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特許7584241缶印刷装置のインカーユニット、缶印刷装置および缶の印刷方法
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  • 特許-缶印刷装置のインカーユニット、缶印刷装置および缶の印刷方法 図1
  • 特許-缶印刷装置のインカーユニット、缶印刷装置および缶の印刷方法 図2
  • 特許-缶印刷装置のインカーユニット、缶印刷装置および缶の印刷方法 図3
  • 特許-缶印刷装置のインカーユニット、缶印刷装置および缶の印刷方法 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-07
(45)【発行日】2024-11-15
(54)【発明の名称】缶印刷装置のインカーユニット、缶印刷装置および缶の印刷方法
(51)【国際特許分類】
   B41F 17/22 20060101AFI20241108BHJP
   B41N 1/12 20060101ALI20241108BHJP
   B41M 1/28 20060101ALI20241108BHJP
   B41M 1/04 20060101ALI20241108BHJP
   B41F 5/24 20060101ALN20241108BHJP
【FI】
B41F17/22
B41N1/12
B41M1/28
B41M1/04
B41F5/24
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020088341
(22)【出願日】2020-05-20
(65)【公開番号】P2021181215
(43)【公開日】2021-11-25
【審査請求日】2022-12-23
(73)【特許権者】
【識別番号】305060154
【氏名又は名称】アルテミラ製缶株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】小林 克洋
(72)【発明者】
【氏名】柳沢 賢太
(72)【発明者】
【氏名】坂口 和沙
【審査官】小宮山 文男
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-128871(JP,A)
【文献】特開2008-255181(JP,A)
【文献】特開2016-017171(JP,A)
【文献】特開2010-058399(JP,A)
【文献】特開2007-069407(JP,A)
【文献】特開2010-214944(JP,A)
【文献】特開2008-230195(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0162542(US,A1)
【文献】特開平3-251499(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41F 17/22
B41N 1/12
B41M 1/28
B41M 1/04
B41F 5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
缶の胴部に印刷を施す缶印刷装置のインカーユニットであって、
外周面に凸版を有する版胴と、
インキが貯留されるインキ源と、
前記版胴と前記インキ源との間に設けられ、前記インキを前記凸版に供給するロール群と、を備え、
前記凸版は、複数の突起体が配置される網点部を有し、
前記網点部は、線数が133lpi以上であり、
前記インキは、温度23℃±2℃におけるタック値が7以上9以下であり、温度25℃±2℃におけるスプレッドメータ値が33以上36以下であり、
前記突起体は、前記凸版の厚さ方向に沿って前記突起体の先端側へ向かうに従い縮径する側面を有し、
前記厚さ方向と直交する方向から見て、前記厚さ方向に対して前記側面が傾斜する角度が、24°以上30°以下である、
缶印刷装置のインカーユニット。
【請求項2】
前記凸版は、ショアA硬度が60°以上である、
請求項1に記載の缶印刷装置のインカーユニット。
【請求項3】
請求項1または2に記載の缶印刷装置のインカーユニットと、
前記凸版に接触して写し取った前記インキを、前記缶の胴部に印刷するブランケットと、を備え、
前記ブランケットに対して、前記突起体の先端が前記凸版の厚さ方向に押し込まれる押込み量が、0.1mm以下である、
缶印刷装置。
【請求項4】
缶印刷装置のインカーユニットが複数設けられる缶印刷装置であって、
複数の前記缶印刷装置のインカーユニットのうち、
少なくとも1つは、請求項1または2に記載の缶印刷装置のインカーユニットであり、
少なくとも他の1つは、インキ源に貯留されるインキのタック値が、温度23℃±2℃において4.5以上6.5以下である、
缶印刷装置。
【請求項5】
前記他の1つの缶印刷装置のインカーユニットは、前記インキ源に貯留される前記インキのスプレッドメータ値が、温度25℃±2℃において34以上45以下である、
請求項に記載の缶印刷装置。
【請求項6】
版胴の凸版に付着したインキをブランケットに転写し、前記ブランケットの前記インキを缶の胴部に印刷する、請求項からのいずれか1項に記載の缶印刷装置を用いた缶の印刷方法であって、
前記凸版の網点部の線数を、133lpi以上とし、
前記凸版に供給する前記インキのタック値を、温度23℃±2℃において7以上9以下とし、前記インキのスプレッドメータ値を、温度25℃±2℃において33以上36以下とする、
缶の印刷方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、缶印刷装置のインカーユニット、缶印刷装置および缶の印刷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、缶の胴部に印刷を施す缶印刷装置として、例えば特許文献1に記載の水無し平版を用いた缶印刷装置や、特許文献2に記載の凸版を用いた缶印刷装置が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-36710号公報
【文献】特許第6476437号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、凸版による缶の印刷では、網点部の線数が133lpi以上の高線数となると、網点太りが生じて印刷品質を確保することが困難な場合があった。水無し平版による缶の印刷では、網点部の線数が133lpi以上であっても印刷品質は確保できるが、版交換の頻度が高く、また缶の印刷速度を凸版印刷ほどには高めることができない。つまり水無し平版は、凸版印刷に比べて生産性が劣る。
【0005】
本発明は、凸版印刷により生産性を高めつつ、高精細なデザインであっても印刷品質を確保できる缶印刷装置のインカーユニット、缶印刷装置および缶の印刷方法を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一つの態様は、缶の胴部に印刷を施す缶印刷装置のインカーユニットであって、外周面に凸版を有する版胴と、インキが貯留されるインキ源と、前記版胴と前記インキ源との間に設けられ、前記インキを前記凸版に供給するロール群と、を備え、前記凸版は、複数の突起体が配置される網点部を有し、前記網点部は、線数が133lpi以上であり、前記インキは、温度23℃±2℃におけるタック値が7以上9以下であり、温度25℃±2℃におけるスプレッドメータ値が33以上36以下であり、前記突起体は、前記凸版の厚さ方向に沿って前記突起体の先端側へ向かうに従い縮径する側面を有し、前記厚さ方向と直交する方向から見て、前記厚さ方向に対して前記側面が傾斜する角度が、24°以上30°以下である。
【0007】
従来、缶の凸版印刷に用いられるインキのタック値は、例えば6.5以下である。本発明によれば、インキのタック値が7以上と大きく、すなわちインキの粘性が高く(粘り気が大きく)インキがいわゆる「硬い」ため、網点部が133lpi以上の高線数とされても、網点部から転写されたインキがにじんだり潰れたりしにくい。つまり、高精細なデザインの凸版印刷であっても、網点の太りが抑えられて、網点を缶の胴部に正確に再現(転写)でき、階調表現がスムーズでざらつきの少ない高品質な印刷を安定して缶に施すことができる。
また、インキのタック値が9以下であるので、網点部の濃度(設定値)が例えば70%以上など高い場合でも、所期する濃度に近い濃度(実測値)で、安定した品質の印刷を缶に施すことができる。
【0008】
また、本発明は凸版印刷であるため、水無し平版印刷の場合と比べて、版交換の頻度を少なく抑えることができ、メンテナンスが容易である。また、缶の印刷速度を高めて、生産性を向上できる。具体的に、例えば、網点部の線数が150lpi以上の高精細印刷の場合、水無し平版印刷での缶印刷速度は、上限が例えば1200cpm程度である一方、本発明を適用した凸版印刷では、缶印刷速度が例えば1400~1650cpmでも印刷品質を良好に維持できる。なお上記「cpm」とは、1分間あたりの処理缶数(印刷缶数)を表す単位である。また、本発明は凸版印刷であるため、水無し平版印刷と比べて、発色のよい鮮やかな高精細印刷を缶に施すことが可能である。
以上より本発明によれば、凸版印刷により生産性を高めつつ、高精細なデザインであっても印刷品質を確保できる。
上記缶印刷装置のインカーユニットにおいて、前記突起体は、前記凸版の厚さ方向に沿って前記突起体の先端側へ向かうに従い縮径する側面を有し、前記厚さ方向と直交する方向から見て、前記厚さ方向に対して前記側面が傾斜する角度が、24°以上30°以下である。
この場合、突起体の側面の傾斜が立っているので、突起体からブランケットにインキが転写される際、突起体の先端がブランケットに押し付けられても、網点太りが生じることが抑制される。このため、網点の再現性に優れた高精細な印刷を缶に施すことができる。
【0009】
上記缶印刷装置のインカーユニットにおいて、前記インキは、温度25℃±2℃におけるスプレッドメータ値が33以上36以下である。
【0010】
この場合、インキのスプレッドメータ値(フロー値)が33以上36以下であるため、従来の缶の凸版印刷に用いられるインキと比べて、インキの粘性が高くインキが硬い。このため、網点部が133lpi以上の高線数とされても、網点の再現性に優れた高精細な印刷を安定して缶に施すことが可能である。
【0013】
上記缶印刷装置のインカーユニットにおいて、前記凸版は、ショアA硬度が60°以上であることが好ましい。
【0014】
この場合、凸版のショアA硬度が60°以上と高いため、突起体の硬度も高められている。突起体からブランケットにインキが転写される際、突起体の先端がブランケットに押し付けられても潰れにくくなり、網点太りが抑制される。このため、網点の再現性に優れた高精細な印刷を缶に施すことができる。また、凸版が繰り返し使用されることによる突起体の変形についても抑制され、印刷品質が良好に維持される。
【0015】
また、本発明の一つの態様の缶印刷装置は、上述の缶印刷装置のインカーユニットと、前記凸版に接触して写し取った前記インキを、前記缶の胴部に印刷するブランケットと、を備え、前記ブランケットに対して、前記突起体の先端が前記凸版の厚さ方向に押し込まれる押込み量が、0.1mm以下である。
【0016】
本発明の缶印刷装置は、ブランケットに対する突起体の先端の押込み量が0.1mm以下と小さくされているので、突起体からブランケットにインキが転写される際の版圧が低く抑えられ、突起体の先端が潰れにくくなり、網点太りが抑制される。このため、網点の再現性に優れた高精細な印刷を缶に施すことができる。
【0017】
また、本発明の一つの態様は、缶印刷装置のインカーユニットが複数設けられる缶印刷装置であって、複数の前記缶印刷装置のインカーユニットのうち、少なくとも1つは、上述の缶印刷装置のインカーユニットであり、少なくとも他の1つは、インキ源に貯留されるインキのタック値が、温度23℃±2℃において4.5以上6.5以下である。
【0018】
本発明の缶印刷装置は、複数の缶印刷装置のインカーユニットの中に、インキ源に貯留されるインキのタック値が7以上9以下である一の缶印刷装置のインカーユニットと、インキ源に貯留されるインキのタック値が4.5以上6.5以下である他の缶印刷装置のインカーユニットと、を備える。このように、各インカーユニットごとに、タック値(つまり粘性)の異なるインキを使用することで、発色が鮮やかで網点の再現性に優れた高品質な印刷を缶に施すことが可能になる。また、缶に印刷する色の種類や各種デザインに、より柔軟に対応しやすい。
【0019】
上記缶印刷装置において、前記他の1つの缶印刷装置のインカーユニットは、前記インキ源に貯留される前記インキのスプレッドメータ値が、温度25℃±2℃において34以上45以下であることが好ましい。
【0020】
この場合、他の缶印刷装置のインカーユニットは、インキのスプレッドメータ値(フロー値)が、34以上45以下である。各インカーユニットごとに、スプレッドメータ値(つまり粘性)の異なるインキを使用することで、発色が鮮やかで網点の再現性に優れた高品質な印刷を缶に施すことが可能になる。また、缶に印刷する色の種類や各種デザインに、より柔軟に対応しやすい。
また、本発明の一つの態様は、版胴の凸版に付着したインキをブランケットに転写し、前記ブランケットの前記インキを缶の胴部に印刷する、上述の缶印刷装置を用いた缶の印刷方法であって、前記凸版の網点部の線数を、133lpi以上とし、前記凸版に供給する前記インキのタック値を、温度23℃±2℃において7以上9以下とし、前記インキのスプレッドメータ値を、温度25℃±2℃において33以上36以下とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明の一つの態様の缶印刷装置のインカーユニット、缶印刷装置および缶の印刷方法によれば、凸版印刷により生産性を高めつつ、高精細なデザインであっても印刷品質を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、本実施形態の缶印刷装置を示す概略図である。
図2図2は、缶印刷装置のインカーユニットを示す概略図である。
図3図3は、凸版の一部を拡大して示す断面図である。
図4図4は、網点部の突起体を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の一実施形態の缶印刷装置Aのインカーユニット1(以下、単にインカーユニット1と呼ぶ場合がある)、缶印刷装置A、および缶20の印刷方法について、図面を参照して説明する。
図1に示すように、本実施形態の缶印刷装置Aは、有底筒状の缶20の胴部の外周面に、例えば8色で構成される高精細デザインの印刷を施す。具体的に本実施形態の缶印刷装置Aは、オフセット印刷装置である。缶印刷装置Aは、インキ付着機構Bと、缶移動機構Cと、を備える。
【0024】
インキ付着機構Bは、インキIを供給するインカーユニット1と、インカーユニット1の後述する版胴6の凸版40に接触して写し取ったインキIを、缶20の胴部の外周面に印刷する(転写する)ブランケット9と、ブランケット9が外周に設けられたブランケットホイール8と、を備える。つまり缶印刷装置Aは、インカーユニット1と、ブランケット9と、ブランケットホイール8と、を備える。インカーユニット1およびブランケット9は、それぞれ複数設けられる。
【0025】
インカーユニット1の数は、缶20の胴部に印刷されるインキIの色数(色の種類)と同じであり、本実施形態では例えば8つである。
図1から図3に示すように、インカーユニット1は、外周面に凸版40を有する版胴6と、インキIが貯留されるインキ源2と、版胴6とインキ源2との間に設けられ、インキIを凸版40に供給するロール群7と、インキパン4と、を備える。
【0026】
図2において、インキ源2に保持されるインキIは、温度23℃±2℃におけるタック値が7以上9以下である。このタック値は、JIS K 5701の4.2により規定される。またインキIは、温度25℃±2℃におけるスプレッドメータ値(フロー値)が33以上38以下である。このスプレッドメータ値は、JIS K 5701の4.1により規定される。
本実施形態のインキIは、熱硬化型のインキである。このインキIとしては、例えば、マツイカガク株式会社製のSCNタイプインキ、DICグラフィックス株式会社製のG4タイプインキ等を挙げることができる。
【0027】
ロール群7は、複数の印刷ロール3と、一対のフォームロール5と、を有する。複数の印刷ロール3は、インキ源2に隣接して配置されるファンテンローラー3aと、ファンテンローラー3aに接触するダクティングロール3bと、ダクティングロール3bに接触するディストリビューターローラー3cと、複数のラバーロール3dと、複数のオッシレーティングロール3eと、を含む。
複数のラバーロール3dおよび複数のオッシレーティングロール3eは、ディストリビューターローラー3cとフォームロール5との間に、交互に配列する。
【0028】
図1において、版胴6は、缶印刷装置Aの図示しないシャフト部に片持ち状態で回転自在に支持される。版胴6は、円筒状または円柱状である。版胴6は、例えば、円筒状のスリーブ印刷版(図示省略)を有する。スリーブ印刷版は、版胴6の外周面に着脱可能に嵌合する。スリーブ印刷版の外周面には、缶20に転写する画像パターンが形成された凸版40が設けられる。つまり版胴6は、凸版40を有する。凸版40については、別途後述する。
【0029】
複数のブランケット9は、ブランケットホイール8の外周面に、ホイール周方向に互いに間隔をあけて配置される。ブランケット9は、版胴6の外周面の凸版40に接触し、かつ缶20の胴部にも接触する。
【0030】
缶移動機構Cは、缶20を缶印刷装置Aに取り入れる缶シュータ10と、缶シュータ10から供給された缶20を回転自在に保持するマンドレル11と、マンドレル11に装着された缶20を回転移動させつつ順次ブランケットホイール8上のブランケット9へ接触させるマンドレルターレット12と、を有する。
【0031】
この缶印刷装置Aにおいては、複数のインカーユニット1の各インキ源2からそれぞれ異なる色のインキIが、ロール群7を介して版胴6の外周面の凸版40に付着させられる。各版胴6の凸版40に付着した各色のインキIは、回転するブランケットホイール8上のブランケット9に画像パターンとして乗せられ、この画像パターンが、マンドレル11に保持された缶20の胴部に接触することで、缶20に所定デザインの印刷が施される。
【0032】
凸版40は、例えば樹脂製である。凸版40は、ショアA硬度が60°以上である。また凸版40は、ショアA硬度が90°以下である。このショアA硬度は、JIS K 6253により規定される。
【0033】
図3に示すように、凸版40は、その画像パターンとされる版面に、インキIが付着される画像部分50と、インキIが付着されない非画像部分51と、を有する。
画像部分50は、複数の突起体41aが配置される網点部41と、網点部41以外の部分42と、を有する。つまり凸版40は、網点部41と、網点部41以外の部分42と、を有する。網点部41は、例えば、炭酸ガスレーザー、YAGレーザー、エキシマレーザー、半導体レーザー等のレーザー彫刻により形成される。
【0034】
網点部41以外の部分42には、ベタ部(インキIがベタ塗りされる部分。網点濃度で言うと100%の部分)や線画部(例えば文字、記号、枠等の線画で描かれる部分)等が含まれる。以下の説明では、網点部41以外の部分42を、単にベタ部42と呼ぶ場合がある。ベタ部42は、レーザー彫刻により形成されてもよいし、レーザー彫刻以外の方法により形成されてもよい。
【0035】
また凸版40は、ベタ部42の表面よりも凸版40の厚さ方向Tに窪む基底部43を有する。基底部43は、網点部41および非画像部分51にわたって配置される。
非画像部分51は、画像部分50よりも厚さ方向Tの高さが低い。非画像部分51は、基底部43の一部により構成される。基底部43のうち、非画像部分51に位置する部分には、突起体41aが配置されない。
【0036】
突起体41aは、基底部43のうち網点部41に位置する部分から、凸版40の厚さ方向Tに突出する。各突起体41aの先端部同士は、厚さ方向Tに垂直な方向において、互いに間隔をあけて配置される。
図4に示すように、突起体41aは、凸版40の厚さ方向Tに沿って突起体41aの先端側へ向かうに従い縮径する側面41bと、厚さ方向Tにおいて突起体41aの先端側を向く先端面41cと、を有する。つまり突起体41aは、截頭錐体状であり、具体的には、円錐台状や角錐台状等である。
【0037】
図4に示すように厚さ方向Tと直交する方向から見て、厚さ方向Tに対して側面41bが傾斜する角度θは、30°以下である。本実施形態では角度θが25°以下であり、具体的には、例えば24°である。
図示の例では、先端面41cが、厚さ方向Tと垂直な方向に拡がる平面状である。なお先端面41cは、厚さ方向Tにおいて突起体41aの先端側へ向けて凸となる凸曲面状等であってもよい。
【0038】
図4の符号Lは、突起体41aの先端面41cに付着したインキIをブランケット9に転写する際に、ブランケット9に対して、突起体41aの先端が凸版40の厚さ方向Tに押し込まれる押込み量Lを示している。押込み量Lは、0.1mm以下である。また押込み量Lは、0.05mm以上である。本実施形態では押込み量Lが、例えば、0.08~0.09mmである。
【0039】
図3に示すように、網点部41には、複数の突起体41aが規則的にまたは不規則に集合して配置(配列)されており、また突起体41aの集中度が画像部分50の各部で互いに同一とされたり、互いに異なったりして、網点画像が形成されている。
本実施形態の凸版40は、網点部41の複数の突起体41aの配列が規則的とされ、各突起体41aの先端面41cの面積や形状等が互いに異なることで網点濃度が表現される、AMスクリーン印刷用凸版である。ただしこれに限定されるものではなく、凸版40は、各突起体41aの先端面41cの面積や形状等が互いに同一とされ、突起体41aの配列が不規則とされる(集中度(密度)が変化する)ことにより網点濃度が表現される、FMスクリーン印刷用凸版であってもよい。
なお網点濃度とは、網点部41の濃度であり、具体的には、単位面積あたりにインキIが盛られる面像面積の割合を表す。すなわち、網点濃度とは、単位面積に占める網点の総面積の割合であり、画像面積比である。
【0040】
網点部41は、線数が133lpi以上である。好ましくは、網点部41の線数は150lpi以上である。また網点部41は、線数が175lpi以下である。
なお線数(lpi)とは、版面の1インチ(25.4mm)あたりに網点(突起体41aの先端)が並ぶ列数(線/インチ)を表している。線数が大きくなるほど網点は小さくなり、印刷される画像パターンはより高精細となる。線数は、例えば、網点線数、スクリーン線数、または精細度とも呼ばれる。
【0041】
図1に示すように、インキパン4は、複数設けられる。各インキパン4は、各インカーユニット1の下部にそれぞれ配置される。インキパン4は、上部が開口された容器状または受け皿状である。インキパン4は、インカーユニット1のロール群7の下側に配置される。インキパン4は、ロール群7等から垂れたインキIを受ける。
【0042】
次に、上述した缶印刷装置Aを用いた缶20の印刷方法について説明する。
本実施形態の缶20の印刷方法では、版胴6の凸版40に付着したインキIをブランケット9に転写し、ブランケット9のインキIを缶20の胴部に印刷する。
凸版40の網点部41の線数を、133lpi以上とし、好ましくは、150lpi以上とする。また網点部41の線数を、175lpi以下とする。
そして、凸版40に供給するインキIのタック値を、温度23℃±2℃において7以上9以下とする。また、凸版40に供給するインキIのスプレッドメータ値(フロー値)を、温度25℃±2℃において33以上38以下とする。なお、上記「凸版40に供給するインキI」とは、例えば、インキ源2に保持するインキIに相当する。
【0043】
以上説明した本実施形態のインカーユニット1、缶印刷装置Aおよび缶20の印刷方法によれば、下記の作用効果を奏する。
従来、缶の凸版印刷に用いられるインキのタック値は、例えば6.5以下である。本実施形態によれば、インキIのタック値が7以上と大きく、すなわちインキIの粘性が高く(粘り気が大きく)インキIがいわゆる「硬い」ため、網点部41が133lpi以上の高線数とされても、網点部41から転写されたインキIがにじんだり潰れたりしにくい。つまり、高精細なデザインの凸版印刷であっても、網点の太りが抑えられて、網点を缶20の胴部に正確に再現(転写)でき、階調表現がスムーズでざらつきの少ない高品質な印刷を安定して缶20に施すことができる。
また、インキIのタック値が9以下であるので、網点部41の濃度(設定値)が例えば70%以上など高い場合でも、所期する濃度に近い濃度(実測値)で、安定した品質の印刷を缶20に施すことができる。
【0044】
また、本実施形態は凸版印刷であるため、水無し平版印刷の場合と比べて、版交換の頻度を少なく抑えることができ、メンテナンスが容易である。また、缶20の印刷速度を高めて、生産性を向上できる。具体的に、例えば、網点部41の線数が150lpi以上の高精細印刷の場合、水無し平版印刷での缶印刷速度は、上限が例えば1200cpm程度である一方、本実施形態を適用した凸版印刷では、缶印刷速度が例えば1400~1650cpmでも印刷品質を良好に維持できる。なお上記「cpm」とは、1分間あたりの処理缶数(印刷缶数)を表す単位である。また、本実施形態は凸版印刷であるため、水無し平版印刷と比べて、発色のよい鮮やかな高精細印刷を缶20に施すことが可能である。
以上より本実施形態によれば、凸版印刷により生産性を高めつつ、高精細なデザインであっても印刷品質を確保できる。
【0045】
また本実施形態では、インキIのスプレッドメータ値(フロー値)が33以上38以下であるため、従来の缶の凸版印刷に用いられるインキと比べて、インキIの粘性が高くインキが硬い。このため、網点部41が133lpi以上の高線数とされても、網点の再現性に優れた高精細な印刷を安定して缶20に施すことが可能である。
【0046】
また本実施形態では、図4に示すように凸版40の厚さ方向Tと直交する方向から見て、突起体41aの側面41bが厚さ方向Tに対して傾斜する角度θが、30°以下である。
この場合、突起体41aの側面41bの傾斜が立っているので、突起体41aからブランケット9にインキIが転写される際、突起体41aの先端がブランケット9に押し付けられても、網点太りが生じることが抑制される。このため、網点の再現性に優れた高精細な印刷を缶20に施すことができる。
【0047】
また本実施形態では、凸版40のショアA硬度が60°以上と高いため、突起体41aの硬度も高められている。突起体41aからブランケット9にインキIが転写される際、突起体41aの先端がブランケット9に押し付けられても潰れにくくなり、網点太りが抑制される。このため、網点の再現性に優れた高精細な印刷を缶20に施すことができる。また、凸版40が繰り返し使用されることによる突起体41aの変形についても抑制され、印刷品質が良好に維持される。
【0048】
また本実施形態では、ブランケット9に対する突起体41aの先端の押込み量Lが0.1mm以下と小さくされているので、突起体41aからブランケット9にインキIが転写される際の版圧が低く抑えられ、突起体41aの先端が潰れにくくなり、網点太りが抑制される。このため、網点の再現性に優れた高精細な印刷を缶20に施すことができる。
また、押込み量Lが0.05mm以上であるので、突起体41aの先端を安定してブランケット9に接触させることができる。すなわち、突起体41aの先端とブランケット9とが非接触となる不具合が抑制されるため、突起体41aからブランケット9へとインキIが安定して転写されて、印刷品質が確保される。
【0049】
なお、本発明は前述の実施形態に限定されず、例えば下記に説明するように、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において構成の変更等が可能である。
【0050】
前述の実施形態では、版胴6の凸版40が、円筒状のスリーブ印刷版の外周面に設けられる例を挙げたが、これに限らない。凸版40は、版胴6の外周面の一部に直接的に設けられてもよい。
【0051】
前述の実施形態では、缶印刷装置Aが備える複数のインカーユニットのすべてが、インキ源2に、高タック値(7~9)かつ低スプレッドメータ値(33~38)のインキIを貯留するインカーユニット1である構成について説明したが、これに限らない。
すなわち、缶印刷装置Aの複数のインカーユニットのうち、少なくとも1つが、上述した(インキIを使用する)インカーユニット1であり、少なくとも他の1つが、インキ源2に貯留されるインキのタック値が、温度23℃±2℃において4.5以上6.5以下(つまり低タック値)であってもよい。
このように、各インカーユニットごとに、タック値(つまり粘性)の異なるインキを使用することで、発色が鮮やかで網点の再現性に優れた高品質な印刷を缶20に施すことが可能になる。また、缶20に印刷する色の種類や各種デザインに、より柔軟に対応しやすい。
【0052】
また、上記他の1つのインカーユニットは、インキ源2に貯留されるインキのスプレッドメータ値(フロー値)が、温度25℃±2℃において34以上45以下(つまり高スプレッドメータ値)であってもよい。
各インカーユニットごとに、スプレッドメータ値(つまり粘性)の異なるインキを使用することで、発色が鮮やかで網点の再現性に優れた高品質な印刷を缶20に施すことが可能になる。また、缶20に印刷する色の種類や各種デザインに、より柔軟に対応しやすい。
【0053】
本発明は、本発明の趣旨から逸脱しない範囲において、前述の実施形態および変形例等で説明した各構成を組み合わせてもよく、また、構成の付加、省略、置換、その他の変更が可能である。また本発明は、前述した実施形態等によって限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例
【0054】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。ただし本発明はこの実施例に限定されない。
【0055】
〔網点の再現性試験〕
前述の実施形態で説明した缶印刷装置Aを用意した。なお凸版40については、網点部41の網点濃度(設定値)を100%~5%の間で種々に設定したNo.1~7を用意した(下記表1を参照)。これらの凸版40は、すべて網点部41の線数が150lpiである。なおNo.1の網点濃度100%は、ベタ部に相当する。また「設定値」とは、凸版40を作製するレーザー彫刻機のデータ値に相当する。
【0056】
インキIは、墨、藍、黄1、黄2の各色を用意した。また印刷時の圧力、インキIの盛りについては一定とした。
そして、本発明の実施例では、インキ源2に貯留されるインキIのタック値(T.V.)を、温度23℃±2℃において7以上9以下とした。具体的に、実施例のインキIのタック値は、7~8である。またインキIのスプレッドメータ値(フロー値。F.V.)は、温度25℃±2℃において33以上38以下とした。
一方、従来例(比較例)では、インキ源に貯留されるインキのタック値を、温度23℃±2℃において6.5以下とした。
なお、スプレッドメータ値については、下記表1に示すように、各色インキにおいてそれぞれ、実施例の値が従来例の値よりも低い。
【0057】
上述の条件にて印刷した缶20の網点濃度を、網点測定器(Spectro Plate B411024)により測定した。結果を表1に示す。
【0058】
【表1】
【0059】
表1に示すように、ベタ部(No.1)以外の網点濃度(No.2~7)のすべてで、本発明の実施例は、従来例よりも設定値(所期する網点濃度)に近い網点濃度(実測値)が得られ、網点の再現性が高いことがわかった。これについて考察すると、実施例のインキIは、粘性が高く(粘り気が大きく)インキIがいわゆる「硬い」ため、網点太りが抑制されて、高精細な印刷が可能となった一方、従来例のインキは、粘性が低く(粘り気が小さく)インキがいわゆる「柔らかい」ため、網点部の各突起体からブランケットにインキが転写される際に、インキが流れて網点が太ったものと考えられる。
また実施例では、いわゆるインキIの「潰れ」(各網点の広がり)についても良好であり、各色の発色が鮮やかであった。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の缶印刷装置のインカーユニット、缶印刷装置および缶の印刷方法によれば、凸版印刷により生産性を高めつつ、高精細なデザインであっても印刷品質を確保できる。したがって、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0061】
1…缶印刷装置のインカーユニット、2…インキ源、6…版胴、7…ロール群、9…ブランケット、20…缶、40…凸版、41…網点部、41a…突起体、41b…側面、A…缶印刷装置、I…インキ、L…押込み量、T…凸版の厚さ方向、θ…角度
図1
図2
図3
図4