(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-07
(45)【発行日】2024-11-15
(54)【発明の名称】ワイパーラバー
(51)【国際特許分類】
B60S 1/38 20060101AFI20241108BHJP
C08K 5/14 20060101ALI20241108BHJP
C08K 3/06 20060101ALI20241108BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20241108BHJP
C08L 7/00 20060101ALI20241108BHJP
C08K 5/39 20060101ALI20241108BHJP
C08K 5/405 20060101ALI20241108BHJP
C08J 7/12 20060101ALI20241108BHJP
C08J 7/02 20060101ALI20241108BHJP
【FI】
B60S1/38 B
C08K5/14
C08K3/06
C08K3/04
C08L7/00
C08K5/39
C08K5/405
C08J7/12 CEQ
C08J7/02 Z
(21)【出願番号】P 2021001940
(22)【出願日】2021-01-08
【審査請求日】2023-10-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000005061
【氏名又は名称】バンドー化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松田 尚
(72)【発明者】
【氏名】山田 智之
【審査官】菅 和幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-163981(JP,A)
【文献】特開2009-007395(JP,A)
【文献】特開平08-319375(JP,A)
【文献】特開2019-064281(JP,A)
【文献】特開昭61-293240(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0229961(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60S 1/38
C08K 5/14
C08K 3/06
C08K 3/04
C08L 7/00
C08K 5/39
C08K 5/405
C08J 7/12
C08J 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム成分及びカーボンブラックを含むゴム組成物からなるワイパーラバーにおいて、
前記ゴム成分は、天然ゴムのみであり、
前記ゴム組成物は、硫黄及び加硫促進剤と、有機過酸化物とを併用して加硫されて
おり、
前記ゴム組成物における前記硫黄の含有量の有機過酸化物の含有量に対する比は、0.1以上で且つ2.0以下であることを特徴とするワイパーラバー。
【請求項2】
請求項1のワイパーラバーにおいて、
前記加硫促進剤は、チオカルボニル基を有することを特徴とするワイパーラバー。
【請求項3】
請求項1又は2のワイパーラバーにおいて、
前記カーボンブラックは、ヨウ素吸着量が24g/kg以上で且つ60g/kg以下であることを特徴とするワイパーラバー。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1つのワイパーラバーにおいて、
前記ワイパーラバーにおける払拭対象を払拭するための払拭部は、摩擦係数を低減するための表面処理が施されていることを特徴とするワイパーラバー。
【請求項5】
請求項1のワイパーラバーにおいて、
前記ゴム組成物における前記有機過酸化物の含有量は、0.2質量%以上で且つ6.5質量%以下であり、
前記ゴム組成物における前記硫黄の含有量は、0.1質量%以上で且つ1.7質量%以下であることを特徴とするワイパーラバー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、自動車等に用いられるワイパーラバーに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のフロントガラス等の払拭対象を払拭するために、ワイパーブレード及びこれを支持するワイパーアームを備えたワイパーシステムが用いられる。ワイパーブレードは、通常、加硫されたゴムからなるワイパーラバーを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ワイパーラバーに関し、払拭性及びその維持、製造時の加工性等、様々な特性の要望がある。これらの特性は様々な要因に依存するが、その1つとして加硫の方法が挙げられる。
【0005】
本開示の目的は、ワイパーラバーについて、加硫の方法により特性を改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を実現するために、本開示のワイパーラバーは、天然ゴム及びカーボンブラックを含むゴム組成物からなる。ゴム組成物は、硫黄及び加硫促進剤と、有機過酸化物とを併用して加硫されている。
【発明の効果】
【0007】
本開示のワイパーラバーは、硫黄及び加硫促進剤と、有機過酸化物とを併用して加硫されていることにより、特性が改善されている。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本開示の例示的ワイパーラバーの断面形状を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の例示的ワイパーラバーについて、図面を参照して説明する。
図1は、例示的ワイパーラバー10の断面形状を模式的に示す図である。ワイパーラバー10は、バーティブラに保持される保持部11と、自動車のフロントガラス等の払拭対象物を払拭するためのリップ部13とを備え、保持部11側とリップ部13側とは幅の細いネック部12により接続されている。リップ部13先端の角の部分が、払拭対象に接触するエッジ部14である。
図1のワイパーラバー10において、リップ部13の先端は四角状の断面を有しており、エッジ部14は2つ存在する。2つのエッジ部14は、ワイパーが往復運動して払拭を行う際に、ワイパーの初期位置から終端の位置へと移動する動作の際と、終端の位置から初期位置に移動する動作の際に、それぞれ払拭対象に接触する。
【0010】
ワイパーラバー10は、ゴム成分及びカーボンブラックを含むゴム組成物からなる。ゴム成分としては、天然ゴムが好ましく、天然ゴムのみを用いることがより好ましい。
【0011】
また、カーボンブラックは、ヨウ素吸着量が24g/kg以上であることが好ましく、また、60g/kg以下であることが好ましい。
【0012】
この理由として、ヨウ素吸着量が24g/kg以上のカーボンブラックを用いることにより、ゴムの耐摩耗性が向上し、摩耗し難くなって拭き取り性能低下を抑制できる。また、ヨウ素吸着量が60g/kg以下のカーボンブラックを用いることにより、カーボンブラックのゴムに対して十分な分散性を得ることができる。この結果、ワイパーラバー10のエッジ部14等に凝集物が現れることを抑制し、凝集物による拭き取り性能低下を抑制できる。
【0013】
また、ワイパーラバー10を形成するゴム組成物は、硫黄及び加硫促進剤と、有機過酸化物と併用して加硫されている。
【0014】
通常、ゴムを加硫するためには、加硫剤としてゴム組成物に硫黄及び加硫促進剤を配合するか、又は、有機過酸化物を配合する。
【0015】
加硫剤として硫黄及び加硫促進剤を用いる場合、ゴム組成物の混練及び圧延加工の段階において加硫が開始してしまう現象(「ヤケ」と称される現象)が生じやすい。従って、圧延加工後、すぐに加硫プレスによるワイパー成形加工に進む必要がある。これを、ワイパーラバー素材加工性が悪いと表現する。
【0016】
この一方、加硫剤として有機過酸化物を用いる場合、混練及び圧延加工性は良好であるが、加硫プレスによる成形時間が長くなる傾向がある。これを、金型成型加工性が悪いと表現する。
【0017】
これらに対し、本開示のワイパーラバーでは、硫黄及び加硫促進剤と、有機過酸化物と併用することにより、ワイパーラバー素材加工性及び金型成形加工性の両方に優れる。つまり、混練及び圧延加工の段階における加硫促進は抑制され、且つ、加硫プレスによる成形時間は短縮されている。
【0018】
また、ワイパーラバーには、常時ワイパーアームからの圧力が掛かっており、変形した状態にある。ワイパーラバーに大きな永久変形が生じると、払拭性が劣化するので、永久変形を小さくすることが求められる。また、自動車用のワイパーの場合、フロントガラス、リアガラス等に用いられ、熱、オゾン等の刺激を受けており、これは熱履歴による物性変化を受けやすい環境である。ワイパーラバーにおいて、払拭性の維持のためには物性の変化、特に、モジュラスの変化は抑制することが望まれる。
【0019】
これらに対し、本開示のワイパーラバーでは、硫黄及び加硫促進剤と、有機過酸化物と併用することにより、永久変形及び熱履歴による物性変化が共に抑制されている。
【0020】
有機過酸化物としては、例えば、ジクミルパーオキサイド、1,3-ビス(t-ブチルペロキシイソプロピル)ベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペロキシ)ヘキサン等が挙げられる。有機過酸化物は、上記のうち1種が配合されていても、また、2種以上が配合されていても、どちらでもよい。ワイパーラバー10を形成するための未架橋ゴム組成物における有機過酸化物の含有量は、好ましくは0.2質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、更に好ましくは0.7質量%以上であり、また、好ましくは6.5質量%以下、より好ましくは5.5質量%以下、更に好ましくは5.0質量%以下である。
【0021】
また、未架橋ゴム組成物における硫黄の含有量は、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上、更に好ましくは0.4質量%以上であり、また、好ましくは1.7質量%以下、より好ましくは1.5質量%以下、更に好ましくは1.2質量%以下である。
【0022】
更に、未架橋ゴム組成物における硫黄の含有量の有機過酸化物の含有量に対する比(硫黄の含有量/有機過酸化物の含有量)は、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.2以上、更に好ましくは0.25以上であり、また、好ましくは2.0以下、より好ましくは1.5以下、更に好ましくは1.3以下である。未架橋ゴム組成物における硫黄の含有量は、有機過酸化物の含有量よりも多いことが好ましい。
【0023】
次に、ワイパーラバー10を形成するゴム組成物には、加硫促進剤が配合されている。加硫促進剤としては、チオカルボニル基を有する加硫促進剤が更に好ましい。
【0024】
チオカルボニル基を有する加硫促進剤としては、N,N’-ジフェニルチオ尿素、トリメチルチオ尿素(TMU)、N,N’-ジエチルチオ尿素(DEU)などのチオウレア系加硫促進剤;テトラメチルチウラムジスルフィド(TMTD)、テトラエチルチウラムジスルフィド(TETD)、テトラブチルチウラムジスルフィド(TBTD)、テトラキス(2-エチルヘキシル)チウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド(TMTM)、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド(DPTT)などのチウラム系加硫促進剤;ピペリジニウムペンタメチレンジチオカルバメート(PPDC)、ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛(ZnMDC)、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛(ZnEDC)、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛(ZnBDC)、エチルフェニルジチオカルバミン酸亜鉛(ZnEPDC)、N-ペンタメチレンジチオカルバミン酸亜鉛(ZnPDC)、ジベンジルジチオカルバミン酸亜鉛、ジブチルジチオカルバミン酸ナトリウム(NaBDC)、ジメチルジチオカルバミン酸銅(CuMDC)、ジメチルジチオカルバミン酸第二鉄(FeMDC)、ジエチルジチオカルバミン酸テルル(TeEDC)などのジチオカルバミン酸塩系加硫促進剤;イソプロピルキサントゲン酸亜鉛などのキサントゲン酸塩系加硫促進剤等が挙げられる。これらのうちチウラム系加硫促進剤及びジチオカルバミン酸塩系加硫促進剤が好ましく、チウラム系加硫促進剤がより好ましい。チオカルボニル基を有する加硫促進剤は、上記のうち1種が配合されていても、また、2種以上が配合されていても、どちらでもよい。
【0025】
チオカルボニル基を有する加硫促進剤のゴム成分100質量部に対する配合量は、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.3質量部以上、更に好ましくは0.8質量部以上であり、また、好ましくは3.0質量部以下、より好ましくは2.5質量部以下、更に好ましくは2.0質量部以下である。ワイパーラバー10を形成するための未架橋ゴム組成物におけるチオカルボニル基を有する加硫促進剤の含有量は、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上、更に好ましくは0.3質量%以上であり、また、好ましくは2.2質量%以下、より好ましくは1.9質量%以下、更に好ましくは1.7質量%以下である。ワイパーラバー10を形成するための未架橋ゴム組成物におけるチオカルボニル基を有する加硫促進剤の含有量の有機過酸化物の含有量に対する比(チオカルボニル基を有する加硫促進剤の含有量/有機過酸化物の含有量)は、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.3以上、更に好ましくは0.5以上であり、また、好ましくは1.0以下、より好ましくは0.8以下、更に好ましくは0.7以下である。未架橋ゴム組成物におけるチオカルボニル基を有する加硫促進剤の含有量は、有機過酸化物の含有量よりも少ないことが好ましい。架橋剤として硫黄が配合される場合、未架橋ゴム組成物におけるチオカルボニル基を有する加硫促進剤の含有量の硫黄の含有量に対する比(チオカルボニル基を有する加硫促進剤の含有量/硫黄の含有量)は、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.3以上、更に好ましくは0.5以上であり、また、好ましくは6.0以下、より好ましくは3.0以下、更に好ましくは2.0以下である。未架橋ゴム組成物におけるチオカルボニル基を有する加硫促進剤の含有量は、硫黄の含有量と同一又は硫黄の含有量よりも少ないことが好ましい。
【0026】
ワイパーラバー10を形成するための未架橋ゴム組成物には、チオカルボニル基を有する加硫促進剤のみが配合されていてもよく、また、チオカルボニル基を有する加硫促進剤以外の加硫促進剤が併用して配合されていてもよい。チオカルボニル基を有する加硫促進剤以外の加硫促進剤としては、例えば、アルデヒド-アンモニア系加硫促進剤、アルデヒド-アミン系加硫促進剤、チオウレア系加硫促進剤、グアニジン系加硫促進剤、チアゾール系加硫促進剤、スルフェンアミド系加硫促進剤等が挙げられる。
【0027】
次に、ワイパーラバー10について、摩擦低減のための表面処理が施されていることが好ましい。表面処理としては、化学表面処理及びコーティング処理が挙げられ、どちらか一方の処理でも良いし、両方の組み合わせでも良い。
【0028】
化学表面処理としては、例えば、ハロゲン処理が好ましい。ハロゲン処理は、ワイパーラバー10の全体に施しても良いし、払拭対象に接触する部分、つまりリップ部13、エッジ部14を主に処理するのであっても良い。
【0029】
コーティング処理を行う場合、コーティング剤としては、固体潤滑剤及び付加重合型シリコーンゴムを含むものを用いても良い。固体潤滑剤としては、黒鉛、二硫化モリブデン、フッ素樹脂、球状シリカ、多孔質球状シリカ、炭酸カルシウム、珪藻土、窒化ホウ素等を用いることができる。コーティング処理についても化学表面処理と同様に、ワイパーラバー10の全体に施しても良いし、払拭対象に接触する部分を主に施しても良い。
【実施例】
【0030】
以下、本開示のワイパーラバーの実施例を説明する。実施例1~5及び比較例1~3のワイパーラバーを次のようにして作成した。各ワイパーラバーについて、表1にも示している(組成の単位はphr:per hundred rubber、つまりゴム成分100質量部に対する質量部である)。
【0031】
それぞれのゴム配合については、表1にも記載している。
【0032】
(実施例1)
実施例1のワイパーラバーを作成するためのゴム組成物は、ゴム成分として天然ゴムを用いた。また、当該天然ゴム100質量部に対し、酸化亜鉛5質量部、ステアリン酸1質量部、カーボンブラック50質量部、プロセスオイル4質量部、老化防止剤5質量部を用いた。更に、硫黄0.5質量部及び加硫促進剤3質量部と、有機過酸化物2.2質量部を用いた。加硫促進剤としては、より具体的には、ジオカルバミン酸系加硫促進剤0.5質量部とその他の加硫促進剤(チオカルボニル基を含まない加硫促進剤)2.5質量部とを用いた。これらを含有するゴム組成物に対し、硫黄は0.29質量%、有機過酸化物は1.29質量%である。
【0033】
尚、カーボンブラックとしては、キャボット社製の商品名sterlingNS を用いた。このカーボンブラックのヨウ素吸着量は29g/kg、DBP(Dibutyl phthalate)吸着量は70ml/100gである。
【0034】
以上のような組成のゴム組成物を用いて、
図1に示す断面形状を有し、長さ350mmのワイパーラバーとして形成した。形成方法としては加硫プレス機を用い、165℃で10分の加硫を行った。
【0035】
続いて、形成したワイパーラバーについて、表面処理として塩素処理を行った。具体的には、塩素水に浸漬させた後、水洗、湯洗及び乾燥を順次行った。
【0036】
(実施例2)
加硫促進剤以外は実施例1と同様にして、実施例2のワイパーラバーを作成した。具体的に、加硫促進剤として、チウラム系加硫促進剤を0.5質量部(ゴム成分100質量部に対して。以下同じ)、その他の加硫促進剤2.5質量部(加硫促進剤の合計は3質量部)を用いた。
【0037】
(実施例3)
加硫促進剤及び有機過酸化物の配合量以外は実施例1と同様にして、実施例3のワイパーラバーを作成した。具体的に、有機過酸化物は1.7質量部とした。また、加硫促進剤としてジオカルバミン酸系加硫促進剤を0.5質量部、その他の加硫促進剤を2.5質量部用いた。実施例3では、ゴム組成物に対し、硫黄は0.29質量%、有機過酸化物は1.00質量%である。
【0038】
(実施例4)
有機過酸化物の配合量以外は実施例1と同様にして、実施例3のワイパーラバーを作成した。具体的に、有機過酸化物は1.1質量部とした。実施例4では、ゴム組成物に対し、硫黄は0.29質量%、有機過酸化物は0.65質量%である。
【0039】
(実施例5)
実施例5は、硫黄及び加硫促進剤と、有機過酸化物とを用いるが、加硫促進剤として、チオカルボニル基を含む物質(ここではチウラム系及びジチオカルバミン酸系の物質)は用いず、その他の加硫促進剤のみを3.0質量部用いる例である。その他の点は実施例1と同じ配合量であるワイパーラバーを用い、実施例5のワイパーラバーを作成した。実施例5では、ゴム組成物に対し、硫黄は0.29質量%、有機過酸化物は1.29質量%である。
【0040】
(比較例1)
比較例1は、硫黄及び加硫促進剤を用いるが、有機過酸化物は用いない例である。具体的に、加硫促進剤として、チウラム系加硫促進剤を1質量部、その他の加硫促進剤を2質量部用いた(加硫促進剤の合計は3質量部)。また、有機過酸化物は用いない。その他の点は実施例1と同じ配合量であるワイパーラバーを用い、比較例1のワイパーラバーを作成した。比較例1では、ゴム組成物に対し、硫黄は0.30質量%、有機過酸化物は0質量%である。
【0041】
(比較例2)
比較例2についても、硫黄及び加硫促進剤を用いるが、有機過酸化物は用いない例である。具体的に、加硫促進剤として、チウラム系加硫促進剤を1質量部、ジチオカルバミン酸系加硫促進剤を1質量部用いた(加硫促進剤の合計は2質量部)。有機過酸化物は用いない。その他の点は実施例1と同じ配合量であるワイパーラバーを用い、比較例2のワイパーラバーを作成した。比較例2では、ゴム組成物に対し、硫黄は0.30質量%、有機過酸化物は0質量%である。
【0042】
(比較例3)
比較例3は、有機過酸化物を用いるが、硫黄及び加硫促進剤は用いない例である。具体的に、有機過酸化物を2.2質量部用いた。その他の点は実施例1と同じ配合量であるワイパーラバーを用い、比較例3のワイパーラバーを作成した。比較例3では、ゴム組成物に対し、硫黄は0%、有機過酸化物は1.32質量%である。
【0043】
【0044】
――試験評価――
以上のように作成した実施例1~5及び比較例1~3のワイパーラバーについて、加工性、永久変形及びモジュラス変化率を評価した。測定結果について、表1に記載している。
【0045】
(加工性について)
ワイパーラバー素材加工性は、ゴム組成物の混練及び圧延加工の段階において加硫が開始してしまう現象の有無の評価である。当該現象について、発生する場合を不良(×で示す)、抑制されている場合を良好(一重丸○で示す)とする。
【0046】
金型成形加工性は、混練及び圧延加工の後、加硫プレスによる成形に要する時間の評価であり、短時間である方が望ましい。165℃で10分間の処理により十分に成形加工が完了する場合を良好(○)、この条件では成形加工が十分に完了しない場合を不良(×)とする。
【0047】
総合加工性は、ワイパーラバー素材加工性及び金型成形加工性の両方が良好である場合を○、一方でも不良の場合を×として示すものである。
【0048】
(製造されたワイパーラバーの特性について)
永久変形は、試験片に引っ張り力を印加して100%伸張し、80℃の環境に72時間保持した後、引っ張り力を解除して試験前との長さの変化を求めた。評価として、13%未満が特に望ましい(二重丸◎と示す)、13%以上15%未満が望ましい(一重丸○と示す)とし、15%以上は望ましくない(×と示す)とした。
【0049】
尚、永久変形の評価に用いた試験片は、ワイパーラバー10の背面ゴム(保持部11)をその下(
図1を参照)で切り取り、長さ100mmとして作成した。
【0050】
また、モジュラス変化率については、80℃の環境に72時間保持する試験の前後における60%モジュラスの変化率を測定した。評価として、-7%よりも大きく7%未満である場合が特に望ましい(二重丸◎と示す)、7%以上で且つ10%未満の場合と、-10%よりも大きく-7%以下の場合とを望ましい(一重丸○と示す)とし、10%以上の場合と-10%以下の場合とを望ましくない(×と示す)とした。
【0051】
モジュラス変化率の評価に用いた試験片は、永久変形の評価の試験片と同様にワイパーラバー10背面ゴムを切り出し、更に、切断側に残る凸部を研磨により除いて作成した。試験片は長さ100mmとした。
【0052】
(評価)
硫黄及び加硫促進剤と、有機過酸化物と併用する実施例1~5について、ワイパーラバー素材加工性及び金型成形加工性の両方に優れている。これに対し、硫黄及び加硫促進剤のみを用いる比較例1及び2では、金型成形加工性に優れるがワイパーラバー素材加工性に劣る。また、有機過酸化物のみを用いる比較例3では、ワイパーラバー素材加工性に優れるが金型成形加工性に劣る。
【0053】
次に、実施例1~5の場合、永久変形及びモジュラス変化率について、いずれも望ましい(○)又は特に望ましい(◎)値である。これに対し、比較例1~3では、モジュラスの変化率についていずれも望ましくない(×)値である。永久変形については、比較例2では特に望ましい(◎)値であるが、比較例1及び3では望ましくない(×)値である。
【0054】
比較例1及び2では、硫黄及び加硫促進剤だけを用いており、有機過酸化物は用いていない。比較例3では、逆に有機過酸化物だけを用いており、硫黄及び加硫促進剤は用いていない。
【0055】
実施例5では、有機過酸化物と硫黄及び加硫促進剤との両方を用いているが、加硫促進剤として、チオカルボニル基を有していないものだけを用いている。
【0056】
以上の比較から、硫黄及び加硫促進剤と、有機過酸化物との両方を加硫に用いることにより、加工性に優れたワイパーラバーを得ることができる。
【0057】
更に、加硫促進剤としてチオカルボニル基を有する物質(例えばチウラム系、ジチオカルバミン酸系)を用いることが好ましい。これにより、特に熱履歴による永久変形及びモジュラスの変化率について、いずれも特に望ましい値を実現することができる。このようなワイパーラバーは、例えば使用時の反転性が改善され、優れた払拭性を発揮する。
【0058】
また、ヨウ素吸着量が25g/kg以上のカーボンブラックを使用することにより、前記の耐摩耗性の向上に加えて、耐オゾン性を改善できる。ワイパーは屋外で使用されることが多いので、耐オゾン性は重要な特性である。また、ヨウ素吸着量が60g/kg以下のカーボンブラックを使用することにより、前記の分散性に加えて、室温付近における損失係数が低減して、ワイパーラバーの反転性に良好な効果が有る。以上の事から、ヨウ素吸着量としては、24g/kg以上で且つ60g/kg以下のものが望ましい。
【0059】
尚、硫黄及び加硫促進剤による加硫と、有機過酸化物による加硫とがいずれも単独で適用可能なゴムにおいて、本開示の効果は顕著に発揮される。例えば、ワイパーラバーとして一般に使用される天然ゴムとクロロプレンゴムとの混合物の場合、モジュラス変化率の改善は観測されなかった。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本開示の技術によると、永久変形及びモジュラス変化率に関して改善されているので、自動車等に用いるワイパーラバーとして有用である。
【符号の説明】
【0061】
10 ワイパーラバー
11 保持部
12 ネック部
13 リップ部
14 エッジ部