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特許7584249プラスグレルを含む混合物の混合方法及びその利用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-07
(45)【発行日】2024-11-15
(54)【発明の名称】プラスグレルを含む混合物の混合方法及びその利用
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4365 20060101AFI20241108BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20241108BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20241108BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20241108BHJP
【FI】
A61K31/4365
A61P9/00
A61K47/26
A61K9/20
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020126822
(22)【出願日】2020-07-27
(65)【公開番号】P2022023705
(43)【公開日】2022-02-08
【審査請求日】2023-07-24
(73)【特許権者】
【識別番号】591040753
【氏名又は名称】東和薬品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100065248
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【弁理士】
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【弁理士】
【氏名又は名称】稲本 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100174883
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 雅己
(72)【発明者】
【氏名】前原 達也
(72)【発明者】
【氏名】大田 綾香
【審査官】石井 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/094471(WO,A1)
【文献】特表2013-525386(JP,A)
【文献】特開2019-034935(JP,A)
【文献】国際公開第2008/072534(WO,A1)
【文献】薬剤学,2008年,Vol.68, No.3,pp209-216
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
A61P 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスグレルと賦形剤との混合物を衝撃式粉砕機によって混合することを含み、前記賦形剤が、D-マンニトール及び乳糖から選択される少なくとも1種を含む、プラスグレルを含む混合物の混合方法。
【請求項2】
プラスグレルと賦形剤との混合物を衝撃式粉砕機によって混合して、プラスグレルを含む医薬組成物を得ることを含み、前記賦形剤が、D-マンニトール及び乳糖から選択される少なくとも1種を含む、医薬組成物の製造方法。
【請求項3】
プラスグレルと賦形剤との混合物を衝撃式粉砕機によって混合する工程と、
前記混合工程で得られた混合物と、錠剤用添加物とを混合して、打錠用混合物を得る工程と、
前記打錠用混合物を圧縮成型して錠剤を得る工程と
を含み、前記賦形剤が、D-マンニトール及び乳糖から選択される少なくとも1種を含む
プラスグレルを有効成分とする錠剤の製造方法。
【請求項4】
プラスグレルと賦形剤との混合物を衝撃式粉砕機によって混合する工程と、
前記混合工程で得られた混合物と、崩壊性粒子と、錠剤用添加物とを混合して、打錠用混合物を得る工程と、
前記打錠用混合物を圧縮成型して口腔内崩壊錠を得る工程と
を含み、前記賦形剤が、D-マンニトール及び乳糖から選択される少なくとも1種を含む
プラスグレルを有効成分とする口腔内崩壊錠の製造方法。
【請求項5】
プラスグレルと賦形剤との混合物を衝撃式粉砕機によって混合し、得られた混合物を用いてプラスグレルを有効成分として含む医薬製剤を製造することにより、前記医薬製剤からのプラスグレルの溶出性を向上させる方法であって、
前記賦形剤が、D-マンニトール及び乳糖から選択される少なくとも1種を含む、前記方法
【請求項6】
前記衝撃式粉砕機が、ピンミル又はハンマーミルである請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記ピンミル又は前記ハンマーミルの回転板の回転数が、少なくとも8600 rpmである請求項6に記載の方法。
【請求項8】
プラスグレルと賦形剤との混合物が、プラスグレルと賦形剤とを袋混合又は粉体混合機によって混合することにより得られる請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
プラスグレルと賦形剤との混合物におけるプラスグレルと賦形剤との重量比が、1:0.1~5である請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記重量比が、1:1~5である請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記プラスグレルの50%粒子径が、1~10μmである請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスグレルを含む混合物の混合方法に関する。本発明は、プラスグレルを含む医薬組成物の製造方法に関する。本発明は、プラスグレルを有効成分とする錠剤及び口腔内崩壊錠の製造方法に関する。本発明は、医薬製剤からのプラスグレルの溶出性を向上させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスグレルは、下記の式(I)で示される化合物であり、その化学名は、5-[(1RS)-2-シクロプロピル-1-(2-フルオロフェニル)-2-オキソエチル]-4,5,6,7-テトラヒドロチエノ[3,2-c]ピリジン-2-イル アセテートである。プラスグレルは、経皮的冠動脈形成術(PCI)が適用される予定の急性冠症候群(不安定狭心症、非ST上昇心筋梗塞又はST上昇心筋梗塞)、安定狭心症又は陳旧性心筋梗塞の患者に用いられる。特許文献1には、プラスグレル塩酸塩の製剤例が記載されている。
【0003】
【化1】
【0004】
医薬製剤の製造では、主薬と賦形剤とを混合して、得られた混合物をさらに篩にかけること(篩過)が行われる。篩過により、主薬と賦形剤との混合物が分級されるだけでなく、均一な混合物が得られることが知られている。そのため、錠剤などの固形製剤の製造においては、篩過は一般によく行われる操作である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2003-246735号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、プラスグレルと賦形剤との混合物を篩過して得た混合物を用いて錠剤を作製した。得られた錠剤について溶出試験を行ったところ、有効成分の溶出性は満足できるものではなかった。本発明は、有効成分の溶出性が改善されたプラスグレル含有医薬製剤を製造可能な手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、プラスグレルと賦形剤との混合物を衝撃式粉砕機によって混合し、得られた混合物を用いて錠剤を製造して溶出試験を行ったところ、篩過により得られた混合物を用いて製造した錠剤に比べて、有効成分の溶出性が向上したことを見出して、本発明を完成した。よって、本発明は、プラスグレルと賦形剤との混合物を衝撃式粉砕機によって混合することを含む、プラスグレルを含む混合物の混合方法を提供する。また、本発明は、プラスグレルと賦形剤との混合物を衝撃式粉砕機によって混合して、プラスグレルを含む医薬組成物を得ることを含む、医薬組成物の製造方法を提供する。
【0008】
本発明は、プラスグレルと賦形剤との混合物を衝撃式粉砕機によって混合する工程と、前記混合工程で得られた混合物と、錠剤用添加物とを混合して、打錠用混合物を得る工程と、前記打錠用混合物を圧縮成型して錠剤を得る工程とを含む、プラスグレルを有効成分とする錠剤の製造方法を提供する。
【0009】
本発明は、プラスグレルと賦形剤との混合物を衝撃式粉砕機によって混合する工程と、前記混合工程で得られた混合物と、崩壊性粒子と、錠剤用添加物とを混合して、打錠用混合物を得る工程と、前記打錠用混合物を圧縮成型して口腔内崩壊錠を得る工程とを含む、プラスグレルを有効成分とする口腔内崩壊錠の製造方法を提供する。
【0010】
本発明は、プラスグレルと賦形剤との混合物を衝撃式粉砕機によって混合し、得られた混合物を用いてプラスグレルを有効成分として含む医薬製剤を製造することにより、前記医薬製剤からのプラスグレルの溶出性を向上させる方法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、有効成分の溶出性が改善されたプラスグレル含有医薬製剤を製造可能な手段が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例1及び比較例の口腔内崩壊錠の溶出性を示すグラフである。
図2】実施例1及び2の口腔内崩壊錠の溶出性を示すグラフである。
図3】実施例1、3及び4の口腔内崩壊錠の溶出性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[1.プラスグレルを含む混合物の混合方法]
本実施形態のプラスグレルを含む混合物の混合方法(以下、単に「混合方法」ともいう)では、プラスグレルと賦形剤との混合物を衝撃式粉砕機によって混合する。
【0014】
本明細書において「プラスグレル」との用語は、上記の式(I)で示される化合物、その鏡像異性体及びそれらの混合物、並びにそれらの薬学的に許容される塩及びそれらの溶媒和物を包含する。上記の式(I)で示される化合物の鏡像異性体は、上記の式(I)におけるベンジル基のα位の不斉炭素に由来する。薬学的に許容される塩とは、有効成分の化合物と、ヒトを含む哺乳動物への投与が許容される有機又は無機の酸とから形成される塩をいう。そのような薬学的に許容される塩としては、例えば、ハロゲン化水素酸塩(塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩など)、無機酸塩(硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩など)、低級アルキルスルホン酸塩(メタンスルホン酸塩、トリフルオロメタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩など)、アリールスルホン酸塩(ベンゼンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩など)、有機酸塩(酢酸塩、リンゴ酸塩、フマル酸塩、コハク酸塩、クエン酸塩、アスコルビン酸塩、酒石酸塩、シュウ酸塩、マレイン酸塩など)、アミノ酸塩(グリシン塩、リジン塩、アルギニン塩、オルニチン塩、グルタミン酸塩、アスパラギン酸塩など)などが挙げられる。本実施形態では、有効成分としてプラスグレル塩酸塩が好ましい。
【0015】
薬学的に許容される溶媒和物とは、有効成分の化合物と、ヒトを含む哺乳動物への投与が許容される溶媒とから形成される固体分子をいう。そのような溶媒としては、例えば水、酢酸、エタノールなどが挙げられる。
【0016】
本実施形態では、プラスグレルの形状は、固体であれば特に限定されず、例えば粉末、結晶などのいずれの形状であってもよい。それらの中でも、プラスグレルの粉末を用いることが好ましい。プラスグレルの粉末とは、粉末の形状にあるプラスグレルであり、例えば、結晶の形状にあるプラスグレルを砕いて得ることができる。市販のプラスグレル粉砕品を、プラスグレルの粉末として用いてもよい。プラスグレルの粉末の粒子径は特に限定されないが、例えば、後述の衝撃式粉砕機により得られる砕成物の粒子径と同程度か又はそれよりも小さい粒度であってもよい。そのようなプラスグレルの粉末の50%粒子径(D50)は、例えば1~100μm、好ましくは1~50μm、より好ましくは1~10μmである。本明細書では、D50は、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置により測定される値をいう。そのような測定装置としては、マイクロトラック・ベル株式会社の「エアロトラックLDSA-SPR」、Malvern Panalytical社の「Mastersizer 3000」などが挙げられる。
【0017】
プラスグレルと混合される賦形剤は、薬学的に許容される賦形剤から適宜選択することができ、例えば糖アルコール類、糖類、セルロース類、デンプン類などが挙げられる。糖アルコール類としては、D-マンニトール、D-ソルビトール、キシリトール、マルチトールなどが挙げられる。糖類としては、乳糖(乳糖水和物ともいう)、白糖、ブドウ糖などが挙げられる。セルロース類としては、結晶セルロース、カルメロース、カルメロースナトリウム、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースなどが挙げられる。デンプン類としては、部分アルファー化デンプン、トウモロコシデンプンなどが挙げられる。それらの中でも、糖アルコール類及び糖類が好ましい。特にD-マンニトール、乳糖が好ましい。賦形剤は一種でもよいし、二種以上を組み合わせてもよい。賦形剤の形状は、固体であれば特に限定されず、例えば粉末、結晶などのいずれの形状であってもよい。
【0018】
プラスグレルと賦形剤との混合物(以下、「プラスグレルを含む混合物」ともいう)は、プラスグレルと賦形剤とを当該技術分野で公知の方法で混合することにより得ることができる。混合を用手法で行う場合は、例えば、プラスグレルと賦形剤とを適当な袋に入れて撹拌する袋混合を行ってもよい。混合を機械で行う場合は、当該技術分野で公知の粉体混合機を用いてもよい。粉体混合機は、回転型混合機及び固定型混合機のいずれであってもよい。回転型混合機は、容器自体を回転させることで、該容器に収容した粉体を混合する機械である。固定型混合機は、容器内に備えられた撹拌羽根、スクリューなどを回転させることで、該容器に収容した粉体を混合する機械である。粉体混合機としては、例えばV型混合機、二重円錐型混合機、リボン型混合機、円錐スクリュー型混合機などが挙げられる。なお、本明細書では、粉体混合機には、衝撃式粉砕機は含まれない。
【0019】
プラスグレルを含む混合物において、プラスグレルと賦形剤との混合割合は特に限定されない。本実施形態では、プラスグレルを含む混合物におけるプラスグレルと賦形剤との重量比(プラスグレル:賦形剤)は、通常1:0.1~5であり、好ましくは1:1~5であり、より好ましくは1:3~5であり、特に好ましくは1:5である。
【0020】
本実施形態の混合方法は、プラスグレルと賦形剤とを混合して得たプラスグレルを含む混合物を、衝撃式粉砕機によってさらに混合することを特徴とする。この特徴により、プラスグレルを含む混合物を、プラスグレルが賦形剤中により分散された医薬組成物とすることができると考えられる。衝撃式粉砕機とは、投入した原料に衝撃を与えて、粒子径が数十μmから数百μm以下の砕成物となるよう粉砕する機構を有する機械であり、それ自体は当該技術分野において公知である。本実施形態では、衝撃式粉砕機としては、投入した原料を粒子径10~100μmの砕成物とすることができる粉砕機が好ましく、例えばピンミル及びハンマーミルが挙げられる。
【0021】
ピンミルとは、数十本以上のピンを備えた2枚の回転板を、ピンがかみ合うように相対させた状態で一方又は両方の回転板を高速で回転させ、相対する回転板の間に原料を通過させることで、かみ合うピンによる衝撃及び剪断によって該原料を粉砕する装置である。ピンミルとしては、例えば、ホソカワミクロン株式会社のファインインパクトミル、槇野産業株式会社のコロプレックスなどが知られている。ハンマーミルとは、複数のハンマーを備えた回転板を高速で回転させ、ハンマーによる衝撃及び撹拌により原料を粉砕する装置である。ハンマーミルとしては、例えば、不二パウダル株式会社のエッグアトマイザーなどが知られている。
【0022】
本実施形態では、ピンミル及びハンマーミルの機種は特に限定されないが、例えば、直径が10 cm以上16 cm以下の回転板を有するピンミル及びハンマーミルであればよい。
【0023】
ピンミル又はハンマーミルの回転板の回転数は特に限定されないが、例えば、回転数の下限は通常8600 rpm、好ましくは9000 rpmであり、回転数の上限は通常18000 rpm、好ましくは12000 rpmである。ピンミル又はハンマーミルの回転板の回転数は、使用するピンミル又はハンマーミルの機種などに応じて、上記の下限及び上限で設定される範囲内から適宜決定してよい。
【0024】
本実施形態では、衝撃式粉砕機による混合粉砕時間は特に限定されないが、通常1g/秒以上10 g/秒以下であり、好ましくは1.5 g/秒以上5g/秒以下である。
【0025】
本実施形態では、プラスグレルと賦形剤との混合物をピンミルによって混合することが特に好ましい。
【0026】
さらなる実施形態は、プラスグレルと賦形剤との混合物を衝撃式粉砕機によってさらに混合することにより、プラスグレルを含む医薬組成物を製造する方法である。プラスグレルを含む医薬組成物は、袋混合又は公知の混合機による混合で得たプラスグレルを含む混合物を、衝撃式粉砕機でさらに混合した混合物である。この医薬組成物においては、プラスグレルが賦形剤中により分散されていると考えられる。この製造方法により得られた医薬組成物を用いて、プラスグレルを有効成分とする錠剤を製造すると、プラスグレルの溶出性に優れた錠剤が得られる。よって、本実施形態の医薬組成物の製造方法で得られたプラスグレルを含む医薬組成物は、後述の錠剤の製造方法及び口腔内崩壊錠の製造方法に好適に用いることができる。なお、プラスグレル、賦形剤及びそれらの混合物、並びに該混合物の衝撃式粉砕機による混合の詳細は、本実施形態の混合方法について述べたことと同様である。
【0027】
[2.錠剤の製造方法]
本実施形態の混合方法によって混合されたプラスグレルを含む混合物(上記のプラスグレルを含む医薬組成物に同じ)は、プラスグレルを有効成分とする錠剤を製造するために用いることができる。後述の試験例1に示されるように、本実施形態の混合方法によって混合されたプラスグレルを含む混合物から製造した錠剤(口腔内崩壊錠)は、篩過によって得た混合物から製造した錠剤に比べて、有効成分の溶出性が向上していた。よって、本発明のさらなる実施形態では、プラスグレルを有効成分とする錠剤の製造方法(以下、「錠剤の製造方法」ともいう)が提供される。
【0028】
本実施形態の錠剤の製造方法における、プラスグレルと賦形剤との混合物を衝撃式粉砕機によって混合する工程(以下、混合工程とも呼ぶ)の詳細は、本実施形態の混合方法について述べたことと同様である。本実施形態では、混合工程で得られた混合物と、錠剤用添加物とを混合して、打錠用混合物を得る。そして、得られた打錠用混合物を圧縮成型して、プラスグレルを有効成分とする錠剤を得る。
【0029】
錠剤用添加物は、錠剤の製造に通常用いられる添加物であり、薬学的に許容される賦形剤、崩壊剤、結合剤、甘味剤、滑沢剤、着色剤などから適宜選択できる。錠剤用添加物自体は公知である。賦形剤としては、結晶セルロース、カルメロース、カルメロースナトリウム、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースなどなどのセルロース類、乳糖、白糖、ブドウ糖などの糖類、D-マンニトール、D-ソルビトール、キシリトール、マルチトールなどの糖アルコール類、トウモロコシデンプン、アルファー化デンプンなどのデンプン類などが挙げられる。崩壊剤としては、クロスポビドン、クロスカルメロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、などが挙げられる。結合剤としては、エチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルセルロースなどが挙げられる。甘味剤としては、アセスルファムカリウム、スクラロース、アスパルテーム、エリスリトールなどが挙げられる。着色剤としては、三二酸化鉄、黄色三二酸化鉄などが挙げられる。滑沢剤としては、軽質無水ケイ酸、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルクなどが挙げられる。これらの添加物はそれぞれ、一種でもよいし、二種以上を組み合わせてもよい。これらの錠剤用添加物の配合量は特に限定されず、当業者が適宜決定できる。
【0030】
打錠用混合物を得る工程及び錠剤を得る工程は、具体的には、次のようにして行われる。まず、上記の混合工程で得られたプラスグレルを含む混合物と、滑沢剤を除く錠剤用添加物とを混合する。次いで、得られた混合物に滑沢剤を添加して混合し、打錠用混合物を得る。そして、得られた打錠用混合物を公知の打錠機で圧縮成型することにより、プラスグレルを有効成分とする錠剤を得ることができる。必要に応じて、得られた錠剤を、糖衣錠又はフィルムコーティング錠としてもよい。錠剤のコーティングは、パンコーティング法、流動層コーティング法などの公知の方法により行うことができる。
【0031】
本実施形態では、錠剤1錠当たりの重量は、例えば80 mg以上500 mg以下であり、好ましくは100 mg以上420 mg以下である。また、錠剤1錠当たりの有効成分の含量は、有効成分が塩又は溶媒和物の場合、プラスグレル(式(I)で示される化合物)として例えば1mg以上30 mg以下、好ましくは2mg以上25 mg以下、より好ましくは2.5 mg以上20 mg以下含まれる量である。
【0032】
[3.口腔内崩壊錠の製造方法]
本実施形態では、錠剤は口腔内崩壊錠であってもよい。よって、本発明のさらなる実施形態では、プラスグレルを有効成分とする口腔内崩壊錠の製造方法(以下、「OD錠の製造方法」ともいう)が提供される。
【0033】
本実施形態のOD錠の製造方法における、プラスグレルと賦形剤との混合物を衝撃式粉砕機によって混合する工程の詳細は、本実施形態の混合方法について述べたことと同様である。本実施形態のOD錠の製造方法では、水の存在下で急速に崩壊するという性質を錠剤に付与するため、崩壊性粒子を用いる。崩壊性粒子自体は当該技術分野で公知であり、例えば国際公開第2017/217494号に記載されている(当該文献は、参照により本明細書に組み込まれる)。
【0034】
崩壊性粒子は、薬学的に許容される、デンプン由来の崩壊剤を含むことが好ましい。デンプン由来の崩壊剤としては、例えばトウモロコシデンプン、部分アルファー化デンプン、バレイショデンプン、ヒドロキシプロピルスターチなどが挙げられる。これらの中でも、トウモロコシデンプン及び部分アルファー化デンプンが特に好ましい。デンプン由来の崩壊剤は、一種でもよいし、二種以上を組み合わせてもよい。
【0035】
崩壊性粒子は、薬学的に許容される添加物(賦形剤、上記以外の崩壊剤、結合剤、流動化剤、着色剤など)をさらに含んでもよい。賦形剤としては、D-マンニトール、乳糖、結晶セルロースなどが挙げられる。本実施形態ではD-マンニトールが特に好ましい。デンプン由来以外の崩壊剤としては、クロスポビドン、クロスカルメロースナトリウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースなどが挙げられる。結合剤としてはエチルセルロースなどが挙げられる。流動化剤としては、軽質無水ケイ酸、合成ケイ酸アルミニウム、含水二酸化ケイ素などが挙げられる。着色剤としては、三二酸化鉄、黄色三二酸化鉄などが挙げられる。これらの添加物はそれぞれ、一種でもよいし、二種以上を組み合わせてもよい。
【0036】
崩壊性粒子は、例えば、次のようにして得ることができる。まず、賦形剤、結合剤、及び流動化剤を含む混合物に、デンプン由来の崩壊剤を含む溶液又は懸濁液を添加して、湿式造粒により顆粒を得る。例えば、流動層造粒の場合では、結合剤、及び流動化剤を含む混合物を気流で流動化させて混和し、この状態で、デンプン由来の崩壊剤を含む溶液又は懸濁液を噴霧することにより、顆粒を得る。得られた顆粒を乾燥及び整粒して、崩壊性粒子を得る。
【0037】
本実施形態のOD錠の製造方法の各工程は、例えば、次のようにして行われる。まず、上記の混合工程で得られた混合物と、崩壊性粒子と、滑沢剤を除く錠剤用添加物とを混合する。次いで、得られた混合物に滑沢剤を添加して混合して、打錠用混合物を得る。錠剤用添加物の詳細は、本実施形態の錠剤の製造方法について述べたことと同様である。そして、得られた打錠用混合物を公知の打錠機で圧縮成型することにより、プラスグレルを有効成分とする口腔内崩壊錠を得ることができる。
【0038】
本実施形態では、OD錠1錠当たりの重量は、例えば80 mg以上500 mg以下であり、好ましくは100 mg以上400 mg以下である。また、口腔内崩壊錠1錠当たりの有効成分の含量は、有効成分が塩又は溶媒和物の場合、プラスグレル(式(I)で示される化合物)として例えば1 mg以上30 mg以下、好ましくは2mg以上25 mg以下、より好ましくは2.5 mg以上20 mg以下含まれる量である。
【0039】
[4.溶出性の向上方法]
本発明の範囲には、医薬製剤からのプラスグレルの溶出性を向上させる方法も含まれる。この方法では、プラスグレルと賦形剤との混合物を衝撃式粉砕機によって混合し、得られた混合物を用いて、プラスグレルを有効成分として含む医薬製剤を製造することにより、該医薬製剤からのプラスグレルの溶出性を向上させることができる。衝撃式粉砕機による混合の詳細は、本実施形態の混合方法について述べたことと同様である。
【0040】
好ましい実施形態では、医薬製剤は固形製剤であり、錠剤及び口腔内崩壊錠が特に好ましい。プラスグレルを有効成分として含む錠剤又は口腔内崩壊錠の製造の詳細は、本実施形態の錠剤の製造方法及びOD錠の製造方法について述べたことと同様である。
【0041】
医薬製剤の有効成分の溶出性は、当業者であれば、当該技術分野において公知の方法(溶出試験など)により評価できる。そのような方法自体は公知であり、例えば日本薬局方に記載の溶出試験が挙げられる。
【0042】
以下に、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例
【0043】
[試験例1]
試験例1では、プラスグレルと賦形剤との混合物を衝撃式粉砕機で混合して得た医薬組成物を用いて製造した口腔内崩壊錠(実施例1)、及び、プラスグレルと賦形剤との混合物を篩過して得た混合物を用いて製造した口腔内崩壊錠(比較例)の溶出性を比較した。
【0044】
1.口腔内崩壊錠の製造
(1.1) 崩壊性粒子の製造
表1に、崩壊性粒子の各成分の配合比(重量比)を示す。崩壊性粒子を次のようにして製造した。D-マンニトール、軽質無水ケイ酸及びエチルセルロースを流動層造粒機へ投入し、トウモロコシデンプン及びクロスポビドンを精製水に分散させた分散液をスプレーした。得られた粒子を乾燥及び整粒して、崩壊性粒子を得た。
【0045】
【表1】
【0046】
(1.2) 実施例1の口腔内崩壊錠の製造
表2に、実施例1の口腔内崩壊錠の処方(1錠当たりの成分量)を示す。実施例1の口腔内崩壊錠を次のようにして製造した。プラスグレル塩酸塩の粉末(粒度D50:3.02μm)とD-マンニトールとを袋混合して混合物を得た。この混合物を回転板の回転数を12000rpmとしたファインインパクトミル(ホソカワミクロン株式会社)に投入し、2 g/秒の速度で通過させ、プラスグレル塩酸塩を含む医薬組成物を得た。得られた医薬組成物と、上記(1.1)で得た崩壊性粒子と、アセスルファムカリウムとを拡散式混合機に投入して混合した。さらにステアリン酸マグネシウムを投入して混合し、打錠用混合物を得た。得られた打錠用混合物を、ロータリー式打錠機を用いて打錠して、実施例1の口腔内崩壊錠を得た。
【0047】
【表2】
【0048】
(1.3) 比較例の口腔内崩壊錠の製造
表2に示されるように、比較例の口腔内崩壊錠の成分自体は実施例1と同じである。比較例の口腔内崩壊錠を次のようにして製造した。実施例1と同様にして、プラスグレル塩酸塩の粉末とD-マンニトールとの混合物を得た。この混合物を30メッシュの篩で篩過した。以降の工程は実施例1と同様にして、篩過により得られたプラスグレル塩酸塩を含む混合物を用いて比較例の口腔内崩壊錠を得た。
【0049】
2.溶出試験
第十四改正日本薬局方に記載の溶出試験法(第2法)に従い、パドルの回転数を50 rpmとし、試験液としてマッキルベイン緩衝液(pH 4.0, 900 mL)を用いて、実施例1及び比較例の口腔内崩壊錠の溶出試験を行った。試験開始から5分、15分、30分及び45分後に試験液を採取し、吸光度測定法により、有効成分であるプラスグレルの溶出率を測定した。試験は3錠について行い、その溶出率の平均値を算出した。結果を図1に示す。
【0050】
3.結果
図1に示されるように、実施例1の口腔内崩壊錠の溶出率は、試験開始後いずれの時間においても比較例より高かった。このことから、プラスグレルと賦形剤との混合物を衝撃式粉砕機によって混合して得た医薬組成物を用いて医薬製剤を製造することにより、プラスグレルの溶出性を改善できることが示唆された。
【0051】
[試験例2]
試験例2では、実施例1の口腔内崩壊錠、及び、プラスグレルと賦形剤との混合比が実施例1とは異なる口腔内崩壊錠(実施例2)の溶出性を比較した。
【0052】
1.実施例2の口腔内崩壊錠の製造
表3に、実施例2の口腔内崩壊錠の処方(1錠当たりの成分量)を示す。参考のため、実施例1の処方も示した。表3に示されるように、プラスグレル塩酸塩の粉末と賦形剤のD-マンニトールとの混合比は、実施例2では1:1であり、実施例1では1:3である。実施例2の口腔内崩壊錠を次のようにして製造した。D-マンニトールの量を変更したこと以外は実施例1と同様にして、プラスグレル塩酸塩の粉末とD-マンニトールとの混合物を得た。得られた混合物を、実施例1と同様にピンミルで混合して医薬組成物を得た。そして、崩壊性粒子の量を変更したこと以外は実施例1と同様にして、口腔内崩壊錠を製造した。
【0053】
【表3】
【0054】
2.溶出試験及び結果
試験例1と同様にして、実施例1及び2の口腔内崩壊錠の溶出試験を行った。実施例2の試験のみ、試験開始から5分、10分、15分、30分及び45分後に試験液を採取し、吸光度測定法によりプラスグレルの溶出率を測定した。結果を図2に示す。図2に示されるように、試験開始から15分までは、溶出率は、実施例2に比べて実施例1の方が高かった。試験開始から15分後以降では、溶出率は、実施例2に比べて実施例1の方が高い傾向にあったが、大きな差は認められなかった。よって、プラスグレルの溶出性を向上させる観点からは、プラスグレルと賦形剤との混合物において賦形剤の比率が高い方が好ましいことが示唆された。
【0055】
[試験例3]
試験例3では、実施例1の口腔内崩壊錠、及び、ピンミルの回転板の回転数を実施例1の製造条件から変更して製造した口腔内崩壊錠(実施例3及び4)の溶出性を比較した。
【0056】
1.実施例3及び4の口腔内崩壊錠の製造
表4に、実施例3及び4の口腔内崩壊錠の処方(1錠当たりの成分量)を示す。実施例3及び4の口腔内崩壊錠の処方は実施例1と同じである。実施例3の口腔内崩壊錠は、混合物の混合時のピンミルの回転板の回転数を9000 rpmに変更したこと以外は実施例1と同様にして製造した。実施例4の口腔内崩壊錠は、混合物の混合時のピンミルの回転板の回転数を15000 rpmに変更したこと以外は実施例1と同様にして製造した。
【0057】
【表4】
【0058】
2.溶出試験及び結果
試験開始から5分、10分、15分、30分及び45分後に試験液を採取したこと以外は、試験例1と同様にして、実施例1、3及び4の口腔内崩壊錠の溶出試験を行った。結果を図3に示す。図3に示されるように、試験開始から10分までは、溶出率は、実施例1、3及び4の間に差はほとんどなかった。試験開始から10分後以降では、溶出率は、実施例4に比べて実施例1及び3の方が高い傾向にあったが、回転数に依存した差はなかった。これらのことから、混合物の混合粉砕時のピンミルの回転板の回転数は9000 rpm以上とすることが好ましいことが示唆された。
図1
図2
図3