(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-07
(45)【発行日】2024-11-15
(54)【発明の名称】鍛造用金型、鍛造方法及び鍛造成型品
(51)【国際特許分類】
B21J 13/02 20060101AFI20241108BHJP
B21J 5/02 20060101ALI20241108BHJP
H02K 15/02 20060101ALI20241108BHJP
B21K 1/40 20060101ALN20241108BHJP
【FI】
B21J13/02 C
B21J5/02 A
H02K15/02 A
B21K1/40
(21)【出願番号】P 2020096404
(22)【出願日】2020-06-02
【審査請求日】2023-04-03
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002325
【氏名又は名称】セイコーインスツル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼野 健志
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 浩信
(72)【発明者】
【氏名】三澤 正樹
【審査官】永井 友子
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-216888(JP,A)
【文献】特開2019-147172(JP,A)
【文献】中国実用新案第202861296(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21J 13/02
B21J 5/02
H02K 15/02
B21K 1/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャビティを備えた第一型と、
前記第一型に向けて相対的に移動することで、前記キャビティとの間で被加工材を挟んで押圧可能なコアを備えた第二型と、
前記キャビティの底面に形成され、前記コアへ向けて前記第一型又は前記第二型の移動方向に沿って突出した突起と、
前記コアにおいて前記突起と対向する部分に前記移動方向に向けて設けられ、前記第一型と前記第二型とを型締めした状態で前記被加工材と前記コアとの間に間隙を形成する、前記突起より大径の開口部と、
を有する鍛造用金型。
【請求項2】
前記キャビティの側面には、前記移動方向と交わる方向に沿う段差面が設けられており、
前記コアには、前記段差面との間で前記被加工材を押圧する押圧面が形成されている、
請求項1に記載の鍛造用金型。
【請求項3】
前記キャビティ
の側面には、前記段差面の外側
に位置し、かつ、前記コアの側面と接
する部分がある、
請求項2に記載の鍛造用金型。
【請求項4】
キャビティを備えた第一型と、前記キャビティとの間で被加工材を挟んで押圧可能なコアを備えた第二型と、を用いた鍛造方法であって、
前記コアへ向けて前記第一型又は前記第二型の移動方向に沿って突出した突起が底面に形成された前記キャビティへ、前記被加工材を配置する工程と、
前記第一型と、前記コアにおいて前記突起と対向する部分に前記移動方向に向けて設けられた前記突起より大径の開口部を有する前記第二型とを型締めして前記被加工材を成型すると共に、前記被加工材と前記コアとの間に形成される間隙により自由成形面を形成する工程と、
を有する鍛造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鍛造用金型、鍛造方法及び鍛造成型品に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、ロータハブの鍛造型が記載されている。この鍛造型においてロータハブのフランジ部を成形する部分には、開口部が形成されている。この開口部からは、鍛造加工の際に、被加工材の一部が外側に逃げることができる。これにより、鍛造型から被加工材のフランジ部となる部分に加えられる負荷を低減し、当該部分に残留ひずみが生じることを抑えることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1のロータハブの鍛造型によると、ロータハブのフランジ部に残留ひずみが生じることを抑制できる。フランジ部の残留ひずみを抑制することにより、特に高い加工精度が求められるディスク載置面の平滑度を高めることができる。
【0005】
このように、鍛造成型品においては、その用途に応じて適切な箇所の残留ひずみを抑制することが好ましい。一方で、鍛造加工の際には、鍛造型にも、被加工材からの反力によって負荷が掛かる。このため、成型品の残留ひずみを抑制することに加えて、金型の耐久性を向上させることも求められている。
【0006】
本発明は、上記事実を考慮して、鍛造用金型の耐久性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第一態様の鍛造用金型は、キャビティを備えた第一型と、前記第一型に向けて相対的に移動することで、前記キャビティとの間で被加工材を挟んで押圧可能なコアを備えた第二型と、前記キャビティの底面に形成され、前記コアへ向けて前記第一型又は前記第二型の移動方向に沿って突出した突起と、前記コアにおいて前記突起と対向する部分に前記移動方向に向けて設けられ、前記第一型と前記第二型とを型締めした状態で前記被加工材と前記コアとの間に間隙を形成する開口部と、を有する。
【0008】
第一態様の鍛造用金型は、キャビティの底面に、コアへ向けて第一型又は第二型の移動方向に沿って突出した突起が形成されている。このため、キャビティとコアとで被加工材を挟んで押圧した際に、被加工材は、突起から局部的な圧力を受ける。これにより被加工材は、コアへ向かって変形する。
【0009】
一方で、コアにおいてキャビティの突起と対向する部分には、第一型又は第二型の移動方向に向けて開口部が設けられている。この開口部は、第一型と第二型とを型締めした状態で、被加工材との間に間隙を形成する部分である。すなわち、被加工材において、キャビティの突起から押圧されて変形した部分の少なくとも一部は、コアと接触しない。これにより、突起から被加工材を介してコアに作用する押圧力が低減される。また、コアから被加工材を介してキャビティに作用する押圧力が低減される。このため、鍛造用金型の耐久性を向上できる。
【0010】
第二態様の鍛造用金型は、第一態様の鍛造用金型において、前記キャビティの側面には、前記移動方向と交わる方向に沿う段差面が設けられており、前記コアには、前記段差面との間で前記被加工材を押圧する押圧面が形成されている。
【0011】
第二態様の鍛造用金型では、第一型又は第二型の移動方向と交わる方向の段差面及び押圧面によって、被加工材が押圧される。このため被加工材の外周部が据え込み鍛造される。これにより、被加工材の外周部における金属の組織を緻密にして、強度を大きくできる。
【0012】
また、被加工材の外周部に、第一型又は第二型の移動方向と交わる方向へ張り出すフランジを形成できる。このため、削り出しのみによってフランジを形成する場合と比較して、材料の歩留まりがよい。
【0013】
第三態様の鍛造方法は、キャビティを備えた第一型と、前記キャビティとの間で被加工材を挟んで押圧可能なコアを備えた第二型と、を用いた鍛造方法であって、前記コアへ向けて前記第一型又は前記第二型の移動方向に沿って突出した突起が底面に形成された前記キャビティへ、前記被加工材を配置する工程と、前記第一型と、前記コアにおいて前記突起と対向する部分に前記移動方向に向けて設けられた開口部を有する前記第二型とを型締めして前記被加工材を成型すると共に、前記被加工材と前記コアとの間に形成される間隙により自由成形面を形成する工程と、を有する。
【0014】
第三態様の鍛造方法に用いる鍛造用金型は、キャビティの底面に、コアへ向かって突出した突起が形成されている。このため、キャビティとコアとで被加工材を挟んで押圧した際に、被加工材は、突起から局部的な圧力を受ける。これにより被加工材は、コアへ向かって変形する。
【0015】
また、被加工材には、第一型の突起の上方に、自由成形面が形成される。すなわち、キャビティの突起から押圧されて変形した部分の少なくとも一部は、コアと接触しない。これにより、突起から被加工材を介してコアに作用する押圧力が低減される。また、コアから被加工材を介してキャビティに作用する押圧力が低減される。このため、鍛造用金型の耐久性を向上できる。
【0016】
第四態様の鍛造成型品は、円筒状に形成された外周部と、前記外周部の上端部に形成され、前記外周部の径方向外側へ張り出すフランジ部と、前記外周部の内側に形成された中央部と、前記中央部の底面に形成された凹部と、前記中央部において前記凹部の上方に形成された凸部と、を有し、前記凸部は自由成形面を備えている。
【0017】
第四態様の鍛造成型品は、中央部の底面に凹部が形成されている。すなわち、中央部の底面は、鍛造用金型によって押圧されて変形している。
【0018】
一方で、中心部における凹部の上方には、自由成形面とされた凸部が形成されている。すなわち、鍛造用金型によって押圧された底面の反対側の部分は、鍛造用金型によって押圧されない。つまりこの部分は、鍛造用金型から押圧されないで自由変形して形成されている。これにより、鍛造加工の際に、成型品から鍛造用金型に作用する押圧力が低減される。このため、鍛造用金型の耐久性を向上できる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によると、鍛造用金型の耐久性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1A】本発明の実施形態に係る鍛造用金型を示す立面図である。
【
図2A】本発明の実施形態に係る鍛造用金型のキャビティにビレットを配置した状態を示す立断面図である。
【
図2B】本発明の実施形態に係る鍛造用金型を型締めしてビレットを変形させている状態を示す立断面図である。
【
図2C】本発明の実施形態に係る鍛造用金型をさらに型締めしてビレットを変形させている状態を示す立断面図である。
【
図3A】本発明の実施形態に係る鍛造成型品を示す立面図である。
【
図4A】本発明の実施形態に係る鍛造成型品における自由成形面の形状の一例を示す断面図である。
【
図4B】本発明の実施形態に係る鍛造成型品における自由成形面の形状の別の一例を示す断面図である。
【
図5A】本発明の実施形態に係る鍛造成型品を切削して形成されるロータハブを示す立面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態に係る鍛造用金型、鍛造方法及び鍛造成型品について、図面を参照しながら説明する。各図面において同一の符号を用いて示される構成要素は、同一の構成要素であることを意味する。但し、明細書中に特段の断りが無い限り、各構成要素は一つに限定されず、複数存在してもよい。また、各図面において重複する構成及び符号については、説明を省略する場合がある。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において構成を省略する又は異なる構成と入れ替える等、適宜変更を加えて実施することができる。
【0022】
まず、本発明の実施形態に係る「鍛造用金型」、「鍛造方法」及び「鍛造成型品」の概略を説明する。
【0023】
図1A、
図1Bには、本発明の実施形態に係る「鍛造用金型20(以下、金型20と称す)」が示されている。この金型20を用いて、被加工材であるビレット50を
図2A~
図2Cに示す「鍛造方法」によって鍛造する。これにより、
図3A、
図3Bに示す「鍛造成型品60(以下、成型品60と称す)」が成形される。成型品60は、
図5に示す最終成型品としてのロータハブ10の中間材である。ロータハブ10は、成型品60を切削加工することで成形される。
【0024】
<ロータハブ>
本発明の実施形態に係る金型20、鍛造方法及び成型品60に関する説明に先立って、ロータハブ10の構成について説明する。
図5A、
図5Bに示すロータハブ10は、図示しないアウターロータ式のスピンドルモータを構成する筒状の回転子である。ロータハブ10は、例えばステンレス鋼等の金属材料によって形成されている。
【0025】
なお、以下の説明において、ロータハブ10の回転軸Oに沿う方向を軸方向という。また、回転軸Oと直交する方向を径方向といい、回転軸O回りに周回する方向を周方向という。
【0026】
ロータハブ10は、円筒状に形成された外周部12と、外周部12の上端部に形成され、外周部12の径方向外側へ張り出したフランジ部14と、外周部12の内側に形成された中央部16と、を備えている。
【0027】
なお「上端部」とは、
図5Bの紙面上方向の端部のことを示している。この「紙面上方向」は、ロータハブ10の使用状態における上下方向とは必ずしも一致しない。後述する「下端部」(
図5Bの紙面下方向の端部)についても同様である。
【0028】
フランジ部14は、外周部12の上端部の全周に亘って径方向外側へ張り出し、円環状に形成されている。中央部16は、外周部12の上端部と下端部との間において、外周部12の径方向内側に形成されている。中央部16には、フランジ部14側に突出した凸部19が形成されている。また、中央部16には、貫通孔18が形成されている。貫通孔18は、回転軸Oを中心軸とする丸孔であり、中央部16の底面から凸部19の頂面まで貫通している。
【0029】
なお、ロータハブ10は、例えば情報記録再生装置に用いられる。また、ロータハブ10は、円盤状のディスク(磁気記録媒体)Dにおける中央の孔Dhに外周部12が嵌合された状態で使用される。このとき、フランジ部14に、ディスクDにおける孔Dhの縁部が載置される(載置面14A)。情報記録再生装置の駆動時、ロータハブ10は、周方向に回転自在に支持された状態で、図示しないスピンドルモータの駆動により周方向に回転する。
【0030】
<鍛造用金型>
図1A、
図1Bに示すように、金型20は、第一型30と、第二型40と、を備えて構成されている。
【0031】
(第一型)
第一型30は、鍛造時に固定した状態で使用される固定型である。第一型30には、ビレット50(
図2A参照)を配置する凹部であるキャビティ30Cが形成されている。また、第一型30は、キャビティ30Cの底面36を形成する底面型30Aと、キャビティ30Cの側面32を形成する側面型30Bと、を備えて形成されている。
【0032】
キャビティ30Cの底面36は、第二型40の移動方向(以下、移動方向Vと称す)に沿う軸Oを中心とする円形状に形成されている。これに対応して、底面型30Aの頂面は軸Oを中心とする円形状に形成され、底面型30Aは、軸Oを中心軸とする円筒状に形成されている。
【0033】
また、キャビティ30Cの底面36には、第二型40へ向けて移動方向Vに沿って突出した突起36A、36Bが形成されている。突起36Aは、軸Oを中心軸とする円錐台形の突起である。突起36Bは、突起36Aを取り囲む円環状に形成された突起である。突起36Aの高さ(移動方向Vに沿う寸法)は、突起36Bの高さより高い。換言すると、突起36Aは、底面36に形成された複数の突起のうち、最も高さが高い突起である。
【0034】
キャビティ30Cの側面32は、第一側面32A及び第二側面32Bを備えている。第一側面32Aは、キャビティ30Cの底面36寄りの側面であり、移動方向Vに沿う方向から見た形状が、底面36と略一致する形状とされている。第二側面32Bは、第一側面32Aから見て第二型40側に形成されている。また、第二側面32Bは、移動方向Vに沿う方向から見た形状が、第一側面32Aの同心円に沿い、かつ、第一側面32Aより大径の円形状とされている。
【0035】
また、キャビティ30Cにおいては、第一側面32A及び第二側面32Bの間に、段差面34が形成されている。段差面34は、移動方向Vと略直交する面内に沿って形成された平坦面である。
【0036】
(第二型)
第二型40は、鍛造時(型締め時)に第一型30に対して接近する方向(移動方向V)に動かして使用される可動型である。なお、第二型40は第一型30の上方に配置されるため、第二型40及び第一型30を、それぞれ上型及び下型と称す場合がある。また、第二型40は第一型30のキャビティ30Cに挿入されるため、この第二型40をコア型又はコアと称す場合もある。
【0037】
第二型40は、側面42、押圧面44、頂面46及び貫通孔48を備えて形成されている。
【0038】
側面42は、第一側面42A及び第二側面42Bを備えている。第一側面42Aは、移動方向Vに沿う方向から見た形状が、第一型30における第一側面32Aの同心円に沿い、かつ、第一側面32Aより小径の円形状とされている。第一側面42Aは、第二側面42Bよりキャビティ30Cの底面36側に形成されている。第二側面42Bは、移動方向Vに沿う方向から見た形状が、第一型30における第二側面32Bと略一致する形状とされている。
【0039】
これにより、第二型40は、第一側面42Aがキャビティ30Cの第一側面32Aと離間した状態で、かつ、第二側面42Bが、キャビティ30Cの第二側面32Bと接した状態で動かされる。
【0040】
押圧面44は、第一側面42A及び第二側面42Bの間において、移動方向Vと略直交する面内に沿って形成された平坦面である。押圧面44は、キャビティ30Cの段差面34と対向して配置される。
【0041】
頂面46は、第一側面42Aと交わる面であり、キャビティ30Cの底面36と対向して配置される。
【0042】
貫通孔48は、頂面46に開口部を形成する円形の孔であり、軸Oを中心軸として、移動方向Vに沿って設けられている。つまり貫通孔48は、突起36Aと対向する位置に設けられている。また、移動方向に沿う方向からみて、貫通孔48の内径は、突起36Aの外径より大きい。
【0043】
<鍛造方法>
上述した金型20を用いて、
図3A、
図3Bに示す成型品60を鍛造する。成型品60は、熱間鍛造によって成型することもできるが、本明細書においては冷間鍛造によって成形する場合について説明する。
【0044】
成型品60を鍛造するには、まず
図2Aに示すように、キャビティ30Cに、被加工材であるビレット50を配置する。ビレット50は、ステンレス鋼等の金属材料によって形成されている。ビレット50は円柱形状とされており、外周面50Aがキャビティ30Cにおける第一側面32Aと接して配置される。なお「接して」とは、外周面50Aと第一側面32Aとの間に、ビレット50を着脱可能な程度の隙間が形成されている状態を含むものとする。
【0045】
ビレット50がキャビティ30Cに配置された状態では、ビレット50の底面50Bが、キャビティ30Cの底面36に形成された突起36Aの頂面と接して配置される。この状態で第二型40を第一型30に近づく方向へ動かすことにより、まずビレット50の頂面50Cに、第二型40の頂面46が接触する。これにより、第二型40と第一型30とで、ビレット50が挟み込まれる。
【0046】
次に
図2Bに示すように、第二型40と第一型30とで、ビレット50を押圧する(型締めする)。これにより、ビレット50の底面50Bが、第一型30の突起36A、36Bから押圧されて変形する。この結果、ビレット50の底面50Bには、凹部58が形成される。なお、凹部58のうち、突起36A、36Bから押圧されて形成されるものを、それぞれ凹部58A、58Bとする。
【0047】
一方、ビレット50の頂面50Cも、第二型40の頂面46から押圧されて変形する。これによりビレット50には、第一型30の第一側面32Aと第二型40の第一側面42Aとで挟まれた部分である外周部52が形成される。
【0048】
また、ビレット50の頂面50Cが、第二型40において貫通孔48を備えた頂面46から押圧されることにより、ビレット50には、貫通孔48に陥入した凸部59が形成される。凸部59は、凹部58Aの上方に形成される。また、凸部59は、側面が貫通孔48の内周面に接する一方、頂面(ビレット50の頂面50Cにおいて、貫通孔48の内側に配置される部分)は第二型40と接触しない。換言すると、凸部59の頂面は、自由成形面とされている(自由成形面については後述する)。
【0049】
なお、本発明における「被加工材とコアとの間に形成される間隙」とは、本実施形態においては、被加工材であるビレット50の凸部59と、コアである第二型40と、の間に形成される隙間のことである。具体的には、凸部59と、第二型40に形成された貫通孔48の内壁のうち凸部59と接触しない部分と、で囲まれる空間を指す。
【0050】
第二型40と第一型30とで、ビレット50の押圧を続けると、外周部52の上端部が、第二型40の押圧面44と接触し、押圧面44から押圧される。これにより、外周部52の上端部は、外周部52の径方向外側へ向かって変形する。
【0051】
この変形した部分が、押圧面44及び第一型30の段差面34とで押圧されることにより、
図2Cに示すようにフランジ部54が形成される。フランジ部54は、外周部52の上端部において、外周部52の径方向外側へ張り出した部分である。
【0052】
以上の工程により、
図3A、
図3Bに示す成型品60が得らえる。
【0053】
<鍛造成型品>
成型品60は、外周部62と、フランジ部64と、中央部66と、凹部68と、凸部69と、を備えて形成される。
【0054】
外周部62は、成形されたビレット50における外周部52に相当する部分であり、円筒状に形成されている。なお、
図3A、
図3Bに示した例においては、外周部62の外周面及び内周面が筒軸方向に対して傾斜して形成されているが、本発明の実施形態はこれに限らない。使用する金型の形状に応じて、また、スピンドルモータの仕様に合わせて、これらの外周面及び内周面は、何れもまたはどちらか一方を、傾斜しない(筒軸方向に沿う)形状としてもよい。
【0055】
フランジ部64は、成形されたビレット50におけるフランジ部54に相当する部分であり、外周部62の上端部に形成され、外周部62の径方向外側へ張り出して形成されている。
【0056】
中央部66は、成形されたビレット50における外周部52の内側の部分に相当する部分、すなわち外周部62の内側部分である。
【0057】
凹部68は、成形されたビレット50における凹部58に相当する部分であり、中央部66の底面に形成されている。なお、凹部68における凹部68A、68Bはそれぞれ、凹部58における凹部58A、58Bに相当する。
【0058】
凸部69は、成形されたビレット50における凸部59に相当する部分であり、中央部66において凹部68の上方に形成されている。この凸部69は、自由成形面69Aを備えている。
【0059】
「自由成形面」とは、鍛造成型の過程において、金型20と接触しないで形成された面である。本実施形態においては、ビレット50において、貫通孔48の内部に陥入して形成された凸部59の頂面に相当する。
【0060】
自由成形面69Aは、金型20と接触して形成される部分と比較して、表面が粗く、梨地状に成形される。一方で、金型20と接触して形成される部分は、自由成形面69Aと比較して、平滑度が高い。また、金型20と接触して形成される部分は、自由成形面69Aと比較して、表面硬度が高い。
【0061】
これは、鍛造用金型が、一般的に、焼き入れした鋼や超硬合金を、機械加工や放電加工によって製作されることに由来する。これらの加工により、金型の表面は、研削仕上げ面や遊離砥粒によるラップ仕上げ面となり、平滑度が高く形成される。成型品60における自由成形面69A以外の部分には、この金型20の表面の平滑度が転写される。
【0062】
成型品60における凸部69の自由成形面69Aと側面69Bとの間には、金型20と接触しない曲面69Cが形成されている。曲面69Cは、0.01mm以上の半径を有している。
【0063】
自由成形面69Aは、金型20によって押圧されないため、成型時に形状が安定しない。このため、自由成形面69Aは、
図3Bに示すように平坦に形成される場合や、
図4A、
図4Bに示すように曲面状に形成される場合がある。
【0064】
一例として、
図4Aに示す自由成形面69Aは、凸部59から上側に突出した球面R1に沿う形状とされている。また、別の一例として、
図4Bに示す自由成形面69Aは、凸部59から下側に陥入した球面R2に沿う形状とされている。球面R1、R2の直径は特に限定されるものではないが、少なくとも凸部69の側面69Bの上端部の半径r1より大きく形成される。
【0065】
<切削>
成型品60を切削することで、
図5A、
図5Bに示したロータハブ10が得られる。ロータハブ10における外周部12、フランジ部14、中央部16及び凸部19は、成型品60における外周部62、フランジ部64、中央部66及び凸部69を切削して形成される。また、ロータハブ10における貫通孔18は、成型品60における凹部68Aを切削し、自由成形面69Aまで貫通した貫通孔とすることで形成される。
【0066】
<作用及び効果>
【0067】
図1A、
図1Bに示すように、本発明の実施形態に係る金型20は、キャビティ30Cの底面36に、コアである第二型40へ向けて、第二型40の移動方向Vに沿って突出した突起36Aが形成されている。このため、
図2Bに示すように、キャビティ30Cと第二型40とで被加工材としてのビレット50を挟んで押圧した際に、ビレット50は、突起36Aから局部的な圧力を受ける。これによりビレット50は、第二型40へ向かって変形する。
【0068】
一方で、第二型40においてキャビティ30Cの突起36Aと対向する部分には、第二型40の移動方向Vに向けて開口部としての貫通孔48が設けられている。この貫通孔48は、第一型30と第二型40とを型締めした状態で、ビレット50との間に間隙を形成する部分である。すなわち、ビレット50において、キャビティ30Cの突起36Aから押圧されて変形した部分の少なくとも一部(すなわち、成型品60における自由成形面69A)は、第二型40と接触しない。
【0069】
これにより、突起36Aからビレット50を介して第二型に作用する押圧力が低減される。また、第二型40からビレット50を介して第一型30に作用する押圧力が低減される。このため、金型20の耐久性を向上し、金型20を長寿命化できる。
【0070】
また、本発明の実施形態に係る金型20では、
図2Cに示すように、第二型40の移動方向Vと交わる方向(略直交する方向)の段差面34及び押圧面44によって、ビレット50が押圧される。このためビレット50の外周部52が据え込み鍛造される。これにより、ビレット50の外周部52における金属の組織を緻密にして、強度を大きくできる。
【0071】
ここで、ビレット50の外周部52には、段差面34及び押圧面44に押圧されることによりフランジ部54が形成される。このフランジ部54は、最終成型品であるロータハブ10におけるフランジ部14に相当する部分である。上述したように、このフランジ部14にはディスクDが載置されるため、高精度の加工が必要とされる。
【0072】
一方、ビレット50の中央部分は、第二型40と接触しない部分が設けられ、自由変形が許容されている。これにより、フランジ部54(すなわち成型品のフランジ部64及びロータハブ10のフランジ部14)を高精度に加工できる一方で、ビレット50の体積のバラツキを、成型品60の自由成形面69Aによって吸収することができる。
【0073】
また、ビレット50の外周部52に、第二型40の移動方向Vと交わる方向へ張り出すフランジ部54を形成できる。このため、削り出しのみによってフランジ部54を形成する場合と比較して、材料の歩留まりがよい。
【0074】
なお、フランジ部54は、段差面34及び押圧面44によって押圧されたビレット50が、第二型40の移動方向Vと交わる方向(略直交する方向)へ変形して形成される。すなわちビレット50の外周部52は、移動方向Vと交わる方向に対して変形することにより、発生する内部応力が低減される。このため、金型20へ与える押圧力が大きくなり難い。
【0075】
これに対して、外周部52の内側部分である中央部分は、移動方向Vと交わる方向に対して変形し難い。このため、もし第二型40に貫通孔48が形成されていなかったならば、ビレット50の中央部における凹部58の上方部分には、大きな内部応力が発生する。この場合、金型20へ大きな押圧力が作用する可能性がある。
【0076】
<その他の実施形態>
本実施形態においては、第一型30を固定型とし、第二型40を可動型としているが、本発明の実施形態はこれに限らない。例えば第一型30を可動型とし、第二型40を固定型としてもよい。この場合、上述した「第二型40の移動方向V」及び「移動方向V」は、第一型30の移動方向Vと読み替えるものとする。
【0077】
また、本実施形態においては、第二型40の頂面46に貫通孔48が形成されているが、本発明の実施形態はこれに限らない。頂面46に開口部を形成するものであれば、貫通孔48に代えて、有底の穴を形成することもできる。この場合、本発明における「被加工材とコアとの間に形成される間隙」とは、凸部59と、第二型40に形成された穴の底と、で挟まれる空間を指す。
【0078】
また、第二型40は、頂面46を備えた部分と押圧面44を備えた部分とが一体的に形成されているが、本発明の実施形態はこれに限らない。例えば第二型40は、
図1Bに二点鎖線S1で示すように、頂面46を備えた部分と押圧面44を備えた部分とを分割して形成し、それぞれの部分を独立して動かしてもよい。
【0079】
すなわち、鍛造工程は1回に限定されるものではなく、成型品60の部分ごとに複数回に分けて鍛造してもよい。例えば成型品60の外周部62とフランジ部64とは、分けて鍛造することができる。
【0080】
また、
図1Bに図示された第二型40は、全体がコアとされているが、本発明の実施形態はこれに限らない。例えば、本発明における第二型は、図示された第二型40を保持する保持機構等を備えていてもよい。
【0081】
また、本実施形態においては、第一型30における側面型30Bに、第二側面32Bを形成したが、本発明の実施形態はこれに限らない。例えば
図1Bに二点鎖線S2で示すように、段差面34を側面型30Bの上面として形成してもよい。この場合、第二側面32Bが形成されない。このため、段差面34及び押圧面44によって押圧されたビレット50は、第二型40の移動方向Vと交わる方向(略直交する方向)へ向かって自由に変形する。これにより形成されるフランジ部54は、側面型30Bを押圧しない。これにより、フランジ部54から第二型40へ作用する押圧力を低減できる。
【符号の説明】
【0082】
20 鍛造用金型
30 第一型
30C キャビティ
34 段差面
36 底面
36A 突起
40 第二型(コア)
44 押圧面
48 貫通孔(開口部)
50 ビレット(被加工材)
62 外周部
64 フランジ部
66 中央部
68A 凹部
69 凸部
69A 自由成形面
V 移動方向