液体噴出孔が打設コンクリート2の表面に向くように敷設するようにする。
これにより、後述のように、保水養生シート3の表面を打設コンクリート2の表面に当接させるようにする前に、有孔導管4から水等の液体を供給したときに、液体が流れ落ちることなく保水養生シート3に含浸させて、保水養生シート3を当該液体を均一に含んだ湿潤状態にすることができる。
有孔導管4は、養生台車6の大きさに応じた本数を、有孔導管4の液体噴出孔から噴出した液体の重力による流下を考慮して、養生台車6の上部を中心に敷設するようにする。具体的には、本実施例においては、中心線上、中心線から±5~10°の範囲及び中心線から±25~30°の範囲に合計5本、さらに、必要に応じて、中心線から±50~60°の範囲に合計7本の有孔導管4を敷設するようにする。
これにより、有孔導管4の液体噴出孔から供給する液体、具体的には、水やケイ酸塩を含有する水によって、打設コンクリート2の表面に当接される保水養生シート3の全面を均一に湿潤状態にすることができる。
【0025】
保水養生シート3は、帯状(例えば、幅:1.1m。)のシート材を縫製方向がトンネルの長手方向になるように縫製(縦断縫製)したもの(例えば、幅:20m、長さ:養生台車6の長さ。)からなるようにしている。
これにより、有孔導管4の液体噴出孔から噴出した液体が、保水養生シート3の縫製した合わせ目に沿って水平方向に分散することで、打設コンクリート2の表面に当接される保水養生シート3の全面を均一に湿潤状態にすることができる。
【0026】
保水養生シート3は、表面側から、シーチング(太番手の糸で粗めに織られた織布で、平織生地と比べて通気性に優れているもの。)、不織布及び防水層(ラミネート層及び補強布)を備えたものからなるようにしている。
なお、防水層に、単層で一定の強度を有する材料を用いるようにすることもできる。
これにより、不織布が損耗することをシーチングにより防止することができ、保水養生シート3に耐久性を持たせ、防水層に補強布を備えるようにしたことと相俟って、保水養生シート3を、機械装置を用いて、打設コンクリート2の表面に繰り返し敷設、当接することができる。
【0027】
保水養生シート3の表面を構成する材料にシーチングを用いる場合、有孔導管4を、保水養生シート3のシーチングの表面に沿って敷設したり、シーチングと不織布の間に敷設するようにしたりすることができる。
【0028】
ところで、本件出願人らが特許文献3で提案したように、不織布からなる保水部の表面にフィルムからなる非透水部を積層してなる養生シートに、打設したコンクリートの表面を緻密に改質する改質剤としてのケイ酸塩を含有する水を含浸させ、このケイ酸塩を含有する水を含浸させた養生シートの保水部側の面を、打設したコンクリートの表面に貼着して、コンクリートを養生することにより、養生シートが乾燥したときに、ケイ酸塩が、養生シートとコンクリートとの間に結合力を生じさせ、養生シートが養生中のコンクリートの表面から不用意に剥がれることがなく、養生シートを養生中のコンクリートの表面に長期に亘って密着させることによって、養生中のコンクリートの表面から蒸発、散逸しようとする水分を養生シートにより阻止し、その量を低減させて、養生中のコンクリートの表面を長期間湿潤状態に保つことができ、また、コンクリートの表面にコンクリート構造体に影響を与える残留物が生じることがないことと相俟って、高品質のコンクリート構造体を構築することができる。
【0029】
そこで、本発明のトンネルの打設コンクリートの養生システムにおいても、保水養生シート3、具体的には、保水養生シート3の不織布にケイ酸塩を含有させたシート材を用い、有孔導管4から液体として水を供給することで、保水養生シート3をケイ酸塩を含有する水を含んだ湿潤状態にし、特許文献3で提案した技術と同等の作用を奏することができる。
【0030】
また、有孔導管4からケイ酸塩を含有する水を供給することで、保水養生シート3の不織布にケイ酸塩を含有していないシート材を用いなくても、保水養生シート3をケイ酸塩を含有する水を含んだ湿潤状態にし、特許文献3で提案した技術と同等の作用を奏することもできる。
なお、有孔導管4からケイ酸塩を含有する水を供給する場合でも、保水養生シート3の不織布にケイ酸塩を含有させたシート材を用いることができる。
【0031】
有孔導管4から供給する液体には、ケイ酸塩を含有する水のほか、コンクリート表面養生剤、コンクリート収縮低減剤及びコンクリート表面含浸剤の少なくとも一種を含有する液体を供給することで、保水養生シートを当該液体を含んだ湿潤状態にすることができる。
ここで、コンクリート表面養生剤、コンクリート収縮低減剤及びコンクリート表面含浸剤について説明する。
1.コンクリート表面養生剤
コンクリートの表面から含侵し、コンクリートの表面から水分が蒸発(乾燥)することを抑制するもので、具体的には、以下のとおりのものである。
・ポリアルキレングリコール(ノックス社製「コンクリックエース」(登録商標))
・特殊界面活性剤(ノックス社製「キレックエコ」(商品名))
・水分散系ポリエステル(花王社製「ニュートラックSK」(商品名))
2.コンクリート収縮低減剤
コンクリートの乾燥収縮を抑制するもので、具体的には、以下のとおりのものである。
・低級アルコールのアルキレンオキサイド付加物(太平洋マテリアル社製「クラックセイバー」(商品名))
3.コンクリート表面含侵剤
コンクリートに有害となる塩化物イオン等の侵入を抑制するもので、具体的には、以下のとおりのものである。
・シラン・シロキサン系(大同塗料社製「アクアシール」(登録商標))
これにより、養生後のコンクリートの緻密性を向上したり、ひび割れを低減することで、高品質のコンクリート構造体を構築することができる。
【0032】
そして、養生台車6を複数台連ねて配置する場合は、移動方向前方、例えば、1台目の養生台車6の有孔導管4から水又はケイ酸塩を含有する水を供給することで、保水養生シート3を水又はケイ酸塩を含有する水を含んだ湿潤状態にするとともに、移動方向後方、例えば、2台目及び3代目の養生台車6の有孔導管4からコンクリート表面養生剤、コンクリート収縮低減剤及びコンクリート表面含浸剤の少なくとも一種を含有する液体を供給することで、保水養生シート3を当該液体を含んだ湿潤状態にすることで、各薬剤の効果を享有することができる。
【0033】
このトンネルの打設コンクリートの養生システムを用いてトンネルの打設コンクリートの養生を行う場合、押圧手段5の内部に気体を充填することで保水養生シート3の表面を打設コンクリート2の表面に当接させるようにした後、有孔導管4から液体(水、ケイ酸塩を含有する水、コンクリート表面養生剤又はコンクリート収縮低減剤及びコンクリート表面含浸剤の少なくとも一種を含有する液体)を供給することで、保水養生シート3を当該液体を含んだ湿潤状態にすることができるが、ここでは、有孔導管4から液体(水、ケイ酸塩を含有する水、コンクリート表面養生剤又はコンクリート収縮低減剤及びコンクリート表面含浸剤の少なくとも一種を含有する液体)を供給することで、保水養生シート3を当該液体を含んだ湿潤状態にした後、押圧手段5の内部に気体を充填することで保水養生シート3の表面を打設コンクリート2の表面に当接させるようにするようにする。
これにより、保水養生シート3を湿潤状態にした後、押圧手段5の内部に気体を充填することで保水養生シート3に張力を付与することで、保水養生シート3の表面を、皺のない状態して、打設コンクリート2の表面に当接させることができ、乾燥した状態の保水養生シート3の表面を打設コンクリート2の表面に当接させる場合に、保水養生シート3の表面に発生する皺の問題を解消することができる。
【0034】
このほか、押圧手段5を円周方向で分割し、分割した押圧手段5の内部に選択的に気体を充填することができるように構成しておき、有孔導管4から液体を供給する前に、保水養生シート3の表面に皺が発生しにくい、トンネルの側方側の押圧手段5の内部に気体を充填することで保水養生シート3の表面をトンネルの側方側の打設コンクリート2の表面に当接させるようにし、その後、有孔導管4から液体(水、ケイ酸塩を含有する水、コンクリート表面養生剤又はコンクリート収縮低減剤及びコンクリート表面含浸剤の少なくとも一種を含有する液体)を供給することで、保水養生シート3を当該液体を含んだ湿潤状
態にした後、トンネルの側方より上方側の押圧手段5の内部に気体を充填することで保水養生シート3の表面を打設コンクリート2の表面に当接させるようにするようにすることができる。
これにより、有孔導管4から液体を供給したときに、滴り落ちる養生水の余剰分がトンネルの側方側の位置で保水養生シート3に受け止められて、保水養生シート3に吸収され、滴り落ちる養生水がトンネル路盤を濡らし泥濘化することを防止することができる。
【0035】
次に、本発明のトンネルの打設コンクリートの養生方法及びそれに用いる養生システムについて、実証試験を行った結果を示す。
【0036】
[養生水及びその供給量]
有孔導管4から供給する養生水として、水(浄水)又は水(浄水)にケイ酸塩(ケイ酸カリウム)を溶解させたケイ酸塩水溶液(ケイ酸塩を含有する水)を用いた。
養生水の供給量は、保水養生シートが乾燥状態(初めて使用する時や前回の使用から1週間程度使用しない時)の場合、1台の養生台車6(保水養生シート3の面積:210m2)当たり150リットルとした。
また、養生台車6を移動設置(3回)する際は、シートが湿潤状態を保持しているため、移動設置する毎に、1台の養生台車6(保水養生シート3の面積:210m2)当たり100リットルとした。
これにより、養生水の余剰分が滴り落ちトンネル路盤を濡らし泥濘化することがなく、かつ、保水養生シート3に保水性の高い不織布を用いるようにしたことと相俟って、供給する必要水量を低減することができるとともに、水タンク等の設備のサイズを小さくすることができる。
【0037】
[保水養生シート3の基本構成]
保水養生シート3は、表面側から、表1に示す、シーチング、不織布及び防水層(ラミネート層及び補強布)を備えた4層構造のシートを用いた。
【0038】
【0039】
[養生方法]
表2に示す養生方法で養生を行った。
ここで、7日間養生とは、セントルを用いてトンネルを構築する実際のトンネル工事において、覆工コンクリートを1週間に3回(3スパン)打設することが多く、その場合、3台の養生台車6を用いて、1スパン毎に移動設置することで養生期間が7日間となることを想定している。
【0040】
【0041】
[試験結果]
実証試験の試験結果を表3に示す。
ここで、圧縮強度は、表2に示す養生方法で養生を行った後、材齢28日まで気温20℃湿度60%で静置した圧縮強度試験値(JIS A 1108に準じて圧縮強度試験を実施した。試験体は、円柱供試体(直径100mm、高さ200mm)とし試験体数は1ケースにつき3本とし平均値を試験結果とした。)を、また、透気係数は、トレント法によるコンクリートの表層透気試験値(コンクリートの緻密性を表す試験(値が小さいほど緻密であることを示す。))を示す。
【0042】
【0043】
表3に示す実証試験の試験結果から、No.3及びNo.4(本発明のトンネルの打設コンクリートの養生方法及びそれに用いる養生システムの実施例)、特に、有孔導管4から供給する養生水にケイ酸塩を含有する水を用いたNo.4は、他の養生方法と比較して、養生後のコンクリートの圧縮強度及び緻密性がいずれも良好であることが確認された。
これは、本発明のトンネルの打設コンクリートの養生方法及びそれに用いる養生システムをコンクリートの養生に適用することで、若材齢時において水和反応に必要な水分が供給され、水中養生と同様に水和反応が十分に促進されたことによると考えられる。
【0044】
以上、本発明のトンネルの打設コンクリートの養生方法及びそれに用いる養生システムについて、その実施形態に基づいて説明したが、本発明は上記実施例に記載した実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明のトンネルの打設コンクリートの養生方法及びそれに用いる養生システムは、従来のトンネルの打設コンクリートの養生に用いられる保水養生シートや保水養生装置の利点を享有しながら、確実にコンクリート面の湿潤状態を維持することを可能にすることで、養生後のコンクリートの圧縮強度が低下したり、ひび割れが生じたりするという問題を解消できるものであることから、セントル(アーチ部覆工型枠)を用いて構築されるトンネルの打設コンクリート(覆工コンクリート)を養生する場合を始めとして、トンネルの
打設コンクリートの養生の用途に広く好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0046】
1 セントル(アーチ部覆工型枠)
2 打設コンクリート
3 保水養生シート
4 有孔導管
5 押圧手段
6 養生台車
61 支持フレーム
62 支持フレーム
7 レール
【要約】
【課題】確実にコンクリート面の湿潤状態を維持することを可能にすることで、養生後のコンクリートの圧縮強度が低下したり、ひび割れが生じたりするという問題を解消できるようにしたトンネルの打設コンクリートの養生方法及びそれに用いる養生システムを提供すること。
【解決手段】トンネルの打設コンクリート2の表面に当接される保水養生シート3に沿って有孔導管4を敷設するとともに、保水養生シート3の背面側に内部に気体を充填することで保水養生シート3の表面を打設コンクリート2の表面に当接させる押圧手段5を配設するようにし、有孔導管4を、トンネルの長手方向になるように、かつ、保水養生シート3の表面側に、有孔導管4の液体噴出孔が打設コンクリート2の表面に向くように敷設する。
【選択図】
図1