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  • 特許-容器入り飲料、容器入り飲料の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-07
(45)【発行日】2024-11-15
(54)【発明の名称】容器入り飲料、容器入り飲料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23C 9/13 20060101AFI20241108BHJP
   A23C 9/133 20060101ALI20241108BHJP
   B65D 85/72 20060101ALI20241108BHJP
   B65D 23/00 20060101ALI20241108BHJP
   A23L 2/00 20060101ALI20241108BHJP
【FI】
A23C9/13
A23C9/133
B65D85/72 200
B65D23/00 C
A23L2/00 A
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020099578
(22)【出願日】2020-06-08
(65)【公開番号】P2021192598
(43)【公開日】2021-12-23
【審査請求日】2023-04-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000006127
【氏名又は名称】森永乳業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100153763
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 広之
(72)【発明者】
【氏名】杉野 将尉
(72)【発明者】
【氏名】片倉 佑理子
【審査官】村松 宏紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-197866(JP,A)
【文献】特許第4869372(JP,B1)
【文献】特開2016-154506(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23C、B65D、A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液状発酵物を含み、測定温度10℃、せん断速度300s-1におけるせん断応力が10Pa以上であるベース液中に、
目開き12mmの金網を通過し、目開き5mmの金網を通過しない大きさの固形食品が存在する飲料(但し、飲料中に含まれる全固形分のうち90質量%以上が、長辺5mm以上35mm以下、短辺2mm以上24mm以下及び厚さが短辺の10%厚以上90%厚以下の長さであり、かつ短辺に対する長辺の比率[長辺/短辺]が1.7以上7.0以下である扁平長尺状多角体である飲料を除く。)が、
容器(但し、柔軟性容器と該柔軟性容器に取り付けられた吸飲口とを具備する吸飲用容器を除く。)に収容されている、容器入り飲料。
【請求項2】
前記ベース液の、測定温度10℃、せん断速度10s-1におけるせん断応力が1Pa以上である、請求項1に記載の容器入り飲料。
【請求項3】
前記ベース液の、測定温度10℃、せん断速度300s-1におけるせん断応力が70Pa以下であり、かつ測定温度10℃、せん断速度10s-1におけるせん断応力が20Pa以下である、請求項2に記載の容器入り飲料。
【請求項4】
前記ベース液の比重が1.040~1.080であり、前記固形食品の比重が1.070~1.160であり、両者の比重の差の絶対値が0~0.120である、請求項1~3のいずれか一項に記載の容器入り飲料。
【請求項5】
前記飲料の総質量に対して、前記固形食品の含有量が5~45質量%である、請求項1~4のいずれか一項に記載の容器入り飲料。
【請求項6】
前記固形食品の50質量%以上が、目開きDmm(Dは7~12の整数)の金網を通過し、かつ目開き(D-2)mmの金網を通過しない大きさである、請求項1~5のいずれか一項に記載の容器入り飲料。
【請求項7】
最小内径が6~17mmのストローを備える、請求項1~6のいずれか一項に記載の容器入り飲料。
【請求項8】
目開き12mmの金網を通過し、目開き5mmの金網を通過しない大きさの固形食品と、測定温度10℃、せん断速度300s-1におけるせん断応力が10Pa以上である液状発酵物とを混合して飲料を得て、
前記飲料を容器(但し、柔軟性容器と該柔軟性容器に取り付けられた吸飲口とを具備する吸飲用容器を除く。)に収容する、容器入り飲料の製造方法(但し、前記飲料中に含まれる全固形分のうち90質量%以上が、長辺5mm以上35mm以下、短辺2mm以上24mm以下及び厚さが短辺の10%厚以上90%厚以下の長さであり、かつ短辺に対する長辺の比率[長辺/短辺]が1.7以上7.0以下である扁平長尺状多角体である場合を除く。)
【請求項9】
目開き12mmの金網を通過し、目開き5mmの金網を通過しない大きさの固形食品と分散液とからなる液状物と、状発酵物とを、前記分散液と前記液状発酵物とからなるベース液の測定温度10℃、せん断速度300s-1におけるせん断応力が10Pa以上となるように混合して飲料を得て、
前記飲料を容器(但し、柔軟性容器と該柔軟性容器に取り付けられた吸飲口とを具備する吸飲用容器を除く。)に収容する、容器入り飲料の製造方法(但し、前記飲料中に含まれる全固形分のうち90質量%以上が、長辺5mm以上35mm以下、短辺2mm以上24mm以下及び厚さが短辺の10%厚以上90%厚以下の長さであり、かつ短辺に対する長辺の比率[長辺/短辺]が1.7以上7.0以下である扁平長尺状多角体である場合を除く。)
【請求項10】
前記液状物と前記液状発酵物との質量比を表す、液状物/液状発酵物が10/90~50/50である、請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記液状物の総質量に対して、前記分散液の含有量が80質量%以下である、請求項9又は10に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液状発酵物及び固形食品を含む飲料、前記飲料を有する容器入り飲料、及び液状発酵物及び固形食品を含む飲料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばヨーグルト等の発酵物に、アロエ葉肉等の固形食品を加えて混合した製品が各種提案されている。
特許文献1には、発酵乳原料を発酵させた発酵乳と、アロエ葉肉粉末を水に分散させた分散液とを混合して、アロエ入り発酵乳製品を製造した例が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-176030号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のアロエ入り発酵乳製品に含まれるアロエ葉肉は、粉末状であるため充分な食感が得られない。歯ごたえの点では大きくカットしたアロエ葉肉が含まれていることが好ましい。
しかし、固形食品を大きくすると沈降しやすくなる。例えば、発酵物と固形食品とを混合して容器に充填する製造工程において、発酵物中で固形食品が沈降して分散状態が不均一になると、容器に充填される固形食品の量が不均一になり、均質な製品を安定して得ることができない。
特に、スプーン等ですくって食べる固形タイプに比べて、飲料(ドリンク)タイプの発酵乳製品は、発酵物中の固形食品がより沈降しやすい。
【0005】
本発明は、液状発酵物中に大きい固形食品を含むにもかかわらず、製造工程で固形食品の沈降が生じ難く製造安定性に優れる飲料、及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下の態様を有する。
[1] 液状発酵物を含み、測定温度10℃、せん断速度300s-1におけるせん断応力が10Pa以上であるベース液中に、
目開き12mmの金網を通過し、目開き5mmの金網を通過しない大きさの固形食品が存在する、飲料。
[2] 前記ベース液の、測定温度10℃、せん断速度10s-1におけるせん断応力が1Pa以上である、[1]の飲料。
[3] 前記ベース液の、測定温度10℃、せん断速度300s-1におけるせん断応力が70Pa以下であり、かつ測定温度10℃、せん断速度10s-1におけるせん断応力が20Pa以下である、[2]の飲料。
[4] 前記ベース液の比重が1.040~1.080であり、前記固形食品の比重が1.070~1.160であり、両者の比重の差の絶対値が0~0.120である、[1]~[3]のいずれかの飲料。
[5] 前記飲料の総質量に対して、前記固形食品の含有量が5~45質量%である、[1]~[4]のいずれかの飲料。
[6] 前記[1]~[5]のいずれかの飲料が容器に収容されている、容器入り飲料。
[7] 最小内径が6~17mmのストローを備える、[6]の容器入り飲料。
[8] 目開き12mmの金網を通過し、目開き5mmの金網を通過しない大きさの固形食品と、測定温度10℃、せん断速度300s-1におけるせん断応力が10Pa以上である液状発酵物とを混合して飲料を得る、飲料の製造方法。
[9] 前記固形食品と分散液とからなる液状物と、前記液状発酵物とを、前記分散液と前記液状発酵物とからなるベース液の測定温度10℃、せん断速度300s-1におけるせん断応力が10Pa以上となるように混合する、[8]の製造方法。
[10] 前記液状物と前記液状発酵物との質量比を表す、液状物/液状発酵物が10/90~50/50である、[9]の製造方法。
[11] 前記液状物の総質量に対して、前記分散液の含有量が80質量%以下である、[9]又は[10]の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の飲料及び容器入り飲料は、液状発酵物中に大きい固形食品を含むにもかかわらず、製造工程で固形食品の沈降が生じ難く、製造安定性に優れる。
本発明の飲料の製造方法は、液状発酵物中に大きい固形食品を含むにもかかわらず、製造工程で固形食品の沈降が生じ難く、製造安定性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施例及び比較例における、液状発酵物のせん断応力の測定結果を示すグラフである。
図2】実施例及び比較例における、ベース液のせん断応力の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
≪飲料≫
本実施形態の飲料は、ベース液中に、所定の大きさの固形食品Sが存在している。
<固形食品S>
固形食品Sは、目開き12mmの金網を通過し、目開き5mmの金網を通過しない大きさの固体状の食品である。
本明細書において、金網を通過する大きさとは、水平な金網上の固形食品を3次元全方向に回転させたときに、金網を通過する向きが1つ以上存在することを意味する。
例えば、目開き12mmの金網の面をX-Y面(水平面)とすると、底面が一辺12mmの正方形で高さが12mmを超える四角柱状の固形食品は、高さ方向がZ方向(垂直方向)であり、かつ底面の辺が網目と平行となる向きであるときに金網を通過する、すなわち金網を通過する向きが存在する。
【0010】
固形食品Sが、目開き12mmの金網を通過する大きさ(以下「12mmパス」ともいう。)であると、本実施形態の飲料の製造工程で固形食品Sの沈降を抑制しやすく、製造安定性に優れる飲料が得られやすい。また、本実施形態の飲料が静置状態にあるときにも固形食品Sの沈降が生じ難く、分散安定性に優れる飲料が得られやすい。また、ストローを使用して飲む製品形態に適用しやすい。
一方、固形食品Sが、目開き5mmの金網を通過しない大きさ(以下「5mmオン」ともいう。)であると、本発明を適用することによる沈降抑制効果が大きい点で好ましい。
【0011】
飲料に含まれる固形食品Sの大きさは均一でもよく、不均一でもよい。ほぼ均一であることがより好ましい。
例えば、飲料に含まれる固形食品Sの総質量に対して、目開きDmmの金網を通過し、かつ目開き(D-2)mmの金網を通過しないものが、50質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましく、100質量%であることが特に好ましい。
前記Dは7~12の整数であり、8~12mmの整数であることが好ましい。
【0012】
固形食品Sの形状は特に限定されない。例えば、外面が平面からなる形状(角柱状など)、外面が曲面からなる形状(球状など)、そのほかの自立可能な不定形状が挙げられる。
本実施形態の飲料に含まれる固形食品Sの形状は均一でもよく、不均一でもよい。
金網の面をX-Y面(水平面)とするとき、金網を通過する任意の向きの固形食品Sにおける、Z方向(垂直方向)の高さをHmmとする。Dmmパスかつ(D-2)mmオン(Dは7~12の整数)の固形食品Sの高さHは、D+5mm以下が好ましく、D+2mm以下がより好ましい。前記上限値以下であると飲料中での良好な分散性が得られやすく、ストローを使用して飲む際に吸い込みやすい。
前記高さHの下限は特に限定されない。良好な歯ごたえが得られやすい点では、5mm以上が好ましく、6mm以上がより好ましく、8mm以上がさらに好ましい。
【0013】
固形食品Sの種類は、上記の大きさを実現でき、飲料中で形状を保つことができるものであればよい。
固形食品Sの例としては、果実類の果肉、多肉植物(アロエ、サボテン、アッケシソウ、リュウゼツラン、ベンケイソウ、アイスプラント等)の葉肉、可食ゲル(ゼリー、寒天、タピオカ、ナタデココ等)が挙げられる。
固形食品Sは、例えば、所望の大きさに切断された加工品でもよく、所望の大きさに成形された成形品でもよい。
【0014】
固形食品Sの比重は1.070~1.160が好ましく、1.070~1.100がより好ましい。
上記の範囲内であると、飲料中での良好な分散性が得られやすい。また、砂糖やシロップ等で固形食品Sに風味付けをしても、飲料中での沈降を抑制しやすい。
【0015】
飲料の総質量に対して、固形食品Sの含有量は5~45質量%が好ましく、10~30質量%がより好ましい。上記範囲の下限値以上であると、製造時にばらつきが生じた場合にも、固形食品Sを十分に含む飲料が得られやすい。上限値以下であると固形食品Sとベース液との良好なバランスが得られやすい。
飲料中の固形食品Sの含有量は、目開き5mmの金網に、質量既知の飲料を通して、金網上に残った固形食品Sの質量を測定する方法で得ることができる。
【0016】
<ベース液>
[液状発酵物]
ベース液は液状発酵物を含む。液状発酵物は、液状の発酵乳又は液状の発酵植物性ミルクが好ましい。
本実施形態における発酵乳は、乳及び乳製品の成分規格等に関する省令に定められた発酵乳(乳又はこれと同等以上の無脂乳固形分を含む乳等を乳酸菌又は酵母で発酵させ、糊状または液状にしたもの)であり、発酵後に殺菌された「発酵乳(殺菌)」も含む。
発酵植物性ミルクは、植物性ミルクを含む原料を発酵菌(乳酸菌、酵母等)で発酵させ、糊状または液状にしたものである。植物性ミルクとは、植物原料から得られる乳状の食品を意味する。植物性ミルクとして、豆乳、アーモンドミルク、ライスミルク、ココナッツミルク、オーツミルク等が例示できる。
液状発酵物の製造方法については後述する。
【0017】
[他の成分]
ベース液は、必要に応じて、又は製造工程のなりゆきで、液状発酵物以外の他の成分を含んでもよい。
他の成分として、例えば、後述の液状物に由来する、固形食品S以外の成分を含んでもよい。
ベース液は、目開き12mmの金網を通過しない成分を含まないことが好ましい。
【0018】
[せん断応力]
ベース液の、測定温度10℃、せん断速度300s-1におけるせん断応力(以下、「せん断応力(300)」ともいう。)は10Pa以上であり、20Pa以上が好ましく、40Pa以上がより好ましく、50Pa以上がさらに好ましい。
ベース液のせん断応力(300)が上記下限値以上であると、本実施形態の飲料の製造工程で固形食品Sの沈降が抑制され、製造安定性に優れる。
ベース液のせん断応力(300)の上限値は、飲料の飲みやすさ、及びストローを使用して飲む場合の吸い込みやすさの点で、70Pa以下が好ましい。
【0019】
ベース液の、測定温度10℃、せん断速度10s-1におけるせん断応力(以下、「せん断応力(10)」ともいう。)は1Pa以上が好ましく、4Pa以上がより好ましく、10Pa以上がさらに好ましい。
ベース液のせん断応力(10)が上記下限値以上であると、本実施形態の飲料が静置状態にあるときに固形食品Sの沈降が生じ難く、分散安定性に優れる。
ベース液のせん断応力(10)の上限値は、飲料の飲みやすさ、及びストローを使用して飲む場合の吸い込みやすさの点で、20Pa以下が好ましい。
【0020】
ベース液は、例えば、せん断応力(300)が10~70Pa、かつせん断応力(10)が1~20Paである。
好ましくは、せん断応力(300)が20~70Pa、かつせん断応力(10)が1~20Paであり、
より好ましくは、せん断応力(300)が20~70Pa、かつせん断応力(10)が4~20Paであり、
さらに好ましくは、せん断応力(300)が40~70Pa、かつせん断応力(10)が4~20Paであり、
特に好ましくは、せん断応力(300)が40~70Pa、かつせん断応力(10)が10~20Paであり、
最も好ましくは、せん断応力(300)が50~70Pa、かつせん断応力(10)が10~20Paである。
【0021】
ベース液の比重は1.040~1.080が好ましく、1.040~1.060がより好ましい。
ベース液の比重は固形食品Sの比重より大きくてもよく、小さくてもよく、同じでもよい。容器に充填された飲料をストローで吸引して飲む際の飲みやすさの点では、ベース液の比重が、固形食品Sの比重より小さいことがより好ましい。
ベース液の比重と固形食品Sの比重との差の絶対値は0~0.120が好ましく、0~0.050がより好ましく、0~0.020がさらに好ましい。上記の範囲内であると、ベース液中での固形食品Sの沈降を抑制しやすい。
【0022】
≪容器入り飲料≫
本実施形態の飲料の製品形態は、前記飲料が容器に収容されている容器入り飲料が好ましい。
容器入り飲料はストローを備えることが好ましい。ストローは全長にわたって内径が均一であっても、内径が異なる2本以上の管からなる多段式伸縮ストローであってもよい。多段式伸縮ストローは、2本以上の管をスライドさせることによって、ストローの全長を伸縮可能に構成されている。
ストローの太さは、飲料中の固形食品を吸い込める大きさであればよい。例えば、ストローの最小内径は6~17mmが好ましく、7~15mmがより好ましく、8~13mmがさらに好ましく、9~13mmが特に好ましい。
【0023】
≪飲料の製造方法≫
本実施形態の飲料は、下記方法(1)又は方法(2)で製造することが好ましい。
方法(1)は、固形食品Sと液状発酵物を混合して飲料を得る方法である。例えば、液状発酵物に固形食品Sを投入し、混合して飲料を得る。この方法で得られる飲料は、液状発酵物がベース液であり、液状発酵物中に固形食品Sが存在している。
方法(2)は、固形食品Sと分散液とからなる液状物を用い、この液状物と液状発酵物とを混合して飲料を得る方法である。例えば、液状発酵物に液状物を投入し、混合して飲料を得る。この方法で得られる飲料は、液状発酵物と分散液とからなる混合液がベース液であり、この混合液中に固形食品Sが存在している。
方法(2)は、固形食品Sが液中に分散した状態で、固形食品Sを移送できる点で好ましい。
【0024】
[液状発酵物の調製]
方法(1)及び(2)で用いる液状発酵物は、乳原料又は豆乳と、発酵菌(乳酸菌、酵母等)とを含む液状発酵物原料を発酵させ、得られた発酵物(カード)をスムージング処理して得られる。
スムージング処理とは、発酵物(カード)を破砕して滑らかにする処理を意味する。破砕手段は、発酵乳の製造において公知の破砕手段を用いることができる。具体例としては、ホモゲナイザー、背圧バルブ、フィルター、ポンプ等が挙げられる。
スムージング処理の処理条件(破砕手段、破砕強度等)によって、液状発酵物のせん断応力を調整できる。
【0025】
前記乳原料は乳由来の原料であり、発酵乳の製造において用いられる公知の乳原料を用いることができる。例えば、牛乳、水牛乳、羊乳、山羊乳、馬乳、脱脂乳、脱脂濃縮乳、脱脂粉乳、濃縮乳、全脂粉乳、クリーム、バター、バターミルク、練乳、乳タンパク質が挙げられる。これらは1種類のみ用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
前記液状発酵物原料は、必要に応じて水、添加成分を含有してもよい。添加成分としては、発酵乳又は発酵豆乳の製造において公知の添加成分を使用できる。例えば、ショ糖、オリゴ糖等の糖類、植物性脂肪、安定剤、香料、糖類以外の甘味料等が挙げられる。
液状発酵物原料の組成によって、液状発酵物の比重を調整できる。
【0026】
方法(1)で使用する液状発酵物のせん断応力(300)、せん断応力(10)及び比重は、前記ベース液と同じである。
方法(2)で使用する液状発酵物のせん断応力(300)は、例えば10~80Paが好ましく、20~80Paがより好ましく、40~80Paがさらに好ましく、50~80Paが特に好ましい。
方法(2)で使用する液状発酵物のせん断応力(10)は、例えば1~30Paが好ましく、4~30Paがより好ましく、10~30Paがさらに好ましい。
方法(2)で使用する液状発酵物の比重は、例えば1.030~1.080が好ましく、1.030~1.060がより好ましい。
【0027】
[液状物の調製]
方法(2)では、予め、固形食品Sと分散液との混合物である液状物を調製する。
分散液は少なくとも水を含む。さらに、糖類、増粘剤(キサンタンガム、グァーガム等)、添加物(酸味料、pH調整剤、酸化防止剤等)等を含んでもよい。
また分散液は、本発明の効果を損なわない範囲で、目開き5mmの金網を通過する水不溶性の固体成分を含んでもよい。
【0028】
分散液は、例えば、糖類を1~40質量%含むことが好ましく、2~20質量%含むことがより好ましい。
分散液は、例えば、増粘剤を0.01~1.50質量%含むことが好ましく、0.05~0.70質量%含むことがより好ましい。
分散液の総質量に対して、前記固体成分の含有量は、50質量%以下であることが好ましく、20質量%以下がより好ましい、ゼロでもよい。
【0029】
例えば、水及び必要に応じた成分を予備混合し、得られた予備混合物と固形食品Sとを混合した後、殺菌処理して液状物を得る。
予備混合物と固形食品Sとの間で成分の移行があってもよい。すなわち、混合前の固形食品Sの比重と、液状物中の固形食品Sの比重とが異なってもよい。
液状物中の固形食品Sの比重は、液状物中の分散液の比重より大きくてもよく、小さくてもよく、同じでもよい。
液状物全体の比重は1.070~1.160が好ましく、1.070~1.100がより好ましい。
方法(2)において、液状物の総質量に対する分散液の含有量は、例えば0質量%超80質量%以下が好ましく、3~80質量%がより好ましく、5~30質量%がさらに好ましい。
【0030】
方法(2)では、液状物と液状発酵物とを混合して飲料を得る。
液状物と液状発酵物の組み合わせ及び混合割合は、分散液と液状発酵物とからなる混合液のせん断応力(300)が10Pa以上となるように設計する。
前記混合液のせん断応力(300)、せん断応力(10)及び比重の好ましい範囲は、前記ベース液における好ましい範囲と同じである。
【0031】
液状物と液状発酵物との質量比(混合割合)を表す、液状物/液状発酵物は10/90~50/50が好ましく、20/80~30/70がより好ましい。液状物の割合が上記範囲の下限値以上であると、方法(2)を用いることによる効果が充分に得られやすく、上限値以下であると、液状発酵物に由来する風味が充分に得られやすい。
【0032】
方法(1)又は方法(2)で得られた飲料を容器に充填して容器入り飲料を得る。
【0033】
本実施形態の飲料は、ベース液のせん断応力が上記の条件を満たすという特性を有する。
一般的に、流動体の流動性を数値で表す方法として、各種現象又は工業的操作における流動体の流し方の指標としてせん断速度(単位:s-1)を用い、流動体が抵抗する力の指標としてせん断応力を用いる方法がある。
せん断速度の目安として、例えば、重力による液ダレは10-1~10s-1、噛む又は飲むは10~100s-1、嚥下時は130s-1程度、混合又は撹拌は10~1,000s-1等が知られている(太陽化学株式会社、食と健康Lab、学術コラム、「ゼロからのレオロジー」、増渕 雄一、[2020年5月22日検索]、インターネット<https://www.taiyokagaku.com/lab/column/27/>。J.F.Steffe,Rheological Methods in Food Process Engineering,2nd Ed.,Freeman Press 1997、[2020年5月22日検索]、インターネット<http://www.phariyadi.staff.ipb.ac.id/files/2013/02/STEFFE-Rheology-Book.pdf>。)。
本発明においては、飲料の製造工程において、固形食品と液状発酵物とを混合して容器に充填する際の、固形食品の沈降し難さの指標として、せん断速度300s-1(測定温度10℃)におけるせん断応力を採用した。
また、飲料が静置された状態における固形食品の沈降し難さの指標として、せん断速度10s-1(測定温度10℃)におけるせん断応力を採用した。
【0034】
本実施形態の飲料は、比較的大きい固形食品Sを含むにもかかわらず、後述の実施例に示されるように、ベース液のせん断応力(300)を10Pa以上にすることにより、飲料の製造時における固形食品Sの沈降を抑制でき、製造安定性が良好となる。
また、後述の実施例に示されるように、ベース液のせん断応力(10)を1Pa以上にすることにより、飲料が静置状態にあるときの固形食品Sの沈降を抑制でき、分散安定性が良好となる。
【実施例
【0035】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0036】
<測定方法>
[比重]
比重は、京都電子工業株式会社製、密度比重計DA-650を用いて測定した。測定温度は20℃とした。
アロエ葉肉の比重、及びアロエ葉肉を含む液状物全体の比重は、アロエ葉肉をミキサーで粉砕して液状にして測定した。
【0037】
[せん断応力]
粘弾性測定装置(Anton Paar社製品名「MCR-301」)を使用し、せん断速度を0.1から300(単位:s-1)まで上昇させながら、測定温度10℃の条件でせん断応力を測定した。得られた流動曲線から、せん断速度が10s-1であるときのせん断応力及びせん断速度が300s-1であるときの値(単位:Pa)を得た。
【0038】
<評価方法>
[沈降抑制性の評価]
製造時の沈降抑制性:飲料の製造工程において、固形食品と液状発酵物とを混合して容器に充填する際の、沈降抑制性の評価の指標として、飲料をビーカーに入れて撹拌した直後の沈降抑制性を用いた。
静置時の沈降抑制性:飲料が静置された状態における沈降抑制性の評価の指標として、飲料をビーカーに入れて撹拌した後に静置し、1時間後及び7日後の沈降抑制性を用いた。
すなわち、温度10℃の雰囲気中で、アロエ葉肉含有飲料(10℃)の100gを100mLビーカーに入れ、撹拌した後、静置した。混合直後、1時間後及び7日後に、飲料中のアロエ葉肉(固形食品)の沈降の有無を目視で確認した。具体的にはビーカーの底面を、ビーカーの外側から観察し、底に沈降しているアロエ葉肉の数を計測した。下記の基準で評価した。
○:沈降しているアロエ葉肉が0個。
△:沈降しているアロエ葉肉1~2個。
×:沈降しているアロエ葉肉3個以上。
【0039】
[ストローで飲む際の吸い込みやすさ・飲みやすさの評価]
アロエ葉肉含有飲料を2段収縮ストロー(内径1段目9mm、2段目12.5mm)を使用して試食し、吸引時の吸い込みやすさと飲みやすさを下記の基準で評価した。
「吸い込みやすさ」は、ストローで吸引開始時の吸い込みやすさについて、「1点:吸い込みにくい」~「5点:吸い込みやすい」の5段階評価とした。
「飲みやすさ」は、ストローで吸いながら飲み続ける場合の飲みやすさについて、「1点:飲みにくい」~「5点:飲みやすい」の5段階評価とした。
訓練された5名のパネリスト(パネリスト1~5)で各項目の評価を行い、平均点を求めた。
【0040】
以下の原料を用いた。
<原料>
脱脂粉乳:森永乳業社製。
クリーム:森永乳業社製、乳脂肪分45.0質量%。
乳たんぱく質:フォンテラ社製、WPI(乳清蛋白質分離物)。
砂糖:東洋精糖社製。
アロエ葉肉a1:1辺8mm(設定値)の立方体に切断したアロエ葉肉加工品、8mmパスかつ6mmオンであるものが100質量%。
アロエ葉肉a2:1辺10mm(設定値)の立方体に切断したアロエ葉肉加工品、10mmパスかつ8mmオンであるものが100質量%。
アロエ葉肉a3:1辺12mm(設定値)の立方体に切断したアロエ葉肉加工品、12mmパスかつ10mmオンであるものが100質量%。
キサンタンガム:ユニテックフーズ社製、安定剤。
グァーガム:ユニテックフーズ社製、安定剤。
【0041】
<調製例1:アロエ葉肉入り液状物A1~A3の調製>
表1に示す各原料を混合し、50℃で10分間加熱撹拌し、殺菌して、シロップ液中にアロエ葉肉a1~a3がそれぞれ分散しているアロエ葉肉入り液状物A1~A3(単に液状物A1~A3ともいう。)を調製した。
【0042】
【表1】
【0043】
<調製例2:液状発酵物B1~B6の調製>
表2に示す原料からなる液状発酵物B1~B6を、下記の方法で調製した。
まず、表に示す各原料を、ミキサーを用いて混合し、65℃に加温して溶解して混合液を得た。得られた混合液を15MPaの均質圧で均質化し、続いて90℃で5分間殺菌処理を行い38℃まで冷却した。殺菌後の混合液に、乳酸菌スターター(クリスチャン・ハンセン社製)を0.1g接種し、液状発酵物原料とした。液状発酵物原料をpH4.6になるまで38℃で7時間発酵させた後、10℃まで冷却してカード(液状発酵物原料の発酵物)を得た。得られたカードを下記の方法でスムージング処理して液状発酵物を調製した。
液状発酵物B1は、ホモゲナイザーを用い10MPaでスムージング処理した。
液状発酵物B2~B6は背圧バルブを用いてスムージング処理した。
【0044】
【表2】
【0045】
<例1~6:アロエ葉肉含有飲料の製造>
例1は比較例、例2~6は実施例である。
各例において、(1)アロエ葉肉入り液状物A1を用いた配合、(2)アロエ葉肉入り液状物A2を用いた配合、又は(3)アロエ葉肉入り液状物A3を用いた配合の3通りで、アロエ葉肉含有飲料を製造した。
具体的には、表3、4に示す配合で、アロエ葉肉入り液状物A1~A3と液状発酵物B1~B6とを混合し、アロエ葉肉含有飲料を得た。
得られたアロエ葉肉含有飲料を、2段収縮ストロー(内径:1段目9mm、2段目12.5mm)を備えるプラスチック容器(容量250mL)に充填し、容器入り飲料を得た。
【0046】
各例で使用した、混合前のアロエ葉肉の比重、混合前のシロップ液の比重、混合後の液状物全体の比重を表3、4に示す。
各例で使用した液状物を、目開き5mmの金網を用いてアロエ葉肉とシロップ液とに分け、それぞれ比重を測定した。液状物中のアロエ葉肉の比重及びシロップ液の比重を表3、4に示す。
各例で使用した、混合前の液状発酵物の比重を表3、4に示す。
各例で得られたアロエ葉肉含有飲料を、目開き5mmの金網を用いて、アロエ葉肉とベース液(シロップ液と液状発酵物の混合液)とに分け、ベース液の比重を測定した。飲料中のアロエ葉肉の比重、ベース液の比重、及びこれらの比重差(絶対値)を表3、4に示す。なお、飲料中のアロエ葉肉の比重は、液状物中のアロエ葉肉の比重の値を用いた。
【0047】
各例で使用した、混合前の液状発酵物B1~B6について、上記の方法でせん断応力を測定した。得られた流動曲線を図1に示す。せん断応力(10)及びせん断応力(300)の値を表5に示す。
また、各例で得られたアロエ葉肉含有飲料のベース液について、上記の方法でせん断応力を測定した。得られた流動曲線を図2に示す。せん断応力(10)及びせん断応力(300)の値を表5に示す。
なお、各例の(1)~(3)は、アロエ葉肉の大きさと、シロップ液における砂糖の含有量を変えたものであり、アロエ葉肉含有飲料のベース液の流動曲線は互いに同じになる。
【0048】
各例で得られたアロエ葉肉含有飲料について、ストローで飲む際の吸い込みやすさと飲みやすさを上記の方法で評価した。
例1で得たアロエ葉肉含有飲料を5点、市販の固形タイプのヨーグルト(森永乳業社製品名「森永アロエヨーグルト」)をストローで飲む場合を1点として5段階評価した。5名のパネリスト(パネリスト1~5)の採点結果を表6、7に示す。平均点を表5、6、7に示す。
【0049】
各例で得られたアロエ葉肉含有飲料について、飲料中の固形食品の沈降抑制性を上記の方法で評価した。
各例の(1)~(3)のそれぞれについて沈降抑制性を評価した結果を表8に示す。
各例の(1)~(3)の評価結果に基づいて、下記の基準で総合評価した。結果を表5、8に示す。
(総合評価)
A:(1)~(3)の全てが○。
B:△があるが、×は無い。
C:×がある。
【0050】
【表3】
【0051】
【表4】
【0052】
【表5】
【0053】
【表6】
【0054】
【表7】
【0055】
【表8】
【0056】
表5の結果に示されるように、ベース液のせん断応力(300)が10Pa以上である例2~6の飲料は、製造時(混合直後)の沈降抑制性が良好であった。
また、ベース液のせん断応力(10)が1Pa以上である例2~6の飲料は、静置時の沈降抑制性が良好であった。
ベース液のせん断応力(300)が70Pa以下であり、かつせん断応力(10)が20Pa以下である例1、2、4、6の飲料は、ストローでの吸い込みやすさ及び飲みやすさに優れていた。
【0057】
<製造例1:アロエ葉肉含有飲料の製造>
本例では、分散液(シロップ液)を使用せずにアロエ葉肉含有飲料を製造した。すなわち、アロエ葉肉a1の14質量部と液状発酵物B2の86質量部とを混合し、液状発酵物B2をベース液とするアロエ葉肉含有飲料を得た。ベース液のせん断応力(300)は21.10Pa、せん断応力(10)は4.41Paである。
得られたアロエ葉肉含有飲料を、2段収縮ストロー(内径:1段目9mm、2段目12.5mm)を備えるプラスチック容器(容量250mL)に充填し、容器入り飲料を得た。
図1
図2