IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ユニパルス株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-係止装置及び電動バランサの制御方法 図1
  • 特許-係止装置及び電動バランサの制御方法 図2
  • 特許-係止装置及び電動バランサの制御方法 図3
  • 特許-係止装置及び電動バランサの制御方法 図4
  • 特許-係止装置及び電動バランサの制御方法 図5
  • 特許-係止装置及び電動バランサの制御方法 図6
  • 特許-係止装置及び電動バランサの制御方法 図7
  • 特許-係止装置及び電動バランサの制御方法 図8
  • 特許-係止装置及び電動バランサの制御方法 図9
  • 特許-係止装置及び電動バランサの制御方法 図10
  • 特許-係止装置及び電動バランサの制御方法 図11
  • 特許-係止装置及び電動バランサの制御方法 図12
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-07
(45)【発行日】2024-11-15
(54)【発明の名称】係止装置及び電動バランサの制御方法
(51)【国際特許分類】
   B66C 1/42 20060101AFI20241108BHJP
   B66D 3/18 20060101ALI20241108BHJP
   B66D 1/46 20060101ALI20241108BHJP
【FI】
B66C1/42 D
B66D3/18 E
B66D1/46 E
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020127318
(22)【出願日】2020-07-28
(65)【公開番号】P2022024622
(43)【公開日】2022-02-09
【審査請求日】2023-07-19
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和2年7月27日送信の電子メールにて公開
(73)【特許権者】
【識別番号】591156799
【氏名又は名称】ユニパルス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 政数
(72)【発明者】
【氏名】山本 雄
【審査官】須山 直紀
(56)【参考文献】
【文献】実開昭59-195110(JP,U)
【文献】特開2007-001671(JP,A)
【文献】特開2017-149561(JP,A)
【文献】実開昭53-152375(JP,U)
【文献】特開2019-069849(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66C 1/42
B66D 3/18
B66D 1/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
係止装置に係止された荷役物の昇降を行う電動バランサであって、
対をなすアームの開閉によって前記荷役物の係止を自在にする係止部が複数設けられ、当該係止部によって複数の係止がされる前記荷役物の各係止解除として、独立した前記アームの開放をさせる操作部を有する前記係止装置を吊り下げるスリングと、
記憶部と、
プロセッサを有する制御部と、
前記係止装置及び前記荷役物の重量値を検出して前記制御部へ送信する重量検出部と、
前記係止装置の昇降位置を検出して前記制御部へ送信する位置検出部と、
を少なくとも有する前記電動バランサとして構成され、
前記プロセッサは、
前記荷役物と前記係止装置の重量和を登録値として前記記憶部に記憶させる処理と、
前記登録値を基に、前記荷役物及び前記係止装置をバランス状態にさせる処理と、
を少なくとも実行する処理手段であり、
前記制御部は、
前記操作部が操作されたときにおける現在の重量値が、前記登録値から単位時間当りに所定の値を超える減少となる場合に、
現在の前記昇降位置を保持する状態、
若しくは、前記記憶部に前記現在の重量値を新たな登録値として記憶させ、当該新たな登録値を基にした前記バランス状態、
の少なくとも何れかにさせる制御を行うことを特徴とする電動バランサ。
【請求項2】
請求項1に記載の電動バランサは、
さらに、前記重量検出部が検出する重量における単位時間当りの変化の割合であって、所定の減少する重量の変化の割合を予め定めておくことで、前記所定の値を超える減少が起こるかを求められるようにする演算部を備えることを特徴とする。
【請求項3】
荷役物に対する係止又は係止解除をそれぞれ独立して行う複数の係止部を有する係止装置を吊り下げるスリングと、
記憶部と、
プロセッサを有する制御部と、
係止装置及び荷役物の重量値を検出して制御部へ送信する重量検出部と、
係止装置の昇降位置を検出して制御部へ送信する位置検出部と、
を少なくとも有する電動バランサの制御方法であって、
前記プロセッサは、
前記荷役物と前記係止装置の重量和を登録値として前記記憶部に記憶させるステップと、
前記登録値を基に、前記荷役物及び前記係止装置をバランス状態にさせるステップと、
前記バランス状態で前記係止部の係止解除がされたときにおける現在の重量値が、前記登録値から単位時間当りに所定の値を超える減少となる場合に、現在の前記昇降位置を保持する状態にさせるステップ、
若しくは、前記記憶部に前記現在の重量値を新たな登録値として記憶させ、当該新たな登録値を基にした前記バランス状態にさるステップ、の少なくとも何れかと、
を実行する電動バランサの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷役物の組立てや搬送に用いられて荷役物を係止する係止装置に関するものである。そしてこの係止装置と繋がってモータによるアシストで重量バランスさせ僅かな操作力で昇降移動させる電動バランサの制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から工業製品の組立てを行う工場では、大きな重量を有する工具、作業用機器、製品、半完成品などの荷役物を吊下げて昇降移動させる荷役装置を使用している。その荷役装置の中でも、大きな重量の荷役物に対してバランス状態を作り出し、使用者が軽い操作力で任意の高さに昇降移動できるように助力(アシスト力)を発生させる電動バランサが一部で使用されている。このように助力を発生させる電動バランサは、モータによって助力を行い、バランス状態を作り出し、荷役物に小さな操作力を加えることでスムーズに移動させている。したがって単に昇降動作を電動モータで行うものとは異なり、荷役物の荷重やこれに加わる操作力を例えば荷重検出器で検出して、回転角検出器と繋がったACサーボモータ等で細かいバランス制御を行うように構成されている。そしてこの電動バランサに連結されて、対象とする荷役物の種類、形状に対応した様々な係止装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2003-073071号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されている係止装置等は、係止するアームがリンク機構によって吊り上げられると荷役物を係止し、係止装置及び荷役物を吊っているスリングを緩めて荷役物を接地させるまで荷役物を保持するのが一般的である。しかしながら荷役物を液体の槽に挿入する場合など、吊っているスリングを緩めることなく作業者が荷役物を開放したいという要望があった。そしてこれを実現するには係止装置のみならず従来の電動バランサの制御方法では対応が困難であった。
【0005】
このような問題に鑑みて、本発明はバランス状態の荷役作業において、作業性の改善を図った係止装置及び電動バランサの制御方法の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る電動バランサは、上記の目的を達成するために、
係止装置に係止された荷役物の昇降を行う電動バランサであって、
対をなすアームの開閉によって荷役物の係止を自在にする係止部が複数設けられ、当該係止部によって複数の係止がされる荷役物の各係止解除として、独立したアームの開放をさせる操作部を有する係止装置を吊り下げるスリングと、
記憶部と、
プロセッサを有する制御部と、
係止装置及び荷役物の重量値を検出して制御部へ送信する重量検出部と、
係止装置の昇降位置を検出して制御部へ送信する位置検出部と、
を少なくとも有する電動バランサとして構成され、
前述のプロセッサは、
荷役物と係止装置の重量和を登録値として記憶部に記憶させる処理と、
登録値を基に、荷役物及び係止装置をバランス状態にさせる処理と、
を少なくとも実行する処理手段であり、
前述の制御部は、
操作部が操作されたときにおける現在の重量値が、登録値から単位時間当りに所定の値を超える減少となる場合に、
現在の昇降位置を保持する状態、
若しくは、記憶部に現在の重量値を新たな登録値として記憶させ、当該新たな登録値を基にしたバランス状態、
の少なくとも何れかにさせる制御を行う。
【0007】
本発明の一態様に係る電動バランサの制御方法は、上記の目的を達成するために、
荷役物に対する係止又は係止解除をそれぞれ独立して行う複数の係止部を有する係止装置を吊り下げるスリングと、
記憶部と、
プロセッサを有する制御部と、
係止装置及び荷役物の重量値を検出して制御部へ送信する重量検出部と、
係止装置の昇降位置を検出して制御部へ送信する位置検出部と、
を少なくとも有する電動バランサの制御方法であって、
前述のプロセッサは、
荷役物と係止装置の重量和を登録値として記憶部に記憶させるステップと、
登録値を基に、荷役物及び係止装置をバランス状態にさせるステップと、
バランス状態における重量値が登録値との比較で、独立した係止解除がされる際に生じる重量値の減少に相当する所定の値を割り出せる演算のステップと、
バランス状態で係止部の係止解除がされたときにおける現在の重量値が、登録値から単位時間当りに所定の値を超える減少となる場合に、現在の昇降位置を保持する状態にさせるステップ、
若しくは、記憶部に現在の重量値を新たな登録値として記憶させ、当該新たな登録値を基にしたバランス状態にさるステップ、の少なくとも何れかと、
を実行する電動バランサの制御方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の係止装置と電動バランサの制御方法によれば、独立して開閉できる係止装置によって荷役物の開放の自由度を拡大し、吊っているスリングを緩めることなく作業者が荷役物の開放を行うことを可能にし、作業性の向上を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態に係る係止装置と電動バランサと荷役物との斜視構成図である。
図2】本発明の実施形態に係止装置の斜視構成図である。
図3】本発明の実施形態に係止装置の側面図である。
図4】本発明の実施形態に係る電動バランサの本体部の一部を省略した斜視構成図である。
図5】本発明の実施形態に係る係止装置を用いた作業を表した模式図である。
図6】本発明の実施形態に係る係止装置を用いた作業を表した模式図である。
図7】本発明の実施形態に係る係止装置を用いた作業を表した模式図である。
図8】本発明の実施形態に係る係止装置を用いた作業を表した模式図である。
図9】本発明の実施形態に係る係止装置を用いた作業を表した模式図である。
図10】本発明の実施形態に係る係止装置を用いた作業を表した模式図である。
図11】本発明の実施形態に係る係止装置を用いた作業を表した模式図である。
図12】本発明の実施形態に係る電動バランサの重量検出部が検出したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態に係る係止装置と電動バランサの制御方法について、図面を基に詳細な説明を行う。図1は本発明の実施形態の一例である係止装置と電動バランサと荷役物との斜視構成図である。
【0011】
電動バランサ2は、本体部7と、リンクチェーン4と、フック5と、吊り下げフック3含んでいる。係止装置1は、スリングであるリンクチェーン4の端部に設けられたフック5によって吊り下げられている。荷役物6は、係止装置1によって吊り下げられている。電動バランサ2は、係止装置1を介して荷役物6の昇降を行う。
【0012】
図2は本発明の実施形態の係止装置1の斜視構成を示した詳細図である。 図2(i)は、係止装置1の各アームが閉じた時、 図2(ii)は、係止装置1の各アームが開いた時の状態を示している。図3は本発明の実施形態の係止装置1の側面図である。 係止装置1は、係止部、操作部、吊り下げ部41で構成されている。係止部は、第1のアーム31a、31bと、第2のアーム32a、32bを含んでいる。操作部は、第3のアーム34と、第4のアーム35と、ハンドルA37と、ハンドルB38とを含んでいる。
【0013】
第1のアーム31aは鉛直方向に移動可能なスライド軸33を中心として制限された範囲で回転可能である。第1のアーム31aの下側の一端部は円弧状であり、上側の他端部は接続軸39aにて第3のアーム34に繋がっている。第2のアーム32aも鉛直方向に移動可能なスライド軸33を中心として制限された範囲で回転可能である。
第2のアーム32aの下側の一端部は円弧形状であり、上側の他端部は接続軸40aにて第4のアーム35に繋がっている。そして、第1のアーム31aと第2のアーム32aはスライド軸33を交点部として交差し、共にスライド軸33によって支持されている。また第1のアーム31aと第2のアーム32aの先端部には荷役物6に傷をつけるのを防止するためのプラスティック爪44が取り付けられていて直接荷役物6が第1のアーム31aと第2のアーム32aの先端部に当たらないようになっている。
【0014】
第3のアーム34と第4のアーム35とは、操作軸36を中心として制限された範囲で回転可能である。そして第3のアーム34と第4のアーム35との上端部には、ハンドルA37がそれぞれ取り付けられている。
【0015】
したがって第1のアーム31a、第2のアーム32a、スライド軸33、接続軸39a、接続軸40a、操作軸36、第3のアーム34、第4のアーム35によってトグル機構を構成している。作業者はハンドルA37に外力を加えて、 図2(i)の状態から図2(ii)のようにハンドルA37間の距離を狭めると、第1のアーム31aと第2のアーム32aは開放方向に動く。ハンドルA37から外力を取り去ると、ハンドルA37を含めた第3のアーム34と第4のアーム35の重量によって、操作軸36を中心とした回転モーメントが生じハンドルA37は開く方向に働く。これと同時にスライド軸33も吊り下げ部41に設けられた長穴45に沿って鉛直下方向にスライドすることから第1のアーム31aと第2のアーム32aの先端部は交差する閉じた方向に付勢される。よって第1のアーム31aと第2のアーム32aが交差して閉じた空間内で、第1のアーム31aと第2のアーム32aとに荷役物が係止されている場合には、作業者がハンドルA37を握って接近させる操作をしない限り、第1のアーム31aと第2のアーム32aは開くことは無い。
【0016】
本実施形態では図示しないが、例えば第1のアーム31aに設けた穴31cと、第2のアーム32aに設けた穴32cとに引張方向に働くバネを取り付けることでハンドルA37の操作の感触を変化させることができる。これはハンドルB38においても同様である。
【0017】
吊り下げ部41は鉛直上から見るとコの字状に金属板を折り曲げて対向させた形状であって、スライド軸33をスライドさせる長穴、操作軸36を固定する部分、操作指令部20を脱着する部分、制限部43を有する。吊り下げ部41は、吊り下げ軸42によってフック5によって吊下げられる。
【0018】
操作指令部20は、電動バランサ2と無線で通信を行って遠隔操作するものである。 操作指令部20は、電動バランサ2を遠隔にて操作するためのものであって、本実施形態では電波によって通信している。操作指令部20は、電池によって駆動される。操作指令部20は、操作手段として例えばバランス釦21、保持釦22、上昇釦23及び下降釦24を有している。図2において操作指令部20は、吊り下げ部41に磁石によって取り付けられているがこれに限るものではない。
【0019】
吊り下げ部41を挟んで第1のアーム31aと第2のアーム32aの反対側には、第1のアーム31bと第2のアーム32b等が鏡像配置されている。よってハンドルB38を接近させる外力を加えることで、通常は閉じている第1のアーム31bと第2のアーム32bとを開放させることができる。このトグル機構は第1のアーム31aと第2のアーム32aと同様なので説明は省略する。
【0020】
そして第1のアーム31a及び第2のアーム32a、第1のアーム31b及び第2のアーム32bはハンドルA37とハンドルB38によって独立してそれぞれ開閉自在に構成されている。
【0021】
図3にて示すように、吊り下げ部41の下側の、第1のアーム31a及び第2のアーム32a、第1のアーム31b及び第2のアーム32bが閉じている時に囲まれた空間には制限部43が設けられている。例えば第1のアーム31a及び第2のアーム32aは開く際にそれぞれの先端部が水平方向に移動する軌跡を描くので、係止している荷役物6が第1のアーム31a若しくは第2のアーム32aのいずれかに接触したまま移動する現象が生じる場合がある。制限部43は荷役物6が第1のアーム31a若しくは第2のアーム32aのいずれかに接触したまま移動するのを防止している。この現象は第1のアーム31b及び第2のアーム32bについても同様である。制限部43は板状の部材で吊り下げ部41に固定されていて、その先端部はテーパー形状となっている。
【0022】
図4は本発明の実施形態に係る電動バランサ2の一部を省略した斜視構成図である。図4図1の電動バランサ2の本体部7のカバーを省略して内部を表したものである。
【0023】
電動バランサ2の本体部7の内部には制御部10、モータ部11、昇降作動部16及び重量検出部12等が収納されている。
【0024】
電動バランサ2の制御部10はプロセッサであるCPU(Central Processing Unit)、記憶部であるROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、その他の記憶部及び入出力部を備えて、リンクチェーン4を介して荷役物6の昇降移動の制御等を行う。また制御部10は電動バランサ2を構成する電気電子部品に電源を供給する回路を含んでいる。
【0025】
モータ部11は、荷役物6を昇降移動させるための駆動源である。モータ部11のモータの負荷側には減速機が取り付けられている。このモータは例えば交流サーボモータである。
【0026】
この減速機はモータの回転速度を所定の速度に減速している。減速機は例えば波動歯車減速機である。波動歯車減速機は外周が楕円状のウエーブジェネレータと、外周に多数の外歯が形成されウエーブジェネレータに外嵌されてウエーブジェネレータの回転により円周方向へ撓まされる位置が変化するようにした弾性変形可能なフレクスプラインと、フレクスプラインの外周側にあってフレクスプラインの外歯と嵌合する内歯を備えたサーキュラスプラインとからなる。そして動力は、フレクスプラインを回転出力として繋げた出力軸15に取り出されて伝達するようになっている。この装置の減速機に例えば波動歯車減速機のようなバックラッシが微小なものを使用することで、モータの正逆回転切り換えを頻繁に行って昇降移動を行う時に、切り換え時の制御不能な領域をなくし、スムーズな操作感を実現できる。なお減速機は波動歯車減速機に限るものではない。
【0027】
出力軸15は、減速機にて回転速度を減速し、増大させたトルクを出力する回転軸であり、昇降作動部16に連結され、昇降作動部16を連続的に正逆に回転させるものである。
【0028】
リンクチェーン4は、半円弧部とこれに繋がる直線部からなる長円形の環が交差して交互に連接されたものである。リンクチェーン4の一端はフック5に繋がっていて、他端(無負荷側)はチェーン収納部17に収納されている。
【0029】
昇降作動部16は、駆動源のモータ部11からの動力の伝達によって回転する回転部材を含んで構成される。本実施形態では昇降作動部16の回転部材は中空円柱の形状であって、中空部で出力軸15と繋がっていて、外側円柱面でリンクチェーン4を巻回し、リンクチェーン4の巻き上げ及び繰り出しを行う。リンクチェーン4が巻回される位置は、おおよそ吊り下げフック3の鉛直下付近であって、電動バランサ2の重心位置に近いところに設けられる。リンクチェーン4は昇降作動部16の外側円柱面に設けられたポケット溝に嵌入されておおよそ180度ほど巻回される。本実施形態ではフック5に繋がって昇降作動部16に巻回されるものにリンクチェーン4を用いたが、これに限らずワイヤーロープであっても良い。ワイヤーロープを使用した時は、昇降作動部16はドラム形状でワイヤーロープはその一端が固定されて回転部材に巻回される。
【0030】
位置検出部13は、モータ部11の反負荷側に連結されている。位置検出部13は、モータの回転角位置を検出する。位置検出部13はいわゆるアブソリュートエンコーダであって、光学式にてモータの回転角位置を検出して位置値を位置信号として出力する。したがってこの位置検出部13は、フック5の繰り出し位置すなわち昇降位置を検出することができる。
【0031】
重量検出部12は、起歪体と起歪体に貼られた歪みゲージを備えている。起歪体は昇降作動部16に巻きつけられているリンクチェーン4から伝達される力を検出できるように弾性変形する形状を有している。歪みゲージは重量に応じて起歪体に生ずる歪みを電気信号に変換するホイートストーンブリッジ回路に組み込まれ、重量検出部12は昇降作動部16に加わる重量を検出して、重量値を重量信号にて出力する。
【0032】
そして電動バランサ2の制御部10が電動バランサ2内の昇降作動部16の近傍に配置されている。電動バランサ2の制御部10は、位置検出部13からの位置値を位置信号にて、重量検出部12からの重量値を重量信号にて受信し、これらを基に演算を行い、モータ部11を制御する。電動バランサ2の制御部10に関連した電装部は、電動バランサ2を粉粒や水滴のかかる場所での使用も可能にするためにカバー内に配置されている。
【0033】
本実施形態では、位置検出部13はモータ部11の反負荷側に配置したがこれに限らず、減速機の出力である出力軸15や昇降作動部16に設けられても良く、また両方に設けられても良い。さらに光学式に限らず磁気式や静電容量式等であっても良い。
【0034】
また重量検出部12は昇降作動部16に加わる重量を検出できれば良く、減速機と昇降作動部16との間に設けた回転軸の捻れからトルクを検出するような回転型の構造や、モータ部11が受ける反力を検出する鼓型の構造のものであっても良い。さらに歪みゲージ式に限らず磁歪式や静電容量式等であっても良い。
【0035】
電動バランサ送受信部14が、電動バランサ2の制御部10の回路基板と並んで配置されている。電動バランサ送受信部14は、操作指令部20と無線にて通信するための電子回路を有している。
【0036】
ここで実際の作業においては係止装置1と共に操作指令部20を用いることから、操作指令部20に設けられている操作手段である各操作釦の役割について図2(ii)を参照して説明する。各操作釦は例えばプッシュスイッチである。作業者がバランス釦21を押すと操作指令部20からバランス指令が送信され、電動バランサ2の制御部10はこれを受信して電動バランサ2をバランスモードへの移行を開始する。すなわち電動バランサ2の制御部10は、重量検出部12が昇降作動部16に加わる重量を検出して出力した重量値を登録重量として記憶し、これを基に演算を行って、昇降作動部16に加わる重量をキャンセルしてバランス状態となるようにモータ部11を制御する。
【0037】
一方で、作業者が保持釦22を押すと、電動バランサ2の制御部10はこれを受けると、位置検出部13からの位置値を位置信号にて受信して、昇降作動部16を現在位置にて保持、すなわちフック5及び荷役物6の昇降位置を一定に保つ保持モードとなるようにモータ部11を制御する。
【0038】
作業者が上昇釦23若しくは下降釦24を押すと、電動バランサ2の制御部10はこれを受けてモータ部11を制御して、フック5を上昇若しくは下降させる。作業者は上昇釦23若しくは下降釦24を連続的に押すことで、モータ部11によりフック5、係止装置1及び荷役物6を連続的に昇降させることができる。電動バランサ2が保持モード及びバランスモードいずれにあっても、作業者が上昇釦23若しくは下降釦24を押すと、電動バランサ2は上昇若しくは下降を行い、押した上昇釦23若しくは下降釦24から手を離すと電動バランサ2はその直前の保持モード及びバランスモードいずれかに戻る。
【0039】
図5図11は、本発明の実施形態に係る係止装置と電動バランサを用いて、荷役物6を扱う一連の作業状態を表した模式図である。電動バランサの部分は省略している。この作業は、床51に置かれた荷役物6を吊り上げて、別の場所の液体53が貯えられた槽52へ移すものである。ここで荷役物6は、例えば側部6a、6bとこれを繋ぐロッド部6cとを有する物品である。
【0040】
図5は電動バランサが荷役物6を吊り下げる前の段階の係止装置1の位置及び状態を示す正面図である。なお係止装置1の一部の部材は保護板54に覆われている。図2では構造を判りやすくするため保護板54は省略している。
【0041】
図5では、作業者は、電動バランサが荷役物6を吊り下げていない状態、すなわち係止装置1のみの状態でバランス釦21を押して、電動バランサ2を係止装置1が昇降自在となるバランスモードにしている。制御部10は重量検出部12が送信した係止装置1のみの重量値を受信して、バランスするための基準値として更新して記憶する。そして作業者は、係止装置1を荷役物6のロッド部6cの位置する鉛直上に移動させ、ハンドルA37とハンドルB38を閉じるように握って第1のアーム31a、31bと第2のアーム32a、32bを開放状態にする。
【0042】
図6は電動バランサが荷役物6を吊り下げる直前の段階の係止装置1の状態を示す正面図である。作業者は引き続き、係止装置1をバランスモードにて降下させ、第1のアーム31a、31bと第2のアーム32a、32bが荷役物6のロッド部6cを係止できる位置まで移動させる。
【0043】
図7は電動バランサが荷役物6を吊り下げる直前の段階の係止装置1の状態を示す正面図である。作業者は、握っていたハンドルA37とハンドルB38から手を離すと、第1のアーム31aと第2のアーム32a、及び第1のアーム31bと第2のアーム32bが、ロッド部6cを囲むように交差して閉じる。次いで作業者は、操作指令部20の保持釦22を押して電動バランサ2を保持モードに切換え、次いで作業者が上昇釦23を押し続けると、第1のアーム31aと第2のアーム32a、及び第1のアーム31bと第2のアーム32bが、ロッド部6cに当接し始め、その後に電動バランサ2は係止装置1を介して荷役物6を上昇させる。
【0044】
図8は電動バランサが荷役物6を吊り下げた時の係止装置1の状態を示す正面図である。この電動バランサが荷役物6を吊り下げた状態では、未だ電動バランサ2は保持モードにあるため、作業者はバランス釦21を押してバランスモードに切り替える。制御部10は、重量検出部12が送信した係止装置1と荷役物6の重量値の和を受信して新たにバランスするための基準値として更新し、記憶するステップを実行する。したがってこの後作業者は、バランスされた荷役物6を僅かな力で昇降することができる。
【0045】
図9は作業者が荷役物6を移動させて、槽52内の液体53へ浸漬させた段階の係止装置1の状態を示す正面図である。作業者はバランスされた荷役物6を僅かな力で昇降できることから、作業者は荷役物6の側部6a、6bが液体53に浸漬する位置まで移動させる。
【0046】
図10は作業者が荷役物6を移動させて、槽52内の液体53へ浸漬させた次の段階の係止装置1の状態を示す正面図である。作業者は、ハンドルA37に外力を加え、第1のアーム31aと第2のアーム32aとを開放させる。すると荷役物6は傾き始め、開放された方の側部6aがより深く液体53に浸漬される。
【0047】
図11は作業者が荷役物6を移動させて、図10で表された次の段階の係止装置1の状態を示す正面図である。作業者は、ハンドルB38に外力を加え、第1のアーム31bと第2のアーム32bとを開放させる。すると荷役物6は係止装置1から離れて液体53へ沈んで行く。
【0048】
ここで図10図11で説明した、ハンドルに外力を加えて荷役物6を開放する作業を行うと、従来の電動バランサ2の制御部10の制御方法では、重量検出部12から受信した重量値が突然小さくなることから、荷役物6に上向きの外力が加わったと判断して上昇しようとしてしまう。その場合係止装置1は、図10に示す係止装置1の位置から鉛直上方向に移動してしまい、作業性が損なわれる。
【0049】
そこで本発明の電動バランサ2の制御部10の制御方法では、以下の方法によってこれを解決している。
【0050】
図12は本発明の実施形態に係る電動バランサの重量検出部が検出した重量値のグラフの例である。図12のグラフでは図5から図11までの作業時における重量検出部が検出した重量値の遷移を示している。図11のグラフの横軸は時間、縦軸は重量検出部が検出した重量値を示している。
【0051】
時間t0~t1は、図5図7の状態である。時刻t0では作業者がバランス釦21を押して係止装置1の重量P0を登録したことから、重量はP0である。次いで電動バランサ2はバランスモードに切り替わり、作業者が係止装置1を引張り降ろす外力を加えるので検出した重量値が増加する。作業者が図6の状態に係止装置1を移動させた時点で、電動バランサ2は重量P0に基づくバランスモードにあるので時刻t1では重量値は値P0になっている。その後、作業者が保持釦22、次いで上昇釦23を押すと、重量値は係止装置1が荷役物6に係止し始めると共に上昇して、荷役物6が宙吊り状態となる値P1に到達する。すなわちP1-P0が荷役物6の正味の重量である。時間t1~t2は、作業者が保持釦22、次いで上昇釦23を押して、荷役物6を係止装置1に係止させると共に上昇させ、荷役物6が宙吊り状態となる値P1に到達するまでの区間である。
【0052】
時刻t2にて荷役物6が宙吊り状態となる値P1に到達し、例えば安定した時刻t3で作業者は荷役物6を吊リ下げた状態で作業者がバランス釦21を押すと電動バランサ2はバランスモードに移行する。制御部10は、この時の重量値すなわち荷役物6と係止装置1の重量和を登録値として更新して記憶部に記憶させるステップを実行する。そして制御部10は、この登録値を基にしてバランス制御を実行する。すると荷役物6はバランス状態となるので、作業者は僅かな外力を荷役物6や係止装置1に加えることで荷役物6を上昇或いは下降させることができる。図12では作業者は時刻t4から荷役物6を上昇させ、時刻t5から下降させている。
【0053】
そして時刻t6において、図10に示したように、作業者は一方のハンドルA37を操作して、荷役物6の開放を始める。さらに時刻t7において、図11に示したように、作業者はもう一方のハンドルB38を操作して、荷役物6を全て開放する。このハンドルの操作によって、重量検出部12が検出する重量値は大きく減少する。制御部10は単位時間当りの重量の変化の割合を演算し、所定の変化値を超える減少が起こった場合は、直ちに位置検出部13からの位置信号を基にその時の係止装置1の位置を保持する制御のステップを実行する。この所定の減少する重量の変化の割合は、電動バランサ2がバランスできる荷役物の重量や作業の内容等から、電動バランサ2の管理者等によって定められるものである。
【0054】
また電動バランサ2の制御部10の制御方法の変形では、制御部10は単位時間当りの重量の変化の割合を演算し、所定の変化値を超える減少が起こった場合は、その変化の都度、その時の重量検出部12が検出する重量値を新たな登録値として記憶し、この新たな登録値を基にしてバランス制御を実行する制御のステップを実行する。この場合作業者は、一方の第1のアーム及び第2のアームを開放した後でも、他方の第1のアーム及び第2のアームを閉じたまま係止装置1の昇降位置を変えることができるので、例えば液体53に静かに荷役物6を浸漬させる場合等に有用である。
【0055】
以上、本発明を好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の活用例として、荷役物の移動をアシストして行う電動バランサと係止装置への適用が可能である。
【符号の説明】
【0057】
1 : 係止装置
2 :電動バランサ
3 :吊り下げフック
4 :リンクチェーン(スリング)
5 :フック
6 :荷役物
6a、6b :側部
6c :ロッド部
7 :本体部
10 :制御部(電動バランサ制御部)
11 :モータ部
12 :重量検出部
13 :位置検出部
14 :電動バランサ送受信部
15 :出力軸
16 :昇降作動部
17 :チェーン収納部
20 :操作指令部
21 :バランス釦
22 :保持釦
23 :上昇釦
24 :下降釦
31a、31b :第1のアーム
32a、32b :第2のアーム
33 :スライド軸
34 :第3のアーム
35 :第4のアーム
36 :操作軸
37 :ハンドルA
38 :ハンドルB
39a、39b :接続軸
40a、40b :接続軸
41 :吊り下げ部
42 :吊り下げ軸
43 :制限部
44 :爪
45 :長穴
51 :床
52 :槽
53 :液体

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12