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7584274多層接着フィルム、フレキシブル金属張積層板およびフレキシブルプリント基板
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  • -多層接着フィルム、フレキシブル金属張積層板およびフレキシブルプリント基板 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-07
(45)【発行日】2024-11-15
(54)【発明の名称】多層接着フィルム、フレキシブル金属張積層板およびフレキシブルプリント基板
(51)【国際特許分類】
   C09J 7/30 20180101AFI20241108BHJP
   C09J 7/25 20180101ALI20241108BHJP
   C09J 179/08 20060101ALI20241108BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20241108BHJP
   B32B 27/34 20060101ALI20241108BHJP
   C08G 73/10 20060101ALI20241108BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20241108BHJP
【FI】
C09J7/30
C09J7/25
C09J179/08 Z
B32B27/00 M
B32B27/34
C08G73/10
H05K1/03 610N
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020177532
(22)【出願日】2020-10-22
(65)【公開番号】P2022068708
(43)【公開日】2022-05-10
【審査請求日】2023-08-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】弁理士法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】秋山 貴善
(72)【発明者】
【氏名】立石 和幸
【審査官】市村 脩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-193117(JP,A)
【文献】特開2018-126887(JP,A)
【文献】特開2021-170603(JP,A)
【文献】特開2020-117631(JP,A)
【文献】ポリイミドの基礎知識 どのように使われているかを解説,日本,東レ株式会社[オンライン],2021年12月17日,インターネット<https://www.electronics.toray/column/polyimide_01.html>,[検索日 2024.04.30]
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J1/00-201/10
B32B1/00-43/00
C08G73/10
H05K1/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非熱可塑性ポリイミドフィルムの少なくとも片面に、熱可塑性ポリイミドを含有する接着層を設けた多層接着フィルムであって、
-50℃~150℃の温度範囲において-50℃を含め50℃温度が上昇するごとに測定される前記多層接着フィルムの10GHzにおける誘電正接を各々、-50℃における誘電正接Df-50、0℃における誘電正接Df0、50℃における誘電正接Df5、100℃における誘電正接Df100、および150℃における誘電正接Df150とした場合、これらの値の最大と最小の差が0.0005以下であり、Df-50、Df0、Df5、Df100およびDf150のすべてが0.0020以下であり、
前記非熱可塑性ポリイミドフィルムが、少なくとも1,4-ジアミノベンゼンおよび1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼンのジアミン成分と、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物および4,4’-オキシジフタル酸二無水物の酸二無水物成分とを原料として用いたフィルムであることを特徴とする多層接着フィルム。
【請求項2】
前記Df-50、Df0、Df5、Df100およびDf150の最大と最小の差が0.0004以下であることを特徴とする請求項1に記載の多層接着フィルム。
【請求項3】
前記Df-50、Df0、Df5、Df100およびDf150のすべてが0.0013~0.0020の範囲であることを特徴とする請求項1または2に記載の多層接着フィルム
【請求項4】
前記熱可塑性ポリイミドに使用されるジアミンが、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2-ビス(4-アミノフェノキシフェニル)プロパン、および2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニルから選択される一種以上であり、
前記熱可塑性ポリイミドに使用される酸二無水物が、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、および4,4’-オキシジフタル酸二無水物から選択される一種以上であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の多層接着フィルム。
【請求項5】
請求項1~のいずれか1項に記載の多層接着フィルムの少なくとも片面に金属層を有することを特徴とするフレキシブル金属張積層板。
【請求項6】
請求項記載のフレキシブル金属張積層板の金属層に回路を形成して得られることを特徴とするフレキシブルプリント基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非熱可塑性ポリイミドフィルムの少なくとも片面に、熱可塑性ポリイミドを含有する接着層を設けた多層接着フィルムに関する。より詳しくは、低温から高温まで過酷な条件での使用が想定されるフレキシブルプリント基板に好適に用いることができる多層接着フィルムと、その少なくとも片面に金属層が設けられたフレキシブル金属張積層板およびフレキシブルプリント回路基板に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミドフィルムは、機械強度、耐熱性、電気絶縁性、耐薬品性に優れているため、電子基板材料用途で多く利用されている。例えば、ポリイミドフィルムを基板材料とし、少なくとも片面に銅箔を積層したフレキシブル銅張積層板(以下、FCCLともいう)や、さらに回路を作成したフレキシブルプリント基板(以下、FPCともいう)などが製造され、各種電子機器に使用されている。
【0003】
近年の電子機器の高速信号伝送に伴う回路を伝播する電気信号の高周波化において、電子基板材料の低誘電率、低誘電正接化の要求が高まっている。電気信号の伝送損失を抑制するには、誘電率と誘電正接を低くすることが有効な為である。IoT社会の黎明期である近年、高周波化の傾向は進んでおり、例えば10GHz以上の領域においても伝送損失を抑制できるような基板材料やFCCL、FPCが求められている。
【0004】
IoTに代表される技術として、自動車やドローンなどの自動運転技術が開発途上にある。これらに使用されるカメラモジュールやミリ波アンテナモジュール等の電子機器においては、取得データの大容量・高速伝送が必要とされる。また、とりわけ車載用途で用いられる場合、エンジン・駆動部からの排熱による高温に晒されること、または寒冷地での使用が想定されることから、高速伝送特性に加えて幅広い温度帯における安定した高速伝送の実行性が要求される。また、幅広い温度帯で高速伝送が実現できる場合、自動車内における信号回路の設置場所の自由度を高めることが可能となる。従って、このような過酷な条件での使用が想定されるFPCに好適に用いることができる基板材料の開発が待たれる。
【0005】
ところで、ポリイミド以外の基板材料として液晶ポリエステル(LCP)が用いられることもある。一般的にLCPは加工性に乏しいものの、その結晶性から優れた低吸湿・低誘電正接を有する材料である。そして、さらに低い誘電正接を実現するために、特定の条件を満たす全芳香族液晶ポリエステルを熱処理することにより、誘電特性を向上させる方法が知られており、これにより30℃~100℃の範囲において低い誘電正接を実現しうることが知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】WO2020/003690
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
低い誘電率や誘電正接を有するポリイミドフィルムを開発する試みはなされているが、ポリイミドフィルムの誘電特性の温度依存性についてはあまり着目されてはこなかった。しかし、近年、FPCが使用させる部位、用途も多様化し、高温に晒されることもあれば極めて低温で仕様されることも想定されることから、低温から高温に至る幅広い温度帯において優れた誘電特性を発現する材料が望まれる。そこで本発明の課題は、幅広い温度帯において優れた誘電特性、特に、低い誘電正接を発現しうる、非熱可塑性ポリイミドフィルムの少なくとも片面に熱可塑性ポリイミドを含有する接着層を設けた多層接着フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下の新規な多層接着フィルム、フレキシブル金属張積層板およびフレキシブルプリント基板により上記課題を解決しうる。
【0009】
1).非熱可塑性ポリイミドフィルムの少なくとも片面に、熱可塑性ポリイミドを含有する接着層を設けた多層接着フィルムであって、-50℃~150℃の温度範囲において-50℃を含め50℃温度が上昇するごとに測定される前記多層接着フィルムの10GHzにおける誘電正接を各々、-50℃における誘電正接Df-50、0℃における誘電正接Df0、50℃における誘電正接Df5、100℃における誘電正接Df100、および150℃における誘電正接Df150とした場合、これらの値の最大と最小の差が0.0005以下であり、Df-50、Df0、Df5、Df100およびDf150のすべてが0.0020以下であることを特徴とする多層接着フィルム。
【0010】
2).前記Df-50、Df0、Df5、Df100およびDf150の最大と最小の差が0.0004以下であることを特徴とする1)に記載の多層接着フィルム。
【0011】
3).前記Df-50、Df0、Df5、Df100およびDf150のすべてが0.0013~0.0020の範囲であることを特徴とする1)または2)に記載のポリイミドフィルム。
【0012】
4).前記非熱可塑性ポリイミドフィルムが少なくとも1,4-ジアミノベンゼンと1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼンのジアミン成分と、酸二無水物成分とを原料として用いたフィルムであることを特徴とする、1)~3)のいずれか一項に記載の多層接着フィルム。
【0013】
5).前記非熱可塑性ポリイミドフィルムは、さらに酸二無水物成分として、3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を用いることを特徴とする4)に記載の多層接着フィルム。
【0014】
6).前記非熱可塑性ポリイミドフィルムは、酸二無水物成分として、3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物に加えて4,4'-オキシジフタル酸二無水物を用いることを特徴とする5)に記載の多層接着フィルム。
【0015】
7).1)~6)のいずれか1項に記載の多層接着フィルムの少なくとも片面に金属層を有することを特徴とするフレキシブル金属張積層板。
【0016】
8).請求項7記載のフレキシブル金属張積層板の金属層に回路を形成して得られることを特徴とするフレキシブルプリント基板。
【発明の効果】
【0017】
本発明の多層接着フィルムは、非熱可塑性ポリイミドフィルムの少なくとも片面に熱可塑性ポリイミドを含有する接着層を設けた多層接着フィルムであるので、接着層表面に金属層を形成することでフレキシブル銅張積層板(FCCL)とすることを製造することができ、また当該金属層に回路を形成することによってフレキシブルプリント基板(FPC)を製造することができるとともに、得られるFCCLやFPCは、低温から高温に至る幅広い温度帯において低い誘電正接を発現し、誘電正接がどの温度領域においても一定の範囲内にあるため、過酷な条件下で用いられるような特殊な用途、例えば、車載部品として好適に使用できる。具体的には、先進運転支援システムにおけるカメラモジュール、画像処理用ECU、ミリ波レーダー部品、インバーター及びモーター等が挙げられ、前記用途に用いた場合でも、幅広い温度帯における安定した高速伝送を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施例の多層接着フィルムおよび比較例のフィルムの、-50℃~150℃における誘電正接をプロットしたものである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施の形態について以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、本明細書中に記載された学術文献及び特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上(Aを含みかつAより大きい)B以下(Bを含みかつBより小さい)」を意味する。
【0020】
本発明の多層フィルムは、非熱可塑性ポリイミドフィルムの少なくとも片面に、熱可塑性ポリイミドを含有する接着層を設けた多層接着フィルムであって、-50℃~150℃の温度範囲において-50℃を含め50℃温度が上昇するごとに測定される前記多層接着フィルムの10GHzにおける誘電正接を各々、-50℃における誘電正接Df-50、0℃における誘電正接Df0、50℃における誘電正接Df5、100℃における誘電正接Df100、および150℃における誘電正接Df150とした場合、これらの値の最大と最小の差が0.0005以下であり、Df-50、Df0、Df5、Df100およびDf150のすべてが0.0020以下となっている。
【0021】
特許文献1に開示されるような液晶ポリエステル(LCP)は、寒冷~室温付近において、ある程度低い誘電率や誘電正接を示すものの、高温環境下では誘電正接が上昇する傾向にある。これは、LCPの耐熱性の低さ、及びLCPを構成する分子の永久双極子モーメントが大きい事によって生じると想定される。よって、LCPは過酷な温度変化が生じ得る車載用途として用いるには不利である。また、特許文献1には、本発明のような-50℃~150℃のより幅広い温度範囲において、誘電率および誘電正接が低く、かつ一定の範囲にあるかどうかは示唆されていない。
【0022】
一方、非熱可塑性ポリイミドフィルムの少なくとも片面に、熱可塑性ポリイミドを含有する接着層を設けた多層接着フィルムは、近年、広くFPC用途に用いられているが、その誘電正接の温度依存性については一切着目されてこなかった。
【0023】
このような従来の知見に対し、本発明者らは、非熱可塑性ポリイミドフィルムの少なくとも片面に、熱可塑性ポリイミドを含有する接着層を設けた多層接着フィルムについて誘電正接の温度依存性に着目し、ある種の構造を有するポリイミド樹脂を多層接着フィルムに用いれば、一般的に過酷な温度環境下、特に高温領域においては変動してしまうと考えられている、電子回路基材の誘電正接を一定に、しかも低く保つ事を可能であることを見出した。この多層接着フィルムを用いて製造されるFPCは過酷な条件下でも使用が可能となる。
【0024】
ここで、50℃~150℃の温度範囲において-50℃を含め50℃温度が上昇するごとに測定される10GHzにおける誘電正接とは、以下のようにして測定した誘電正接をいう。
【0025】
<使用機器>
1. ネットワークアナライザーN5290A(キーサイト・テクノロジー社製)
2. スプリットシリンダー共振器 10GHz CR710(EMラボ 社製)
3. スプリットシリンダー共振器用 誘電率測定ソフトウェア CRMA (EMラボ 社製)
4. 環境試験器 SH662(エスペック社製)
【0026】
<測定方法>
ネットワークアナライザーと接続したスプリットシリンダー共振器にサンプルをセットし、一定温度に保った環境試験機中に2時間静置した。静置後、誘電率と誘電正接の測定を行う。なお、各温度の測定順序は、150℃、100℃、50℃、0℃、-50℃と高温から順に逐次的に行う。
このようにして得られる誘電正接を各々、-50℃における誘電正接Df-50、0℃における誘電正接Df0、50℃における誘電正接Df5、100℃における誘電正接Df100、および150℃における誘電正接Df150とし、最大と最小を求める。この最大と最小の差は、0.0005以下であることが好ましく、0.0004以下であることがさらに好ましい。Df-50、Df0、Df5、Df100およびDf150のすべてが0.0020以下であり、これらのすべてが0.0018以下であることがさらに好ましい。
【0027】
本発明の多層接着フィルムは、少なくとも一層の非熱可塑性ポリイミド樹脂層を有する多層ポリイミドフィルムである。
【0028】
多層接着フィルムの総厚みは、当該フィルムをFCCL等へ加工する際のハンドリング性の点から7μm以上であることが好ましく、さらに好ましくは10μm~100μmである。
【0029】
前記非熱可塑性ポリイミドフィルムと接着層の厚みは、75:25~60:40の範囲であることが好ましい。
【0030】
以下、非熱可塑性ポリイミドフィルム、熱可塑性ポリイミドを含有する接着層、多層接着フィルムの製造、フレキシブル金属張積層板およびフレキシブルプリント基板の順に説明する。
【0031】
(非熱可塑性ポリイミドフィルム)
本発明の非熱可塑性ポリイミドフィルムの製造方法の一例について詳述する。本発明の非熱可塑性ポリイミドフィルムの製造に用いられるポリイミドの前駆体であるポリアミド酸(以下、ポリアミド酸ともいう)は、少なくとも一種のジアミンと少なくとも1種の酸二無水物を有機溶媒中で実質的に等モルになるように混合、反応することにより得られる。
【0032】
本発明の非熱可塑性ポリイミドフィルムのポリアミド酸に使用されるジアミンについては特に限定されるものではないが、2,2-ビス{4-(4-アミノフェノキシ)フェニル}プロパン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4'-ジアミノジフェニルプロパン、4,4'-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4'-ジアミノジフェニルメタン、4,4'-ジアミノジフェニルスルフィド、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジヒドロキシ-4,4’-ジアミノ-1,1’-ビフェニル、4,4’-ジアミノ-3,3’-ジメチルビフェニル、4,4’-ジアミノ-3,3’-ヒドロキシビフェニル、1,4-ジアミノベンゼン、1,3-ジアミノベンゼン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼンなどが挙げられる。
【0033】
Df-50、Df0、Df5、Df100およびDf150の最大と最小の差が0.0005であるとともに、これらのすべてが0.0020以下となる多層フィルムを得るには、非熱可塑性ポリイミドフィルムのこれら特性を制御することが最も簡単な方法である。多層接着フィルムにおいて非熱可塑性ポリイミドフィルムが主たる構成要素であるためである。このような観点から、上記の中でも、1,4-ジアミノベンゼンと1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼンとを併用することが好ましい。さらに、1,4-ジアミノベンゼンの使用量は、ジアミン成分100モル%に対して70モル%以上が好ましく、70モル%~95モル%の範囲で用いることがより好ましく、80モル%~90モル%の範囲で用いることがさらに好ましく、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼンをジアミン成分100モル%に対して5モル%以上使用することが好ましく、5モル%~30モル%の範囲で用いることがより好ましく、10モル%~20モル%の範囲で用いることが更に好ましい。この範囲で1,4-ジアミノベンゼンと1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼンとを原料に用いて製造される非熱可塑性ポリイミドフィルムを多層接着フィルムに用いれば、当該多層接着フィルムのDf-50、Df0、Df5、Df100およびDf150の最大と最小の差が小さくなり、かつこれらのすべての値が小さくなる傾向にある。
【0034】
酸二無水物についても特に限定されるものではないが、具体的には、ピロメリット酸二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン酸二無水物、p-フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、4,4'-オキシジフタル酸二無水物、3,4'-オキシジフタル酸二無水物などが挙げられる。
【0035】
多層接着フィルムのDf-50、Df0、Df5、Df100およびDf150の最大と最小の差が小さくなり、かつこれらのすべての値が小さくできるという観点から、上記の中でも、3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を使用することが好ましい。3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物の使用量は、酸二無水物成分100モル%に対して40モル%以上が好ましく、50モル%~70モル%の範囲で用いることがより好ましい。更に、3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物の使用に加えて4,4'-オキシジフタル酸二無水物を使用することが好ましい。4,4'-オキシジフタル酸二無水物は、酸二無水物成分100モル%に対して20モル%以上使用することが好ましく、30モル%~50モル%の範囲で用いることがより好ましい。
【0036】
上記酸二無水物モノマーに加え、、誘電特性を低下させない範囲でピロメリット酸二無水物等上記に例示した他の酸二無水物を添加してもよい。他の酸二無水物の添加量として、酸二無水物成分100モル%に対して10モル%以下で加えることが好ましく、6モル%以下の範囲で加えることがより好ましく、3モル%以下の範囲で加えることが更に好ましい。
【0037】
以上から、ジアミン成分として1,4-ジアミノベンゼンおよび1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼンを用い、酸二無水物成分として3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を用いる場合、あるいは、アミン成分として1,4-ジアミノベンゼンおよび1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼンを用い、酸二無水物成分として4,4'-オキシジフタル酸二無水物を用いる場合に、最終的に得られる多層接着フィルムのDf-50、Df0、Df5、Df100およびDf150の最大と最小の差を小さくし、かつこれらのすべての値を小さくすることが容易となる。また、ジアミン成分として1,4-ジアミノベンゼンおよび1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼンを用い、酸二無水物成分として3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物および4,4'-オキシジフタル酸二無水物を用いると、最終的に得られる多層接着フィルムのDf-50、Df0、Df5、Df100およびDf150の最大と最小の差を小さくし、かつこれらのすべての値を小さくすることがさらに容易となる。
【0038】
非熱可塑性ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸は、上記ジアミンと酸二無水物を有機溶媒中で実質的に略等モルになるように混合、反応することにより得られる。使用する有機溶媒は、ポリアミド酸を溶解する溶媒であればいかなるものも用いることができるが、アミド系溶媒すなわちN,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドンなどが好ましく、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミドが特に好ましく用いられ得る。ポリアミド酸の固形分濃度は特に限定されず、5重量%~35重量%の範囲内であればポリイミドとした際に十分な機械強度を有するポリアミド酸が得られる。
【0039】
原料であるジアミンと酸二無水物の添加順序についても特に限定されないが、原料の化学構造だけでなく、添加順序を制御することによっても、非熱可塑性ポリイミドフィルムの誘電正接を制御することが可能であり、結果として最終的に得られる多層接着フィルムのDf-50、Df0、Df5、Df100およびDf150の最大と最小の差を小さくし、かつこれらのすべての値を小さくすることが可能である。
【0040】
上記ポリアミド酸には、摺動性、熱伝導性、導電性、耐コロナ性、ループスティフネス等のフィルムの諸特性を改善する目的でフィラーを添加することもできる。フィラーとしてはいかなるものを用いても良いが、好ましい例としてはシリカ、酸化チタン、アルミナ、窒化珪素、窒化ホウ素、リン酸水素カルシウム、リン酸カルシウム、雲母などが挙げられる。
【0041】
また、得られる非熱可塑性ポリイミドフィルム全体としての特性を損なわない範囲で、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂などの熱硬化性樹脂、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトンなどの熱可塑性樹脂を混合しても良い。これら樹脂の添加方法としては、溶剤に可溶のものであれば上記ポリアミド酸に添加する方法が挙げられる。ポリイミドも可溶性のものであるなら、ポリイミド溶液に添加しても良い。溶剤に不溶のものであれば、上記ポリアミド酸を先にイミド化した後、溶融混練で複合化する方法が挙げられる。但し、ポリイミドと混合する樹脂は可溶性のものを用いることが望ましい。
【0042】
本発明の非熱可塑性ポリイミドフィルムを得るには、以下の工程を含むことが好ましい。
i)有機溶剤中で芳香族ジアミンと芳香族テトラカルボン酸二無水物を反応させてポリアミド酸溶液を得る工程、
ii)上記ポリアミド酸溶液を含む製膜ドープを支持体上に流延する工程、
iii)支持体上で加熱した後、支持体からゲルフィルムを引き剥がす工程、
iv)更に加熱して、残ったアミック酸をイミド化し、かつ乾燥させる工程。
【0043】
ii)以降の工程においては、熱イミド化法と化学イミド化法に大別される。熱イミド化法は、脱水閉環剤等を使用せず、ポリアミド酸溶液を製膜ドープとして支持体に流涎、加熱だけでイミド化を進める方法である。一方の化学イミド化法は、ポリアミド酸溶液に、イミド化促進剤として脱水閉環剤及び触媒の少なくともいずれか一方を添加したものを製膜ドープとして使用し、イミド化を促進する方法である。熱イミド化法と化学イミド化法のどちらの方法を用いても構わないが、化学イミド化法の方が生産性に優れる。
【0044】
脱水閉環剤としては、無水酢酸に代表される酸無水物が好適に用いられ得る。触媒としては、脂肪族第三級アミン、芳香族第三級アミン、複素環式第三級アミン等の三級アミンが好適に用いられ得る。
【0045】
ii)以降の工程で、製膜ドープを流延する支持体としては、ガラス板、アルミ箔、エンドレスステンレスベルト、ステンレスドラム等が好適に用いられ得る。最終的に得られるフィルムの厚み、生産速度に応じて加熱条件を設定し、部分的にイミド化及び乾燥の少なくともいずれかを行った後、支持体から剥離してポリアミド酸フィルム(以下、ゲルフィルム、またはゲル膜ともいう)を得る。
【0046】
iv)以降の工程で、前記ゲルフィルムの端部を固定して硬化時の収縮を回避して乾燥し、水、残留溶媒、フィルム中に残存するイミド化促進剤を除去し、そして残ったアミック酸を完全にイミド化して、ポリイミドを含有するフィルムが得られる。ゲルフィルムの端部は固定するだけでなく、搬送方向もしくは搬送方向に対して垂直方向に延伸することが好ましい。
【0047】
このようにして得られるポリイミドフィルムは、-50℃、0℃、50℃、100℃、150℃における誘電正接が小さく、一定の為、車載用途の高周波対応回路基板として好適に用いることができる。
【0048】
(熱可塑性ポリイミドを含有する接着層)
本発明の接着層に用いられる熱可塑性ポリイミドに使用されるジアミンと酸二無水物は、非熱可塑性ポリイミド樹脂層に使用されるそれらと同じものが挙げられる。接着層の厚みは、非熱可塑性ポリイミドフィルムに比して薄いため、その影響は非熱可塑性ポリイミドフィルムのそれほど大きくはないものの、接着層に含まれる熱可塑性ポリイミドとして好ましい成分を用いることによっても、最終的に得られる多層接着フィルムのDf-50、Df0、Df5、Df100およびDf150の最大と最小の差、ならびにこれらの値を制御することが可能となる。このような観点から、好ましく用いることのできるジアミンとしては、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2-ビス(4-アミノフェノキシフェニル)プロパン、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニルから選択される少なくとも一種を用いることが好ましい。
【0049】
またこれらのジアミンと好適に組合せられる酸二無水物としては、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、4,4’-オキシジフタル酸二無水物から選択される少なくとも一種を用いることが好ましい。
【0050】
本発明の接着層に用いられる熱可塑性ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸溶液の製造方法は、得られるポリアミド酸をイミド化して得られる熱可塑性ポリイミドが従来のフレキシブルプリント基板材料に求められる特性を有するものであれば、公知のどうような方法も用いることが可能である。
【0051】
得られたポリアミド酸溶液を用いて、後述する多層フィルムの製造方法により多層フィルムを製造することができる。なお接着層には、熱可塑性ポリイミドの他、接着層の平滑性を損なわない範囲でシリカ、リン酸カルシウムなどが含まれていてもよい。
【0052】
(多層接着フィルムの製造)
本発明の多層接着フィルムは、上述の少なとも一層の非熱可塑性ポリイミド樹脂層をコアフィルムとして、熱可塑性ポリイミドを含む接着層を設けた2層以上の層を有する多層接着フィルムである。
【0053】
本発明において多層接着フィルムを製造する方法としては、上述のとおり得た非熱可塑性ポリイミドフィルムの少なくとも片面に、前記熱可塑性ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸溶液を塗工し、これを乾燥・イミド化させる方法(塗工法)が挙げられる。
【0054】
あるいは、上記(非熱可塑性ポリイミドフィルム)の項目において例示した、非熱可塑性ポリイミドフィルムを得るための工程、
i)有機溶剤中で芳香族ジアミンと芳香族テトラカルボン酸二無水物を反応させてポリアミド酸溶液を得る工程、
ii)上記ポリアミド酸溶液を含む製膜ドープを支持体上に流延する工程、
iii)支持体上で加熱した後、支持体からゲルフィルムを引き剥がす工程、
iv)更に加熱して、残ったアミック酸をイミド化し、かつ乾燥させる工程、
のii)工程において複数の流路を有する共押出しダイを使用して複層の樹脂層を同時に形成しても良い。すなわち、上述の非熱可塑性ポリイミドフィルムの少なくとも片面に熱可塑性ポリイミドを含有する接着層を有する多層ポリイミドフィルムを得る場合には非熱可塑性ポリイミドの前駆体溶液および熱可塑性ポリイミドの前駆体溶液を、共押出しダイを使用して支持体上に流延し、iii)以降の工程を実施して得ることができる。
【0055】
イミド化には非常に高い温度が必要となるため、ポリイミド以外の樹脂層を設ける場合は、熱分解を抑えるために塗工法を採った方が好ましい。なお、塗工により熱可塑性ポリイミドを含有する接着層を設ける場合は、熱可塑性ポリイミドの前駆体を塗布し、その後イミド化を行ってもよいし、熱可塑性ポリイミド溶液を塗布・乾燥してもよい。
【0056】
(フレキシブル金属張積層板およびフレキシブルプリント基板)
このようにして得られる多層ポリイミドフィルムは、多層ポリイミドフィルムの少なとも片面に金属層を設けてフレキシブル金属張積層板とすることができる。多層ポリイミドフィルム上に金属層を形成する手段としては、
a)上述のようにして多層ポリイミドフィルムを得た後、加熱加圧により金属箔を貼り合せてフレキシブル金属張積層板を得る手段
b)金属箔上に、ポリアミド酸を含有する有機溶剤溶液をキャストし、加熱により溶剤除去、イミド化を行ってフレキシブル金属張積層板を得る手段が挙げられる。a)ならびにb)の詳細について、以下説明する。
【0057】
a)の手段では、得られた多層ポリイミドフィルムに、金属箔を加熱加圧(ラミネート)により貼り合せることにより、本発明のフレキシブル金属箔積層板が得られる。金属箔を貼り合せる手段、条件については、従来公知のものを適宜選択すればよい。
【0058】
b)の手段では、金属箔上にポリアミド酸を含有する有機溶剤溶液(熱可塑性ポリイミドの前駆体を含む溶液あるいは非熱可塑性ポリイミドの前駆体であるアミド酸溶液)をキャストする手段については特に限定されず、ダイコーターやコンマコーター(登録商標)、リバースコーター、ナイフコーターなどの従来公知の手段を使用できる。溶剤除去、イミド化を行うための加熱手段についても従来公知の手段を利用可能であり、例えば熱風炉、遠赤外線炉が挙げられる。
【0059】
なお、(b)の手段で非熱可塑性ポリイミドフィルムや接着層を形成する場合に化学イミド化法を採用する場合には、イミド化の過程で脱水閉環剤である酸無水物から酸が生成するため、金属箔の種類によっては酸化が進行してしまう場合がある。脱水閉環剤の添加については、金属箔の種類や加熱条件に応じて適宜選択することが好ましい。
【0060】
非熱可塑性ポリイミドフィルムおよび熱可塑性ポリイミドを含む接着層を設ける場合、上記キャスト、加熱工程を複数回繰り返すか、共押出しや連続キャストによりキャスト層を複層形成して一度に加熱する手段が好適に用いられ得る。
【0061】
b)の手段では、イミド化が完了すると同時に、本発明のフレキシブル金属箔積層体が得られる。樹脂層の両面に金属箔層を設ける場合、加熱加圧により反対側の樹脂層面に金属箔を貼り合わせれば良い。
【0062】
本発明において用いることができる金属箔としては特に限定されるものではないが、電子機器・電気機器用途に本発明のフレキシブル金属張積層板を用いる場合には、例えば、銅または銅合金、ステンレス鋼またはその合金、ニッケルまたはニッケル合金(42合金も含む)、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる箔を挙げることができる。一般的なフレキシブル積層板では、圧延銅箔、電解銅箔といった銅箔が多用されるが、本発明においても好ましく用いることができる。なお、これらの金属箔の表面には、防錆層や耐熱層あるいは接着層が塗布されていてもよい。また、上記金属箔の厚みについては特に限定されるものではなく、その用途に応じて、十分な機能が発揮できる厚みであればよい。
【0063】
このようにして得られたフレキシブル金属張積層板の金属層を公知の方法によりエッチングすることによりフレキシブルプリント基板が得られる。
【実施例
【0064】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。なお、合成例、実施例及び比較例における積層体の比誘電率、誘電正接の評価方法は次の通りである。
【0065】
(誘電正接の測定)
ネットワークアナライザーN5290A(キーサイト・テクノロジー社製)と接続したスプリットシリンダー共振器CR710(10GHz、EMラボ 社製)に、50mm×70mmに切った多層ポリイミドフィルムをセットし、一定温度に保った環境試験機中に2時間静置した。静置後、誘電率と誘電正接の測定を行った。測定は150℃、100℃、50℃、0℃、-50℃と高温から順に逐次的に実施した。また、環境試験機内を所定温度に設定する度に2時間静置を実施した。
【0066】
比較例として、LCPフィルム(FELIOS R-F705T、パナソニック社製)を前記「誘電正接の測定」と同様の手法で誘電正接を測定した。
【0067】
(合成例1)
容量2000mlのガラス製フラスコにN,N-ジメチルホルムアミド(以下、DMFともいう)を656.66g、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン(以下、TPE-Rともいう)を12.12gと1,4-ジアミノベンゼン(以下、PDAともいう)を25.44g添加し、更に3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(以下、BPDAともいう)を48.86g添加後、窒素雰囲気下で攪拌した。BPDAの溶解を確認後、4,4'-オキシジフタル酸二無水物(ODPAともいう)を31.77gを添加し、30分間攪拌した。最後に、1.8gのピロメリット酸二無水物(以下、PMDAともいう)を固形分濃度7.2%となるようにDMFに溶解した溶液を調製し、この溶液を粘度上昇に気を付けながら上記反応溶液に徐々に添加して、23℃での粘度が2000ポイズに達した時点で添加、撹拌をやめ、ポリアミド酸溶液を得た。
【0068】
(非熱可塑性ポリイミドフィルムの作製)
合成例1のポリアミド酸溶液に、無水酢酸/イソキノリン/DMF(重量比2.1/1.1/0.8)からなるイミド化促進剤をポリアミド酸溶液に対して重量比40%で添加し、連続的にミキサーで撹拌しTダイから押出してステンレス製のエンドレスベルト上に流延した。この樹脂膜を100℃×330秒で加熱した後エンドレスベルトから自己支持性のゲル膜を引き剥がしてテンタークリップに固定し、熱風オーブン250℃×41秒、熱風オーブン350℃×37秒、熱風オーブン380℃×32秒、遠赤外線ヒーター炉380℃×97秒で乾燥・イミド化させ、厚み33μmの非熱可塑性ポリイミドフィルムを得た。
【0069】
(合成例2)
容量2000mlのガラス製フラスコにDMFを642.12g、TPE-Rを53.02gとBPDAを38.16g添加後、窒素雰囲気下で30分間攪拌した。次に、PMDAを8.49g添加し、30分間攪拌した。続いて、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル(以下、m-TBともいう)を16.52g、PMDAを18.11g添加し、30分間攪拌した。最後に、1.7gのPMDAを固形分濃度7.2%となるようにDMFに溶解した溶液を調製し、この溶液を粘度上昇に気を付けながら上記反応溶液に徐々に添加して、23℃での粘度が1000ポイズに達した時点で添加、撹拌をやめ、ポリアミド酸溶液を得た。
【0070】
(実施例1)
合成例2で作製した熱可塑性ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸溶液を固形分濃度10重量%になるまでDMFで希釈した後、合成例1から得た非熱可塑性ポリイミドフィルムの片面に最終片面厚みが8.5μmとなるようにポリアミド酸をコンマコーターで塗布し、120℃に設定した乾燥炉内を4分間通して加熱を行った。もう片面も同様に最終厚みが8.5μmとなうようにポリアミド酸を塗布した後、120℃に設定した乾燥炉内を4分間通して加熱を行った。続いて、雰囲気温度380℃の熱風オーブンの中で15秒間加熱処理を行って、総厚み50μmの多層接着フィルムを得た。
【0071】
(比較例1)
厚み50μmのLCPフィルム(FELIOS R-F705T、パナソニック社製)を用意した。実施例および比較例について誘電正接を測定した結果を表1及び図1に示す。
【0072】
本発明に係る多層接着フィルムは、-50℃、0℃、50℃、100℃、150℃における誘電正接の値の最大と最小の差が0.0005以下かつ、前述温度で測定された誘電正接の値すべてが0.0020以下であり、幅広い温度帯で低く一定の誘電正接を示すことが分かる。
【0073】
従って、零下や100℃を超える温度帯での作動信頼性が要求される車載用途のFPC基板に好適な基材であると言える。具体的な用途として、先進運転支援システムにおけるカメラモジュール、画像処理用ECU、ミリ波レーダー部品、インバーター及びモーター等が挙げられる。よって、高速伝送特性に優れたFPCの設置場所の自由度を上げることができる。
【表1】
図1