(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-07
(45)【発行日】2024-11-15
(54)【発明の名称】発熱構造体および発熱システム
(51)【国際特許分類】
H05B 3/12 20060101AFI20241108BHJP
H05B 3/14 20060101ALI20241108BHJP
【FI】
H05B3/12 B
H05B3/14 B
(21)【出願番号】P 2021011257
(22)【出願日】2021-01-27
【審査請求日】2023-11-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 秀和
(72)【発明者】
【氏名】市川 靖
(72)【発明者】
【氏名】内村 允宣
(72)【発明者】
【氏名】中村 雅紀
【審査官】柳本 幸雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-289396(JP,A)
【文献】特開昭63-225799(JP,A)
【文献】国際公開第2011/043434(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/062115(WO,A1)
【文献】特開昭61-045200(JP,A)
【文献】国際公開第2018/230447(WO,A1)
【文献】特開2007-229588(JP,A)
【文献】特開2006-029396(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 3/00-3/86
F24V 30/00
F17C 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素吸蔵材料を含んで構成される発熱体と、
前記発熱体を加熱するヒータと、
を備える発熱構造体において、
前記ヒータは
平板状の基盤の両面に複数の凸部が設けられた三次元形状を有する電気抵抗体と前記電気抵抗体に接続される電極対とを有し、
前記基盤及び前記凸部の表面には前記発熱体が塗布されており、
隣り合う前記凸部の間に水素が進入可能な空間が形成されていることを特徴とする発熱構造体。
【請求項2】
請求項1に記載の発熱構造体において、
隣り合う前記凸部の間隔が前記水素吸蔵材料の最大粒径より大きい、発熱構造体。
【請求項3】
請求項
1または2に記載の発熱構造体において、
前記水素吸蔵材料は、水素が供給された状態で加熱されることで、加熱に要したエネルギに対して過剰な熱エネルギを発生する水素吸蔵合金を含む材料である、発熱構造体。
【請求項4】
請求項1から
3のいずれか一項に記載の発熱構造体において、
前記電気抵抗体はセラミックスからなる、発熱構造体。
【請求項5】
請求項3に記載の発熱構造体において、
前記セラミックスは、炭化ケイ素(SiC)とケイ素(Si)とを主成分とする、発熱構造体。
【請求項6】
請求項1ないし
5に記載の発熱構造体と、
前記発熱構造体を収容する収容部と、
前記収容部内の温度を検出する温度センサと、
前記収容部内の圧力を検出する圧力センサと、
前記発熱構造体のヒータを制御するヒータ制御部と、
前記発熱構造体の発熱体に水素を供給する水素供給源と、
前記水素の供給量を調整する水素供給量調整部と、
前記温度センサ及び前記圧力センサの検出値に基づいて、前記ヒータ制御部及び前記水素供給量調整部を制御する発熱制御部と、
を備えることを特徴とする発熱システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発熱構造体及びこれを用いた発熱システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、入力したエネルギに対して過剰な熱を発生させる発熱体を利用した発熱構造体が開示されている。発熱構造体は、具体的には、水素吸蔵金属または水素吸蔵合金からなる発熱体を多層膜状に形成し、これをシート状のヒータに積層した構成となっている。上記の発熱構造体は、水素系ガスが供給された後に発熱体がヒータで加熱されることで、発熱体で加熱温度以上の過剰熱を発する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、水素の吸蔵脱蔵反応は発熱体の表面近傍が主に関与する反応であり、ヒータから発熱体への伝熱面積が小さいほど、発生する熱エネルギは低くなる。この点、シート状のヒータを用いる上記文献の発熱装置で伝熱面積を増大させるためには、ヒータの面積を大きくしたり、ヒータと発熱体との積層体を複数用いたりすることが必要となり、発熱装置の大型化を招くこととなる。すなわち、上記文献の発熱装置は、熱エネルギの発生量及びエネルギ密度について改善の余地がある。
【0005】
そこで本発明では、水素吸蔵材料を利用する発熱構造体の、熱エネルギの発生量及びエネルギ密度の向上を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様による発熱構造体は、水素吸蔵材料を含んで構成される発熱体と、発熱体を加熱するヒータと、を備える。そして、ヒータは平板状の基盤の両面に複数の凸部が設けられた三次元形状を有する電気抵抗体と電気抵抗体に接続される電極対とを有し、基盤及び凸部の表面には発熱体が塗布されており、隣り合う凸部の間に水素が進入可能な空間が形成されている。
【発明の効果】
【0007】
上記態様によれば、水素吸蔵材料を利用する発熱構造体の、熱エネルギの発生量及びエネルギ密度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、実施形態にかかる発熱構造体の断面図である。
【
図2】
図2は、実施形態にかかる発熱構造体の上面図である。
【
図3】
図3は、実施形態にかかる発熱構造体の製造工程を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、第1変形例にかかる発熱構造体の断面図である。
【
図5】
図5は、第1変形例にかかる発熱構造体の製造工程を示すフローチャートである。
【
図6】
図6は、第2変形例にかかる発熱構造体の断面図である。
【
図7】
図7は、第2変形例にかかる発熱構造体の製造工程を示すフローチャートである。
【
図8】
図8は、第3変形例にかかる発熱構造体の断面図である。
【
図9】
図9は、第3変形例にかかる発熱構造体の製造工程を示すフローチャートである。
【
図10】
図10は、第3変形例にかかる発熱構造体の他の例を示す断面図である。
【
図11】
図11は、第4変形例にかかる発熱構造体の断面図である。
【
図13】
図13は、第4変形例にかかる発熱構造体の製造工程を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0010】
図1は、本実施形態にかかる発熱構造体1の側面図である。
図2は、発熱構造体1の上面図である。なお、
図2においては後述する発熱体2を省略している。
【0011】
[発熱構造体の構成]
発熱構造体1は、ヒータ3と発熱体2とを備える。
【0012】
ヒータ3は、三次元形状の面を有する電気抵抗体4と電気抵抗体4に接続される電極対5とを備える。ここでいう三次元形状の面とは、凹凸面や曲面等のことをいう。すなわち、平面のみからなる板状部材やシート状部材からなるものは、三次元形状の面を有する電気抵抗体4には含まれない。
【0013】
電気抵抗体4は、略矩形の板状部材である基盤4Aと、基盤4Aの両面に設けられた複数の凸部4Bとを備える。
図1、2における凸部4Bは、基盤4Aの両面に対して垂直方向に伸びる略矩形の板状部材である。そして、複数の凸部4Bは、隣り合う凸部4Bの間隔L1が発熱体2を構成する水素吸蔵材料の最大粒径よりも長くなっている。
【0014】
電気抵抗体4は、いわゆる高電気抵抗体で構成されており、電極対5を介して電気エネルギが入力されることによって発熱する。ここでいう高電気抵抗体とは、ヒータ部材として一般的に用いられる金属材料に比べて電気抵抗が高いものであり、本実施形態ではセラミックスを用いる。例えば車両用電源のような高電圧で使用する場合に、ヒータ部材が金属材料で構成されていると、流れる電流が大きいために過熱し、劣化が促進されてしまう。これに対し、高電気抵抗体であれば流れる電流の大きさが抑制され、耐久性を確保できる。
【0015】
本実施形態で使用するセラミックスは、例えば炭化ケイ素(SiC)とケイ素(Si)とを主成分とするものである。ここでいう主成分とは、例えば50質量%以上、好ましくは90質量%以上であることをいう。ケイ素は炭化ケイ素同士を結合する結合剤として機能するものであり、ケイ素と炭化ケイ素との質量比は次式の関係であることが好ましい。
0.15≦Si/(Si+SiC)≦0.35
発熱体2は、水素吸蔵材料からなり、電気抵抗体4の表面に配置される。水素吸蔵材料とは、水素が供給された状態で加熱されることで、加熱に用いるエネルギに対して過剰な熱エネルギを継続的に発生する水素吸蔵合金を含む材料である。
【0016】
[水素吸蔵材料]
本実施形態の水素吸蔵材料は、少なくとも2種の金属を含むものである。2種の金属のうち、融点が低い方を第1の金属と称し、融点が高い方を第2の金属と称する。第1の金属の融点は230℃以上であることが必須である。また、第1の金属及び第2の金属のうち、少なくとも一方は、第2の金属の融点未満の温度で銀よりも大きい水素溶解度を有するものである。なお、ある金属に対する水素溶解度の値は、実験的に求めた値であってもよいし、コンピュータシミュレーションを用いた計算により求めた値であってもよい。
【0017】
さらに、第1の金属または第2の金属の少なくとも一方の水素化物は、CaH2の標準生成エンタルピ(-186.2kJ/mol)以上の標準生成エンタルピを有するものである。これにより、水素吸蔵材料が大量の発熱を生じる際に起こる水素化合物合金の相転移の繰り返しのための水素の脱蔵が十分に行われる。なお、ある金属の水素化合物の標準生成エンタルピの値もまた、実験的に求めた値であってもよいし、コンピュータシミュレーションを用いた計算により求めた値であってもよい。
【0018】
これらの第1の金属及び第2の金属の規定を満足する金属が少なくとも含まれている場合には、本実施形態において水素吸蔵材料として使用できるものとする。つまり、3つ以上の金属が含まれていても、そのうちの2つの金属が上記の規定を満足する場合には使用可能である。また、これらの金属の含有形態について、特に制限はない。ただし、第1の金属と第2の金属とが組成比の異なる複数の相を有する合金の状態で存在していることが好ましい。
【0019】
第1の金属及び第2の金属の具体的な種類について特に制限はなく、上記の規定を満足し得る組み合わせから任意に選択可能である。そして、ある金属が第1の金属に該当するか第2の金属に該当するかは、組み合わされる他の金属との関係で決定される相対的なものである。このため、これらの金属の組み合わせによっては、ある金属が第1の金属に該当する場合と、第2の金属に該当する場合の双方の可能性が存在する。一例としては、第1の金属として、アルミニウム(Al)、スズ(Sn)、鉛(Pb)が挙げられる。また、第2の金属として、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、マンガン(Mn)、亜鉛(Zn)、バナジウム(V)、カルシウム(Ca)が挙げられる。これらの金属を用いると、発熱量の大きい水素吸蔵材料を構成することが可能であるため、好ましい。また加熱温度が比較的低い場合であっても機能し得るという観点からは、融点が比較的低いスズ(Sn)を第1の金属として用いることが好ましい。また、発熱量が大きいという観点からは、アルミニウム(Al)を第1の金属として用いることが好ましい。さらに、「第1の金属-第2の金属」の組み合わせとしては、ニッケル-ジルコニウム、アルミニウム-ニッケル、アルミニウム-チタン、アルミニウム-マンガン、アルミニウム-亜鉛、スズ-チタン、アルミニウム-カルシウム等が挙げられる。特に発熱量の大きい水素吸蔵材料を構成することが可能であるという観点からは、アルミニウム-ニッケル、アルミニウム-チタン、スズ-チタンの組み合わせが好ましく、アルミニウム-ニッケル、スズ-チタンの組み合わせがより好ましく、アルミニウム-ニッケルの組み合わせが特に好ましい。なお、これら以外の組み合わせが用いられてもよいことはもちろんである。
【0020】
[水素吸蔵材料の製造方法]
本実施形態に使用する水素吸蔵材料の製造方法については特に制限はなく、後述する発熱構造体の製造方法についての記載に基づき、従来公知の技術常識を参照することにより製造することができる。その一例として、第1の金属としてアルミニウム、第2の金属としてニッケルを用いる場合について説明する。
【0021】
まず、アルミニウムの粉末と、ニッケルの粉末を準備する。金属の形状は必ずしも粉末である必要はないが、均一に混ぜる上では、粉末形状であることが望ましい。2種類の粉末を所望の比率で秤量し、乳鉢及び乳棒を用いて混合する。乳鉢及び乳棒の材質は、メノウ、アルミナ等、どのようなものであっても構わない。
【0022】
続いて、上記で得られた複合粒子に対し、熱処理を加えて合金化させる。なお、必ずしも事前に合金化させる必要はなく、後述する発熱構造体の製造の過程において、ヒータの表面に塗布した後の焼成中に合金化させてもよい。合金化させる方法は熱処理だけに限らず、化学的な合金メッキでもよく、ボールミル装置を利用して機械的に混合するメカニカルアロイングでもよい。
【0023】
合金化後に合金の粒子径を調整する必要がある場合には、粉砕するなどして粒子径を小さくしてもよい。
【0024】
[発熱構造体の製造方法]
図3は、発熱構造体1の製造工程を示すフローチャートである。
【0025】
まず、炭化ケイ素の微粒子、ケイ素の微粒子、バインダ及び水を用いてヒータ用スラリを作成する(S101)。このヒータ用スラリを用いて押し出し成形することで板状部材を作成し、これを焼成することにより基盤4Aを作成する(S102、S103)。
【0026】
次に、ヒータ用スラリをデスペンサに投入し(S104)、デスペンサから基盤4Aの表面にヒータ用スラリを押し出し、これをレーザ等で加熱することによって基盤4Aの表面に凸部4Bを形成する(S105)。
【0027】
そして、凸部4Bを形成した基盤4Aを焼成する(S106)。これにより電気抵抗体4が完成する。
【0028】
次に、上述した水素吸蔵材料とバインダと水とを用いて発熱体用スラリを作成する(S107)。ここで用いる水素吸蔵材料は、上述した合金化前の複合粒子であってもよいし、合金化後に粉砕したものであってもよい。バインダとしては、アルミナ系、シリカ系またはジルコニア系のゲルを用いる。
【0029】
そして、作成した発熱体用スラリを、スプレーを用いて電気抵抗体4の表面に塗付し(S108)、塗付後に焼成する(S109)。そして、焼成後の電気抵抗体4に電極対5を接続することにより、発熱構造体1が完成する。
【0030】
上記のようにヒータ3の電気抵抗体4の表面を三次元形状にすることで、表面が平面の場合に比べて電気抵抗体4の表面積が増大する。そして、発熱体2を電気抵抗体4の表面に塗付することで、電気抵抗体4から発熱体2への伝熱面積が増大する。これにより、水素の吸蔵脱蔵反応が促進され、発生する熱エネルギが増大する。なお、電気抵抗体4の表面積が増大することによる伝熱面積の増大の効果を十分に得るためには、隣り合う凸部4B間の距離が発熱体2の最大粒径より大きいという条件を満たすことが望ましい。スラリを用いた電気抵抗体4の一般的な製造方法であれば当該条件が問題になることはないが、より微細かつ精密な表面形状を作成可能な場合には、当該条件を満たすことが望ましい。
【0031】
また、平板状のヒータであっても、ヒータの本数を増やす等することで熱エネルギの発生量を本実施形態の発熱構造体1と同等にすることはできるが、この場合には本実施形態の発熱構造体1に比べて大きな体積が必要となる。すなわち、本実施形態の発熱構造体1は、凸部4Bを設けることによる体積増加の割合よりも、発熱体2への伝熱面積の増加による熱エネルギの増加割合の方が大きい。換言すると、本実施形態の発熱構造体1は体積当たりの発生熱エネルギ、つまり熱エネルギ密度が平板状のヒータより高い。
【0032】
ところで、ヒータ3の電気抵抗体4の形状は上述したものに限られず、種々の形状を取り得る。以下にヒータ3の取り得る形状を変形例として説明する。ただし、各変形例の発熱構造体1はいずれも本実施形態の技術範囲に属しない。
【0033】
[第1変形例]
図4は第1変形例にかかる発熱構造体1の断面図である。なお、発熱体2は省略している。
【0034】
本変形例の電気抵抗体4と上記実施形態の電気抵抗体4とを比較すると、平板状の基盤4Aの両面に凸部が形成されている点では同様であるが、凸部の形態が異なる。
【0035】
本変形例では、基盤4Aの両面に三角形断面を有する小凸部4B及び大凸部4Cが形成され、大凸部4Cの斜面にはさらに小凸部4Dが形成されている。
【0036】
そして、隣り合う小凸部4Bと大凸部4Cとの間隔L2は、水素吸蔵材料の最大粒径よりも大きい。これにより隣り合う小凸部4Bと大凸部4Cとで挟まれる面にも水素吸蔵材料が塗付される。
【0037】
なお、小凸部4B、大凸部4C及び小凸部4Dの断面がいわゆるフラクタルになっていてもよい。また、隣接する凸部同士の間隔を水素吸蔵材料の最大粒径より大きくとれるのであれば、小凸部4B、4Dの各斜面にさらに小さな凸部が形成されてもよい。
【0038】
図5は、
図4の発熱構造体1の製造工程を示すフローチャートである。
【0039】
ステップS201からS204は
図3のステップS101からS104と同様なので説明を省略する。
【0040】
基盤4Aを形成したら、その両面にデスペンサからヒータ用スラリを押し出し、レーザ等で加熱することで小凸部4B及び大凸部4Cを形成する(S205)。続いて、大凸部4Cの斜面にヒータ用スラリを押し出し、レーザ等で加熱することにより、小凸部4Dを形成する(S206)。そして、大小の凸部4B~4Dが形成された基盤4Aを焼成することにより、電気抵抗体4が完成する(S207)。
【0041】
電気抵抗体4の表面に発熱体2を塗布する構成(S208~S210)は
図3のステップS107~S109と同様なので説明を省略する。
【0042】
本変形例の発熱構造体1も、上記実施形態と同様に、発生する熱エネルギの増大、及び熱エネルギ密度の向上を図ることができる。
【0043】
[第2変形例]
図6は第2変形例にかかる発熱構造体1の断面図である。なお、発熱体2は省略している。
【0044】
本変形例の電気抵抗体4は、両面が波形の面で構成される板状部材である。そして、波形の波長L3が水素吸蔵材料の最大粒径より大きい。これにより、波形の谷の部分にも水素吸蔵材料が塗付される。
【0045】
図7は、
図6の発熱構造体1の製造工程を示すフローチャートである。
【0046】
ステップS301からS304は
図3のステップS101からS104と同様なので説明を省略する。
【0047】
基盤4Aを形成したら、その両面にデスペンサからヒータ用スラリを押し出し、レーザ等で加熱することで波形の表面を形成し(S305)、その後に焼成することで電気抵抗体4が完成する(S306)。
【0048】
電気抵抗体4の表面に発熱体2を塗付する構成(S307~S309)は
図3のステップS107~S109と同様なので説明を省略する。
【0049】
本変形例の発熱構造体1も、上記実施形態と同様に、発生する熱エネルギの増大、及び熱エネルギ密度の向上を図ることができる。
【0050】
[第3変形例]
図8は、第3変形例にかかる発熱構造体1の分解図斜視図である。なお、発熱体2は省略している。
【0051】
本変形例にかかる発熱構造体1のヒータ3は、同心状に配置される半径の異なる複数の円筒部材6A~6Cからなる電気抵抗体4と、電気抵抗体4の軸方向の両端に接続される円盤状の電極対5とを備える。そして、各円筒部材6A~6Cの内周面及び外周面に発熱体2が塗付される。
【0052】
最も内側に配置される円筒部材6Aの半径および隣り合う円筒部材の間隔(つまり円筒部材6Aと円筒部材6Bとの隙間及び円筒部材6Bと円筒部材6Cとの隙間)は、水素吸蔵材料の最大粒径より大きい。
【0053】
なお、本変形例では3本の円筒部材6A~6Cで電気抵抗体4を構成するが、円筒部材の数は3本に限られない。
【0054】
電極対5の円筒部材6A~6Cとの接続面には、円筒部材6A~6Cに対応する溝7A~7Cが設けられており、溝7Aには円筒部材6Aが、溝7Bには円筒部材6Bが、溝7Cには円筒部材6Cがそれぞれ差し込まれる。また、電極対5の溝7Aと溝7Bとの間及び溝7Bと溝7Cとの間には電極対5を軸方向に貫通する貫通孔8が少なくとも1個ずつ設けられている。
【0055】
本変形例のヒータ3においては、各円筒部材6A~6Cの内部が水素の流路となり、電極対5の一方の電極5Aに設けた貫通孔8が水素の流入孔となり、電極対5の他方の電極5Bに設けた貫通孔8が水素の流出孔となる。
【0056】
図9は、
図8の発熱構造体1の製造工程を示すフローチャートである。
【0057】
図3のステップS101と同様にヒータ用スラリを作成し(S401)、このヒータ用スラリを押し出し成形によって円筒状に成形し(S402)、これを焼成することによって円筒部材6Aを作成する(S403)。このステップS402とS403を繰り返すことによって、円筒部材6B及び円筒部材6Cも作成する(S404)。
【0058】
ステップS405~S407は
図3のステップS107~S109と同様なので説明を省略する。
【0059】
ステップS407で各円筒部材6A~6Cに発熱体用スラリを塗付したものの焼成が終わったら、上述した構成の電極対5を用意する(S408)。そして、電極対5の一方の電極の各溝7A~7Cにバインダを注入してから、各円筒部材6A~6Cの一端を一方の電極5Aの各溝7A~7Cに差し込む(S409)。続いて、他方の電極5Bの各溝7A~7Cにバインダを注入してから、各円筒部材6A~6Cの他端を他方の電極5Bの各溝7A~7Cに差し込む(S410)。こうして組みあがったものを焼成することで発熱構造体1が完成する(S411)。
【0060】
上記の通りヒータ3を円筒形状にすることで、平板状の場合に比べて体積が増加するが、体積の増加割合に比べて、複数の円筒部材6A~6Cを同心状に配置するので発熱体2への伝熱面積の増加割合の方が大きい。したがって、本変形例の発熱構造体1は、上記実施形態と同様に、発生する熱エネルギの増大、及び熱エネルギ密度の向上を図ることができる。
【0061】
なお、伝熱面積をさらに増大させるために、
図10に示すように円筒部材6A~6Cの外周面及び内周面に凸部9を設けてもよい。この場合、凸部9の寸法及び配置は、各円筒部材6A~6Cの表面及び各凸部9の表面に発熱体2が塗付されるように、水素吸蔵材料の最大粒径に基づいて決定する。
【0062】
[第4変形例]
図11は、第4変形例にかかる発熱構造体1の斜視図である。なお、発熱体2は省略している。
【0063】
本変形例にかかる発熱構造体1のヒータ3は、ハニカム構造の電気抵抗体4を備える。本明細書では、ハニカム構造を狭義の「正六角柱を隙間なく並べた構造」だけではなく、広義の「三角柱や四角柱を隙間なく並べた構造」も含むものとして扱う。本変形例では各セルが正四角柱の場合を例に挙げて説明するが、セルの形状はこれに限られるわけではない。
【0064】
図11に示す通り、電気抵抗体4は円筒形状であり、円周付近を除いて各セルは中空の正四角柱である。
図12に示す通り、各セルの一辺の長さ(つまり最小格子長)をL4とする。電気抵抗体4の外周の、円筒の中心軸を挟んで対向する位置には、電極対5が配置される。
【0065】
上記の発熱構造体1において、発熱体2は電気抵抗体4の外周面及び各セルの内周面に塗付される。そして、各セルの内部が水素の流路となる。
【0066】
図13は、
図11の発熱構造体1の製造工程を示すフローチャートである。
【0067】
図3のステップS101と同様にヒータ用スラリを作成し(S501)、このヒータ用スラリを押し出し成形によってハニカム形状に成形し(S502)、これを焼成することによって電気抵抗体4を作成する(S503)。
【0068】
電気抵抗体10の表面に発熱体2を塗付する構成(S307~S309)は
図3のステップS107~S109と同様なので説明を省略する。
【0069】
本変形例の発熱構造体1も、第3変形例と同様に平板状の場合に比べて体積が増加するが、体積の増加割合に比べて、ハニカム構造にすることによる発熱体2への伝熱面積の増加割合の方が大きい。したがって、本変形例の発熱構造体1は、上記実施形態と同様に、発生する熱エネルギの増大、及び熱エネルギ密度の向上を図ることができる。
【0070】
[発熱システム]
次に、上記の発熱構造体1を用いた発熱システム100について
図14を参照して説明する。
図14は、発熱構造体1が第4変形例で説明した構造の場合の発熱システム100の概略構成図である。
【0071】
発熱システム100は、熱を利用する種々の用途、例えば、ハイブリッド車両の内燃機関の暖機及び保温、電動車両のバッテリヒータ、燃料電池車両のスタックの暖機及び保温等、に適用可能である。
【0072】
発熱システム100は、発熱構造体1と、発熱構造体1を収容する収容部11と、収容部11内の温度を検出する温度センサ15と、収容部11内の圧力を検出する圧力センサ14と、ヒータ3を制御するヒータ制御部18と、発熱体2に水素を供給する水素供給源12と、水素の供給量を調整する水素供給量調整部13と、発熱制御部17と、を備える。また、収容部11は、収容部11の内部と外部とを連通するパージ配管20を開閉するパージバルブ16を備える。
【0073】
なお、ヒータ3に電力を供給する電力源は、本システムが車載される場合には車載電源を用いる。また、本システムが定置用である場合には、上記構成にヒータ用電源を加える。
【0074】
収容部11は、内部に発熱構造体1を固定し、かつ内部を密封状態にできる構造を有する。圧力センサ14及び温度センサ15は、それぞれ検出部が収容部11の内部に臨むよう配置される。
【0075】
水素供給源12は、水素ガスが充填される水素タンクと、水素ガスを収容部11に供給するためのポンプとを備える。なお、水素タンクに代えて、エタノールやバイオマスを保持するタンクと、改質器とを備え、改質によって水素ガスを随時発生させてもよい。
【0076】
水素供給量調整部13は、水素供給源12から収容部11へ水素ガスを供給する供給配管19に介装された流量調整弁である。
【0077】
供給配管19は、発熱構造体1の一方の端面と対向する収容部11の端面に接続される。そして、パージ配管20は、発熱構造体1の他方の端面と対向する収容部11の端面に接続される。
【0078】
発熱制御部17は、温度センサ15及び圧力センサ14の検出値に基づいて、ヒータ制御部18及び水素供給量調整部13、さらにはパージバルブ16を制御することによって、収容部11内の温度や圧力を調整して、発熱構造体1の発熱量を制御する。なお、発熱制御部17は、中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)及び入出力インタフェース(I/Oインタフェース)を備えた1又は複数のマイクロコンピュータで構成される。
【0079】
ヒータ制御部18は、発熱制御部17からの指令に応じてヒータ3に供給する電力を調整する。
【0080】
上記の構成の発熱システム100において、発熱制御部17は、水素供給源12から収容部11に、水素供給量調整部13を制御して水素を供給すると共に、ヒータ制御部18を制御して電力をヒータ3に供給し発熱体2を加熱し続け、収容部11の温度が上昇し発熱体2が水素の吸蔵脱蔵反応を開始して、過剰な熱エネルギを発生するようになる。さらに、発熱制御部17は、ヒータ制御部18を制御して電力をヒータ3に供給して発熱体2を加熱し続け、パージバルブ16を制御し圧力を調整して、温度センサ15で収容部11内の温度の検出値を、圧力センサ14で収容部11の内部の圧力の検出値を監視して、過剰な熱エネルギを安定的に発生する状態になったら、これらの温度、圧力条件を固定するように、水素供給量調整部13、ヒータ制御部18、パージバルブ16を制御する。なお、「安定的に発生する」の目安は、熱エネルギ供給先の必要に応じて定めればよく、特に限定されるものではないが、例えば、発熱体2の発熱量の変動幅が、発熱制御部17による制御目標値の9%以内に収まることとすればよい。好ましくは7%以内、より好ましくは5%以内である。
【0081】
例えば発熱システム100を内燃機関の暖機及び保温のための熱源として用いる場合には、内燃機関の冷却液配管の一部を収容部11の外周面と接するように設ける。これにより、発熱体2で発生した熱エネルギにより温度上昇した収容部11との熱交換により冷却液の温度が上昇し、内燃機関の暖機及び保温が可能となる。
【0082】
以上のとおり本実施形態では、水素吸蔵材料を含んで構成される発熱体2と、発熱体2を加熱するヒータ3と、を備える発熱構造体1が提供される。ヒータ3は三次元形状の面を有する電気抵抗体4と電気抵抗体4に接続される電極対5とを有し、発熱体2はヒータ3の表面に配置される。これにより、ヒータ3から発熱体2への伝熱面積をより大きくなるので、水素の吸蔵脱蔵反応が進行し易くなり、発生する熱エネルギが増大する。この熱エネルギの増大割合は、ヒータ3を三次元形状にすることによる体積の増加割合よりも大きくなるので、熱エネルギ密度も向上する。
【0083】
本実施形態及び第1変形例では、電気抵抗体4は、平板状の基盤4Aの両面に複数の凸部4Bが設けられた形状である。このように凸部4Bを設けることで、電気抵抗体4の表面積は平板状の場合に比べて増大するので、ヒータ3から発熱体2への伝熱面積をより大きくできる。また、隣り合う凸部4Bの間隔L1、L2が水素吸蔵材料の最大粒径より大きい。これにより、隣り合う凸部4Bの隙間にも発熱体2が塗付されるので、上述した熱エネルギの増大及び熱エネルギ密度の向上の効果をより高めることができる。
【0084】
第2変形例では、電気抵抗体4は、両面が波形の面で構成される板状部材であり、波形の周期が水素吸蔵材料の最大粒径より大きい。このような構成であっても、上述した本実施形態及び第1変形例と同様の作用効果が得られる。
【0085】
第3変形例では、電気抵抗体4は、同心状に配置される半径の異なる複数の円筒部材6A~6Cであり、最も内側に配置される円筒部材6Aの半径および隣り合う円筒部材6A~6Cの間隔が、水素吸蔵材料の最大粒径より大きい。このような構成であっても、上述した本実施形態及び第1変形例と同様の作用効果が得られる。
【0086】
第4変形例では、電気抵抗体4はハニカム構造体であり、ハニカム構造体の各セルの格子長が水素吸蔵材料の最大粒径より大きい。このような構成であっても、上述した本実施形態及び第1変形例と同様の作用効果が得られる。
【0087】
本実施形態では、水素吸蔵材料は、水素が供給された状態で加熱されることで、加熱に要したエネルギに対して過剰な熱エネルギを発生する水素吸蔵合金を含む材料である。当該材料によれば、上述した過剰な熱エネルギが継続的に発生するため、水素の吸蔵脱蔵反応を進めるために材料に供給した熱エネルギを効率よく回収することができる。
【0088】
本実施形態では、電気抵抗体4はセラミックスからなる。セラミックスは金属材料に比べて高電気抵抗であるため、高電圧電源を用いた場合でも、過剰な電流が流れることを抑制できる。その結果、ヒータ3の耐熱性、耐久性が向上する。
【0089】
本実施形態において、セラミックスは、炭化ケイ素(SiC)とケイ素(Si)とを主成分とするものである。ケイ素が炭化ケイ素間の結合剤として機能するため、ヒータ3の耐熱性、化学的安定性が向上する。
【0090】
本実施形態にかかる発熱システム100は、上述した発熱構造体1と、発熱構造体1を収容する収容部11と、収容部11内の温度を検出する温度センサ15と、収容部11内の圧力を検出する圧力センサ14と、発熱構造体1のヒータ3を制御するヒータ制御部18と、発熱構造体1の発熱体2に水素を供給する水素供給源12と、水素の供給量を調整する水素供給量調整部13と、温度センサ15及び圧力センサ14の検出値に基づいて、ヒータ制御部18及び水素供給量調整部13を制御する発熱制御部17とを備える。熱エネルギ発生量が大きく、熱エネルギ密度が高い発熱構造体1を用いる本システムは、システム全体として熱エネルギ密度が高くなるので、システムを大型化することなく高い熱エネルギを発生することができる。その結果、例えば車載装置として用いる場合等に、レイアウトの自由度が高くなる。
【0091】
なお、本発明は上記の実施の形態に限定されるわけではなく、特許請求の範囲に記載の技術的思想の範囲内で様々な変更を成し得ることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0092】
1 発熱構造体
2 発熱体
3 ヒータ
4 電気抵抗体
5 電極対
6A~6C 円筒部材
7A~7C 溝
8 貫通孔
11 収容部
12 水素供給源
13 水素供給量調整部
14 圧力センサ
15 温度センサ
17 発熱制御部
18 ヒータ制御部