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特許7584131金属組織変化検出方法及び金属組織変化検出装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-07
(45)【発行日】2024-11-15
(54)【発明の名称】金属組織変化検出方法及び金属組織変化検出装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/72 20060101AFI20241108BHJP
【FI】
G01N27/72
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021009641
(22)【出願日】2021-01-25
(65)【公開番号】P2021152527
(43)【公開日】2021-09-30
【審査請求日】2023-11-13
(31)【優先権主張番号】P 2020052833
(32)【優先日】2020-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504174135
【氏名又は名称】国立大学法人九州工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100120086
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼津 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100090697
【弁理士】
【氏名又は名称】中前 富士男
(74)【代理人】
【識別番号】100176142
【弁理士】
【氏名又は名称】清井 洋平
(74)【代理人】
【氏名又は名称】来田 義弘
(72)【発明者】
【氏名】増田 高大
(72)【発明者】
【氏名】美藤 正樹
(72)【発明者】
【氏名】堀田 善治
【審査官】小澤 瞬
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-10090(JP,A)
【文献】特開平10-38853(JP,A)
【文献】特開昭59-231445(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0174157(US,A1)
【文献】実開昭64-10656(JP,U)
【文献】米国特許第4947117(US,A)
【文献】特開平1-245149(JP,A)
【文献】特開昭55-141653(JP,A)
【文献】実開平2-91980(JP,U)
【文献】特開2000-131486(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/00 - G01N 27/10
G01N 27/14 - G01N 27/24
G01N 27/72 - G01N 27/9093
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
時間経過に伴って組織変化が発生する金属の金属組織変化検出方法であって、
設定温度に温度調整された金属の電気伝導の時間変化を非接触で測定し、測定された該金属の電気伝導の時間変化を基に、該金属の時間経過に伴う組織内の金属析出物の量、硬度又は引張強度の変化を予測して組織変化を検出することを特徴とする金属組織変化検出方法。
【請求項2】
請求項1記載の金属組織変化検出方法において、前記金属は、時効処理により硬度が高められる時効硬化型の金属であることを特徴とする金属組織変化検出方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の金属組織変化検出方法において、前記測定は60秒以内の時間間隔で連続的に行われることを特徴とする金属組織変化検出方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1記載の金属組織変化検出方法において、交流磁場により前記金属に発生する渦電流の大きさの時系列データから該金属の電気伝導の時間変化を求めることを特徴とする金属組織変化検出方法。
【請求項5】
請求項4記載の金属組織変化検出方法において、前記設定温度に温度調整された炉の内部に前記金属を収容し、前記炉の外部から、前記炉内の空間に交流磁場を発生させ、前記炉の内部又は外部に設置されたコイルで前記渦電流の大きさを測定することを特徴とする金属組織変化検出方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1記載の金属組織変化検出方法において、組織内の金属析出物の量、硬度又は引張強度が既知の基準金属の電気伝導の時間変化を予め設定した1つの基準温度下で非接触で測定して得られる基準データと、前記基準温度と異なる前記設定温度下で取得される前記金属の電気伝導の時間変化の測定データとの比較により、前記設定温度下での前記金属の時間経過に伴う組織内の金属析出物の量、硬度又は引張強度の変化を検出することを特徴とする金属組織変化検出方法。
【請求項7】
時間経過に伴って組織変化が発生する金属の金属組織変化検出装置であって、
設定温度に温度調整された金属の電気伝導の時間変化を非接触で測定し、測定された該金属の電気伝導の時間変化を基に、該金属の時間経過に伴う組織内の金属析出物の量、硬度又は引張強度の変化を予測して組織変化を検出することを特徴とする金属組織変化検出装置。
【請求項8】
請求項記載の金属組織変化検出装置において、前記金属は、時効処理により硬度が高められる時効硬化型の金属であることを特徴とする金属組織変化検出装置。
【請求項9】
請求項又は記載の金属組織変化検出装置において、前記測定は60秒以内の時間間隔で連続的に行われることを特徴とする金属組織変化検出装置。
【請求項10】
請求項のいずれか1記載の金属組織変化検出装置において、交流磁場により前記金属に発生する渦電流の大きさの時系列データから該金属の電気伝導の時間変化を求めることを特徴とする金属組織変化検出装置。
【請求項11】
請求項10記載の金属組織変化検出装置において、前記金属が収容される炉と、該炉の内部を温度調整する温度調整手段と、前記炉の外部に設置され前記炉内の空間に交流磁場を発生させる磁場発生機と、前記炉の内部又は外部に設置され前記渦電流の大きさを測定するコイルとを備えたことを特徴とする金属組織変化検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属の組織変化を検出する金属組織変化検出方法及び金属組織変化検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
代表的な時効硬化型アルミニウム合金として知られるA2024合金(超ジュラルミン)やA7075合金(超々ジュラルミン)は、T3処理やT6処理等で引張強度480MPaを超える高い強度を有していることから自動車用部材や航空機用部材として幅広く利用されている。このような時効硬化型アルミニウム合金は材料強化機構として析出粒子の微細分散による析出強化とCu及びMgによる固溶強化が活用されるが、結晶粒微細化に伴い強度等が大幅に向上することが報告されている。更に、その後の時効処理により一層の強度向上が実現され、析出強化と結晶粒微細化強化の同時強化が可能であることが報告されている。
【0003】
結晶粒をサブミクロンレベルに超微細化できるプロセス法として巨大ひずみ加工法がある。最近開発されたHPS(高圧スライド加工)法は、ECAP(同径溝交差加工)法、HPT(高圧ねじり加工)法、ARB(繰返し重ね接合圧延)法、MDF(多軸鍛造)法とともに代表的な巨大ひずみ加工法である。このHPS法は高圧下で板材や棒材のような実用的形状の試料を加工できる利点があり、これまでに、A2024合金やA7075合金等の時効硬化型アルミニウム合金の他にも、AZ61Mg合金、F1295Ti合金、INCONEL718Ni超合金、P92耐熱Fe合金などの加工に幅広く適用されてきた。
【0004】
以上のことから、対象物に対し溶体化処理、巨大ひずみ加工を施し、続いて時効熱処理を行う加工熱処理プロセスに関して、加工ひずみ量、熱処理温度、熱処理時間等のプロセス条件と強度及び延性の関係を明らかにする計測が求められている。
ここで、時効処理により硬度を高められる時効硬化型の金属(特許文献1参照)は、一般的に、温度に敏感で、室温下に静置していても組織変化が生じる。従って、例えば、硬度試験等により時効硬化型の金属の強度評価を行う場合には、温度が当該金属に与える影響を考慮しなければならず、そのためには、温度条件を変えて、金属の組織が時間の経過によりどのように変化するかを解析することが重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-141880号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、金属の組織変化を確認する方法として、金属の組織変化が反映される析出物の割合、硬度、引張強度などを測定する従来の方法では、測定に時間がかかり、短時間のうちに生じる金属の組織変化を正確に分析(検出)することができなかった。また、硬度や引張強度などを測定する場合には、試料(試験片)を所定の寸法に加工したり、表面を研磨したりする必要があり、試料の破壊を伴う試験を様々な条件で行うためには、複数の試料を作製しなければならず、事前準備にも時間がかかっていた。さらに、表面研磨により表面組織が変化するため、その組織を正確に分析できないという課題もあった。そして、特に、高圧ねじり加工や高圧スライド加工等により多量のひずみを金属に導入し組織の微細化を行うことによって、金属の強度を飛躍的に向上させる場合、多量のひずみが蓄積された金属は、熱エネルギーによる組織変化が極端に速く進行することから、時効挙動の正確な評価(追跡)が困難となっていた。
そこで、このような金属の時間経過に伴う組織変化を正確かつ安定的に検出するために、金属の組織変化が反映されたデータを短時間のうちに数多く取得することができる技術(手法)の確立が求められていた。
【0007】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたもので、金属の組織変化が反映された数多くのデータを短時間のうちに確実かつ効率的に取得することができる金属組織変化検出方法及び金属組織変化検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的に沿う第1の発明に係る金属組織変化検出方法及び第2の発明に係る金属組織変化検出装置は、金属の電気伝導の時間変化を設定温度下で非接触で測定し、測定された該金属の電気伝導の時間変化を基に、該金属の時間経過に伴う組織変化を検出する。
【0009】
第1の発明に係る金属組織変化検出方法及び第2の発明に係る金属組織変化検出装置において、前記金属は、時効処理により硬度が高められる時効硬化型の金属であることが好ましい。
【0010】
第1の発明に係る金属組織変化検出方法及び第2の発明に係る金属組織変化検出装置において、前記測定は60秒以内の時間間隔で連続的に行われることが好ましい。
【0011】
第1の発明に係る金属組織変化検出方法及び第2の発明に係る金属組織変化検出装置において、交流磁場により前記金属に発生する渦電流の大きさの時系列データから該金属の電気伝導の時間変化を求めることができる。
【0012】
第1の発明に係る金属組織変化検出方法において、前記設定温度に温度調整された炉の内部に前記金属を収容し、前記炉の外部から、前記炉内の空間に交流磁場を発生させ、前記炉の内部又は外部に設置されたコイルで前記渦電流の大きさを測定することが好ましい。
【0013】
第1の発明に係る金属組織変化検出方法において、組織が既知の基準金属の電気伝導の時間変化を予め設定した1つの基準温度下で非接触で測定して得られる基準データと、前記基準温度と異なる前記設定温度下で取得される前記金属の電気伝導の時間変化の測定データとの比較により、前記設定温度下での前記金属の時間経過に伴う組織変化を検出することができる。
【0014】
第1の発明に係る金属組織変化検出方法において、前記基準金属の組織内の金属析出物の量、硬度又は引張強度が既知の時に、前記基準データと前記測定データとの比較から予測される前記設定温度下での前記金属の時間経過に伴う組織内の金属析出物の量、硬度又は引張強度の変化に基づいて、前記設定温度下での前記金属の時間経過に伴う組織変化を検出することが好ましい。
【0015】
第2の発明に係る金属組織変化検出装置において、前記金属が収容される炉と、該炉の内部を温度調整する温度調整手段と、前記炉の外部に設置され前記炉内の空間に交流磁場を発生させる磁場発生機と、前記炉の内部又は外部に設置され前記渦電流の大きさを測定するコイルとを備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
第1の発明に係る金属組織変化検出方法及び第2の発明に係る金属組織変化検出装置によれば、金属に対する非接触な測定によって求めた金属の電気伝導の時間変化を基に、金属の時間経過に伴う組織変化を検出することにより、接触式の測定による金属の組織変化の計測やSPring-8による構造解析に比べ、測定時間が極めて短くなり、利用する機器類も簡素化することができ、金属の組織変化が反映されたデータを短時間のうちに数多く取得することを可能にして、金属の電気伝導の推移(時間変化)から金属の時間経過に伴う組織変化を正確かつ安定的に検出することができる。
特に、時効処理により硬度が高められる時効硬化型の金属に対して有用であり、金属の時効処理に伴う組織や強度の変化を時間の関数として連続的に(60秒以内の極めて短い時間間隔で)調査可能になる。
更に、電気伝導の測定では、対象となる金属の試料に対して研磨等の加工が不要で、試料作製時間を極端に抑えることが可能である。即ち、試料が室温にさらされる時間を最小限にとどめることが可能で、設定温度に温度調整された炉の内部に試料(金属)を収容して測定を行う場合には、測定中の組織変化を防ぐことができ、時効に伴う特性変化を正確かつ効率よく評価できる。また、試験片(試料)に対して非接触で測定を実施するため、破壊を伴わず、試験片の体積が微小でも確実に測定を行うことができ、更に、微小領域における特性変化の評価も可能である。
従って、特殊材料を開発する段階での特性評価技術として有用であり、既存の強度評価技術と相補的に利用することで、組織評価や強度評価の簡便化が図られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施の形態に係る金属組織変化検出装置の説明図である。
図2】試料の電気伝導率の相対変化を測定した実験結果を示すグラフである。
図3】試料の組織変化を検出した実験結果を示すグラフである。
図4図2図3の各グラフを重ね合わせたグラフである。
図5】(A)~(C)は試料の厚さが電気伝導度の測定に与える影響を確認した実験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
図1に示すように、本発明の一実施の形態に係る金属組織変化検出装置10は、金属Mの電気伝導の時間変化を設定温度下で非接触で測定し、測定された金属Mの電気伝導の時間変化を基に、金属Mの時間経過に伴う組織変化を検出する装置である。
【0019】
金属Mは、時効処理によって組織変化が生じる合金(時効処理により硬度が高められる時効硬化型の金属)であることが好ましいが、時間経過に伴って組織変化が発生するものであればよく、金属Mとして、例えば、Al-Cu系合金、Cu-Cr系合金、Cu-Be系合金を採用できる。
時効処理を施された金属Mには、時間の経過と共に組織変化(固溶量、析出量、格子欠陥量等の変化)が生じ、それに伴って機械的強度特性の変化が発生する。
【0020】
ここで、金属Mの電気伝導とは、金属Mにおける電気の流れ易さ若しくは流れ難さを示す物理量であり、例えば、電気伝導率や電気抵抗値等である。
金属組織変化検出装置10は、図1に示すように、金属Mが収容される炉11と、炉11の内部を温度調整する温度調整手段12と、炉11の外部に設置され炉11内の空間に交流磁場を発生させる磁場発生機13と、炉11の外部に設置され渦電流の大きさを測定する磁気検出用のコイル14を有している。そして、コイル14には情報処理機15が接続されている。
本実施の形態では、コイル14を炉12の外部に設置したが、コイル14の材料及び炉11の内部の設定温度の範囲によっては、コイル14を炉11の内部に設置することもできる。なお、コイル14を炉11の内部に設置する場合でも、コイル12は金属Mに対して非接触である。
【0021】
温度調整手段13は、炉11の内部を設定温度に温度調整できるものであればよい。例えば、炉11の周壁を二重構造とし、その内壁と外壁との間に、所定の温度に加熱又は冷却した流体を流し、炉11と温度調整手段13との間で流体を循環させることにより、安定した温度調整を行うことができる。また、炉11の周壁の外周を断熱層で覆うことにより、炉11の内部の温度変動を抑えることができ、温度調整を効率的に行うことができる。
温度調整手段13で設定温度に温度調整された炉11の内部に金属Mを収容し、金属Mが収容された空間に磁場発生機13で交流磁場を発生させると、電磁誘導によって金属Mには周期的に向きが変化する渦電流が生じる。周期的に向きが変化する渦電流により、コイル14を貫く磁束が周期的に変化し、コイル14に流れる電流が周期的に変化する。情報処理機15は、コイル14に生じている周期的な電流変化を電気信号(本実施の形態では、交流電圧信号)として取得し、取得した電気信号から、磁気発生機13が発生させている交流磁場の周波数と同じ周波数の電気信号を検出し、検出した電気信号の振幅を基に、金属Mに生じている渦電流の大きさを導出する。
【0022】
金属Mに生じる渦電流の大きさが金属Mの電気伝導率に比例(電気抵抗値に反比例)することを利用して、情報処理機15は、金属Mに生じている渦電流の大きさを基に、金属Mの電気伝導率を求める。即ち、金属組織変化検出装置10は、交流磁場により金属Mに発生する渦電流の大きさの時系列データから金属Mの電気伝導の時間変化を求めることができる。
【0023】
ここで、金属Mの電気伝導の推移は金属Mの時間経過に伴う組織変化と密に関係し、例えば、金属Mの電気伝導率は金属Mの析出量の割合の増加に伴って増加することが確認されている。従って、金属組織変化検出装置10を用いて、所定の時間間隔(例えば60秒以内)で連続的に金属Mの電気伝導を求めれば、その金属Mの電気伝導の推移(時間変化)を基に、金属Mの時間経過に伴う組織変化を検出することができ、間接的に金属Mの材料特性を評価することができる。
【0024】
このように、金属組織変化検出装置10は、金属Mの時間経過に伴う組織変化の検出を、金属Mに対して非接触な測定によって求めた金属Mの電気伝導を基になすことから、接触式の測定方法で金属Mの物理量を測定し電気伝導を求める場合(例えば、4探針法測定により金属Mの電位差を測定し電気抵抗値や電気伝導率を求める場合)に比べて、測定中に金属Mに行える処理(例えば、アニール処理)に制限が少なく、金属の組織変化が反映された電気伝導のデータを短時間のうちに数多く取得することができる。
【0025】
また、金属組織変化検出装置10によってなされる本発明の一実施の形態に係る金属組織変化検出方法は、金属Mの電気伝導の時間変化を設定温度下で非接触で測定し、測定された金属Mの電気伝導を基に、金属Mの時間経過に伴う組織変化を検出するものであり、本実施の形態では、交流磁場により金属Mに発生する渦電流の大きさの時系列データから金属Mの電気伝導の時間変化を求めている。
例えば、金属組織変化検出装置10を用いた金属組織変化検出方法により、組織が既知の基準金属の電気伝導の時間変化を予め設定した1つの基準温度下で非接触で測定して得られる基準データを保存しておき、同様に、基準温度と異なる設定温度下で金属Mの電気伝導の時間変化の測定データを取得して、予め保存された基準データと、新たに取得した金属Mの測定データを比較することにより、設定温度下での金属Mの時間経過に伴う組織変化を検出することができる。ここで、基準金属の組織内の金属析出物の量、硬度又は引張強度が既知であれば、基準データと測定データとの比較から予測される設定温度下での金属Mの時間経過に伴う組織内の金属析出物の量、硬度又は引張強度の変化に基づいて、設定温度下での金属Mの時間経過に伴う組織変化を検出することができる。
【実施例
【0026】
次に、本発明の作用効果を確認するために行った実験について説明する。
(実施例1)
まず、Al-4%Cuの試料(以下、単に「試料」と言う)に対し、以下に示す条件で高圧ねじり加工を行った。
圧力:6GPaの圧力
回転数:5回
回転速度:1rpm
【0027】
高圧ねじり加工を行った試料を、金属組織変化検出装置10を用いて、353Kの設定温度下で交流磁場内に配置し、試料に発生する渦電流の大きさを60秒以内の時間間隔で連続的に測定した。そして、測定した過電流の大きさの時系列データから試料の電気伝導(ここでは、電気伝導率)の時間変化を求めた。なお、本実施の形態では、磁気検出用のコイル14に超伝導量子干渉素子を用いたが、磁気検出用のコイルは、これに限定されるものではなく、試料に発生する渦電流の大きさを測定(検出)できるものであればよい。
測定結果を図2に示す。図2において、縦軸のσ/σのσは測定開始時点での試料の電気伝導率で、σはその後の測定時間間隔毎の試料の電気伝導率であり、横軸は時間軸である。電気伝導率は、超伝導量子干渉素子と結合した電気回路に流れる電流の変化を反映した交流電圧信号を連続的に得た一定時間(60秒以内)分の信号群を基に算出されることから、電気伝導率(σ)は、60秒以内の時間間隔(時間分解能)で連続的に求められている。従って、図2において、測定開始から約30分以降に線(太線)で示されているように見えるσ/σは連続値ではなく、多数の独立したσ/σの値(時系列データ)の集合である。また、図2の細線はσ/σの時系列データの近似曲線を示している。
【0028】
次に、上記と同様に高圧ねじり加工を行った試料を353Kの温度下において、SPring-8によって間欠的に(約3分ごとに)X線回折を行い、試料のX線回折プロファイルを得、当該X線回折プロファイルを基に試料の母相であるアルミニウムの全回折強度の積分値IAl及び析出物(AlCu(θ))の全回折強度の積分値Iθを導出した。Iθ/(IAl+Iθ)の時間の経過による変化を図3に示す。
【0029】
σ/σ及びIθ/(IAl+Iθ)を1つにまとめると、図4に示すようになり、σ/σがIθ/(IAl+Iθ)に対応する(金属の電気伝導率が、その金属の析出量の割合の増加に伴って増加する)ことが確認できる。従って、金属の電気伝導の時間経過に伴う変化から、金属の時間経過に伴う組織変化を検出できることが分かる。
【0030】
(実施例2)
銅で直径3mm、厚さ0.35mmの試料を作成し、金属組織変化検出装置10を用いて、設定温度5~300Kの範囲で、電気伝導率の時間変化を求めた。
【0031】
(実施例3)
試料の厚さを3.05mmとした以外は実施例2と同様にして、各設定温度で、電気伝導率の時間変化を求めた。
【0032】
(実施例4)
試料の厚さを10.07mmとした以外は実施例2と同様にして、各設定温度で、電気伝導率の時間変化を求めた。
【0033】
実施例2~4の測定結果を図5(A)~(C)に示す。なお、図5(A)~(C)の横軸のTは設定温度であり、縦軸のσは各設定温度での試料の電気伝導率の最大値である。
図5(A)~(C)を比較すると、試料の厚さに関わらず、各設定温度での試料の電気伝導率の最大値は同程度となっている。
従って、電気伝導率の高い金属であれば、直径3mm、厚さ0.35mmという極めて小さなサイズの試料であっても、設定温度5~300Kの広い範囲で正確に電気伝導率を求めることができ、それを基に、対象金属の時間経過に伴う組織変化を検出することが可能であるということが確認された。
【0034】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明は、上記した形態に限定されるものでなく、要旨を逸脱しない条件の変更等は全て本発明の適用範囲である。
例えば、金属の電気伝導を交流磁場により当該金属に発生させた渦電流の大きさから求める必要はない。例えば、(1)トルク測定、(2)ローレンツ力、誘電力、原子間力等の力測定、(3)電磁波反射測定、又は、(4)共鳴測定によって金属の電気伝導を求めてもよい。
また、金属の熱伝導率と電気伝導率の比が温度に比例するウィーデマン・フランツ則を用いることにより、本発明の金属組織変化検出方法及び金属組織変化検出装置で測定した電気伝導率のデータから熱伝導率の情報(データ)を取得し、熱電材料の物性評価に利用することも可能である。
【符号の説明】
【0035】
10:金属組織変化検出装置、11:炉、12:温度調整手段、13:磁場発生機、14:コイル、15:情報処理機、M:金属
図1
図2
図3
図4
図5