(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-07
(45)【発行日】2024-11-15
(54)【発明の名称】半導体製造装置用部材およびそれを用いた半導体製造装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/3065 20060101AFI20241108BHJP
C04B 35/488 20060101ALI20241108BHJP
C04B 35/505 20060101ALI20241108BHJP
C01G 25/00 20060101ALI20241108BHJP
C01F 17/34 20200101ALI20241108BHJP
H01L 21/31 20060101ALI20241108BHJP
【FI】
H01L21/302 101G
C04B35/488
C04B35/505
C01G25/00
C01F17/34
H01L21/302 101L
H01L21/31 C
(21)【出願番号】P 2020126094
(22)【出願日】2020-07-27
【審査請求日】2023-05-17
(31)【優先権主張番号】P 2019141011
(32)【優先日】2019-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003029
【氏名又は名称】弁理士法人ブナ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川瀬 悠司
【審査官】小▲高▼ 孔頌
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-191369(JP,A)
【文献】特表2016-525287(JP,A)
【文献】特開2017-149632(JP,A)
【文献】特開2001-163672(JP,A)
【文献】特開2003-048792(JP,A)
【文献】特開2010-195682(JP,A)
【文献】特開2006-064992(JP,A)
【文献】特開2018-019017(JP,A)
【文献】特開2002-001865(JP,A)
【文献】特開2005-240171(JP,A)
【文献】特開2002-249864(JP,A)
【文献】特開2015-094027(JP,A)
【文献】特表2010-515827(JP,A)
【文献】特表2016-516887(JP,A)
【文献】特表2019-507962(JP,A)
【文献】国際公開第2012/014873(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/221504(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/057215(WO,A1)
【文献】国際公開第2005/009919(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/3065
C04B 35/488
C04B 35/505
C01G 25/00
C01F 17/34
H01L 21/31
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジルコン酸イットリウムまたはイットリウムアルミニウム複合酸化物を主成分とし、マンガ
ン元素を含み、該
マンガン元素
を40質量ppm以上110質量ppm以下の割合で含有するセラミックスを含む、半導体製造装置用部材。
【請求項2】
酸化イットリウムに酸化ジルコニウムが固溶した酸化イットリウム固溶体と、酸化ジルコニウムに酸化イットリウムが固溶した酸化ジルコニウム固溶体とを主結晶相とし、マンガ
ン元素を含み、該
マンガン元素
を40質量ppm以上110質量ppm以下の割合で含有するセラミックスを含む、半導体製造装置用部材。
【請求項3】
前記セラミックスは、波長域360nm~740nmにおける全反射率が対数近似曲線、多項式近似曲線または累乗近似曲線に従って漸増する表面を有する請求項1または2に記載の半導体製造装置用部材。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載
の半導体製造装置用部材を含む半導体製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、半導体製造装置用部材およびそれを用いた半導体製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体や液晶などの製造において、エッチングや成膜などの工程でプラズマを利用して被処理物への処理が施されている。このような工程では、高い反応性を有するハロゲン元素(例えば、フッ素、塩素など)を含む腐食性ガスが使用される。そのため、半導体や液晶などの製造装置に用いられる腐食性ガスやプラズマに接触する部材には、高い耐腐食性が要求される。このような部材として、例えば特許文献1には、基材と、基材の表面に酸化イットリウム、酸化ハフニウム、イットリアで完全に安定化した酸化ジルコニウムおよびそれらの混合物のうち少なくとも1種を含み、所定の熱放射率などを有する非化学量論的酸化組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【0004】
本開示に係る半導体製造装置用部材は、ジルコン酸イットリウムまたはイットリウムアルミニウム複合酸化物を主成分とし、マンガン、鉄、セリウムおよびバナジウムからなる群より選択される少なくとも1種の金属元素を含み、金属元素を合計40質量ppm以上110質量ppm以下の割合で含有するセラミックスを含む。
【0005】
本開示に係る他の半導体製造装置用部材は、酸化イットリウムに酸化ジルコニウムが固溶した酸化イットリウム固溶体と、酸化ジルコニウムに酸化イットリウムが固溶した酸化ジルコニウム固溶体とを主結晶相とし、マンガン、鉄、セリウムおよびバナジウムからなる群より選択される少なくとも1種の金属元素を含み、金属元素を合計40質量ppm以上110質量ppm以下の割合で含有するセラミックスを含む。
【0006】
さらに、本開示に係る半導体製造装置は上記の半導体製造装置用部材を含む。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本開示の半導体製造装置用部材に含まれるセラミックスの表面の全反射率の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
半導体製造装置には、半導体チャンバ内のように、繰り返し昇温および降温に晒される空間が存在する。このような繰り返し昇温および降温に晒される雰囲気下に、例えば基材がアルミニウムのような金属で形成され、基材の表面がトップコート層で被覆されているような部材が使用されていると、アルミニウムとトップコート層との線膨張係数の差によって剥離を生じるという問題がある。
【0009】
本開示に係る半導体製造装置用部材は、ジルコン酸イットリウムを主成分とし、マンガンを40質量ppm以上110質量ppm以下の割合で含有するセラミックスを含む。ジルコン酸イットリウムを主成分とすることによって、得られるセラミックスが優れた耐プラズマ性および機械的強度を有する。さらに、マンガンを40質量ppm以上110質量ppm以下の割合で添加することによって、セラミックスの色調を暗色系に発色させることができる。その結果、得られるセラミックスの熱放射率を高めることができる。
【0010】
したがって、このようなセラミックスを含む本開示に係る半導体製造装置用部材は、昇温および降温に晒されても、剥離を生じることがなく、優れた耐プラズマ性および機械的強度に加えて高い熱放射率を有する。さらに、本開示に係る半導体製造装置用部材は、セラミックスが暗色系を有しているため、プラズマに晒されても色むらが生じにくく、長期間にわたって商品価値を維持することができる。
【0011】
本開示の一実施形態に係る半導体製造装置用部材は、ジルコン酸イットリウムを主成分とし、マンガン、鉄、セリウムおよびバナジウムからなる群より選択される少なくとも1種の金属元素を含み、該金属元素を合計40質量ppm以上110質量ppm以下の割合で含有するセラミックスを含む。本明細書において「ジルコン酸イットリウムを主成分とする」とは、セラミックス中にジルコン酸イットリウムが少なくとも50質量%含まれていることを意味する。特に、セラミックスを構成する成分の合計100質量%におけるジルコン酸イットリウムの含有量は60質量%以上であるとよい。本明細書において「セラミックス」とは、多結晶体および単結晶体を含めて言う。
【0012】
ジルコン酸イットリウムを主成分とするセラミックスは、例えば、酸化イットリウムと酸化ジルコニウムとの混合物を焼成して得られる。酸化イットリウムと酸化ジルコニウムとの混合割合は限定されない。例えば、酸化イットリウムは耐プラズマ性の向上に寄与し、酸化ジルコニウムは機械的強度の向上に寄与する。そのため、酸化イットリウムの割合が多くなると、機械的強度よりも耐プラズマ性に優れたセラミックスが得られ、酸化ジルコニウムの割合が多くなると、耐プラズマ性よりも機械的強度に優れたセラミックスが得られる。
【0013】
本開示の一実施形態に係る半導体製造装置用部材において、ジルコン酸イットリウムを主成分とするセラミックスは、マンガン、鉄、セリウムおよびバナジウムからなる群より選択される少なくとも1種の金属元素を含み、該金属元素(以下、これらの金属元素を「着色成分」と記載する場合がある)を合計40質量ppm以上110質量ppm以下の割合で含有する。ジルコン酸イットリウムを主成分とするセラミックスは、着色成分を合計40質量ppm以上110質量ppm以下の割合で含有することによって、高い熱放射率を付与することができる。
【0014】
セラミックスを構成する各成分は、CuKα線を用いたX線回折装置による測定結果からJCPDSカードを用いて同定する。ジルコン酸イットリムは、例えば、YZrO3、Zr3Y4O12などの組成式で示される。イットリウムアルミニウム複合酸化物の1種であるYAGはAl5Y3O12として、YAMはAl2Y4O9として、YAPはAlYO3として示される。次に、蛍光X線分析装置(XRF)またはICP発光分光分析装置(Inductively coupled plasma optical emission spectrometer)(ICP)を用いて、各元素の含有量を求め、X線回折装置で同定された化合物に換算すればよい。ここで、着色成分の含有量は、微量であるため、例えば、グロー放電質量分析装置(GDMS)を用いて求めることができる。
【0015】
着色成分の含有量の合計が40質量ppm未満の場合、色むらが生じやすくなり、商品価値が損なわれやすくなる。一方、着色成分の含有量の合計が110質量ppmを超える場合、セラミックスの表面がプラズマに晒されると、着色成分を構成する粒子が脱粒して、パーティクルとなって半導体製造装置の処理チャンバ内を浮遊して汚染源となるおそれがある。
【0016】
着色成分を特定の割合で含むことによって、ジルコン酸イットリウムを主成分とするセラミックスに高い熱放射率を付与することができるのは、このようなセラミックスの1次原料であるセラミック粉末に着色成分が特定の割合で添加されると、セラミックスの色調を暗色系に発色させることができるためである。通常、ジルコン酸イットリウムを主成分とするセラミックスは白色を有しているものの、着色成分を特定の割合で添加することによって、褐色から暗褐色の色調に発色させることができる。
【0017】
一実施形態に係る半導体製造装置用部材を形成するジルコン酸イットリウムを主成分とするセラミックスは、例えば、次の手順で得られる。まず、酸化イットリウムと酸化ジルコニウムとの混合物に、着色成分を構成する化合物の粉末を特定の割合で添加し、必要に応じてセラミックスに一般的に含まれる添加剤などを添加する。このようにして得られた原料を焼成することによって、セラミックスが得られる。
【0018】
具体的には、まず、酸化イットリウムを主成分とする粉末、酸化ジルコニウムを主成分とする粉末(以下、酸化イットリウムを主成分とする粉末および酸化ジルコニウムを主成分とする粉末の混合物を「セラミック粉末」と記載する場合がある)、着色成分となる化合物の粉末、純水および分散剤を加えた後、ビーズミルで粉砕、混合してスラリーを得る。セラミック粉末には、酸化イットリウムを主成分とする粉末と酸化ジルコニウムを主成分とする粉末とが、酸化ジルコニウムを主成分とする粉末1に対して、酸化イットリウムを主成分とする粉末が例えば2.5~3.1の質量比で混合されている。この質量比であれば、耐プラズマ性と機械的強度とがバランスよく発揮されるセラミックスが得られる。
【0019】
着色成分がマンガンである場合、マンガン源としては、マンガンを含む化合物であれば限定されず、例えば、炭酸マンガン(MnCO3)、酸化マンガン(MnO2)、硝酸マンガンMn(NO3)2、蓚酸マンガン(MnC2O4)またはこれらの混合物などの粉末が挙げられる。マンガン源となる化合物の粉末は、セラミックスに含まれるマンガンの割合が40質量ppm以上110質量ppm以下となるように添加される。例えば、炭酸マンガン(MnCO3)の添加量は、セラミック粉末の合計100質量%に対して、外添で84質量ppm以上230質量ppm以下の割合で添加すればよい。
【0020】
着色成分が鉄である場合、鉄源としては、酸化鉄(Fe2O3)FE-Cr、Fe-Cr-Zn、Fe-Cr-Si、Fe-Cr-Zn-SiもしくはFe-Cr-Ni-Siの複合酸化物または酸化鉄(Fe2O3)の粉末が挙げられる。着色成分がセリウムである場合、セリウム源としては、酸化セリウム(CeO2)の粉末が挙げられる。
【0021】
得られたスラリーに有機バインダーを添加し撹拌した後、スラリーを順次、噴霧乾燥、脱鉄処理して、顆粒を得る。この顆粒を成形型に充填した後、1軸加圧成形法または冷間静水圧加圧成形法(CIP成形法)などの成形法を用いて円柱状に加圧成形して成形体を得る。次いで、この成形体に切削加工を施して前駆体を得る。この前駆体を順次、脱脂、焼成することで、焼結体であるセラミックスを得ることができる。
【0022】
焼成雰囲気は大気雰囲気、焼成温度は1640℃以上1880℃以下とし、保持時間は1.5時間以上5時間以下とし、降温過程では自然冷却すればよい。酸化イットリウムに酸化ジルコニウムが固溶した酸化イットリウム固溶体と、酸化ジルコニウムに酸化イットリウムが固溶した酸化ジルコニウム固溶体とを主結晶相とするセラミックスを得るには、降温過程で、例えば、アニール処理を行い、処理温度を1300℃以上1500℃以下として、3時間以上5時間以下保持すればよい。
【0023】
セラミックスの相対密度は、98%以上であるとよい。セラミックスの相対密度がこの範囲であれば、プラズマに晒される表面における開気孔が少なくなり、プラズマに晒されても、パーティクルの発生を抑制することができる。セラミックスの相対密度は、セラミックスの理論密度に対する、JIS R 1634:1998に準拠して求められるセラミックスの見掛け密度の百分率として求められる。
【0024】
一実施形態に係る半導体製造装置用部材を形成するジルコン酸イットリウムを主成分とするセラミックスは、上述のように色調が褐色から暗褐色の暗色系に発色している。色調は、例えばL*a*b*表色系で示される。明度指数L*は0から100までの数値で示され、値が大きいほど明るい色調を示す。クロマティクネス指数a*はプラスの値になるほど赤味の強い色調を示し、マイナスの値になるほど緑味の強い色調を示す。クロマティクネス指数b*はプラスの値になるほど黄味の強い色調を示し、マイナスの値になるほど青味の強い色調を示す。
【0025】
一実施形態に係る半導体製造装置用部材を形成するジルコン酸イットリウムを主成分とするセラミックスは、例えばL*a*b*表色系において、明度指数L*は0以上70以下であり、クロマティクネス指数a*は-10以上10以下であり、クロマティクネス指数b*は-15以上15以下となるような色調に発色される。これらの値を示す場合、色調は褐色から暗褐色を示す。 また、波長360nmにおける全反射率は16%以下であって、波長740nmにおける全反射率は25%以上50%以下であるとよい。
【0026】
一実施形態に係る半導体製造装置用部材としては、半導体製造装置に用いられる部材であれば限定されない。このような部材としては、例えば、ノズル、クランプリング、リッド、ライナー、ベルジャー、サセプター,フォーカスリング、シャワープレート、イオン注入装置用部材などが挙げられる。これらの中でも、半導体チャンバ内のように、繰り返し昇温および降温に晒される雰囲気下で使用される部材がよい。
【0027】
本開示の他の実施形態に係る半導体製造装置用部材を形成するセラミックスは、酸化イットリウムに酸化ジルコニウムが固溶した酸化イットリウム固溶体と、酸化ジルコニウムに酸化イットリウムが固溶した酸化ジルコニウム固溶体とを主結晶相とし、着色成分を合計40質量ppm以上110質量ppm以下の割合で含有する。
【0028】
組成式がY2O3として示される酸化イットリウムと、組成式がZrO2として示される酸化ジルコニウムとは結晶構造が類似しているため、X線回折装置を用いても、主要な回折ピークが重なり、それぞれを同定することは困難である。そのため、X線回折装置を用いて、回折角2θが20.5°に現れるY2O3のみに起因する回折ピークから高角度側へのピークシフトが確認された場合、酸化イットリウムに酸化ジルコニウムが固溶した酸化イットリウム固溶体が存在しているとみなせばよい。一方、酸化ジルコニウムに酸化イットリウムが固溶した酸化ジルコニウム固溶体は、走査型電子顕微鏡(SEM)およびエネルギー分散型分析装置(EDS)を用いて確認すればよい。
【0029】
酸化イットリウムに酸化ジルコニウムが固溶した酸化イットリウム固溶体、および酸化ジルコニウムに酸化イットリウムが固溶した酸化ジルコニウム固溶体は、例えば、下記の手順で得られる。まず、上述のセラミック粉末、着色成分となる化合物の粉末、純水および分散剤を加えた後、ビーズミルで粉砕、混合してスラリーを得る。セラミック粉末には、酸化イットリウムを主成分とする粉末と酸化ジルコニウムを主成分とする粉末とが、酸化ジルコニウムを主成分とする粉末1に対して、酸化イットリウムを主成分とする粉末が例えば2.5~3.1の質量比で混合されている。この質量比であれば、耐プラズマ性と機械的強度とがバランスよく発揮されるセラミックスが得られる。
【0030】
着色成分がマンガンである場合、マンガン源としては、マンガンを含む化合物であれば限定されず、例えば、炭酸マンガン(MnCO3)、酸化マンガン(MnO2)、硝酸マンガンMn(NO3)2、蓚酸マンガン(MnC2O4)またはこれらの混合物などの粉末が挙げられる。マンガン源となる化合物の粉末は、セラミックスに含まれるマンガンの割合が40質量ppm以上110質量ppm以下となるように添加される。例えば、炭酸マンガン(MnCO3)の添加量は、セラミック粉末の合計100質量%に対して、外添で84質量ppm以上230質量ppm以下の割合で添加すればよい。着色成分が鉄またはセリウムである場合、上述した粉末を添加すればよい。
【0031】
得られたスラリーに有機バインダーを添加し撹拌した後、スラリーを順次、噴霧乾燥、脱鉄処理して、顆粒を得る。この顆粒を成形型に充填した後、1軸加圧成形法または冷間静水圧加圧成形法(CIP成形法)などの成形法を用いて円柱状に加圧成形して成形体を得る。次いで、この成形体に切削加工を施して前駆体を得る。この前駆体を順次、脱脂、焼成することで、焼結体であるセラミックスを得ることができる。
【0032】
焼成雰囲気は大気雰囲気、焼成温度は1640℃以上1880℃以下とし、保持時間は1.5時間以上5時間以下とし、降温過程では自然冷却すればよい。上述のように、降温過程で、例えばアニール処理を行えば、酸化イットリウムに酸化ジルコニウムが固溶した酸化イットリウム固溶体と、酸化ジルコニウムに酸化イットリウムが固溶した酸化ジルコニウム固溶体とを主結晶相とするセラミックスを得ることができる。
【0033】
他の実施形態に係る半導体製造装置用部材を形成する酸化イットリウム固溶体と酸化ジルコニウム固溶体とを主結晶相とするセラミックスも、色調が褐色から暗褐色の暗色系に発色する。具体的には、上述のように、L*a*b*表色系において、明度指数L*は0以上70以下であり、クロマティクネス指数a*は-10以上10以下であり、b*は-15以上15以下となるような色調に発色される。波長360nmにおける全反射率は、16%以下であって、波長740nmにおける全反射率は25%以上50%以下であるとよい。
【0034】
本開示の他の実施形態に係る半導体製造装置用部材を形成するセラミックスは、イットリウムアルミニウム複合酸化物を主成分とし、マンガン、鉄、セリウムおよびバナジウムの少なくともいずれかの金属元素を含み、該金属元素を合計40質量ppm以上110質量ppm以下の割合で含有する。本明細書において「イットリウムアルミニウム複合酸化物を主成分とする」とは、セラミックス中にイットリウムアルミニウム複合酸化物が少なくとも90質量%含まれていることを意味する。特に、セラミックスを構成する成分の合計100質量%におけるイットリウムアルミニウム複合酸化物の含有量は99質量%以上であるとよい。
【0035】
イットリウムアルミニウム複合酸化物を主成分とするセラミックスは、例えば、酸化イットリウムと酸化アルミニウムとの混合物を焼成あるいは溶融して得られる。酸化イットリウムと酸化アルミニウムとの混合割合は限定されない。例えば、酸化イットリウムは耐プラズマ性の向上に寄与し、酸化アルミニウムは機械的強度の向上に寄与する。そのため、酸化イットリウムの割合が多くなると、機械的強度よりも耐プラズマ性に優れたセラミックスが得られ、酸化アルミニウムの割合が多くなると、耐プラズマ性よりも機械的強度に優れたセラミックスが得られる。
【0036】
本開示の一実施形態に係る半導体製造装置用部材において、イットリウムアルミニウム複合酸化物を主成分とするセラミックスは、着色成分を合計40質量ppm以上110質量ppm以下の割合で含有する。イットリウムアルミニウム複合酸化物を主成分とするセラミックスは、着色成分を合計40質量ppm以上110質量ppm以下の割合で含有することによって、高い熱放射率を付与することができる。
【0037】
イットリウムアルミニウム複合酸化物の1種であるYAGはAl5Y3O12として、YAMはAl2Y4O9として、YAPはAlYO3としてそれぞれ示される。セラミックスを構成する各成分の同定および含有量ならびに着色成分の含有量は、上述した方法で求めればよい。
【0038】
イットリウムアルミニウム複合酸化物を主成分とするセラミックス(単結晶体)は、例えば、次の手順で得られる。まず、酸化イットリウムを主成分とする粉末、酸化アルミニウムを主成分とする粉末および着色成分となる化合物の粉末をモリブデンからなるルツボ内で加熱し溶融させた後、EFG法、チョクラルスキー法、カイロポーラス法、TGT法またはHEM法で結晶化させることによって得られる。
【0039】
ここで、溶融における雰囲気ガスはアルゴンガス、溶融温度は1550℃~1850℃、アルゴンガスの圧力は0.02~0.06MPaとすればよい。着色成分となる化合物の粉末は、上述した粉末を用いればよい。
【0040】
他の実施形態に係る半導体製造装置用部材を形成するイットリウムアルミニウム複合酸化物を主成分とするセラミックスも、色調が褐色から暗褐色の暗色系に発色する。具体的には、上述のように、L*a*b*表色系において、明度指数L*は0以上70以下であり、クロマティクネス指数a*は-10以上10以下であり、b*は-15以上15以下となるような色調に発色される。波長360nmにおける全反射率は、16%以下であって、波長740nmにおける全反射率は25%以上50%以下であるとよい。
【0041】
本開示のセラミックスは、主成分に係わらず、波長域360nm~740nmにおける全反射率が対数近似曲線、多項式近似曲線または累乗近似曲線に従って漸増する表面を有していてもよい。上記波長域における全反射率が上記いずれかの近似曲線に従って漸増する表面は、1次関数的に漸増する表面よりも緩やかに赤外線を吸収することができる。そのため、残留応力が蓄積しにくく、高温の維持が求められる環境下(例えば、半導体チャンバ内)で用いることができる。全反射率の近似関数を設定する場合には、上記波長域で波長の間隔を10nm毎にして測定するとよい。
【0042】
全反射率の漸増を示す近似関数は、Excel(登録商標、Microsoft Corporation)に備えられているグラフツールを用いて設定した後、相関係数Rを算出する。そして、r表(相関係数検定表)を用いて、有意水準5%(両側確率)で相関係数Rを検定し、有意であれば、全反射率の漸増を示す近似曲線(対数近似曲線、多項式近似曲線または累乗近似曲線)が決定される。
【0043】
図1は、本開示の半導体製造装置用部材に含まれるセラミックスの表面の全反射率の一例を示すグラフである。このセラミックスは、ジルコン酸イットリウムを主成分とし、マンガンを100質量ppmの割合で含有する。
図1に示すグラフの実線は、波長域360nm~740nmにおけるセラミックスの表面の全反射率であり、破線は、全反射率から得られる3次の多項式近似曲線である。この多項式近似曲線は、有意水準5%(両側確率)で相関係数Rを検定すると有意となるので、全反射率は多項式近似曲線に従って漸増していると言える。
【0044】
上述した明度指数L*、クロマティクネス指数a*、クロマティクネス指数b*および全反射率は、半導体製造装置用部材を平面研削盤などの加工装置で研削して得られる研削面を対象として、JIS Z 8722:2009に準拠し、分光測色計(例えば、コニカミノルタ(株)製、CM-3700Aまたはその後継機種)を用いて測定すればよい。この分光測色計を用いて測定する場合、測定条件となる基準光源、視野角、測定波長範囲、測定反射率、測定範囲および照射範囲は、以下のように設定すればよい。
<測定条件>
測定方式 SCI(正反射光込み)方式
基準光源 D65
視野角 10°
測定波長範囲 360nm~740nm
測定反射率 全反射率
照射領域 3mm×5mm
測定領域 3mm×5mm
【0045】
他の実施形態に係る半導体製造装置用部材としても上述の部材が挙げられ、詳細な説明は省略する。
【実施例】
【0046】
以下、本実施形態の実施例を具体的に説明するが、本実施形態はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0047】
まず、セラミック粉末、炭酸マンガン(MnCO3)粉末、純水および分散剤を加えた後、ビーズミルで粉砕、混合してスラリーを得た。セラミック粉末としては、酸化ジルコニウムを主成分とする粉末1に対して、酸化イットリウムを主成分とする粉末が2.8の質量比で混合されたセラミック粉末を用いた。炭酸マンガン(MnCO3)粉末は、セラミック粉末の合計100質量%に対して、表1に示す割合で添加(外添)した。
【0048】
次いで、スラリーに有機バインダーを添加、撹拌した後、スラリーを順次、噴霧乾燥、脱鉄処理して、顆粒を得た。この顆粒を成形型に充填した後、冷間静水圧加圧成形法(CIP成形法)を用いて円柱状に加圧成形して成形体を得た。成形体に切削加工を施した前駆体を順次、脱脂、焼成して焼結体を得た。焼成雰囲気は大気雰囲気、焼成温度は1700℃とし、保持時間は3時間とした。
【0049】
一部の焼結体には、降温過程でアニール処理を施した。アニール処理は、1400℃で4時間保持することにより行った。表1のアニール処理の欄に、アニール処理を施した試料には「有」、アニール処理を施さなかった試料には「無」と示した。
【0050】
得られた焼結体の軸方向に沿って、ホーニング加工を施して、プラズマ生成用ガスを供給するための流路を形成した。また、焼結体の端面を研磨加工してガスノズルとし、このガスノズルを試料No.1~14とした。各試料の主成分は、X線回折装置を用いて同定した。主成分としてジルコン酸イットリウムが同定されなかった試料は、さらに走査型電子顕微鏡(SEM)およびエネルギー分散型分析装置(EDS)を用いて確認した。各試料に含まれるマンガンの含有量は、グロー放電質量分析装置(GDMS)を用いて測定した。確認された主成分の組成式およびマンガンの含有量を表1に示す。各試料の色むらを目視で観察し、視認できた試料には「有」、視認できなかった試料には「無」と表1の色むらの欄で示した。
【0051】
また、各試料の流路の供給口のいずれかに純水供給用のホースを接続するとともに、その供給口と連通する排出口に容器を接続した。次に、流速を5mL/秒として、ホースから純水を100秒間供給し、容器に排出された純水に含まれる、パーティクルの数を液中パーティクルカウンタ-(LPC)を用いて測定した。その測定した数を表1に示す。測定の対象とするパーティクルは、直径が0.2μmを超えるものとした。また、容器は、接続する前に、超音波洗浄を行い、直径が0.2μmを超えるパーティクルの数が20個以下であることが確認されたものを用いた。
【0052】
【0053】
表1に示すように、試料No.2~6および9~13は、マンガンの含有量が40質量ppm以上110質量ppmであることから、色むらが視認されなかった。一方、マンガンの含有量が30質量ppmの試料No.1および8については、パーティクルの数が少ないものの、色むらが視認された。さらに、色むらが視認されなかった試料のうち、試料No.2~6および9~13は、マンガンの含有量が120質量ppmの試料No.7および14と比べて、パーティクルの数が極めて少ないことがわかる。