(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-07
(45)【発行日】2024-11-15
(54)【発明の名称】産業資材用繊維の製造方法
(51)【国際特許分類】
D01F 8/14 20060101AFI20241108BHJP
D01D 1/04 20060101ALI20241108BHJP
D01D 1/09 20060101ALI20241108BHJP
D01D 5/34 20060101ALI20241108BHJP
【FI】
D01F8/14 B
D01D1/04 101A
D01D1/09
D01D5/34
(21)【出願番号】P 2020160578
(22)【出願日】2020-09-25
【審査請求日】2023-08-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001298
【氏名又は名称】弁理士法人森本国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池田 弘平
【審査官】河内 浩志
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-120529(JP,A)
【文献】特開2018-150632(JP,A)
【文献】特開平11-350250(JP,A)
【文献】特開2019-148024(JP,A)
【文献】特開2014-189913(JP,A)
【文献】特開2017-023462(JP,A)
【文献】特表2018-519396(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 8/00- 8/18
D01D 1/00-13/02
D07B 1/00- 9/00
A01G33/00-33/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
280℃における溶融粘度が200Pa・s[せん断速度1000s
-1
]以下であるポリエチレンテレフタレートを芯成分の第1のポリエステル系樹脂として用い、オキシアルキレン基含有ポリビニルアルコールを含んで融点が130℃~170℃であるポリエステル系樹脂を鞘成分の第2のポリエステル系樹脂として用いたうえで、溶融紡糸により芯鞘構造の繊維を製造し、そのときに、鞘成分の溶融押出機の設定温度を180℃~190℃とすることを特徴とする産業資材用繊維の製造方法。
【請求項2】
芯成分の第1のポリエステル系樹脂であるポリエチレンテレフタレートの紡糸温度を270℃~280℃とすることを特徴とする請求項1記載の産業資材用繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は産業資材用繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
海産物を養殖するための資材として、海藻類の付着性や活着性が良いことから、ビニロン繊維が用いられている。またビニロン繊維は、保水性に優れることから、干満差が大きい場所において、干潮の時間が長くても、保水状態を保つことができる。しかしながら、ビニロン繊維は、耐久性には劣るという問題がある。
【0003】
一方、特許文献1には、海藻類の付着性や活着性が良好であり、耐久性に優れ、波浪条件の厳しい場所においても好適に使用できる養殖資材を得るのに好適な、養殖資材用繊維およびこれを用いた海藻類養殖網が記載されている。この特許文献1に記載の繊維は、変性ポリビニルアルコール樹脂を含有するポリアミドにて形成されている。変性ポリビニルアルコール樹脂としては、オキシアルキレン基含有ポリビニルアルコールが好ましく用いられる。ポリアミドとしては、ポリカプラミド(ナイロン6)が好ましく用いられる。
【0004】
この繊維は、変性ポリビニルアルコール樹脂を含有するポリアミドにて形成されているため、耐久性に優れるとともに海藻類の付着量や活着性に優れており、湾外等のように波浪条件の厳しい場所において使用しても海藻類の活着性が良く、収穫時まで海藻類の付着を維持して高い収率を実現できる。このため、海藻類の養殖網として好適であるとともに、ロープや撚糸などの養殖資材としても好適である。この養殖資材用繊維が用いられている海藻類養殖網は、前述したように優れた特性を有することから、特に、海苔の養殖網として好適である。
【0005】
オキシアルキレン基含有ポリビニルアルコールは、融点が200℃、熱分解温度が230℃~240℃である。繊維の製造に際しては、融点と熱分解温度との間で紡糸することが望ましい。しかし、これを含有するナイロン6は、その融点が225℃である。このため、良好な紡糸状態を得るためには、紡糸温度を250℃以上まで上げざるを得ない。
【0006】
すなわち、一般に樹脂を溶融紡糸する際には、ペレットなどの原材料樹脂を溶融押出機によって溶融混練させ、それを機外に押し出して紡糸ノズルに供給し、紡糸ノズルから樹脂を紡出させ、その後に冷却させて固化させることが行われる。このため、ナイロン6樹脂中に含まれるオキシアルキレン基含有ポリビニルアルコールは、溶融紡糸機の内部においてナイロン6樹脂を良好に溶融するために、この溶融押出機の内部において上述の250℃以上まで昇温され、その昇温状態を維持したま紡糸ノズルに送られて紡糸に供される。すると、オキシアルキレン基含有ポリビニルアルコールは、溶融混錬から紡糸までのかなりの時間にわたって分解温度以上の温度に晒されることになる。その結果、分解により酢酸を生成するため悪臭が生じるなどの課題がある。
【0007】
そこで本件の出願人は、養殖資材用繊維として、断面を芯鞘構造とし、芯成分が第1のポリアミド系樹脂にて構成され、鞘成分が、オキシアルキレン基含有ポリビニルアルコールを含有し芯成分よりも低融点の第2のポリアミド系樹脂にて構成されているものを開発した(特許文献2)。この特許文献2の養殖資材用繊維では、鞘成分の第2のポリアミド系樹脂の融点を130℃~160℃とすることで、オキシアルキレン基含有ポリビニルアルコールの熱分解を抑制し、良好な操業性を達成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2005-117972号公報
【文献】特開2018-150632号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
養殖資材や漁業用資材は、吸水性が求められることから、ポリビニルアルコール繊維やポリアミド系繊維が一般に用いられている。これに対し本件の発明者は、一般に用いられるポリビニルアルコール繊維やポリアミド系繊維以外の繊維を養殖資材に適用することについて検討した。
【0010】
この点に関し、陸上用ネット等に用いられるポリエステル系繊維は、吸水性を有しないことから、これまで養殖資材には適用されていない。しかも、このような養殖資材に適用しうるポリエステル系繊維を提供するためには、以下の技術的課題がある。
【0011】
すなわち、ポリエステルとして一般に多用されているポリエチレンテレフタレートは、その融点が256℃であり、上記したナイロン6の融点である225℃よりも30℃以上高い。このためポリエチレンテレフタレートを紡糸する際には、その紡糸温度を低くても270℃~280℃程度とすることが必要である。この紡糸温度も、上述したナイロン6の紡糸温度である250℃に比べて高温である。つまり、この270℃~280℃の紡糸温度と、オキシアルキレン基含有ポリビニルアルコールの熱分解温度である230~240℃との温度差も、ナイロン6の場合に比べてかなり大きくなる。
【0012】
よって、ポリエチレンテレフタレート繊維に代表されるポリエステル系繊維を用い、かつ変性ポリビニルアルコール樹脂としてのオキシアルキレン基含有ポリビニルアルコールを、上記繊維を構成するためのポリエステルに含有させて、溶融紡糸により養殖資材用繊維を得る際には、ポリアミド繊維を用いる場合に比べて、変性ポリビニルアルコール樹脂の熱分解の問題点がいっそう顕著になる。
【0013】
そこで本発明は、このような問題点を解決し、溶融紡糸時におけるオキシアルキレン基含有ポリビニルアルコールの熱分解を極力低減したうえで、オキシアルキレン基含有ポリビニルアルコールを含んだポリエステル系繊維にて構成された産業資材用繊維を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この目的を達成するため、本発明の産業資材用繊維の製造方法は、280℃における溶融粘度が200Pa・s[せん断速度1000s
-1
]以下であるポリエチレンテレフタレートを芯成分の第1のポリエステル系樹脂として用い、オキシアルキレン基含有ポリビニルアルコールを含んで融点が130℃~170℃であるポリエステル系樹脂を鞘成分の第2のポリエステル系樹脂として用いたうえで、溶融紡糸により芯鞘構造の繊維を製造し、そのときに、鞘成分の溶融押出機の設定温度を180℃~190℃とすることを特徴とする。
【0015】
本発明の産業資材用繊維の製造方法によれば、芯成分の第1のポリエステル系樹脂であるポリエチレンテレフタレートの紡糸温度を270℃~280℃とすることが好適である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の産業資材用繊維の製造方法によれば、280℃における溶融粘度が200Pa・s[せん断速度1000s-1]以下であるポリエチレンテレフタレートを第1のポリエステル系樹脂として芯成分を溶融紡糸するため、紡糸温度を一般的なポリエステル系樹脂の場合に比べて低温の270℃~280℃に設定しても、良好な流動性を発現することができて支障なく芯成分を溶融紡糸することができる。しかも、鞘成分に、オキシアルキレン基含有ポリビニルアルコールを含有し融点が130℃~170℃であって芯成分よりも低融点の第2のポリエステル系樹脂を用いるため、第1のポリエステル系樹脂の融点に適合した高温でこの第2のポリエステル系樹脂の溶融混練を行う必要が無く、それよりも低温の第2のポリエステル系樹脂の融点に適合した180℃~190℃の温度で溶融混錬を行えば足りる。このため、オキシアルキレン基含有ポリビニルアルコールの熱分解温度以下の温度で鞘成分を溶融混練することができ、溶融混練後の紡糸時にのみ、短時間だけ、第1のポリエステル系樹脂の融点に基づく高温状態とするだけで良い。したがって、親水性を発揮して特に海藻類の付着性や活着性に優れたオキシアルキレン基含有ポリビニルアルコールの熱分解を極力低減しながら、このオキシアルキレン基含有ポリビニルアルコールを含んだポリエステル樹脂系の産業資材用繊維を得ることができる。
【0018】
本発明の産業資材用繊維の製造方法によれば、鞘成分の第2のポリエステル系樹脂の融点が130℃~170℃であることで、鞘成分の溶融混練温度を、オキシアルキレン基含有ポリビニルアルコールの熱分解温度である230℃~240℃よりも確実に低下させることができる。
【0019】
本発明の産業資材用繊維の製造方法によれば、この産業資材用繊維を製造するに際し、鞘成分の溶融押出機の設定を180℃~190℃とすることで、溶融混練時におけるオキシアルキレン基含有ポリビニルアルコールの熱分解を確実に防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の製造方法によって得られる産業資材用繊維は、芯鞘構造を呈し、芯成分が第1のポリエステル系樹脂にて構成され、鞘成分が、オキシアルキレン基含有ポリビニルアルコールを含有し芯成分よりも低融点の第2のポリエステル系樹脂にて構成される。
【0021】
芯成分を構成する第1のポリエステル系樹脂は、ポリエチレンテレフタレートである。
【0022】
芯成分を構成する第1のポリエステル系樹脂は、280℃における溶融粘度が200Pa・s[せん断速度1000s-1]以下であることが必要である。溶融粘度が200Pa・sより高いと、粘性が高いものであることから、溶融紡糸の際に、良好に紡糸するには、より高温に設定する必要が生じるためである。
【0023】
第1のポリエステル系樹脂には、例えば酸化チタン、酸化ケイ素、炭酸カルシウム、チッ化ケイ素、クレー、タルクなどの各種無機粒子や、架橋高分子粒子や、各種金属粒子などの粒子類を、本発明の効果を損なわない範囲で添加しても良い。また、その他に、老化防止剤、抗酸化剤、着色防止剤、耐光剤、包接化合物、帯電防止剤、各種着色剤、各種界面活性剤、各種強化繊維類などの従来公知の添加剤を、同様に本発明の効果を損なわない範囲で添加しても良い。
【0024】
鞘成分に含有されるオキシアルキレン基含有ポリビニルアルコールは、具体的には、酢酸ビニルと、ポリオキシエチレン(メタ)アリルエーテル、ポリオキシプロピレン(メタ)アリルエーテルなどのポリオキシアルキレン(メタ)アリルエーテルとを共重合しつつ、ついでケン化することにより得られる。この場合、ポリオキシアルキレン(メタ)アリルエーテルの共重合割合(含有率)は0.1モル%~20モル%であることが好ましく、0.1モル%~5モル%であることが特に好ましい。ポリオキシアルキレン(メタ)アリルエーテルにおけるポリオキシアルキレンの縮合度は1~300であることが好ましく、3~50であることが特に好ましい。オキシアルキレン基含有ポリビニルアルコール全体に占めるオキシアルキレン単位の割合は、3質量%~40質量%であることが好ましい。このことは、共重合体におけるオキシアルキレン単位の局在-非局在の程度およびオキシアルキレン単位の長さに、それぞれ最適範囲があることを示している。
【0025】
オキシアルキレン基含有ポリビニルアルコールにおける酢酸ビニル単位のケン化度は、50モル%~100モル%であることが好ましく、70モル%~99モル%であることがより好ましい。ポリビニルアルコールの平均重合度は、150~1500であることが好ましく、200~1000であることがより好ましい。なお、共重合成分として、ポリオキシアルキレン(メタ)アリルエーテル以外の成分、例えばエチレン、プロピレン、長鎖α-オレフィン等のα-オレフィン、エチレン性不飽和カルボン酸系モノマー、アクリレート、メタクリレート、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、塩化ビニル、ビニルエーテル等の成分を、30モル%以下程度であれば含有してもよい。
【0026】
オキシアルキレン基含有ポリビニルアルコールは、融点が50℃~250℃の、フェノール系化合物と、チオエーテル系化合物と、ホスファイト系化合物とのうちの少なくとも1種を、0.01質量%~5質量%含有することが好ましく、0.1質量%~0.5質量%含有することが特に好ましい。これにより繊維の熱安定性を向上させることができる。これらの添加量が0.01質量%未満では、熱安定性の向上が期待できず、5質量%を超える場合は海藻類の活着性の低下を招く。
【0027】
上述のように、オキシアルキレン基含有ポリビニルアルコールは、融点が200℃、熱分解温度が230℃~240℃である。
【0028】
産業資材用繊維の鞘成分を得るために原料を溶融混練する際には、上述したオキシアルキレン基含有ポリビニルアルコールの熱分解を避けるために、その溶融混練温度すなわち溶融押出機の設定温度は、180℃~190℃とすることが必要である。そのため、鞘成分を構成する第2のポリエステル系樹脂は、この180℃~190℃の温度で溶融押出することができるものであることが必要である。そのためには、第2のポリエステル系樹脂は、第1のポリエステル系樹脂よりも低融点で、具体的にはその融点が130℃~170℃であることが必要であり、150~165℃であることが望ましい。融点が170℃以下であれば、上述した180℃~190℃の温度で良好に溶融押出可能である。一方、融点が130℃以上であることにより、実使用時における耐熱性を維持し、また、繊維製造工程における熱延伸時に、繊維同士が融着することなく良好に延伸することが可能である。このようなポリエステル系樹脂としては、共重合ポリエステル樹脂を用いることができる。具体的には、エチレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とし、ジカルボン酸としては、例えば、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、無水フタル酸、セバシン酸、アジピン酸、コハク酸、ε-カプロラクトン等を用い、ジオール成分としては、エタンジオール、プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール等を用いた共重合成分を共重合した共重合ポリエステルが挙げられる。
【0029】
鞘成分における第2のポリエステル系樹脂とオキシアルキレン基含有ポリビニルアルコールとの割合は、鞘成分中にオキシアルキレン基含有ポリビニルアルコールが10質量%~40質量%含有されていることが好ましく、15~35質量%含有されていることがより好ましい。オキシアルキレン基含有ポリビニルアルコールの含有量が10質量%未満であると、海藻類の十分な活着性が得られない。また、オキシアルキレン基含有ポリビニルアルコールの含有量が40質量%を超えると、鞘成分からオキシアルキレン基含有ポリビニルアルコールが剥落又は溶出して、海藻類の活着性が低下したり、繊維製造時の紡糸性や操業性が低下したりする傾向となる。
【0030】
産業資材用繊維は、上述のように芯鞘構造を呈し、その芯部には、上記したポリエチレンテレフタレートである第1のポリエステル系樹脂が配される。これにより、養殖資材用繊維およびこれを用いた海藻類養殖網などの産業資材のための繊維としたときに、所要の強度を有したものとすることができる。
【0031】
その一方で、産業資材用繊維に親水性を発現させるためには、オキシアルキレン基含有ポリビニルアルコールは、繊維全体ではなく、その表面に含まれていれば足りる。このため、上記のように芯鞘構造の鞘部のみにオキシアルキレン基含有ポリビニルアルコールが含有されていれば良い。鞘部では、オキシアルキレン基含有ポリビニルアルコールは、第2のポリエステル系樹脂に混合される。これにより、オキシアルキレン基含有ポリビニルアルコールが繊維中から剥落したり、溶出したりすることを防ぐことができるとともに、それによって親水性の効果を持続させることができる。
【0032】
上記の観点から、芯成分と鞘成分とによる芯鞘複合比は、質量比で、(芯成分)/(鞘成分)=60/40~80/20であることが好ましい。
【0033】
産業資材用繊維の繊度は、この繊維がマルチフィラメントにて構成されている場合には、単糸繊度が3.3dtex~22dtexであることが好ましく、総繊度は55dtex~2200dtexであることが好ましい。一方、産業資材用繊維がモノフィラメントである場合には、その繊度が55dtex~1100dtexであることが好ましく、220dtex~670dtexであることがさらに好ましい。産業資材用繊維を養殖資材用繊維およびこれを用いた海藻類養殖網とする場合には、水との接触面積を増大させるために、マルチフィラメントであることが好ましい。さらに、水との接触面積を増大させる観点から、タスラン加工が施されたマルチフィラメントであってもよい。
【0034】
産業資材用繊維を製造する際には、芯成分と鞘成分とを構成するペレットなどの原材料樹脂を溶融押出機によってそれぞれ個別に溶融混練し、それを機外に押し出して紡糸ノズルに供給する。紡糸ノズルでは芯成分を芯部に配するとともに鞘成分を鞘部に配した状態で樹脂を溶出させる。その後に溶出樹脂を冷却固化させることで、繊維が得られる。
【0035】
このとき、芯成分は、溶融粘度が200Pa・s[280℃時、せん断速度1000s-1]以下のポリエチレンテレフタレートであるので、紡糸ノズルにおける紡糸温度も270℃~280℃程度とされる。これに対し、鞘成分については、オキシアルキレン基含有ポリビニルアルコールの熱分解の防止の観点、および第2のポリエステル系樹脂の融点の観点から、溶融押出機の温度は180℃~200℃に設定される。しかし、紡糸ノズルにおいては鞘成分の温度は、芯成分に合わせて270~280℃まで上昇せざるを得ない。そこで、紡糸ノズルに送られて芯鞘繊維として紡糸されるときのみ、鞘成分は270~280℃まで昇温される。
【0036】
このようにすると、紡糸ノズルにおいて鞘成分はオキシアルキレン基含有ポリビニルアルコールの熱分解温度を超えて加熱されることになるが、その時間は短時間であるため、熱分解の発生を極力防止することができる。溶融押出機においては、上記のようにその設定温度が180~200℃であるために、オキシアルキレン基含有ポリビニルアルコールの熱分解は進まない。
【0037】
したがって、本発明によると、融点の高いポリエステル系樹脂を用いたうえで、親水性を発揮して特に海藻類の付着性や活着性に優れた産業資材用繊維を得るときに、オキシアルキレン基含有ポリビニルアルコールの熱分解を極力低減することができる。
【実施例】
【0038】
(実施例1)
芯成分として、融点が254℃、280℃時の溶融粘度〔ηmelt〕が186Pa・s[せん断速度1000s-1]のポリエチレンテレフタレートを用いた。一方、鞘成分には、共重合ポリエステルと、オキシアルキレン基含有ポリビニルアルコールとを、質量比で、(共重合ポリエステル)/(オキシアルキレン基含有ポリビニルアルコール)=85/15で混合したものを用いた。この共重合ポリエステルとしては、次のものを用いた。すなわち、テレフタル酸成分とエチレングリコールとのエステル化反応で得られたオリゴマーであって、テレフタル酸成分とエチレングリコール成分とのモル比が、1:1.13の上記オリゴマーに、ε-カプロラクトンを酸成分に対して15モル%及び1,4-ブタンジオール成分に対して50モル%の割合で共重合させることで、融点160℃、溶融粘度〔ηmelt〕105Pa・s[せん断速度1000s-1]とした共重合ポリエステルを用いた。
【0039】
まず、一般的な複合溶融紡糸装置を用いて、溶融混練を行った。その条件として、芯成分については、溶融押出機の各部の設定温度を供給部300℃、圧縮部270℃、計量部270℃とした。鞘成分については供給部180℃、圧縮部190℃、計量部200℃とした。
【0040】
次に、紡糸を行った。そのときに、孔径0.5mm、ホール数192個の、芯鞘型複合紡糸口金を用いた。そして、口金温度を275℃に設定し、芯鞘質量比を(芯部)/(鞘部)=70/30として、紡出した。紡出糸条は、紡糸口金の直下に設けた、設定温度250℃、長さ200mmの加熱筒内を通過させた。
【0041】
次に、紡出糸条に油剤を付着してこれを非加熱の第1ローラーにて引き取り、それに連続して設定温度100℃の第2ローラーにて1.01倍で引き揃えを行い、糸道に対称に2個配置されそれぞれ直径が2.2mmのオリフィスから繊維の進行方向に向かって45度の角度で温度500℃、圧力0.3MPaのスチームを吹き出すスチーム処理機内を通過させ、さらに温度130℃の第3ローラーで5.5倍の延伸を行い、温度130℃の第4ローラーで3.8%の弛緩処理を行った。そのうえで、0.2%のリラックスを掛けて、速度2500m/分のワインダーに巻き取り、それによって、芯部と鞘部が略同心に配置された円形断面形状の芯鞘型複合形態の熱接着性長繊維からなる、1100dtex/96フィラメントのマルチフィラメント糸を得た。このマルチフィラメント糸の切断強度は4.1cN/dtexであった。
得られたマルチフィラメントを3本合糸してS-100T/mの下撚りをした後、この下撚りを3本合糸して、Z-60T/mの諸撚糸からなるロープを得た。
【0042】
(比較例1)
芯成分として、実施例1で用いたのと同じポリエチレンテレフタレートを用いた。鞘成分として、この実施例1の芯成分と同じポリエチエレンテレフタレートと、オキシアルキレン基含有ポリビニルアルコールとを、質量比で、(ポリエチエレンテレフタレート)/(オキシアルキレン基含有ポリビニルアルコール)=85/15で混合したものを用いた。
【0043】
そして、実施例1の場合と同様の一般的な複合溶融紡糸装置を用いて、溶融混練をおこなった。その条件として、芯成分については、溶融押出機の各部の設定温度を、実施例1と同じとした。すなわち、供給部300℃、圧縮部270℃、計量部270℃とした。そして、鞘成分についても、溶融押出機の各部の設定温度を、供給部300℃、圧縮部270℃、計量部270℃とした。
【0044】
次に、実施例1と同様の条件で紡糸を行った。
【0045】
しかし、溶融紡糸時に異臭が発生した。また、糸条が安定せず、紡糸切れが多発した。
【0046】
(比較例2)
ビニロンモノフィラメント300dtexを12本合糸してS-100T/mの下撚りをした。その後、この下撚りを3本合糸して、Z-60T/mの諸撚糸からなるロープを得た。
【0047】
実施例1、比較例2のロープを用いて、海藻類の活着性について評価した。評価方法は下のとおりとした。
【0048】
すなわち、ワカメの採苗評価を行った。詳細には、外径26mmの塩ビ管と、これに適合したエルボおよびティーとを用いて、縦0.5m×横1mの日の字形の枠を準備した。そして、実施例1および比較例2のロープを、それぞれ上記の枠に5回ずつ巻き付けた。さらに、ワカメのメカブから放出させた遊走子をロープの繊維表面に付着させた。その後、海水を貯留した水槽にこれを浸漬させて、遊走子の付着状況を顕微鏡で確認した。付着数は100倍視野で計測を行い、15視野の平均を計算した。また計測は、当日と、1日後と、6日後とに行った。
【0049】
実施例1および比較例2で得られた結果を表1に示す。
【0050】
【0051】
表1に示すように、実施例1は当日の遊走子数が多いうえ、1日後、6日後にも多くの遊走子が付着していた。一方、比較例2は、実施例1と比較して、付着した遊走子数が少なく、かつ脱落数が多く、6日後には40%程度減っていた。