IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友重機械工業株式会社の特許一覧

特許7584266レーザ制御装置、パルスレーザビーム出力方法、及びプログラム
<>
  • 特許-レーザ制御装置、パルスレーザビーム出力方法、及びプログラム 図1
  • 特許-レーザ制御装置、パルスレーザビーム出力方法、及びプログラム 図2
  • 特許-レーザ制御装置、パルスレーザビーム出力方法、及びプログラム 図3
  • 特許-レーザ制御装置、パルスレーザビーム出力方法、及びプログラム 図4
  • 特許-レーザ制御装置、パルスレーザビーム出力方法、及びプログラム 図5
  • 特許-レーザ制御装置、パルスレーザビーム出力方法、及びプログラム 図6
  • 特許-レーザ制御装置、パルスレーザビーム出力方法、及びプログラム 図7
  • 特許-レーザ制御装置、パルスレーザビーム出力方法、及びプログラム 図8
  • 特許-レーザ制御装置、パルスレーザビーム出力方法、及びプログラム 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-07
(45)【発行日】2024-11-15
(54)【発明の名称】レーザ制御装置、パルスレーザビーム出力方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   H01S 3/131 20060101AFI20241108BHJP
   B23K 26/0622 20140101ALI20241108BHJP
   H01S 3/00 20060101ALI20241108BHJP
【FI】
H01S3/131
B23K26/0622
H01S3/00 B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020167949
(22)【出願日】2020-10-02
(65)【公開番号】P2022059993
(43)【公開日】2022-04-14
【審査請求日】2023-06-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105887
【弁理士】
【氏名又は名称】来山 幹雄
(72)【発明者】
【氏名】河村 譲一
(72)【発明者】
【氏名】田中 研太
【審査官】百瀬 正之
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-026430(JP,A)
【文献】特開2004-342681(JP,A)
【文献】国際公開第2015/140930(WO,A1)
【文献】特開平10-286683(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 3/00 - 3/30
H01S 4/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ媒質ガスの循環経路に配置されてレーザ媒質ガスを循環させるブロワの回転数を制御するレーザ制御装置であって、
パルスレーザビームのビーム断面の真円度を高め、パルスエネルギのばらつきを小さくするためのパルスレーザビームのパルスの繰り返し周波数と、前記ブロワの好ましい回転数との関係を記憶する記憶部を備え、
パルスレーザビームのパルスの繰り返し周波数に応じて、前記記憶部に記憶された関係に基づいて前記ブロワの回転数を変化させるレーザ制御装置。
【請求項2】
前記繰り返し周波数として、ある期間に出力されるパルスレーザビームのパルスの繰り返し周波数の平均値を採用する請求項1に記載のレーザ制御装置。
【請求項3】
レーザ加工の対象物に応じてパルスレーザビームのパルスの繰り返し周波数を決定し、
パルスの繰り返し周波数を決定すると、決定した繰り返し周波数と前記記憶部に記憶された関係とに基づいて前記ブロワの回転数を決定する請求項1または2に記載のレーザ制御装置。
【請求項4】
レーザ媒質ガスの循環経路に配置されてレーザ媒質ガスを循環させるブロワの回転数を制御するレーザ制御方法であって、
パルスレーザビームのパルスの繰り返し周波数を決定し、
パルスレーザビームのビーム断面の真円度を高め、パルスエネルギのばらつきを小さくするためのパルスレーザビームのパルスの繰り返し周波数と前記ブロワの好ましい回転数との関係と、決定されたパルスの繰り返し周波数とに基づいて、前記ブロワの回転数を制御するレーザ制御方法。
【請求項5】
パルスレーザビームの繰り返し周波数を決定する機能と、
パルスレーザビームのビーム断面の真円度を高め、パルスエネルギのばらつきを小さくするためのパルスレーザビームのパルスの繰り返し周波数と、レーザ発振器の放電空間を含む循環経路にレーザ媒質ガスを循環させるブロワの好ましい回転数との関係を記憶した記憶部の内容と、決定した繰り返し周波数に応じて、前記ブロワの回転数を決定する機能と、
決定した回転数で前記ブロワを動作させながら、決定した繰り返し周波数で前記レーザ発振器からパルスレーザビームを出力させる機能と
をコンピュータに実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ制御装置、パルスレーザビーム出力方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ光をガルバノミラーで反射させ、集光レンズにより集光して基板等の加工対象物に入射させて加工を行うレーザ加工機が知られている(特許文献1)。例えば、このレーザ加工機はプリント基板への穴明け加工に用いられる。特許文献1に開示されたレーザ加工機においては、ガルバノミラーを目標回転角度に位置決めし、ガルバノミラーの位置決め完了後にレーザ光を加工対象物に入射させる。レーザ光源として、パルスレーザビームを出力する炭酸ガスレーザ発振器が用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2004-66300号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
レーザ加工によって形成される穴の形状は、加工に用いるパルスレーザビームのパルスエネルギやビーム断面の真円度に依存する。目標とする形状の穴を形成するためには、パルスレーザビームのパルスエネルギのばらつきを抑制し、ビーム断面の真円度を高めることが必要になる。1つの穴にパルスレーザビームを入射させた後、次に加工すべき穴の位置にパルスレーザビームの入射位置を位置決めするまでのガルバノミラーの動作時間は、加工済の穴から次に加工すべき穴までの距離に依存して変動する。このため、加工すべき穴の分布が異なると、パルスレーザビームのパルスの繰り返し周波数の平均値も異なる。
【0005】
パルスレーザビームのパルスの繰り返し周波数が異なると、パルスエネルギのばらつきの度合いやビーム断面の真円度が変動する場合がある。本発明の目的は、加工に使用するパルスレーザビームのパルスの繰り返し周波数に応じて、パルスエネルギのばらつきを小さくし、ビーム断面の真円度を高めることが可能なレーザ制御装置、パルスレーザビームの出力方法、及びプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一観点によると、
レーザ媒質ガスの循環経路に配置されてレーザ媒質ガスを循環させるブロワの回転数を制御するレーザ制御装置であって、
パルスレーザビームのビーム断面の真円度を高め、パルスエネルギのばらつきを小さくするためのパルスレーザビームのパルスの繰り返し周波数と、前記ブロワの好ましい回転数との関係を記憶する記憶部を備え、
パルスレーザビームのパルスの繰り返し周波数に応じて、前記記憶部に記憶された関係に基づいて前記ブロワの回転数を変化させるレーザ制御装置が提供される。
【0007】
本発明の他の観点によると、
レーザ媒質ガスの循環経路に配置されてレーザ媒質ガスを循環させるブロワの回転数を制御するレーザ制御方法であって、
パルスレーザビームのパルスの繰り返し周波数を決定し、
パルスレーザビームのビーム断面の真円度を高め、パルスエネルギのばらつきを小さくするためのパルスレーザビームのパルスの繰り返し周波数と前記ブロワの好ましい回転数との関係と、決定されたパルスの繰り返し周波数とに基づいて、前記ブロワの回転数を制御するレーザ制御方法が提供される。
【0008】
本発明のさらに他の観点によると、
パルスレーザビームの繰り返し周波数を決定する機能と、
パルスレーザビームのビーム断面の真円度を高め、パルスエネルギのばらつきを小さくするためのパルスレーザビームのパルスの繰り返し周波数と、レーザ発振器の放電空間を含む循環経路にレーザ媒質ガスを循環させるブロワの好ましい回転数との関係を記憶した記憶部の内容と、決定した繰り返し周波数に応じて、前記ブロワの回転数を決定する機能と、
決定した回転数で前記ブロワを動作させながら、決定した繰り返し周波数で前記レーザ発振器からパルスレーザビームを出力させる機能と
をコンピュータに実行させるプログラムが提供される。
【発明の効果】
【0010】
繰り返し周波数に応じてレーザ媒質ガスの流速を調整することにより、パルスエネルギのばらつきを小さくし、ビーム断面の真円度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、実施例によるレーザ制御装置が搭載されたレーザ加工装置の概略図である。
図2図2Aは、基板の表面に定義されている複数の被加工点の分布の一例を示す図であり、図2Bは、複数の被加工点の加工順の一例を示す図である。
図3図3は、レーザ発振器の断面図である。
図4図4は、レーザ発振器の光軸に垂直な断面図である。
図5図5は、レーザ発振器の放電電極部材及び支持部材の、光軸に垂直な断面図である。
図6図6A図6Cは、相互に対向する一対の放電電極部材の断面図である。
図7図7Aは、繰り返し周波数とパルスエネルギのばらつきとの関係を、レーザ媒質ガスの流速ごとに示すグラフであり、図7Bは、繰り返し周波数とビーム断面の真円度との関係を、レーザ媒質ガスの流速ごとに示すグラフである。
図8図8は実施例によるパルスレーザ出力方法を適用したレーザ加工方法の手順を示すフローチャートである。
図9図9は、流速が一定の場合における繰り返し周波数とパルスエネルギの標準偏差とビーム断面の真円度との関係の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1図8を参照して、実施例によるレーザ制御装置及びパルスレーザビーム出力方法について説明する。
【0013】
図1は、実施例によるレーザ制御装置が搭載されたレーザ加工装置の概略図である。レーザ制御装置50がレーザ発振器11を制御することにより、レーザ発振器11からパルスレーザビームが出力される。レーザ発振器11は、例えば炭酸ガスレーザ発振器である。レーザ発振器11から出力されたパルスレーザビームが、ビーム整形光学系12を経由して音響光学素子80(AOD)に入射する。ビーム整形光学系12は、例えばビームエキスパンダ等を含み、パルスレーザビームのビーム径を調整する。
【0014】
音響光学素子80は、レーザ制御装置50からの指令により、入射したパルスレーザビームを、加工経路と、ビームダンパ81に向かう経路のいずれかに振り向ける。加工経路に振り向けられたパルスレーザビームは、ビーム走査器82及び集光レンズ83を通って、加工対象物である基板60に入射する。基板60にパルスレーザビームが入射することにより、穴明け加工が行われる。基板60は、例えばプリント配線基板である。
【0015】
ビーム走査器82として、例えば一対の揺動ミラーを含むガルバノスキャナが用いられる。ビーム走査器82は、レーザ制御装置50からの指令により、パルスレーザビームを走査し、基板60の表面の指令された位置にパルスレーザビームの入射位置を移動させて位置決めする。集光レンズ83として、例えばfθレンズが用いられる。
【0016】
基板60は、可動ステージ84の水平な支持面に支持されている。可動ステージ84は、レーザ制御装置50からの指令により、基板60を支持面に平行な二方向に移動させる。
【0017】
入力装置51からレーザ制御装置50に、レーザ加工に必要な情報、加工指令等が入力される。レーザ制御装置50は、記憶部50Aを含んでいる。記憶部50Aに、レーザ加工に必要な種々の情報及びプログラムが格納される。
【0018】
図2Aは、基板60の表面に定義されている複数の被加工点63の分布の一例を示す図である。図2Aでは、複数の被加工点63のうち一部のみを示している。基板60の外形は、例えば長方形である。
【0019】
長方形の基板60の四隅に、それぞれアライメントマーク61が設けられている。基板60の表面に、複数の被加工点63が定義されている。図2Aでは、被加工点63を円形の記号で示しているが、実際には、基板60の表面に何らかのマークが付されているわけではなく、複数の被加工点63の位置を定義する位置データがレーザ制御装置50の記憶部50Aに格納される。
【0020】
基板60の表面に複数のスキャンエリア62が定義されている。スキャンエリア62の各々の形状は正方形であり、その大きさは、ビーム走査器82(図1)を動作させてパルスレーザビームを移動させることができる範囲の大きさとほぼ等しい。複数のスキャンエリア62は、基板60上のすべての被加工点63をいずれかのスキャンエリア62内に包含するように配置される。複数のスキャンエリア62は部分的に重なる場合があり、被加工点63が分布していない領域にはスキャンエリア62が配置されない場合もある。
【0021】
基板60の加工時には、1つのスキャンエリア62を集光レンズ83(図1)の直下に移動させる。集光レンズ83の直下に配置されたスキャンエリア62内の複数の被加工点63にパルスレーザビームの入射位置を順番に位置決めすることにより、そのスキャンエリア62の加工が行われる。1つのスキャンエリア62の加工が終了すると、可動ステージ84(図1)を動作させて、次に加工すべきスキャンエリア62を集光レンズ83の直下に移動させる。1つのスキャンエリア62の加工中には、可動ステージ84は静止している。図2Aにおいて、スキャンエリア62の加工順を矢印で示している。
【0022】
図2Bは、複数の被加工点63の加工順の一例を示す図である。複数の被加工点63に通し番号が付されている。ビーム走査器82(図1)を動作させて、通し番号の順に、複数の被加工点63にパルスレーザビームを入射させることにより、1つのスキャンエリア62の加工を行う。図2Bにおいて、複数の被加工点63の加工順を矢印で示している。被加工点63の加工順は、例えば、パルスレーザビームの入射位置の移動経路が最短になるように決められる。
【0023】
レーザ加工を行う際には、レーザ制御装置50(図1)がビーム走査器82に位置決め指令を送信する。ビーム走査器82は、位置決め指令を受信すると、パルスレーザビームの入射位置を、指令された位置に位置決めする。位置決めが完了すると、ビーム走査器82からレーザ制御装置50に位置決め完了信号が送信される。レーザ制御装置50は、位置決め完了信号を受信すると、レーザ発振器11にレーザパルスの出力を指令する。これにより、レーザ発振器11から1ショットのレーザパルスが出力される。
【0024】
1つの被加工点63にレーザパルスを入射し合後、次に加工すべき被加工点63にパルスレーザビームの入射位置を位置決めするまでの時間は、2つの被加工点63の間の距離に依存する。このため、レーザパルスの出力間隔は、被加工点63の間の距離に依存する。レーザパルスの出力間隔の逆数をパルスの繰り返し周波数という。2つの被加工点63の間の距離は一定ではないため、例えば、1枚の基板60の加工を行う間に、パルスの繰り返し周波数が平均値の±15%程度の範囲内で変動する。また、繰り返し周波数の平均値は、被加工点63の分布に依存する。
【0025】
本実施例においてパルスの繰り返し周波数は、ある期間、例えば1枚の基板60の加工を行う期間のパルスの繰り返し周波数の平均値を意味する。なお、パルスの繰り返し周波数の平均値の計算には、可動ステージ84を動作させて加工が終了したスキャンエリア62から次に加工すべきスキャンエリア62を集光レンズ83の直下に移動させる時間は含めない。
【0026】
図3は、レーザ発振器11の断面図である。レーザ発振器11が、レーザ媒質ガス及び光共振器20等を収容するチェンバ15を含む。チェンバ15にレーザ媒質ガスが収容される。チェンバ15の内部空間が、相対的に上側に位置する光学室16と、相対的に下側に位置するブロワ室17とに区分されている。光学室16とブロワ室17とは、上下仕切り板18で仕切られている。なお、上下仕切り板18には、レーザ媒質ガスを光学室16とブロワ室17との間で流通させる開口が設けられている。ブロワ室17の側壁から光学室16の底板19が光共振器20の光軸20Aの方向に張り出しており、光学室16の光軸方向の長さが、ブロワ室17の光軸方向の長さより長くなっている。
【0027】
光学室16内に、一対の放電電極部材30及び一対の共振器ミラー25が配置されている。一対の放電電極部材30は、それぞれ支持部材35によって支持されている。一対の放電電極部材30は、上下方向に間隔を隔てて配置されており、両者の間に放電空間24が画定される。放電電極部材30は放電空間24に放電を生じさせることにより、レーザ媒質ガスを励起させる。後に図4を参照して説明するように、放電空間24を図3の紙面に垂直な方向にレーザ媒質ガスが流れる。一対の支持部材35の光軸方向の端部の間に固定具22が配置されて、両者の相対位置が固定されている。下側の支持部材35の光軸方向の両端が、固定具23を介して底板19に固定されている。
【0028】
一対の共振器ミラー25は、光学室16内に配置された1つの共振器ベース26に固定されている。共振器ベース26は、4個の光共振器支持部材27を介して底板19に支持されている。共振器ミラー25は、放電空間24を通る光軸20Aを持つ光共振器20を構成する。光共振器20の光軸20Aを一方向(図1において左方向)に延伸させた延長線と光学室16の壁面との交差箇所に、レーザビームを透過させる光透過窓28が取り付けられている。光共振器20内で励振されたレーザビームが光透過窓28を透過して外部に放射される。光共振器20の光軸20Aに平行な方向をx方向、一対の放電電極部材30を隔てる方向(上下方向)をz方向、放電空間24をレーザ媒質ガスが流れる方向をy方向とするxyz直交座標系を定義する。
【0029】
ブロワ室17にブロワ29が配置されている。ブロワ29は、光学室16とブロワ室17との間でレーザ媒質ガスを循環させる。
【0030】
図4は、レーザ発振器11の光軸20A(図2)に垂直な断面図である。図3を参照して説明したように、チェンバ15の内部空間が上下仕切り板18により、上方の光学室16と下方のブロワ室17とに区分されている。光学室16内に、一対の放電電極部材30、一対の支持部材35、光共振器20(図1)を支持する共振器ベース26が配置されている。一対の放電電極部材30の間に放電空間24が画定される。
【0031】
一対の支持部材35の光軸方向の両端の間に固定具22が配置されている。固定具22は、中央に開口が設けられた板材であり、中央の開口をレーザビームが通過する。下側の支持部材35が門型の固定具23を介して上下仕切り板18に固定されている。門型の固定具23は、共振器ベース26を跨ぐように配置されている。
【0032】
上下仕切り板18に、第1開口18A及び第2開口18Bが設けられている。光学室16内に上流側のダクト41及び下流側のダクト42が配置されている。上流側のダクト41が、第1開口18Aから放電空間24に至る上流側のガス流路43を形成する。下流側のダクト42が、放電空間24から第2開口18Bに至る下流側のガス流路44を形成する。ブロワ室17、上流側のガス流路43、放電空間24、下流側のガス流路44により、レーザ媒質ガスの循環経路が形成される。
【0033】
ブロワ室17に配置されたブロワ29は、ファン29A及びモータ29Bを含む。モータ29Bは、レーザ制御装置50から制御されることにより、制御された回転数で回転する。モータ29Bの回転によってファン29Aが回転し、矢印で示したレーザ媒質ガスの流れを発生させる。
【0034】
ブロワ室17内の循環経路に、熱交換器49が収容されている。放電空間24で加熱されたレーザ媒質ガスが熱交換器49を通過することによって冷却され、冷却されたレーザ媒質ガスが放電空間24に再供給される。
【0035】
図5は、レーザ発振器11の放電電極部材30及び支持部材35の、光軸20Aに垂直な断面図である。上下方向(z方向)に間隔を隔てて配置された2枚の放電電極部材30の間に放電空間24が画定される。下側の放電電極部材30及び支持部材35と、上側の放電電極部材30及び支持部材35とは、xy面に平行な平面に関して面対称である。以下、上側の放電電極部材30及び支持部材35の構成について説明し、下側の放電電極部材30及び支持部材35については説明を省略する。
【0036】
放電電極部材30は、板状部材31、電極板32、保護部材33、及び複数の引出電極47を含む。電極板32は、x方向に長い長方形の板材である。板状部材31及び保護部材33として、例えばセラミック板が用いられる。板状部材31の下方を向く面(もう一方の放電電極部材30に対向する面)に電極板32が取り付けられ、保護部材33が電極板32を覆っている。保護部材33は、例えば接着剤で板状部材31に固定される。板状部材31、電極板32、及び保護部材33の下方を向く面は、z方向に対して垂直である。
【0037】
引出電極47が、電極板32から板状部材31を厚さ方向に貫通し、反対側の表面に露出している。引出電極47に電力供給ケーブル48が接続されている。電力供給ケーブル48及び引出電極47を介して電極板32に放電電力が供給される。
【0038】
支持部材35は、押さえ部材36、側壁37、及び天板38を含む。押さえ部材36、側壁37、及び天板38には、金属、例えばAl等が用いられる。側壁37は、下方及び上方が開放された枠形状の部材であり、側壁37の下方の開放部が放電電極部材30で塞がれ、上方の開放部が天板38で塞がれている。枠状の押さえ部材36と側壁37との間に板状部材31の周縁部が挟まれている。
【0039】
側壁37の下方を向く端面と板状部材31との間、及び側壁37の上方を向く端面と天板38との間に、それぞれOリング39が配置されている。押さえ部材36、側壁37、及び天板38は、ボルト等によって相互に固定されている。支持部材35と放電電極部材30とによって、ほぼ直方体の気密な箱が構成されており、箱の内部の空間に、ほぼ1気圧の大気が満たされている。
【0040】
支持部材35に、上流側のダクト41及び下流側のダクト42が接続されている。図5に矢印で示すように、上流側のガス流路43から放電空間24を通って下流側のガス流路44に向かってレーザ媒質ガスが流れる。
【0041】
支持部材35の上流側の側面から上流側のガス流路43内に整流板46が延びている。整流板46は、上流側から下流側に向かって流路断面が徐々に縮小されるガス流路を画定する。整流板46は、放電空間24に流入するレーザ媒質ガスを整流する。
【0042】
次に、図6A図6Cを参照して、クリアランス比について説明する。図6A図6Cは、相互に対向する一対の放電電極部材30の断面図である。一対の放電電極部材30の間に放電空間24が画定される。図6A図6Cにおいて左から右に向かって(y軸の正方向に)放電空間24内をレーザ媒質ガスが流れる。レーザ媒質ガスの流速をv、電極板32のy方向の寸法をW、パルスレーザビームの繰り返し周波数をfと表記する。クリアランス比CRが以下の式で定義される。
CR=v/(f×W)
【0043】
次にクリアランス比の物理的意味について説明する。電極板32に高周波電力を供給すると、放電空間24に放電が生じる。放電が生じる領域を放電領域70ということとする。放電領域70のy方向の寸法は、電極板32のy方向の寸法Wとほぼ等しい。レーザ媒質ガスは、放電によって励起され、レーザ光の誘導放出に寄与して低エネルギ状態に戻る。一部のレーザ媒質ガスは高エネルギ状態のまま下流側に移動する。一部に高エネルギ状態の分子を含むレーザ媒質ガスは、次の周期の放電の開始時点までに領域71まで移動する。
【0044】
クリアランス比CRが1より大きいとき、図6Aに示すように、ある周期で誘導放出に寄与したレーザ媒質ガスは、次の放電開始までに放電領域70から排出され、放電領域70から離れた下流側の領域71まで移動する。クリアランス比CRが1に等しいとき、図6Bに示すように、ある周期で誘導放出に寄与したレーザ媒質ガスは、次の放電開始までに放電領域70から排出され、放電領域70に接する下流側の領域71まで移動する。いずれの場合も、放電領域70内のレーザ媒質ガスは、次の周期の放電までに完全に入れ替わる。クリアランス比CRが1未満の場合、図6Cに示すように、誘導放出に寄与したレーザ媒質ガスの一部は、次の周期の放電時に放電領域70に残存する。
【0045】
パルスレーザビームのパルスエネルギは、放電領域70と、直前の周期で誘導放出に寄与したレーザ媒質ガスが占める下流側の領域71との位置関係に依存する。
【0046】
次に、図7Aを参照して、レーザ発振器11から出力されるパルスレーザビームの繰り返し周波数とパルスエネルギのばらつきとレーザ媒質ガスの流速との関係について説明する。
【0047】
図7Aは、繰り返し周波数とパルスエネルギのばらつきとの関係を、レーザ媒質ガスの流速ごとに示すグラフである。横軸は繰り返し周波数を単位「kHz」で表し、縦軸はパルスエネルギの標準偏差を相対値で表す。グラフ中の丸記号及び三角記号は、それぞれブロワ29(図4)の回転数がRH及びRLのときの測定結果を示す。ここで、回転数RHは回転数RLより高い。すなわち、丸記号は三角記号より、レーザ媒質ガスの流速が速い場合の測定結果を示す。なお、図7Aの縦軸の数値は、繰り返し周波数が4.5kHz、ブロワ29の回転数がRHのときのパルスエネルギの標準偏差を1とした相対値である。
【0048】
繰り返し周波数が1kHzのとき、パルスエネルギのばらつきは、低流速の方が小さい。繰り返し周波数が3kHzまで高くなると、パルスエネルギのばらつきは、高流速の方が小さくなり、繰り返し周波数がさらに4.5kHz及び5.5kHzまで高くなると、低流速の方が小さくなる。
【0049】
図7Aに示した評価実験から、繰り返し周波数に応じて、パルスエネルギのばらつきを小さくするための好ましい回転数、すなわち好ましい流速が異なることがわかる。繰り返し周波数が高くなった場合に、クリアランス比CRを一定に保つためには、流速を速くしなければならない。ところが、図7Aに示した評価実験の結果からは、繰り返し周波数を3kHzから4.5kHz及び5.5kHzmで高くした場合、流速を遅くする方が好ましいことが判明した。
【0050】
次に、図7Bを参照して、レーザ発振器11から出力されるパルスレーザビームの繰り返し周波数とビーム断面の真円度とレーザ媒質ガスの流速との関係について説明する。
【0051】
図7Bは、繰り返し周波数とビーム断面の真円度との関係を、レーザ媒質ガスの流速ごとに示すグラフである。横軸は繰り返し周波数を単位「kHz」で表し、縦軸はビーム断面の真円度を相対値で表す。グラフ中の丸記号及び三角記号は、それぞれブロワ29(図4)の回転数がRH及びRLのときの測定結果を示す。回転数RH及びRLは、それぞれ図7Aに示した回転数RH及びRLと等しい。なお、図7Bの縦軸の数値は、繰り返し周波数が4.5kHz、ブロワ29の回転数がRLのときの真円度を1とした相対値である。
【0052】
繰り返し周波数が1kHzのとき、ビーム断面の真円度は、高流速の方が高い。繰り返し周波数が3kHz及び4.5kHzまで高くなると、ビーム断面の真円度は、低流速の方が高くなり、繰り返し周波数がさらに5.5kHzまで高くなると、高流速の方が高くなる。
【0053】
図7Bに示した評価実験から、繰り返し周波数に応じて、ビーム断面の真円度を高めるための好ましい回転数、すなわち好ましい流速が異なることがわかる。
【0054】
図7A及び図7Bに示した評価実験の結果から、繰り返し周波数が4.5kHzのときは、回転数をRHよりRLとすることが好ましいことがわかる。繰り返し周波数が1kHz、3kHz、5.5kHzのときには、パルスエネルギのばらつきを小さくするための好ましい回転数の条件と、ビーム断面の真円度を高めるための好ましい回転数の条件とが異なっている。この場合には、回転数がRHとRLとの間の条件でさらに評価実験を行い、より好ましい回転数を見つけ出すとよい。
【0055】
繰り返し周波数と、ブロワ29の好ましい回転数との関係が予め決定されており、この関係情報が、例えばテーブル形式で記憶部50A(図1)に格納されている。繰り返し周波数と、ブロワ29の好ましい回転数との関係は、例えば、ブロワ29の回転数及びパルスの繰り返し周波数を異ならせて複数回の評価実験を行うことにより求めることができる。
【0056】
次に、図8を参照して実施例によるパルスレーザビーム出力方法について説明する。
図8は実施例によるパルスレーザビーム出力方法を適用したレーザ加工方法の手順を示すフローチャートである。
【0057】
入力装置51(図1)から加工対象の基板60に定義されている被加工点63(図2A図2B)の位置情報が入力され、記憶部50Aに格納されている。レーザ制御装置50は、被加工点63の位置情報に基づいてレーザ加工装置を空運転させ、加工に使用するパルスレーザビームの繰り返し周波数を決定する(ステップS1)。空運転とは、レーザ発振器11を動作させずビーム走査器82のみを動作させて、パルスレーザビームの入射位置を複数の被加工点63に順番に位置決めする運転を意味する。
【0058】
繰り返し周波数が決定されると、レーザ制御装置50は、記憶部50Aに格納されている繰り返し周波数と回転数との関係情報と、ステップS1で決定された繰り返し周波数とに基づいて、ブロワ29の回転数を決定する(ステップS2)。
【0059】
レーザ制御装置50は、基板を搬出入するロボット(図示せず)を制御して、基板60を可動ステージ84の上に搬入する(ステップS3)。基板60の搬入後、レーザ制御装置50はレーザ発振器11及びビーム走査器82を制御してレーザ加工を行う(ステップS4)。このとき、レーザ制御装置50は、ステップS2で決定された回転数になるようにブロワ29(図4)を制御してレーザ媒質ガスの流速を調整する。
【0060】
基板60の加工が終了すると、レーザ制御装置50は、可動ステージ84から加工済の基板60を搬出する。同一種別の未加工の基板60が残っている場合には、ステップS3からステップS5までの手順を繰り返す(ステップS6)。ここで、同一種別の基板とは、被加工点63の分布が同一の基板を意味する。
【0061】
同一種別のすべての基板の加工が終了したら、他の種別の基板について、ステップS1からステップS6までの手順を繰り返す(ステップS7)。すべての種別の基板の加工が終了したら、レーザ加工装置の動作を停止させる。
【0062】
次に、上記実施例の優れた効果について説明する。
上記実施例では、パルスレーザビームの繰り返し周波数に応じて、レーザ媒質ガスの流速を好ましい値に設定しているため、パルスエネルギのばらつきが小さく、かつビーム断面の真円度が高い条件で加工を行うことができる。これにより、加工品質を高めることが可能になる。
【0063】
次に、上記実施例の変形例について説明する。
上記実施例では、被加工点63(図2A図2B)の間の距離に応じてパルスレーザビームの繰り返し周波数を変化させたが、一定の繰り返し周波数でレーザ発振器11(図1)を動作させてもよい。この場合には、ビーム走査器82によるパルスレーザビームの入射位置の位置決めが完了する前に、レーザパルスが出力される場合がある。位置決め完了前に出力されたレーザパルスはビームダンパ81(図1)に入射させ、加工に使用しないようにすればよい。逆に、ビーム走査器82による位置決めが完了しても、直ちにレーザパルスが出力されない場合もある。この場合には、レーザ制御装置50は、レーザパルスが出力されるまで、ビーム走査器82を位置決めされた状態で待機させればよい。
【0064】
パルスレーザビームの繰り返し周波数を一定にする場合でも、一定の繰り返し周波数に応じて、レーザ媒質ガスの流速を好ましい値に設定すればよい。
【0065】
上記実施例では、図8に示したフローチャートの各ステップを順番に実行しているが、複数のステップを並行して実行してもよい。例えば、基板の搬入(ステップS3)は、ステップS1及びステップS2と並行して実行することが可能である。
【0066】
次に、図9を参照して他の実施例について説明する。上記実施例では、まずパルスレーザビームの繰り返し周波数を決定し、決定された繰り返し周波数に対して好ましいブロワ29(図4)の回転数を決定する。これに対して本実施例では、ブロワ29の回転数を一定にし、この回転数において使用可能な繰り返し周波数の範囲を決定する。
【0067】
図9は、流速が一定の場合における繰り返し周波数とパルスエネルギの標準偏差とビーム断面の真円度との関係の一例を示すグラフである。横軸は繰り返し周波数を表し、左縦軸はパルスエネルギの標準偏差を表し、右縦軸はビーム断面の真円度を表す。グラフ中の実線はパルスエネルギの標準偏差を示し、破線はビーム断面の真円度を示す。
【0068】
レーザ加工の要求条件として、パルスエネルギの標準偏差の上限値σmax、ビーム断面の真円度の下限値としてCminが与えられている場合について説明する。図9に示した例では、パルスエネルギの標準偏差の要求条件を満たすために、繰り返し周波数をfH以下の範囲にしなければならない。また、ビーム断面の真円度の要求条件を満たすためには、繰り返し周波数をfL以上fH2以下の範囲にしなければならない。繰り返し周波数をfL以上fH以下に設定すると、両方の要求条件を満たすことができる。
【0069】
レーザ加工時に、パルスレーザビームの繰り返し周波数がfL未満になりそうな場合には、レーザ制御装置50は、ビーム走査器82(図1)の位置決め完了前にレーザパルスを出力させてビームダンパ81に入射させればよい。逆に、パルスレーザビームの繰り返し周波数がfHより高くなりそうな場合には、レーザ制御装置50は、ビーム走査器82(図1)の位置決め完了後、繰り返し周波数がfHの条件でレーザパルスを出力するまで位置決め状態を維持させておけばよい。
【0070】
次に、図9に示した実施例の優れた効果について説明する。
本実施例においても、パルスエネルギのばらつきが小さく、かつビーム断面の真円度が高い条件で加工を行うことができる。これにより、加工品質を高めることが可能になる。
【0071】
次に、さらに他の実施例によるプログラムについて説明する。
図1に示したレーザ制御装置50に、コンピュータが用いられる。このコンピュータに、図8に示した各ステップの機能を実現させるプログラムが、記憶部50Aに格納されている。コンピュータは、このプログラムを実行することにより、図8に示した各ステップを実行する。従来のレーザ制御装置50にこのプログラムをインストールすることにより、図8に示した各ステップをレーザ加工装置に実行させることができる。
【0072】
各実施例は例示であり、異なる実施例で示した構成の部分的な置換または組み合わせが可能であることは言うまでもない。複数の実施例の同様の構成による同様の作用効果については実施例ごとには逐次言及しない。さらに、本発明は上述の実施例に制限されるものではない。例えば、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。
【符号の説明】
【0073】
11 レーザ発振器
12 ビーム整形光学系
15 チェンバ
16 光学室
17 ブロワ室
18 上下仕切り板
18A 第1開口
18B 第2開口
19 底板
20 光共振器
20A 光軸
22、23 固定具
24 放電空間
25 共振器ミラー
26 共振器ベース
27 光共振器支持部材
28 光透過窓
29 ブロワ
29A ファン
29B モータ
30 放電電極部材
31 板状部材
32 電極板
33 保護部材
35 支持部材
36 押さえ部材
37 側壁
38 天板
39 Oリング
41 上流側のダクト
42 下流側のダクト
43 上流側のガス流路
44 下流側のガス流路
45 熱交換器
46 整流板
47 引出電極
48 電力供給ケーブル
49 熱交換器
50 レーザ制御装置
50A 記憶部
51 入力装置
60 基板
61 アライメントマーク
62 スキャンエリア
63 被加工点
70 放電領域
71 下流側の領域
80 音響光学素子(AOD)
81 ビームダンパ
82 ビーム走査器
83 集光レンズ
84 可動ステージ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9