特許 7584328 ウェビング巻取装置

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)

(12)【公報種別】特許公報(B2)

(11)【特許番号】

(24)【登録日】2024-11-07

(45)【発行日】2024-11-15

(54)【発明の名称】ウェビング巻取装置

(51)【国際特許分類】

   B60R 22/46 20060101AFI20241108BHJP

【ＦＩ】

B60R22/46 142

【請求項の数】 6

(21)【出願番号】P 2021032090

(22)【出願日】2021-03-01

(65)【公開番号】P2022133159

(43)【公開日】2022-09-13

【審査請求日】2023-08-28

(73)【特許権者】

【識別番号】000003551

【氏名又は名称】株式会社東海理化電機製作所

(74)【代理人】

【識別番号】110001519

【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所

(72)【発明者】

【氏名】内堀 隼人

(72)【発明者】

【氏名】坂口 善輝

(72)【発明者】

【氏名】鈴木 優太

(72)【発明者】

【氏名】横井 友哉

【審査官】神田 泰貴

(56)【参考文献】

【文献】特開２０２０－１３２１４４（ＪＰ，Ａ）

【文献】国際公開第２０１７／２１３２３９（ＷＯ，Ａ１）

【文献】中国特許出願公開第１０７７５７５５０（ＣＮ，Ａ）

【文献】米国特許出願公開第２０１５／０３３６５３９（ＵＳ，Ａ１）

【文献】国際公開第２０１７／２１３２４０（ＷＯ，Ａ１）

【文献】国際公開第２０１７／２１３２３８（ＷＯ，Ａ１）

【文献】国際公開第２０１７／０６９０４７（ＷＯ，Ａ１）

【文献】特開２０２０－１８３２２４（ＪＰ，Ａ）

【文献】特開２０１９－１２７２６１（ＪＰ，Ａ）

【文献】特開２０１９－１１２００３（ＪＰ，Ａ）

【文献】特表２０１５－５３３７１２（ＪＰ，Ａ）

【文献】米国特許出願公開第２０１８／０２６５０３５（ＵＳ，Ａ１）

(58)【調査した分野】(Int.Cl.，ＤＢ名)

Ｂ６０Ｒ ２２／００ － ２２／４８

(57)【特許請求の範囲】

【請求項1】

巻取方向へ回転されることによってシートベルト装置のウェビングが巻取られるスプールと、
軸方向先端側が開口された筒状のシリンダと、
前記シリンダの軸方向基端側に設けられ、車両緊急時に前記シリンダの内側に流体を供給する流体供給手段と、
互いに同軸上に配置される一対の円板部と両円板部における互いに対向する面それぞれに形成された複数のスラスト歯とを有し、一方向に回転させられると前記スプールを巻取方向へ回転させる回転部材と、
前記シリンダの内側に設けられ、前記流体の圧力によって前記シリンダの軸方向先端側へ移動され、前記回転部材のスラスト歯が係合した状態で移動されることで前記回転部材を一側へ回転させる移動部材と、
を備え、
前記複数のスラスト歯は全体として軸から径方向に向かって放射状に配置され、それぞれ径方向外側の端部は、外側へ行くほど軸方向高さが小さくなるテーパ部として構成されているウェビング巻取装置。

【請求項2】

前記回転部材は、回転の軸方向の同軸上で互いに対向し、互いに対向する面に前記スラスト歯が形成された一対の円板部を備える請求項１に記載のウェビング巻取装置。

【請求項3】

前記回転部材の前記スラスト歯が形成された面における回転中心側に前記回転中心の軸線に沿ってラジアル歯が形成される請求項１又は請求項２に記載のウェビング巻取装置。

【請求項4】

前記ラジアル歯の歯先は、前記移動部材の外周形状の半径寸法よりも小さな曲率半径で湾曲されている請求項３に記載のウェビング巻取装置。

【請求項5】

前記回転部材の前記スラスト歯が形成された面の回転の径方向に複数の前記テーパ部が並んで設けられる請求項１から請求項４の何れか１項に記載のウェビング巻取装置。

【請求項6】

巻取方向へ回転されることによってシートベルト装置のウェビングが巻取られるスプールと、
軸方向先端側が開口された筒状のシリンダと、
前記シリンダの軸方向基端側に設けられ、車両緊急時に前記シリンダの内側に流体を供給する流体供給手段と、
互いに同軸上に配置される一対の円板部と両円板部における互いに対向する面それぞれに形成された複数のスラスト歯とを有し、一方向に回転させられると前記スプールを巻取方向へ回転させる回転部材と、
前記シリンダの内側に設けられ、前記流体の圧力によって前記シリンダの軸方向先端側へ移動され、前記回転部材のスラスト歯が係合した状態で移動されることで前記回転部材を一側へ回転させる移動部材と、
を備え、
前記複数のスラスト歯は全体として軸から径方向に向かって放射状に配置され、それぞれ径方向外側の端部は、外側へ行くほど軸方向高さが小さくなるテーパ部として構成されており、
前記円板部の略中央部において、前記面から回転軸方向に沿って延出する軸部を有し、
前記スラスト歯は回転径方向の外側へ延出し、
前記スラスト歯の回転軸方向の一端部は、前記面上に配設されたスラスト歯基部とされ、
前記スラスト歯の回転軸方向の他端部は、スラスト歯歯先部とされて、
前記スラスト歯が、回転軸方向に沿って、前記スラスト歯基部から前記スラスト歯歯先部へ突出するように形成され、
前記回転部材は、前記軸部の外周面に形成されたラジアル歯を有し、
前記ラジアル歯は、回転軸方向に沿っていて径方向に延出し、
前記ラジアル歯の回転径方向の一端部は、前記外周面上に配設されたラジアル歯基部とされ、
前記ラジアル歯の回転径方向の他端部は、ラジアル歯歯先部とされて、
前記面において回転方向に隣接するラジアル歯の間にスラスト歯が形成され、
前記スラスト歯の回転径方向内側端は前記外周面から離間されている、
ウェビング巻取装置。

【発明の詳細な説明】

【技術分野】

【0001】

本発明は、回転部材が回転されることによってスプールが巻取方向へ回転されるウェビング巻取装置に関する。

【背景技術】

【0002】

例えば、下記特許文献１に開示されているように、回転体は、複数の係合歯を備えている。係合歯は、スプールの回転径方向に延びるベース部からスプールの回転軸方向一方側へ突出される。また、係合歯におけるベース部とは反対側の部分のスプールの回転周方向への厚み寸法は、ベース部側の部分のスプールの回転周方向への厚み寸法に比べて小さく設定されている。これによって、移動部材は、回転体の係合歯と係合される際の抵抗を低減される。

【先行技術文献】

【特許文献】

【0003】

【文献】特開２０１７－２１８０８７号公報

【発明の概要】

【発明が解決しようとする課題】

【0004】

本発明は、上記事実を考慮して、移動部材が回転体の係合歯へ突刺さる際の抵抗を更に低減できるウェビング巻取装置を得ることが目的である。

【課題を解決するための手段】

【0005】

本発明の第１の態様のウェビング巻取装置は、巻取方向へ回転されることによってシートベルト装置のウェビングが巻取られるスプールと、軸方向先端側が開口された筒状のシリンダと、前記シリンダの軸方向基端側に設けられ、車両緊急時に前記シリンダの内側に流体を供給する流体供給手段と、同軸上で回転されると共に軸方向に互いに対向する面にスラスト歯が回転の中心軸線周りに放射状に形成されて、前記スラスト歯の各々における回転の外周側の端部に回転の径方向外側へ向けて回転の軸方向寸法が小さくなるテーパ部が形成され、一側への回転によって前記スプールが巻取方向へ回転される回転部材と、前記シリンダの内側に設けられ、前記流体の圧力によって前記シリンダの軸方向先端側へ移動され、前記回転部材のスラスト歯が係合した状態で移動されることで前記回転部材を一側へ回転させる移動部材と、を備えている。

【0006】

本発明の第１の態様のウェビング巻取装置では、流体供給手段がシリンダの軸方向基端側に設けられ、車両緊急時に流体供給手段が作動されると、流体がシリンダの内側に供給される。これによってシリンダの内圧が上昇されると、シリンダの内側に設けられた移動部材がシリンダの軸方向先端側へ移動されて、シリンダの軸方向先端側の開口から移動部材が抜出る。

【0007】

シリンダの軸方向先端側の開口から抜出た移動部材は、回転部材において同軸上で回転する互いに対向する面の間に入る。この互いに対向する面には、それぞれスラスト歯が形成される。スラスト歯は、回転の中心軸線周りに放射状に形成されている。さらに、スラスト歯における回転の外周端部には、回転の径方向外側へ向けて回転の軸方向寸法が小さくなるテーパ部が形成される。

【0008】

このため、回転部材の互いに対向する面の間に入った移動部材には、テーパ部が突刺さる。テーパ部が突刺さった移動部材は、スラスト歯を移動部材の進行方向側へ押圧する。これによって、回転部材が一側へ回転される。回転部材が一側へ回転されると、スプールが巻取方向へ回転され、これによってシートベルト装置のウェビングがスプールに巻取られる。

【0009】

ここで、移動部材には、スラスト歯のテーパ部が突刺さるため、スラスト歯のテーパ部が突刺さる際の抵抗が小さい。このため、効果的にスプールが巻取方向へ回転される。

【0010】

本発明の第２の態様のウェビング巻取装置は、前記第１の態様に係るウェビング巻取装置において、前記回転部材は、回転の軸方向の同軸上で互いに対向し、互いに対向する面に前記スラスト歯が形成された一対の円板部を備えている。

【0011】

本発明の第２の態様のウェビング巻取装置によれば、回転部材は、一対の円板部を備えている。一対の円板部は、回転部材の回転の軸方向の同軸上で互いに対向される。また、一対の円板部における対向する面には、上述したスラスト歯が形成される。スラスト歯には、テーパ部が形成される。回転部材の一対のテーパ部の互いに対向する面の間に入った移動部材には、テーパ部が突刺さるため、スラスト歯のテーパ部が突刺さる際の抵抗が小さい。このため、効果的にスプールが巻取方向へ回転される。

【0012】

本発明の第３の態様のウェビング巻取装置は、前記第１の態様又は前記第２の態様に係るウェビング巻取装置において、前記回転部材の前記スラスト歯が形成された面における回転中心側に前記回転中心の軸線に沿ってラジアル歯が形成される。

【0013】

本発明の第３の態様のウェビング巻取装置では、回転部材においてスラスト歯が形成された面の回転中心側に回転中心軸線に沿ってラジアル歯が形成される。したがって、スラスト歯のみならずラジアル歯が移動部材に係合されることによって、より一層、移動部材を円滑に一側へ送ることができる。

【0014】

本発明の第４の態様のウェビング巻取装置は、前記第３の態様に係るウェビング巻取装置において、前記ラジアル歯の歯先は、前記移動部材の外周形状の半径寸法よりも小さな曲率半径で湾曲されている。

【0015】

本発明の第４の態様のウェビング巻取装置では、ラジアル歯の歯先は、移動部材の外周形状の半径寸法よりも小さな曲率半径で湾曲されているため、移動部材に対するラジアル歯の係合を円滑にできる。

【0016】

本発明の第５の態様のウェビング巻取装置は、前記第１の態様から前記第４の態様の何れか１つに係るウェビング巻取装置において、前記回転部材の前記スラスト歯が形成された面の回転の径方向に複数の前記テーパ部が並んで設けられる。

【0017】

本発明の第５の態様のウェビング巻取装置では、回転部材のスラスト歯が形成された面の回転の径方向に複数のテーパ部が並んで設けられる。このため、より一層円滑に移動部材へ係合できる。

【発明の効果】

【0018】

以上、説明したように、本発明に係るウェビング巻取装置では、移動部材にテーパ部が突刺さる際の抵抗を更に小さくできる。

【図面の簡単な説明】

【0019】

【図1】第１の実施の形態に係るウェビング巻取装置の分解斜視図である。

【図2】第１の実施の形態に係るウェビング巻取装置の回転部材の分解斜視図である。

【図3】移動部材がストッパへ当接した状態を示す車両前側からカバープレートの内側を見た側面図である。

【図4】第２の実施の形態を示す図２に対応する断面図である。

【図5】第３の実施の形態を示す図２に対応する断面図である。

【図6】（Ａ）は、円板部の中心軸線に対して直交する方向に切った拡大断面図であり（Ｂ）は、円板部を中心軸線方向に見た拡大図である。

【発明を実施するための形態】

【0020】

次に、図１から図６の各図に基づいて本発明の各実施の形態について説明する。なお、各図において矢印ＦＲは、本ウェビング巻取装置１０が適用された車両の前側を示し、矢印ＯＵＴは、車幅方向外側を示し、矢印ＵＰは、車両上側を示す。また、各図において矢印Ａは、スプール１８がウェビング２０を巻取る際のスプール１８の回転方向である巻取方向を示し、矢印Ｂは、巻取方向とは反対の引出方向を示す。また、説明している実施の形態よりも前出の実施の形態と基本的に同一の部位に関しては、同一の符号を付与してその詳細な説明を省略する。

【0021】

＜第１の実施の形態の構成＞
図１に示されるように、本実施の形態に係るウェビング巻取装置１０は、フレーム１２を備えている。フレーム１２は、車両の車体としてのセンターピラー（図示省略）の車両下側部分に固定されている。

【0022】

また、フレーム１２にはスプール１８が設けられている。スプール１８は、略円筒形状に形成されており、中心軸線周り（図１の矢印Ａ方向及び矢印Ｂ方向）に回転可能とされている。スプール１８には、長尺帯状のウェビング２０の長手方向基端部が係止されており、スプール１８が巻取方向（図１の矢印Ａ方向）へ回転されると、ウェビング２０は、長手方向基端側からスプール１８に巻取られる。また、ウェビング２０の長手方向先端側は、スプール１８から車両上側へ延び、フレーム１２の車両上側でセンターピラーに支持されたスルーアンカ（図示省略）に形成されたスリット孔を通って車両下側へ折返されている。

【0023】

さらに、ウェビング２０の長手方向先端部は、アンカプレート（図示省略）に係止されている。アンカプレートは、鉄等の金属板材によって形成されており、車両の床部（図示省略）又は本ウェビング巻取装置１０に対応するシート（図示省略）の骨格部材等に固定されている。

【0024】

また、本ウェビング巻取装置１０が適用された車両用のシートベルト装置は、バックル装置（図示省略）を備えている。バックル装置は、本ウェビング巻取装置１０が適用されるシート（図示省略）の車幅方向内側に設けられている。シートに着座した乗員の身体にウェビング２０が掛回された状態で、ウェビング２０に設けられたタング（図示省略）がバックル装置に係合されることによって、ウェビング２０が乗員の身体に装着される。

【0025】

また、図１に示されるように、フレーム１２の車両後側には、スプリングハウジング２２が設けられている。スプリングハウジング２２の内側には、ぜんまいばね等のスプール付勢手段（図示省略）が設けられている。スプール付勢手段は、スプール１８に直接又は間接的に係合され、スプール１８は、スプール付勢手段の付勢力によって巻取方向（図１の矢印Ａ方向）へ付勢されている。

【0026】

さらに、本ウェビング巻取装置１０は、フォースリミッタ機構を構成するトーションバー２４を備えている。トーションバー２４の車両後側部分は、スプール１８の内側に配置され、スプール１８に対する相対回転が制限された状態でスプール１８に繋がっている。これに対して、トーションバー２４の車両前側部分は、フレーム１２に形成された孔を通ってフレーム１２の外側（車両前側）へ延びている。

【0027】

フレーム１２の車両前側には、プリテンショナ２６の回転部材２８Ａ、２８Ｂが設けられている。図２に示されるように、回転部材２８Ａは、円板部３０Ａを備えており、回転部材２８Ｂは、円板部３０Ｂを備えている。回転部材２８Ａの円板部３０Ａは、回転部材２８Ｂの円板部３０Ｂの車両前側に設けられている。これらの円板部３０Ａ、３０Ｂは、円板状とされており、車両前後方向を軸方向に互いに同軸上に配置されている。円板部３０Ａの円板部３０Ｂ側の面と、円板部３０Ｂの円板部３０Ａ側の面との間隔は、後述する移動部材６４の直径寸法と同じか、移動部材６４の直径寸法よりも僅かに大きくされている。

【0028】

円板部３０Ａの円板部３０Ｂ側の面の略中央には、円柱状の軸部３２Ａが形成されている。軸部３２Ａには、軸部３２Ａの中心軸線に沿って非円形（図２では、非円形の一態様である略六角形状）の第１連結孔３４が形成されている。これに対して、円板部３０Ｂの円板部３０Ａ側の面の略中央には、外径寸法が軸部３２Ａの外径寸法に略等しい円柱状の軸部３２Ｂが形成されている。軸部３２Ｂには、軸部３２Ｂの中心軸線に沿って回転部材２８Ａの第１連結孔３４へ嵌合可能な第１連結部３６が形成されている。軸部３２Ａの第１連結孔３４へ軸部３２Ｂの第１連結部３６が嵌合されることによって、回転部材２８Ａと回転部材２８Ｂとの相対回転が制限される。

【0029】

また、軸部３２Ｂには、軸部３２Ｂの中心軸線に沿って非円形の第２連結孔３８が形成されている。第２連結孔３８は、円板部３０Ｂ及び軸部３２Ｂを貫通している。第２連結孔３８には、トーションバー２４の車両前側部分が嵌合されており、これによって、回転部材２８Ｂとトーションバー２４の車両前側部分との相対回転が制限される。

【0030】

また、回転部材２８Ａの円板部３０Ａの円板部３０Ｂ側の面には、複数のスラスト歯３９Ａが形成されている。これらのスラスト歯３９Ａの長手方向は、円板部３０Ａの径方向とされており、全体的には、円板部３０Ａの軸部３２Ａを中心とする放射状に形成されている。スラスト歯３９Ａにおける円板部３０Ａの径方向外側端部は、テーパ部４０Ａとされている。テーパ部４０Ａは、円板部３０Ａの径方向外側へ向けて円板部３０Ａの周方向寸法が短くされていると共に、円板部３０Ａの径方向外側へ向けて円板部３０Ａの軸方向寸法が短くされている。

【0031】

また、回転部材２８Ａの軸部３２Ａの外周面には、スラスト歯３９Ａと同数のラジアル歯４１Ａが形成されている。これらのラジアル歯４１Ａの長手方向は、円板部３０Ａの軸方向とされており、各ラジアル歯４１Ａの円板部３０Ａ側の端部は、スラスト歯３９Ａにおける円板部３０Ａの中心側の端部に繋がっている。さらに、スラスト歯３９Ａの長手方向中間部よりも円板部３０Ａの径方向内側部分の歯先（スラスト歯３９Ａにおける円板部３０Ｂ側端）及びラジアル歯４１Ａにおける円板部３０Ａの径方向外側端は、後述する移動部材６４の外周部よりも小さな曲率で湾曲されている。

【0032】

一方、回転部材２８Ｂの円板部３０Ｂ及び軸部３２Ｂにはスラスト歯３９Ａと同数のスラスト歯３９Ｂとラジアル歯４１Ｂとが形成されている。スラスト歯３９Ｂ及びラジアル歯４１Ｂは、円板部３０Ａの円板部３０Ｂ側の面と、円板部３０Ｂの円板部３０Ａ側の面との間の中央を境としてスラスト歯３９Ａ及びラジアル歯４１Ａと対称的な構造となっている。また、スラスト歯３９Ｂにおける円板部３０Ｂの径方向外側端部には、テーパ部４０Ｂが形成されている。

【0033】

テーパ部４０Ｂは、円板部３０Ａの円板部３０Ｂ側の面と、円板部３０Ｂの円板部３０Ａ側の面との間の中央を境としてテーパ部４０Ａと対称的な構造になっている。軸部３２Ａの第１連結孔３４へ軸部３２Ｂの第１連結部３６が嵌合されると、ラジアル歯４１Ａのスラスト歯３９Ａとは反対側の端部とラジアル歯４１Ｂのスラスト歯３９Ｂとは反対側の端部とが円板部３０Ａ、３０Ｂの軸方向に互いに対向する。

【0034】

また、図１及び図２に示されるように、回転部材２８Ａの円板部３０Ａは、ロック機構４２のロックベース４４が設けられている。ロックベース４４は、ロックパウル４８を備えている。ロックパウル４８は、ロックベース４４に形成されたボス４６によって支持されており、ボス４６を中心に回動可能とされている。

【0035】

一方、図１に示されるように、フレーム１２の車両前側の脚板１２Ａには、ロック機構４２及びプリテンショナ２６の双方を構成するカバープレート５０が固定されている。カバープレート５０は、車両後側へ開口されており、カバープレート５０の底板５２は、フレーム１２から車両前側へ離れた状態でフレーム１２に対向されている。底板５２には、ラチェット孔５４が形成されている。ラチェット孔５４の内周部には、ラチェット歯が形成されており、ロックベース４４のロックパウル４８がボス４６周りの一方へ回動されると、ロックパウル４８の先端部がラチェット孔５４のラチェット歯に噛合う。これによって、ロックベース４４の引出方向（図１の矢印Ｂ方向）への回転が制限され、スプール１８の引出方向への回転が間接的に制限される。

【0036】

また、カバープレート５０の車両前側には、ロック機構４２のセンサホルダ５６が設けられている。センサホルダ５６は、車両後側へ開口されており、直接又はカバープレート５０を介して間接的にフレーム１２に固定されている。センサホルダ５６の内側には、車両の緊急状態を検出するセンサ機構を構成する各部品が収容されており、車両緊急時にセンサホルダ５６内のセンサ機構が作動されると、ロック機構４２のロックベース４４の引出方向への回転に連動してロックベース４４のロックパウル４８がボス４６周りの一方へ回動される。

【0037】

一方、ウェビング巻取装置１０は、プリテンショナ２６を構成する筒状部材としてのシリンダ５８を備えている。シリンダ５８は、円筒形状に形成されており、軸方向中間部で適宜に曲げられている。このシリンダ５８の軸方向基端側に挿入された流体供給手段としてのマイクロガスジェネレータ６０（以下、「マイクロガスジェネレータ６０」を「ＭＧＧ６０」と略して称する）は、制御手段としてのＥＣＵを介して車両に設けられた衝突検知センサ（何れも図示省略）に電気的に接続されており、車両衝突時の衝撃が衝突検知センサによって検知されると、ＭＧＧ６０がＥＣＵによって作動され、ＭＧＧ６０において発生された流体の一態様であるガスが、シリンダ５８の内側へ供給される。

【0038】

プリテンショナ２６のシリンダ５８の軸方向基端側の内側には、ピストンとしてのシールボール６２が配置されている。シールボール６２は、合成樹脂材によって形成されており、シールボール６２に荷重が付与されていない状態でのシールボール６２の形状は、略球形状とされている。シリンダ５８の内部空間は、シールボール６２によってシールボール６２よりも軸方向基端側とシールボール６２よりも軸方向先端側とに仕切られている。ＭＧＧ６０が作動されると、ＭＧＧ６０で発生されたガスがシリンダ５８におけるＭＧＧ６０とシールボール６２との間に供給される。これによって、シリンダ５８におけるＭＧＧ６０とシールボール６２との間で内圧が上昇されると、シールボール６２は、シリンダ５８の軸方向先端側へ移動されると共にシリンダ５８の軸方向に圧縮されて変形される。

【0039】

また、プリテンショナ２６のシリンダ５８の内側には、移動部材６４が配置されており、移動部材６４の長手方向基端部は、シリンダ５８の内側に配置されている。移動部材６４は、合成樹脂材によって形成されており、外力を受けることによって変形可能とされている。移動部材６４は、シールボール６２よりもシリンダ５８の軸方向先端側に配置されており、シールボール６２がシリンダ５８の軸方向先端側へ移動されると、移動部材６４は、シールボール６２に押圧されてシリンダ５８の軸方向先端側へ移動される。

【0040】

移動部材６４がシリンダ５８の軸方向先端に到達した状態で移動部材６４がシールボール６２によって更に押圧されて移動されると、図３に示されるように、移動部材６４は、シリンダ５８の軸方向先端から車両下側へ出て、カバープレート５０の内側に入る。この状態で移動部材６４が更に車両下側へ移動されると、図３に示されるように、移動部材６４の長手方向先端部は、回転部材２８Ａ、２８Ｂのスラスト歯３９Ａ、３９Ｂ及びラジアル歯４１Ａ、４１Ｂに当接される。この状態で、スラスト歯３９Ａ、３９Ｂ及びラジアル歯４１Ａ、４１Ｂが移動部材６４によって車両下側へ押圧されることによって、回転部材２８Ａ、２８Ｂは、移動部材６４からの巻取方向への回転力が付与される。これによって、回転部材２８Ａ、２８Ｂは、巻取方向へ回転され、移動部材６４は、シールボール６２からの圧力によって更に車両下側へ移動される。

【0041】

このように、移動部材６４が車両下側へ移動され、回転部材２８Ａ、２８Ｂが巻取方向へ回転されることによって、回転部材２８Ａ、２８Ｂのスラスト歯３９Ａ、３９Ｂ及びラジアル歯４１Ａ、４１Ｂは、移動部材６４に係合し、この状態で、移動部材６４が更に車両下側へ移動されることにより、回転部材２８Ａ、２８Ｂには、更に巻取方向への回転力が付与され、回転部材２８Ａ、２８Ｂは、更に巻取方向へ回転される。

【0042】

一方、図１及び図２に示されるように、カバープレート５０は、底板５２を備えている。底板５２は、板状とされ、底板５２の厚さ方向は、概ね、車両前後方向（図１の矢印ＦＲ方向及びその反対方向）側とされている。また、カバープレート５０は、側壁７２を備えている。側壁７２は、カバープレート５０の底板５２の外周部に沿って設けられており、図２及び図３に示されるように、回転部材２８Ａ、２８Ｂは、側壁７２の内側に配置される。また、図３に示されるように、カバープレート５０の内側には、ガイド部材８２が設けられている。回転部材２８Ａ、２８Ｂよりも車両下側へ下がった移動部材６４は、カバープレート５０の側壁７２とガイド部材８２とに案内されて回転部材２８Ａ、２８Ｂよりも車幅方向外側を上昇する。

【0043】

回転部材２８Ａ、２８Ｂの車両上側には、ストッパ９２が配置されている。回転部材２８Ａ、２８Ｂよりも車幅方向外側を上昇した移動部材６４は、ストッパ９２よりも車両上側で且つ車幅方向外側からストッパ９２を押圧する。移動部材６４に押圧されたストッパ９２は、車両下側で且つ車幅方向内側へ移動され、移動部材６４の長手方向基端側へ係合する。これによって移動部材６４の進行が停止する。

【0044】

＜第１の実施の形態の作用、効果＞
次に、本実施の形態の作用並びに効果について説明する。

【0045】

本ウェビング巻取装置１０では、車両緊急時の一態様である車両衝突時に、ＥＣＵによってプリテンショナ２６のＭＧＧ６０が作動されると、ＭＧＧ６０からシリンダ５８の内側へ高圧のガスが瞬時に供給される。このガスの圧力によってシールボール６２がシリンダ５８の軸方向先端側へ移動されると、移動部材６４がシールボール６２に押圧されて移動部材６４がシリンダ５８の軸方向先端側へ移動される。

【0046】

移動部材６４が軸方向先端側へ移動されることによって、移動部材６４がシリンダ５８の軸方向先端から車両下側へ出る。シリンダ５８の軸方向先端から車両下側へ出た移動部材６４は、回転部材２８Ａの円板部３０Ａと回転部材２８Ｂの円板部３０Ｂとの間へ向かう。回転部材２８Ａの円板部３０Ａと回転部材２８Ｂの円板部３０Ｂとの間に入った移動部材６４には、回転部材２８Ａ、２８Ｂのスラスト歯３９Ａ、３９Ｂにおける円板部３０Ａ、３０Ｂの径方向外側部分に形成されたテーパ部４０Ａ、４０Ｂが突刺さる。

【0047】

次いで、移動部材６４は、回転部材２８Ａ、２８Ｂのスラスト歯３９Ａ、３９Ｂを車両下側へ押圧しつつ、回転部材２８Ａ、２８Ｂのスラスト歯３９Ａ、３９Ｂ及びラジアル歯４１Ａ、４１Ｂへ係合される。これによって、回転部材２８Ａ、２８Ｂのスラスト歯３９Ａ、３９Ｂ及びラジアル歯４１Ａ、４１Ｂが移動部材６４によって車両下側へ押圧されることによって、回転部材２８Ａ、２８Ｂは、移動部材６４からの巻取方向（図３の矢印Ａ方向）への回転力が付与される。これによって、回転部材２８Ａ、２８Ｂが巻取方向へ回転される。

【0048】

さらに、回転部材２８Ａ、２８Ｂの複数のスラスト歯３９Ａ、３９Ｂ及びラジアル歯４１Ａ、４１Ｂのうち、移動部材６４に押圧されたスラスト歯３９Ａ、３９Ｂ及びラジアル歯４１Ａ、４１Ｂよりも引出方向側（図３の矢印Ｂ方向側）のスラスト歯３９Ａ、３９Ｂ及びラジアル歯４１Ａ、４１Ｂは、回転部材２８Ａ、２８Ｂの巻取方向への回転によって移動部材６４の外周面から移動部材６４の径方向中央側へ係合する。

【0049】

このように、スラスト歯３９Ａ、３９Ｂ及びラジアル歯４１Ａ、４１Ｂが係合した移動部材６４が車両下側へ移動されることによって、回転部材２８Ａ、２８Ｂには、更に巻取方向への回転力が付与され、回転部材２８Ａ、２８Ｂが更に巻取方向へ回転される。回転部材２８Ａ、２８Ｂの巻取方向への回転は、トーションバー２４を介してスプール１８に伝わり、スプール１８が巻取方向へ回転される。これによって、ウェビング２０がスプール１８に巻取られて、ウェビング２０による乗員の拘束力が増加される。

【0050】

一方、移動部材６４がシールボール６２に押圧されることによって、移動部材６４が回転部材２８Ａ、２８Ｂよりも車両下側へ移動されると、移動部材６４は、カバープレート５０の側壁７２、ガイド部材８２に案内されて車両上側へ移動される。この状態で、移動部材６４がシールボール６２によって更に押圧されると、移動部材６４の軸方向先端がストッパ９２の車両上側で且つ車幅方向外側に位置する。この状態から移動部材６４がシールボール６２によって更に押圧されると、移動部材６４は、車両上側で且つ車幅方向外側からストッパ９２を押圧する。

【0051】

これによって、ストッパ９２が車両下側で且つ車幅方向内側へ移動され、移動部材６４の回転部材２８Ａ、２８Ｂとの係合部分よりも軸方向基端側へ係合される。これによって、移動部材６４がシリンダ５８から全て抜出ることを防止でき、シールボール６２がシリンダ５８から抜出ることを防止できる。

【0052】

ここで、スラスト歯３９Ａにおける円板部３０Ａの径方向外側端部にはテーパ部４０Ａが形成されている。テーパ部４０Ａは、円板部３０Ａの径方向外側へ向けて円板部３０Ａの周方向寸法が短くされていると共に、円板部３０Ａの径方向外側へ向けて円板部３０Ａの軸方向寸法が短くされている。

【0053】

さらに、スラスト歯３９Ｂにおける円板部３０Ｂの径方向外側端部にはテーパ部４０Ｂが形成されている。テーパ部４０Ｂは、円板部３０Ｂの径方向外側へ向けて円板部３０Ｂの周方向寸法が短くされていると共に、円板部３０Ｂの径方向外側へ向けて円板部３０Ｂの軸方向寸法が短くされている。

【0054】

このため、移動部材６４は、円板部３０Ａと円板部３０Ｂとの間に入った移動部材６４には、テーパ部４０Ａ、４０Ｂが突刺さりやすい。テーパ部４０Ａ、４０Ｂが突刺さった移動部材６４は、スラスト歯３９Ａ、３９Ｂ及びラジアル歯４１Ａ、４１Ｂに対して滑ることを抑制できる。このため、移動部材６４は、回転部材２８Ａ、２８Ｂを効率的に回転させることができる。

【0055】

また、スラスト歯３９Ａの長手方向中間部よりも円板部３０Ａの径方向内側部分の歯先（スラスト歯３９Ａにおける円板部３０Ｂ側端）は、移動部材６４の外周部よりも小さな曲率で湾曲されている。また、スラスト歯３９Ｂの長手方向中間部よりも円板部３０Ｂの径方向内側部分の歯先（スラスト歯３９Ｂにおける円板部３０Ａ側端）及びラジアル歯４１Ｂにおける円板部３０Ｂの径方向外側端は、移動部材６４の外周部よりも小さな曲率で湾曲されている。

【0056】

このため、スラスト歯３９Ａ、３９Ｂ及びラジアル歯４１Ａ、４１Ｂは、移動部材６４の外周部における回転部材２８Ａ、２８Ｂの中心側部分へ係合する。このように、スラスト歯３９Ａ、３９Ｂ及びラジアル歯４１Ａ、４１Ｂの歯丈が小さいため、スラスト歯３９Ａ、３９Ｂ及びラジアル歯４１Ａ、４１Ｂの歯の曲げ強度やせん断強度等の機械的強度が高くなる。

【0057】

しかも、スラスト歯３９Ａ及びラジアル歯４１Ａとスラスト歯３９Ｂ及びラジアル歯４１Ｂとは位相が揃っている。このため、移動部材４４がスラスト歯３９Ａ、３９Ｂ及びラジアル歯４１Ａ、４１Ｂに当たった際に円板部３０Ａ及び円板部３０Ｂの軸がずれることを抑制できる。

【0058】

また、スラスト歯３９Ａ、３９Ｂ及びラジアル歯４１Ａ、４１Ｂの歯丈を小さくできるため、スラスト歯３９Ａ、３９Ｂ及びラジアル歯４１Ａ、４１Ｂのピッチを細かくできる。これによって、スラスト歯３９Ａ、３９Ｂ及びラジアル歯４１Ａ、４１Ｂの移動部材６４への掛かり数を増やすことができる。

【0059】

さらに、スラスト歯３９Ａ、３９Ｂ及びラジアル歯４１Ａ、４１Ｂの歯丈を小さくできるため、歯切り抵抗を小さくでき、プリテンショナ２６の効率を高めることができる。

【0060】

＜第２の実施の形態＞
図４に示されるように本実施の形態では、回転部材２８Ａ、２８Ｂの周方向に互いに隣り合うラジアル歯４１Ａ、４１Ｂを有するスラスト歯３９Ａ、３９Ｂの間にスラスト歯３９Ａ、３９Ｂが設けられている。このラジアル歯４１Ａ、４１Ｂを有するスラスト歯３９Ａ、３９Ｂの間に設けられたスラスト歯３９Ａ、３９Ｂは、ラジアル歯４１Ａ、４１Ｂを備えていない。すなわち、本実施の形態では、回転部材２８Ａ、２８Ｂの周方向にラジアル歯４１Ａ、４１Ｂを有するスラスト歯３９Ａ、３９Ｂと、ラジアル歯４１Ａ、４１Ｂを有しないスラスト歯３９Ａ、３９Ｂとが交互に設けられている。また、ラジアル歯４１Ａ、４１Ｂを有しないスラスト歯３９Ａ、３９Ｂにおける回転部材２８Ａ、２８Ｂの軸部３２Ａ、３２Ｂ側の端部は、軸部３２Ａ、３２Ｂへは到達していない。

【0061】

ラジアル歯４１Ａ、４１Ｂを有するスラスト歯３９Ａ、３９Ｂと、ラジアル歯４１Ａ、４１Ｂを有しないスラスト歯３９Ａ、３９Ｂとは、回転部材２８Ａ、２８Ｂの周方向に交互に所定角度毎に形成されている。ここで、回転部材２８Ａ、２８Ｂの径方向中央側に比べて回転部材２８Ａ、２８Ｂの径方向外側では回転部材２８Ａ、２８Ｂの周方向に隣り合うラジアル歯４１Ａ、４１Ｂを有するスラスト歯３９Ａ、３９Ｂの間隔が大きい。このため、回転部材２８Ａ、２８Ｂの周方向に隣り合うラジアル歯４１Ａ、４１Ｂを有するスラスト歯３９Ａ、３９Ｂの間にラジアル歯４１Ａ、４１Ｂを有しないスラスト歯３９Ａ、３９Ｂが配置される。これによって、スラスト歯３９Ａ、３９Ｂのピッチを細かくでき、スラスト歯３９Ａ、３９Ｂの移動部材６４への掛かり数を増やすことができる。

【0062】

また、本実施の形態でも、前記第１の実施の形態と同様の効果を得ることができる。

【0063】

＜第３の実施の形態＞
図５及び図６（Ａ）、（Ｂ）に示されるように本実施の形態では、スラスト歯３９Ａ、３９Ｂは、ラジアル歯４１Ａ、４１Ｂを有していない。また、各スラスト歯３９Ａ、３９Ｂにおける回転部材２８Ａ、２８Ｂの径方向外側の端部には、テーパ部４０Ａ、４０Ｂに代わる第１テーパ部１００Ａ、１００Ｂ及び第２テーパ部１０２Ａ、１０２Ｂが形成されている。

【0064】

第１テーパ部１００Ａ、１００Ｂは、各スラスト歯３９Ａ、３９Ｂにおける円板部３０Ａ、３０Ｂの径方向外側端から連続して形成されている。一方、第２テーパ部１０２Ａ、１０２Ｂは、第１テーパ部１００Ａ、１００Ｂの各スラスト歯３９Ａ、３９Ｂとは反対側に形成されている。

【0065】

第１テーパ部１００Ａ、１００Ｂは、円板部３０Ａ、３０Ｂの周方向寸法及び円板部３０Ａ、３０Ｂの軸方向寸法が各スラスト歯３９Ａ、３９Ｂ側とは反対側へ向けて小さくなるように、周面が傾斜されている。また、第２テーパ部１０２Ａ、１０２Ｂは、円板部３０Ａ、３０Ｂの周方向寸法及び円板部３０Ａ、３０Ｂの軸方向寸法が各スラスト歯３９Ａ、３９Ｂ側とは反対側へ向けて小さくなるように、周面が傾斜されている。

【0066】

また、第１テーパ部１００Ａの円板部３０Ａに対する角度及び第１テーパ部１００Ｂの頂面の円板部３０Ｂに対する角度は、第２テーパ部１０２Ａの頂面の円板部３０Ａに対する角度及び第２テーパ部１０２Ｂの頂面の円板部３０Ｂに対する角度よりも大きい。第１テーパ部１００Ａ、１００Ｂの両側面を円板部３０Ａ、３０Ｂの径方向に対する角度は、第２テーパ部１０２Ａ、１０２Ｂを円板部３０Ａ、３０Ｂの径方向に対する角度よりも大きい。

【0067】

このため、本実施の形態では、移動部材６４は、より一層第２テーパ部１０２Ａ、１０２Ｂに係合しやすく、第２テーパ部１０２Ａ、１０２Ｂから第１テーパ部１００Ａ、１００Ｂに係合しやすくなる。その結果、移動部材６４は、スラスト歯３９Ａ、３９Ｂに円滑に係合できる。

【0068】

なお、本実施の形態では、テーパ部４０Ａ、４０Ｂを第１テーパ部１００Ａ、１００Ｂと第２テーパ部１０２Ａ、１０２Ｂの二段に分けた構成であった。しかしながら、テーパ部４０、４０Ｂを三段以上に分けてもよい。

【0069】

さらに、前記第１の実施の形態の構成及び前記第２の実施の形態の構成に本実施の形態の構成を適用してもよい。

【符号の説明】

【0070】

１０・・・ウェビング巻取装置、１８・・・スプール、２０・・・ウェビング、２８Ａ、２８Ｂ、回転部材、３０Ａ、３０Ｂ・・・円板部、３２Ａ、３２Ｂ・・・軸部、３９Ａ、３９Ｂ・・・スラスト歯、４０Ａ、４０Ｂ・・・テーパ部、４１Ａ、４１Ｂ・・・ラジアル歯、６４・・・移動部材、１００Ａ、１００Ｂ・・・第１テーパ部、１０２Ａ、１０２Ｂ・・・第２テーパ部

【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】