(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-07
(45)【発行日】2024-11-15
(54)【発明の名称】無細胞系血漿又は血清の製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 35/16 20150101AFI20241108BHJP
A61M 1/02 20060101ALI20241108BHJP
【FI】
A61K35/16
A61M1/02 120
A61M1/02 100
(21)【出願番号】P 2023177310
(22)【出願日】2023-10-13
(62)【分割の表示】P 2023086831の分割
【原出願日】2023-05-26
【審査請求日】2023-10-13
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】520103296
【氏名又は名称】セルプロジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130845
【氏名又は名称】渡邉 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100201020
【氏名又は名称】野中 信宏
(74)【代理人】
【識別番号】100140350
【氏名又は名称】渡辺 和宏
(72)【発明者】
【氏名】佐俣 文平
【審査官】佐々木 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-171597(JP,A)
【文献】特開2019-178116(JP,A)
【文献】特開2013-209409(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107446036(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第110028571(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0280959(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第108813090(CN,A)
【文献】VCX500のカタログ,SONICS & MATERIALS. INC.,2024年03月18日,https://pdf.directindustry.com/ja/pdf-en/sonics-materials-inc/vcx-500-500-watts-vcx-750-750-watts/77580-429611.html#open1247027
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/00-35/768
A61M 1/00- 1/38
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
血漿(多血小板血漿を除
き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清
(細胞を含まない血清を除く)を5W~100Wの出力で超音波破砕処理して、超音波破砕処理後の血漿(多血小板血漿を除
き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清
(細胞を含まない血清を除く)を得る工程、及び得られた超音波破砕処理後の血漿(多血小板血漿を除
き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清
(細胞を含まない血清を除く)から細胞を除去して、無細胞系血漿(多血小板血漿を除く)又は
無細胞系血清を得る工程を含む、VEGF又はIGF1を濃縮した無細胞系血漿(多血小板血漿を除く)又は
無細胞系血清の製造方法
であって、無細胞系血漿(多血小板血漿を除く)又は無細胞血清を得る工程が、フィルタによって細胞を除去する工程を含む、製造方法。
【請求項2】
超音波破砕処理における出力が、7W~100Wである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
超音波破砕処理の時間が、5秒~30分である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
血漿(多血小板血漿を除
き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清
(細胞を含まない血清を除く)を5W~500Wの出力で超音波破砕処理して、超音波破砕処理後の血漿(多血小板血漿を除
き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清
(細胞を含まない血清を除く)を得る工程、及び得られた超音波破砕処理後の血漿(多血小板血漿を除
き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清
(細胞を含まない血清を除く)から細胞を除去して、無細胞系血漿(多血小板血漿を除く)又は
無細胞系血清を得る工程を含む、VEGF又はIGF1を濃縮した無細胞系血漿(多血小板血漿を除く)又は
無細胞系血清の製造方法であって、超音波破砕処理が、1回で行われる、又は2回~6回に分けて行わ
れ、無細胞系血漿(多血小板血漿を除く)又は無細胞血清を得る工程が、フィルタによって細胞を除去する工程を含む、製造方法。
【請求項5】
血漿(多血小板血漿を除
き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清
(細胞を含まない血清を除く)を5W~500Wの出力で超音波破砕処理して、超音波破砕処理後の血漿(多血小板血漿を除
き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清
(細胞を含まない血清を除く)を得る工程、及び得られた超音波破砕処理後の血漿(多血小板血漿を除
き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清
(細胞を含まない血清を除く)から細胞を除去して、無細胞系血漿(多血小板血漿を除く)又は
無細胞系血清を得る工程を含む、VEGF又はIGF1を濃縮した無細胞系血漿(多血小板血漿を除く)又は
無細胞系血清の製造方法であって、超音波破砕処理が、チップ式又はカップホーン式によ
り、無細胞系血漿(多血小板血漿を除く)又は無細胞血清を得る工程が、フィルタによって細胞を除去する工程を含む、製造方法。
【請求項6】
フィルタが、孔径0.1μm~1μmのメンブレンフィルタである、請求項
1に記載の製造方法。
【請求項7】
血漿(多血小板血漿を除
き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清
(細胞を含まない血清を除く)を5W~500Wの出力で超音波破砕処理して、超音波破砕処理後の血漿(多血小板血漿を除
き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清
(細胞を含まない血清を除く)を得る工程、及び得られた超音波破砕処理後の血漿(多血小板血漿を除
き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清
(細胞を含まない血清を除く)から細胞を除去して、無細胞系血漿(多血小板血漿を除く)又は
無細胞系血清を得る工程を含む、VEGF又はIGF1を濃縮した無細胞系血漿(多血小板血漿を除く)又は
無細胞系血清の製造方法であって、無細胞系血漿(多血小板血漿を除く)又は血清を得る工程が、フィルタを介する遠心分離処理によって細胞を除去する工程を含む、製造方法。
【請求項8】
遠心分離処理の回転数が、500rpm~4500rpmである、請求項
7に記載の製造方法。
【請求項9】
遠心分離処理をする時間が、1分~30分である、請求項
7に記載の製造方法。
【請求項10】
血漿(多血小板血漿を除
き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清
(細胞を含まない血清を除く)を5W~500Wの出力で超音波破砕処理して、超音波破砕処理後の血漿(多血小板血漿を除
き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清
(細胞を含まない血清を除く)を得る工程、及び得られた超音波破砕処理後の血漿(多血小板血漿を除
き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清
(細胞を含まない血清を除く)から細胞を除去して、無細胞系血漿(多血小板血漿を除く)又は
無細胞系血清を得る工程を含む、VEGF又はIGF1を濃縮した無細胞系血漿(多血小板血漿を除く)又は
無細胞系血清の製造方法であって、5W~500Wの出力で超音波破砕処理する血漿(多血小板血漿を除
き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清
(細胞を含まない血清を除く)が、血液を遠心分離処理して回収された上清であり、遠心分離処理の回転数が、500~4000rpmであ
り、無細胞系血漿(多血小板血漿を除く)又は無細胞血清を得る工程が、フィルタによって細胞を除去する工程を含む、製造方法。
【請求項11】
血漿(多血小板血漿を除
き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清
(細胞を含まない血清を除く)を5W~500Wの出力で超音波破砕処理して、超音波破砕処理後の血漿(多血小板血漿を除
き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清
(細胞を含まない血清を除く)を得る工程、及び得られた超音波破砕処理後の血漿(多血小板血漿を除
き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清
(細胞を含まない血清を除く)から細胞を除去して、無細胞系血漿(多血小板血漿を除く)又は
無細胞系血清を得る工程を含む、VEGF又はIGF1を濃縮した無細胞系血漿(多血小板血漿を除く)又は
無細胞系血清の製造方法であって、5W~500Wの出力で超音波破砕処理する血漿(多血小板血漿を除
き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清
(細胞を含まない血清を除く)が、血液を遠心分離処理して回収された上清であり、遠心分離処理の時間が、1分~30分であ
り、無細胞系血漿(多血小板血漿を除く)又は無細胞血清を得る工程が、フィルタによって細胞を除去する工程を含む、製造方法。
【請求項12】
血漿(多血小板血漿を除
き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清
(細胞を含まない血清を除く)を5W~500Wの出力で超音波破砕処理して、超音波破砕処理後の血漿(多血小板血漿を除
き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清
(細胞を含まない血清を除く)を得る工程、及び得られた超音波破砕処理後の血漿(多血小板血漿を除
き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清
(細胞を含まない血清を除く)から細胞を除去して、無細胞系血漿(多血小板血漿を除く)又は
無細胞系血清を得る工程を含む、VEGF又はIGF1を濃縮した無細胞系血漿(多血小板血漿を除く)又は
無細胞系血清の製造方法であって、5W~500Wの出力で超音波破砕処理する血漿(多血小板血漿を除
き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清
(細胞を含まない血清を除く)が、血液を遠心分離処理して回収された上清であり、遠心分離処理を行う際の温度が、4℃~40℃であ
り、無細胞系血漿(多血小板血漿を除く)又は無細胞血清を得る工程が、フィルタによって細胞を除去する工程を含む、製造方法。
【請求項13】
血漿(多血小板血漿を除
き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清
(細胞を含まない血清を除く)を5W~500Wの出力で超音波破砕処理して、超音波破砕処理後の血漿(多血小板血漿を除
き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清
(細胞を含まない血清を除く)を得る工程、及び得られた超音波破砕処理後の血漿(多血小板血漿を除
き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清
(細胞を含まない血清を除く)から細胞を除去して、無細胞系血漿(多血小板血漿を除く)又は
無細胞系血清を得る工程を含む、VEGF又はIGF1を濃縮した無細胞系血漿(多血小板血漿を除く)又は
無細胞系血清の製造方法であって、5W~500Wの出力で超音波破砕処理する血漿(多血小板血漿を除
き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清
(細胞を含まない血清を除く)が由来する血液が、生体からの採取から、血漿(多血小板血漿を除
き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清
(細胞を含まない血清を除く)を取得する処理までに、0℃~10℃において0分~144時間保存されたものであ
り、無細胞系血漿(多血小板血漿を除く)又は無細胞血清を得る工程が、フィルタによって細胞を除去する工程を含む、製造方法。
【請求項14】
5W~100Wの出力で超音波破砕処理する血漿(多血小板血漿を除
き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)が、生体からの採取の後に血液凝固阻止剤を添加された血液から得られたものである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項15】
血液凝固阻止剤が、ヘパリン塩、クエン酸又はクエン酸誘導体である、請求項1
4に記載の製造方法。
【請求項16】
5W~100Wの出力で超音波破砕処理する血清
(細胞を含まない血清を除く)が、生体からの採取の後に血液凝固剤を添加された血液から得られたものである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項17】
VEGF又はIGF1を濃縮した無細胞系血漿(多血小板血漿を除く)又は
無細胞系血清が、凍結乾燥物である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項18】
フィルタによって細胞を除去する工程を含む製造方法によってVEGF又はIGF1を濃縮した無細胞系血漿(多血小板血漿を除く)又は
無細胞系血清を製造するための血漿(多血小板血漿を除
き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清
(細胞を含まない血清を除く)の処理産物の製造方法であって、血漿(多血小板血漿を除
き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清
(細胞を含まない血清を除く)を5W~100Wの出力で超音波破砕処理して、血漿(多血小板血漿を除
き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清
(細胞を含まない血清を除く)の処理産物を得る工程を含む、方法。
【請求項19】
フィルタによって細胞を除去する工程を含む製造方法によってVEGF又はIGF1を濃縮した無細胞系血漿(多血小板血漿を除く)又は
無細胞血清を製造するための血漿(多血小板血漿を除
き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清
(細胞を含まない血清を除く)の処理産物の製造方法であって、血漿(多血小板血漿を除
き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清
(細胞を含まない血清を除く)を5W~500Wの出力で超音波破砕処理して、血漿(多血小板血漿を除
き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清
(細胞を含まない血清を除く)の処理産物を得る工程を含み、超音波破砕処理が、1回で行われる、又は2回~6回に分けて行われる、方法。
【請求項20】
フィルタによって細胞を除去する工程を含む製造方法によってVEGF又はIGF1を濃縮した無細胞系血漿(多血小板血漿を除く)又は
無細胞血清を製造するための血漿(多血小板血漿を除
き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清
(細胞を含まない血清を除く)の処理産物の製造方法であって、血漿(多血小板血漿を除
き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清
(細胞を含まない血清を除く)を5W~500Wの出力で超音波破砕処理して、血漿(多血小板血漿を除
き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清
(細胞を含まない血清を除く)の処理産物を得る工程を含み、超音波破砕処理が、チップ式又はカップホーン式による、方法。
【請求項21】
フィルタによって細胞を除去する工程を含む製造方法によってVEGF又はIGF1を濃縮した無細胞系血漿(多血小板血漿を除く)又は
無細胞血清を製造するための血漿(多血小板血漿を除
き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清
(細胞を含まない血清を除く)の処理産物の製造方法であって、血漿(多血小板血漿を除
き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清
(細胞を含まない血清を除く)を5W~500Wの出力で超音波破砕処理して、血漿(多血小板血漿を除
き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清
(細胞を含まない血清を除く)の処理産物を得る工程を含み、5W~500Wの出力で超音波破砕処理する血漿(多血小板血漿を除
き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清
(細胞を含まない血清を除く)が、血液を遠心分離処理して回収された上清であり、遠心分離処理の回転数が、500~4000rpmである、方法。
【請求項22】
フィルタによって細胞を除去する工程を含む製造方法によってVEGF又はIGF1を濃縮した無細胞系血漿(多血小板血漿を除く)又は
無細胞血清を製造するための血漿(多血小板血漿を除
き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清
(細胞を含まない血清を除く)の処理産物の製造方法であって、血漿(多血小板血漿を除
き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清
(細胞を含まない血清を除く)を5W~500Wの出力で超音波破砕処理して、血漿(多血小板血漿を除
き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清
(細胞を含まない血清を除く)の処理産物を得る工程を含み、5W~500Wの出力で超音波破砕処理する血漿(多血小板血漿を除
き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清
(細胞を含まない血清を除く)が、血液を遠心分離処理して回収された上清であり、遠心分離処理の時間が、1分~30分である、方法。
【請求項23】
フィルタによって細胞を除去する工程を含む製造方法によってVEGF又はIGF1を濃縮した無細胞系血漿(多血小板血漿を除く)又は
無細胞血清を製造するための血漿(多血小板血漿を除
き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清
(細胞を含まない血清を除く)の処理産物の製造方法であって、血漿(多血小板血漿を除
き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清
(細胞を含まない血清を除く)を5W~500Wの出力で超音波破砕処理して、血漿(多血小板血漿を除
き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清
(細胞を含まない血清を除く)の処理産物を得る工程を含み、5W~500Wの出力で超音波破砕処理する血漿(多血小板血漿を除
き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清
(細胞を含まない血清を除く)が、血液を遠心分離処理して回収された上清であり、遠心分離処理を行う際の温度が、4℃~40℃である、方法。
【請求項24】
フィルタによって細胞を除去する工程を含む製造方法によってVEGF又はIGF1を濃縮した無細胞系血漿(多血小板血漿を除く)又は
無細胞血清を製造するための血漿(多血小板血漿を除
き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清
(細胞を含まない血清を除く)の処理産物の製造方法であって、血漿(多血小板血漿を除
き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清
(細胞を含まない血清を除く)を5W~500Wの出力で超音波破砕処理して、血漿(多血小板血漿を除
き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清
(細胞を含まない血清を除く)の処理産物を得る工程を含み、5W~500Wの出力で超音波破砕処理する血漿(多血小板血漿を除
き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清
(細胞を含まない血清を除く)が由来する血液が、生体からの採取から、血漿(多血小板血漿を除
き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清
(細胞を含まない血清を除く)を取得する処理までに、0℃~10℃において0分~144時間保存されたものである、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無細胞系血漿又は血清の製造方法に関するものであり、より具体的には、VEGF又はIGF1を濃縮した無細胞系血漿又は血清の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
既にいくつかの会社から血液加工サービスとして、全血からの血漿分画精製やその後の凍結乾燥処理までを実施するサービスが提供されている。血漿中にはPDGF-BBやVEGF、IGFなどの成長因子が多く含まれており、当該加工物を使った治療(整形外科分野における膝関節治療や、AGA分野における薄毛治療など)が実施されている。これらサービスは細胞を含まない無細胞加工物として実施されている。したがって、VEGF、IGF1などの成長因子を濃縮した無細胞系血漿又は血清の製造が求められる。
【0003】
特許文献1には、長期保存することが可能な成長因子混合物及びその製造方法を提供する発明として、血液から成長因子混合物を調製する方法であって、血液から多血小板血漿を分離する工程と、多血小板血漿から細胞を除去して無細胞系血漿を得る工程と、無細胞系血漿を凍結乾燥して成長因子混合物を得る工程と、を含む方法が示されている。しかしながら、特許文献1には、超音波破砕処理は言及されていない。
【0004】
特許文献2には、粒状の凍結乾燥血小板溶解物組成物を調製するための方法であって、血小板および流体担体を含む血小板供与源を得るステップ;前記血小板を溶解して複数の溶解物を形成するステップ;溶解後に前記複数の溶解物を濾過して細胞片を取り除くステップ;および前記複数の溶解物を凍結乾燥させて、放出された濃度の利用可能な増殖因子、サイトカインおよびケモカインを有する粒状の凍結乾燥血小板溶解物組成物を形成するステップを含む方法が記載されており、前記溶解ステップが、前記血小板供与源における超音波処理を使用することを含むことが記載されている。しかしながら、特許文献2の実施例は、血小板を溶解または収集するために、超音波処理、濾過なども、本明細書に記載される凍結融解サイクルの代わりにまたはそれに追加して使用することができることに注目されたいとして、抽象的に超音波処理をすることを提案するにとどまり、実際に超音波処理をした結果を開示するものではない。また、特許文献2の実施例においては、様々な増殖因子の含有量が検討されているが、VEGFやIGF1については、含有量は検討されていない。
【0005】
特許文献3には、使用する血液の鮮度に拘らず高い培養効率を奏することが可能な血清を、一度に大量に得ることができる血清調製装置を提供することを目的とする発明が開示されており、少なくとも血小板を含有する血液から血清を調製する血清調製装置であって、前記血液を貯留する血液貯留部と、前記血液貯留部に設けられ、超音波を発生させる超音波発振子を収容可能な超音波発振子収容部と、該血液貯留部に無菌的かつ気密に連結され、前記血液貯留部に貯留された血液より分離された血清を収容する成分収容部とを備える血清調製装置が開示されている。しかしながら、特許文献3の実施例は、TGF-β1及びPDGF-BBの定量をするものにすぎず、VEGFやIGF1については、含有量は検討されていない。
【0006】
特許文献4には、患者への同時再注入のために、患者のベッドサイドにおいて調整自己血小板溶液の産生を提供する、デバイス、システム、及び方法の実施形態として、デバイスであって、筐体と、血小板含有溶液の流入を提供する、前記筐体の中への流入ポートと、前記流入ポートと流体連通し、前記筐体内部に位置付けられる溶解/活性化チャンバであって、前記デバイスに流入される前記血小板含有溶液中の1つ以上の血小板は、前記溶解/活性化チャンバ内において溶解または活性化を受けさせられ、それによって、調整溶液を作る、溶解/活性化チャンバと、前記溶解/活性化チャンバと流体連通し、流出ポートを通して取り出される前記調整溶液を提供する、前記筐体からの流出ポートと、を備える、デバイスが開示されている。特許文献4には、当該デバイスが、前記筐体内部にある少なくとも1つの音響変換器をさらに備え、前記音響変換器は、前記溶解/活性化チャンバに機械的に結合され、前記音響変換器が、前記溶解/活性化チャンバ内において血小板含有溶液中の1つ以上の血小板の超音波溶解または活性化を生じさせるために、音響エネルギーを前記溶解/活性化チャンバに通すように構成されることが開示されている。特許文献4の実施例においては、TGF-β及びVEGF成長因子タンパク質濃度が比較されている。しかしながら、特許文献4の実施例は、実際に超音波処理をした例を開示するものではなく、実際に超音波処理をした例としてTGF-β及びVEGF成長因子タンパク質濃度を比較するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2019-178116号公報
【文献】特表2018-517771号公報
【文献】特開2013-209409号公報
【文献】特表2016-504165号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このように、成長因子を濃縮する方法として超音波処理を用いることは、現実の実験結果の裏付けなく、抽象的に提案されていた。しかしながら、現実に行った実験の結果によれば、成長因子のうち、VEGFについては、後記の実施例に示すとおり、超音波処理をしても、VEGFが濃縮されるどころか、むしろ、VEGFの含有量が低下することが認められており、IGF1についても同様の傾向が認められていた。
【0009】
血漿成分は遠心分離することで簡単に回収できるため成長因子の増量を目的とした加工知見が乏しく、また、試薬などの添加物は安全性の観点からできるだけ避けることが好ましい。さらに、遠心分離後の血漿分画には様々なタンパク質成分などが含まれるため、フィルタ濾過などを行う無細胞処理工程で目詰まりすることがしばしば見られる。このような点が、血漿加工サービスの課題となっている。
【0010】
したがって、本発明は、フィルタ濾過の際に目詰まりを起こさず、短い時間で濾過を行うことができ、フィルタ交換が不要であるなど、優れた操作性をもって、VEGF又はIGF1を濃縮した無細胞系血漿又は血清を製造することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、鋭意検討したところ、意外なことに、5W~500Wの出力で超音波破砕処理をして、超音波破砕処理後の血漿又は血清を得る工程、及び得られた超音波破砕処理後の血漿又は血清から細胞を除去して、無細胞系血漿又は血清を得る工程を含む方法により、優れた操作性をもって、VEGF又はIGF1を濃縮した無細胞系血漿又は血清を製造することができることを見出した。成長因子のうち、VEGFやIGF1については、超音波処理をしても、これらを濃縮した無細胞系血漿又は血清を製造することができず、むしろ、超音波処理をすると無細胞系血漿又は血清におけるこれらの含有量が低下することが認められていたことに鑑みれば、本発明者が見出したこの知見は、きわめて意外なことである。
【0012】
すなわち、本発明は、以下を提供するものである。
[態様1]
血漿又は血清を5W~500Wの出力で超音波破砕処理して、超音波破砕処理後の血漿又は血清を得る工程、及び得られた超音波破砕処理後の血漿又は血清から細胞を除去して、無細胞系血漿又は血清を得る工程を含む、VEGF又はIGF1を濃縮した無細胞系血漿又は血清の製造方法。
[態様2]
超音波破砕処理における出力が、7W~100Wである、態様1に記載の製造方法。
[態様3]
超音波破砕処理の時間が、5秒~30分である、態様1に記載の製造方法。
[態様4]
超音波破砕処理が、1回で行われる、又は2回~6回に分けて行われる、態様1に記載の製造方法。
[態様5]
超音波破砕処理が、チップ式又はカップホーン式による、態様1に記載の製造方法。
[態様6]
無細胞系血漿又は血清を得る工程が、フィルタによって細胞を除去する工程を含む、態様1に記載の製造方法。
[態様7]
フィルタが、孔径0.1μm~1μmのメンブレンフィルタである、態様6に記載の製造方法。
[態様8]
無細胞系血漿又は血清を得る工程が、フィルタを介する遠心分離処理によって細胞を除去する工程を含む、態様1に記載の製造方法。
[態様9]
遠心分離処理の回転数が、500rpm~4500rpmである、態様8に記載の製造方法。
[態様10]
遠心分離処理をする時間が、1分~30分である、態様8に記載の製造方法。
[態様11]
5W~500Wの出力で超音波破砕処理する血漿又は血清が、血液を遠心分離処理して回収された上清である、態様1に記載の製造方法。
[態様12]
遠心分離処理の回転数が、500~4000rpmである、態様11に記載の製造方法。
[態様13]
遠心分離処理の時間が、1分~30分である、態様11に記載の製造方法。
[態様14]
遠心分離処理を行う際の温度が、4℃~40℃である、態様11に記載の製造方法。
[態様15]
5W~500Wの出力で超音波破砕処理する血漿又は血清が由来する血液が、生体からの採取から、血漿又は血清を取得する処理までに、0℃~10℃において0分~144時間保存されたものである、請求項1に記載の製造方法。
[態様16]
5W~500Wの出力で超音波破砕処理する血漿が、生体からの採取の後に血液凝固阻止剤を添加された血液から得られたものである、態様1に記載の製造方法。
[態様17]
血液凝固阻止剤が、ヘパリン塩、クエン酸又はクエン酸誘導体である、態様16に記載の製造方法。
[態様18]
5W~500Wの出力で超音波破砕処理する血清が、生体からの採取の後に血液凝固剤を添加された血液から得られたものである、態様1に記載の製造方法。
[態様19]
VEGF又はIGF1を濃縮した無細胞系血漿又は血清が、凍結乾燥物である、態様1に記載の製造方法。
[態様20]
態様1~19のいずれか1項に記載の製造方法により製造された無細胞系血漿又は血清。
[態様21]
VEGF又はIGF1を濃縮した無細胞系血漿又は血清を製造するための血漿又は血清の処理産物の製造方法であって、血漿又は血清を5W~500Wの出力で超音波破砕処理して、血漿又は血清の処理産物を得る工程を含む、方法。
【発明の効果】
【0013】
より具体的な態様の本発明の製造方法によれば、フィルタ濾過の際に目詰まりを起こさず、短い時間で濾過を行うことができ、フィルタ交換が不要であるなど、優れた操作性をもって、VEGF又はIGF1を濃縮した無細胞系血漿又は血清を製造することができる。これは、遠心分離後の血漿又は血清分画にタンパク質の複合体などが混在することで、フィルタの目詰まりなどが生じてその後の処理を煩雑にして、VEGF又はIGF1の濃度を低下させていることを、5W~500Wの出力での超音波破砕処理が解消するためであると推察される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、0W(未処理)の超音波破砕を処理した検体(条件1)、10Wで10秒間の超音波破砕を3回処理した検体(条件4)、及び2Wで10秒間の超音波破砕を3回処理した検体(条件5)におけるVEGFの濃度をELISA法によって解析した結果を示すグラフである。
【
図2】
図2は、0W(未処理)の超音波破砕を処理した検体(条件1)、10Wで10秒間の超音波破砕を3回処理した検体(条件4)、及び2Wで10秒間の超音波破砕を3回処理した検体(条件5)におけるIGF1の濃度をELISA法によって解析した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、血漿又は血清を5W~500Wの出力で超音波破砕処理して、超音波破砕処理後の血漿又は血清を得る工程、及び得られた超音波破砕処理後の血漿又は血清から細胞を除去して、無細胞系血漿又は血清を得る工程を含む、VEGF又はIGF1を濃縮した無細胞系血漿又は血清の製造方法を提供する。
【0016】
超音波破砕処理における出力は、好ましくは、5W~500Wであり、好ましくは、7W~500Wであり、好ましくは、10W~500Wであり、より好ましくは、5W~400Wであり、より好ましくは、7W~400Wであり、より好ましくは、10W~400Wであり、更に好ましくは、5W~300Wであり、更に好ましくは、7W~300Wであり、更に好ましくは、10W~300Wであり、更に好ましくは、5W~200Wであり、更に好ましくは、7W~200Wであり、更に好ましくは、10W~200Wであり、更に好ましくは、5W~100Wであり、更に好ましくは、7W~100Wであり、更に好ましくは、10W~100Wである。
【0017】
超音波破砕処理の時間は、好ましくは、1秒~45分であり、より好ましくは、1秒~30分であり、より好ましくは、5秒~30分であり、更に好ましくは、10秒~30分であり、更に好ましくは、1秒~10分であり、更に好ましくは、5秒~10分であり、更に好ましくは、10秒~10分であり、更に好ましくは、1秒~5分であり、更に好ましくは、5秒~5分であり、更に好ましくは、10秒~5分である。超音波破砕処理の時間は、例えば、1秒~1分や、5秒~1分や、10秒~1分や、1秒~40秒や、5秒~40秒や、10秒~40秒などでもよい。なお、超音波破砕処理の時間は、超音波破砕処理が複数回に分けて行われる場合には、当該複数回行われる超音波破砕処理の時間の合計を言う。
【0018】
超音波破砕処理は、1回で行われてもよく、分けて行われてもよく、好ましくは、2回~10回に分けて行われ、より好ましくは、2回~8回に分けて行われ、更に好ましくは、2回~6回に分けて行われ、更に好ましくは、2回~4回に分けて行われる。
【0019】
超音波破砕処理は、制限はなく、公知の超音波破砕処理を含め、任意の超音波破砕処理が使用可能であるが、好ましくは、チップ式(例えば、トミー精工、UD-100)又はカップホーン式(例えば、トミー精工、UD-211)による。チップ式としては、例えば、超音波発生器(細長い棒)を検体に直接入れて処理するものが挙げられる。そのため、1W~50Wなどの低いW数で効率的に処理することができる。チップ式による超音波破砕処理における出力は、好ましくは、5W~100Wであり、好ましくは、7W~100Wであり、より好ましくは、5W~90Wであり、より好ましくは、7W~90Wであり、更に好ましくは、5W~70Wであり、更に好ましくは、7W~70Wであり、更に好ましくは、5W~50Wであり、更に好ましくは、7W~50Wであり、更に好ましくは、5W~30Wであり、更に好ましくは、7W~30Wである。カップホーン式としては、例えば、水浴槽全体を超音波振動させ、そこに浸かった検体入りチューブを、チューブ壁面を超えて処理するものが挙げられる。したがって、100W~500Wなどの高い出力が求められる。カップホーン式による超音波破砕処理における出力は、好ましくは、10W~500Wであり、より好ましくは、20W~400Wであり、更に好ましくは、30W~300Wであり、更に好ましくは、40W~250Wであり、更に好ましくは、50W~200Wである。なお、超音波破砕処理は、例えば、滅菌下又は非滅菌下で行われる。
【0020】
超音波破砕処理後の血漿又は血清から細胞を除去して、無細胞系血漿又は血清を得る工程としては、例えば、加熱処理を行う工程、酸処理を行う工程のほか、フィルタによって細胞を除去する工程などが挙げられる。これらのうち、成長因子の変性を招くリスクが小さいことからフィルタによって細胞を除去する工程が好ましい。ここで、フィルタは、血球系細胞を除去できるものであれば制限はないが、血球系細胞の最小サイズは血小板の約2μmであるため、フィルタとしては、好ましくは、孔径が1μm以下である、より好ましくは、孔径が0.7μm以下である、更に好ましくは、孔径が0.5μm以下である、メンブレンフィルタを使用することができる。なお、メンブレンフィルタの孔径の下限値に制限はないが、過度に小さいものは目詰まりを起こすリスクが大きくなる。そのため、孔径は、0.1μm以上が好ましく、0.2μm以上がより好ましい。通常市販されているメンブレンフィルタのうち、この範囲を満たすものとしては、孔径が約0.2μmのメンブレンフィルタと、孔径が約0.45μmのメンブレンフィルタがあり、本発明においては、いずれも使用することができる。フィルタとしては、例えば、ミリポア社によるマイレクスGV(SLGVR33RS)などのシリンジに取り付けて手押しで濾過するものが挙げられる。
【0021】
また、超音波破砕処理後の血漿又は血清から細胞を除去して、無細胞系血漿又は血清を得る工程は、好ましくは、フィルタを介する遠心分離処理によって細胞を除去する工程を含む。フィルタとしては、前述と同様のフィルタが挙げられる。遠心分離処理の回転数は、好ましくは、500rpm~4500rpmであり、より好ましくは、750rpm~4000rpmであり、更に好ましくは、1000rpm~3000rpmであり、更に好ましくは、1500rpm~2000rpmである。遠心分離処理をする時間は、好ましくは、1~30分であり、より好ましくは、3~20分であり、更に好ましくは、4~15分であり、更に好ましくは、5~10分である。
【0022】
本発明の製造方法において、5W~500Wの出力で超音波破砕処理する血漿又は血清は、好ましくは、血液を遠心分離処理して回収された上清である。ここで、遠心分離処理の回転数は、好ましくは、500~4000rpmであり、より好ましくは、1000~4000rpmであり、更に好ましくは、1000~2000rpmであり、更に好ましくは、1000~1500rpmである。遠心分離処理の時間は、好ましくは、1~30分であり、より好ましくは、5~30分であり、更に好ましくは、5~15分である。遠心分離処理を行う際の温度は、好ましくは、4℃~40℃であり、より好ましくは、4℃~30℃であり、更に好ましくは、4℃~25℃である。遠心分離処理を行う際の温度は、10℃~40℃や、15℃~30℃や、20℃~25℃であってもよい。
【0023】
上記の遠心分離処理される血液など、5W~500Wの出力で超音波破砕処理する血漿又は血清が由来する血液は、生体からの採取から、遠心分離処理などの血漿又は血清を取得する処理までに、保存される時間が0分であることが好ましいが、1分~144時間保存されたものであってもよく、より好ましくは、2分~120時間保存されたものであってもよく、更に好ましくは、3分~96時間保存されたものであってもよく、更に好ましくは、4分~72時間保存されたものであってもよい。保存する際の温度は、例えば、0℃~10℃であり、より好ましくは、2℃~8℃であり、更に好ましくは、4℃~6℃であり、更に好ましくは、4℃~5℃である。本発明の製造方法は、これらの保存によっても大きな変化が生じず、検体である血液の輸送の必要に応えることができる。ここで、5W~500Wの出力で超音波破砕処理する血漿又は血清が由来する血液は、好ましくは、血液凝固阻止剤又は血液凝固剤を添加された血液である。この場合には、保存する時間の始期は、血液凝固阻止剤又は血液凝固剤を添加した時としてもよい。
【0024】
本発明の製造方法において、5W~500Wの出力で超音波破砕処理する血漿は、好ましくは、生体からの採取の後に血液凝固阻止剤を添加された血液から得られたものである。ここで、血液凝固阻止剤としては、例えば、ヘパリンナトリウムなどのヘパリン塩;クエン酸水和物などのクエン酸;クエン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム水和物などのクエン酸塩、クエン酸デキストロースなどのクエン酸誘導体;EDTA-2Na、EDTA-2KなどのEDTA塩などが挙げられる。
【0025】
本発明の製造方法において、5W~500Wの出力で超音波破砕処理する血清は、例えば、血液凝固剤を使わない血餅形成により得られたものであってもよいが、生体からの採取の後に血液凝固剤を添加された血液から得られたものであってもよい。ここで、血液凝固剤としては、例えば、トロンビン、フィブリノーゲンなどが挙げられる。
【0026】
血液凝固阻止剤又は血液凝固剤を添加する血液は、生体からの採取の後であって、血液凝固阻止剤又は血液凝固剤を添加する前に、保存されたものであってもよい。ここで、保存する時間は、好ましくは、0分~72時間であり、より好ましくは、0分~48時間であり、更に好ましくは、0分~24時間であり、更に好ましくは、0分~1時間である。保存する際の温度は、好ましくは、0℃~10℃であり、より好ましくは、1℃~8℃であり、更に好ましくは、2℃~6℃であり、更に好ましくは、3℃~5℃である。本発明の製造方法は、これらの保存によっても大きな変化が生じず、検体である血液の輸送の必要に応えることができる。
【0027】
本発明の製造方法により製造される無細胞系血漿又は血清は、賦形剤、添加剤、緩衝剤、等張調節のための塩類、抗酸化剤、保存剤、薬剤安定剤などを含むものであってもよい。賦形剤としては、例えば、水、精製水、生理食塩水、アルコール、グリセリン、乳糖、デンプン、ブドウ糖、デキストリン、白糖、沈降シリカ、蜂蜜、コメデンプン、トラガントなどが挙げられるが、これらに限定されない。また、本発明の製造方法により製造される無細胞系血漿又は血清は、凍結乾燥物であってもよい。
【0028】
本発明の製造方法により製造される無細胞系血漿又は血清は、細胞を除去する工程を経たものであればよく、したがって、細胞が検出されたことのみをもって無細胞系血漿又は血清であることが否定されるものではない。しかしながら、本発明の製造方法により製造される無細胞系血漿又は血清は、好ましくは、細胞が検出されないものであり、より好ましくは、細胞が完全に除去されたものである。
【実施例】
【0029】
実施例1:
成人男性(1名)の協力者から約40mLの全血を採取し、採取した全血を血液抗凝固剤入りスピッツであるヘパリン管(株式会社ビー・エム・エル)に入れ、転倒混和をした後、保管した。なお、当該ヘパリン管には、血液凝固阻止剤であるヘパリンナトリウムやACD液(成分:クエン酸ナトリウム水和物、クエン酸水和物、ブドウ糖)が含まれる。これらを恒温槽において4℃で一晩(約16時間)冷蔵保存した。冷蔵保存後、遠心分離処理(1300rpm、10分間、24℃)を行い、上清である血漿(約20mL)を回収した。非滅菌タイプの超音波発生機(超音波ホモジナイザー)(トミー精工、Handy Sonic、UR-20P)を用いて、この血漿について超音波破砕処理を出力0W、2W、又は10Wで、それぞれ10秒間を3回ずつ処理することで3種類の検体を得た。超音波破砕処理後、これをシリンジに移し替え、孔径0.22μmのメンブレンフィルタによってフィルタリングして、細胞成分を除去した。このフィルタリングによってフィルタ上に残留する血球系細胞と、フィルタを通過した液体(無細胞系血漿)とに分離された。約18mLの無細胞系血漿を2mLずつ9本のバイアルに分注して-80℃で冷凍保管して検体を得た。
【0030】
得られた検体についてELISA法によって成長因子であるVEGFとIGF1の濃度を解析した。VEGFについての結果を
図1に示し、IGF1についての結果を
図2に示す。
図1及び
図2において、条件1は、0W(未処理)の超音波破砕を処理した検体についての結果である。条件4は、10Wで10秒間の超音波破砕を3回処理した検体についての結果である。条件5は、2Wで10秒間の超音波破砕を3回処理した検体についての結果である。
【0031】
図1及び
図2に示すように、2Wで10秒間の超音波破砕処理を3回行うなど、2Wなどの出力で超音波破砕処理を行う場合には、サイトカインであるVEGFの濃度は高くなるどころか、むしろ、低くなるものであったにもかかわらず、全く意外なことに、10Wで10秒間の超音波破砕処理を3回行うなど、10Wなどの出力で超音波破砕処理を行うことにより、サイトカインであるVEGFの濃度が高くなることが分かり、サイトカインであるIGF1の濃度についても同様の傾向が認められた。
【0032】
また、0.22μmフィルタなどの濾過においては、超音波破砕処理することによってスムーズな濾過が可能であった。すなわち、0Wでは濾過をするにあたり、15秒の濾過時間を要し、時にはフィルタ目詰まりによる交換が必要だったが、2Wの場合には同条件において5秒で濾過を行うことができ、5Wの場合には1秒で濾過を行うことができ、また、フィルタ交換の必要性はなく、本工程に要する時間が大幅に減縮した。
【要約】
【課題】 本発明は、フィルタ濾過の際に目詰まりを起こさず、短い時間で濾過を行うことができ、フィルタ交換が不要であるなど、優れた操作性をもって、VEGF又はIGF1を濃縮した無細胞系血漿又は血清を製造することができる方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明は、血漿又は血清を5W~500Wの出力で超音波破砕処理して、超音波破砕処理後の血漿又は血清を得る工程、及び得られた超音波破砕処理後の血漿又は血清から細胞を除去して、無細胞系血漿又は血清を得る工程を含む、VEGF又はIGF1を濃縮した無細胞系血漿又は血清の製造方法を提供する。
【選択図】 なし