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特許7584161N-置換ピリジルベンズイソセラゾロン化合物の使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-07
(45)【発行日】2024-11-15
(54)【発明の名称】N-置換ピリジルベンズイソセラゾロン化合物の使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/41 20060101AFI20241108BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20241108BHJP
【FI】
A61K31/41
A61P31/14
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2022551023
(86)(22)【出願日】2021-02-23
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-03
(86)【国際出願番号】 CN2021077481
(87)【国際公開番号】W WO2021169957
(87)【国際公開日】2021-09-02
【審査請求日】2023-03-22
(31)【優先権主張番号】PCT/CN2020/076375
(32)【優先日】2020-02-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】518222745
【氏名又は名称】上海科技大学
【氏名又は名称原語表記】SHANGHAI TECH UNIVERSITY
【住所又は居所原語表記】No.393 Middle Huaxia Road, Pudong New Area, Shanghai, China
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】▲楊▼▲海▼涛
(72)【発明者】
【氏名】▲ジン▼振明
(72)【発明者】
【氏名】▲楊▼秀娜
(72)【発明者】
【氏名】▲趙▼耀
(72)【発明者】
【氏名】▲饒▼子和
【審査官】三上 晶子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第1572295(CN,A)
【文献】国際公開第2019/133712(WO,A1)
【文献】H. WOJTOWICZ et al.,“Azaanalogues of ebselen as antimicrobial and antiviral agents: synthesis and properties”,Il Farmaco,2004年11月,Vol. 59, No. 11,p.863-868,DOI: 10.1016/j.farmac.2004.07.003
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/33-33/44
A61P 1/00-43/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コロナウイルスによって引き起こされる疾患の治療及び/又は予防のための医薬の製造におけるN-置換ピリジルベンズイソセラゾロン化合物の使用であって、
前記N-置換ピリジルベンズイソセラゾロン化合物は、下記の式で表され
【化1】
ここで、前記コロナウイルスは、SARS-CoV-2、SARS-CoV、MERS-CoV、HCoV-HKU1、HCoV-OC43、PDCoV又はFIPVから選択される、使用。
【請求項2】
前記疾患は、哺乳動物又は鳥類の疾患であり、
及び/又は、前記医薬の剤形は、経口剤形であり、
及び/又は、前記医薬は、風邪薬又は獣医薬である、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記哺乳動物は、ヒト、ブタ及びネコを含む、請求項2に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本出願は出願日が2020年02月24であるPCT出願PCT/CN2020/076375の優先権を主張する。本出願は上記のPCT出願の全文を引用する。
[技術分野]
本発明は、生物医学の技術分野に属し、具体的にはN-置換ピリジルベンズイソセラゾロン化合物の使用に関する。
【0002】
[背景技術]
コロナウイルスは、人間及び動物に密接に関連するウイルスである。コロナウイルスHCoV-229E及びHCoV-OC43は、一般的な風邪を引き起こす可能性がある(van der Hoek, L., Pyrc, K., Jebbink, M. et al. Identification of a new human coronavirus. Nat Med 2004,10, 368-373)。SARSコロナウイルスによる重症急性呼吸器症候群(SARS)は、2002年~2003年にかけて世界で8098人の感染及び774人の死亡を引き起こし、致死率は10%に達した(Stadler, K., Masignani, V., Eickmann, M. et al. SARS - beginning to understand a new virus. Nat Rev Microbiol 2003, 1, 209-218)。2004年に同定されたHCo-VNL63も風邪に似たような呼吸器疾患を引き起こす可能性がある(van der Hoek, L., Pyrc, K., Jebbink, M. et al. Identification of a new human coronavirus. Nat Med 2004,10, 368-373)。2012年には、中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)が出現し、2016年4月26日までに27カ国で1,728人の感染を引き起こし、そのうち624人は死亡した(de Wit, E., van Doremalen, N., Falzarano, D. et al. SARS and MERS: recent insights into emerging coronaviruses. Nat Rev Microbiol 2016,14, 523-534.)。最近流行しているSARS-CoV-2ウイルスは、COVID-19を引き起こし、臨床徴候は発熱、乾いた咳、呼吸困難として現れ、重症の場合は死亡する可能性がある(Jeannette Guarner, MD, Three Emerging Coronaviruses in Two Decades: The Story of SARS, MERS, and Now COVID-19, American Journal of Clinical Pathology,, aqaa029)。コロナウイルスは、畜産業に大きな影響を与える。豚流行性下痢ウイルス(PEDV)、胃腸炎ウイルス(TGEV)及び豚デルタコロナウイルス(Porcine delta coronavirus、PDCoV、デルタコロナウイルスとも呼ぶ)は、豚に深刻な腸炎、下痢、嘔吐及び脱水を引き起こす可能性があり、養豚業界に大きな損失をもたらす可能性がある(Akimkin V, Beer M, Blome S, et al. New Chimeric Porcine Coronavirus in Swine Feces, Germany, 2012. Emerg Infect Dis. 2016,22(7):1314-1315)。猫感染性腹膜炎ウイルス(FIPV)は猫に致命的な疾患を引き起こす可能性がある。鳥伝染性気管支炎ウイルス(IBV)は、家禽を感染させ、広範囲に分布している家禽疾患で、家禽産業に大きな経済的影響を及ぼす。
【0003】
コロナウイルスは、系統的分類において、ニドウイルス目(Nidovirales)コロナウイルス科(Coronaviridae)のオルトコロナウイルス亜科(Orthocoronavirinae)に属し、SARS-CoV-2コロナウイルスのゲノム配列がすでに公開されており、その配列はSARS-Covのヌクレオチドと約90%の配列類似性を有し、タンパク質配列は、SARS-CoVと約80%の配列類似性を有する。コロナウイルスのゲノムは、長さが約28kbの一本鎖の正鎖RNAであり、主にウイルスのパッケージングに必要な構造タンパク質及び複製転写に関連する非構造タンパク質をコードする。コロナウイルス関連疾患の治療に使用される医薬及びワクチンの開発は、主に上記2種類のタンパク質を対象とする。ウイルスゲノムの遺伝子の3分の2は、主に非構造タンパク質をコードする。ウイルスは、ウイルス複製過程に関与する2つのポリメラーゼタンパク質である、pp1aとpp1abをコードする。pp1aとpp1abは、ウイルスによってコードされた2つのプロテアーゼ、即ちパパイン及びメインプロテアーゼ(main protease)によって16個の非構造タンパク質nsp1-16に切断し、これらの機能的サブユニットがウイルスによってコードされたプロテアーゼによって独立したタンパク質単位に切断される場合にのみ、ウイルスは正常な転写、複製機能を完了し、更に複製転写複合体に組み立てられ、ウイルスの複製及び転写を完了することができる。ここで、パパインは3つの酵素切断部位を有し、メインプロテアーゼはpp1a及びpp1abに11個の酵素切断部位を有する。従って、メインプロテアーゼがウイルスの転写、複製の過程で重要な調節の役割を果たしていることが分かり、研究の焦点となった(Ziebuhr, J.; Snijder, E. J.; Gorbalenya, A. E. Virus-encoded proteinases and proteolytic processing in the Nidovirales. J Gen Virol 2000, 81, 853-79.;Ziebuhr, J. Molecular biology of severe acute respiratory syndrome coronavirus. Curr Opin Microbiol 2004, 7, 412-9.)。コロナウイルスの増幅・複製におけるメインプロテアーゼの重要性により、医薬の開発におけるメインプロテアーゼの触媒部位に対して強い特異性及び高い安全性を有する阻害剤を探すことが特に重要である。
【0004】
エプセレンはN-置換ピリジルベンズイソセラゾロン化合物に属し、有機セレン化合物であり、そのグルタチオンペルオキシダーゼと類似した特殊機能により、グルタチオンペルオキシダーゼ調節剤又は模倣化合物として使用でき、優れた抗酸化機能を有する。エプセレンは重要な細胞内成分を酸化的損傷から保護する多機能化合物であり、エプセレンはジンクフィンガータンパク質、リポキシゲナーゼ、一酸化窒素シンターゼ、NADPHオキシダーゼ、H+-K+-ATPase、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(horseradish peroxidase)、グルタミン酸デヒドロゲナーゼ及び乳酸脱水素酵素を含む様々な生物学的プロセスに関与する多くの酵素を阻害できることが発見された(Azad, G.K. & Tomar, R.SEbselen, a promising antioxidant drug: mechanisms of actionand targets of biological pathways. Mol Biol Rep 2014,41,4865)。エブセレンの分子式は下記の通りである。
【0005】
【化1】
【0006】
エプセレンは、細胞内の様々な生物学的反応過程に影響を与えることができ、これは活性酸素及びフリーラジカルのスキャベンジャーとして作用し、抗酸化ストレス機能を発揮し、細胞の死滅を阻害し、ゲノムの安定性を維持するだけではなく、免疫系に影響を与え、宿主の免疫系を調節し、様々な刺激に反応して抗炎症効果を示すことができる(Azad, G.K. & Tomar, R.SEbselen, a promising antioxidant drug: mechanisms of actionand targets of biological pathways. Mol Biol Rep 2014,41,4865)。
【0007】
エプセレンは、様々な炎症モデルにおいて優れた抗炎症活性を示し、且つ非ステロイド系抗炎症剤の胃腸刺激効果がない。臨床では、メニエール病及び内リンパ浮腫、関節リウマチ、変形性関節症などを治療するために使用することができる(Azad, G.K. & Tomar, R.SEbselen, a promising antioxidant drug: mechanisms of actionand targets of biological pathways. Mol Biol Rep 2014,41,4865.;Jonathan Kil, Edward Lobarinas, Christopher Spankovich,et.al. Safety and efficacy of ebselen for the prevention of noise-induced hearing loss: a randomised, double-blind, placebo-controlled, phase 2 trial. The Lancet 2017,390, 969-979.;J. Kier. Treatment of Meniere’s Disease; Chinese Patent:CN109475518A, 2019-03-15.)。エプセレンの多量経口投与は急性毒性を引き起こす可能性があり、ラットの致死経口投与量は、>4600mg/kgであり、マウスの致死経口投与量は、>2150mg/kgである。2019年のメニエール病の治療に関する特許において、Sound Pharmaceuticals Incは、メニエール病治療のためのエプセレンのII相臨床試験を行った結果、エプセレンは、優れた安全性及び耐薬性を示し、明らかな毒性副作用は観察されていなく、少数では軽度の頭痛症状を示したが、投与を中止した後すぐに回復したことが示された(Jeannette Guarner, MD, Three Emerging Coronaviruses in Two Decades: The Story of SARS, MERS, and Now COVID-19, American Journal of Clinical Pathology, , aqaa029;Akimkin V, Beer M, Blome S, et al. New Chimeric Porcine Coronavirus in Swine Feces, Germany, 2012. Emerg Infect Dis. 2016,22(7):1314-1315.)。臨床試験で、エプセレンが高い安全性を有していることが確認された。
【0008】
先行技術(CN1615883A)では、エプセレンがHBVウイルスを阻害し、HBVウイルス関連疾患を治療することが記載されているが、当該特許には、エプセレンは主に免疫調節の役割を果たし、メインプロテアーゼの役割とは無関係であり、ウイルス複製又はウイルスタンパク質合成とは無関係で、且つエプセレンを他の医薬と併用して使用していることが開示された。これまでに、エプセレンがコロナウイルスによって引き起こされる関連疾患の治療に使用できることは発見されていない。
【0009】
[発明の概要]
本発明によって解決されるべき技術的問題は、コロナウイルスによって引き起こされる疾患の効果的な治療及び/又は予防効果を有する医薬のない従来技術の欠点を解決するために、N-置換ピリジルベンズイソセラゾロン化合物の使用を提供し、具体的には、コロナウイルスによる疾患を治療するための医薬の製造における使用を提供する。
【0010】
本発明は、主に以下の技術的解決手段を通じて上記の技術的問題を解決する。
本発明の第1の方面では、コロナウイルスによって引き起こされる疾患を治療及び/又は予防するための医薬の製造におけるN-置換ピリジルベンズイソセラゾロン化合物の使用を提供し、前記N-置換ピリジルベンズイソセラゾロン化合物の一般式Iは、下記の式で表される通りであり、
【0011】
【化2】
【0012】
式中、Rは、水素、ハロゲン、C~Cの直鎖又は分枝鎖アルキル又はアルコキシから選択され、Rの置換位置は、3-、4-、5-又は6-位置であり、
は、水素、ハロゲン、C~Cの直鎖又は分枝鎖アルキル又はアルコキシから選択され、Rの置換位置は、2-位置ピリジン環上の任意の炭素原子であり、
Xは、窒素原子を表し、その置換位置は、2-、3-又は4-位置である。
【0013】
前記N-置換ピリジルベンズイソセラゾロン化合物は、好ましくは、下記の一般式(Ia)で表される化合物、
【0014】
【化3】
【0015】
ここで、R及びRは、上記で定義された通りであり、
一般式(Ib)で表される化合物、
【0016】
【化4】
【0017】
及びRは、上記で定義された通りであり、及び一般式(Ic)で表される化合物を含み、
【0018】
【化5】
【0019】
ここで、R及びRは、上記で定義された通りである。
前記N-置換ピリジルベンズイソセラゾロン化合物は、より好ましくは、下記の式で表されるエブセレンである。
【0020】
【化6】
【0021】
好ましくは、前記疾患は、哺乳動物又は鳥類の疾患である。
好ましくは、前記哺乳動物は、ヒト、ブタ及びネコを含む。
本発明に記載のコロナウイルスにおいて、当技術分野で公知のように定義され、系統的分類において、ニドウイルス目(Nidovirales)コロナウイルス科(Coronaviridae)のオルトコロナウイルス亜科(Orthocoronavirinae)に属する。コロナウイルスは、エンベロープ(envelope)と一本鎖の正鎖を有するRNAウイルスであり、自然界に広く存在するウイルスである。
【0022】
本発明の目的は、コロナウイルス感染によって引き起こされる疾患の潜在的な治療方法を提供することである。本発明に記載のコロナウイルスは、好ましくは、オルソコロナウイルス亜科(Orthocoronavirinae)に属し;より好ましくは、Alphaコロナウイルス、Betaコロナウイルス、Gammaコロナウイルス又はDeltaコロナウイルスに属す。
【0023】
本発明の好ましい実施形態において、前記エプセレンのようなN-置換ピリジルベンズイソセラゾロン化合物は、SARS-CoV-2(Betaコロナウイルス属)によって引き起こされる疾患の治療に使用できるだけではなく、SARS-CoV(Betaコロナウイルス属)及びMERS-CoVなどによって引き起こされる深刻な感染性疾患の治療にも使用することができ、一般的な風邪薬として、HCoV-HKU1(Human coronavirus HKU1;Betaコロナウイルス属)、HCoV-NL63(Human coronavirus NL63;Alphaコロナウイルス属)、HCoV-OC43(Human coronavirus OC43)及びHCoV-229E(Human coronavirus 22E;Alphaコロナウイルス属)などのコロナウイルスによって引き起こされる疾患の治療に使用でき、更に、獣医薬品として、豚伝染性胃腸炎ウイルス(Transmissible gastroenteritis virus、TGEV;Alphaコロナウイルス属)、豚流行性下痢ウイルス(Porcine epidemic diarrhea virus、PEDV;Alphaコロナウイルス属)、豚デルタコロナウイルス(Porcine delta coronavirus、PDCoV;Deltaコロナウイルス属)、猫伝染性腹膜炎ウイルス(Feline infectious peritonitis virus、FIPV;Alphaコロナウイルス属)、鳥伝染性気管支炎ウイルス(Infectious bronchitis virus、IBV;Gammaコロナウイルス属)などの動物疾患を治療できる。
【0024】
従って、本発明のコロナウイルスは、好ましくはSARS-CoV-2、SARS-CoV、MERS-CoV、HCoV-HKU1、HCoV-NL63、HCoV-OC43、HCoV-229E、TGEV、PEDV、PDCoV、FIPV又はIBVから選択される。
【0025】
いかなる医薬であれ、臨床に使用される前に、いずれも医療及び予防用途に適した形態に製造する必要があり、この形態を医薬の剤型、略して薬剤と呼ぶ。医薬を様々な剤型に製造することにより、患者の使用及び収容が容易になり、医薬の投与量が正確になるだけではなく、同時に医薬の安定性が高まり、時には毒性副作用を減らすことができ、更に医薬の保管、輸送及び運搬にも便利である。医薬の剤型には数十種類があり、経口剤形、注射剤形などの通常に使用される剤型にも20、30種類がある。
【0026】
本発明において、前記医薬の剤形は、好ましくは、経口剤形である。
本発明の第2の方面では、N-置換ピリジルベンズイソセラゾロン化合物又はそれを含む医薬組成物を使用して、コロナウイルスによって引き起こされる疾患を治療する方法を提供し、前記N-置換ピリジルベンズイソセラゾロン化合物の一般式Iは、下記の式で表される通りであり、
【0027】
【化7】
【0028】
式中、Rは、水素、ハロゲン、C~Cの直鎖又は分枝鎖アルキル又はアルコキシから選択され、Rの置換位置は、3-、4-、5-又は6-位置であり、
は、水素、ハロゲン、C~Cの直鎖又は分枝鎖アルキル又はアルコキシから選択され、Rの置換位置は、2-位置ピリジン環上の任意の炭素原子であり、
Xは、窒素原子を表し、その置換位置は、2-、3-又は4-位置である。
【0029】
前記N-置換ピリジルベンズイソセラゾロン化合物は、好ましくは、下記の一般式(Ia)で表される化合物、
【0030】
【化8】
【0031】
ここで、R及びRは、上記で定義された通りであり、
一般式(Ib)で表される化合物、
【0032】
【化9】
【0033】
及びRは、上記で定義された通りであり、及び一般式(Ic)で表される化合物を含み、
【0034】
【化10】
【0035】
ここで、R及びRは、上記で定義された通りである。
前記N-置換ピリジルベンズイソセラゾロン化合物は、より好ましくは、下記の式で表されるエブセレンであり、
【0036】
【化11】
【0037】
ここで、前記医薬組成物の剤形は、好ましくは、経口剤形である。
本発明の第3の方面では、コロナウイルスによる疾病に罹患した動物に、N-置換ピリジルベンズイソセラゾロン化合物又はそれを含む医薬組成物を投与することによって、コロナウイルスによって引き起こされる疾患を治療する方法を提供し、前記N-置換ピリジルベンズイソセラゾロン化合物の一般式Iは、下記の式で表される通りであり、
【0038】
【化12】
【0039】
式中、Rは、水素、ハロゲン、C~Cの直鎖又は分枝鎖アルキル又はアルコキシから選択され、Rの置換位置は、3-、4-、5-又は6-位置であり、
は、水素、ハロゲン、C~Cの直鎖又は分枝鎖アルキル又はアルコキシから選択され、Rの置換位置は、2-位置ピリジン環上の任意の炭素原子であり、
Xは、窒素原子を表し、その置換位置は、2-、3-又は4-位置である。
【0040】
前記N-置換ピリジルベンズイソセラゾロン化合物は、好ましくは、下記一般式(Ia)で表される化合物、
【0041】
【化13】
【0042】
ここで、R及びRは、上記で定義された通りであり、
一般式(Ib)で表される化合物、
【0043】
【化14】
【0044】
及びRは、上記で定義された通りであり、及び一般式(Ic)で表される化合物を含み、
【0045】
【化15】
【0046】
ここで、R及びRは、上記で定義された通りである。
前記N-置換ピリジルベンズイソセラゾロン化合物は、より好ましくは、下記の式で表されるエブセレンである。
【0047】
【化16】
【0048】
前記動物は、好ましくは、哺乳動物及び鳥類など、コロナウイルスによって引き起こされる疾患に罹患することができる動物である。本発明において、前記哺乳動物は、好ましくは、ヒト、ブタ及びネコを含む。
【0049】
本発明の第2の方面及び本発明の第3の方面に記載のコロナウイルス、前記N-置換ピリジルベンズイソセラゾロン化合物、前記疾患においての具体的な限定は、前記第1の方面におけるコロナウイルス、N-置換ピリジルベンズイソセラゾロン化合物、疾患に対する限定と同じである。
【0050】
本発明は、体外酵素活性実験及び体外細胞ウイルス実験により、コロナウイルスによって引き起こされる関連疾患の治療にエブセレンを使用できることを発見した。
本発明の積極的な進歩効果は:
本発明は、体外酵素活性実験及び体外細胞ウイルス実験により、エブセレンなどのN-置換ピリジルベンズイソセラゾロン化合物は、コロナウイルスによって引き起こされる関連疾患の治療に使用できることを発見した。現在、市販されているヒトコロナウイルスに対する特定の医薬はなく、エプセレン治療法は既存の技術の欠点を補うことができ、毒性副作用が低く、経口投与が容易である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
図1】エプセレンが新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のメインプロテアーゼに対して強力な阻害活性を有することを示す。
図2】エプセレンが新型コロナウイルスのメインプロテアーゼ活性ポケットを標的とする阻害剤であることを示す分子ドッキングである。
図3】エプセレンが新型コロナウイルス感染による細胞変性変化を予防できることを示す(a:エプセレンの添加、b:新型コロナウイルス感染細胞、c:MOCK対照、0.1%DMSOの添加)。
図4】細胞レベルでの抗ウイルス試験を示す。
図5】異なる種のコロナウイルスのメインプロテアーゼの構造オーバーレイを示し、図において、その基質/阻害剤(緑色)結合ポケットは非常に保守的(SARS-CoV-2、SARS-CoV、MERS-CoV、HCoV-HKU1、BtCoV-HKU4、MHV-A59、PEDV、FIPV、TGEV、HCoV-NL63、HCoV-229E及びIBVを含む12種のコロナウイルスの構造を比較した)であることを示した。
【発明を実施するための形態】
【0052】
実施例1
体外酵素活性実験により、エプセレンのIC50値は、0.48μMで、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のメインプロテアーゼ活性を有意に阻害できることを発見した(図1)。分子ドッキングに示されたように、エプセレンは、新型コロナウイルスのメインプロテアーゼ活性ポケットを標的とする阻害剤である(図2)。
【0053】
体外細胞ウイルス実験により、エプセレンは新型コロナウイルス感染による細胞変性を予防することができ(図3)、エプセレンは細胞内SARS-CoV-2複製能力を有意に阻害することができること発見した(図4)。同時に、臨床試験では、エプセレンは高い安全性を有するため、コロナウイルスによって引き起こされる疾患の治療に使用できることが確認された。
【0054】
以上の体外酵素活性実験及び体外細胞ウイルス実験の詳細な実験方法については、Wang, M. et al. Remdesivir and chloroquine effectively inhibit the recently emerged novel coronavirus (2019-nCoV) in vitro. Cell Research, doi:10.1038/s41422-020-0282-0 (2020)を参照することができる。
【0055】
コロナウイルスのメインプロテアーゼの基質結合ポケットは非常に保守的(図5)であるため、その結合ポケットを標的とする阻害剤(エプセレンなど)は広範囲の抗コロナウイルス効果を有する。従って、本発明のエプセレンは、SARS-CoV-2によって引き起こされる疾患の治療だけではなく、SARS-CoV及びMERS-CoVなどの他のコロナウイルスによって引き起こされる主要な感染性疾患の治療にも使用することができ、一般的な風邪薬として、HCoV-HKU1、HCoV-NL63、HCoV-OC43及びHCoV-229Eなどのコロナウイルスによって引き起こされる疾患を治療するために使用でき、更に、獣医薬品として、豚伝染性胃腸炎ウイルス(TGEV)、豚流行性下痢ウイルス(PEDV)、豚デルタコロナウイルス(Porcine delta coronavirus、PDCoV)、猫伝染性腹膜炎ウイルス(FIPV)、鳥伝染性気管支炎ウイルス(IBV)などの動物疾患を治療できる。
【0056】
以上、本発明の具体的な実施形態を記述したが、当業者にとって、これらは例示の説明だけで、本発明の原理と実質に反しないという前提下、これらの実施形態に対して様々な変更や修正をすることができる。そのため、本発明の保護範囲は添付の請求の範囲によって限定される。
図1
図2
図3
図4
図5