IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 高雄醫學大學の特許一覧

特許7584163グリシンN-メチルトランスフェラーゼ増強剤、その調製方法及び使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-07
(45)【発行日】2024-11-15
(54)【発明の名称】グリシンN-メチルトランスフェラーゼ増強剤、その調製方法及び使用
(51)【国際特許分類】
   C07D 213/82 20060101AFI20241108BHJP
   C07D 401/12 20060101ALI20241108BHJP
   A61K 31/444 20060101ALI20241108BHJP
   A61K 31/497 20060101ALI20241108BHJP
   A61K 31/501 20060101ALI20241108BHJP
   A61K 31/506 20060101ALI20241108BHJP
   A61K 31/53 20060101ALI20241108BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20241108BHJP
   A61P 1/18 20060101ALI20241108BHJP
   A61P 13/08 20060101ALI20241108BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20241108BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20241108BHJP
   A61K 31/4402 20060101ALI20241108BHJP
【FI】
C07D213/82 CSP
C07D401/12
A61K31/444
A61K31/497
A61K31/501
A61K31/506
A61K31/53
A61P1/16
A61P1/18
A61P13/08
A61P35/00
A61P43/00 105
A61K31/4402
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022580223
(86)(22)【出願日】2020-12-25
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-14
(86)【国際出願番号】 CN2020139547
(87)【国際公開番号】W WO2022134043
(87)【国際公開日】2022-06-30
【審査請求日】2023-05-26
(73)【特許権者】
【識別番号】505302362
【氏名又は名称】高雄醫學大學
【氏名又は名称原語表記】KAOHSIUNG MEDICAL UNIVERSITY
【住所又は居所原語表記】No.100, Shih-chuan 1st Road, Sanmin Dist. Kaohsiung City, Taiwan
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【弁理士】
【氏名又は名称】葛和 清司
(72)【発明者】
【氏名】チェン,イ-ミン
(72)【発明者】
【氏名】ツェン,チェン-チ
(72)【発明者】
【氏名】チェン,イェ-ロン
(72)【発明者】
【氏名】ツェン,チ-フア
(72)【発明者】
【氏名】イェン,チア-フン
(72)【発明者】
【氏名】カン,ラジニ
(72)【発明者】
【氏名】ヤン,ミン-フイ
【審査官】三木 寛
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/017589(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第103880707(CN,A)
【文献】Journal of Drug Targeting,2019年,Vol.27(3),p.300-305
【文献】Journal of Molecular Structure,2017年,Vol.1135,p.82-97
【文献】Bulletin of the Chemical Society of Ethiopia,2016年,Vol.30(1),p.101-110
【文献】Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America,2017年,Vol.114(5),p.1033-1038
【文献】Journal of Chemical Crystallography,2012年,Vol.42(7),p.668-672
【文献】Chemical & Pharmaceutical Bulletin,1999年,Vol.47(7),p.944-949
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
A61K
A61P
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)の構造を有するニコチノヒドラジド誘導体、その立体異性体又は薬理学的に許容される塩であって、
【化1】
X、YとZのそれぞれがNとCHのいずれかであり、X、YとZの少なくとも一つがCHであり、X、YとZの少なくとも一つがNであり、RがN あることを特徴とする、前記ニコチノヒドラジド誘導体、その立体異性体又は薬理学的に許容される塩。
【請求項2】
ニコチノヒドラジド誘導体を調製する方法であって、
2-アミノニコチン酸エチルをヒドラジン水和物と反応させて2-カルボヒドラジドを形成するステップと、
前記2-カルボヒドラジドと2-アセチルピリジンとの縮合反応を行い、以下の構造を有するN’-(1-(ピリジン-2-イル)エチリデン)-2-カルボヒドラジドを形成するステップと、を含むことを特徴とする、前記方法。
【化2】
【請求項3】
請求項1に記載のニコチノヒドラジド誘導体、その立体異性体又は薬理学的に許容される塩の有効量を含むことを特徴とする、医薬組成物。
【請求項4】
式(I)の構造を有するニコチノヒドラジド誘導体、その立体異性体又は薬理学的に許容される塩の、癌疾患の治療薬の調製における使用であって、
【化3】
XがNとCHのいずれかであり、YとZのそれぞれがCHであり、RがN あることを特徴とする、前記使用。
【請求項5】
前記癌疾患が、肝臓癌、前立腺癌及び膵臓癌からなる群から選択されることを特徴とする、請求項に記載の使用。
【請求項6】
前記肝臓癌は肝細胞癌であることを特徴とする、請求項に記載の使用。
【請求項7】
ニコチノヒドラジド誘導体、その立体異性体又は薬理学的に許容される塩は、グリシンN-メチルトランスフェラーゼ(GNMT)を高める作用を有することを特徴とする、請求項に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌細胞を阻害するための医薬組成物、特に、グリシンN-メチルトランスフェラーゼ(GNMT)の発現を増強することにより癌細胞を阻害するための医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
肝細胞癌(HCC)は、発生率が増加している世界的な健康負担である。
肝臓癌は、世界で五番目に多い癌であり、癌による死亡原因の三番目に多いがんである。診断が遅れ、治療の選択肢が少なく、再発率が高いため、HCCの発生率は依然として死亡率とほぼ同じである。HCCの治療選択肢は多くない。現在、食品医薬品局(FDA)によって承認されているHCC治療薬は、ソラフェニブとレゴレフェニブである。これらの薬は一部の人にしか効果がないが、副作用があり、患者はすぐに薬剤耐性を発症する。従って、HCCに対して満たされていない高いニーズがある。HCCに対する新薬の開発は非常に遅く、多くの化合物は臨床試験で失敗した。患者の生存率を改善し、病気のコントロールに役立てるための予防薬、新しい治療法、又は薬物の組み合わせ戦略の開発が緊急に必要とされている。
【0003】
GNMTは、HCC用の腫瘍抑制遺伝子(TSG)である。GNMTには、正常な哺乳類の肝臓の細胞質タンパク質の1~3%が含まれているが、HCC患者の75%以上ではGNMTが下方制御されている。GNMTは、一炭素代謝経路における主要な酵素の一つである。S-アデノシルメチオニンとS-アデノシルホモシスチンの比率を調節することで遺伝的安定性に影響を与え、肝細胞の主要な葉酸結合タンパク質として機能する。更に、以前の研究では、GNMTが副業タンパク質(Moonlighting proteins)の一例であることが示唆された。GNMTは、そのリン酸化状態に基づいて、代謝酵素としての機能から4S多環芳香族炭化水素(PAH)結合タンパク質に機能を切り替えることができ、サブユニットの構成が変化する。GNMTの細胞局在を細胞質から核に変えることにより、GNMTは転写補助因子として作用し、解毒(及び/又は他の標的)遺伝子の発現を調節することができる。
【0004】
以前に、GNMT-/-マウスモデルにおいて、オスとメスの両方のGNMT-/-マウスが4~11週齢で慢性肝炎を発症することが発見された。これらのGNMT-/-マウスを生後24ヶ月まで追跡した結果、メスのGNMT-/-マウスのすべてとオスのGNMT-/-マウスの半数がHCCを発症したことが示された。対照的に、GNMTの再発現は癌細胞の細胞増殖を阻害する。最も重要なことは、GNMTを過剰発現するトランスジェニックマウスは、アフラトキシン(AFB1)による発癌と肝臓癌の進行を防いだことである。さらに重要なことに、GNMTはHuh7細胞の増殖を抑制し、インビトロとインビボの両方でラパマイシン治療に対して感作することが実証された。最近、GNMTの過剰発現がHuh7細胞をラパマイシンだけでなく、インビトロとインビボの両方でソラフェニブ治療に対しても感作することがさらに実証された。したがって、GNMT欠乏症と肝臓障害との間の強い関連性、及び肝発癌に対するGNMTの保護的役割を考慮すると、GNMT発現を増強できる小分子化合物の正確な同定は、HCCの治療に重要な意味を持つ。
【0005】
予備的結果は、小分子K78がHuh7細胞において2.5μMのIC50値を有し、HCC治療の有力なリードであることを示した。医薬品化学チームの協力により、K78に関する包括的な構造活性相関(SAR)研究が行われた。本発明では、Kシリーズ化合物(K78誘導体)を合成して、GNMTプロモーターレポーター活性を誘導するK78及びその誘導体の能力を同定する。
【0006】
出願人は、従来技術の欠点を考慮して克服するために本発明を開発した。以下、本発明の概要を説明する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、癌細胞におけるGNMT発現の増加を介して癌を治療するための新規GNMT増強剤を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
したがって、本発明は、ニコチノヒドラジド誘導体、その立体異性体又は薬理学的に許容される塩を提供し、前記ニコチノヒドラジド誘導体は、式(I)の構造を有し、
【化1】
X、YとZのそれぞれがNとCHのいずれかであり、X、YとZの少なくとも一つがCHであり、X、YとZの少なくとも一つがNであり、RがOHとNHのいずれかである。
【0009】
式(I)を有する化合物の好ましい実施形態を合成するために、本発明は、ニコチノヒドラジド誘導体を調製する方法を提供し、前記方法は、ニコチン酸エチルをヒドラジン水和物と反応させてカルボヒドラジドを形成するステップと、前記カルボヒドラジドとアセチルピリジンとの縮合反応を行い、以下の構造を有するN’-(1-(ピリジン-2-イル)エチリデン)-2-カルボヒドラジド(K117)を形成するステップと、を含む。
【化2】
【0010】
本発明は、有効量のニコチノヒドラジド誘導体、その立体異性体又はその薬学的に許容される塩を含む医薬組成物をさらに提供し、ニコチノヒドラジド誘導体は式(I)の構造を有する。
【0011】
さらなる態様において、本発明は、癌疾患の治療における薬物を調製するための、上記のニコチノヒドラジド誘導体、その立体異性体又はその薬学的に許容される塩の使用を提供する。ニコチノヒドラジド誘導体は、式(I)の構造を有し、式(I)は、
【化3】
で表され、
ここで、XがNとCHのいずれかであり、YとZのそれぞれがCHであり、RがOHとNHのいずれかである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明のニコチノヒドラジド誘導体の好ましい実施形態を合成するフローチャートである。
図2A】K78の構造を示す。
図2B】GNMTの発現に対するK78の効果を示す。
図2C】GNMTの発現に対するK78の効果を示す。
図2D】GNMTの発現に対するK78の効果を示す。
図3A】インビトロとインビボでの肝臓癌細胞の増殖の阻害に対するK78の効果を示す。
図3B】インビトロとインビボでの肝臓癌細胞の増殖の阻害に対するK78の効果を示す。
図3C】インビトロとインビボでの肝臓癌細胞の増殖の阻害に対するK78の効果を示す。
図3D】インビトロとインビボでの肝臓癌細胞の増殖の阻害に対するK78の効果を示す。
図4A】K102の構造を示す。
図4B】GNMTの発現に対する化合物K117とK102の効果を示す。
図4C】GNMTの発現に対する化合物K117とK102の効果を示す。
図4D】GNMTの発現に対する化合物K117とK102の効果を示す。
図5A】インビトロとインビボでの肝臓癌細胞の増殖の阻害に対するK117の効果を示す。
図5B】インビトロとインビボでの肝臓癌細胞の増殖の阻害に対するK117の効果を示す。
図5C】インビトロとインビボでの肝臓癌細胞の増殖の阻害に対するK117の効果を示す。
図5D】インビトロとインビボでの肝臓癌細胞の増殖の阻害に対するK117の効果を示す。
図5E】インビトロとインビボでの肝臓癌細胞の増殖の阻害に対するK117の効果を示す。
図5F】インビトロとインビボでの肝臓癌細胞の増殖の阻害に対するK117の効果を示す。
図6A】K90の構造を示す。
図6B】Myc発現に対するGNMT誘導化合物の効果を示す。
図6C】Myc発現に対するGNMT誘導化合物の効果を示す。
図6D】Myc発現に対するGNMT誘導化合物の効果を示す。
図6E】Myc発現に対するGNMT誘導化合物の効果を示す。
図6F】Myc発現に対するGNMT誘導化合物の効果を示す。
図6G】Myc発現に対するGNMT誘導化合物の効果を示す。
図6H】Myc発現に対するGNMT誘導化合物の効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一態様によれば、ニコチノヒドラジド誘導体、その立体異性体又は薬学的に許容される塩が提供される。一つの好ましい実施形態において、ニコチノヒドラジド誘導体は、式(I)の構造を有し、
【化4】
ここで、X、YとZのそれぞれがNとCHのいずれかであり、X、YとZの少なくとも一つがCHであり、X、YとZの少なくとも一つがNであり、RがOHとNHのいずれかである。
【0014】
本明細書で使用される「ニコチノヒドラジド誘導体」という用語は、ニコチノヒドラジド誘導体、それらの立体異性体又はそれらの薬学的に許容される塩を指す。
【0015】
本発明の別の態様において、ニコチノヒドラジド誘導体、それらの立体異性体又はそれらの薬学的に許容される塩を含む薬学的組成物が提供される。ニコチノヒドラジド誘導体、それらの立体異性体又はそれらの薬学的に許容される塩の定義は、上記の通りである。好ましくは、医薬組成物は、薬学的に許容される担体及び賦形剤のうちの少なくとも一つを更に含む。
【0016】
本発明のさらなる態様において、ニコチノヒドラジド誘導体の好ましい実施形態を調製するための方法が提供される。前記方法は、ニコチン酸エチルをヒドラジン水和物と反応させてカルボヒドラジドを形成するステップと、前記カルボヒドラジドとアセチルピリジンとの縮合反応を行い、以下の構造を有するN’-(1-(ピリジン-2-イル)エチリデン)-2-カルボヒドラジド(K117)を形成するステップと、を含む。
【化5】
【0017】
本発明によれば、前記ニコチン酸エチルが2-アミノニコチン酸エチルであり、前記カルボヒドラジドが2-カルボヒドラジドであり、前記アセチルピリジンが2-アセチルピリジンである。
【0018】
さらなる態様において、本発明は、有効量のニコチノヒドラジド誘導体、その立体異性体又はその薬学的に許容される塩を含む薬学的組成物を提供する。ニコチノヒドラジド誘導体は、上記の式(I)の構造を有する。好ましくは、医薬組成物は、薬学的に許容される担体及び賦形剤のうちの少なくとも一つを更に含む。
【0019】
さらなる態様において、本発明は、癌疾患の治療における薬物を調製するための、上記のニコチノヒドラジド誘導体、その立体異性体及び薬学的に許容される塩の使用を提供する。前記ニコチノヒドラジド誘導体は、式(I)の構造を有し、
【化6】
ここで、XがNとCHのいずれかであり、YとZのそれぞれがCHであり、RがOHとNHのいずれかである。
【0020】
本明細書で使用される場合、「癌」という用語は、制御されていない又は無秩序な細胞増殖、細胞分化の減少、周囲の組織に侵入する不適切な能力、及び/又は異所性部位での新しい成長を確立する能力によって特徴付けられる細胞障害を指す。「癌」という用語には、固形腫瘍及び血液由来の腫瘍が含まれるが、これらに限定されない。「癌」という用語には、皮膚、組織、臓器、骨、軟骨、血液及び血管の疾患が含まれる。「癌」という用語は、原発性及び転移性の癌を更に含む。本発明における癌の非限定的な例には、肝臓癌、前立腺癌及び膵臓癌が含まれる。好ましくは、肝臓癌は肝細胞癌である。
【0021】
本発明の医薬組成物は、癌細胞におけるGNMT発現の増強を介して癌を治療するために使用される。
【実施例
【0022】
1、ニコチノヒドラジド誘導体の合成
本発明のニコチノヒドラジド誘導体の好ましい実施形態(K117)を合成するフローチャートを示す図1を参照されたい。2-アミノニコチン酸エチルをヒドラジン水和物と反応させて、2-カルボヒドラジドを得た。図1に示すように、2-カルボヒドラジドは2-アセチルピリジンと縮合反応し、N’-(1-(ピリジン-2-イル)エチリデン)-2-カルボヒドラジド(K117)を得た。
【0023】
別の態様において、異なるニコチン酸エチルを使用して、他のK系列化合物を合成する。2-ヒドロキシニコチン酸エチル、3-アミノイソニコチン酸エチル、3-アミノピラジン-2-カルボン酸エチルをそれぞれヒドラジン水和物と反応させ、それぞれの2-カルボヒドラジドを得た。次に、それぞれの2-カルボヒドラジドをそれぞれ2-アセチルピリジンと縮合反応して、式(I)の構造を有する他の化合物を得た。これらの化合物の構造は次のように表される。
【化7】
K118 X=N、Y=Z=CH、R=OH
K120 X=N、X=Z=CH、R=NH
K121 X=Z=N、Y=CH、R=NH
【0024】
2、細胞培養と試薬
ヒト肝臓癌細胞株(Huh7とHepG2)、ヒト膵臓癌細胞株(PANC1)及び前立腺癌細胞株(PC3)を、10%のウシ胎児血清(FBS)(HyClone、米国ユタ州ローガン)、L-グルタミン(2mM)、ストレプトマイシン(100μg/mL)、ペニシリン(100U/mL)及び非必須アミノ酸(0.1mM)を添加したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)で培養された。ヒト膵臓癌細胞株BxPC3は、DMEMと同じ添加物を含むRoswell Park Memorial Institute(RPMI)1640の培地で培養された。すべての細胞株は、加湿したCO2インキュベーター内で37°Cに維持された。レンチウイルスシステムによって確立されたH7GPL安定細胞は、1μg/mLのピューロマイシンを添加したDMEMで増殖させた。ソラフェニブはSigma-Aldrich (米国ミズーリ州セントルイス) から購入した。
【0025】
3、GNMT誘導能力分析
-1812/+14 GNMTプロモーター-ルシフェラーゼレポーター細胞株H7GPLが構築された。一次分析では、96ウェルプレートに播種したH7GPL細胞を10μMの個々の薬物で24時間処理した後、ルシフェラーゼアッセイシステム(Promega、マディソン、ウィスコンシン州、米国)を使用してルシフェラーゼ活性アッセイのために溶解した。次に、用量の異なる化合物を用いて二次分析を行った。alamarBlueR試薬(AbD Serotec、オックスフォード、イギリス)を使用して、同じ確認されたヒットを細胞毒性に使用した。細胞毒性は、製造元の推奨に従って測定された。ホットデータは、さらなる研究に使用された。
【0026】
4、細胞生存率とコロニー形成分析
Huh7、HepG2、PANC1、PC3及びBxPC3細胞を96ウェルプレートに24時間播種し、さまざまな濃度の薬物に曝露した。AlamarBlue(登録商標)を細胞に添加し、更に4時間インキュベートして、試験薬の細胞毒性効果を評価した。同量の試験物質を含むブランクウェル(細胞なし)をバックグラウンド減算に使用し、生存細胞の相対数を相対溶媒対照の平均のパーセンテージとして表した。AlamarBlue(登録商標)分析(AbD Serotec、オックスフォード、英国)を使用して、製造元の指示に従って細胞生存率を評価した。
【0027】
5、イムノブロッティング
プロテアーゼ阻害剤カクテル(Roche Molecular Biochemicals)及びホスファターゼ阻害剤(10mM NaVO、1mM NaF、5mM NaPPi)を含むRIPAバッファーを使用して、細胞又は異種移植腫瘍を溶解物調製のために採取した。タンパク質濃度は、Bio-Rad タンパク質分析(Bio-Rad)によって定量化され、前の説明(Yen et al., 2012)に従って免疫ブロッティングが実行された。抗MYC(D84C12、Cell Signaling Technology)、抗GNMT(YMAC-Bioteck)及び抗β-アクチン(AC-15、Sigma-Aldrich)抗体は、製造元の説明書の説明に従って使用された。
【0028】
6、定量的リアルタイムPCR(qRT-PCR)
製造元のプロトコルに従って、Trizol試薬(Life Technologies)を使用してRNAを分離した。SuperScript II RNase H-逆転写酵素キット (Life Technologies)を使用して、細胞RNAを相補的DNAに逆転写した。Applied Biosystems Step-One-plusリアルタイムPCRシステム(Applied Biosystems、Foster City、CA、USA)でSuper Script II 逆転写酵素キット(Invitrogen Inc.、Carlsbad、CA、USA)を使用してPCR反応を実施した。TATA-box結合タンパク質(TBP)のmRNAレベルを内部対照として使用した。qRT-PCRに使用したプライマーペアは次のとおりである。
TBP正方向:配列番号1、
逆方向:配列番号:2、
MYC正方向:配列番号3、
逆方向:配列番号4、
p21 正方向: 配列番号:5、
逆方向:配列番号:6、
p27 正方向: 配列番号:7、
逆方向:配列番号8、
GNMT正方向: 配列番号:9、及び
逆方向:配列番号:10。
【0029】
7、プラスミドとトランスフェクション
国立RNAiコア施設(中央研究院、台北、台湾)からレンチウイルス産生用プラスミド(pCMV-ΔR8.91及びpMD.G)、MYC用shRNA(MYC-レンチウイルスshRNA、配列番号11)及びRNA干渉用対照プラスミド(pLKO.1-shLacZ)を得た。過剰発現実験用のベクターコントロールプラスミドとpcDNA-MYCプラスミドは、劉詩平(Shih-Ping Liu)博士(中国医科大学、台中、台湾)から提供された。ウミシイタケルシフェラーゼコントロールレポーターベクター(Promega、マディソン、ウィスコンシン州、米国)は、トランスフェクション効率を標準化するために使用された。メーカーの推奨に従って、TurboFect Reagent(Fermentas、ハノーバー、MD)及びLipofectamine 3000(Life Technologies、Mulgrave、オーストラリア)を使用して、プラスミドDNAをトランスフェクトした。メーカーの推奨に従って、TurboFect(商標)試剤とリポフェクタミン3000を使用して、プラスミドDNAをトランスフェクトした。
【0030】
8、異種移植分析
すべての動物実験は、高雄医科大学の施設内動物管理使用委員会によって審査及び承認され、関連するガイドラインに従って実施された。5~6週齢の雄NOD-SCIDマウスの右側腹部に、Huh7細胞 (1x 10) を皮下注射した。触知可能な腫瘍が検出されたら、マウスを無作為にグループ分けし、300mpk、100mpk、又は25mpkのLKY4606D又はKYT5397及び薬物ビヒクルを28日間毎日経口投与して治療した。K117については、10mpk及び25mpkの用量が使用された。ソラフェニブの場合、25mpkの用量が使用された。ノギスを使用して腫瘍の長さ(L)と幅(W)を測定することにより、腫瘍の成長を監視した (毎日又は週に3回)。腫瘍体積(TV)は、式:体積=(L×W)/2を使用して計算した。すべての薬物は、0.5%カルボキシメチルセルロースナトリウム塩に溶解した。
【0031】
9、統計分析
MS excelとGraph Pad Prism 5.0ソフトウェアを使用して、統計分析を行った。さまざまなグループを比較するために、スチューデントの両側t検定によってP値が決定され、P<0.05で統計的に有意であると見なされた。
【0032】
結果
1、GNMTインデューサーの同定
予備研究では、構造が図2Aに示されているナフトヒドラジド誘導体、K78がHCC治療の強力なリードであることが示された。図2Bに示すように、K78はルシフェラーゼ活性の用量依存的な誘導を示し、レポーター遺伝子発現のインデューサーの有力な候補として選択された。K78が内因性GNMT発現を増強するかどうかを確認するために、Huh7細胞のGNMT mRNA及びタンパク質レベルを調べた。図2Cと2Dでは、K78は、Huh7細胞においてmRNAレベル(図2C)及びタンパク質レベル(図2D)で内因性GNMT発現を上方制御した。
【0033】
2、インビトロとインビボでのK78の抗HCC効果
HCCに対するK78の治療可能性を決定するために、Huh7細胞の増殖に対するK78の阻害効果を最初に評価した。K78は、72時間の処理後にHuh7細胞の増殖を用量依存的に抑制した(図3A)。続いて、K78に24、48、72及び96時間暴露した後、Huh7細胞の増殖は時間依存的に有意に阻害された(図3B)。次に、本発明では、Huh7細胞を用いて異種モデルに関する研究を行った。担癌ヌードマウスは、溶媒K78 25mpk、K78 100mpk及びK78 300mpkで経口的に治療された。ソラフェニブは、HCCのFDA承認薬であるため、比較対照として選択された。すべてのグループで体重に対する毒性の証拠はない(図3C)。図3Dに示すように、K78は溶媒対照群と比較して、このモデルの腫瘍増殖を阻害した。ただし、ソラフェニブには最も大きな違いがある。まとめると、これらの結果は、インビトロとインビボモデルを使用した K78の抗HCC能力の強力な証拠を提供する。
【0034】
構造活性相関(SAR)研究を実行することにより、GNMT発現を増強する能力を持つ、より強力なHCC阻害薬を特定した。K117及びK102(K78誘導体)は、GNMT発現の誘導においてK78よりも効果的である。K102の構造を図4Aに示す。更に、K117及びK102は用量依存的にGNMTプロモーター活性を誘導した(図4B)。次に、最も強力なインデューサーであるK117をさらなる研究のために選択し、Huh7細胞でGNMT mRNA及びタンパク質発現を誘導した(図4C図4D)。
【0035】
表1に示すように、構造活性相関 (SAR)研究を実行することにより、Kシリーズ化合物(GNMTインデューサー)が異なるニコチン酸エチルによって合成される。表1に、Kシリーズ化合物のGNMT誘導能力を示す。
【0036】
【表1】
【0037】
3、K117がインビトロとインビボで肝癌細胞を阻害する
次に、さまざまな肝癌細胞株(Huh7、Hep3B及びHepG2を含む)の細胞増殖に対するK117の影響を分析した。結果は、K117が試験したすべての肝癌細胞の増殖を用量依存的に阻害したことを示した(図5A)。更に、K117は、Huh7及びHepG2細胞のコロニー形成を用量依存的に減少させた(図5B及び5C)。インビボでのK117の抗腫瘍効果を更に評価するために、Huh7細胞を上記のようにヌードマウスに皮下注射した。次に、これらのマウスを無作為にグループ分けし、溶媒、K117 25mpk、K117 10mpk及びソラフェニブ 25mpk(比較対照として)で処理しました。
【0038】
図5Dに示すように、対照群と比較した場合、K117治療群では有意な腫瘍増殖の減少が観察された。更に、10 mpkという低用量の K117は、ソラフェニブ 25 mpkと同じ効果を示した。更に、K117治療は、動物の生存率、体重及び肝機能のテストによって監視される重篤な有害事象を引き起こしないが、すべてのグループ間で有意差はない(図5E及び5F)。全体として、これらの結果は、インビトロとインビボでのK117の腫瘍増殖阻害活性と耐性の強力な証拠を提供する。
【0039】
4、GNMTが前立腺癌及び膵臓癌において腫瘍感受性遺伝子 (TSG)として機能する
正常前立腺及び良性前立腺肥大組織におけるGNMT発現は豊富であるが、前立腺癌組織の82.2%で減少したことが報告されている。 これは、GNMTが前立腺癌の腫瘍感受性遺伝子であることを示唆した。
【0040】
膵臓癌を含む多くの癌で、過剰メチル化が遺伝子のサイレンシングに利用されていることがわかっている。このような状態では、GNMTの下方制御は、メチルドナーSAMが遺伝子サイレンシングを実行できるようにするのに役立つ可能性がある。以前は、GNMTは膵臓癌で大幅に下方制御されていることが判明しており、膵臓癌の二次腫瘍は通常肝臓を狙っている。この点で、GNMTが膵臓癌のTSGである可能性があることはHCCと同様であり、膵臓癌におけるこの下方制御されたTSGの再活性化は治療計画になるでしょう。表2は、膵臓及び前立腺癌細胞株のIC50(μM)を示している。これは、GNMTの誘導が癌細胞の増殖を阻害することを示している。
【0041】
【表2】
【0042】
5、HCCにおけるK78シリーズGNMTインデューサーのメカニズム
次に、K78がGNMT発現を増強し、肝癌細胞の増殖を阻害するメカニズムが、本発明において調査された。GNMTインデューサー薬、即ち、1,2,3,4,6-ペンタ-O-ガロイル-ベータ-D-グルコピラノシド(PGG)は、肝臓癌の病因におけるMYC下方制御を介してGNMT発現を増強することが知られている。従って、K78シリーズ化合物がHCCにおいてもMYC阻害を通じて効果を発揮するかどうかを決定するために、Huh7細胞におけるMYCのmRNA発現に対するK78シリーズ化合物(K78、K90及びK102)の処理の効果を本発明で調べた。K90の構造を図6Aに示す。図6Bに示すように、すべてのK78シリーズ化合物 (K78、K90及びK102)は、Huh7細胞でMYCのmRNA発現を阻害する。更に、K117がc-Myc mRNA発現を用量依存的に抑制することが示された(図6C)。更に、本発明では、K117処理後のMYC標的遺伝子の発現を分析することにより、MYC機能に対するK117の効果を評価した。MYC阻害と一致して、K117処理により、Huh7細胞のp21及びp27のmRNA発現が増加した(図6D)。インビトロの結果と一致して、MYCタンパク質の発現は、K117で処理されたマウスのHuh7異種移植腫瘍で減少した(図6E)。これらの結果は、K78シリーズ化合物が、HCC細胞におけるMYC発現を抑制するMYC阻害剤であることを示している。PGGはMYC遺伝子の発現を阻害し、カルパインと同様にプロテアソームとは無関係なメカニズムを介してMYCタンパク質の分解を促進することが示されている。K78シリーズ化合物におけるこの同じメカニズムの作用を調査するために、本発明は、MYCの異所性発現が、Huh7細胞においてK117によって誘導されるMYC mRNA及びタンパク質抑制を救助するかどうかを調べた。興味深いことに、MYCの異所性発現は、Huh7細胞でK117によって誘導されたMYC mRNA及びタンパク質抑制を救助することができた(図6F及び図6G)。更に、誘導の結果は、MYCの過剰発現がK117誘導のH7GPL-1細胞のGNMTプロモーター活性を元に戻すことを示した(図6H)。まとめると、K78シリーズ化合物はMYC転写を抑制し、GNMT発現を増強した。
【0043】
本発明は、添付の特許請求の範囲から逸脱することなく、当業者によっていかなる方法でも修正され得る。
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図3A
図3B
図3C
図3D
図4A
図4B
図4C
図4D
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図5F
図6A
図6B
図6C
図6D
図6E
図6F
図6G
図6H
【配列表】
0007584163000001.app