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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-07
(45)【発行日】2024-11-15
(54)【発明の名称】可視光応答型光触媒とその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 35/39 20240101AFI20241108BHJP
   B01J 27/18 20060101ALI20241108BHJP
【FI】
B01J35/39
B01J27/18 M
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021041576
(22)【出願日】2021-03-15
(65)【公開番号】P2022141332
(43)【公開日】2022-09-29
【審査請求日】2023-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】597065329
【氏名又は名称】学校法人 龍谷大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】山本 伸一
【審査官】山崎 直也
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第102698780(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第102247874(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第102600870(CN,A)
【文献】特開2009-078211(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104607217(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第103466584(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
C01B 25/00-25/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
AgClとPを混合する工程、および、
混合物を固相反応させる工程
を有する、AgClを含む可視光応答型光触媒AgPOの製造方法。
【請求項2】
AgClとPのモル比が2:1~10:1である請求項1に記載の可視光応答型光触媒AgPOの製造方法。
【請求項3】
AgClとP を混合する工程、および、
混合物を固相反応させる工程
を有する、可視光応答型光触媒Ag PO の製造方法であって、
固相反応の温度が500℃以上である可視光応答型光触媒AgPOの製造方法。
【請求項4】
固相反応の温度までの昇温速度が13~40℃/分である請求項1~3のいずれか1項に記載の可視光応答型光触媒AgPOの製造方法。
【請求項5】
固相反応の温度までの昇温速度が16~27℃/分である請求項4に記載の可視光応答型光触媒AgPOの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視光応答型光触媒とその製造方法に関し、詳細にはAgPOで表されるリン酸銀を含む光触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
光触媒は、光エネルギーを吸収して電子(e)と正孔(h)のペアを形成するが、この正孔(h)が触媒の表面にある水分を強い酸化力を持つヒドロキシラジカルに変えることで、このヒドロキシラジカルが汚染物資や汚れ、細菌などの有機物を分解し、その機能を発揮する。その効果は、吸収する光エネルギーの大きさに比例し、光触媒のバンドギャップエネルギーと関係する。吸収できる光エネルギーは、バンドギャップエネルギーEgが低いほど大きく、吸収可能な上限の波長λと下記式の関係にある。
Eg=プランク定数×光速度/λ=1240/λ
【0003】
光触媒として広く活用されている酸化チタンTiOでは、バンドギャップエネルギーは3.2eVで、波長388nm以下の紫外光を利用できるが、太陽光全エネルギーのわずか3%弱しか活用できない。特許文献1には、バンドギャップエネルギーがさらに低い単斜晶系バナジン酸ビスマスBiVOの効率的な製造方法が開示されており、バンドギャップエネルギーは2.4eVで、波長517nm以下の可視光と紫外光のエネルギーを利用できるが、太陽光全エネルギーの19%弱しか活用できない。一方、特許文献2~3にはリン酸銀AgPOが開示されており、単斜晶系バナジン酸ビスマスよりバンドギャップエネルギーが2.2eVと低く、波長554nm以下の可視光と紫外光のエネルギーを利用でき、太陽光全エネルギーの24%を活用できる。
【0004】
特許文献2~3に開示の方法では、材料として、毒物及び劇物取締法により劇物に指定されているAgNOや、強い酸性を示し、人体に重篤な影響を与えるHPOなどが使われている。また、溶媒を使用する製法では、溶媒という材料コストに加え、廃液処理の問題が生じる。さらに、材料を混ぜ焼成して合成する固相反応法も可能とされているが、AgPOを効率的に製造する条件が示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2020-111476号公報
【文献】特開平10-33990号公報
【文献】特開2009-78211号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、劇薬や保管取扱が難しい薬品を用いることなく、可視光における光触媒効果が高いリン酸銀AgPOを安全かつ効率的に作製する製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、リン酸銀AgPOの原料について、種々検討したところ、原料としてAgClとPを使用して固相反応を行えば、安全かつ効率的にAgPOを作製することができることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、AgClとPを混合する工程、および、混合物を固相反応させる工程を含む可視光応答型光触媒AgPOの製造方法に関する。
【0009】
AgClとPのモル比が2:1~10:1であることが好ましい。
【0010】
固相反応の温度が500℃以上であることが好ましい。
【0011】
固相反応の温度までの昇温速度は、13~40℃/分が好ましい。
【0012】
固相反応の温度までの昇温速度は、16~27℃/分が好ましい。
【0013】
また、本発明は、AgPOで表されるリン酸銀と、AgClを含む可視光応答型光触媒に関する。
【0014】
AgPOが表面に存在することが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の可視光応答型光触媒の製造方法によれば、原料としてAgClとPを使用するため、劇薬や保管取扱が難しい薬品を用いることなく、可視光における光触媒効果が高いリン酸銀AgPOを安全かつ効率的に作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施例1~9で作製した可視光応答型光触媒のXRDチャートである。
図2】実施例1~9で作製した可視光応答型光触媒で処理したメチレンブルー溶液の波長に対して透過率をプロットした図である。
図3】1100℃で3時間固相反応(実施例9)して作製したAgPO、または、バナジン酸ビスマス(比較例)で処理したメチレンブルー溶液の波長に対して透過率をプロットした図である。
図4】実施例6で作製した可視光応答型光触媒の断面のSEM写真である。明るい領域がAgCl、暗い領域がAgPOの存在する領域を示す。
図5図4の断面のエネルギー分散型X線分光法により得られた図である。明るい部分がAgの存在する領域を示す。
図6図4の断面のエネルギー分散型X線分光法により得られた図である。明るい部分がClの存在する領域を示す。濃い色の領域はAgClの存在を示す。
図7図4の断面のエネルギー分散型X線分光法により得られた図である。明るい部分がPの存在する領域を示す。濃い色の領域はAgPOの存在を示す。
図8図4の断面のエネルギー分散型X線分光法により得られた図である。明るい部分がOの存在する領域を示す。濃い色の領域はAgPOの存在を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の可視光応答型光触媒AgPOの製造方法は、AgClとPを混合する工程、および、混合物を固相反応させる工程を含むことを特徴とする。該固相反応は、理論的には以下の化学式によって表される。
12AgCl+2P+3O(Air)→4AgPO+6Cl(↑)
【0018】
AgClとPを混合する方法は特に限定されず、乳鉢、粉砕機、ビーズミルなどが挙げられる。AgClとPの混合モル比は、2:1~10:1が好ましく、5:1~7:1が好ましい。AgClの量が2:1より少ないと、2種類の材料が混合しないことがあり、10:1を超えると、特にAgClが単体で多く存在し、光触媒効果が低下する傾向がある。
【0019】
混合物の固相反応の温度は、500℃以上が好ましく、800℃以上がより好ましい。500℃未満では、融点以下となり、それぞれの材料が良好に混合できなくなる傾向がある。上限は限定されないが、1100℃以下が好ましい。
【0020】
混合物の固相反応の時間は、温度にもよるが、0.5~8.0時間が好ましく、1~3時間がより好ましい。0.3時間未満では、十分に2種類の材料が混合しなくなり、20時間を超えると、徐々にではあるが揮発していく傾向がある。
【0021】
固相反応の温度までの昇温速度は特に限定されないが、13~40℃/分が好ましく、16~27℃/分がより好ましい。AgClの融点は455℃、沸点は1547℃であり、Pの融点は340℃、沸点は360℃であるため、沸点の低いPは揮発しやすい。昇温速度が速すぎると、AgClとPを反応させる固相反応の温度に到達するための時間が短く、Pの揮発が生じ、AgPOの収率が低下する傾向にある。
【0022】
また、本発明の可視光応答型光触媒は、AgPOで表されるリン酸銀と、AgClを含むことを特徴とする。AgPOは、試料の表面に一部は存在する(大気と接触している)ことが望ましい。
【0023】
AgClの含有量は、特に限定されないが、10~90質量%が好ましく、30~80質量%がより好ましい。10質量%未満では、AgClのAgの供給量が少なることから、AgPOの生産量が少なくなる。一方、90質量%を超えると、AgCl過多(P僅少)となり満足のいく光触媒材料を生産できない傾向がある。
【0024】
本発明の可視光応答型光触媒は、可視光を利用して被浄化系に適用でき、特に被浄化水系に存在する内分泌攪乱物質であるノニルフェノール、ビスフェノールA、天然エストロゲン等を光分解に好適に適用できる。
【実施例
【0025】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されない。
【0026】
実施例1
AgClとPを、6:1のモル比で、室温下、乳鉢により混合した。得られた混合物を、固相反応の焼成温度300℃で3時間行い、粉末状の可視光応答型光触媒を得た。
【0027】
実施例2~9
実施例1において、焼成温度を400℃(実施例2)、500℃(実施例3)、600℃(実施例4)、700℃(実施例5)、800℃(実施例6)、900℃(実施例7)、1000℃(実施例8)、1100℃(実施例9)に変更したこと以外、実施例1と同様に行って、各実施例の粉末状の可視光応答型光触媒を得た。
【0028】
比較例
酸化ビスマス(Bi)とメタバナジン酸アンモニウム(NHVO)を1:3のモル比で秤量した。るつぼに入れ、700℃で3時間、焼成し、バナジン酸ビスマスを作製した。
【0029】
<X線回折>
実施例で作製した可視光応答型光触媒を用い、XRD測定装置(株式会社リガク製RINT2500V)でX線回折を測定した。図1に、X線回折チャートを示す。33.02°、54.7°、57.56°、85.54°近傍に回折ピークが存在することから、AgPOが形成されていることがわかる。また、AgClに由来する回折ピークが多数存在することから、実施例で作製した光触媒には、AgClが存在することがわかる。実施例6で作製した可視光応答型光触媒中のAgClの含有量は、約50質量%であった。
【0030】
<光触媒効果>
実施例で作製した可視光応答型光触媒と、メチレンブルー3000μL(0.1mM)を有する水溶液をプラスチック容器に入れ、撹拌しながら太陽光シミュレーター装置(XES-301S+EL-100、株式会社三永電機製作所製)を用いて可視光(波長100~1400nm)を60分間照射した。照射後、溶液を、回転速度:13000rpm、稼働時間:30分で遠心分離した。得られた溶液300μLを石英セルに入れ、分光光度計(大塚電子株式会社製)を用い透過率を測定した。図2に、波長にして透過率をプロットした図を示す。メチレンブルーの吸収が消失していることから、光触媒作用を奏することがわかる。600℃以上の温度で固相反応を行った触媒では、光触媒効果が高いことがわかる。
【0031】
焼成温度500℃以下での固相反応法により作製したAgPOでは、光触媒効果が低くなった。その理由は、AgClの融点は450℃であり、AgClが450℃を越えると液体状になることでPと反応し、AgPOが生成するので、焼成温度が500℃より低いと、AgClが液体状にならずに十分に反応せず、AgPOが効率的に作製できないことが考えられる。一方、Pの融点、沸点は340℃、360℃であるため、340℃~500℃の範囲で焼成を長時間(例えば4時間程度)行うことでも、非常によく混合させるための効果がある。
【0032】
図3に、1100℃で3時間固相反応(実施例9)して作製したAgPO、または、バナジン酸ビスマスで処理したメチレンブルー溶液の波長に対して透過率をプロットした図を示す。バンドギャップエネルギーの低いAgPOは、バナジン酸ビスマスより高い光触媒効果を示すことが確認できた。
【0033】
図4に、実施例6で作製した可視光応答型光触媒の断面のSEM写真を示す。明るい領域がAgCl、暗い領域がAgPOの存在する領域を示す。図5~8に、実施例6で作製した可視光応答型光触媒のエネルギー分散型X線分光法により得られた図を示す。図5の明るい部分は(図中のほぼすべて)Agが存在することを示す、図6のより明るい部分はClの存在量が多いことを示しており、沸点(昇華点)が1547℃である、高い沸点を持つAgClが残存していることを示す。図7のより明るい部分はPの存在量が多く、図8の明るい部分はOの存在量が多いことを示しており、両者がほぼ重なることから、Ag3PO4が多量に存在していることを示す。AgPOは、少なくとも試料の表面に存在していることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明によれば、可視光応答性AgPO微粉末光触媒を安全かつ効率的に作製することができる。得られた光触媒により、可視光を利用して被浄化系、特に被浄化水系に存在する内分泌攪乱物質であるノニルフェノール、ビスフェノールA、天然エストロゲン等を光分解できるという、現在の社会で非常に問題とされている環境汚染物質を浄化する手段として貢献することが可能となる。
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