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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-07
(45)【発行日】2024-11-15
(54)【発明の名称】歯付ベルトの製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16G 1/28 20060101AFI20241108BHJP
   F16G 1/16 20060101ALI20241108BHJP
   B29D 29/08 20060101ALI20241108BHJP
【FI】
F16G1/28 E
F16G1/28 C
F16G1/16
B29D29/08
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020151879
(22)【出願日】2020-09-10
(65)【公開番号】P2022046042
(43)【公開日】2022-03-23
【審査請求日】2023-07-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000005061
【氏名又は名称】バンドー化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159581
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 勝誠
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 耕治
(74)【代理人】
【識別番号】100139354
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 昌子
(72)【発明者】
【氏名】高原 将人
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0023098(US,A1)
【文献】実開昭58-181042(JP,U)
【文献】特開2007-092993(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16G 1/28
F16G 1/16
B29D 29/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯状の帆布を、その上面に幅方向に間隔を開けて複数の芯体コードを載置しつつ繰り出す工程と、
上記複数の芯体コードを載置した帆布の上下から、溶融した熱可塑性エラストマーを主成分とする組成物による押出成形で、上記帆布が露出しないように被覆する工程と
を備え、
上記帆布が、メッシュ状である歯付ベルトの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯付ベルト及び歯付ベルトの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工場や倉庫等での物の昇降や搬送に、歯付ベルトが用いられている。この歯付ベルトは、ベルト本体と、このベルト本体の一方の面に長さ方向に等間隔に配置される歯部と、ベルトの幅方向に等間隔に配列され、長さ方向に沿ってベルト本体に埋設される複数の芯体コードとを備えている。
【0003】
このような歯付ベルトは、以下のような方法で製造される(特開2019-35089号公報参照)。まず、内型として、外周面に軸方向に延びる溝を有し、この溝が周方向に所定ピッチで設けられ、溝間の突起の先端部に複数の芯体コードを支持するための突条を有し、上記突条が軸方向に延在しているものを用意する。この内径に、複数の芯体コードを等間隔に巻きつける。次に、内型の外径よりもベルト本体の厚み分だけ大きな内径を有する円筒状の外型の内部に、この芯体コードを巻き付けた内型をセットする。そして、ベルト本体及び歯部を形成するための組成物(例えばウレタン組成物)を調製し、内型と外型との間に注型し、成形する。必要に応じて所望の幅で切断して、歯付ベルトを得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-35089号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の歯付ベルトでは、複数の芯体コードをベルトの幅方向に等間隔に配列して埋設するため、複数の芯体コードを突条により支持して製造している。このため、製造された歯付ベルトでは、突条が芯体コードと接する部分には組成物が注型されず、歯部間の歯底面に芯体コードにまで達する凹部が形成される。つまり、複数の芯体コードは、この凹部でわずかに露出することとなる。
【0006】
この芯体コードの露出により、芯体コードが繊維製である場合は、芯体コードから発塵するおそれがあり、芯体コードがスチール製である場合は、通電によるスパークの発生のおそれがある。このため、例えば食品用途やクリーンルーム用途として、芯体コード等の歯付ベルトに埋設される部材の露出がない歯付ベルトが求められている。
【0007】
本発明はこのような不都合に鑑みてなされたものであり、製造が容易で、かつ芯体コード等の歯付ベルトに埋設される部材の露出を抑止できる歯付ベルト及び歯付ベルトの製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施形態に係る歯付ベルトは、ベルト本体と、上記ベルト本体の一方の面に長さ方向に等間隔で配設される複数の歯部と、上記ベルト本体の幅方向に間隔を開け、上記長さ方向に沿って上記ベルト本体に埋設される複数の芯体コードと、上記ベルト本体の上記複数の芯体コードより上記一方の面側に埋設される帆布と備え、上記ベルト本体の主成分が、熱可塑性エラストマーである。
【0009】
本発明の別の一実施形態に係る歯付ベルトの製造方法は、帯状の帆布を、その上面に幅方向に間隔を開けて複数の芯体コードを載置しつつ繰り出す工程と、上記複数の芯体コードを載置した帆布の上下から、溶融した熱可塑性エラストマーを主成分とする組成物による押出成形で被覆する工程とを備え、上記帆布が、メッシュ状である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の歯付ベルトは、製造が容易で、かつ芯体コード等の歯付ベルトに埋設される部材の露出を抑止できる。また、本発明の歯付ベルトの製造方法を用いることで、芯体コード等の歯付ベルトに埋設される部材の露出を抑止した歯付ベルトを容易に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る歯付ベルトを示す模式的斜視図である。
図2図2は、図1の歯付ベルトの縦構造を示す模式的斜め断面図である。
図3図3は、図1の歯付ベルトのA-A線での模式的断面図である。
図4図4は、図1の歯付ベルトのB-B線での模式的断面図である。
図5図5は、本発明の別の一実施形態に係る歯付ベルトの製造方法を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[本発明の実施形態の説明]
最初に本発明の実施態様を列記して説明する。
【0013】
本発明の一実施形態に係る歯付ベルトは、ベルト本体と、上記ベルト本体の一方の面に長さ方向に等間隔で配設される複数の歯部と、上記ベルト本体の幅方向に間隔を開け、上記長さ方向に沿って上記ベルト本体に埋設される複数の芯体コードと、上記ベルト本体の上記複数の芯体コードより上記一方の面側に埋設される帆布と備え、上記ベルト本体の主成分が、熱可塑性エラストマーである。
【0014】
当該歯付ベルトは、帆布が複数の芯体コードとベルト本体の一方の面との間に位置するので、上記複数の芯体コードの露出を抑止できる。また、当該歯付ベルトは、上記帆布自体もベルト本体に埋設されているため、その露出を抑止できる。さらに、当該歯付ベルトは、上記ベルト本体の主成分が熱可塑性エラストマーであるので、芯体コード及び帆布から発塵し難く、また、当該歯付ベルトを押出成形により容易に製造することができる。
【0015】
上記ベルト本体が、単層で構成されているとよい。このように上記ベルト本体を単層で構成することで、当該歯付ベルトをより容易に製造することができるようになる。
【0016】
上記帆布と上記複数の芯体コードとが離間しているとよい。このように上記帆布と上記複数の芯体コードとを離間させることで、帆布と芯体コードとの接触による摩耗を抑止できるので、当該歯付ベルトの寿命を延ばせる。
【0017】
上記帆布が、メッシュ状であるとよい。このように上記帆布をメッシュ状とすることで、帆布自体の露出をより確実に抑止できる。
【0018】
上記帆布のメッシュの空隙率としては、35%以上95%以下が好ましい。このように上記帆布のメッシュの空隙率を上記範囲内とすることで、帆布自体の露出を抑止しつつ、複数の芯体コードの埋設位置を制御し易くすることができる。
【0019】
上記帆布の繊維が、ポリアミド繊維及びポリエステル繊維のうちの少なくとも1つを含むとよい。このように上記帆布の繊維にポリアミド繊維及びポリエステル繊維のうちの少なくとも1つを含めることで、歯部の剛性が増し、スキップトルクを高められる。また、歯欠けの発生を抑止することができる。
【0020】
上記熱可塑性エラストマーが、熱可塑性ポリウレタン、熱可塑性ポリエステル及び熱可塑性ポリアミドのうちの少なくとも1つを含むとよい。このように上記熱可塑性エラストマーに熱可塑性ポリウレタン、熱可塑性ポリエステル及び熱可塑性ポリアミドのうちの少なくとも1つを含めることで、当該歯付ベルトをより容易に製造することができるようになる。
【0021】
上記ベルト本体が、上記歯部間の歯底面に凹部を有さないとよい。歯部間の歯底面に凹部を有する場合、その凹部を起点としてベルト本体が折れ曲がり易くなる。このため、プーリーに巻き付けた際に多角形状に折れ曲がり、屈曲疲労性が低下する。これに対し、上記ベルト本体を、上記歯部間の歯底面に凹部を有さないものとすることで、多角形状に折れ曲がることを抑止し、屈曲疲労性を向上することができる。
【0022】
本発明の別の一実施形態に係る歯付ベルトの製造方法は、帯状の帆布を、その上面に幅方向に間隔を開けて複数の芯体コードを載置しつつ繰り出す工程と、上記複数の芯体コードを載置した帆布の上下から、溶融した熱可塑性エラストマーを主成分とする組成物による押出成形で被覆する工程とを備え、上記帆布が、メッシュ状である。
【0023】
当該歯付ベルトの製造方法では、複数の芯体コードを帆布により支持することで複数の芯体コードのベルト本体の厚さ方向の位置を調整することができる。また、当該歯付ベルトの製造方法では、帆布がメッシュ状であるので、押出成形した際に、溶融した熱可塑性エラストマーを主成分とする組成物が帆布のメッシュを通過するので、帆布自体がベルト本体から押し出されて露出することを抑止できる。従って、当該歯付ベルトの製造方法を用いることで、押出成形により芯体コード及び帆布の露出を抑止した歯付ベルトを容易に製造できる。
【0024】
ここで、「主成分」とは、最も含有量の多い成分であり、例えば50質量%以上含有される成分である。
【0025】
[本発明の実施形態の詳細]
以下、本発明の一実施形態に係る歯付ベルト及び歯付ベルトの製造方法について、適宜図面を参照しつつ説明する。
【0026】
〔歯付ベルト〕
図1から図4に示す歯付ベルト1は、ベルト本体10と、ベルト本体10の一方の面に長さ方向に等間隔で配設される複数の歯部20と、ベルト本体10の幅方向に間隔を開け、上記長さ方向に沿ってベルト本体10に埋設される複数の芯体コード30と、ベルト本体10の複数の芯体コード30より上記一方の面側に埋設される帆布40と備える。
【0027】
<ベルト本体>
ベルト本体10の主成分は、熱可塑性エラストマーである。上記熱可塑性エラストマーが、熱可塑性ポリウレタン、熱可塑性ポリエステル及び熱可塑性ポリアミドのうちの少なくとも1つを含むとよい。このように上記熱可塑性エラストマーに熱可塑性ポリウレタン、熱可塑性ポリエステル及び熱可塑性ポリアミドのうちの少なくとも1つを含めることで、当該歯付ベルト1をより容易に製造することができるようになる。
【0028】
ベルト本体10は、単層で構成されているとよい。つまり、ベルト本体10は層構造を有しておらず、一体的に形成されている。このようにベルト本体10を単層で構成することで、当該歯付ベルト1をより容易に製造することができるようになる。
【0029】
また、ベルト本体10が、歯部20間の歯底面に凹部を有さない。つまり、ベルト本体10は、その厚さが均一化されるように構成されている。歯部20間の歯底面に凹部を有する場合、その凹部を起点としてベルト本体10が折れ曲がり易くなる。このため、プーリーに巻き付けた際に多角形状に折れ曲がり、屈曲疲労性が低下する。これに対し、ベルト本体10を、歯部20間の歯底面に凹部を有さないものとすることで、多角形状に折れ曲がることを抑止し、屈曲疲労性を向上することができる。
【0030】
ベルト本体10の平均厚さは、当該歯付ベルト1に要求される強度等により適宜決定されるが、例えば1mm以上15mm以下とできる。なお、本明細書を通じて「平均」とは任意の10点で測定した値の平均値を指すものとする。
【0031】
ベルト本体10の長さは、当該歯付ベルト1の用途に応じて適宜決定される。なお、当該歯付ベルト1は、一対のプーリー間を周回するクローズドベルトとして用いることもできるし、両端部を有するオープンベルトとして用いることもできる。
【0032】
ベルト本体10は、各種添加剤を含んでもよい。このような添加剤としては、例えば酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、防曇剤、難燃剤、表面調整剤、顔料、フィラー、ワックス等が挙げられる。
【0033】
<歯部>
歯部20は、断面が台形、三角形、半円形、山形、波形、正規分布曲線状等の凸条部である。また、歯部20は、その稜線(軸方向)がベルト本体10の幅方向と一致するように配設されている。なお、歯部20の断面形状は、JIS、ISO、DIN等の規格に準拠して規定されてもよい。
【0034】
歯部20の平均高さ及び歯部20間のピッチは、当該歯付ベルト1の用途に応じて適宜決定される。歯部20の平均高さは、例えば1.0mm以上10mm以下とできる。また、歯部20間のピッチは、例えば2mm以上25mm以下とできる。
【0035】
歯部20の主成分は、ベルト本体10と同様とできる。また、歯部20にはベルト本体10と同様の添加剤を含めてもよい。
【0036】
<芯体コード>
複数の芯体コード30は、円形断面を有する線状体である。
【0037】
複数の芯体コード30は、上述のようにベルト本体10に埋設されている。つまり、複数の芯体コード30は、露出していない。この複数の芯体コード30は、ベルト本体10の長さ方向と平行で、かつベルト本体10の他方の面(歯部20が配設されていない面)からの距離が一定となるように配設されている。つまり、複数の芯体コード30は平面状に配設され、この複数の芯体コード30が形成する平面は、ベルト本体10の他方の面と平行である。また、複数の芯体コード30は、等間隔に配設されている。この複数の芯体コード30により当該歯付ベルト1の強度、耐久性、駆動の正確性等を向上することができる。
【0038】
個々の芯体コード30は、1本の芯線で構成されていてもよいが、複数の芯線がより合わさったものであってもよい。芯体コード30を構成する芯線は、アラミド芯線、スチール芯線、カーボン芯線及びポリエステル芯線のうちの少なくとも1つを含むとよい。つまり、複数の芯線で構成されている芯体コード30にあっては、1種類の芯線で構成されていてもよく、2種類以上の芯線で構成されていてもよい。複数の芯体コード30は、異なる芯線あるいは異なる芯線の組み合わせで構成されてもよいが、ベルト本体10の幅方向の均質性から同じ芯線構成とすることが好ましい。
【0039】
個々の芯体コード30の断面直径は、特に限定されないが、一般的には0.2mm以上2.5mm以下である。
【0040】
複数の芯体コード30間の平均間隔(芯体コード30の中心軸間の距離の平均)の下限としては、0.3mmが好ましく、0.5mmがより好ましい。一方、上記平均間隔の上限としては、4mmが好ましく、3mmがより好ましい。上記平均間隔が上記下限未満であると、当該歯付ベルト1の可撓性が不十分となるおそれがある。逆に、上記平均間隔が上記上限を超えると、複数の芯体コード30によるベルトの強度、耐久性、駆動の正確性等の向上効果が不十分となるおそれがある。
【0041】
また、最も外側に配設される芯体コード30の中心軸と、これと近接するベルト本体10の側面との平均距離の下限としては、0.3mmが好ましく、0.5mmがより好ましい。一方、上記平均距離の上限としては、2mmが好ましく、1.6mmがより好ましい。上記平均距離が上記下限未満であると、当該歯付ベルト1の製造時に、最も外側に配設される芯体コード30がベルト本体10の側面から露出するおそれがある。逆に、上記平均距離が上記上限を超えると、ベルト本体10の側縁が駆動時にばたつき易くなり、複数の芯体コード30による駆動の正確性の向上効果が不十分となるおそれがある。なお、最も外側に配設される芯体コード30は、ベルト本体10の両側に2本存在する。
【0042】
芯体コード30の本数は、ベルト本体10の平均幅、複数の芯体コード30の平均間隔、及び芯体コード30とベルト本体10の側面との平均距離により決定されるが、芯体コード30の本数は、通常10本以上100本以下とされる。
【0043】
<帆布>
帆布40は、図2に示すように、メッシュ状である。このように帆布40をメッシュ状とすることで、帆布40自体の露出をより確実に抑止できる。
【0044】
図2では、帆布40は、ベルト本体10の幅方向に配設される複数の緯糸41及び搬送方向(ベルト本体10の長手方向)に配設される複数の経糸42により編まれており、隣接する2本の緯糸41と、隣接する2本の経糸42とにより囲まれる方形状の空隙43を有している。なお、帆布40のメッシュの構成は、図2のような方形状に限定されるものではなく、例えば空隙43が六角形状であってもよい。
【0045】
帆布40の繊維(図2では緯糸41及び経糸42の繊維)は、ポリアミド繊維及びポリエステル繊維のうちの少なくとも1つを含むとよい。このように帆布40の繊維にポリアミド繊維及びポリエステル繊維のうちの少なくとも1つを含めることで、歯部20の剛性が増し、スキップトルクを高められる。また、歯欠けの発生を抑止することができる。
【0046】
帆布40の繊維の平均太さの下限としては、5デシテックスが好ましく、6デシテックスがより好ましい。一方、上記繊維の平均太さの上限としては、200デシテックスが好ましく、150デシテックスがより好ましい。上記繊維の平均太さが上記下限未満であると、帆布40の強度が不足するおそれがある。逆に、上記繊維の平均太さが上記上限を超えると、ベルト本体10の搬送方向の柔軟性が不足し、特にプーリーの径の小さいベルトコンベヤに使用し難くなるおそれがある。
【0047】
帆布40のメッシュの空隙率の下限としては、35%が好ましく、40%がより好ましい。一方、上記空隙率の上限としては、95%が好ましく、90%がより好ましい。上記空隙率が上記下限未満であると、当該歯付ベルト1を押出成形で製造する場合、ベルト本体10を構成する熱可塑性エラストマーを主成分とする組成物を注入した際に、その圧力により帆布40が移動し易くなり、帆布40自体がベルト本体10の表面に露出し易くなるおそれがある。これに対し、上記空隙率を上記下限以上とすることで、上記組成物を注入した際、上記組成物は帆布40のメッシュの空隙43を通過できるので、その圧力により帆布40が移動することを抑止できる。従って、帆布40自体の露出を抑止できる。逆に、上記空隙率が上記上限を超えると、帆布40の強度が不足し、当該歯付ベルト1を押出成形で製造する際にこの帆布40に載置され繰り出される複数の芯体コード30を十分に支持できないおそれがある。その結果、複数の芯体コード30の埋設位置を制御し難くなるおそれがある。なお、「メッシュの空隙率」は、帆布の表面から観察される幾何学的な隙間(平面視で糸が占めていない部分)の合計面積を、観察した視野の総面積で除して算出した値である。
【0048】
帆布40と複数の芯体コード30とは、図4に示すように、離間しているとよい。このように帆布40と複数の芯体コード30とを離間させることで、帆布40と芯体コード30との接触による摩耗を抑止できるので、当該歯付ベルト1の寿命を延ばせる。
【0049】
帆布40は、露出していない。従って、帆布40の幅は、ベルト本体10の幅より狭い。一方、帆布40は、当該歯付ベルト1を押出成形で製造する際に、この帆布40に載置され繰り出される複数の芯体コード30を支持するものでもあるため、帆布40の幅は、複数の芯体コード30が形成する平面の幅より広い。また、帆布40の幅方向の両端は、複数の芯体コード30が形成する平面の両端より外側に位置する。
【0050】
<利点>
当該歯付ベルト1は、帆布40が複数の芯体コード30とベルト本体10の一方の面との間に位置するので、複数の芯体コード30の露出を抑止できる。また、当該歯付ベルト1は、帆布40自体もベルト本体10に埋設されているため、その露出を抑止できる。さらに、当該歯付ベルト1は、ベルト本体10の主成分が熱可塑性エラストマーであるので、芯体コード及び帆布から発塵し難く、また、当該歯付ベルト1を押出成形により容易に製造することができる。
【0051】
〔歯付ベルトの製造方法〕
本発明の別の一実施形態に係る歯付ベルトの製造方法は、図5に示すように、操出工程S1と、被覆工程S2と、歯部形成工程S3とを備える。当該歯付ベルトの製造方法により、図1から図4に示す当該歯付ベルト1を製造することができる。
【0052】
<操出工程>
操出工程S1では、帯状の帆布40を、その上面に幅方向に間隔を開けて複数の芯体コード30を載置しつつ繰り出す。帆布40は、メッシュ状である。
【0053】
具体的には、予め準備された帆布40のロールから帆布40を操出す一方で、複数の芯体コード30を押出機のシリンダ先端に取り付けたクロスヘッドに挿通しながら、繰り出した帆布40に載置する。これにより複数の芯体コード30は平面状に等間隔に配設される。
【0054】
<被覆工程>
被覆工程S2では、複数の芯体コード30を載置した帆布40の上下から、溶融した熱可塑性エラストマーを主成分とする組成物による押出成形で被覆する。なお、被覆工程S2では、複数の芯体コード30を載置した帆布40は、帆布40が下側、複数の芯体コード30が上側となるように配置される。当該歯付ベルトの製造方法では、熱可塑性エラストマーを主成分とする組成物による押出成形を用いるので、容易に歯付ベルトを長尺化することができる。
【0055】
この被覆工程S2により、複数の芯体コード30及び帆布40を埋設した押出成形体が得られる。この押出成形体は、それ自体が、あるいはその一部がベルト本体10を構成する。
【0056】
帆布40はメッシュ状であるので、上記組成物は、押出成形による圧力が加わっても帆布40のメッシュの空隙43を通過し、帆布40が上下方向に移動してしまうことを抑止する。このため、帆布40がベルト本体10の表面に露出することを抑止できる。
【0057】
また、下方からの押出成形による圧力により上記組成物は、下方から帆布40のメッシュの空隙43を通過し、複数の芯体コード30を押し上げる。この押し上げ圧力により複数の芯体コード30は持ち上がり、帆布40と複数の芯体コード30とを離間させる。また、複数の芯体コード30を持ち上げる際、上記押し上げ圧力と芯体コード30の重量とがバランスするように押し上げられるから、複数の芯体コード30は平面状に配設され、かつこの複数の芯体コード30が形成する平面がベルト本体10の他方の面と平行となるように位置させることができる。つまり、歯付ベルトの製造方法を用いることで、複数の芯体コード30を、ベルト本体10の好適な位置に埋設することができる。
【0058】
上記組成物の溶融時の温度の下限としては、170℃が好ましく、180℃がより好ましい。一方、上記組成物の溶融時の温度の上限としては、210℃が好ましく、200℃がより好ましい。上記組成物の溶融時の温度が上記下限未満であると、溶融した上記組成物の粘度が高く、芯体コード30をベルト本体10の好適な位置に埋設することが困難となるおそれがある。逆に、上記組成物の溶融時の温度が上記上限を超えると、溶融した上記組成物の粘度が低く、押出成形が困難となるおそれがある。
【0059】
<歯部形成工程>
歯部形成工程S3では、被覆工程S2後の押出成形体に歯部20を形成する。これにより当該歯付ベルト1を得ることができる。
【0060】
具体的には、例えば歯部20に対応した凹部を外周面に有する円筒状の金型ロールを準備し、上記押出成形体の一方の面を加熱しながら上記金型ロールに巻き付けることで、歯部20を形成できる。
【0061】
あるいは、上記押出成形体に歯部20を溶融接着することで、歯部20を形成してもよい。
【0062】
<利点>
当該歯付ベルトの製造方法では、複数の芯体コード30を帆布40により支持することで複数の芯体コード30のベルト本体10の厚さ方向の位置を調整することができる。また、当該歯付ベルトの製造方法では、帆布40がメッシュ状であるので、押出成形した際に、溶融した熱可塑性エラストマーを主成分とする組成物が帆布40のメッシュを通過するので、帆布40自体がベルト本体10から押し出されて露出することを抑止できる。従って、当該歯付ベルトの製造方法を用いることで、押出成形により芯体コード30及び帆布40の露出を抑止した歯付ベルトを容易に製造できる。
【0063】
[その他の実施形態]
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、上記態様の他、種々の変更、改良を施した態様で実施することができる。
【0064】
上記実施形態では、ベルト本体が歯部間の歯底面に凹部を有さない構成を説明したが、プーリーとの噛み合わせ等に応じてベルト本体が歯部間の歯底面に凹部を有する構成とすることもできる。この場合、凹部は、帆布及び複数の芯体コードが露出しないように設けられる。
【0065】
上記実施形態では、帆布がメッシュ状である場合を説明したが、帆布としてメッシュ状ではないもの、つまり密に編まれ、空隙を有さないものを用いることもできる。
【0066】
上記実施形態では、本発明の歯付ベルトを押出成形により製造する方法を説明したが、当該歯付ベルトは他の方法で製造することもできる。当該歯付ベルトは、例えば以下の製造方法により製造することも可能である。歯部に対応する凹部を有する内型と、この内型の外側に配置され、内型の外径よりもベルト本体の厚み分だけ離間して配置される外型を準備する。複数の芯体コード30を載置した帆布40を、帆布40が内型側となるように上記内型と上記外側との間に挟み込み、溶融した熱可塑性エラストマーを主成分とする組成物を上記内型と上記外側との間に注型し、加圧することで当該歯付ベルトを得ることもできる。
【実施例
【0067】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、当該発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0068】
[実施例1]
芯体コードとしてのスチールコード、空隙率80%のメッシュ状の帆布、及び熱可塑性エラストマーを主成分とする組成物を用い、上述した本発明の歯付ベルトの製造方法に従って、押出成形により実施例1の歯付ベルトを製造した。なお、実施例1の歯付ベルトの製造方法においては、芯体コードを支持する突条(以下、単に「突起支え」ともいう)は用いていない。
【0069】
[実施例2]
芯体コードとしてアラミドコードを用いた以外は実施例1と同様にして、実施例2の歯付ベルトを製造した。
【0070】
[比較例1、比較例2]
帆布を使用せず、突起支えにより芯体コードを支持して歯付ベルトを製造した点以外は、それぞれ実施例1及び実施例2と同様にして、比較例1及び比較例2の歯付ベルトを製造した。比較例1及び比較例2の歯付ベルトでは、突起支えを使用しているため、この突起支えにより形成されるベルト本体の凹部で、芯体コードの露出が認められた。つまり、これらの歯付ベルトでは、芯体コードがベルト本体に埋設されていない。
【0071】
[比較例3]
非メッシュ状(空隙率0%)の帆布を用い、突起支えにより帆布を支持して歯付ベルトを製造した点以外は、実施例1と同様にして、比較例3の歯付ベルトを製造した。比較例3の歯付ベルトでは、突起支えを使用しているため、この突起支えにより形成されるベルト本体の凹部で、帆布の露出が認められた。つまり、この歯付ベルトでは、帆布がベルト本体に埋設されていない。
【0072】
[比較例4]
芯体コードとしてのスチールコード及び熱硬化性エラストマーを主成分とする組成物を用い、シームレス成形により比較例4の歯付ベルトを製造した。なお、比較例4の歯付ベルトでは、帆布を使用していない。また、突起支えを使用しているため、この突起支えにより形成されるベルト本体の凹部で、芯体コードの露出が認められた。つまり、この歯付ベルトでは、芯体コードがベルト本体に埋設されていない。
【0073】
[評価]
実施例1、実施例2及び比較例1~比較例4の歯付ベルトについて、以下の評価を行った。結果を表1に示す。
【0074】
(発塵)
全ての歯付ベルトについて、実際に使用し、特に食用用途での抑止が必要とされる芯体コード及び帆布からの発塵の有無を判定した。なお、判定は目視により行った。
【0075】
(スパーク)
スチールコードを使用している実施例1、比較例1、比較例3及び比較例4について、スパークの発生の有無を判定した。具体的には、スチールコードに0.2A以上0.3A以下の電流を流し、スパークの発生の有無を目視で確認した。
【0076】
(屈曲疲労性)
全ての歯付ベルトについて、屈曲疲労性を判定した。具体的には、使用状態における歯付ベルトのプーリーへの巻き付き状態から、芯体コードを構成する芯線が円弧状である(折れ曲がりが無い)場合、屈曲疲労性が高い(表1の「高」)、多角形状である(折れ曲がりが有る)場合、屈曲疲労性が低い(表1の「低」)と判定した。なお、判定は、目視により又はマイクロスコープ(顕微鏡)を用いて、歯付ベルトの芯体コードの形状を外部から観察することで行った。
【0077】
【表1】
【0078】
表1で、空隙率及び帆布露出の欄の「-」は、帆布を有していないことを意味している。スパークの欄の「-」は、評価の対象ではないことを意味している。また、表1の「長尺仕様」欄は、各実施例及び比較例のベルト仕様及び製造方法で、長尺仕様のベルトの製造が可能か否かについて示しており、「可」は長尺仕様のベルトの製造が可能であることを意味し、「不可」は長尺仕様のベルトの製造が不可能であることを意味している。
【0079】
表1の結果から、ベルト本体の主成分が熱可塑性エラストマーであり、芯体コードと帆布とをベルト本体に埋設した実施例1及び実施例2の歯付ベルトでは、埋設される部材の露出が抑止されており、発塵及び導電性コードにおけるスパークの発生を低減できることが分かる。
【0080】
一方、比較例1~比較例4の歯付ベルトでは、突起支えを用いているため、芯体コード又は帆布に露出が認められ、かつこれらの歯付ベルトでは発塵が認められる。また、導電性コードであるスチールコードを使用している比較例1、比較例2及び比較例4では、スパークの発生が認められる。さらに、比較例4の歯付ベルトでは、ベルト本体の主成分を熱硬化性とし、シームレス成形で製造しているため、長尺の歯付ベルトを製造することができない。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明の歯付ベルトは、製造が容易で、かつ芯体コード等の歯付ベルトに埋設される部材の露出を抑止できる。また、本発明の歯付ベルトの製造方法を用いることで、芯体コード等の歯付ベルトに埋設される部材の露出を抑止した歯付ベルトを容易に製造できる。
【符号の説明】
【0082】
1 歯付ベルト
10 ベルト本体
20 歯部
30 芯体コード
40 帆布
41 緯糸
42 経糸
43 空隙
図1
図2
図3
図4
図5