(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-07
(45)【発行日】2024-11-15
(54)【発明の名称】インクジェット記録媒体
(51)【国際特許分類】
B41M 5/52 20060101AFI20241108BHJP
B32B 27/20 20060101ALI20241108BHJP
B32B 27/26 20060101ALI20241108BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20241108BHJP
【FI】
B41M5/52 110
B32B27/20 Z
B32B27/26
B32B27/30 102
(21)【出願番号】P 2021048771
(22)【出願日】2021-03-23
【審査請求日】2023-10-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000162113
【氏名又は名称】共同印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【氏名又は名称】村上 智史
(72)【発明者】
【氏名】高橋 恭平
(72)【発明者】
【氏名】藤田 実
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 美子
【審査官】鳥居 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-338370(JP,A)
【文献】特開2002-283699(JP,A)
【文献】特開2003-205674(JP,A)
【文献】特開2003-191627(JP,A)
【文献】特開2005-035007(JP,A)
【文献】特開2003-191630(JP,A)
【文献】特開2002-225418(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0194128(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 5/00- 5/52
B32B 27/20
B32B 27/26
B32B 27/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層、及び前記基材層上に積層されているインク受容層を有しており、
前記インク受容層は、以下の式(1)で示されるモノマー単位を有するポリビニルアルコール樹脂、及び無機粒子を含有して
おり、
前記ポリビニルアルコール樹脂と前記無機粒子との合計の質量に対する前記ポリビニルアルコール樹脂の質量の割合は、10質量%~30質量%である、
インクジェット記録媒体:
【化1】
【請求項2】
前記ポリビニルアルコール樹脂における、前記式(1)で表されるものモノマー単位の含有量は、6.0mol%~11.0mol%である、請求項1に記載のインクジェット記録媒体。
【請求項3】
前記ポリビニルアルコール樹脂は、以下の式(2)で表されるモノマー単位を更に有している、請求項1又は2に記載のインクジェット記録媒体:
【化2】
【請求項4】
前記無機粒子は、気相法シリカ粒子である、請求項1~
3のいずれか一項に記載のインクジェット記録媒体。
【請求項5】
前記無機粒子の平均一次粒子径は、7nm~20nmであり、かつ
前記無機粒子の比表面積は、100m
2/g~400m
2/gである、
請求項1~
4のいずれか一項に記載のインクジェット記録媒体。
【請求項6】
前記インク受容層は、分散剤及び硬化剤を更に含んでいる、請求項1~
5のいずれか一項に記載のインクジェット記録媒体。
【請求項7】
前記分散剤は、分子量が5000~50000の4級アンモニウム塩化合物である、請求項
6に記載のインクジェット記録媒体。
【請求項8】
前記硬化剤は、水分散型ヘキサメチレンジイソシアネート又は水系キレート剤である、請求項
7に記載のインクジェット記録媒体。
【請求項9】
前記インク受容層の厚みは、10μm~30μmである、請求項1~
8のいずれか一項に記載のインクジェット記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット方式によるプリンタに用いられる記録媒体として、紙、布、又はプラスチックフィルム等の基材上に、インク受容層を設けた、インクジェット記録媒体が提案されている。
【0003】
この様なインクジェット記録媒体は、例えば特許文献1が開示するような方法によって製造される。
【0004】
具体的には、特許文献1は、樹脂及び架橋剤を含有するプライマー層用塗工液を塗布、乾燥して、プライマー層を形成し、プライマー層形成後に、25℃以上45℃以下の環境下で10日間以上エージング処理を施し、その後に、プライマー層上にインク受容層用塗工液を塗布、乾燥して、インク受容層を形成することを含む、記録媒体の製造方法を開示している。
【0005】
また、インク受容層の具体的な構成としては、特許文献2及び3が開示するような、無機粒子と親水性バインダを含有するものが挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2003-164798号公報
【文献】特開2018-171747号公報
【文献】特開2004-338100号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者は、無機粒子と親水性バインダを含有するインク受容層において、親水性バインダとしてポリビニルアルコール樹脂を用いることを検討した。
【0008】
インク受容層の空隙率が大きい程、インク受容層のインク速乾性は高くなる。インク受容層の空隙率を大きくする手段としては、インク受容層中における無機粒子の充填量を増加させることが考えられる。しかしながら、親水性バインダとしてポリビニルアルコール樹脂を用いる構成において、無機粒子の含有量が多い場合、形成されるインク受容層にひび割れが生じやすい。
【0009】
また、インクジェット記録媒体が、屋外等、水に接しやすい環境下に長期間曝される場合には、高い耐水性も求められる。
【0010】
したがって、ひび割れの抑制、インク速乾性、及び耐水性を向上させたインクジェット記録媒体が求められている。
【0011】
また、従来親水性バインダとして用いられてきたポリビニルアルコール樹脂は、基材、例えばプラスチック系の基材との密着性が低い。そのため、例えば特許文献1が開示する製造方法のように、プライマー層の形成及び10日間以上という長時間のエージング処理等の下処理、複雑な工程、及びそれらのための特殊な製造設備を要する。
【0012】
したがって、より簡易な方法で製造することができるインクジェット記録媒体が求められている。
【0013】
本発明は、ひび割れの抑制、インク速乾性、及び耐水性を向上させつつ、簡易な方法で製造することができる、インクジェット記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、以下の手段により上記課題を達成することができることを見出した:
【0015】
《態様1》
基材層、及び前記基材層上に積層されているインク受容層を有しており、
前記インク受容層は、以下の式(1)で示されるモノマー単位を有するポリビニルアルコール樹脂、及び無機粒子を含有している、
インクジェット記録媒体:
【0016】
【0017】
《態様2》
前記ポリビニルアルコール樹脂における、前記式(1)で表されるものモノマー単位の含有量は、6.0mol%~11.0mol%である、態様1に記載のインクジェット記録媒体。
【0018】
《態様3》
前記ポリビニルアルコール樹脂は、以下の式(2)で表されるモノマー単位を更に有している、態様1又は2に記載のインクジェット記録媒体:
【0019】
【0020】
《態様4》
前記ポリビニルアルコール樹脂と前記無機粒子との合計の質量に対する前記ポリビニルアルコール樹脂の質量の割合は、10質量%~30質量%である、態様1~3のいずれか一つに記載のインクジェット記録媒体。
【0021】
《態様5》
前記無機粒子は、気相法シリカ粒子である、態様1~4のいずれか一つに記載のインクジェット記録媒体。
【0022】
《態様6》
前記無機粒子の平均一次粒子径は、7nm~20nmであり、かつ
前記無機粒子の比表面積は、100m2/g~400m2/gである、
態様1~5のいずれか一つに記載のインクジェット記録媒体。
【0023】
《態様7》
前記インク受容層は、分散剤及び硬化剤を更に含んでいる、態様1~6のいずれか一つに記載のインクジェット記録媒体。
【0024】
《態様8》
前記分散剤は、分子量が5000~50000の4級アンモニウム塩化合物である、態様7に記載のインクジェット記録媒体。
【0025】
《態様9》
前記硬化剤は、水分散型ヘキサメチレンジイソシアネート又は水系キレート剤である、態様8に記載のインクジェット記録媒体。
【0026】
《態様10》
前記インク受容層の厚みは、10μm~30μmである、態様1~9のいずれか一つに記載のインクジェット記録媒体。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、ひび割れの抑制及びインク速乾性を両立しつつ、簡易な方法で製造することができる、インクジェット記録媒体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】
図1は、本発明の第1の実施形態に従うインクジェット記録媒体を示す模式図である。
【
図2】
図2は、本発明の第2の実施形態に従うインクジェット記録媒体を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態について詳述する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるのではなく、発明の本旨の範囲内で種々変形して実施できる。
【0030】
本発明のインクジェット記録媒体は、基材層、及び基材層上に積層されているインク受容層を有しており、インク受容層は、以下の式(1)で示されるモノマー単位を有するポリビニルアルコール樹脂、及び無機粒子を含有している:
【0031】
【0032】
図1は、本発明の第1の実施形態に従うインクジェット記録媒体1を示す模式図である。
【0033】
図1に示すように、本発明の第1の実施形態に従うインクジェット記録媒体1は、基材層10、及び基材層10上に積層されているインク受容層20を有している。ここで、インク受容層は、上記の式(1)で示されるモノマー単位を有するポリビニルアルコール樹脂、及び無機粒子を含有している。
【0034】
原理によって限定されるものではないが、本発明のインクジェット記録媒体が、ひび割れの抑制、インク速乾性、及び耐水性を向上させつつ、簡易な方法で製造することができる原理は、以下のとおりである。
【0035】
上記のとおり、インク受容層中における無機粒子の充填量を増加させることにより、インク受容層のインク速乾性を向上させることができる。しかしながら、インク受容層中における無機粒子の充填量の増加は、インク受容層のひび割れを増加させる傾向にある。
【0036】
インク受容層に用いるバインダ樹脂として、上記の式(1)で示されるモノマー単位を有するポリビニルアルコール樹脂を採用すると、無機粒子の充填量が高い場合であっても、インク受容層にひび割れが生じにくくなることに加えて、インク受容層の耐水性を向上させることができる。
【0037】
また、上記の式(1)で示されるモノマー単位を有するポリビニルアルコール樹脂は、基材との密着性が高い。そのため、本発明のインクジェット記録媒体は、インク受容層と基材との接着を確保するための下処理を大幅に減少させることができる。すなわち、より簡易に製造することができる。
【0038】
したがって、本発明のインクジェット記録媒体は、ひび割れの抑制、インク速乾性、及び耐水性を向上させつつ、簡易な方法で製造することができる。
【0039】
なお、本発明のインクジェット記録媒体は、例えばインクジェット印刷を行う任意の対象に適用することができる。本発明のインクジェット記録媒体は、例えば印刷用紙、包装体、標識、又はステッカー等であってよい。特に、本発明のインクジェット記録媒体は、高い耐水性を有することから、例えば建築物の壁や掲示板、及び乗物、例えば自動車やバイク等に適用する標識、例えばステッカー等に採用してよい。
【0040】
《インク受容層》
インク受容層は、インク記録媒体において、インクを吸収して保持するための層である。インク受容層は、基材層上に積層されている。
【0041】
インク受容層は、上記の式(1)で示されるモノマー単位を有するポリビニルアルコール樹脂、及び無機粒子を含有している。
【0042】
インク受容層におけるポリビニルアルコール樹脂と無機粒子との合計の質量に対するポリビニルアルコール樹脂の質量の割合は、10質量%~30質量%であることが好ましい。
【0043】
上記ポリビニルアルコール樹脂の質量の割合が10質量%以上であると、無機粒子の含有量に対してポリビニルアルコール樹脂の含有量が有意に大きいため、インク受容層のひび割れが更に抑制される。他方、上記ポリビニルアルコール樹脂の質量の割合が30質量%以下であると、無機粒子の含有量を有意に大きくすることができるため、インク受容層の空隙率を向上させることができ、それによってインク速乾性を更に高くすることができる。
【0044】
上記ポリビニルアルコール樹脂の質量の割合は、10質量%以上、15質量%以上、20質量%以上、又は25質量%以上であってよく、30質量%以下、25質量%以下、20質量%以下、又は15質量%以下であってよい。
【0045】
インク受容層の厚みは、10μm~30μmであることが好ましい。
【0046】
インク受容層の厚みが10μm以上であると、インク受容層中の空隙の量を大きくすることができるため、インクをより吸収しやすい。したがって、インク速乾性を向上させることができる。他方、インク受容層の厚みが30μm以下であると、インク記録媒体全体を薄型化することができる。更には、例えば基材層が透明基材層である場合、インク受容層の厚みが30μm以下であると、インク記録媒体の透明性を高めることができる。
【0047】
インク受容層の厚みは、10μm以上、15μm以上、20μm以上、又は25μm以上であってよく、30μm以下、25μm以下、20μm以下、又は15μm以下であってよい。なお、インク受容層の「厚み」とは、平均の厚みを意味している。
【0048】
インク受容層は、分散剤及び硬化剤を更に含んでいるのが好ましい。
【0049】
〈ポリビニルアルコール樹脂〉
本発明のインク受容層が含有するポリビニルアルコール樹脂は、上記式(1)で表されるものモノマー単位を有している。以下、上記式(1)で表されるものモノマー単位を有しているポリビニルアルコール樹脂を、「部分ベンズアセタール化ポリビニルアルコール」として言及する場合がある。
【0050】
部分ベンズアセタール化ポリビニルアルコールにおける、式(1)で表されるモノマー単位の含有量は、6.0mol%~11.0mol%であってよい。
【0051】
部分ベンズアセタール化ポリビニルアルコールにおける、上記モノマー単位の含有量は、6.0mol%以上、7.0mol%以上、8.0mol%以上、又は9.0mol%以上であってよく、11.0mol%以下、10.0mol%以下、9.0mol%以下、又は8.0mol%以下であってよい。
【0052】
部分ベンズアセタール化ポリビニルアルコールの重合度は、1000~5000であってよい。重合度は、1000以上、1500以上、2000以上、又は2500以上であってよく、5000以下、4500以下、4000以下、又は3500以下であってよい。
【0053】
部分ベンズアセタール化ポリビニルアルコールは、例えば、ポリビニルアルコールにベンズアルデヒドを反応させることによって製造することができる。
【0054】
なお、ポリビニルアルコール樹脂は、製造の際にけん化する場合があり、側鎖にアセチル基を有している場合がある。したがって、部分ベンズアセタール化ポリビニルアルコールは、以下の式(2)で表されるモノマー単位を更に有している場合がある:
【0055】
【0056】
〈無機粒子〉
本発明において、インク受容層は、無機粒子を含有している。
【0057】
無機粒子は、インク受容層に空隙を形成させることができ、当該空隙にインクを受容させること、例えば吸収及び/又は保持させることができる任意の無機粒子を採用することができる。
【0058】
無機粒子は、例えばシリカ、タルク、カオリン、クレー、アルミナホワイト、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸アルミニウム、硫酸バリウム、及びこれらの混合物等を使用することができる。シリカは、気相法シリカ粒子であってよい。
【0059】
本発明で用いる無機微粒子の平均一次粒子径は、7nm~20nmであることが好ましい。
【0060】
無機微粒子の平均一次粒子径が7nm以上であると、インク受容層に形成される空隙の大きさを更に適度に保つことができるため、インク速乾性を更に向上させることができる。他方、無機微粒子の平均一次粒子径が20nm以下であると、インク受容層の透明性をより高めることができる。
【0061】
なお、平均一次粒子径は、透過電子顕微鏡(TEM)、例えばTitan Cubed G2 60-300(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)を用いて、無作為に選択した100個以上の粒子の最大となる対角線を測定、または丸みを帯びている場合は長軸(長方向の接線)を測定した場合のそれらの測定値の算術平均値をいう。
【0062】
本発明で用いる無機微粒子の比表面積は、100m2/g~400m2/gであることが好ましい。なお、比表面積は、HM model-1208(マウンテック社製)を用いて、BET流動法でJIS Z8830に従い測定することができる。
【0063】
無機微粒子の比表面積が100m2/g以上であると、インク受容層に形成される空隙の大きさを更に適度に保つことができるため、インク速乾性を更に向上させることができる。他方、無機微粒子の比表面積が400m2/g以下であると、インク受容層のひび割れを更に抑制することができる。
【0064】
無機微粒子の比表面積は、100m2/g以上、150m2/g以上、200m2/g以上、又は250m2/g以上であってよく、400m2/g以下、350m2/g以下、300m2/g以下、又は250m2/g以下であってよい。
【0065】
〈分散剤〉
本発明において、インク受容層は、分散剤を含有していることができる。
【0066】
インク受容層が分散剤を含有している場合、製造時において、インク受容層を形成するための塗工液の粘度を向上させることができる。したがって、よりインク受容層を形成しやすい。
【0067】
分散性及び沈降安定性の観点から、分散剤は、カチオン性ポリマーであることが好ましい。中でも、分子量が5000~50000の4級アンモニウム塩化合物が特に好ましい。なお、他のカチオン性化合物も併用してよい。
【0068】
分散剤として4級アンモニウム塩化合物を採用する場合に、分子量が5000以上であると、分散安定性を向上させることができる。他方、分子量が50000以下であると、塗工液の粘度を適度に保つことができ、塗工しやすい。
【0069】
分散剤として4級アンモニウム塩化合物を採用する場合に、分子量は、5000以上、5000以上、15000以上、又は20000以上であってよく、50000以下、45000以下、30000以下、又は25000以下であってよい。
【0070】
分散剤の含有量は、インク受容層中における無機充填剤の含有量に対して、1~10質量%であることが好ましい。
【0071】
分散剤の含有量は、インク受容層中における無機充填剤の含有量に対して、1質量%以上、2質量%以上、3質量%以上、又は4質量%以上であってよく、10質量%以下、9質量%以下、8質量%以下、又は7質量%以下であってよい。
【0072】
〈硬化剤〉
本発明において、インク受容層は、硬化剤を含有させることができる。
【0073】
インク受容層が硬化剤を含有している場合、インク受容層の耐水性を向上させることができる。
【0074】
硬化剤は、ホウ素化合物、グリオキシル酸塩、有機チタン系や有機ジルコニウム系等の水系キレート剤、又は水分散型ヘキサメチレンジイソシアネート等であってよい。
【0075】
インク受容層の透明性を確保する観点から、硬化剤は、水系キレート剤又は水分散型ヘキサメチレンジイソシアネートであることが好ましい。
【0076】
《基材層》
基材層は、インク受容層が積層される基材となる層である。
【0077】
基材層は、インク受容層を積層することができる任意の材料からなる層であってよい。基材層は、紙、布、又はプラスチック等であってよい。基材層がプラスチックである場合、ポリカーボネート、ナイロン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、又はポリエチレンテレフタレート等を採用することができる。
【0078】
基材層は、透明基材層であってよい。
【0079】
本発明では、ひび割れを抑制しつつインク受容層における無機粒子の充填量を増加させることができるため、インク受容層の厚さを低減しつつインク受容層のインク速乾性を向上させることができる。そして、インク受容層の厚さを低減することは、インク受容層の透明性を向上させる。
【0080】
したがって、本発明は、基材層が透明基材層である場合には、インクジェット記録媒体自体の透明性をも向上させることができる。
【0081】
ここで、「透明」とは、層、例えば基材層等の一方の面側から他方の面側を十分に視認することができる程度に透明であることを意味する。
【0082】
なお、透明であるとは、例えば全光線透過率が、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、又は100%であることを意味する。へーズ値は、30%以下、25%以下、20%以下、又は15%以下であってよい。
【0083】
ここで、全光線透過率は、JIS K 7361に準拠して測定できる。また、ヘーズ値は、JIS K7136に準拠して測定できる。
【0084】
《粘着層》
本発明のインクジェット記録媒体は、基材層のインク受容層が積層されている側の反対側に、粘着層が積層させることができる。
【0085】
粘着層は、本発明のインクジェット記録媒体を他の物体に貼付するための層である。
【0086】
粘着層は、例えばアクリル系の粘着性樹脂であってよい。
【0087】
粘着層は、経年による粘着性の低下を抑制する観点から、例えば紫外線吸収剤を含有させることができる。
【0088】
基材層として透明基材層を採用する場合、粘着層も透明の層とすることが好ましい。
【0089】
図2は、本発明の第2の実施形態に従うインクジェット記録媒体2を示す模式図である。
【0090】
図2に示すように、本発明の第2の実施形態に従うインクジェット記録媒体2は、基材層10のうちインク受容層20が積層されている側の反対側に、粘着層30が積層されていることを除いて、
図1と同様である。
【実施例】
【0091】
《実施例1~3及び比較例1~4》
〈実施例1〉
次のようにして、実施例1のインクジェット記録媒体を調製した。
【0092】
(気相法シリカ分散液の調整)
イオン交換水50重量部に対し分散剤としてのカチオン性ポリマー水溶液(固形分:52.3wt%)1.7重量部を添加した。続いて2-プロパノール35重量部を加え分散媒を作製した。
【0093】
分散媒をホモジナイザー(製品名:バイオミキサーBM-2、株式会社日本精機製作所製)で3000rpmの回転条件で撹拌しながら気相法シリカ15重量部を少量ずつ添加し、固形分15.6wt%の分散液を得た。
【0094】
(塗工液の調製)
部分ベンズアセタール化ポリビニルアルコール(上記式(1)で表されるものモノマー単位を有しているポリビニルアルコール樹脂、重合度:3500、ベンズアセタール化度:8mol%)の水/2-プロパノール溶液(固形分8.4wt%)31重量部にシリカ分散液70重量部を混ぜ、樹脂/シリカの固形分比が20/80の割合になるようにした。次いでヘキサメチレンジイソシアネート系硬化剤(固形分100wt%)0.1重量部を添加、撹拌して、塗工液を得た。
【0095】
(インク受容層の形成)
厚さ75μmの透明二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを、基材として用いた。
【0096】
卓上塗工機(製品名:コントロールコーター7000型、株式会社井元製作所製)を使用して、基材上に塗工液を塗布後、80℃、3分間オーブンで乾燥させた後、60℃で1日エージングして、インク受容層を形成した。
【0097】
実施例1のインクジェット記録媒体の構成を、以下の表1に示す。
【0098】
〈実施例2〉
樹脂/シリカの固形分比が30/70の割合になるようにしたことを除いて実施例1と同様にして、実施例2のインクジェット記録媒体を調製した。
【0099】
実施例2のインクジェット記録媒体の構成を、以下の表1に示す。
【0100】
〈実施例3〉
部分ベンズアセタール化ポリビニルアルコールとして、ベンズアセタール化度:9mol%かつ重合度:2000のものを用いたことを除いて実施例2と同様にして、実施例2のインクジェット記録媒体を調製した。
【0101】
実施例3のインクジェット記録媒体の構成を、以下の表1に示す。
【0102】
〈比較例1〉
以下のように塗工液を調整したことを除いて実施例1と同様にして、比較例1のインクジェット記録媒体を調製した。
【0103】
部分けん化ポリビニルアルコール(重合度:3000、けん化度:88mol%)の水/2-プロパノール溶液(固形分9.0wt%)42重量部に上記シリカ分散液59重量部を混ぜ、樹脂/シリカの固形分比が30/70の割合になるようにした。次いでヘキサメチレンジイソシアネート系硬化剤(固形分100wt%)0.1重量部を添加、撹拌して塗工液を得た。
【0104】
比較例1のインクジェット記録媒体の構成を、以下の表1に示す。
【0105】
〈比較例2〉
樹脂/シリカの固形分比が40/60の割合になるようにしたことを除いて比較例1と同様にして、比較例2のインクジェット記録媒体を調製した。
【0106】
比較例2のインクジェット記録媒体の構成を、以下の表1に示す。
【0107】
〈比較例3〉
以下のように塗工液を調整したことを除いて実施例1と同様にして、比較例3のインクジェット記録媒体を調製した。
【0108】
アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール(重合度:1200、けん化度:91mol%)の水/2-プロパノール溶液(固形分9.0wt%)42重量部に上記シリカ分散液59重量部を混ぜ、樹脂/シリカの固形分比が30/70の割合になるようにした。次いでヘキサメチレンジイソシアネート系硬化剤(固形分100wt%)0.1重量部を添加、撹拌して塗工液を得た。
【0109】
比較例3のインクジェット記録媒体の構成を、以下の表1に示す。
【0110】
〈比較例4〉
樹脂/シリカの固形分比が40/60の割合になるようにしたことを除いて比較例3と同様にして、比較例4のインクジェット記録媒体を調製した。
【0111】
比較例4のインクジェット記録媒体の構成を、以下の表1に示す。
【0112】
〈評価〉
各例のインクジェット記録媒体について、以下のようにして、その性能を評価した。
【0113】
(ひび割れ)
各例のインクジェット記録媒体のインク受容層のひび割れの有無を、目視で確認した。評価結果を、以下の表1に示す。
【0114】
なお、以下の表1では、インク受容層にひび割れが観察されなかったものを「良」、わずかにひび割れが生じていたものを「並」、及びひび割れがインク受容層全面に生じていた、又はインク受容層を形成できなかったものを「不良」としている。
【0115】
(透明性)
各例のインクジェット記録媒体を、ヘーズメーター(製品名:ヘーズ透過率・反射率測定計HR-100、株式会社村上色彩技術研究所製)を用いて、JIS K 7361に準拠して測定した。
【0116】
なお、以下の表1では、全光線透過率が85%以上であったものを「良」、全光線透過率が80%以上85%未満であったものを「並」、及び全光線透過率が80%未満であったものを「不良」としている。
【0117】
(インク速乾性)
インクジェットプリンタ(キャノン社製、PIXUS iP4830)を用い、100ポイントの文字を水性顔料インクで印刷した直後から乾燥するまでの時間を確認した。具体的にはプリンタから排出された時間を0秒とし、5秒経過後にガーゼで印刷面を押圧した際にガーゼにインクが転移するかを確認した。
【0118】
なお、以下の表1では、ガーゼへのインク転移が全くなく印刷した文字のかすれ、崩れがなかったものを「良」、若干、インク転移が認められたが、文字のかすれ、崩れはなかったものを「並」、及びインク転移が顕著で、文字のかすれ、崩れが発生したものを「不良」としている。
【0119】
(基材密着性)
セロハン(登録商標)テープをインク受容層に貼り付けて剥がし、その際に、インク受容層も剥離するかを確認した。
【0120】
なお、以下の表1では、インク受容層が剥離しなかったものを「良」、インク受容層が部分的に剥離したが、使用上問題はなかったものを「並」、及び大部分のインク受容層が剥がれたものを「不良」としている。
【0121】
(耐水性)
インク受容層に対し水を含ませたガーゼで200回拭いた際に、インク受容層が消失するか否かを確認した。
【0122】
なお、以下の表1では、インク受容層が全く消失しなかったものを「良」、インク受容層が僅かに焼失したが、使用上問題はなかったものを「並」、及び大部分のインク受容層が消失したものを「不良」としている。
【0123】
〈結果〉
各例の構成及び評価結果を、以下の表1に示す。
【0124】
【0125】
表1に示すように、インク受容層のバインダ樹脂として部分ベンズアセタール化ポリビニルアルコールを用いた実施例1~3のインクジェット記録媒体は、ひび割れ、透明性、インク速乾性、基材密着性、及び耐水性のいずれにおいても、良好な結果が得られた。すなわち、いずれの評価も「良」であった。
【0126】
これに対して、インク受容層のバインダ樹脂として部分けん化ポリビニルアルコール又はアセトアセチル基変性ポリビニルアルコールを用いた比較例1~4のインクジェット記録媒体は、幾つかの評価において「良」又は「並」であったものの、いずれかの評価において「不良」となった。
【符号の説明】
【0127】
1及び2 インクジェット記録媒体
10 基材層
20 インク受容層
30 粘着層