IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ベイラー カレッジ オブ メディスンの特許一覧

特許7584127活性化された病原性T細胞およびNK細胞の選択的標的化のための自己/同種免疫防御受容体
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-07
(45)【発行日】2024-11-15
(54)【発明の名称】活性化された病原性T細胞およびNK細胞の選択的標的化のための自己/同種免疫防御受容体
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/62 20060101AFI20241108BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20241108BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20241108BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20241108BHJP
   C12N 15/861 20060101ALI20241108BHJP
   C12N 15/864 20060101ALI20241108BHJP
   C12N 15/867 20060101ALI20241108BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20241108BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20241108BHJP
   C12N 5/0783 20100101ALI20241108BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20241108BHJP
   C07K 14/705 20060101ALI20241108BHJP
   C07K 14/47 20060101ALI20241108BHJP
   A61K 35/12 20150101ALI20241108BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20241108BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20241108BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20241108BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20241108BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20241108BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20241108BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20241108BHJP
【FI】
C12N15/62 Z ZNA
C12N15/12
C12N15/13
C12N15/63 Z
C12N15/861 Z
C12N15/864 100Z
C12N15/867 Z
C12N1/21
C12N5/10
C12N5/0783
C07K19/00
C07K14/705
C07K14/47
A61K35/12
A61K35/17
A61P37/02
A61P37/06
A61P3/10
A61P25/00
A61P1/04
C12N15/09 100
【請求項の数】 63
(21)【出願番号】P 2020560284
(86)(22)【出願日】2019-04-25
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-08-30
(86)【国際出願番号】 US2019029163
(87)【国際公開番号】W WO2019210081
(87)【国際公開日】2019-10-31
【審査請求日】2022-03-22
(31)【優先権主張番号】62/662,817
(32)【優先日】2018-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】391058060
【氏名又は名称】ベイラー カレッジ オブ メディスン
【氏名又は名称原語表記】BAYLOR COLLEGE OF MEDICINE
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】マモンキン、マクシム
(72)【発明者】
【氏名】ブレナー、マルコム、ケイ.
(72)【発明者】
【氏名】モー、フェイイェン
【審査官】小林 薫
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/011804(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0203560(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
C12N 1/00- 7/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリペプチドをコードする配列を含む単離されたポリヌクレオチドであって、該ポリペプチドは
(1)OX40特異的リガンド、4-1BB特異的リガンド、CD40L特異的リガンド、またはそれらの機能的フラグメントのうちの1つ以上が、
(2)T細胞活性化を促進するシグナリングドメイン
に作動的に連結されているものを含み、
前記OX40特異的リガンドが、OX40L、OX40を標的とする抗体、OX40L-Fc融合物、またはそれらの組合せであり、
前記4-1BB特異的リガンドが、4-1BBL、4-1BBを標的とする抗体、4-1BBL-Fc融合物、またはそれらの組合せであり、
前記CD40L特異的リガンドが、CD40、CD40Lを標的とする抗体、CD40-Fc融合物、またはそれらの組合せである、単離されたポリヌクレオチド。
【請求項2】
前記ポリペプチドがOX40特異的リガンドを含む、請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項3】
前記ポリペプチドが4-1BB特異的リガンドを含む、請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項4】
前記ポリペプチドがCD40L特異的リガンドを含む、請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項5】
前記ポリペプチドが1つ、2つまたはそれ以上の共刺激ドメインをさらに含む、請求項1~4のいずれか一項に記載のポリヌクレオチド。
【請求項6】
前記ポリヌクレオチドが(1)と(2)の間のスペーサーをコードする配列をさらに含む、請求項1~5のいずれか一項に記載のポリヌクレオチド。
【請求項7】
前記スペーサーが10~220アミノ酸長である、請求項6に記載のポリヌクレオチド。
【請求項8】
前記スペーサーが抗体による表面検出を促進する配列を有する、請求項7に記載のポリヌクレオチド。
【請求項9】
前記スペーサーが抗Fc Abで検出可能である、請求項8に記載のポリヌクレオチド。
【請求項10】
前記スペーサーがIgG Fc部分を含む、請求項9に記載のポリヌクレオチド。
【請求項11】
前記ポリヌクレオチドがキメラ抗原受容体、T細胞受容体またはその両方をさらにコードする、請求項1~10のいずれか一項に記載のポリヌクレオチド。
【請求項12】
請求項1に記載のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドおよびキメラ抗原受容体、T細胞受容体またはその両方をコードするポリヌクレオチド上に2A要素またはIRES要素がある、請求項11に記載のポリヌクレオチド。
【請求項13】
前記キメラ抗原受容体が1つ、2つまたはそれ以上の共刺激ドメインを含む、請求項12に記載のポリヌクレオチド。
【請求項14】
求項1~13のいずれか一項に記載のポリヌクレオチドを含む、ベクター
【請求項15】
前記ベクターがウイルスベクターまたは非ウイルスベクターである、請求項14に記載のベクター
【請求項16】
前記ウイルスベクターが、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクターまたはアデノ随伴ウイルスベクターである、請求項15に記載のベクター
【請求項17】
求項1~13のいずれか一項に記載のポリヌクレオチドを含む、細胞
【請求項18】
前記細胞が真核細胞または細菌細胞である、請求項17に記載の細胞
【請求項19】
前記細胞が免疫細胞である、請求項17または請求項18に記載の細胞
【請求項20】
前記細胞が工学的に操作される、請求項17~19のいずれか一項に記載の細胞
【請求項21】
前記免疫細胞がT細胞である、請求項19に記載の細胞
【請求項22】
前記T細胞が1つ以上のキメラ抗原受容体を含む、請求項21に記載の細胞
【請求項23】
前記キメラ抗原受容体が1つ、2つまたはそれ以上の共刺激ドメインを含む、請求項22に記載の細胞
【請求項24】
前記T細胞が1つ以上の工学的に操作されたT細胞受容体(TCR)を含む、請求項21に記載の細胞
【請求項25】
請求項1~10のいずれか一項に記載のポリヌクレオチドによって発現されるポリペプチド。
【請求項26】
(1)OX40特異的リガンド、4-1BB特異的リガンド、CD40のうちの1つ以上が、
(2)T細胞活性化を促進するシグナリングドメイン
に作動的に連結されているものを含み、
前記OX40特異的リガンドが、OX40L、OX40を標的とする抗体、OX40L-Fc融合物、またはそれらの組合せであり、
前記4-1BB特異的リガンドが、4-1BBL、4-1BBを標的とする抗体、4-1BBL-Fc融合物、またはそれらの組合せであり、
前記CD40L特異的リガンドが、CD40、CD40Lを標的とする抗体、CD40-Fc融合物、またはそれらの組合せである、ポリペプチド。
【請求項27】
前記T細胞活性化を促進するシグナリングドメインが、CD3ゼータサブユニット、DAP12、Fc受容体、またはそれらの組合せに由来する、請求項26に記載のポリペプチド。
【請求項28】
前記ポリペプチドが1つ、2つまたはそれ以上の共刺激ドメインをさらに含む、請求項26または請求項27に記載のポリペプチド。
【請求項29】
請求項1~13のいずれか一項に記載のポリヌクレオチドまたは請求項26~28のいずれか一項に記載のポリペプチドを含む、キメラ受容体を発現する細胞。
【請求項30】
免疫細胞である、請求項29に記載の細胞。
【請求項31】
工学的に操作される、請求項29または請求項30に記載の細胞。
【請求項32】
前記免疫細胞がT細胞である、請求項30に記載の細胞。
【請求項33】
前記T細胞がCAR形質導入T細胞である、請求項32に記載の細胞。
【請求項34】
前記T細胞がT細胞受容体(TCR)形質導入T細胞である、請求項32に記載の細胞。
【請求項35】
1つ以上の遺伝子の内因性発現を欠くように工学的に操作される、請求項29~34のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項36】
4-1BB、OX40および/またはCD40Lの内因性発現を欠くように工学的に操作される、請求項35に記載の細胞。
【請求項37】
CRISPR/Cas9、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、TALEヌクレアーゼ、またはメガヌクレアーゼを使って工学的に操作される、請求項35または請求項36に記載の細胞。
【請求項38】
細胞リポジトリに収容される、請求項29~37のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項39】
免疫エフェクター細胞に請求項1~13のいずれか一項に記載のポリヌクレオチドをトランスフェクトする工程を含む、細胞治療用の細胞を調製する方法(ただし、ヒトの体内で行う方法を除く)
【請求項40】
前記細胞を細胞リポジトリに寄託する工程をさらに含む、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
1つ以上のキメラ抗原受容体および/または1つ以上の組換えT細胞受容体を発現するように前記細胞を改変する工程をさらに含む、請求項39または請求項40に記載の方法。
【請求項42】
治療有効量の請求項29~38のいずれか一項に記載のキメラ受容体を発現する細胞を含有し、該細胞が前記個体に対して同種である、医学的状態を処置するための組成物。
【請求項43】
前記細胞が細胞リポジトリから取得される、請求項42に記載の組成物。
【請求項44】
前記細胞が1つ以上のキメラ抗原受容体および/または1つ以上の組換えT細胞受容体を発現する、請求項42または請求項43に記載の組成物。
【請求項45】
個体における同種細胞、同種組織または同種臓器の拒絶を回避するための組成物であって、有効量の、
OX40特異的リガンド、4-1BB特異的リガンド、CD40L特異的リガンド、またはそれらの機能的フラグメントのうちの1つ以上を含む、細胞外ドメインと、CD3ゼータを含む、工学的に操作されたキメラ受容体を発現する同種免疫細胞を含み、
前記細胞が、前記個体に送達されて前記個体において以下をもたらし:
(1)前記個体における内因性アロ反応性T細胞の阻害、および/または
(2)前記個体におけるNK細胞活性化の抑制;
前記OX40特異的リガンドが、OX40L、OX40を標的とする抗体、OX40L-Fc融合物、またはそれらの組合せであり、
前記4-1BB特異的リガンドが、4-1BBL、4-1BBを標的とする抗体、4-1BBL-Fc融合物、またはそれらの組合せであり、
前記CD40L特異的リガンドが、CD40、CD40Lを標的とする抗体、CD40-Fc融合物、またはそれらの組合せである、組成物。
【請求項46】
前記同種細胞がキメラ受容体を発現する同種免疫細胞である、請求項45に記載の組成物。
【請求項47】
前記同種細胞がキメラ抗原受容体または工学的に操作されたT細胞受容体を発現する、請求項45または請求項46に記載の組成物。
【請求項48】
前記同種免疫細胞が、前記個体における組織移植および/または臓器移植の前、間および/または後に、前記個体に送達される、請求項45に記載の組成物。
【請求項49】
前記活性化T細胞が病原性T細胞である、請求項45~48のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項50】
個体において活性化T細胞を選択的に標的とするための組成物であって、有効量の、工学的に操作されたキメラ受容体を発現する免疫細胞を含み、該キメラ受容体が
(1)OX40特異的リガンド、4-1BB特異的リガンド、CD40L特異的リガンド、またはそれらの機能的フラグメントのうちの1つ以上を含む、細胞外ドメイン、および
(2)T細胞活性化を促進するシグナリングドメインを含み、
前記OX40特異的リガンドが、OX40L、OX40を標的とする抗体、OX40L-Fc融合物、またはそれらの組合せであり、
前記4-1BB特異的リガンドが、4-1BBL、4-1BBを標的とする抗体、4-1BBL-Fc融合物、またはそれらの組合せであり、
前記CD40L特異的リガンドが、CD40、CD40Lを標的とする抗体、CD40-Fc融合物、またはそれらの組合せである、組成物。
【請求項51】
前記T細胞活性化を促進するシグナリングドメインが、CD3ゼータサブユニット、DAP12、Fc受容体、またはそれらの組合せに由来する、請求項50に記載の組成物。
【請求項52】
前記活性化T細胞が病原性T細胞である、請求項50または請求項51に記載の組成物。
【請求項53】
個体における活性化T細胞に関連する医学的状態を防止または処置するための組成物であって、有効量の、前記活性化T細胞を選択的に標的とする工学的に操作されたキメラ受容体を発現する免疫細胞を含み、該キメラ受容体が
(1)OX40特異的リガンド、4-1BB特異的リガンド、CD40L特異的リガンド、またはそれらの機能的フラグメントのうちの1つ以上を含む、細胞外ドメイン、および
(2)T細胞活性化を促進するシグナリングドメイン;を含み、
前記OX40特異的リガンドが、OX40L、OX40を標的とする抗体、OX40L-Fc融合物、またはそれらの組合せであり、
前記4-1BB特異的リガンドが、4-1BBL、4-1BBを標的とする抗体、4-1BBL-Fc融合物、またはそれらの組合せであり、
前記CD40L特異的リガンドが、CD40、CD40Lを標的とする抗体、CD40-Fc融合物、またはそれらの組合せである、組成物。
【請求項54】
前記キメラ受容体が1つ、2つまたはそれ以上の共刺激ドメインをさらに含む、請求項53に記載の組成物。
【請求項55】
前記医学的状態が自己免疫障害である、請求項53または請求項54に記載の組成物。
【請求項56】
前記医学的状態が、移植片拒絶、移植片対宿主病、I型糖尿病、多発性硬化症、自己免疫性大腸炎、またはそれらの組合せを含む、請求項53~55のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項57】
個体における同種T細胞、同種組織または同種臓器のNK細胞媒介性宿主拒絶を回避するための組成物であって、有効量の、
OX40特異的リガンド、4-1BB特異的リガンド、CD40L特異的リガンド、またはそれらの機能的フラグメントのうちの1つ以上を含む、細胞外ドメインと、T細胞活性化を促進するシグナリングドメインを含む、工学的に操作されたキメラ受容体を発現する、免疫細胞を含み、
前記OX40特異的リガンドが、OX40L、OX40を標的とする抗体、OX40L-Fc融合物、またはそれらの組合せであり、
前記4-1BB特異的リガンドが、4-1BBL、4-1BBを標的とする抗体、4-1BBL-Fc融合物、またはそれらの組合せであり、
前記CD40L特異的リガンドが、CD40、CD40Lを標的とする抗体、CD40-Fc融合物、またはそれらの組合せである、組成物。
【請求項58】
前記工学的に操作されたキメラ受容体を発現する免疫細胞が同種T細胞である、請求項57に記載の組成物。
【請求項59】
前記免疫細胞がキメラ抗原受容体または工学的に操作されたT細胞受容体を発現する、請求項57または請求項58に記載の組成物。
【請求項60】
前記個体に提供される工学的に操作されたキメラ受容体を発現する免疫細胞の量が1mあたり10~1012個の範囲にある、請求項57~59のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項61】
前記キメラ受容体を発現する細胞が、個体に、全身性にまたは局所的に提供される、請求項42~60のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項62】
T細胞である、請求項42~61のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項63】
前記個体に1回送達されるか、2回以上送達される、請求項42~62のいずれか一項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本願は、2018年4月26日に出願された米国仮特許出願第62/662,817号に基づく優先権を主張し、この仮特許出願は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
[連邦政府の後援による研究または開発に関する陳述]
本発明は、米国国立衛生研究所および米国国立がん研究所によって交付されたP50 CA126752の下に米国政府の支援を受けてなされた。米国政府は本発明に特定の権利を有する。
【0003】
本開示の実施形態には、少なくとも免疫学、細胞生物学、分子生物学および医学の分野が含まれる。
【背景技術】
【0004】
移植を受けている患者または第三者由来の治療用細胞を投与されている患者では、T細胞およびNK細胞の無用な活性化が、しばしば、生命を脅かす同種免疫反応を促進し、それが移植された臓器/組織の拒絶または移植片対宿主病(graft-versus-host disease:GvHD)の発生につながる。同様に、自己反応性T細胞の無用な活性化も、真性糖尿病、自己免疫性大腸炎および多発性硬化症などの壊滅的自己免疫状態につながる場合がある。現在、これらの疾患の大半は、病原性T細胞を選択的に排除することができないので、根治可能ではない。その代わりに、患者は免疫抑制薬で処置されることが多いが、これは患者を免疫不全状態にするので、患者は感染症および悪性形質転換を起こしやすくなる。
【0005】
本開示は、既製の(off-the-shelf)細胞を利用することを含む、安全で効果的な組織移植および養子細胞移入という、当技術分野における長年のニーズに対し、免疫系の無用な活性化ゆえの病原性状態を制御する移入細胞の能力を強化することによる解決策を提供する。
【発明の概要】
【0006】
本開示は、免疫活性化に起因する病原性状態を制御するための、養子移入に利用される細胞に関する組成物および方法に向けられる。本組成物および方法は自家細胞および同種(allogeneic)細胞に適用される。いくつかの手段はレシピエント個体における同種細胞の反応性を低減するためにとりうるが、それらの細胞は依然として、それらを外来と認識して拒絶をもたらし治療的利益を制限するレシピエントの免疫系(主にT細胞およびNK細胞)の標的となるだろう。
【0007】
本開示は、活性化された病原性T、NK-TおよびNK細胞の存在に関連する医学的状態を防止または処置するために、それらの細胞を標的とするように養子療法細胞を改変することによって、この課題を克服する。特定実施形態において、本組成物および方法は、休止T細胞を温存しつつ病原性T細胞を選択的に標的とする受容体を発現する細胞を使った養子T細胞移入を利用する。具体的実施形態において、移入用の養子T細胞は、T細胞上のその存在が病原性T細胞を示す特定の標的分子を発現する病原性T細胞を標的とするキメラ分子を発現するように工学的に操作される。特定実施形態において、本開示は、病原性T細胞の選択的標的化のための自己/同種免疫防御受容体(auto/allo-immune defense receptor:ADR)に関する。
【0008】
本開示の特定実施形態には、工学的に操作された同種T細胞を宿主個体における排除から保護する方法であって、その個体に、ADRを装備した細胞を提供することによる方法が含まれる。実施形態には、例えば組織移植または臓器移植を受けている個体における同種免疫反応を回避する方法も含まれる。
【0009】
特定実施形態において、本開示に包含される細胞は、それらが同種レシピエントを含むレシピエントにおいて生残することが可能になるように改変されているか、そのように改変することができる。具体的事例において、養子細胞療法用の細胞(T細胞、NKT細胞などを含む)は「既製品として」(Off-the-shelf)利用するのに適している。ここで、既製品とは、リポジトリ、すなわちバンクに保有されている細胞であって、具体的目的のためにそれを必要とする個体に(さらなる改変を加えてまたはさらなる改変を加えずに)提供されうるものを指す。多くの場合、その個体は、細胞の元の由来源である個体ではない。このようにして利用される細胞は、ADRを発現するように事前に製造しておいてもよい。ただし、いくつかの事例では、細胞はバンクから取得された後に、ADRを発現するように改変される。また、バンクに預けられている細胞はCARまたは組換えTCRを発現しても発現しなくてもよく、あるいはバンクから取得した細胞を、その後に、CARまたは組換えTCRを発現するように改変してもよい。このような実施により、宿主による免疫拒絶を伴うことなく、必要になるたびに患者特異的産物を製造する必要もなく、第三者由来の治療用細胞を使用することが容易になる。
【0010】
特定実施形態には、以下をコードする配列を含む、単離されたポリヌクレオチドがある:(1)OX40特異的リガンド、4-1BB特異的リガンド、CD40L特異的リガンド、またはそれらの機能的誘導体のうちの1つ以上が、(2)T細胞活性化を促進するシグナリングドメインに作動的に連結されているもの。このポリヌクレオチドは、OX40特異的リガンド、4-1BB特異的リガンド、またはCD40L特異的リガンドを含みうる。OX40特異的リガンドは、OX40L、OX40を標的とする抗体、OX40L-Fc融合物、もしくはそれらの組合せ、またはOX40への特異的結合能を有する他の任意の工学的に操作されたタンパク質でありうる。4-1BB特異的リガンドは、4-1BBL、4-1BBを標的とする抗体、4-1BBL-Fc融合物、もしくはそれらの組合せ、または4-1BBへの特異的結合能を有する他の任意の工学的に操作されたタンパク質でありうる。CD40L特異的リガンドは、CD40、CD40Lを標的とする抗体、CD40-Fc融合物、もしくはCD40Lへの特異的結合能を有する他の任意の工学的に操作されたタンパク質、またはそれらの組合せでありうる。少なくとも特定の事例において、ポリヌクレオチドは、(1)と(2)との間の、例えば10~220アミノ酸長などの、スペーサーをコードする配列を、さらに含む。スペーサーは抗体による表面検出を促進する配列を有しうる。例えばスペーサーは抗Fc Abによる検出が可能である。スペーサーはIgG Fc部分を含みうる。
【0011】
特定実施形態において、本開示のポリヌクレオチドは、キメラ抗原受容体、T細胞受容体、またはその両方を、さらにコードしうる。ポリヌクレオチドは、ベクター上に存在するもの、例えばウイルスベクター(レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、またはアデノ随伴ウイルスベクター)上または非ウイルスベクター(プラスミド、トランスポゾンなど)上に存在するものを含めて、任意の形態をとりうる。特定の事例において、ポリヌクレオチドは、真核細胞または細菌細胞を含む細胞中に存在する。細胞はT細胞などの免疫細胞でありうる。細胞は工学的に操作されうる。細胞は1つ以上のキメラ抗原受容体(chimeric antigen receptor:CAR)および/または1つ以上の工学的に操作されたT細胞受容体(T cell receptor:TCR)を含みうる。
【0012】
本開示に包含される任意のポリヌクレオチドによって発現されるポリペプチドは、本開示の一部として含まれる。特定実施形態には、以下を含むポリペプチドがある:(1)OX40特異的リガンド、4-1BB特異的リガンド、およびCD40のうちの1つ以上が、(2)T細胞活性化を促進するシグナリングドメインに作動的に連結されているもの。T細胞活性化を促進するシグナリングドメインは、CD3ゼータサブユニット、DAP12、Fc受容体、またはそれらの組合せに由来しうる。
【0013】
本開示によって包含される任意の細胞は本開示の一部である。具体的実施形態において、キメラ受容体発現細胞はいずれも、本明細書において想定される任意のポリヌクレオチドおよび/または本明細書において想定される任意のポリペプチドを含む細胞を含めて、本開示の一部である。細胞は工学的に操作された細胞であってよい。細胞は、CAR形質導入T細胞および/またはT細胞受容体(TCR)形質導入T細胞を含む、T細胞などの免疫細胞でありうる。具体的実施形態において、細胞は、1つ以上の遺伝子の内因性発現を欠くように、例えば4-1BB、OX40および/またはCD40Lのうちの1つ以上を欠くように、工学的に操作される。細胞は、CRISPR/Cas9、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、TALEヌクレアーゼ、またはメガヌクレアーゼを使って、工学的に操作されうる。あるいは、例えば小胞体または他の細胞内区画にアンカリングされた特異的抗体または受容体でADRリガンドを捕捉することなどによって、ADRリガンドの表面発現が防止されるように細胞を工学的に操作してもよい。
【0014】
一実施形態には、個体における同種細胞、同種組織または同種臓器の拒絶を回避する方法であって、その個体に有効量の、活性化T細胞上に選択的に存在する化合物を標的とする細胞外ドメインを含みかつCD3ゼータを含む工学的に操作されたキメラ受容体を発現する同種免疫細胞を送達する工程を含み、前記送達工程が前記個体において以下をもたらす方法がある:(1)個体における内因性アロ反応性T細胞の阻害、および/または(2)個体におけるNK細胞活性化の抑制。具体的実施形態において、同種細胞はキメラ受容体を発現する同種免疫細胞である。同種細胞は、キメラ抗原受容体および/または工学的に操作されたT細胞受容体を発現しうる。同種免疫細胞は、個体における組織移植および/または臓器移植の前、間および/または後に、個体に送達されうる。具体的事例において、活性化T細胞は病原性T細胞である。
【0015】
一実施形態には、個体において活性化T細胞を選択的に標的とする方法であって、その個体に有効量の、工学的に操作されたキメラ受容体を発現する細胞を提供する工程を含み、該キメラ受容体が以下を含む方法がある:(1)活性化T細胞上に選択的に存在する化合物を標的とする細胞外ドメイン、および(2)T細胞活性化を促進するシグナリングドメイン。T細胞活性化を促進するシグナリングドメインは、CD3ゼータサブユニット、DAP12、Fc受容体、任意のITAM含有配列、またはそれらの組合せに由来しうる。具体的事例において、活性化T細胞は病原性T細胞である。
【0016】
特定の実施形態には、個体における活性化T細胞に関連する医学的状態を防止または処置する方法であって、その個体に有効量の、前記活性化T細胞を選択的に標的とする工学的に操作されたキメラ受容体を発現する免疫細胞を送達する工程を含み、該キメラ受容体が以下を含む方法がある:(1)活性化T細胞上に選択的に存在する化合物を標的とする細胞外ドメイン、および(2)T細胞活性化を促進するシグナリングドメイン。医学的状態は、自己免疫障害、例えば移植片拒絶、移植片対宿主病、I型糖尿病、多発性硬化症、自己免疫性大腸炎、またはそれらの組合せなどの自己免疫障害でありうる。
【0017】
一実施形態には、個体における同種T細胞、同種組織または同種臓器のNK細胞媒介性宿主拒絶を回避する方法であって、その個体に有効量の、活性化T細胞上に選択的に存在する化合物を標的とする細胞外ドメインを含みかつT細胞活性化を促進するシグナリングドメインも含む工学的に操作されたキメラ受容体を発現する免疫細胞を提供する工程を含む方法がある。工学的に操作されたキメラ受容体を発現する免疫細胞は、特定の事例では、同種T細胞である。免疫細胞は、キメラ抗原受容体および/または工学的に操作されたT細胞受容体を発現しうる。個体に提供される工学的に操作されたキメラ受容体を発現する免疫細胞の量は、1mあたり10~1012個の範囲にありうる。キメラ受容体を発現する細胞は、個体に、全身性にまたは局所的に提供されうる。免疫細胞はT細胞でありうる。免疫細胞は個体に1回送達されるか、2回以上送達されうる。
【0018】
上記では、以下の詳細な説明がより良く理解されうるように、本開示の特徴および技術的利点をかなり幅広く概説した。以下に、本願特許請求の範囲の主題を形成するさらなる特徴および利点を記載する。開示される概念および具体的実施形態が、その設計と同じ目的を実行するために、他の構造を改変または設計するための基礎として容易に利用されうることを、当業者は認識すべきである。そのような等価な構築物が添付の特許請求の範囲に記載される要旨および範囲から逸脱しないことも、当業者は理解すべきである。本明細書に開示される設計に特有であると考えられる新規な特徴は、構成についても、操作方法についても、さらなる目的および利点と共に、以下の説明を添付の図面と関連付けて検討すれば、より良く理解されるだろう。ただし、図のそれぞれは例示および説明を目的として提供されているに過ぎず、本開示の範囲の画定を意図していないことは、明確に理解すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
本開示をより完全に理解するために、以下に挙げる説明を添付の図面と併せて解釈されたい。
【0020】
図1A-E】ADRは、免疫細胞の細胞表面上に発現されて、それぞれの標的に対する細胞傷害性を増進することができる。(図1A)ADRの概略。GFPは随意である。(図1B)細胞表面におけるADRの発現。(図1C)形質導入後のADR T細胞の増殖。(図1D)ADRリガンドを発現する標的細胞に対するADR T細胞の細胞傷害性。(図1E)4-1BB ADRを発現する野生型T細胞と4-1BB KO T細胞の増殖および4-1BB+標的に対するそれらの細胞傷害性の対比。これは、T細胞上のADRリガンドをノックアウトすることで増殖と細胞傷害性をさらに強化できることを示しており、T細胞におけるADRとそのリガンドの共発現はADR-T細胞の増殖にも機能にも必要でないことを実証している。
【0021】
図2A-E】活性化T細胞でのADRリガンドの選択的発現が、ADR T細胞によるそれらの選択的排除を可能にする。(図2A~C)TCR刺激後の休止T細胞と活性化T細胞でのADRリガンドの発現の対比。(図2D)休止CD4+T細胞および休止CD8+T細胞に対するADR T細胞の細胞傷害性の欠如。(図2E)48時間の共培養後のADR T細胞による活性化CD4+T細胞および活性化CD8+T細胞の排除。
【0022】
図3A-F】MLRモデルにおいて、4-1BB ADRの発現はT細胞を免疫拒絶から保護する。(図3A)1:10のADR T:PBMC比での同種PBMCとの共培養後に、ADRを共発現するTCRKO T細胞が拒絶から保護されることを示す代表的ドットプロット。(図3B~C)共培養中のドナーT細胞及び同種T細胞の絶対数。(図3D-F)ウイルス特異的ADR T細胞についても同じ。
【0023】
図4A-C】インビトロでの混合リンパ球反応において、ADRの発現はウイルス特異的同種T細胞を免疫拒絶から保護する。(図4A)ADR VSTがレシピエント同種PBMCによる免疫拒絶から保護されることを示す代表的ドットプロット。 (図4B-C)MLR中のさまざまな時点におけるレシピエントT細胞及びドナーVSTの絶対数。
【0024】
図5】ADR VSTは抗ウイルス機能を保つ。ADR VSTを、ウイルスペプミックス(pepmix)をパルスした単球と共培養した。ADR VSTは無改変VSTと同等によくウイルス感染細胞を排除することが、単球数によって示された。
【0025】
図6A-H】活性化NK細胞はADRリガンドをアップレギュレートし、ADR T細胞によって選択的に標的化されうる。(図6A~B)休止NK細胞と活性化NK細胞での4-1BB発現の対比。(図6C)4-1BB ADR T細胞と24時間共培養した後の休止NK細胞と活性化NK細胞の残存数の対比。(図6D)MHCを欠くADR T細胞は、NK細胞の増殖を制御することにより、同種PBMCによる免疫拒絶から保護される。(図6E)共培養中のドナーT細胞および同種NK細胞の絶対数。(図6F)1:1のE:T比での48時間の共培養時に、MHCを欠くADR T細胞は、NK細胞による免疫拒絶に抵抗する。(図6G~H)ADR T細胞は、PBMCとのMLR中に、アロ反応性NK細胞の増殖を制御する。(図6H)NK細胞の絶対数がプロットされている。
【0026】
図7A-E】ADR発現はインビボでの免疫拒絶から同種T細胞を保護する。(図7A)HLA-A2+ドナーからのT細胞が亜致死線量照射後にマウスに与えられ、続いて4日後に同種HLA-A2-T細胞が投与された、免疫拒絶のマウスモデルの概略。(図7B-C)HLA-A2-ドナーからの対照T細胞は18日目までに拒絶されたが、ADR発現細胞は保護された。(図7C)さまざまな時点におけるHLA-A2+ドナーおよびHLA-A2-ドナーからのT細胞の絶対数。(図7D)同種T細胞の代わりにドナー1からのPBMC全体(T細胞とNK細胞をどちらも含有するもの)をマウスに与えた、改変型インビボモデル。(図7E)ADR T細胞が、免疫拒絶から保護されると共に、致死的GvHDの急激な発生からマウスを保護したことを示す、代表的フロープロット。
【0027】
図8A-E】CARとADRを共発現させても両受容体の機能は維持される。(図8A)ADRとCARを共発現する免疫細胞の概略図。(図8B)細胞表面でのCARとADRの共発現。(図8C)NALM-6(CD19+CAR標的)に対するCAR-ADR T細胞の細胞傷害性。(図8D)活性化T細胞(ADR標的)に対するCAR-ADR T細胞の細胞傷害性。(図8E)両方の細胞標的と同時に共培養した時の両標的に対するCAR-ADR T細胞の細胞傷害活性。
【0028】
図9A-E】CAR-ADR T細胞は免疫拒絶から保護され、強力な抗腫瘍活性を発揮する。(図9A)マウスモデルの概略。ドナー1からの同種T細胞とb2mKO NALM6を24時間の間をあけてマウスに与え、次にドナー2からのCAR-ADR T細胞を単回投与した。(図9B)末梢血におけるドナー2からのT細胞の動態。(図9C)実験群におけるドナー1のT細胞の動態。(図9D)マウスにおける白血病負荷。(図9E)マウスの総生存率。
【0029】
図10A-C】固形腫瘍モデルにおいて、CAR-ADR T細胞は免疫拒絶から保護され、強力な抗腫瘍活性を発揮する。(図10A)マウスモデルの概略。ドナー1からの同種T細胞とb2mKO神経芽細胞腫細胞株CHLA255を24時間の間をあけてマウスに与え、次にドナー2からのCAR-ADR T細胞を単回投与した。(図10B)ドナー2のGD2 CAR T細胞はD18までに拒絶されたが、CAR-ADR T細胞は同種拒絶に抵抗し、末梢血中に存続した。(図10C)マウスにおける腫瘍量。はATC+GD2 CAR T群における異種GvHD関連死を示す。
【0030】
図11A-E】TCRノックアウトCAR-ADR T細胞は免疫拒絶から保護され、強力な抗腫瘍活性を発揮する。(図11A)マウスモデルの概略。ドナー1からの同種T細胞とb2mKO NALM6を24時間の間をあけてマウスに与え、次にドナー2からのTCR編集CAR-ADR T細胞を単回投与した。(図11B)末梢血におけるドナー2からのT細胞の動態。(図11C)実験群におけるドナー1 T細胞の動態。(図11D)マウスにおける白血病負荷。(図11E)マウスの総生存率。
【0031】
図12A-D】ADR T細胞はマウスを致死的異種GvHDから保護する。(図12A)モデルの概略。(図12B)インビボでのFFluc標識ADR T細胞の増殖。(図12C)マウスにおける体重の増減の動態。(図12D)マウスの総生存率。
【0032】
図13A-G】CD28細胞内シグナリングドメインを持つ第2世代のADR(ADR.28ゼータ)。(図13A)ADR.28ゼータの構造。(図13B-C)標的発現細胞株に対するADR.28ゼータのインビトロ細胞傷害性。(図13D-G)ADR.28ゼータはマウスを異種GvHDから保護した。(図13D)モデルの概略。(図13E)インビボでのFFLuc標識ADR.28ゼータT細胞の増殖。(図13F)マウスの体重の増減の動態。(図13G)マウスの総生存率。
【0033】
図14】がんにおけるADR発現細胞の細胞傷害性。(左)HDLM-2ホジキンリンパ腫細胞に対する4-1BB ADR発現T細胞の細胞傷害性。(右)K562慢性骨髄性白血病(chronic myeloid leukemia:CML)細胞に対する4-1BB ADR発現T細胞の細胞傷害性。1:1のエフェクター対標的比で48時間共培養した時の腫瘍細胞の絶対数を示す。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本明細書において使用される「a」および「an」という単語は、含む(comprising)という単語と合わせて本明細書で使用される場合には、特許請求の範囲を含めて、「1つ以上」を表す。本発明のいくつかの実施形態は、本発明の1つ以上の要素、方法工程および/または方法からなるか、または本発明の1つ以上の要素、方法工程および/または方法から本質的になる。本明細書に記載される任意の方法および組成物は、本明細書に記載される他の任意の方法または組成物に関して履行することができると想定される。
【0035】
本明細書の全体を通して、文脈上別段の必要がある場合を除き、「含む」という単語(comprise、comprisesおよびcomprising)は、言明された工程もしくは要素または工程もしくは要素の群の包含を含意するが、他のいかなる工程もしくは要素または工程もしくは要素の群の除外も含意しないと理解されるだろう。「からなる」(consisting of)とは、「からなる」という表現に続くものを含み、それに限定されることを意味する。したがって「からなる」という表現は、列挙された要素が必要または必須であること、および他の要素は存在しえないことを示す。「から本質的になる」(consisting essentially of)とは、この表現の後に列挙される要素をいずれも含み、列挙される要素に関して本開示において明記された活性または作用に干渉も寄与もしない他の要素に限定されることを意味する。したがって、「から本質的になる」という表現は、列挙された要素は必要または必須であるが、他の要素は随意ではなく、列挙された要素の活性または作用に影響を及ぼすかどうかに依存して、存在しうるか、または存在しえないことを示す。
【0036】
本明細書の全体を通して、「一実施形態」、「実施形態」、「特定実施形態」、「関連実施形態」、「特定の実施形態」、「追加の実施形態」もしくは「さらなる実施形態」またはそれらの組合せへの言及は、その実施形態に関連して記載される特定の特徴、構造または特色が、本発明の少なくとも一実施形態に含まれることを意味する。したがって、本明細書のさまざまな場所に現れる前記の表現は、必ずしもすべてが同じ実施形態に言及しているわけではない。さらにまた、特定の特徴、構造または特色は、1つ以上の実施形態において、任意の適切な方法で組み合わされうる。
【0037】
本明細書において使用される「対象」という用語は、一般に、任意の種類の医学的状態に関する治療を必要としている個体を指す。対象は任意の種類の動物であることができる。対象は、ある方法または物質の目的となる任意の生物対象または動物対象であることができ、哺乳動物、例えばヒト、実験動物(例えば霊長類、ラット、マウス、ウサギ)、家畜(例えばウシ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、シチメンチョウ、およびニワトリ)、ハウスホールドペット(例えばイヌ、ネコ、および齧歯類動物)、ウマ、およびトランスジェニック非ヒト動物を含む。対象は、例えば疾患(これは医学的状態と呼んでもよい)、例えば1つ以上の感染性疾患、1つ以上の遺伝子障害、1つ以上のがん、またはそれらの任意の組合せを有するまたは有すると疑われる、患者であることができる。疾患は病原性でありうる。対象は、抗生物質処置を受けているか、受けたことがあってもよい。対象は無症候性であってもよい。対象は健常個体であってもよい。「個体」という用語も、少なくともいくつかの事例では、相互可換的に使用されうる。本明細書にいう「対象」または「個体」は、医療施設に収容されていてもされていなくてもよく、医療施設の外来患者として処置されてもよい。個体はインターネットを経由して1つ以上の医薬組成物を受け取っていてもよい。個体には、任意の齢のヒトまたは非ヒト動物を含みうるので、成人と年少者(すなわち小児)および乳幼児を含み、胎内の個体も含む。個体は任意の血統および性別でありうる。この用語が医学的処置の必要を暗示することは意図していないので、個体は、自由意志により、または非自発的に、臨床試験であるか基礎科学研究に資するものであるかを問わず、実験の一部でありうる。
【0038】
本明細書において使用される「工学的に操作された」という用語は、天然には存在せず、人工的に、例えば当技術分野において標準的な遺伝子組換え技法によって、生成させた分子を指す。
【0039】
本開示に関して「有効量」または「治療有効量」とは、個体に投与された場合に、活性化T細胞の標的化を可能にし、かつ/または医学的状態の徴候および/もしくは症状を緩和し、または医学的状態を防止する、細胞の量を指す。投与される実際の量は、機能的免疫細胞が医学的状態に対して薬理学的活性を呈するインビトロまたはインビボのどちらかで行われる試験に基づいて決定することができる。
【0040】
[I.自己/同種免疫防御受容体ならびにその組成物および使用]
本開示は、病原性T細胞を含む活性化T細胞の選択的標的化を提供する合成キメラ受容体分子を包含する。これらの工学的に操作された分子は合成分子であり、組換え技術によって生産されうる。これらの分子は、活性化病原性T細胞を含む活性化T細胞を、例えば高い特異性で標的とする、自己/同種免疫防御受容体ということができる。
【0041】
特定実施形態において、自己/同種免疫防御受容体(ADR)は、活性化T細胞上でアップレギュレートされる1つ以上の化合物を標的とする実体を含む。活性化T細胞上でアップレギュレートされる化合物は任意の1つまたはその組合せであってよいが、具体的実施形態では、OX40、4-1BBおよびCD40Lが活性化T細胞上でアップレギュレートされ、それらが、ADRが標的としている対象である。ADRは、特定実施形態では、細胞を受容する個体に関して同種(allogenic)である同種免疫細胞上に存在する。別の例では、ADRを、自家T細胞上、異種細胞上、および/または合成細胞上に発現させる。
【0042】
(A.自己/同種免疫防御受容体(ADR)分子)
ADR分子は合成的な非天然分子であって、人工的に生産され、少なくとも(1)活性化T細胞上に選択的に存在する化合物を標的とする細胞外ドメイン(具体的実施形態では、細胞外ドメインは、活性化T細胞上でアップレギュレートされる1つ以上の化合物を標的とするタンパク質またはその機能的フラグメントもしくは誘導体である)であって、(2)T細胞活性化を促進するシグナリングドメイン、例えばCD3ゼータサブユニット、DAP12、およびFc受容体に由来するもの、または他のITAM含有配列などに、作動的に連結されているものを含む。ADR分子は、要素(1)および(2)を含むか、それらの要素からなるか、またはそれらの要素から本質的になりうる。少なくとも特定の事例において、ADRはI型膜貫通タンパク質の1つ以上の構成成分および/またはII型膜貫通タンパク質の1つ以上の構成成分を含む。
【0043】
具体的実施形態において、ADR分子では、細胞外ドメインが、活性化T細胞上の関連タンパク質に選択的に結合するタンパク質を含む。例えばADR細胞外ドメインは活性化T細胞上の受容体に対するリガンドを含みうるか、ADR細胞外ドメインは活性化T細胞上のリガンドに対する受容体を含みうる。
【0044】
具体的実施形態において、ADR分子では、細胞外ドメインが、OX40に対するリガンド、4-1BBに対するリガンド、および/またはCD40を含む。これらの特定例では、活性化T細胞上の関連タンパク質が、それぞれOX40、4-1BB、およびCD40Lである。代替的実施形態では、活性化T細胞上の他の特定組成物を標的とする。例えば、T細胞の細胞表面でアップレギュレートされる他の活性化マーカー(例えばCD69、CD25、CD71など)を、同様のアプローチを使って標的とすることができる。そのような事例では、対応するADR分子は、4-1BB/OX40特異的リガンドではなく、それぞれCD69リガンド、CD25リガンド、もしくはCD71リガンド、または抗体由来の標的化部分を有するだろう。
【0045】
いくつかの事例では、活性化していないT細胞とは対照的に、OX40の発現がアップレギュレートされている活性化T細胞を標的とする。これらの活性化T細胞を標的とするために、ADRには、活性化T細胞を標的とすることができるように、OX40のリガンドを利用することができるだろう。OX40に対するリガンドがADRにおいて利用される事例において、OX40に対するリガンドは、例えば少なくともOX40L、OX40に結合する抗体(またはその機能的フラグメント)、FcとOX40Lとの融合物、またはそれらの機能的誘導体もしくはフラグメントなど、OX40に対する任意の適切なリガンドでありうる。OX40Lは、腫瘍壊死因子(リガンド)スーパーファミリーメンバー4(tax転写活性化糖タンパク質(tax-transcriptionally activated glycoprotein)1、34kDa)、OX40L、CD252、TNFSF4、TXGP1、OX-40L、またはgp34とも呼ばれる。
【0046】
いくつかの事例では、活性化していないT細胞とは対照的に、4-1BBの発現がアップレギュレートされている活性化T細胞を標的とする。これらの活性化T細胞を標的とするために、ADRには、活性化T細胞を標的とすることができるように、4-1BBのリガンドを利用することができるだろう。4-1BBに対するリガンドがADRにおいて利用される事例において、4-1BBに対するリガンドは、例えば4-1BBL、4-1BBを標的とする抗体(またはその機能的フラグメント)、Fcと4-1BBLとの融合物、またはそれらの機能的誘導体もしくはフラグメントなど、4-1BBに対する任意の適切なリガンドでありうる。
【0047】
特定の事例では、活性化していないT細胞とは対照的に、CD40Lの発現がアップレギュレートされている活性化T細胞を標的とする。これらの活性化T細胞を標的とするために、ADRには、活性化T細胞を標的とすることができるように、CD40Lに対する受容体を利用することができるだろう。CD40Lに対する受容体がADRにおいて利用される事例において、ADRは、CD40(これはBp50、CDW40、TNFRSF5、またはp50と呼ぶこともできる)、CD40Lを標的とする抗体(またはその機能的フラグメント)、またはそれらの機能的誘導体もしくはフラグメントを含みうる。
【0048】
いくつかの事例において、ADR分子は、活性化T細胞の標的化を促進するために、2つ以上の細胞外ドメインを含む。そのような組合せは、活性化T細胞全般の標的化を強化しうるか、活性化T細胞の特定のサブセットの特異的標的化を可能にしうる。例えばADRは、OX40または4-1BBのどちらか一方を発現する活性化T細胞の標的化を可能にするために、同じADR分子中の細胞外ドメインとして、OX40Lと4-1BBLの両方を含みうる。このような組合せの例は、OX40または4-1BBのどちらか一方を発現する活性化T細胞を、それらの活性化T細胞がCD40Lも発現するかどうかとは関わりなく、選択的に標的とするだろう。同様にADRは、CD40LまたはOX40のどちらか一方を発現する活性化T細胞を、それらの活性化T細胞が4-1BBも発現するかどうかとは関わりなく標的とするために、CD40とOX40Lの両方を含みうる。
【0049】
ADR分子では、細胞外ドメインが、ADR分子の一部である構成成分を含む、1つ以上の構成成分に作動的に連結されうる。そのような構成成分の一つは、T細胞活性化中に下流シグナリングを媒介するタンパク質でありうる。特定実施形態において、ADRは、CD3ゼータ(CD247、CD3-ゼータ、CD3H、CD3Q、CD3Z、IMD25、T3Z、またはTCRZともいう)またはその機能的フラグメントもしくは誘導体を含む。CD3ゼータはT細胞活性化中に下流のITAM由来シグナリングを媒介する。他のITAM含有シグナリングドメインとしては、DAP12、Fc受容体、他のCD3サブユニットなどに由来するものを挙げることができる。シグナリングドメインは、別のドメインを介して、ADRに非共有結合的に連結されていてもよい。
【0050】
特定実施形態において、ADRは、CD3ゼータと活性化T細胞上でアップレギュレートされる1つ以上の化合物を標的とする細胞外タンパク質との間に、スペーサーを含む。他の事例では、スペーサーは利用されない。スペーサーは、ADRが有しうるどの機能に対しても不活性であるか、実質上ほとんどまたは全く寄与しない配列を含みうる。一方、他の事例では、スペーサーは、例えば、ADRの機能を強化し、かつ/またはADRを検出可能にすることおよび/もしくはADRを阻害の標的にすることを可能にする配列を含む。具体的実施形態において、スペーサーは、ADRを発現する細胞の検出を容易にするコード化されたタンパク質配列を含む。例えばスペーサーは、例えば抗Fc Abを使った細胞の表面検出を可能にするであろうFc領域またはそのフラグメントをコードしうる。特定実施形態において、スペーサーは、例えばII型膜貫通タンパク質(4-1BBL、OX40L)とI型ADRバックボーン(TM、シグナリングドメイン)との連結によって引き起こされる潜在的な立体障害などを回避するために、リガンド結合ドメインと膜との間の分離を提供する。スペーサーは、一例として約10~220アミノ酸など、任意の適切な長さを有しうる。スペーサーの長さは、10~220、10~200、10~150、10~100、10~50、25~200、25~150、25~100、25~75、25~50、50~200、50~150、50~125、50~100、50~75、75~200、75~150、75~100、100~200、100~175、100~150、100~125、125~200、125~175、125~150、150~200、150~175、175~200などの範囲にありうる。スペーサーは約10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、105、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、210または220アミノ酸長でありうる。他の事例では、スペーサーは10アミノ酸未満または200アミノ酸超である。
【0051】
いくつかの事例において、ADRは、ADRを発現する細胞からのサイトカイン生産を強化する1つ、2つ、3つまたはそれ以上の共刺激ドメインを含む。共刺激ドメインは、例えばCD28、CD27、4-1BB、OX40、ICOS、CD30、HVEM、CD40などといった共刺激タンパク質の細胞内シグナリングドメインに由来しうる。一例に過ぎないが、ADRが4-1BBLを含む場合、ADRの共刺激ドメインは4-1BBからのものであってもそうでなくてもよい。
【0052】
いくつかの実施形態において、ADRは、ADRのCD3ゼータ構成成分が細胞内に位置し、かつ活性化T細胞上でアップレギュレートされる1つ以上の化合物を標的とする細胞外ドメインが細胞外に位置することを可能にするものである限り、いかなる種類であってもよい膜貫通ドメインを含むだろう。別の例では、ADRが、活性化T細胞上のそれぞれのリガンドに結合し、TCRを架橋することによって細胞傷害性を増進することができる、可溶性タンパク質(例えばADR-CD3 T細胞エンゲージャータンパク質)である。細胞外ドメインが膜貫通ドメインを有する表面タンパク質(例えばCD40)からのものである場合、ADRは、対応する内因性分子からの膜貫通ドメインを含みうる。ADR分子が1つ以上の共刺激ドメインを含むいくつかの事例では、膜貫通ドメイン(transmembrane domain;TM)は、その共刺激ドメインを有する同じ内因性分子からのものでありうる。TMの例としては、CD3、CD8α、CD27、CD28、4-1BB、OX40、CD4などからのものが挙げられる。
【0053】
ADRポリペプチドの一例において、構成成分は、N末端(N)からC末端(C)に向かって特定の順序をとりうる。一般的ADRの場合、受容体は以下のうちの1つ(一例に過ぎない)を含むことができ、ここで細胞外ドメインは活性化T細胞上の関連タンパク質に選択的に結合するタンパク質を含む:
N-細胞外ドメイン-シグナリングドメイン-C
N-細胞外ドメイン-CD3ゼータ-C
N-細胞外ドメイン-スペーサー-CD3ゼータ-C
N-細胞外ドメイン-スペーサー-共刺激ドメイン-CD3ゼータ-C
N-細胞外ドメイン-スペーサー-2つの共刺激ドメイン-CD3ゼータ-C
N-2つの細胞外ドメイン-スペーサー-共刺激ドメイン-CD3ゼータ-C
N-2つの細胞外ドメイン-スペーサー-2つの共刺激ドメイン-CD3ゼータ-C
【0054】
どの事例においても、膜貫通ドメインはスペーサーに対してC末端側でありうる。I型膜貫通タンパク質バックボーン(例えば膜貫通ドメイン、シグナリングドメイン、CD3ゼータ)上のII型リガンド(例えばOX40Lおよび4-1BBL)の発現を促進するために、N末端にシグナルペプチドを利用してもよい。
【0055】
いくつかの事例において、ADRは1つ以上の検出可能マーカー、例えば比色用マーカー、蛍光マーカーおよび/または放射性マーカーなどを含む。例として緑色蛍光タンパク質、青色蛍光タンパク質などが挙げられる。
【0056】
ADRはタンパク質として合成的に生成させうるが、ADRはポリヌクレオチドまたはポリヌクレオチドによって発現されるポリペプチドの形態をとりうる。ADRポリヌクレオチドおよびADRポリペプチドを生産するための組換え技術は当技術分野では知られている。
【0057】
特定の事例において、ADRポリヌクレオチドは、発現コンストラクト中にあるか、またはベクター上に存在する発現コンストラクトの一部であり、ベクターはウイルスベクターまたは非ウイルスベクターでありうる。非ウイルスベクターの例としてプラスミドが挙げられる。ウイルスベクターの例としては、レンチウイルスベクター、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクターおよびアデノ随伴ウイルスベクターが挙げられる。ADRを発現するベクターはいずれも、例えばT細胞、NK細胞またはNKT細胞などの免疫細胞を含む真核細胞における発現を可能にするために、適当な要素を有するだろう。それら適当な要素としてはプロモーターなどが挙げられる。
【0058】
4-1BB ADR(配列番号1)
MEFGLSWLFLVAILKGVQCGLLDLRQGMFAQLVAQNVLLIDGPLSWYSDPGLAGVSLTGGLSYKEDTKELVVAKAGVYYVFFQLELRRVVAGEGSGSVSLALHLQPLRSAAGAAALALTVDLPPASSEARNSAFGFQGRLLHLSAGQRLGVHLHTEARARHAWQLTQGATVLGLFRVTPEIPAGLPSPRSEESKYGPPCPPCPGQPREPQVYTLPPSRDELTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSKLTVDKSRWQQGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSPGKKDPKFWVLVVVGGVLACYSLLVTVAFIIFWVRSRVKFSRSADAPAYQQGQNQLYNELNLGRREEYDVLDKRRGRDPEMGGKPRRKNPQEGLYNELQKDKMAEAYSEIGMKGERRRGKGHDGLYQGLSTATKDTYDALHMQALPPRTSAAAGGGGSGGGGSGGGGSMVSKGEELFTGVVPILVELDGDVNGHKFSVSGEGEGDATYGKLTLKFICTTGKLPVPWPTLVTTFTYGVQCFARYPDHMKQHDFFKSAMPEGYVQERTIFFKDDGNYKTRAEVKFEGDTLVNRIELKGIDFKEDGNILGHKLEYNYNSHKVYITADKQKNGIKVNFKTRHNIEDGSVQLADHYQQNTPIGDGPVLLPDNHYLSTQSKLSKDPNEKRDHMVLLEFVTAAGITLGMDELYK
【0059】
OX40 ADR(配列番号2)
MEFGLSWLFLVAILKGVQCQVSHRYPRIQSIKVQFTEYKKEKGFILTSQKEDEIMKVQNNSVIINCDGFYLISLKGYFSQEVNISLHYQKDEEPLFQLKKVRSVNSLMVASLTYKDKVYLNVTTDNTSLDDFHVNGGELILIHQNPGEFCVLESKYGPPCPPCPGQPREPQVYTLPPSRDELTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSKLTVDKSRWQQGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSPGKKDPKFWVLVVVGGVLACYSLLVTVAFIIFWVRSRVKFSRSADAPAYQQGQNQLYNELNLGRREEYDVLDKRRGRDPEMGGKPRRKNPQEGLYNELQKDKMAEAYSEIGMKGERRRGKGHDGLYQGLSTATKDTYDALHMQALPPRTSAAAGGGGSGGGGSGGGGSMVSKGEELFTGVVPILVELDGDVNGHKFSVSGEGEGDATYGKLTLKFICTTGKLPVPWPTLVTTFTYGVQCFARYPDHMKQHDFFKSAMPEGYVQERTIFFKDDGNYKTRAEVKFEGDTLVNRIELKGIDFKEDGNILGHKLEYNYNSHKVYITADKQKNGIKVNFKTRHNIEDGSVQLADHYQQNTPIGDGPVLLPDNHYLSTQSKLSKDPNEKRDHMVLLEFVTAAGITLGMDELYK
【0060】
CD40L ADR(配列番号3)
MVRLPLQCVLWGCLLTAVHPEPPTACREKQYLINSQCCSLCQPGQKLVSDCTEFTETECLPCGESEFLDTWNRETHCHQHKYCDPNLGLRVQQKGTSETDTICTCEEGWHCTSEACESCVLHRSCSPGFGVKQIATGVSDTICEPCPVGFFSNVSSAFEKCHPWTSCETKDLVVQQAGTNKTDVVCGPQDRLRESKYGPPCPPCPGQPREPQVYTLPPSRDELTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSKLTVDKSRWQQGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSPGKKDPKFWVLVVVGGVLACYSLLVTVAFIIFWVRSRVKFSRSADAPAYQQGQNQLYNELNLGRREEYDVLDKRRGRDPEMGGKPRRKNPQEGLYNELQKDKMAEAYSEIGMKGERRRGKGHDGLYQGLSTATKDTYDALHMQALPPRTSAAAGGGGSGGGGSGGGGSMVSKGEELFTGVVPILVELDGDVNGHKFSVSGEGEGDATYGKLTLKFICTTGKLPVPWPTLVTTFTYGVQCFARYPDHMKQHDFFKSAMPEGYVQERTIFFKDDGNYKTRAEVKFEGDTLVNRIELKGIDFKEDGNILGHKLEYNYNSHKVYITADKQKNGIKVNFKTRHNIEDGSVQLADHYQQNTPIGDGPVLLPDNHYLSTQSKLSKDPNEKRDHMVLLEFVTAAGITLGMDELYK
【0061】
特定の実施形態において、活性化T細胞を標的とする細胞外ドメインは、抗体またはその機能的フラグメントもしくは誘導体を含む。本明細書において使用される「抗体」という用語は、抗原と特異的に結合する免疫グロブリン分子を指す。抗体は、自然源または組換え源に由来するインタクトな免疫グロブリンであることができ、インタクトな免疫グロブリンの免疫反応性部分であることもできる。抗体は典型的には免疫グロブリン分子の四量体である。本発明における抗体は、例えばポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、Fv、FabおよびF(ab)、ならびに一本鎖抗体およびヒト化抗体など、さまざまな形態で存在しうる(Harlow et al.,1999,「Using Antibodies:A Laboratory Manual」,Cold Spring Harbor Laboratory Press,NY、Harlow et al.,1989,「Antibodies:A Laboratory Manual」,Cold Spring Harbor,N.Y.、Houston et al.,1988,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:5879-5883、Bird et al.,1988,Science 242:423-426)。
【0062】
いくつかの事例において、ADRの細胞外ドメインは抗体フラグメントを含む。「抗体フラグメント」という用語は、インタクトな抗体の一部分を指し、インタクトな抗体の抗原決定可変領域を指す。抗体フラグメントの例としては、Fab、Fab’、F(ab’)2およびFvフラグメント、線状抗体、scFv抗体、ならびに抗体フラグメントから形成される多重特異性抗体が挙げられるが、それらに限定されるわけではない。
【0063】
ADRには合成抗体が使用されうる。本明細書において使用される「合成抗体」という用語は、組換えDNA技術を使って生成される抗体、例えば本明細書に記載するようにバクテリオファージによって発現される抗体を指す。この用語は、抗体をコードするDNA分子の合成によって生成させた抗体を意味し、そのDNA分子は抗体タンパク質をまたは抗体を指定するアミノ酸配列を発現し、そのDNA配列またはアミノ酸配列は、当技術分野において利用可能であり周知である合成DNAまたはアミノ酸配列技術を使って得られたものであるとも解釈されるべきである。
【0064】
(B.ADRを発現する細胞)
養子移入に使用される同種細胞は、レシピエント個体による免疫反応ゆえに、その効力が限定的になりがちである。いくつかの事例において、細胞には、例えば移植片対宿主病を防止するために、内因性TCRを(例えばCRISPRを使って)除去するための改変を加えうるが、それに代えて、抗ウイルス活性を保つために、ウイルス特異的T細胞(インタクトな細胞またはCAR/TCR改変された細胞)を利用することもでき、特定の病理学的状態ではそれが有用である。そのようなVSTは、それらのTCRがより強くウイルス抗原に制限されるので、その移植片対宿主活性は極めて限定的であるが、レシピエントによる有害反応は依然として受けやすい。
【0065】
合成ADR分子を発現するように改変されることによって同種使用のために改良された細胞は、本開示に包含される。したがって本開示には、ADRを、ポリヌクレオチドとして、また細胞の表面に発現されたADRポリペプチドとして、保持する細胞が含まれる。特定の事例では、既製品としての使用(off-the-shelf use)のためにリポジトリにおいて維持されることを目的として、ADR発現細胞が生産される。細胞は、既にADRを発現するように構成された状態でリポジトリに収容されてもよいし、バンクに収容されていて、リポジトリからの回復後に、ADRを発現するように構成させてもよい。ADR分子を生成させるには特定の細胞、例えば細菌細胞を利用しうるが、ADRを保持する他の細胞、例えば真核細胞を活性化T細胞の標的化を含む本開示の方法に使用することができる。本明細書に示すとおり、ADR発現免疫細胞は、活性化T細胞を選択的に排除し、ADR発現免疫細胞は、アロ反応性T細胞による細胞溶解から保護される。
【0066】
ADR分子を発現する細胞はどんな種類であってもよいが、具体的実施形態では、それらは、ADRを発現するように改変されていて、それゆえに天然には見いだされない、免疫細胞、例えば免疫エフェクター細胞、例えばT細胞、NK細胞、NKT細胞、または該系統から派生した細胞株、もしくは細胞傷害活性を有するように工学的に操作された細胞株である。集団のうちの少なくとも70、75、80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、または100%がADR発現細胞である集団を含めて、非天然ADR発現細胞の集団が想定される。細胞は、一例として合成ADRポリヌクレオチドの標準的なトランスフェクションまたは形質導入方法の標準的な方法によって生成させうる。
【0067】
いくつかの事例において、ADR分子を発現するように改変されるADR分子は、ADR以外の別の工学的に操作された非天然分子を有するように既に工学的に操作されていてもよく、あるいは後から、ADR以外の別の工学的に操作された非天然分子を有するように工学的に操作される。例えば、キメラ抗原受容体(CAR)または工学的に操作されたT細胞受容体(TCR)を発現する細胞は、そうすることで、それらの細胞を宿主拒絶から保護し、それゆえにそれらの治療力価を増加させることができる。1つ以上のCARおよび/または1つ以上のTCRを発現する細胞を、1つ以上のADRを発現するように工学的に操作してもよいし、1つ以上のADRを発現する細胞を、1つ以上のCARおよび/または1つ以上のTCRを発現するように工学的に操作してもよい。したがって、いくつかの事例では、ADRが、CARおよび/またはTCRとは異なるベクター上で発現され、別の事例では、ADR分子が、CARおよび/またはTCRと同じベクター上で発現される。ADRが(一例として)CARと同じベクター上で発現される事例において、ADR発現とCAR発現は同じまたは異なる調節要素からの指示を受けうる。どの事例においても、ADRとCARは、それらの間に2Aなどの切断可能な要素を持つ、単一のポリペプチドとして発現されうる。
【0068】
ADR発現細胞がCARまたはTCRも発現する事例において、CARまたはTCRは任意の特定抗原を標的としうる。CARが使用される事例において、CARは第1世代、第2世代、第3世代などでありうる。CARは、具体的事例において、二重特異性でありうる。
【0069】
いくつかの事例では、ADR分子を発現する細胞が、例えば1つ以上の内因性分子の発現を欠くように工学的に操作されるなど、工学的に操作される。具体的事例では、細胞が、本来であれば細胞のきょうだい殺し(fratricide)を促進するであろう1つ以上の内因性遺伝子の発現を欠くように、工学的に操作される。具体的事例では、ADR分子を発現する細胞が、例えば4-1BBまたはOX40の発現を欠くように、工学的に操作される。一例に過ぎないが、細胞の工学的操作はCRISPR/Cas9によって行いうる。
【0070】
[II.自己/同種免疫防御受容体を使用する方法]
本開示の実施形態には、任意の目的で、個体に有効量のADR発現細胞を提供する方法が含まれる。方法には、任意の目的で、個体における活性化T細胞の選択的標的化を提供することが含まれる。活性化T細胞は、活性化T細胞を有効量のADR発現免疫細胞、例えばADR発現T細胞に曝露することによって、標的化される。そのような曝露は、例えば、その結果として生じる応用を、1つ以上有しうる。
【0071】
いくつかの実施形態において、ADRは、活性化T細胞以外の活性化免疫細胞、例えば活性化B細胞を選択的に標的とするために使用され(これはループス、関節リウマチなどの場合のように無用なB細胞を制御するのに役立つだろう)、また自然免疫の活性化(例えばマクロファージ活性化症候群など)も標的とする。別の実施形態では、ADRが、例えば4-1BBまたはOX40またはCD40Lなどといったそれぞれに対応する標的を発現する悪性細胞を、特異的に標的とするために利用される。
【0072】
有効量のADR発現細胞を個体に提供するためのレジメンは、治療もしくは防止のために、または使用方法とは無関係に、細胞を送達する人もしくは人々によって、知られているか、または決定されうる。例えば防止の場合、細胞は、1つ以上の症状の検出に先だって送達されるか、または1つ以上の症状を検出した後ではあるが、さらなる症状が発生および/または悪化する前に送達されうる。処置の場合、個体には、1つ、2つまたはそれ以上の症状が発生した後、そして場合によっては臨床的診断後に、有効量の細胞が提供されうる。
【0073】
本方法の具体的態様において、個体には、治療有効量の細胞の単回投与を行うか、または治療有効量の細胞の複数回の送達、例えば1、2、3、4、5、6、7日、または1、2、3、もしくは4週、または1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、もしくは12ヶ月、または1、2、3、4、5年もしくはそれ以上、またはそれらの間の任意の範囲などの間隔での複数回の送達を行いうる。投与間の時間は単一のレジメン内でも変動しうる。
【0074】
ADR発現細胞の投与は、局所的投与または全身性投与を含めて、個体への任意の適切な経路によることができる。具体的実施形態において、ADR発現細胞は、例えば静脈内送達、経口送達、経直腸送達、外用、筋肉内送達、注入によって送達、経腸送達、経鼻送達、吸入によって送達、舌下送達、バッカル送達、経皮送達、または皮下送達される。細胞は、ボーラスとして送達されてもよいし、そうでなくてもよい。複数回投与の場合、細胞は、異なる送達経路で個体に提供されてもよいし、そうでなくてもよい。細胞が個体に送達される場合、それらは薬学的に許容される担体または賦形剤に入れて送達されうる。ADR発現細胞の用量に関する特定例としては、10細胞/m、10細胞/m、10細胞/m、10細胞/m、10細胞/m、10細胞/m、1010細胞/m、1011細胞/m、または1012細胞/mおよびそれらの間の範囲が挙げられる。
【0075】
(A.既製品としての使用(use for off-the-shelf)の実施形態)
本開示は、既製品としての利用が可能な、例えば細胞の最初の取得源となった個体とは異なる個体において使用する目的でリポジトリから取得することができる、養子移入用の細胞を包含する。細胞は、リポジトリに寄託される前に既にADRを発現していてもよいし、後でADRを発現するように改変されてもよい。細胞は、養子移入のためのどの種類の免疫エフェクター細胞であってもよい。リポジトリに寄託する前の細胞またはリポジトリから取得した後の細胞は、例えば腫瘍特異的受容体(例えばCARまたはTCR)を発現するように改変されうる。
【0076】
本明細書の他の項で示すように、ADRを発現する細胞は、休止T細胞を温存しつつ、活性化されたT細胞およびNK細胞を選択的に標的とする。ADRは、インビトロでT細胞および/またはNK細胞によって媒介される免疫拒絶から同種T細胞を保護すると共に、インビボでの免疫拒絶からT細胞を保護する。そうすることでADRは、工学的に操作された抗腫瘍受容体(一例としてCAR)の機能に干渉しない。ADRとCARを共発現するT細胞はインビトロで腫瘍と活性化T細胞をどちらも効率よく排除することができるからである。本開示はさらに、CARとADRとを共発現する「既製の」T細胞を使用して、同じマウスに存在する同種T細胞からの免疫拒絶に対する抵抗性を保ちつつ、マウスモデルにおけるインビボでの抗がん活性を提供する。一例として、図14では、4-1BB ADRが4-1BB+腫瘍細胞に対して有効であり、ADRを4-1BB発現悪性腫瘍に対する治療モダリティとして使用できることが示されている。
【0077】
特定実施形態において、「既製の」治療用細胞は、免疫拒絶に抵抗するためにADRを発現し、内因性TCR特異性(例えばウイルス抗原または腫瘍抗原に対する特異性)を保っているか、または内因性TCRが工学的に操作された抗腫瘍受容体、例えば1つ以上のCARおよび/または1つ以上の組換えTCRで置き換えられている。
【0078】
具体的実施形態において、既製の細胞はリポジトリに収容され、リポジトリへの寄託前または寄託後に、具体的目的のための改変を受けうる。例えばADR発現T細胞は、リポジトリに収容され、例えば組織移植後または臓器移植後に移植片拒絶を防止するために、すぐ使える状態にありうる。ADR発現T細胞はリポジトリに収容され、例えばウイルス感染またはがんに対抗するために、選択されるか、またはネイティブTCRもしくはトランスジェニックTCRで工学的に操作されうる。ADR発現T細胞はリポジトリに収容され、がんまたは病原性感染に向けられたCARの形質導入を受けうる。ADR発現細胞はリポジトリに収容され、患者の具体的腫瘍によって発現される具体的ながん関連抗原またはネオ抗原に向けられた1つ以上のCARおよび/または1つ以上のTCRの形質導入を受けうる。
【0079】
いくつかの事例では、特にADR発現細胞そのものがアロ反応性ではない場合に、宿主の拒絶免疫細胞を破壊することによって固形臓器移植の拒絶を防止するためにバンクに預けられた同種細胞が利用される。
【0080】
リポジトリに収容される細胞はレシピエント個体に関して同種でありうるが、代替的実施形態では、リポジトリに収容される細胞がレシピエント個体にとって自家である。例えば、がんを持つ個体は、後に、例えばがんが寛解状態を脱した場合などに使用するために、リポジトリに寄託されたADR発現T細胞を有しうる。他の事例では、自家ADR発現細胞が、自己免疫障害を処置するためにリポジトリに収容される。
【0081】
(B.自己免疫障害における使用)
個体における内因性自己反応性T細胞の無用な活性化は、例えば真性糖尿病、自己免疫性大腸炎および多発性硬化症など、その個体にとって壊滅的な自己免疫疾患につながりうる。特定実施形態では、個体における内因性自己反応性T細胞を阻害することによって自己免疫障害(またはその潜在的発生)に影響を及ぼすADR発現免疫細胞を個体において使用することにより、1つ以上の自己免疫障害が防止または処置される。具体的実施形態において、そのようなADR発現細胞の使用は、個体において、休止状態にある非病原性のナイーブT細胞およびメモリーT細胞を温存する。したがって本開示の特定の方法では、ADRを発現するように改変された特定細胞を利用し、その特定細胞は、病原性T細胞を含む活性化T細胞を標的とし、それによって活性化T細胞の破壊を開始させるのに十分な量で、個体に提供される。
【0082】
無用な特異性を持つT細胞のインビボ活性化は病原性の原因となる場合があり、特定実施形態において、1つ以上のADRを発現する細胞は、活性化T細胞を標的とする。いくつかの事例において、ADR発現細胞は、活性化T細胞のサブセットである病原性細胞を標的とする。
【0083】
特定の事例では、活性化T細胞によって推進される生命を脅かす衰弱状態(例えば臓器拒絶、移植片対宿主病、I型糖尿病、多発性硬化症、自己免疫性大腸炎、ループス、関節リウマチなど)をADR発現T細胞の養子T細胞移入を使って、防止または反転させるために、ADR発現T細胞を使用することができる。
【0084】
いくつかの事例において、ADR発現T細胞は、1つ以上の自己免疫障害の処置または防止を促進するADR以外の組成物も1つ以上含む。
【0085】
いくつかの事例において、ADR発現T細胞を提供される個体には、1つ以上の自己免疫障害を防止または処置するために、1つ以上の追加治療が与えられる。個体には、1つ以上の免疫抑制薬、例えばグルココルチコイド、細胞分裂阻害薬、抗体および/またはイムノフィリンに作用する薬物などを与えてもよく、与えなくてもよい。上記に加えて、または上記に代えて、個体には1つ以上の適当なワクチンを与えてもよい。
【0086】
いくつかの事例において、個体には自己免疫障害のリスクがあり、自己免疫障害の発症を防止するために、あるいは発症を遅延させかつ/または例えば重症度および/もしくは持続時間などといった1つ以上の症状を和らげるために、有効量のADR発現細胞が提供される。自己免疫障害のリスクがある個体とは、例えば、個人歴または家族歴を有する者、特定の民族の女性などである。個体は、ある自己免疫障害を有していてよく、いくつかの事例では、別の自己免疫障害を防止し、または重症度および/もしくは持続時間を低減し、またはその発症を遅延させることを望んでいる。
【0087】
ADR発現細胞で防止または処置されうる自己免疫障害の例として、少なくとも以下が挙げられる:アカラシア;アジソン病;成人スティル病;無ガンマグロブリン血症;円形脱毛症;アミロイドーシス;強直性脊柱炎;抗GBM/抗TBM腎炎;抗リン脂質症候群;自己免疫性血管性浮腫;自己免疫性自律神経障害;自己免疫性脳脊髄炎;自己免疫性肝炎;自己免疫性内耳疾患(Autoimmune inner ear disease:AIED);自己免疫性心筋炎;自己免疫性卵巣炎;自己免疫性睾丸炎;自己免疫性膵炎;自己免疫性網膜症;自己免疫性じんま疹;軸索性およびニューロン性ニューロパチー(Axonal&neuronal neuropathy:AMAN);バロー病;ベーチェット病;良性粘膜類天疱瘡;水疱性類天疱瘡;キャッスルマン病(Castleman disease:CD);セリアック病;シャーガス病;慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー(Chronic inflammatory demyelinating polyneuropathy:CIDP);慢性再発性多巣性骨髄炎(Chronic recurrent multifocal osteomyelitis:CRMO);チャーグ・ストラウス症候群(Churg-Strauss Syndrome:CSS)または好酸球性肉芽腫症(Eosinophilic Granulomatosis:EGPA);瘢痕性類天疱瘡;コーガン症候群;寒冷凝集素症;先天性心ブロック;コクサッキー心筋炎;クレスト症候群;クローン病;疱疹状皮膚炎;皮膚筋炎;デビック病(視神経脊髄炎);円板状ループス;ドレスラー症候群;子宮内膜症;好酸球性食道炎(Eosinophilic esophagitis:EoE);好酸球性筋膜炎;結節性紅斑;本態性混合クリオグロブリン血症;エバンス症候群;線維筋痛症;線維化性肺胞炎;巨細胞性動脈炎(側頭動脈炎);巨細胞性心筋炎;糸球体腎炎;グッドパスチャー症候群;多発血管炎性肉芽腫症;グレーブス病;ギラン・バレー症候群;橋本甲状腺炎;溶血性貧血;ヘノッホ・シェーンライン紫斑病(Henoch-Schonlein purpura:HSP);妊娠性疱疹または妊娠性類天疱瘡(pemphigoid gestationis:PG);化膿性汗腺炎(Hidradenitis Suppurativa:HS)(反対型ざ瘡);低ガンマグロブリン血症;IgA腎症;IgG4関連硬化性疾患;免疫性血小板減少性紫斑病(Immune thrombocytopenic purpura:ITP);封入体筋炎(Inclusion body myositis:IBM);間質性膀胱炎(Interstitial cystitis:IC);若年性関節炎;若年性糖尿病(1型糖尿病);若年性筋炎(Juvenile myositis:JM);川崎病;ランバート・イートン症候群;白血球破壊性血管炎;扁平苔癬;硬化性苔癬;木質制結膜炎;線状IgA病(Linear IgA disease:LAD);ループス;慢性ライム病;メニエール病;顕微鏡的多発血管炎(Microscopic polyangiitis:MPA);混合結合組織病(Mixed connective tissue disease:MCTD);モーレン潰瘍;ムッハ・ハーベルマン病;多巣性運動ニューロパチー(Multifocal Motor Neuropathy:MMN)またはMMNCB;多発性硬化症;重症筋無力症;筋炎;ナルコレプシー;新生児ループス;視神経脊髄炎;好中球減少症;眼瘢痕性類天疱瘡;視神経炎;回帰性リウマチ(Palindromic rheumatism:PR);PANDAS;腫瘍随伴性小脳変性症(Paraneoplastic cerebellar degeneration:PCD);発作性夜間ヘモグロビン尿症(Paroxysmal nocturnal hemoglobinuria:PNH);パリー・ロンベルク症候群;毛様体扁平部炎(周辺部ぶどう膜炎);パーソネージ・ターナー症候群(Parsonnage-Turner syndrome);天疱瘡;末梢性ニューロパチー;静脈周囲性脳脊髄炎;悪性貧血(Pernicious anemia:PA);POEMS症候群;結節性多発動脈炎;多腺性症候群I型、II型、III型;リウマチ性多発筋痛症;多発性筋炎;心筋梗塞後症候群;心膜切開後症候群;原発性胆汁性肝硬変;原発性硬化性胆管炎;プロゲステロン皮膚炎;乾癬;乾癬性関節炎;赤芽球癆(Pure red cell aplasia:PRCA);壊疽性膿皮症;レイノー現象;反応性関節炎;反射性交感神経性ジストロフィー;再発性多発軟骨炎;下肢静止不能症候群(Restless legs syndrome:RLS);後腹膜線維症;リウマチ熱;関節リウマチ;サルコイドーシス;シュミット症候群;強膜炎;強皮症;シェーグレン症候群;精子精巣自己免疫(Sperm&testicular autoimmunity);全身硬直症候群(Stiff person syndrome:SPS);亜急性細菌性心内膜炎(Subacute bacterial endocarditis:SBE);スザック症候群;交感性眼炎(Sympathetic ophthalmia:SO);高安動脈炎;側頭動脈炎/巨細胞性動脈炎;血小板減少性紫斑病(Thrombocytopenic purpura:TTP);トローザ・ハント症候群(Tolosa-Hunt syndrome:THS);横断性脊髄炎;1型糖尿病;潰瘍性大腸炎(Ulcerative colitis:UC);未分化結合組織疾患(Undifferentiated connective tissue disease:UCTD);ぶどう膜炎;血管炎;白斑;フォークト・小柳・原田病;およびウェゲナー肉芽腫症(または多発血管炎性肉芽腫症(Granulomatosis with Polyangiitis:GPA))。
【0088】
(C.NK細胞を排除するための使用)
ADR発現免疫細胞は、NK細胞を排除することが望ましい事例において、NK細胞を排除するために利用しうる。本明細書において実証されるように、特定の免疫細胞上のADRの存在は、HLAlow細胞またはHLA不適合細胞の迅速な拒絶の媒介に関与するNK細胞に対する特異的細胞傷害活性をもたらす。したがって、例えば特定の個体への同種細胞の養子移入を利用することができるようにHLAlow細胞またはHLA不適合細胞を維持することが望ましい状況では、ADR発現細胞の使用により、NK細胞の活性化およびHLA不適合細胞の拒絶が回避される。具体的には、本明細書において示されるように、ADRを発現するT細胞の共培養は、NK細胞の排除につながり、したがってADR発現同種T細胞のNK細胞媒介性宿主拒絶を相殺する。
【0089】
(D.同種細胞/組織/臓器移植の生着を促進するための使用)
アロ反応性T細胞の活性化回避の具体的一態様では、主としてレシピエントからのアロ反応性T細胞の集団によって媒介される、移植を受けている個体における同種細胞、同種組織または同種臓器の拒絶を回避しうる。レシピエントのアロ反応性T細胞の活性化は、そのような拒絶を回避するための措置を講じなければ、例えば生着不全につながるだろう。それゆえに、特定実施形態において、細胞、組織または臓器を個体に移植する方法では、細胞、組織または臓器のそれぞれの移植前、移植中および/または移植後に、有効量のADR発現細胞の送達を利用する。いくつかの事例において、ADR発現細胞それ自体は、移植の対象である各細胞、組織または臓器の一部ではないが、他の事例では、ADR発現細胞が各細胞、組織または臓器の一部である。
【0090】
移植用の組織は、例えば少なくとも皮膚、角膜、骨、腱、心臓弁、静脈、または動脈など、どの種類であってもよい。移植用の臓器は、例えば心臓、腎臓、肝臓、肺、膵臓、腸、および胸腺など、どの種類であってもよい。
【0091】
特定実施形態において、ADR発現細胞は、以下の二面的アプローチとして、個体における同種細胞の使用を強化する:(1)個体における内因性アロ反応性T細胞を阻害する、および(2)個体におけるNK細胞媒介性拒絶を抑制する。したがってADR分子は、個体において、例えばT細胞、NK細胞、NK-T細胞、粘膜関連インバリアントT細胞(mucosal associated invariant T cell:MAIT)および他の細胞傷害性細胞などといった同種治療用細胞、例えばキメラ抗原受容体(CAR)、トランスジェニックTCRなどの工学的に操作されたコンストラクトを発現するものを含めて、あらゆるタイプの第三者由来の治療用細胞の個体における存続および活性を強化することができる。
【0092】
(E.同種細胞/組織/臓器移植中の移植片対宿主病(GvHD)の予防または処置における使用)
アロ反応性T細胞の活性化を回避するもう一つの具体的態様では、同種細胞、同種組織または同種臓器の移植を受けている個体における、生命を脅かす同種免疫反応を回避しうる。そのような移植物は、ドナーアロ反応性T細胞を含有し、それらドナーアロ反応性T細胞は、それらの活性化を回避するための措置を講じなければ、例えば移植片対宿主病(GvHD)の発生を誘発するだろう。それゆえに、特定実施形態において、細胞、組織または臓器を個体に移植する方法では、細胞、組織または臓器のそれぞれの移植前、移植中および/または移植後に、有効量のADR発現細胞の送達を利用する。いくつかの事例において、ADR発現細胞それ自体は、移植の対象である各細胞、組織または臓器の一部ではないが、他の事例では、ADR発現細胞が各細胞、組織または臓器の一部である。
【0093】
移植用の組織は、例えば少なくとも皮膚、角膜、骨、腱、心臓弁、静脈、または動脈など、どの種類であってもよい。移植用の臓器は、例えば心臓、腎臓、肝臓、肺、膵臓、腸、および胸腺など、どの種類であってもよい。
【0094】
(III.ADR発現細胞の生産)
ADR分子を発現する細胞は、いずれも当技術分野では常法でありうるさまざまな方法で生産されうる。生産方法は、ADR分子を発現するように改変される細胞を取得することを含みうる。また、生産方法はADR分子の生成も含みうる。
【0095】
(A.T細胞の供給源)
本開示のADR発現T細胞の増殖および遺伝子改変に先だって、T細胞の供給源を対象から取得しうる。そのような取得工程は、本方法の一部であってもよいし、本方法の一部でなくてもよい。いくつかの事例において、改変されるT細胞の取得とそれらの操作は、ADR発現T細胞を個体に提供する団体とは異なる団体によって行われうる。T細胞は、末梢血単核球、骨髄、リンパ節組織、臍帯血、胸腺組織、感染部位からの組織、腹水、胸水、脾臓組織および腫瘍を含む、いくつかの供給源から取得することができる。本開示の特定の実施形態では、当技術分野において利用可能な多くのT細胞株を使用しうる。特定の実施形態において、T細胞は、対象から収集された1単位の血液から、当技術分野において知られる多くの技法、例えばFicoll(商標)分離を使って取得することができる。一実施形態において、個体の循環血からの細胞はアフェレーシスによって取得される。アフェレーシス産物は、典型的には、例えば、T細胞を含むリンパ球、単球、顆粒球、B細胞、他の有核白血球、赤血球、および血小板を含有する。一実施形態において、アフェレーシスによって収集された細胞は、血漿画分を除去し、後続の処理工程のために細胞を適当な緩衝液または培地に入れるために、洗浄されうる。一実施形態において、細胞はリン酸緩衝食塩水(PBS)で洗浄される。代替的実施形態において、洗浄溶液はカルシウムを欠き、マグネシウムを欠いてもよく、またはすべてではないにしても多くの二価カチオンを欠きうる。当技術分野における通常の技能を有する者にはすぐに理解されるであろうが、洗浄工程は、当業者に知られる方法によって、例えば半自動「フロースルー」遠心機(例えばCobe 2991細胞処理装置、Baxter CytoMate、またはHaemonetics Cell Saver 5)を製造者の説明書に従って使用することによって、達成されうる。洗浄後は、細胞を、例えばCa2+非含有Mg2+非含有PBS、PlasmaLyte A、または緩衝剤を含むもしくは緩衝剤を含まない他の食塩溶液など、さまざまな生体適合性緩衝液に再懸濁しうる。あるいは、アフェレーシス試料の望ましくない構成成分を除去し、細胞を培養培地に直接再懸濁してもよい。
【0096】
別の一実施形態では、T細胞が末梢血リンパ球から、赤血球を溶解し、単球を、例えばPERCOLL(商標)勾配での遠心分離によって、または対向流遠心エルトリエーションによって、枯渇させることにより、単離される。T細胞の具体的亜集団、例えばCD3、CD28、CD4、CD8、CD45RA、およびCD45ROT細胞を、ポジティブセレクション法またはネガティブセレクション法によってさらに単離することができる。
【0097】
ネガティブセレクションによるT細胞集団の濃縮は、ネガティブセレクションされる細胞にユニークな表面マーカーに向けられた抗体の組合せを使って達成することができる。一方法は、ネガティブセレクションされる細胞上に存在する細胞表面マーカーに向けられたモノクローナル抗体のカクテルを使用するネガティブ磁気免疫接着またはネガティブフローサイトメトリーによる細胞選別および/または細胞選択である。例えば、ネガティブセレクションによってCD4細胞を濃縮するには、モノクローナル抗体のカクテルが、典型的には、CD14、CD20、CD11b、CD16、HLA-DR、およびCD8に対する抗体を含む。特定の実施形態では、典型的にはCD4、CD25、CD62Lhi、GITR、およびFoxP3を発現する制御性T細胞を濃縮またはポジティブセレクションすることが望ましいだろう。あるいは、特定の実施形態では、抗C25コンジュゲートビーズまたは他の類似する選択方法によって、制御性T細胞を枯渇させる。
【0098】
ポジティブまたはネガティブセレクションによる所望の細胞集団の単離に関して、細胞の濃度および表面(例えばビーズなどの粒子)はさまざまであることができる。特定の実施形態では、細胞とビーズとの最大限の接触を保証するために、ビーズと細胞を一つに混合する体積は著しく減少させる(すなわち細胞の濃度を増加させる)ことが望ましいだろう。例えば一実施形態では、20億細胞/mlの濃度が使用される。一実施形態では、10億細胞/mlの濃度が使用される。さらなる一実施形態では、1億細胞超/mlが使用される。さらなる一実施形態では、1000万、1500万、2000万、2500万、3000万、3500万、4000万、4500万、または5000万細胞/mlの細胞濃度が使用される。さらにもう一つの実施形態では、7500万、8000万、8500万、9000万、9500万、または1億細胞/mlの細胞濃度が使用される。さらなる実施形態では、1億2500万または1億5000万細胞/mlの濃度を使用することができる。高濃度の使用は、増加した細胞収量、細胞活性化および細胞増殖をもたらすことができる。別の一実施形態では、低い細胞濃度を使用することが望ましい場合もありうる。T細胞と表面(例えばビーズなどの粒子)の混合物を著しく希釈することにより、粒子と細胞の間の相互作用が最小限に抑えられる。
【0099】
刺激用のT細胞を洗浄工程後に凍結することもできる。理論に束縛されることは望まないが、凍結とそれに続く融解の工程は、細胞集団中の顆粒球を除去し、単球もある程度は除去することにより、より一様な産物を提供する。血漿および血小板を除去する洗浄工程後に、細胞を凍結溶液に懸濁しうる。多くの凍結溶液および凍結パラメータが当技術分野では知られている。特定の実施形態では、凍結保存細胞を本明細書に記載するように融解、洗浄し、本発明の方法を使った活性化の前に、室温で1時間休止させる。
【0100】
本明細書に記載する増殖した細胞が必要になるかもしれない時点に先だつ期間に対象から血液試料またはアフェレーシス産物を収集することも、本開示との関連において想定される。このように、増殖させる細胞の供給源は、任意の必要な時点で収集することができ、所望の細胞、例えばT細胞を単離して、後に、T細胞治療が有益であるだろう多くの疾患または状態、例えば本明細書に記載するもののT細胞治療において使用するために、凍結することができる。一実施形態において、血液試料またはアフェレーシスは、総じて健常な対象から採取される。特定の実施形態において、血液試料またはアフェレーシスは、疾患を発生させるリスクはあるがまだ疾患を発生させていない総じて健常な対象から採取され、関心対象の細胞が単離され、後で使用するために凍結される。特定の実施形態では、T細胞を増殖させ、凍結し、後で使用しうる。特定の実施形態では、本明細書に記載する特定疾患の診断後まもなく、ただしあらゆる処置の前に、試料が患者から収集される。さらなる一実施形態において、細胞は、例えば限定するわけではないが、ナタリズマブ、エファリズマブなどの作用物質、抗ウイルス剤、化学治療、放射線、免疫抑制剤、例えばシクロスポリン、アザチオプリン、メトトレキサート、ミコフェノール酸およびFK506、抗体、または他の免疫アブレーション剤、例えばCAMPATH、抗CD3抗体、サイトキサン、フルダラビン、シクロスポリン、FK506、ラパマイシン、ミコフェノール酸、ステロイド、FR901228、および放射線照射などによる処置など、多くの関連処置モダリティに先だって、対象からの血液試料またはアフェレーシスから単離される。これらの薬物は、カルシウム依存性ホスファターゼであるカルシニューリンを阻害するか(シクロスポリンおよびFK506)、成長因子誘導性シグナリングにとって重要なp70S6キナーゼを阻害する(ラパマイシン)(Liu et al, Cell 66:807-815, 1991、Henderson et al, Immun. 73:316-321, 1991、Bierer et al, Curr.Opin.Immun. 5:763-773, 1993)。さらなる一実施形態では、細胞が患者のために単離され、後に、骨髄移植もしくは幹細胞移植、あるいはフルダラビンなどの化学治療剤、外部ビーム放射線治療(external-beam radiation therapy:XRT)、シクロホスファミド、またはOKT3もしくはCAMPATHなどの抗体を使ったT細胞アブレーション治療と一緒に(例えば事前に、同時に、または事後に)使用するために、凍結される。別の一実施形態では、細胞を事前に単離し、後に、CD20と反応する作用物質、例えばリツキサンなどのB細胞アブレーション治療に続く処置に使用するために、凍結することができる。
【0101】
(B.T細胞の活性化および増殖)
ADRを発現させるためのT細胞の遺伝子改変の前であれ後であれ、T細胞は、一般に例えば米国特許第6,352,694号、同第6,534,055号、同第6,905,680号、同第6,692,964号、同第5,858,358号、同第6,887,466号、同第6,905,681号、同第7,144,575号、同第7,067,318号、同第7,172,869号、同第7,232,566号、同第7,175,843号、同第5,883,223号、同第6,905,874号、同第6,797,514号、同第6,867,041号、および米国特許出願公開第20060121005号に記載の方法を使って、活性化し、増殖させることができる。一般的には、CD3/TCR複合体関連シグナルを刺激する作用物質とT細胞表面上の共刺激分子を刺激するリガンドとが取り付けられている表面との接触によって、本開示のT細胞を増殖させる。そのようなプロセスは当技術分野では知られている。別の例では、事前の活性化なしでADRを発現するように、T細胞を改変することができる。
【0102】
(C.ADR分子の生成)
次に、ADRをコードするポリヌクレオチドについて概説すると、ADR分子をコードする核酸配列は、当技術分野で知られる組換え法を使って、例えば当該遺伝子を発現する細胞からのライブラリーをスクリーニングすることによって、または当該遺伝子を含むことが知られているベクターから当該遺伝子を取り出すことによって、またはそれを含有する細胞および組織から標準的技法を使って直接単離することによって、取得することができる。あるいは、関心対象のADRポリヌクレオチドを、クローニングするのではなく、合成的に生産することもできる。
【0103】
手短に要約すると、ADRをコードする合成ポリヌクレオチドの発現は、典型的には、ADRポリペプチドまたはその一部分をコードする核酸をプロモーターに作動的に連結し、そのコンストラクトを発現ベクターに組み込むことによって達成される。ベクターは真核生物における複製および組込みに適しうる。典型的クローニングベクターは、転写ターミネーターおよび翻訳ターミネーター、開始配列、ならびに所望の核酸配列の発現を調節するのに役立つプロモーターを含有する。
【0104】
ADRポリヌクレオチドは、いくつかのタイプのベクターにクローニングすることができる。例えば、限定するわけではないがプラスミド、ファージミド、ファージ誘導体、動物ウイルスおよびコスミドなどのベクターに、核酸をクローニングすることができる。特に興味深いベクターとして、発現ベクター、複製ベクター、プローブ生成ベクター、およびシークエンシングベクターが挙げられる。
【0105】
さらに、発現ベクターはウイルスベクターの形態で細胞に提供されうる。ウイルスベクター技術は当技術分野において周知であり、例えばSambrook et al.(2001,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,New York)ならびに他のウイルス学および分子生物学のマニュアルに記載されている。ベクターとして有用なウイルスとしては、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、およびレンチウイルスが挙げられるが、それらに限定されるわけではない。一般に、適切なベクターは、少なくとも1種の生物において機能的な複製起点、プロモーター配列、好都合な制限エンドヌクレアーゼ部位、および1つ以上の選択可能マーカーを含有する(例えばWO01/96584;WO01/29058;および米国特許第6,326,193号)。
【0106】
哺乳動物細胞への遺伝子移入のためにウイルスベースの系がいくつか開発されている。例えば、レトロウイルスは遺伝子送達系のための便利なプラットホームになる。選択された遺伝子を、当技術分野において知られている技法を使って、ベクターに挿入し、レトロウイルス粒子にパッケージングすることができる。次に、組換えウイルスを単離し、インビボまたはエクスビボのいずれかで対象の細胞に送達することができる。当技術分野ではレトロウイルス系がいくつか知られている。いくつかの実施形態では、アデノウイルスベクターが使用される。当技術分野ではアデノウイルスベクターがいくつか知られている。一実施形態では、レンチウイルスベクターが使用される。
【0107】
追加のプロモーター要素、例えばエンハンサーは、転写開始の頻度を調節する。典型的には、これらは開始部位から30~110bp上流の領域に位置するが、いくつかのプロモーターは開始部位の下流にも機能的要素を含有することが最近になって明らかにされている。プロモーター要素間の間隔は融通が利く場合が多いので、各要素を互いに逆にするか移動させても、プロモーター機能は維持される。チミジンキナーゼ(tk)プロモーターでは、50bpまではプロモーター要素間の間隔を増やしても、活性の低下は始まらない。プロモーターによって、個々の要素は協調してまたは独立して機能することにより、転写を活性化できるようである。
【0108】
適切なプロモーターの一例は前初期サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター配列である。このプロモーター配列は、そこに作動的に連結された任意のポリヌクレオチド配列の高レベルな発現を駆動することができる強い構成的プロモーター配列である。適切なプロモーターの別の一例は、伸長成長因子(Elongation Growth Factor)-1アルファ(EF-1アルファ)である。しかし、限定するわけではないが、例えばシミアンウイルス40(SV40)初期プロモーター、マウス乳房腫瘍ウイルス(MMTV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)長末端反復(LTR)プロモーター、MoMuLVプロモーター、トリ白血病ウイルスプロモーター、エプスタイン・バー・ウイルス前初期プロモーター、ラウス肉腫ウイルスプロモーター、ならびにヒト遺伝子プロモーター、例えば限定するわけではないが、アクチンプロモーター、ミオシンプロモーター、ヘモグロビンプロモーターおよびクレアチンキナーゼプロモーターなどといった、他の構成的プロモーター配列も使用しうる。さらに本発明は構成的プロモーターの使用に限定されるものではない。誘導性プロモーターは本発明の一部として想定される。誘導性プロモーターの使用は、それが作動的に連結されているポリヌクレオチド配列の発現を、そのような発現が望ましい場合にはオンにし、発現が望ましくない場合には発現をオフにすることができる分子スイッチを提供する。誘導性プロモーターの例としては、メタロチオニンプロモーター、グルココルチコイドプロモーター、プロゲステロンプロモーター、およびテトラサイクリンプロモーターが挙げられるが、それらに限定されるわけではない。
【0109】
ADRポリペプチドまたはその一部の発現を評価するために、細胞に導入される発現ベクターは、トランスフェクションまたはウイルスベクターによる感染に付そうとする細胞の集団からの発現細胞の同定および選択を促進するために、選択可能マーカー遺伝子もしくはレポーター遺伝子またはその両方も含有することができる。別の態様では、選択可能マーカーを別個のDNA断片上に乗せて、それを共トランスフェクション手順において使用してもよい。選択可能マーカーにもレポーター遺伝子にも、宿主細胞における発現を可能にするための適当な調節配列が隣接しうる。有用な選択可能マーカーとしては、例えばneoなどの抗生物質耐性遺伝子が挙げられる。
【0110】
レポーター遺伝子は、潜在的にトランスフェクトされた細胞を同定するため、および調節配列の機能性を評価するために、使用される。一般に、レポーター遺伝子は、レシピエント生物またはレシピエント組織には存在しないかレシピエント生物またはレシピエント組織によって発現されず、しかも何らかの容易に検出できる特性、例えば酵素活性によって、その発現が顕在化されうるポリペプチドをコードする遺伝子である。レポーター遺伝子の発現は、DNAをレシピエント細胞中に導入した後、適切な時点でアッセイされる。適切なレポーター遺伝子としては、ルシフェラーゼ、ベータ-ガラクトシダーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼもしくは分泌型アルカリホスファターゼをコードする遺伝子または緑色蛍光タンパク質遺伝子を挙げることができる(例えばUi-Tei et al.,2000 FEBS Letters 479:79-82)。適切な発現系は周知であり、既知の技法を使って調製するか、商業的に入手しうる。一般に、最も高レベルのレポーター遺伝子発現を示す最小の5’隣接領域を持つコンストラクトが、プロモーターと同定される。そのようなプロモーター領域は、レポーター遺伝子に連結され、プロモーターが駆動する転写を調整する能力について作用物質を評価するために使用されうる。
【0111】
ADRポリヌクレオチドを細胞中に導入してそこで発現させる方法は当技術分野では知られている。発現ベクターの場合は、ベクターを、当技術分野における任意の方法によって、宿主細胞、例えば哺乳動物細胞、細菌細胞、酵母細胞または昆虫細胞中に、容易に導入することができる。例えば発現ベクターは、物理的、化学的または生物学的手段によって宿主細胞中に移入することができる。
【0112】
ADRポリヌクレオチドを宿主細胞に導入するための物理的方法としては、リン酸カルシウム沈殿法、リポフェクション、パーティクルボンバードメント、マイクロインジェクション、エレクトロポレーションなどが挙げられる。ベクターおよび/または外因性核酸を含む細胞を生産するための方法は当技術分野において周知である。例えばSambrook et al.(2001,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,New York)を参照されたい。宿主細胞中にポリヌクレオチドを導入するための一方法は、リン酸カルシウムトランスフェクションである。
【0113】
関心対象のADRポリヌクレオチドを宿主細胞中に導入するための生物学的方法としてはDNAベクターおよびRNAベクターが挙げられる。ウイルスベクター、とりわけレトロウイルスベクターは、哺乳動物細胞、例えばヒト細胞中に遺伝子を挿入するために最も広く使用される方法になっている。他のウイルスベクターは、レンチウイルス、ポックスウイルス、単純ヘルペスウイルスI、アデノウイルスおよびアデノ随伴ウイルスなどに由来することができる。例えば米国特許第5,350,674号および同第5,585,362号参照。
【0114】
宿主細胞中にポリヌクレオチドを導入するための化学的手段としては、コロイド分散系、例えば高分子複合体、ナノカプセル、マイクロスフェア、ビーズ、および脂質ベースの系、例えば水中油型エマルション、ミセル、混合ミセル、およびリポソームが挙げられる。インビトロおよびインビボで送達媒体として使用される例示的コロイド系は、リポソーム(例えば人工膜小胞)である。
【0115】
非ウイルス送達系を利用する事例において、例示的送達媒体はリポソームである。宿主細胞中に(インビトロ、エクスビボまたはインビボで)核酸を導入するための脂質製剤の使用が想定される。別の一態様では、核酸を脂質と会合させてもよい。脂質と会合した核酸は、リポソームの水性内部に封入されているか、リポソームの脂質二重層内に散在しているか、リポソームとオリゴヌクレオチドとの両方と会合する連結分子によってリポソームに取り付けられているか、リポソームに捕捉されているか、リポソームとの複合体を形成しているか、脂質を含有する溶液に分散しているか、脂質と混合されているか、脂質と組み合わされているか、脂質に懸濁物質として含有されているか、ミセルと共に含有されているか、ミセルとの複合体を形成しているか、または他の形で脂質と会合していてよい。脂質、脂質/DNAまたは脂質/発現ベクター会合組成物は、溶解状態にあるどの特定構造にも限定されない。例えばそれらは、ミセルとして存在するか、または「崩壊した(collapsed)」構造を有する二重層構造で存在しうる。それらは、溶液中に単に散在していて、場合によってはサイズまたは形状が一様でない集合体を形成していてもよい。脂質は、脂肪状の物質であって、天然脂質であっても合成脂質であってもよい。例えば脂質には、細胞質中に天然に存在する脂肪滴、ならびに長鎖脂肪族炭化水素およびそれらの誘導体、例えば脂肪酸、アルコール、アミン、アミノアルコールおよびアルデヒドを含有する化合物クラスが含まれる。
【0116】
使用に適した脂質は、商業的供給源から入手することができる。例えば、ジミリスチルホスファチジルコリン(「DMPC」)は、Sigma(ミズーリ州セントルイス)から入手することができ、ジセチルホスフェート(「DCP」)はK&K Laboratories(ニューヨーク州プレーンビュー)から入手することができ、コレステロール(「Choi」)はCalbiochem-Behringから入手することができ、ジミリスチルホスファチジルグリセロール(「DMPG」)および他の脂質はAvanti Polar Lipids,Inc.(アラバマ州バーミングハム)から入手しうる。クロロホルム中またはクロロホルム/メタノール中の脂質の保存溶液は約-20℃で貯蔵することができる。クロロホルムはメタノールより容易に蒸発するので、クロロホルムが唯一の溶媒として使用される。「リポソーム」は閉じた脂質二重層または脂質集合体の生成によって形成されるさまざまなシングルラメラおよびマルチラメラ脂質媒体を包含する総称である。リポソームは、リン脂質二重層膜と内側の水性媒質とによる小胞構造を有すると特徴づけることができる。マルチラメラリポソームは水性媒質によって隔てられた複数の脂質層を有する。それらはリン脂質を過剰の水性溶液に懸濁すると自発的に形成される。脂質構成成分は、閉じた構造を形成する前に自己再配置を起こし、脂質二重層の間に水と溶解した溶質とを捕捉する(Ghosh et al.,1991 Glycobiology 5:505-10)。ただし、通常の小胞構造とは異なる溶解状態の構造を有する組成物も包含される。例えば、脂質はミセル構造をとるか、単に一様でない脂質分子の集合体として存在しうる。リポフェクタミン-核酸複合体も想定される。
【0117】
いくつかの例では、ADR分子が細胞の内因性核酸中に組み込まれうる。コンストラクトが特定の座位に組み込まれることが望まれる場合は、相同組換えのための標的部位を用意しうる。例えば、相同組換えに関して当技術分野において知られている材料および方法を使って、内因性遺伝子をノックアウトし、それを(同じ遺伝子座または他のどこかにおいて)、コンストラクトがコードしている遺伝子で置き換えることができる。相同組換えには、オメガ(OMEGA)ベクターまたはO-ベクターのどちらかを使用しうる。相同組換えを促進するためにゲノム中の特異的部位を標的とし切断するには、CRISPR/Cas9、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、TALEヌクレアーゼ、メガヌクレアーゼ、および他の部位特異的ヌクレアーゼを使用しうる。
【0118】
ADR発現コンストラクトを含むように工学的に操作されている例示的T細胞は、選択的条件下での培養で成長させ、次に、コンストラクトを有するものとして選択された細胞を増殖させ、例えば宿主細胞におけるコンストラクトの存在を決定するためのポリメラーゼ連鎖反応などを使って、さらに分析しうる。工学的に操作された宿主細胞が同定されたら、次にそれらを計画したとおりに使用することができ、例えば培養下に増殖させ、宿主生物に導入しうる。
【0119】
細胞の性質に応じて、細胞は、多種多様な方法で、宿主生物、例えば哺乳動物に導入しうる。具体的態様では、細胞を腫瘍部位に導入しうるが、代替的実施形態では、細胞ががんにホーミングするか、または感染組織にホーミングするように細胞が改変される。使用される細胞の数はいくつかの状況、導入の目的、細胞の寿命、使用されるプロトコール、例えば投与回数、細胞の倍加能力、組換えコンストラクトの安定性などに依存するだろう。細胞は分散系として適用することができ、一般的には、目的の部位またはその近傍に注入される。細胞は生理学的に許容される培地中に存在しうる。
【0120】
DNAの導入が組込みをもたらすことはすべての事例で必要なわけではない。状況によっては、導入されたDNAの一過性の維持で十分でありうる。こうすることで短期効果を得ることができ、細胞が宿主に導入された後、予め決定された時間後に、例えば細胞が特定部位にホーミングすることができた後に、細胞をオンにすることができるだろう。
【実施例
【0121】
本開示の特定実施形態をより詳しく例示するために、以下の実施例を提示する。ただし、決して、これらが幅広い本開示の範囲を限定すると見なしてはならない。
【0122】
[実施例1 病原性T細胞の選択的標的化のための自己/同種免疫防御受容体]
本明細書には、正常T細胞上に発現させた自己/同種免疫防御受容体(ADR)を使って病原性T細胞を特異的に標的とするための、新規アプローチが開示される。ADR発現T細胞は活性化T細胞だけを見つけて排除し、循環リンパ球の大半を構成する休止状態で非病原性のナイーブT細胞およびメモリーT細胞は温存する。
【0123】
ADRによって媒介される標的化という概念は、活性化の24時間以内にT細胞がその細胞表面において共刺激遺伝子4-1BB、OX40および/またはCD40Lを一過性にアップレギュレートするという知見に基づいている。4-1BB、OX40および/またはCD40Lの発現は、T細胞が活発に細胞傷害性である場合にのみ維持され、TCRシグナリングが止まると、4~5日以内に徐々にダウンレギュレートされる。注目すべきことに、活性化CD8T細胞がより強度の4-1BB発現を示したのに対し、CD4T細胞はOX40および/またはCD40Lを優先的に発現した。活性化T細胞の他には、ADRリガンドは活性化NK細胞と、他のいくつかの重要でない補充可能な細胞サブセットにだけ発現しうる。4-1BB、OX40およびCD40Lのこの発現パターンは、これらの遺伝子を、重要な免疫組織および非免疫組織を永続的に損傷することを回避しつつ活性化細胞を高い特異性で標的とするための魅力的な標的にする。
【0124】
これらの活性化T細胞を標的とすることの実現可能性を探るために、ガンマレトロウイルスベクターSFG中にコードされるCD3ζ鎖にスペーサーを介して直接接続された4-1BB特異的リガンド、OX40特異的リガンドまたはCD40L特異的受容体で構成されるように、自己/同種免疫防御受容体(ADR)を設計した。スペーサー領域は、a)II型タンパク質4-1BBLおよびOX40LをADRのI型バックボーンに組み込むことを可能にするために、そしてb)FACS染色による細胞表面上のADRの検出を容易にするために、組み込んだ。このコンストラクトによるT細胞の形質導入は、細胞表面でのADR発現を効率よく強制した。これらのADR T細胞は、4-1BB、OX40およびCD40L発現細胞に対して強力でロバストな細胞傷害性を有し、標的細胞の90~99%を48時間以内に排除した。これらの結果は、機能的な4-1BB、OX40およびCD40L特異的ADR T細胞を生成させることの実現可能性を実証している。
【0125】
T細胞におけるADRシグナリングは結果として4-1BB、OX40およびCD40Lをアップレギュレートすることで、きょうだい殺しを促進し、エフェクター細胞の増殖を妨げるので、エフェクターT細胞におけるADR標的遺伝子のCRISPR/Cas9ゲノム破壊の効果を探った。本発明者らは、このCRISPR/Cas9アプローチがCD7特異的CARを発現する初代ヒトT細胞のきょうだい殺しを防止できることを、以前に示していた。これに関連して、本発明者らは、CRISPR/Cas9を使って、4-1BB発現をADR T細胞の約70%においてノックアウトすることができ、それらは一貫して、細胞傷害性に影響を及ぼすことなく、4-1BB標的細胞との共培養後48時間の時点で、ADR T細胞増殖を、2倍超増加させた。
【0126】
次に、活性化T細胞を選択的に排除するADR T細胞の能力を試験した。4-1BB、OX40、およびCD40L ADR T細胞を、蛍光標識した休止T細胞またはCD3/CD28活性化T細胞と共培養した。残存生CD4およびCD8T細胞を、細胞計数ビーズを使ってフローサイトメトリーで定量した。4-1BB、OX40またはCD40L特異的ADRを発現するT細胞との72時間の共培養後に、休止自家T細胞に対する反応性はなかった(図2B)。対照的に、4-1BB ADR T細胞とCD3/CD28活性化T細胞との共培養では、大半のCD8T細胞と一部のCD4T細胞とが、48時間以内に排除された。OX40 ADR T細胞とのインキュベーションは、活性化CD4T細胞の相反的に高レベルな枯渇と、活性化CD8T細胞の控えめな枯渇とをもたらした。CD40L ADR T細胞は、活性化CD4T細胞に対して中程度の細胞傷害効果を生じたが、CD8T細胞には効果が見られなかった。活性化されたCD4T細胞およびCD8T細胞に対するOX40、CD40Lおよび4-1BB ADR T細胞の差異的標的化プロファイルは、各T細胞サブセット上のOX40、CD40Lおよび4-1BB発現の強さおよび動態に観察された相違と相関する。ADRのこの特性は、アロ反応性T細胞または自己反応性T細胞のどちらかを必要に応じて優先的に標的とするために利用することができる。それゆえにADR発現は、T細胞が、活性化(病原性)T細胞は特異的に標的とするが、休止細胞は温存することを可能にし、それらの臨床的使用が示唆される。
【0127】
ADRを発現するウイルス特異的T細胞(virus-specific T cell:VST)がインビトロ混合リンパ球反応(mixed lymphocyte reaction:MLR)アッセイにおいて、同種拒絶に抵抗することができるかどうかを評価した。CMV特異的T細胞をHLA-A2陰性ドナーから生成させ、対照非形質導入VSTまたはADR形質導入VSTをアロ反応性HLA-A2PBMCと、1:2の細胞対細胞比で混合した。次に、本発明者らは、それらの細胞を12日間培養した。共培養の終了時に対照VSTはHLA-A2PBMCによってほとんど完全に排除されていたのに対し、4-1BB ADRまたはOX40 ADRのどちらか一方を発現するVSTは拒絶に抵抗した。総合すると、これらの結果は、新たに開発されたADRプラットホーム実施形態を使って活性化T細胞を標的とすることの実現可能性および選択性を実証している。
【0128】
[実施例2 NK細胞の選択的標的化のための自己/同種免疫防御受容体]
ADRは、HLAlow細胞またはHLA不適合細胞の迅速な拒絶を媒介するキー細胞集団であるNK細胞に対して、特異的細胞傷害活性を呈する。
【0129】
NK細胞は、抗腫瘍および抗ウイルス免疫監視機構の一部として、HLA不適合細胞またはHLA発現量が低い細胞を認識することができる。したがって、免疫充足(immunoreplete)患者への同種細胞の養子移入は、NK細胞の活性化と、HLA不適合細胞の拒絶をもたらす。ここでは、4-1BBおよびOX40特異的自己/同種免疫防御受容体(ADR)を発現するT細胞の共培養が、NK細胞の排除につながり、したがってADRを装備した同種T細胞のNK細胞媒介性宿主拒絶を相殺するであろうことを示す。それゆえに、ADRはアロ反応性T細胞応答を阻害するだけでなく、NK細胞媒介性拒絶も抑制し、「既製の」治療用T細胞の存続および活性を強化するためのADRの応用がさらに裏付けられる。
【0130】
[実施例3 ADR発現T細胞は標的細胞を排除する]
ADRは、免疫細胞の細胞表面上に発現されて、それぞれの標的に対する細胞傷害性を増進することができる。図1AにADRの概略の一例を図解する(GFPなどの標識は随意である)。T細胞表面でのADRの発現を確認した(図1B)。細胞は対照と同等に増殖した(図1C)。(図1D)ADR発現T細胞は、対応するADRリガンドを発現する標的細胞に対して細胞傷害性であった(図1D)。図1Eは、4-1BB ADRを発現する野生型T細胞と4-1BB KO T細胞の増殖、および4-1BB+標的に対するそれらの細胞傷害性を、対比して示している。T細胞上のADRリガンドをノックアウトすることによって増殖および細胞傷害性をさらに強化することができ、ADRとそのリガンドがT細胞上に共発現することは、ADR-T細胞の増殖または機能にとって必要でない(図1E)。
【0131】
活性化T細胞でのADRリガンドの選択的発現が、ADR T細胞によるそれらの選択的排除を可能にする。TCR刺激後の休止T細胞と活性化T細胞でのADRリガンドの発現が、対比して決定される(図2A図2C)。休止CD4+T細胞および休止CD8+T細胞に対するADR T細胞の細胞傷害性はなかったが、48時間の共培養後のADR T細胞による活性化CD4+T細胞および活性化CD8+T細胞の排除はあった(図2E)。
【0132】
一例として、4-1BB ADRの発現はMLRモデルにおいてT細胞を免疫拒絶から保護する。1:10のADR T:PBMC比での同種PBMCとの共培養後に、ADRを共発現するTCRKO T細胞が拒絶から保護されることを示す代表的ドットプロット(図3A)。共培養中のドナーT細胞およびPBMCにおける同種T細胞の絶対数(図3B図3C)は、ウイルス特異的ADR T細胞でも同じである(図3D図3F)。
【0133】
ADRの発現は、インビトロでの混合リンパ球反応において、ウイルス特異的同種T細胞を免疫拒絶から保護する。ADR VSTがレシピエント同種PBMCによる免疫拒絶から保護されることを示す代表的ドットプロット(図4A)。MLR中のさまざまな時点におけるレシピエントT細胞およびドナーVSTの絶対数を図4Bおよび図4Cに掲載する。
【0134】
図5において、ADR VSTは抗ウイルス機能を保っている。ADR VSTを、ウイルスペプミックスをパルスした単球と共培養した。ADR VSTは無改変VSTと同等によくウイルス感染細胞を排除することが、単球数によって示された。
【0135】
活性化NK細胞はADRリガンドをアップレギュレートし、ADR T細胞によって選択的に標的化されうる。休止NK細胞と活性化NK細胞では、4-1BBの発現が確認される(図6A図6B)。4-1BB ADR T細胞と24時間共培養した後の休止NK細胞と活性化NK細胞の残存数が対比して決定される(図6C)。図6Dにおいて、MHCを欠くADR T細胞は、NK細胞の増殖を制御することにより、同種PBMCによる免疫拒絶から保護される。図6Eでは共培養中のドナーT細胞および同種NK細胞の絶対数が決定される。1:1のE:T比での48時間の共培養時に、MHCを欠くADR T細胞は、NK細胞による免疫拒絶に抵抗する(図6F)。ADR T細胞は、PBMCとのMLR中に、アロ反応性NK細胞の増殖を制御する(図6G)。図6HにはNK細胞の絶対数がプロットされている。
【0136】
ADR発現はインビボで同種T細胞を免疫拒絶から保護する。図7Aには、HLA-A2+ドナーからのT細胞が亜致死線量照射後にマウスに与えられ、続いて4日後に同種HLA-A2-T細胞が投与された、免疫拒絶のマウスモデルの一例が示されている。HLA-A2-ドナーからの対照T細胞は18日目までに拒絶されたが、ADR発現細胞は保護された(図7B)。さまざまな時点におけるHLA-A2+ドナーおよびHLA-A2-ドナーからのT細胞の絶対数が決定された(図7C)。図7Dに示す改変型インビボモデルでは、同種T細胞の代わりにドナー1からのPBMC全体(T細胞とNK細胞をどちらも含有するもの)をマウスに与えた。図7Eの代表的フロープロットは、ADR T細胞が、免疫拒絶から保護されると共に、致死的GvHDの急激な発生からマウスを保護したことを示している。
【0137】
CARとADRを共発現させても両受容体の機能は維持される。図8AはADRとCARを共発現する免疫細胞の図解の一例である。細胞表面でのCARとADRの共発現が確認された(図8B)。図8Cには、標的の一例として、NALM-6(CD19+CAR標的)に対するCAR-ADR T細胞の細胞傷害性が示されている。図8Dでは活性化T細胞(ADR標的)に対するCAR-ADR T細胞の細胞傷害性も決定された。図8Eでは、両方の細胞標的と同時に共培養した時の両標的に対するCAR-ADR T細胞の細胞傷害活性が実証されている。
【0138】
CAR-ADR T細胞は免疫拒絶から保護され、強力な抗腫瘍活性を発揮する。マウスモデルおよびレジメンの一例を図9Aに図示する。レジメンの一例として、ドナー1からの同種T細胞とb2mKO NALM6を24時間の間をあけてマウスに与え、次にドナー2からのCAR-ADR T細胞を単回投与した。末梢血におけるドナー2からのT細胞の動態を図9Bに示し、実験群におけるドナー1のT細胞の動態を図9Cに掲載する。図9Dはマウスにおける白血病負荷を示しており、マウスの総生存率も決定された(図9E)。
【0139】
図13A図13C。固形腫瘍モデルにおいて、CAR-ADR T細胞は免疫拒絶から保護され、強力な抗腫瘍活性を発揮する。マウスモデルと処置の一例の概略を図10Aに示す。ここでは、ドナー1からの同種T細胞とb2mKO神経芽細胞腫細胞株CHLA255を24時間の間をあけてマウスに与え、次にドナー2からのCAR-ADR T細胞を単回投与した。ドナー2のGD2 CAR T細胞はD18までに拒絶されたが、CAR-ADR T細胞は同種拒絶に抵抗して、末梢血中に存続した(図10B)。マウスにおける腫瘍量を図13Cに示す。ここで、はATC+GD2 CAR T群における異種GvHD関連死を示す。
【0140】
TCRノックアウトCAR-ADR T細胞は免疫拒絶から保護され、強力な抗腫瘍活性を発揮する。ドナー1からの同種T細胞とb2mKO NALM6を24時間の間をあけてマウスに与え、次にドナー2からのTCR編集CAR-ADR T細胞を単回投与したマウスモデルの概略を掲載する(図11A)。末梢血におけるドナー2からのT細胞の動態を掲載する(図11B)。実験群におけるドナー1 T細胞の動態を示す(図11C)。マウスにおける白血病負荷(図11D)およびマウスの総生存率(図11E)を掲載する。
【0141】
ADR T細胞はマウスを致死的異種GvHDから保護する。モデルの概略を図12Aに掲載し、インビボでのFFLuc標識ADR T細胞の増殖を実証する(図12B)。マウスにおける体重の増減の動態を決定した(図12C)。マウスの総生存率を図示する(図12D)。
【0142】
(一例として)CD28細胞内シグナリングドメインを持つ第2世代のADR(「ADR.28zeta」)を利用した。ADR.28zetaの構造の一例を図示する(図13A)。標的発現細胞に対するADR.28zetaのインビトロ細胞傷害性を決定した((図13Bおよび図13C)。ADR.28zetaはマウスを異種GvHDラインから保護した(図13B)。モデルの概略(図13D)を示す。インビボでのFFLuc標識ADR.28ゼータT細胞の増殖を確認した(図13E)。マウスの体重の増減の動態(図13F)およびマウスの総生存率(図13G)を決定した。
【0143】
本開示およびその利点を詳細に説明したが、添付の特許請求の範囲によって規定される設計の要旨および範囲から逸脱することなく、さまざまな変更、置換および改変をここに加えることができることを理解すべきである。さらにまた、本願の範囲は、本明細書に記載したプロセス、機械、製造、組成物、手段、方法および工程の特定実施形態に限定されるものではない。当技術分野における通常の技能を有する者には容易に理解されるであろうとおり、対応する本明細書記載の実施形態と実質的に同じ機能を果たすまたは実質的に同じ結果を達成する既存のまたは今後開発されるプロセス、機械、製造、組成物、手段、方法、または工程は、本開示に従って利用されうる。したがって、添付の特許請求の範囲は、そのようなプロセス、機械、製造、組成物、手段、方法または工程をその範囲内に包含するものとする。
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図3F
図4A
図4B
図4C
図5
図6A
図6B
図6C
図6D
図6E
図6F
図6G
図6H
図7A
図7B
図7C
図7D
図7E
図8A
図8B
図8C
図8D
図8E
図9A
図9B
図9C
図9D
図9E
図10A
図10B
図10C
図11A
図11B
図11C
図11D
図11E
図12A
図12B
図12C
図12D
図13A
図13B
図13C
図13D
図13E
図13F
図13G
図14
【配列表】
0007584127000001.app