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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-07
(45)【発行日】2024-11-15
(54)【発明の名称】溶接作業状況判定システム
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/095 20060101AFI20241108BHJP
   B23K 31/00 20060101ALI20241108BHJP
【FI】
B23K9/095 515Z
B23K31/00 N
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021025148
(22)【出願日】2021-02-19
(65)【公開番号】P2022127164
(43)【公開日】2022-08-31
【審査請求日】2024-01-15
(73)【特許権者】
【識別番号】508036743
【氏名又は名称】株式会社横河ブリッジ
(74)【代理人】
【識別番号】110001335
【氏名又は名称】弁理士法人 武政国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】結城 洋一
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】特開昭52-050949(JP,A)
【文献】特開2019-018240(JP,A)
【文献】特開2003-080395(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/095
B23K 10/00
B23K 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業者が溶接棒を用いて溶接作業を行っている最中に、溶接作業状況を判定するシステムであって、
溶接に係る電圧及び電流を測定する電気センサと、
前記作業者の操作によって前記溶接棒が移動した溶接棒移動量を測定する溶接棒移動量測定装置と、
独立線条体と、
前記溶接棒移動量測定装置によって測定された前記溶接棒移動量と、計時手段によって得られる時間と、に基づいて溶接速度を算出する溶接速度算出手段と、
前記電気センサによって測定された前記電流及び前記電圧、並びに前記溶接速度算出手段によって算出された前記溶接速度に基づいて、入熱量を算出する入熱量算出手段と、
前記入熱量算出手段によって算出された前記入熱量に基づいて、2以上の状態レベルのうちいずれかに分類する状態レベル分類手段と、
前記状態レベル分類手段によって分類された前記状態レベルに応じて作動する報知手段と、を備え、
前記溶接棒移動量測定装置は、本体部と、該本体部内に収容される線条体と、を含んで構成されるとともに、該本体部から引き出された該線条体の長さを測定可能であり、
前記独立線条体の一端は、前記溶接棒移動量測定装置の前記線条体の先端と着脱自在に連結可能であって、該独立線条体の他端は、前記溶接棒に連結可能であり、
前記線条体の先端が前記独立線条体を介して前記溶接棒に取り付けられることによって、前記溶接棒移動量測定装置は前記溶接棒移動量を測定し、
前記溶接速度算出手段は、所定の溶接作業時間又は所定の前記溶接棒移動量ごとに前記溶接速度を算出し、
溶接作業中の前記作業者は、前記報知手段が作動することによって、溶接作業状況を判定することができる、
ことを特徴とする溶接作業状況判定システム。
【請求項2】
作業者が溶接棒を用いて溶接作業を行っている最中に、溶接作業状況を判定するシステムであって、
溶接に係る電圧及び電流を測定する電気センサと、
前記作業者の操作によって前記溶接棒が移動した溶接棒移動量を測定する溶接棒移動量測定装置と、
前記溶接棒移動量測定装置によって測定された前記溶接棒移動量と、計時手段によって得られる時間と、に基づいて溶接速度を算出する溶接速度算出手段と、
前記電気センサによって測定された前記電流及び前記電圧、並びに前記溶接速度算出手段によって算出された前記溶接速度に基づいて、入熱量を算出する入熱量算出手段と、
前記入熱量算出手段によって算出された前記入熱量に基づいて、2以上の状態レベルのうちいずれかに分類する状態レベル分類手段と、
前記状態レベル分類手段によって分類された前記状態レベルに応じて作動する報知手段と、を備え、
前記溶接棒移動量測定装置は、本体部と、該本体部内に収容される線条体と、を含んで構成されるとともに、該本体部から引き出された該線条体の長さを測定可能であり、
前記溶接棒移動量測定装置の前記線条体の先端が、耐熱材で保護され、
前記線条体の先端が前記溶接棒に取り付けられることによって、前記溶接棒移動量測定装置は前記溶接棒移動量を測定し、
前記溶接速度算出手段は、所定の溶接作業時間又は所定の前記溶接棒移動量ごとに前記溶接速度を算出し、
溶接作業中の前記作業者は、前記報知手段が作動することによって、溶接作業状況を判定することができる、
ことを特徴とする溶接作業状況判定システム。
【請求項3】
作業者が溶接棒を用いて溶接作業を行っている最中に、溶接作業状況を判定するシステムであって、
溶接に係る電圧及び電流を測定する電気センサと、
前記作業者の操作によって前記溶接棒が移動した溶接棒移動量を測定する溶接棒移動量測定装置と、
前記溶接棒移動量測定装置によって測定された前記溶接棒移動量と、計時手段によって得られる時間と、に基づいて溶接速度を算出する溶接速度算出手段と、
前記電気センサによって測定された前記電流及び前記電圧、並びに前記溶接速度算出手段によって算出された前記溶接速度に基づいて、入熱量を算出する入熱量算出手段と、
前記入熱量算出手段によって算出された前記入熱量に基づいて、2以上の状態レベルのうちいずれかに分類する状態レベル分類手段と、
前記状態レベル分類手段によって分類された前記状態レベルに応じて作動する報知手段と、
前記電流と前記電圧と前記溶接速度を含む溶接情報を、溶接のパスごとに記憶する溶接情報記憶手段と、を備え、
前記溶接棒移動量測定装置は、本体部と、該本体部内に収容される線条体と、を含んで構成されるとともに、該本体部から引き出された該線条体の長さを測定可能であり、
前記線条体の先端が前記溶接棒に取り付けられることによって、前記溶接棒移動量測定装置は前記溶接棒移動量を測定し、
前記溶接速度算出手段は、所定の溶接作業時間又は所定の前記溶接棒移動量ごとに前記溶接速度を算出し、
前記溶接情報記憶手段は、得られる前記溶接情報の時間間隔があらかじめ定められた取得時間閾値を下回るときは、同一のパスに係る該溶接情報として記憶し、
溶接作業中の前記作業者は、前記報知手段が作動することによって、溶接作業状況を判定することができる、
ことを特徴とする溶接作業状況判定システム。
【請求項4】
パス間温度を測定する温度センサと、
前記温度センサによって測定された前記パス間温度が、あらかじめ定められた温度許容範囲を外れるときに警告情報を出力するパス間温度警報手段と、をさらに備えた、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の溶接作業状況判定システム。
【請求項5】
前記状態レベル分類手段は、前記入熱量の移動平均に基づいて、いずれかの前記状態レベルに分類する、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の溶接作業状況判定システム。
【請求項6】
前記状態レベル分類手段は、前記入熱量があらかじめ定められた入熱量閾値を上回るときに、異常を表す前記状態レベルに分類し、
前記報知手段は、前記状態レベル分類手段が異常を表す前記状態レベルに分類し、かつ前記溶接速度があらかじめ定められた速度閾値を上回るときに、作動する、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の溶接作業状況判定システム。
【請求項7】
前記報知手段は、前記状態レベルに応じて振動し、
溶接作業中の前記作業者に取り付けられた前記報知手段が振動することによって、該作業者は溶接作業状況を判定することができる、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の溶接作業状況判定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、作業者が溶接棒(トーチや運棒ともいう)を用いて行う溶接技術に関するものであり、より具体的には、溶接棒の移動速度を自動計算することによって、溶接作業中、リアルタイム(即時的)に溶接作業状況の適否を判定することができる溶接作業状況判定システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
H形鋼や鋼管、鋼板といった鋼材を接合する場合、溶接接合やボルト接合とするのが主流である。このうち溶接接合は、接合しようとする2つの鋼材(母材)を溶かして合わせることによって、あるいはさらに同質の鋼材(溶加材)を溶かして添加することで2つの部材を接合する手法であり、ガス溶接や電子ビーム溶接、レーザー溶接などの種類があるが、最も多用されているのはアーク溶接である。アーク溶接は、わずかに離れた電極間に電位差を与えてアークを発生させ、この空中放電のアークによって生じた熱で母材や溶加材を溶かす方法である。具体的には、電極の一端を接続した母材に、電極他端を接続した溶接棒(溶加材)を接近させて白熱のアーク(アーク光)を発生させ、アークの熱によって母材が溶融するとともに、溶接棒の鋼材が溶けだした溶融鋼が母材に添加される。
【0003】
溶接部の健全性は鋼構造物の性能に直結することから、近年、溶接部の品質が以前にもまして重要視されている。平成7年に発生した兵庫県南部地震では多くの鋼構造物に被害が生じ、このとき溶接部の品質やそのばらつきが要因と指摘され、特に溶接金属の強度と靭性を低下させる溶接入熱(以下、「入熱量」という。)やパス間温度の上昇が問題視された。そこで兵庫県南部地震をきっかけとして建築基準法が改正され、適正な入熱量やパス間温度などが規定された。同様に、道路橋示方書・同解説(社団法人日本道路協会)においても適正な入熱量やパス間温度などが規定されている。
【0004】
入熱量は、溶接に係る電圧(以下、「溶接電圧」という。)と、溶接に係る電流(以下、「溶接電流」という。)、そして作業者が溶接棒を移動する速度(以下、「溶接速度」)に基づいて求められることが知られている。具体的には、溶接電圧E(V)、溶接電流I(A)、溶接速度V(cm/min)とすると、入熱量Q(kJ/cm)は次式によって算出することができる。
Q=60×E×I÷(1000×V)
【0005】
溶接作業における入熱量を管理するためには、溶接電圧と溶接電流、溶接速度を1溶接線ごとに確認しながら入熱量を逐次計算しなければならない。そのため、溶接電圧等の測定や入熱量の計算は、一般的に溶接作業者とは異なる他の者が行っていた。すなわち、従来における入熱量の管理手法では、2名以上の人員配置が求められていたわけである。しかも溶接速度を把握するためには溶接線(パス)ごとにその溶接長を計測する必要があり、溶接作業が煩雑となるうえ作業効率も低下する原因となっていた。なお、全ての溶接線に対して管理することは現実的でないとして抜き取り的な管理(部分抽出管理)を実施することもあるが、それでも溶接作業が煩雑となることには変わりない。特に、手運棒によるケースでは溶接線の計測といった作業が煩わしいものであった。また、1パスの溶接作業が終了した後に溶接長と溶接時間から平均溶接速度が求められ、当然ながら入熱量も溶接作業後に(つまり事後的に)確認されていたため、溶接作業中、リアルタイム(即時的)に入熱量を把握することができず、溶接作業中に入熱量が過度に上昇したとしても修正することができなかった。
【0006】
このような背景の下、溶接作業中に入熱量を把握することができる技術が求められていた。そこで特許文献1では、溶接施工中に指定された溶接入熱量を超える可能性がある場合、溶接士にこのことを知らせることができる「溶接管理モニター」について提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】実用新案登録第3086026号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に開示される技術によれば、溶接作業中に異常な入熱量となっていることを溶接作業者に伝えることができる。しかしながら当該技術では、少なくとも1層目のパスにおける溶接作業において、特定地点(温度センサ位置T3)を溶接棒が通過する際にスイッチを押す操作が求められ、しかも所定の溶接距離(溶接開始位置から温度センサ位置T3までの距離)を測定しておく作業も必要となる。したがって特許文献1の技術では、スイッチを押すタイミングを測りながらの溶接作業となるため集中力の低下による品質劣化が生ずるおそれがあるうえ、スイッチ操作や溶接距離の測定など多くの手間を要することから作業コストが押し上げられることとなる。また特許文献1の技術では、対象の溶接線の長さをあらかじめ測定するとともにその値を入力する必要があり、このような煩雑な作業が要求されることも問題の一つとして指摘することができる。
【0009】
本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解決することであり、すなわち、従来技術に比して容易に、しかも溶接作業中にリアルタイムで溶接作業状況の適否を判定することができる溶接作業状況判定システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明は、本体部と線条体を有する溶接棒移動量測定装置を利用することによって溶接棒移動量を測定する、という点に着目してなされたものであり、従来にはない発想に基づいて行われた発明である。
【0011】
本願発明の溶接作業状況判定システムは、作業者が溶接棒を用いて溶接作業を行っている最中に、溶接作業状況を判定するシステムであって、電気センサと溶接棒移動量測定装置、溶接速度算出手段、入熱量算出手段、状態レベル分類手段、報知手段を備えたものである。電気センサは、溶接電圧と溶接電流を測定するセンサであり、溶接棒移動量測定装置は、作業者の操作によって溶接棒が移動した溶接棒移動量を測定する装置、溶接速度算出手段は、溶接棒移動量測定装置によって測定された溶接棒移動量と計時手段によって得られる時間に基づいて溶接速度を算出する手段である。また、入熱量算出手段は、電気センサによって測定された溶接電流と溶接電圧、さらに溶接速度算出手段によって算出された溶接速度に基づいて入熱量を算出する手段であり、状態レベル分類手段は、入熱量算出手段によって算出された入熱量に基づいて2以上の状態レベルのうちいずれかに分類する手段、報知手段は、状態レベル分類手段によって分類された状態レベルに応じて作動する手段である。なお溶接棒移動量測定装置は、本体部と本体部内に収容される線条体を含んで構成されるとともに、本体部から引き出された線条体の長さを測定することができる。そして、線条体の先端が溶接棒に取り付けられることによって溶接棒移動量測定装置は溶接棒移動量を測定する。溶接速度算出手段は、所定の溶接作業時間又は所定の溶接棒移動量ごとに溶接速度を算出する。溶接作業中の作業者は、報知手段が作動することによって溶接作業状況を判定することができる。
【0012】
本願発明の溶接作業状況判定システムは、パス間温度を測定する温度センサと、温度センサによって測定されたパス間温度が温度許容範囲を外れるときに警告情報を出力するパス間温度警報手段を、さらに備えたものとすることもできる。
【0013】
本願発明の溶接作業状況判定システムは、独立線条体をさらに備えたものとすることもできる。この独立線条体の一端は、溶接棒移動量測定装置の線条体の先端と着脱自在に連結可能であって、独立線条体の他端は、溶接棒に連結可能である。
【0014】
本願発明の溶接作業状況判定システムは、溶接棒移動量測定装置の線条体の先端が耐熱材で保護されたものとすることもできる。
【0015】
本願発明の溶接作業状況判定システムは、入熱量の移動平均に基づいていずれかの状態レベルに分類するものとすることもできる。
【0016】
本願発明の溶接作業状況判定システムは、入熱量が入熱量閾値を上回るときに異常を表す状態レベルに分類するものとすることもできる。この場合、報知手段は、状態レベル分類手段が異常を表す状態レベルに分類し、かつ溶接速度が速度閾値を上回るときに作動する。これは、瞬時的な電流低下、速度低下で入熱計算値が一時的に非常に大きくなり、頻繁に異常と判断されることを防止するためである。
【0017】
本願発明の溶接作業状況判定システムは、溶接情報記憶手段をさらに備えたものとすることもできる。この溶接情報記憶手段は、溶接電流と溶接電圧、溶接速度を含む溶接情報を溶接のパスごとに(溶接線)記憶する手段である。なお溶接情報記憶手段は、得られる溶接情報の時間間隔が取得時間閾値を下回るときは、同一のパスに係る溶接情報として記憶する。
【0018】
本願発明の溶接作業状況判定システムは、報知手段が状態レベルに応じて振動するものとすることもできる。この場合、溶接作業中の作業者に取り付けられた報知手段が振動することによって、作業者は目の前の溶接作業から目を離すことなく溶接作業状況を判定することができる。
【発明の効果】
【0019】
本願発明の溶接作業状況判定システムには、次のような効果がある。
(1)溶接作業中に、リアルタイムで入熱量が算出され、しかもその入熱量に応じて注意を喚起することから、作業者は適宜修正しながら適正な溶接作業を行うことができる。
(2)適正な溶接作業が行われることから、高品質の溶接部を得ることができる。
(3)従来技術のように必ずしも2名以上の人員配置が必要とされず、しかも作業者は従来どおり溶接作業を行うことがき、溶接作業のコスト高騰を招くことがない。
(4)振動可能な報知手段を利用する場合、溶接作業者は溶接面をした状態(警告灯などの視覚的な警告は確認できない状態)であっても入熱量が規定値を超えていることを瞬時に知ることができ、同パス内の溶接作業を修正(フィードバック)することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本願発明の溶接作業状況判定システムの主な構成を示すブロック図。
図2】本願発明の溶接作業状況判定システムを使用する際の各構成要素の配置を模式的に示すモデル図。
図3】(a)は耐熱材によって保護された線条体の先端が溶接棒に取り付けられた状態を模式的に示す側面図、(b)は独立線条体によって間接的に線条体の先端と溶接棒が連結された状態を模式的に示す側面図。
図4】本願発明の溶接作業状況判定システムの主な処理の流れを示すフロー図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本願発明の溶接作業状況判定システムの実施の例を、図に基づいて説明する。
【0022】
図1は、本願発明の溶接作業状況判定システム100の主な構成を示すブロック図であり、図2は、本願発明の溶接作業状況判定システム100を使用する際の各構成要素の配置を模式的に示すモデル図である。図1に示すように溶接作業状況判定システム100は、電気センサ101と溶接棒移動量測定装置102、溶接速度算出手段103、入熱量算出手段104、状態レベル分類手段105、報知手段106を含んで構成され、さらに計時手段107や温度センサ108、パス間温度判定手段109、パス間温度警報手段110、溶接情報記憶手段111などを含んで構成することもできる。
【0023】
溶接作業状況判定システム100を構成する溶接速度算出手段103と入熱量算出手段104、状態レベル分類手段105、パス間温度判定手段109は、専用のものとして製造することもできるし、汎用的なコンピュータ装置を利用することもできる。このコンピュータ装置は、CPU等のプロセッサ、ROMやRAMといったメモリを具備しており、さらにマウスやキーボード等の入力手段やディスプレイを含むものもあり、例えばパーソナルコンピュータやサーバなどによって構成することができる。なお図2では、これらの手段がパーソナルコンピュータPCに構成された例を示している。
【0024】
また溶接情報記憶手段111は、汎用的コンピュータ(例えば、パーソナルコンピュータPC)の記憶装置を利用することもできるし、データベースサーバに構築することもできる。データベースサーバに構築する場合、ローカルなネットワーク(LAN:Local Area Network)に置くこともできるし、インターネット経由(つまり無線通信)で保存するクラウドサーバとすることもできる。
【0025】
以下、本願発明の溶接作業状況判定システム100を構成する主な要素ごとに詳しく説明する。
【0026】
(電気センサ)
電気センサ101は、溶接を実施する際に印加される電圧(つまり溶接電圧)と電流(つまり溶接電流)を測定するものであり、従来用いられている種々の機器を利用することができる。例えば図2に示すように、溶接機112にこの電気センサ101を装着したうえで溶接電圧と溶接電流を測定するとよい。なお本願発明の電気センサ101は、アーク溶接のほか、ガス溶接や電子ビーム溶接、レーザー溶接など種々の手法に対応でき、したがって使用する溶接機112に対応し得る電気センサ101が用いられる。具体的には、炭酸ガスアーク溶接とする場合は直流を測定することができる電気センサ101を採用し、サブマージアーク溶接とする場合は交流を測定することができる電気センサ101を採用する。電気センサ101によって測定された溶接電圧と溶接電流は、入熱量算出手段104に伝送される(図1)。
【0027】
(溶接棒移動量測定装置)
溶接棒移動量測定装置102は、溶接作業中にその作業者(以下、「溶接作業者」という。)の操作によって溶接棒が移動した距離(以下、「溶接棒移動量」という。)を測定する装置である。図3は、本願発明の溶接作業状況判定システム100を構成する溶接棒移動量測定装置102を模式的に示す側面図である。この図に示すように溶接棒移動量測定装置102は、本体部102Aと線条体102Bを含んで構成され、本体部102Aに収容された線条体102Bがこの本体部102Aから出し入れ可能な構造となっている。線条体102Bは、ワイヤーロープやビニールロープなどのように長尺のロープ状(ひも状)とされ、例えば本体部102A内に配置された巻胴(ドラム)に巻き付けられ、巻胴の回転に伴って線条体102Bが伸縮する構造とされる。より詳しくは、線条体102Bの先端(図3では右側端)を引張すると巻胴が順回転することによって線条体102Bは本体部102Aから引き出されていき、一方、巻胴が逆回転すると線条体102Bが巻き取られ本体部102A内に収容されていく。なお、巻胴を逆回転させるには、動力式や手動式、バネを利用した弾性式など、従来用いられている種々の手法によることができる。
【0028】
図3に示すように、溶接棒移動量測定装置102の本体部102Aは移動しないように床面や地面などに固定され、線条体102Bの先端(図3では右側端)は溶接棒に取り付けられる。したがって、図2に示すように溶接作業者が溶接線(パス)に沿って溶接棒を移動(運棒)すると、その移動量(つまり、溶接棒移動量)だけ線条体102Bが本体部102Aから引き出される。また、溶接棒移動量測定装置102には、線条体102Bが本体部102Aから引き出された長さ(以下、「引き出し長」という。)を測定することができる装置(以下、「延長カウンター」という。)が設けられている。これにより溶接棒移動量測定装置102は、引き出し長を溶接棒移動量として測定することができるわけである。なお溶接棒移動量測定装置102は、巻胴が順回転するとき(つまり、線条体102Bが引き出されるとき)のみ延長カウンターが測定する仕様とすることもできるし、これに加えて巻胴が逆回転するとき(つまり、線条体102Bが収容されるとき)にも延長カウンターが測定する仕様とすることもできる。溶接棒移動量測定装置102によって測定された溶接棒移動量は、溶接速度算出手段103に伝送される(図1)。
【0029】
ところで、上記したとおり線条体102Bの先端は溶接棒に取り付けられることから、この線条体102Bの先端部分は相当量の熱が加えられ著しく高温になることが考えられる。例えば、線条体102Bをワイヤーロープとした場合、ある程度まで加熱されると変形や断線といった損傷が生じるおそれもある。そこで図3(a)に示すように、耐熱材113を線条体102Bの先端に取り付け、すなわち溶接の加熱から保護したうえで線条体102Bの先端を溶接棒に取り付けるとよい。あるいは図3(b)に示すように、独立線条体114を利用することもできる。この独立線条体114は、その一端(図では左端)が線条体102Bの先端と着脱自在に連結可能であり、またその他端(図では右端)は溶接棒に連結可能である。そして、独立線条体114の一端を線条体102Bの先端に連結し、独立線条体114の他端を溶接棒に取り付け、換言すれば独立線条体114によって線条体102Bの先端と溶接棒を間接的に連結することによって、線条体102Bが溶接地点に接近することを回避することができるわけである。なお、ある程度使用された独立線条体114は損傷することもあるが、その場合は、代わりに新たな独立線条体114を使用するとよい。
【0030】
(溶接速度算出手段)
溶接速度算出手段103は、単位時間当たりの溶接棒移動量(つまり、溶接速度)を算出する手段である。より詳しくは、溶接棒移動量測定装置102によって測定された溶接棒移動量と、その溶接棒移動量にかかった時間(以下、「移動時間」という。)と、に基づいて溶接速度(溶接棒移動量÷移動時間)を算出する。この移動時間は、デジタル時計やタイマーといった計時手段107によって測定するとよい。なお溶接速度算出手段103は、所定の溶接作業時間が経過するたびに(つまり、定期的に)溶接速度を算出する仕様とすることもできるし、所定の溶接棒移動量だけ溶接棒が移動するたびに算出する仕様とすることもできる。溶接速度算出手段103によって算出された溶接速度は、入熱量算出手段104に伝送される(図1)。
【0031】
(入熱量算出手段)
入熱量算出手段104は、溶接棒移動量に係る入熱量を算出する手段である。より詳しくは、電気センサ101によって測定された溶接電圧と溶接電流、そして溶接棒移動量測定装置102によって測定された溶接速度と、に基づいて次式により入熱量を算出する。
Q=60×E×I÷(1000×V)
ただし、Qは入熱量(kJ/cm)、Eは溶接電圧(V)、Iは溶接電流(A)、Vは溶接速度(cm/min)である。
【0032】
入熱量算出手段104は、所定の溶接作業時間が経過するたびに(つまり、定期的に)入熱量を算出する仕様とすることもできるし、溶接速度算出手段103によって溶接速度が算出される(伝送される)たびに算出する仕様とすることもできる。入熱量算出手段104によって算出された入熱量は、状態レベル分類手段105に伝送される(図1)。
【0033】
(状態レベル分類手段)
状態レベル分類手段105は、入熱量算出手段104によって算出された入熱量に基づいて、2以上の状態レベルのうちいずれかに分類する手段である。ここで状態レベルとは、溶接作業の状態の適否を表す指標である。例えば、入熱量が標準的な範囲(十分小さい範囲)にある状態を「適正状態」とし、入熱量があらかじめ定められた閾値(以下、「入熱量閾値」)に近づいた状態を「注意状態」、入熱量が入熱量閾値を超えた状態を「警告状態」、などとすることができる。このように状態レベルは2種類以上で設定され、それぞれ状態レベルは入熱量のレンジ(範囲)とともにテーブル形式(以下、「状態テーブル」という。)で記録しておくとよい。これにより入熱量を得た状態レベル分類手段105は、その入熱量をもって状態テーブルに照会することによって、該当する状態レベルを取得することができる。
【0034】
状態レベル分類手段105は、所定の溶接作業時間が経過するたびに(つまり、定期的に)入熱量を算出する仕様とすることもできるし、入熱量算出手段104によって入熱量が算出される(伝送される)たびに算出する仕様とすることもできる。ただし、溶接電圧や溶接電流、溶接速度のノイズによって入熱量が算出されることもあり、全ての入熱量に対して状態レベルを分類するのは適当でないこともある。この場合、入熱量の移動平均を求め、その値に応じて状態レベルを選定するとよい。なお、移動平均を求めるにあたっての入熱量の数(つまり、移動幅)は、適宜設計することができる。状態レベル分類手段105によって分類された状態レベルは、報知手段106に伝送される(図1)。
【0035】
(報知手段)
報知手段106は、溶接作業者に対して現在の溶接作業の状態の適否を通知する手段である。より詳しくは、状態レベルに応じて作動することによって、溶接作業者に状態レベルを報知する。この報知手段106は、溶接作業者に報知することができれば、文字や色など視覚的に通知する手法や、音声など聴覚的に通知する手法、振動など触覚的に通知する手法など、様々な手法を採用することができる。例えば図2では、報知手段106として3色灯を利用しており、「適正状態」であれば緑色灯を、「注意状態」であれば黄色灯、「警告状態」であれば赤色灯をそれぞれ点灯させる仕様としている。ただし、溶接作業者は溶接個所を見ていることが多く、したがって3色灯を見逃すこともあるため、聴覚的や触覚的な通知も適宜選択するとよい。例えば、報知手段106として振動装置を利用することができる。この場合、溶接作業者は報知手段106を装着したうえで溶接作業を行い、「適正状態」であれば無振動(動作せず)、「注意状態」であれば弱い振動、「警告状態」であれば強い振動で動作することもできる。
【0036】
ところで、溶接速度の値が小さいほど入熱量は大きな値となり、すなわち溶接速度が緩慢であるほど状態レベル分類手段105は「注意状態」や「警告状態」といった大きな入熱量に係る状態レベルに分類するようになる。一方、1の溶接線において溶接作業を開始するときや終了するときは、溶接速度が緩慢になる傾向にある。したがって、溶接作業の開始時や終了時では、報知手段106が「注意状態」や「警告状態」に応じた作動をすることが多くなる。しかしながら溶接作業の開始時や終了時において「注意状態」や「警告状態」といった情報を溶接作業者に通知することは必ずしも適切ではないこともある。そこで、溶接速度があらかじめ定められた閾値(以下、「速度閾値」という。)を下回るときは、たとえ状態レベル分類手段105が「注意状態」や「警告状態」など大きな入熱量に係る状態レベルに分類したとしても、報知手段106は作動しない(あるいは、緑色灯を点灯させる)仕様にすることもできる。
【0037】
(温度センサ)
温度センサ108は、溶接直前の前回パスの溶接部(あるいはその周辺の母材)の温度(つまり、パス間温度)を測定する手段であり、熱電対をはじめ従来用いられている種々の温度計測機器を利用したものである。温度センサ108によって測定されたパス間温度(以下、「実測パス間温度」という。)は、パス間温度判定手段109に伝送される(図1)。そしてパス間温度判定手段109は、その実測パス間温度と、あらかじめ定められた下限値と上限値からなる範囲(以下、「温度許容範囲」という。)を照らし合わせ、実測パス間温度が温度許容範囲から外れるときに、パス間温度警報手段110に対して警告情報を出力するよう制御する。このパス間温度警報手段110は、報知手段106と同様、溶接作業者に通知することができれば視覚的な手法や聴覚的な手法、触覚的な手法など、様々な手法を採用することができる。あるいは、報知手段106がこのパス間温度警報手段110を兼用することもできる。例えば、実測パス間温度が温度許容範囲から外れるときに、図2に示す報知手段106(3色灯)が赤色灯を点灯する仕様にすることができる。
【0038】
(溶接情報記憶手段)
溶接情報記憶手段111は、溶接情報を記憶する手段である。ここで溶接情報とは、溶接電圧や溶接電流、溶接速度など溶接作業に係る情報であり、そのほか溶接棒移動量や入熱量、状態レベル、パス間温度などを含む情報とすることもできる。溶接情報は、それぞれ測定した時刻や算出した時刻など、その溶接情報に関連する時刻(以下、「取得時刻」という。)を有しており、溶接情報記憶手段111は溶接情報とこの取得時刻を関連付けて(紐づけて)記憶する。また溶接情報記憶手段111は、パス単位で(つまり、パスごとに)溶接情報を記憶することもできる。この場合、連続する溶接情報の取得時間の差(つまり、時間間隔)があらかじめ定められた閾値(以下、「取得時間閾値」という。)を下回るときに、これらを同一のパスに係る溶接情報として記憶する仕様にすることができる。
【0039】
(処理の流れ)
以下、図4を参照しながら溶接作業状況判定システム100の主な処理について詳しく説明する。図4は、本願発明の溶接作業状況判定システム100の主な処理の流れを示すフロー図である。なおこのフロー図では、中央の列に実施する行為を示し、左列にはその行為に必要なものを、右列にはその行為から生ずるものを示している。
【0040】
溶接作業を開始すると、図4に示すように電気センサ101によって溶接電圧と溶接電流が測定され(図4のStep210)、温度センサ108によってパス間温度が測定されていく。なお、電気センサ101と温度センサ108は連続的あるいは定期的、断続的に測定を実行する。続いて溶接作業者がパスに沿って溶接棒を移動させていくと、溶接棒移動量測定装置102によって溶接棒移動量が測定され(図4のStep220)、溶接速度算出手段103によって溶接速度が算出される(図4のStep230)。
【0041】
電気センサ101によって溶接電圧と溶接電流が測定され、溶接速度算出手段103によって溶接速度が算出されると、これらの情報に基づいて入熱量算出手段104が溶接棒移動量に係る入熱量を算出する(図4のStep240)。そして状態レベル分類手段105が、得られた入熱量と状態テーブルによって状態レベルを分類する(図4のStep250)。状態レベル分類手段105によって状態レベルが定められると、あらかじめ定められた条件(以下、「作動条件」という。)にしたがって報知手段106を動作させるか否かの判断を行う。例えば、入熱量が標準的な範囲(十分小さい範囲)にある状態レベル(適正状態)であれば報知手段106を動作させず、入熱量が入熱量閾値に近づいた状態レベル(注意状態)や、入熱量閾値を超えた状態レベル(警告状態)であれば報知手段106を動作させるといった作動条件を定めておくことができる。あるいは、状態レベルが注意状態や警告状態であって、しかも溶接速度が速度閾値を上回るときに報知手段106を動作させるという作動条件を定めておくこともできる。
【0042】
状態レベル分類手段105によって定められた状態レベルに基づいて作動の要否の判断を行い、作動条件を満足するときは(図4のStep260のYes)、報知手段106が所定の作動を実行する((図4のStep270)。これにより溶接作業者は、溶接作業状況を判定することができる。一方、作動条件を満足しないときは(図4のStep260のNo)、報知手段106が作動を実行することなく、引き続き一連の処理を繰り返し行う(図4のStep210~Step260)。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本願発明の溶接作業状況判定システムは、例えば部材が溶接接合される鋼床版を有する鋼橋をはじめ、鋼・コンクリート合成床版やコンクリート床版を有する鋼橋で利用可能であり、もちろん道路橋、鉄道橋、管路橋といったあらゆる用途の橋梁に利用できる。また橋梁に限らず、建築物の鉄骨、鋼製屋根、鋼製の立体駐車場など、鋼部材の接合部を有する種々の構造物に応用することができる。本願発明が、安全な公共構造物等を提供することを考えれば、産業上利用できるばかりでなく社会的にも大きな貢献を期待し得る発明といえる。
【符号の説明】
【0044】
100 本願発明の溶接作業状況判定システム
101 (溶接作業状況判定システムの)電気センサ
102 (溶接作業状況判定システムの)溶接棒移動量測定装置
102A (溶接棒移動量測定装置の)本体部
102B (溶接棒移動量測定装置の)線条体
103 (溶接作業状況判定システムの)溶接速度算出手段
104 (溶接作業状況判定システムの)入熱量算出手段
105 (溶接作業状況判定システムの)状態レベル分類手段
106 (溶接作業状況判定システムの)報知手段
107 (溶接作業状況判定システムの)計時手段
108 (溶接作業状況判定システムの)温度センサ
109 (溶接作業状況判定システムの)パス間温度判定手段
110 (溶接作業状況判定システムの)パス間温度警報手段
111 (溶接作業状況判定システムの)溶接情報記憶手段
112 (溶接作業状況判定システムの)溶接機
113 (溶接作業状況判定システムの)耐熱材
114 (溶接作業状況判定システムの)独立線条体
PC パーソナルコンピュータ
図1
図2
図3
図4