(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-07
(45)【発行日】2024-11-15
(54)【発明の名称】差厚金属板の製造方法及び差厚金属板の製造装置
(51)【国際特許分類】
B21C 37/02 20060101AFI20241108BHJP
B21B 1/38 20060101ALI20241108BHJP
B21J 19/04 20060101ALI20241108BHJP
【FI】
B21C37/02 A
B21B1/38 K
B21C37/02 Z
B21J19/04
(21)【出願番号】P 2021052138
(22)【出願日】2021-03-25
【審査請求日】2024-02-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100196346
【氏名又は名称】吉川 貴士
(72)【発明者】
【氏名】松葉 勇介
【審査官】飯田 義久
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-235289(JP,A)
【文献】特開2018-024016(JP,A)
【文献】特開2008-264850(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21C 37/02
B21B 1/38
B21J 19/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の挟持部材を有しワークとしての金属板を挟持可能な挟持ユニットを、前記金属板の平面に沿った所定方向の三箇所以上に配置し、前記挟持ユニットにより前記金属板を前記所定方向の三箇所以上で挟持する挟持工程と、
前記所定方向で互いに隣接する前記挟持ユニット間の距離が二箇所以上で増大するように、前記複数の挟持ユニットを移動させて、前記金属板のうち前記挟持ユニットにより挟持された部分の間の領域を二箇所以上で引き伸ばす引き伸ばし工程とを具備し、
前記引き伸ばし工程において、前記挟持された部分の間の領域の引き伸ばし量を個別に制御することで、所定の厚み寸法分布を有する差厚金属板を形成する
と共に、
前記挟持工程において、前記挟持ユニットによる前記金属板の挟持力を制御することで、前記金属板の前記挟持された部分の厚み寸法を個別に調整する、差厚金属板の製造方法。
【請求項2】
一対の挟持部材を有しワークとしての金属板を挟持可能な挟持ユニットであって、前記金属板の所定方向の三箇所以上に配置される三つ以上の前記挟持ユニットと、
前記所定方向で互いに隣接する前記挟持ユニット間の距離が二箇所以上で増大するように、前記複数の挟持ユニットを移動可能な移動装置とを具備し、
前記移動装置は、前記挟持ユニットで挟持された部分の間の領域を二箇所以上で引き伸ばすように前記金属板を挟持した状態の前記複数の挟持ユニットを移動可能とし、かつ
前記挟持された部分の間の領域の引き伸ばし量を個別に制御
すると共に、
前記挟持ユニットによる前記金属板の挟持力を制御することで、前記金属板の前記挟持された部分の厚み寸法を個別に調整可能に構成される、差厚金属板の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、差厚金属板の製造方法及び差厚金属板の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車の製造工程では、種々のパネル状部品が所定のプレス加工により成形される。また、この種のプレス加工に供給するブランク材として、厚み寸法が相互に異なる部分が存在する金属板(いわゆる差厚金属板)が知られている。
【0003】
この差厚金属板を製造するための方法として、例えば特許文献1に記載された方法が知られている。この方法は、車体パネルを成形するための方法であって、平板を一方へ送りながら第1板厚部および第2板厚部を、第1板厚部の板厚ならびに第3板厚部の板厚との中間の板厚に圧延する第1圧延工程と、平板を他方へ送りながら第2板厚部の板厚に圧延する第2圧延工程と、第1板厚部ならびに第2板厚部の境界で圧延ロール間隔を第1板厚部の板厚用に設定し、この条件で平板を他方へ送りながら第1板厚部の板厚に圧延する第3圧延工程とを実施することで、板厚(厚み寸法)の異なるブランク材を取得し、取得したブランク材を成形することで車体パネルを成形するパネル成形工程とを具備する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の如き方法は、圧延ロールとなるワークロールの間隔を厳密に設定する必要があるため、短時間で加工することは難しく、量産性が低下するといった問題がある。そもそも圧延ロール間隔の精度管理は難しく、厚み寸法にある程度のばらつきが生じてしまうのが現状である。また、特許文献1に記載の方法だと、圧延用設備として、圧延ロールだけでなく、多数のロール(送りロール、ガイドロールなど)が必要となるため、設備が大型化するといった問題もあった。設備の大型化は、他の周辺設備の選択自由度を阻害し、間接的に設備コストの高騰を招くおそれがある。
【0006】
以上の事情に鑑み、本明細書では、簡素な設備で差厚金属板を量産可能とすることを、解決すべき技術課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題の解決は、本発明に係る差厚金属板の製造方法によって達成される。すなわち、この製造方法は、一対の挟持部材を有しワークとしての金属板を挟持可能な挟持ユニットを、金属板の平面に沿った所定方向の三箇所以上に配置し、挟持ユニットにより金属板を所定方向の三箇所以上で挟持する挟持工程と、所定方向で互いに隣接する挟持ユニット間の距離が二箇所以上で増大するように、複数の挟持ユニットを移動させて、金属板のうち挟持ユニットにより挟持された部分の間の領域を二箇所以上で引き伸ばす引き伸ばし工程とを具備し、引き伸ばし工程において、挟持された部分の間の領域の引き伸ばし量を個別に制御することで、所定の厚み方向分布を有する差厚金属板を形成する点をもって特徴付けられる。
【0008】
上述したように、本発明に係る金属板の製造方法では、一対の挟持部材を有する挟持ユニットを金属板の平面に沿った所定方向の三箇所以上に配置し、三つ以上の挟持ユニットで金属板を挟持するようにした。また、所定方向で互いに隣接する挟持ユニット間の距離が二箇所以上で増大するように、複数の挟持ユニットを移動させて、金属板のうち挟持ユニットで挟持された部分の間の領域を二箇所以上で引き伸ばすと共に、この際の引き伸ばし量を個別に制御するようにした。このように、本発明に係る製造方法によれば、金属板を挟持した状態の挟持ユニットを移動させるだけで、各挟持ユニットにより挟持された部分を基準として区画される金属板の所定領域を二箇所以上で引き伸ばすことができる。また、その際の引き伸ばし量は挟持ユニットの移動量に比例する。よって、各挟持ユニットの移動を別個独立に制御することで、金属板の二箇所以上の領域の厚み寸法を独立して所望の厚み寸法にすることが可能となる。挟持ユニットの移動を制御することは、圧延ロール隙間の管理に比べて容易であり、また、高速移動も比較的容易であるから、総じて量産性の面で優位である。また、基本的に挟持ユニットとこれら挟持ユニットを所望の態様で移動させるための装置(移動装置)があれば足りるので、製造装置を簡易に構築でき、大型化する心配もない。以上より、本発明に係る製造方法によれば、厚み寸法の異なる複数の部分を一体に有する差厚金属板を簡易な設備で量産することが可能となる。
【0009】
また、本発明に係る差厚金属板の製造方法は、挟持工程において、挟持ユニットによる金属板の挟持力を制御することで、金属板の挟持された部分の厚み寸法を個別に調整してもよい。
【0010】
本発明は、金属板を挟持した状態の挟持ユニットを所定方向に沿って移動させて金属板を引き伸ばすことによって、所定の厚み寸法分布を有する差厚金属板を量産可能とするものであるから、引き伸ばしの際に金属板の表面を滑らないよう強固に金属板を挟持する必要がある。本構成はこの点に着目してなされたもので、挟持する際の力を制御することで、挟持された部分の間の領域に加えて挟持された部分自体の厚み寸法についても個別に調整可能とした。このように挟持圧縮による薄肉化と引き伸ばしによる薄肉化とを組み合わせることで、より多様な厚み寸法分布に対応することができるので、量産性の向上と併せて、本発明の適用対象(適用範囲)をさらに広げることが可能となる。
【0011】
また、前記課題の解決は、本発明に係る差厚金属板の製造装置によっても達成される。すなわち、この製造装置は、一対の挟持部材を有しワークとしての金属板を挟持可能な挟持ユニットであって、金属板の所定方向の三箇所以上に配置される三つ以上の挟持ユニットと、所定方向で互いに隣接する挟持ユニット間の距離が二箇所以上で増大するように、複数の挟持ユニットを移動可能な移動装置とを具備し、移動装置は、挟持ユニットで挟持された部分の間の領域を二箇所以上で引き伸ばすように金属板を挟持した状態の複数の挟持ユニットを移動可能とし、かつ挟持された部分の間の領域の引き伸ばし量を個別に制御可能に構成される点をもって特徴付けられる。
【0012】
本発明に係る金属板の製造装置では、一対の挟持部材を有する挟持ユニットを金属板の平面に沿った所定方向の三箇所以上に配置し、三つ以上の挟持ユニットで金属板を挟持可能とした。また、所定方向で互いに隣接する挟持ユニット間の距離が二箇所以上で増大するように、複数の挟持ユニットを移動させて、金属板のうち挟持ユニットで挟持された部分の間の領域を二箇所以上で引き伸ばすと共に、この際の引き伸ばし量を個別に制御可能とした。このように、本発明に係る製造装置によれば、本発明に係る差厚金属板の製造方法と同様、金属板を挟持した状態の挟持ユニットを移動させるだけで、各挟持ユニットにより挟持された部分を基準として区画される金属板の所定領域を二箇所以上で引き伸ばすことができる。また、その際の引き伸ばし量は挟持ユニットの移動量に比例する。よって、各挟持ユニットの移動を別個独立に制御することで、金属板の二箇所以上の領域の厚み寸法を独立して所望の厚み寸法にすることが可能となる。一対の挟持部材からなる挟持ユニットの移動を制御することは、圧延ロール隙間の管理に比べて容易であり、また、高速移動も比較的容易であるから、総じて量産性の面で優位である。また、基本的に挟持ユニットとこれら挟持ユニットを所望の態様で移動させるための装置(移動装置)があれば足りるので、製造装置を簡易に構築でき、大型化する心配もない。以上より、本発明に係る製造方法によれば、厚み寸法の異なる複数の部分を一体に有する差厚金属板を簡易な設備で量産することが可能となる。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明に係る差厚金属板の製造方法及び差厚金属板の製造装置によれば、簡素な設備で厚み寸法の異なる部分を一体に有する差厚金属板を量産可能とすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の第一実施形態に係る差厚金属板の製造装置の構成を示す正面図である。
【
図3】
図1及び
図2に示す製造装置を用いた差厚金属板の製造方法の一例を説明するための要部正面図で、金属板を挟持した状態を示す要部正面図である。
【
図4】
図1及び
図2に示す製造装置を用いた差厚金属板の製造方法の一例を説明するための要部正面図で、金属板を挟持した状態の挟持ユニットが金属板の平面に沿った所定方向に所定距離だけ移動し終えた状態を示す要部正面図である。
【
図5】本発明の第二実施形態に係る差厚金属板の製造方法を説明するための要部正面図で、金属板のうち挟持ユニットで挟持された部分の間の領域を同じ量だけ引き伸ばした状態を示す要部正面図である。
【
図6】本発明の第三実施形態に係る差厚金属板の製造方法を説明するための要部正面図で、金属板のうち挟持ユニットで挟持された部分の間の領域の一部を先に引き伸ばした状態を示す要部正面図である。
【
図7】本発明の第四実施形態に係る差厚金属板の製造方法を説明するための要部正面図で、金属板のうち挟持ユニットで挟持された部分の厚み寸法が相互に異なるように、金属板を挟持した状態を示す要部正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の第一実施形態に係る差厚金属板の製造装置及び差厚金属板の製造方法の内容を図面に基づいて説明する。
【0016】
図1は、本実施形態に係る差厚金属板の製造装置10の正面図を示している。この製造装置10は、一対の挟持部材11a~11dを有する挟持ユニット12a~12dと、移動装置13と、支持部14とを具備する。以下、各要素の詳細を説明する。なお、以下の説明においては、ワークとしての金属板Wの平面方向をX方向及びY方向とし、金属板Wの厚み方向をZ方向とする。また、挟持ユニット12a~12dの配列方向をX方向とする。
【0017】
挟持ユニット12a~12dはそれぞれ、一対の挟持部材11a~11dを有する。ここで一対の挟持部材11a~11dは何れも、金属板Wの表裏両側に位置し、相互に近接することで、金属板WのX方向所定位置を挟持可能とされている。本実施形態では、
図2に示すように、金属板WのY方向全域が各挟持部材11a~11dと接するので、一対の挟持部材11a~11dの近接動作により、金属板WがY方向全域で一対の挟持部材11a~11dにより挟持される。
【0018】
各挟持部材11a~11dの先端面は所定の形状をなしている。本実施形態では、各先端面は何れも平坦形状をなし、ワークとしての金属板Wと面接触するようになっている。
【0019】
移動装置13は、上記構成の挟持ユニット12a~12d、詳述すると、複数対の挟持部材11a~11dを別個独立に移動可能としている。ここで、
図1中最も左側の第一挟持ユニット12aを例にとって説明すると、この第一挟持ユニット12aを構成する一対の挟持部材11a,11aは、移動装置13によりX方向及びY方向に移動可能に制御される。また、一対の挟持部材11a,11aがX方向に移動する際、一対の挟持部材11a,11aは同期して移動可能に制御される。他の挟持ユニット12b~12d及び各対の挟持部材11b~11dの移動についても、移動装置13により、第一挟持ユニット12aと同じ態様に制御される。なお、本実施形態では、複数対の挟持部材11a~11dは、移動装置13により、Z方向の移動についても制御可能とされる。もちろん、移動装置13とは別の駆動機構で各挟持部材11a~11dをZ方向に移動可能に制御してもよい。
【0020】
移動装置13としては、任意かつ公知の駆動機構が適用でき、例えば数値制御が可能な駆動機構が好適である。一例として、サーボモータなど電気的に数値制御が可能な駆動機構が挙げられる。この場合、挟持部材11a~11dごとにサーボモータを接続して、別個独立に駆動制御を可能としてもよい。
【0021】
支持部14は、例えば
図1に示すように金属板WのX方向複数箇所で金属板Wを支持する。これら支持部14は、図示は省略するが、所定の駆動装置によりX方向に移動可能とされている。そのため、後述する挟持ユニット12a~12dのX方向への移動時、支持部14は、金属板Wを支持した状態を維持しつつ挟持ユニット12a~12dとの干渉を避ける位置まで移動可能とされる。
【0022】
次に、本実施形態に係る差厚金属板の製造装置10を用いた金属板の製造方法の一例を主に
図3及び
図4に基づいて説明する。
【0023】
(S1)挟持工程
まず
図3に示すように、各挟持ユニット12a~12dの各一対の挟持部材11a~11dを、X方向の所定位置X0a~X0dに配置する。そして、各一対の挟持部材11a~11dを相互に接近させて、金属板Wのうち各一対の挟持部材11a~11d間に配置された部分を挟持する。
【0024】
(S2)引き伸ばし工程
そして、
図3に示す状態から、各一対の挟持部材11a~11dをそれぞれX方向に沿った所定の向きに移動させることで、金属板Wのうち各一対の挟持部材11a~11dで挟持された部分Wa~Wdの間の領域Wab,Wbc,Wcd(以下、被挟持部間領域Wab,Wbc,Wcdと称する。)を引き伸ばす。本実施形態では、
図3中の位置X0bで金属板Wを挟持した状態の第二挟持ユニット12b(一対の挟持部材11b,11b)を第一挟持ユニット12a側に移動させると共に、第二挟持ユニット12bとX方向で隣接し位置X0cで金属板Wを挟持した状態の第三挟持ユニット12c(一対の挟持部材11c,11c)を第四挟持ユニット12d側に移動させる。また、第二挟持ユニット12bとX方向で隣接し位置X0aで金属板Wを挟持した状態の第一挟持ユニット12a(一対の挟持部材11a,11a)を第二挟持ユニット12bから遠ざかる向きに移動させると共に、第三挟持ユニット12cとX方向で隣接し位置X0dで金属板Wを挟持した状態の第四挟持ユニット12d(一対の挟持部材11d,11d)を第三挟持ユニット12cから遠ざかる向きに移動させる。
【0025】
なお、上述した挟持ユニット12a~12dのX方向への移動に関し、各挟持ユニット12a~12dの移動を開始するタイミング、移動速度は原則として任意であるが、例えば互いに隣接する挟持ユニット12a,12bが同じ向きに移動する場合、これら挟持ユニット12a,12bで挟持される部分Wa,Wb間の領域Wabが圧縮されないように、移動開始タイミング及び移動速度を調整するのがよい。本実施形態では、例えば第一及び第二挟持ユニット12a,12bを同一の移動速度でかつ同時に移動を開始する。また、第三及び第四挟持ユニット12c,12dを同一の移動速度でかつ同時に移動を開始する。この場合、移動距離が相対的に大きい第一挟持ユニット12aが、第二挟持ユニット12bの移動完了後も引き続き移動を継続する。同様に、移動距離が相対的に大きい第四挟持ユニット12dが、第三挟持ユニット12cの移動完了後も引き続き移動を継続する。
【0026】
以上の動作により各被挟持部間領域Wab,Wbc,Wcdが、各挟持ユニット12a~12dの移動量に応じて引き伸ばされる。ここで、
図4に示すように、各挟持ユニット12a~12dのX方向の移動量をそれぞれSa,Sb,Sc,Sdとした場合、被挟持部間領域Wab,Wbc,Wcdの引き伸ばし量はそれぞれSa-Sb,Sb+Sc,Sd-Scとして表される。言い換えると、引き伸ばし前の状態(
図3に示す状態)における挟持ユニット12a~12d間距離Lab,Lbc,Lcdと、引き伸ばし後の状態(
図4に示す状態)における挟持ユニット12a~12d間距離Lab’,Lbc’,Lcd’とを比べた場合、それぞれ引き伸ばし量Sa-Sb,Sb+Sc,Sd-Scだけ伸びている。また、引き伸ばし量と厚み寸法との間には相関関係が認められるため、引き伸ばし量Sa-Sb,Sb+Sc,Sd-Scをそれぞれ所定の大きさとすることで、各被挟持部間領域Wab,Wbc,Wcdの厚み寸法tab,tbc,tcdを所定の大きさにすることができる。例えば
図4に示すように、tab<tcd<tbcとするためには、Sa-Sb>Sd-Sc>Sb+Scとなるように、各挟持ユニット12a~12dの移動量Sa~Sdを移動装置13により所定の大きさに制御すればよい。この場合、互いに厚み寸法t0,tab,tbc,tcdが互いに異なる部分を一体に有する金属板(差厚金属板)Wが得られる。もちろん、上述の引き伸ばし動作の際に、各一対の挟持部材11a~11dによる挟持力が付与された状態を解消することにより金属板Wが所定のX方向距離分だけ弾性復元することを考慮して、各挟持ユニット12a~12dのX方向への移動量を設定することが肝要である。後述する第二実施形態においても同様である。
【0027】
以上述べたように、本実施形態に係る金属板の製造装置10では、一対の挟持部材11a~11dを有する挟持ユニット12a~12dを金属板Wの平面に沿った所定方向の三箇所以上(ここではX方向の四箇所)に配置し、三つ以上の挟持ユニット12a~12dで金属板Wを挟持するようにした。また、所定方向で互いに隣接する挟持ユニット12a~12d間の距離Lab,Lbc,Lcdが二箇所以上(ここでは三箇所全て)で増大するように、複数の挟持ユニット12a~12dを移動させて、金属板Wのうち挟持ユニット12a~12dで挟持された部分Wa~Wdの間の領域Wab,Wbc,Wcdを二箇所以上で引き伸ばすと共に、この際の引き伸ばし量Sa-Sb,Sb+Sc,Sd-Scを個別に制御するようにした。このように、本発明に係る製造方法によれば、金属板Wを挟持した状態の挟持ユニット12a~12dを移動させるだけで、各挟持ユニット12a~12dにより挟持された部分Wa~Wdを基準として区画される金属板Wの所定領域(被挟持部間領域Wab,Wbc,Wcd)を二箇所以上で引き伸ばすことができる。また、本実施形態のように、各一対の挟持部材11a~11dと金属板Wとの間にX方向の滑りが生じない場合、金属板Wの引き伸ばし量は、各挟持ユニット12a~12dの移動量をそれぞれSa~Sdとした場合、Sa-Sb,Sb+Sc,Sd-Scと算出することができる。よって、各挟持ユニット12a~12dの移動を別個独立に制御することで、金属板Wの二箇所以上の領域の厚み寸法tab,tbc,tcdを独立して所望の厚み寸法にすることが可能となる。挟持ユニット12a~12dの移動を制御することは、圧延ロール隙間の管理に比べて容易であり、また、高速移動も比較的容易であるから、総じて量産性の面で優位である。また、基本的に挟持ユニット12a~12dとこれら挟持ユニット12a~12dを所望の態様で移動させるための装置(移動装置13)があれば足りるので、製造装置10を簡易に構築でき、大型化する心配もない。以上より、本発明に係る製造方法によれば、厚み寸法t0,tab,tbc,tcdの異なる複数の部分を一体に有する差厚金属板W(
図4を参照)を簡易な設備で量産することが可能となる。
【0028】
以上、本発明の一実施形態(第一実施形態)について述べたが、本発明に係る差厚金属板の製造装置又は差厚金属板の製造方法は、その趣旨を逸脱しない範囲において、上記以外の構成を採ることも可能である。
【0029】
例えば、上記実施形態では、四つの挟持ユニット12a~12dを同期してかつ同じ速度でX方向に移動させる場合を例示したが、もちろんこれ以外の引き伸ばし態様を採ることも可能である。
図5はその一例(本発明の第二実施形態)に係る差厚金属板の製造方法を説明するための要部正面図を示している。すなわち、本実施形態に係る製造方法では、引き伸ばし工程S2について、三箇所の被挟持部間領域Wab,Wbc,Wcdのうち、最も引き伸ばし量の小さい被挟持部間領域Wbcに合わせて、三箇所の被挟持部間領域Wab,Wbc,Wcdを同じ量だけ引き伸ばし(第一引き伸ばし工程S21)、然る後、最も引き伸ばし量の小さい被挟持部間領域Wbcを除いた他の二箇所の被挟持部間領域Wab,Wcdを最終的な引き伸ばし量となるまでさらに引き伸ばす(第二引き伸ばし工程S22)。この場合、第一引き伸ばし工程S21(
図3に示す状態から
図5に示す状態に引き伸ばす工程)で、各挟持ユニット12a~12d間のX方向距離Lab,Lbc,Lcdは同じ量だけ増加するので、各挟持ユニット12a~12dのX方向への移動量をそれぞれSa’,Sb,Sc,Sd’とした場合、各被挟持部間領域Wab,Wbc,Wcdの引き伸ばし量はそれぞれSa’-Sb,Sb+Sc,Sd’-Scとなり、Sa’-Sb=Sb+Sc=Sd’-Scが成立する。
【0030】
然る後、X方向両側の被挟持部間領域Wab,Wbcのみをさらに引き伸ばして、各被挟持部間領域Wab,Wcdを最終的な引き伸ばし量Sa-Sb,Sd-Sc(
図4を参照)となるまでさらに引き伸ばす(第二引き伸ばし工程S22)。これにより、各被挟持部間領域Wab,Wbc,Wcdが第一実施形態と同じ長さにまで引き伸ばされる。
【0031】
このように、引き伸ばし工程S2を二工程(第一引き伸ばし工程S21と第二引き伸ばし工程S22)に分けて金属板Wを引き伸ばすことによっても、所定の厚み寸法分布を有する差厚金属板W(
図4を参照)を得ることができる。なお、図示は省略するが、一方の被挟持部間領域Wabと他方の被挟持部間領域Wcdとで最終的な引き伸ばし量Sa-Sb,Sd-Scの大きさが異なる場合、さらに第二引き伸ばし工程S22を二工程に分けて、先に引き伸ばし量の小さい被挟持部間領域Wcdに合わせて、残り二箇所の被挟持部間領域Wa,Wcdを同じ量だけ引き伸ばし、然る後、残り一箇所の被挟持部間領域Wabを最終的な引き伸ばし量となるまでさらに引き伸ばしてもよい。
【0032】
図6は、さらに他の例(本発明の第三実施形態)に係る差厚金属板の製造方法を説明するための要部正面図を示している。本実施形態に係る製造方法では、三箇所の被挟持部間領域Wab,Wbc,Wcdのうち、最も引き伸ばし量の小さい被挟持部間領域Wbcのみを最終的な引き伸ばし量となるまで引き伸ばす(第一引き伸ばし工程S21’)。また、残りの二箇所の被挟持部間領域Wab,Wcdについては、引き伸ばしも押し潰し(X方向への圧縮)も生じることがないよう、X方向両側の挟持ユニット12a,12dをX方向に移動させる。そして、残りの二箇所の被挟持部間領域Wab,Wcdを最終的な引き伸ばし量となるまで引き伸ばす(第二引き伸ばし工程S22’)。この場合、第一引き伸ばし工程S21’(
図3に示す状態から
図6に示す状態に引き伸ばす工程)で、第二挟持ユニット12bと第三挟持ユニット12c間のX方向距離Lbc’は、引き伸ばし前のX方向距離Lbcに対して、最終的な引き伸ばし量Sb+Sc分だけ増加するのに対し、第一挟持ユニット12aと第二挟持ユニット12b間のX方向距離Lab、及び第三挟持ユニット12cと第四挟持ユニット12d間のX方向距離Lcdは、引き伸ばし前のX方向距離Lab,Lcdと同じである。言い換えると、これらX方向距離Lab’,Lcd’は、第一引き伸ばし工程S21’の前後で一定である(増減しない)。
【0033】
然る後、X方向両側の被挟持部間領域Wab,Wcdのみを引き伸ばして、各被挟持部間領域Wab,Wcdを最終的な引き伸ばし量Sa-Sb,Sd-Sc(
図4を参照)となるまで引き伸ばす(第二引き伸ばし工程S22’)。これにより、各被挟持部間領域Wab,Wbc,Wcdが第一実施形態と同じ長さにまで引き伸ばされる。
【0034】
このように引き伸ばし工程S2を二工程(第一引き伸ばし工程S21’と第二引き伸ばし工程S22’)に分けて金属板Wを引き伸ばすことによっても、所定の厚み寸法分布を有する差厚金属板W(
図4を参照)を得ることが可能となる。
【0035】
なお、以上の説明に係る引き伸ばし態様に限らず、他の引き伸ばし態様を採ることも可能なことはもちろんである。すなわち、X方向で隣接する挟持ユニット12a(12b,12c),12b(12c,12d)間の距離が増加する限りにおいて、各挟持ユニット12a~12dのX方向への移動態様は任意である。
【0036】
また、挟持工程S1において、例えば
図7に示すように、金属板Wのうち各挟持ユニット12a~12dで挟持される部分Wa~Wdをそれぞれ所定の厚み寸法ta~tdにしてもよい。すなわち、各挟持ユニット12aを構成する各一対の挟持部材11a~11dで金属板WのX方向所定箇所を挟持する場合に、各一対の挟持部材11a~11dによる挟持力を調整して、各挟持ユニット12a~12dで挟持される部分Wa~Wdの厚み寸法ta~tdを個別に調整してもよい。この際、例えばX方向両側で隣接する被挟持部間領域Wab,Wbc,Wcdの厚み寸法tab,tbc,tcdの平均値とすることによって、各被挟持部間領域Wab,Wbc,Wcd同士を滑らかにつなげることができる。
【0037】
このように、挟持ユニット12a~12dで金属板Wを所定の厚み寸法になるように挟持した状態で、上記実施形態のように各挟持ユニット12a~12dをX方向に移動させることで、各被挟持部間領域Wab,Wbc,Wcdを所定の厚み寸法tab,tbc,tcdとなるまで引き伸ばす。これによっても
図4に示す厚み寸法分布を有する差厚金属板Wを得ることができる。本実施形態に係る製造方法によれば、金属板Wの被挟持部Wa~Wdと、被挟持部間領域Wab,Wbc,Wcdとをそれぞれ個別に所定の厚み寸法にすることができるので、差厚金属板の成形自由度をさらに高めることが可能となる。
【0038】
なお、以上の説明に係る挟持態様に限らず、他の挟持態様を採ることも可能なことはもちろんである。すなわち、金属板Wの被挟持部間領域Wab,Wbc,Wcdを二箇所以上でX方向に引き伸ばし可能な限りにおいて、各挟持ユニット12a~12dの挟持態様は任意である。
【0039】
また、上記実施形態では、各挟持部材11a~11dの先端面を平坦形状としているが、もちろんこれには限られない。例えば所定の三次元形状を被挟持部Wa~Wdに転写可能な形状としてもよい。
【0040】
また、上記実施形態では、各挟持部材11a~11dの先端面を断面R状の曲面で各挟持部材11a~11dの側面につなげた形状をなす場合を例示したが、もちろんこれについても任意の形状が採用可能である。例えば図示は省略するが、各挟持部材11a~11dの先端面をテーパ状の傾斜面で各挟持部材11a~11dの側面につなげた形状としてもよい。
【0041】
また、以上の説明では、四つの挟持ユニット12a~12d(すなわち四対の挟持部材11a~11d)を用いて、三箇所の被挟持部間領域Wab,Wbc,Wcdを所定の厚み寸法となるまで引き伸ばす場合を例示したが、もちろんこれには限られない。二箇所以上の被挟持部間領域を引き伸ばし可能な限りにおいて、挟持ユニットの数は任意である。
【0042】
また、以上の説明では、ワークとなる金属板Wとして、長尺の矩形状をなすものを例示し、かつ三つ以上の挟持ユニット12a~12dを金属板Wの長尺方向に沿って配設した場合を例示したが(
図2等を参照)、もちろんこれには限られない。例えば矩形状をなす金属板の短辺方向に沿って三つ以上の挟持ユニットを配設してもよい。
【0043】
また、以上の説明より、本発明は、自動車用構造材に用いられる差厚鋼板などに好適であるが、もちろんこれには限定されない。例えば鋼以外の材質の差厚金属板に本発明を適用してもよい。また、用途の面でも構造材以外の用途に係る差厚金属板に本発明を適用してもよく、さらにいえば自動車用以外の用途に係る差厚金属板に本発明を適用してもよい。
【符号の説明】
【0044】
10 製造装置
11a,11b,11c,11d 挟持部材
12a,12b,12c,12d 挟持ユニット
13 移動装置
14 支持部
Lab,Lbc,Lcd X方向距離(隣接する挟持ユニット間)
Sa,Sb,Sc,Sd X方向移動量(挟持ユニット)
t0,ta,tb,tc,td,tab,tbc,tcd 厚み寸法
W 金属板
Wa,Wb,Wc,Wd 被挟持部
Wab,Wbc,Wcd 被挟持部間領域
X0a,X0b,X0c,X0d X方向位置(挟持ユニット)