(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-07
(45)【発行日】2024-11-15
(54)【発明の名称】拡幅セグメント配置装置、及び拡幅セグメント組立方法
(51)【国際特許分類】
E21D 11/40 20060101AFI20241108BHJP
E21D 9/06 20060101ALI20241108BHJP
【FI】
E21D11/40 C
E21D11/40 Z
E21D9/06 301D
(21)【出願番号】P 2021010203
(22)【出願日】2021-01-26
【審査請求日】2023-11-22
(73)【特許権者】
【識別番号】303057365
【氏名又は名称】株式会社安藤・間
(74)【代理人】
【識別番号】110001335
【氏名又は名称】弁理士法人 武政国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】村上 豪
(72)【発明者】
【氏名】富井 啓輔
【審査官】荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-082057(JP,A)
【文献】特開平10-176496(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 11/40
E21D 9/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シールドトンネルの地中拡幅部に拡幅セグメントを配置する装置であって、
回転体と支持本体を含んで構成される回転機構を、備え、
前記回転体は、V字状に形成された2本のアーム状部材からなるとともに、下端で支持点周りに回転可能となるように前記支持本体に支持され、
2本の前記アーム状部材の先端には、それぞれ前記拡幅セグメントを把持する把持手段
が設けられ、
トンネル内の作業架台上に設置された前記回転機構は、前記把持手段で
前記拡幅セグメントを把持した前記回転体を回転させることによって、
該拡幅セグメントを地中拡幅部の計画位置に配置する、
ことを特徴とする拡幅セグメント配置装置。
【請求項2】
前記拡幅セグメントを円周方向に接続するために該拡幅セグメントの円周方向の側面に設けられたピース間ボルト孔に、挿入して取り付け可能な端部把持具と、
前記拡幅セグメントの内空側表面に取り付けられる中間把持具と、をさらに備え、
前記把持手段
が端部把持手段と中間把持手段を含んで構成され
るとともに、一方の前記アーム状部材の先端には該端部把持手段が設けられ、他方の前記アーム状部材の先端には該中間把持手段が設けられ、
前記拡幅セグメントに取り付けられた前記端部把持具と前記端部把持手段とがピン結合されるとともに、
該拡幅セグメントに取り付けられた前記中間把持具と前記中間把持手段とがピン結合されることによって、
前記拡幅セグメントが前記回転体に把持される、
ことを特徴とする請求項1記載の拡幅セグメント配置装置。
【請求項3】
前記作業架台上で、前記回転機構を側方移動させるスライド機構を、さらに備えた、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の拡幅セグメント配置装置。
【請求項4】
シールドトンネルの地中拡幅部に拡幅セグメントを組み立てる方法であって、
トンネル内に作業架台を構築する作業架台構築工程と、
回転体と支持本体を含んで構成される回転機構を、前記作業架台上に設置する回転機構設置工程と、
前記拡幅セグメントを前記回転体に把持させる拡幅セグメント把持工程と、
前記拡幅セグメントを把持した前記回転体を回転させることによって、
該拡幅セグメントを地中拡幅部の計画位置に配置する拡幅セグメント配置工程と、
前記拡幅セグメント配置工程で計画位置に配置された
前記拡幅セグメントと、既設の
前記拡幅セグメントと、を接合する拡幅セグメント接合工程と、を備え、
前記回転体は、V字状に形成された2本のアーム状部材からなるとともに、下端で支持点周りに回転可能となるように前記支持本体に支持され、
前記拡幅セグメント把持工程では、
2本の前記アーム状部材の先端にそれぞれ設けられた把持手段に
前記拡幅セグメントを取り付ける、
ことを特徴とする拡幅セグメント組立方法。
【請求項5】
地中拡幅部のうち下方に計画される下半拡幅セグメントを設置する下半拡幅セグメント設置工程と、
前記拡幅セグメント配置工程よりも前に、前記下半拡幅セグメント設置工程で設置された前記下半拡幅セグメントの裏込め注入を行う下半裏込め注入工程と、をさらに備え、
前記作業架台構築工程では、前記作業架台の荷重の一部を前記下半拡幅セグメントが支持するように、該作業架台を構築する、
ことを特徴とする請求項4記載の拡幅セグメント組立方法。
【請求項6】
前記把持手段が端部把持手段と中間把持手段を含んで構成されるとともに、
一方の前記アーム状部材の先端には該端部把持手段が設けられ、他方の前記アーム状部材の先端には該中間把持手段が設けられ、
前記拡幅セグメントの内空側表面には中間把持具が取り付けられ、
前記拡幅セグメントを円周方向に接続するために該拡幅セグメントの円周方向の側面に設けられたピース間ボルト孔に、端部把持具を挿入することによって、該端部把持具を
該拡幅セグメントに取り付ける端部把持具取付工程を、さらに備え、
前記拡幅セグメント把持工程では、
前記拡幅セグメントに取り付けられた前記端部把持具と前記端部把持手段とをピン結合するとともに、前記中間把持具と前記中間把持手段とをピン結合することによって、
前記拡幅セグメントを前記回転体に把持させる、
ことを特徴とする請求項4又は請求項5記載の拡幅セグメント組立方法。
【請求項7】
前記回転機構設置工程の後に、配置計画された
前記拡幅セグメントの数だけ、前記拡幅セグメント把持工程と前記拡幅セグメント配置工程と前記拡幅セグメント接合工程を繰り返し行い、
前記端部把持具取付工程では、
今回の前記拡幅セグメントを把持する姿勢に応じて、前回の前記端部把持具取付工程で取り付けた前記端部把持具とは異なる前記端部把持具を取り付ける、
ことを特徴とする請求項6記載の拡幅セグメント組立方法。
【請求項8】
前記回転機構設置工程の後に、配置計画された
前記拡幅セグメントの数だけ、前記拡幅セグメント把持工程と前記拡幅セグメント配置工程と前記拡幅セグメント接合工程を繰り返し行い、
前回の前記拡幅セグメント接合工程の後に、前記作業架台上で前記回転機構を側方移動させる回転機構スライド工程を、さらに備え、
前記回転機構スライド工程で前記回転機構を側方移動させた後に、前記拡幅セグメント把持工程を行う、
ことを特徴とする請求項4乃至請求項7のいずれかに記載の拡幅セグメント組立方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、シールド工法によって構築されたトンネル(以下、単に「シールドトンネル」という。)の地中拡幅部に拡幅部用のセグメント(以下、単に「拡幅セグメント」という。)を配置する技術に関するものであり、より具体的には、拡幅セグメントを回転させながら計画位置に配置することができる拡幅セグメント配置装置と、これを用いた拡幅セグメント組立方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シールド工法は、トンネル切羽の安定を図りつつシールドマシンで地中を掘進し、セグメントで覆工することによって、地下に鉄道トンネルや道路トンネル、上下水道用のトンネル、共同溝や電力通信用のトンネルなどを構築する工法である。地上環境への影響を抑制することができる非開削工法であることから、近年ではこのシールド工法が多用される傾向にあり、さらに大断面化や大深度化、長距離化などが進んでいるところである。
【0003】
シールドトンネルでは、地中拡幅工事が行われることがある。例えば、道路トンネルや下水道トンネルの分合流区間は、本線シールドトンネル区間より大断面となるうえ変化断面となることから、一旦、本線シールドトンネルと同じ断面で構築した後に地中拡幅工事が行われる。あるいは、大断面トンネルを構築するにあたって、平行する2本のシールドトンネルを構築した後に、それぞれ地中拡幅工事を行うことによって1本の大断面トンネルを完成させる技術もある。もちろん、既設のシールドトンネルの断面を拡張したいケースでも地中拡幅工事が行われる。
【0004】
図8は、シールドトンネルに対して地中拡幅工事を行い、拡幅部に対して新たに拡幅部セグメントを設置した状態を模式的に示す断面図である。この図に示すような拡幅工事を行う手順は、概ね次のとおりである。まず、既設のセグメント(図に示す破線位置にあったセグメント)を撤去し、バックホウといった建設機械を用いて地山を掘削して拡幅部を形成する。そして、拡幅部の地山部分を覆うように拡幅セグメントを設置するとともに裏込め注入を行っていく。
【0005】
上記したとおり、例えば直径φ16mのシールドトンネルが計画されるなどその大断面化が進んでおり、これに伴って拡幅セグメントも大型のもの(例えば、重量11ton)が使用されるようになってきた。しかしながら、大断面とはいえシールドトンネル内で活用できる空間は極めて限定的であり、大型の揚重機を利用することが難しいこともある。
図8に示すような下半拡幅セグメント(図に示すSG1とSG2)は上部に吊り代を確保することができるため揚重機で設置することができるが、
図8に示すような側部拡幅セグメント(図に示すSG3とSG4、SG5)や上部拡幅セグメント(図に示すSG6とSG7)に関しては設置することは難しい。
【0006】
そこで特許文献1では、上部拡幅セグメント(
図8に示すSG6とSG7)を容易に設置することができる技術として「リフト式セグメント組立装置」について提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このように、下半拡幅セグメント(
図8に示すSG1とSG2)は上部に吊り代を確保することができるため揚重機で設置することができ、また上部拡幅セグメント(
図8に示すSG6とSG7)は特許文献1に示す技術を利用して設置することができる。これに対して側部拡幅セグメント(
図8に示すSG3とSG4、SG5)に関しては適当な設置装置や設置手順などが知られておらず、チェーンブロックやホイストクレーン、ジャッキといった小型機械を複数台利用しながら作業者がいわば手作業で設置しているのが現状である。したがって、その施工性が著しく劣るうえ、常に重量物(セグメント)に接近した作業となることから作業者は挟まれ災害や吊り荷の落下などの危険な環境に置かれていた。
【0009】
本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解決することであり、すなわちシールドトンネルの地中拡幅部のうち特に側部の拡幅セグメントを従来に比して容易に設置することができる拡幅セグメント配置装置と、これを用いた拡幅セグメント組立方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明は、作業架台上に設置した回転機構を利用して、拡幅セグメントを回転させながら所定位置に配置する、という点に着目してなされたものであり、これまでにない発想に基づいて行われた発明である。
【0011】
本願発明の拡幅セグメント配置装置は、シールドトンネルの地中拡幅部に拡幅セグメントを配置する装置であって、回転機構を備えたものである。なお、回転機構は支持点周りに回転可能な回転体を有しており、この回転体は拡幅セグメントを把持する把持手段を有している。そして、トンネル内に構築される作業架台上に設置された回転機構が、把持手段で拡幅セグメントを把持した回転体を回転させることによって、拡幅セグメントを地中拡幅部の計画位置に配置する。
【0012】
本願発明の拡幅セグメント配置装置は、端部把持具と中間把持具をさらに備えたものとすることもできる。この端部把持具は、拡幅セグメントのピース間ボルト孔に挿入して取り付け可能な治具であって、一方の中間把持具は、拡幅セグメントの内空側表面に取り付けられる治具である。この場合、把持手段は、端部把持手段と中間把持手段を含んで構成される。そして、拡幅セグメントに取り付けられた端部把持具と端部把持手段がピン結合されるとともに、拡幅セグメントに取り付けられた中間把持具と中間把持手段がピン結合されることによって、拡幅セグメントが回転体に把持される。
【0013】
本願発明の拡幅セグメント配置装置は、作業架台上で回転機構を側方移動させるスライド機構をさらに備えたものとすることもできる。
【0014】
本願発明の拡幅セグメント組立方法は、本願発明の拡幅セグメント配置装置を用いて、シールドトンネルの地中拡幅部に拡幅セグメントを組み立てる方法であり、作業架台構築工程と回転機構設置工程、拡幅セグメント把持工程、拡幅セグメント配置工程、拡幅セグメント接合工程を備えた方法である。このうち作業架台構築工程では、トンネル内に作業架台を構築し、回転機構設置工程では、作業架台上に回転機構を設置する。また拡幅セグメント把持工程では、拡幅セグメントを回転体に把持させ、拡幅セグメント配置工程では、拡幅セグメントを把持した回転体を回転させることによって拡幅セグメントを地中拡幅部の計画位置に配置し、拡幅セグメント接合工程では、拡幅セグメント配置工程で計画位置に配置された拡幅セグメントと既設の拡幅セグメントを接合する。なお、拡幅セグメント把持工程では、回転体が有する把持手段に拡幅セグメントを取り付ける。
【0015】
本願発明の拡幅セグメント組立方法は、下半拡幅セグメント設置工程と下半裏込め注入工程をさらに備えた方法とすることもできる。このうち下半拡幅セグメント設置工程では、地中拡幅部のうち下方に計画される下半拡幅セグメントを設置し、下半裏込め注入工程では、下半拡幅セグメント設置工程で設置された下半拡幅セグメントの裏込め注入を行う。この場合、作業架台構築工程では、作業架台の荷重の一部を下半拡幅セグメントが支持するように作業架台を構築する。
【0016】
本願発明の拡幅セグメント組立方法は、端部把持具を拡幅セグメントに取り付ける端部把持具取付工程をさらに備えた方法とすることもできる。この場合、把持手段が端部把持手段と中間把持手段とを含んで構成されるとともに、拡幅セグメントの内空側表面には中間把持具が取り付けられる。また拡幅セグメント把持工程では、拡幅セグメントに取り付けられた端部把持具と端部把持手段をピン結合するとともに、中間把持具と中間把持手段をピン結合することによって、拡幅セグメントを回転体に把持させる。
【0017】
本願発明の拡幅セグメント組立方法は、回転機構設置工程の後に配置計画された拡幅セグメントの数だけ拡幅セグメント把持工程と拡幅セグメント配置工程と拡幅セグメント接合工程を繰り返し行う方法とすることもできる。この場合、端部把持具取付工程では、前回の端部把持具取付工程で取り付けた端部把持具とは異なる端部把持具を取り付けることもできる。また、前回の拡幅セグメント接合工程の後に作業架台上で回転機構を側方移動させる回転機構スライド工程をさらに備えた方法とすることもできる。なお、回転機構スライド工程で回転機構を側方移動させた後に、拡幅セグメント把持工程を行う。
【発明の効果】
【0018】
本願発明の拡幅セグメント配置装置、及び拡幅セグメント組立方法には、次のような効果がある。
(1)回転機構を利用することによって、従来に比して容易に拡幅セグメントを配置することができる。その結果、施工時間を短縮することができ、工期短縮にも貢献する。
(2)チェーンブロックやホイストクレーン、ジャッキといった小型機械を複数利用する必要がなく、重量物(セグメント)への接近作業を低減することができる。その結果、挟まれ災害や吊り荷の落下などの事故の発生を従来に比して回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本願発明の拡幅セグメント配置装置を示すトンネル断面図。
【
図2】支持点周りに回転可能な回転体を有する回転機構を模式的に示す正面図。
【
図3】(a)は拡幅セグメントに取り付けられる前の端部把持具と中間把持具を模式的に示す正面図、(b)は拡幅セグメントに取り付けられた後の端部把持具と中間把持具を模式的に示す正面図。
【
図4】トンネル内に設置された回転機構が拡幅セグメントを計画位置に配置する状況を模式的に示すトンネル断面図。
【
図5】本願発明の拡幅セグメント組立方法の主な工程の流れを示すフロー図。
【
図6】本願発明の拡幅セグメント組立方法のうち最初の側部拡幅セグメントを配置するまでのステップ図。
【
図7】本願発明の拡幅セグメント組立方法のうち上部拡幅セグメントを配置するまでのステップ図。
【
図8】拡幅部に対して新たに拡幅セグメントを設置した状態を模式的に示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本願発明の拡幅セグメント配置装置、及び拡幅セグメント組立方法の実施の例を図に基づいて説明する。
【0021】
1.全体概要
本願発明は、シールドトンネルの地中拡幅部に拡幅セグメントを配置する技術である。既述したとおり、下半拡幅セグメント(
図8に示すSG1とSG2)は上部に吊り代を確保することができるため揚重機などで設置することができ、また上部拡幅セグメント(
図8に示すSG6とSG7)は特許文献1に示す技術などを利用して設置することができる。一方、側部拡幅セグメント(
図8に示すSG3とSG4、SG5)に関しては、従来、適当な設置装置や設置手順などが知られていなかった。そのため本願発明は、側部拡幅セグメントの配置に特に好適に利用することができるが、もちろん下半拡幅セグメントや上部拡幅セグメントの配置に利用することもできる。
【0022】
2.拡幅セグメント配置装置
次に、本願発明の拡幅セグメント配置装置について詳しく説明する。なお、本願発明の拡幅セグメント組立方法は、本願発明の拡幅セグメント配置装置を用いて拡幅セグメントを組み立てる方法である。したがって、まずは本願発明の拡幅セグメント配置装置について説明し、その後に本願発明の拡幅セグメント組立方法について説明することとする。
【0023】
図1は、本願発明の拡幅セグメント配置装置100を示すトンネル断面図である。この図に示すように拡幅セグメント配置装置100は、回転機構110を備えたものであり、作業架台120やスライド機構130を含んで構成することもでき、さらに後述する端部把持具や中間把持具を含んで構成することもできる。なおこの図では、鉛直荷重を支える支持柱SPがトンネル内空に設置されており、また地中拡幅部の天端付近にはパイプルーフが形成されている。
【0024】
回転機構110は、
図2に示すように回転体111と支持本体112を含んで構成される。このうち回転体111は、支持点RCで支持本体112に支持されるとともに、図の矢印で示すようにこの支持点RC周りに回転可能となっている。また、回転体111の先端部には、端部把持手段113と中間把持手段114が設けられている。
【0025】
図3は、拡幅セグメントWSに取り付けられる端部把持具140と中間把持具150を模式的に示す図であり、(a)は拡幅セグメントWSに取り付けられる前の状態を示し、(b)は拡幅セグメントWSに取り付けられた後の状態を示している。この図に示すように端部把持具140は、配置しようとする拡幅セグメントWSの一端(図では左端)に取り付けられる。端部把持具140には挿入体141が設けられており、この挿入体141を拡幅セグメントWSのピース間ボルト孔に挿入することによって、端部把持具140を拡幅セグメントWSに取り付けることができる。なお端部把持具140は、拡幅セグメントWSの両端のうち既に設置された拡幅セグメントWSと接続する側(図では右端)とは異なる側に取り付けられる。
【0026】
中間把持具150は、拡幅セグメントWSのトンネル内空側の表面であって概ね中間位置に取り付けられる。例えば、拡幅セグメントWSの所定位置にあらかじめ埋設孔を設けておき、この埋設孔に中間把持具150の一部を埋設するように取り付けることができる。あるいは、内周ねじが設けられたアンカーナットを拡幅セグメントWS内に設置し、中間把持具150の外周ねじとアンカーナットの内周ねじを螺合することによって、中間把持具150を拡幅セグメントWSに取り付けることもできる。
【0027】
図3(b)に示すように、拡幅セグメントWSに取り付けられた端部把持具140と端部把持手段113を連結するとともに、拡幅セグメントWSに取り付けられた中間把持具150と中間把持手段114を連結することによって、拡幅セグメントWSは回転体111に把持される。端部把持具140と中間把持具150の先端にはそれぞれ小孔が形成された接続環が設けられており、また端部把持手段113と中間把持手段114の先端にも同様に接続環が設けられている。そして、双方の接続環にピンを挿入することで端部把持具140と端部把持手段113を連結し、双方の接続環にピンを挿入することで中間把持具150と中間把持手段114を連結することができる。すなわち、回転体111は端部把持具140と中間把持具150を介して拡幅セグメントWSを把持することができ、また端部把持具140と端部把持手段113、中間把持具150と中間把持手段114はそれぞれピン結合されるわけである。
【0028】
図4は、トンネル内に設置された回転機構110が拡幅セグメントWSを計画位置に配置する状況を模式的に示すトンネル断面図である。この図に示すようにトンネル内には作業架台120が構築され、回転機構110はこの作業架台120上のうち拡幅セグメントWSの計画位置(つまり地中拡幅部)側に設置される。以下、回転機構110によって拡幅セグメントWSを配置する手順について説明する。
【0029】
トラック等を利用して拡幅セグメントWSが作業架台120まで運搬され、例えば作業架台120上を移動可能な門型クレーンなどによって拡幅セグメントWSを吊下ろす。通常は、複数の拡幅セグメントWSが一度に運搬されることから、これら拡幅セグメントWSは配置順に並べて作業架台120上に載置しておくとよい。そして、門型クレーンなどを利用して拡幅セグメントWSを少し持ち上げ、これに挿入体141と中間把持具150を取り付けたうえで、端部把持手段113と中間把持手段114に連結する。回転体111が拡幅セグメントWSを把持すると、支持本体112の動力機構(例えば油圧など)によって回転体111を地中拡幅部側(図では時計回り)に回転させ、すなわち拡幅セグメントWSを回転させる。拡幅セグメントWSが計画位置まで回転移動すると、ピース間ボルトを用いて既に設置された拡幅セグメントWSと接続する。
【0030】
ところで、それぞれ拡幅セグメントWSによってその配置位置と回転機構110との距離は異なる。したがって、前回配置した拡幅セグメントWSの位置よりも、今回配置する拡幅セグメントWSの位置の方が、回転機構110から遠くなることもある。この場合、
図1に示すスライド機構130を利用するとよい。スライド機構130は、作業架台120上のうちトンネル中央付近に設置され、例えばジャッキなどを利用した伸縮手段を備えたものである。この伸縮手段を伸ばすことによって、回転機構110を地中拡幅部側に移動させ、すなわち回転機構110を今回配置する拡幅セグメントWSの位置に近づけるわけである。このスライド機構130は、H形鋼やレールなど油圧で把持した力(把持力)を反力として油圧シリンダを押し出すクランプ装置(H型鋼クランプ装置やレールクランプ装置)を利用することもできる。汎用リース品としても流通しているクランプ装置は、鋼材同士の摩擦抵抗よりもH鋼把持力の方が勝るため回転機構110を移動させることができる。また
図1にも示すようにスライド機構130には、回転時における浮き上がり(転倒)を防止する目的で相当の重量を有するウェイトWGを載置するとよい。なお、回転機構110やスライド機構130は揚重機によって設置や移設、撤去を行うことになるが、トンネル内という限定的な空間内に大規模な揚重機を設置することは難しい。そこで、回転機構110とスライド機構130、ウェイトWGなどは独立して移動できる(つまり分解できる)構成とし、これにより揚重機の規模の低減化を図るとよい。
【0031】
3.拡幅セグメント組立方法
続いて、本願発明の拡幅セグメント組立方法ついて説明する。なお、本願発明の拡幅セグメント組立方法は、ここまで説明した拡幅セグメント配置装置100用いて拡幅セグメントを組み立てる方法である。したがって、拡幅セグメント配置装置100について説明した内容と重複する説明は避け、本願発明の拡幅セグメント組立方法に特有の内容のみ説明することとする。すなわち、ここに記載されていない内容は、「2.拡幅セグメント配置装置」で説明したものと同様である。
【0032】
以下、
図5~
図7を参照しながら本願発明の拡幅セグメント組立方法ついて説明する。
図5は、本願発明の拡幅セグメント組立方法の主な工程の流れを示すフロー図であり、
図6は、本願発明の拡幅セグメント組立方法のうち最初の側部拡幅セグメントを配置するまでのステップ図、
図7は、本願発明の拡幅セグメント組立方法のうち上部拡幅セグメントを配置するまでのステップ図である。
【0033】
図5に示すように、まず既設のセグメントを撤去しながら地中拡幅部の掘削を行い(
図5のStep201)、
図6(a)に示すような状態を形成する。そして、揚重機を利用して、下半拡幅セグメントを設置する(
図5のStep202)。
図6(b)では下半拡幅セグメントBS1と下半拡幅セグメントBS2を設置している。下半拡幅セグメントを設置すると、この下半拡幅セグメントに対して先行して裏込め注入を行う(
図5のStep203)。
【0034】
下半拡幅セグメントの裏込め注入を行うと、作業架台120を構築する(
図5のStep204)。このとき、
図6(c)に示すように作業架台120の荷重の一部を下半拡幅セグメントが支持するように構築するとよい。先行して裏込め注入を行った効果で下半拡幅セグメントは作業架台120を支持することが可能となり、これにより地中拡幅部に接近した位置まで作業架台120を拡げることができるわけである。
【0035】
作業架台120を構築すると、
図6(d)に示すように揚重機等を利用して回転機構110を作業架台120上に設置する(
図5のStep205)。このとき、必要に応じてスライド機構130やウェイトWGも合わせて作業架台120上に設置する。その後、トラック等を利用して側部拡幅セグメントを作業架台120まで運搬し、例えば門型クレーンなどによって側部拡幅セグメントを吊下ろす。通常は、複数の側部拡幅セグメント(ここでは、側部拡幅セグメントSS1~SS3)が一度に運搬されることから、これら側部拡幅セグメントは配置順に並べて作業架台120上に載置しておくとよい。
【0036】
側部拡幅セグメントを作業架台120上に載置すると、門型クレーンなどを利用して側部拡幅セグメントSS1を少し持ち上げたうえで端部把持具140を取り付ける(
図5のStep206)。このとき、既述したとおり側部拡幅セグメントSS1の両端のうち既に設置された拡幅セグメント(この場合、下半拡幅セグメントBS2)と接続する側とは異なる側に端部把持具140を取り付ける。なお中間把持具150は、あらかじめ側部拡幅セグメントに取り付けておくこともできるし、端部把持具140とともに取り付けることもできる。
【0037】
側部拡幅セグメントに端部把持具140を取り付けると、
図6(e)に示すように回転体111に側部拡幅セグメントSS1を把持させる(
図5のStep207)。より詳しくは、それぞれの接続環にピンを挿入して端部把持具140と端部把持手段113を連結するとともに、それぞれの接続環にピンを挿入して中間把持具150と中間把持手段114を連結することによって、側部拡幅セグメントSS1を回転体111に把持させる。
【0038】
回転体111が側部拡幅セグメントSS1を把持できると、
図6(f)に示すように回転体111を地中拡幅部側(図では時計回り)に回転させることで、側部拡幅セグメントSS1を計画位置まで回転移動させる(
図5のStep208)。そして、回転体111による側部拡幅セグメントSS1の把持を解除したうえで、ピース間ボルトを用いて側部拡幅セグメントSS1と既に設置された拡幅セグメント(この場合、下半拡幅セグメントBS2)を接続し(
図5のStep209)、端部把持具140を取り外す。
【0039】
最初の側部拡幅セグメントSS1が設置できると、次の側部拡幅セグメントSS2を配置するため、
図7(g)に示すようにスライド機構130を利用して回転機構110を地中拡幅部側に移動させる(
図5のStep210)。そして、次の側部拡幅セグメントSS2に端部把持具140を取り付ける(
図5のStep206)。なお、側部拡幅セグメントの配置位置に応じて、換言すれば回転体111が側部拡幅セグメンを把持する姿勢に応じて、それぞれ適した形状の端部把持具140を利用するとよい。すなわち、
図6(f)と
図7(h)に示すように、前回の側部拡幅セグメントSS1を配置したときに利用した端部把持具140とは異なる形状の端部把持具140を、今回の側部拡幅セグメントSS2では利用するなど、その状況に応じて端部把持具140を適宜選択して利用するわけである。
【0040】
回転体111が側部拡幅セグメントSS2を把持できると、
図7(h)に示すように回転体111を地中拡幅部側(図では時計回り)に回転させることで、側部拡幅セグメントSS2を計画位置まで回転移動させる(
図5のStep208)。そして、回転体111による側部拡幅セグメントSS2の把持を解除したうえで、ピース間ボルトを用いて側部拡幅セグメントSS2と既に設置された拡幅セグメント(この場合、側部拡幅セグメントSS1)を接続し(
図5のStep209)、次の側部拡幅セグメントSS3を配置するために回転機構110を側方移動させる(
図5のStep210)。
【0041】
このように、端部把持具140の取付工程(
図5のStep206)~回転機構110の側方移動工程(
図5のStep210)を、配置計画された拡幅セグメントの数だけ(この場合、側部拡幅セグメントSS1~SS3)だけ繰り返し行う。なお、側部拡幅セグメントSS3のように比較的高い位置に側部拡幅セグメントを配置する場合、
図7(i)や
図7(j)に示すように作業架台120上にさらに高さ調整用架台を構築し、この高さ調整用架台上に回転機構110を設置するとよい。この場合、作業架台120上に設置された回転機構110を一旦移動し、高さ調整用架台を構築した後に改めて回転機構110を設置する。
【0042】
配置計画された全ての側部拡幅セグメント(この場合、側部拡幅セグメントSS1~SS3)を組み立てると、
図7(k)に示すように上部拡幅セグメント(この場合、上部拡幅セグメントTS1~TS2)を組み立てる(
図5のStep211)。上部拡幅セグメントの組み立てにあたっては、既述したとおり例えば特許文献1に示す技術などを利用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本願発明の拡幅セグメント配置装置、及び拡幅セグメント組立方法は、地下に構築される道路トンネルのほか、鉄道トンネルや上下水道用のトンネル、共同溝や電力通信用のトンネルなど、様々な用途のシールドトンネルの地中拡幅工事に利用できる。本願発明によれば効率的かつ安全にトンネル構造物という社会基盤(社会インフラストラクチャ)を構築することができることを考えると、産業上利用できるばかりでなく社会的にも大きな貢献を期待し得る発明といえる。
【符号の説明】
【0044】
100 本願発明の拡幅セグメント配置装置
110 (拡幅セグメント配置装置の)回転機構
111 (回転機構の)回転体
112 (回転機構の)支持本体
113 (回転機構の)端部把持手段
114 (回転機構の)中間把持手段
120 (拡幅セグメント配置装置の)作業架台
130 (拡幅セグメント配置装置の)スライド機構
140 (拡幅セグメント配置装置の)端部把持具
141 (端部把持具の)挿入体
150 (拡幅セグメント配置装置の)中間把持具
RC 支持点
SP 支持柱
WG ウェイト
WS 拡幅セグメント