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特許7584225熱伝導性樹脂組成物用アルミナフィラー、熱伝導性樹脂組成物、および熱伝導性樹脂組成物用アルミナフィラーの製造方法
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  • 特許-熱伝導性樹脂組成物用アルミナフィラー、熱伝導性樹脂組成物、および熱伝導性樹脂組成物用アルミナフィラーの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-07
(45)【発行日】2024-11-15
(54)【発明の名称】熱伝導性樹脂組成物用アルミナフィラー、熱伝導性樹脂組成物、および熱伝導性樹脂組成物用アルミナフィラーの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20241108BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20241108BHJP
   C01F 7/02 20220101ALI20241108BHJP
   C09K 5/14 20060101ALI20241108BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K3/22
C01F7/02
C09K5/14 E
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020045795
(22)【出願日】2020-03-16
(65)【公開番号】P2021147425
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2023-03-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003263
【氏名又は名称】三菱電線工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】西山 雅史
(72)【発明者】
【氏名】梛良 積
【審査官】櫛引 智子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/093035(WO,A1)
【文献】特開2002-020652(JP,A)
【文献】特表2019-521061(JP,A)
【文献】国際公開第2014/017662(WO,A1)
【文献】特開2003-342021(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L,C08K,C01F
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料アルミナ粒子の研磨物である電融アルミナ粒子を含む熱伝導性樹脂組成物用アルミナフィラーであって、
前記電融アルミナ粒子中に、水に対する2時間沈降試験における上澄み固形分である微細電融アルミナ粒子を1質量%以上含み、
前記電融アルミナ粒子の比表面積が前記原料アルミナ粒子の比表面積に対して25%以上大きいことを特徴とする熱伝導性樹脂組成物用アルミナフィラー。
【請求項2】
樹脂中に請求項1に記載の熱伝導性樹脂組成物用アルミナフィラーを含むことを特徴とする熱伝導性樹脂組成物。
【請求項3】
前記樹脂100質量部に対して、前記熱伝導性樹脂組成物用アルミナフィラーを1200質量部以上含むことを特徴とする請求項2に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1に記載の熱伝導性樹脂組成物用アルミナフィラーの製造方法であって、
電融アルミナ粒子と溶媒とを混合したスラリーを10m/sec以上の周速で旋回流動させ、前記電融アルミナ粒子どうしを衝突させて研磨する粒子研磨工程を有することを特徴とする熱伝導性樹脂組成物用アルミナフィラーの製造方法。
【請求項5】
前記粒子研磨工程は3分以上60分以下の範囲で行うことを特徴とする請求項4に記載の熱伝導性樹脂組成物用アルミナフィラーの製造方法。
【請求項6】
前記粒子研磨工程は、前記電融アルミナ粒子の比表面積を、前記粒子研磨工程を実施前の前記電融アルミナ粒子の比表面積に対して25%以上大きくする工程であることを特徴とする請求項4または5に記載の熱伝導性樹脂組成物用アルミナフィラーの製造方法。
【請求項7】
前記粒子研磨工程は、前記電融アルミナ粒子の平均粒子径D50を、前記粒子研磨工程を実施前の前記電融アルミナ粒子の平均粒子径D50に対して-15%以上大きくする工程であることを特徴とする請求項4から6のいずれか一項に記載の熱伝導性樹脂組成物用アルミナフィラーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性樹脂組成物用アルミナフィラー、熱伝導性樹脂組成物、および熱伝導性樹脂組成物用アルミナフィラーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気自動車、燃料電池自動車などの進展に伴って、電気部品の大電流化が進んでおり、電気部品から生じる発熱量も増加しつつある。例えば、自動車用のリチウムイオンバッテリは、大電流の電力を長時間連続して出力するために発熱量が多くなり、生じた多量の熱を効率的に外部に放熱する必要がある。このため、リチウムイオンバッテリなど大電流を出力する電気部品のパッケージとして、熱伝導性に優れた樹脂材料(熱伝導性樹脂組成物)を用いることが一般的である。
【0003】
従来、熱伝導性樹脂組成物としては、絶縁性や成形性に優れた樹脂材料に、熱伝導性に優れた無機材料フィラーを分散させたものが挙げられる。無機材料フィラーとしては、熱伝導性や比重の点から、電融アルミナ(Al)結晶粒子からなるアルミナフィラーが一般的に用いられている。
【0004】
熱伝導性樹脂組成物の熱伝導率は、アルミナフィラーの含有率を高めることで向上させることができる。一例として、5W/mk以上の高い熱伝導率の熱伝導性樹脂組成物を得るためには、樹脂材料100質量部に対して、1100質量部以上のアルミナフィラーを混錬させる必要がある。
【0005】
しかし一方で、アルミナフィラーの含有率を高めると、得られる熱伝導性樹脂組成物の硬さも高くなり、使用箇所への充填性(形状追従性)が低下し、また、製造時に樹脂材料に対してアルミナフィラーを均一に混錬することも困難になるという課題があった。
【0006】
このため、例えば、特許文献1では、アルミナフィラーとして球状アルミナ粒子を用いて、高含有率であっても硬さが低く抑えられ、かつ混練が容易な樹脂組成物が開示されている。
また、特許文献2には、平均粒子径が5~4000μmで、円形度が0.85以上の丸味状電融アルミナ粒子が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第4361997号公報
【文献】特許第4817683号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に開示された樹脂組成物に用いる球状アルミナ粒子は製造工程が複雑であり、製造コストが高いという課題があった。
また、特許文献2に開示された丸味状電融アルミナ粒子は、製造原料として安価な電融アルミナを用いているものの、分級後に得られる丸味状電融アルミナ粒子の収量が低く、結果的に高コストになってしまうという課題があった。
【0009】
本発明は、このような事情を考慮してなされたものであり、熱伝導性に優れ、かつ硬さが低い熱伝導性樹脂組成物を低コストに得ることが可能な熱伝導性樹脂組成物用アルミナフィラー、およびこれを用いた熱伝導性樹脂組成物、またこの熱伝導性樹脂組成物用アルミナフィラーの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を提案している。
即ち、本発明の熱伝導性樹脂組成物用アルミナフィラーは、原料アルミナ粒子の研磨物である電融アルミナ粒子を含む熱伝導性樹脂組成物用アルミナフィラーであって、前記電融アルミナ粒子中に、水に対する2時間沈降試験における上澄み固形分である微細電融アルミナ粒子を1質量%以上含み、前記電融アルミナ粒子の比表面積が前記原料アルミナ粒子の比表面積に対して25%以上大きいことを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、1μm以下の微細電融アルミナ粒子を少なくとも1質量%以上含むことにより、樹脂と混錬した際に、硬さが高くなりすぎないため成形性にすぐれ、多くのフィラーを含有した熱伝導性樹脂組成物を形成可能な熱伝導性樹脂組成物用アルミナフィラーを実現できる。また、高価な丸み状アルミナ粒子を用いないので、低コストな熱伝導性樹脂組成物用アルミナフィラーを実現できる。
【0013】
本発明の熱伝導性樹脂組成物は、樹脂中に前記各項に記載の熱伝導性樹脂組成物用アルミナフィラーを含むことを特徴とする。
【0014】
また、本発明では、前記樹脂100質量部に対して、前記熱伝導性樹脂組成物用アルミナフィラーを1200質量部以上含んでいてもよい。
【0015】
本発明の熱伝導性樹脂組成物用アルミナフィラーの製造方法は、前記各項に記載の熱伝導性樹脂組成物用アルミナフィラーの製造方法であって、前記電融アルミナ粒子と溶媒とを混合したスラリーを10m/sec以上の周速で旋回流動させ、前記電融アルミナ粒子どうしを衝突させて研磨する粒子研磨工程を有することを特徴とする。
【0016】
また、本発明では、前記粒子研磨工程は3分以上60分以下の範囲で行ってもよい。
【0017】
また、本発明では、前記粒子研磨工程は、前記電融アルミナ粒子の比表面積を、前記粒子研磨工程を実施前の前記電融アルミナ粒子の比表面積に対して25%以上大きくする工程であってもよい。
【0018】
また、本発明では、前記粒子研磨工程は、前記電融アルミナ粒子の平均粒子径D50を、前記粒子研磨工程を実施前の前記電融アルミナ粒子の平均粒子径D50に対して-15%以上大きくする工程であってもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、熱伝導性に優れ、かつ硬さが低い熱伝導性樹脂組成物を低コストに得ることが可能な熱伝導性樹脂組成物用アルミナフィラー、およびこれを用いた熱伝導性樹脂組成物、またこの熱伝導性樹脂組成物用アルミナフィラーの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本実施形態の電融アルミナ粒子を示す顕微鏡写真である。
図2】従来の原料アルミナ粒子を示す顕微鏡写真である。
図3】アルミナ粒子の質量部数と、得られた熱伝導性樹脂組成物の熱伝導率との関係を示すグラフである。
図4】2時間沈降試験の様子を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態の熱伝導性樹脂組成物用アルミナフィラー、およびこれを用いた熱伝導性樹脂組成物、またこの熱伝導性樹脂組成物用アルミナフィラーの製造方法について説明する。なお、以下に示す実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0022】
(熱伝導性樹脂組成物用アルミナフィラー)
熱伝導性樹脂組成物用アルミナフィラー(以下、アルミナフィラーと称する)は、樹脂と混合して熱伝導性樹脂組成物を得るための熱伝導材料である。本発明の一実施形態のアルミナフィラーは、性状が微粉末状のアルミナ(Al)である。
【0023】
熱伝導性樹脂組成物のフィラーとしてアルミナを用いたのは、アルミナの熱伝導率が30W/m・K程度と比較的高いためである。
【0024】
本実施形態のアルミナフィラーは、原料アルミナ粒子(電融アルミナ粒子)を研磨することによって得られる電融アルミナ粒子を含み、具体的には、1μm以下の微細電融アルミナ粒子を少なくとも1質量%以上含んでいる。
なお、以下の説明においては、微細電融アルミナ粒子と言った場合には1μm以下の電融アルミナ粒子を意味し、単に電融アルミナ粒子と言った場合には、特に粒径の限定の無い電融アルミナ粒子を意味するものとする。
【0025】
研磨された電融アルミナ粒子の製造原料である原料アルミナ粒子として、電気アーク炉内でのボーキサイトの還元融解等によって製造される電融アルミナ粒子を用いたのは、粒子径が大きくブロードな粒度分布を有すること、および樹脂等に高い充填率で混合することが可能であり、熱伝導性樹脂組成物の熱伝導性を高めることができるためである。
【0026】
また、本実施形態のアルミナフィラーは、電融アルミナ粒子の比表面積が原料アルミナ粒子の比表面積に対して25%以上大きい。即ち、後述するアルミナフィラーの製造方法において、原料アルミナ粒子を研磨することで、原料アルミナ粒子の比表面積を25%以上向上させた電融アルミナ粒子を用いている。
【0027】
本実施形態における比表面積は、単位質量あたりの表面積(m/g)である。本実施形態における比表面積の測定は、BET法(粉体粒子表面に、吸着占有面積が既知の分子を液体窒素で吸着させ、その吸着量から試料の比表面積を算出する)によって行った。
こうした比表面積の測定は、全自動ガス吸着量測定装置(Autosorb-iQ:カンタクローム・インスツルメンツ・ジャパン)を用いて行った。
【0028】
また、本実施形態のアルミナフィラーに含まれる電融アルミナ粒子は、水に対する2時間沈降試験において、上澄み固形分質量に対する全体固形分質量が少なくとも0.3質量%以上、好ましくは2.0質量%以上、より好ましくは5.0質量%以上である。
【0029】
なお、本実施形態における沈降試験は、試料となる電融アルミナ粒子を濃度が2.4質量%となるように水に懸濁させてスラリーを形成し、このスラリーを液面高さが20mmとなるように容器に注入し、2時間静置する。その後、上澄みを分取して90℃で水分を蒸発させ、残留固形分の質量を測定し、スラリーの全体固形分質量に対する残留固形分の質量の比率(百分率)を算出したものである。
【0030】
以上のような本実施形態のアルミナフィラーは、1μm以下の微細電融アルミナ粒子を少なくとも1質量%以上含むことにより、球状アルミナ粒子を用いた場合と比較して、低コストで、樹脂と混錬した際に高い熱伝導率をもつアルミナフィラーを実現できる。そして、本実施形態のアルミナフィラーを樹脂に混合すれば、低硬さで形状追従性に優れた熱伝導性樹脂組成物を得ることができる。
【0031】
(熱伝導性樹脂組成物)
本実施形態の熱伝導性樹脂組成物は、樹脂中に本実施形態のアルミナフィラーを含むものからなる。例えば、樹脂100質量部に対して、本実施形態のアルミナフィラーを1200質量部以上混合させたペースト状のものであればよい。例えば、樹脂100質量部に対して、本実施形態のアルミナフィラー1200質量部~1500質量部を混合させることによって、本実施形態の熱伝導性樹脂組成物が得られる。
【0032】
アルミナフィラーと混合させる樹脂としては、特に限定されるものではなく、特に制限されず、公知な樹脂を用いることができる。具体的には、炭化水素系樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂等、キシレンホルムアルデヒド樹脂、グアナミン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、フェノール樹脂、フラン樹脂、ポリイミド樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂等が例示できる。
【0033】
本実施形態の熱伝導性樹脂組成物は、原料アルミナ粒子(電融アルミナ粒子)と樹脂とを混合した従来の熱伝導性樹脂組成物と比較して、同一の配合比率において、硬さが9%以上57%以下の範囲で低下している。こうした硬さの低下、即ち、柔らかくなることによって、本実施形態の熱伝導性樹脂組成物は流動性が高められる。これにより、本実施形態の熱伝導性樹脂組成物は、充填部分での形状追従性を向上させることができ、伝熱対象物に隙間なく密着して効率よく伝熱させることができる。また、原料アルミナ粒子(電融アルミナ粒子)と樹脂とを混合した従来の熱伝導性樹脂組成物と比較して、同程度の硬さとした場合は、多くの多くのフィラーを混合することができるため、本実施形態の熱伝導性樹脂組成物は、熱伝導性を向上させることができる。
【0034】
(熱伝導性樹脂組成物用アルミナフィラーの製造方法)
本実施形態の熱伝導性樹脂組成物用アルミナフィラーを製造する際には、原料アルミナ粒子(電融アルミナ粒子)を研磨する粒子研磨工程を行うことにより製造する。
粒子研磨工程では、原料アルミナ粒子と溶媒とを混合したスラリーを10m/sec以上の周速で旋回流動させ、原料アルミナ粒子どうしを衝突させて研磨する。
【0035】
粒子研磨工程では、原料アルミナ粒子(電融アルミナ粒子)として、市販の電融アルミナ粉末が利用できる。原料の電融アルミナ粉末は、アルミナフィラーが組成物の表面粗さを考慮すると100μmを超える径の粒子を含まないことが好ましいので、篩目サイズ100μmの篩を通過した電融アルミナ粉末を使用する。
なお、原料アルミナ粒子(電融アルミナ粒子)は、例えば、微細電融アルミナ粒子が1%未満の電融アルミナ粒子を用いても良い。
【0036】
こうした原料の電融アルミナ粉末をスラリー化させる溶媒としては、アルミナを溶解しない安定した液体、例えば水を用いる。本実施形態では、溶媒としてイオン交換水を用いている。溶媒として水を用いた場合の原料アルミナ粒子の濃度は、例えば、70質量%~80質量%程度にすればよい。
【0037】
こうした原料アルミナ粒子と水とをスラリー化して研磨する手段としては、例えば、乳化・分散装置(アスペックディスパーサーZERO 広島メタル&マシナリー株式会社製)が挙げられる。この乳化・分散装置は、水冷されるステータ内で攪拌ローターが高速回転する。ステータと攪拌ローターとの隙間に上述した原料アルミナ粒子と水とが導入されると、攪拌ローターの回転によって原料アルミナ粒子が水に対して均質に分散したスラリー(分散液)となり、このスラリー中で原料アルミナ粒子どうしが衝突することによって自己研磨される。
【0038】
ローターの回転速度は、10m/sec以上の周速であればよい。これにより、スラリーは10m/sec以上の周速で旋回流動され、原料アルミナ粒子を効率的に研磨することができる。また、こうした粒子研磨工程での原料アルミナ粒子の研磨時間は、3分以上60分以下の範囲で行えばよい。研磨時間が3分未満では、比表面積が原料アルミナ粒子に対して十分に大きくならない懸念がある。また、長時間研磨を行うと、アルミナ粒子が破砕されて粒子が細かくなりすぎてしまうおそれがある。粒子が細かくなりすぎた場合、樹脂との混錬時に粘度が高くなりすぎ成形性が悪くなったり、十分な量のフィラーが混合できずに熱伝導度が充分に向上しなかったりするおそれがある。
【0039】
乳化・分散装置には、原料アルミナ粒子と水とを個別に2液で供給しても、予め混合したスラリーで供給してもよい。
【0040】
なお、原料アルミナ粒子と水とをスラリー化して研磨する手段としては、他にもビースミルやボールミルなども挙げられるが、粉砕効果が大きすぎることやビーズやボールなどのメディアの混入による品質の低下の懸念がある。
【0041】
以上のような粒子研磨工程を行った後、濾過による固液分離や、乾燥による水分除去によって、研磨された電融アルミナ粒子を得る。本実施形態の熱伝導性樹脂組成物用アルミナフィラーは、上述した方法によって得られた1μm以下の微細電融アルミナ粒子を1質量%以上含む。
【0042】
このように、原料アルミナ粒子どうしを衝突させて研磨することによって得られる電融アルミナ粒子は、平均粒子径D50が原料アルミナ粒子から大きく変化していない。例えば、電融アルミナ粒子の平均粒子径D50は、原料アルミナ粒子の平均粒子径D50に対して-15%以上大きく、最大でも15%程度である。
【0043】
本実施形態における平均粒子径D50は、メジアン径(中央径)、即ち頻度の累積が50%になる粒子径である。こうした平均粒子径D50の測定は、レーザー回折散乱式の粒度分布測定装置(MT3300EXII:マイクロトラック・ベル株式会社)を用いて行った。
【0044】
なお、原料アルミナ粒子を研磨した場合、電融アルミナ粒子の平均粒子径D50は、原料アルミナ粒子平均粒子径D50に対して必ず小さくなる。つまり、原理的には、電融アルミナ粒子の平均粒子径D50は、原料アルミナ粒子の平均粒子径D50に対してプラスになることはない。しかし、研磨後の微細粒子が充分に回収されない場合、見かけ上の電融アルミナ粒子の平均粒子径D50の方が大きくなってしまう場合がある。
【0045】
一方、研磨された電融アルミナ粒子は、比表面積が原料アルミナ粒子から大きく増加する。例えば、原料アルミナ粒子に対する研磨された電融アルミナ粒子の比表面積変化率は、少なくとも25%、最大で150%程度である。
【0046】
これは、原料アルミナ粒子どうしの衝突研磨によって、原料アルミナ粒子の尖った角部がわずかに丸められ、微細電融アルミナ粒子が増加した結果と考えられる。こうした本実施形態の電融アルミナ粒子の顕微鏡写真を図1に、従来の原料アルミナ粒子の顕微鏡写真を図2にそれぞれ示す。この顕微鏡写真によれば、研磨後の電融アルミナ粒子は、数μm以上の粒子の角部が丸まり、1μm以下の微細電融アルミナ粒子が増加していることが確認できる。このように、微細電融アルミナ粒子が増えることで、アルミナフィラーとして用いた際に、樹脂組成物中のフィラー含有量を増やすことが可能になり、熱伝導性が高められる。
【0047】
本実施形態のアルミナフィラーは、電融アルミナ粒子の平均粒子径D50が、原料アルミナ粒子の平均粒子径D50に対して-15%以上大きいもの、より好ましくは-15%以上、+15%以下の範囲のものを用いることができる。
【0048】
(熱伝導性樹脂組成物の製造方法)
本実施形態の熱伝導性樹脂組成物の製造方法は、上述した本実施形態の研磨された電融アルミナ粒子を含むアルミナフィラーを樹脂に混練する。アルミナフィラーを樹脂に混錬するには、例えば、自転・公転式のミキサー(練太郎:株式会社シンキー製)を用いることができる。
【0049】
本実施形態の熱伝導性樹脂組成物は、樹脂中に本実施形態のアルミナフィラーを含むものからなる。例えば、樹脂100質量部に対して、本実施形態のアルミナフィラーを1200質量部~1500質量部加え、ミキサーによって混練することによって、本実施形態の熱伝導性樹脂組成物を製造することができる。この時、アルミナフィラーは研磨された電融アルミナ粒子を含むことによって、原料アルミナ粒子をそのままアルミナフィラーとして用いた場合と比較して、得られる熱伝導性樹脂組成物の硬さあるいは粘度を同程度にしたまま、アルミナフィラーの充填量を多くすることができる。これにより、熱伝導率の大きい熱伝導性樹脂組成物が得られる。
【0050】
以上、本発明の一実施形態を説明したが、この実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【実施例
【0051】
以下、本発明の効果を検証した検証結果を示す。
(検証例1)
原料アルミナ粒子(電融アルミナ粒子)として、電融アルミナ粉末V325F(平均粒子径D50=11.1μm:日本軽金属株式会社製)を用いた。イオン交換水で原料アルミナ粒子を濃度72質量%のスラリーとし、乳化・分散装置(アスペックディスパーサーZERO 広島メタル&マシナリー株式会社製)を用い、攪拌ローターの周速を35m/s、時間を60分に設定し、原料アルミナ粒子の研磨処理を行った。これにより、検証例1の電融アルミナ粒子(以下、研磨アルミナ粒子1と称する)を得た。
【0052】
そして、この電融アルミナ粒子1と、ブタジエン系ポリマー(R-45HT:出光興産株式会社製(以下、樹脂1と称する))とを、自転・公転式のミキサー(あわとり練太郎:株式会社シンキー製)を用いて混錬し、検証例1の熱伝導性樹脂組成物を得た。
この時、樹脂1を100質量部に対して加えた原料アルミナ粒子および研磨アルミナ粒子1のそれぞれの質量部数(PHR)と、得られた熱伝導性樹脂組成物の熱伝導率との関係を示すグラフを図3に示す。
熱伝導率の測定は円板熱流計法(自社製、JIS A 1412-1、又は、ASTMD5470に基づいた装置でロッドがアルミ製)によって行った。
【0053】
図3に示すグラフによれば、熱伝導性樹脂組成物の熱伝導率の実測値は、樹脂1に原料アルミナ粒子を添加した場合と、研磨された電融アルミナ粒子1を添加した場合とで大きな変化がない。従って、原料アルミナ粒子と研磨された電融アルミナ粒子1とで、充填状態が変わっていないことが確認された。
一方で、原料アルミナ粒子においては、樹脂100質量部に対して、原料アルミナ粒子を最大で1200質量部添加できたのに対し、研磨された電融アルミナ粒子は1400質量部添加することができた。したがって、研磨された電融アルミナ粒子をフィラーとして用いた熱伝導性樹脂組成物の方が、フィラーを多く添加することができるので熱伝導率を大きくすることができた。
【0054】
(検証例2)
原料アルミナ粒子(電融アルミナ粒子)として、電融アルミナ粉末V325F(平均粒子径D50=11.1μm:日本軽金属株式会社製)を用いた(以下、原料1と称する)。この原料1を1270g用いて、イオン交換水680gと混合してスラリーとし、乳化・分散装置(アスペックディスパーサーZERO 広島メタル&マシナリー株式会社製)を用い、周速を35m/s、時間を3分(試料01)、30分(試料02)、45分(試料03)、60分(試料04)にそれぞれ設定し、原料1の研磨処理を行った。
そして、樹脂1を100質量部と、原料1、試料01~04をそれぞれ1400質量部とを混錬して検証例2の熱伝導性樹脂組成物を作製した。
【0055】
原料1、試料01~04の比表面積、平均粒子径D50、およびそれぞれの原料1に対する変化率を表1に示す。また、原料1、試料01~04を用いたそれぞれの熱伝導性樹脂組成物の硬さ、および原料1を用いた熱伝導性樹脂組成物に対する変化率を表1に示す。なお、それぞれの測定に用いた機器は以下の通りである。
比表面積の測定:BET法、全自動ガス吸着量測定装置(Autosorb-iQ:カンタクローム・インスツルメンツ・ジャパン)
平均粒子径D50の測定:レーザー回折散乱法、粒度分布測定装置(MT3300EXII:マイクロトラック・ベル株式会社)
硬さの測定:デュロメータ(アスカーゴム硬さ計A型:高分子計器株式会社)
【0056】
【表1】
【0057】
(検証例3)
原料アルミナ粒子(電融アルミナ粒子)として、電融アルミナ粉末V325F(平均粒子径D50=11.1μm:日本軽金属株式会社製)を75質量%、電融アルミナ粉末F220(平均粒子径D50=60μm:日本軽金属株式会社製)を25質量%の割合で均一に混合したものを用いた(以下、原料2と称する)。この原料2を1270g用いて、イオン交換水680gと混合してスラリーとし、乳化・分散装置(アスペックディスパーサーZERO 広島メタル&マシナリー株式会社製)を用い、周速を32m/s、時間を15分(試料11)、30分(試料12)、45分(試料13)にそれぞれ設定し、原料2の研磨処理を行った。
そして、樹脂1を100質量部と、原料2、試料11~13をそれぞれ1400質量部とを混錬して検証例3の熱伝導性樹脂組成物を作製した。
【0058】
原料2、試料11~13の比表面積、平均粒子径D50、およびそれぞれの原料2に対する変化率を表2に示す。また、原料2、試料11~13を用いたそれぞれの熱伝導性樹脂組成物の硬さ、および原料2を用いた熱伝導性樹脂組成物に対する変化率を表2に示す。なお、それぞれの測定に用いた機器は検証例1と同様である。
【0059】
【表2】
【0060】
(検証例4)
原料アルミナ粒子(電融アルミナ粒子)として、電融アルミナ粉末V325F(平均粒子径D50=11.1μm:日本軽金属株式会社製)を50質量%、電融アルミナ粉末F220(平均粒子径D50=60μm:日本軽金属株式会社製)を50質量%の割合で均一に混合したものを用いた(以下、原料3と称する)。この原料3を1270g用いて、イオン交換水680gと混合してスラリーとし、乳化・分散装置(アスペックディスパーサーZERO 広島メタル&マシナリー株式会社製)を用い、周速を32m/s、時間を15分(試料21)、30分(試料22)、45分(試料23)にそれぞれ設定し、原料3の研磨処理を行った。
そして、樹脂1を100質量部と、原料3、試料21~23をそれぞれ1400質量部とを混錬して検証例4の熱伝導性樹脂組成物を作製した。
【0061】
原料3、試料21~23の比表面積、平均粒子径D50、およびそれぞれの原料3に対する変化率を表3に示す。また、原料3、試料21~23を用いたそれぞれの熱伝導性樹脂組成物の硬さ、および原料3を用いた熱伝導性樹脂組成物に対する変化率を表3に示す。なお、それぞれの測定に用いた機器は検証例1と同様である。
【0062】
【表3】
【0063】
(検証例5)
原料アルミナ粒子(電融アルミナ粒子)として、電融アルミナ粉末V325F(平均粒子径D50=11.1μm:日本軽金属株式会社製)をジェットミル(型番STJ-200:株式会社セイシン企業)で粉砕・分級して、平均粒子径D50=3.9μmの電融アルミナ粉末を得た(以下、原料4と称する)。この原料4を720g用いて、イオン交換水680gと混合してスラリーとし、乳化・分散装置(アスペックディスパーサーZERO 広島メタル&マシナリー株式会社製)を用い、周速を32m/s、時間を30分(試料31)、60分(試料32)にそれぞれ設定し、原料4の研磨処理を行った。
そして、樹脂1を100質量部と、原料4、試料31、32をそれぞれ1100質量部とを混錬して検証例5の熱伝導性樹脂組成物を作製した。
【0064】
原料4、試料31、32の比表面積、平均粒子径D50、およびそれぞれの原料4に対する変化率を表4に示す。また、原料4、試料31、32を用いたそれぞれの熱伝導性樹脂組成物の硬さ、および原料4を用いた熱伝導性樹脂組成物に対する変化率を表4に示す。なお、それぞれの測定に用いた機器は検証例1と同様である。
【0065】
【表4】
【0066】
表1~表4に示す結果によれば、それぞれ原料1~4の市販の電融アルミナ粉末を研磨することによって、平均粒子径D50を大きく変化させずに(-15%~+10%の範囲内)、比表面積だけを増大(+25%~+146%)させることが可能であることが確認された。
【0067】
そして、こうした原料1~4を研磨処理した試料01~04、11~13、21~23、31、32を用いて作成した本実施形態の熱伝導性樹脂組成物は、原料1~4を用いて作成した従来の熱伝導性樹脂組成物と比較して、硬さを低下(-9%~-57%)させて、形状追従性を高められることが確認された。
【0068】
(検証例6)
上述した検証例1の原料1と、試料04とをそれぞれ用い、樹脂1を100質量部に対して400質量部および600質量部それぞれ混錬して、熱伝導性樹脂組成物(組成物1~4)をそれぞれ作成し、粘度を測定した。粘度および粘度の変化率を表5に示す。
なお、測定に用いた機器は以下の通りである。
粘度の測定:B型粘度計(株式会社マルコム製PM-2A)
【0069】
【表5】
【0070】
表5に示す結果によれば、原料1を用いた従来の熱伝導性樹脂組成物1、2と比較して、本実施形態の研磨された電融アルミナ粒子である試料04を用いた熱伝導性樹脂組成物3、4は、粘度を低下(-37%~-59%)させて、形状追従性を高められることが確認された。
【0071】
(検証例7)
上述した検証例1の原料1、試料04、原料1をビースミル(アイメックス株式会社製:周速7.2m/s)で研磨した電融アルミナ粉末(試料05)について、その性状を特定するために2時間沈降試験を行った。
【0072】
試験方法は、原料1、試料04、05のそれぞれの電融アルミナ粉末を1g、イオン交換水40gを混合してスラリー(それぞれ濃度2.4質量%)を作成し、蓋付き試料管(内径10mm)に液面高が20mmとなるように注入した。そして、室温中で2時間静置させた後、上澄み固形分を分取して質量を測定した。そして、この上澄み固形分質量に対する全体固形分質量の比率を算出した。この結果を表6に示す。また、試験の様子を図4に示す。
【0073】
【表6】
【0074】
表6に示す結果によれば、原料1の電融アルミナ粉末(原料1)に対して、本実施形態の研磨された電融アルミナ粉末(試料04、05)は、上澄み固形分質量に対する全体固形分質量がそれぞれ5.7質量%、0.3質量%であることが分かった。また、この上澄み固形分質量に対する全体固形分質量の割合は、原料1の電融アルミナ粉末の研磨時間が長くなる程、増加する傾向があることが分かった。
【0075】
この結果から、水に浮く程度の微細な粒子である1μm以下の微細電融アルミナ粒子が、電融アルミナ粒子(原料1)の研磨によって形成されることが確認された。こうした1μm以下の微細な研磨された電融アルミナ粒子の形成によって、原料1に対して試料04、05の比表面積が増加し、熱伝導率を向上させることができる。
図1
図2
図3
図4