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特許7584123マニピュレーションシステムおよび三次元位置提示方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-07
(45)【発行日】2024-11-15
(54)【発明の名称】マニピュレーションシステムおよび三次元位置提示方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 21/32 20060101AFI20241108BHJP
   G02B 21/36 20060101ALI20241108BHJP
【FI】
G02B21/32
G02B21/36
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020166085
(22)【出願日】2020-09-30
(65)【公開番号】P2022057695
(43)【公開日】2022-04-11
【審査請求日】2023-08-18
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ロボティクス・メカトロニクス講演会2020 in Kanazawa、オンライン予稿集、令和2年5月27日(掲載日) ロボティクス・メカトロニクス講演会2020 in Kanazawa、オンラインポスター発表、令和2年5月28日(発表日)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業「人とマクロ世界のインタラクション技術の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】青山 忠義
(72)【発明者】
【氏名】藤城 俊希
【審査官】中村 説志
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-258413(JP,A)
【文献】特開2009-211030(JP,A)
【文献】特開2004-255493(JP,A)
【文献】特開平10-180660(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0138926(US,A1)
【文献】特表2011-521318(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0308531(US,A1)
【文献】特開2009-012106(JP,A)
【文献】特表2019-523664(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0252713(US,A1)
【文献】特開2019-215487(JP,A)
【文献】特開2008-145268(JP,A)
【文献】特開2020-030338(JP,A)
【文献】特開2011-059515(JP,A)
【文献】国際公開第2018/092109(WO,A1)
【文献】独国特許出願公開第102004051508(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B19/00-21/00
G02B21/06-21/36
B25J 1/00-21/02
C12M 1/00- 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を支持するステージと、
前記ステージ上の前記試料を操作するためのマニピュレータと、
前記マニピュレータを移動させるマニピュレータ駆動機構と、
前記試料および前記マニピュレータを観察するための対物レンズと、
前記対物レンズを通過した観察光が入射する焦点可変レンズと、
前記焦点可変レンズを通過した前記観察光を撮像して撮像画像を生成する撮像装置と、
前記焦点可変レンズの屈折力を変化させ、前記対物レンズの先端から前記観察光の焦点位置までの作動距離を変化させるレンズ駆動機構と、
前記作動距離を変化させて撮像した複数の撮像画像に基づいて前記試料の三次元位置を特定し、前記マニピュレータ駆動機構の動作に基づいて前記マニピュレータの三次元位置を特定し、前記試料および前記マニピュレータの立体的な配置関係を仮想空間にマッピングする制御装置と、
前記仮想空間にマッピングされた前記試料および前記マニピュレータの立体的な配置関係を表示する表示装置と、を備えることを特徴とするマニピュレーションシステム。
【請求項2】
前記制御装置は、前記対物レンズの光軸を基準とする第1座標系を用いて前記試料の三次元位置を特定し、前記マニピュレータの駆動軸を基準とする第2座標系から前記第1座標系への座標変換により前記マニピュレータの前記第1座標系における三次元位置を特定し、前記第1座標系を用いて前記試料および前記マニピュレータの立体的な配置関係を前記仮想空間にマッピングすることを特徴とする請求項1に記載のマニピュレーションシステム。
【請求項3】
前記第2座標系から前記第1座標系への座標変換に用いる座標変換パラメータは、前記マニピュレータの先端を複数の計測位置に移動させたときの前記マニピュレータの先端の前記第2座標系における複数の座標値と、前記マニピュレータを前記複数の計測位置に移動させたときの前記マニピュレータの先端を撮像した撮像画像に基づいて特定される前記マニピュレータの先端の前記第1座標系における複数の座標値とに基づいて決定され、
前記複数の計測位置は、前記対物レンズの光軸方向について前記対物レンズの被写界深度よりも広い範囲にわたって分布することを特徴とする請求項2に記載のマニピュレーションシステム。
【請求項4】
前記制御装置は、前記作動距離を変化させて撮像した前記複数の撮像画像に含まれる前記試料の平均エッジ強度を算出し、前記作動距離と前記平均エッジ強度の相関をガウス分布近似したときの極大値に基づいて前記試料の三次元位置を特定することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のマニピュレーションシステム。
【請求項5】
前記制御装置は、前記作動距離を変化させて撮像した複数の撮像画像に含まれる前記マニピュレータの先端の平均エッジ強度を算出し、前記平均エッジ強度が最大となるときの作動距離に基づいて、前記マニピュレータの三次元位置を較正することを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載のマニピュレーションシステム。
【請求項6】
前記制御装置は、前記対物レンズの焦点距離と、前記焦点可変レンズの焦点距離と、前記対物レンズと前記焦点可変レンズの距離と、前記対物レンズの先端から前記試料までの光路の屈折率分布とに基づいて、前記作動距離を算出することを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載のマニピュレーションシステム。
【請求項7】
ステージ上の試料およびマニピュレータを観察するための対物レンズを通過した観察光が入射する焦点可変レンズの屈折力を変化させ、前記対物レンズの先端から前記観察光の焦点位置までの作動距離を変化させるステップと、
前記作動距離を変化させながら前記観察光を撮像装置を用いて撮像して複数の撮像画像を生成するステップと、
前記複数の撮像画像に基づいて前記試料の三次元位置を特定するステップと、
前記マニピュレータを移動させるマニピュレータ駆動機構の動作に基づいて前記マニピュレータの三次元位置を特定するステップと、
前記試料および前記マニピュレータの立体的な配置関係を仮想空間にマッピングするステップと、
前記仮想空間にマッピングされた前記試料および前記マニピュレータの立体的な配置関係を表示するステップと、を備えることを特徴とする三次元位置提示方法。
【請求項8】
ステージ上の試料およびマニピュレータを観察するための対物レンズを通過した観察光が入射する焦点可変レンズの屈折力を変化させるためのレンズ駆動機構を制御し、前記対物レンズの先端から前記観察光の焦点位置までの作動距離を変化させる機能と、
前記作動距離を変化させながら前記観察光を撮像装置を用いて撮像した複数の撮像画像を取得する機能と、
前記複数の撮像画像に基づいて前記試料の三次元位置を特定する機能と、
前記マニピュレータを移動させるマニピュレータ駆動機構の動作に基づいて前記マニピュレータの三次元位置を特定する機能と、
前記試料および前記マニピュレータの立体的な配置関係を仮想空間にマッピングする機能と、をコンピュータに実現させることを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、マニピュレーションシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
細胞をマニピュレータを用いて操作するためのマニピュレーションシステムが知られている。細胞は微小であるため、細胞やマニピュレータの位置を顕微鏡で観察しながら細胞に対する操作がなされる。例えば、複数の顕微鏡を配置して複数の方向から細胞を観察できるようにすることで、細胞とマニピュレータの立体的な配置関係を把握できるようにしたシステムが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-122891号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
複数の顕微鏡を組み合わせる場合、特定の方向から見たときの配置関係しか確認できない。立体的な配置関係を任意の視点で確認できることが好ましい。
【0005】
本開示はこうした課題に鑑みてなされたものであり、その例示的な目的の一つは、試料およびマニピュレータの三次元位置を提示する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示のある態様のマニピュレーションシステムは、試料を支持するステージと、ステージ上の試料を操作するためのマニピュレータと、マニピュレータを移動させるマニピュレータ駆動機構と、試料およびマニピュレータを観察するための対物レンズと、対物レンズを通過した観察光が入射する焦点可変レンズと、焦点可変レンズを通過した観察光を撮像して撮像画像を生成する撮像装置と、焦点可変レンズの屈折力を変化させ、対物レンズの先端から観察光の焦点位置までの作動距離を変化させるレンズ駆動機構と、作動距離を変化させて撮像した複数の撮像画像に基づいて試料の三次元位置を特定し、マニピュレータ駆動機構の動作に基づいてマニピュレータの三次元位置を特定し、試料およびマニピュレータの立体的な配置関係を仮想空間にマッピングする制御装置と、仮想空間にマッピングされた試料およびマニピュレータの立体的な配置関係を表示する表示装置と、を備える。
【0007】
本開示の別の態様は、三次元位置提示方法である。この方法は、ステージ上の試料およびマニピュレータを観察するための対物レンズを通過した観察光が入射する焦点可変レンズの屈折力を変化させ、対物レンズの先端から観察光の焦点位置までの作動距離を変化させるステップと、作動距離を変化させながら観察光を撮像装置を用いて撮像して複数の撮像画像を生成するステップと、複数の撮像画像に基づいて試料の三次元位置を特定するステップと、マニピュレータの動作に基づいてマニピュレータの三次元位置を特定するステップと、試料およびマニピュレータの立体的な配置関係を仮想空間にマッピングするステップと、仮想空間にマッピングされた試料およびマニピュレータの立体的な配置関係を表示するステップと、を備える。
【0008】
本開示のさらに別の態様は、プログラムである。このプログラムは、ステージ上の試料およびマニピュレータを観察するための対物レンズを通過した観察光が入射する焦点可変レンズの屈折力を変化させるためのレンズ駆動機構を制御し、対物レンズの先端から観察光の焦点位置までの作動距離を変化させる機能と、作動距離を変化させながら観察光を撮像装置を用いて撮像した複数の撮像画像を取得する機能と、複数の撮像画像に基づいて試料の三次元位置を特定する機能と、マニピュレータの動作に基づいてマニピュレータの三次元位置を特定する機能と、試料およびマニピュレータの立体的な配置関係を仮想空間にマッピングする機能と、をコンピュータに実現させる。
【0009】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや、本開示の構成要素や表現を方法、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本開示の態様として有効である。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、試料およびマニピュレータの三次元位置を提示できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施の形態に係るマニピュレーションシステムの構成を模式的に示す図である。
図2】屈折率の影響を考慮した作動距離を模式的に示す図である。
図3】試料のz方向の位置座標の特定方法を模式的に示す図である。
図4】ガウス分布近似した平均エッジ強度と作動距離の相関を示すグラフである。
図5】座標変換パラメータを導出するときのマニピュレータの計測パターンを模式的に示す図である。
図6図6(a)~(j)は、対物レンズの視野内の撮像画像および三次元表示装置の表示例を示す図である。
図7】実施の形態に係る三次元位置提示方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
まず、本開示の概要を説明する。本開示は、マニピュレーションシステムに関する。マニピュレーションシステムは、細胞などの試料を観察するための光学顕微鏡と、試料を操作するためのマニピュレータとを備える。ユーザは、光学顕微鏡で試料およびマニピュレータを観察しながらマニピュレータを移動させることで試料を操作する。試料およびマニピュレータのそれぞれの位置は三次元で変化するため、試料およびマニピュレータの立体的な配置関係が分からなければ、試料を適切に操作することが困難である。本開示では、試料およびマニピュレータの三次元位置をリアルタイムで特定し、両者を仮想空間にマッピングすることで試料およびマニピュレータの立体的な配置関係をユーザに提示する。試料およびマニピュレータの立体的な配置関係は、例えば、立体視が可能な三次元表示装置を通じてユーザに提供される。本開示によれば、試料およびマニピュレータの三次元位置を立体的に表示することで、ユーザが任意の視点で試料およびマニピュレータの配置関係を確認することが可能となり、マニピュレーションシステムの利便性を高めることができる。
【0013】
図1は、実施の形態に係るマニピュレーションシステム10の構成を模式的に示す図である。マニピュレーションシステム10は、倒立型の顕微鏡構成を備える。マニピュレーションシステム10は、ステージ12と、照明装置14と、マニピュレータ16と、折り返しミラー18と、対物レンズ20と、焦点可変レンズ22と、撮像装置24と、マニピュレータ駆動機構26と、レンズ駆動機構28と、制御装置30と、三次元表示装置32と、二次元表示装置34と、入力装置36と、を備える。
【0014】
図1において、ステージ12上での対物レンズ20の光軸Aを基準とする第1座標系を設定している。ステージ12上での対物レンズ20の光軸Aが延びる方向をz方向とし、光軸Aに直交する方向をx方向およびy方向としている。図示する例において、ステージ12上での対物レンズ20の光軸Aが延びる方向は、ステージ12の支持面12aに直交する方向と一致する。なお、ステージ12上での対物レンズ20の光軸Aが延びる方向は、ステージ12の支持面12aに直交する方向からずれていてもよい。
【0015】
ステージ12は、試料40を水平に支持するための支持面12aと、試料40からの観察光42を通過させるための開口12bとを有する。操作対象とする試料40は特に問わないが、ヒトや動物などの細胞を操作対象とすることができる。試料40は、例えば、樹脂やガラスなどの透明材料で構成される試料皿46に収容され、試料皿46がステージ12の上に配置される。試料40は、例えば、試料皿46に収容される水などの液体48内に浮遊している。
【0016】
照明装置14は、ステージ12の上方に設けられ、ステージ12上の試料40を照射する。照明装置14は、試料40に向けて白色光などの照明光44を投射する。照明装置14は、透過照明を提供するよう構成される。照明装置14は、蛍光観察などのために選択された特定波長の可視光の照明光44を投射可能であってもよい。照明装置14は、例えば、ステージ12上の照度分布が均一となる照明光44を投射する。
【0017】
マニピュレータ16は、ステージ12上に設けられ、試料40の操作に用いられる。図示する例において、マニピュレータ16は、ホールディングピペット16aおよびインジェクションピペット16bを含む。例えば、ホールディングピペット16aを用いて細胞を固定し、インジェクションピペット16bを用いて細胞内への遺伝子導入などの細胞操作がなされる。図示する例では、二つのマニピュレータが設けられているが、マニピュレータの数は一つであってもよいし、三以上であってもよい。
【0018】
折り返しミラー18は、ステージ12の開口12bの直下に設けられる。折り返しミラー18は、試料40からの観察光42を対物レンズ20に向けて反射させるよう配置される。図示する例では、対物レンズ20の光軸Aが折り返しミラー18にて折り返される構成となっているが、折り返しミラー18を設けずにz方向に延びる光軸上に対物レンズ20を配置してもよい。
【0019】
対物レンズ20は、折り返しミラー18からの観察光42が入射する位置に配置される。対物レンズ20は、折り返しミラー18から+x方向に離れた位置に配置される。対物レンズ20は、比較的長い作動距離(WD;Working Distance)を有することが望ましい。対物レンズ20の拡大倍率や作動距離などの仕様は特に限られないが、例えば、10倍~50倍の拡大倍率において20mm~40mmの作動距離を有する超長作動タイプの対物レンズを用いることができる。
【0020】
焦点可変レンズ22は、対物レンズ20を通過した観察光42が入射する位置に配置される。焦点可変レンズ22は、対物レンズ20と撮像装置24の間に配置され、例えば対物レンズ20に隣接または近接して配置される。焦点可変レンズ22は、所定の範囲内で屈折力が可変となるよう構成される。焦点可変レンズ22は、正の屈折力のみを有する凸レンズであってもよいし、負の屈折力のみを有する凹レンズであってもよいし、正負の屈折力を切り替えできるように構成されてもよい。
【0021】
焦点可変レンズ22は、例えば、液体レンズで構成され、液体レンズを封止する可撓性の透明膜を変形させることで焦点距離が可変となるよう構成される。透明膜の形状は、透明膜に加える圧力を変化させることで制御される。例えば、電磁アクチュエータや圧電素子を用いることで焦点可変レンズ22の焦点距離を電気的に制御できる。焦点可変レンズ22は、例えば、対物レンズ20と焦点可変レンズ22の組み合わせによる実効的な作動距離を2mm程度の範囲で可変にするよう構成される。
【0022】
撮像装置24は、焦点可変レンズ22を通過した観察光42を撮像して撮像画像を生成する。撮像装置24は、撮像レンズ24aと、撮像素子24bとを有する。撮像レンズ24aは、観察光42を撮像素子24bに結像させる。撮像素子24bは、CMOSセンサなどの画像センサであり、高フレームレートで撮像画像を生成することが可能である。撮像装置24のフレームレートは特に限られないが、毎秒100フレーム以上であることが好ましく、毎秒500フレーム以上であることがより好ましい。
【0023】
対物レンズ20、焦点可変レンズ22および撮像装置24は、x方向に延びる光軸Aに沿って配置され、例えばx方向に延びる鏡筒に対して固定される。なお、焦点可変レンズ22と撮像装置24の間に図示しない追加の折り返しミラーが設けられてもよく、光軸Aがさらに折り返される構成であってもよい。
【0024】
マニピュレータ駆動機構26は、マニピュレータ16を移動させ、マニピュレータ16の三次元位置を可変にする。図示する例において、マニピュレータ駆動機構26は、第1駆動機構26aと、第2駆動機構26bとを含む。第1駆動機構26aは、ホールディングピペット16aを移動させ、ホールディングピペット16aの三次元位置を可変にするよう構成される。第2駆動機構26bは、インジェクションピペット16bを移動させ、インジェクションピペット16bの三次元位置を可変にするよう構成される。ホールディングピペット16aおよびマニピュレータ16のそれぞれの三次元位置は、互いに独立して制御可能である。
【0025】
レンズ駆動機構28は、焦点可変レンズ22を駆動し、焦点可変レンズ22の屈折力を変化させる。レンズ駆動機構28は、焦点可変レンズ22の屈折力を変化させることで、対物レンズ20と焦点可変レンズ22の組み合わせによる実効的な作動距離を変化させる。ここで、実効的な作動距離とは、対物レンズ20の先端から観察光42の焦点位置までの距離であり、対物レンズ20の先端から撮像装置24が撮像する撮像画像のピントが合う焦点面までの距離である。
【0026】
制御装置30は、マニピュレーションシステム10の動作全般を制御する。制御装置30は、ハードウェア的には、コンピュータのCPUやメモリをはじめとする素子や機械装置で実現でき、ソフトウェア的にはコンピュータプログラム等によって実現される。制御装置30は、例えば、汎用のパーソナルコンピュータにより構成される。
【0027】
三次元表示装置32は、試料40およびマニピュレータ16の三次元位置を立体的に表示する。三次元表示装置32は、例えば、Looking Glassなどのホログラムディスプレイであり、3Dメガネなどを使用することなく立体視を可能とする表示装置である。三次元表示装置32には、試料40およびマニピュレータ16を模したコンピュータグラフィック(CG)画像が表示される。三次元表示装置32は、ヘッドマウント型の仮想現実(VR)表示装置であってもよい。
【0028】
二次元表示装置34は、液晶ディスプレイなどであり、撮像装置24が撮像する撮像画像などをリアルタイムで表示する。二次元表示装置34は、試料40およびマニピュレータ16の三次元位置を表示してもよく、仮想空間にマッピングされた試料40およびマニピュレータ16を任意の観察面に透視投影して生成されるレンダリング画像を表示してもよい。
【0029】
入力装置36は、制御装置30への入力操作およびマニピュレータ16の操作をするための装置である。制御装置30への入力操作手段として、マウスやキーボードなどを用いることができる。マニピュレータ16の操作手段として、ジョイスティックなどを用いることができる。入力装置36を用いることで、マニピュレータ16の先端位置をマイクロメートルオーダで移動させることができ、試料40を精密に操作することができる。
【0030】
以下、試料40およびマニピュレータ16の三次元位置をリアルタイムで特定する方法について説明する。
【0031】
制御装置30は、撮像装置24が撮像する撮像画像に基づいて、撮像画像に含まれる試料40の三次元位置を特定する。制御装置30は、対物レンズ20の光軸Aを基準とする第1座標系を用いて試料40の三次元位置を特定する。制御装置30は、撮像画像に含まれる試料40を画像認識技術を用いて特定し、撮像画像における試料40の中心位置から試料40のx方向およびy方向の位置座標を特定する。制御装置30は、試料40を撮像するときの作動距離に基づいて試料40のz方向の位置座標を特定する。制御装置30は、例えば、対物レンズ20の先端をz方向の原点(z=0)とし、対物レンズ20から試料40までの作動距離を試料40のz方向の位置座標とする。
【0032】
作動距離WDは、対物レンズ20の焦点距離fと、焦点可変レンズ22の焦点距離fと、対物レンズ20と焦点可変レンズ22の距離dと、対物レンズ20から試料40までの光路の屈折率分布とに基づいて算出できる。対物レンズ20と焦点可変レンズ22の組み合わせによる合成焦点距離fは、f=f(f-d)/(f+f-d)と表される。合成焦点距離fは、対物レンズ20から試料40までの光路が空気であり、屈折率がほぼ1である場合の作動距離に相当する。実際には、対物レンズ20から試料40までの光路には試料皿46や液体48が存在する。そのため、実際の作動距離WDは、試料皿46や液体48の屈折率の影響によって合成焦点距離fからずれてしまう。
【0033】
図2は、屈折率の影響を考慮した作動距離WDを模式的に示す図である。図示されるように、対物レンズ20から試料40までの光路に試料皿46および液体48が存在することで、対物レンズ20に入射する観察光42が屈折する。その結果、実際の作動距離WDは、試料皿46および液体48が存在しない場合の対物レンズ20および焦点可変レンズ22の合成焦点距離fよりも長くなる。実際の作動距離WDは、合成焦点距離f、空気の屈折率n、試料皿46の屈折率n、液体48の屈折率n、対物レンズ20から試料皿46までの距離a、試料皿46の厚さb、対物レンズ20を理想的な平凸レンズと仮定した場合の有効半径rを用いて、以下の式(1)で表すことができる。式(1)は、スネルの法則に基づく幾何学的な関係性に基づいて導出可能である。
【数1】
【0034】
実際の作動距離WDの一例を挙げると、合成焦点距離f=21.059mm、ポリスチレン(PS)の試料皿46の屈折率n=1.592、純水の液体48の屈折率n=1.33、距離a=19.135mm、厚さb=1.0mm、有効半径r=5.0mmの場合、作動距離WD=21.894mmとなる。このとき、作動距離WDと合成焦点距離fの差は0.835mmであり、対物レンズ20の被写界深度(約0.03mm)や細胞の大きさ(約0.1mm)に比べて非常に大きい。したがって、対物レンズ20から試料40までの屈折率分布の影響を考慮して作動距離WDを補正することで、試料40のz方向の位置座標を正確に特定できる。
【0035】
制御装置30は、レンズ駆動機構28を制御して作動距離WDを変化させる。制御装置30は、作動距離WDを変化させて撮像した複数の撮像画像に基づいて試料40のz方向の位置座標を特定する。具体的には、複数の撮像画像のそれぞれに含まれる試料40の平均エッジ強度Fを算出し、作動距離WDと平均エッジ強度Fの相関をガウス分布近似したときの極大値に基づいて試料40のz方向の位置座標を特定する。平均エッジ強度Fは、撮像画像の各画素のエッジ強度f(x,y)を算出し、試料40が含まれる領域の全画素のエッジ強度f(x,y)を平均することで求められる。各画素の輝度値をI(x,y)とすると、エッジ強度はf(x,y)={(I(x+1,y)-I(x,y))+(I(x,y+1)-I(x,y))1/2と表される。平均エッジ強度Fは、撮像画像に含まれる試料40のコントラストを示し、平均エッジ強度Fが大きいほど試料40がピントの合った状態で高コントラストで撮像されていることを示す。
【0036】
図3は、試料40のz方向の位置座標の特定方法を模式的に示す図である。図3では、対物レンズ20の作動距離WDを第1距離z、第2距離z、第3距離z(z<z<z)に設定し、各距離z~zに位置する焦点面50a、50b、50cを撮像した撮像画像52a、52b、52cを模式的に示す。図示する例では、試料40の中心座標zが第1距離zと第2距離zの間に位置し、試料40が第2焦点面50bが交差している状態を示している。第2焦点面50bは、試料40と交差しているため、第2焦点面50bを撮像した第2撮像画像52bにはピントが合った状態の試料40が含まれる。一方、試料40から離れた第1焦点面50aを撮像した第1撮像画像52aにはピントが多少ぼけた状態の試料40が含まれる。また、試料40からより離れた第3焦点面50cを撮像した第3撮像画像52cにはピントが合っていない状態の試料40が含まれる。第1距離z、第2距離zおよび第3距離zの間隔Δzは、試料40のサイズの1~2倍程度の値が設定される。例えば、試料40のサイズが100μm程度であれば、Δz=100μm~200μm程度である。
【0037】
制御装置30は、作動距離WDを変化させて撮像した複数の撮像画像52a~52cを取得し、各撮像画像52a~52cにおいて試料40が含まれる領域54a~54cの平均エッジ強度F、F、Fを算出する。図3に示される例では、各撮像画像52a~52cの平均エッジ強度の大小関係は、F<F<Fとなる。制御装置30は、算出した平均エッジ強度F、F、Fと各焦点面50a~50cまでの距離z,z,zの相関をガウス分布で近似する。
【0038】
図4は、ガウス分布近似した平均エッジ強度F、F、Fと作動距離WDの関係性を示すグラフである。図示されるように、平均エッジ強度の大小関係がF<FかつF<Fであれば、平均エッジ強度F~Fをガウス分布で近似して極大値Fmaxを特定できる。極大値Fmaxは、試料40のピントが最も合う位置に相当するため、極大値Fmaxに対応する作動距離zを試料40の中心のz座標とみなすことができる。なお、極大値Fmaxに対応する作動距離zは、平均エッジ強度F、F、Fと、各焦点面までの距離z、z、zとを用いて、以下の式(2)を用いて算出できる。
【数2】
【0039】
制御装置30は、マニピュレータ駆動機構26の動作に基づいてマニピュレータ16の三次元位置を特定する。制御装置30は、まず、マニピュレータ16の駆動軸を基準とする第2座標系を用いてマニピュレータ16の三次元位置を特定する。第2座標系を基準とするマニピュレータ16の三次元位置は、マニピュレータ駆動機構26のモータの回転角やアクチュエータの駆動量などからマニピュレータ16の三次元方向の移動量を算出することで相対的に特定できる。第2座標系は、例えば、ホールディングピペット16aおよびインジェクションピペット16bのそれぞれについて設定され、それぞれの第2座標系においてホールディングピペット16aおよびインジェクションピペット16bの先端38a,38bの三次元位置が特定される。第2座標系は、ホールディングピペット16aおよびインジェクションピペット16bの共通の座標系であってもよい。
【0040】
制御装置30は、第2座標系から第1座標系への座標変換をすることで、マニピュレータ16の第1座標系における三次元位置を特定する。上述した通り、第1座標系は対物レンズ20の光軸Aを基準とする座標系である。第1座標系における位置座標をP(X,Y,Z)とし、第2座標系における位置座標をP(X,Y,Z)とすると、第2座標系から第1座標系への座標変換は、以下の式(3)で表すことができる。
【数3】
【0041】
上記式(3)において、rijは、第2座標系から第1座標系への回転を示す変換パラメータであり、tは、第2座標系の原点から第1座標系の原点への平行移動を示す変換パラメータである。座標変換パラメータrijおよびtは、第2座標系で計測されるマニピュレータ16の先端の位置座標と、第1座標系で計測されるマニピュレータ16の先端の位置座標との相関から導出できる。具体的には、マニピュレータ16の先端を100~200程度の互いに異なる複数の計測位置に配置し、各計測位置におけるマニピュレータ16の先端の位置座標を第1座標系と第2座標系のそれぞれで計測する。その後、第1座標系および第2座標系での位置座標の相関を最小二乗法を用いて特定することで、座標変換パラメータrijおよびtを推定できる。
【0042】
第1座標系における位置座標は、マニピュレータ16の先端を撮像するときの対物レンズ20の作動距離WDと、撮像画像におけるマニピュレータ16の先端の画素の座標(u,v)から特定できる。第1座標系の位置座標P(X,Y,Z)と撮像画像の画素の座標(u,v)の関係性は、透視投影変換によって以下の式(4)で表すことができる。
【数4】
式(4)において、(c,c)は、撮像画像の中心座標であり、sは任意の定数である。式(3)と式(4)を連立すると、以下の式(5)が得られる。
【数5】
式(5)を用いることで、対物レンズ20の作動距離WD、撮像画像における画素の座標(u,v)および第2座標系における位置座標P(X,Y,Z)に基づいて、座標変換パラメータrijおよびtを推定できる。
【0043】
図5は、座標変換パラメータを導出するためのマニピュレータ16の計測パターンを模式的に示す図である。対物レンズ20の光軸Aを基準とする第1座標系においてz方向に距離δで離間した複数の計測面60a、60b、60cが設定され、各計測面60a~60c内に複数の計測位置62a、62b、62cが格子状に設定される。図示する例では、三つの計測面60a~60cが設定され、一つの計測面(例えば第1計測面60a)内に9×6=54の計測位置(例えば複数の第1計測位置62a)が設定される。なお、計測面の数および計測位置の個数はこれに限られない。計測面の数は4以上であってもよいし、各計測面内の計測位置の個数は54より多くても少なくてもよい。
【0044】
最初に、対物レンズ20の視野内にマニピュレータ16の先端38が位置するようマニピュレータ16を移動させる。次に対物レンズ20の作動距離WDを調整してマニピュレータ16の先端38にピントが合うようにする。これにより、第1計測面60aまでの距離WDが決まる。つづいて、マニピュレータ16の先端38にピントが合った状態で、マニピュレータ16を移動させ、第1計測面60a内の複数の計測位置62aにおいて第1座標系および第2座標系のそれぞれでマニピュレータ16の先端38の位置座標を特定する。
【0045】
第1計測面60a内の全ての計測位置62aでの計測が終了すると、次に第2計測面60bにマニピュレータ16の先端38を移動させる。このとき、マニピュレータ16の先端38をz方向にδだけ移動させるとともに、作動距離をδだけ大きくしてWD+δとする。第1計測面60aと第2計測面60bの距離δは、対物レンズ20の被写界深度よりも大きい値が設定され、例えば、被写界深度の5倍~10倍程度である。一例を挙げれば、対物レンズ20の被写界深度が30μmであり、δ=200μmである。したがって、図5の計測パターンにおける複数の計測位置62a、62b、62cは、対物レンズ20の光軸方向(z方向)について対物レンズ20の被写界深度よりも広い範囲にわたって分布している。
【0046】
第2計測面60bにおいても、第1計測面60aと同様、マニピュレータ16の先端38にピントが合った状態でマニピュレータ16を移動させる。これにより、第2計測面60b内の複数の計測位置62bにおいて第1座標系および第2座標系のそれぞれでマニピュレータ16の先端38の位置座標を特定する。第2計測面60b内の全ての計測位置62bでの計測が終了すると、第3計測面60cにマニピュレータ16の先端38が位置するようにマニピュレータ16をz方向にδだけ移動させ、作動距離WDをδだけ大きくしてWD+2δとする。その後、第3計測面60c内の複数の計測位置62cにおいて、第1座標系および第2座標系のそれぞれでマニピュレータ16の先端38の位置座標が特定される。
【0047】
制御装置30は、全ての計測位置62a、62b、62cでの位置座標を特定した後、上記式(5)を用いて座標変換パラメータrijおよびtを決定する。制御装置30は、ホールディングピペット16aおよびインジェクションピペット16bのそれぞれの先端38a,38bについて別個に計測をして座標変換パラメータrijおよびtを決定してもよい。なお、座標変換パラメータrijおよびtは、一度決定してしまえば、装置構成が変わらない限り、継続して使用できる。つまり、制御装置30は、マニピュレーションシステム10の使用のたびに座標変換パラメータrijおよびtを決定しなくてもよい。制御装置30は、事前に決定しておいた座標変換パラメータrijおよびtを記憶しておき、記憶しておいた座標変換パラメータrijおよびtを用いて、マニピュレータ16の先端38の位置座標を変換してもよい。
【0048】
座標変換パラメータrijおよびtは、マニピュレータ16の第2座標系における相対移動を第1座標系における相対移動に精度良く変換する。その一方で、座標変換パラメータrijおよびtを用いて第2座標系の座標点を第1座標系の座標点に変換した場合、発明者の知見によれば、両者の座標点がずれてしまうことが分かっている。つまり、座標変換パラメータrijおよびtだけでは、位置座標の絶対値の精度が低くなってしまう。上述の座標変換パラメータrijおよびtは、撮像される物体が視点に近いほど大きく見え、遠いほど小さく見えるという透視投影変換の性質を利用して決定している。通常のカメラの場合、カメラの被写界深度が比較的大きいために、カメラの被写界深度内で物体の奥行き方向の位置をずらすことで、物体の見た目の大きさを有意に異ならせることができる。一方、顕微鏡の場合、対物レンズ20の被写界深度が小さいため、対物レンズ20の被写界深度内で物体の奥行き方向の位置をずらしたとしても、物体の見た目の大きさはほとんど変わらない。つまり、マニピュレータ16の先端38のz方向の座標を変化させたときの撮像画像における見た目の変化が小さく、撮像画像に基づいて第1座標系のz方向の座標を推定すると、実際の位置(真値)からのずれが大きくなってしまう。そこで、本開示では、試料40のz方向の位置座標の特定手法と同様、マニピュレータ16の先端38を撮像した撮像画像の平均エッジ強度Fに基づいて、マニピュレータ16の先端38のz座標の絶対値を特定し、第1座標系における位置座標の絶対値(初期値または原点)を較正する。
【0049】
以下、マニピュレータ16の原点の較正方法について説明する。制御装置30は、まず、マニピュレータ16の先端38を対物レンズ20の視野内に設定される初期点(仮の原点)Oに位置させる。制御装置30は、初期点Oの第2座標系における位置座標(X20,Y20,Z20)を座標変換することで初期点Oの第1座標系における位置座標(X10,Y10,Z10)を算出する。制御装置30は、初期点Oに位置するマニピュレータ16の先端38を作動距離WDを変化させながら撮像して複数の撮像画像を生成する。作動距離WDの変化幅はできるだけ小さいことが好ましく、対物レンズ20の被写界深度以下(例えば1μm程度)であることが好ましい。制御装置30は、複数の撮像画像のそれぞれに含まれるマニピュレータ16の先端38の平均エッジ強度Fを算出し、平均エッジ強度Fが最大となる撮像画像を特定する。制御装置30は、平均エッジ強度Fが最大となる撮像画像を撮像したときの作動距離WDmaxを初期点Oのz座標の真値とする。ここで、第1座標系におけるマニピュレータ16の先端38の較正前のz座標をZとし、較正後のz座標をZ’とすると、Z’=Z-Z10+WDmaxと表される。
【0050】
制御装置30は、マニピュレーションシステム10の使用中、対物レンズ20の視野内にある試料40の第1座標系における三次元位置をリアルタイムで特定するとともに、マニピュレータ16の先端38の第1座標系における三次元位置をリアルタイムで特定する。試料40の三次元位置は、作動距離WDを変えて少なくとも三枚の撮像画像を取得することで特定できる。試料40の三次元位置を特定するための時間は、主に焦点可変レンズ22を駆動して作動距離WDを変化させるために必要な時間によって制約される。作動距離WDの変更に必要な時間は、焦点可変レンズ22の仕様や作動距離WDの変更量に依存するが、一例を挙げれば、10ミリ秒~20ミリ秒程度である。したがって、作動距離WDを変えて三枚の撮像画像を取得するために必要な時間は30ミリ秒~60ミリ秒程度であり、1秒あたり16回~33回の周期で試料40の三次元位置を捕捉できる。一方、マニピュレータ16の先端38の三次元位置は、マニピュレータ駆動機構26の動作に基づいて逐次捕捉でき、試料40の三次元位置を特定するための時間内で特定できる。
【0051】
制御装置30は、特定した試料40およびマニピュレータ16の三次元位置に基づいて、試料40およびマニピュレータ16の立体的な配置関係を仮想空間上にマッピングする。マッピングされる仮想空間の範囲は、対物レンズ20の視野の範囲よりも広い。試料40の三次元位置は、対物レンズ20の視野内でしか特定できないが、マニピュレータ16の三次元位置は、対物レンズ20の視野内および視野外の双方において特定できる。したがって、仮想空間では、対物レンズ20の視野内にマニピュレータ16の先端38が位置していなくても、マニピュレータ16の先端38の位置を常時マッピングできる。仮想空間にマッピングされる試料40およびマニピュレータ16の立体的な配置関係は、リアルタイムで三次元表示装置32に表示される。三次元表示装置32の表示周期は、一例を挙げれば40ミリ秒(毎秒25フレーム)である。
【0052】
図6(a)~(j)は、対物レンズ20の視野内の撮像画像および三次元表示装置32の表示例を示す図であり、左側からホールディングピペット16aで試料40を固定し、右側からインジェクションピペット16bで試料40を操作する流れを時系列で示している。図6(a)~(e)は、対物レンズ20の視野内の撮像画像(つまり、顕微鏡画像)であり、図6(f)~(j)は、図6(a)~(e)のそれぞれに対応する三次元表示装置32の表示例である。三次元表示装置32には、試料40を模した第1オブジェクト70、ホールディングピペット16aを模した第2オブジェクト72およびインジェクションピペット16bを模した第3オブジェクト74が立体的に表示される。
【0053】
図6(a),(b)は、試料40にインジェクションピペット16bを近づける前の状態を示し、撮像画像にインジェクションピペット16bが写っていない。しかしながら、インジェクションピペット16bの三次元位置は対物レンズ20の視野外であっても捕捉可能である。そのため、図6(f),(g)の三次元表示装置32にはインジェクションピペット16bを模した第3オブジェクト74も表示されている。その結果、対物レンズ20の視野内にインジェクションピペット16bが見えなくても、三次元表示装置32を見ながら、インジェクションピペット16bの先端が試料40に近づくようにインジェクションピペット16bを操作できる。
【0054】
三次元表示装置32は、視点を任意に切り替えることが可能であり、例えば、試料40をz方向に見たときの上面視、試料40をx方向に見たときの側面視および試料40をy方向に見たときの側面視のいずれかに表示を切り替えることができる。図6(f)は、試料40をz方向に見たときの上面視の表示例であり、図6(g)は、試料40をy方向に見たときの側面視の表示例である。視点を適宜切り替えることで、試料40に対するマニピュレータ16の挿入角度なども容易に確認できる。
【0055】
図6(c),(d)は、試料40にインジェクションピペット16bを接触させて操作している状態を示している。図6(c)の撮像画像を見ると、インジェクションピペット16bが試料40に刺さっているように見える。しかしながら、図6(h)の三次元表示装置32を見ると、試料40の下にインジェクションピペット16bが潜り込んでおり、試料40にインジェクションピペット16bが刺さっていないことが分かる。また、試料40がインジェクションピペット16bによって上方に持ち上げられ、ホールディングピペット16aによる試料40の固定が外れそうな状態であることが分かる。
【0056】
図6(e)は、試料40にインジェクションピペット16bが刺さり、ホールディングピペット16aから試料40が離れている状態を示している。このとき、図6(i)の三次元表示装置32を見ることで、試料40のどの程度の深さまでインジェクションピペット16bが刺さっているかを確認できる。また、三次元表示装置32の視点を切り替えることで、インジェクションピペット16bが試料40の中心付近に刺さっているかどうかを確認できる。
【0057】
つづいて、マニピュレーションシステム10の動作の流れを説明する。図7は、実施の形態に係る三次元位置提示方法を示すフローチャートである。最初に、マニピュレータ16の原点を較正する(S10)。マニピュレータ16の原点の較正は、マニピュレータ16の先端38を作動距離を変えて撮像し、撮像画像の平均エッジ強度Fが最大となる作動距離WDmaxを特定することで実行される。つづいて、観察領域を撮像した撮像画像を取得し(S12)、撮像画像に試料40があれば(S14のY)、作動距離WDを変えて複数の撮像画像を取得する(S16)。複数の撮像画像に含まれる試料40の平均エッジ強度Fをガウス分布近似したときの最大値に基づいて試料40の三次元位置を特定する(S18)。つづいて、マニピュレータ16の動作に基づいてマニピュレータ16の第2座標系における三次元位置を特定し、第2座標系から第1座標系への座標変換により第1座標系におけるマニピュレータ16の三次元位置を特定する(S20)。特定した第1座標系における試料40およびマニピュレータ16の三次元位置に基づいて、仮想空間に試料40およびマニピュレータ16をマッピングし(S22)、仮想空間にマッピングされた試料40およびマニピュレータ16の立体的な配置関係を三次元表示装置32などに表示する(S24)。S14にて試料40がなければ(S14のN)、S16~S24の処理をスキップする。マニピュレーションシステム10の使用を継続する場合(S26のN)、S12~S24の処理を繰り返す。マニピュレーションシステム10の使用を終了する場合(S26のY)、本フローを終了する。
【0058】
本開示の一例によれば、S12~S24の処理が40ミリ秒ごとに繰り返され、毎秒25フレームの周期で試料40およびマニピュレータ16の三次元位置が更新されて表示される。この表示周期は、一般的な動画のフレームレートとほぼ同じであるため、三次元表示装置32を視認するユーザからすると、試料40およびマニピュレータ16の三次元位置がタイムラグなしで即時反映されているかのように見える。その結果、実際の位置と表示上の位置がずれることによるストレスを感じることなく、三次元表示装置32を見ながら試料40をマニピュレータ16で正確に操作できる。三次元表示装置32は、立体視が可能な状態で試料40とマニピュレータ16の配置関係を提示するため、三次元表示装置32に対する視線の向きを変えることで、様々な角度から試料40とマニピュレータ16の配置関係を確認することができる。言い換えれば、拡大された試料40とマニピュレータ16が目の前に立体的に存在するかのように表示できるため、両者の立体的な位置関係の把握が容易となる。これにより、細胞などの微小な試料40を精密に操作する際の操作性を向上させることができ、マニピュレーションシステム10の利便性を高めることができる。
【0059】
以上、本開示を実施の形態にもとづいて説明した。本開示は上記実施の形態に限定されず、種々の設計変更が可能であり、様々な変形例が可能であること、またそうした変形例も本開示の範囲にあることは、当業者に理解されるところである。
【符号の説明】
【0060】
10…マニピュレーションシステム、12…ステージ、16…マニピュレータ、16a…ホールディングピペット、16b…インジェクションピペット、20…対物レンズ、22…焦点可変レンズ、24…撮像装置、26…マニピュレータ駆動機構、28…レンズ駆動機構、30…制御装置、32…三次元表示装置、38…先端、40…試料、42…観察光、46…試料皿、48…液体。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7