IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱電機株式会社の特許一覧 ▶ 東芝三菱電機産業システム株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-多相電動機駆動装置 図1
  • 特許-多相電動機駆動装置 図2
  • 特許-多相電動機駆動装置 図3
  • 特許-多相電動機駆動装置 図4
  • 特許-多相電動機駆動装置 図5
  • 特許-多相電動機駆動装置 図6
  • 特許-多相電動機駆動装置 図7
  • 特許-多相電動機駆動装置 図8
  • 特許-多相電動機駆動装置 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-07
(45)【発行日】2024-11-15
(54)【発明の名称】多相電動機駆動装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 27/06 20060101AFI20241108BHJP
   H02P 21/22 20160101ALI20241108BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20241108BHJP
【FI】
H02P27/06
H02P21/22
H02M7/48 M
H02M7/48 E
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020078820
(22)【出願日】2020-04-28
(65)【公開番号】P2021175301
(43)【公開日】2021-11-01
【審査請求日】2022-11-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】株式会社TMEIC
(74)【代理人】
【識別番号】110002941
【氏名又は名称】弁理士法人ぱるも特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鶴田 遼司
(72)【発明者】
【氏名】織田 健志
(72)【発明者】
【氏名】椋木 誠
【審査官】谿花 正由輝
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-007094(JP,A)
【文献】特開昭61-142995(JP,A)
【文献】特開2008-099381(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 27/06
H02P 21/22
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに絶縁された複数相の巻線を有する多相電動機に接続され、前記巻線の各々に交流電流を出力する単相インバータを複数並列に接続した単相インバータ群が複数段直列に接続され、その両端が直流電圧源と接続された多相電動機駆動装置において、
前記単相インバータを制御する制御器は、前記多相電動機の速度指令値と機械角検出値に基づき前記巻線に流すべき電流の指令値である電流振幅指令値と電気角位相を導出する速度制御部、dq座標変換器とdq座標逆変換器を有し前記単相インバータの出力交流電流が前記電流振幅指令値と前記電気角位相に基づいた変調信号を出力する電流制御部、前記変調信号により前記単相インバータのオンオフを制御する信号を出力するPWM部を備え、
q座標軸上の電流検出値と、前記単相インバータに共通のdq座標軸上の電流指令値と前記単相インバータ群ごとの単相インバータ間の直流電圧をバランスするための電流成分の指令値を加算した有効電流振幅指令値と、の偏差を入力として比例積分制御を行い、前記比例積分制御を行った出力を前記dq座標逆変換器に入力し、前記dq座標逆変換器の出力から算出した前記変調信号を前記PWM部に入力することを特徴とする多相電動機駆動装置。
【請求項2】
前記有効電流振幅指令値は、q軸上の電流検出値と、q軸上の電流指令値と前記単相インバータ群ごとの単相インバータ間の直流電圧をバランスするための電流成分の指令値と、を加算した値であることを特徴とする請求項1に記載の多相電動機駆動装置。
【請求項3】
前記有効電流振幅指令値は、d軸上の電流検出値と、d軸上の電流指令値と前記単相インバータ群ごとの単相インバータ間の直流電圧をバランスするための電流成分の指令値と、を加算した値であることを特徴とする請求項1に記載の多相電動機駆動装置。
【請求項4】
前記単相インバータ群ごとの単相インバータ間の直流電圧をバランスするための電流成分指令値は、検出した単相インバータの直流電圧の平均値と各群個別の単相インバータの直流電圧の検出値との偏差に比例乗算器によるゲインを乗算した値であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の多相電動機駆動装置。
【請求項5】
前記dq座標軸上の電流検出値は、前記単相インバータの交流電力の電流検出値と前記電気角位相に基づく振幅1の余弦波を電流振幅指令値と乗算した仮想交流電流とを前記dq座標変換器に入力することにより得られることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の多相電動機駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、多相電動機駆動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
多相電動機は、各巻線の相互間が電気的に絶縁されており、単相インバータを各巻線に接続して交流電力を供給することで駆動される。各単相インバータの直流側が互いに並列接続される場合、電圧は理想的には同一となる。単相インバータの電流制御法に関しては、速度制御器よって与えられた電流振幅指令値と多相電動機の電気角に基づき電流指令演算器によって電流指令値を得て、電流検出器によって検出された実際の電流が電流指令値と一致するように、単相インバータの電圧指令値を与えることで行われてきた。
また、単相インバータの直流側について、相互に並列接続されており、理想的には各単相インバータの直流電圧は同一値となるため、各単相インバータの直流電圧をバランスさせるための特別な制御は不要であった。(例えば特許文献1)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6113651号公報
【文献】特開2004-104973号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
多相電動機駆動装置に関して、例えば特許文献1のような構成の場合、システム損失の低減等を目的として、入力直流電圧の高圧化に対応しようとすると半導体スイッチング素子の耐圧によって高圧化が制限される。従って、半導体スイッチング素子の耐圧以上の直流電圧に対応するためには単相インバータの直列接続が必要となる。各単相インバータの直流側の一部を直列接続した構成とする場合、直列接続された単相インバータ間で、パラメータ等のばらつきによって直流電圧のアンバランスが発生するおそれがある。直流電圧のアンバランスが抑制されない場合、過電圧等によって機器の故障を招く可能性があるため抑制する必要がある。
【0005】
インバータの直列接続に関しては、例えば特許文献2において複数の三相インバータの直列接続に関する記載はあるが、複数の直並列接続された単相インバータに関する開示はない。並列接続された単相インバータ間では直流電圧は近似的には同一である。しかし、交流電圧の位相は異なる条件の下で多相電動機の速度制御に対する影響を低減しつつ、直列接続された単相インバータ間の電圧バランスを実施する必要がある。
【0006】
本願は、上記課題を解決するためになされたもので、各単相インバータの直流電圧を検出し、直流電圧がバランスするように多相電動機駆動装置を制御することで、直流電圧のアンバランスを抑制する。これにより、機器の故障を防止し、安定して動作可能な多相電動機装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願に開示される多相電動機駆動装置は、
互いに絶縁された複数相の巻線を有する多相電動機に接続され、巻線の各々に交流電流を出力する単相インバータを複数並列に接続した単相インバータ群が複数段直列に接続され、その両端が直流電圧源と接続されたものであって、
単相インバータを制御する制御器は、多相電動機の速度指令値と機械角検出値に基づき巻線に流すべき電流の指令値である電流振幅指令値と電気角位相を導出する速度制御部、dq座標変換器とdq座標逆変換器を有し単相インバータの出力交流電流が電流振幅指令値と電気角位相に基づいた変調信号を出力する電流制御部、変調信号に基づいて単相インバータのオンオフを制御する信号を出力するPWM部を備え、
q座標軸上の電流検出値と、単相インバータに共通のdq座標軸上の電流指令値と単相インバータ群ごとの単相インバータ間の直流電圧をバランスするための電流成分の指令値を加算した有効電流振幅指令値と、の偏差を入力として比例積分制御を行い、比例積分制御を行った出力をdq座標逆変換器に入力し、dq座標逆変換器の出力から算出した変調信号をPWM部に入力することを特徴とする。


【発明の効果】
【0008】
本願に開示される多相電動機駆動装置によれば、直列接続された単相インバータの直流電圧をバランスさせることができ、安定して動作可能な多相電動機駆動装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施の形態1に係る多相電動機駆動装置を備えた電動機システムの構成図である。
図2】実施の形態1に係る制御器の概略構成を示す図である。
図3】実施の形態1に係る電流制御部の一例を示すブロック構成図である。
図4】実施の形態1に係る直流電圧バランス制御部の一例を示すブロック構成図である。
図5】実施の形態1に係るPWM部の一例を示す概略構成図である。
図6】実施の形態2に係る電流制御部の一例を示すブロック構成図である。
図7】実施の形態2に係る直流電圧バランス制御部の一例を示すブロック構成図である。
図8】実施の形態3に係る電流制御部の一例を示すブロック構成図である。
図9】制御器を構成するマイコンのハードウエアの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下本願に係る多相電動機駆動装置の好適な実施の形態について図面を参照して説明する。なお、同一内容および相当部については同一符号を配し、その詳しい説明は省略する。以降の実施形態も同様に、同一符号を付した構成について重複した説明は省略する。
【0011】
実施の形態1.
図1に実施の形態1に係る多相電動機駆動装置101を用いた場合の電動機システムの構成を示す。多相電動機駆動装置101は、入力が直流電圧源102に接続される。また、直列、または並列接続された複数の単相インバータ103で構成され、単相インバータ103の交流出力は多相電動機104の各巻線に接続される。なお、本実施の形態の説明においては、多相電動機104は永久磁石同期電動機であることを前提に行うがこれに限るものではない。
【0012】
単相インバータ103は、半導体スイッチング素子105(図1中、105a、105b、105c、105d)を備えると共に、そのそれぞれと逆並列に接続された還流ダイオード106(図1中、106a、106b、106c、106d)を備える。半導体スイッチング素子105は、互いに直列接続されることでそれぞれがアームを構成する。そして、上下アームとなる半導体スイッチング素子105a、105bが直列接続されることで、レグaを構成する。また、上下アームとなる半導体スイッチング素子105c、105dが直列接続されることでレグbを構成する。レグa、レグbの上下の各端子は共通とし、電気エネルギー蓄積要素107に接続されることで所謂、フルブリッジインバータの回路構成をとる。上下アームの接続点であるレグa、レグbの中点は交流出力となり、多相電動機104の各巻線に接続される。
【0013】
さらに、多相電動機駆動装置101は単相インバータ103の半導体スイッチング素子105のオン/オフを制御する制御器108を備える。制御器108は、単相インバータ103の直流側の電圧を電圧センサ109によって直流電圧として検出する。なお、フルブリッジ回路からなる単相インバータ103の代わりに、三相ブリッジ回路が用いられても良い。図1において、電圧脈動を小さくするために、各段で単相インバータ103は、並列接続されている。並列接続された単相インバータ103の直流電圧は理想的には同じ値となるため、電圧センサ109は一台の単相インバータ103のみに設けているが、並列接続されたいずれの単相インバータ103に電圧センサ109を設けてもよい。
【0014】
また、全ての単相インバータ103が備える電流センサ110(図1中、110a、110b)によって交流出力の電流が交流電流として検出される。検出値は、センサ検出値伝送手段111aによって、制御器108へと送られる。また、速度センサ112によって、多相電動機104の回転速度および位相が検出され、センサ検出値伝送手段111bによって制御器108へ送られる。
【0015】
制御器108の出力は単相インバータ103の半導体スイッチング素子105のオン/オフを制御するゲート信号でありゲート信号伝送手段113によってゲート駆動装置114へ送られる。ゲート駆動装置114は、受信したゲート信号に応じて単相インバータ103の半導体スイッチング素子105のオン/オフを制御するための電圧を出力する。
【0016】
多相電動機駆動装置101において、1台、または複数並列接続された同一の段の単相インバータは、単相インバータ群と定義し、M段のものを単相インバータ群115_M(Mは自然数)とし、N段直列接続される(N>M、Nは自然数)ことで、その両端が直流入力正極端子116Pと直流入力負極端子116Nを構成し、直流電圧源102と接続される。
【0017】
ここで、半導体スイッチング素子にはIGBT(Insulated-Gate Bipolar Transistor)、またはMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)などの半導体が使用できる。
【0018】
図2は、制御器108の構成の概略を示した図である。制御器108の主目的は、安定的に多相電動機104を駆動することである。制御器108を構成する主要な制御部は、速度制御部201と電流制御部202とに分けられ、制御器108の出力はゲート信号203となる。速度制御部201では、多相電動機104のために、外部から与えられた速度指令値と速度センサ112により検出した多相電動機104の機械角検出値に基づき、各巻線に流すべき電流の指令値である電流振幅指令値と電気角位相を導出する。速度制御部201に関しては、一般的な電動機駆動に用いられる手法が使用できるためここでは説明を省略する。
【0019】
電流制御部202は、各単相インバータ103の交流出力電流が電流振幅指令値と電気角位相に基づいた値となるような交流出力にするための変調信号を出力する。この変調信号に基づいて、PWM(Pulse Width Modulation)部501は、半導体スイッチング素子105のオン/オフを制御するためのゲート信号203を出力する。
【0020】
電流制御部202のもう一つの役割として、各段の単相インバータ103の直流電圧を均等にバランスさせることがあげられる。このために、電流制御部202は内部に直流電圧バランス制御部を備える。電流制御部202は単相インバータ103の交流電流imJ(J:1,2,...X:Xは自然数)に加え、直流電圧vcK(K:1,2,...N:Nは自然数)についても検出し、制御に使用する。ここで、直並列問わず各単相インバータの直流電圧vcKを検出する場合、単相インバータ数Xと電圧センサ数Nは同じとなるが、例えば、並列接続された単相インバータ103の直流電圧を一括で検出する場合、電圧センサ数Nは単相インバータ数Xに対して、並列数に応じて低減される。すなわち、Kは、同じ単相インバータ群(段が同じ)番号を示している。電流センサ数に関しては、単相インバータ毎に必要となるためXとなる。本実施の形態では、並列接続された単相インバータの直流電圧は等しいと見なし、各段の単相インバータ群115に対し電圧センサ数は1とする。従って、直流電圧バランス制御部の出力は、並列に接続されている単相インバータの直流電圧間で共通とする。これにより、センサ数および演算負荷を低減することができる。
なお、並列に接続した単相インバータ103についても直流電圧をバランス制御を行うのは、並列接続された複数台の単相インバータでバランスさせた方が、トルクリプルが低減できるからである。
【0021】
以上のように多相電動機104の速度に係る制御と直列接続された単相インバータ間の電圧バランス制御を行うために、インバータ103の半導体スイッチング素子105のオン/オフを制御するゲート信号203が得られる。
【0022】
図3は、図2に示された電流制御部202の一例を示すブロック構成図である。電流制御は各単相インバータで個別に実施されるため、同様の電流制御部を各単相インバータが備えることとなる。ここでは、理解しやすいように、一例として1相分の単相インバータの電流制御について説明する。電流制御部202では、速度制御部201によって与えられた電流振幅指令値および電気角位相に基づいて単相インバータ103の交流出力の電流を制御する。ここで、単相インバータ103の交流出力の電流に関して、振幅誤差および位相誤差を低減するために、仮想β軸電流を使用したdq座標軸上での比例積分制御による電流制御を実施している。d軸成分の電流指令値id_refおよびq軸成分の電流指令値iq_refに関しては、前述した特許文献1にかかる制御法では、直列接続された単相インバータ間の電圧バランス制御が不要であるため、速度制御部より与えられた電流振幅指令値、および電気角位相から一意に演算することが可能であった。
【0023】
しかし、本実施の形態に係る多相電動機駆動装置101では、単相インバータ103が直列に接続されているため、回路上のばらつき等に起因する直流電圧のアンバランスを除去して、過電圧等による機器の故障を抑制するためには、直列接続された単相インバータ103の間の電圧バランス制御が必要となる。このため、q軸成分の電流指令値iq_refに対し、直流電圧バランスのための電流成分の指令値iq_balKを加算することで、直列接続された単相インバータ間の電圧バランス制御を実施する。
【0024】
なお、ここでdq座標変換器301およびdq座標逆変換器302で用いられている位相thは、速度センサ112によって得られた多相電動機104の機械角より演算された電気角thを、各単相インバータ固有の電気角となるように、位相thとして位相補正処理したものである。従って、理想的には多相電動機104の設計によって与えられた各巻線の位相差に応じて補正された位相となる。また、位相thは、多相電動機104による各巻線の誘起電圧に同期するように定義しており、q軸成分の電流iが誘起電圧と同相であり、d軸成分の電流はq軸成分と直交する電流となっている。従って、誘起電圧に対して、q軸成分の電流iは有効電流成分となり、d軸電流iは無効電流成分となる。なお、簡単化のためここでは、d軸成分の電流指令値id_refを零としている。従って、速度制御部201より得られる電流振幅指令値iamp_refとq軸成分の電流指令値iq_refは本実施の形態では等しくなる。
【0025】
以上のようにして、dq座標軸上の電流指令値が得られるのに対し、電流検出値は単相のインバータであるため、交流電流imKは1つのみである。従ってdq座標変換器301に必要なもう一つの電流値は演算により導出する。つまり、交流電流imKをα軸電流とした場合に仮想β軸電流を生成する。位相thに基づく振幅1の余弦波を余弦波演算器303で生成し、乗算器304で電流振幅指令値との積を演算することで仮想β軸電流とする。なお、ここで余弦波演算器303を使用することは、誘起電圧に対して90度位相がずれた仮想の交流電流を生成することを意味する。以上のように、交流電流imKと仮想β軸電流を演算することで、dq座標変換器301によってdq座標軸上の電流検出値を得る。この構成により、単相の交流電流の制御に関して、直流値で比例積分制御を実施することが可能となるため、交流値での瞬時値制御と比較して制御ゲインを高く設定することなく電流指令値と電流検出値の偏差を低減することが可能となる。
【0026】
次に減算器305a、305bによって得られたdq座標軸上の電流指令値と電流検出値の偏差に基づき、比例積分制御器306a、306bにより比例積分制御を実施することで、dq座標軸上の電圧指令値が演算される。ここで、dq軸成分の電流指令値id_ref、iq_refは全ての単相インバータ103で共通である。しかし、q軸成分の電流指令値iq_refには、後述する直列接続された単相インバータ間の直流電圧バランスのための電流成分の指令値iq_balKを加算器307によって加算する。これにより、以下の式で求められる単相インバータ個別のq軸電流指令値iq_refKを電流制御に用いる。
q_refK=iq_ref+iq_balK
【0027】
演算されたdq座標軸上の電圧指令値は、dq座標逆変換器302によって変換され、αβ軸上の電圧指令値が得られる。このうち、α軸成分を、単相インバータの電圧指令値voKとする。除算器308を用いて、単相インバータ103の直流電圧vcKの検出値で単相インバータの電圧指令値voKを除することで、PWMを実施するための変調信号maKおよび、反転演算器309によってmaKに対して反転した変調信号mbKを得る。
【0028】
図4は、電流制御部202のうち、各段の単相インバータ103の直流電圧をバランスさせる直流電圧バランス制御部401の構成例を示したブロック図である。直列接続された単相インバータ103の間の直流電圧をバランスさせるにあたり、はじめに単相インバータ103の直流電圧の平均値を導出する。単相インバータ103の直流電圧vc1~vcNの平均値vc_aveの導出は、N個の検出した単相インバータ103の直流電圧vc1~vcNの合計値を加算器402で演算し、除算器403で検出した単相インバータ103の直流電圧の検出数Nで割ることで為される。
【0029】
次に、減算器404によって各段個別の単相インバータ103の直流電圧vcKの検出値と平均値vc_aveとの偏差に対して比例ゲイン乗算器405で適切なゲインPを乗算することで直流電圧バランスのための電流成分の指令値iq_balKを演算する。次に、速度制御部201によって与えられた全ての単相インバータ103に共通の値であるq軸電流指令値iq_refに、加算器307により、直流電圧バランスのための電流成分の指令値iq_balKを加算することで、単相インバータ個別の有効電流振幅指令値iq_refKが得られる。ここで単相インバータ103の有効電流成分を制御することは、単相インバータ103の出力する有効電力を調整することで、各段個別の単相インバータ103の直流電圧vcKの検出値と平均値vc_aveとの偏差を除去し、各単相インバータの直流電圧をバランスさせていることを意味する。
なお、本実施の形態では、電圧偏差の積分によって速度制御部201への干渉の増大を抑制するために、比例制御を適用しているが、比例制御に代えて、比例積分制御を行っても良い。また、積分制御を使用することも可能であるが、この場合、各単相インバータ間で各巻線の有効電流成分のばらつきが大きくなり多相電動機104のトルクリプル増大を招くおそれがある。このため、適切なリミット値の設定など工夫が必要となる。
また、直流電圧vcKの検出値は、並列接続された単相インバータ間では共通であるため、電流成分の指令値iq_balK(直流電圧バランス制御部の出力)は同一の単相インバータ群となるK段では共通となる。
【0030】
図5中、図5Aは、半導体スイッチング素子105のオン/オフを制御するためのゲート信号203を生成する一例であるPWM部501のブロック図である。また、説明の便宜のために、図5Bに半導体スイッチング素子105a~105dの図を併記している。図3図4に示す、速度制御部201、電流制御部202に基づいて得られた変調信号maK、mbKに関してそれぞれキャリア信号との大小の比較を比較器502a、502bで実施する。なお、比較器502a、502bの出力aP、aN、bP、bNは論理回路の信号であり、変調信号maK、mbKがキャリア信号より大きい場合に1を、小さい場合に0を出力する。
【0031】
次に、図5Bに示すように、比較器502a、502bの出力をそれぞれ単相インバータ103の上アームの半導体スイッチング素子105a、105cのゲート信号とし、反転回路503a、503bによって反転した信号を下アームの半導体スイッチング素子105b、105dのゲート信号とする。なお、一般的には当該箇所においては、上下アームの半導体スイッチング素子の同時オンを防止するために、公知手段によるデッドタイムが付与されるが省略している。
【0032】
このように、実施の形態1によれば、速度制御部201によって与えられた電流振幅指令値、角周波数、および位相に近づくように各単相インバータの出力電流を制御するとともに、電流制御部202に、直列接続された単相インバータ間の電圧バランス制御を行う直流バランス制御部を組み込むことで、単相インバータの直流電圧の変動を抑制し、安定した多相電動機駆動装置の提供が可能となる。
【0033】
実施の形態2.
実施の形態2では、実施の形態1においてdq座標軸上の電流の内、有効電流成分に相当する、トルク電流成分である、q軸電流iを制御することで直列接続された単相インバータの電圧バランス制御を実施しているのに対し、励磁に影響する励磁電流成分である、無効電流成分に相当するd軸電流を制御することで電圧バランス制御を実施する。
【0034】
図6に実施の形態2に係る電流制御部202の制御ブロック図を示す。基本的な電流制御に関しては図3で説明した制御と同様であるが、直列接続された単相インバータの電圧バランス制御に係る項id_balKをd軸座標上で共通のd軸電流指令値であるid_refに対し加算器601によって加算して個別のd軸電流指令値であるid_refKを導出している。
【0035】
図7に実施の形態2に係る電流制御部202のうち各段の単相インバータ103の直流電圧をバランスさせる直流電圧バランス制御部701の構成例を示す。単相インバータ103の直流電圧の平均値vc_aveの導出は、N個の検出した単相インバータ103の直流電圧vc1~vcNの合計値を加算器702で演算し、除算器703で検出した単相インバータ103の直流電圧数Nで割ることで為される。
【0036】
次に、減算器704によって各段個別の単相インバータ103の直流電圧vcKの検出値と単相インバータ103の直流電圧の平均値vc_aveとの偏差に対して比例ゲイン乗算器705で適切なゲインPをかけることで直流電圧バランスのための電流成分の指令値であるid_balKを演算する。
【0037】
次に、前記速度制御部によって与えられた全ての単相インバータ共通の値であるd軸電流指令値id_refに対して加算器601を用いて直流電圧バランスのための電流成分の指令値id_balKを加算することで、各単相インバータ個別のd軸電流指令値id_refKが得られる。なお、ここでは電圧偏差の積分によって速度制御部201への干渉の増大を抑制するために比例制御を適用している。また、実施の形態1同様、比例制御に代えて比例積分制御を行ってもよく、積分制御も可能である。
【0038】
先述の通り、d軸電流iは、q軸電流iと直交しているためq軸電流iと同相である誘起電圧とも直交する。すなわちd軸電流成分は巻線に対する励磁電流に相当する。誘起電圧は励磁電流に比例するためd軸電流iを制御することで、巻線の誘起電圧の振幅を制御することが可能である。従って、巻線の有効電流成分であるq軸電流iが一定の場合、巻線のd軸電流iを制御することで単相インバータが出力する有効電力を制御することが可能であり、結果として直列接続された単相インバータ間の電圧バランス制御が為される。
【0039】
このように、実施の形態2によれば、励磁電流を制御することで直列接続された単相インバータの電圧バランス制御を実施するため、例えば軽負荷時のような、有効電流成分iqが著しく小さくなった場合でもその影響を受けることなく電圧バランス制御を実施することが可能となる。
【0040】
実施の形態3.
実施の形態3は、実施の形態1および実施の形態2の組合せとなっている。ここでは、多相電動機104の回転数および出力といった負荷状況に応じて、直列接続された単相インバータ間の電圧バランス制御を実施する電流を有効電流成分および無効電流成分に関して、どちらか一方を使用する、または併用する動作を切り替える。従って、構成は直列接続された単相インバータ間の電圧バランス制御に関する個所を除いては実施の形態1と同様となる。
【0041】
図8に、実施の形態3に係る電流制御部202における一台の単相インバータの電流制御ブロックの構成例を示す。dq座標軸のいずれにも電圧バランスのための加算項があり、d軸電流iすなわち無効電流成分による電圧バランス制御項の切り替えスイッチ801、q軸電流i、すなわち有効電流成分の電圧バランス制御項の切り替えスイッチ802によって、その出力の有無を任意に設定することが可能である。
【0042】
なお、切り替えるタイミングは、例えば出力電流が小さくなる軽負荷時には併用として2つの電圧バランス制御項を有効とする。予め設定された電流値以上の出力電流を検知した場合には切り替えスイッチ802のみ、直流電圧バランスのための電流成分の指令値iq_balKを有効とし、または、指令値id_balKを無効とする、といったように任意に設定可能である。ただし、電流制御部202にとって上位の制御系である速度制御部201に対しての影響が小さくなるように設定することが好ましい。
【0043】
このように、実施の形態3によれば、直列接続された単相インバータ間の電圧バランス制御の速度制御部に対する影響を低減することが可能となる。
【0044】
実施の形態1から3で説明した、制御器108を構成するマイコンのハードウエアの一例を図9に示す。プロセッサ1000と記憶装置2000から構成され、図示していないが、記憶装置はランダムアクセスメモリ等の揮発性記憶装置と、フラッシュメモリ等の不揮発性の補助記憶装置とを具備する。また、フラッシュメモリの代わりにハードディスクの補助記憶装置を具備してもよい。プロセッサ1000は、記憶装置2000から入力されたプログラムを実行することにより、例えば上述した速度制御部201、電流制御部202の動作を実行する。この場合、補助記憶装置から揮発性記憶装置を介してプロセッサ1000にプログラムが入力される。また、プロセッサ1000は、演算結果等のデータを記憶装置2000の揮発性記憶装置に出力してもよいし、揮発性記憶装置を介して補助記憶装置にデータを保存してもよい。マイコンは1つで構成しても、複数で構成してもよく、マイコンと論理回路、電気回路を組合せて構成してもよい。
【0045】
本願は、様々な例示的な実施の形態及び実施例が記載されているが、1つ、または複数の実施の形態に記載された様々な特徴、態様、及び機能は特定の実施の形態の適用に限られるのではなく、単独で、または様々な組合せで実施の形態に適用可能である。
従って、例示されていない無数の変形例が、本願明細書に開示される技術の範囲内において想定される。例えば、少なくとも1つの構成要素を変形する場合、追加する場合または省略する場合、さらには、少なくとも1つの構成要素を抽出し、他の実施の形態の構成要素と組合せる場合が含まれるものとする。
【符号の説明】
【0046】
101:多相電動機駆動装置、102:直流電圧源、103:単相インバータ、104:多相電動機、105:半導体スイッチング素子、106:還流ダイオード、107:電気エネルギー蓄積要素、108:制御器、109:電圧センサ、110:電流センサ、111a,111b:センサ検出値伝送手段、112:速度センサ、113:ゲート信号伝送手段、114:ゲート駆動装置、201:速度制御部、202:電流制御部、203:ゲート信号、301:dq座標変換器、302:dq座標逆変換器、303:余弦波演算器、304:乗算器、305a,305b,404,704:減算器、306a,306b:比例積分制御器、307,402,601,702:加算器、308,403,703:除算器、309:反転演算器、401,701:直流電圧バランス制御部、405,705:比例ゲイン乗算器、501:PWM部、502a、502b:比較器、503a,503b:反転回路、801,802:切り替えスイッチ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9