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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-07
(45)【発行日】2024-11-15
(54)【発明の名称】多層断熱材の縫製方法及びミシン
(51)【国際特許分類】
   A41H 37/00 20060101AFI20241108BHJP
   D05B 47/04 20060101ALI20241108BHJP
【FI】
A41H37/00 D
D05B47/04 B
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020215046
(22)【出願日】2020-12-24
(65)【公開番号】P2022100829
(43)【公開日】2022-07-06
【審査請求日】2023-11-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000003399
【氏名又は名称】JUKI株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】榮田 敏亮
【審査官】冨江 耕太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-242866(JP,A)
【文献】特開2010-179014(JP,A)
【文献】特開2020-146413(JP,A)
【文献】特開平6-336791(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41H1/00-43/04
A44B18/00
D05B1/00-97/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上糸と下糸を交絡させて縫い目を形成するミシンにより多層断熱材に面ファスナーを縫着する縫製方法であって、
前記上糸と前記下糸のうち、前記多層断熱材における前記面ファスナーが縫着される第一面側に縫い目を形成する一方の糸の糸張力を、前記上糸と前記下糸のうち、前記多層断熱材における前記面ファスナーが縫着されない第二面側に縫い目を形成する他方の糸の糸張力よりも弱くして、前記上糸と前記下糸の結節が、前記多層断熱材を圧縮しない状態で、前記第一面よりも前記第二面に近い位置に形成されるように縫着縫製を行うことを特徴とする多層断熱材の縫製方法。
【請求項2】
前記多層断熱材は、金属被膜が形成された積層状態の複数の断熱シートと、前記断熱シート同士の間に介挿されたスペーサシートとを有することを特徴とする請求項1に記載の多層断熱材の縫製方法。
【請求項3】
前記断熱シートは、樹脂のシート基材に金属が蒸着されていることを特徴とする請求項2に記載の多層断熱材の縫製方法。
【請求項4】
前記スペーサシートは、紙、不織布又は樹脂シートであることを特徴とする請求項2又は3に記載の多層断熱材の縫製方法。
【請求項5】
前記面ファスナーの縫着後に、前記第二面側に形成された上糸又は下糸の縫い目の上から補強用のテープを貼ることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の多層断熱材の縫製方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の多層断熱材の縫製方法に用いるミシンであって、
前記多層断熱材に前記面ファスナーを縫着するための縫製パターンデータを記憶する記憶部と、
前記多層断熱材及び前記面ファスナーを縫い針に対して相対的に位置決めする移動機構と、
前記上糸の糸張力を調節する上糸張力調節装置と、
前記下糸の糸張力を調節する下糸張力調節装置と、
前記移動機構と前記上糸張力調節装置と前記下糸張力調節装置とを制御する制御装置とを備え、
前記制御装置は、
各針落ち位置毎に、前記多層断熱材の上面に面ファスナーを縫着する針落ちであるか、前記多層断熱材の下面に面ファスナーを縫着する針落ちであるか、面ファスナーの縫着に関わらない針落ちであるかを示す識別情報が設定された前記縫製パターンデータに従って、
前記多層断熱材の前記面ファスナーが取り付けられる領域内の針落ちについて、前記識別情報が前記多層断熱材の上面に面ファスナーを縫着する針落ちを示す場合には、前記上面を前記第一面として、前記上糸の糸張力を、前記第二面側に縫い目を形成する前記下糸の糸張力よりも弱くして縫着縫製を行い、
前記識別情報が前記多層断熱材の下面に面ファスナーを縫着する針落ちを示す場合には、前記下面を前記第一面として、前記下糸の糸張力を、前記第二面側に縫い目を形成する前記上糸の糸張力よりも弱くして縫着縫製を行うように、前記上糸張力調節装置及び前記下糸張力調節装置を制御することを特徴とするミシン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層断熱材に面ファスナーを縫着する多層断熱材の縫製方法及びミシンに関する。
【背景技術】
【0002】
MLI(Multilayer Insulation)等の多層断熱材は、真空環境下での使用等が想定されており、複数の断熱シートとその間に介挿されたスペーサシートとからなる多層構造を採る。複数の断熱シートは、輻射熱を遮り、スペーサシートは、断熱シート同士の接触を防いで熱伝達を抑えることにより、高い断熱効果を実現している。
このような多層断熱材は、表裏の各部に面ファスナーが縫着され、複数の多層断熱材を繋ぎ合わせることで、断熱対象物を被覆して使用される(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-75507号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ミシンを使用して、上記多層断熱材に面ファスナーを縫着する場合、糸張力が強いと、複数の断熱シートと複数のスペーサシートが圧縮されて熱伝達が生じやすくなり、断熱効果が損なわれる。このため、上糸と下糸の少なくとも一方は糸張力を弱くして縫着縫製を行う必要があった。
しかしながら、面ファスナー側となる糸の張力を相対的に強くすると、面ファスナーの表面に設けられた無数のフックに糸が引っ掛かりを生じて、結節点の締まりが悪くなるため、縫製後に解けてしまうおそれがあった。
【0005】
本発明は、多層断熱材に面ファスナーを良好に縫着することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上糸と下糸を交絡させて縫い目を形成するミシンにより多層断熱材に面ファスナーを縫着する縫製方法であって、
前記上糸と前記下糸のうち、前記多層断熱材における前記面ファスナーが縫着される第一面側に縫い目を形成する一方の糸の糸張力を、前記上糸と前記下糸のうち、前記多層断熱材における前記面ファスナーが縫着されない第二面側に縫い目を形成する他方の糸の糸張力よりも弱くして、前記上糸と前記下糸の結節が、前記多層断熱材を圧縮しない状態で、前記第一面よりも前記第二面に近い位置に形成されるように縫着縫製を行うことを特徴とする。
【0007】
また、本発明は、上記多層断熱材の縫製方法に用いるミシンであって、
請求項1から5のいずれか一項に記載の多層断熱材の縫製方法に用いるミシンであって、
前記多層断熱材に前記面ファスナーを縫着するための縫製パターンデータを記憶する記憶部と、
前記多層断熱材及び前記面ファスナーを縫い針に対して相対的に位置決めする移動機構と、
前記上糸の糸張力を調節する上糸張力調節装置と、
前記下糸の糸張力を調節する下糸張力調節装置と、
前記移動機構と前記上糸張力調節装置と前記下糸張力調節装置とを制御する制御装置とを備え、
前記制御装置は、
各針落ち位置毎に、前記多層断熱材の上面に面ファスナーを縫着する針落ちであるか、前記多層断熱材の下面に面ファスナーを縫着する針落ちであるか、面ファスナーの縫着に関わらない針落ちであるかを示す識別情報が設定された前記縫製パターンデータに従って、
前記多層断熱材の前記面ファスナーが取り付けられる領域内の針落ちについて、前記識別情報が前記多層断熱材の上面に面ファスナーを縫着する針落ちを示す場合には、前記上面を前記第一面として、前記上糸の糸張力を、前記第二面側に縫い目を形成する前記下糸の糸張力よりも弱くして縫着縫製を行い、
前記識別情報が前記多層断熱材の下面に面ファスナーを縫着する針落ちを示す場合には、前記下面を前記第一面として、前記下糸の糸張力を、前記第二面側に縫い目を形成する前記上糸の糸張力よりも弱くして縫着縫製を行うように、前記上糸張力調節装置及び前記下糸張力調節装置を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、上糸と前記下糸のうち、多層断熱材における面ファスナーが縫着される第一面側に縫い目を形成する一方の糸の糸張力を、上糸と前記下糸のうち、多層断熱材における面ファスナーが縫着されない第二面側に縫い目を形成する他方の糸の糸張力よりも弱くすることにより、上糸と下糸の結節を第二面側に寄せることができ、面ファスナー側に結節が形成された場合のような結節の不安定化を回避し、多層断熱材に面ファスナーを良好に縫着することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】多層断熱材のシート面に垂直な断面図である。
図2図2(A)~図2(D)は縫着縫製の工程を順番に示した動作説明図である。
図3】上糸の糸張力を下糸の糸張力よりも強く設定して縫着縫製を行った場合の多層断熱材の断面図である。
図4】多層断熱材の下面側に面ファスナーを縫着した場合の多層断熱材の断面図である。
図5】多層断熱材に対する面ファスナーの縫着に適したミシンの斜視図である。
図6】ミシンの制御系を示すブロック図である。
図7】多層断熱材に面ファスナーを縫着するための縫製パターンを示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態にかかる多層断熱材の縫製方法及び当該縫製方法に適したミシンについて詳細に説明する。
【0011】
[多層断熱材]
図1は多層断熱材Cのシート面に垂直な断面図である。多層断熱材Cは、例えば、MLI(Multilayer Insulation)と言われるようなシート材料であり、図示のように、片面又は両面の最外層に保護カバーC1を有し、断熱シートC2とスペーサシートC3とが交互に幾層も重ねられて構成されている。なお、保護カバーC1は省略しても良い。
【0012】
保護カバーC1は、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)樹脂、ポリイミド樹脂、セラミック繊維、ガラス繊維、アラミド繊維のいずれか又はこれらの複合材料からなるカバーである。
断熱シートC2は、可撓性のあるPET樹脂膜、PEEK樹脂膜、ポリイミド膜、ポリイミドエアロゲル膜等を基材C21とし、その片面又は両面に、金属(アルミニウム、銀又は金等)の熱放射を反射する金属被膜としてのコーティングC22が形成されている。コーティングC22は、例えば、物理蒸着法によって形成されている。
スペーサシートC3は、隣接する断熱シートC2同士の熱接触を抑制するために、断熱シートC2と断熱シートC2との間に介挿され、物理的接触を抑制する。スペーサシートC3は、紙、不織布、或いは、PET樹脂膜、PEEK樹脂膜、ポリイミド膜等の樹脂シートからなる。
【0013】
[面ファスナーの縫着縫製]
上記多層断熱材Cの片面に面ファスナーFを縫着する好ましい縫製方法について説明する。この縫着縫製は、上糸Uと下糸Dの結節を形成して縫製を行うミシンを使用して行われる。
図2(A)~図2(D)は上記縫着縫製の工程を順番に示した動作説明図である。図示例では、面ファスナーのフック材を縫着する場合を示しているが、面ファスナーのループ材を縫着する場合もフック材と全く同じように行われる。また、多層断熱材Cの上面に面ファスナーFを縫着する場合を例示する。
なお、ここでいう「上面」とは、縫製時に多層断熱材Cがミシンに配置された状態で多層断熱材Cの上向きとなる面を示す。「下面」も同様に、ミシンに配置された状態で多層断熱材Cの下向きとなる面を示す。
【0014】
まず、多層断熱材Cが用意され(図2(A))、上面に面ファスナーFが配置される(図2(B))。このとき、面ファスナーFは、多層断熱材Cの上面に両面テープ等によって仮止めすることが好ましい。
【0015】
次に、ミシンによって面ファスナーFを多層断熱材Cに対して縫着する。この場合、ミシンにおいて、多層断熱材Cにおける面ファスナーFが縫着される上面(第一面)側に縫い目を形成する上糸Uの糸張力が、多層断熱材Cにおける面ファスナーFが縫着されない下面(第二面)側に縫い目を形成する下糸Dの糸張力よりも弱くなるように予め設定が行われる。
なお、多層断熱材Cに縫製を行う場合には、上糸Uと下糸Dの両方の張力を、通常の布に縫製を行う場合よりも弱くなるように設定する。この前提において、さらに、上糸Uの糸張力が下糸Dの糸張力よりも弱くなるように設定が行われる。
【0016】
なお、「上糸Uの糸張力を、…、下糸Dの糸張力よりも弱くする」、とは、上糸Uと下糸Dの結節Sが、上糸Uの縫い目が形成される面(上記の例では面ファスナーの上面)よりも下糸Dの縫い目が形成される面(上記の例では多層断熱材Cの下面)に近い位置に形成されることを示す。
また、「下糸Dの糸張力を上糸Uの糸張力よりも弱くする」という場合には、逆に、結節Sが、下糸Dの縫い目が形成される面(上記の例では多層断熱材Cの下面)よりも上糸Uの縫い目が形成される面(上記の例では面ファスナーの上面)に近い位置に形成されることを示す。
【0017】
多層断熱材Cにおける面ファスナーFが縫着される上面側の上糸Uの糸張力を下糸Dの糸張力よりも弱く設定して縫製を行うことにより、上糸Uが天秤によって引き上げられたときに、下糸Dが多層断熱材C内に引き込まれることが抑制され、結節Sは、多層断熱材Cの下面側近傍に形成される(図2(C))。
これにより、面ファスナーFは、多層断熱材Cに対して良好に縫着が行われる。
【0018】
なお、比較の為に、ミシンにおいて、多層断熱材Cにおける面ファスナーFが縫着される上面(第一面)側に縫い目を形成する上糸Uの糸張力を、多層断熱材Cにおける面ファスナーFが縫着されない下面(第二面)側に縫い目を形成する下糸Dの糸張力よりも強く設定して縫着縫製を行った場合の結果を図3に示す。
この場合、上糸Uが天秤によって引き上げられたときに、下糸Dが多層断熱材C内に引き込まれ、さらには、面ファスナーFの上面側まで引き上げられて、結節Sは、面ファスナーFの上面近傍に形成される。
このように、結節Sが面ファスナーF側に形成されると、結節Sがフック材の内側あるいは外側に位置するために周囲から保持されないで浮いた状態となりやすく、結節Sが解けやすい状態となる。このため、多層断熱材Cに対して面ファスナーFを縫着保持する能力が低下し、面ファスナーFは外れてしまうおそれもある。
これに対して、多層断熱材Cにおける面ファスナーFが縫着される上面側の上糸Uの糸張力を下糸Dの糸張力よりも弱く設定して縫製を行った場合には、結節Sが多層断熱材Cの下面側近傍で周囲の多層断熱材Cによって保持されるので、結節Sは解けにくくなり、面ファスナーFは、多層断熱材Cに対して強固な縫着状態を維持することができる。
【0019】
その後、多層断熱材Cにおける面ファスナーFの縫着面とは反対側の面(多層断熱材Cの下面)には、下糸Dの縫い目を被覆する補強用のテープTを貼着しても良い(図2(D))。
これにより、結節Sの解けが抑制され、面ファスナーFの縫着状態をより強固に維持することができる。
特に、上記糸張力の調整により、結節Sを多層断熱材Cにおける面ファスナーFが縫着されない下面側に形成することができるので、面ファスナーFによって遮られることなく結節Sを補強用のテープTで保持することが可能となり、多層断熱材Cに対して強固な縫着状態を維持することができる。
【0020】
また、多層断熱材Cの下面側に面ファスナーFを縫着する場合には、多層断熱材Cにおける面ファスナーFが縫着される下面側の下糸Dの糸張力を上糸Uの糸張力よりも弱く設定して縫製を行えば良い。
この場合、図4に示すように、上糸Uが天秤によって引き上げられたときに、下糸Dが多層断熱材C内に引き込まれ、結節Sは、多層断熱材Cの上面近傍に形成される。このため、結節Sが多層断熱材Cの上面側近傍で周囲の多層断熱材Cによって保持されるので、結節Sは解けにくくなり、面ファスナーFは、多層断熱材Cに対して強固な縫着状態を維持することができる。
【0021】
[ミシン]
次に、図面を参照して、多層断熱材Cに面ファスナーFを縫着するのに適したミシン100について詳細に説明する。
図5はミシン100の斜視図、図6はミシン100の制御系を示すブロック図である。
【0022】
ミシン100は、被縫製物である多層断熱材Cを保持する保持枠41を有し、その保持枠41が縫い針11に対し相対的に移動することにより、保持枠41に保持された被縫製物に所定の縫製パターンデータに基づく縫い目を形成することができる。
ここで、後述する縫い針11が上下動を行う方向をZ軸方向(上下方向)とし、これと直交する一の方向をX軸方向(左右方向)とし、Z軸方向とX軸方向の両方に直交する方向をY軸方向(前後方向)と定義する。
ミシン100は、図5に示すように、ミシンテーブルBの上面に備えられるミシン本体101と、ミシンテーブルBの上部に備えられ、ユーザによる入力操作を行うための操作パネル300等を備えている。
また、ミシン本体101は、ミシンフレーム20、縫い針11の上下動を行う針上下動機構、縫製台24、多層断熱材Cを保持する保持枠41、釜装置等を備えている。
【0023】
さらに、ミシン100は、図6に示すように、各部の動作を制御するための動作制御手段としての制御装置120を備えている。そして、制御装置120は、縫製プログラム122aが格納されたプログラムメモリ122と、縫製パターンデータ123aを記憶した記憶部としてのデータメモリ123と、プログラムメモリ122内の各プログラム122aを実行するCPU121とを備えている。
【0024】
また、CPU121は、インターフェイス131を介して操作パネル300に接続されている。かかる操作パネル300は、各種画面や入力ボタンを表示する表示部300bと表示部300bの表面に設けられその接触位置を検知するタッチセンサー300cとを有しており、各種情報の入出力手段として機能する。操作パネル300で用いられる入力ボタンや入力スイッチはいずれも、表示部300bで表示され、タッチセンサー300cで入力が検知されることで押下式のボタンやスイッチと同等に機能するものである。
また、操作パネル300は、縫製パターンデータ123aの設定パラメータを任意に設定する機能や複数ある縫製パターンデータ123aの中から所望のデータを選択する機能も有している。
【0025】
また、CPU121は、インターフェイス124を介して、駆動回路15bに接続され、ミシンモーター15の回転を制御する。なお、ミシンモーター15にはその回転数を検出するエンコーダ151が併設されている。
ミシンモーター15は、針上下動機構における縫い針11の上下動を行うための駆動源である。なお、ミシンモーター15は、図示しないが、天秤の上下動や釜装置の釜の回転の駆動源も兼ねている。
【0026】
また、CPU121は、インターフェイス125及びインターフェイス126を介して、X軸モーター43及びY軸モーター44をそれぞれ駆動する駆動回路43b,44bが接続されている。
X軸モーター43は、多層断熱材Cを保持する保持枠41をX軸方向に沿って任意に移動位置決めするための駆動源である。また、Y軸モーター44は、保持枠41をY軸方向に沿って任意に移動位置決めするための駆動源である。
【0027】
また、CPU121は、インターフェイス127を介して、上糸張力調節装置としての糸調子ソレノイド53を駆動する駆動回路53bが接続されている。糸調子ソレノイド53は、上糸Uの糸張力を任意に調節する糸調子装置の駆動源である。これにより、CPU121は、縫製中であっても、上糸Uの糸張力を任意に調節することが出来る。
さらに、CPU121は、インターフェイス128を介して、下糸張力調節装置としての調節モーター54を駆動する駆動回路54bが接続されている。調節モーター54は、下糸Dに糸張力を付与する糸調子の板バネを締結して糸張力を調節する糸張力調節ネジを任意の回転量で回転させるための駆動源である。これにより、CPU121は、縫製中であっても、下糸Dの糸張力を任意に調節することが出来る。
【0028】
また、CPU121は、インターフェイス131を介して、操作パネル300が接続されている。
【0029】
[縫製パターンデータ]
図7に示す、縫製を行う縫製パターンの縫製パターンデータ123aを例に説明する。
縫製パターンデータ123aは、縫い開始位置Psから縫製を開始して、縫い終了位置Peで縫製を終了する縫製パターンの縫製を行うためのものである。この縫製パターンは、縫い開始位置Psから縫い終了位置Peに到るまでの経路内に、多層断熱材Cを構成する積層材料の縫い合わせのみに寄与する第一経路R1と、当該多層断熱材Cの縫い合わせと面ファスナーFの縫着とに寄与する第二経路R2とから構成されている。なお、ここでは、多層断熱材Cの上面に面ファスナーFが縫着される場合を例示する。
【0030】
そして、縫製パターンデータ123aには、縫い開始位置Psから縫い終了位置Peに到るまでの経路における全ての針落ち位置を個別に特定する針落ち位置データと、全ての針落ち位置ごとの上糸Uの設定糸張力及び下糸Dの設定糸張力を示す糸張力データとが含まれている。
また、縫い開始位置Psから縫い終了位置Peに到るまでの経路の内、第一経路R1に属する針落ち位置における糸張力データの上糸Uの設定糸張力及び下糸Dの設定糸張力は、上糸Uの糸張力と下糸Dの糸張力とが等しくなる(バランスがとれている)ように設定される。即ち、上糸Uと下糸Dの結節Sが、多層断熱材Cの上面と下面の中間に形成されるように設定される。
一方、第二経路R2に属する針落ち位置における糸張力データの上糸Uの設定糸張力及び下糸Dの設定糸張力は、全体的に、上糸Uの糸張力が下糸Dの糸張力よりも弱くなるように設定されている。
【0031】
なお、仮に、多層断熱材Cの下面側に面ファスナーFが縫着される場合には、第一経路R1に属する針落ち位置における糸張力データは上記と同じとなるが、第二経路R2に属する針落ち位置における糸張力データの上糸Uの設定糸張力及び下糸Dの設定糸張力は、全体的に、下糸Dの糸張力が上糸Uの糸張力よりも弱くなるように設定される。
【0032】
上記のミシン100によれば、多層断熱材Cにおける面ファスナーFの縫着を伴う縫製の際に、縫製パターンデータの設定内容に従って、縫い開始位置Psから縫い終了位置Peに到るまでの経路に従って多層断熱材Cを移動位置決めして縫い目を形成する縫製を行う。
さらに、第一経路R1の針落ちの際には、上糸Uの糸張力及び下糸Dの糸張力とが等しくなるように、糸調子ソレノイド53及び調節モーター54を制御して、上糸Uと下糸Dの結節Sが、多層断熱材Cの上面と下面の中間に形成されるように縫製を行う。
また、第二経路R2の針落ちの際には、上糸Uの糸張力が下糸Dの糸張力より弱くなるように、糸調子ソレノイド53及び調節モーター54を制御して、上糸Uと下糸Dの結節Sが、多層断熱材Cの下面側近傍に形成されるように縫製を行う。
【0033】
これにより、ミシン100は、面ファスナーFが多層断熱材Cに対して強固な縫着状態を維持することが可能な縫着縫製を行うことができる。
【0034】
[発明の実施形態の技術的効果]
以上のように、ミシンにより多層断熱材Cに面ファスナーFを縫着する場合に、多層断熱材Cにおける面ファスナーFが縫着される第一面側に縫い目を形成する上糸Uの糸張力を、第二面側に縫い目を形成する下糸の糸張力よりも弱くして縫着縫製を行っている。
これにより、上糸Uと下糸Dの結節Sを第二面側に寄せることができ、面ファスナーF側に結節Sが形成された場合のような結節Sの不安定化を回避し、多層断熱材Cに面ファスナーFを強固に良好に縫着することが可能となる。
【0035】
また、多層断熱材Cは、アルミニウム等のコーティングC22が形成された積層状態の複数の断熱シートC2と、断熱シートC2同士の間に介挿されたスペーサシートC3とを有するので、上糸Uと下糸Dの糸張力をいずれも弱くすることが求められるが、そのような場合であっても、結節Sの安定化を図り、多層断熱材Cに面ファスナーFを強固に良好に縫着することが可能となる。
【0036】
また、断熱シートC2が樹脂のシート基材に金属が蒸着されているような場合、相互の接近又は接触により熱伝導が生じやすくなるが、上記のように、上糸Uと下糸Dの糸張力を弱くすることができるので、多層断熱材Cが高い断熱性能を維持しつつ面ファスナーFの縫着を行うことが可能となる。
また、多層断熱材Cが、紙、不織布又は樹脂シートのスペーサシートC3を有するので、多層断熱材Cが高い断熱性能を維持しつつ面ファスナーFの縫着を行うことが可能となる。
【0037】
また、面ファスナーFの縫着後に、第二面側に形成された上糸U又は下糸Dの縫い目の上から補強用のテープTを貼ることにより、結節Sの解けをより効果的に抑制し、多層断熱材Cに面ファスナーFをより強固に良好に縫着することが可能となる。
【0038】
また、ミシン100は、制御装置120が、縫製パターンデータ123aに従って、多層断熱材Cの面ファスナーFが取り付けられる領域内の第二経路R2の針落ちについて、第一面側に縫い目を形成する上糸Uの糸張力を、第二面側に縫い目を形成する下糸Dの糸張力よりも弱くして縫着縫製を行うように、糸調子ソレノイド53及び調節モーター54の糸張力を制御している。
これにより、ミシン100は、多層断熱材Cに面ファスナーFをより強固に良好に縫着する縫製を好適に実現することが可能である。
【0039】
[その他]
以上、本発明の各実施形態について説明した。しかし、本発明は上記各実施形態に限られない。各実施形態で示した細部は、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、ミシン100の縫製パターンデータ123aは、各針落ち位置毎に上糸Uの糸張力と下糸Dの糸張力とが個別に設定されているものを使用する例を示したが、これに限定されない。
例えば、縫製パターンデータ123aは、各針落ち位置毎に、多層断熱材Cの上面に面ファスナーFを縫着する針落ちであるか、多層断熱材Cの下面に面ファスナーFを縫着する針落ちであるか、面ファスナーFの縫着に関わらない針落ちであるかを示す識別情報が設定されている構成としても良い。
その場合、CPU121は、縫製プログラム122aに従って、縫製時に、針落ちごとに、縫製パターンデータ123aの針落ち位置に設定された上記識別情報の読み取りを行う。そして、当該識別情報が多層断熱材Cの上面に面ファスナーFを縫着する針落ちを示す場合には、上糸Uの糸張力が下糸Dの糸張力よりも弱くなるように各々に定められた規定の糸張力となるように、糸調子ソレノイド53及び調節モーター54を制御する。
また、読み取った識別情報が、多層断熱材Cの下面に面ファスナーFを縫着する針落ちを示す場合には、下糸Dの糸張力が上糸Uの糸張力よりも弱くなるように各々に定められた規定の糸張力となるように、糸調子ソレノイド53及び調節モーター54を制御する。
また、読み取った識別情報が、面ファスナーFの縫着に関わらない針落ちを示す場合には、上糸Uの糸張力と下糸Dの糸張力とが等しくなるように各々に定められた規定の糸張力となるように、糸調子ソレノイド53及び調節モーター54を制御する。
これにより、ミシン100は、面ファスナーFの多層断熱材Cに対する強固な縫着を伴う縫製を実現することができる。
【0040】
また、ミシンの針落ち位置近傍に多層断熱材Cの上面側と下面側とを個別に撮像するカメラ等の撮像手段を設け、撮像画像から多層断熱材Cの上面側又は下面側に面ファスナーFが存在するか否かを判定し、面ファスナーFが存在する場合に、面ファスナーFが存在する面に縫い目を形成する一方の糸の糸張力を他方の糸の糸張力よりも小さくなるように制御しても良い。
【符号の説明】
【0041】
41 保持枠
43 X軸モーター
44 Y軸モーター
53 糸調子ソレノイド
54 調節モーター
100 ミシン
120 制御装置
121 CPU
122 プログラムメモリ
122a 縫製プログラム
123 データメモリ
123a 縫製パターンデータ
C 多層断熱材
C1 保護カバー
C2 断熱シート
C22 コーティング(金属被膜)
C3 スペーサシート
D 下糸
F 面ファスナー
R1 第一経路
R2 第二経路
S 結節
T 補強用のテープ
U 上糸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7